説明

養殖用ネット、その設置方法、その廃棄処理方法

【課題】 貝類などの生態活動にもとづく移動、喪失を防止して収獲量を上げるとともに、環境保全を図った、養殖用ネット、その設置方法、その廃棄処理方法を提供する。
【解決手段】 養殖用ネットであって、ポリ乳酸繊維により構成され、網地目合が10mm〜30mmであり、交点強力が50N以上である。この養殖用ネットは、ラッセル網または無結節網とすることができる。この養殖用ネットを、養殖すべき貝類の存在する干潟または浅場に広げて固定する。養殖用ネットを使用した後の使用済みネットを、加水分解および、または微生物処理により分解消失させる。分解消失させる際には、温度と水分とpHとの調整機能を有するコンポスト化装置を用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は養殖用ネット、その設置方法、その廃棄処理方法に関し、特に、干潟や浅場で貝類や藻類を繁茂、養殖する場合に使用される養殖用ネット、その設置方法、その廃棄処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
貝類や藻類は干潟や浅場の自然環境の中で生息し、漁業に従事する人は多大な恩恵を受けてきた。
ところが、近年、磯やけ現象が起こり、藻類の繁茂が乏しく、また魚類の収獲も激減しているのが実情である。したがって漁法も獲る漁業から育てる漁業への転換が図られ、海洋牧場へと進んでいる。貝類においても同様である(たとえば特許文献1)。貝類も、潮の干満、貝類の生態活動、人や野鳥の被害などにより漁場から喪失し、収獲量が減っている。貝類の生態を保護し、収獲を確保しかつ環境を保全しなければならないという問題がある。
【特許文献1】特開2000−175590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明はこのような現状に鑑みてなされたもので、貝類などの生態活動にもとづく移動、喪失を防止して収獲量を上げるとともに、環境保全を図った、養殖用ネット、その設置方法、その廃棄処理方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の養殖用ネットは、上記の目的を達成するために、ポリ乳酸繊維により構成され、網地目合が10mm〜30mmであり、交点強力が50N以上であるようにしたものである。
【0005】
本発明によれば、上記の養殖用ネットが、ラッセル網または無結節網であることが好適である。
本発明の養殖用ネットの設置方法は、上記の養殖用ネットを、養殖すべき貝類の存在する干潟または浅場に広げて固定するものである。
【0006】
本発明の養殖用ネットの廃棄処理方法は、上記の養殖用ネットを使用した後の使用済みネットを、加水分解および、または微生物処理により分解消失させるものである。
本発明によれば、上記において、温度と水分とpHとの調整機能を有するコンポスト化装置を用いて分解消失させることが好適である。
【0007】
すなわち、本発明の養殖用ネットは、貝類などの養殖場に使用され、所望の目的を達成したのちは廃棄される。生分解性を有するポリ乳酸繊維により構成されているため、廃棄する前に災害、事故等により紛失した場合でも、地球環境に負荷をかけることなく自然に消失し、COとHOに分解される。
【0008】
廃棄するためには、温度、水分、pHの調節機能を有するコンポスト化装置を準備し、このコンポスト化装置を海岸などに埋める等により設置し、藻類や貝類等の汚れ物質が付着したネットを投入して、短期間に分解、消失させて、海岸の自然に負荷を与えないように処理を行う。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の貝類などのための養殖用ネットは、生分解性を有するポリ乳酸繊維を主原料とするものである。このため、干潟や浅場での使用中は形態を保持するが、一定期間使用した後は加水分解と微生物による酵素分解とを行って自然に戻るという特徴を有している。生分解性を有している天然繊維からなるネットと比較して、必要な強度を有するにもかかわらず軽量であり、均一なネットを低コストで製造できる。しかも、天然繊維からなるネットと比較して、海辺の紫外線、オゾンに対して耐久性がある。たとえば、天然繊維からなるネットの場合は、3ヶ月程度で劣化し、所望の物性が得られなくなってしまう。
【0010】
本発明の養殖用ネットは、ラッセル網や、通常無結節網と称する無結節交差網や、有結節蛙又網などにより形成される。ラッセル網は公知のメリヤス編機で編み立てて作成する網である。有結節蛙又網は、交差部が結節を有し、その結節形状が蛙の又に似ている網である。無結節網は、通常無結節編網機を用いて糸に撚をかけながら交差を繰り返し菱目網を作って行くことにより得られる網である。
【0011】
目合いの大きさは、たとえば養殖しようとする貝の種類により異なる。一般に干潟、浅場にはマテガイ、ホッキガイ、アサリ、ハマグリ、モガイ、アカガイ、バカガイ等が生息しており、これらが養殖場から消失しないためには、すなわち網目を通過して逃げ出さないようにするためには、目合は10mm〜30mmの範囲にあるのが好ましい。この場合、目合いとは、ネット空間の経方向や緯方向の大きさをいう。本発明の養殖用ネットは、干潟、浅場での貝類の逃げ出しを防止するものであって、干潟での活動を防止するものではない。目合いが10mm以下であると、生育時に活動を妨げてしまう可能性がある。目合が30mmを越えると、成長した貝類が逃げ出し、収獲量が著しく減少する。なお、ネットを用いることで、野鳥などが貝を捕獲することによる鳥害を防止することができる。
【0012】
網の実用強度を確保するために、使用するポリ乳酸繊維の強度は3.0cN/dtex以上あるのが好ましく、マルチフィラメント、紡績糸(スパン糸)、モノフィラメントのいずれを用いてもよいが、編立性などよりマルチフィラメントが良い。その繊度は、280dtex〜1650dtexであれば、所望の強力やその他の物性を得ることができる。
【0013】
網地の物性は、設置時等の取扱性が良好であるとともに、潮の干満や波浪に耐えれば良く、特に目合いの交点が広がらないことが重要である。一般に網糸の部分よりも交点の方が強力が低いが、交点強力は50N以上であることが必要である。それ未満であると、人が乗って移動したり、波浪や潮の干満などを受けたりすることにより生じる摩擦で、繊維が切断するなどのおそれがある。本発明のネットの交点強力は、経方向と緯方向のいずれも50N以上であることが必要であり、100N以上であるのが好ましい。ただし、経方向と緯方向とで均等である必要はない。
【0014】
本発明においては、この交点強力は、JIS A8960の網糸の引っ張り強さ試験に準じて測定された強さによって表す。すなわち、JIS A8960の「網糸」に代えて「網糸どうしの交点」について測定を行う。詳細には、JIS A8960に準じて、交点を有した網糸を試験片として正しく上つかみに取り付け、この試験片に不自然なたるみがないようにこの試験片の他端を下つかみに取り付け、つかみ間隔20cm、引張速度20cm/minとして、直線の引っ張り強さの測定を行うことで、交点強力を求める。上記した以外は、JIS A8960に記載の通りの試験を行って測定する。なお、上記のように一般に網糸の部分よりもその交点の方が強力が低いため、このようにすることで交点の強力を求めることができる。
【0015】
上記構成によるネットを所望の大きさで角目仕立て、菱目仕立てを行い、干潟、浅場、水面上に拡げて配置し、複数のシートどうしを互いに接合することにより、広い面積を持つ養殖場を保護し、貝類を生育させることができる。必要に応じて、生分解性のある結束ひもを用いて接合を行うことができる。また、生分解性樹脂や、竹棒などの天然素材などからなる、生分解性のあるアンカー材を用いて、地盤への固定を行ったりする。
【0016】
すなわち本発明の生分解性を有した養殖ネットは、予め工場で規定寸法、例えば10m×30m程度に形成し、その中に縁ロープを通し、ネットと縁ロープとを細い撚糸を用いて一体化して角目仕立等に加工するものである。このネットを養殖現場に搬入し、広げて敷設し、アンカー材で地盤に固定する。必要によりポールを立てたり、フロートを取りつけたりして、設置範囲を明確にすることができる。場合により土嚢等を用いて仮設置することもできる。この場合、各部材共に生分解性樹脂原料(ポリ乳酸)からなることが好ましい。
【0017】
このように貝類や藻類などの養殖に使用され、所望の目的を達成した後、廃棄が必要となったネットの処理について説明する。使用済みのネットには、干潟、浅場に生息する微生物、貝類、藻類が付着している。このため、浜辺に放置すると分解し、硫化水素やメルカプタン等のガスを発生し、悪臭の原因となる。このほか、ネット類は巨大ゴミ、すなわち産業廃棄物となり、処理されないまま残ると、海浜の景観が著しくそこなわれる。しかしながら、本発明のネットはポリ乳酸繊維により構成されているため、温度と水分とpHの調整機能および必要により消臭機能を備えたコンポスト化装置を、海岸、浜辺等近くに埋設などの態様で設置し、使用済みネットを当該コンポスト化装置に投入して分解、消失することで、COとHOに変換して、自然に負荷を与えないように廃棄処理することができる。また、事故、災害等によりネットが流出した場合も、自然に分解して、自然界に存在する物質に変換されるので、環境にやさしいネット部材である。
【0018】
またポリ乳酸は、トウモロコシなどからつくられるデンプンや糖類を発酵させて得られる乳酸を原料として、乳酸の直接重合法、もしくは環化反応して得られたラクチドを重合する方法により製造される加水分解型の樹脂で、高分子量のポリ乳酸は、溶融紡糸、延伸して十分な強度を有する繊維材料とすることができる。必要により、原着糸も製造し使用することができる。そして、上述のように加水分解や微生物による酵素分解を起こし、分解された乳酸はCOとHOになる。
【0019】
[実施例]
相対粘度2.00のポリ乳酸からなる強度4.0cN/dtexのポリ乳酸繊維1100dtex/192filを6本用い、無結節編機によって、目合15mm、掛目100掛のネット網地を作成した。その網地の交点強力は120Nであった。そして、この網地を、10m×30mの大きさになるよう、縁ロープ(ポリ乳酸ロープ、直径6mm)およびかがり糸(ポリ乳酸撚糸、直径2.5mm)を用いて角目仕立てを行い、貝類養殖用ネットとした。このネットを養殖用干潟に広げて敷設し、アンカーピンを用いて固定した。また、10m×30mの網地どうしの結束は、直径3mmのポリ乳酸製ロープにて形成された結束ひもを用いて行った。
【0020】
1年間の実証実験を行った結果、ネットを使用しない所に比べて約150%の収獲量があった。ネットの目合は、敷設時と比べて、広がりなどの変化がなかった。実験後のネットの交点強力は90Nに低下していたが、取扱い上の問題はなかった。
【0021】
使用後のネットは、干潟の汚泥や生物がつき、異臭を発生するものであった。この網地を湿潤状態で集めハサミ等を用いて処理しやすい大きさに切断し、成和環境社製の生物系廃棄物コンポスト化(堆肥化)装置(商品名「ハースフレンドリー」、処理能力50kg/日)に投入し、温度58℃で3週間処理した。その結果、残渣はほとんどなく、十分に分解されていた。
【0022】
[比較例]
強度1.3cN/dtexの綿糸5番手(1100dtex相当)を8本用い、上記の実施例と同様に、無結節編機によって、目合15mm、掛目100掛のネット網地を作成した。その網地の交点強力は51Nであった。そして、この網地を、10m×30mの大きさになるよう、縁ロープ(綿ロープ、直径6mm)およびかがり糸(綿糸撚糸、直径2.5mm)を用いて角目仕立てを行い、比較例の貝類養殖用ネットとした。この比較例のネットを養殖用干潟に広げて敷設し、アンカーピンを用いて固定した。
【0023】
実証実験を行った結果、3ヶ月で、ネットの交点強力は、形状を保持し測定できるところで10〜20Nに低下していた。また、ネットの目合は広いものや狭いものが発生し、切断が発生した部分も数多くあった。このため、貝類養殖用として求められる性能すなわち収獲量が、ネットを使用しないところと変わらなかった。また交点強力の低下にともなって、ネットの一部分が分離して干潟に浮遊し、海辺の景観が損なわれた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸繊維により構成され、網地目合が10mm〜30mmであり、交点強力が50N以上であることを特徴とする養殖用ネット。
【請求項2】
ラッセル網または無結節網であることを特徴とする請求項1記載の養殖用ネット。
【請求項3】
請求項1または2に記載の養殖用ネットを、養殖すべき貝類の存在する干潟または浅場に広げて固定することを特徴とする養殖用ネットの設置方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の養殖用ネットを使用した後の使用済みネットを、加水分解および、または微生物処理により分解消失させることを特徴とする養殖用ネットの廃棄処理方法。
【請求項5】
温度と水分とpHとの調整機能を有するコンポスト化装置を用いて分解消失させることを特徴とする請求項4記載の養殖用ネットの廃棄処理方法。