説明

食品機械用摺動材料

【課題】
高機械的強度と潤滑油高配合とを両立させ、法律上の衛生基準を満たすことができる食品機械用摺動材料を提供する。
【解決手段】
30%以上の連通孔率を有する樹脂多孔質体に潤滑油を含浸してなる食品機械用摺動材料であって、上記樹脂多孔質体は、樹脂よりも高融点を有し、かつ食品用材料として使用可能である気孔形成材が配合された樹脂を成形して成形体とした後、上記樹脂を溶解しない溶媒を用いて上記成形体から上記気孔形成材を抽出して得られる連通孔を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品機械用摺動材料に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油を含浸させ潤滑機能をもたせた摺動材料には、古くから潤滑油を配合した樹脂材料が使用されている。この手法の場合、基材となる樹脂と潤滑油の親和性調整、潤滑油の導通路となる充填材の配合、混合条件の調整などで摺動特性の向上を目指してきた。
また、近年では、潤滑油を含浸した多孔質シリカを配合した樹脂材料を用いることで、さらなる摺動特性の向上が実現した(特許文献1)。
食品機械は、例えば食品原料や食用製品(または半製品)を材料を混合、混練、加熱、乾燥、冷却、充填、包装、貯蔵等する際に用いられる機械類であり、食品原料や製品(または半製品)と直接または間接的に接触し、特に水や食塩に接触することの多い機械類である。
【0003】
そして、このような食品機械にも、他の機械類と同様に軸受その他の摺動部品が装着されており、このような部品から人体に有毒な成分が流出して食品中に混入することを防止する必要があり、法律上の衛生基準に従って上記部品を構成する樹脂、金属、潤滑油、グリースおよび各種添加剤等の各種材料について選定する必要がある。
食品用途における各種材料についての法律上の衛生基準としては、食品衛生法で定められた食品、添加物等の規格基準(厚生労働省告示)、FDA(米国食品医薬品局)およびUSDA(米国農務省)のH−1規格(直接食品に接触させても人体に対して全く無害であるという評価基準)等の認可基準がよく知られており、一般工業用材料とは別に食品機械用材料として使用可能な成分が規定されている。
【0004】
食品機械用材料として樹脂材料に潤滑油を配合する場合、樹脂の成形温度に耐える耐熱性を有する潤滑油を選定する必要があることから、高融点のスーパーエンプラは使用することができず、また低い分解温度を持つ潤滑油も使用することができない。また、繊維強化材などを配合して強度を向上させる場合、繊維と樹脂の濡れ性が重要となるが、潤滑油が介在するため十分に強度を向上させることがむつかしい。また、射出成形時に樹脂とスクリューの間での滑りを生じさせず、安定したフィードを確保するため配合できる潤滑油は最大でも 10 体積%程度であり、使用条件によっては潤滑油量が不足する場合がある。
【0005】
潤滑油を含浸した多孔質シリカを配合した樹脂材料(特許文献1)は、潤滑油配合量の問題を改善したものであるが、潤滑油配合料は最大で 30 体積%であり、過酷な使用環境では潤滑油不足となる可能性がある。また、樹脂種と潤滑油の制限は残っており、耐熱性を必要とする用途などでは使用できないという問題がある。
【特許文献1】特開2002−129183号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、潤滑油を含有する摺動材料において、高機械的強度と潤滑油高配合とを両立させ、法律上の衛生基準を満たすことができる食品機械用摺動材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の食品機械用摺動材料は、30%以上の連通孔率を有する樹脂多孔質体に潤滑油を含浸してなる食品機械用摺動材料であって、上記樹脂多孔質体は、樹脂よりも高融点を有し、かつ食品用材料として使用可能である気孔形成材が配合された樹脂を成形して成形体とした後、上記樹脂を溶解しない溶媒を用いて上記成形体から上記気孔形成材を抽出して得られる連通孔を有することを特徴とする。
上記気孔形成材は、食品または食品添加剤であることを特徴とする。
上記食品添加剤は、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、三リン酸ナトリウム、炭酸カリウムおよび硫酸カリウムから選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属塩であることを特徴とする。
上記樹脂は、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、フッ素樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(以下、PEEK と略称する。)樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂および生分解性樹脂から選ばれる少なくとも1つの樹脂であることを特徴とする。
上記潤滑油は、流動パラフィン油、ポリαオレフィン油、植物油、動物油、フッ素油、エステル油、シリコーン油およびアルキレングリコール油から選ばれる少なくとも1つの油であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の食品機械用摺動材料は、樹脂多孔質体を成形した後に、該樹脂多孔質体に潤滑油を含浸させて得られるので、食品機械の用途や仕様に応じて樹脂と潤滑油の組合せを選択できる。この結果、優れた強度、耐熱性、低摩擦係数、耐摩耗性などを併せもつ食品機械用摺動材料とすることができる。また、バックメタルなどの補強部材を併用することなく、食品機械用摺動材料のみを用いて必要特性を満足する摺動部材を形成できる。
また、上記樹脂多孔質体が 30%以上の連通孔率を有するので、該食品機械用摺動材料から得られた摺動部材は、長期間にわたって潤滑油が食品機械用摺動材料より供給され、優れた耐久性を示す。また、回転に要するトルクが小さいので、モータなどの駆動装置に、本発明の食品機械用摺動材料により得られた滑り軸受や滑りシートを用いることにより、該装置を小型化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の食品機械用摺動材料は、食品用材料に使用できる気孔形成材が配合された樹脂を成形して成形体とした後、上記樹脂を溶解しない溶媒を用いて上記成形体から上記気孔形成材を抽出して得られた連通孔を有する樹脂多孔質体に潤滑油を含浸させることで得られる。
本発明の食品機械用摺動材料は、樹脂と潤滑油を食品機械の用途や仕様に応じて選択することにより、任意の摺動部材の材料として使用することができる。摺動部材としては、例えば、滑り軸受、歯車、滑りシート、シールリング、ローラ、転がり軸受の保持器、転がり軸受のシール、直動軸受のシール、ボールねじのボールとボールの間に入れるスペーサ、転がり軸受のレース、各種キャリッジなどが挙げられる。
【0010】
食品機械は、食品原料や食用製品(または半製品)の加工の際、食品原料や食用製品(または半製品)に直接接触する部分はもとより、食品機械に装着されている軸受その他の摺動部品等、食品原料や食用製品(または半製品)に直接接触しない部分であっても、部品から材料成分が流出して食品中に混入する可能性があり、食品用途における各種材料についての法律上の衛生基準である、食品衛生法で定められた食品、添加物等の規格基準、FDA規格およびUSDAのH−1規格等の認可基準にしたがって、一般工業用材料とは別に食品機械用材料を選定する必要がある。
以下、本発明の食品機械用摺動材料を構成する樹脂、気孔形成材、潤滑油、充填材などについて説明する。
【0011】
内部に気孔を有する多孔質体材料の気孔率について考える場合、多孔質体材料が1個の球体が集まった複数個の球体の集合体と、個々の球体間の間隙に存在する空間である気孔とからなると考えると、球体を点接触により最も密に充填する形態として面心立方格子、六方最密充填があり、それらの充填率は、(球の体積÷外接立方体の体積)÷(正三角形の高さ÷底辺)÷(正四面体の高さ÷一辺)で計算され、共に 74%である。(100−充填率)として定義される気孔率としては 26%になる。
以上の計算は、同一サイズの球体を考えた場合であるが、複数のサイズの球体を充填した場合は、六方最密充填よりも充填率は大きくなり、気孔率は小さくなる。
また、粉末状の球体樹脂粒子を圧縮成形した後に焼結する場合、点接触はあり得ず、球体樹脂粒子は変形して面接触する。このため、六方最密充填よりも充填率はより大きくなり、気孔率はより小さくなる。このため従来の焼結樹脂成形体の気孔率は 20%程度が限界となっている。
【0012】
本発明における連通孔率は、上記の気孔率と略同一定義で、かつ気孔が連続している状態の気孔率をいう。すなわち、相互に連続している気孔の総体積が樹脂成形体に占める割合をいう。
具体的には、連通孔率は数1内の式(1)に示す方法で算出した。
【数1】

上記、数1において、各符号の意味を以下に示す。
V;加熱圧縮成形法にて成形された洗浄前成形体の体積
ρ;加熱圧縮成形法にて成形された洗浄前成形体の密度
W;加熱圧縮成形法にて成形された洗浄前成形体の重量
1;樹脂粉末の体積
ρ1;樹脂粉末の密度
1;樹脂粉末の重量
2;気孔形成材の体積
ρ2;気孔形成材の密度
2;気孔形成材の重量
3;洗浄後の多孔質体の体積
3;洗浄後の多孔質体の重量
V'2;洗浄後に多孔質体に残存する気孔形成材の体積
【0013】
本発明においては、以下に述べる製造方法により、30%以上、好ましくは 30%〜90%、より好ましくは 30〜70%の連通孔率を有する樹脂多孔質体が得られる。
【0014】
本発明に使用できる樹脂多孔質体は、気孔形成材が配合された樹脂を成形して成形体とした後、上記樹脂を溶解しない溶媒を用いて成形体から気孔形成材を抽出して得られる。例えば、成形温度X℃の樹脂Aに、このX℃より高い融点Y℃を有する水溶性粉末Bを配合して、X℃で成形して成形体とした後、該成形体より水溶性粉末Bを水で抽出して多孔質体が得られる。
【0015】
本発明に使用できる超高分子量ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブテン樹脂もしくはこれらの共重合体からなる樹脂粉末、または上記単独の樹脂粉末を所要の割合で配合した混合樹脂粉末を採用することができる。各樹脂粉末の分子量は、粘度法によって測定される平均分子量が 150000 以上のものである。
また、本発明に使用できる高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂は、チーグラー系触媒を使用してエチレンを低圧重合法によって製造したものであり、平均分子量は、50000〜150000 (未満)のものである。
このような平均分子量の範囲にある超高分子量ポリオレフィン樹脂または高密度ポリエチレン樹脂は、剛性及び保油性においてそれぞれ低密度ポリエチレン樹脂より優れており、90℃に加熱してもほとんど流動することがない。
このような超高分子量ポリオレフィン樹脂または高密度ポリエチレン樹脂の摺動材料全体に対する配合割合は、95〜1 重量%であり、その範囲の配合量により組成物の所望の離油度、粘り強さおよび硬さが変化する。すなわち、超高分子量ポリオレフィン樹脂または高密度ポリエチレン樹脂の配合量が多い程、所定温度で分散保持させた後に固形化した成形体が硬くなる。
【0016】
これらのポリオレフィン系合成樹脂には、通常劣化を防止するために安定剤、具体的には酸化防止剤や、特に、耐候性を必要とする場合、必要に応じて紫外線吸収剤(光安定剤)が、材料自体に微量( 0.001〜0.05 重量%程度)含有されているのが普通である。そのため、ポリオレフィン系合成樹脂自体は有害ではないので、これらの安定剤を、人体に対して安全性が高いものの中から選択する。
【0017】
FDAが定める基準に適合し、しかもポリオレフィン系合成樹脂に有効な酸化防止剤としては、N,N'ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2(3)−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2,2'−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフエノール)、2,2'−メチレン−ビス−(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4'−メチレン−ビス−(2,6−t−ブチルフエノール)、2,2'−ジヒドロキシ−3,3'−ジ−(α−メチルシクロヘキシル)−5,5'−ジメチル−ジフェニルメタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、4,4'−チオビス−(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、1,1,3−トリス−(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、4,4'−ブチリデンビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、n−オクタデシル−3−(4'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−t−ブチル−フェニル)プロピオネート、テトラキス−[メチレン−3−(3',5'−ジ−t−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−ト]メタン、トリス(ノニル−フェニル)ホスファイト、トリス(混合モノノニルフェニルおよびジノニルフェニル)ホスファイト、ジラウリル−チオジプロピオネート、ジステアリル−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3'−チオジプロピオネート等がある。
【0018】
この中でより安全性を考慮するとその物質自体が安全物質としてFDAの基準に適合している酸化防止剤が好適であり、具体的には、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2(3)−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、ジラウリル−チオジプロピオネート等がある。
【0019】
FDAの基準に合格し、本発明のポリオレフィン系合成樹脂に有効な紫外線吸収剤(光安定剤)としては、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシ−ベンゾフェノン、2−(2'−ヒドロキシ−3'−t−ブチル−5'−メチル−フェニル)−5−クロロ−ベンゾトリアゾール等がある。
【0020】
上記説明した安定剤を微量含有するポリオレフィン系合成樹脂は、基本的にはFDAの基準に適合しており、本発明の食品機械用摺動材料の多孔質体を形成する樹脂材料として好適である。
このポリオレフィン系合成樹脂に必ずしも、これらの添加剤を含有させなくても良い。
【0021】
本発明に使用できる、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、フッ素樹脂は、食品衛生法で定められた食品、添加物等の規格基準、またはFDA規格によって食品に接触し混入した場合にも安全であることが確認された物質である。
ポリアミド樹脂(融点 179〜295℃、線膨張係数 8〜10×10-5cm/cm/℃)、ポリアセタール樹脂(融点 175〜181℃、線膨張係数 8.5〜10×10-5cm/cm/℃)、フッ素樹脂(融点 270〜330℃、線膨張係数 5.9〜10×10-5cm/cm/℃)は、いずれもその融点が超高分子量ポリオレフィンの融点より高く、線膨張係数も小さいことから、150 ℃の温度下で使用できる材料である。
【0022】
ポリアミド樹脂の具体例(括弧内に通称名を示す。)としては、ポリアミド11(11ナイロン)、ポリアミド12(12ナイロン)、ポリアミド46(46ナイロン)、ポリアミド6(ナイロン6)、ポリアミド6−6(66ナイロン)、ポリアミド6−66(6/66ナイロン)、ポリアミド6−10(610ナイロン)、ポリアミド6−12(6/12ナイロン)、ポリアミド12−12(1212ナイロン)、ポリアミドMXD6(MXD−6ナイロン)などが挙げられる。
【0023】
本発明に使用できる樹脂は、上述のようなポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、フッ素樹脂という所要物性を有する樹脂を採用し、これらに食品衛生上無害の潤滑油を分散保持させた固形状のものであるから、軸受内部に侵入した水などで流出することはなく、150℃の温度下で連続使用できる耐熱性を有する。
【0024】
本発明に使用できる、PEEK樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂およびポリブチレンテレフタレート樹脂はFDA規格によって、また生分解性樹脂はポリオレフィン等衛生協議会・安全基準によって、それぞれ食品に接触し混入した場合にも安全であることが確認された物質である。ここで、生分解性樹脂としてはポリ乳酸などがある。
【0025】
本発明に使用できる気孔形成材は、食品材料に使用できる材料であって、樹脂の成形温度よりも高い融点を有し、該樹脂に配合されて成形体とされた後、その樹脂を溶解しない溶媒を用いて成形体から溶解されて抽出できる物質であれば使用できる。
また、成形時における気孔形成材の溶解を防止するため、気孔形成材は使用する樹脂の成形温度よりも高い融点の物質を使用する。
また、上記溶媒として通常用いられる水に溶解できて、上記成形体から抽出できる気孔形成材としては、安息香酸ナトリウム(融点 430℃)、酢酸ナトリウム(融点 320℃)、セバシン酸ナトリウム(融点 340℃)、コハク酸ナトリウム、(融点 300℃)、ステアリン酸ナトリウム(融点 270℃)、塩化ナトリウム(融点 800℃)、炭酸ナトリウム(融点 851℃)、メタリン酸ナトリウム(融点 628℃)、ピロリン酸ナトリウム(融点 983℃)、三リン酸ナトリウム(融点 988℃)、炭酸カリウム(融点 891℃)および硫酸カリウム(融点 1067℃)などが挙げられる。融点が高く、多種の樹脂に対応でき、かつ水溶性が高く、樹脂多孔質体に残存して食品に混入しても人体に与える影響がないという理由から、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、三リン酸ナトリウム、炭酸カリウムおよび硫酸カリウムが特に好ましい。
【0026】
本発明に使用できる潤滑油は、流動パラフィン油、ポリαオレフィン油、植物油および動物油から選ばれる油であって、これらは人体に無害な物質としてUSDA H−1規格、FDA規格にも合格したものである。
【0027】
本発明に使用できる流動パラフィン油は、比較的軽質の潤滑油留分を硫酸洗浄によって高度に精製した炭化水素油であり、主としてアルキルナフテン類からなり、「食品添加物公定書」または「日本薬局方」に薬用流動パラフィンとして記載されたものである。また、このものは、アメリカ、イギリス、ドイツの食添流動パラフィン油、局方流動パラフィン油にも相当する。
【0028】
また、本発明に使用できるポリαオレフィン油は、上記したようにUSDA H−1規格により、直接食品に接触させても人体に対して全く無害であるという評価基準を得たものであり、芳香族炭化水素や硫化化合物などの不純物を含まない合成炭化水素油である。
【0029】
本発明に使用できる植物油は、食品または食品添加物として使用できる周知の天然油であり、例えばツバキ油、オリーブ油、落花生油、ヒマシ油、菜種油などを使用することができる。
また、本発明に使用できる動物油は、食品または食品添加物として使用できる周知の天然油であり、例えばサナギ油、牛脚油、ラード(豚脂)など、またはイワシ油、ニシン油等の水産動物油等であってもよい。
【0030】
本発明に使用できるフッ素油は、上記したUSDA H−1に合格し、炭素、フッ素、酸素の3原子からなるものであり、例えば下記の化1内の式(1)、式(2)に示す分子構造のものである。
【0031】
【化1】

【0032】
本発明に使用できる潤滑油は、エステル油、シリコーン油およびポリアルキレングリコール油から選ばれるものであって、これらは所定濃度未満であれば人体に害を与えない物質としてUSDA H−1規格またはFDA規格に合格したものである。
本発明に使用できるエステル油は、二塩基酸エステル油、ポリオールエステル油、リン酸エステル油、ケイ酸エステル油などの−COO−構造を有する周知のエステル油であって、前述のFDAが間接食品添加物(Indirect Food Additive) に指定した化合物からなる合成潤滑油である。FDAに指定されたエステル油の具体例としては、モノヒドロゲンフォスフェートエステル油、ジヒドロゲンフォスフェートエステル油などが挙げられる。
【0033】
本発明に用いるシリコーン油は、ポリマー型の合成潤滑油として周知のシリコーン油のうち、前述のFDAに指定されたものであり、下記の化2で表されるシリコーン油(例えばジメチルポリシロキサン油など)を採用することができる。
【0034】
【化2】

(式中、Rはメチル基、フェニル基の単体または混合された基である。)
このようなシリコーン油(オルガノポリシロキサン油)の具体例としては、ジメチルシリコーン油などのアルキルメチルシリコーン油、フェニルメチルシリコーン油などが挙げられる。
【0035】
本発明に使用できるポリアルキレングリコール油は、合成潤滑油として周知のポリエチレングリコール油、ポリプロピレングリコール油などであり、これらは前述のFDAで規定された合成潤滑油である。
本発明では、以上述べた潤滑油のうち少なくとも1種の油を含有する潤滑油を使用することができる。
【0036】
本発明の食品機械用転がり軸受の摩擦・摩耗特性を改善して各種機械物性を向上させる目的で、食品用途に用いられる転がり軸受の摺動材料用の強化材としてマイカ、タルクおよび炭酸カルシウムを配合することができる。マイカ、タルクおよび炭酸カルシウムは、FDA規格によって食品に接触し混入した場合にも安全であることが確認された物質である。
【実施例】
【0037】
実施例1:
体積比 50:50 で超高分子量ポリエチレン樹脂粉末(三井化学(株)製ミペロンXM220)と、気孔形成材である安息香酸ナトリウム粉末(和光純薬(株)製試薬)とをミキサーにて 5 分間混合した後、加熱圧縮成形( 200℃×30分)し、切削加工にて所定の試験片を得た。その試験片を 80℃の温水で超音波洗浄器にて洗浄し気孔形成材を溶出させ、乾燥し、気孔率 48%の多孔質体を得た。これにポリαオレフィン油(三井化学(株)製ルーカントHC-600、動粘度 9850mm2/s 、40℃)を真空含浸して含油多孔質体を得た。含油率は全体積に対し 45%である。
【0038】
実施例2:
体積比 50:50 で超高分子量ポリエチレン樹脂粉末(三井化学(株)製ミペロンXM220)と、気孔形成材である塩化ナトリウム粉末(和光純薬(株)製試薬)とをミキサーにて 5 分間混合した後、加熱圧縮成形( 200℃×30分)し、切削加工にて所定の試験片を得た。その試験片を 80℃の温水で超音波洗浄器にて洗浄し気孔形成材を溶出させ、乾燥し、気孔率 48%の多孔質体を得た。これにポリαオレフィン油(三井化学(株)製ルーカントHC-600、動粘度 9850mm2/s 、40℃)を真空含浸して含油多孔質体を得た。含油率は全体積に対し 45%である。
【0039】
実施例3:
体積比 50:50 でPEEK樹脂粉末(ビクトレックス社製150PF)と、気孔形成材である安息香酸ナトリウム粉末(和光純薬(株)製試薬)とをミキサーにて 5 分間混合した後、加熱圧縮成形( 360℃×30分)し、切削加工にて所定の試験片を得た。その試験片を 80℃の温水で超音波洗浄器にて洗浄し気孔形成材を溶出させ、乾燥し、気孔率 48%の多孔質体を得た。これにポリαオレフィン油(三井化学(株)製ルーカントHC-600、動粘度 9850mm2/s 、40℃)を真空含浸して含油多孔質体を得た。含油率は全体積に対し 45%である。
【0040】
実施例4:
体積比 40:10:50 でPEEK樹脂粉末(ビクトレックス社製150PF)と、マイカ(ナカコー(株)製FM-20)と、気孔形成材である安息香酸ナトリウム粉末(和光純薬(株)製試薬)とをミキサーにて 5 分間混合した後、加熱圧縮成形( 360℃×30分)し、切削加工にて所定の試験片を得た。その試験片を 80℃の温水で超音波洗浄器にて洗浄し気孔形成材を溶出させ、乾燥し、気孔率 48%の多孔質体を得た。これにポリαオレフィン油(三井化学(株)製ルーカントHC-600、動粘度 9850mm2/s 、40℃)を真空含浸して含油多孔質体を得た。含油率は全体積に対し 45%である。
【0041】
比較例1:
体積比 90:10 で超高分子量ポリエチレン樹脂粉末(三井化学(株)製ミペロンXM220)と、ポリαオレフィン油(三井化学(株)製ルーカントHC-600、動粘度 9850mm2/s 、40℃)をミキサーにて 5 分間混合した後、加熱圧縮成形( 200℃×30分)し、切削加工にて所定の試験片を得た。
【0042】
得られた実施例および比較例の試験片を評価するために以下の条件にてピンオンディスク試験により摩擦摩耗特性を調べた。評価結果を表1に示す。
ピンオンディスク試験:
面圧: 3Mpa、速度:4.2m/分、温度:常温、時間:20h、
試験片:φ3mm×13mm、軌道径:23mm、
相手材:φ33mm×6mm、アルミニウム合金A5056(表面粗さRa 0.5μm)
【0043】
【表1】

実施例1および実施例2は比較例1に比べて比摩耗量が4分の1に向上し、摩擦係数は3分の1に向上した。すなわち、45 体積%という高含有率で潤滑油を含有する超高分子量ポリエチレン樹脂の多孔質体は、潤滑油を 10 体積%含有する超高分子量ポリエチレン樹脂の成形体に比べて、優れた摩擦摩耗特性を示すことがわかった。
また、実施例3は実施例1に比べて比摩耗量が5分の3に向上した。これは PEEK樹脂粉末を用いて作成した多孔質体は、超高分子量ポリエチレン樹脂の多孔質体に比べて、機械的強度が大きいために摩耗特性が向上したものと考えられる。
さらに、実施例4は実施例1に比べて比摩耗量が5分の2に向上した。これは PEEK樹脂粉末にマイカを配合して、PEEK樹脂の機械的強度を増加させたために、さらに摩耗特性が向上したものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の食品機械用摺動材料は、樹脂多孔質体が 30%以上の連通孔率を有し、潤滑油を含有し、食品用材料からなり、該食品機械用摺動材料から得られた摺動部材は、長期間にわたって潤滑油が食品機械用摺動材料より供給され、優れた耐久性を示すので、食品機械用摺動部材として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
30%以上の連通孔率を有する樹脂多孔質体に潤滑油を含浸してなる食品機械用摺動材料であって、前記樹脂多孔質体が、樹脂よりも高融点を有し、かつ食品用材料として使用可能である気孔形成材が配合された樹脂を成形して成形体とした後、前記樹脂を溶解しない溶媒を用いて前記成形体から前記気孔形成材を抽出して得られる連通孔を有することを特徴とする食品機械用摺動材料。
【請求項2】
前記気孔形成材は、食品または食品添加剤であることを特徴とする請求項1記載の食品機械用摺動材料。
【請求項3】
前記食品添加剤は、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、三リン酸ナトリウム、炭酸カリウムおよび硫酸カリウムから選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属塩であることを特徴とする請求項2記載の食品機械用摺動材料。
【請求項4】
前記樹脂は、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、フッ素樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂および生分解性樹脂から選ばれる少なくとも1つの樹脂であることを特徴とする請求項1記載の食品機械用摺動材料。
【請求項5】
前記潤滑油は、流動パラフィン、ポリαオレフィン油、植物油、動物油、フッ素油、エステル油、シリコーン油およびアルキレングリコール油から選ばれる少なくとも1つの油であることを特徴とする請求項1記載の食品機械用摺動材料。

【公開番号】特開2006−57028(P2006−57028A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−241739(P2004−241739)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】