説明

香料組成物

【課題】 グレープフルーツ特有のフレッシュ感が強調されたより天然感が感じられる、グレープフルーツ香味の飲食品用香料組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 グレープフルーツ香味の飲食品に、3−メルカプトヘキサナールを含有する香料組成物を配合するとグレープフルーツ特有のフレッシュ感や天然感が一層強調された香気香味を付与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グレープフルーツ香味の飲食品用の香料として使用可能な香料組成物に関する。詳しくは特定の香気成分を含有することにより天然感など特有の香気香味を付与することができる香料組成物に関する。
ここで、グレープフルーツ香味の飲食品、すなわちグレープフルーツの香りや味を有する飲食品とは、天然(例えばグレープフルーツ由来)又は人工の香味剤によってグレープフルーツの特有の香りや味覚が付与されたグレープフルーツ風味の飲料(グレープフルーツ天然果汁を含む)やグレープフルーツ風味の加工食品全般を総称する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の嗜好性が多様化してきていることに伴い、各種各様の商品の開発が望まれている。特に、飲食品業界はこの傾向が強く、消費者の嗜好に合うバラエティーに富んだ飲食品の開発が強く要求されている。
これらの要求に対して、飲食品のひとつの原料素材である香料においても、従来にない新しい要望が高まっている。
香料物質に対しては、特に、特徴があること、嗜好性の高いユニークな香気香味を有すること、より自然で天然感の香気香味の表現に優れた効果を有することなどが要求されている。
そのため、それらの要件を併せもった香料素材を開発することが、香料産業において極めて重要な課題となっている。
【0003】
硫黄化合物には、閾値が低く、特徴のあるにおいを有するものがあり、フルーツやその他の食品などの重要な成分として知られているものが多い。例えば、3−メルカプト−3−メチルブチルフォーメートは焙煎したコーヒーの重要成分として(非特許文献1)、4−メチル−4−メルカプト−2−ペンタノンはグレープフルーツ果汁の重要成分として知られている(非特許文献2)。
また、3−メルカプト−1−ヘキサノールについては、極微量使用することで、熟成感を伴った深みのある香ばしい茶葉のグリーン香が得られることが報告されている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、消費者の嗜好性は急速に多様化しており、上述した従来から知られている香料物質だけでは、消費者のニーズに対応できるようなバラエティーに富んだグレープフルーツ香味の飲食品を提供し、さらに、年々高まる消費者の天然志向にマッチした、自然で天然感のある香気香味が付与された飲料の要望に十分に対応できるものではなかった。
【0005】
一方、3−メルカプトヘキサナールについては、食品、飼料、飲料、製薬的調剤およびタバコ製品の官能特性を改良、強調することが知られている(特許文献2)。しかし、グレープフルーツの成分としては未だ報告されておらず、ましてや香料としてグレープフルーツ風味飲食品、グレープフルーツ果汁飲料あるいはグレープフルーツ風味飲料に利用することとして研究されたことのない成分である。
【非特許文献1】Cafe Cacao The 1990, 34, 205.
【非特許文献2】J. Agric. Food Chem. 1999, 47, 5189.
【特許文献1】特開2002−136259公報
【特許文献2】特開昭49−132252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、多様化する消費者のニーズに対応できるようなバラエティーに富んだ、かつ消費者の天然志向にマッチした、自然で天然感のある香気香味を付与することができるグレープフルーツ香味の飲食品用の香料組成物、並びにかかる香料組成物を配合したグレープフルーツ香味の飲食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは3−メルカプトヘキサナールの香気香味特性について詳細に検討したところ、シトラス様のウッディーな香気香味特性を有することを見出し、さらに本発明者らは3−メルカプトヘキサナールを調合香料に含有させることにより、極めて自然で天然感のある香気香味を付与できるグレープフルーツ香味の飲食品用の香料組成物の提供が可能になるという新たな事実を見出し本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、3−メルカプトヘキサナールを含有することを特徴とするグレープフルーツ香味の飲食品用香料組成物である。また、かかる香料組成物において、3−メルカプトヘキサナールの含有量が0.000001(10ppb)〜0.1質量%であることを特徴とする。
さらに、本発明は上記香料組成物を配合したグレープフルーツ香味飲食品、グレープフルーツ果汁飲料およびグレープフルーツ風味飲料である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の香料組成物をグレープフルーツ香味の飲食品に使用した場合、グレープフルーツ特有のフレッシュ感が顕著に強調され、より一層の天然感が感じられる飲食品を消費者に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明を実施の形態に即して詳細に説明する。
本発明で使用する3−メルカプトヘキサナールは下記式(1)で表される化合物である。
【化1】

【0011】
上記の3−メルカプトヘキサナールは、例えば2−ヘキセナールを原料として、文献(例えば、J. Agric. Food Chem., Vol.51, No.15, 4349(2003)、Helv. Chim. Acta, Vol.59, Fasc.5, 1621(1976))に記載された方法で合成することができる。
また、市販品(例えば、Acros Organics社製品、Lancaster Synthesis社製品)を使用することも可能である。
【0012】
本発明の有効成分である3−メルカプトヘキサナールは単独で用いることもできる他、他の香料素材と任意の割合で混合物として用いることもできる。
3−メルカプトヘキサナールを香料組成物に用いる場合の添加量は、その目的あるいは香料組成物の種類によって異なるものの、一般的には、香料組成物全体量の0.000000001(10ppt)〜10質量%、好ましくは0.000001(10ppb)〜0.1質量%の範囲内を例示することができる。
【0013】
本発明の香料組成物に配合される他の成分としては、特に制限は無く、用途や目的に応じて従来から使用されていた種々の香料素材が使用可能であり、具体的にはアルデヒド類、アルコール類、エステル類等の従来公知の香料素材を例示することができる。
【0014】
本発明の香味料組成物は、果実飲料、酒類、乳飲料類、炭酸飲料類のような飲料類;アイスクリーム類、シャーベット類、アイスキャンディー類のような冷菓類;ヨーグルト類、チーズ類のような発酵乳製品;和洋菓子類、焼菓子類、ジャム類、チューインガム類、パン類;プリン類、ゼリー類、ババロア類、ムース類のようなデザート類;各種インスタント飲料乃至食品類、各種スナック食品類などに添加することにより、そのユニークかつ天然感のある香気香味が付与された飲食品を提供することができる。
【0015】
本発明の香料組成物の飲食品への添加量は、飲食品の種類によっても異なるが、一般的には飲食品中の3−メルカプトヘキサナールの濃度が0.000000000001(0.01ppt)〜0.01質量%、好ましくは0.000000001質量%(0.01ppb)〜0.0001質量%となるように添加すると、飲食品に自然で天然感のある香気香味を付与することができる。
【実施例】
【0016】
次に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
[参考例]
トランス−2−ヘキセナール147.0gとトリエチルアミン1.0gを混合し、この混合液に30℃以下にてチオ酢酸228.0gを滴下した。滴下終了後30℃にてさらに3時間反応させた。反応粗油を単蒸留することによって3−アセチルチオヘキサナール260.0gを得た。
3−アセチルチオヘキサナール70.0gをジエチルエーテル500mlに溶解させた後、5%炭酸カリウム水溶液で処理することにより加水分解を行った。反応終了後エーテル層を分離し、希塩酸、次いで炭酸水素ナトリウム水溶液、最後に飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムにて乾燥した。エーテルを留去した後、精留することにより3−メルカプトヘキサナール60.0gを得た。
【0017】
[実施例1]
下記表1の処方に従って、各成分を常法により混合して本発明の香料組成物1を調製した。なお、3−メルカプトヘキサナールは上記参考例で合成したものを使用した。
【0018】
【表1】

【0019】
[比較例1]
実施例1の3−メルカプトヘキサナールの代わりにエチルアルコールを配合して香料組成物2を得た。
【0020】
[実施例2]
砂糖60質量部、水あめ40質量部、水35質量部を合わせて155℃まで加熱した後、130℃まで冷却し、1/6グレープフルーツ混濁果汁5質量部、実施例1で調製した香料組成物1を0.2質量部添加し、混合、成型し、グレープフルーツハードキャンディーを調製した。
評価のため試食したところ、香り立ちが増し、よりグレープフルーツ感やフレッシュ感が強く感じられ、天然感が増したグレープフルーツハードキャンディーであった。
【0021】
[実施例3]
水に果糖ブドウ糖液糖10質量部を撹拌しながら、砂糖5質量部、ゲル化剤1質量部を加え、85℃まで加温し、1/6グレープフルーツ混濁果汁3質量部を添加し、撹拌し、溶解した。更に、実施例1で調製した香料組成物1を0.1質量部を添加し、全量を100質量部に補正後、85℃、20分間殺菌してグレープフルーツゼリーを調製した。
評価のため試食したところ、香り立ちが増し、よりグレープフルーツ感やフレッシュ感が強く感じられ、天然感が増したグレープフルーツゼリーであった。
【0022】
[実施例4]
下記表2の処方に従い、常法により本発明のグレープフルーツ果汁飲料1を調製した。
【0023】
【表2】

【0024】
[比較例2]
下記表3の処方に従い、常法によりグレープフルーツ果汁飲料2を調製した。
【0025】
【表3】

【0026】
[試験例1]
グレープフルーツ果汁飲料1および2の2種類のジュースについて10名の専門パネラーにより香気香味を7段階で評価した。その結果、専門パネラーの全員が本発明品の果汁飲料1(すなわち3−メルカプトヘキサナールを含有する香料組成物1を配合したもの)の方が、香り立ちが増し、よりグレープフルーツ感やフレッシュ感が強く感じられ、天然感が増したと評価した。その詳細を表4に示した。
【0027】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
3−メルカプトヘキサナールを含有することを特徴とするグレープフルーツ香味の飲食品用香料組成物。
【請求項2】
3−メルカプトヘキサナールの含有量が0.000001(10ppb)〜0.1質量%である請求項1記載の香料組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の香料組成物を配合したことを特徴とするグレープフルーツ香味飲食品。
【請求項4】
請求項1又は2記載の香料組成物を配合したことを特徴とするグレープフルーツ果汁飲料およびグレープフルーツ風味飲料。

【公開番号】特開2008−99596(P2008−99596A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−284443(P2006−284443)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(591011410)小川香料株式会社 (173)
【Fターム(参考)】