説明

食品用紙ケース

【課題】 基材として環境に優しい紙を使用すると共に、高い形状保持性を備えた食品用抗菌・防カビ・日持ち向上ケースの提供。
【解決手段】 シリコーン塗工紙をプレス成形して得られる食品用紙ケースにおいて、前記紙の一方の面にはシリコーンが0.2〜10g/mで塗工されていると共に、前記紙の他方の面にはイソチオシアン酸エステル類が塗工されていることを特徴とする食品用紙ケース。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌・防カビ・日持向上作用を有すると共に、剥離性に優れ環境にも優しい食品用の紙ケースに関する。
【背景技術】
【0002】
イソチオシアン酸アリルに代表されるイソチオシアン酸エステル類等の揮発性油状物質は、抗菌作用があり、食品の防菌・防黴・鮮度保持に有効であることが知られている。例えば、当該物質を利用した具体的態様として、特許文献1には、イソチオシアン酸エステル類を使用した防カビシートが提案されている。ここで、前記防カビシートは、例えば、食品を包装体で包装し、その包装体の外表面又は内表面に当該シートを貼着して使用される。
【特許文献1】特開2003−171208
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、本発明者は、このイソチオシアン酸エステル類が適用された食品用ケースが存在しないことに着目し、特に、プレス成形することにより得られる、環境に優しい食品用ケースを中心に開発を進めてきた。この開発の過程で、基材として紙を採用すると、ケースの形状保持性が悪化し、例えば、当該ケースを食品用に使用した場合、当該形状が崩れることによりケース内の食品から液漏れが生じるという問題に直面した。特に、食品用ケースの表面にイソチオシアン酸エステル類の包摂化合物を塗工した場合には、当該ケースの形状が崩れることにより漏出した液が前記化合物に接触する結果、本来は水蒸気との接触により徐放するはずのイソチオシアン酸エステル類が早期に揮発してしまうという、致命的な問題をもたらす。他方、基材として合成樹脂を使用すれば形状保持性が担保できるが、そのまま可燃ゴミとして出せない等、環境上の問題が残る。
【0004】
そこで、本発明者らは、鋭意研究した結果、基材として紙を使用した場合でも、その表面に所定量のシリコーンを塗工することにより、前記問題が解消された食品用ケースが得られることを見出し、以下の発明(1)〜(2)を完成させた。
【0005】
本発明(1)は、シリコーン塗工紙をプレス成形して得られる食品用の紙ケースであって、前記紙の一方の面にはシリコーンが0.2〜10g/mで塗工されていると共に、前記紙の他方の面にはイソチオシアン酸エステル類又はそのサイクロデキストリン包接化合物が塗工されている食品用の紙ケースである。
【0006】
本発明(2)は、前記紙が、グラシン紙、パーチメント紙、耐油紙、上質紙及び純白紙から選択される、前記発明(1)の食品用の紙ケースである。
【0007】
ここで、本明細書における各用語の意味について説明する。ここで、「食品」とは、特に限定されず、各種食品(例えば、和菓子、ケーキ、惣菜)を挙げることができる。「抗菌」とは、静菌や日持向上を意味し、更に「菌」は、例えば、大腸菌・黄色ブドウ球菌・サルモネラ菌等の他、カビ類等の微生物全般を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、そのまま可燃ゴミとして焼却可能である紙を基材としつつ、紙をプレス成形して得られるケースの欠点である形状保持性の悪さが解消されると共に、複数のケースを重ね合わせた状態から各ケースを取り出す際の剥離性に優れているという効果を奏する。更に、ケースの形状保持性が良好であるので、ケース内の食品からの漏液を防止できると共に、ケース外に食品から生じた液が存在している場合にも、当該液がケースの型崩れにより内部に侵入することも回避できる。加えて、例えば、ケースの内部にイソチオシアン酸エステル類の包摂化合物が塗工されている態様に関しては、ケース外に食品から生じた液が存在している場合であっても、前記のようにケースの型崩れにより当該液が内部に侵入することが回避されることに加えて、ケースの外部に塗工されたシリコーン層の撥水性によりケースを貫通して当該液が内部に侵入することも防止できるので、ケース内に形成されたイソチオシアン酸エステル類の短時間での揮発を抑制でき(徐放性を担保でき)、持続効果を高めることが可能になる。加えて、ケースの一方の面にシリコーン層が形成されているため、200℃を超える高温でも耐熱性を示すという効果も奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に係る最良形態について説明する。まず、本最良形態に係る抗菌性紙ケースは、図1に示すように、蛇腹形状の側面と略円形状の底面とから形成される。尚、本最良形態では側面形状は蛇腹状であるが、これに限定されず、例えば波状・小判・変り型であってもよい。ここで、図2に示すように、この抗菌用紙ケースは、基材である紙1と、紙1の一方の面に塗工されたシリコーン層2と、紙1の他方の面に塗工されたイソチオシアン酸エステル類層3とから構成される。
【0010】
ここで、イソチオシアン酸エステル類層3は、ケースの内側に形成してもケースの外側に形成してもよい。まず、イソチオシアン酸エステル類層3をケースの内側に形成した場合、即ち、シリコーン層2をケースの外側に形成した場合には、イソチオシアン酸エステル類層3は、ケース内部に存在する食品に主として作用する。他方、イソチオシアン酸エステル類層3をケースの外側に形成した場合、即ち、シリコーン層2をケースの内側に形成した場合には、イソチオシアン酸エステル類層3は、ケース外側に存在する食品に主として作用する。以下、各層について詳述する。
【0011】
まず、基材である紙1は、好適には、グラシン紙、パーチメント紙、耐油紙、上質紙及び純白紙から選択される。尚、場合により、クレーコート、水溶性塗料コート、スーパーキャレンダー掛けしたものを使用してもよい。
【0012】
次に、離型性を有するシリコーン層2は、紙1上にシリコーン塗料を塗工することにより形成された層である。ここで、シリコーン塗料としては、縮合型と呼ばれる末端にシラノール基を含有するポリシロキサンをベースポリマーとし、架橋剤であるポリメチルハイドロジェンシロキサンを配合して有機錫アシレート触媒の存在下で縮合反応させるもの、また付加型と呼ばれるビニル基を含有するポリシロキサンをベースポリマーとし、架橋剤としてポリメチルハイドロジェンシロキサンを配合して白金触媒の存在下で反応させるもの、あるいはシリコーンレジンと呼ばれる3〜4官能性シラノールを用い、縮合により三次元網目構造を生成したものを用いることができる。
【0013】
ここで、紙1への塗工は、上記シリコーン塗料を有機溶剤で希釈し、あるいは水系エマルジョン、無溶剤等の処理液として、グラビアコート、ディッピングコート、ロールコート、エアナイフコート、メイヤーバーコート、リバースコート、コンマコート等の方法で紙の片面にコーティングすることにより行なわれる。塗工量は0.2〜10g(固形分重量)/m2の範囲内に設定する。
【0014】
次に、抗菌性を有するイソチオシアン酸エステル類層3は、例えば、イソチオシアン酸エステル類やイソチオシアン酸エステル類のサイクロデキストリン包接化合物のエマルジョンを塗工することにより形成される。ここで、「イソチオシアン酸エステル類」とは、イソチオシアン酸エステル及びその誘導体を指し、例えば、イソチオシアン酸メチル、イソチオシアン酸エチル、イソチオシアン酸n−プロピル、イソチオシアン酸イソプロピル、イソチオシアン酸n−ブチル、イソチオシアン酸イソブチル、イソチオシアン酸イソアミル、イソチオシアン酸アリル、イソチオシアン酸フェニル、イソチオシアン酸ベンジルを挙げることができる。尚、前記エステル類は、化学合成でも天然物由来でもよいが、生体安全性の観点から天然物由来が好適である。天然物由来としては、天然ワサビ又はカラシ抽出物由来の前記物質を用いることが好適である。ここで、「抽出」とは、水蒸気蒸留法などを指す。また、徐放性友好成分としての「イソチオシアン酸エステルのサイクロデキストリン包接化合物」における「サイクロデキストリン」とは、澱粉に酵素(サイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ)を作用させて得られる環状オリゴ糖であり、例えば、α−サイクロデキストリン、β−サイクロデキストリン、γ−サイクロデキストリンを挙げることができ、β−サイクロデキストリンが好適である。また、「イソチオシアン酸エステル類のサイクロデキストリン包接化合物」とは、サイクロデキストリンのドーナツ構造の輪の内側(空洞内)にイソチオシアン酸エステル類を包み込んだものを指す。この包接化合物は、塩水港精糖株式会社からデキシーパールK−100という商品名で入手可能である。尚、包接される物質は、イソチオシアン酸エステル類以外にも、必要に応じて、他の物質、例えば、イソチオシアン酸エステル類には総じて匂いがあり、食品とこれらの匂いの相性が合わない場合に芳香を有する物質により上記匂いを変えたり消したりするために、芳香物質又は消臭物質、例えばケイ皮酸、バニリン、酢酸ゲラニル、ペッパーオイル、酢酸エチル等を含有していてもよい。尚、上記に使用されるイソチオシアン酸エステル類の量は、特に限定されないが、1m当たり30〜6000mgが好適である。
【0015】
尚、イソチオシアン酸エステル類層は、上記成分以外に、必要に応じて適宜各種添加剤を加えてもよい。例えば、イソチオシアン酸エステル類の放出制御性能を向上させるための放出促進剤(例えば、ヤシ油、コーン油等のオイル、セルロース繊維、セルロースパウダー等のセルロース類、酸化チタン、ケイ酸カルシウム等の無機物等)、イソチオシアン酸エステル類の安定性を向上させるための酸化防止剤(例えば、BHT、ビタミンC等)、接着強度を向上させるための既知の接着補助剤(例えば、ゴム系接着剤、アクリル系接着剤等)を挙げることができる。
【0016】
次に、本最良形態に係る食品用ケースの用途について説明する。本ケースは、食品を入れるために使用される。尚、使用に際しては、ケース内の食品の抗菌・防カビ・日持向上を主眼としている場合には、ケース内側にイソチオシアン酸エステル類層を配することが好適であり、ケース外の食品の抗菌・防カビ・日持向上を主眼としている場合には、ケースの外側にイソチオシアン酸エステル類層を配することが好適である。これにより、対象とする食品の抗菌・防カビ、防虫、鮮度保持を達成することができる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例を参照しながら本発明を具体的に説明する。尚、本発明の技術的範囲は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0018】
坪量65g/mのグラシン紙の一方の面に、離型性シリコーン2として東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製のSRX244を3g/mの割合で塗工した。他方、20重量%のサイクロデキストリン水溶液にイソチオシアン酸アリルをサイクロデキストリン固形分に対して11重量%混合攪拌して包接化合物水溶液を得た後、前記グラシン紙の他方の面に塗工・乾燥して10〜30μm厚のイソチオシアン酸アリル層を形成させた。次に、95mm径程度の円形にくり抜いた上で、ケースの内側にイソチオシアン酸アリル層が形成されるように当該円形体をプレス成形し、底面が35mm径の略円形を成す、本実施例に係る紙ケースを得た(図1参照)。この紙ケースに各種食品(パウンドケーキ、蒸しパン、和菓子、春雨サラダ)を入れた上、ケースの外側に1mm程度の水を張り、形状保持性試験及び水浸透試験を行なった。その結果、10時間経過してもケースは型崩れせず、また、内部の食品へのケース外の水の侵入も確認されなかった。
【0019】
更に、JIS Z 2801:2000「抗菌加工製品−抗菌性試験方法・抗菌効果」5.2 プラスチック製品などの試験方法に基づき、実施例に係る上記ケース及び比較のためにポリエチレンケース(無加工)に関して抗菌力試験を行なった。その結果を表1に示す。尚、抗菌活性値は、log(B/C)で定義付けられた値であり、Bはポリエチレンケースの24時間後の生菌数の平均値であり、Cは実施例に係る上記ケースの24時間後の生菌数の平均値である。
【0020】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本最良形態に係るケースの斜視図である。
【図2】図2は、本最良形態に係るケースの断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 紙
2 シリコーン層
3 イソチオシアン酸エステル類層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーン塗工紙をプレス成形して得られる食品用の紙ケースであって、前記紙の一方の面にはシリコーンが0.2〜10g/mで塗工されていると共に、前記紙の他方の面にはイソチオシアン酸エステル類又はそのサイクロデキストリン包接化合物が塗工されている食品用の紙ケース。
【請求項2】
前記紙が、グラシン紙、パーチメント紙、耐油紙、上質紙及び純白紙から選択される、請求項1記載の食品用の紙ケース。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−39058(P2007−39058A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−222853(P2005−222853)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【出願人】(501272731)株式会社ティー・ティー・シー (7)
【出願人】(505290564)株式会社 岩正 (2)
【Fターム(参考)】