食品の味覚情報の取得方法。
【課題】
食品中の味覚成分の全成分同時計測ができ、要すれば味覚情報不要成分の情報を除いて、味覚成分のみの定性的、定量的情報を、簡単に正確に取得する方法を提供すること。
【解決手段】
食品中の複数成分の情報を同時計測することによって、食品の味覚情報を得る方法であって、該食品の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを用いることを特徴とする食品の味覚情報の取得方法、味覚情報取得用データベース、製品管理方法等により課題を解決した。
食品中の味覚成分の全成分同時計測ができ、要すれば味覚情報不要成分の情報を除いて、味覚成分のみの定性的、定量的情報を、簡単に正確に取得する方法を提供すること。
【解決手段】
食品中の複数成分の情報を同時計測することによって、食品の味覚情報を得る方法であって、該食品の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを用いることを特徴とする食品の味覚情報の取得方法、味覚情報取得用データベース、製品管理方法等により課題を解決した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の味覚情報の取得方法に関し、更に詳細には、食品の赤外吸収吸光度の2次微分値を計測することによって、食品中の複数成分の情報を同時計測する食品の味覚情報の取得方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
嗜好食品では、ニーズに合わせた味覚を得ることが重要である。味覚に影響を与える要因として食品中の化学成分があり、化学成分を客観的に評価することが、食品の味覚評価につながる。そこで、複数成分の同時計測、定性及び定量ができ、成分の相互作用まで把握できる分析手法が望まれている。
【0003】
このような分析手法が確立し、分析専門家が長時間かけて成分分析をするまでもなく、瞬時に食品の味が判明したならば、その手法は製品管理等に用いられることはもちろん、消費者が口にする前にその食品の味を知ることができるので、好みの味かどうかを知って消費者が食品を選択したり、経時による味の変化の有無を確認したりすることが可能になる。
【0004】
従来、混合物中の各成分の分析には、化学分析やクロマトグラフィーが知られている。しかし、これらをたとえ装置に組み込んだとしても、専門知識のない一般消費者等が操作することが実質上は不可能であり、メンテナンスも専門家以外はできにくいという問題点があった。
【0005】
また、特許文献1及び特許文献2には、近赤外分光分析法によって、食品中の各成分の情報を得る方法が記載されている。しかしながら、近赤外分光分析法では光ファイバーが使用できるという長所はあるものの、赤外分光法で得られる吸収の倍音や結合音が複雑に重なり合い、また、赤外領域における吸収に比べ極めて小さいため、各成分毎の情報を同時に得ることができにくいという問題点があった。
【0006】
一方、一般的に、赤外分光分析法によって混合物中の各成分の情報を得ることができることは知られている。しかしながら、一般に食品中の味を決める成分の含有量は極めて少量であり、味を決める成分同士が相互作用する場合もあり、定量分析が難しく、更にはアルコール飲料中のエタノール等のように、味覚情報不要成分が多量に入っている場合が多く、その情報を除かなくてはならない必要性等のため、赤外分光分析法によって食品中の微量な味覚成分の情報を正確に十分に得る方法は知られていなかった。
【0007】
従って、食品中の味覚成分の同時計測ができ、必要ならば味覚情報不要成分の情報を除くことができ、味覚成分のみの定性的、定量的情報を簡単に、正確に取得する方法が望まれていた。
【0008】
【特許文献1】特開平7−198601号公報
【特許文献2】特開2002−122538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者は、かかる背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、食品中の味覚成分の全成分同時計測ができ、要すれば味覚情報不要成分の情報を除いて、味覚成分のみの定性的、定量的情報を、簡単に正確に取得する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討したところ、食品の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを用いることによって、上記課題を解決できることを見出し本発明に到達した。
【0011】
すなわち本発明は、食品中の複数成分の情報を同時計測することによって、食品の味覚情報を得る方法であって、該食品の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを用いることを特徴とする食品の味覚情報の取得方法を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、上記味覚情報の取得方法で必要な、食品中の各成分の情報が格納された味覚情報取得用データベースを提供するものである。
【0013】
また、本発明は、上記食品の味覚情報の取得方法を使用した製品管理方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、上記食品の味覚情報の取得方法を使用した食品の銘柄識別方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、上記食品の味覚情報の取得方法を使用して取得した食品の味覚情報を提供する装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、食品中の味覚成分の同時計測ができ、要すれば味覚情報不要成分の情報を除いて、味覚成分のみの定性的、定量的情報を、簡単に正確に取得する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、食品の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトル(以下、赤外吸収吸光度の2次微分値を単に、「2次微分値」と略記することがあり、そのスペクトルを単に「スペクトル」と略記することがある)を用いることによって、その食品の味覚情報を得る方法である。
【0018】
赤外領域とは、通常4000cm−1から800cm−1の範囲をいう。この範囲の吸光度を測定し、種々の振動の帰属を行うことによって、食品中の各成分の化学構造を反映した情報を得ることができる。この領域の吸光度ピークは一般に多く、吸光度も大きいが、食品中の味覚成分は一般に微量であることが多く、ベースラインを適切に補償(compensate)してやることができれば、優れた分析手段になり得る。
【0019】
2次微分値とは、横軸が波数(cm−1)で、縦軸が赤外領域の吸光度のスペクトルにおいて、吸光度を波数で2回微分することによって得られるものであり、吸光度のピーク(極大値)を与える波数において、鋭い極小値を与える。2回微分値を用いることによって、ベースラインの影響をなくすことができ、微量のピークが検出しやすくなる。
【0020】
本発明の測定対象は食品である。本発明の味覚情報の取得方法の対象となる食品には特に限定はないが、嗜好食品が本発明の上記効果を奏しやすいので好ましい。具体的には例えば、コーヒー飲料;日本酒、焼酎、赤ワイン、白ワイン等のアルコール飲料;緑茶、紅茶、ウーロン茶、麦茶、ほうじ茶等の茶類;アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス等のアイスクリーム類;ジュース類;プリン;ゼリー類;乳飲料等が挙げられる。
【0021】
本発明の味覚情報の取得方法は、本発明1と本発明2を含むものである。すなわち、本発明1は、成分組成が定性的には既知の食品のスペクトルを測定し、各成分の含有量を求める方法であり、本発明2は、アルコール飲料中のエタノールや、アイスクリーム類中の乳脂肪分のように味覚情報不要成分が大量に溶解又は分散している食品について、その情報を除去したスペクトルを得る方法である。本発明1と本発明2は単独で使用してもよいし、組み合わせて使用してもよい。
【0022】
以下、先ず本発明1について述べる。すなわち本発明1は、水中に2以上の成分が溶解又は分散している食品について、行程(1)ないし行程(4)を有する方法によって、該食品中の成分pの濃度Cpを求める食品の味覚情報の取得方法である。
(1)該食品及び該食品中の各成分毎の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを得る行程
(2)赤外吸収吸光度の2次微分値ピークを与える波数の中から、成分pを代表する1つの波数kpをそれぞれ選択する行程
(3)各成分qを単独で濃度を変化させて溶解又は分散させたメークアップ液を用いて、波数kpの赤外吸収吸光度の2次微分値をそれぞれ測定し、各成分qの濃度を横軸に、波数kpでの赤外吸収吸光度の2次微分値を縦軸に取ったときの傾きa(q,kp)を求める行程
(4)下記連立方程式を、Cpについて解く行程
【0023】
d2A(k1)
=a(1,k1)C1+a(2,k1)C1+・・+a(q,k1)C1・・+a(n,k1)C1+b(k1)
d2A(k2)
=a(1,k2)C2+a(2,k2)C2+・・+a(q,k2)C2・・+a(n,k2)C2+b(k2)
・・・・・・・・・・・・
d2A(kp)
=a(1,kp)Cp+a(2,kp)Cp+・・+a(q,kp)Cp・・+a(n,kp)Cp+b(kp)
・・・・・・・・・・・・
d2A(kn)
=a(1,kn)Cn+a(2,kn)Cn+・・+a(q,kn)Cn・・+a(n,kn)Cn+b(kn)
(各方程式中、d2A(kp)は、波数kpでの該食品の赤外吸収吸光度の2次微分値を表し、a(q,kp)は、行程(3)において、メークアップ液を用い、成分qの濃度を横軸に、波数kpでの赤外吸収吸光度の2次微分値を縦軸に取ったときの傾きを表し、b(kp)は、切片を表し、Cpは、該食品中の成分pの濃度を表す。pとqは1からnの自然数の値をとり、nは2以上の自然数である。)
【0024】
本発明1の行程(1)は、食品又は食品中の各成分毎の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを得る行程である。スペクトル測定装置としては特に限定はなく市販のものが使用できる。縦軸が赤外吸収の吸光度であり、2次微分は波数で吸光度を2回微分するので、横軸に波数が線形に目盛られるものが好ましい。フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)が好適に用いられ得る。複数の成分が含有されている食品自体のスペクトルを測定する場合でも、該食品中の各成分が判明しているときや特定の成分に着目するときに成分毎のスペクトルを測定する場合でも、測定方法は同様である。
【0025】
本発明1の行程(2)は、赤外吸収吸光度の2次微分値ピークを与える波数の中から、成分pを代表する1つの波数kpをそれぞれ選択する行程である。波数kpは、以下の方法(A)、(B)及び/又は(C)を使用して選択することが好ましい。
【0026】
すなわち方法(A)は、該食品の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルの略全てのピークを与える波数について、成分pを単独で濃度を変化させて溶解又は分散させたメークアップ液の赤外吸収吸光度の2次微分値を測定して作成した検量線において、赤外吸収吸光度の2次微分値に対し成分pの濃度依存性が大きい波数の中から選択する方法である。
【0027】
以下に具体的に説明する。濃度を数段階に変化させた成分pの水溶液又は水分散液(これを本発明においては単に、「(成分pの)メークアップ液」と略記する)を調製する。そして、横軸に成分pの濃度をとり、縦軸に該食品のスペクトルのピークを与える1つの波数における2次微分値をとり、各波数毎に、測定点をプロットする(以下、「検量線」と略記する)。すなわち、各波数毎に検量線を作成する。なお、検量線は原点を通るように引いてもよいし、原点に関係なく引いてもよいが、好ましくは、原点を通るように引いた方がよい。ここで、上記の「数段階」とは、原点を除き、2〜9段階が好ましく、5〜7段階が特に好ましい。段階数が少なすぎると誤差が大きくなり、多すぎると測定時間がかかりすぎる場合がある。
【0028】
スペクトルのピーク(極小値)は、成分pに帰属されるものと、成分p以外の成分に帰属されるものがあるが、上記操作はスペクトルの略全てのピークを与える波数について行う。そして、そのうちから、傾きの絶対値が大きい検量線を与える波数の中から、成分pを代表する波数kpを選択する。成分pに帰属されるピークを与える波数において、必然的に検量線の傾きの絶対値が大きくなる傾向があるが、機械的に一律に、略全てのピークを与える波数について上記操作を行うことも、測定装置の自動化をする上では好ましい。また、食品のスペクトルのピークを与える波数のうち、傾きの絶対値が最も大きい検量線を与える波数を、成分pを代表する波数kpとして選択することが特に好ましい。
【0029】
方法(B)により、成分pを代表する波数kpを選択することも好ましい。すなわち、方法(B)は、(B)該食品の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルの略全てのピークを与える波数について、成分p以外の成分の該食品中の予想含有量を一定に保ってそれぞれ溶解又は分散させ、そこに更に、成分pを濃度を変化させて溶解又は分散させたメークアップ液の赤外吸収吸光度の2次微分値を測定して作成した検量線における傾きと、方法(A)で作成した検量線の傾きが略等しい値を示す波数の中から選択する方法である。
【0030】
すなわち、先ず、下記(i)及び(ii)の2種のメークアップ液を調製する。
(i)成分pの濃度を数段階に変化させて水中に溶解又は分散させたメークアップ液(p以外の成分を含まないメークアップ液、すなわち、上記方法(A)で使用したものと同様のメークアップ液)
(ii)成分p以外の成分を一定量それぞれ溶解又は分散させ(一定量は、その食品中の含有予想量とする)、そこに成分pの濃度を数段階に変化させて水中に溶解又は分散させたメークアップ液
【0031】
そして、方法(B)は、(i)と(ii)の両検量線の傾きが略等しい波数の中から、成分pを代表する波数kpを選択する方法である。通常、成分p以外の成分が、成分pの2次微分値又はピークを与える波数に影響を及ぼさなければ、上記2つの検量線の傾きは一致するはずである。従って、上記2つの検量線の傾きが略等しい波数の中から選択すれば、成分p以外の成分の影響をあまり受けていない成分pのピークを与える波数kpを選択することができる。そのような波数kpを選択できれば、他の成分の影響を受けずに成分pだけが定量できるので好ましい。上記2つのメークアップ液の検量線の傾きの定量的比較は、常法に従って装置内で自動化することも好ましい。
【0032】
方法(C)により、成分pを代表する波数kpを選択することも好ましい。すなわち、方法(C)は、成分pの化学構造を基に、振動の帰属から、成分pの吸収であると予想される波数の中から選択する方法である。予め成分pに特有のピークの波数が分かっている場合は、その波数の中から選択することが好ましい。
【0033】
方法(A)(B)(C)は単独で使用してもよいし、組み合わせて使用してもよい。方法(C)で波数を絞り込み、方法(A)で、2次微分値に対し成分pの濃度依存性が大きい波数を数個選び、そこから(i)と(ii)の両検量線の傾きが大きく異なる波数を除く(方法(B))ことにより波数kpを1つ選択する方法が特に好ましい。また、客観的に方法(A)だけ使用して、最も濃度依存性が大きい波数、すなわち検量線の傾きの絶対値が最も大きい波数を、波数kpとして1つ選択する方法も自動化のためには特に好ましい。
【0034】
成分を代表する波数は、好ましくは5cm−1以上、特に好ましくは10cm−1互いに離れていることが、他のピークの影響を受けないので好ましい。また、赤外領域の中でも、1200cm−1〜900cm−1の範囲から選択することも、各成分に特徴的なピークが多いので好ましい。
【0035】
本発明1の行程(3)は、各成分qを単独で濃度を変化させて溶解又は分散させたメークアップ液を用いて、波数kpの赤外吸収吸光度の2次微分値をそれぞれ測定し、各成分の濃度を横軸に、波数kpでの赤外吸収吸光度の2次微分値を縦軸に取ったときの傾きa(q,kp)及びb(kp)を求める行程である。ここで、b(kp)は、その切片として求まる。
【0036】
qがpである時の上記傾きa(p,kp)は、qがpでない時の傾きより、通常大きいが、ピークの重なりがあった場合の測定精度を高めるために、qがpでない時の検量線の傾きを考慮することが好ましい。
【0037】
本発明1の行程(4)は、下記連立方程式を、Cpについて解く行程である。
d2A(k1)
=a(1,k1)C1+a(2,k1)C1+・・+a(q,k1)C1・・+a(n,k1)C1+b(k1)
d2A(k2)
=a(1,k2)C2+a(2,k2)C2+・・+a(q,k2)C2・・+a(n,k2)C2+b(k2)
・・・・・・・・・・・・
d2A(kp)
=a(1,kp)Cp+a(2,kp)Cp+・・+a(q,kp)Cp・・+a(n,kp)Cp+b(kp)
・・・・・・・・・・・・
d2A(kn)
=a(1,kn)Cn+a(2,kn)Cn+・・+a(q,kn)Cn・・+a(n,kn)Cn+b(kn)
(各方程式中、d2A(kp)は、波数kpでの該食品の赤外吸収吸光度の2次微分値を表し、a(q,kp)は、行程(3)において、メークアップ液を用い、成分qの濃度を横軸に、波数kpでの赤外吸収吸光度の2次微分値を縦軸に取ったときの傾きを表し、b(kp)は、切片を表し、Cpは該食品中の成分pの濃度を表す。pとqは1からnの自然数の値をとり、nは2以上の自然数である。)
【0038】
上記連立方程式は、逆行列を用いて、常法に従って、Cpについて解くことができる。
【0039】
味覚情報を知りたい食品中の、成分pの濃度Cpが、それぞれ求まることによって、該食品の味覚情報が定量的に取得できたことになる。
【0040】
本発明1の味覚情報の取得方法が適用できる食品は特に限定はないが、嗜好食品であることが好ましい。本発明1の味覚情報の取得方法が特に有用な食品としては、コーヒー飲料、茶類、アイスクリーム類、ジュース類、乳飲料又はゼリー類等が挙げられる。
【0041】
中でも、本発明1の味覚情報の取得方法が特に好適に適用できる水中に2以上の成分が溶解又は分散している食品としては、コーヒー飲料が挙げられる。そして、成分コーヒーを代表する赤外吸収吸光度の2次微分値ピークを与える1つの波数k1として1122cm-1又は1033cm-1を、成分砂糖を代表する赤外吸収吸光度の2次微分値ピークを与える1つの波数k2として1139cm-1、1056cm-1、997cm-1又は927cm-1を、要すれば、成分ホワイトナーを代表する赤外吸収吸光度の2次微分値ピークを与える1つの波数k3として1024cm-1を、それぞれ選択することが特に好ましい。この波数をそれぞれ選択すると、定量性のある数値(C1 ,C2 )又は(C1 ,C2 ,C3 )が得られる。ここで、C1は、成分コーヒーのコーヒー飲料中の濃度、C2は、成分砂糖のコーヒー飲料中の濃度、C3は、成分ホワイトナーのコーヒー飲料中の濃度を示す。更に特に好ましくは、波数k1として1033cm-1を、k2として997cm-1を、要すれば、波数k3として1024cm-1を、それぞれ選択することである。
【0042】
a(q,kp)の値、行程(2)においてkpを選択する方法、具体的な食品について各成分を代表する波数(例えば、コーヒー飲料中の砂糖の997cm-1等)、各検量線等を予めデータベースにしておいて利用することが好ましい。また、かかるデータベースが格納された記録媒体を作成しておくことも好ましい。
【0043】
以下に、本発明2について述べる。本発明2は、味覚情報不要成分が溶解又は分散している食品について、下記行程(イ)ないし(ホ)を有する方法によって、該食品中の味覚情報不要成分の情報を除去して、味覚成分の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを得る食品の味覚情報の取得方法である。
(イ)味覚情報不要成分の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルのピークを与える波数の中から、赤外吸収吸光度の2次微分値に対する味覚情報不要成分の濃度依存性が大きい波数及び/又は味覚情報不要成分の化学構造を基に振動の帰属から、味覚情報不要成分の吸収であると予想される波数を選択する行程。
(ロ)上記選択された各波数について、水中における味覚情報不要成分の濃度を目的変数に、各濃度における赤外吸収吸光度の2次微分値を説明変数として重回帰式を得る行程。
(ハ)上記重回帰式に該食品の赤外吸収吸光度の2次微分値を代入して、該食品中の味覚情報不要成分の濃度を得る行程。
(ニ)上記該食品中の味覚情報不要成分の濃度における味覚情報不要成分の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを算出する行程。
(ホ)該食品の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルから、上記方法で算出された味覚情報不要成分の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトル及び水の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを差し引く行程。
【0044】
食品の中には、水以外にも味覚とは関係のない成分が含まれていることがある。また、味覚に関係する成分であっても多量に含有されているために、その成分の味覚情報を除かないと他の微量成分の情報が得にくいということもある。本発明2においては、このような成分も含めて「味覚情報不要成分」と略記する。従って、「味覚情報不要成分」は、味覚情報を取得することが不要な成分ということであって、味覚に影響を与えている場合もある。味覚情報から味覚情報不要成分の情報を除くとは、具体的には、味覚情報不要成分のスペクトルを食品自体のスペクトルから除くことであり、それには以下に述べる本発明2の方法を使用することが好ましい。
【0045】
本発明2の対象となる食品としては特に限定はないが、アルコール飲料、アイスクリーム類、茶類、ジュース類等が挙げられる。味覚情報不要成分の具体例としては例えば、食品がアルコール飲料の場合のエタノール、アイスクリーム類の場合の乳脂肪及び/又は乳タンパク質、ジュース類の場合の糖類等が挙げられる。
【0046】
本発明2の、全味覚情報から味覚情報不要成分の情報を除く方法は、食品のスペクトルから味覚情報不要成分のスペクトルをその含有量を把握して正確に差し引く方法であり、少なくとも、行程(イ)ないし(ホ)を有する。
【0047】
行程(イ)は、(イ)味覚情報不要成分の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルのピークを与える波数の中から、赤外吸収吸光度の2次微分値に対する味覚情報不要成分の濃度依存性が大きい波数及び/又は味覚情報不要成分の化学構造を基に振動の帰属から、味覚情報不要成分の吸収であると予想される波数を選択する行程である。
【0048】
味覚情報不要成分のスペクトルのピーク波数の中から、味覚情報不要成分の濃度依存性が大きい波数を選択する方法は、上記本発明1の行程(2)における方法(A)と同様の方法が好ましく用いられる。すなわち、味覚情報不要成分を単独で濃度を変化させて溶解又は分散させたメークアップ液の2次微分値を測定して作成した検量線において、2次微分値に対する味覚情報不要成分の濃度依存性が大きい波数の中から選択する方法が好ましい。選択される波数は1個以上であればよいが、2個以上であることが精度を上げるために好ましい。
【0049】
味覚情報不要成分の化学構造を基に、振動の帰属から、味覚情報不要成分の吸収であると予想される波数を複数個選択することも好ましい。両方法を組み合わせることも好ましく、更に上記本発明1の行程(2)における方法(B)を組み合わせることも好ましい。具体的には、例えば該食品がアルコール飲料であり、該味覚情報不要成分がエタノールの場合には、行程(イ)で選択される複数個の波数が、2981cm−1(OH伸縮に帰属)、1419cm−1(OH変角に帰属)及び/又は1085cm−1(C−C−O逆対称伸縮に帰属)であることが好ましい。
【0050】
メークアップ液の濃度は、その食品中の味覚情報不要成分の食品の銘柄等を変えた時の平均濃度の0.1倍〜10倍の範囲で変化させることが好ましく、0.3倍〜3倍の範囲が特に好ましい。波数は複数個選択するが、通常2個以上、好ましくは3個以上、通常10個以下、好ましくは5個以下選択する。
【0051】
行程(ロ)は、上記選択された各波数について、水中における味覚情報不要成分の濃度を目的変数に、各濃度における赤外吸収吸光度の2次微分値を説明変数として重回帰式を得る行程である。測定は上記メークアップ液で行われる。重回帰式の作成は常法に従って行われる。
【0052】
行程(ハ)は、上記重回帰式に該食品の赤外吸収吸光度の2次微分値を代入して、該食品中の味覚情報不要成分の濃度を得る行程である。
【0053】
行程(ニ)は、上記該食品中の味覚情報不要成分の濃度における味覚情報不要成分の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを算出する行程である。すなわち、行程(ハ)で求めた該食品中の実際の味覚情報不要成分の濃度におけるスペクトルを算出する行程である。かかるスペクトルは、上記濃度を変化させた複数のメークアップ液のスペクトルに、所定濃度を内挿させて得ることができる。
【0054】
行程(ホ)は、該食品の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルから、上記方法で算出された味覚情報不要成分の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトル及び水の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを差し引く行程である。
【0055】
行程(ニ)及び行程(ホ)において、わざわざ濃度依存性を考慮した味覚情報不要成分のスペクトルを算出し、それを食品のスペクトルから差し引くことによって初めて、該食品固有成分のスペクトルの取得、つまり味覚関連情報のみの抽出が可能になった。すなわち、単純に1つの濃度のスペクトルを定数倍して差し引いたのでは、該食品固有成分のスペクトル情報が正確には得られない。
【0056】
本発明2で用いられる、特定の食品固有の定数、パラメーター等はデータベースとしておくことが好ましい。かかる定数又はパラメーターとしては、味覚情報不要成分の選択された波数、味覚情報不要成分の濃度の計算法、味覚情報不要成分の各濃度におけるスペクトル等が挙げられる。
【0057】
以下、本発明1及び本発明2を含む「本発明の味覚情報の取得方法」は、それを自動装置に組み込んで、味覚情報を使用者に提供できるようにすることが好ましい。また、用途としては、品質管理に用いることができる。また、食品の銘柄識別にも用いることが可能である。更に、農産物等の産地識別等にもその用途が考えられる。また、味覚を失った人に対する味覚情報の提供も可能である。
【0058】
自動化、高速化、簡易化等には、上記本発明の各行程に使用される種々のパラメーターをデータベース化しておくことが好ましい。パラメーターは食品毎のものの場合もあるし、各化学成分毎のものの場合もある。また、上記方法のデータベースも有用である。更には、それらのデータベースが格納された記録媒体も好ましい。
【0059】
具体的には、本発明1では、a(q,kp)の値、行程(2)におけるkpを選択する方法、具体的な食品について各成分を代表する波数、検量線等が挙げられ、本発明2では、味覚情報不要成分の選択された波数、味覚情報不要成分の濃度の計算法、味覚情報不要成分の各濃度におけるスペクトル等が挙げられる。
【0060】
次に、図11に示した構成図、並びに、図12及び図13に示したフローチャートを用いて更に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下のフローチャート等に限定されるものではない。
【0061】
図11は、本発明の構成図を示す。試料は先ず赤外分光光度計(10)で、赤外スペクトルが測定される。測定される試料は食品自体の場合もあるし、食品中の成分pである場合もあるし、また味覚情報不要成分の場合もある。次いで、2次微分スペクトル出力装置(20)から、2次微分スペクトルが出力される。
【0062】
得られたデータは、味覚情報不要成分の有無、成分pの各濃度を知りたいか、味覚情報を得たいものの2次微分スペクトルを得たいか等に場合分けされて、演算装置(30)により演算を行う。その際、データ入力装置(40)から、既にデータベース化されているa(q,kp)の値、kpを選択する方法、各成分を代表する波数、検量線、味覚情報不要成分の選択された波数、濃度の計算法、各濃度におけるスペクトル等が入力される。
【0063】
そして、データ出力装置(50)から、各成分濃度Cp、2次微分スペクトル及び/又はその解析値が出力され、上記した目的、用途に供される。
【0064】
図12は本発明1に関するフローチャートの一例である。なお、各ステップの右側に記した(1)〜(4)は、本発明1の行程(1)〜行程(4)に該当する。先ず、味覚情報不要成分の有無を判断する(ステップ101)。味覚情報不要成分がある場合には、味覚情報不要成分の情報を除去する本発明2のフローチャート(ステップ200、図13)を経ることになる。これについては図13の説明で後述する。
【0065】
次いで、赤外分光光度計(10)でIRスペクトルが測定され(ステップ102)、2次微分スペクトル出力装置(20)から、2次微分スペクトルが出力される(ステップ103)。ステップ102とステップ103は、本発明1の行程(1)に該当する。2次微分スペクトルは、スペクトル解析をする場合には、そのまま味覚情報の2次微分スペクトルの解析(ステップ310)に使用され、味覚情報定量値が出力される(ステップ311)。
【0066】
一方、各成分Cpの定量データが欲しい場合には、成分pを選択する(ステップ104)。どのような成分pを選択するかを予めデータベース化しておいて、そのデータを用いることもできる(ステップ114)。kp、a(q,kp)及びb(kp)のデータの有無を判断し(ステップ105)、それらがない場合には、成分pのIRスペクトルを測定し(ステップ106)、2次微分スペクトルを出力する(ステップ107)。
【0067】
次いで、好ましくは上記した方法(A)、(B)及び/又は(C)により、kpを選択する(ステップ108)。その際、予め、方法(A)、(B)及び/又は(C)等の選択方法をデータベース化しておいて、それを用いることもできる(ステップ109)。ステップ108は、本発明1の行程(2)に該当する。そして、選択されたkpにおける2次微分値d2A(kp)をステップ103で得られた2次微分スペクトルから読み取る(ステップ110)。
【0068】
一方、上記した行程(3)により、a(q,kp)及びb(kp)を求め(ステップ111)、2次微分値d2A(kp)と共に連立方程式を作り(ステップ112)、Cpについてそれを解き(ステップ113、本発明1の行程(4)に該当)、データ出力装置(50)からCpを出力する(ステップ114)。
【0069】
次に、本発明2のフローチャートの一例として図13を説明する。なお、各ステップの右側に記した(イ)ないし(ホ)は、本発明2の行程(イ)ないし行程(ホ)に該当している。また、図13において、「Q」は、味覚情報不要成分を示す。味覚情報不要成分が溶解又は分散している食品については、味覚情報不要成分の情報除去行程(ステップ200)により、それを除くことが好ましい。
【0070】
ステップ201で、味覚情報不要成分の2次微分スペクトルのピークを与える波数の中から、味覚情報不要成分の吸収波数を、好ましくは2個以上選択する。次いで、味覚情報不要成分の濃度を目的変数に、各濃度における2次微分値を説明変数として重回帰式を作る(ステップ202)。この時、味覚情報不要成分の吸収波数がデータベースとして既に存在する場合には、それらを入力し(ステップ203)、味覚情報不要成分の濃度算出方法等が予め分かっている場合には、それを入力する(ステップ204)。
【0071】
次いで、重回帰式に該食品の赤外吸収吸光度の2次微分値を代入して、該食品中の味覚情報不要成分の濃度を得(ステップ205)、食品中の味覚情報不要成分の濃度における味覚情報不要成分の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを算出する(ステップ206)。ただし、これが予め存在する場合には、省略することもできる。例えば、アルコール飲料中のエタノール等の代表的味覚情報不要成分については、その各濃度における2次微分スペクトル等はデータベース化しておくことが好ましい(ステップ208)。
【0072】
ステップ207で、食品の2次微分スペクトルから、上記方法で算出された味覚情報不要成分の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトル及び要すれば水の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを差し引く。予め各濃度の2次微分スペクトルが存在する場合には、それらを用いる(ステップ208)。
【0073】
得られた味覚成分の2次微分スペクトルは、各成分濃度Cpが欲しい場合には図12におけるステップ102に行き、スペクトル解析をする場合には、ステップ310に行き、以下は、図12に示したフローチャートに従って味覚情報が得られる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を、実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これらに限定されるものではない。
【0075】
実 施 例 1
<本発明1について、例:コーヒー飲料>
コーヒー飲料として、市販のインスタントコーヒー2g、砂糖3g及び市販のホワイトナー3gに湯を加えて全量150mLとしたものを用いた。赤外分光スペクトル測定には、ATRアクセサリ(GRASEBY SPECAC,SPECACLAMP ATR 11080,6回反射)を付属したFT-IR(Nicolet,Magna-IR
750)を使用した。
【0076】
図1に、インスタントコーヒー、砂糖及びホワイトナーの各水溶液のそれぞれ上記濃度における2次微分スペクトルを示す。砂糖では1139,1056,997,927 cm-1付近に、ホワイトナーでは1152,1110,1079,1024 cm-1付近に顕著な吸収が認められた。また、インスタントコーヒーでは1152,1122,1079,1033
cm-1付近に吸収が認められた。
【0077】
下記のメークアップ液を調製した。(1a)〜(3a)は、単独成分からなるメークアップ液である。(1b)〜(3b)は、3成分からなるメークアップ液であり、固定した濃度のインスタントコーヒー2g/150mL、砂糖3g/150mL及びホワイトナー3g/150mLは、コーヒー飲料中の予想含有量である。
【0078】
メークアップ液(1a):
インスタントコーヒーの濃度を変化させたインスタントコーヒーのみの液
メークアップ液(2a):
砂糖の濃度を変化させた砂糖のみの液
メークアップ液(3a):
ホワイトナーの濃度を変化させたホワイトナーのみの液
メークアップ液(1b):
砂糖3g/150mL及び市販のホワイトナー3g/150mLに、インスタントコ ーヒーの濃度を変化させて加えた液
メークアップ液(2b):
ホワイトナー3g/150mL及びインスタントコーヒー2g/150mLに、砂糖 の濃度を変化させて加えた液
メークアップ液(3b):
インスタントコーヒー2g/150mL及び砂糖3g/150mLに、ホワイトナー の濃度を変化させて加えた液
【0079】
図2に、上記代表的な波数について、横軸にインスタントコーヒーの濃度、縦軸にインスタントコーヒーのみのメークアップ液(1a)の2次微分値をとった検量線を示す。ここで、図2の代表的な波数には、インスタントコーヒー以外の成分に帰属されるものも含まれる。図2より、最も傾きの絶対値が大きく相関係数が高い順に、1079cm-1と1033cm-1を選択した。同様の検量線を、砂糖(メークアップ液(2a))及びホワイトナー(メークアップ液(3a))についても測定し、傾きの絶対値が大きく、相関係数が高い波数の候補を選択した。
【0080】
6種のメークアップ液(1a)ないし(2c)を用いて、それぞれ上記10個の波数について、検量線を作成し、傾きを測定した。このうち、各波数毎について、メークアップ液(1a)での検量線の傾きを縦軸に、メークアップ液(2a)での検量線の傾きを縦軸にプロットしたものを図3に示す。砂糖に帰属される1139cm-1並びに、インスタントコーヒーとホワイトナーに帰属される1079cm-1に差異が認められた。インスタントコーヒーは、他の2成分と比べてピークが小さく、砂糖やホワイトナーの強い吸収の影響を受けているためと考えられる。この波数はインスタントコーヒーを代表する波数として選択しないことにした。従って、インスタントコーヒーを代表する波数として1033cm-1を選択した。
【0081】
なお、各成分のスペクトルを成分比に基づいて合成したスペクトルと、実測した混合溶液スペクトルとの比較を行ったところ、スペクトルに加成性が成立し、優れた定量分析の可能性が示された(図4)。なお、図4の「ミルク」とはホワイトナーと同義である。
【0082】
次いで、インスタントコーヒー以外でも、「各成分を代表する1つの波数kp」として、他成分の影響を強く受ける波数(図3)は除き、検量線の傾きの絶対値が大きい波数(図2)を同様にして選択した。具体的には、インスタントコーヒーは1033 cm-1、砂糖は997 cm-1及びホワイトナーは1024 cm-1を選択した。そして、これら3波数における3成分の検量線の傾きを用い、下記の連立方程式を(Ccoffee ,Csugar ,Cwhite)について解くことにより、コーヒー飲料中の各成分の定量を行った。
【0083】
【数1】
【0084】
式中、d2A1033等は、コーヒー飲料(3種の混合物)の1033cm-1での2次微分値であり、asugar,997等は、メークアップ液(2a)(2b)(2c)で得られた検量線の傾きを表し、Ccoffee等は、求めようとする各成分の濃度を表し、b1024等は、検量線の切片を表す。
【0085】
上記連立方程式の解は、下記の行列の演算で求められる。
【数2】
【0086】
図5に計算値と実測値の比較の一例を示す。図5については、図中にプロットした実測値が含有量となるよう各成分を配合してコーヒー飲料としたものである。縦軸と横軸の単位は、「g/150mL」である。コーヒー飲料一杯が約150mLであるので、そのような単位とした。上記3波数を用いた場合に最も良好な定量結果が得られ(r=0.999)、この方法が有効であることが分かった。なお、以上の結果から、コーヒー飲料におけるインスタントコーヒー、砂糖、ホワイトナーの高精度での3成分同時定量を行うことが可能であることが分り、この方法は優れた味覚情報取得方法であることが判った。
【0087】
実 施 例 2
<本発明2について、例:アルコール飲料としてワイン>
測定装置等は実施例1と同様に赤外吸収吸光度スペクトル及び赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを測定した。アルコール飲料測定時には、測定セルに筒状アクセサリを装着し、蒸発するエタノールの影響を除いた。
【0088】
図6にワイン、日本酒、焼酎、水及びエタノール水溶液の吸光度スペクトルを示す。アルコール飲料とエタノール水溶液のスペクトルパターンを比較すると、3100〜2800 cm-1及び1500〜900 cm-1においてほぼ一致した。このことから、主成分であるエタノールがスペクトルに与える影響は非常に大きく、いずれの種類のアルコール飲料においても、吸光度スペクトルからは銘柄の識別が困難であると考えられた。銘柄の識別には、エタノール以外の成分のスペクトルによる比較が必要であることから、吸光度スペクトルに2次微分処理を施した。そして、以下に示す方法により、アルコール飲料のスペクトルとエタノール及び水のスペクトルとの差を求めた。
【0089】
ワインを例としてその方法を示す。まず、アルコール飲料のスペクトルからエタノールの定量を行った。濃度の異なる5種類のエタノール水溶液スペクトルの2次微分値を説明変数、エタノール濃度を目的変数として重回帰分析を行った。その結果、r=0.999が得られた。その際、振動の帰属及び濃度と2次微分値の相関から3波数、1981,1419及び1085 cm-1を選択した。
【0090】
エタノール水溶液において良好な結果が得られたことから、重回帰式にワインの2次微分値を代入し、ワイン中のエタノールの定量を行った。なお、その濃度はHPLC値とほぼ一致した(r=0.935)。
【0091】
次に、5種類のエタノール水溶液スペクトルから、Factorを乗じたそれぞれの水のスペクトルを差し引くことにより、水溶液中の各濃度のエタノールスペクトルを得た。それらのスペクトルの各波数における2次微分値と濃度との単回帰式に、上記の方法で求めたワイン中のエタノール濃度を代入することにより、その濃度におけるエタノールスペクトルを算出した(図7)。
【0092】
そして、ワインのスペクトルから、計算で求めたエタノール及び水のスペクトルを差し引くことにより、ワイン中のエタノール及び水以外の成分のスペクトルを抽出した。得られたスペクトルを図8に示す。なお、これは、エタノールと水との各成分の相互作用を含んだスペクトルである。1259,1240,1210,1160,1125及び967 cm-1付近にエタノール以外の成分の吸収が認められ、銘柄によるスペクトルの違いを明確に確認できた。以上より、本発明2を用いたアルコール飲料の識別の可能性があることが示され、優れた味覚情報取得方法であることが判った。
【0093】
実 施 例 3
<本発明2について、例:茶類として紅茶>
アルコール飲料に代えて、紅茶を測定した以外は、実施例2と同様にして、水を差し引いて、2次微分スペクトルを得た。結果を図9に示す。1250cm−1、1151cm−1、1080cm−1及び1025cm−1付近に各成分の吸収が認められ、紅茶の種類によるスペクトルの違いを明確に確認できた。以上より、本発明2を用いた茶類の識別の可能性があることが示され、優れた味覚情報取得方法であることが判った。
【0094】
実 施 例 4
<本発明について、例:アイスクリーム類>
アルコール飲料に代えて、アイスクリーム類を測定した以外は、実施例2と同様にして、2次微分スペクトルを得た。結果を図10に示す。1152cm−1、1025cm−1、1141cm−1、1052cm−1及び993cm−1付近に成分の吸収が認められ、ラクトアイスとアイスミルクのスペクトルの違いを明確に確認できた。以上より、本発明を用いたアイスクリーム類の識別の可能性があることが示され、優れた味覚情報取得方法であることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の食品の味覚情報の取得方法を用いることにより、食品特に嗜好食品中の味覚関連情報の抽出、さらには製品の識別や高精度の定量の可能性が可能である。すなわち、化学成分を客観的に評価することができ、複数成分の同時計測、定性及び定量が正確にできるので、製品管理等に用いられることはもちろん、消費者が口にする前にその食品の味を知ることができたり、好みの味かどうかを知って消費者が食品を選択したり、経時による味の変化の有無を確認したりすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】コーヒー飲料の各成分の2次微分スペクトルである。
【図2】インスタントコーヒーの濃度を変化させた時の2次微分値の変化(検量線)を、複数の波数で測定したグラフである。
【図3】インスタントコーヒーの検量線の傾きの、他の成分が混合されていない場合(縦軸)と混合されている場合(横軸)の比較を示す図である。
【図4】コーヒー飲料の合成スペクトルと実測スペクトルの比較を示す図である。
【図5】コーヒー飲料中の各成分の実測値と計算値との比較を示す図である。縦軸、横軸とも、単位は[g/150mL]である。
【図6】アルコール飲料、水及びエタノール水溶液の吸光度スペクトルである。
【図7】計算によるエタノールの2次微分スペクトルである。
【図8】ワインと「エタノール及び水」との差の2次微分スペクトルである。
【図9】3種の紅茶と水との差の2次微分スペクトルである。
【図10】アイスクリーム類の2次微分スペクトルである。
【図11】本発明の装置の構成図(ブロック図)である。
【図12】本発明1の一例を示すフローチャートである。
【図13】図12中の味覚情報不要成分の情報除去行程の部分を示すフローチャートであり、本発明2の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0097】
10・・・・赤外分光光度計
20・・・・2次微分スペクトル出力装置
30・・・・演算装置
40・・・・データ入力装置
50・・・・データ出力装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の味覚情報の取得方法に関し、更に詳細には、食品の赤外吸収吸光度の2次微分値を計測することによって、食品中の複数成分の情報を同時計測する食品の味覚情報の取得方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
嗜好食品では、ニーズに合わせた味覚を得ることが重要である。味覚に影響を与える要因として食品中の化学成分があり、化学成分を客観的に評価することが、食品の味覚評価につながる。そこで、複数成分の同時計測、定性及び定量ができ、成分の相互作用まで把握できる分析手法が望まれている。
【0003】
このような分析手法が確立し、分析専門家が長時間かけて成分分析をするまでもなく、瞬時に食品の味が判明したならば、その手法は製品管理等に用いられることはもちろん、消費者が口にする前にその食品の味を知ることができるので、好みの味かどうかを知って消費者が食品を選択したり、経時による味の変化の有無を確認したりすることが可能になる。
【0004】
従来、混合物中の各成分の分析には、化学分析やクロマトグラフィーが知られている。しかし、これらをたとえ装置に組み込んだとしても、専門知識のない一般消費者等が操作することが実質上は不可能であり、メンテナンスも専門家以外はできにくいという問題点があった。
【0005】
また、特許文献1及び特許文献2には、近赤外分光分析法によって、食品中の各成分の情報を得る方法が記載されている。しかしながら、近赤外分光分析法では光ファイバーが使用できるという長所はあるものの、赤外分光法で得られる吸収の倍音や結合音が複雑に重なり合い、また、赤外領域における吸収に比べ極めて小さいため、各成分毎の情報を同時に得ることができにくいという問題点があった。
【0006】
一方、一般的に、赤外分光分析法によって混合物中の各成分の情報を得ることができることは知られている。しかしながら、一般に食品中の味を決める成分の含有量は極めて少量であり、味を決める成分同士が相互作用する場合もあり、定量分析が難しく、更にはアルコール飲料中のエタノール等のように、味覚情報不要成分が多量に入っている場合が多く、その情報を除かなくてはならない必要性等のため、赤外分光分析法によって食品中の微量な味覚成分の情報を正確に十分に得る方法は知られていなかった。
【0007】
従って、食品中の味覚成分の同時計測ができ、必要ならば味覚情報不要成分の情報を除くことができ、味覚成分のみの定性的、定量的情報を簡単に、正確に取得する方法が望まれていた。
【0008】
【特許文献1】特開平7−198601号公報
【特許文献2】特開2002−122538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者は、かかる背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、食品中の味覚成分の全成分同時計測ができ、要すれば味覚情報不要成分の情報を除いて、味覚成分のみの定性的、定量的情報を、簡単に正確に取得する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討したところ、食品の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを用いることによって、上記課題を解決できることを見出し本発明に到達した。
【0011】
すなわち本発明は、食品中の複数成分の情報を同時計測することによって、食品の味覚情報を得る方法であって、該食品の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを用いることを特徴とする食品の味覚情報の取得方法を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、上記味覚情報の取得方法で必要な、食品中の各成分の情報が格納された味覚情報取得用データベースを提供するものである。
【0013】
また、本発明は、上記食品の味覚情報の取得方法を使用した製品管理方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、上記食品の味覚情報の取得方法を使用した食品の銘柄識別方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、上記食品の味覚情報の取得方法を使用して取得した食品の味覚情報を提供する装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、食品中の味覚成分の同時計測ができ、要すれば味覚情報不要成分の情報を除いて、味覚成分のみの定性的、定量的情報を、簡単に正確に取得する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、食品の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトル(以下、赤外吸収吸光度の2次微分値を単に、「2次微分値」と略記することがあり、そのスペクトルを単に「スペクトル」と略記することがある)を用いることによって、その食品の味覚情報を得る方法である。
【0018】
赤外領域とは、通常4000cm−1から800cm−1の範囲をいう。この範囲の吸光度を測定し、種々の振動の帰属を行うことによって、食品中の各成分の化学構造を反映した情報を得ることができる。この領域の吸光度ピークは一般に多く、吸光度も大きいが、食品中の味覚成分は一般に微量であることが多く、ベースラインを適切に補償(compensate)してやることができれば、優れた分析手段になり得る。
【0019】
2次微分値とは、横軸が波数(cm−1)で、縦軸が赤外領域の吸光度のスペクトルにおいて、吸光度を波数で2回微分することによって得られるものであり、吸光度のピーク(極大値)を与える波数において、鋭い極小値を与える。2回微分値を用いることによって、ベースラインの影響をなくすことができ、微量のピークが検出しやすくなる。
【0020】
本発明の測定対象は食品である。本発明の味覚情報の取得方法の対象となる食品には特に限定はないが、嗜好食品が本発明の上記効果を奏しやすいので好ましい。具体的には例えば、コーヒー飲料;日本酒、焼酎、赤ワイン、白ワイン等のアルコール飲料;緑茶、紅茶、ウーロン茶、麦茶、ほうじ茶等の茶類;アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス等のアイスクリーム類;ジュース類;プリン;ゼリー類;乳飲料等が挙げられる。
【0021】
本発明の味覚情報の取得方法は、本発明1と本発明2を含むものである。すなわち、本発明1は、成分組成が定性的には既知の食品のスペクトルを測定し、各成分の含有量を求める方法であり、本発明2は、アルコール飲料中のエタノールや、アイスクリーム類中の乳脂肪分のように味覚情報不要成分が大量に溶解又は分散している食品について、その情報を除去したスペクトルを得る方法である。本発明1と本発明2は単独で使用してもよいし、組み合わせて使用してもよい。
【0022】
以下、先ず本発明1について述べる。すなわち本発明1は、水中に2以上の成分が溶解又は分散している食品について、行程(1)ないし行程(4)を有する方法によって、該食品中の成分pの濃度Cpを求める食品の味覚情報の取得方法である。
(1)該食品及び該食品中の各成分毎の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを得る行程
(2)赤外吸収吸光度の2次微分値ピークを与える波数の中から、成分pを代表する1つの波数kpをそれぞれ選択する行程
(3)各成分qを単独で濃度を変化させて溶解又は分散させたメークアップ液を用いて、波数kpの赤外吸収吸光度の2次微分値をそれぞれ測定し、各成分qの濃度を横軸に、波数kpでの赤外吸収吸光度の2次微分値を縦軸に取ったときの傾きa(q,kp)を求める行程
(4)下記連立方程式を、Cpについて解く行程
【0023】
d2A(k1)
=a(1,k1)C1+a(2,k1)C1+・・+a(q,k1)C1・・+a(n,k1)C1+b(k1)
d2A(k2)
=a(1,k2)C2+a(2,k2)C2+・・+a(q,k2)C2・・+a(n,k2)C2+b(k2)
・・・・・・・・・・・・
d2A(kp)
=a(1,kp)Cp+a(2,kp)Cp+・・+a(q,kp)Cp・・+a(n,kp)Cp+b(kp)
・・・・・・・・・・・・
d2A(kn)
=a(1,kn)Cn+a(2,kn)Cn+・・+a(q,kn)Cn・・+a(n,kn)Cn+b(kn)
(各方程式中、d2A(kp)は、波数kpでの該食品の赤外吸収吸光度の2次微分値を表し、a(q,kp)は、行程(3)において、メークアップ液を用い、成分qの濃度を横軸に、波数kpでの赤外吸収吸光度の2次微分値を縦軸に取ったときの傾きを表し、b(kp)は、切片を表し、Cpは、該食品中の成分pの濃度を表す。pとqは1からnの自然数の値をとり、nは2以上の自然数である。)
【0024】
本発明1の行程(1)は、食品又は食品中の各成分毎の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを得る行程である。スペクトル測定装置としては特に限定はなく市販のものが使用できる。縦軸が赤外吸収の吸光度であり、2次微分は波数で吸光度を2回微分するので、横軸に波数が線形に目盛られるものが好ましい。フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)が好適に用いられ得る。複数の成分が含有されている食品自体のスペクトルを測定する場合でも、該食品中の各成分が判明しているときや特定の成分に着目するときに成分毎のスペクトルを測定する場合でも、測定方法は同様である。
【0025】
本発明1の行程(2)は、赤外吸収吸光度の2次微分値ピークを与える波数の中から、成分pを代表する1つの波数kpをそれぞれ選択する行程である。波数kpは、以下の方法(A)、(B)及び/又は(C)を使用して選択することが好ましい。
【0026】
すなわち方法(A)は、該食品の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルの略全てのピークを与える波数について、成分pを単独で濃度を変化させて溶解又は分散させたメークアップ液の赤外吸収吸光度の2次微分値を測定して作成した検量線において、赤外吸収吸光度の2次微分値に対し成分pの濃度依存性が大きい波数の中から選択する方法である。
【0027】
以下に具体的に説明する。濃度を数段階に変化させた成分pの水溶液又は水分散液(これを本発明においては単に、「(成分pの)メークアップ液」と略記する)を調製する。そして、横軸に成分pの濃度をとり、縦軸に該食品のスペクトルのピークを与える1つの波数における2次微分値をとり、各波数毎に、測定点をプロットする(以下、「検量線」と略記する)。すなわち、各波数毎に検量線を作成する。なお、検量線は原点を通るように引いてもよいし、原点に関係なく引いてもよいが、好ましくは、原点を通るように引いた方がよい。ここで、上記の「数段階」とは、原点を除き、2〜9段階が好ましく、5〜7段階が特に好ましい。段階数が少なすぎると誤差が大きくなり、多すぎると測定時間がかかりすぎる場合がある。
【0028】
スペクトルのピーク(極小値)は、成分pに帰属されるものと、成分p以外の成分に帰属されるものがあるが、上記操作はスペクトルの略全てのピークを与える波数について行う。そして、そのうちから、傾きの絶対値が大きい検量線を与える波数の中から、成分pを代表する波数kpを選択する。成分pに帰属されるピークを与える波数において、必然的に検量線の傾きの絶対値が大きくなる傾向があるが、機械的に一律に、略全てのピークを与える波数について上記操作を行うことも、測定装置の自動化をする上では好ましい。また、食品のスペクトルのピークを与える波数のうち、傾きの絶対値が最も大きい検量線を与える波数を、成分pを代表する波数kpとして選択することが特に好ましい。
【0029】
方法(B)により、成分pを代表する波数kpを選択することも好ましい。すなわち、方法(B)は、(B)該食品の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルの略全てのピークを与える波数について、成分p以外の成分の該食品中の予想含有量を一定に保ってそれぞれ溶解又は分散させ、そこに更に、成分pを濃度を変化させて溶解又は分散させたメークアップ液の赤外吸収吸光度の2次微分値を測定して作成した検量線における傾きと、方法(A)で作成した検量線の傾きが略等しい値を示す波数の中から選択する方法である。
【0030】
すなわち、先ず、下記(i)及び(ii)の2種のメークアップ液を調製する。
(i)成分pの濃度を数段階に変化させて水中に溶解又は分散させたメークアップ液(p以外の成分を含まないメークアップ液、すなわち、上記方法(A)で使用したものと同様のメークアップ液)
(ii)成分p以外の成分を一定量それぞれ溶解又は分散させ(一定量は、その食品中の含有予想量とする)、そこに成分pの濃度を数段階に変化させて水中に溶解又は分散させたメークアップ液
【0031】
そして、方法(B)は、(i)と(ii)の両検量線の傾きが略等しい波数の中から、成分pを代表する波数kpを選択する方法である。通常、成分p以外の成分が、成分pの2次微分値又はピークを与える波数に影響を及ぼさなければ、上記2つの検量線の傾きは一致するはずである。従って、上記2つの検量線の傾きが略等しい波数の中から選択すれば、成分p以外の成分の影響をあまり受けていない成分pのピークを与える波数kpを選択することができる。そのような波数kpを選択できれば、他の成分の影響を受けずに成分pだけが定量できるので好ましい。上記2つのメークアップ液の検量線の傾きの定量的比較は、常法に従って装置内で自動化することも好ましい。
【0032】
方法(C)により、成分pを代表する波数kpを選択することも好ましい。すなわち、方法(C)は、成分pの化学構造を基に、振動の帰属から、成分pの吸収であると予想される波数の中から選択する方法である。予め成分pに特有のピークの波数が分かっている場合は、その波数の中から選択することが好ましい。
【0033】
方法(A)(B)(C)は単独で使用してもよいし、組み合わせて使用してもよい。方法(C)で波数を絞り込み、方法(A)で、2次微分値に対し成分pの濃度依存性が大きい波数を数個選び、そこから(i)と(ii)の両検量線の傾きが大きく異なる波数を除く(方法(B))ことにより波数kpを1つ選択する方法が特に好ましい。また、客観的に方法(A)だけ使用して、最も濃度依存性が大きい波数、すなわち検量線の傾きの絶対値が最も大きい波数を、波数kpとして1つ選択する方法も自動化のためには特に好ましい。
【0034】
成分を代表する波数は、好ましくは5cm−1以上、特に好ましくは10cm−1互いに離れていることが、他のピークの影響を受けないので好ましい。また、赤外領域の中でも、1200cm−1〜900cm−1の範囲から選択することも、各成分に特徴的なピークが多いので好ましい。
【0035】
本発明1の行程(3)は、各成分qを単独で濃度を変化させて溶解又は分散させたメークアップ液を用いて、波数kpの赤外吸収吸光度の2次微分値をそれぞれ測定し、各成分の濃度を横軸に、波数kpでの赤外吸収吸光度の2次微分値を縦軸に取ったときの傾きa(q,kp)及びb(kp)を求める行程である。ここで、b(kp)は、その切片として求まる。
【0036】
qがpである時の上記傾きa(p,kp)は、qがpでない時の傾きより、通常大きいが、ピークの重なりがあった場合の測定精度を高めるために、qがpでない時の検量線の傾きを考慮することが好ましい。
【0037】
本発明1の行程(4)は、下記連立方程式を、Cpについて解く行程である。
d2A(k1)
=a(1,k1)C1+a(2,k1)C1+・・+a(q,k1)C1・・+a(n,k1)C1+b(k1)
d2A(k2)
=a(1,k2)C2+a(2,k2)C2+・・+a(q,k2)C2・・+a(n,k2)C2+b(k2)
・・・・・・・・・・・・
d2A(kp)
=a(1,kp)Cp+a(2,kp)Cp+・・+a(q,kp)Cp・・+a(n,kp)Cp+b(kp)
・・・・・・・・・・・・
d2A(kn)
=a(1,kn)Cn+a(2,kn)Cn+・・+a(q,kn)Cn・・+a(n,kn)Cn+b(kn)
(各方程式中、d2A(kp)は、波数kpでの該食品の赤外吸収吸光度の2次微分値を表し、a(q,kp)は、行程(3)において、メークアップ液を用い、成分qの濃度を横軸に、波数kpでの赤外吸収吸光度の2次微分値を縦軸に取ったときの傾きを表し、b(kp)は、切片を表し、Cpは該食品中の成分pの濃度を表す。pとqは1からnの自然数の値をとり、nは2以上の自然数である。)
【0038】
上記連立方程式は、逆行列を用いて、常法に従って、Cpについて解くことができる。
【0039】
味覚情報を知りたい食品中の、成分pの濃度Cpが、それぞれ求まることによって、該食品の味覚情報が定量的に取得できたことになる。
【0040】
本発明1の味覚情報の取得方法が適用できる食品は特に限定はないが、嗜好食品であることが好ましい。本発明1の味覚情報の取得方法が特に有用な食品としては、コーヒー飲料、茶類、アイスクリーム類、ジュース類、乳飲料又はゼリー類等が挙げられる。
【0041】
中でも、本発明1の味覚情報の取得方法が特に好適に適用できる水中に2以上の成分が溶解又は分散している食品としては、コーヒー飲料が挙げられる。そして、成分コーヒーを代表する赤外吸収吸光度の2次微分値ピークを与える1つの波数k1として1122cm-1又は1033cm-1を、成分砂糖を代表する赤外吸収吸光度の2次微分値ピークを与える1つの波数k2として1139cm-1、1056cm-1、997cm-1又は927cm-1を、要すれば、成分ホワイトナーを代表する赤外吸収吸光度の2次微分値ピークを与える1つの波数k3として1024cm-1を、それぞれ選択することが特に好ましい。この波数をそれぞれ選択すると、定量性のある数値(C1 ,C2 )又は(C1 ,C2 ,C3 )が得られる。ここで、C1は、成分コーヒーのコーヒー飲料中の濃度、C2は、成分砂糖のコーヒー飲料中の濃度、C3は、成分ホワイトナーのコーヒー飲料中の濃度を示す。更に特に好ましくは、波数k1として1033cm-1を、k2として997cm-1を、要すれば、波数k3として1024cm-1を、それぞれ選択することである。
【0042】
a(q,kp)の値、行程(2)においてkpを選択する方法、具体的な食品について各成分を代表する波数(例えば、コーヒー飲料中の砂糖の997cm-1等)、各検量線等を予めデータベースにしておいて利用することが好ましい。また、かかるデータベースが格納された記録媒体を作成しておくことも好ましい。
【0043】
以下に、本発明2について述べる。本発明2は、味覚情報不要成分が溶解又は分散している食品について、下記行程(イ)ないし(ホ)を有する方法によって、該食品中の味覚情報不要成分の情報を除去して、味覚成分の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを得る食品の味覚情報の取得方法である。
(イ)味覚情報不要成分の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルのピークを与える波数の中から、赤外吸収吸光度の2次微分値に対する味覚情報不要成分の濃度依存性が大きい波数及び/又は味覚情報不要成分の化学構造を基に振動の帰属から、味覚情報不要成分の吸収であると予想される波数を選択する行程。
(ロ)上記選択された各波数について、水中における味覚情報不要成分の濃度を目的変数に、各濃度における赤外吸収吸光度の2次微分値を説明変数として重回帰式を得る行程。
(ハ)上記重回帰式に該食品の赤外吸収吸光度の2次微分値を代入して、該食品中の味覚情報不要成分の濃度を得る行程。
(ニ)上記該食品中の味覚情報不要成分の濃度における味覚情報不要成分の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを算出する行程。
(ホ)該食品の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルから、上記方法で算出された味覚情報不要成分の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトル及び水の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを差し引く行程。
【0044】
食品の中には、水以外にも味覚とは関係のない成分が含まれていることがある。また、味覚に関係する成分であっても多量に含有されているために、その成分の味覚情報を除かないと他の微量成分の情報が得にくいということもある。本発明2においては、このような成分も含めて「味覚情報不要成分」と略記する。従って、「味覚情報不要成分」は、味覚情報を取得することが不要な成分ということであって、味覚に影響を与えている場合もある。味覚情報から味覚情報不要成分の情報を除くとは、具体的には、味覚情報不要成分のスペクトルを食品自体のスペクトルから除くことであり、それには以下に述べる本発明2の方法を使用することが好ましい。
【0045】
本発明2の対象となる食品としては特に限定はないが、アルコール飲料、アイスクリーム類、茶類、ジュース類等が挙げられる。味覚情報不要成分の具体例としては例えば、食品がアルコール飲料の場合のエタノール、アイスクリーム類の場合の乳脂肪及び/又は乳タンパク質、ジュース類の場合の糖類等が挙げられる。
【0046】
本発明2の、全味覚情報から味覚情報不要成分の情報を除く方法は、食品のスペクトルから味覚情報不要成分のスペクトルをその含有量を把握して正確に差し引く方法であり、少なくとも、行程(イ)ないし(ホ)を有する。
【0047】
行程(イ)は、(イ)味覚情報不要成分の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルのピークを与える波数の中から、赤外吸収吸光度の2次微分値に対する味覚情報不要成分の濃度依存性が大きい波数及び/又は味覚情報不要成分の化学構造を基に振動の帰属から、味覚情報不要成分の吸収であると予想される波数を選択する行程である。
【0048】
味覚情報不要成分のスペクトルのピーク波数の中から、味覚情報不要成分の濃度依存性が大きい波数を選択する方法は、上記本発明1の行程(2)における方法(A)と同様の方法が好ましく用いられる。すなわち、味覚情報不要成分を単独で濃度を変化させて溶解又は分散させたメークアップ液の2次微分値を測定して作成した検量線において、2次微分値に対する味覚情報不要成分の濃度依存性が大きい波数の中から選択する方法が好ましい。選択される波数は1個以上であればよいが、2個以上であることが精度を上げるために好ましい。
【0049】
味覚情報不要成分の化学構造を基に、振動の帰属から、味覚情報不要成分の吸収であると予想される波数を複数個選択することも好ましい。両方法を組み合わせることも好ましく、更に上記本発明1の行程(2)における方法(B)を組み合わせることも好ましい。具体的には、例えば該食品がアルコール飲料であり、該味覚情報不要成分がエタノールの場合には、行程(イ)で選択される複数個の波数が、2981cm−1(OH伸縮に帰属)、1419cm−1(OH変角に帰属)及び/又は1085cm−1(C−C−O逆対称伸縮に帰属)であることが好ましい。
【0050】
メークアップ液の濃度は、その食品中の味覚情報不要成分の食品の銘柄等を変えた時の平均濃度の0.1倍〜10倍の範囲で変化させることが好ましく、0.3倍〜3倍の範囲が特に好ましい。波数は複数個選択するが、通常2個以上、好ましくは3個以上、通常10個以下、好ましくは5個以下選択する。
【0051】
行程(ロ)は、上記選択された各波数について、水中における味覚情報不要成分の濃度を目的変数に、各濃度における赤外吸収吸光度の2次微分値を説明変数として重回帰式を得る行程である。測定は上記メークアップ液で行われる。重回帰式の作成は常法に従って行われる。
【0052】
行程(ハ)は、上記重回帰式に該食品の赤外吸収吸光度の2次微分値を代入して、該食品中の味覚情報不要成分の濃度を得る行程である。
【0053】
行程(ニ)は、上記該食品中の味覚情報不要成分の濃度における味覚情報不要成分の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを算出する行程である。すなわち、行程(ハ)で求めた該食品中の実際の味覚情報不要成分の濃度におけるスペクトルを算出する行程である。かかるスペクトルは、上記濃度を変化させた複数のメークアップ液のスペクトルに、所定濃度を内挿させて得ることができる。
【0054】
行程(ホ)は、該食品の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルから、上記方法で算出された味覚情報不要成分の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトル及び水の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを差し引く行程である。
【0055】
行程(ニ)及び行程(ホ)において、わざわざ濃度依存性を考慮した味覚情報不要成分のスペクトルを算出し、それを食品のスペクトルから差し引くことによって初めて、該食品固有成分のスペクトルの取得、つまり味覚関連情報のみの抽出が可能になった。すなわち、単純に1つの濃度のスペクトルを定数倍して差し引いたのでは、該食品固有成分のスペクトル情報が正確には得られない。
【0056】
本発明2で用いられる、特定の食品固有の定数、パラメーター等はデータベースとしておくことが好ましい。かかる定数又はパラメーターとしては、味覚情報不要成分の選択された波数、味覚情報不要成分の濃度の計算法、味覚情報不要成分の各濃度におけるスペクトル等が挙げられる。
【0057】
以下、本発明1及び本発明2を含む「本発明の味覚情報の取得方法」は、それを自動装置に組み込んで、味覚情報を使用者に提供できるようにすることが好ましい。また、用途としては、品質管理に用いることができる。また、食品の銘柄識別にも用いることが可能である。更に、農産物等の産地識別等にもその用途が考えられる。また、味覚を失った人に対する味覚情報の提供も可能である。
【0058】
自動化、高速化、簡易化等には、上記本発明の各行程に使用される種々のパラメーターをデータベース化しておくことが好ましい。パラメーターは食品毎のものの場合もあるし、各化学成分毎のものの場合もある。また、上記方法のデータベースも有用である。更には、それらのデータベースが格納された記録媒体も好ましい。
【0059】
具体的には、本発明1では、a(q,kp)の値、行程(2)におけるkpを選択する方法、具体的な食品について各成分を代表する波数、検量線等が挙げられ、本発明2では、味覚情報不要成分の選択された波数、味覚情報不要成分の濃度の計算法、味覚情報不要成分の各濃度におけるスペクトル等が挙げられる。
【0060】
次に、図11に示した構成図、並びに、図12及び図13に示したフローチャートを用いて更に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下のフローチャート等に限定されるものではない。
【0061】
図11は、本発明の構成図を示す。試料は先ず赤外分光光度計(10)で、赤外スペクトルが測定される。測定される試料は食品自体の場合もあるし、食品中の成分pである場合もあるし、また味覚情報不要成分の場合もある。次いで、2次微分スペクトル出力装置(20)から、2次微分スペクトルが出力される。
【0062】
得られたデータは、味覚情報不要成分の有無、成分pの各濃度を知りたいか、味覚情報を得たいものの2次微分スペクトルを得たいか等に場合分けされて、演算装置(30)により演算を行う。その際、データ入力装置(40)から、既にデータベース化されているa(q,kp)の値、kpを選択する方法、各成分を代表する波数、検量線、味覚情報不要成分の選択された波数、濃度の計算法、各濃度におけるスペクトル等が入力される。
【0063】
そして、データ出力装置(50)から、各成分濃度Cp、2次微分スペクトル及び/又はその解析値が出力され、上記した目的、用途に供される。
【0064】
図12は本発明1に関するフローチャートの一例である。なお、各ステップの右側に記した(1)〜(4)は、本発明1の行程(1)〜行程(4)に該当する。先ず、味覚情報不要成分の有無を判断する(ステップ101)。味覚情報不要成分がある場合には、味覚情報不要成分の情報を除去する本発明2のフローチャート(ステップ200、図13)を経ることになる。これについては図13の説明で後述する。
【0065】
次いで、赤外分光光度計(10)でIRスペクトルが測定され(ステップ102)、2次微分スペクトル出力装置(20)から、2次微分スペクトルが出力される(ステップ103)。ステップ102とステップ103は、本発明1の行程(1)に該当する。2次微分スペクトルは、スペクトル解析をする場合には、そのまま味覚情報の2次微分スペクトルの解析(ステップ310)に使用され、味覚情報定量値が出力される(ステップ311)。
【0066】
一方、各成分Cpの定量データが欲しい場合には、成分pを選択する(ステップ104)。どのような成分pを選択するかを予めデータベース化しておいて、そのデータを用いることもできる(ステップ114)。kp、a(q,kp)及びb(kp)のデータの有無を判断し(ステップ105)、それらがない場合には、成分pのIRスペクトルを測定し(ステップ106)、2次微分スペクトルを出力する(ステップ107)。
【0067】
次いで、好ましくは上記した方法(A)、(B)及び/又は(C)により、kpを選択する(ステップ108)。その際、予め、方法(A)、(B)及び/又は(C)等の選択方法をデータベース化しておいて、それを用いることもできる(ステップ109)。ステップ108は、本発明1の行程(2)に該当する。そして、選択されたkpにおける2次微分値d2A(kp)をステップ103で得られた2次微分スペクトルから読み取る(ステップ110)。
【0068】
一方、上記した行程(3)により、a(q,kp)及びb(kp)を求め(ステップ111)、2次微分値d2A(kp)と共に連立方程式を作り(ステップ112)、Cpについてそれを解き(ステップ113、本発明1の行程(4)に該当)、データ出力装置(50)からCpを出力する(ステップ114)。
【0069】
次に、本発明2のフローチャートの一例として図13を説明する。なお、各ステップの右側に記した(イ)ないし(ホ)は、本発明2の行程(イ)ないし行程(ホ)に該当している。また、図13において、「Q」は、味覚情報不要成分を示す。味覚情報不要成分が溶解又は分散している食品については、味覚情報不要成分の情報除去行程(ステップ200)により、それを除くことが好ましい。
【0070】
ステップ201で、味覚情報不要成分の2次微分スペクトルのピークを与える波数の中から、味覚情報不要成分の吸収波数を、好ましくは2個以上選択する。次いで、味覚情報不要成分の濃度を目的変数に、各濃度における2次微分値を説明変数として重回帰式を作る(ステップ202)。この時、味覚情報不要成分の吸収波数がデータベースとして既に存在する場合には、それらを入力し(ステップ203)、味覚情報不要成分の濃度算出方法等が予め分かっている場合には、それを入力する(ステップ204)。
【0071】
次いで、重回帰式に該食品の赤外吸収吸光度の2次微分値を代入して、該食品中の味覚情報不要成分の濃度を得(ステップ205)、食品中の味覚情報不要成分の濃度における味覚情報不要成分の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを算出する(ステップ206)。ただし、これが予め存在する場合には、省略することもできる。例えば、アルコール飲料中のエタノール等の代表的味覚情報不要成分については、その各濃度における2次微分スペクトル等はデータベース化しておくことが好ましい(ステップ208)。
【0072】
ステップ207で、食品の2次微分スペクトルから、上記方法で算出された味覚情報不要成分の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトル及び要すれば水の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを差し引く。予め各濃度の2次微分スペクトルが存在する場合には、それらを用いる(ステップ208)。
【0073】
得られた味覚成分の2次微分スペクトルは、各成分濃度Cpが欲しい場合には図12におけるステップ102に行き、スペクトル解析をする場合には、ステップ310に行き、以下は、図12に示したフローチャートに従って味覚情報が得られる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を、実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これらに限定されるものではない。
【0075】
実 施 例 1
<本発明1について、例:コーヒー飲料>
コーヒー飲料として、市販のインスタントコーヒー2g、砂糖3g及び市販のホワイトナー3gに湯を加えて全量150mLとしたものを用いた。赤外分光スペクトル測定には、ATRアクセサリ(GRASEBY SPECAC,SPECACLAMP ATR 11080,6回反射)を付属したFT-IR(Nicolet,Magna-IR
750)を使用した。
【0076】
図1に、インスタントコーヒー、砂糖及びホワイトナーの各水溶液のそれぞれ上記濃度における2次微分スペクトルを示す。砂糖では1139,1056,997,927 cm-1付近に、ホワイトナーでは1152,1110,1079,1024 cm-1付近に顕著な吸収が認められた。また、インスタントコーヒーでは1152,1122,1079,1033
cm-1付近に吸収が認められた。
【0077】
下記のメークアップ液を調製した。(1a)〜(3a)は、単独成分からなるメークアップ液である。(1b)〜(3b)は、3成分からなるメークアップ液であり、固定した濃度のインスタントコーヒー2g/150mL、砂糖3g/150mL及びホワイトナー3g/150mLは、コーヒー飲料中の予想含有量である。
【0078】
メークアップ液(1a):
インスタントコーヒーの濃度を変化させたインスタントコーヒーのみの液
メークアップ液(2a):
砂糖の濃度を変化させた砂糖のみの液
メークアップ液(3a):
ホワイトナーの濃度を変化させたホワイトナーのみの液
メークアップ液(1b):
砂糖3g/150mL及び市販のホワイトナー3g/150mLに、インスタントコ ーヒーの濃度を変化させて加えた液
メークアップ液(2b):
ホワイトナー3g/150mL及びインスタントコーヒー2g/150mLに、砂糖 の濃度を変化させて加えた液
メークアップ液(3b):
インスタントコーヒー2g/150mL及び砂糖3g/150mLに、ホワイトナー の濃度を変化させて加えた液
【0079】
図2に、上記代表的な波数について、横軸にインスタントコーヒーの濃度、縦軸にインスタントコーヒーのみのメークアップ液(1a)の2次微分値をとった検量線を示す。ここで、図2の代表的な波数には、インスタントコーヒー以外の成分に帰属されるものも含まれる。図2より、最も傾きの絶対値が大きく相関係数が高い順に、1079cm-1と1033cm-1を選択した。同様の検量線を、砂糖(メークアップ液(2a))及びホワイトナー(メークアップ液(3a))についても測定し、傾きの絶対値が大きく、相関係数が高い波数の候補を選択した。
【0080】
6種のメークアップ液(1a)ないし(2c)を用いて、それぞれ上記10個の波数について、検量線を作成し、傾きを測定した。このうち、各波数毎について、メークアップ液(1a)での検量線の傾きを縦軸に、メークアップ液(2a)での検量線の傾きを縦軸にプロットしたものを図3に示す。砂糖に帰属される1139cm-1並びに、インスタントコーヒーとホワイトナーに帰属される1079cm-1に差異が認められた。インスタントコーヒーは、他の2成分と比べてピークが小さく、砂糖やホワイトナーの強い吸収の影響を受けているためと考えられる。この波数はインスタントコーヒーを代表する波数として選択しないことにした。従って、インスタントコーヒーを代表する波数として1033cm-1を選択した。
【0081】
なお、各成分のスペクトルを成分比に基づいて合成したスペクトルと、実測した混合溶液スペクトルとの比較を行ったところ、スペクトルに加成性が成立し、優れた定量分析の可能性が示された(図4)。なお、図4の「ミルク」とはホワイトナーと同義である。
【0082】
次いで、インスタントコーヒー以外でも、「各成分を代表する1つの波数kp」として、他成分の影響を強く受ける波数(図3)は除き、検量線の傾きの絶対値が大きい波数(図2)を同様にして選択した。具体的には、インスタントコーヒーは1033 cm-1、砂糖は997 cm-1及びホワイトナーは1024 cm-1を選択した。そして、これら3波数における3成分の検量線の傾きを用い、下記の連立方程式を(Ccoffee ,Csugar ,Cwhite)について解くことにより、コーヒー飲料中の各成分の定量を行った。
【0083】
【数1】
【0084】
式中、d2A1033等は、コーヒー飲料(3種の混合物)の1033cm-1での2次微分値であり、asugar,997等は、メークアップ液(2a)(2b)(2c)で得られた検量線の傾きを表し、Ccoffee等は、求めようとする各成分の濃度を表し、b1024等は、検量線の切片を表す。
【0085】
上記連立方程式の解は、下記の行列の演算で求められる。
【数2】
【0086】
図5に計算値と実測値の比較の一例を示す。図5については、図中にプロットした実測値が含有量となるよう各成分を配合してコーヒー飲料としたものである。縦軸と横軸の単位は、「g/150mL」である。コーヒー飲料一杯が約150mLであるので、そのような単位とした。上記3波数を用いた場合に最も良好な定量結果が得られ(r=0.999)、この方法が有効であることが分かった。なお、以上の結果から、コーヒー飲料におけるインスタントコーヒー、砂糖、ホワイトナーの高精度での3成分同時定量を行うことが可能であることが分り、この方法は優れた味覚情報取得方法であることが判った。
【0087】
実 施 例 2
<本発明2について、例:アルコール飲料としてワイン>
測定装置等は実施例1と同様に赤外吸収吸光度スペクトル及び赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを測定した。アルコール飲料測定時には、測定セルに筒状アクセサリを装着し、蒸発するエタノールの影響を除いた。
【0088】
図6にワイン、日本酒、焼酎、水及びエタノール水溶液の吸光度スペクトルを示す。アルコール飲料とエタノール水溶液のスペクトルパターンを比較すると、3100〜2800 cm-1及び1500〜900 cm-1においてほぼ一致した。このことから、主成分であるエタノールがスペクトルに与える影響は非常に大きく、いずれの種類のアルコール飲料においても、吸光度スペクトルからは銘柄の識別が困難であると考えられた。銘柄の識別には、エタノール以外の成分のスペクトルによる比較が必要であることから、吸光度スペクトルに2次微分処理を施した。そして、以下に示す方法により、アルコール飲料のスペクトルとエタノール及び水のスペクトルとの差を求めた。
【0089】
ワインを例としてその方法を示す。まず、アルコール飲料のスペクトルからエタノールの定量を行った。濃度の異なる5種類のエタノール水溶液スペクトルの2次微分値を説明変数、エタノール濃度を目的変数として重回帰分析を行った。その結果、r=0.999が得られた。その際、振動の帰属及び濃度と2次微分値の相関から3波数、1981,1419及び1085 cm-1を選択した。
【0090】
エタノール水溶液において良好な結果が得られたことから、重回帰式にワインの2次微分値を代入し、ワイン中のエタノールの定量を行った。なお、その濃度はHPLC値とほぼ一致した(r=0.935)。
【0091】
次に、5種類のエタノール水溶液スペクトルから、Factorを乗じたそれぞれの水のスペクトルを差し引くことにより、水溶液中の各濃度のエタノールスペクトルを得た。それらのスペクトルの各波数における2次微分値と濃度との単回帰式に、上記の方法で求めたワイン中のエタノール濃度を代入することにより、その濃度におけるエタノールスペクトルを算出した(図7)。
【0092】
そして、ワインのスペクトルから、計算で求めたエタノール及び水のスペクトルを差し引くことにより、ワイン中のエタノール及び水以外の成分のスペクトルを抽出した。得られたスペクトルを図8に示す。なお、これは、エタノールと水との各成分の相互作用を含んだスペクトルである。1259,1240,1210,1160,1125及び967 cm-1付近にエタノール以外の成分の吸収が認められ、銘柄によるスペクトルの違いを明確に確認できた。以上より、本発明2を用いたアルコール飲料の識別の可能性があることが示され、優れた味覚情報取得方法であることが判った。
【0093】
実 施 例 3
<本発明2について、例:茶類として紅茶>
アルコール飲料に代えて、紅茶を測定した以外は、実施例2と同様にして、水を差し引いて、2次微分スペクトルを得た。結果を図9に示す。1250cm−1、1151cm−1、1080cm−1及び1025cm−1付近に各成分の吸収が認められ、紅茶の種類によるスペクトルの違いを明確に確認できた。以上より、本発明2を用いた茶類の識別の可能性があることが示され、優れた味覚情報取得方法であることが判った。
【0094】
実 施 例 4
<本発明について、例:アイスクリーム類>
アルコール飲料に代えて、アイスクリーム類を測定した以外は、実施例2と同様にして、2次微分スペクトルを得た。結果を図10に示す。1152cm−1、1025cm−1、1141cm−1、1052cm−1及び993cm−1付近に成分の吸収が認められ、ラクトアイスとアイスミルクのスペクトルの違いを明確に確認できた。以上より、本発明を用いたアイスクリーム類の識別の可能性があることが示され、優れた味覚情報取得方法であることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の食品の味覚情報の取得方法を用いることにより、食品特に嗜好食品中の味覚関連情報の抽出、さらには製品の識別や高精度の定量の可能性が可能である。すなわち、化学成分を客観的に評価することができ、複数成分の同時計測、定性及び定量が正確にできるので、製品管理等に用いられることはもちろん、消費者が口にする前にその食品の味を知ることができたり、好みの味かどうかを知って消費者が食品を選択したり、経時による味の変化の有無を確認したりすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】コーヒー飲料の各成分の2次微分スペクトルである。
【図2】インスタントコーヒーの濃度を変化させた時の2次微分値の変化(検量線)を、複数の波数で測定したグラフである。
【図3】インスタントコーヒーの検量線の傾きの、他の成分が混合されていない場合(縦軸)と混合されている場合(横軸)の比較を示す図である。
【図4】コーヒー飲料の合成スペクトルと実測スペクトルの比較を示す図である。
【図5】コーヒー飲料中の各成分の実測値と計算値との比較を示す図である。縦軸、横軸とも、単位は[g/150mL]である。
【図6】アルコール飲料、水及びエタノール水溶液の吸光度スペクトルである。
【図7】計算によるエタノールの2次微分スペクトルである。
【図8】ワインと「エタノール及び水」との差の2次微分スペクトルである。
【図9】3種の紅茶と水との差の2次微分スペクトルである。
【図10】アイスクリーム類の2次微分スペクトルである。
【図11】本発明の装置の構成図(ブロック図)である。
【図12】本発明1の一例を示すフローチャートである。
【図13】図12中の味覚情報不要成分の情報除去行程の部分を示すフローチャートであり、本発明2の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0097】
10・・・・赤外分光光度計
20・・・・2次微分スペクトル出力装置
30・・・・演算装置
40・・・・データ入力装置
50・・・・データ出力装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品中の複数成分の情報を同時計測することによって、食品の味覚情報を得る方法であって、該食品の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを用いることを特徴とする食品の味覚情報の取得方法。
【請求項2】
水中に2以上の成分が溶解又は分散している食品について、下記の行程(1)ないし行程(4)を有する方法によって、該食品中の成分pの濃度Cpを求める請求項1記載の食品の味覚情報の取得方法。
(1)該食品及び該食品中の各成分毎の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを得る行程
(2)赤外吸収吸光度の2次微分値ピークを与える波数の中から、成分pを代表する1つの波数kpをそれぞれ選択する行程
(3)各成分qを単独で濃度を変化させて溶解又は分散させたメークアップ液を用いて、波数kpの赤外吸収吸光度の2次微分値をそれぞれ測定し、各成分qの濃度を横軸に、波数kpでの赤外吸収吸光度の2次微分値を縦軸に取ったときの傾きa(q,kp)を求める行程
(4)下記連立方程式を、Cpについて解く行程
d2A(k1)
=a(1,k1)C1+a(2,k1)C1+・・+a(q,k1)C1・・+a(n,k1)C1+b(k1)
d2A(k2)
=a(1,k2)C2+a(2,k2)C2+・・+a(q,k2)C2・・+a(n,k2)C2+b(k2)
・・・・・・・・・・・・
d2A(kp)
=a(1,kp)Cp+a(2,kp)Cp+・・+a(q,kp)Cp・・+a(n,kp)Cp+b(kp)
・・・・・・・・・・・・
d2A(kn)
=a(1,kn)Cn+a(2,kn)Cn+・・+a(q,kn)Cn・・+a(n,kn)Cn+b(kn)
(各方程式中、d2A(kp)は、波数kpでの該食品の赤外吸収吸光度の2次微分値を表し、a(q,kp)は、行程(3)において、メークアップ液を用い、成分qの濃度を横軸に、波数kpでの赤外吸収吸光度の2次微分値を縦軸に取ったときの傾きを表し、b(kp)は、切片を表し、Cpは、該食品中の成分pの濃度を表す。pとqは1からnの自然数の値をとり、nは2以上の自然数である。)
【請求項3】
行程(2)において、赤外吸収吸光度の2次微分値ピークを与える波数の中から、成分pを代表する1つの波数kpをそれぞれ選択する方法が、下記の方法(A)、(B)及び/又は(C)である請求項2記載の食品の味覚情報の取得方法。
(A)該食品の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルの略全てのピークを与える波数について、成分pを単独で濃度を変化させて溶解又は分散させたメークアップ液の赤外吸収吸光度の2次微分値を測定して作成した検量線において、赤外吸収吸光度の2次微分値に対し成分pの濃度依存性が大きい波数の中から選択する方法
(B)該食品の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルの略全てのピークを与える波数について、成分p以外の成分の該食品中の予想含有量を一定に保ってそれぞれ溶解又は分散させ、そこに更に、成分pを濃度を変化させて溶解又は分散させたメークアップ液の赤外吸収吸光度の2次微分値を測定して作成した検量線における傾きと、方法(A)で作成した検量線の傾きが略等しい値を示す波数の中から選択する方法
(C)成分pの化学構造を基に、振動の帰属から、成分pの吸収であると予想される波数の中から選択する方法
【請求項4】
水中に2以上の成分が溶解又は分散している食品が、コーヒー飲料、茶類、アイスクリーム類又はジュース類である請求項2又は請求項3記載の食品の味覚情報の取得方法。
【請求項5】
水中に2以上の成分が溶解又は分散している食品がコーヒー飲料であって、成分コーヒーを代表する赤外吸収吸光度の2次微分値ピークを与える1つの波数として1122cm-1又は1033cm-1を、成分砂糖を代表する赤外吸収吸光度の2次微分値ピークを与える1つの波数として1139cm-1、1056cm-1、997cm-1又は927cm-1を、要すれば、成分ホワイトナーを代表する赤外吸収吸光度の2次微分値ピークを与える1つの波数として1024cm-1を、それぞれ選択する請求項2又は請求項3記載の食品の味覚情報の取得方法。
【請求項6】
味覚情報不要成分が溶解又は分散している食品について、下記行程(イ)ないし(ホ)を有する方法によって、該食品中の味覚情報不要成分の情報を除去して、味覚成分の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを得る請求項1記載の食品の味覚情報の取得方法。
(イ)味覚情報不要成分の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルのピークを与える波数の中から、赤外吸収吸光度の2次微分値に対する味覚情報不要成分の濃度依存性が大きい波数及び/又は味覚情報不要成分の化学構造を基に振動の帰属から、味覚情報不要成分の吸収であると予想される波数を選択する行程。
(ロ)上記選択された各波数について、水中における味覚情報不要成分の濃度を目的変数に、各濃度における赤外吸収吸光度の2次微分値を説明変数として重回帰式を得る行程。
(ハ)上記重回帰式に該食品の赤外吸収吸光度の2次微分値を代入して、該食品中の味覚情報不要成分の濃度を得る行程。
(ニ)上記該食品中の味覚情報不要成分の濃度における味覚情報不要成分の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを算出する行程。
(ホ)該食品の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルから、上記方法で算出された味覚情報不要成分の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトル及び水の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを差し引く行程。
【請求項7】
味覚情報不要成分が溶解又は分散している食品が、アルコール飲料、アイスクリーム類、茶類又はジュース類である請求項6記載の食品の味覚情報の取得方法。
【請求項8】
該食品がアルコール飲料であり、該味覚情報不要成分がエタノールである請求項6記載の食品の味覚情報の取得方法。
【請求項9】
該食品がアルコール飲料であり、該味覚情報不要成分がエタノールであり、行程(イ)で選択される波数が、2981cm−1、1419cm−1及び/又は1085cm−1である請求項6記載の食品の味覚情報の取得方法。
【請求項10】
該食品がアイスクリームであり、該味覚情報不要成分が乳脂肪及び/又は乳タンパク質である請求項6記載の食品の味覚情報の取得方法。
【請求項11】
請求項2、請求項3、請求項5、請求項6及び/又は請求項9記載の味覚情報の取得方法で必要な食品中の各成分の情報が格納された味覚情報取得用データベース。
【請求項12】
請求項1ないし請求項10の何れかの請求項記載の食品の味覚情報の取得方法を使用した製品管理方法。
【請求項13】
請求項1ないし請求項10の何れかの請求項記載の食品の味覚情報の取得方法を使用した食品の銘柄識別方法。
【請求項14】
請求項1ないし請求項10の何れかの請求項記載の食品の味覚情報の取得方法を使用して取得した食品の味覚情報を提供する装置。
【請求項1】
食品中の複数成分の情報を同時計測することによって、食品の味覚情報を得る方法であって、該食品の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを用いることを特徴とする食品の味覚情報の取得方法。
【請求項2】
水中に2以上の成分が溶解又は分散している食品について、下記の行程(1)ないし行程(4)を有する方法によって、該食品中の成分pの濃度Cpを求める請求項1記載の食品の味覚情報の取得方法。
(1)該食品及び該食品中の各成分毎の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを得る行程
(2)赤外吸収吸光度の2次微分値ピークを与える波数の中から、成分pを代表する1つの波数kpをそれぞれ選択する行程
(3)各成分qを単独で濃度を変化させて溶解又は分散させたメークアップ液を用いて、波数kpの赤外吸収吸光度の2次微分値をそれぞれ測定し、各成分qの濃度を横軸に、波数kpでの赤外吸収吸光度の2次微分値を縦軸に取ったときの傾きa(q,kp)を求める行程
(4)下記連立方程式を、Cpについて解く行程
d2A(k1)
=a(1,k1)C1+a(2,k1)C1+・・+a(q,k1)C1・・+a(n,k1)C1+b(k1)
d2A(k2)
=a(1,k2)C2+a(2,k2)C2+・・+a(q,k2)C2・・+a(n,k2)C2+b(k2)
・・・・・・・・・・・・
d2A(kp)
=a(1,kp)Cp+a(2,kp)Cp+・・+a(q,kp)Cp・・+a(n,kp)Cp+b(kp)
・・・・・・・・・・・・
d2A(kn)
=a(1,kn)Cn+a(2,kn)Cn+・・+a(q,kn)Cn・・+a(n,kn)Cn+b(kn)
(各方程式中、d2A(kp)は、波数kpでの該食品の赤外吸収吸光度の2次微分値を表し、a(q,kp)は、行程(3)において、メークアップ液を用い、成分qの濃度を横軸に、波数kpでの赤外吸収吸光度の2次微分値を縦軸に取ったときの傾きを表し、b(kp)は、切片を表し、Cpは、該食品中の成分pの濃度を表す。pとqは1からnの自然数の値をとり、nは2以上の自然数である。)
【請求項3】
行程(2)において、赤外吸収吸光度の2次微分値ピークを与える波数の中から、成分pを代表する1つの波数kpをそれぞれ選択する方法が、下記の方法(A)、(B)及び/又は(C)である請求項2記載の食品の味覚情報の取得方法。
(A)該食品の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルの略全てのピークを与える波数について、成分pを単独で濃度を変化させて溶解又は分散させたメークアップ液の赤外吸収吸光度の2次微分値を測定して作成した検量線において、赤外吸収吸光度の2次微分値に対し成分pの濃度依存性が大きい波数の中から選択する方法
(B)該食品の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルの略全てのピークを与える波数について、成分p以外の成分の該食品中の予想含有量を一定に保ってそれぞれ溶解又は分散させ、そこに更に、成分pを濃度を変化させて溶解又は分散させたメークアップ液の赤外吸収吸光度の2次微分値を測定して作成した検量線における傾きと、方法(A)で作成した検量線の傾きが略等しい値を示す波数の中から選択する方法
(C)成分pの化学構造を基に、振動の帰属から、成分pの吸収であると予想される波数の中から選択する方法
【請求項4】
水中に2以上の成分が溶解又は分散している食品が、コーヒー飲料、茶類、アイスクリーム類又はジュース類である請求項2又は請求項3記載の食品の味覚情報の取得方法。
【請求項5】
水中に2以上の成分が溶解又は分散している食品がコーヒー飲料であって、成分コーヒーを代表する赤外吸収吸光度の2次微分値ピークを与える1つの波数として1122cm-1又は1033cm-1を、成分砂糖を代表する赤外吸収吸光度の2次微分値ピークを与える1つの波数として1139cm-1、1056cm-1、997cm-1又は927cm-1を、要すれば、成分ホワイトナーを代表する赤外吸収吸光度の2次微分値ピークを与える1つの波数として1024cm-1を、それぞれ選択する請求項2又は請求項3記載の食品の味覚情報の取得方法。
【請求項6】
味覚情報不要成分が溶解又は分散している食品について、下記行程(イ)ないし(ホ)を有する方法によって、該食品中の味覚情報不要成分の情報を除去して、味覚成分の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを得る請求項1記載の食品の味覚情報の取得方法。
(イ)味覚情報不要成分の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルのピークを与える波数の中から、赤外吸収吸光度の2次微分値に対する味覚情報不要成分の濃度依存性が大きい波数及び/又は味覚情報不要成分の化学構造を基に振動の帰属から、味覚情報不要成分の吸収であると予想される波数を選択する行程。
(ロ)上記選択された各波数について、水中における味覚情報不要成分の濃度を目的変数に、各濃度における赤外吸収吸光度の2次微分値を説明変数として重回帰式を得る行程。
(ハ)上記重回帰式に該食品の赤外吸収吸光度の2次微分値を代入して、該食品中の味覚情報不要成分の濃度を得る行程。
(ニ)上記該食品中の味覚情報不要成分の濃度における味覚情報不要成分の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを算出する行程。
(ホ)該食品の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルから、上記方法で算出された味覚情報不要成分の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトル及び水の赤外吸収吸光度の2次微分スペクトルを差し引く行程。
【請求項7】
味覚情報不要成分が溶解又は分散している食品が、アルコール飲料、アイスクリーム類、茶類又はジュース類である請求項6記載の食品の味覚情報の取得方法。
【請求項8】
該食品がアルコール飲料であり、該味覚情報不要成分がエタノールである請求項6記載の食品の味覚情報の取得方法。
【請求項9】
該食品がアルコール飲料であり、該味覚情報不要成分がエタノールであり、行程(イ)で選択される波数が、2981cm−1、1419cm−1及び/又は1085cm−1である請求項6記載の食品の味覚情報の取得方法。
【請求項10】
該食品がアイスクリームであり、該味覚情報不要成分が乳脂肪及び/又は乳タンパク質である請求項6記載の食品の味覚情報の取得方法。
【請求項11】
請求項2、請求項3、請求項5、請求項6及び/又は請求項9記載の味覚情報の取得方法で必要な食品中の各成分の情報が格納された味覚情報取得用データベース。
【請求項12】
請求項1ないし請求項10の何れかの請求項記載の食品の味覚情報の取得方法を使用した製品管理方法。
【請求項13】
請求項1ないし請求項10の何れかの請求項記載の食品の味覚情報の取得方法を使用した食品の銘柄識別方法。
【請求項14】
請求項1ないし請求項10の何れかの請求項記載の食品の味覚情報の取得方法を使用して取得した食品の味覚情報を提供する装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−51933(P2007−51933A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−237202(P2005−237202)
【出願日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第6回(2005年度)日本食品工学会年次大会 講演要旨集、第31頁、2005年7月15日発行
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 次世代ロボット実用化プロジェクト(プロトタイプ開発支援事業)「味覚を持つパートナーロボットの研究開発」に係る委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【出願人】(390001395)エヌイーシーシステムテクノロジー株式会社 (438)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第6回(2005年度)日本食品工学会年次大会 講演要旨集、第31頁、2005年7月15日発行
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 次世代ロボット実用化プロジェクト(プロトタイプ開発支援事業)「味覚を持つパートナーロボットの研究開発」に係る委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【出願人】(390001395)エヌイーシーシステムテクノロジー株式会社 (438)
【Fターム(参考)】
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