説明

飲料の安定した付香方法

本発明の対象は、飲料を、大きな比表面積を有する、溶剤不活性で芳香物質が負荷された固体の粒子状担持材料により安定的に付香する方法であり、この場合には、担持材料として、場合によっては含水量を有する一連の珪酸塩、酸化アルミニウムおよび活性炭の無機珪素含有化合物、無機アルミニウム含有化合物および/または無機炭素含有化合物が使用される。特に好適な担持材料としては、0.1〜1000m/gの比表面積および10μm以上の粒径を有するシリカゲル、珪藻土、活性化粘土および/またはか焼された粘土、γ−Alおよび酸化アルミニウム−キセロゲルがこれに該当する。0.3〜5000nmである孔径は、担持材料の適当な孔径であると見なされる。適当な芳香物質は、エーテル油、シトルス油、果実エッセンスおよび食品用香料エキスであり、これらの芳香物質の負荷のために、担持材料は、相応する芳香物質含有液体中に搬入されるかまたは前記芳香物質含有液体で噴霧される。この方法を用いた場合には、殊に熱い飲料は、長時間に亘って安定的に付香することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、飲料を大きな比表面積を有する、溶剤不活性で芳香物質が負荷された固体の粒子状担持材料により安定的に付香する方法である。
【0002】
食品を付香するために大きな比表面積を有する担持材料を使用することは、久しく公知である。
【0003】
芳香物質は、一般に複雑に構成されており、数多くの感覚刺激性の活性化合物からなり、この化合物の特殊な組合せは、最初に特徴のある香りノートを形成する。しかし、芳香物質は、希釈されていない状態で典型的には不安定であり、したがって担持材料により安定化し、ひいては簡単に取り扱うことができるようにする試みが為された。この場合、担持材料は、不活性であるかまたは少なくとも反応中性であり、とりわけ芳香物質と相互作用を生じてはならないし、典型的な香りノートを歪曲してはならない。
【0004】
なかんずく食品範囲において、担持材料としては、水溶性の固体または液体が使用され、この場合液体の場合には、この液体は、多くの場合に固体の水溶性マトリックス中にカプセル化される。液体に、担持材料に結合された芳香物質を添加した場合には、使用された担持材料は、簡単に液体と混合可能でなければならず、そのために伝統的には、適当な担持材料としてエタノール、プロピレングリコール、グリセリン、植物油、ベンジルアルコール等が認められている。
【0005】
WO 02/49450の記載によれば、食品調製物の付香のために、芳香物質が物理的に閉じ込められて存在する固体の水溶性マトリックスからなる粒子状芳香組成物が使用されている。この芳香物質は、易揮発性であるが、しかし天然のエーテル油から逃出する食品用香料である。担持材料としては、同様に易揮発性の有機化合物が選択され、この場合この有機化合物は、大気圧および25℃で液状で安定であり、25℃で少なくとも0.01mm/hgの蒸気圧ならびに25〜250℃の沸点を有する。更に、密度は、25℃で1.0g/ccでなければならず、水溶性は、25℃で10%を超えてはならない。このために好ましいのは、一連のモノテルペン、炭化水素、エステルおよびアルキルフラン、例えばd−リモネン、2−エチルフラン、2−メチルフランまたは酢酸エチルの合成担持材料である。
【0006】
WO 00/16643の記載から、特殊な放出挙動を有するカプセル封入された臭い物質および/または食品用香料は、公知である。カプセル封入された食品用香料は、変性されたセルロースからなる被覆を有し、この場合セルロースは、温度上昇の際に可逆的に黄変を生じる。この場合、この食品用香料または臭い物質の粒子は、特に食品用香料および親水性担体からなる水性乳濁液を渦動床噴霧造粒することによって製造される。このカプセル封入された食品用香料は、食品または必需品、殊にティーバッグ、インスタントソース粉末の製造の際に使用されるが、しかし、低温殺菌された飲料の製造のためにも使用される。特に飲料を付香する前記変法を用いた場合には、感温性物質のための保護マトリックスとして使用されるセルロース誘導体の所謂可逆的な熱ゲル化(”reversible thermal gelation”)が利用される。それによって、加熱処理を通る付香された含水溶剤を製造する場合には、食品用香料の放出を効果的に制御することが可能である。それというのも、放出速度は、冷却段階で意図的に完全な冷却水の可溶性になるまで時間および温度に依存して制御することができるからである。この場合に使用される粒子は、10〜5000μmの直径を有する。
【0007】
米国特許第5482560号明細書には、本質的に定義された重合度を有するβ−デキストリンからなる食品用香料担体が記載されており、この場合デキストリンは、澱粉から取得されていた。飲料を完全には水溶性ではない芳香油で付香するには、前記の食品用香料担体物質を使用することが重要であり、この場合には、乾燥製品中へのカプセル封入のためにデキストリンを用いて乳濁液が製造されてよい。
【0008】
WO 90/08478の記載から、芳香成分で含浸されている多孔質のポリマー小球を含む食品は、公知である。この場合、本質的に易揮発性物質で負荷されている球状の担持材料は、水溶性被覆で被覆されていてよく、その上、この水溶性被覆は、高められた温度の影響下に溶融しうる。適当な芳香作用物質としては、エーテル油および合成芳香剤、例えばシトルス油、はっか油および果実エッセンスが挙げられる。担持材料は、完成飲料に添加されてよいが、しかし、液体飲料のために考えられる濃縮物に添加されてもよく、この場合には、貯蔵時間または輸送時間の間に飲料への食品用香料の放出は行なわれ、この放出は、適当な水溶性被覆を選択することによって長引かせることができる。多孔質のポリマー小球それ自体は、ジビニルベンゼンとスチレンまたは食品に適した別のモノマー、例えばエストラゴール、リモネンもしくはオイゲノールとのコポリマーからなる。
【0009】
欧州特許出願第230504号明細書には、カカオ粉末とともに矯味剤および/または芳香物質および担体を含有していてよい、粉末形、顆粒形またはペースト形のインスタント飲料が記載されており、この場合この担体は、液体中に分散可能なタンパク質である。
【0010】
従って、公知技術水準から、食品、殊に飲料の付香に関連して、専ら、一部分それ自体が熱安定性でないかまたは高温安定性でないか、或いは高められた冷水溶解性を有していなければならない有機化合物は、公知である。その上、多孔質の担体粒子は、付香のために長時間に亘って被覆材料で被覆されている。
【0011】
それによって、前記の公知の担持材料の場合には、専ら、この担持材料の熱安定性および不十分な食品用香料放出により、長時間に亘って被覆されていない状態にあることは、不利であり、この場合、担持材料の一部分は、この担持材料を包囲する液状マトリックス中で溶解する。
【0012】
従って、公知技術水準の前記の公知の欠点から、本発明には、放出すべき食品用香料を殊に高められた温度で長時間に亘って安定的に維持し、熱い飲料を長時間に亘って不変の品質で均質に付香することにより、飲料を、大きな比表面積を有する、溶剤不活性で芳香物質が負荷された固体の粒子状担持材料により安定的に付香する方法を提供するという課題が課された。
【0013】
この課題は、担持材料として、場合によっては含水量を有する一連の珪酸塩、酸化アルミニウムおよび活性炭の無機珪素含有化合物、無機アルミニウム含有化合物および/または無機炭素含有化合物を使用するような相応する方法で解決された。
【0014】
意外なことに、前記方法で長時間に亘って、例えば1時間以上、殊に1日以上の望ましい安定した付香が達成されただけでなく、担持材料上で結合された芳香物質が極めて純粋で強烈な香りノートを発揮することが確認された。その上、それとは別にエーテル油での含水飲料の付香の場合に液体表面上で発生する”オイルアイ(Oelauge)”は完全に阻止され、熱い飲料でさえも極めて易揮発性の芳香物質で簡単に安定的に付香することができることは、予想することができなかった。
【0015】
本発明による方法のためには、担持材料として殊にシリカゲル、珪藻土、活性化粘土および/またはか焼された粘土、γ−Alおよび/または酸化アルミニウム−キセロゲルが適当なものとして示された。
【0016】
珪藻土は、例えば天然に由来し、化石を起源とする無定形珪酸であり、この無定形珪酸は、珪藻土(Diatomeenerde)、珪藻土(Bazillarienerde)または珪藻岩(Diatomit)と呼ばれている。同様に、担持材料として適当な酸化アルミニウムは、一般に三種類、即ちα−変態、所謂γ−形および特殊な形に分類される。400〜1000℃で起こる熱力学的に不安定な全てのAl形がγ−形と呼ばれ、これは、表面上に存在するOH基に関連して”非化学量論的水酸化アルミニウム”の表記で公知である。活性炭は、工業的に製造され、問題なしに取り扱うことができる炭素含有製品であり、この炭素含有製品は、多孔質構造および著しく不活性の表面を有する。前記の理由から、活性炭は、物質の極めて幅広いスペクトルを吸着することができ、即ち分子を不活性の表面上に留めておくことができる。活性炭の細孔体積は、一般に0.2ml/g超であり、不活性の表面積は、400m/g超である。活性炭の細孔幅は、0.3nmから数1000nmにまでに広がっている。
【0017】
吸着することができる芳香物質のできるだけ幅広のスペクトルを網羅するために、本発明には、0.1〜1000m/gの比表面積を有する担持材料を使用することが設けられており、この場合には、50〜500m/gである表面積が好ましい。有利には、担持材料は、大きな比表面積を有し、殊に少なくとも1m/g、有利に少なくとも10m/g、よりいっそう有利には少なくとも100m/gの比表面積を有する。
【0018】
同様に、0.3〜5000nm、有利に1〜1000nm、よりいっそう有利には10〜100nmの孔径を有する担持材料は、有利であるとみなされる。
【0019】
粒径に関連して、本発明による方法の範囲内で、1個の個別粒子当たりの粒径が10nm以上、殊に20μm以上、よりいっそう好ましくは50μm以上である担持材料が特に好適である。
【0020】
担持材料の含水量に関連して、本発明による方法は、制限されるものではないが、しかし、含水量は、担持材料に対して、特に25質量%m、殊に10質量%を上廻ってはならない。
【0021】
既に示したように、本発明による方法は、殊に飲料、この場合には殊に熱い飲料の安定した付香の場合に利点を有する。これに関連して、本発明には、担持材料を特に天然に由来する易揮発性芳香物質で負荷して使用するような変法が設けられている。
【0022】
総じて、特許保護が請求された方法のためには、芳香物質として、勿論、任意の混合物で担持材料上に施されてもよいエーテル油、シトルス油、果実エッセンスおよび食品用香料エキスを使用することが推奨される。
【0023】
本発明による方法は、芳香物質が負荷された担持材料を煎じた飲料水または抽出した飲料水、特にティーに添加する場合には、特に良好に利点を発揮する。この場合、付香することができる飲料の温度は、一般に何の役も演じないが、しかし、殊に熱い飲料の場合には、感動的に安定した均質な方法で付香の成果を収めさせる。このような熱い飲料は、有利に40℃以上、殊に60℃以上、なおよりいっそう好ましくは80℃以上である。
【0024】
後に飲料中に放出することができる芳香物質での担持材料の負荷に関連して、本発明には、2つの変法が設けられており、この場合には、一面で、担持材料は、芳香物質での負荷のために、芳香物質含有の液体中に搬入されており、このことは、攪拌工程と関連して行なわれてもよいし、他面、担持材料には、芳香物質含有液体が噴霧される。
【0025】
2つの記載された変法には、芳香物質含有液体の代表例として、食品用香料工業、特に食品用香料抽出、食品用香料後処理および/または食品用香料加工に由来するプロセス水が特に好適であることが示された。同様に、勿論、濃縮食品用香料も芳香物質含有液体として十分に好適である。
【0026】
実際に、本発明による方法の範囲内で特許保護が請求された担持材料は、どの後処理もなしに長時間に亘って安定した、一定の芳香物質放出の傑出した性質を発揮するが、しかし、特殊な使用の場合には、前記担持材料を負荷後に芳香物質で被覆することも可能であり、このことは、殊に共通して機能性の材料を用いて可能である。この機能性の被覆材料は、例えば食品、染料または甘味剤を含有することができ、芳香物質の放出前に飲料マトリックス中で溶解する。
【0027】
飲料を安定的に付香するための特許保護が請求された方法の使用は、原理的には何らの制限もなく、そのために、芳香物質が負荷された担持材料は、直接に付香すべき飲料に添加されてもよいし、例えばインスタント粉末であるような飲料の原料に混和されてもよい。勿論、担持材料を本発明による方法の範囲内で、例えばティーバッグまたはソーダー水の素の粉末もしくはソーダー水の素のペレットのような機能性単位に添加することも可能である。総じて、本発明による方法は、飲料に均質で長時間に亘って安定して均一に純粋な香りノートを添加することができる簡単な方法である。
【0028】
本発明の対象は、大きな比表面積を有する、溶剤不活性で芳香物質が負荷された固体の粒子状担持材料を用いて飲料を安定的に付香する方法であり、この場合担持材料としては、場合によっては含水量を有する一連の珪酸塩、酸化アルミニウムおよび活性炭の無機珪素含有化合物、無機アルミニウム含有化合物および/または無機炭素含有化合物が使用される。特に好適な担持材料としては、0.1〜1000m/gの比表面積および10μm以上の粒径を有するシリカゲル、珪藻土、活性化粘土および/またはか焼された粘土、γ−Alおよび酸化アルミニウム−キセロゲルがこれに該当する。0.3〜5000nmである孔径は、担持材料の適当な孔径であると見なされる。適当な芳香物質は、エーテル油、シトルス油、果実エッセンスおよび食品用香料エキスであり、これらの芳香物質の負荷のために、担持材料は、相応する芳香物質含有液体中に搬入されるかまたは前記芳香物質含有液体で噴霧される。この方法を用いた場合には、殊に熱い飲料は、長時間に亘って安定的に付香することができる。
【0029】
次の実施例は、特許保護が請求された方法の利点を具体的に示す。
【0030】
実施例
例1(本発明)
オレンジ油100g(甘味)を市販のシリカゲル30gと一緒にして90分間強力に攪拌した。シリカゲルの沈殿後、上方に位置するオレンジ油を傾瀉し、負荷されたシリカゲルを、遠心分離物がもはや起こらなくなるまで遠心分離した。
【0031】
引続き、紅茶粉末100gを負荷されたシリカゲル5gと混合した。
【0032】
前記混合物2gをカップ中で煮沸水200mlで煮出し、短時間攪拌し、3分間、味出した。この時間の後、完成した茶飲料を傾瀉した。
【0033】
こうして付香された紅茶は、特に強力で典型的なオレンジノートを有し、その上、全く”オイルアイ”を有さず、この紅茶の香りノートは、数時間に亘ってセンサーにより検出可能である。
【0034】
例2(本発明)
エタノールで5倍に希釈された天然のリンゴ食品用香料エキス1.5mlを市販のシリカゲル5g上に噴霧した。引続き、紅茶粉末50gを負荷されたシリカゲルと混合した。前記混合物1.5gをカップ中で煮沸水200mlで注ぎかけ、短時間攪拌し、2分間、味出した。引続き、完成した茶飲料を傾瀉した。
【0035】
得られたリンゴ紅茶は、リンゴ食品用香料の典型的で強力な全てのノートを含み、このリンゴ食品用香料は、冷却段階中でもセンサーにより検出可能であり、その後3時間経ってもセンサーにより検出可能である。
【0036】
例3(比較)
紅茶粉末50gをエタノールで5倍に希釈されたエタノール性リンゴ食品用香料エキス1.5mlで噴霧した。前記混合物1.5gをカップ中で煮沸水200mlで注ぎかけ、短時間攪拌し、2分間、味出した。引続き、完成した茶飲料を傾瀉した。
【0037】
注ぎかけた瞬間になお確認可能であったリンゴ香りノートは、完成した紅茶飲料中でもはやセンサーにより検出することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲料を溶剤不活性で芳香物質が負荷された固体の粒子状担持材料により付香する方法において、担持材料として、場合によっては含水量を有する一連の珪酸塩、酸化アルミニウムおよび活性炭の無機珪素含有化合物、無機アルミニウム含有化合物および/または無機炭素含有化合物を使用することを特徴とする、飲料を付香する方法。
【請求項2】
担持材料としてシリカゲル、珪藻土、活性化粘土および/またはか焼された粘土、γ−Alおよび/または酸化アルミニウム−キセロゲルを使用する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
0.1〜1000m/g、有利に50〜500m/gの比表面積を有する担持材料を使用する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
0.3〜5000nmの孔径を有する担持材料を使用する、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
10μm以上の粒径を有する担持材料を使用する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
担持材料を特に天然に由来する易揮発性芳香物質で負荷して使用する、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
芳香物質がエーテル油、シトルス油、果実エッセンスおよび食品用香料エキスである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
負荷された担持材料を煎じた飲料水または抽出した飲料水、特にティーに添加する、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
担持材料を芳香物質での負荷のために芳香物質含有液体中に搬入する、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
担持材料を芳香物質での負荷のために芳香物質含有液体で噴霧する、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
芳香物質含有液体が食品用香料工業、特に食品用香料抽出、食品用香料後処理および/または食品用香料加工によるプロセス水であるかまたは濃縮食品用香料である、請求項9または10記載の方法。

【公表番号】特表2007−501604(P2007−501604A)
【公表日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522319(P2006−522319)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【国際出願番号】PCT/EP2004/008789
【国際公開番号】WO2005/016030
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(501073862)デグサ アクチエンゲゼルシャフト (837)
【氏名又は名称原語表記】Degussa AG
【住所又は居所原語表記】Bennigsenplatz 1, D−40474 Duesseldorf, Germany
【Fターム(参考)】