説明

食用豆類から有用化合物及び栄養物質を抽出する方法

【課題】食用豆類から有用化合物及び栄養物質を安全かつ効率的に抽出製造する方法の提供。
【解決手段】食用豆類の乾燥種子粉末を超臨界二酸化炭素抽出し有用化合物、具体的には植物ステロール類と植物ステロール誘導体などを抽出する方法。さらに、その抽出残渣から食用豆類の栄養物質、具体的にはアミノ酸成分組成を抽出する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食用豆類から有用化合物及び栄養物質であるアミノ酸を抽出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食用豆類には植物由来の有用な固有物質が豊富であるが従来法では抽出方法と食品の安全性に問題がある場合が多い。超臨界二酸化炭素で安全かつ効率的に食用豆類から有用な化合物及び栄養物質であるアミノ酸を抽出する方法はなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は食用豆類から植物由来の有用な化合物である植物ステロール類及び植物ステロール誘導体、さらに有用な栄養物質であるアミノ酸を安全かつ効率的に抽出し環境汚染のない製造方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は食用豆類の乾燥種子粉末を超臨界二酸化炭素抽出し有用化合物、具体的には植物ステロール類と植物ステロール誘導体を、また、その抽出残渣から有用な栄養物質、具体的にはアミノ酸成分を抽出製造する方法を要旨としている。
【発明の効果】
【0005】
超臨界二酸化炭素抽出では抽出圧力と抽出温度を変化させたり、あるいはエントレーナと呼ばれる物質を添加したりして効率的に有用成分を抽出することが可能であると同時に溶媒である二酸化炭素は無毒無害であるため環境汚染がなく、溶媒の除去も容易である。さらに抽出残渣から容易に栄養成分の抽出も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施形態について説明する。
(イ)抽出の手段として超臨界二酸化炭素を用いる。
(ロ)超臨界二酸化炭素抽出は無毒無害で環境汚染がなく抽出温度(40℃〜80℃)、抽出圧力(10MPa〜30MPa)が低く植物由来成分に影響を与えない理想的な溶剤と考える。
(ハ)溶媒として用いた超臨界二酸化炭素は常温常圧で普通の二酸化炭素となるために溶媒の除去が容易であり環境汚染がない。
(ニ)これに対し、有機系溶剤による抽出は溶媒除去や環境対策が必要であると同時に食品に残留する危険があり好ましくない。
(ホ)超臨界二酸化炭素抽出では抽出圧力と温度の調整あるいはエントレーナと呼ばれる物質を加えることで抽出力を変化させることが可能である。
(ヘ)超臨界二酸化炭素抽出で所定の化合物を抽出した残渣から水熱分解により有用な栄養物質であるアミノ酸成分を任意の調整濃度で再抽出することが可能である。
【0007】
食用豆類の乾燥種子粉末を超臨界二酸化炭素抽出することで安全かつ効率的に植物ステロール類と植物ステロール誘導体、そして、その抽出残渣から水熱分解により有用な栄養物質であるアミノ酸成分を抽出した。超臨界二酸化炭素で食用豆類からこれらの有用化合物を、また同一の抽出過程でアミノ酸成分を効率的に抽出された報告はない。
【0008】
超臨界二酸化炭素により植物ステロール類と植物ステロール誘導体を抽出することについて、またエントレーナとしてエタノールを使用する又は使用しないことで抽出率がどう変化するかについて実験した。さらに植物ステロール類と植物ステロール誘導体を抽出したあとの残渣物から有用な栄養物質であるアミノ酸成分を抽出する実験をした。以下、食用豆類の中から刀豆を試料とした抽出実験を行ったので、その結果について述べる。
刀豆から抽出した化合物が有用な脂肪酸類、アルデヒド類、スクアレン類、植物ステロール類と植物ステロール誘導体であることがGC−MS及びNISTのマススペクトルデータにより確認された。これらの化合物抽出後の抽出残渣を水熱分解処理し反応液中の成分分析を高速液体クロマトグラフ、原子吸光光度法及びアミノ酸分析器により行い主要アミノ酸組成17種類を確認した。試料とした刀豆の抽出実験にもとづき、広く食用豆類から有用物質を抽出する方法として超臨界二酸化炭素による抽出技術の応用が期待される。
【0009】
超臨界二酸化炭素抽出技術は、主に二酸化炭素発生器(1)、第1高圧ポンプ(2)、エントレーナ(3)、第2高圧ポンプ(4)、抽出器(5)、分離器(6)をガスラインでつないで構成される。実験には刀豆(150g)の種子を乾燥させ破砕し粉末状にしたものを使用した。これを抽出器(5)に封入したのち二酸化炭素発生器(1)から二酸化炭素を第1高圧ポンプ(2)で送りながら加圧する。同時に抽出器(5)を加熱し所定の圧力と温度を一定時間保持したのち同装置系の圧力温度を保持したまま二酸化炭素を抽出器(5)から分離器(6)を通して放出する。このとき分離器(6)では抽出物が二酸化炭素と分離する。抽出により得られた抽出物は白色で0.35%から0.42%であった。なお、エントレーナ(3)としてエタノールを添加した実験も行った。抽出器(5)からの抽出残渣は110℃から200℃のオートクレーブ内で1時間水熱分解処理を行い室温まで冷却させたのち残渣物についてアミノ酸組成分析を行いアミノ酸成分組成を確認した。
【0010】
抽出分離した抽出物をエタノールに溶解しGC−MSにより分析した。抽出物は主に脂肪酸類、アルデヒド類、スクアレン類、植物ステロール類と植物ステロール誘導体などであった。植物ステロール類と植物ステロール誘導体の2化合物は抽出温度を40℃、60℃、80℃、抽出圧力を12MPa、20MPa、30MPaと変化させ実験を行ったところ40℃で30MPaのときの抽出率が最大となった。エントレーナ(3)として5mol%エタノールを添加すると抽出率はさらに増大した。植物ステロールと植物ステロール誘導体は抗コレステロール作用など生体への有用性が知られている(例えば、非特許文献1〜3)。さらに抽出器(5)より抽出分離したあとの抽出残渣を水熱分解処理し遠心分離により上清液を回収してアミノ酸分析を行い17種類のアミノ酸成分組成を確認した。
【実施例】
【0011】
本願発明の詳細を刀豆を試料とした実施例で具体的に説明する。本願発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0012】
刀豆の乾燥種子を粉砕機で粉砕し粉末状にした150gを試料として用いた。実験装置は図1に示すように、主に二酸化炭素発生器1、第1高圧ポンプ2、エントレーナ3、第2高圧ポンプ4、抽出器(オートクレーブ)5、分離器6をガスラインでつないで構成される。試料150gを300mlの抽出器5に封入し二酸化炭素を二酸化炭素発生器1から第1高圧ポンプ2で送流し所定の圧力と温度で2時間保持したのち同装置系の圧力と温度を保持したまま室温下で二酸化炭素を毎分2Lの速度で5時間かけて分離器6に放出した。分離器6から得られた抽出物はGC−MCで成分分析した。
【0013】
刀豆の乾燥種子粉末から超臨界二酸化炭素抽出した結果を表1と表2にまとめた。
表1は超臨界二酸化炭素流体による温度変化とエントレーナ3の添加の有無、そして各抽出圧力下における抽出率の変化を示したものである。
1回の抽出で集めた抽出量は温度(40℃)、圧力(30MPa)で0.35%であったがエントレーナ3として5mol%エタノールを添加すると圧力(12MPa)の低圧で抽出率が増大した。抽出物は白色でその抽出物の中に生体に有用な抗コレステロール作用(例えば、非特許文献1〜3)のある植物ステロール類と植物ステロール誘導体が確認された。さらに抽出器5からの抽出残渣をすべて回収し水熱分解処理し遠心分離した上清を回収してアミノ酸分析を行ったところ表2の17種類の生体に有用なアミノ酸成分組成を確認した。
【0014】
(表1)


抽出時間2時間保持、5時間流通
【0015】
表2は超臨界二酸化炭素抽出後の抽出残渣から水熱分解によって生成された刀豆のアミノ酸組成を流出順に示したものである。アミノ酸組成は処理条件によって変化し110℃ではチロシンやヒスチジンの生成が有利であり、150℃ではグルタミンの生成が有利であった。アスパラギン酸、セリン、アラニンは温度増加と共に抽出率が増加した。またフェニルアラニンは高温で分解されると考えられた。
【0016】
(表2)


【0017】
超臨界二酸化炭素による植物の有用成分の抽出は食品や医薬品の開発に安全で理想的な抽出方法と考える。本発明では刀豆の乾燥種子から生体に有用な脂肪酸類、アルデヒド類、スクアレン類、植物ステロール類と植物ステロール誘導体を、そして有用な栄養成分である17種類のアミノ酸を抽出することができた。植物ステロール類と植物ステロール誘導体は広く豆類に含有する物質で血中コレステロールを低下させる作用が知られている(例えば、非特許文献1)。また植物ステロールを含んだ食品の摂取で血中コレステロールとLDLコレステロールが有意に低下すること、そして植物ステロールが配合された食用油を調理に用いることでコレステロールが腸管から吸収されにくくなり結果的にLDLコレステロールを減少させると考えられている(非特許文献2〜3)。
【0018】
植物ステロール類と植物ステロール誘導体類は成人病予防などで大量消費が予想され大量生産供給のシステムが期待されている。超臨界二酸化炭素抽出は刀豆の実施例で示した方法により、広く食用豆類から有用化合物を抽出することが可能である。さらに超臨界二酸化炭素抽出は刀豆実施例のように抽出残渣から有用な栄養物質であるアミノ酸を同装置系の抽出過程で抽出できる利点がある。これは、刀豆の実施例に限定されるものではなく、広く食用豆類の適用されるものである。
【0019】
【非特許文献1】J.A.Westsrate,G.W.Meijer:Eur.J.Clin.Nutr.52,334p,1984年。
【非特許文献2】本間康彦 他:脂質の化学(薬物),486〜496p,朝倉書店,1990年。
【非特許文献3】本間康彦 他:健康・栄養食品研究、Vol.3(No4),別冊,2000年。
【産業上の利用可能性】
【0020】
無毒無害で環境汚染が無く溶媒除去が容易で安全に有用な化合物及び栄養物質を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例で示した超臨界二酸化炭素抽出用の構成図である。
【符号の説明】
【0022】
1 二酸化炭素発生器
2 第1高圧ポンプ
3 エントレーナ
4 第2高圧ポンプ
5 抽出器
6 分離器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超臨界二酸化炭素で食用豆類から有用な植物由来物質を抽出する方法。
【請求項2】
請求項1の有用な植物由来物質が植物ステロール類と植物ステロール誘導体である化合物を抽出する方法。
【請求項3】
請求項1の食用豆類が刀豆であり刀豆から脂肪酸類、アルデヒド類、スクアレン類、植物ステロール類と植物ステロール誘導体である化合物を抽出する方法。
【請求項4】
請求項1、2、3の抽出残渣から有用な栄養物質であるアミノ酸を抽出する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−143617(P2006−143617A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−333270(P2004−333270)
【出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【出願人】(598011972)株式会社江口組 (1)
【出願人】(599073917)財団法人かがわ産業支援財団 (35)
【Fターム(参考)】