説明

食酢飲料

【課題】 食酢由来の酢酸などに起因する酸味や酸臭を抑え、飲用しやすくした食酢飲料、特に甘味を抑えた食酢飲料を提供する。
【解決手段】 飲用時の食酢飲料中にナリンジンを0.002〜0.1重量/容量%、好ましくはナリンジンを0.025〜0.1重量/容量%、さらに好ましくはナリンジンを0.05〜0.1重量/容量%の範囲で含有させたことを特徴とする食酢飲料、特にショ糖換算甘味度が0〜7度の範囲である低甘味度食酢飲料を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食酢飲料に関し、詳しくは食酢中の酢酸に由来する刺激的な香味がマスキングされた、飲みやすく風味の良好な食酢飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
食酢を主原料とする飲料としては、古くは蜂蜜とリンゴ酢とからなるバーモントドリンクが知られている。
食酢には、血圧の降下作用による高血圧の改善や血糖値を抑える効果など、生活習慣病の改善効果などの健康機能があるとされ、近年特にその飲用要望が著しく高まってきており、単に食酢を水で希釈するなどして飲用する以外に、食酢を原料とする種々の食酢飲料が開発されている。
しかし、食酢を飲用しようとする場合には、食酢中の酢酸に由来する刺激的な酸味や酸臭が強く感じられるため、単に水で希釈するだけでは飲用しにくい問題があった。
【0003】
一方、これまでに開発されてきた食酢飲料においては、食酢由来の酸味や酸臭を抑えるために、一般に蜂蜜や果汁などの糖分が含まれたものを加えて酸味や酸臭を和らげる工夫がされており、例えば、摂取時の飲料としてのショ糖換算甘味度が8〜12度程度のものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
また、スクラロース等の高甘味度甘味料を用いて酸味や刺激臭を和らげた食酢飲料も開発されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、これらの技術では酸味や酸臭をある程度緩和することができても、その効果は不十分なものであり、さらに甘味成分が多くなってしまって甘みの強い飲料となる傾向があり、多量に飲用しにくいという問題があった。
殊に、食酢飲料を食事時の飲料として利用しようとする際には、特に甘味度を抑えたものが望まれており、従来の食酢飲料のように甘味度の高い食酢飲料は適しておらず、甘味を抑えつつ、食酢に由来する酸味や酸臭を抑える技術の開発が望まれていた。
なお、このような酸味や酸臭を抑えうるものの一つとして柑橘類果実の含水アルコール抽出物を濃縮して得た整味料が開示されている(例えば、特許文献3参照)が、該作用を有する物質の本体が明らかでない上に、食酢に由来する酸味や酸臭を抑えることに関しては具体的に言及されていない。
【0005】
【特許文献1】特開昭62−107781号公報
【特許文献2】特開2002−335924号公報
【特許文献3】特開平5−111365号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、甘味を抑えた食酢飲料の開発において、食酢由来の酢酸に起因する酸味や酸臭のマスキングに成功した例は、未だ報告されていない。
そこで、本発明の目的は、食酢飲料、特に甘味を抑えた食酢飲料において、食酢由来の酸味や酸臭等がマスキングされ、飲みやすく、かつ風味の良好な飲料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ね、その過程において、食酢飲料に微量のナリンジンを添加することにより、食酢由来の酸味や酸臭をマスキングできるとの知見を得た。
さらに、ナリンジンの添加により、特に甘味を抑えた食酢飲料において、酸味や酸臭を効果的に抑制することができることを見出し、本発明を完成させることができた。
【0008】
すなわち、請求項1に記載の本発明は、飲用時の食酢飲料中にナリンジンを0.002〜0.1重量部含有させたことを特徴とする食酢飲料である。
また、請求項2に記載の本発明は、食酢飲料が、飲用時の食酢飲料中においてショ糖換算甘味度0〜7度の範囲のものであることを特徴とする請求項1に記載の食酢飲料である。
請求項3に記載の本発明は、食酢飲料が、飲用時の食酢飲料中において酢酸濃度0.1〜0.6重量/容量%のものであることを特徴とする請求項1または2に記載の食酢飲料である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、食酢飲料にナリンジンを添加することにより、食酢由来の酸味や酸臭をマスキングでき、そして、特に甘味を抑えた食酢飲料において、酸味や酸臭を効果的に抑制することができ、より飲みやすく、風味の良好な食酢飲料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明で使用する食酢には、特に限定はなく、市販されている一般的な穀物酢や、米を原料とする米酢や黒酢、ブドウ酢やリンゴ酢などの果実酢などの他、原料加工用のアルコール酢など任意のものを単独で、あるいは2種以上を組み合わせて利用できる。また、食品用の酢酸なども利用可能である。
さらに、食酢の使用割合については、最終製品の特性や他成分とのバランスなどを勘案して適宜設定することができるが、例えば、食事時の飲料とする場合には、飲用時の飲料中の酢酸濃度として0.1〜0.6重量/容量%程度とするのが望ましい。
【0012】
また、本発明で使用するナリンジンは、柑橘類などの植物、特にグレープフルーツ、夏ミカン、ダイダイ、ザボン、ナツミカン、ハッサク、ブンタン、柚子などのナリンジンを多く含む系統の柑橘類から生産されるフラバノン類の一種であり、該柑橘類果実の果皮に特に多く含有されている。
該果実からのナリンジンの調製は、水の他、エタノールまたは有機溶剤およびこれらの含水物で抽出し、分離精製することができ、本発明においては、このようにして調製されたナリンジンが利用可能である。また、前記柑橘類果実などから抽出されたナリンジンとデキストリンの混合物に、シクロデキストリングルコシルトランスフェラーゼ等の酵素を用いてグルコースを付加させた酵素処理ナリンジンなども利用可能である。
これらのナリンジン製剤は食品調製用の苦味剤として市販されており、例えば「ナリンジン」(東和産業株式会社製)などの食品用天然添加物などが利用可能である。
【0013】
本発明の食酢飲料には、食事時などにそのまま飲むタイプの他に、各成分を高濃度に含む濃縮タイプに作成された食酢飲料を飲用時に適宜希釈して各成分の濃度を調整して飲むものも含まれる。飲用時における食酢飲料中におけるナリンジンの配合量については、最終製品の特性や他成分とのバランスにより適宜選択すればよいが、例えばナリンジンを0.002〜0.1重量/容量%程度、好ましくは0.025〜0.1重量/容量%、より好ましくは0.05〜0.1重量/容量%となるように配合するのが望ましい。
ナリンジンの配合量を前記上限の濃度よりも高濃度にしても一部は溶解しないため、飲料としては好ましくなく、また上記下限の濃度よりも低濃度にすると、酸味や酸臭の緩和機能が弱く好ましくない。
【0014】
また、本発明の食酢飲料には、所望により副原料として各種の糖類や果汁、酸味料、甘味料、香料、ビタミン類、ミネラル類を含んでも良いことは言うまでもない。
具体的には、ショ糖、果糖ぶどう糖液糖、果糖、異性化糖等の糖類;リンゴ果汁、梅果汁、みかん果汁、ぶどう果汁等の果汁;クエン酸及びその塩類、リンゴ酸及びその塩類、グルコン酸及びその塩類、乳酸及びその塩類、コハク酸及びその塩類等の酸味料;スクラロース、アスパルテーム、ステビア、アセスルファムカリウム等の甘味料;ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンA等のビタミン類;カルシウム、鉄、亜鉛、マンガン等のミネラル類を添加することが可能である。
【0015】
なお、食事時などに飲用に供される食酢飲料に対して、甘味料や各種果汁などの甘味成分を含有する副原料を利用する場合には、飲用時の食酢飲料としてショ糖換算甘味度が0〜7度とするのが望ましく、1〜7度が一層望ましい。
ここで言うショ糖換算甘味度とは、例えばショ糖1重量/容量%の甘味を1とし、この甘味度と等しい甘さを導き出す濃度をその甘味料のショ糖換算甘味度1として、計算して導き出すことができる。
【0016】
本発明の食酢飲料の製造方法については、特に制限はなく通常の食酢飲料の製法に準じて製造すればよく、具体例としては以下のようにして製造できる。
まず、水に食酢もしくは食品用酢酸及びナリンジン、上記に示した副原料などを適量だけ混合溶解し、UHT殺菌機等を用いて高温加熱殺菌(例えば85〜130℃)を行い、容器に充填、密封、冷却することにより製造される。もちろん、金属製容器や軟包材に充填後、殺菌(レトルト殺菌等)する方法も適用可能である。上記に示した食酢、ナリンジン、副原料などを添加・混合する際に、その添加、混合順序については特に制限するものではない。また、食酢飲料を充填する容器は、ビン、紙、PET、缶等や、チアーパックのような軟包材等のいずれの容器でも良い。
こうして得られる本発明の食酢飲料は、食酢由来の酸味や酸臭がマスキングされた飲料であって、飲みやすく、かつ風味の良好なものである。
【実施例】
【0017】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0018】
実施例1 酢酸水溶液におけるナリンジンの効果
食品用酢酸を用いて酢酸濃度0.2重量/容量%の水溶液を調製し、これにナリンジン製剤(東和産業株式会社)を、表1に示すように0.001〜0.1重量/容量%の範囲で段階的な濃度で添加して、該酢酸水溶液におけるナリンジンの酸味や酸臭の抑制効果を評価した。評価は、ナリンジン無添加の酢酸水溶液を対照として官能評価パネラー20名で飲用し、酸味や酸臭のマスキング効果を調べることで実施した。この評価結果を表1に示す。
なお、マスキング効果については以下の評価指標を用い、20名のパネラーの平均を評価結果とした。評価指標については、+++:非常にマスキングされている、++:マスキングされている、+:ややマスキングされている、−:マスキングされていない、の5段階で表わした。
【0019】
【表1】

【0020】
以上のように、0.2重量/容量%濃度の酢酸水溶液であって、甘味成分を全く含有しない系においても、ナリンジンを0.002重量/容量%以上の濃度になるように添加することにより、酢酸由来の酸味や酸臭がマスキングされることが確認できた。
ナリンジンの添加量をさらに増加させると、酸味や酸臭のマスキング効果はより強くなったが、ナリンジンを0.1重量/容量%よりも高濃度に添加すると、ナリンジンが水に溶解しにくくなり、濁りが生じて好ましくない。また、0.002重量/容量%未満とすると、ナリンジンによる酸味、酸臭の抑制効果が弱く、好ましくないことが判明した。
従って、飲用時の食酢飲料中におけるナリンジンの濃度は、0.002〜0.1重量/容量%の範囲がよく、より好ましくは0.025〜0.1重量/容量%であり、さらに好ましくは0.05〜0.1重量/容量%であることが確認できた。
【0021】
実施例2 各種食酢水溶液におけるナリンジンの効果
実施例1と同様にして、各種食酢を用いて酢酸濃度0.4重量/容量%の水溶液を調製し、これにナリンジンを添加して、酢酸の酸味や酸臭のマスキング効果を評価した。評価は実施例1と同様に行い、結果を表2に示した。
【0022】
【表2】

【0023】
以上のように、各種食酢を用いた場合においても、飲用時の食酢飲料中におけるナリンジンの濃度が0.002重量/容量%以上になるように添加することによって、酸味や酸臭をマスキングできることが確認できた。
ナリンジンの添加量をさらに増加させると、酸味や酸臭のマスキング効果はより強くなったが。しかし、ナリンジンを0.1重量/容量%よりも高濃度に添加すると、ナリンジンが水に溶解しにくくなり、濁りが生じて好ましくなく、また、0.002重量/容量%未満とすると、ナリンジンによる酸味、酸臭の抑制効果が弱く、好ましくないことが判明した。
従って、ナリンジンの添加量は、各種食酢を用いた食酢飲料においても、酢酸水溶液の場合とほぼ同様に、飲用時の濃度が0.002〜0.1重量/容量%の範囲がよく、より好ましくは0.025〜0.1重量/容量%であり、さらに好ましくは0.05〜0.1重量/容量%であることが判明した。
【0024】
実施例3 各種食酢飲料の調製と評価
以下の表3、表4に示す配合表に基づく割合で原料をブレンドし、混合溶解した後、UHT殺菌機を用いて高温加熱殺菌を行い、その後、紙製容器に充填し、密封して各種食酢飲料を製造した。
【0025】
1.グレープフルーツ入りリンゴ酢飲料の調製
以下の表3に示す配合割合で飲料を調製した。
【0026】
【表3】

【0027】
このようにして調製されたグレープフルーツ果汁入りリンゴ酢飲料は、酢酸濃度が0.2重量/容量%であり、ショ糖換算甘味度が6であって甘味が弱く、また酸味や酸臭が緩和されていて、風味が良く、後味の良い食事時の飲料としても適したものであった。
【0028】
2.ブドウ果汁入り黒酢飲料の調製
以下の表4に示す配合割合で飲料を調製した。
【0029】
【表4】

【0030】
このようにして調製されたブドウ果汁入り黒酢飲料は、酢酸濃度が0.17重量/容量%であり、ショ糖換算甘味度が6であって甘味が弱く、また酸味や酸臭が緩和されていて、風味が良く、食事時の飲料に適したものであった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明により、食酢飲料、特に甘味を抑えた食酢飲料において、食酢に由来する酸味や酸臭がマスキングされ、飲み易く、かつ風味の良好な飲料が提供される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲用時の食酢飲料中にナリンジンを0.002〜0.1重量/容量%含有させたことを特徴とする食酢飲料。
【請求項2】
食酢飲料が、飲用時の食酢飲料中においてショ糖換算甘味度0〜7度の範囲のものであることを特徴とする請求項1に記載の食酢飲料。
【請求項3】
食酢飲料が、飲用時の食酢飲料中において酢酸濃度0.1〜0.6重量/容量%のものであることを特徴とする請求項1または2に記載の食酢飲料。


【公開番号】特開2006−94817(P2006−94817A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−286903(P2004−286903)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(398065531)株式会社ミツカングループ本社 (157)
【出願人】(301058355)株式会社ミツカン (32)
【Fターム(参考)】