説明

食品殺菌装置および食品殺菌方法

【課題】容器内の食材をムラなく均一に蒸気殺菌する。
【解決手段】リテーナ11に支持された米充填容器を蒸気殺菌する装置10において、ノズルユニット20が上チャンバー13に取り付けられる。ノズルベース21上に所定高さで所定の閉じた形状に設けられたスチームガイド23は上チャンバーの下面との間に実質的に閉塞された蒸気室25を形成する。ノズルベースの下方に設けられたノズルホルダー24は上下チャンバーが密接状態にあるときに容器開口を実質的に閉止する。ノズルホルダーを貫通して蒸気室と容器内部とを連通させる蒸気ノズル31はノズルベース上の所定高さまで突出した位置で開口するとともに、その下端はノズルホルダー下方に突出して容器の奥底近くまで入り込むので、蒸気室に導入された蒸気はノズルから容器内に噴出される。蒸気に混入する熱水は隔壁22底面近くの開口26を通って排水される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品殺菌装置および食品殺菌方法に関し、特に、常温保存可能に無菌化された米飯などのパック食品を製造するに際して好適に採用され得る食品殺菌装置と、該食品殺菌装置を用いて行う食品殺菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載される無菌パック米飯の製造方法は、容器に定量充填された米に対して密封チャンバーにて高圧高温飽和蒸気を間欠的にフラッシュすることにより滅菌処理する工程を含んでいる。この滅菌処理工程は、たとえば、5〜10秒間の高圧高温飽和蒸気フラッシュを1サイクルとして6〜8回繰り返して行われる。この滅菌処理工程によって、米に付着されている可能性のある一般生菌および耐熱生菌をも死滅させることができると同時に、米が一定程度までアルファ化されるので、その後、炊き水を注水して炊飯する際の炊飯時間を短縮させることができる。炊飯後、クリーンルームないしクリーンブース内で容器に蓋材を被着して密封シールすることにより、無菌状態を保持したパック米飯を製造することができる。
【0003】
特許文献2に記載される食品殺菌装置は、米などの食品が定量充填された容器を載置支持する載置板と、上下チャンバーと、これら上下チャンバーを互いに離隔した離隔位置と互いに密接してそれらの間に密閉空間を形成する密接位置との間で相対移動させる手段と、上下チャンバーが離隔位置にあるときに前記載置板を上下チャンバーの間に供給する手段と、上下チャンバーが密接位置にあるときにこれらの間に形成される密閉空間に加圧蒸気を導入する手段とを有して構成されている。上下チャンバー間の密閉空間に導入された加圧蒸気は、載置板に支持された各容器の内部に入り込み、内容物である食品を無菌化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09−172992号公報
【特許文献2】特開平10−099061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載される無菌パック米飯の製造方法において、特許文献2に記載される装置を用いて滅菌処理を行うことができ、これによって完全無菌化されたパック米飯を製造することが可能となった。このようにして製造された無菌パック米飯は、常温でも長期間の保存が可能であり、消費者は購入後電子レンジで数分程度温めれば炊き立てと同様の食味および食感のご飯を手軽に食することができ、一方、コンビニなどの販売店にとっては過剰な仕入れによる廃棄ロスや過小な仕入れによる売上チャンスロスを無くすことができるものであった。また、このような製造方法は米飯だけでなく、パスタなどの麺類や総菜類などの多用な食品にも適用可能であり、無菌パック食品の市場拡大に大きな展望を与えるものであった。
【0006】
しかしながら、特許文献2記載の殺菌装置にもなお改良すべき点があった。すなわち、この殺菌装置は、まだ蓋材が被着されていない、したがって容器上面が開放された状態の食品充填容器に対して上方から加圧蒸気を導入して蒸気殺菌するものであるが、容器を形成する材料は密封シール後の二次汚染を防止するためにガス不透過性を有することが要求されるため、上方から容器の内部に入り込んだ蒸気は容器を通過することができない。このため、導入する蒸気の圧力や処理時間によっては容器の奥や角隅まで蒸気が入り込むことができず、内容物の全般を均一に殺菌できない場合があることが分かった。蒸気圧を高くしたり処理時間を長くすることによってこの問題を解消することは可能であるが、処理効率の低下やコスト増加を招くので好ましくない。
【0007】
この欠点を改良するため、従来の多くの製品ではpH調整剤を容器中に封入して品質保持を図っているが、開封したときにpH調整剤による独特の臭気が感じられるため、特に米などの無味無臭に近い食品の場合には好ましい手法とは言えないものであった。
【0008】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、特許文献2に記載されるような従来技術による殺菌装置が抱えていた上記不利欠点を解消して、米飯などのパック食品をより効率的に殺菌することができる新規な食品殺菌装置および該食品殺菌装置を用いて行う食品殺菌方法を提供することであり、より具体的には、容器の奥や角隅に収容されている食材に対しても加圧蒸気をスムーズに入り込ませて内容物をムラなく均一且つ効果的に殺菌できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するため、請求項1に係る発明は、上面開口の容器に収容された食品を高温高圧蒸気で殺菌処理する食品殺菌装置であって、蒸気導入口および蒸気排出口を備えた上チャンバーと、上チャンバーに対向配置されて上チャンバーと密接するように相対移動可能である下チャンバーと、上下チャンバーを密接状態としたときに形成される内部密閉空間内の食品収容容器を該密閉空間内において上チャンバーに向けて移動させる容器移動手段と、ノズルユニットとを有して構成され、ノズルユニットは、上チャンバーに取り付けられるノズルノズルベースと、その上端が上チャンバーとノズルベースとの間の蒸気室に開口すると共にノズルベースを貫通してさらに下方に突出する蒸気ノズルとを備えるノズルユニットとを有して構成され、上下チャンバーが密接状態にあるときに食品収容容器を前記容器移動手段を介して上チャンバーに向けて移動させることにより、前記蒸気ノズルを容器内に挿入し、上チャンバーの蒸気導入口から導入された高温高圧蒸気を前記蒸気室から前記蒸気ノズルにより容器内に噴出させて容器内の食品を殺菌することを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の食品殺菌装置において、前記蒸気ノズルはその下端が尖った形状で閉塞しており、該下端近くにおいて側面で開口していることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1記載の食品殺菌装置において、前記蒸気ノズルはその下端のみで開口していることを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3のいずれか記載の食品殺菌装置において、前記蒸気ノズルはその少なくとも下方部において側面が微小凹凸面とされていることを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項1記載の食品殺菌装置において、前記ノズルユニットは、さらに、前記ノズルベースの下方に設けられて上下チャンバー間に密閉空間が形成されているときに食品収容容器の開口部を実質的に閉止するノズルホルダーを備え、前記蒸気ノズルはこのノズルホルダーを貫通してその下面から食品収容容器内に入り込むように突出することを特徴とする。
【0014】
請求項6に係る発明は、請求項5記載の食品殺菌装置において、前記ノズルホルダーは、食品収容容器のフランジに載置される上段部と、食品収容容器の収容部に所定深さまで入り込む下段部とを有してなることを特徴とする。
【0015】
請求項7に係る発明は、請求項1ないし6のいずれか記載の食品殺菌装置において、上下チャンバー間の密閉空間に収容された食品収容容器の内部を真空引きするために該密閉空間を減圧する減圧手段を有することを特徴とする。
【0016】
請求項8に係る発明は、請求項1ないし7のいずれか記載の食品殺菌装置前記ノズルユニットは、さらに、上下チャンバー間の密閉空間に収容された食品収容容器が前記容器移動手段により上チャンバーに向けて移動したときに、該食品収容容器の開口部を閉止する押さえ板を備えることを特徴とする。
【0017】
請求項9に係る発明は、請求項8記載の食品殺菌装置において、前記押さえ板は前記蒸気ノズルの外径より大きい口径のノズル挿通孔を有しており、ノズル挿通孔は蒸気ノズルを挿通させた状態においてその周囲に蒸気を排出させる通路を与えることを特徴とする。
【0018】
請求項10に係る発明は、請求項8または9記載の食品殺菌装置において、前記押さえ板は、前記ノズルベースまたは前記ノズルブロックに対して若干の上下動を許容された状態で取り付けられることを特徴とする。
【0019】
請求項11に係る発明は、請求項8ないし10のいずれか記載の食品殺菌装置において、前記押さえ板は、待機位置に保持可能であると共に、上下チャンバー間の密閉空間に収容された食品収容容器が前記容器移動手段により上チャンバーに向けて移動したときに該食品収容容器のフランジに当接して持ち上げられた位置に移動することにより該容器フランジ上に密接して該食品収容容器の開口部を閉止することを特徴とする。
【0020】
請求項12に係る発明は、請求項8ないし11のいずれか記載の食品殺菌装置において、前記押さえ板として厚さの異なる数種類の押さえ板が用意され、容器の深さに応じた厚さの押さえ板を使用できるように着脱且つ交換可能に前記ノズルユニットに取り付けられることを特徴とする。
【0021】
請求項13に係る発明は、請求項1ないし12のいずれか記載の食品殺菌装置において、前記ベース上に食品収容容器の上面開口部を包囲する形状を有するスチームガイドが形成され、上下チャンバーを密接状態としたときにスチームガイドに囲まれて実質的に密閉された空間として蒸気室が形成されるものであって、蒸気導入口はスチームガイドの内側で開口し、蒸気排出口はスチームガイドの外側で開口することを特徴とする。
【0022】
請求項14に係る発明は、請求項1ないし13のいずれか記載の食品殺菌装置において、スチームガイドの外側において前記ベースに蒸気排出穴が形成され、蒸気導入口から導入されて蒸気ノズルから容器内に噴出された蒸気をこの蒸気排出穴を通して蒸気室を経て蒸気排出口から排出することを特徴とする。
【0023】
請求項15に係る発明は、請求項1ないし14のいずれか記載の食品殺菌装置において、食品収容容器を所定の高さ位置で支持する容器支持手段を有し、前記容器移動手段は、上下チャンバー間の密閉空間内において、容器支持手段に支持された食品収容容器に干渉しない待機位置から該食品収容容器を上昇させることにより、該食品収容容器を容器支持手段から持ち上げて前記所定の高さ位置よりも高い位置に移動させて、前記蒸気ノズルを食品収容容器内の所定深さまで入り込ませることを特徴とする。
【0024】
請求項16に係る発明は、請求項15記載の食品殺菌装置において、前記容器移動手段は、前記下チャンバーに対して昇降可能に設けられる突き上げ板を有し、この突き上げ板は、前記待機位置から上昇する過程で、前記容器支持手段に支持されている食品収容容器の底面に当接することを特徴とする。
【0025】
請求項17に係る発明は、食品収容容器を搬送する過程で所定個数の殺菌位置で順次に殺菌処理を行うために各殺菌位置に請求項1記載の食品殺菌装置が設置され、最初の殺菌位置に設置される食品殺菌装置には下端が尖った形状で閉塞していて該下端近くにおいて側面で開口する形状の蒸気ノズルが使用され、2回目以降の殺菌位置に設置される食品殺菌装置には下端で開口する形状の蒸気ノズルが使用されることを特徴とする食品殺菌装置である。
【0026】
請求項18に係る発明は、請求項1または請求項15記載の食品殺菌装置を用いて行う食品殺菌方法であって、上下チャンバーを密接させてそれらの間に密閉空間を形成するステップと、この密閉空間内において容器移動手段により食品収容容器を上チャンバーに向けて移動させることにより蒸気ノズルを容器内に挿入するステップと、上チャンバーの蒸気導入口から高温高圧蒸気を導入して蒸気室を経て蒸気ノズルから容器内に噴出させることにより所定時間の殺菌処理を行うステップと、容器移動手段により食品収容容器を元の位置に戻すと共に上下チャンバーの密接状態を解除するステップとを順次に行う一連の処理を実行することを特徴とする。
【0027】
請求項19に係る発明は、請求項1または請求項15記載の食品殺菌装置を用いて行う食品殺菌方法であって、上下チャンバーを密接させてそれらの間に密閉空間を形成するステップと、この密閉空間を減圧することにより該密閉空間に収容された食品収容容器の内部を真空引きするステップと、減圧された該密閉空間内において容器移動手段により食品収容容器を上チャンバーに向けて移動させることにより蒸気ノズルを容器内に挿入するステップと、上チャンバーの蒸気導入口から高温高圧蒸気を導入して蒸気室を経て蒸気ノズルから容器内に噴出させることにより所定時間の殺菌処理を行うステップと、容器移動手段により食品収容容器を元の位置に戻すと共に上下チャンバーの密接状態を解除するステップとを順次に行う一連の処理を実行することを特徴とする。
【0028】
請求項20に係る発明は、請求項18または19記載の食品殺菌方法において、前記容器移動ステップと前記蒸気導入ステップが実質的に同時に行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
請求項1に係る発明によれば、蒸気殺菌装置の上チャンバーにノズルユニットを付設し、上チャンバーの蒸気導入口から導入された高温高圧蒸気を蒸気室からノズルを介して食品収容容器内に噴出させるので、高温高圧蒸気が容器の隅々まで満遍なく行き渡り、容器内の食品をムラなく均一に殺菌することができる効果がある。また、同時に容器自体も殺菌することができる。
【0030】
蒸気ノズルの上端は上チャンバーとノズルベースとの間の蒸気室に開口しているので、蒸気導入口から蒸気室に導入される高温高圧蒸気に熱水が含まれる場合であっても、この熱水は蒸気室内に溜まり、蒸気ノズルから容器内に導入されることがない。高温高圧蒸気とともに液体状態の熱水が容器内に導入されてしまうと容器内の食品を過剰に湿潤化させ、後の処理工程(たとえば炊飯)に悪影響を与えることが懸念されるが、蒸気ノズルの上端を高い位置で開口させた構成を採用することによって、このような弊害を防止している。
【0031】
請求項2に係る発明によれば、その下端が尖った形状で閉塞していて該下端近くにおいて側面で開口する形状を有する第一のタイプの蒸気ノズルが用いられ、また、請求項3に係る発明によれば、その下端のみで開口する形状を有する第二のタイプの蒸気ノズルが用いられる。本発明の一実施形態において、食品収容容器を搬送する過程で所定個数の殺菌位置で順次に殺菌処理を行うために各殺菌位置に食品殺菌装置が設置される場合、最初の殺菌位置に設置される食品殺菌装置には第一のタイプの蒸気ノズルが使用され、2回目以降の殺菌位置に設置される食品殺菌装置には第二のタイプの蒸気ノズルが使用される。最初の殺菌位置に搬送される容器内の食品は固まった状態となっている場合があるが、そのような場合であっても第一のタイプの蒸気ノズルの尖った下端がスムーズに食品内に入り込み、目詰まりを起こすこともない。また、側面から蒸気噴射することによって固まった食品をほぐす効果も得られる。2回目以降の殺菌位置においては第二のタイプの蒸気ノズルを使用することにより容器の奥底に向けて勢い良く蒸気を噴射させ、容器の隅々まで満遍なく行き渡らせて容器内の食品をムラなく均一に殺菌する。
【0032】
請求項4に係る発明によれば、蒸気ノズルの少なくとも下方部において側面が微小凹凸面とされているので、蒸気ノズルを容器内の食品に挿入し、その後に引き上げたときに、容器蒸気ノズルの側面に米粒などの食品が付着することを防止することができる。
【0033】
請求項5に係る発明によれば、ノズルホルダーによりノズルユニットを安定して固定することができる。また、請求項6に係る発明によれば、このノズルホルダーで容器の上面開口部を閉止した状態で蒸気を容器内にノズル噴射することができ、蒸気噴射によって容器内の食品が飛散することを防止する。
【0034】
請求項7に係る発明によれば、減圧手段を介して食品収容容器の内部を真空引きした状態で蒸気をノズル噴射させることによって、容器内に入り込む蒸気量が増大すると共に、容器内の隅々にまで行き渡りやすくなるので、殺菌効果をさらに向上させることができる。
【0035】
請求項8に係る発明によれば、押さえ板で容器の上面開口部を閉止した状態で蒸気を容器内にノズル噴射することができ、蒸気噴射によって容器内の食品が飛散することを防止することができる。請求項9に係る発明によれば、押さえ板を用いて上記効果を発揮しつつも、容器内に注入された蒸気の逃げ場を確保して、円滑な蒸気排出を可能にする。
【0036】
請求項10に係る発明によれば、この押さえ板がノズルベースまたはノズルブロックに対して若干の上下動可能に設けられるので、容器の上面開口を閉止しない位置と閉止する位置との間で上下動するように構成することができる。請求項11に係る発明によれば、容器が下方位置に退避しているときには押さえ板が容器の上面開口部の上方に離れた待機位置を取り、容器が前記容器移動手段により上昇する過程で容器のフランジに密接するように構成することができる。いずれにしても、この押さえ板で容器の上面開口部を閉止した状態で蒸気を容器内にノズル噴射することができ、蒸気噴射によって容器内の食品が飛散することを防止する。
【0037】
請求項12に係る発明によれば、基本的に同じ構成の食品殺菌装置で異なる容量(深さ)の容器を処理することができるので、設備の小型化、省スペース化およびコストダウンを図ることができる。
【0038】
請求項13に係る発明によれば、一つの好適な装置設計を与える。特に、一つの食品殺菌装置において上下チャンバー間の密閉空間に複数の食品収容容器を投入して一度に複数の容器を殺菌処理する場合、これら複数の容器の上面開口部をまとめて一つのスチームガイドで包囲する構成を採用することができ、処理効率が向上する。請求項14に係る発明によれば、蒸気排出をスムーズに行う蒸気排出経路を与える。
【0039】
請求項15に係る発明によれば、容器移動手段によって食品収容容器を上チャンバーに向けて移動させて蒸気ノズルを該容器内に入り込ませるための具体的な装置構成を与える。これにより、容器支持手段に支持された状態で食品殺菌装置に搬送されてきた食品収容容器を該容器支持手段から離脱させて蒸気ノズルが挿入される位置に移動させ、且つ、殺菌処理を終えた後には容器移動手段によって食品収容容器を元の位置に戻す過程で該容器を再び容器支持手段に支持させることができ、一連の殺菌処理工程を円滑に実行することができる。請求項16に係る発明によれば、食品収容容器を容器支持手段から離脱させる役割を突き上げ板が果たす。
【0040】
請求項17に係る本発明によれば、殺菌処理を複数回に亘って繰り返し行うことによって殺菌効果を高めることができる。また、最初の殺菌位置に搬送される容器内の食品は固まった状態となっている場合があるが、そのような場合であっても第一のタイプの蒸気ノズルの尖った下端がスムーズに食品内に入り込み、目詰まりを起こすこともない。さらに、側面から蒸気噴射することによって固まった食品をほぐす効果も得られる。2回目以降の殺菌位置においては第二のタイプの蒸気ノズルを使用することにより容器の奥底に向けて勢い良く蒸気を噴射させ、容器の隅々まで満遍なく行き渡らせて容器内の食品をムラなく均一に殺菌する。
【0041】
請求項18に係る発明によれば、請求項1または請求項15記載の食品殺菌装置を用いて行うに適した食品殺菌方法が提供される。この一連の処理により、高温高圧蒸気が容器の隅々まで満遍なく行き渡り、容器内の食品をムラなく均一に殺菌すると共に、同時に容器自体も殺菌することができる。請求項19に係る発明によれば、食品収容容器の内部を真空引きした状態で蒸気をノズル噴射させるので、容器内に入り込む蒸気量が増大すると共に、容器内の隅々にまで行き渡りやすくなり、殺菌効果をさらに向上させることができる。請求項20に係る発明によれば、容器を移動させて蒸気ノズルを容器内に挿入すると同時にノズル噴射が行われるので、殺菌処理のサイクルタイムを短くすることができ、処理効率が増大する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態による食品殺菌装置の正面視断面図である。
【図2】図1A−A断面図である。
【図3】この食品殺菌装置に用いられるノズルユニットの下面図である。
【図4】この食品殺菌装置に用いられるノズルユニットの要部拡大正面図である。
【図5】この食品殺菌装置を用いて最終的に製品として得られる無菌パック米飯の一部破断側面図である。
【図6】この食品殺菌装置を用いて行う一連の製造工程を示すフロー図である。
【図7】本発明の他実施形態による食品殺菌装置の正面視断面図である。
【図8】図7の一部拡大図である。
【図9】図7B−B断面図である。
【図10】この食品殺菌装置に用いられる蒸気ノズル形状の一例を示す正面図(a)および縦断面図(b)である。
【図11】この食品殺菌装置に用いられる蒸気ノズル形状の他例を示す正面図(a)および縦断面図(b)である。
【図12】この食品殺菌装置において上下チャンバーを密接させた直後の状態を示す図8と同部拡大図である。
【図13】この食品殺菌装置において大容量の容器を対象とする場合の図8と同部拡大図である。
【図14】この食品殺菌装置に採用される蒸気導入/排出および減圧のための配管系統を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施例を挙げて詳述する。
【実施例1】
【0044】
図1ないし図4に本発明の一実施形態による食品殺菌装置10の構成が示されている。この殺菌装置10は、最終的に図5に示す無菌パック米飯を製造するために、図6に示す一連の製造工程における加圧蒸気殺菌工程(S3)に用いられるものであるので、装置の説明に先立って、一連の製造工程について説明する。
【0045】
容器1(図5)に米を定量充填する(図6:S1)。より詳しくは、精米機により精米された米(精白米)が貯蔵庫に貯蔵されており、これを脱気米を用いて常法により洗米・浸漬して10〜30%程度の含水率に調整した上で、容器1に個食分の定量(たとえば150〜200g)を充填する。
【0046】
容器1は、殺菌装置10による殺菌処理工程(図6:S2)における100℃以上、たとえば130〜150℃程度の高温に晒されても熱軟化・熱変形しない耐熱性と、耐水性と、密封シール工程(図6:S5)後の二次汚染を実質的に防止するための酸素不透過性を兼ね備えたプラスチック材料から、消費者に供給する一食分の米飯を収容するに必要且つ十分な容量を有する食品収容部1aと、その上端から略水平に外方に向けて延出するフランジ1bとを有して略皿状に一体成形されている。この容器1のプラスチック材料には主としてポリプロピレンが用いられるが、必要に応じて、ポリプロピレンにポリ塩化ビニリデンやエチレンビニルアルコール共重合樹脂をラミネートしたもの、ポリエチレンテレフタレート(PET)、表裏ポリプロピレン層の間に圧延アルミ箔などの金属箔を芯層として積層したものなどを使用することができる。
【0047】
定量の米が充填された容器を高温高圧蒸気で殺菌処理する(S2)。この殺菌処理が後述する殺菌装置10で行われ、これによって容器1と容器1内の米が同時に滅菌される。また、後述するように、高温加圧蒸気が食品収容部1a内の隅々まで満遍なく行き渡って全体にムラなく均一に滅菌され、一般生菌だけでなく耐熱生菌をも実質的に完全に死滅させる。同時に、収容室1a内の米が加熱されることによってアルファ化が促進されるため、その後の炊飯(S4)を短時間で効率的に行うことができる。
【0048】
数回の殺菌処理(S2)を経た後、容器1の食品収容部1a内に定量の炊き水(水または湯)を注水する(S3)。食感と歩留まり向上のために、炊き水には脱気水を用いることが好ましい。炊き水はあらかじめ無菌化処理されたものを用い、また、所定pH値にあらかじめ調整されたものを用いることができる。なお、混ぜご飯や赤飯などのパック製品を製造する場合は、この工程において、またはその前後に付加した別工程において、必要な調味液、着色液、具材などを添加する。
【0049】
次いで、蒸気炊飯機に投入して常法により蒸気炊飯する(S4)。省スペース化のため、蒸気炊飯機には循環駆動される多列多段式のゴンドラを用いることが好ましい。すなわち、各々が複数(たとえば4〜10個)の米充填容器1,1・・・を収容可能な棚板を複数段(たとえば7段)垂直方向に互いの間に間隔をおいて並行に積層してなる多段ゴンドラを複数基(たとえば8〜70基)用い、これら多段ゴンドラを垂直平面上に周回駆動されるチェーンコンベアに等間隔で接続してなる搬送装置を設置する。複数の米充填容器1を収容する棚板には、米充填容器1の食品収容部1aを嵌合するための開口が容器収容個数分形成されており、該開口の回りの縁面上にフランジ1bを係止することにより米充填容器1を吊り下げ状態で収容する構成を有するものを用いることができる。
【0050】
このような多列多段式ゴンドラを用いた場合、滅菌済の米と炊き水と(場合によってはさらに調味液など)が充填された米充填容器1は、任意の移載装置により、リターンしてくる空の多段ゴンドラの各段に送り込まれる。そして、全段に米充填容器1を収容したゴンドラは蒸気炊飯機に送り込まれ、その室内を移動する間の所定時間(たとえば15〜40分)で蒸気炊飯される。
【0051】
蒸気炊飯機の室内を複数のゾーンに分けて、各ゾーンごとに独立して温度制御するようにしても良い。これにより、炊飯工程に応じて最適な蒸気温度を設定することができる。
【0052】
蒸気炊飯(S4)を完了したゴンドラはチェーンコンベアによって引き上げられ、一段ずつ容器1をコンベア上に送り出す。空になったゴンドラは蒸気炊飯機の入口に向けてリターンして次の容器収容に備える。
【0053】
蒸煮処理完了後、炊飯された米飯を収容する米充填容器1を順次にシール装置に投入して、あらかじめUV殺菌された蓋材2(図5)を被着して密封シールする(S5)。シール装置は公知のヒートシール装置であって良いが、必要に応じて、シールした蓋材2の不要部分をカットするトリミング手段が付設される。密封シール後の二次汚染を防止するため、蓋材2としては、前述の容器1の材質と同様に酸素不透過性を有するプラスチック材料で成形されたフィルムを用いることが好ましく、ポリエチレンやポリプロピレンを主体とするイージーピール性を有するものが好適に用いられる。また、米充填容器1に窒素ガスなどの不活性ガスをフラッシュ注入して容器1内の空気を追い出して不活性ガス置換した後に密封シールを行うことも、二次汚染による品質劣化を防止するために好ましい方策の一つである。さらに必要な場合には脱酸素材を封入して密封シールする。
【0054】
蒸気炊飯機の出口から密封シール装置への容器搬送はコンベアなどによって行われるが、この間に外気に晒されると雑菌が混入して二次汚染を招くおそれがあるので、これを防止するために、この間の領域は、たとえばクラス100〜1000程度のクリーン度を有するクリーンブースないしクリーンルームに収容される。これにより、加圧蒸気殺菌(S3)および蒸気炊飯(S6)による無菌状態が維持されて密封シールされるので、無菌パック製品として提供することが可能となる。クリーンブースの構造は、たとえば、蒸気炊飯機の出口からシール装置の入口までの間をトンネル状のブースとし、クリーンエア発生装置をブース中央上部に取り付けて連続的にクリーンエアを送入する。クリーンブース内を陽圧(たとえば外気圧より0.5〜2mmAq程度高い圧力)に保持して、クリーンエアをブースの上から下へ、中央から外周へと流し、また搬送コンベア上では搬送方向と反対方向に(密封シール装置から蒸気炊飯機に向けて)流すことにより、汚染された外気の侵入を防ぐように構成することが好ましい。
【0055】
密封シール装置により米充填容器1を密封シールした後、常法により所定時間蒸らしを行って(S6)、炊飯後の上層部と下層部の水分量の均一化を図ると同時にアルファ化の促進を図る。蒸らし処理に先立って、密封シールされた容器1を上下反転させると、上下の水分量の均等化を促進させるのに有効である。
【0056】
その後、蒸らし処理(S6)に伴う臭いを除去するために、密封シールされた米充填容器1をチラー水などの冷水槽に通過させて常温近く、たとえば40℃程度まで冷却する(S7)。米充填容器1を上下反転させて蒸らし処理を行った場合は、その上下反転状態を元に戻した後に冷却処理を行う。蒸らし処理および冷却処理においては、前述の蒸気炊飯機と同様の多段多列式ゴンドラを採用して処理効率の向上を図ることが好ましい。
【0057】
冷却後、水分を除去して所定含水率まで乾燥させる処理を行い(S8)、さらに、製造年月日や賞味期限などの印刷、ピンホール検査、ウエイトチェックなどの製品化のために必要な後処理(S9)を経て、所望の無菌パック米飯(図5)が製造される。
【0058】
このようにして製造された無菌パック米飯は、高圧高温蒸気による殺菌(S2)および蒸気炊飯(S4)によって保存性が高められ、一連の処理工程の間で外気に触れる可能性のある処理領域はクリーンブースで外気から遮断されており、且つ、酸素不透過性の容器1および蓋材2で内容物(米飯3)が外気から遮断されていて二次汚染を防止しているため、実質的な無菌状態が維持され、常温でも長期間(6ヶ月〜1年またはさらにそれ以上)の保存が可能である。したがって、消費者は購入後、電子レンジで1〜3分程度温めれば茹で立てと同様の食味および食感の米飯を手軽に食することができる。また、コンビニなどの販売店にとっては、過剰な仕入れによる廃棄ロスや過小な仕入れによる売上チャンスロスがなくなり、きわめて大きなコストメリットが得られる。
【0059】
図1ないし図4を参照して、殺菌処理工程(図6:S2)を行うために使用される本発明の一実施形態による食品殺菌装置10について、以下詳述する。この殺菌装置10は、米が定量充填された容器1(蓋材2はまだ被着されていないので上面が開口した状態にある)を処理対象として、高温高圧蒸気により、容器1自体を滅菌処理すると同時に容器1内の米をも殺菌して一般生菌だけでなく耐熱生菌をも実質的に完全に死滅させる。
【0060】
米充填容器1は、モータなどの駆動手段(図示せず)で所定方向(図1紙面鉛直方向/図2上下方向)に間欠的に駆動されるコンベア(図示せず)によって搬送されるリテーナ11の開口に食品収容部1aが嵌合収容されることにより支持される。フランジ1bは、リテーナ11の開口縁に係止される。リテーナ11は容器支持手段の一例である。
【0061】
リテーナ11の下方には、リテーナ11に係止された状態の容器1の底面に略当接する高さ位置に、パンチングメタルなどによる容器支持板12が設けられる。容器支持板12は、殺菌処理中に高温高圧蒸気が容器1内に導入されたときに容器1が内圧上昇によって膨らんで変形することを防止する。後述するように、このとき容器1は上方からノズルユニット20で押さえ込まれているので、ノズルユニット20と容器支持板12との間に挟まれた状態で膨らむことができない。容器1内に入り込んだ蒸気は後述するように切り欠き28から容器外に排出されて、過度の内圧上昇を防止する。
【0062】
この殺菌装置10は、上下に対向して配置された上チャンバー13と下チャンバー14とを有する。上下チャンバー13,14は、これらが互いに離隔した待機位置と、これらが互いに密接してこれらの間に実質的に密閉された空間を与える閉止位置との間で適当な駆動手段(図示せず)により相対移動可能とされている。図1には、上下チャンバー13,14が互いに密接してこれらの間に密閉空間15を与える閉止位置にある状態が示されており、この状態において殺菌処理が行われる。
【0063】
上チャンバー13は蒸気導入口16、蒸気排出口17およびこれらに連続して上チャンバー13の下面13aで開口する蒸気通路18,19を備えている。蒸気導入口16から導入された高温高圧蒸気は蒸気通路18を介して上下チャンバー13,14内の密閉空間15に入り込み、この密閉空間15においてリテーナ11に支持されている容器1内の食品(米)を殺菌した後に、後述する隙間28aを通って容器1外に逃げ、蒸気通路19を介して蒸気排出口17から排出されて一回の蒸気殺菌処理が終了する。この基本的な作用は従来の殺菌装置と同様であるが、この実施例では後述するノズルユニット20を介して容器1内の食品に蒸気噴射する点に特徴がある。
【0064】
下チャンバー14には前述の容器支持板12が取り付けられている。容器1には個食分の米が収容されているが、その容量を増量したパック米飯を提供する場合は平面寸法を同一にして深さの深い容器を用いるものとし、その場合には該容器の深さに応じて容器支持版12をより低い位置に設けることができるよう、着脱および交換自在とすることが好ましい。なお、図1において符号1cは容器1内の米充填レベルを示す。
【0065】
本発明の主要な特徴を構成するノズルユニット20について説明する。このノズルユニット20は、ノズルベース21と、隔壁22を有するスチームガイド23と、ノズルホルダー24と、複数の蒸気ノズル30とを有する。ノズルベース21は四隅のビス穴21aを通るビス(図示せず)で上チャンバー13の下面13aに固定されており、したがってノズルユニット20全体が上チャンバー13と一体となっている。ノズルベース21はステンレスなどの金属板であり、上下チャンバー13,14間の密閉空間15と略同一の平面寸法を有する。
【0066】
ノズルベース21上には、容器1の平面形状に応じた所定の閉じた形状を有する隔壁22が所定高さで設けられ、スチームガイド23を形成している。隔壁22は、ステンレスなどの金属で形成されて任意数のビス27でノズルベース21上に固定され、ノズルベース21が上チャンバー13に取り付けられたときにその上面が上チャンバー13の下面に密接する高さに形成される。これにより、上チャンバー13とノズルベース21との間であって且つ隔壁22の内部には実質的に閉じられた空間としての蒸気室25が形成される。
【0067】
隔壁22は前述のように容器1の平面形状に対応した形状を有するが、上チャンバー13の蒸気導入口16に通じる蒸気通路18が上チャンバー下面13aにおいて開口する部分を包囲するよう一側方向(図1右側)に突出して突出部22aを形成している。すなわち、隔壁22によって規定される蒸気室25は蒸気通路18の開口を含み、蒸気通路導入口16から導入された蒸気は蒸気通路18を介して(密閉空間15ではなく)蒸気室25に入り込むことになる。隔壁の反対側(図1左側)においては、上チャンバー13の蒸気排出口17に通じる蒸気通路19を逃げるように円弧状の凹部22bが形成されている。
【0068】
また、隔壁22は前述のように実質的に閉じられた空間としての蒸気室25を規定するが、ノズルベース21上において隔壁22を貫通する開口26が形成されており、この開口26において蒸気室25の内外がノズルベース21上で部分的に連通している。蒸気室25が「実質的に」閉じられた空間と表現したのはこの意味である。図示例では計4個の開口26が形成されている。
【0069】
ノズルベース21の下方に設けられるノズルホルダー24は、蒸気ノズル30を取り付ける手段であると同時に、上下チャンバー13,14同士が密接した閉止位置にあるときに、リテーナ11に支持された容器1の開口を実質的に閉止するものであり、容器フランジ1b上に載置される上段部24aと、容器1の食品収容部1aに所定深さ(米充填レベル1cには達しない深さ)まで入り込む下段部24bとを有するものとして、プラスチックなどにより一体成形される。
【0070】
上段部24aは下段部24bより大きな平面寸法を有しており、その下面において下段部24bより外側にある領域がわずかな高さ分だけ切除されて切り欠き28が形成されている。図示例では計4個の切り欠き28が形成されている。この切り欠き28形成により、ノズルホルダー24をリテーナ11に支持された容器1に被せて容器開口を実質的に閉止したときに、容器フランジ1bとノズルホルダー上段部24aの下面との間に切り欠き28の高さ分に相当するわずかな隙間28aが形成されることになる。そして、ノズルホルダー下段部24bは容器1の食品収容部1aよりわずかに大きな平面寸法を有していてノズルホルダー下段部24bと食品収容部1aの内側面との間にわずかな隙間が残されているので、この隙間と上述の切り欠き28による隙間28aとが連続している。したがって、ノズルホルダー24が容器1に被さられている状態であっても、容器1の食品収容部1aの内部は完全には密閉されておらず、該隙間を通じて容器内の蒸気を容器外に逃がすことができるようになっている。
【0071】
複数の蒸気ノズル30はノズルホルダー24と一体に樹脂成形され、ノズルホルダー24を厚さ方向に貫通している。図示例では2種類の蒸気ノズル30が設けられており、第一のタイプの蒸気ノズル31は、その上方においてノズルベース21の貫通穴21bを通過して隔壁22内の蒸気室において突出し、その下方においてはノズルホルダー下段部24bからさらに下方に突出している。一方、第二のタイプの蒸気ノズル32は、その上方においては第一のタイプの蒸気ノズル31と同様にノズルベース21の貫通穴21bを通過して隔壁22内の蒸気室において突出しているが、その下端はノズルホルダー下段部21bの下面で開口している。ノズルユニット20の下面図である図3において、第一のタイプの蒸気ノズル31は二重円で示され、その外側の円がノズル外径を、内側の円が開口を示すものであり、第二のタイプの蒸気ノズルは開口を示す小さな一つの円で示されている。
【0072】
いずれのタイプの蒸気ノズル30(第一および第二のタイプのノズル31,32を総称するときは符号30を用いる)も、上方においてはノズルベース21の貫通穴21bを通過して隔壁22内の蒸気室において突出しているが、その上端は上チャンバー13の下面13aに届かない高さ位置で開口している。すなわち、蒸気ノズル30の上端と上チャンバー13の下面13aとの間にはわずかな隙間が残されている。
【0073】
第一のタイプのノズル31は、ノズルホルダー下段部24bからさらに下方に突出して、リテーナ11に支持された容器1の奥底近くまで延長している。このノズル31は、その下端において開口するとともに、その中途部分において任意の高さ位置で任意の方向に開口している。この中途部分における側面ノズル孔が図4に符号31aで示されている。
【0074】
以上のように構成された殺菌装置10の作用について説明する。上下チャンバー13,14が互いに離隔した待機位置にあるときに、コンベア(図示せず)が駆動されてリテーナ11に支持された米充填容器1が上下チャンバー13,14間の所定位置に送り込まれ、コンベア停止後、上下チャンバー13,14同士が密接した閉止位置に相対移動されて、図1に示す状態が得られる。
【0075】
この状態において、上チャンバー13の蒸気導入口16から高温高圧蒸気を所定時間(たとえば5〜10秒間)の間フラッシュ注入する。導入された蒸気は蒸気通路16を通って、上チャンバー13とノズルベース21との間であって且つ隔壁22の内部に実質的に閉じられた空間として形成された蒸気室25に入る。蒸気導入口16から導入される蒸気は液体状態の熱水を含むので、この熱水も蒸気とともに蒸気室25に入り込むが、隔壁22の底部に形成された開口26を通って蒸気室25外に排出される。すなわち、開口26は排水路として機能し、蒸気に含まれる熱水が容器1内の米に入り込むことを防止する。
【0076】
導入された蒸気は蒸気室25内に充満した後、蒸気ノズル30(31,32)の上端開口から蒸気ノズル30に入り込み、第一の蒸気ノズル31にあってはその下端開口および中途部分の側面ノズル孔31aから、第二の蒸気ノズル32にあってはノズルホルダー下段部24bの下面の開口から、各々噴出する。第一の蒸気ノズル31は容器1内の米の中に挿入された状態となっているので、容器1内のさまざまな高さ位置において米の内部に直接入り込んで蒸気噴出し、また、第二の蒸気ノズル32は容器1内の食品の表面に向けて蒸気噴出する。これらにより、容器1内の米がムラなく均一に殺菌される。
【0077】
なお、蒸気ノズル30の上端は、排水路として機能する開口26より十分に高い位置にあるので、蒸気に含まれる熱水が蒸気ノズル30の上端開口から入り込んで容器1に注水されることはない。
【0078】
このようにして容器1内の米を殺菌した蒸気は、ノズルホルダー上段部24aの下面周縁部分に形成された切り欠き28によって容器フランジ1bとノズルホルダー上段部24aの下面との間に形成される隙間28aを通って容器1外に排出され、上下チャンバー13,14間の密閉空間15および蒸気通路19を通って蒸気排出口17から装置10外に排出される。既述したように容器1はリテーナ11に支持された状態において容器支持板12によって底面を支持されており、上記した要領によるスムーズな排気作用とも相俟って、蒸気導入によっても容器1の内圧が過度に高まることがなく、容器1の膨らみ変形を防止することができる。
【0079】
このようにして、コンベア停止により容器1が殺菌処理位置で停止している間に、型密閉→蒸気フラッシュ(5〜10秒間程度)→型開放を1サイクルとする殺菌処理が行われ、これを数ヵ所の殺菌処理位置において繰り返して行うことによって、一般生菌だけでなく耐熱生菌をも実質的に完全に死滅させる。この繰り返し回数は殺菌処理すべき食品の種類や量などによって調整可能であるが、一般に4〜8回程度である。
【0080】
図示の食品殺菌装置10による効果を確認するために、図5の容器1に浸漬米を充填して高温高圧蒸気殺菌したときのF値を測定した。米には平成20年度青森県産「まっしぐら」(登録商標)を使用し、これを洗米した後、埼玉県羽生市の水道水に1時間浸漬し、よく水切りして、酸素バリア性を有するポリプロピレン製の容器(「ラミコン」登録商標)1に充填した。この容器は炊飯後の出来上がり状態で200gの米を収容するものであり、歩留まりを224.4%に設定して、浸漬米112gを容器1に充填した。充填した米は生米の状態で89.1gであり、浸漬率125.7であった。これを殺菌装置10に投入し、143℃の高温高圧蒸気を蒸気導入口16から4.0秒間導入してノズル噴射する蒸気殺菌処理を8回繰り返して行った。
【0081】
上記の同一条件で12回の試験を行って、雰囲気温度および容器1の底面近く隅部における温度(底面部品温)を測定するとともに、雰囲気最終F値および底面部最終F値を測定した。結果を表1に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
この表に示すように、最も温度が上がりにくい容器底面近く隅部においても雰囲気温度とほとんど変わらない温度まで上昇しており、その結果として最終F値も最低14.2、平均18.1と十分に高い数値が安定して取れていることが確認できた。また、食味も優れたものであった。
【実施例2】
【0084】
本発明の他実施形態による食品殺菌装置40について、図7〜図14を参照して詳述する。この殺菌装置40も、既述した殺菌装置10と同様に、殺菌処理工程(図6:S2)を行うために使用されるものであって、米が定量充填された容器1(蓋材2はまだ被着されていないので上面が開口した状態にある、図5参照。また、この実施例で用いる容器は円形である、図8参照)を処理対象として、高温高圧蒸気により、容器1自体を滅菌処理すると同時に容器1内の米をも殺菌して一般生菌だけでなく耐熱生菌をも実質的に完全に死滅させる。
【0085】
この殺菌装置40は、モータなどの駆動手段(図示せず)で所定方向(図7紙面鉛直方向)に間欠的に駆動されるコンベア(図示せず)によって搬送されるリテーナ41を有する。リテーナ41には複数(図示例では5個)の円形開口が形成され、各開口にそれぞれ容器1の食品収容部1aが嵌合収容され、フランジ1bが各開口縁に係止された状態で、容器1が支持される。リテーナ41の構成は、複数の開口を有する点を除いて、既述実施形態の殺菌装置10に用いられるリテーナ11と略同一であるので、これ以上の説明を省略する。
【0086】
この殺菌装置40は、上下に対向して配置された上チャンバー42と下チャンバー43とを有する。上下チャンバー42,43は、これらが互いに離隔した待機位置と、これらが互いに密接してこれらの間に実質的に密閉された空間を与える閉止位置との間で適当な駆動手段44により相対移動可能とされている。この実施形態では、上チャンバー42は固定であり、下チャンバー43が下方に離隔した待機位置と上チャンバー42に密接する閉止位置との間で油圧シリンダーなどの駆動手段44を介して昇降可能に構成されている。図7には上下チャンバー42,43が互いに密接してこれらの間に内部密閉空間45を与える閉止位置にある状態が示されており、この状態において殺菌処理が行われる。内部密閉空間45は、5個の容器1を支持するリテーナ11を収容するに十分な平面寸法を有すると共に、後述するようにリテーナ41から容器1を持ち上げる突き上げ板51が昇降するに十分な高さ寸法を有している。符号46は密閉空間45を形成・保持するためのパッキンを示す。
【0087】
上チャンバー42は、蒸気導入口47および蒸気排出口48を有する。スチームジェネレータ(図示せず)で発生させた高温高圧蒸気は蒸気導入口47から密閉空間45に入り込み、この密閉空間45においてリテーナ41に支持されている容器1内の食品(米)を殺菌した後に、蒸気排出口48から排出されて、一回の蒸気殺菌処理を終了する。図14に略示されるように、蒸気導入口47にはスチームジェネレータからの蒸気導入管73が接続され、蒸気排出口48には蒸気排出管74が接続されており、これら蒸気導入管73および蒸気排出管74にそれぞれ設けられる電磁バルブ75,76を開閉することによって、蒸気導入および排出のタイミングを制御している。このような制御手法自体は公知であるので、詳細な説明を省略する。
【0088】
上チャンバー42にはさらに減圧手段72が設けられる。減圧手段72は、上下チャンバー42,43を密接させたときに形成される内部密閉空間45を所定時間の間所定の真空度に減圧できるものであれば良いが、図14にその一例が示されている。すなわち、蒸気排出口48からの蒸気排出管74を分岐させて、この分岐管77をバッファータンク78を介して真空ポンプ79に連結し、分岐管77に設けた電磁バルブ80を設けて、蒸気排出弁76と減圧弁80の開閉タイミングを制御することによって、共通の配管系統で蒸気排出と減圧を実行する。
【0089】
下チャンバー43には容器移動手段50が設けられている。容器移動手段50は、下チャンバー43の底板43aの上方に水平に設けられる突き上げ板51と、下チャンバー底板43aの下方に位置する支持板52と、下チャンバー底板43aを上下動自在に挿通して突き上げ板51を支持板52に連結する脚53と、支持板52を昇降させる駆動手段54とを有する。上下チャンバー42,43を密接させたときに形成される内部密閉空間45内において、突き上げ板51は、仮想線で示される待機位置にあるときはリテーナ41に支持された容器1の下方に待避して干渉しないが、駆動手段54によって上昇するとリテーナ41に支持された容器1の底面に当たって容器1をリテーナ41から外して所定高さまで持ち上げる(図1の状態)。この動作については後に詳述する。
【0090】
本発明の主要な特徴を構成するノズルユニット60について説明する。このノズルユニット60は、ノズルベース61と、上チャンバー42の下面42a(図8)とノズルベース61との間に実質的に密閉された蒸気室62を形成するためにノズルベース61上に設けられるスチームガイド63と、ノズルベース61の下面に固着されるノズルホルダー64と、複数の蒸気ノズル65と、押さえ板66とを有する。ノズルベース61は、上チャンバー42の上隅の内設段部42bの下面にビスなどの固着具(図示せず)で固定されており、したがってノズルユニット60全体が上チャンバー13と一体になっている。ノズルベース61はステンレスなどの金属板であり、上下チャンバー42,43間の密閉空間45と略同一の平面寸法を有するが、その周縁部には複数の切欠き81が形成されている(図9)。
【0091】
スチームガイド63は上チャンバー42の段部42bと略同一の高さ寸法を有する(図7,図8)と共に、5個の容器1の開口部を取り囲む形状(図9)を有し、ノズルベース61が上チャンバー42に取り付けられたときにその上面が上チャンバー42の下面42aに密接することにより、これらの間に実質的に閉じられた空間としての蒸気室62を形成している。蒸気導入口47はスチームガイド63により形成されるスチームガイド63の内側(すなわち蒸気室62内)で開口するので、蒸気導入口47に導入された高温高圧蒸気は蒸気室25に入り込み、蒸気ノズル65から食品収容容器1内に噴出されることによって後述の殺菌処理が行われた後、スチームガイド63の外側(すなわち蒸気室62の外側)においてノズルベース61に形成された蒸気排出穴49および上チャンバー42の蒸気排出口48を介して装置40外に排出される。
【0092】
押さえ板66は、容器1ごとにそのフランジ1bを覆うに十分な平面寸法を有するステンレスなどの板状体であり、ノズルホルダー64の下方において若干の上下動を許容して取り付けられる。取付の一例として、図示実施例では、ノズルホルダー64に固着したネジ軸67に、下端にストッパー68aを有するガイド支柱68を螺着し、このストッパー68aを押さえ板66の外周端近くにおいて裏面側に形成した凹部66aに嵌合収容させることにより、押さえ板66とノズルホルダー64との間の隙間82の高さ範囲内において若干の上下動を許容しつつ押さえ板66を吊り下げた状態で取り付ける構成が採用されている。
【0093】
押さえ板66には蒸気ノズル65を挿通させるためのノズル挿通孔69が蒸気ノズル65の位置に対応して同数だけ形成されている。ノズル挿通孔69は、蒸気ノズル65の外径より幾分大きい口径を有するものとして形成されており、したがって蒸気ノズル65を挿通させた状態においてもその周囲には蒸気を通過(排出)させるための蒸気通路70が残されている。
【0094】
複数の蒸気ノズル65(この実施例では一つの食品収容容器1について中心位置、内周位置および外周位置に合計13個の蒸気ノズル65が設けられている、図9参照)はノズルホルダー64と一体に樹脂成形され、ノズルホルダー64を厚さ方向に貫通している。蒸気ノズル64の上端はノズルベース61を貫通して蒸気室62において所定高さまで突出し、その下方においては押さえ板66のノズル挿通孔69を挿通してさらに下方に突出している。
【0095】
図7〜図9に示す殺菌装置40においてノズルユニット60に用いられる蒸気ノズル65の形状は、別途図10にも示されるように、尖った形状の下端(先端)45aには開口が無く、下端近くにおいて側面で開口45bしている。したがって、蒸気導入口47から導入された高温高圧蒸気は、蒸気室62から蒸気ノズル45の内部に入り込んだ後、側面の開口45bから側方に向けて噴出されることになる。また、その下端45aを含む下方領域の側面は微小凹凸面45cとされている。凹凸形状は任意であるが、この例ではリング状ないしネジ状の凹凸面45cが形成されている。
【0096】
既述したように、本発明では、容器1をリテーナ41に係止した状態でコンベア搬送する過程の数箇所(たとえば4〜8箇所)を殺菌処理位置として、これらの殺菌処理位置に各々図7〜図9に示すような殺菌装置40を設置して、型密閉→蒸気フラッシュ(5〜10秒間程度)→型開放を1サイクルとする殺菌処理を数回繰り返し行うことを想定しているが、最初の殺菌処理位置に設置する殺菌装置40では図10に示すような形状の蒸気ノズル65を用い、2回目以降の殺菌処理位置に設置される殺菌装置40ではこれに代えて図11に示すような形状の蒸気ノズル71を用いることが好ましい。この蒸気ノズル71は下端71aに開口71bを有し、側面には開口が無い。蒸気ノズル65と同様、下端71aを含む下方領域の側面は微小凹凸面71cとされている。
【0097】
定量充填工程(図6:S2)を経て最初の殺菌処理位置に搬送されてくる容器1には、米が固まった状態で充填されていることが多い。このため、最初の殺菌処理位置に設置される殺菌装置40においては、図10に示すような形状の蒸気ノズル65を用いることにより、固まった状態の米であっても奥深くまで挿入しやすくなる。また、このときに用いる蒸気ノズルの先端が開口していると、蒸気ノズルを挿入したときに先端の開口に米が入り込んで目詰まりを生じてしまうことがある。したがって、蒸気ノズル65の開口は先端ではなく側面に形成して、この目詰まりの問題を解消している。側面の開口65bから蒸気噴射することは、併せて、固まった状態の米をほぐす効果もある。
【0098】
一方、2回目以降の殺菌処理位置に設置される殺菌装置40では、既に最初の殺菌処理位置において蒸気ノズル65が挿入されたことによってノズルの挿入路が形成されているので、ノズル挿入は比較的容易であるし、目詰まりを起こすこともない。したがって、図11に示すように先端に開口71bを有する形状の蒸気ノズル71を用い、先端開口71aから蒸気を容器底面に向けて噴出させることによって容器内の隅々まで蒸気を行き渡らせる。
【0099】
以上のように構成された殺菌装置40の作用について説明する。上下チャンバー42,43が互いに離隔した待機位置にあるときに、コンベア(図示せず)が駆動されて、リテーナ41に支持された米充填容器1が上下チャンバー42,43間の所定位置(最初の殺菌処理位置)に送り込まれ、コンベア停止後、駆動手段44により下チャンバー43を上昇させて上チャンバー42に密着させ、それらの間に密閉空間45を形成する。
【0100】
このとき、突き上げ板51は待機位置(図7仮想線)に止まっており、リテーナ41に支持されている各容器1の底面より下方に離れた位置にある。この状態が図12に示されている。既述したように、容器1は、リテーナ41の開口に食品収容部1aが嵌合収容され、フランジ1bが各開口縁に係止された状態で支持されている。このとき、押さえ板66は、その凹部66の天井面にカラー膨径部68を係止した吊り下げ状態で保持されており、図8の位置より若干下方に移動しているが、容器1が大きく下降してリテーナ41に保持された位置に移動しているので、容器1のフランジ1bとは離れている。また、上チャンバー42に固定されたノズルユニット60の蒸気ノズル65は容器1の食品収容部1aには入り込んでいない。
【0101】
次いで、減圧手段72により密閉空間45内を減圧する。この減圧処理は必ずしも必須ではないが、後述するように、この時点で減圧することにより殺菌効果が向上することが実証されている(詳細は後述)ので、減圧処理を行うことが好ましい。減圧手段72の構成例については図14を参照して既述した通りであり、たとえば、1回の殺菌処理のサイクルタイムを10秒として、そのうちの0.3秒間だけ電磁バルブ80を開いてチャンバー内部密閉空間45からバッファータンク78に真空引きを行う。残りの9.7秒間は真空ポンプ79でバッファータンク78を真空にしているので、バッファータンク78内の真空度が十分に高められた状態で一気に密閉空間45内を真空引きするので、短時間であっても十分な効果が得られる。
【0102】
次いで、図12の位置で待機している突き上げ板51を駆動手段54により上昇させる。これにより、リテーナ41に保持されていた容器1が突き上げ板51によって押し上げられ、フランジ1bが当接した後にさらに突き上げ板51が上昇することによって押さえ板66も押し上げられて、図8の状態となる。このとき、容器1は、食品収容部1aがリテーナ41の開口に入り込み、底面が突き上げ板51の上に支持され、フランジ1bの上に押さえ板66が密接した状態となっている。また、容器1が上チャンバー42に近接移動したことにより、上チャンバー42に固定されたノズルユニット60の蒸気ノズル65が容器1の食品収容部1aに入り込み、充填されている食品に挿入されてその先端65aが容器1の底面近くまで達する。既述したように、このときに用いられる蒸気ノズル65は尖った閉塞先端65aを有するので、固まった状態の食品であってもスムーズに挿入され、目詰まりを起こすこともない。
【0103】
この突き上げ板51を上昇させる工程とほぼ同時または図8の状態が得られた直後に、蒸気導入口47に高温高圧蒸気を導入する。たとえば、145℃の高温高圧蒸気を5.5秒間フラッシュ注入する。蒸気導入口47から導入された蒸気は、上チャンバー下面42aとノズルベース61との間の蒸気室62を充満した後、該蒸気室62で上端開口している蒸気ノズル65に入り込み、その下端近くの側面開口65bから容器1内の食品に向けて噴射される。これにより、容器1の内面および容器1に充填された食品を殺菌すると共に、固まった食品をほぐす効果も得られる。このとき、容器1の開口部は、フランジ1bに密接する押さえ板66の自重が作用することによって実質的に閉塞されているので、蒸気のノズル噴射によっても食品が容器外に飛散したり、フランジ1bに付着することがない。
【0104】
所定時間の蒸気フラッシュによる殺菌処理を終えた後、蒸気排出口48からの蒸気パイプに設けられた電磁バルブを開く。これにより、容器1内に入り込んだ蒸気は、押さえ板66のノズル挿入孔69の口径と蒸気ノズル65の外径との寸法差によって与えられる蒸気通路70を通って容器1外に排出され、さらに、上下チャンバー42,43間の密閉空間45からノズルベース61の蒸気排出穴49および上チャンバー42の蒸気排出口48を介して装置40外に排出される。そして、駆動手段44により下チャンバー43を下降させると共に、駆動手段54により突き上げ板51を下降させて、図12に示す待機状態に戻す。容器1はリテーナ41に保持された状態となり、コンベアにより次の(2回目の)殺菌処理位置に搬送される。
【0105】
なお、蒸気導入口47から導入される蒸気は液体状態の熱水を含むので、この熱水も蒸気とともに蒸気室62に入り込むが、スチームガイド63の底部に形成された開口(図示せず、実施例1の開口26を参照)を通って蒸気室62外に排出され、さらにノズルベース61の周囲に形成された切欠き81(図9)から落下して排出される。これらの開口および切欠き81は排水路として機能し、蒸気に含まれる熱水が容器1内の米に入り込むことを防止する。また、蒸気ノズル65の上端は、排水路として機能する開口より十分に高い位置において蒸気室62内で開口するので、蒸気に含まれる熱水が蒸気ノズル65の上端開口から入り込んで容器1に注水されることもない。
【0106】
このようにして、コンベア停止により容器1が殺菌処理位置で停止している間に、型密閉→蒸気フラッシュ→型開放を1サイクルとする殺菌処理が行われ、これを数ヵ所の殺菌処理位置において繰り返して行うものであり、各殺菌処理位置において図7,図9に示すような殺菌処理装置40が用いられるのであるが、既述したように、2回目以降の殺菌処理位置に設置される殺菌処理装置40においては蒸気ノズル65(図10)に代えて蒸気ノズル71(図11)を用いることにより、殺菌効果を高めている。
【0107】
この殺菌処理装置40では一食分の米飯を封入するパック米飯を製造する過程で殺菌処理を行うものであるが、一食分と言ってもニーズは様々であり、たとえば100gパック米飯、200gパック米飯、300gパック米飯など数種類のパック米飯を製造する場合がある。このような場合、パック(容器1)の平面寸法を大きく変えずに、深さを変えることで容量の増減に対応させるのが一般的である。
【0108】
図13は、既述した構成の殺菌処理装置40において、これまで対象としてきた容器1よりも容量が大きい(したがって深い)容器1’を殺菌処理対象とする場合の用例を示している。この場合も、突き上げ板51を所定の高さまで上昇させることによって容器1’をリテーナ41から浮上させ、蒸気ノズル65(または71)を容器1’の奥底近くの所定位置まで挿入させて蒸気殺菌を行うが、容器1’の深さが大きいので、容器1の場合に使用した押さえ板66を用いると、突き上げ板51を所定高さまで上昇させたときに押さえ板66がノズルホルダー64と干渉してしまうことがある。これを回避するため、図13に示す用例では、より薄い押さえ板66’を用いてノズルホルダー64との干渉を回避している。押さえ板66,66’はガイド支柱68のストッパー68aに吊り下げられた状態で取り付けられているので、ガイド支柱68をネジ軸67から取り外し、あるいはネジ軸67をノズルホルダー64から取り外すことによって、簡単に着脱可能・交換可能である。
【0109】
押さえ板66はその自重で容器1,1’の開口部を閉止して蒸気ノズル噴射による食品の飛散を防止する役割を果たすが、図13のように薄い押さえ板66’では蒸気圧に負けて浮き上がってしまい、飛散防止効果が損なわれる場合もあり得る。このような場合には、必要に応じて、押さえ板66’の上にリング状の重り板(図示せず)を載せて荷重を増大させることができる。また、薄い押さえ板66’でも実際上十分な飛散防止効果を期待できる場合は、浅い容器1を殺菌対象とする場合にも同じ押さえ板66’を使うようにすれば、深さの異なる数種の容器について同じ押さえ板66’を使用することができ、着脱・交換の手間を省くことができる。
【0110】
この食品殺菌装置40による効果を確認するために、容器1に浸漬米を充填して高温高圧蒸気殺菌したときのF値を測定した。米には平成20年度青森県産「まっしぐら」(登録商標)を使用し、これを洗米した後、埼玉県羽生市の水道水に1時間浸漬し、よく水切りして、酸素バリア性を有するポリプロピレン製の容器(「ラミコン」登録商標)1に充填した。この容器は炊飯後の出来上がり状態で200gの米を収容するものであり、歩留まりを224.4%に設定して、浸漬米112gを容器1に充填した。充填した米は生米の状態で89.1gであり、浸漬率125.7であった。これを殺菌装置40に投入し、145℃の高温高圧蒸気を蒸気導入口47から5.5秒間導入してノズル噴射する蒸気殺菌処理を10秒間を1サイクルとして8回繰り返して行った。最初の殺菌処理では図9の蒸気ノズル65を使用し、2回目〜8回目の殺菌処理では図10の蒸気ノズル71を使用した。
【0111】
上記の同一条件で15回の試験を行った後、容器1の底面近く隅部における温度(底面部品温)を測定した。また、蒸気フラッシュに先立って、既述した要領で減圧手段72により真空引きを0.3秒間行った場合についても同様に15回の試験を行った後、容器1の底面近く隅部における温度(底面部品温)を測定した。これらについて、最大F値、最小F値、平均F値および標準偏差を表2に示す。
【0112】
【表2】

【0113】
この表に示すように、真空引きを行わない場合でも最小値で11.1、平均値で65.5と十分に高い数値が得られたが、真空引きを行うとF値がさらに大幅に上昇することが実証された。真空引きを行うと、上下チャンバー42,43間の密閉空間45の内圧が1気圧よりも小さくなって負圧になるので、蒸気を供給したときに密閉空間45内、したがって容器1内に入り込む蒸気量が増大すると共に、容器1内の隅々にまで行き渡りやすくなり、これによって殺菌効果が大幅に増大する。このことは、ここまでのF値を必要としない場合にはより少ない回数の殺菌処理を行えば十分であることを意味しており、設備の小型化、省スペース化およびコストダウンを実現する。また、上記の試験においては、真空引きの有無にかかわらず、蒸気ノズル噴出によっても容器1内の米飯が飛散することがなく、蓋材被着による密封シール(図6:S5)を支障無く行うことができ、最終的に得られた米飯も食味に優れたものであった。
【0114】
以上に本発明の実施形態について添付図面を参照して詳述したが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に規定された発明の範囲内において様々な態様を取り得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0115】
1,1’ 容器
1a 食品収容部
1b フランジ
1c 米充填レベル
2 蓋材
3 米(食品)
10 食品殺菌装置
11 リテーナ(容器支持手段)
12 容器支持板
13 上チャンバー
13a 上チャンバーの下面
14 下チャンバー
15 上下チャンバー間の密閉空間
16 蒸気導入口
17 蒸気排出口
18,19 蒸気通路
20 ノズルユニット
21 ノズルベース
21a ビス穴
22 隔壁
22a 突出部
22b 凹部
23 スチームガイド
24 ノズルホルダー
24a 上段部
24b 下段部
25 蒸気室
26 開口(排水路)
27 ビス
28 切り欠き
28a 蒸気が通る隙間
30 蒸気ノズル
31 第一のタイプの蒸気ノズル
31a 側面ノズル孔
32 第二のタイプの蒸気ノズル
40 食品殺菌装置
41 リテーナ(容器支持手段)
42 上チャンバー
42a 上チャンバーの下面
43 下チャンバー
43a 下チャンバーの底面
44 駆動手段
45 内部密閉空間
46 パッキン
47 蒸気導入口
48 蒸気排出口
49 蒸気排出穴
50 容器移動手段
51 突き上げ板
52 支持板
53 脚
54 駆動手段
60 ノズルユニット
61 ノズルベース
62 蒸気室
63 スチームガイド
64 ノズルホルダー
65 蒸気ノズル(最初の殺菌処理装置用)
65a 閉塞下端
65b 側面開口
65c 微小凹凸面(側面)
66,66’ 押さえ板
67 ネジ軸
68 ガイド支柱
68a 下端のストッパー
69 ノズル挿通孔
70 蒸気通路
71 蒸気ノズル(2回目以降の殺菌処理装置用)
71a 下端
71b 開口
71c 微小凹凸面(側面)
72 減圧手段
73 蒸気導入管
74 蒸気排出管
75 蒸気導入用の電磁バルブ
76 蒸気排出用の電磁バルブ
77 減圧用の分岐管
78 バッファータンク
79 真空ポンプ
80 減圧用の電磁バルブ
81 ノズルベース周縁部の切欠き
82 押さえ板とノズルホルダーとの間の隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面開口の容器に収容された食品を高温高圧蒸気で殺菌処理する食品殺菌装置であって、蒸気導入口および蒸気排出口を備えた上チャンバーと、上チャンバーに対向配置されて上チャンバーと密接するように相対移動可能である下チャンバーと、上下チャンバーを密接状態としたときに形成される内部密閉空間内の食品収容容器を該密閉空間内において上チャンバーに向けて移動させる容器移動手段と、ノズルユニットとを有して構成され、ノズルユニットは、上チャンバーに取り付けられるノズルノズルベースと、その上端が上チャンバーとノズルベースとの間の蒸気室に開口すると共にノズルベースを貫通してさらに下方に突出する蒸気ノズルとを備えるノズルユニットとを有して構成され、上下チャンバーが密接状態にあるときに食品収容容器を前記容器移動手段を介して上チャンバーに向けて移動させることにより、前記蒸気ノズルを容器内に挿入し、上チャンバーの蒸気導入口から導入された高温高圧蒸気を前記蒸気室から前記蒸気ノズルにより容器内に噴出させて容器内の食品を殺菌することを特徴とする食品殺菌装置。
【請求項2】
前記蒸気ノズルはその下端が尖った形状で閉塞しており、該下端近くにおいて側面で開口していることを特徴とする請求項1記載の食品殺菌装置。
【請求項3】
前記蒸気ノズルはその下端のみで開口していることを特徴とする請求項1記載の食品殺菌装置。
【請求項4】
前記蒸気ノズルはその少なくとも下方部において側面が微小凹凸面とされていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか記載の食品殺菌装置。
【請求項5】
前記ノズルユニットは、さらに、前記ノズルベースの下方に設けられて上下チャンバー間に密閉空間が形成されているときに食品収容容器の開口部を実質的に閉止するノズルホルダーを備え、前記蒸気ノズルはこのノズルホルダーを貫通してその下面から食品収容容器内に入り込むように突出することを特徴とする請求項1記載の食品殺菌装置。
【請求項6】
前記ノズルホルダーは、食品収容容器のフランジに載置される上段部と、食品収容容器の収容部に所定深さまで入り込む下段部とを有してなることを特徴とする請求項5記載の食品殺菌装置。
【請求項7】
上下チャンバー間の密閉空間に収容された食品収容容器の内部を真空引きするために該密閉空間を減圧する減圧手段を有することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか記載の食品殺菌装置。
【請求項8】
前記ノズルユニットは、さらに、上下チャンバー間の密閉空間に収容された食品収容容器が前記容器移動手段により上チャンバーに向けて移動したときに、該食品収容容器の開口部を閉止する押さえ板を備えることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか記載の食品殺菌装置。
【請求項9】
前記押さえ板は前記蒸気ノズルの外径より大きい口径のノズル挿通孔を有しており、ノズル挿通孔は蒸気ノズルを挿通させた状態においてその周囲に蒸気を排出させる通路を与えることを特徴とする請求項8記載の食品殺菌装置。
【請求項10】
前記押さえ板は、前記ノズルベースまたは前記ノズルブロックに対して若干の上下動を許容された状態で取り付けられることを特徴とする請求項8または9記載の食品殺菌装置。
【請求項11】
前記押さえ板は、待機位置に保持可能であると共に、上下チャンバー間の密閉空間に収容された食品収容容器が前記容器移動手段により上チャンバーに向けて移動したときに該食品収容容器のフランジに当接して持ち上げられた位置に移動することにより該容器フランジ上に密接して該食品収容容器の開口部を閉止することを特徴とする請求項8ないし10のいずれか記載の食品殺菌装置。
【請求項12】
前記押さえ板として厚さの異なる数種類の押さえ板が用意され、容器の深さに応じた厚さの押さえ板を使用できるように着脱且つ交換可能に前記ノズルユニットに取り付けられることを特徴とする請求項8ないし11のいずれか記載の食品殺菌装置。
【請求項13】
前記ベース上に食品収容容器の上面開口部を包囲する形状を有するスチームガイドが形成され、上下チャンバーを密接状態としたときにスチームガイドに囲まれて実質的に密閉された空間として蒸気室が形成されるものであって、蒸気導入口はスチームガイドの内側で開口し、蒸気排出口はスチームガイドの外側で開口することを特徴とする請求項1ないし12のいずれか記載の食品殺菌装置。
【請求項14】
スチームガイドの外側において前記ベースに蒸気排出穴が形成され、蒸気導入口から導入されて蒸気ノズルから容器内に噴出された蒸気をこの蒸気排出穴を通して蒸気室を経て蒸気排出口から排出することを特徴とする請求項1ないし13のいずれか記載の食品殺菌装置。
【請求項15】
食品収容容器を所定の高さ位置で支持する容器支持手段を有し、前記容器移動手段は、上下チャンバー間の密閉空間内において、容器支持手段に支持された食品収容容器に干渉しない待機位置から該食品収容容器を上昇させることにより、該食品収容容器を容器支持手段から持ち上げて前記所定の高さ位置よりも高い位置に移動させて、前記蒸気ノズルを食品収容容器内の所定深さまで入り込ませることを特徴とする請求項1ないし14のいずれか記載の食品殺菌装置。
【請求項16】
前記容器移動手段は、前記下チャンバーに対して昇降可能に設けられる突き上げ板を有し、この突き上げ板は、前記待機位置から上昇する過程で、前記容器支持手段に支持されている食品収容容器の底面に当接することを特徴とする請求項15記載の食品殺菌装置。
【請求項17】
食品収容容器を搬送する過程で所定個数の殺菌位置で順次に殺菌処理を行うために各殺菌位置に請求項1記載の食品殺菌装置が設置され、最初の殺菌位置に設置される食品殺菌装置には下端が尖った形状で閉塞していて該下端近くにおいて側面で開口する形状の蒸気ノズルが使用され、2回目以降の殺菌位置に設置される食品殺菌装置には下端で開口する形状の蒸気ノズルが使用されることを特徴とする食品殺菌装置。
【請求項18】
請求項1または請求項15記載の食品殺菌装置を用いて行う食品殺菌方法であって、上下チャンバーを密接させてそれらの間に密閉空間を形成するステップと、この密閉空間内において容器移動手段により食品収容容器を上チャンバーに向けて移動させることにより蒸気ノズルを容器内に挿入するステップと、上チャンバーの蒸気導入口から高温高圧蒸気を導入して蒸気室を経て蒸気ノズルから容器内に噴出させることにより所定時間の殺菌処理を行うステップと、容器移動手段により食品収容容器を元の位置に戻すと共に上下チャンバーの密接状態を解除するステップとを順次に行う一連の処理を実行することを特徴とする食品殺菌方法。
【請求項19】
請求項1または請求項15記載の食品殺菌装置を用いて行う食品殺菌方法であって、上下チャンバーを密接させてそれらの間に密閉空間を形成するステップと、この密閉空間を減圧することにより該密閉空間に収容された食品収容容器の内部を真空引きするステップと、減圧された該密閉空間内において容器移動手段により食品収容容器を上チャンバーに向けて移動させることにより蒸気ノズルを容器内に挿入するステップと、上チャンバーの蒸気導入口から高温高圧蒸気を導入して蒸気室を経て蒸気ノズルから容器内に噴出させることにより所定時間の殺菌処理を行うステップと、容器移動手段により食品収容容器を元の位置に戻すと共に上下チャンバーの密接状態を解除するステップとを順次に行う一連の処理を実行することを特徴とする食品殺菌方法。
【請求項20】
前記容器移動ステップと前記蒸気導入ステップが実質的に同時に行われることを特徴とする請求項18または19記載の食品殺菌方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−87575(P2011−87575A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214062(P2010−214062)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(390001627)株式会社シンワ機械 (8)
【Fターム(参考)】