説明

食品保存用エタノール包装袋、その保存方法および使用方法

【課題】包材に印刷が施されていても食品の保存を衛生的かつ安全に実施でき、カビの増殖抑制効果にも優れた食品保存用エタノール包装袋、ならびに該食品保存用エタノール包装袋に適した保存方法および使用方法を提供する。
【解決手段】袋状の包材内にエタノール水溶液を充填し、密封してなる食品保存用エタノール包装袋であって、前記袋状の包材が、表面に印刷が施された延伸ナイロンフィルムと、該延伸ナイロンフィルムの前記印刷が施された面上に積層されたエチレン−酢酸ビニル共重合体層とからなる多層フィルムで構成されることを特徴とする食品保存用エタノール包装袋。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品におけるカビの増殖を抑制するために用いられる食品保存用エタノール包装袋、その保存方法および使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エタノールが、カビなどの微生物に対して増殖抑制効果や殺菌効果を有することは古くから知られており、該効果を利用して食品中の微生物の増殖を抑制することが行われている。たとえばエタノールをシリカやシクロデキストリンなどの吸着体に吸着させ、紙製の袋に充填した製品が食品保存用具として販売されている。該製品においては、該吸着体からエタノールが揮発し、そのガスが食品に接触することで殺菌効果を発揮する。しかし該製品は、紙製の袋を使用しているため、製造時(紙の裁断時)や製品の輸送等の取り扱い時に紙粉が発生しやすく、該紙粉が食品に混入するという衛生上の問題が生じる。また、油分のある食品を含めた広範な食品の保存に適用するために、紙に耐油加工を施しているが、該耐油加工に用いる物質の安全性が問題になる。
特許文献1では、エタノール濃度50容量%以上のエタノール水溶液を直接、または不織布等に担持させて、20g/m/24hr/50%/40℃以上のエタノールガス透過度を有するフィルム製の袋に収納した食品保存用具が提案されている。該フィルムとしては、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、三酢酸セルロースフィルム、ポリビニルアルコールフィルムより選ばれるものが使用されている。該食品保存用具においては、エタノールのガスがフィルムを通過して拡散し、食品に接触して効果を発揮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭59−30072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような高濃度のエタノール水溶液をフィルム製の袋に収納したもの(以下、エタノール包装袋という。)は、取り扱い上の注意事項等を表示する必要がある。しかし特許文献1に記載されているエチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、三酢酸セルロースフィルム、ポリビニルアルコールフィルムは、印刷には適していない。また、該フィルムに印刷したとしても、食品の保存時に衛生上、安全上の問題が生じてしまう。たとえば該フィルムの内面に印刷すればインキがエタノールと接触し、インキが溶けてしまうおそれがあるため内面には印刷できず、外面に印刷すれば食品とインキが接することになり、衛生的にも安全の上でも好ましくない。
このような問題に対し、前記フィルムの内面に印刷を施し、該印刷層が中間になるように別のフィルムと貼り合わせることも考えられる。しかし前記フィルムは上述したように、印刷に適しておらず、さらに、別のフィルムを貼り合わせた場合、エタノールガスの透過性が低くなり、カビの増殖抑制効果が不充分になるおそれがある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、包材に印刷が施されていても食品の保存を衛生的かつ安全に実施でき、カビの増殖抑制効果にも優れた食品保存用エタノール包装袋、ならびに該食品保存用エタノール包装袋に適した保存方法および使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する本発明は以下の構成を有する。
[1]袋状の包材内にエタノール水溶液を充填し、密封してなる食品保存用エタノール包装袋であって、
前記袋状の包材が、表面に印刷が施された延伸ナイロンフィルムと、該延伸ナイロンフィルムの前記印刷が施された面上に積層されたエチレン−酢酸ビニル共重合体層とからなる多層フィルムで構成されることを特徴とする食品保存用エタノール包装袋。
[2]前記エタノール水溶液のエタノール濃度が20質量%以上60質量%未満である、[1]に記載の食品保存用エタノール包装袋。
[3]前記延伸ナイロンフィルムの厚みが15μm以下であり、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体層の厚みが30μm以下である、[1]または[2]に記載の食品保存用エタノール包装袋。
[4][1]〜[3]のいずれか一項に記載の食品保存用エタノール包装袋を保存する方法であって、
1個または複数個の前記食品保存用エタノール包装袋を、ガス状のエタノールに対するバリア性を有する包装材料を用いて脱気包装することを特徴とする保存方法。
[5]前記包装材料が、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素を蒸着したフィルムからなるガスバリア層と、熱溶着が可能な熱可塑性樹脂層とを備える多層フィルムで構成される袋である、[4]に記載の保存方法。
[6][1]〜[3]のいずれか一項に記載の食品保存用エタノール包装袋を使用する方法であって、
エタノールガスに対してバリア性を有する密閉可能な食品保存容器に前記エタノール包装袋を食品とともに収納した後、該食品保存容器を密閉した状態で保持することを特徴とする使用方法。
[7]前記エタノール包装袋として、前記食品保存容器内に収納し、密閉した時点から24時間後のヘッドスペース内のエタノールガス濃度が3%以上となるように設定されたものを使用する、[6]に記載の使用方法。
[8]前記食品保存容器が、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素を蒸着したフィルムからなるガスバリア層と、熱溶着が可能な熱可塑性樹脂層とを備える多層フィルムで構成される袋、または前記ガスバリア層を備えるフィルムで構成される蓋材を備えた容器である、[6]または[7]に記載の使用方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、包材に印刷が施されていても食品の保存を衛生的かつ安全に実施でき、カビの増殖抑制効果にも優れた食品保存用エタノール包装袋、ならびに該食品保存用エタノール包装袋に適した保存方法および使用方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の食品保存用エタノール包装袋(以下、エタノール包装袋と略す。)は、袋状の包材内にエタノール水溶液を充填し、密封してなるものであり、該包材は、表面に印刷が施された延伸ナイロン(以下、ONyと略す。)フィルムと、該ONyフィルムの前記印刷が施された面上に積層されたエチレン−酢酸ビニル共重合体(以下、EVAと略す。)層とからなる多層フィルムで構成される。
該多層フィルムにおいて、EVA層は、フィルムを袋状とするために必要な、シーラント層となる熱融着可能な熱可塑性樹脂層であり、また、他の熱融着可能な熱可塑性樹脂(たとえば低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン)のフィルムに比べて、ガス状のエタノール(以下、エタノールガスという。)透過性が高い。また、ONyフィルムは、印刷が可能であり、さらに、印刷可能な他のフィルム(たとえばポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、延伸ポリプロピレンフィルム)に比べてエタノールガスの透過性も高く、EVA層を積層して多層フィルムとしてもエタノールガスが充分に透過する。そのため、ONyフィルムに印刷を施し、その印刷面にEVA層を積層した多層フィルムで構成した袋内にエタノール水溶液を充填することで、該エタノール包装袋からエタノールが速い蒸散速度で蒸散し、該エタノール包装袋とともに収納されている食品に対してカビの増殖抑制効果を発揮する。また、該エタノール包装袋は、紙のように紙粉を生じず、エタノール水溶液によりインキが溶けて印刷が損なわれたり、インキが食品と接することもないため、衛生上、安全上の問題を生じることもなく、必要な事項を明確に表示した状態で食品を衛生的かつ安全に保存できる。
一方、ONyフィルムとEVA層以外の組み合わせでは、本発明の効果は得られない。たとえばONyフィルムの代わりにPETフィルムや延伸ポリプロピレンフィルムを用いた場合、印刷は可能であっても、得られる多層フィルムはエタノールガスを透過しにくく、充分なカビ増殖抑制効果が得られない。また、ONyフィルムの代わりに未延伸のナイロンフィルムを用いた場合、印刷には適していない。また、EVAの代わりに低密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレンを用いた場合、得られる多層フィルムはエタノールガスを透過しにくく、充分なカビ増殖抑制効果が得られない。
【0008】
ONyフィルムを構成するナイロンとしては、6−ナイロンが使用される。
ONyフィルムとしては、公知の製法により製造したものを用いてもよく、市販のものを用いてもよい。
ONyフィルムの厚みは、エタノールガス透過性を考慮すると、25μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましい。該厚みが厚すぎると、エタノール包装袋からのエタノールの蒸散速度が低下し、食品に対するカビ増殖抑制効果が充分に得られないおそれがある。該厚みが薄いほどエタノールガス透過性が向上するためその厚みの下限は特に限定されないが、包材の強度、使用時の機械適性等を考慮すると、10μm以上が好ましい。
ONyフィルムへの印刷は、公知の印刷法、たとえばグラビア印刷、フレキソ印刷等により実施できる。
【0009】
EVA層を構成するEVAとしては、酢酸ビニル比率が5〜40モル%であることが好ましく、特に、樹脂の加工適性から、10〜25モル%が好ましい。
EVA層の積層方法、つまり多層フィルムの作製方法としては、特に限定されないが、ラミネート法が好ましく用いられる。ラミネート法による多層フィルムの作製は、具体的には、(1)ONyフィルムの印刷面上に、溶融させたEVAを押出しラミネートする方法、または(2)ONyフィルムの印刷面上に、EVAフィルムを、接着剤を用いて貼り合わせる方法により実施できる。特に、得られる多層フィルムのエタノールガス透過性に優れることから、(1)の方法が好ましい。
EVA層の厚みは、エタノールガスに対する透過性を考慮すると、60μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましい。該厚みが厚すぎると、エタノール包装袋からのエタノールの蒸散速度が低下し、食品に対するカビ増殖抑制効果が充分に得られないおそれがある。該厚みが薄いほどエタノールガス透過性が向上するためその厚みの下限は特に限定されないが、熱融着性、シール強度等を考慮すると、10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましい。
【0010】
多層フィルムとしては、エタノールガスに対する透過性の観点から、ONyフィルムの片面に印刷を施し、その印刷面上にEVA層を形成した2層フィルムが好ましい。
多層フィルム全体としての厚みは、エタノールガスに対する透過性を考慮すると、80μm以下が好ましく、45μm以下がより好ましい。該厚みが厚すぎると、エタノール包装袋からのエタノールの蒸散速度が低下し、食品に対するカビ増殖抑制効果が充分に得られないおそれがある。該厚みが薄いほどエタノールガス透過性が向上するためその厚みの下限は特に限定されないが、包材の強度、エタノール充填適性等を考慮すると、20μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましい。
【0011】
本発明のエタノール包装袋は、前記多層フィルムを加工して開口を有する袋状の包材を作製し、該開口から包材内にエタノール水溶液を充填し、該開口を封止することにより製造できる。
前記多層フィルムは、一方の最表面に熱可塑性樹脂であるEVA層を有しているため、袋状の包材への加工、エタノール水溶液の充填後の封止を、ヒートシールにより容易に実施できる。
【0012】
エタノール水溶液中のエタノール濃度(質量%)は、食品を収納した食品保存容器(以下、食品包装体という。)内のヘッドスペースにおけるエタノールガス濃度が所定の濃度になればよく、特に限定されないが、消防法の適用を受けないためには60質量%未満であることが好ましい。また、エタノール水溶液の充填量が少なくてよいことから、20質量%以上が好ましい。
ここで、「食品包装体内のヘッドスペースにおけるエタノールガス濃度」とは、当該エタノール包装袋を食品とともに食品保存容器に収納して食品包装体としたときの、該食品包装体内の空間(ヘッドスペース)におけるエタノールガス濃度である。エタノール包装袋を食品とともに食品保存容器内に収納すると、該エタノール包装袋からヘッドスペース内にエタノールが蒸散する。このとき、該エタノール包装袋とともに食品包装体内に収納されている食品に対してカビの増殖抑制効果が発揮される濃度が「所定の濃度」である。カビの増殖抑制効果は、ヘッドスペース内のヘッドスペースにおけるエタノールガス濃度に依存する。
該ヘッドスペースにおけるエタノールガス濃度(体積%)は、カビの増殖抑制効果に優れることから、3%以上が好ましい。該エタノールガス濃度の上限は、使用時の温度によっても蒸散可能なエタノールの量が異なるため特に限定されない。実用上、10%程度であれば充分である。
なお、カビは増殖速度が遅いため、前記食品保存容器内に収納後すぐに前記所定の濃度に達する必要はなく、収納した時点から24時間後までに3%以上になっていれば充分に効果が得られる。
エタノール蒸散速度は、エタノール水溶液のエタノール濃度や充填量に関係なく、エタノール包装袋の表面積に比例するため、食品包装体のヘッドスペースを所定のエタノールガス濃度に維持できるように、エタノール包装袋のサイズ、エタノール水溶液のエタノール濃度及び充填量は、食品包装体に合わせて適宜選定すればよい。
【0013】
前記エタノール包装袋は、製造直後、すなわちエタノール水溶液を包材に充填、封止した直後から、エタノールの蒸散が始まる。このことについて従来は特に注意が払われていなかったが、蒸散により使用時までにエタノール包装袋中のエタノール濃度が低下すると、所期の性能が発揮されないおそれがある。そのため、エタノール包装袋について、使用時までのエタノール蒸散を抑制することが必要となる。
かかる観点から、本発明のエタノール包装袋は、製造後、エタノールガスに対するバリア性を有する包装材料を用いて密封包装することが好ましく、特に、該密封包装を脱気包装により行うことが好ましい。エタノールガスに対するバリア性を有する包装材料を用いて密封包装しても、包装体内に空間があると、その空間中にエタノールが量は少ないものの蒸散するが、脱気包装により空間を極力少なくすることで、該蒸散を最小限に抑制できる。
脱気包装は、具体的には、エタノールガスに対するバリア性を有する材料で構成された開口を有する袋に、1個または複数個のエタノール包装袋を収納し、袋内の空気を、真空包装機等により脱気して該袋の開口を封止することにより実施できる。
このとき、エタノール包装袋を1個ずつ包装して保存してもよいが、保存や作業の効率から、エタノール包装袋を複数個まとめて集積包装することが好ましい。集積包装するエタノール包装袋の数は、特に限定されないが、50〜1000個程度が好ましい。
【0014】
エタノールガスに対するバリア性を有する包装材料としては、特に限定されず、各種ガスに対するバリア性を有する包装材料として公知のものが使用できる。
好ましい包装材料として、ガスバリア層と、熱溶着が可能な熱可塑性樹脂層とを備える多層フィルムで構成される袋が挙げられる。
ガスバリア層としては、たとえばアルミ箔、アルミ箔ラミネートフィルム、無機物を蒸着したフィルム等が挙げられ、該無機物としてはアルミ、酸化アルミニウム、酸化ケイ素等が挙げられる。また、該無機物が蒸着されるフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、延伸ナイロンフィルム等が挙げられる。
ガスバリア層としては、上記の中でも、透明性を有し、保存中のエタノール包装袋の状況を外部から目視で確認できることから、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素を蒸着したフィルムが好ましい。
熱溶着が可能な熱可塑性樹脂層としては、たとえば、未延伸ポリプロピレンフィルム(CPP)等のポリプロピレンフィルム;低密度ポリエチレンフィルム(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(LLDPE)等のポリエチレンフィルム;等が挙げられる。
【0015】
本発明のエタノール包装袋は、食品とともに食品保存容器内に収納して使用される。
食品としては、固形状でカビが増殖しやすい、パン類、洋菓子類(バウムクーヘン、マフィン等)、和菓子(饅頭、どらやき、カステラ等)、珍味、麺類(生、半生)などが好ましい。
エタノール包装袋の効果(カビ増殖抑制効果)は、上述したように、食品包装体(エタノール包装袋および食品を収納した食品保存容器)内のヘッドスペースにおけるエタノールガス濃度に依存する。そのため、最少量のエタノールでエタノール包装袋の効力を維持するためには、蒸散したエタノールが食品包装体から外部に透過しないようにすることが好ましい。
エタノールの食品包装体外部への透過を防止するために、食品保存容器として、エタノールガスに対してバリア性を有する密閉可能なものを用い、前記エタノール包装袋を食品とともに収納した後、該食品保存容器を密閉した状態で保持することが好ましい。
好ましい食品保存容器として、ガスバリア層と、熱溶着が可能な熱可塑性樹脂層とを備える多層フィルムで構成される袋、またはガスバリア層を備えるフィルムで構成される蓋材を備えた容器が挙げられる。
【0016】
前記食品保存容器として用いられる袋を構成する多層フィルムにおいて、ガスバリア層としては、たとえばアルミ箔、アルミ箔ラミネートフィルム、無機物を蒸着したフィルム等が挙げられ、該無機物としてはアルミ、酸化アルミニウム、酸化ケイ素等が挙げられる。また、該無機物が蒸着されるフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、延伸ナイロン等が挙げられる。
ガスバリア層としては、上記の中でも、食品包装体内の食品の状況(カビの発生の有無等)を外部から目視で確認できることから、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素を蒸着したフィルムが好ましい。
熱溶着が可能な熱可塑性樹脂層としては、たとえば、CPP等のポリプロピレンフィルム;LDPE、LLDPE等のポリエチレンフィルム;等が挙げられる。
【0017】
前記食品保存容器として用いられる容器の蓋材を構成するフィルムにおいて、ガスバリア層としては、前記多層フィルムにおけるガスバリア層と同様のものが挙げられる。
該フィルムとしては、ヒートシールにより容器を密閉できることから、前記食品保存容器として用いられる袋を構成する多層フィルムと同様、ガスバリア層と、熱溶着が可能な熱可塑性樹脂層とを備える多層フィルムが好ましい。
該フィルムで構成される蓋材と組み合わされる容器としては、トレー、カップ等が挙げられる。トレーやカップは厚みがあり、エタノールガスを食品保存容器外へ透過しにくいため、これらの容器の材質に特に制限はない。
【0018】
上述したように、カビは増殖速度が遅いため、前記食品保存容器内に収納後すぐにヘッドスペース内のエタノールガス濃度が所定の濃度に達する必要はなく、収納した時点から24時間後までに3%以上になっていれば充分に効果が得られる。
そのため、本発明のエタノール包装袋は、当該エタノール包装袋を食品とともにエタノールガスに対するバリア性を有する密閉可能な食品保存容器内に収納し、密閉した時点から24時間後のヘッドスペース内のエタノールガス濃度が3%以上となるように設定されたものであることが好ましい。
その設定は、包材のエタノールガス透過性を調節する方法によっても可能であるが、簡便さの点で、包材の表面積を調節する方法が好ましい。
「表面積」は、エタノール包装袋にて、エタノール水溶液と接触している面積(当該エタノール包装袋の内表面の面積)である。
エタノール包装袋からのエタノールの蒸散速度は、包材のエタノールガス透過性も影響するが、包材の表面積にも大きく依存し、たとえば該表面積が大きいほど、エタノールの蒸散速度が速くなる。そのため、包材のエタノールガス透過性およびエタノール水溶液中のエタノール濃度が同じ場合、包材の表面積を大きくすることで、当該エタノール包装袋を食品保存容器内に収納した時点から所定時間経過した時点のヘッドスペース内のエタノールガス濃度を高くすることができる。また、収納した時点から、ヘッドスペース内のエタノールガス濃度が所望の濃度に到達するまでの時間を短くできる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
<試験例1>
以下の手順で、包材のサイズ(縦×横)、充填したエタノール水溶液のエタノール濃度および充填量が異なる9種のエタノール包装袋(例1〜9)を作製した。
厚み15μmのONyフィルム(ユニチカ社製、商品名:エンブレムON)の全面にグラビア印刷で白印刷を施し、その印刷面に、210℃で溶融させたEVA(三井・デュポンポリケミカル社製、商品名:EV450、酢酸ビニル含量19モル%)を押出しラミネートして厚み30μmのEVA層を形成し、2層フィルムを得た。
エタノール包装袋として、作製した2層フィルムおよび縦ピロー包装機を使用し、濃度20%、40%または58%(いずれも質量%)のエタノール水溶液を充填し、ヒートシールにより密封してエタノール包装袋を得た(シール幅:5mm)。
各エタノール包装袋の包材のサイズ、エタノール水溶液のエタノール濃度および充填量充填量を表1に示す。
また、比較品として、エタノール水溶液の代わりに水3gを充填した以外は例1のエタノール包装袋の作製と同じ手順で水包装袋を作製した。
【0020】
八つ切りの食パン1枚を半分にカットし、室内に放置した食パンに発生したカビを植菌した。この食パンと、作製したエタノール包装袋または水包装袋1個とを、アルミナ蒸着PETフィルム(厚み12μm)とCPPフィルム(厚み50μm)とのラミネートフィルムからなる食品保存袋(サイズ:150mm×190mm、シール幅:10mm)に入れて密封して食品包装体を作製し、室温(25℃)で放置した。
密封してから1週間ごとに4週間、目視により、食パンにおけるカビの増殖の有無を確認し、下記評価基準により評価した。その結果(保存結果)を表2に示す。
[評価基準]
○:カビが増殖せず。
×:カビが増殖した。
【0021】
別途、前記食品保存袋に、食パンを入れずにエタノール包装袋だけ入れて密封して包装体を作製し、室温で放置した。密封してから24時間後の包装体内のエタノールガス濃度をエタノール検知管(ガステック社製)を用いて測定した。測定結果を表2に示した。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
上記結果から、例1〜9のエタノール包装袋を封入した包装体内には、エタノールガスが存在しており、各エタノール包装袋からエタノールが蒸散したことが確認できた。
また、例1〜9を用いることで、食品包装体内でのカビの増殖が3週間にわたって抑制されており、特に24時間後のエタノールガス濃度が3%以上の例2〜9では、4週間後においてもカビが増殖していなかった。
【0025】
<試験例2>
アルミナ蒸着PETフィルム(厚み12μm)とCPPフィルム(厚み50μm)とのラミネートフィルムからなる袋A(サイズ:150mm×190mm、シール幅:10mm)に、前記試験例1で作製した例4のエタノール包装袋をそれぞれ10個ずつ脱気包装して集積包装体を作製した。該集積包装体を室温で1ヶ月保存した。保存後の各エタノール包装袋の重量を測定した。
別途、前記と同じ袋Aに、同じエタノール包装袋10個を含気包装して集積包装体を作製し、同じ評価を行った。
また、PETフィルム(厚み12μm)とCPPフィルム(厚み50μm)とのラミネートフィルムからなる袋B(サイズ:150mm×190mm、シール幅:10mm)に、前記試験例1で作製した例4のエタノール包装袋をそれぞれ10個ずつ脱気包装して集積包装体を作製し、同じ評価を行った。
その結果、袋Aで脱気包装した場合、エタノール包装袋の重量減少は10個のエタノール包装袋のいずれも0.05g未満であった。
一方、袋Aで含気包装した場合、エタノール包装袋に0.1g〜0.2gの重量減少があり、袋Bで脱気包装した場合、エタノール包装袋に0.3g以上の重量減少があった。
【0026】
上記のように、エタノール濃度が20%以上60%未満のエタノール水溶液をONyフィルム/EVAの多層フィルム製の袋に充填密封することで、紙粉の発生がなく、食品でのカビの発生を防止できるエタノール包装袋を得ることができる。また、該エタノール包装袋は、印刷が可能であり、衛生上または安全上の問題を生じることもない。
また、該エタノール包装袋を、透明性を有するアルミナ蒸着フィルムや酸化ケイ素蒸着フィルムをエタノールガスに対するバリア層として有するフィルム製の袋を包装材料として使用し、脱気包装することで、該エタノール包装袋を長期間安定して保存することができ、さらにエタノール包装袋の状態を包装体外部から目視により確認することができる。
また、透明性を有するアルミナ蒸着フィルムや酸化ケイ素蒸着フィルムをエタノールガスに対するバリア層として有するフィルム製の袋を食品保存容器として使用することで、エタノール包装袋に充填するエタノール量を少なくでき、カビ増殖抑制効果を効率よく発揮させることができ、さらに食品の状態を食品包装体外部から目視により確認することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
袋状の包材内にエタノール水溶液を充填し、密封してなる食品保存用エタノール包装袋であって、
前記袋状の包材が、表面に印刷が施された延伸ナイロンフィルムと、該延伸ナイロンフィルムの前記印刷が施された面上に積層されたエチレン−酢酸ビニル共重合体層とからなる多層フィルムで構成されることを特徴とする食品保存用エタノール包装袋。
【請求項2】
前記エタノール水溶液のエタノール濃度が20質量%以上60質量%未満である、請求項1に記載の食品保存用エタノール包装袋。
【請求項3】
前記延伸ナイロンフィルムの厚みが15μm以下であり、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体層の厚みが30μm以下である、請求項1または2に記載の食品保存用エタノール包装袋。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の食品保存用エタノール包装袋を保存する方法であって、
1個または複数個の前記食品保存用エタノール包装袋を、ガス状のエタノールに対するバリア性を有する包装材料を用いて脱気包装することを特徴とする保存方法。
【請求項5】
前記包装材料が、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素を蒸着したフィルムからなるガスバリア層と、熱溶着が可能な熱可塑性樹脂層とを備える多層フィルムで構成される袋である、請求項4に記載の保存方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の食品保存用エタノール包装袋を使用する方法であって、
エタノールガスに対してバリア性を有する密閉可能な食品保存容器に前記エタノール包装袋を食品とともに収納した後、該食品保存容器を密閉した状態で保持することを特徴とする使用方法。
【請求項7】
前記エタノール包装袋として、前記食品保存容器内に収納し、密閉した時点から24時間後のヘッドスペース内のエタノールガス濃度が3%以上となるように設定されたものを使用する、請求項6に記載の使用方法。
【請求項8】
前記食品保存容器が、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素を蒸着したフィルムからなるガスバリア層と、熱溶着が可能な熱可塑性樹脂層とを備える多層フィルムで構成される袋、または前記ガスバリア層を備えるフィルムで構成される蓋材を備えた容器である、請求項6または7に記載の使用方法。

【公開番号】特開2011−184063(P2011−184063A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49852(P2010−49852)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【出願人】(510063328)株式会社エス・パッケージ (1)
【Fターム(参考)】