説明

食品保存剤および食品の保存方法

【課題】酵母または乳酸菌による食品腐敗の抑制効果の高い食品保存剤および食品保存方法を提供する。
【解決手段】ビタミンB1塩およびフェルラ酸類を含有することを特徴とする食品保存剤、およびビタミンB1塩及びフェルラ酸類を食品に添加することを特徴とする食品の保存方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵母または乳酸菌による食品腐敗の抑制効果が高い食品保存剤および食品の保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から食品分野では、食品の保存性を向上させるために様々な食品保存剤が用いられている。その中でもビタミンB1ラウリル硫酸塩等のビタミンB1塩は種々の微生物に対する抗菌力に優れることが知られている。しかしながら、ビタミンB1塩は特有の臭気を有するために、添加量を制限せざるを得ず、十分な保存効果が得られない傾向があった。特に酵母や乳酸菌による食品腐敗に対しては抑制効果が低く、改善が望まれていた。
【0003】
また、近年、植物に含まれるポリフェノール類の食品保存剤としての利用が検討されている。ポリフェノール類は抗酸化作用等の機能を有する物質であり、様々な種類のポリフェノールが研究されている。このようなポリフェノール類の中でも、特に米糠中に含まれるフェルラ酸類が注目されている。フェルラ酸類の食品保存剤への利用としては、特許文献1に、フェルラ酸類と有機酸、有機酸塩及びキトサンの少なくとも1種とを有効成分として含有する食品保存剤として提案されている。しかしながら、フェルラ酸類と有機酸類を併用しても汚染源となる菌の種類によっては保存効果が得られず、特に酵母や乳酸菌による食品汚染に対しては、十分な抑制効果が得られていなかった。また、キトサンと併用した場合には、キトサンが食品中の蛋白質と凝集して、不活化する場合があり、やはり十分な保存効果が得られないものであった。
【0004】
【特許文献1】特開平5−168449号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、酵母または乳酸菌の増殖を抑制し、食品の保存性を改善することが可能な食品保存剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ビタミンB1塩とフェルラ酸類とを併用することにより、それぞれを単独で使用した場合に比べて相乗的に酵母あるいは乳酸菌の増殖を抑制し、食品の保存性が著しく改善されることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち本発明はビタミンB1塩およびフェルラ酸類を含有することを特徴とする食品保存剤に関する。本発明はまた、ビタミンB1塩およびフェルラ酸類を食品に添加することを特徴とする食品の保存方法も提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の食品保存剤および食品保存方法は、特に酵母および乳酸菌による汚染を防ぎ、食品の保存性を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の食品保存剤に含有させるビタミンB1塩としてはラウリル硫酸塩、セチル硫酸塩等が挙げられる。その中でも溶解性の点および微生物の増殖抑制効果の点でラウリル硫酸塩が好ましい。ビタミンB1塩は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0010】
本発明の食品保存剤に使用するフェルラ酸類としては、フェルラ酸の他、フェルラ酸ナトリウム、フェルラ酸カリウム、フェルラ酸カルシウム等のフェルラ酸塩、フェルラ酸メチル、フェルラ酸エチル等のフェルラ酸エステルが挙げられる。これらフェルラ酸類は米糠、野菜、植物性残渣等から、エタノール、アセトン等の有機溶媒を用いて抽出することにより得られたものの他、化学的に合成したものであってもよい。フェルラ酸類は単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、本願明細書及び請求の範囲において「ビタミンB1塩」および「フェルラ酸類」は市販品に含まれる、あるいは調製の際に混入する種々の不純物を含んでいてもよい。
【0011】
ビタミンB1塩とフェルラ酸類の食品保存剤における割合は、ビタミンB1塩1重量部に対し、フェルラ酸類が0.01〜100重量部であるものが好ましく、0.05〜10重量部であるものがより好ましく、0.12〜2.5重量部であるものがさらに好ましい。
【0012】
本発明の食品保存剤は、ビタミンB1塩およびフェルラ酸類の配合割合が上記の範囲内であれば粉末剤あるいは溶液剤のいずれでもよく、目的に応じて調製すればよい。粉末剤を調製する場合は、特別な操作は必要なく、各粉末成分を混合すればよい。また、デキストリン、乳糖などの賦形剤と上記化合物の粉末を混合しても、またはこれら該賦形剤と共に顆粒や錠剤としたものを用いてもよい。溶液剤を調製する場合は、水、エタノール、酢酸およびこれらの混合物などの溶媒に溶解して使用するのが好ましい。
【0013】
本発明の食品保存剤には、食品の味質や風味に影響を与えない範囲で更にエタノール、有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩、アミノ酸、脂肪酸、脂肪酸エステル、塩基性蛋白・ペプチド等の通常食品保存に用いられる他の成分を含有させてもよい。
【0014】
有機酸としては酢酸、乳酸、フマル酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、アジピン酸、ソルビン酸等が挙げられる。有機酸塩としては前記有機酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が挙げられる。無機酸および無機酸塩としては、リン酸およびリン酸塩が挙げられる。アミノ酸としてはグリシン、アラニン等が挙げられる。脂肪酸としてはカプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸等の炭素原子数6〜18の脂肪酸が挙げられる。脂肪酸エステルとしてはグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。塩基性蛋白・ペプチドとしてはプロタミン、リゾチーム、ε−ポリリジン、キトサン、ペクチン分解物、ナイシン等が挙げられる。これらの成分は2種以上であってもよい。
【0015】
本発明の食品保存剤は剤形に関わらず、直接食品に添加することにより、食品の保存性を改善することができる。食品保存剤が溶液剤の場合には、食品を浸漬または食品に噴霧もしくは塗布することによって適用してもよい。
【0016】
食品への適用は、食品加工のいずれの段階であってもよいが、粉末剤等、固形剤の場合には溶解性の点から加熱工程前に添加することが好ましい。
【0017】
なお、本発明の食品保存方法においては、予め調製した本発明の食品保存剤を食品へ適用する態様のみならず、ビタミンB1塩とフェルラ酸類を両者の割合が上記範囲となるよう個別に食品へ適用する態様もまた含むものとする。
【0018】
本発明の食品保存剤の食品に対する適用量は、ビタミンB1塩とフェルラ酸類間の割合が上記の範囲内でありかつ、食品全量に対し、ビタミンB1塩の割合が、0.001〜0.1重量%、フェルラ酸の割合が0.001〜0.1重量%となるように適用するのが好ましい。ビタミンB1塩の割合が0.005〜0.04重量%、フェルラ酸の割合が0.002〜0.005重量%となるように添加するのがより好ましく、ビタミンB1塩の割合が0.008〜0.025重量%、フェルラ酸の割合が0.003〜0.02重量%となるように添加するのがさらに好ましい。
【0019】
ビタミンB1塩の割合が0.001重量%未満、あるいはフェルラ酸類の割合が0.001重量%未満の場合、保存条件によっては微生物増殖抑制効果が不十分となる傾向がある。また、ビタミンB1塩の割合が0.1重量%を超える、あるいはフェルラ酸の割合が0.1重量%を超える場合には食品中に溶け残りが発生し、食品本来の風味が損なわれる傾向がある。
【0020】
食品を溶液剤である本発明の食品保存剤へ浸漬、もしくは噴霧して、本発明の食品保存剤を食品の表面へ付着させる場合には、浸漬もしくは噴霧に使用する溶液剤は、ビタミンB1塩とフェルラ酸類間の割合が上記の範囲内でありかつ、ビタミンB1塩を0.005〜1重量%、特に0.008〜0.5重量%含有し、フェルラ酸を0.01〜0.5重量%、特に0.012〜0.25重量%含有しているものが好ましい。
【0021】
本発明の食品保存剤が使用可能な食品としては、特に限定されるものではなく、非加熱の食品、加熱工程を含む食品のいずれにも適用可能である。例えば浅漬けなどの漬物、かまぼこ、ちくわ、はんぺん、魚肉ソーセージなどの水産製品、コロッケ、トンカツ、フライドチキン、魚フライ、唐揚げなどのフライ製品、ハンバーグ、肉団子、餃子、シュウマイ、ソーセージなどの食肉惣菜、カステラ、スポンジケーキ、饅頭等の和・洋菓子、果汁、ジャムなどの果実加工品、しょう油、ソースなどの調味料等に幅広く使用可能である。特に従来から酵母や乳酸菌による汚染の報告が多い、漬物に優れた効果を発揮する。
【0022】
漬け物用保存剤として用いる場合、本発明の食品保存剤を漬物用調味液へ添加してもよい。本発明の調味液を例えば浅漬け用調味液に添加する場合、調味液中のビタミンB1塩とフェルラ酸類間の割合が上記の範囲内でありかつ、ビタミンB1塩が0.002〜0.04重量%、特に0.004〜0.025重量%、フェルラ酸が0.0015〜0.05重量%、特に0.0025〜0.04重量%含有されるよう、配合することが好ましい。調味液のその他の成分としては、従来から浅漬け用調味液に配合されている成分のいずれも好適に配合される。
以下、実施例および比較例により本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0023】
実施例1〜3および比較例1〜5
(抗菌力試験)
方法:表1に示す各液体培地を調製し、1N−HCl水溶液にてpH4に調整した後、オートクレーブにて滅菌した。次にCOガスセンサー入りの試験管に滅菌後の各液体培地を5mlずつ分注し、酵母Saccharomyces cerevisiaeの菌液100μl(10〜10CFU/ml)を接種した。接種後、30℃にて培養し、菌の増殖により発生するCOが検出されるまでの時間を測定した。尚、COガスセンサー入りの試験管はSensiMedia(登録商標) SM000(マイクロバイオ株式会社製)を使用した。
【0024】
【表1】

VB1:ビタミンB1
SCD培地:ソイビーンカゼインダイジェストブイヨン培地
【0025】
結果:ビタミンB1ラウリル硫酸塩およびフェルラ酸を含有する実施例1〜3の液体培地は100時間以上酵母の増殖が抑制され、他の薬剤に比べ、酵母の増殖抑制効果が著しく優れていた。結果を表2および図1に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
実施例4および比較例6〜10
(抗菌力試験)
方法:表3に示す各液体培地を調製し、1N−HCl水溶液にてpH5に調整した後、オートクレーブにて滅菌した。次にCOガスセンサー入りの試験管に滅菌後の各液体培地を5mlずつ分注し、乳酸菌Leuconostoc mesenteroidesの菌液100μl(10〜10CFU/ml)を接種した。接種後、30℃にて培養し、菌の増殖により発生するCOが検出されるまでの時間を測定した。尚、COガスセンサー入りの試験管はSensiMedia(登録商標) SM000(マイクロバイオ株式会社製)を使用した。
【0028】
【表3】

VB1:ビタミンB1
SCD培地:ソイビーンカゼインダイジェストブイヨン培地
【0029】
結果:ビタミンB1ラウリル硫酸塩およびフェルラ酸を含有する液体培地は100時間以上乳酸菌の増殖が抑制され、他の薬剤に比べ、乳酸菌の増殖抑制効果が著しく優れていた。結果を表4および図2に示す。
【0030】
【表4】

【0031】
実施例5および比較例11〜13
(保存試験)
方法:表5に示す各薬剤を市販の浅漬け用調味液(浅漬けの素)に添加して調製した調味液200gに、2cm程度にカットしたキャベツ100gを1時間浸漬してキャベツの浅漬けを製造した。
【0032】
【表5】

【0033】
得られたキャベツの浅漬けの味、香り、食感を、別途何も添加しない市販浅漬け用調味液を用いて同様に調製した浅漬けと比較した。実施例5および比較例11〜13のいずれも、市販品により調製した浅漬けと差は無かった。
【0034】
次に、得られたキャベツの浅漬け80gに酵母Zygosaccharomyces spp の菌液をキャベツ1gあたり10〜10CFUとなるよう接種した後、30℃の恒温器内でにて保存し、経時的にサンプリングを行い、生菌数の計測を行った。なお、サンプリングは1試験区より2サンプル/1回を抜き取り、細菌検査を実施した。
【0035】
結果:保存6日目より菌数の増加が認められたが、ビタミンB1ラウリル硫酸塩およびフェルラ酸を含有する浸漬液に浸漬したキャベツの浅漬けは、酵母の増殖が抑制され、他の薬剤に比べ、酵母の増殖抑制効果が著しく優れていた。結果を表6および図3に示す。
【0036】
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例1〜3および比較例1〜5の食品保存剤の存在下において、酵母Saccharomyces cerevisiaeが増殖開始するまでの時間を
【図2】実施例4および比較例6〜10の食品保存剤の存在下における乳酸菌Leuconostoc mesenteroidesの増殖を示すグラフ。
【図3】実施例3および比較例11〜12の食品保存剤を含むキャベツの浅漬け用調味液で付けたキャベツの浅漬けに酵母Zygosaccharomyces sppを接種した場合の、酵母の増殖を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタミンB1塩およびフェルラ酸類を含有することを特徴とする食品保存剤。
【請求項2】
ビタミンB1塩1重量部に対し、フェルラ酸類を0.01〜100重量部含有する請求項1記載の食品保存剤。
【請求項3】
ビタミンB1塩がビタミンB1ラウリル硫酸塩である請求頂1記載の食品保存剤。
【請求項4】
ビタミンB1塩およびフェルラ酸類を食品に添加することを特徴とする食品の保存方法。
【請求項5】
食品全量に対するビタミンB1塩の割合が0.001〜0.1重量%であり、フェルラ酸類の割合が0.001〜0.1重量%である請求項4記載の食品の保存方法。
【請求項6】
食品が漬け物である、請求項4または5記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜3いずれかに記載の食品保存剤を含有することを特徴とする、漬け物用調味液。
【請求項8】
請求項1〜3いずれかに記載の食品保存剤を含有することを特徴とする漬物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−113625(P2008−113625A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−301745(P2006−301745)
【出願日】平成18年11月7日(2006.11.7)
【出願人】(000189659)上野製薬株式会社 (76)
【Fターム(参考)】