説明

食品用シート材

【課題】キッチンペーパー,クッキングペーパー,保存シート,落とし蓋等の食品に直接又は間接的に接触する各種食品用シート材に、トレハロースとミネラル成分の複合体を保持させることにより、食品用シート材に接触する食品に複合体を移行させて付加価値を付与した食品用シート材を提供する。
【解決手段】食品に接触する食品用シート材であって、基材シート1に、トレハロースを混合した海洋深層水を原料とするミネラル調整液2を添加して、基材シート1にトレハロースと海洋深層水を原料とするミネラル成分の複合体TMを保持させてなり、食品に接触した際に複合体を食品に移行可能とした食品用シート材S。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品用シート材に関し、特にはキッチンペーパー,クッキングペーパー,保存シート,落とし蓋等の食品に直接又は間接的に接触する各種食品用シート材に、トレハロースとミネラル調整液の複合体を保持させることにより、食品用シート材に接触する食品に複合体を移行させて付加価値を付与するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から台所周りにおいて、野菜等の水切り,生鮮食品の保存,肉類や魚介類のドリップ除去,天ぷらやフライの油切り,アク取り,ゆで汁,漬け汁や出汁汁の濾過,油の汚れ除去,調理時の落とし蓋等々において、キッチンペーパー,クッキングペーパー,保存シート,落とし蓋等として各種の食品用シート材が多用途に使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、食肉や魚介類等の生鮮食材の鮮度を長く保持させるための鮮度保持シートとして、吸水量が170ml/m以上のパルプシートを使用することにより、生鮮食材から滲出するドリップを多量に吸収できるようにするとともに、パルプシートにカテキンを添加することで、生鮮食材に対する抗菌作用及び酸化防止作用を付与できるようにした鮮度保持シートが開示されている。特許文献2には、家庭用冷蔵庫内などで生鮮食品を保管するのに適した食品用シートとして、液吸収性のシート本体に、酸性またはプラスの酸化還元電位の少なくとも一方の性質を有する殺菌水が含浸されている食品用シートが開示されている。
【0004】
また、野菜や肉類の組織や細胞から水分が失われた場合に、組織或いは細胞の中で応急に水と代わる働きをし、乾燥や凍結により受けるダメージから守るバリアの働きを果たすことのできるトレハロースの鮮度保持効果が着目されている。特許文献3には、生鮮魚介類の鮮度低下を抑制し、保持するための鮮度保持剤として、α,α−トレハロースとともに有機酸及び/又はポリフェノールを含有する鮮度保持剤が開示されている。
【0005】
更に、近時は海洋深層水の持つ清浄性と豊富なミネラル成分が需要者の注目を浴びており、海洋深層水の脱塩処理水,原水,濃縮水,にがり等が食品の分野を中心として多方面において活用されている。この海洋深層水は室戸岬沖その他の複数個所で実用的に取水されており、通常の海洋表層で見られる風波とか表層温度変化に伴う対流,混合も生じない環境下にある海水で、地上で使用されている各種の油類とか化学物質,農薬等の有害物質に起因する海洋汚染の影響を受けることがなく、水温は年間平均で13℃以下という低温であり、人体が必要とする多くの天然元素を含んでいる。しかも海水中の溶存有機物が非常に少なく、微生物的な観点から極めて清浄であるという特徴を有している。この海洋深層水は、海洋病原性微生物及び食中毒の原因となる細菌が少なく、総生菌数は表層水の10分の1から100分の1という結果が報告されており、各種食品に広く利用されている。
【特許文献1】特開2002−345397号公報
【特許文献2】特開2004−357644号公報
【特許文献3】特開2003−225047号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、吸収性の向上とカテキンによる抗菌作用及び酸化防止作用を意図した鮮度保持シートに関するものであり、特許文献2は殺菌水による殺菌作用を意図した鮮度保持シートに関するものであるが、いずれも保管する野菜等をいかに現状の状態に長く維持するかを目的とするものであり、野菜等そのものに付加価値を与えるものではない。また、特許文献3は固状や液状の鮮度保持剤であり、使用に際しては氷として使用したり、水溶液として使用する必要があり、使用方法に制約があり、一般家庭等において汎用的に使用するには使い勝手の悪いものであった。
【0007】
また、現代人はミネラルの不足が懸念され、特に微量ミネラルの摂取が必要とされ、市場には多様なミネラル補助栄養食品等が豊富に提供されている。しかしながら、これら補助栄養食品は、主食とは別途の食品として摂取する必要がある。
【0008】
前記した従来の鮮度保持シート等は食品に触れるものであるが、これを媒体として利用して食品に現状以上の栄養価を有する何らかの有用成分を移行させて付加価値を付与するというアイデア,提案は皆無である。
【0009】
そこで本発明は上記従来の問題点に鑑みて、海洋深層水の持つ清浄性と豊富なミネラル成分に着目し、この海洋深層水と近時量産が可能になり鮮度保持効果その他の有用性を有するトレハロースとの組み合わせにより、各種食品の調理,下ごしらえ,保管時等の食品と直接又は間接的に接触する機会を利用して、食品用シートとして本来の用途に使用すると同時に食品用シートにトレハロースとミネラル成分の複合体を保持させることにより、食品に複合体を移行させて付加価値を付与する食品用シート材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記目的を達成するために、食品に接触する食品用シート材であって、基材シートに、トレハロースと海洋深層水を原料とするミネラル成分の複合体を保持させてなり、食品に接触した際に複合体を食品に移行可能とした食品用シート材を提供する。そのために、基材シートにトレハロースを混合した海洋深層水を原料とするミネラル調整液を添加して、基材シートにトレハロースと海洋深層水を原料とするミネラル成分の複合体を保持させる。
【0011】
また、トレハロースをミネラル調整液に対して10重量%〜90重量%混合し、基材シートの坪量に対してトレハロースを混合した海洋深層水を原料とするミネラル調整液を5重量%〜100重量%添加させる。海洋深層水を原料とするミネラル調整液は、海洋深層水を原料とし、カルシウムとマグネシウムを1:2.5〜3.5の比率に保ちながら非加熱で濃縮するとともに、ナトリウム含有量を硬度の略5%以下に抑えたものである。基材シートとしては、パルプ,コットン又はレーヨンを主原料とする不織布又は紙を使用する。そして、トレハロースと海洋深層水を原料とするミネラル成分の複合体によって、食品に鮮度保持機能及びミネラル成分を付与する。食品用シート材がキッチンペーパー,クッキングペーパー,保存シート又は落とし蓋である。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる食品用シート材によれば、この食品用シート材が接触した各種の食品にはトレハロースと海洋深層水を原料とするミネラル成分の複合体が移行し、トレハロースによって食品の鮮度が保持されるとともに不快臭が抑えられ、脂質の変敗を抑制して食品の品質を維持できる。更に、主として人体に必須のミネラル成分、特にカルシウム,マグネシウム,カリウムを食品に移行させることができ、食品から簡単に必須ミネラル成分を効率的に摂取することができ、食品に付加価値を付与することができる。また、トレハロースとの相乗効果によって、ミネラル成分の吸収効率が高まる。しかも、食品用シート材として本来の用途に使用するのみであり、特別の使用形態を必要とせず、使用が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明にかかる食品用シート材の最良の実施形態を説明する。本発明にかかる食品用シートとは、固体状,液体状の各種食品に直接又は間接的に接触して使用するシート状物であり、具体的には野菜等の水切り,生鮮食品の保存,肉類や魚介類のドリップ除去,天ぷらやフライの油切り,アク取り,ゆで汁,漬け汁や出汁汁の濾過,油の汚れ除去,調理時の落とし蓋等々として使用するものである。これらはキッチンペーパー,クッキングペーパー,保存シート,落とし蓋等として使用されているが、これらに限定されるものではない。また、食品は直接食するものだけでなく、調味料その他の食品の調理や加工に使用するものも含む。シートは、平面的なシート状物に限らず袋状その他の立体的、或いはロール状等に加工されているものも含み、使用に際して食品と一定の面積で直接又は間接的に接触可能なものであれば、その形状は問わない。
【0014】
食品用シート材の基材シートとしては、トレハロースと海洋深層水を原料とするミネラル成分の複合体を保持することができるものであれば、特に制約はないが、製造工程上及び食品用シート材としての使用上から、原料繊維に親水性及び親油性を有する繊維が配合されていることが好ましい。具体的には、パルプ,レーヨン,綿などの親水性を持つ繊維単位での使用や、パルプなどとポリエステル(PET),ポリプロピレン(PP)等の耐熱性や油分を吸着する繊維との複合繊維での利用が考えられる。特にポリプロピレン(PP)繊維を原料とする不織布は、自重の約10倍以上の油を吸着する性質を持ち、例えばタンカー事故などの際の油吸着材としても使用されており、食品用シート材としても、アク取りシートとして、又余分な脂肪分の吸着用シートとして適当である。パルプも同様に油吸着、吸水性に優れ、基材シートの原料として適当である。これらの繊維を主原料として、所定厚さ,密度の不織布又は紙を用いる。本実施形態ではパルプ100%の不織布を使用した。なお、パルプに他の天然繊維、合成繊維を混合した基材シートでもよい。
【0015】
トレハロース(Trehalose)は、白色の結晶又は結晶性の粉末で無臭の天然糖質の物質である。広く天然に分布していて太古から生命と深く係わり、多くの動植物を始めとして海水中にも含まれており、生物のエネルギー源にもなっており、ストレス,老化など生命にとって過酷な環境に対して体や細胞を維持する働きを有している。1993年に澱粉から量産が可能になったトレハロースは1995年から高純度のものが工業的に大量生産され、現在では食品,化粧品の原料として広く利用されている。
【0016】
トレハロースは非還元性であり、アミノ酸・タンパク質との共存下で加熱しても、褐変(メーラード反応)を起こさず(非着色性)、熱や酸に対しても非常に安定で(耐熱・耐酸性)、相対湿度95%迄は全く吸放湿しない(難吸湿性)物性を有しており、生鮮食品の鮮度保持や、澱粉の老化防止やタンパク質の変性防止、脂質の腐敗防止、魚臭生成抑制、白米の米糠臭発生抑制等に効果を発揮する。
【0017】
他方の海洋深層水を原料とするミネラル調整液は、海洋深層水を原料とし、カルシウムとマグネシウムを1:2.5〜3.5の比率に保ちながら非加熱で濃縮するとともに、人の健康及び該調整液を粉末化する際に阻害要因となるとともに過剰摂取が懸念されるナトリウム含有量を硬度の略5%以下に抑え、硫酸イオンを軽減した調整液である。その主要組成を表1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
本実施形態では海洋深層水を原料とするミネラル調整液の原料として室戸岬沖の海面下320メートル以深の深海から取水した海洋深層水を使用した。この室戸岬沖の海洋深層水中の生菌数は、表層水中のそれと比較して、1桁又はそれ以上少なくなっており、しかも病原生物はほとんど含まれていないため、海水に由来する魚病菌による病気に関する惧れは全くなく、食品に採用した際の安全性が極めて高い。室戸海洋深層水の特長としては、低温安定性,無機栄養塩に富み、清浄性,ミネラル特性,熟成性,低温安定性に優れており、海の生き物の源となる植物プランクトンの栄養源となる「チッ素」「リン」「ケイ酸」が豊富であって海洋深層水はこれらの栄養素の貯蔵庫の役割を担っている点が挙げられる。また、清浄性の面からみると、清浄とは物理的清浄性,生物学的清浄性,化学的清浄性があり、室戸海洋深層水は何れの清浄性にも優れている。この海洋深層水の水温は季節を通じてほぼ一定であり、室戸岬周辺の表層水の水温は約16℃〜28℃、深層水の取水深度である約374メートルの水温は約9℃、陸上では10℃〜12℃程度になる。
【0020】
海洋深層水のミネラル特性に関して述べると、海洋深層水には70種類を超える元素が含まれており、マグネシウム,カルシウム,カリウム等の人間が摂取しなければならない主要元素も多く含まれている。マグネシウムは神経などの働きを正常に保つのに欠かせない元素であり、マグネシウムの不足は自律神経の失調や、心臓疾患などの原因になる。マグネシウムとカルシウムは密接な関係があり、一方が欠乏するとバランスを崩すことや、カリウムはナトリウムの排泄に効果的である。鉄や亜鉛も健康と深い関わりがある。
【0021】
ミネラルは骨や歯のほか、筋肉、血液、神経、臓器などを構成する重要な成分であり、細胞内外の体液に溶けた状態で存在しており、食物の消化や分解、吸収といった身体の代謝をスムーズに行うために不可欠である。ミネラルは体内では作ることができないので、食物等から摂取する手段しかない。海洋深層水のマグネシウム,カルシウム,カリウム,ナトリウムの含有量を表2に示す。
【0022】
【表2】

【0023】
表1と表2を比較すれば明りょうなように、ミネラル調整液は海洋深層水に対して、カルシウムが400mg/Lから3445mg/Lに、マグネシウムは1200mg/Lから10663mg/Lに、それぞれ含有量が増加するとともに、カルシウムとマグネシウムの比率を海洋深層水と同様に1:2.5〜3.5の範囲に保って、ナトリウムを10000mg/Lから、硬度の略5%以下の508mg/Lに減少させている。
【0024】
この海洋深層水を原料とするミネラル調整液にトレハロースを混合する。本実施形態では、トレハロース12重量%,ミネラル調整液88重量%の配合割合としてハンドリングの容易な液状とした。なお、トレハロースの混合割合はミネラル調整液に対して10重量%〜90重量%が適当である。粉末状のトレハロースの混合割合が増加するに従って濃度が高くなり、粉末状となっていく。トレハロース88重量%,ミネラル調整液12重量%の配合割合とした場合には粉末状となった。本実施形態で使用したトレハロースを混合した海洋深層水を原料とするミネラル調整液は、株式会社エイチプラスビィ・ライフサイエンスから商品名「ミネラルトレハ」として市販されているものを使用した。このミネラルトレハ(商品名)は液状或いは粉状であり、本実施形態では適当濃度の液状のものを使用したが、粉末状或いは濃度の高い場合は水に分散させて濃度調節を行う。本実施形態で使用したトレハロースを混合した海洋深層水を原料とするミネラル調整液のミネラル成分を表3に示す。
【0025】
【表3】

【0026】
本発明で用いたトレハロースを混合した海洋深層水を原料とするミネラル調整液を専門機関に依頼して試験に供した結果、Ames試験(変異原性試験)では、トレハロースを混合したミネラル調整液にサルモネラ菌及び大腸菌を用いた復帰突然変異試験において遺伝子の突然変の誘発はないものと判断され、染色体異常試験では、トレハロースを混合したミネラル調整液は染色体異常試験中に変異原性を誘発せず、急性経口毒性試験ではトレハロースを混合したミネラル調整液の投与による死亡例や臨床徴候の発現はなく、毒性はないものと判断された。
【0027】
前記したトレハロースを混合した海洋深層水を原料とするミネラル調整液を基材シートに添加する。図1は基材シートとしての食品シート用不織布にトレハロースを混合した海洋深層水を原料とするミネラル調整液2(ミネラルトレハ/商品名)を添加してトレハロースと海洋深層水を原料とするミネラル成分の複合体を保持させる工程を示す概略図である。同図(A)に示すように、パルプ100%からなる不織布により構成された基材シート1にトレハロースを混合した海洋深層水を原料とするミネラル調整液2を添加して、同図(B)に示すように調整液層3を形成し、次に同図(C)に示すように調整液層3の上面から加熱4を行って基材シート1内にトレハロースを混合した海洋深層水を原料とするミネラル調整液2を含浸定着させ、同図(D)に示すように水分5を蒸発させることで同図(E)に示すように基材シート1の繊維間及び一面にトレハロースと海洋深層水を原料とするミネラル成分の複合体TMが含浸して保持された基材シート1が食品用シート材Sとして完成する。
【0028】
本発明により得られた食品用シート材は、これを用いて、野菜等の水切り,生鮮食品の保存,肉類や魚介類のドリップ除去,天ぷらやフライの油切り,アク取り,ゆで汁,漬け汁や出汁汁の濾過,油の汚れ除去,調理時の落とし蓋等の所定の平面形状の食品用シート材、或いはロール状,袋状等の食品用シート材として各種形状に加工して広く利用に供することができる。
【0029】
上記したトレハロースと海洋深層水を原料とするミネラル成分の複合体は、図2に示すようにトレハロース分子中の2位と4位の水酸基がカルシウム及びマグネシウムと結びつくことで形成されている。また、基材シートのセルロース分子の形状は水素結合によるシート状になっており、これに対しデンプンから成るトレハロースの分子の形状は水素結合によるラセン状になっている。両者の構造は、ともに水酸基(OH基)間で水素結合により結びついているため、非常に安定な構造をしているが、分子の形状の違いで、セルロースは熱水にも冷水にも溶解しない性質を持ち、トレハロースは水に対して安易な溶解性を示す。よって、複合体は基材シートとは結合することなく、基材シートを構成する繊維間及び繊維状に担持されて保持されることとなる。そして、食品用シート材として、その用途に従って食品に接触した際には、トレハロースが水分に対して安易な溶解性を示すため、食品の水分又は油分によって、複合体が食品に容易に移行する。また、トレハロースとミネラル成分との複合体とすることによって、ミネラル成分の吸収率が向上する。
【0030】
トレハロースと海洋深層水を原料とするミネラル成分の複合体は、トレハロースの働きで、生鮮食品の鮮度保持や、澱粉の老化防止やタンパク質の変性防止、脂質の腐敗防止、魚臭生成抑制、白米の米糠臭発生抑制機能等を有するとともに、主要ミネラルの吸収効率が向上する。また、トレハロースと複合体を形成したことで、湿気に強く、安定的である。即ち、トレハロースとミネラル成分の個々の長所を有するとともに、これらが補完しあって更なる効果を奏する。更に、ミネラル成分は過剰摂取が問題となるナトリウムの含有量が硬度の略5%以下となっており、海水に近いミネラルバランス(カルシウム:マグネシウムの比率が約1:2.5〜3.5)で不足しがちな必須ミネラル成分だけを効率的に摂取することが可能である。
【0031】
トレハロースがミネラル成分の吸収に及ぼす影響としては、ラットを使用した実験報告が行われている。これは、正常ラットとマグネシウム欠乏ラットに、それぞれマグネシウムを単体で摂取させた場合と、マグネシウムとトレハロースを同時に摂取させた場合を比較したものである。表4に示すように、正常ラットではマグネシウム単体の場合は吸収率が36.0%であるのに対し、マグネシウムとトレハロースを同時に摂取させた場合、72.8%と2倍以上の吸収率となり、マグネシウム欠乏ラットの場合も77.5%から91.9%に大幅に向上している。よって、本発明でも、ミネラル成分がトレハロースと複合体を形成していることにより、その吸収効率が向上するものである。
【0032】
【表4】

【0033】
図3はパルプ100%からなる不織布にトレハロースを混合した海洋深層水を原料とするミネラル調整液2を保持させる本発明の第1実施形態の概略図であり、先ず不織布により構成された複数枚の基材シート1,1をロータリー型ローラ6,6を用いて所望の厚紙状に成形した後、次工程でノズル7からトレハロースを混合した海洋深層水を原料とするミネラル調整液2を散水し、次にエンボス加工用ローラ8,8内を通して基材シート1に所定のエンボス加工を施す。そして次段の工程で乾燥機9により基材シート1の上面から所定時間の加熱処理を行って水分を蒸発させるとともに基材シート1の繊維間及び一面にトレハロースと海洋深層水を原料とするミネラル成分の複合体を含浸定着させ、次に押圧用ローラ10,10間を通すことで基材シート1の厚みを一定に調整した後、巻取ローラ11に巻き取って食品用シート材Sが完成する。
【0034】
図4は本発明の第2実施形態の概略図であり、上記第1実施形態と同一の構成部分に同一の符号を付して表示してある。上記したように先ずパルプ100%の不織布により構成された複数枚の基材シート1,1をロータリー型ローラ6,6を用いて所望の厚紙状に成形した後、次工程でエンボス加工用ローラ8,8内を通して基材シート1に所定のエンボス加工を施し、次に転写ローラ13の回転に伴って予め密閉型容器12内に充填されているトレハロースを混合した海洋深層水を原料とするミネラル調整液2を基材シート1の裏面側に転写する。そして次段の工程で乾燥機9により基材シート1の加熱処理を行って水分を蒸発させるとともに基材シート1の繊維間及び一面にトレハロースと海洋深層水を原料とするミネラル成分の複合体を含浸定着させ、次に押圧用ローラ10,10間を通すことで基材シート1の厚みを一定に調整した後、巻取ローラ11に巻き取って食品用シート材Sが完成する。
【0035】
図5は本発明の第3実施形態の概略図であり、第1,第2実施形態と同一の構成部分に同一の符号を付して表示してある。即ち、前記例と同様にパルプ100%の不織布により構成された複数枚の基材シート1,1をロータリー型ローラ6,6を用いて所望の厚紙状に成形した後、次工程でエンボス加工用ローラ8,8内を通して基材シート1に所定のエンボス加工を施し、次に上部が開口された容器14内に予め充填されているトレハロースを混合した海洋深層水を原料とするミネラル調整液2中へガイドローラ15に沿って移動させることで、基材シート1の表裏両面にトレハロースを混合した海洋深層水を原料とするミネラル調整液2を付着し、絞りローラ16,16間を通して余分な水分を除去した後、次段の工程で乾燥機9により基材シート1の加熱処理を行って水分を蒸発させるとともに基材シート1の繊維間及び表裏両面にトレハロースと海洋深層水を原料とするミネラル成分の複合体を含浸定着させ、次に押圧用ローラ10,10間を通すことで基材シート1の厚みを一定に調整した後、巻取ローラ11に巻き取って食品用シート材Sが完成する。なお、前記した第1実施形態〜第3実施形態に限らず、他の公知の手段、例えばフレキソ印刷等の手段によっても不織布にトレハロースと海洋深層水を原料とするミネラル成分の複合体を保持させることが可能である。
【0036】
上記各実施形態において、基材シート1の坪量に対してトレハロースを混合した海洋深層水を原料とするミネラル調整液2を5重量%〜100重量%添加させた。5重量%より少なく、或いは100重量%より多いと、基材シートへの添加が困難であり、又食品用シートとして利用する場合は、5重量%未満ではその効果が期待できず、100重量%を超えると食品そのものの風味を壊すと考えられるためである。
【0037】
得られた食品用シート材は、キッチンペーパー,クッキングペーパー,保存シート,落とし蓋等として、固体状,液体状の各種食品に直接又は間接的に接触するシート状物として多用途に利用でき、食品用シート材として各種食品と接触することにより、トレハロースと海洋深層水を原料とするミネラル成分の複合体が各種食品に移行する。そして、各種食品は移行したトレハロースによって食品の鮮度が保持されるとともに不快臭が抑えられ、脂質の変敗を抑制して食品の品質を維持できる。更に、主として人体に必須のミネラル成分、特にカルシウム,マグネシウム,カリウムを食品に移行させることができ、食品から簡単に必須ミネラル成分を効率的に摂取することができ、食品に付加価値を付与することができる。
【0038】
例えば、野菜等の水切り,生鮮食品の保存,肉類や魚介類のドリップ除去,天ぷらやフライの油切り,アク取り,ゆで汁,漬け汁や出汁汁の濾過,油の汚れ除去用の食品シートとして使用した場合、食品用シートから各種食品に移行したトレハロースが水分やドリップをしっかりキャッチし、つかまえた水分等を離しにくい特性を有しているため、色や味の移動を防ぎ、水の自由度を奪うことで、各種食品の鮮度を保持することができる。同時に各種食品に、カルシウム,マグネシウム,カリウムの人体に必須のミネラル成分をも付加させることができる。或いは、調理時の落し蓋として使用した場合は、煮汁がこの落し蓋に当たって上下に対流し、ミネラル分とトレハロース分が食品中に溶け出すことで、うまみを引き出し、より美味しい食品となる。
【実施例1】
【0039】
パルプ100%の不織布からなる乾紙状態の食品用シート材に、トレハロース12重量%とミネラル調整液88重量%を混合してなるトレハロースを混合した海洋深層水を原料とするミネラル調整液を基材シートの坪量に対して10重量%添加し、水分を除去した後、240mm×270mmの大きさに裁断した食品用シート材とした。この食品用シート材を鮮度保持のための保存シートとし、刺身用解凍魚肉片(マグロ;約70g)とレタス(1/6玉)をそれぞれ包み、さらにチャック付ポリエチレン袋に入れ、金属製トレイの中に並べて、5±0.5℃に設定したインキュベーターに保管した。保管する直前(0時間),保管してから24時間後(1日後),72時間後(3日後)にインキュベーターから取り出して目視により観察を行った。なお、実施例1で使用した基材シートの物性規格を表5に示す。
【0040】
【表5】

【0041】
従来例として、市販のクッキングペーパー(240mm×270mm)を使用して、実施例1と同様の実験を行った。また、比較例としてパルプ100%の不織布からなる乾紙状態の基材シートにトレハロース12重量%の水溶液を、基材シートの坪量に対して10重量%添加させ水分を除去した後、240mm×270mmの大きさに裁断した食品用シート材を使用して、実施例1と同様の実験を行った。
【0042】
この実験は、食品(魚介類や穀物)に含まれる脂肪酸(油脂や脂質)が加熱調理や長期保存の間に分解し、不快臭のもとになる揮発性アルデヒドが生じることはよく知られており、又食品の成分が微生物によって分解され、腐敗・変敗を招くこともあるため、食品の鮮度は外観の変化で見極めることができることに基づくものである。
【0043】
刺身用解凍魚肉片(マグロ;約70g)の場合は、24時間経過後,72時間経過後では、実施例1,従来例,比較例ともに食品の色面での大きな変化(腐敗)はなく、色つやもよかった。しかし、臭いの面では従来例が最も腐敗臭を発し、実施例1及び比較例はそれほど腐敗臭は感じられなかった。また、72時間後の魚肉表面には粘りがあり、細菌の侵食が進んでいるものと考えられる。通常、魚肉の鮮度は当日もしくは翌日までとされており、2日も経つと鮮度が落ち色は茶色く、つやは落ちるのが通例である。よって、実施例1は鮮度保持のための保存シートとしての役割を果たしているものと考えられる。
【0044】
レタス(1/6玉)の場合は、一番外側の葉から変色し始めた。これは空気に触れることで空気中の酸素によって酸化し水分が失われていくためと考えられる。従来例1の外側の葉の色が落ちカラカラとなっているのに比べて、実施例1の外側の葉の色は多少色落ちも見られたがパリッとした感触だった。一方、比較例では部分的に大きな変色が見られた。よって、実施例1は鮮度保持シートとしての役割を果たしているものと考えられる。
【実施例2】
【0045】
実施例1の食品用シート材を調理用の落とし蓋として使用するために、直径20cmの円形に加工し、加熱して約90℃に保った精製水1Lに1時間浸漬した。その後、落とし蓋を精製水から取り出し、室温まで放冷した生成水中のマグネシウム及びカルシウムの濃度を測定した。なお、分析方法はICP発光分析法によった。また、従来例2として、実施例1の基材シートを直径20cmの円形に加工し、実施例2と同様の実験を行った。
【0046】
この実験は、本発明にかかる食品用シート材を落とし蓋として利用することにより、食品中へのミネラル成分の溶出による移行の有無を確認するものであり、その結果を表6に示す。表6に示すように、従来例2及び精製水中にはマグネシウム,カルシウムともに検出されなかったが、実施例2では、マグネシウムが4.9mg/L、カルシウムが2.1mg/L検出されており、食品用シート材を調理用の落し蓋に利用することで、ミネラル成分が食品中に移行することが確認できた。
【0047】
【表6】

【0048】
次に、実施例2の落とし蓋を、家庭において実際の料理に使用して、食品の味わい,風味に変化があるか、あるとすればどのように変化したかのかをアンケート形式で調査した。サンプル数は10件であり、落とし蓋を使用した料理は、カボチャの煮物,鯖の煮付け,牛すじの煮込み等の煮込み料理であった。
【0049】
質問1として、「風味に変化がありましたか?」という問いに対しては、図6に示すように「変化なし」が20%,「変化あり」が80%であった。質問2として上記「変化あり」と回答した方に具体的な評価を求めたところ、図7に示すように「食品のうまみを引きだした感じ」が70%,「生臭味がなくなった」が10%,「こくが出た」が10%,「その他」が10%であった。その他の内容は「深い味わいに仕上がった」「美味しかった」等がある。
【0050】
図6,図7の調査結果から、本発明を適用した落とし蓋を使用することで過半数の利用者が「食品のうまみを引きだした感じ」と回答しており、落とし蓋から調理品にトレハロース及びミネラル成分が移行し、食品そのものにはない付加価値を付与していることが判る。
【0051】
次に、実施例2の落とし蓋において、基材シートの坪量に対するトレハロースとミネラル調整液の配合割合を、それぞれ5重量%未満,10重量%,30重量%,60重量%,90重量%以上に変化させて実施例2と同様に実際の料理に使用した実験を行い、最も食品のうまみを引き出したと思われる落とし蓋がどれかをアンケート調査した。
【0052】
図8の調査結果に示すように、10重量%が49%,30重量%が38%,60重量%が13%の結果となった。なお、5重量%未満及び90重量%以上はともに0%であった。この結果から、好ましい配合割合としては、10重量%〜60重量%程度の配合割合と思われる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、得られた食品用シート材を食品に直接又は間接的に接触する各種の食品用シート材として使用することにより、トレハロースと海洋深層水を原料とするミネラル成分の複合体、即ち鮮度保持機能を有するトレハロース及び人体に必須のミネラル成分、特にカルシウム,マグネシウム,カリウムを食品に移行させることができるので、トレハロースによって食品の鮮度が保持されるとともに不快臭が抑えられ、脂質の変敗を抑制して食品の品質を維持できるとともに、食品から簡単に必須ミネラル成分を効率的に摂取することができ、食品に付加価値を付与することができる。しかも、食品用シート材として本来の用途に使用するのみであり、特別の使用形態を必要とせず、使用が容易である。また、トレハロースとミネラル成分との複合体とすることによって、ミネラル成分の吸収率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】基材シートにトレハロースと海洋深層水を原料とするミネラル成分の複合体を保持させる工程を示す概略図。
【図2】トレハロースと海洋深層水を原料とするミネラル成分の複合体の構造図。
【図3】本発明の第1実施形態の概略図。
【図4】本発明の第2実施形態の概略図。
【図5】本発明の第3実施形態の概略図。
【図6】本発明を適用した落とし蓋を市場調査した結果を示すグラフ。
【図7】本発明を適用した落とし蓋を市場調査した結果を示すグラフ。
【図8】本発明を適用した落とし蓋を市場調査した結果を示すグラフ。
【符号の説明】
【0055】
1…基材シート
2…トレハロースを混合した海洋深層水を原料とするミネラル調整液
3…調整液層
TM…トレハロースと海洋深層水を原料とするミネラル成分の複合体
6…ロータリー型ローラ
7…ノズル
8…エンボス加工用ローラ
9…乾燥機
10…押圧用ローラ
11…巻取ローラ
12…密閉型容器
13…転写ローラ
15…ガイドローラ
16…絞りローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品に接触する食品用シート材であって、基材シートに、トレハロースと海洋深層水を原料とするミネラル成分の複合体を保持させたことを特徴とする食品用シート材。
【請求項2】
食品に接触する食品用シート材であって、基材シートに、トレハロースと海洋深層水を原料とするミネラル成分の複合体を保持させてなり、食品に接触した際に複合体を食品に移行可能としたことを特徴とする食品用シート材。
【請求項3】
食品に接触する食品用シート材であって、基材シートに、トレハロースを混合した海洋深層水を原料とするミネラル調整液を添加して、基材シートにトレハロースと海洋深層水を原料とするミネラル成分の複合体を保持させたことを特徴とする食品用シート材。
【請求項4】
食品に接触する食品用シート材であって、基材シートに、トレハロースを混合した海洋深層水を原料とするミネラル調整液を添加して、基材シートにトレハロースと海洋深層水を原料とするミネラル成分の複合体を保持させてなり、食品に接触した際に複合体を食品に移行可能としたことを特徴とする食品用シート材。
【請求項5】
ミネラル調整液は、カルシウムとマグネシウムを1:2.5〜3.5の比率に保ちながら海洋深層水を非加熱で濃縮するとともに、ナトリウム含有量を硬度の略5%以下に抑えたものである請求項3又は4記載の食品用シート材。
【請求項6】
トレハロースをミネラル調整液に対して10重量%〜90重量%混合した請求項3,4又は5記載の食品用シート材。
【請求項7】
基材シートの坪量に対してトレハロースを混合した海洋深層水を原料とするミネラル調整液を5重量%〜100重量%添加させた請求項3,4,5又は6記載の食品用シート材。
【請求項8】
基材シートがパルプ,コットン又はレーヨンを主原料とする不織布又は紙からなる請求項1,2,3,4,5,6又は7記載の食品用シート材。
【請求項9】
トレハロースと海洋深層水を原料とするミネラル成分の複合体によって、食品に鮮度保持機能及びミネラル成分を付与する請求項1,2,3,4,5,6,7又は8記載の食品用シート材。
【請求項10】
食品用シート材がキッチンペーパー,クッキングペーパー,保存シート又は落とし蓋である請求項1,2,3,4,5,6,7,8又は9記載の食品用シート材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−295388(P2008−295388A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146063(P2007−146063)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(397040269)ハヤシ商事株式会社 (3)
【Fターム(参考)】