説明

食品の加熱調理方法及びこれに使用する加熱調理器

【課題】調理時間を短縮し、調理前の下ごしらえや調理後の片付けの手間を減らすことのできる食品の加熱調理方法及びこれに使用する加熱調理器を提供する。
【解決手段】加熱調理器の加熱室2内に被加熱物30を収納して、被加熱物30を内部から加熱する被加熱物内部加熱手段6によって加熱し、被加熱物30の温度が所定温度以上になったときは被加熱物内部加熱手段6による加熱を停止して、被加熱物30を外部から加熱する被加熱物外部加熱手段により加熱し、加熱室2内の温度が所定温度以上になったときは、被加熱物外部加熱手段による加熱を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の加熱調理方法及びこれに使用する加熱調理器に係り、より詳しくは、食品を短時間で加熱調理することのできる加熱調理方法及びこれに使用する加熱調理器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、社会情勢から家事労働の軽減が望まれており、食事も短時間でおいしく調理できることが必要とされ、例えば、夕方帰宅して約1時間で主食、おかず、汁物をそろえることが望まれている。また、昨今では、電子レンジによりマイクロ波で加熱する(以下、高周波加熱という)だけで食べられる食品も販売されているが割高であり、家庭にある食材で食事を作ることが望まれている。さらに、単身赴任者などの調理に不慣れな人は、外食や市販の弁当を食べることが多くなるため、栄養が偏ったり高い食費を払ったりすることになり、その上、必ずしも自分の食べたいものが食べられるわけではないので、ストレスも溜まることになる。
【0003】
このような問題を解決するための加熱調理器に、単純な時間制御では高周波加熱が少なすぎて生焼けになったり、過加熱で乾燥状態になったりするため、食品温度を赤外線センサで検出して、第1の所定温度に達するまで最大能力で高周波加熱しその後低能力で高周波加熱し、第2の所定温度に達すると輻射加熱に切替えるようにしたものがある。また、高周波加熱と、バーナーなど電力を使わない輻射加熱を同時に行うようにしたものもある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、ハンバーグなどの調理の場合、まず輻射加熱で食品表面にこげ目をつけてから高周波加熱で内部まで加熱する調理方法がある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平07−063345号公報(第3―7頁、図2、図5、図10)
【特許文献2】特開平06−197708号公報(第2―3頁、図1−3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の加熱調理器のように、高周波加熱を最大出力で加えることは、食品の量や含水率によっては過加熱を起こしやすく、食品が破裂して外観を損なったり、食品の一部が調理室内に飛散して汚損するおそれがあった。
また、高周波加熱とバーナーなどの輻射加熱手段を併用するためには、機器設備にガス配管が必要で、面倒であるばかりでなく機器設置場所の制約が大きく、利便性を損なうという問題があった。
【0007】
また、特許文献2の調理方法のように、先にヒータ加熱を行うと食品の表面がしっかり固まってしまうため、その後の高周波加熱時に、内部温度の上昇に伴って発生した蒸気の行き場がなくなり、食品の内圧が上るため食品が破裂して外観を損なったり、食品の一部が加熱炉内に飛散して汚損するおそれがあった。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、調理時間を短縮し、調理前の下ごしらえや調理後の片付けの手間を減らすことのできる食品の加熱調理方法及びこれに使用する加熱調理器を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る食品の加熱調理方法は、加熱調理器の加熱室内に被加熱物を収納して、該被加熱物を内部から加熱する被加熱物内部加熱手段によって加熱し、前記被加熱物の温度が所定温度以上になったときは、前記被加熱物内部加熱手段による加熱を停止して、該被加熱物を外部から加熱する被加熱物外部加熱手段により加熱し、前記加熱室内の温度が所定温度以上になったときは、前記被加熱物外部加熱手段による加熱を停止するようにしたものである。
【0010】
また、本発明に係る加熱調理器は、被加熱物を収納する加熱室と、前記被加熱物を内部から加熱する被加熱物内部加熱手段と、前記被加熱物を外側から加熱する被加熱物外部加熱手段と、前記被加熱物の温度を測定する被加熱物温度測定手段と、前記加熱室内の温度を測定する加熱室内温度測定手段と、前記被加熱物内部加熱手段の駆動状態から前記被加熱物外部加熱手段の駆動状態への切り替えを前記被加熱物温度測定手段の出力により制御する被加熱物内部加熱手段制御器と、前記被加熱物外部加熱手段の停止を前記加熱室内温度測定手段の出力により制御する被加熱物外部加熱手段制御器とを有するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、短時間に食品を加熱調理することができ、その上、調理前の下ごしらえや調理後の後片付けの手間を減らすことのできる食品の加熱調理方法及びこれに使用する加熱調理器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る食品の加熱調理方法に使用する加熱調理器の一実施の形態の扉を開いた状態を示す模式的説明図である。
【図2】図1の中央縦断面図である。
【図3】本発明によるコンビネーション加熱の制御例を示すフローチャートである。
【図4】コンビネーション加熱の他の制御例を示すフローチャートである。
【図5】本発明による加熱調理と従来の加熱調理との比較例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は本発明に係る食品の加熱調理方法に使用する加熱調理器の一実施の形態の扉を開いた状態を示す模式的説明図、図2は図1の中央縦断面図である。
両図において、1は前面が開口されて箱状に形成された加熱調理器の本体部、2は本体部1内に設けられ、前面が開口されて内部に被加熱調理食品30(以下、被加熱物という)が収納される加熱室で、この加熱室2は脱臭塗料などが塗布された金属板を箱状に形成したものである。そして、加熱室2の後壁のほぼ中央部には吸気孔3が設けられており、下方の両側には排気孔4が設けられている。また、両側壁には対向して1段又は複数段の調理皿のスライドレール5が設けられている。
【0014】
6は加熱室2の側方に設けられた被加熱物内部加熱手段である高周波発生部で、マグネトロン7と、商用交流電源からの交流電力を変換してマグネトロン7に供給し、マグネトロン7を駆動させる電源回路部8とからなっている。
マグネトロン7は、マグネトロン7の下から加熱室2の床下に向って延在された導波管9の一端に連通し、導波管9の他端は加熱室2の下部に設けたアンテナ室10に連通しており、導波管9はマグネトロン7から発振されたマイクロ波を、アンテナ室10を介して加熱室2に導く。
【0015】
アンテナ室10には、マイクロ波の進行方向を調節するアンテナ11が設けられており、アンテナ11はモータ12により回転可能に構成されている。このように構成することにより、マグネトロン7から発振されたマイクロ波を加熱室2内に均一に放射し、加熱室2内に収納された被加熱物30を均一に加熱する(以下、マイクロ波による加熱を高周波加熱という)ことができる。
【0016】
13は加熱室2の天井面に固定された被加熱物外部加熱手段の1つである上面加熱ヒータで、ニクロム線をマイカ板に巻き付けたものを鉄板に密着させたいわゆるフラットヒータで構成し、これにより、加熱室2を均一に加熱することができ、かつ清掃性がよいように構成されている。なお、この上面加熱ヒータ13は上記の構造に限定するものではなく、例えば、ガラス管ヒータを用いて加熱する際の輻射成分を増加し、被加熱物30の表面の加熱速度をより速め、例えば、被加熱物30である肉の表面を焼き固めて肉汁に含まれるおいしさを逃がさずに調理できるようにしてもよく、さらに、より安価な加熱手段として、シーズヒータを用いてもよい。
【0017】
14は加熱室2の背面側に設けられたコンベクションヒータで、ファン15と、加熱室2の後壁とファン15との間に設けられたガラス管ヒータからなる送風空気加熱ヒータ16とからなり、被加熱物外部加熱手段の1つを構成する。
このコンベクションヒータ14は、ファン15により加熱室2の後壁に設けた吸気口3から加熱室2内の空気を吸引し、この空気を送風空気加熱ヒータ16で加熱し、これによって加熱された熱風を加熱室2の後壁に設けた排気孔4から加熱室2内に戻し、加熱室2内に収納された被加熱物30を加熱する。
【0018】
また、加熱室2の中央奥上部には、加熱室2の床面中央を視野角中心とした被加熱物温度測定手段である赤外線センサ17が設けられており、高周波加熱時などにおいて、100℃以下で赤外線センサ17の窓部が結露せず、温度検知できる状態で被加熱物30の温度を検知し、その検知信号を後述の被加熱物内部加熱手段制御器へ送る。ここで検知できるのは、被加熱物30の表面温度であるが、あらかじめ測定したデータなどから被加熱物30の中心部の温度を推定できるようになっている。
【0019】
また、加熱室2の右奥部には、加熱室内温度測定手段である庫内サーミスタ18が設けられており、この庫内サーミスタ18は、オーブン加熱時やグリル加熱時など、加熱室2内が高温状態になったときにその温度を検知し、その検知信号を後述の被加熱物外部加熱手段制御器へ送る。
この庫内サーミスタ18を加熱室2の右奥部に設けたのは、奥の方が外気の影響を受けにくいこと、加熱室2の右側に被加熱物内部加熱手段制御器と、被加熱物外部加熱手段制御器とを有する制御部のメイン基板が設置されているため、配線がより容易であり安価で済むためである。
【0020】
20は加熱室2の横に設けられて加熱調理器の運転を操作する操作部で、電源のON−OFFスイッチや取消しボタン、自動メニューの選択ボタン、温度や加熱モードの選択スイッチなどが設けられており、また、加熱調理中の加熱室2内の温度、選択した加熱設定やメニューが視認できる表示部が備えられている。なお、図示してないが、この操作部20の背面側には、メイン基板等からなる制御部が設けられている。なお、操作部20の位置はこれに限定するものではなく、例えば扉25に操作部20の一部または全部を設置してもよい。これにより、扉を閉めたまま加熱延長などが行えるので使い勝手が向上する。
【0021】
25は下部がヒンジを介して本体部1に連結され、本体部1の前面開口部を開閉する縦開きの扉で、この扉25には被加熱物30の加熱中に加熱室2内を見るための窓26や、チョーク構造などの高周波漏洩低減手段27等が設けられている。28は扉25の上部中央に設けられて、扉25の開閉時に使用者が持つ取っ手である。なお、扉25に設けた高周波漏洩低減手段27は図示の方式に限定するものではなく、高周波の漏洩を防止できるものであればよい。
【0022】
ここで、加熱室2内空間の高さHは望ましくは135〜220mm、より望ましくは135〜180mm、さらに望ましくは135〜160mmである。この高さは、加熱室2内に収納した被加熱物30を出し入れするために、加熱室2内に手を入れて作業しやすい最低限の高さであり、例えば布巾で加熱室2内を清掃する際に手を上下回動させる作業を円滑に行なうための必要最低限の高さでもある。また、上面加熱ヒータ13によって被加熱物30の表面全体に良い焼き色をつけることが可能な高さであり、さらに、オーブンレンジの年間消費電力量を測る容器が収納できるギリギリの高さでもある。
【0023】
加熱室2の横幅Wと奥行きDは従来からある加熱調理機器と同程度の寸法であり、例えば、310W×310Dmmである。この寸法であれば、日常使用するもの、例えば、高さのあるものとしてマグカップ、横幅あるものとしてφ300mmの皿、幅も高さもあるものとして、オーブン用の鍋(例えばφ200×90Hmm)やレンジ用の調理器具(炊飯器や蒸し鍋など)も入れることができる。また一般的な冷凍食品のパック、温めなおす必要のあるデリバリーのピザ、スポンジケーキ型なども問題なく入れることができる。
【0024】
また、加熱室2の高さHが従来に比べ低いので奥が見づらくなるおそれがあるが、扉25を開いたときに、扉25の上面と加熱室2の床面がほぼフラットになるように構成しているので、加熱室2に収納した被加熱物30を容易に取り出すことが出来る。なお、加熱室2の高さHは、ほとんどの容器が収納でき、かつ省エネルギー性を維持できる高さであればよく、一定値に限定するものではない。
【0025】
また、加熱調理器の本体部1の高さH1は望ましくは230〜315mm、より望ましくは230〜275mm、さらに望ましくは230〜255mmである。横幅W1と奥行きD1は従来からある加熱調理機器と同程度の寸法であり、例えば、500W1×380D1mmである。ここで、加熱調理器の本体部1を設置する際は、一般的に消防法の制約で本体部1の外側上面から家具まで10〜20mmの隙間を空ける必要があるため、一般的な背の高いレンジボード(レンジを設置できるスペースの高さは約500mm)に設置不可の場合が多かった。
【0026】
しかしながら、本発明の加熱調理器の本体部1の高さ寸法であれば、レンジボードを選ばずに設置できる。また、この本体部1の高さH1は、スクエアタイプの炊飯器とほぼ同等の高さであり、配色など外観を統一することで、並べて設置したときにキッチンの統一感を向上させた意匠性向上を実現できる。さらに、本体部1の角1aを湾曲させ、スクエアタイプの炊飯器と互いの意匠性をより近づけるような構成にしてもよい。なお、本体部1の高さは、加熱室2の高さを維持できるものであればよく、一定値に限定するものではない。
【0027】
このように本体部1や加熱室2の容積を小さくすることにより、従来の加熱調理器よりも、少ないエネルギー量で被加熱物30を加熱することができる。また、加熱室2内の温度上昇も早く、且つ加熱室2を設定温度で安定させやすくなる。これは、従来の加熱調理器と比べて本発明の加熱調理器は加熱室2や本体部1を小さく構成しているので、(1)無駄な加熱室2内空間への加熱が少なくなる、(2)加熱室2を構成する壁へ投入される熱容量が小さくなる、(3)加熱室2の壁面の面積が減り、加熱室2の外側壁面から外へ放熱する放熱量が減る、という効果が得られるからである。また、本体部1や加熱室2の熱容量が減ることにより、例えば加熱室2の予熱に時間かかる、加熱室2や本体部1が冷めにくい、という従来の加熱調理器のデメリットを軽減できる等の効果が得られる。
【0028】
次に、扉25について、詳細に説明をする。扉25は、図示しないヒンジによって、本体部1の前面側(つまりは使用者側)に縦開きに開けることができる。このように扉25を構成することにより、扉25を開けるのに必要な力が少なくて済む。また、本体部1の高さが低いので、扉25が開いたときに従来の加熱調理器よりも扉25が手前に出てくる幅が狭いため、使用者は加熱室2内の奥まで手が届きやすく、これにより被加熱物30の出し入れが容易になり、また、加熱室2内の清掃性が向上する。
【0029】
この場合、取っ手28は扉25の上方に設置してあればよく、例えば、両手を使って開けられるように扉25の上方の左右、または使用者が開けやすいように扉25上面の端から端まで亘って設置してもよい。なお、扉25の左右に取っ手28を設けた場合は、高温になりやすい扉25の上方に設ける場合よりもやけどのおそれが少なくてよい。また、取っ手28を凸状に構成することにより、本体部1や扉25に直接触れないで扉25を開けることができ、これによってやけどなどのおそれを減らすことができる。また、取っ手28を凸状に構成することにより、扉25内に形成される高周波漏洩低減手段27を設置するスペースが取りやすいというメリットもある。
【0030】
また、扉25の別形態として、扉25の厚みよりも取っ手28の凸状部分を厚くし、扉25を開けたときに上突起となるようにしてもよい。これにより、加熱室2内のものを取り出す際に、使用者の腕が直接扉25の加熱室2側に当たることがなく、やけどの心配が軽減される。また、加熱室2内の被加熱物30が扉25上を滑って外へ出てくることを防止できる。さらに、扉25の別形態として、取っ手28をくぼみ状に形成してもよい。これにより、取っ手28に手をかけやすく、また意匠的にすっきりして見えてよい。ここでくぼみ状の取っ手28は、凸状の場合と同様に、扉25の中央あるいは扉25の左右側面にあってもよいし、扉25の横幅いっぱいに設けてもよい。
【0031】
さらに、扉25の別形態として、扉25を横開きにしてもよい。これにより、加熱室2内への被加熱物30の出し入れが容易になる。ここで、取っ手28の形状や位置は上述のような位置に設ければよい。また、扉25の別形態として、扉25を開けたときに被加熱物30を戴置している棚が、前方にスライドできるように構成してもよい。これにより、加熱調理前後の被加熱物30の出し入れがスムーズになり、特に加熱調理後に加熱室2の熱くなっている壁面に接触するおそれがなくなるため安全である。このスライドは自動で行えるようにしてもよい。さらに扉25の別形態として、扉25と被加熱物30を戴置する棚を一体に形成し、扉25を手前にスライドして開いたときに、加熱室2に収納された被加熱物30も一緒に引き出せるように構成してもよい。これにより被加熱物30の出し入れ性が向上する。
【0032】
次に、本発明に係る加熱調理器の加熱動作について説明する。本発明の加熱調理器が有する加熱方法としては、高周波発生部6を用いた高周波加熱、上面加熱ヒータ13を用いたオーブン加熱、およびコンベクションヒータ14を用いたグリル加熱の3つを備えており、更に高速調理機能として、高周波加熱とオーブン加熱又はグリル加熱を同時に行うハイブリッド加熱を備えている。
【0033】
上記の高周波加熱、オーブン加熱、グリル加熱は、従来の加熱調理器でも備えているが、本発明の加熱調理器の加熱室2の形状を用いることにより、以下の様な効果を得ることができる。まず、高周波加熱では、従来の加熱調理器と比較して、加熱室2の容積を小さくすることにより、マイクロ波が加熱室2内を多重反射するので、加熱室2内に収納された被加熱物30を効率良く加熱することができる。次に、オーブン加熱では、従来の加熱調理器と比較して、加熱室2の高さを低くすることにより、被加熱物30と上面加熱ヒータ13との距離が短くなり、高温の輻射熱を被加熱物30へ当てることができるので、被加熱物30に容易に焦げ目をつけることが出来る。最後に、グリル加熱では、従来の加熱調理器と比較して、加熱室2の容積を小さくすることにより、対流する空気の総量が減るので、より速く加熱室2内の空気を加熱することができる。このように、従来の加熱調理器と比較して、本発明の加熱調理器は加熱能力が大幅に向上している。
【0034】
この高加熱性能の加熱調理器を用いて、各種調理メニューを実現する加熱手段として、高周波加熱とオーブン加熱又はグリル加熱などの上面加熱ヒータ13やコンベクションヒータ14による加熱の組み合わせ(以下、ヒータ加熱)を同時に行うコンビネーション加熱について説明する。コンビネーション加熱とは、マイクロ波によって被加熱物30の内部から加熱する高周波加熱後に、輻射や熱風によって被加熱物30の表面から加熱するヒータ加熱を行うことにより、被加熱物30を先に挙げたように短時間で、または手間を省いて加熱調理できるという効果を得ることが出来るのである。
【0035】
また、コンビネーション加熱を行うことにより、前出の調理メニュー以外にも以下の様な効果も得られる。
例えば、加熱調理済みのフライや春巻きなどをあたためる場合、高周波加熱のみであたためると、衣の中の食材を加熱したときに出る水分が周囲の衣に移り、衣がべちゃべちゃになることがある。また、ヒータ加熱のみであたためる場合には中心まで加熱される間に表面が焦げてしまったり、表面を焦がさないようにアルミホイルにくるんで中まで温めてからホイルを開いて表面の水分を飛ばすなどの手間が必要だったりする。
これに対して、コンビネーション加熱の場合は、高周波加熱では主に衣の中の食材を温め、ヒータ加熱では主に衣表面を加熱して、衣の中の食材から衣に移った余分な水分を蒸発させてサクサクした状態に仕上げることができるので、従来より美味しく加熱調理済みのフライをあたためることが出来る。
【0036】
また、例えば、低温状態の食材である冷凍食品を温める場合、コンビネーション加熱を行うことにより、冷凍食品の内と外から加熱することが出来るので、従来よりも速くまた均一に加熱することができる。さらに、表面が焦げ易く固まり易い食材をあたためる場合も、同様に従来よりも速くまた均一に加熱することができる。
【0037】
次に、コンビネーション加熱の制御例を、図3のフローチャートを参照して説明する。
先ず、被加熱物30を加熱室2内に入れ、扉25を閉じる。次に、操作部20で「コンビネーション加熱」を選択し、加熱スタートボタンをONする。これにより、高周波発生部6により高周波加熱が開始され、被加熱物30全体が温められる(ステップS−1)。そして、赤外線センサ17による被加熱物30の検出温度Tfoodがあらかじめ設定された温度T1、すなわち、後述の各メニューで示された温度範囲である例えば50℃以上になったときは(ステップS−2)、高周波加熱をOFFし(ステップS−3)、輻射加熱(ヒータ加熱)に切り替える(ステップS−4)。
【0038】
そして、庫内サーミスタ18で検出された加熱室2内の温度Troomを引数として関数fで算出した値が、あらかじめ設定された値α以上になったときは(ステップS−5)、ヒータ加熱を停止し、加熱調理が終了する。ここで、あらかじめ設定された値αは、例えば、あらかじめ実験などで求めた被加熱物30の表面や内部の温度、外観の変化などに基づいて、庫内サーミスタ18の検出温度やその温度の時間的変化割合との関係から関数fにより導き出された数値である。なお、上記の説明では温度検知としたがこれに限定するものではなく、あらかじめ設定した条件、例えば固定時間、あらかじめ設定した温度に達した時点、あらかじめ設定した温度に達してから所定時間経過後、などでもよい。
度やその温度の時間的変化割合との関係から導き出された数値である。
【0039】
また、ヒータ加熱を行う加熱手段の別形態として、上面加熱ヒータ13に加えて、加熱室2の床面に下加熱ヒータを取り付けた構成にしてもよい。これにより被加熱物30を上下方向から輻射加熱することができ、被加熱物30の上下方向の加熱ムラを減らすことが出来る。また、加熱室2の床面は被加熱物30を入れた容器と接触することから、下加熱ヒータとして、IHコイルを用いた誘導加熱を利用してもよい。この場合、容器を直に加熱するので加熱室2床面の温度が上がりにくく、調理後の清掃時にやけどをするおそれが少なくなる。また、フライパン調理のイメージに近くなるので、使用者がフライパンを用いたときの経験に基づいて調理作業を円滑に行うことが出来る。さらに、加熱室2側面に加熱手段としてヒータを設けてもよい。これにより、万が一、ヒータが加熱室2内に脱落しても、中の被加熱物30は損傷することがない。
【0040】
上記の説明では高周波加熱のみで被加熱物30を加熱したのち、ヒータ加熱を行う場合を示したが、最初から高周波加熱とヒータ加熱を同時に行ってもよい。すなわち、図4のフローチャ−トで示すように、加熱室2内に入れられた被加熱物30を、高周波加熱と火力W1のヒータ加熱により加熱し(ステップS−11)、赤外線センサ17による検出温度Tfoodがあらかじめ設定された温度T1以上になったときは(ステップS−12)、高周波加熱を停止すると共に、ヒータ加熱の火力をW1からW2に切り換え(ステップS−13)、ヒータ加熱に切り替える(ステップS−14)。
そして、庫内サーミスタ18で検出された加熱室2内の温度Troomを引数として関数fで算出した値が、あらかじめ設定された値β以上になったときは(ステップS−15)、ヒータ加熱を停止し、加熱調理が終了する。ここで、あらかじめ設定された値βは、前出の図3における値αと同様の手順で求めておいた値である。なお、上記の説明では温度検知としたがこれに限定するものではなく、あらかじめ設定した条件、例えば固定時間、あらかじめ設定した温度に達した時点、あらかじめ設定した温度に達してから所定時間経過後、などでもよい。
【0041】
これにより、被加熱物30のみでなく、機体の加熱室2構成部分がある程度温まるため、ヒータ加熱に切り替え後の機体、特にヒータ部の温度立ち上げが速くなるので、高周波加熱をOFFしてヒータ加熱のみに切り替わった後の加熱時間が短くて済む。
また、高周波加熱の途中で、庫内温度上昇の加速やヒータ切り替え時のヒータ温度上昇の加速などを目的にして、間歇的にヒータ加熱を行ってもよい。
さらに、被加熱物30全体を内部と外部からの接触加熱を同時に行うことでさらに高速化を図ってもよい。これは例えば、マイクロ波を照射しながらヒータ加熱をする、マイクロ波で発熱するプレートに載せて調理するなどである。
【0042】
また、食品全体の加熱を高周波加熱としたが特にそれに限定するものではなく、例えば食品に通電して起きる自己発熱によるジュール加熱などを用いてもよい。
さらに、外部からの加熱はヒータ加熱としたが、特にヒータに限定するものではなく、送風を使ったコンベクション加熱や過熱蒸気による加熱などを用いてもよい。
【0043】
また、上記の説明では、加熱量向上のために加熱室2の高さを低くした場合を示したが、これに限定するものではなく、従来の加熱室2のサイズで被加熱物30と上面加熱ヒータ13との距離を小さくするために、上面加熱ヒータ13を上下させたり、被加熱物を載置したトレイを上下させたりする機構を設けてもよい。なお、コンビネーション加熱時の高周波加熱からヒータ加熱への切り替えを、赤外線センサ17による被加熱物30の温度測定による場合を示したが、例えば、重量センサを設け、重量センサによる被加熱物30の検出重量と、庫内サーミスタ18で測定した温度から被加熱物30の初期温度を推定し、加熱時間を設定するなど、他の手段を用いてもよい。また、高周波加熱からヒータ加熱への切り替えをユーザーが手動で設定した時間で切り替えるようにしてもよい。これによりユーザーは好みの加熱状態に微調整して仕上げることができる。
【0044】
本発明に係る加熱調理器によれば、調理時間を短縮し加熱調理する前の下ごしらえの手間を軽減することができる調理方法を得ることができる。より具体的には、食材を生や冷凍など、そのままでは食べられない状態から15分以内に主菜、副菜として提供できる加熱調理方法や、冷や飯の上に生の食材(例えば生の豚肉+醤油+生姜、生のカット野菜+生溶き卵など)を乗せて加熱調理することで、15分以内に主食とおかずを提供できる加熱調理方法を実現することができる。
【0045】
次に、本発明に係る加熱調理器を使用した各種の被調理物の加熱調理について説明する。なお、以下に説明する各種の被調理物の加熱調理は、制御部に設定され操作部20のメニューキーを操作することにより、簡単に実施することができる。
【実施例1】
【0046】
(1)主として短時間でできる調理
〈ハンバーグ(肉がメインの料理)〉
みじん切りにした生玉ねぎと牛乳につけてふやかしたパン粉と、つなぎの卵を生ひき肉に混ぜ、小判型にする。このとき、牛乳は多めにしておくことで、肉のたんぱく質が加熱により変性収縮しても肉ほど大きく変性収縮しないたんぱく質を混ぜておくことになるので、従来の牛乳はパン粉を湿らせる程度の量しか使わないレシピに比べて全体的にハンバーグの形状が崩れることなく、柔らかく仕上げることができる。なお、同様の効果を持つものとして牛乳の代わりに豆乳を使用してもよい。耐熱皿にトマトソースをしき、その上に小判型にしたハンバーグダネと付け合せ用の生野菜(例えばパプリカの千切り)を乗せ、肉中心まで肉が変性する程度約40〜70℃、望ましくは50〜70℃の範囲にあるように高周波加熱して、その後肉や野菜表面に軽くこげ色がつく程度、すなわち表面が約150℃以上200℃未満になるようにヒータ加熱する。このような加熱方式であれば、ハンバーグにかけるソースや付け合せの野菜も同時にできるので、全体として時短になる。
【0047】
従来の加熱方法であるオーブンやグリルでは食品表面からの加熱だけで、食品内部は熱伝導でのみ熱移動があるので、食品の中心まで十分加熱するためには低温で長時間加熱し、または、蒸し器で蒸したり火の通りにくい食材のみをフライパンで調理しておくなど、別手段で食品を内部まで加熱しておき、オーブンやグリルで強い火力で焼き目だけをつけるなど、時間や手間のかかる作業が必要とされたが、これを解消できる。また、従来の加熱方法としてレンジのみで加熱する場合を考えると、食品中の水分が沸騰すると、食品の中心から加熱されているために短時間で多量の水分が逃げて食感を悪くするおそれがあり、その上焼き色をつけるには特殊な加熱シートを用意するなど手間がかかった。本発明によれば水沸騰の温度100℃未満で高周波加熱を止めるため、乾燥を抑制しつつ焼き色をつけることができる。
【0048】
高周波加熱を上記温度に設定したのは、あらかじめ肉全体に火が通っていないと時短にならないためであり、肉を構成する筋繊維たんぱく質の変性が始まるとされる40℃を下限値とした。ただし、肉のうまみであるイノシン酸分解酵素が変性して失活する温度は50℃付近といわれているため、それ以上にレンジで急速に加熱することで肉中のうまみ成分損失が少なくよりおいしい状態にすることができる。また、肉温度70℃というのはステーキでいえばミディアムくらいで中心まで火は通っているがジューシー感は大きく損なわれない温度である。この温度を上限として、後は強い火力ですばやく肉表面を加熱して香ばしい焦げ目をつけるとジューシーで香ばしい肉料理ができる。
【0049】
このとき、よい香りをつけるためには、一般的に3種類の化学変化、すなわち、糖類のカラメル化、脂肪の分解によるディープフライフレーバーの生成、アミノカルボニル反応によるメラノイジン生成である。糖類のカラメル化は、100℃以上で変化し始めた分子形態が180℃くらいになるとカラメル状になりきつね色のよい色とよい香りが出る。しかし、200℃以上になると炭化して苦くまずい味といわゆる不快な焦げ臭さとなるため、180℃以上200℃未満の温度にすることが望ましい。肉はたんぱく質が主成分であるがグリコーゲンなどの糖類が存在するし、今回の調理にあるつけ合わせの野菜やソースの中にも糖類が含まれ、それぞれにこの変化が起きる。
【0050】
次に、脂肪の分解によるディープフライフレーバーの生成であるが、これは、脂肪が加熱されて起きる化学反応により分解された一部の脂肪成分が香気成分となることで独特のおいしそうな香りを発する現象である。150℃以上で発生し、170〜180℃が適温とされている。また、脂質も200℃以上になると炭化して苦くまずい味といわゆる不快な焦げ臭さとなるため、少なくとも150℃以上200℃未満、望ましくは170℃以上200℃未満の温度にするのがよい。なお、脂肪は肉だけでなく、量や性質に差異はあるものの魚や植物にも含まれるため、今回の調理にあるつけ合わせの野菜やソースの中にも脂質が含まれ、それぞれにこの変化が起きる。
【0051】
最後にアミノカルボニル反応であるが、これは、糖類とアミノ酸またはたんぱく質が一緒に存在する状態で150℃以上に加熱されたときに様々な種類のメラノイジンができることで、このメラノイジンはきつね色でよい香りがする。しかし、これも200℃以上になると炭化して苦くまずい味といわゆる不快な焦げ臭さとなるため、150℃以上200℃未満の温度にすることが望ましい。糖類や脂質同様、量の差こそあれあらゆる食品に糖とアミノ酸またはたんぱく質が含まれておりこの変化が起きる。
【0052】
この場合、ヒータ加熱時に食品の中心温度が75℃以上である状態を1分間保つようにしてもよい。それにより様々な雑菌が安全レベルまで確実に死滅させることができる。これは、厚生労働省食中毒防止のために作成した「大量調理施設衛生管理マニュアル」で、から揚げの加熱終了時の鶏肉中心温度が75℃以上に達してから1分後であることに拠る。また、その他にも食味向上のために肉中の脂肪が溶けている状態になる温度以上にすることも挙げられる。例えば鶏で30〜32℃、豚で33〜46℃、牛で40〜50℃、羊で44〜55℃で脂肪が溶けるため、本加熱方式であれば十分な加熱条件であることがわかる。また、加熱調理した皿のままテーブルに持ってこられるため、食事の用意が簡便化され、フライパンなど調理器具の洗い物も少なくてすむ。また、ハンバーグのタネを一流のレストランシェフしか扱えないような柔らかさにしても形をきれいに保ったまま加熱できるので、家庭で簡単にご馳走レベルのハンバーグができる。
【0053】
〈鮭とホタテのホットマリネ(魚がメインの料理)〉
ビニール袋に角切りにした生鮭と生ホタテと色々な調味料と香辛料(塩、胡椒、オリーブオイル、ドライガーリック、レモンなど)を入れ、軽く混ぜて15分くらい放置する。このとき、レモンがpHを下げてアミン類を中和するので魚の生臭みを抑制する。このときレモンでなく酢を添加しても同様の効果が得られる。一般的には酢を入れて加熱すると揮発してしまうので加熱最後に入れるが、今回は短時間加熱なので酢の成分が加熱終了まで残っており、芯まで酢がしみこむので従来より臭みを抑制できる。
【0054】
耐熱カップ(シリコン製など)に入れて生ハーブ(ディルの葉など)を乗せ、鮭とホタテが変性し始める程度約40〜70℃、望ましくは50〜70℃の範囲で高周波加熱し、その後カップ内の調味液が軽く沸騰する程度までヒータ加熱する。高周波加熱終了時の温度であるが、魚は40〜50℃の温度帯で組織が非常に柔らかく崩れやすくなるので、その温度上昇がなるべく早くなるように加熱する必要があることによる。
【0055】
また、表面が焦げるまで加熱していないのは、一般的に魚は肉よりも筋肉の結合組織であるコラーゲン量が少なく、また、加熱されると筋隔あるいは筋周膜がゼラチン化するため組織がばらばらになりやすい。すなわち煮崩れしやすいため、水分や脂質が抜けやすく加熱しすぎるとパサパサになるためである。このため、従来の加熱方法で生じる問題点はハンバーグの項で示したのと同様であるが、より顕著になると考えられる。本発明の加熱方法によれば、加熱時間が長いとパサパサになりやすい生鮭や硬くなりやすいホタテを柔らかく仕上げることができる。
【0056】
〈鶏松風焼き(卵がメインの料理)〉
卵に、キッチンペーパーに包んで放置して水気を切った木綿豆腐、鶏ひき肉、色々な調味料や香辛料(味噌、砂糖、みりん、醤油、ヨーグルト、生姜など)を潰し混ぜて深さのある耐熱容器に流しいれる。この料理は、一般的には卵と鶏肉のみを用い豆腐は使わない。しかし、豆腐はハンバーグの項で説明した牛乳や豆乳と同様に、加熱のみでは変性収縮しづらいたんぱく質でできているため、これを混ぜることで柔らかく仕上げることができる。
【0057】
次に、表面に胡麻をふって卵液やひき肉が変性する程度約40〜70℃、望ましくは50〜70℃の範囲で高周波加熱し、その後表面に軽くこげ色がつく程度、すなわち、表面が約150℃以上200℃未満で中心温度が100℃未満、望ましくは80℃以上90℃未満になるようにヒータ加熱する。肉の変性と温度の関係はハンバーグと同じだが、卵は65〜70℃までが半熟状態で80℃以上になると全熟となる。このため高周波加熱で肉がジューシーで、卵にもおおむね火が通っている状態にするためには上記温度を目標にすることが望ましい。
【0058】
また、卵は100℃で完全に沸騰し内部に激しくすがたち水分蒸発も多くなるので避けるべきであり、全熟した卵は90℃以上になるとさらに硬くなるため、ヒータ加熱は卵全熟から硬くなりすぎない温度にとどめることが望ましい。なお、ヒータ加熱時の表面温度設定や食品の中心温度が75℃以上である状態を1分間保つことを推奨することなどもハンバーグの項と同様である。さらに、このような加熱方法であれば、従来オーブンなどで焼く方法では25分程度かかったのに対して約半分の時間でできるため加熱時間を大幅に短縮できる。また、短時間加熱であるためにあまり水分がとばず、焼きたてでも冷めてからでもジューシーな食感が楽しめる。
【0059】
〈焼きりんご(野菜、果物がメインの料理)〉
生のりんごは丸ごと使い、芯をくりぬいてシナモンシュガーとバターを詰める。これを、40〜70℃、望ましくは50〜70℃の範囲で、例えば触って少し熱く感じる程度の温度まで高周波加熱し、その後表面に軽く焼き色がつく、すなわち表面が約150℃以上200℃未満になるようにヒータ加熱する。従来はりんご表面を焦がし過ぎず芯まで加熱するために、例えばオーブンの設定温度200℃くらいで25〜30分加熱する必要があった。しかし、本発明の加熱方法であれば加熱時間は約10分程度と約1/2の短時間ですむ。
【0060】
加熱の設定温度であるが、焼きりんごのように果物や野菜を加熱する場合、歯ざわりが柔らかくなることが好まれるが、あまりぐちゃぐちゃと歯ごたえがなさ過ぎるものも好まれない。これは、あまり細胞破壊を進めることなく植物を構成する細胞壁と細胞壁の間にあり細胞同士を結合しているペクチンを水に溶けやすい状態とし、トロリとした食感を感じやすくする状態にすることであると考えられる。そこで、高周波加熱終了時の温度は、りんごを常温以上でかつ細胞破壊が少なくペクチンが溶出しやすい温度、例えば40〜70℃程度まで急速に立ち上げるものとして設定した。なお、ヒータ加熱時の表面温度設定はハンバーグの項に同様である。
【0061】
また、加熱時間が短く細胞破壊が抑制されるため、液胞内のフェノール類がポリフェノールオキシダーゼにより酸化重合して褐色になることも減り、さらにりんごの果皮に含まれる色素の加熱分解も抑制されるので、従来の加熱調理方法では全体的に薄茶色やにごった赤黒い色になっていたものが、明るいりんご本来の赤みを残した美しい外観を維持できる。これにより、外観が美しく、かつ食感も適度に加熱した果物特有のむっちり感とりんごらしい歯ざわりの残るおいしい焼きりんごができる。
【0062】
〈ブラウニー(主に小麦粉を使った膨化する料理)〉
ボールにバターを入れて混ぜ、クリーム状になったら砂糖を加えて混ぜてから溶き卵、牛乳を3回ぐらいに分けて少しづつ入れよく混ぜ、輪切りにしたバナナと砕いた胡桃を入れ、さらに混ぜる。そこにココアとホットケーキミックスをふるいながら加えて切り混ぜていく。それをケーキ型に流しいれて表面に輪切りにしたバナナと砕いた胡桃を乗せて、生地に触って少し熱い程度、すなわち約50〜70℃、望ましくは約60℃まで高周波加熱し、その後表面が軽く焦げる程度、すなわち表面が約150℃以上200℃未満になるようにヒータ加熱する。
【0063】
一般に、小麦粉を使った生地のたんぱく質は約60℃付近から熱変性が始まり、80℃付近でグルテンが熱変性し凝固してしまい、また、デンプン糊化温度は約52〜63℃である。従って、スポンジ状のケーキを作りたいときは、でんぷんの糊化が始まり、かつグルテンの変性が始まってから完了するまでの間はある程度時間をかけて加熱して、生地内に発生したガス圧によるグルテン膜の伸展とデンプンの糊化による膨化した生地組織の骨格形成を行う必要がある。これらのことから、時短のために生地のでんぷんの糊化やたんぱく質変性開始温度までレンジですばやく均等に生地を高周波加熱し、その後グリルで膨化を促進できるようにした。表面の温度設定はハンバーグの項と同じである。このような加熱方法であれば、オーブンで長時間加熱しなくてもふっくらしたケーキを作ることができる。
【0064】
〈ジャガイモのチーズはさみ焼き(いもがメインの調理)〉
耐熱カップ(シリコン製など)にスライサーで薄く切った生のジャガイモとチーズを交互に重ね入れ、最上段がチーズになるようにしてその上にバターを乗せ、約40〜70℃、望ましくは約60〜70℃まで高周波加熱し、その後軽く焼き色がつく程度、すなわち表面が約150℃以上200℃未満になるようにヒータ加熱する。レンジで上述の温度まで加熱するのは、いもの軟化抑制酵素の働きを阻止するためである。
【0065】
この酵素は、細胞壁組織内に含まれるペクチンメチルエステラーゼのことであり、60〜70℃で顕著な作用が見られる。これは、細胞同士の接着剤の役割を果たすペクチン質の脱メチル化を起こしてペクチン鎖のカルボキシル基の間でカルシウムイオンやマグネシウムイオンとの架橋結合を形成するため、いもの組織を硬くし軟化しにくくしてしまう。この酵素の働く温度帯をなるべくすばやく通り過ぎ高温化することで酵素を失活させてしまうことでペクチン質の分解または溶解を促進し、柔らかく火の通ったジャガイモ料理ができる。また、グリルなどで同様の調理をすると約25〜30分かかるため、一般的には糊化したデンプンに保護するためビタミンCが壊れにくいといわれているジャガイモでも損失が大きくなると考えられるが、本発明によれば約5分程度で加熱できるので、加熱時間の短縮と併せてよりビタミンCの残存率が高くなる。
【0066】
〈焼きおにぎり(主に米飯を使った料理)〉
凍ったままの白飯のおにぎりの表面に醤油をつけ、飯が溶けて触って少し熱く感じる程度、すなわち約50〜70℃、望ましくは約60℃まで高周波加熱し、その後表面が軽く焦げる程度、すなわち表面が約150℃以上200℃未満になるようにヒータ加熱する。高周波加熱温度の設定は、凍結で抑制されている米デンプンの老化温度帯をすばやく通過するためである。その後のヒータ加熱温度設定に関しては、ハンバーグなどの項に記載されたのと同じである。このような加熱方法であれば、一般的なオーブントースターなどで冷凍おにぎりを焼きおにぎりにするためには約13〜16分かかるとされていたものが約半分の時間で加熱できる。また、レンジでのみ暖め直すと手に取るともろく崩れやすくなっているおにぎりを短時間で簡単に食べやすい状態にすることができる。
【0067】
〈焼き野菜〉
ナスの場合は丸ごと、ズッキーニや玉ねぎなどは適当な大きさに輪切りにしてから、40〜70℃、望ましくは50〜70℃の範囲で、例えば触って少し熱く感じる程度の温度まで高周波加熱し、その後表面に軽く焼き色がつく、すなわち表面が約150℃以上200℃未満になるようにヒータ加熱する。この温度設定は、焼きりんごの項に記載の内容と同じである。このような加熱方法であれば加熱が短時間ですむために、野菜の細胞破壊を抑制できるので野菜の風味や栄養素を大きく損なうことなく味が濃縮された、焦げ臭くないおいしい焼き野菜を食べることができる。また、フライパンで調理加熱したものと異なり油を使っていないので、例えば油を吸いやすく加熱するとあっという間に柔らかくべたべたになってしまうナスも、歯ごたえを残したまま健康的に食べることができる。
【0068】
〈鰻と筍の卵鍋焼き〉
バターを塗った深い耐熱容器にくし型に切った筍と約2cm角に切った鰻の蒲焼を並べ、調味した卵液(割りほぐした卵にかつおだし顆粒、水、烏賊塩辛、淡口醤油、みりんなどを混ぜたもの)を流しいれて、卵液が変性する程度約40〜70℃、望ましくは50〜70℃の範囲で高周波加熱し、その後表面に軽くこげ色がつく程度、すなわち表面が約150℃以上200℃未満で中心温度が100℃未満、望ましくは80℃以上90℃未満になるようにヒータ加熱する。この温度設定理由は、鶏松風焼きの項と同じである。このような加熱方法であれば、従来オーブンなどで焼く方法では25分程度かかったのに対して約半分の時間でできるため時短できる。また、短時間加熱であるためにあまり水分がとばず、焼きたてでも冷めてからでもジューシーな食感が楽しめる。
以上のように、本発明に係る加熱調理方法によれば、オーブンやグリルを使う調理と比較して、加熱時間をほぼ半減またはそれ以下に短縮することができる。
【実施例2】
【0069】
(2)主として健康的な調理
〈厚切りとんかつ〉
厚さ2cmの分厚いとんかつを作る。厚さ2cmの豚ロース生肉に塩胡椒し、小麦粉をまぶしてから卵液につけサラダ油を混ぜた乾燥パン粉をつけてなじませるために少し置く。その後、肉中心まで肉が変性する程度約40〜70℃、望ましくは50〜70℃の範囲で高周波加熱し、その後、表面の衣に軽くこげ色がつく程度、すなわち表面が約150℃以上200℃未満になるようにヒータ加熱する。
【0070】
従来の加熱方法の問題点や上記温度設定の根拠はハンバーグレシピと同じである。また、従来の加熱方法の課題としてレンジのみで加熱する場合を考えると、衣で肉を覆うなどして食品中心から加熱する料理の場合、食品中の水分が急激に沸騰すると、食品表面から外に逃げていきにくくなり、衣が爆発して加熱室2内が汚損されるおそれがあるが、本加熱方法であれば、水沸騰の温度100℃未満で高周波加熱を止めるためそのような問題は回避できる。また、揚げ油が不要で衣が油を大量に吸わないので健康的である。以上のことから本方法であれば、分厚い肉なのに誰でも失敗なく中心まで火を通し、かつ衣の水分を飛ばしてカリッとした食感の衣のとんかつを作ることができる。また、揚げ油が不要なので油の用意や後始末なども不要で手間も削減される。
【0071】
〈ささみ大葉フライ〉
鶏ささみ生肉に塩をしてから酒をふり少し置く。次に、小麦粉をまぶしてから卵液につけサラダ油を混ぜた乾燥パン粉をつけてなじませるために少し置く。その後、肉中心まで肉が変性する程度約40〜70℃、望ましくは50〜70℃の範囲で高周波加熱し、ついで、衣表面に軽くこげ色がつく程度、すなわち表面が約150℃以上200℃未満になるようにヒータ加熱する。高周波加熱温度やヒータ加熱温度の設定理由は厚切りとんかつの項と同じである。
【0072】
このような加熱方法であれば、揚げ油が不要で衣が油を大量に吸わないため健康的である。また、過加熱気味にすることがない加熱方法なので肉からの水分蒸発量も少なくできるため、脂肪が少なく長時間加熱でパサパサになりがちな鶏ささみ肉でもしっとり仕上げることができ、かつ衣の水分を飛ばしてカリッとした状態に作ることができる。また、揚げ油が不要なので油の用意や後始末なども不要であり、手間も削減される。
【0073】
〈厚揚げはさみ焼き〉
厚揚げは半分に切り、真ん中に切込みを入れる。みじん切りにして少しレンジにかけた玉ねぎと牛乳につけてふやかしたパン粉と、粗みじんにした野菜とひき肉を混ぜ冷蔵庫で少し落ち着かせる。このタネを厚揚げの切り込みの中に詰め、肉が変性する程度約40〜70℃、望ましくは50〜70℃の範囲で高周波加熱し、その後厚揚げ表面に軽くこげ色がつく程度、すなわち、表面が約150℃以上200℃未満になるようにヒータ加熱する。高周波加熱温度やヒータ加熱温度の設定理由はハンバーグの項と同じである。このような加熱方法であれば、揚げ油が不要で豆腐や具材が油を大量に吸わないので健康的である。また、分厚い厚揚げにタップリ肉を挟んであっても生焼けになることがなく、誰でも気軽に作ることができる。また、揚げ油が不要なので油の用意や後始末なども不要であり、手間も削減される。
【0074】
〈レンコンはさみ揚げ〉
鶏ひき肉、生姜、葱、醤油をよく混ぜ、厚さ約15mmに切ったレンコンの間に挟む。小麦粉と水をよく混ぜた衣をつけ、鰹節を表面いっぱいにまぶしてからスプーンで油を回しかけ、肉中心まで肉が変性する程度約40〜70℃、望ましくは50〜70℃の範囲で高周波加熱し、その後鰹節に軽くこげ色がつく程度、すなわち表面が約150℃以上200℃未満になるようにヒータ加熱する。高周波加熱温度やヒータ加熱温度の設定理由はハンバーグの項と同じである。このような加熱方式であれば、揚げ油が不要で衣が油を大量に吸わないため健康的である。また、分厚いレンコンも誰でも失敗なく火を通し、かつ衣の一部である鰹節が油の中で散ってはさみ揚げ自身が台無しになることもなく作ることができる。また、揚げ油が不要なので油の用意や後始末なども不要であり、作りやすい。
【0075】
〈ごぼうと人参のかき揚げ風〉
ボウルに桜海老と色々な調味料入り衣材料(小麦粉、かつおだし顆粒、塩など)を入れ、ピーラーで薄くむくように切ったごぼうとにんじんを混ぜ、耐熱容器に入れて油を回しかける。触って少し熱く感じる程度約40〜70℃、望ましくは50〜70℃の範囲で高周波加熱し、その後厚揚げ表面に軽くこげ色がつく程度、すなわち、表面が約150℃以上200℃未満になるようにヒータ加熱する。高周波加熱温度やヒータ加熱温度の設定理由はハンバーグの項と同じである。このような加熱方法によれば、揚げ油が不要で衣が油を大量に吸わないため健康的である。また、揚げ油が不要なので油の用意や後始末なども不要であり、手間も軽減される。
本発明に係る加熱調理方法によれば、油で揚げる調理と比較して、仕上がった食品が大量の油を含むことがないため健康的である。
【実施例3】
【0076】
(3)主として調理時間が短縮され、手間のかからない調理
〈スパニッシュオムレツ〉
ボールに、カットした生野菜、例えば玉ねぎ・ピーマン・パプリカなどと、ベーコン、溶いた生卵、生クリームを入れてよく混ぜ、コンソメと塩コショウで味付けをした卵液を作る。次に、耐熱皿にバターを塗り、よく混ぜた卵液を流し入れ、卵液が変性する程度約40〜70℃、望ましくは50〜70℃の範囲で高周波加熱し、その後表面に軽くこげ色がつく程度、すなわち、表面が約150℃以上200℃未満で中心温度が100℃未満、望ましくは80℃以上90℃未満になるようにヒータ加熱する。この温度設定理由は、鶏松風焼きの項と同じである。
【0077】
一般的なオーブン調理の場合は、オーブンで約25分程度加熱しなくてはならないが、本発明によれば約10分程度でできるため加熱時間を大幅に短縮することができる。また、一般的には、野菜を一度フライパンで炒めて冷ましてから卵に入れなくてはならず、卵液調理前に手間がかかるし調理後はフライパンも洗わなくてはならないが、本発明の加熱方法であればこのような工程を省略できるので、加熱調理時間の短縮は勿論、調理手順も簡略化できる。
【0078】
〈ズッキーニとパプリカのトマトドリア〉
深い耐熱容器に、冷や飯と水煮角切りトマト缶と切って塩胡椒して水気を切った色々な生野菜(ズッキーニ、パプリカ、玉ねぎなど)と、色々な調味料(コンソメ顆粒、塩、胡椒、赤ワインなど)をよく混ぜて入れ、表面にチーズを乗せ、40〜70℃、望ましくは50〜70℃の範囲で、例えば触って少し熱く感じる程度の温度まで高周波加熱し、その後表面に軽く焼き色がつく、すなわち、表面が約160℃以上200℃未満になるようにヒータ加熱する。この温度設定は、焼きりんごの項に記載の内容と同じである。
【0079】
このような加熱方法によれば、グラタンなどと同様にオーブンで30分以上かけて作るドリアが非常に短い時間で作ることができる。また、オーブントースターで作ると時間は短くなるが、その前段階で具材に火を通しておくために鍋でゆでたりフライパンで別途炒めておく必要がある。本発明の加熱方法によればこの工程を省略できるので、加熱調理時間が短縮されるばかりでなく、調理手順も簡略化できる。なお、野菜は例示したものに限定するものではないし、また、これに肉や魚、その加工品(例えばベーコンやカニの缶詰など)を入れてもおいしく仕上げることもできる。
【0080】
〈タンドリー風チキン〉
すりおろした生姜、にんにく、玉ねぎ、りんごと2〜3cm角に切った生の鶏肉とヨーグルトや様々な調味料(カレー粉、ガラムマサラ、クミン、蜂蜜、塩、レモン汁、ケチャップ、水など)とを混ぜ合わせ、深めの耐熱皿に表面がなるべく平らになるように入れ、肉が変性する程度、約40〜70℃、望ましくは50〜70℃の範囲で高周波加熱し、その後、表面に軽くこげ色がつく程度、すなわち表面が約150℃以上200℃未満になるようにヒータ加熱する。このような加熱方法であれば、加熱調理中に鶏肉に味がしみこむので、一般的な手法として知られているヨーグルトと調味料を混ぜた液に事前に2時間以上も鶏肉を漬け込むという手順が必要なくなるため、手間や時間を省いて酸味のあるカレー風味の鶏肉料理を作ることができる。また、タンドールで焼く必要もないので鶏肉が硬くならず、噛む力の弱くなったお年寄りでもおいしくエスニック料理を楽しむことができる。
【0081】
〈野菜の肉巻き〉
色々な調味料(塩胡椒、またはみりんと醤油など)であらかじめ味付けした薄切り肉で長さ5cmに切った色々な生野菜(長ネギ、にんじん、エリンギ、アスパラなど)を巻き、耐熱皿に並べて、肉が変性し野菜が触って温かく感じる程度、すなわち約40〜70℃、望ましくは50〜70℃の範囲で高周波加熱し、その後、表面に軽くこげ色がつく程度、すなわち表面が約150℃以上200℃未満になるようにヒータ加熱する。
【0082】
従来の加熱方法の問題点や上記温度設定の根拠は肉に関しては、豚肉のハンバーグやしょうが焼き丼、野菜に関しては、焼きりんごのレシピと同じである。一般的にオーブンやオーブントースターで加熱する場合は、前段階で具材である野菜類に火を通しておくために鍋でゆでたりフライパンで別途炒めておく必要があるが、本発明の加熱方法であればこのような工程を省略できるので、加熱調理時間を短縮することができると共に調理手順も簡略化できる。また、このような加熱方法であれば、野菜や肉の収縮が少なくジューシーでおいしい状態に仕上げることができる。なお、野菜は例示したもので限定するものではないし、また、表面に風味のアクセントとなるソースやマヨネーズ・チーズなどを振りかけて加熱しても同様の効果が得られることは自明である。
本発明の加熱調理方法によれば、従来、一度フライパン調理した具材を混ぜてオーブンやグリルで作る料理や、下ごしらえの段階で味をなじませる料理を、下ごしらえ不要による省力化と加熱時間がほぼ半減、またはそれ以下にすることができ、調理手順も簡素化できる。
【実施例4】
【0083】
(4)主として手間を省ける調理
〈豚肉のしょうが焼き丼(肉がメインの料理)〉
生姜と色々な調味料(醤油、みりんなど)とを混ぜた生の豚薄切り肉を、丼に盛った冷や飯の上に乗せ、豚肉が変性する程度約40〜70℃、望ましくは50〜70℃の範囲で高周波加熱し、豚肉に軽く焼き色がつく程度、すなわち、表面が約150℃以上200℃未満になるようにヒータ加熱する。このような加熱方法であれば、出来上がったものはおかずと主食が出来上がった状態でそのまま食卓に出せて簡便である。また、肉はグリルのみで調理したものに比べ、ドリップ流出が少なく肉も硬くならず口当たりがよい。さらに、短時間で加熱できるので、生姜の香気成分が残って香りもよく、肉の収縮も小さく見た目にもおいしそうな状態を提示できる。
【0084】
実際に、本発明の加熱方法によって肉の状態がどれほど変化するかを従来例と比較して評価検討した結果を以下に説明する。厚さ20mmの牛肉を約50mm角、重量約50gにカットして、従来方法としては、(1)レンジ出力700W加熱、(2)グリル(上ガラス管+下シーズヒータで計1.1kW)加熱、(3)過熱蒸気加熱の3方法で、食品の中心温度が70℃になるまで加熱した。これらと、本発明の加熱方法(肉中心温度50℃までレンジ700W加熱した後、肉中心温度70℃までグリル(上ガラス管+下シーズヒータで計1.1kW)加熱)との実験結果を、加熱時間、重量減少率(=肉汁が逃げた)、肉の収縮率で比較した。肉はいずれも冷蔵庫から取り出し調整し同一の皿に乗せ加熱し加熱終了直後に肉表面、中心温度および加熱前後で肉重量と肉の収縮が顕著にみられた高さ寸法を測定した。
【0085】
図5にこれらのデータを示す。外観上「焼けた」印象があるのは、(2)のグリル加熱及び本発明の加熱方法の場合である。(1)のレンジ加熱は高周波加熱ムラにより一部赤い部分が残り、(3)の過熱蒸気加熱では蒸した肉のように表面が水分で覆われ、焦げ色はつかなかった。食感は「焼けた」感じのあるものの方が香ばしさが加わっていた。なお、(1)のレンジ加熱では肉からかなり水分が抜けて硬くなったように感じられた。また、(3)の過熱上記加熱の場合は、全体的にぱさついて感じられた。
【0086】
また、このときの重量減少率は、少ない順に、本発明の加熱方法及び(3)の過熱蒸気加熱の場合が26.3%、(1)のレンジ加熱の場合が29.7%、(2)のグリル加熱の場合が36.3%であり、グリルのみで加熱するよりも高周波加熱を併用するほうが肉汁が保持されやすいことを示している。これは(3)の過熱蒸気加熱以外は加熱時間によることが大きく、加熱時間は、(1)のレンジ加熱の場合0.7分<本発明の加熱方法の場合6.8分<(2)のグリル加熱の場合9.7分<(3)の過熱蒸気加熱の場合が15.5分であった。(3)の過熱蒸気加熱の場合は、肉の外から水分が供給されて肉の表面で水分が凝縮することから、肉の水分が蒸散しにくかったものと考えられる。
【0087】
また、このときの肉収縮率は、(3)の過熱蒸気加熱の場合20.5%>(2)のグリル加熱の場合16.6%>(1)のレンジ加熱の場合12.7%>本発明の加熱方法の場合6.6%であった。肉の収縮はある一定条件下の温度にさらされた時間に関係し、周囲の温度条件には関係しないので、高温暴露時間の最も長かった(3)の過熱蒸気加熱の場合が肉が最も収縮したものと考えられる。このため組織は硬くなり水分の減少率が小さくても全体的に舌触りの悪いパサパサした食感になったと思われる。
【0088】
本調理は丼に個別に生の食材を乗せていくだけなので、家族個別に好みの食材で丼メニューを1度の加熱で同時に作ることができる。今回提示したのは豚肉のしょうが焼きであるが、生の鶏肉や牛肉などを乗せても同様の調理ができる。また、飯が冷凍でも飯の解凍・加熱と生肉の加熱が同時にできるので、不意の来客時などでも短時間で簡単に食事を提供できる。
【0089】
〈カレー風味のメカジキソテー〉
ビニール袋の中に塩、胡椒、カレー粉、小麦粉などの調味料や衣材料を入れてよく振り混ぜておき、そこにペーパータオルで水気を取ったメカジキを入れて全体にまぶす。次に、そのメカジキにスプーンでオリーブオイルを回しかけ、魚肉が変性し始める程度、約40〜70℃、望ましくは50〜70℃の範囲で高周波加熱し、その後表面に軽くこげ色がつく程度、すなわち、表面が約150℃以上200℃未満になるようにヒータ加熱する。加熱温度設定は、ハンバーグや鮭とホタテのホットマリネの項と同じである。
【0090】
このような加熱方法であれば、フライパンを使わないため洗い物が少なくてすむ。また、魚を過加熱でパサパサにすることなく、ジューシーでおいしいフィッシュソテーが食べられる。この方法は味付けが和風、衣素材の有無、魚の種類(小魚、青魚、白身など)に関係なく、また肉でも同様の効果を得ることができるので、牛肉ステーキもできる。また、香味野菜を同時に焦がしすぎることなく短時間で加熱できるので、香りがよく残り魚の臭みを消しておいしく食べることができる。これは例えば白身魚の香草焼き(生のハーブを焦がすことなく最初から魚と一緒に加熱できる)、鯖の山椒焼き(実山椒を焦がすことなく最初から魚と一緒に加熱できる)、鯵のさんが焼き(たたきにした鯵と混ぜた生姜や葱などの生の香辛料を焦がすことなく一緒に加熱できる)、鶏肉のハーブチーズはさみ焼きなどの料理に有効である。また、ハンバーグなどのレシピと同様に、生野菜と同時に加熱する料理であれば、野菜や魚の皮が炭状にひどく焦げつくことなく、おいしく仕上げることができる。例えば鮭のチャンチャン焼きなどである。
【0091】
〈焼きそば〉
一口大に切った生の豚バラ薄切り肉と、色々な生野菜(キャベツ、長ネギ、ピーマンなど)と、色々な調味料(酒、かつおだし顆粒、とんかつソース、油など)と、レンジで麺がほぐれる程度に軽く暖めた焼きそば用の麺とを深い耐熱容器に入れて混ぜ合わせ、諸機材が触って少し熱く感じる程度の40〜70℃、望ましくは50〜70℃の範囲で高周波加熱し、その後、表面の麺や野菜に軽く焼き色がつく、すなわち、表面が約150℃以上200℃未満になるようにヒータ加熱する。このような加熱方法であれば、フライパンを使わないため洗い物が少なくてすむ。また、麺や野菜を焦がし過ぎず、さらに、炒めるときの加熱ムラで野菜が生っぽいまま仕上がることもなくおいしく仕上げることができる。これは色々な焦がしがちな具材の入った麺料理で同様の効果を得られる。例えば、生の肉や野菜とカレー粉を混ぜて作る焼きうどん、チーズクリームを使うパスタ、トマトやガーリックを使ったペペロンチーノなどである。
【0092】
〈フレンチトースト〉
溶きほぐした卵に色々な調味料(生クリーム、牛乳、蜂蜜など)を混ぜて作った卵液に一晩フランスパンを浸し、バターを塗った耐熱皿に乗せ、卵液が変性する程度約40〜70℃、望ましくは50〜70℃の範囲で高周波加熱し、その後表面に軽くこげ色がつく程度、すなわち、表面が約150℃以上200℃未満で中心温度が100℃未満、望ましくは80℃以上90℃未満になるようにヒータ加熱する。この温度設定理由は、鶏松風焼きの項と同じである。このような加熱方法によれば、フライパンに多量の油を強いて焼くことがないので高カロリー食品とならずにすみ、また、フライパンを使わないので洗い物が少なくてすむ。
【0093】
〈筍のつけ焼き〉
筍の上半分はくし型、下半分は輪切りに切って、ビニール袋に入れた色々な調味料(酒、醤油、かつおだし顆粒など)に30分ぐらい漬け込んでから、40〜70℃、望ましくは50〜70℃の範囲で、例えば触って少し熱く感じる程度の温度まで高周波加熱して、その後表面に軽く焼き色がつく、すなわち表面が約150℃以上200℃未満になるようにヒータ加熱する。この温度設定は、焼きりんごの項に記載の内容と同じである。このような加熱方法であれば、フライパンを使わず洗い物が少なくてすむ。
【0094】
〈セットメニュー〉
上述のメニューをいくつか組み合わせ、1つの皿の上でコンビネーション加熱することで、友人を招いてのホームパーティなどでも手早く調理でき、皿を移し変えることなくすぐに提供できるので、調理者がパーティーの会話から外れ参加者が気まずい思いをすることもなく、暖かい様々な料理を食べることができる。このとき、鶏松風焼きやスパニッシュオムレツのように加熱前が液状であるものは、シリコンなどの素材でできた耐熱カップを使ってもよい。例えば、鮭とホタテのマリネ焼き+焼き野菜、鶏はさみ焼き+オムレツなど組み合わせである。短時間加熱なので食品の水分があまり抜けておらず、特に肉や魚は冷めても硬くならずおいしく食べられる。
【0095】
〈弁当メニュー〉
上述のメニューをいくつか組み合わせ、一つの皿の上でコンビネーション加熱することで、朝忙しいときに短時間で何個もフライパンや鍋を使うことなく弁当のおかずができる。このとき、鶏松風焼きやスパニッシュオムレツのように加熱前が液状であるものはシリコンなどの素材でできた耐熱カップを使ってもよい。また、冷めてもおいしいように塩加減を濃くして調理してもよい。例えば、豚しょうが焼き+オムレツ+焼き野菜、鶏照り焼き+ごぼうとにんじんのかき揚げ風、牛ステーキ+チーズはさみ焼き+焼き野菜などの組み合わせである。短時間加熱なので食品の水分があまり抜けておらず、特に肉は冷めても硬くならずおいしく食べられる。
本発明の加熱調理方法によれば、フライパンを使う調理では、従来のように鍋やフライパンなどの調理器具の洗いや後片付けの手間を省くことができる。
【符号の説明】
【0096】
1 加熱調理器の本体部、2 加熱室、3 吸気孔、4 排気孔、6 高周波発生部(被加熱物内部加熱手段)、7 マグネトロン、9 導波管、11 アンテナ、13 上部加熱ヒータ(被加熱物外部加熱手段)、14 コンベクションヒータ(被加熱物外部加熱手段)、17 赤外線センサ(被加熱物温度測定手段)、18 庫内サーミスタ(加熱室内温度測定手段)、20 操作部、25 扉、30 被加熱物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱調理器の加熱室内に被加熱物を収納して、該被加熱物を内部から加熱する被加熱物内部加熱手段によって加熱し、
前記被加熱物の温度が所定温度以上になったときは前記被加熱物内部加熱手段による加熱を停止して、該被加熱物を外部から加熱する被加熱物外部加熱手段により加熱し、
前記加熱室内の温度が所定温度以上になったときは、前記被加熱物外部加熱手段による加熱を停止することを特徴とする食品の加熱調理方法。
【請求項2】
加熱調理器の加熱室内に被加熱物を収納して、該被加熱物を内部から加熱する被加熱物内部加熱手段と、該被加熱物を外部から加熱する火力W1の被加熱物外部加熱手段とによって加熱し、
前記被加熱物の温度があらかじめ設定した温度以上になったときは前記被加熱物内部加熱手段による加熱を停止すると共に、火力をW1からW2に切り換えた前記被加熱物外部加熱手段により加熱し、
前記加熱室内の温度があらかじめ設定した温度以上になったときは、前記被加熱物外部加熱手段による加熱を停止することを特徴とする食品の加熱調理方法。
【請求項3】
前記加熱室の高さが135〜220mm、望ましくは135〜180mmの加熱調理器を使用したことを特徴とする請求項1又は2記載の食品の加熱調理方法。
【請求項4】
被加熱物を収納する加熱室と、
前記被加熱物を内部から加熱する被加熱物内部加熱手段と、
前記被加熱物を外側から加熱する被加熱物外部加熱手段と、
前記被加熱物の温度を測定する被加熱物温度測定手段と、
前記加熱室内の温度を測定する加熱室内温度測定手段と、
前記被加熱物内部加熱手段の駆動状態から前記被加熱物外部加熱手段の駆動状態への切り替えを前記被加熱物温度測定手段の出力により制御する被加熱物内部加熱手段制御器と、
前記被加熱物外部加熱手段の停止を前記加熱室内温度測定手段の出力により制御する被加熱物外部加熱手段制御器とを有することを特徴とする加熱調理器。
【請求項5】
前記加熱室の高さを、135〜220mm、望ましくは、135〜180mmとしたことを特徴とする請求項4記載の加熱調理器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−42156(P2012−42156A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184929(P2010−184929)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000176866)三菱電機ホーム機器株式会社 (1,201)
【Fターム(参考)】