説明

食品廃棄物のメタン発酵処理方法及び該システム

【課題】高脂質含有食品廃棄物の分解性を改善し効率よくメタン発酵処理できるとともに、加温に必要なエネルギーを節減することができる食品廃棄物のメタン発酵処理方法及び該システムを提供する。
【解決手段】脂質含有率が高い高脂質含有食品廃棄物21と他の食品廃棄物23とを同一のメタン発酵槽7内にて中温発酵温度でメタン発酵処理する食品廃棄物のメタン発酵処理方法において、高脂質含有食品廃棄物21と他の食品廃棄物23を夫々別個の前処理設備1、4にて破砕、選別した後、高脂質含有食品廃棄物22を第1調整槽2で加温して可溶化するとともに、他の食品廃棄物22を第2調整槽5で加温して可溶化し、これらの第1調整槽2、5から排出される液状廃棄物22、24を夫々メタン発酵槽7に供給するようにし、第1調整槽2を第2調整槽5より高い温度に設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高脂質含有食品廃棄物を含む食品廃棄物をメタン発酵処理する食品廃棄物のメタン発酵処理方法及び該システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機性廃棄物の処理方法として、環境負荷が小さく且つエネルギーや資源を回収できるメタン発酵処理が広く用いられている。このうち、厨芥、食品加工残渣等の食品廃棄物は、一般に図5に示される処理フローによりメタン発酵処理される。食品廃棄物は固形物濃度が数万〜数十万mg/lと高く、且つ粗大な固形物を多く含むため、まず前処理設備51で破砕や選別等の前処理を行った後、調整槽52で希釈水を加えて可溶化処理を行う。調整槽52では、槽内温度を40℃程度とし食品廃棄物を加温することにより、廃棄物中の有機物を可溶化、加水分解して低分子化する。調整槽52から排出される液状廃棄物は、メタン発酵槽53にてメタン生成菌の分解作用によりメタン発酵処理される。メタン発酵処理で発生したバイオガスは、ガスホルダ54に回収され脱硫塔55で脱硫された後、ガスエンジン56等のガス利用設備にて有効利用される。一方、メタン発酵槽53から引き抜かれた消化汚泥は、水処理設備57にて処理される。
【0003】
メタン発酵処理には、中温メタン発酵と高温メタン発酵がある。中温メタン発酵は、温度37℃付近に活性のピークがある中温菌により分解が行われ、高温メタン発酵は、温度55℃付近に活性のピークがある高温菌により分解が行われる。通常メタン発酵処理を行う場合、高温メタン発酵か中温メタン発酵の何れかに適した温度に管理される。食品廃棄物に含まれる脂質は、温度が高い方が粘度が低く分散性がよくなり分解率が高くなるため、高温メタン発酵が適していると考えられている。しかし、高温メタン発酵は処理速度が速く分解率は高いが、アンモニアの阻害があり中温メタン発酵よりも安定ではないという問題がある。また、脂質を含有する食品廃棄物を単独でメタン発酵処理することは少なく、他の食品廃棄物と混合してメタン発酵処理することが多いため、高温メタン発酵を採用すると加温のエネルギーが極めて大きくなってしまうことから中温メタン発酵が用いられることが多い。
【0004】
食品廃棄物を中温メタン発酵するとき、チーズ、バター、サラダ油等の高脂質含有食品廃棄物が搬入された場合、調整槽において他の食品廃棄物と混合して可溶化処理するが、脂質は難分解性であるため、十分な可溶化、低分子化が行えないまま、他の食品廃棄物とともにメタン発酵槽へ投入されると、脂質は界面活性剤の役割を果たし、メタン発酵槽内の発酵液の表面張力を低下させ発泡を引き起こしたり、温度が低いと固まるためメタン発酵槽上部に蓄積し、スカム形成の原因になったりし、バイオガス排出の障害を引き起こすなど、トラブルの要因となる。
【0005】
そこで特許文献1(特許第3609332号公報)には、油脂含有廃棄物に固形有機性廃棄物を混合し、40℃以上80℃以下の加温条件で加温し、油脂を可溶化した後にメタン発酵処理する方法が開示されている。
また、特許文献2(特開2004−330153号公報)には、有機性廃棄物のうち、セルロース系及び/又は脂質系有機性廃棄物を高温酸発酵する工程Aと、たんぱく質系有機性廃棄物を工程Aより高い温度で且つ微好気条件で酸発酵する工程Bとを備え、これらの処理液を易分解性有機性廃棄物とともにメタン発酵する方法が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特許第3609332号公報
【特許文献2】特開2004−330153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、高脂質含有食品廃棄物を含む食品廃棄物をメタン発酵処理する場合、脂質が難分解性であるため、メタン発酵槽にスカムが発生したりバイオガス排出に障害が生じるなどのトラブルが発生する惧れがあった。
特許文献1に記載されるように、固形有機性廃棄物を混合した油脂含有廃棄物を加温して可溶化する方法では、分解性は向上するが、固形有機性廃棄物と油脂含有廃棄物の全量を、油脂が可溶化される温度に加温しているため、加温に必要とされるエネルギーが増大し、ランニングコストが増加するという問題がある。
【0008】
また、特許文献2に記載される方法は、たんぱく質系有機性廃棄物をより高い温度で酸発酵し、たんぱく質の分解性を改善することを目的としているが、たんぱく質を多く含有する廃棄物は汚泥等であり、食品廃棄物中のたんぱく質は、比較的易分解であり、問題となることは少ない。また、易分解性有機性廃棄物をメタン発酵槽に直接投入しているが、食品廃棄物の場合、粗大な固形物を多く含むため前処理せずにメタン発酵することは困難である。さらに、高温発酵槽を2つ設けた構成としているが、これによりメタン発酵槽に投入された処理液が中温発酵温度よりも高くなることが考えられ、冷却装置を備える必要が生じるため熱効率が低下する惧れがあった。
従って、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、高脂質含有食品廃棄物の分解性を改善し効率よくメタン発酵処理できるとともに、加温に必要なエネルギーを節減することができる食品廃棄物のメタン発酵処理方法及び該システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明はかかる課題を解決するために、
脂質含有率が高い高脂質含有食品廃棄物と、該高脂質含有食品廃棄物を除く他の食品廃棄物とを同一のメタン発酵槽内にて中温発酵温度でメタン発酵処理する食品廃棄物のメタン発酵処理方法において、
前記高脂質含有食品廃棄物と前記他の食品廃棄物を夫々別個の前処理装置にて破砕、選別した後、前記高脂質含有食品廃棄物を第1調整槽で加温して可溶化するとともに、前記他の食品廃棄物を第2調整槽で加温して可溶化し、これらの調整槽から排出される液状廃棄物を夫々前記メタン発酵槽に供給するようにし、
前記第1調整槽を前記第2調整槽より高い温度に設定したことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、分解性が悪くメタン発酵が難しい高脂質含有食品廃棄物を、効率的に且つ安定してメタン発酵処理することが可能となり、またバイオガスの回収量を増加させより多くのエネルギーを回収することが可能となる。
即ち、高脂質含有食品廃棄物と他の食品廃棄物とを夫々別個の調整槽にて可溶化処理し、高脂質含有食品廃棄物を可溶化する第1調整槽を他の食品廃棄物を可溶化する第2調整槽よりも高い温度に設定することにより、高脂質含有食品廃棄物を速い速度で、且つメタン発酵が可能な状態まで十分に分解、低分子化することが可能となる。また高脂質含有食品廃棄物と他の食品廃棄物を一緒に可溶化する場合に比べて、調整槽の大きさを大幅に低減可能で、且つ加温に必要なエネルギーを節減することが可能となり、ランニングコストの低減が可能となる。尚、高脂質含有食品廃棄物は、例えば有機物中の脂質が10%以上である食品廃棄物とする。
【0011】
また、前記第1調整槽から前記メタン発酵槽に供給される高脂質含有食品廃棄物の熱量と、前記第2調整槽から前記メタン発酵槽に供給される他の食品廃棄物の熱量の計が、前記メタン発酵槽内の温度を前記中温発酵温度に維持するために必要とされる熱量以下となるように、夫々の液状廃棄物の流量を調整することを特徴とする。
これにより、加温された液状廃棄物の流入によりメタン発酵槽内の温度がメタン処理温度より高くなり、冷却装置等により冷却しなければならない事態を回避できる。
【0012】
また、前記第1調整槽に、酵素、酸化促進剤、アルカリ剤の少なくとも何れか1つからなる分解促進剤を添加することを特徴とする。
これにより、高脂質含有食品廃棄物の分解、低分子化をより一層促進することができ、メタン発酵の高効率化、バイオガス回収率の向上が可能となる。
【0013】
さらに、前記メタン発酵槽から引き抜かれた消化汚泥を硝化脱窒処理することを特徴とする。
高脂質含有食品廃棄物中には窒素分が多く含まれるため、硝化脱窒処理することにより消化汚泥に残留する窒素分を除去することができる。また、従来のシステムでは、高脂質含有食品廃棄物は分解性が悪いためメタン発酵処理を行った後に未分解の脂質が残存することがあるが、未分解の脂質は酸素を消費してしまい、硝化脱窒処理の阻害となることがあった。しかし本発明のシステムによれば、高温の第1調整槽を設けることによりメタン発酵槽で脂質も十分に分解することができるため、硝化脱窒処理を安定して行うことが可能となる。
【0014】
さらにまた、前記硝化脱窒処理した処理水の少なくとも一部を返送し、前記調整槽の希釈水として用いることを特徴とする。
これにより、排水量を低減することが可能であり、また希釈水を外部から供給する必要がなくなるため、ランニングコストを削減することが可能である。
【0015】
また、脂質含有率が高い高脂質含有食品廃棄物と、該高脂質含有食品廃棄物を除く他の食品廃棄物とを中温発酵温度でメタン発酵処理するメタン発酵槽を備えた食品廃棄物のメタン発酵処理システムにおいて、
前記高脂質含有食品廃棄物と前記他の食品廃棄物を破砕、選別する前処理装置を夫々別個に設けるとともに、
前記前処理した高脂質含有食品廃棄物を加温して可溶化する第1調整槽と、前記前処理した他の食品廃棄物を加温して可溶化する第2調整槽とを設け、
前記第1調整槽を前記第2調整槽より高い温度に設定したことを特徴とする。
【0016】
さらに、前記第1調整槽から前記メタン発酵槽への高脂質含有食品廃棄物の流量を調整する第1流量調整手段と、前記第2調整槽から前記メタン発酵槽への他の食品廃棄物の流量を調整する第2流量調整手段と、を備え、
前記メタン発酵槽に供給される高脂質含有食品廃棄物の熱量と他の食品廃棄物の熱量の計が、前記メタン発酵槽内の温度を前記中温発酵温度に維持するために必要とされる熱量以下となるように、前記第1流量調整手段と前記第2流量調整手段を制御することを特徴とする。
【0017】
また、前記第1調整槽は40℃〜80℃に設定され、前記第2調整槽は前記中温発酵温度以下に設定されることが好適である。
さらに、前記第1調整槽に、酵素、酸化促進剤、アルカリ剤の少なくとも何れか1つからなる分解促進剤を添加する分解促進剤添加装置を設けたことを特徴とする。
さらにまた、前記メタン発酵槽から引き抜かれた消化汚泥を硝化脱窒処理する硝化・脱窒処理装置を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
以上記載のごとく本発明によれば、分解性が悪くメタン発酵が難しい高脂質含有食品廃棄物を、効率的に且つ安定してメタン発酵処理することが可能となり、またバイオガスの回収量を増加させより多くのエネルギーを回収することが可能となる。
即ち、高脂質含有食品廃棄物を、専用の第1調整槽にて高い温度で可溶化処理することにより、高脂質含有食品廃棄物を速い速度で、且つメタン発酵が可能な状態まで十分に分解、低分子化することが可能となり、また調整槽の大きさを大幅に低減可能で、加温に必要なエネルギーを節減することが可能となる。
また、メタン発酵槽内の温度を中温発酵温度に維持するために必要とされる熱量以下となるように、夫々の液状廃棄物の流量を調整することにより、加温された液状廃棄物の流入によりメタン発酵槽内の温度がメタン処理温度より高くなり、冷却装置等により冷却しなければならない事態を回避できる。
【0019】
さらに、第1調整槽に分解促進剤を添加することにより、高脂質含有食品廃棄物の分解、低分子化をより一層促進することができ、メタン発酵の高効率化、バイオガス回収率の向上が可能となる。
さらにまた、メタン発酵槽から引き抜かれた消化汚泥を硝化脱窒処理することにより消化汚泥に残留する窒素分、特にアンモニアを除去することができる。また、第1調整槽を設けることによりメタン発酵槽で脂質も十分に分解することができるため、硝化脱窒処理を安定して行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0021】
図1に示されるように、本発明の第1実施形態に係る食品廃棄物の処理システムは、高脂質含有食品廃棄物21が投入され、破砕、選別等の前処理を行う前処理設備1と、前処理された高脂質含有食品廃棄物を加温して可溶化処理する第1調整槽2と、高脂質含有食品廃棄物21を除く他の食品廃棄物23が投入され、破砕、選別等の前処理を行う前処理設備4と、前処理された他の食品廃棄物を加温して可溶化処理する第2調整槽5と、第1調整槽2からの液状廃棄物(高脂質含有食品廃棄物)22が圧送ポンプ3により供給されるとともに、第2調整槽5からの液状廃棄物(他の食品廃棄物)24が圧送ポンプ6により供給され、これらの液状廃棄物を中温発酵温度にてメタン発酵するメタン発酵槽7と、を備える。
【0022】
前記前処理設備1に投入される高脂質含有食品廃棄物21は、例えばチーズ、バター、サラダ油等の脂質含有率が高い食品廃棄物である。好適には、有機物中の脂質が10%以上である食品廃棄物とする。前処理設備1は、食品廃棄物をメタン発酵に適したものにする前処理を行う設備であり、破砕、選別の少なくとも何れかの処理を含む。破砕はメタン発酵に適した大きさに食品廃棄物を破砕する。選別は、ビニールやプラスチック等のメタン発酵に不適なものを除去する。前処理設備1としては、回転式選別機、回転ブレード式破砕選別機、選択破砕選別機、圧縮選別機、湿式粉砕選別機等が用いられる。
前記前処理設備4は、前記前処理設備1と同様の構成が用いられる。該前処理設備4に投入される他の食品廃棄物23は、高脂質含有廃棄物21を除く、厨芥、食品加工残渣等の食品廃棄物である。
【0023】
前記第1調整槽2には、前処理設備1で前処理された高脂質含有食品廃棄物21が供給されるとともに、希釈水30が供給される。該第1調整槽2は加熱手段(図示略)により加温され、高脂質含有食品廃棄物21を可溶化処理する。好適には、第1調整槽2は40℃〜80℃に加温される。可溶化処理では、固形物を低分子化して溶解性にする。このとき、一部酸発酵が行われることも含む。
前記第2調整槽5には、前処理設備4で前処理された他の食品廃棄物23が供給されるとともに、希釈水31が供給される。該第2調整槽5は加熱手段(図示略)により第1調整槽2より低い温度で加温され、他の食品廃棄物23を可溶化処理する。好適には、第2調整槽5はメタン発酵槽7の温度(中温発酵温度)以下とする。さらに好適には30℃以上40℃未満に加温される。また、調整槽2、5は、希釈水30、31による水量調整や濃度調整、撹拌手段による混合が行われる。
【0024】
前記メタン発酵槽7は、第1調整槽2からの高脂質含有食品廃棄物22が圧送ポンプ3により供給されるとともに、第2調整槽5からの他の食品廃棄物24が圧送ポンプ6により供給される。このとき、メタン発酵槽7の前段に混合槽(図示略)を設け、液状廃棄物22、24を予め混合した後、メタン発酵槽7に供給するようにしてもよい。
該メタン発酵槽7はメタン生成菌が卓越して繁殖できる環境に温度、pH等の条件が維持されており、槽内で有機物を主にガス化反応によって分解処理することによりバイオガスを生成させる。メタン発酵槽7の温度は、加熱手段(図示略)により30〜40℃、好適には35±2℃の中温に維持される。混合液は撹拌手段により撹拌されながら所定の滞留時間保持される。
【0025】
以上の構成を有する処理システムについて、その作用を処理方法とともに説明する。
高脂質含有食品廃棄物21は、前処理設備1にて破砕、選別等の前処理が施された後、第1調整槽2にて希釈水30を供給し、40〜80℃の温度に加温され、可溶化処理される。該第1調整槽2には難分解性の高脂質含有食品廃棄物が供給されるが、40〜80℃の高温に加温されることから脂質が十分に溶解し、低分子化される。一方、他の食品廃棄物23は、前処理設備4にて破砕、選別等の前処理が施された後、第2調整槽5にて希釈水31を供給し、第1調整槽2より低い温度、好適にはメタン発酵槽7の温度(中温発酵温度)以下、さらに好適には30℃以上40℃未満の温度に加温され、可溶化処理される。該第2調整槽5に供給される食品廃棄物には脂質は殆ど含まれないため、40℃未満の温度で容易に可溶化する。
【0026】
第1調整槽2からの高脂質含有食品廃棄物22は、圧送ポンプ3によりメタン発酵槽7に送給されるとともに、第2調整槽5からの他の食品廃棄物24は、圧送ポンプ6によりメタン発酵槽7に送給される。このとき、夫々の液状廃棄物22、24の流量は、圧送ポンプ3、6により調整される。
メタン発酵槽7では、高脂質含有食品廃棄物22と他の食品廃棄物24の混合液がメタン発酵され、バイオガス25が発生するとともに消化汚泥26が発生する。バイオガス25は、回収してメタン利用設備にて有効利用することが好ましい。一例として、バイオガス25をガスホルダ12に回収し、該バイオガス25を脱硫塔13にて脱硫した後、ガスエンジン14の燃料とする。消化汚泥26は、圧送ポンプ8にて水処理設備9に送給し、該水処理設備9にて曝気処理、活性汚泥処理等の水処理を行った後、脱水機10にて脱水し、処理水27は液肥等に利用するために場外に搬出する。脱水機10からの脱水汚泥は、乾燥機11にて乾燥し、乾燥汚泥28は焼却処理、燃料化処理、埋立処理等を行うために場外に搬出する。
【0027】
本実施形態によれば、分解性が悪くメタン発酵が難しい高脂質含有食品廃棄物21を、効率的に且つ安定してメタン発酵処理することが可能となり、またバイオガスの回収量を増加させより多くのエネルギーを回収することが可能となる。
即ち、高脂質含有食品廃棄物21と他の食品廃棄物23とを夫々別個の調整槽2、5にて可溶化処理し、高脂質含有食品廃棄物を可溶化する第1調整槽2を他の食品廃棄物を可溶化する第2調整槽5よりも高い温度に設定することにより、高脂質含有食品廃棄物21を、速い速度で且つメタン発酵が可能な状態まで十分に分解、低分子化することが可能となる。また高脂質含有食品廃棄物21と他の食品廃棄物23を一緒に可溶化する場合に比べて、調整槽の大きさを大幅に低減可能で、且つ加温に必要なエネルギーを節減することが可能となり、ランニングコストの低減が可能となる。
【0028】
また、図2に示すように、本実施形態において、メタン発酵槽7に供給する液状廃棄物22、24の流量を夫々調整する制御を行うことが好ましい。
第1調整槽2からメタン発酵槽7に供給される高脂質含有食品廃棄物22の熱量と、第2調整槽5からメタン発酵槽7に供給される他の食品廃棄物24の熱量の計が、メタン発酵槽7内の温度を中温発酵温度に維持するために必要とされる熱量以下となるように、夫々の液状廃棄物22、24の流量を制御装置35により制御する。
【0029】
具体的には、以下のように制御される。
Aにおける高脂質含有食品廃棄物22の熱量をQ=m・t(質量:m、温度:t)、Bにおける他の食品廃棄物24の熱量をQ=m・t(質量:m、温度:t)、Cにおけるメタン発酵槽内の混合液の熱量をQ=m・t(質量:m、温度:t)、Dにおけるメタン発酵槽からの放熱量をQ、Eにおけるバイオガスの熱量をQ=m・t(質量:m、温度:t)、Fにおける引き抜き消化汚泥の熱量をQ=m・t(質量:m、温度:t)とすると、メタン発酵槽内混合液の入熱はQ+Q、メタン発酵槽内混合液からの出熱はQ+Q+Qとなり、メタン発酵槽内混合液の熱量Qは以下の式(1)となる。
=Q+Q−(Q+Q+Q) ・・・(1)
これは、以下の式(2)で表される。
=m・t+m・t−Q−(m+m)・t ・・・(2)
【0030】
ここから、メタン発酵槽内の温度tは以下の式(3)で表される。
=(m・t+m・t−Q)÷(m+m+m) ・・・(3)
そして、メタン発酵槽内の温度tが、メタン発酵処理の温度(中温発酵温度)と同等若しくはこれより低くなるように設定する。
≦メタン発酵処理温度 ・・・(4)
従って、上記式(3)と式(4)を満たすように、制御装置35により圧送ポンプ3、6を制御し、高脂質含有食品廃棄物22の質量mを流量調整するとともに、他の食品廃棄物24の質量mを流量調整する。尚、式(4)において、tは40℃〜80℃の所定温度、tはtより低い所定温度、m、m、mは反応によって決定する量である。
これにより、加温された液状廃棄物22、24の流入によりメタン発酵槽7内の温度が中温発酵温度より高くなり冷却装置等により冷却しなければならない事態を回避できる。
【0031】
図3は、本発明の第2実施形態に係る処理システムのブロック図である。尚、以下に示す第2実施形態、第3実施形態において、上記した第1実施形態と同様の構成については、その詳細な説明を省略する。
図3に示すように、第2実施形態では、高脂質含有食品廃棄物21を可溶化する第1調整槽2に分解促進剤33を添加する分解促進剤添加装置15を設けた構成としている。分解促進剤添加装置15としては、酵素添加装置、酸化促進剤注入装置、アルカリ注入装置等が用いられ、これらのうち少なくとも一つ、或いは複数の組み合わせとする。
【0032】
酵素添加装置は、脂質を分解する酵素を添加する装置であり、酵素としてはリパーゼ等が用いられる。リパーゼは、脂質のエステル結合を加水分解し、脂質の低分子化を促進する。
酸化促進剤注入装置は、脂質の酸化を促進する酸化剤を添加する装置であり、酸化剤としては、オゾン、過酢酸、過酸化水素等が用いられる。酸化剤はその強力な酸化力により有機物を酸化分解する作用を有しており、脂質の低分子化にも有効である。
アルカリ注入装置は、脂質をアルカリ分解するアルカリ剤を添加する装置であり、アルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム等が用いられる。アルカリ剤は有機物の加水分解反応を促進させる作用を有しており、脂質の低分子化にも有効である。
本実施形態によれば、高脂質含有食品廃棄物21の分解、低分子化をより一層促進することができ、メタン発酵の高効率化、バイオガス回収率の向上が可能となる。
【0033】
図4は、本発明の第3実施形態に係る処理システムのブロック図である。図4に示すように、第3実施形態では、メタン発酵槽7から引き抜かれた消化汚泥26を処理する水処理設備9として、硝化・脱窒設備9aを備えた構成としている。硝化・脱窒設備9aは、脱窒素槽、硝化槽等を組み合わせた周知の装置であり、消化汚泥26に含まれるBOD、窒素を除去する。これにより、下水放流基準を満たす処理水とすることができる。
【0034】
本実施形態によれば、高脂質含有食品廃棄物21中には窒素分が多く含まれるため、硝化・脱窒設備9aを備えることにより、メタン発酵槽7からの消化汚泥26に残留する窒素分、特にアンモニアを除去することができる。また、従来のシステムでは、高脂質含有食品廃棄物21は分解性が悪いためメタン発酵処理を行った後に未分解の脂質が残存することがあるが、未分解の脂質は酸素を消費してしまい、硝化脱窒処理の阻害となることがあった。しかし本実施形態のシステムによれば、高温の第1調整槽2を設けることによりメタン発酵槽7にて脂質も十分に分解することができるため、硝化脱窒処理を安定して行うことが可能となる。
【0035】
また、好適には、硝化・脱窒設備9aからの処理水若しくは脱水機10からの処理水の少なくとも一部を返送し、第1調整槽2及び/又は第2調整槽5の希釈水34、35として用いるとよい。これにより、排水量を低減することが可能であり、また希釈水を外部から供給する必要がなくなるため、ランニングコストを削減することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、分解性が悪くメタン発酵が難しい高脂質含有食品廃棄物であっても、効率的に且つ安定してメタン発酵処理することが可能で、またより多くのエネルギーを回収することが可能であるため、厨芥、食品加工残渣等の処理システムに幅広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1実施形態に係る処理システムのブロック図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る処理システムの制御方法を説明する図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る処理システムのブロック図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る処理システムのブロック図である。
【図5】従来のメタン発酵処理システムを示すブロック図である。
【符号の説明】
【0038】
1、4 前処理設備
2 第1調整槽
3、6、8 圧送ポンプ
5 第2調整槽
7 メタン発酵槽
9 水処理設備
9a 硝化・脱窒設備
10 脱水機
11 乾燥機
21 高脂質含有食品廃棄物
22 液状廃棄物(高脂質含有食品廃棄物)
23 他の食品廃棄物
24 液状廃棄物(他の食品廃棄物)
25 バイオガス
26 消化汚泥
30、31 希釈水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質含有率が高い高脂質含有食品廃棄物と、該高脂質含有食品廃棄物を除く他の食品廃棄物とを同一のメタン発酵槽内にて中温発酵温度でメタン発酵処理する食品廃棄物のメタン発酵処理方法において、
前記高脂質含有食品廃棄物と前記他の食品廃棄物を夫々別個の前処理装置にて破砕、選別した後、前記高脂質含有食品廃棄物を第1調整槽で加温して可溶化するとともに、前記他の食品廃棄物を第2調整槽で加温して可溶化し、これらの調整槽から排出される液状廃棄物を夫々前記メタン発酵槽に供給するようにし、
前記第1調整槽を前記第2調整槽より高い温度に設定したことを特徴とする食品廃棄物のメタン発酵処理方法。
【請求項2】
前記第1調整槽から前記メタン発酵槽に供給される高脂質含有食品廃棄物の熱量と、前記第2調整槽から前記メタン発酵槽に供給される他の食品廃棄物の熱量の計が、前記メタン発酵槽内の温度を前記中温発酵温度に維持するために必要とされる熱量以下となるように、夫々の液状廃棄物の流量を調整することを特徴とする請求項1記載の食品廃棄物のメタン発酵処理方法。
【請求項3】
前記第1調整槽に、酵素、酸化促進剤、アルカリ剤の少なくとも何れか1つからなる分解促進剤を添加することを特徴とする請求項1若しくは2記載の食品廃棄物のメタン発酵処理方法。
【請求項4】
前記メタン発酵槽から引き抜かれた消化汚泥を硝化脱窒処理することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の食品廃棄物のメタン発酵処理方法。
【請求項5】
前記硝化脱窒処理した処理水の少なくとも一部を返送し、前記調整槽の希釈水として用いることを特徴とする請求項4記載の食品廃棄物のメタン発酵処理方法。
【請求項6】
脂質含有率が高い高脂質含有食品廃棄物と、該高脂質含有食品廃棄物を除く他の食品廃棄物とを中温発酵温度でメタン発酵処理するメタン発酵槽を備えた食品廃棄物のメタン発酵処理システムにおいて、
前記高脂質含有食品廃棄物と前記他の食品廃棄物を破砕、選別する前処理装置を夫々別個に設けるとともに、
前記前処理した高脂質含有食品廃棄物を加温して可溶化する第1調整槽と、前記前処理した他の食品廃棄物を加温して可溶化する第2調整槽とを設け、
前記第1調整槽を前記第2調整槽より高い温度に設定したことを特徴とする食品廃棄物のメタン発酵処理システム。
【請求項7】
前記第1調整槽から前記メタン発酵槽への高脂質含有食品廃棄物の流量を調整する第1流量調整手段と、前記第2調整槽から前記メタン発酵槽への他の食品廃棄物の流量を調整する第2流量調整手段と、を備え、
前記メタン発酵槽に供給される高脂質含有食品廃棄物の熱量と他の食品廃棄物の熱量の計が、前記メタン発酵槽内の温度を前記中温発酵温度に維持するために必要とされる熱量以下となるように、前記第1流量調整手段と前記第2流量調整手段を制御することを特徴とする請求項6記載の食品廃棄物のメタン発酵処理システム。
【請求項8】
前記第1調整槽は40℃〜80℃に設定され、前記第2調整槽は前記中温発酵温度以下に設定されることを特徴とする請求項1若しくは2記載の食品廃棄物のメタン発酵処理システム。
【請求項9】
前記第1調整槽に、酵素、酸化促進剤、アルカリ剤の少なくとも何れか1つからなる分解促進剤を添加する分解促進剤添加装置を設けたことを特徴とする請求項6乃至8の何れかに記載の食品廃棄物のメタン発酵処理システム。
【請求項10】
前記メタン発酵槽から引き抜かれた消化汚泥を硝化脱窒処理する硝化・脱窒処理装置を設けたことを特徴とする請求項6乃至9の何れかに記載の食品廃棄物のメタン発酵処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−248040(P2009−248040A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−101507(P2008−101507)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(501370370)三菱重工環境エンジニアリング株式会社 (175)
【Fターム(参考)】