説明

飼料添加剤及び飼料

【課題】鳥類及び哺乳類、特に家畜の疾病を予防又は治療するための安全かつ簡便な手段を提供する。特に、グラム陽性細菌によって引き起こされる家畜の感染症を予防又は治療するための新規な手段を提供する。
【解決手段】ソホロリピッドを含む飼料を、鳥類又は哺乳類に摂取させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖脂質を含有する飼料添加剤、飼料及びこれらを用いた鳥類及び哺乳類の飼育方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家畜の感染症は、家畜の体重を減少させたり、様々な病状を引き起したりするなど、その商品価値を著しく低下させる。例えば、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)は、ウシ、ヒツジ、ヤギの乳房炎、皮下腫瘍、膿血症、馬の発疹、豚、鶏の関節炎、皮膚炎、敗血症の原因菌である。また、ストレプトコッカス・スイス(Streptococcus suis)は、豚の髄膜炎、敗血症、心内膜炎、関節炎の原因菌である。また、ストレプトコッカス・ボビス(Streptococcus bovis)はウシやヒツジ等の反芻動物の鼓脹症の原因菌である。鼓脹症はルーメン内容液が泡沫状になることでガスと液が分離しなくなり、たまったガスをあい気で外に出せなくなった状態である。胃にたまったガスは、心臓と肺を圧迫し、死をもたらすこともある。鼓脹症の原因の一つは、粗飼料が少なくトウモロコシなどのデンプン質の多く含まれるエサを与えることなどによる、ルーメンにおけるストレプトコッカス・ボビスの増殖である。
【0003】
抗生物質を家畜飼料に少量添加することにより家畜の成長が促進されることが1940年代に発見され、それ以来、家畜の成長を促進したり、疾病を予防したりする手段として、家畜の飼料に抗生物質を添加することが広く行われてきた。抗生物質は、家畜の病原菌感染の予防、代謝の改善、腸内の有害菌の増殖抑制の作用を示し、結果として疾病を予防し、成長を促進すると考えられているが、詳細は依然不明である。その一方で、飼料に抗生物質を混ぜることは、結果的に抗生物質を外環境に広くばら撒くこととなり、畜産界においても抗生物質耐性菌の出現が問題となっている。例えば、代表的な抗生物質耐性菌であるMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus))は、馬などの家畜でも発見されていることが報告されている。
このような背景下、近年では、抗生物質の飼料への添加が厳しく規制されるようになってきている。例えば、欧州では2006年までに抗生物質の飼料への使用が全面禁止され、日本でも使用できる抗生物質の数が段階的に減ってきている。また、このような動きと相まって、生産者からは抗生物質の代替物についての要望が大きくなっている。
【0004】
このような抗生物質の代替の流れを受け、一部では、乳酸菌が生産するナイシン、バチルス菌が生産するイツリンなどのポリペプチド類を抗生物質の代わりに使用する動きも出てきている。また、乳化剤として缶コーヒーなどに添加されているショ糖エステル類は、バチルス菌等に対する抗菌作用を有すると考えられ、抗生物質の代替物として期待されている。
【0005】
一方、ソホロリピッドについては、以下のことが知られている。
例えば、ソホロリピッドは線維芽細胞の賦活作用やコラーゲン合成促進作用を有することが知られ、皮膚外用剤に配合することが知られている(特許文献1)。また、ソホロリピッドを漂白剤組成物、洗浄剤組成物に配合することが知られている(特許文献2〜5)。また、ソホロリピッドを利用した小麦粉製品の品質改良方法が知られている(特許文献6)。
また、ソホロリピッドの抗菌性について、一部報告されている(非特許文献1)。しかしながら、ソホロリピッドの、家畜の感染症を引き起こす細菌に対する抗菌活性については、知られておらず、ソホロリピッドを畜産分野で利用することは、検討されたことがなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−106733号公報
【特許文献2】特開2006−274233号公報
【特許文献3】特開2006−83238号公報
【特許文献4】特開2006−70231号公報
【特許文献5】特開2003−13093号公報
【特許文献6】特開昭61−205449号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Appl. Microbiol. Biotechnol., 26, 199-205(1987)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、鳥類及び哺乳類、特に家畜の疾病を予防又は治療するための安全かつ簡便な新規な手段を提供することを課題とする。本発明は、特に、グラム陽性細菌によって引き起こされる家畜の感染症を予防又は治療するための手段を提供することを課題とする。また、本発明は、反芻動物の鼓脹症を予防又は治療するための手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ソホロリピッドが、ストレプトコッカス・ボビスなどの家畜の感染症を引き起こすグラム陽性細菌に対して、抗菌活性を有することを見出し、発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)ソホロリピッドを含有することを特徴とする、鳥類又は哺乳類用の飼料添加剤。
(2)家畜用であることを特徴とする、(1)に記載の飼料添加剤。
(3)ソホロリピッドが、キャンディダ(Candida)属に属する酵母から得られることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の飼料添加剤。
(4)疾病の予防又は治療用であることを特徴とする、(1)〜(3)の何れかに記載の飼料添加剤。
(5)前記疾病がグラム陽性細菌により引き起こされる感染症であることを特徴とする、(4)に記載の飼料添加剤。
(6)グラム陽性細菌が、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属又はストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する細菌である(5)に記載の飼料添加剤。
(7)グラム陽性細菌が、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)、ストレプトコッカス・スイス(Streptococcus suis)又はストレプトコッカス・ボビス(Streptococcus bovis)である(6)に記載の飼料添加剤。
(8)前記疾病が、反芻動物の鼓脹症であることを特徴とする、(4)〜(7)の何れかに記載の飼料添加剤。
(9)(1)〜(8)の何れかに記載の飼料添加剤を含む、飼料。
(10)(9)に記載の飼料を、鳥類又は哺乳類に摂取させることを特徴とする、鳥類又は哺乳類の飼育方法。
(11)(9)に記載の飼料を、反芻動物に摂取させることを特徴とする、鼓脹症の治療又は予防方法。
(12)ソホロリピッドを含有することを特徴とする、反芻動物の鼓脹症の予防又は治療剤。
(13)鼓脹症が、ストレプトコッカス・ボビス(Streptococcus bovis)により引き起こされる、(12)に記載の鼓脹症の予防又は治療剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明の飼料添加剤を含有する飼料(本発明の飼料)を鳥類又は哺乳類に摂取させることにより、疾病を予防又は治療することができる。具体的には、本発明の飼料を鳥類又は哺乳類に摂取させることにより、グラム陽性細菌による感染症を予防又は治療することができる。特に、本発明の飼料は、反芻動物の鼓脹症の予防又は治療に有効である。本発明の飼料は、鶏、豚、牛、羊、馬、ヤギなどの家畜の飼育に好適に用いることができる。また、本発明の飼料添加剤は、生分解性が高く、生体及び環境に対する安全性が高い。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の飼料添加剤は、ソホロリピッドを含有することを特徴とする。
ソホロリピッドは、酸型及びラクトン型の何れであってもよい。酸型のソホロリピッドは、下記一般式(1)で表され、ラクトン型のソホロリピッドは、下記一般式(2)で表される。
【0013】
【化1】

【0014】
一般式(1)中、R1及びR2はそれぞれ独立して、水素又はアセチル基である。nは9〜20の整数である。但し、(CH2)nは不飽和であってもよい。
【0015】
【化2】

【0016】
一般式(2)中、R1及びR2はそれぞれ独立して、水素又はアセチル基である。nは9〜20の整数である。但し、(CH2)nは不飽和であってもよい。
また、本発明の飼料添加剤は、一種のソホロリピッドを含んでいても、複数種のソホロリピッドを含んでいてもよい。
【0017】
本発明において用いるソホロリピッドは、菌類、特に酵母などの微生物を培養して得ることができる。
ソホロリピッドの生産には、例えば、キャンディダ(Candida)属に属する酵母を用いることが好ましい。中でも、Candida bombicolaに属する酵母を用いることが好ましい。具体的には、Candida bombicola NBRC 10243株を用いることができる。
NBRC 10243株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構の生物遺伝資源部門(NBRC)に登録されている株であり、同機構のカタログを用いて一般に入手可能である。
また、ソホロリピッドは、合成したものや市販品を用いることもできる。
【0018】
例えば、キャンディダ属に属する酵母を用いてソホロリピッドを生産させるためには、以下のような方法を用いることができる。
培養法は、液体培養、固体培養の何れでもよい。培地の炭素源としては、天然油脂類、糖類、脂肪酸、脂肪酸エステル、アルコール、n−アルカン等を用いることができる。好ましくは、天然油脂類、糖類、脂肪酸、脂肪酸エステルであり、培養ステージに応じて、これらを併用し、若しくは使い分けることにより、酵母のソホロリピッドの生産性を向上させることができる。通常、培養温度は、20〜35℃程度であればよく、培養期間は3〜10日程度であればよい。
【0019】
このようにして得られた培養物に含まれるソホロリピッドは、遠心分離などにより完全に若しくは部分的に精製して、飼料添加剤に配合してもよいし、未精製の培養物の形態で飼料添加剤に配合してもよい。培養物の形態で使用する場合は、保存時においては、安定性の観点から乾燥しておくことが好ましい。
【0020】
本発明の飼料添加剤におけるソホロリピッドの含有量は、好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。本発明の飼料添加剤におけるソホロリピッドの含有量の上限はなく、本発明の飼料添加剤は、ソホロリピッドのみからなっていてもよい。
【0021】
また、本発明の飼料添加剤は、ソホロリピッドの他に、鳥類又は哺乳類の疾病を予防又は治療するのに有効な成分、栄養補助成分、保存安定性を高める成分等の任意成分をさらに含むものであってもよい。このような任意成分としては、例えば、エンテロコッカス類、バチルス類、ビフィズス菌類等の生菌剤;アミラーゼ、リパーゼ等の酵素;L−アスコルビン酸、塩化コリン、イノシトール、葉酸等のビタミン;塩化カリウム、クエン酸鉄、酸化マグネシウム、リン酸塩類等のミネラル、DL−アラニン、DL−メチオニン、塩酸L−リジン等のアミノ酸;フマル酸、酪酸、乳酸、酢酸及びそれらの塩類等の有機酸;エトキシキン、ジブチルヒドロキシトルエン等の抗酸化剤;プロピオン酸カルシウム等の防カビ剤;CMC、カゼインナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム等の粘結剤;グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の乳化剤;アスタキサンチン、カンタキサンチン等の色素;各種エステル、エーテル、ケトン類等の着香料が挙げられる。
【0022】
本発明の飼料添加剤の剤形は特に制限されず、例えば粉末、液体、錠剤など任意の形態とすることができる。本発明の飼料添加剤は、ソホロリピッド、及び必要に応じて任意成分を混合し、製剤化することにより製造することができる。
【0023】
また、ソホロリピッドは、鳥類又は哺乳類の疾病を引き起こす細菌に対して抗菌活性を示すことから、本発明の飼料添加剤は、これらの細菌によって引き起こされる鳥類又は哺乳類の疾病を予防又は治療するために用いることができる。
本発明の飼料添加剤は、特にグラム陽性細菌により引き起こされる感染症の予防又は治
療に好適に用いることができる。
このようなグラム陽性細菌としては、例えば、MicrococcusStaphylococcusStreptococcusPlanococcusStomatococcusEnterococcusPeptococcusPeptostreptococcusRuminococcusLeuconostocPediococcusAerococcusGemellaCoprococcusSarcinaBacillusClostridiumLactobacillusListeriaErysipelothrixCorynebacteriumRhodococcusPropionibacteriumEubacteriumActinomycesBifidobacteriumMycobacteriumNocardiaDermatophilus等の属に属する細菌が挙げられる。
本発明の飼料添加剤は、特に、スタフィロコッカス属又はストレプトコッカス属に属する細菌、具体的にはStaphylococcus aureusStaphylococcus epidermidisStreptococcus suisStreptococcus bovis等により引き起こされる疾病の予防又は治療に好適に用いることができる。中でも、Streptococcus bovisにより引き起こされる疾病の予防又は治療に好適に用いることができる。本発明の飼料添加剤は、特に、反芻動物に発生する鼓張症の予防又は治療に好適に用いることができる。中でも、本発明の飼料添加剤は、Streptococcus bovisの感染により引き起こされる鼓張症の予防又は治療に好適に用いることができる。
また、本発明は、ソホロリピッドを有効成分として含有する、反芻動物の鼓脹症の予防又は治療剤をも提供する。本発明の鼓脹症の予防又は治療剤におけるソホロリピッドの含有量の好ましい形態は、上記本発明の飼料添加剤のそれと同じである。また、本発明の鼓脹症の予防又は治療剤における任意成分なども、上記飼料添加剤のそれと同じである。
【0024】
本発明の飼料添加剤は、鳥類又は哺乳類の飼料、ペットフード、ペット用サプリメント(以下、飼料という。)に用いられる他の飼料成分と混合して、鳥類又は哺乳類用の飼料とすることができる。飼料の種類や成分は、特に制限されない。また、本発明の飼料は、鳥類又は哺乳類の疾病を予防又は治療するための飼料とすることができる。また、本発明の鼓脹症の予防又は治療剤も、飼料成分と混合して、反芻動物用の飼料、好ましくは鼓脹症の予防又は治療用の飼料とすることができる。もちろん、本発明の鼓脹症の予防又は治療剤は、そのままで、反芻動物に投与してもよい。
【0025】
本発明の飼料におけるソホロリピッドの含有量は、与える動物の種類、健康状態、飼料の種類、飼料成分、年齢、性別、体重等により適宜調節され、特に制限されないが、乾物質量当たり1〜10000質量ppmであることが好ましい。
【0026】
本発明の飼料は、飼料添加剤をそのまま飼料成分に添加し、混合して製造することができる。この際、粉末状、固形状の飼料添加剤を用いる場合は、混合を容易にするために飼料添加剤を液状又はゲル状の形態にしてもよい。この場合は、水、大豆油、菜種油、コーン油などの植物油、液体動物油、ポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸などの水溶性高分子化合物を液体担体として用いることができる。また、飼料中におけるソホロリピッドの均一性を保つために、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、カゼインナトリウム、アラビアゴム、グアーガム、タマリンド種子多糖類などの水溶性多糖類を配合することも好ましい。また、本発明の飼料を製造する際に、上記の飼料添加剤に添加することができる任意成分をさらに配合してもよい。
【0027】
本発明の飼料を摂取させる動物の種類は、鳥類又は哺乳類である。例えば、家畜や犬、猫などのペットに用いることができる。本発明の飼料は、この中でも家畜、特に鶏、豚、牛、羊、馬、ヤギの飼育に好適である。また、本発明の飼料は、反芻動物の飼育に好適である。摂取させる飼料の量は、動物の種類、体重、年齢、性別、健康状態、飼料の成分などにより適宜調節することができる。
飼料を摂取させる方法及び飼育する方法は、動物の種類に応じて、通常用いられる方法をとることができる。
【実施例】
【0028】
1.試料及び分析
(1)培養
(前培養)
YM培地50mlを500ml Erlenmeyer フラスコに入れ、シリコン栓をした。オートクレーブ滅菌後、Candida bombicola NBRC 10243株を植菌し、30℃にて24時間振とう培養した。
(本培養)
イオン交換水、グルコース 10%、コーン油 10%、NH4Cl 0.3%、KH2PO4 0.1%、MgSO4 0.5%、yeast extract 0.5%からなる培地50mlを500mlErlenmeyer フラスコに入れ、シリコン栓をしてオートクレーブにて滅菌した。そこに、前培養で得たCandida bombicola NBRC 10243株の前培養液を2ml加え、30℃/200rpmにて7日間振とう培養を行った。
【0029】
(2)ソホロリピッドの抽出・精製
(抽出)
本培養で得た培養液50mlを分液ロートにとり、二倍量の酢酸エチルで二回抽出を行い、酢酸エチル層を合わせて溶媒を留去した。その後、50mlのヘキサンで三回洗浄した後、乾燥を行い、ソホロリピッドの粗精製物を得た(後述のアンスロン反応より、純度90%)。
(精製)
上記粗精製物1gをシリカゲルカラム(クロロホルム―アセトン系)にて分画した。溶媒比をクロロホルム/アセトン=5/0、4/1、3/2、2/3、1/4、0/5と順次変更しつつ流して分画した。
各画分を薄層クロマトグラフィーにて展開し(展開溶媒 CHCl3/MeOH/水=65/15/2)、下記文献1)に記述された、各種ソホロリピッドのRf値(Rf=0.08, 0.13, 0.18, 0.27-0.33, 0.38, 0.43, 0.47, 0.57-0.60)を示す画分を選別し、これらの画分をまとめて標準サンプルとした。
1)J. Am. Oil Chem. Soc., 65, 1460-1466 (1988)
(純度測定:アンスロン反応)
酢酸エチルにより適度な濃度に希釈した粗精製物を試験管に入れ、溶媒を留去した。そこにアンスロン試薬(0.2%アンスロン75%硫酸液)5mlを加え、沸騰水中で10分間反応させ、620nmの吸収を測定した。標準サンプルとの比較により、粗精製物の純度算出を行った。
【0030】
2.抗菌性の評価
下記の要領で、ソホロリピッドについて、表1に示す各種細菌の最小発育阻止濃度(MIC)を測定した。
各種細菌の前培養は、感受性測定用ブイヨン培地(日水)を用いて行った。培養液の菌濃度を生理食塩水にて約1.0×105〜106CFU/mlとなるように調製したのち、測定培地に各種細菌を接種した。測定培地としては、Staphylococcus aureusStaphylococcus epidermidisBacillus subtilisについては感受性測定用培地(日水)を用い、Streptococcus suisStreptococcus bovisについては血液寒天培地(ハートインフージョン培地:日水、綿羊無菌脱繊維血液:コージンバイオ)を用いた。培養は、Staphylococcus aureus及びStaphylococcus epidermidisBacillus subtilisについては好気培養、Streptococcus suisStreptococcus bovisについては5%炭酸ガス培養にて、いずれも37℃、約20時間行った。培養終了後、MICを測定した。
ソホロリピッドは、上記抽出工程にて得たソホロリピッドの粗精製物(純度90%)を使用した。また、比較のために、ショ糖エステル(Sucrose monodecanoate:シグマアルドリッチジャパン品)、ソホロース(シグマアルドリッチジャパン品)についてもMICを
測定した。
結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
ソホロリピッドは同じ糖脂質のSucrose monodecanoateと比較して、Staphylococcus属、Streptococcus属、Bacillus属の細菌に対して数〜数十倍高い抗菌活性を示した。特に、Streptococcus suisStreptococcus bovis、Bacillus subtilisに対する高い抗菌活性を示した。一方、糖脂質の構成体であるソホロースは、これらの細菌に対し抗菌活性を示さなかった。
これより、ソホロリピッドを含む飼料を鳥類や哺乳類に摂取させて飼育することにより、上記細菌により引き起こされる疾病を予防又は治療する効果が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソホロリピッドを含有することを特徴とする、鳥類又は哺乳類用の飼料添加剤。
【請求項2】
家畜用であることを特徴とする、請求項1に記載の飼料添加剤。
【請求項3】
ソホロリピッドが、キャンディダ(Candida)属に属する酵母から得られることを特徴とする、請求項1又は2に記載の飼料添加剤。
【請求項4】
疾病の予防又は治療用であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の飼料添加剤。
【請求項5】
前記疾病がグラム陽性細菌により引き起こされる感染症であることを特徴とする、請求項4に記載の飼料添加剤。
【請求項6】
グラム陽性細菌が、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属又はストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する細菌である請求項5に記載の飼料添加剤。
【請求項7】
グラム陽性細菌が、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)、ストレプトコッカス・スイス(Streptococcus suis)又はストレプトコッカス・ボビス(Streptococcus bovis)である請求項6に記載の飼料添加剤。
【請求項8】
前記疾病が、反芻動物の鼓脹症であることを特徴とする、請求項4〜7の何れか一項に記載の飼料添加剤。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか一項に記載の飼料添加剤を含む、飼料。
【請求項10】
請求項9に記載の飼料を、鳥類又は哺乳類に摂取させることを特徴とする、鳥類又は哺乳類の飼育方法。
【請求項11】
請求項9に記載の飼料を、反芻動物に摂取させることを特徴とする、鼓脹症の治療又は予防方法。
【請求項12】
ソホロリピッドを含有することを特徴とする、反芻動物の鼓脹症の予防又は治療剤。
【請求項13】
鼓脹症が、ストレプトコッカス・ボビス(Streptococcus bovis)により引き起こされる、請求項12に記載の鼓脹症の予防又は治療剤。

【公開番号】特開2010−220516(P2010−220516A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70054(P2009−70054)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】