説明

飼料イネの籾破砕装置

【課題】 飼料イネの籾を効率的に破砕し、飼料イネの消化性を向上させることのできる飼料イネの籾破砕装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 それぞれV字形の溝11を有し、かつ、互いに逆方向に回転する1対の破砕ローラ1と、前記破砕ローラ1上部に設けた飼料イネの籾投入用ホッパ2と、を有し、前記破砕ローラ1の一方が固定されていると共に、前記破砕ローラ1の他方が水平方向に可動とされており、さらに、前記他方のローラの動きを抑制し破砕ローラ間を通過する飼料イネの籾に圧縮力を加えるための圧縮用バネ3を備えてなる飼料イネの籾破砕装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は飼料イネの籾破砕装置に関し、詳しくは家畜の餌として使用される飼料イネの籾を効率的に破砕し、飼料イネの消化性を向上させることのできる飼料イネの籾破砕装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イネ発酵粗飼料(WCS)を乳肉牛用飼料として利用する場合、穀実が消化されにくい籾殻に覆われているため、未消化のまま排泄される籾が15〜50%程度もあることが問題となっており、この割合を少なくすることにより、栄養価の向上が期待できる。
【0003】
飼料イネの消化性を高める方法として、化学的な面からの取り組みがなされており、例えばアルカリ処理による籾殻の膨軟化により消化性を向上させる方法が提案されている。
しかしながら、この方法では、牛の嗜好性の低下が避けられなかった。
【0004】
そこで飼料イネの籾の消化性を高める方法として、物理的作用により籾殻を剥離するか、或いは籾の一部に損傷を与えることにより、消化液が穀実に触れるように処理する方法の開発が望まれている。
このような物理的方法として、収穫時に処理する方法と、ロールベール解体時に処理する方法がある。
代表的なものとして、飼料イネ専用収穫機でフレール刃を用いたものがあり、収穫時に回転するフレール刃で籾を傷付けることによって、消化性の向上を図っている。
【0005】
しかしながら、フレール刃を用いた飼料イネ専用収穫機による収穫調製は、収穫時に立毛中のイネを強打するため、地表に落下する籾が多いことや、成形室内で破砕・脱粒した籾がロールベール中に混入せずに地面に落下排出されてしまう割合も多い等,収穫時の損失が多いという欠点がある。
【0006】
飼料イネ用ロールベーラの成形ベール専用籾破砕装置は一定の破砕性能を有するという報告がある(非特許文献1)。
しかしながら、飼料イネ用ロールベーラの成形ベール専用籾破砕装置は、文字通り特定の飼料イネ用ロールベーラで収穫調製されたロールベール専用であって,スタックサイロ等、様々な形態を取りうる飼料イネサイレージを対象としたものではない。
【0007】
いずれにしても、籾の損失が少なく、しかも汎用の籾破砕処理装置は、これまで見当たらなかった。
【0008】
【非特許文献1】飼料イネ用ロールベーラの成形ベール専用籾破砕装置,三重県科学技術振興センター,H16年度関東東海北陸農業試験研究成果情報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような従来の課題を解消し、飼料イネの籾を効率的に破砕し、飼料イネの消化性を向上させることのできる飼料イネの籾破砕装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る本発明は、それぞれV字形の溝を有し、かつ、互いに逆方向に回転する1対の破砕ローラと、前記破砕ローラ上部に設けた飼料イネの籾投入用ホッパと、を有し、前記破砕ローラの一方が固定されていると共に、前記破砕ローラの他方が水平方向に可動とされており、さらに、前記他方のローラの動きを抑制し破砕ローラ間を通過する飼料イネの籾に圧縮力を加えるための圧縮用バネを備えてなる飼料イネの籾破砕装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る本発明によれば、予め細断した飼料イネを対象として、その籾を効率的に破砕し、飼料イネの消化性を向上させることができる。
即ち、請求項1に係る本発明の飼料イネの籾破砕装置によれば、ロールベールとされている飼料イネの籾を開封して家畜に給与するときに、その籾を効率的に破砕し、飼料イネの消化性を向上させることができる。
しかも、請求項1に係る本発明の飼料イネの籾破砕装置は、特定の飼料イネ用ロールベーラで収穫調製されたロールベール専用のものではなく、広く用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
請求項1に係る本発明は、飼料イネの籾破砕装置に関し、それぞれV字形の溝を有し、かつ、互いに逆方向に回転する1対の破砕ローラと、前記破砕ローラ上部に設けた飼料イネの籾投入用ホッパと、を有し、前記破砕ローラの一方が固定されていると共に、前記破砕ローラの他方が水平方向に可動とされており、さらに、前記他方のローラの動きを抑制し破砕ローラ間を通過する飼料イネの籾に圧縮力を加えるための圧縮用バネを備えてなる飼料イネの籾破砕装置である。
【0013】
以下、請求項1に係る本発明を図面により説明する。
図1は、請求項1に係る本発明の飼料イネの籾破砕装置の1態様を示す説明図である。図中、符号1は破砕ローラであり、符号2は破砕ローラ1の上部に設けた飼料イネの籾投入用ホッパである。
なお、飼料イネの籾投入用ホッパ2は、飼料イネの籾ができるだけ均一に通過するような形状としておくことが望ましい。
【0014】
破砕ローラ1は、それぞれV字形の溝を有し、かつ、互いに逆方向に回転する1対のローラからなるものである。破砕ローラ1は、モーター(図示していない)の駆動により回転する。この溝はV字形のものでないと、本発明の目的を達成することはできない。
V字形の溝11は、角度60度前後が最も好ましいが、V字形の溝であれば必ずしもこれに限定されるものではない。このようなV字形の溝11を破砕ローラ1の外周面にそれぞれ切っておくことにより、破砕ローラ1間に挟まれた飼料イネの籾に効果的にせん断力等を作用させることができる。
破砕ローラの一方は固定されている(以下、この一方のローラを固定ローラ1Aと称することがある)のに対して、破砕ローラの他方は水平方向に可動とされている(以下、この他方のローラを可動ローラ1Bと称することがある)。
固定ローラ1Aと可動ローラ1Bは、それぞれV字形の溝を有し、かつ、互いに逆方向に回転するようにされている。両ローラは、基本的に同一の径、長さを有している。
【0015】
図2は、そのような破砕ローラ1の1態様を示す説明図である。1対の固定ローラ1Aと可動ローラ1Bは、それぞれV字形の溝11を有しており、V字形の溝11の間で飼料イネの籾を破砕するよう構成されている。
【0016】
ここで他方のローラ、つまり可動ローラ1Bは、水平方向に可動とされている。水平方向へのスライド機構などを採用することにより、可動しうるように構成すればよい。即ち、他方のローラ、つまり可動ローラ1Bには、水平方向の自由度を与える機構が採用されており、その結果、ローラ間隙を変更することができる。
この可動ローラ1Bは、次に述べる圧縮用バネにより、動きが抑制され、破砕ローラ間を通過する飼料イネの籾に圧縮力を加えることができるようになっている。
【0017】
図中、符号3は、前記可動ローラ1Bを水平方向に前記固定ローラ1A方向に押し付けて、破砕ローラ間を通過する飼料イネの籾に圧縮力を加える圧縮用バネ(スプリング)である。
圧縮用バネ3は、前記可動ローラ1Bを水平方向に前記固定ローラ1A方向に押し付けるためのものであり、均一に前記可動ローラ1Bを水平方向に前記固定ローラ1A方向に押し付けられるものであれば、1本だけあればよいが、均一に押し付けるために、2本以上設けることもできる。また、図中、符号31は、前記可動ローラ1Aを水平方向に前記固定ローラ1B方向に押し付けるための圧縮用バネ2を動かすハンドルである。このハンドル31も圧縮用バネ3の設置本数だけ設けることができるが、ハンドル31を同時に動かすことができるように相互にリンクさせておくとよい。
圧縮用バネ3による押し付け力は、100N〜2kN程度の間で可変とすることができるようにするとよい。但し、あまりに押し付け力が強過ぎると、破砕率は向上するものの、所要動力が増大するため、実際上は100N〜1kN程度の間とすることが好ましく、特に所要動力と破砕率とのバランスからすると、100N〜200Nの間とすることが最も好ましい。
【0018】
なお、破砕ローラ1は、剪断力をより有効に作用させるために、歯車機構などにより、それぞれのローラの回転速度(周速度)を変えるとよい。
例えば、両ローラの周速度比を10%〜20%程度変えると、破砕率をより向上させることができる。
【0019】
請求項1に係る本発明の飼料イネの籾破砕装置は、以上の如き構成からなるものである。
請求項1に係る本発明の飼料イネの籾破砕装置は、以上の如き構成を採用しているため、飼料イネの籾に圧縮力を加えることができ、飼料イネの籾を有効に破砕することができる。
なお、飼料イネの籾投入用ホッパ2から投入される飼料イネの籾は、通常、予め数cm程度に細断された含水率60%程度のものである。
請求項1に係る本発明の飼料イネの籾破砕装置によれば、そのような飼料イネの籾を、破砕率70%以上で1時間あたり1〜3トン程度処理することが可能である。
【0020】
請求項1に係る本発明の飼料イネの籾破砕装置を用いて飼料イネの籾を破砕するときの破砕力の作用方向を図3に示す。
図3に示すように、V字形の溝11を破砕ローラ1の外周面にそれぞれ切っておくことにより、圧縮用バネ3によりもたらされる圧縮力が、飼料イネの籾に対して、剪断力を作用させることにより、効果的に籾殻を剥離することができる。
このように請求項1に係る本発明の飼料イネの籾破砕装置では、V字形の溝11の突出部で破砕するものではないため、多少磨耗したとしても、破砕性能は殆ど低下しない。
但し、偏磨耗は好ましくないため、飼料イネの籾はできるだけ均一になるように飼料イネの籾投入用ホッパ2に投入することが望ましい。
【実施例】
【0021】
次に、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
【0022】
実施例1
図1に示すような飼料イネの籾破砕装置をフレームに組み込み、飼料イネの籾を破砕した。
破砕ローラ1は、直径150mm、長さ300mmであり、表面に幅14mm、深さ10.5mmで、角度60度のV字型の溝11が切ってあり、ローラ間に挟まれた籾に効果的に剪断力が作用するように構成されている。
また、破砕ローラ1は、モータで駆動させ、2本のローラの回転速度(周速度)について、剪断力をより有効に作用させるため片方を10%増速させて用いた。破砕ローラ1間の間隙は1mmに設定し、片方のローラを支持する初期力(バネ押し付け力)は100N〜2kN程度の間で試料の状態に応じて設定できるようにし、実施例1では100Nで行った。
破砕ローラ1上部に装着されている飼料イネの籾投入用ホッパ2より、飼料イネの籾を投入して破砕を行った。なお、周速度は、0.2m/sで行った。
破砕率と所要動力を表1に示した。比較のために、周速度比が0%と20%の場合を併せて表1に示した。
【0023】
さらに、周速度比は10%のままで、周速度を0.1m/sと0.4m/sとした場合の破砕率と所要動力を表2に示した。
【0024】
【表1】

*異なる大文字と大文字の記号は、それぞれ有意水準1%と5%で有意差があったことを示す。
【0025】
【表2】

*異なる大文字の記号は、有意水準5%で有意差があったことを示す。
【0026】
表1、2によれば、周速度比10%、周速度0.2m/sが、最も破砕率が高く、所要動力が比較的小さいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の飼料イネの籾破砕装置によれば、予め細断した飼料イネの籾を効率的に破砕することができるため、飼料イネの消化性が向上し、未消化のまま排泄される割合が圧倒的に減少する。このため、TDN(可消化養分総量)の向上も期待できる。
さらに、本発明の飼料イネの籾破砕装置によれば、細断した飼料イネを破砕処理してTMR用粗飼料として利用することも可能である。
また、本発明の飼料イネの籾破砕装置は、飼料イネの籾だけでなく、飼料用トウモロコシや小麦、大麦等を破砕して消化性を向上させることにも利用可能である。
従って、本発明は、飼料産業分野等において有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の飼料イネの籾破砕装置の1態様を示す説明図である。
【図2】破砕ローラ1の1態様を示す説明図である。
【図3】本発明の飼料イネの籾破砕装置を用いて飼料イネの籾を破砕するときの破砕力の作用方向を示す説明図である。
【符号の説明】
【0029】
1 破砕ローラ
1A 固定ローラ
1B 可動ローラ
2 飼料イネの籾投入用ホッパ
3 圧縮用バネ(スプリング)
11 V字形の溝
31 ハンドル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれV字形の溝を有し、かつ、互いに逆方向に回転する1対の破砕ローラと、前記破砕ローラ上部に設けた飼料イネの籾投入用ホッパと、を有し、前記破砕ローラの一方が固定されていると共に、前記破砕ローラの他方が水平方向に可動とされており、さらに、前記他方のローラの動きを抑制し破砕ローラ間を通過する飼料イネの籾に圧縮力を加えるための圧縮用バネを備えてなる飼料イネの籾破砕装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−68499(P2007−68499A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−261701(P2005−261701)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(505342726)株式会社宇佐美 (1)
【Fターム(参考)】