説明

香気成分バリア性フィルム、並びにそれを用いた香気成分バリア性多層フィルム、香気成分バリア性容器及び香気成分バリア性の向上方法

【課題】香気成分に対するバリア性が十分に高く、特に高湿度条件下においても保香性に優れた香気成分バリア性フィルムを提供すること。
【解決手段】 ポリグリコール酸系樹脂を含有することを特徴とする香気成分バリア性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香気成分バリア性フィルム、並びにそれを用いた香気成分バリア性多層フィルム、香気成分バリア性容器及び香気成分バリア性の向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
香気成分を有する食品類、飲料類、化粧水等を包装するものとして、従来より、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、MXナイロン等の樹脂材料が利用されてきた。
【0003】
しかし、これら樹脂材料は、透明性、強度、成形加工性、耐熱性等の点においては優れているものの、保香性の点では必ずしも十分なものではなく、ポリビニルアルコール、MXナイロン等は特に高湿度条件下では香気成分に対するバリア性が低下してしまうという問題があった。
【0004】
一方、特開2004−299203号公報(特許文献1)等には、アルミニウム箔等の金属酸化物を蒸着したポリエチレンテレフタレートフィルムを利用することで、保香性が向上することが開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1等に記載のアルミニウム蒸着フィルムはコストが高く、またリサイクル性がないため、廃棄物処理が困難であるという問題があった。
【0006】
そのため、香気成分に対するバリア性が十分に高く、特に高湿度条件下においても保香性に優れたフィルムやそれを用いた容器の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−299203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、香気成分に対するバリア性が十分に高く、特に高湿度条件下においても保香性に優れた香気成分バリア性フィルム、並びにそれを用いた香気成分バリア性多層フィルム、香気成分バリア性容器及び香気成分バリア性の向上方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリグリコール酸系樹脂を含有するフィルムは、驚くべきことに香気成分に対するバリア性が十分に高く、特に高湿度条件下においても保香性に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の香気成分バリア性フィルムは、ポリグリコール酸系樹脂を含有することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の香気成分バリア性フィルムとしては、香気成分としての酢酸エチル、シクロヘキサン及び2−プロパノールに対する温度30℃、相対湿度0%における香気成分透過度がそれぞれ1.0(μg・10μm)/(m・day・kPa)未満のものであることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明の香気成分バリア性フィルムとしては、香気成分としての酢酸エチル、シクロヘキサン及び2−プロパノールに対する温度30℃、相対湿度100%における香気成分透過度がそれぞれ1.0(μg・10μm)/(m・day・kPa)未満のものであることが好ましい。
【0013】
本発明の香気成分バリア性多層フィルムは、前記本発明の香気成分バリア性フィルムを備えることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の香気成分バリア性容器は、前記本発明の香気成分バリア性多層フィルムを成形してなるものであることを特徴とするものである。
【0015】
さらに、本発明の香気成分バリア性の向上方法は、前記本発明の香気成分バリア性フィルムを用いることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、香気成分に対するバリア性が十分に高く、特に高湿度条件下においても保香性に優れている香気成分バリア性フィルム、並びにそれを用いた香気成分バリア性多層フィルム、香気成分バリア性容器及び香気成分バリア性の向上方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】香気成分透過量を測定するために用いる試験器の構成を示す概略図である。
【図2】PGAフィルム及びPETフィルムのd−リモネンに対する透過度の経日変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0019】
本発明の香気成分バリア性フィルムは、ポリグリコール酸系樹脂を含有することを特徴とするものである。
【0020】
先ず、本発明の香気成分バリア性フィルムに用いるポリグリコール酸系樹脂(以下、「PGA系樹脂」という。)について説明する。
【0021】
本発明に用いられるPGA系樹脂としては、下記式(1):
−[O−CH−C(=O)]− (1)
で表されるグリコール酸繰り返し単位のみからなるグリコール酸の単独重合体(以下、「PGA単独重合体」という。グリコール酸の2分子間環状エステルであるグリコリドの開環重合体を含む。)、前記グリコール酸繰り返し単位を含むポリグリコール酸共重合体(以下、「PGA共重合体」という。)等が挙げられる。このようなPGA系樹脂は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0022】
前記PGA共重合体を製造する際に、グリコール酸モノマーとともに使用されるコポリマーとしては、シュウ酸エチレン(すなわち、1,4−ジオキサン−2,3−ジオン)、ラクチド類、ラクトン類(例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、β−ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン)、カーボネート類(例えば、トリメチレンカーボネート)、エーテル類(例えば、1,3−ジオキサン)、エーテルエステル類(例えば、ジオキサノン)、アミド類(例えば、ε−カプロラクタム)等の環状モノマー;乳酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸等のヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル;エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類と、こはく酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸類またはそのアルキルエステル類との実質的に等モルの混合物を挙げることができる。これらのコポリマーは、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。このようなコポリマーのうち、耐熱性の観点からヒドロキシカルボン酸が好ましい。
【0023】
また、前記PGA系樹脂をグリコリドの開環重合によって製造する場合に使用する触媒としては、ハロゲン化スズ、有機カルボン酸スズ等のスズ系化合物;アルコキシチタネート等のチタン系化合物;アルコキシアルミニウム等のアルミニウム系化合物;ジルコニウムアセチルアセトン等のジルコニウム系化合物;ハロゲン化アンチモン、酸化アンチモン等のアンチモン系化合物といった公知の開環重合触媒が挙げられる。
【0024】
前記PGA系樹脂は従来公知の重合方法により製造することができるが、その重合温度としては、120〜300℃が好ましく、130〜250℃がより好ましい。重合温度が前記下限未満になると重合が十分に進行しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると生成した樹脂が熱分解する傾向にある。
【0025】
また、前記PGA系樹脂の重合時間としては、2分間〜50時間が好ましく、3分間〜30時間がより好ましい。重合時間が前記下限未満になると重合が十分に進行しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると生成した樹脂が着色する傾向にある。
【0026】
本発明の香気成分バリア性フィルムに用いるPGA系樹脂において、前記式(1)で表されるグリコール酸繰り返し単位の含有量としては、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。グリコール酸繰り返し単位の含有量が前記下限未満になると耐熱性や香気成分バリア性が低下する傾向にある。
【0027】
前記PGA系樹脂の重量平均分子量としては、3万〜80万が好ましく、5万〜50万がより好ましい。PGA系樹脂の重量平均分子量が前記下限未満になると後述のフィルム等の機械強度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると後述の溶融押出や成形加工等が困難となる傾向にある。なお、前記重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定したポリメチルメタクリレート換算値である。
【0028】
また、前記PGA系樹脂の溶融粘度(温度:240℃、剪断速度:100sec−1)としては、100〜10000Pa・sが好ましく、300〜8000Pa・sがより好ましい。溶融粘度が前記下限未満になると後述のフィルム等の機械的強度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると後述の溶融押出や成形加工等が困難となる傾向にある。
【0029】
本発明においては、前記PGA系樹脂をそのまま使用してもよいし、必要に応じて熱安定剤、末端封止剤、可塑剤、熱線吸収剤等の各種添加剤や他の熱可塑性樹脂を添加して使用してもよい。
【0030】
本発明で用いることが可能な熱安定剤としては、添加することにより、PGA系樹脂の溶解安定性が改善され、溶解粘度の変動や熱分解が生じ難くなるものであれば良く、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシル)ホスファイト等のペンタエリスリトール骨格構造を有するリン酸エステル;モノ−またはジ−ステアリルアシッドホスフェートあるいはこれらの混合物等のアルキル基(好ましくは炭素数8〜24)を有するリン酸アルキルエステルまたは亜リン酸アルキルエステル;炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム等の炭酸金属塩;ビス[2−(2−ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジン]ドデカン酸、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン等の−CONHNH−CO−単位を有するヒドラジン系化合物;3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール系化合物;トリアジン系化合物等が挙げられる。これらの熱安定剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0031】
本発明において、このような熱安定剤の添加量は、PGA系樹脂100質量部に対して0.016質量部以上が好ましい。熱安定剤の添加量が前記下限未満になると成形する際の熱履歴によって後述の多層フィルム等の耐水性が低下し、また、長く保管している間にデラミネーションが発生する傾向にある。一方、熱安定剤の添加量の上限としては特に制限はないが、PGA系樹脂100質量部に対して10質量部以下が好ましい。熱安定剤を前記上限を超えて添加しても熱安定性が飽和して添加量が増加した分の効果が得られにくく、また、成形加工における滑性制御性が低下する傾向や後述のフィルム等の透明性が低下する傾向がある。
【0032】
本発明で用いることが可能な末端封止剤としては、添加することにより、ポリグリコール酸のカルボキシ末端を封止することができるものであれば良く、N,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド等のモノカルボジイミドおよびポリカルボジイミド化合物を含むカルボジイミド化合物;2,2’−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2−フェニル−2−オキサゾリン、スチレン・イソプロペニル−2−オキサゾリン等のオキサゾリン化合物;2−メトキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン等のオキサジン化合物;N−グリシジルフタルイミド、シクロへキセンオキシド、トリグリシジルイソシアヌレート等のエポキシ化合物等が挙げられる。これらの末端封止剤は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0033】
本発明において、このような末端封止剤の添加量は、ポリグリコール酸のカルボキシ末端を十分に封止するという観点から、PGA系樹脂100質量部に対して0.01〜10質量部が好ましい。
【0034】
また、前記PGA系樹脂の混合方法は特に制限されず、例えば、撹拌機、連続式混練機、押出機等を利用した溶解混練方法が挙げられる。
【0035】
加えて、PGA系樹脂中のグリコリド含有量を低減させることができ、耐水性の低下を抑制することが可能となるという点から、溶解混練後冷却した後に更に加熱処理を施すことが好ましい。
【0036】
次に、本発明の香気成分バリア性フィルムについて説明する。本発明の香気成分バリア性フィルムは、前記PGA系樹脂を含有することを特徴とするものであり、その態様としては延伸フィルムや熱収縮性フィルムが好ましい。
【0037】
本発明の香気成分バリア性フィルムからなる延伸フィルムは、前記PGA系樹脂からなるペレットをプレス成形又は溶融押出成形等することによりシートを作製し、得られたシートを冷却しながら延伸するか、あるいは冷却後、必要に応じて再加熱して延伸し、次いで、必要に応じて熱処理を行うことにより製造される。延伸法としては、ロール法、テンター法、またはこれらの方法を組み合わせて、前記シートを一軸延伸、逐次二軸延伸、または同時二軸延伸する方法が挙げられる。この際、必要に応じて得られたフィルムを熱固定してもよい。また、サーキュラーダイを用いて、インフレーション法により二軸延伸する方法を採用することもできる。
【0038】
本発明の香気成分バリア性フィルムからなる熱収縮性フィルムは、前記延伸フィルムを熱固定しないか、あるいは熱固定条件を調整することにより製造することができる。
【0039】
本発明の香気成分バリア性フィルムとしては、未延伸フィルムより、フィルム強度、光学的特性、香気成分バリア性等の点から延伸フィルムである方が好ましく、面積倍率が4〜20倍である延伸フィルムがより好ましい。面積倍率が前記下限未満だとフィルムの白化現象が生じやすく透明性が低下する傾向にある。他方、面積倍率が前記上限を超えると、フィルム強度、香気成分バリア性等が低下する傾向にある。なお、面積倍率とは一軸延伸倍率と二軸延伸倍率との積で表わされる数値のことをいう。
【0040】
また、本発明の香気成分バリア性フィルムにおいては、香気成分としての酢酸エチル、シクロヘキサン及び2−プロパノールに対する温度30℃、相対湿度0%における香気成分透過度は、それぞれ1.0(μg・10μm)/(m・day・kPa)未満であることが好ましい。
【0041】
さらに、本発明の香気成分バリア性フィルムにおいては、香気成分としての酢酸エチル、シクロヘキサン及び2−プロパノールに対する温度30℃、相対湿度100%における香気成分透過度は、それぞれ1.0(μg・10μm)/(m・day・kPa)未満であることが好ましい。
【0042】
前記各相対湿度における透過度の上限を超える香気成分バリア性フィルムでは、内容物を包装した場合、内容物の香気成分に対する保香性が不充分となるおそれがある。
【0043】
前記本発明の香気成分バリア性フィルムの香気成分透過度は、下記式に基づいて求めるものである。
【0044】
香気成分透過度
=(香気成分透過量(μg)・フィルムの厚さ(10μm))/(透過面積(m)・分圧差(kPa)・時間(day))。
【0045】
式中の「香気成分透過量(μg)」は図1に示す試験器(以下、「香気成分透過量測定器」という)にて測定される後述の定常値のことである。また、「フィルムの厚さ」とは後述のフィルム4の厚さのことであり、「透過面積(m)」とは後述の香気成分2が透過する部分のフィルム4における面積のことであり、「分圧差(kPa)」とは後述の測定用セル下層1b内の香気成分の蒸気圧と測定用セル上層1a内の香気成分の蒸気圧との差のことであり、「時間(day)」とは単位時間(1日)のことである。
【0046】
以下に香気成分透過量測定器の概略と香気成分透過量の測定方法を説明する。
【0047】
図1に示す測定用セル1としては、下層1bの容積が100cmであり、上層1aの容積が10cmであるセルを用い、前記セルの下層1bには香気成分2として酢酸エチル、シクロヘキサン、2−プロパノールのうちのいずれか一種を10ml入れ、上層には乾燥空気3を10ml/minで流し、上層と下層の間にはフィルム4として前記本発明の香気成分バリア性フィルムを挟む。そして、前記測定用セル1を30℃に設定した恒温槽5に入れ、1日ごとに上層から流れ出る乾燥空気及び香気成分をガスタイトシリンジ6で抜き取り、その乾燥空気中の香気成分の量を、例えば、ガスクロマトグラフィ質量分析計(以下、「GC/MS」という)を用いて測定し、前日の値との差がその日の測定値の1%以内の範囲におさまる(定常状態になる)まで、温度30℃、相対湿度0%条件下にて測定を継続する。このようにして得られた測定値(定常値)が前記式中の「香気成分透過量」であり、前記式に代入することで、前記本発明の香気成分バリア性フィルムの温度30℃、相対湿度100%における香気成分透過度が算出される。
【0048】
なお、前記測定後には、ガスタイトシリンジ6内に残存する香気成分を除去し、常に測定値に影響を及ぼさないようにするという点から、例えば、プランジャーを抜いたガスタイトシリンジ6を250℃に加熱したニードルヒーターに刺し、窒素ガスを0.1MPaで20分間、流すといった加熱洗浄を毎測定後に行うことが好ましい。
【0049】
また、温度30℃、相対湿度100%における前記本発明の香気成分バリア性フィルムの香気成分透過度は、例えば前記測定用セル1内のフィルム4の上層、下層の両側に水で濡らしたスポンジを更に入れた条件下で測定した香気成分透過量に基づいて算出される。
【0050】
次に、本発明の香気成分バリア性多層フィルムについて説明する。本発明の香気成分バリア性多層フィルムは2層以上であって、前記香気成分バリア性フィルムとそれに隣接する他の層とを備えるものであれば特に制限はない。前記香気成分バリア性フィルムに隣接する他の層としては、熱可塑性樹脂からなる層、紙からなる層、接着剤からなる層等が挙げられる。
【0051】
前記熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ乳酸といったポリエステル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体といったポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、スチレン・ブタジエン共重合体といったポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エチレン・ビニルアルコール系樹脂、(メタ)アクリル酸系樹脂、ナイロン系樹脂、スルフィド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。中でも、用途に応じた所望の透明性および香気成分バリア性をともに満足する多層フィルムが得られるという観点から、ポリエステル系樹脂が好ましく、ジオール成分とジカルボン酸成分の少なくとも一方が芳香族化合物である芳香族ポリエステル系樹脂がより好ましく、芳香族ジカルボン酸から得られた芳香族ポリエステル系樹脂、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)が特に好ましい。
【0052】
このような香気成分バリア性多層フィルムにおいて、前記PGA系樹脂の含有率としては、質量基準で1〜10%が好ましい。前記PGA系樹脂の含有率が前記下限未満になると多層フィルムの香気成分バリア性が低下する傾向にある。他方、前記上限を超えると多層フィルムの透明性が低下する傾向にある。
【0053】
多層フィルムの製造方法としては、共押出法、ドライラミネート法、押出ラミネート法、インフレーション法等が挙げられる。
【0054】
次に、本発明の香気成分バリア性容器について説明する。本発明の香気成分バリア性容器は、前記香気成分バリア性多層フィルムを成形してなるものものであれば特に制限はない。
【0055】
容器の強度保持や成形加工性等の点から、本発明の香気成分バリア性容器は、少なくとも1層の前記香気成分バリア性フィルム(PGA系樹脂層)が中間層として配置され、前記熱可塑性樹脂からなる層(熱可塑性樹脂層)が内外層として配置された層構成を有するものであることが好ましく、熱可塑性芳香族ポリエステルを含有する樹脂層中に、少なくとも1層の前記香気成分バリア性フィルムを中間層として含有する多層ブロー成形容器(ブロー成形ボトル)であることがより好ましい。多層ブロー成形容器は、具体的に「PET/PGA/PET」の層構成を有するものが好ましいが、これに限定されない。
【0056】
また、本発明の香気成分バリア性容器は、所望により、各層間に接着剤層を介在させることができる。多層ブロー成形容器の場合には、耐熱性や成形加工性の観点から、熱可塑性樹脂層と前記香気成分バリア性フィルムとの間に接着剤層を介在させないものが好ましい。
【0057】
本発明の香気成分バリア性容器は、共射出した多層プリフォームの延伸ブロー成形法、共押出した多層プリフォーム(多層パリソン)のダイレクトブロー成形法等により製造することができる。
【0058】
共射出延伸ブロー成形法により容器を作製する場合には、例えば、PGA系樹脂と熱可塑性樹脂とを共射出して有底の多層プリフォームを形成し、次いで、この多層プリフォームを延伸ブロー成形して多層ブロー成形容器を製造することが挙げられる。
【0059】
多層プリフォームの製造工程では、複数台の射出シリンダを備えた成型機を用いて、単一のプリフォーム用金型のキャビティ内に、一回の型締め動作で、1つのゲートを通して溶融した各樹脂を共射出する。共射出成形法により、例えば、内外層が熱可塑性樹脂層であり、PGA系樹脂層からなる中間層が熱可塑性樹脂層の中に埋め込まれており、開口端部が熱可塑性樹脂層のみからなり、胴部が3層構成を有する有底の多層プリフォームを得ることができる。
【0060】
共射出成形における射出温度(ホットランナー温度)の設定は、射出温度が低すぎると、射出される樹脂の溶融流動性が悪くなる傾向にあり、他方、射出温度が高すぎると、射出成形機内に滞留する樹脂の熱分解が生じやすくなる傾向にある。その為、PGA系樹脂を射出するライン及びバレルにおいては通常200〜310℃であり、230〜300℃であることが好ましく、他の熱可塑性樹脂を射出するライン及びバレルにおいては通常265〜300℃であり、270〜295℃であることが好ましい。
【0061】
延伸ブロー成形工程では、前記多層プリフォームを延伸可能な温度に調整した後、ブロー成形用金型のキャビティ内に挿入し、空気等の加圧流体を吹き込んで延伸ブロー成形を行なう。延伸ブロー成形は、ホットパリソン方式またはコールドパリソン方式のいずれかの方式により行うことができ、温度制御の観点から、コールドパリソン方式が好ましい。ここで、パリソンとは、プリフォームを意味している。
【0062】
例えば、コールドパリソン方式により、熱可塑性樹脂層を外層と内層とし、PGA系樹脂層を中間層とする多層プリフォームを延伸ブロー成形するには、先ず、多層プリフォームを赤外線ヒーター等で十分軟化するまで加熱する。この加熱工程で熱可塑性樹脂層は非晶状態を保ったまま軟化するが、PGA系樹脂層は結晶化して白化する。この時、PGA系樹脂層の結晶化が不均一であると、延伸ブロー成形後のPGA系樹脂層の厚み斑が大きくなったり、欠陥が生じやすくなったりするため、PGA系樹脂層を均一に結晶化させる必要がある。
【0063】
PGA系樹脂層を均一に結晶化させるには、多層プリフォーム温度が90℃以上の温度になるように加熱することが好ましい。より詳しくは、多層プリフォームの長さ方向の中央部の熱可塑性樹脂層(外層)の表面温度が90〜110℃になるようにヒーターパワーと加熱時間を調整する。ただし、多層プリフォームの口部(サポートリングのある箇所)近辺の温度は、延伸ブロー成形時の変形を避けるために、中央部の表面温度よりも10〜30℃低くなるように設定することが好ましい。口部近辺(サポートリング)の温度を低くすると、その部分でのPGA系樹脂層の延伸性が低下して、ボイドや亀裂が生じやすいが、サポートリング下2cmの位置における横方向の延伸倍率(ボトル成形後のサポートリング下2cmにおける外径/多層プリフォームのサポートリング下2cmにおける外径)が2倍以下になるように、多層プリフォームとボトルのサイズを設定すれば、口部周辺のボイドや亀裂の発生を抑えることができる。ここで、サポートリングとは、共射出成形時及び延伸ブロー成形時に、多層プリフォーム及び多層ブロー成形容器の口部を保持するリングを意味する。
【0064】
予備加熱後、延伸温度に加熱された有底の多層プリフォーム内に圧縮空気等の加圧流体を吹き込んで膨脹延伸させる。
【0065】
熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂がポリエチレンテレフタレート(PET)等の場合、そのガラス転移温度以上、結晶化温度以下の温度範囲、好ましくは80〜170℃の温度で、多層プリフォームに圧縮空気を吹き込み、その際、延伸ロッドを挿入して、多層プリフォームを軸(縦)方向及び周(横)方向に二軸延伸させる。芯層のポリグリコール酸のガラス転移温度は、約38℃であり、内外層の熱可塑性ポリエステル樹脂の延伸に追従して容易に延伸する。
【0066】
特に熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂としてポリエチレンテレフタレート(PET)等を用いる場合には、熱固定を行うことが、耐熱性を向上させる上で望ましい。
【0067】
本発明の香気成分ガスバリア性容器は、前記共射出延伸ブロー成形法だけではなく、ダイレクトブロー成形法等の公知のボトル成形法によって作製することもできる。また、PGA系樹脂層の数も、1層だけでなく2層以上とすることもできる。
【0068】
次に、本発明の香気成分バリア性の向上方法について説明する。本発明の香気成分バリア性の向上方法は、前記香気成分バリア性フィルムを用いることを特徴とする方法である。
【0069】
このような香気成分バリア性の向上方法としては、例えば、公知の包装用フィルム、公知のシート、若しくは公知の容器等を前記香気成分バリア性フィルム若しくは前記香気成分バリア性多層フィルムで包む方法、公知の包装用フィルム、公知のシート、若しくは公知の容器に前記香気成分バリア性フィルムを付加する方法、又は公知の包装用フィルム、公知のシート、若しくは公知の容器を前記香気成分バリア性容器に中に入れる方法が挙げられる。
【実施例】
【0070】
以下、合成例、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
(合成例1)
<PGA系樹脂組成物の合成>
国際公開第2007/086563号に記載の方法に従って、原料モノマーとして高純度グリコリド((株)クレハ製)を、開始剤として1−ドデカノールをグリコリドに対して0.2モル%となるように、触媒として二塩化スズをグリコリドに対して30ppmとなるように反応機に仕込み、200〜210℃に制御しながら平均滞留時間20分で連続的に重合した。得られた重合物を粒子形状で取り出し、これを、さらに窒素雰囲気下で撹拌しながら170℃で3時間固相重合を行なった。その結果、最終的な重合反応率は99%以上となり、融点が222℃、重量平均分子量が20万、多分散度(=重量平均分子量/数平均分子量)が2.0の粉粒状のPGA系樹脂が得られた。次に、得られたPGA系樹脂を二軸混練押出機(東芝機械(株)製「TEM41SS」)に連続的に供給した。押出機のシリンダーの最高温度が275℃となるように制御し、このとき、熱安定剤(旭電化工業(株)製「アデカスタブAX−71」)をPGA系樹脂100質量部に対して0.020質量部の割合で、末端封止剤としてN,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(川口化学工業(株)製「DIPC」)をPGA系樹脂100質量部に対して0.3質量部の割合で溶融状態で連続的に供給し、溶融混練した。押出機のダイスから吐出したストランドを冷却し、ペレタイザーを用いて切断し、ペレット状のPGA系樹脂組成物を得た。更に得られたペレットを170℃で17時間熱処理し、グリコリド含有量を0.1質量%以下、結晶化温度を134℃にした。
【0072】
(実施例1)
合成例1で得られたペレット状のPGA系樹脂組成物を、圧縮成形機(神藤金属工業所(株)製「ASYR5」)に投入し、予熱3分後、温度270℃、圧力100kg・f/cmで3分間プレス成形し、厚み200μmの未延伸シートを得た。得られた未延伸シートを、二軸延伸装置(東洋精機(株)製)を用いてテンター法により、60℃の予熱を30秒かけ、延伸速度7m/minの条件で、4倍×4倍の同時二軸延伸を行った後、120℃で2分間の熱処理を行い、厚さ15μmのPGAフィルム(以下、「PGAフィルム(同時二軸延伸)」という。)を得た。
【0073】
(比較例1)
ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂(遠東紡社製、商品名:CB602S)を温度280℃にて溶融し、押出機(株式会社プラ技研社製)及びTダイ(株式会社プラ技研社製)を用いて未延伸シートとして押出し、40℃の冷却ドラム上で冷却し、製膜速度4m/minで厚み120μmの未延伸シートを得た。得られた未延伸シートを二軸延伸装置(株式会社東洋精機製作所社製)を用いてテンター法により、温度100℃、延伸速度7m/minの条件で、3倍×3倍の同時二軸延伸を行った後、150℃で2分間の熱処理をを行い、厚さ15μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、「PETフィルム(同時二軸延伸)」という。)を得た。
【0074】
<d−リモネンを用いた官能評価による保香性評価>
まず、セパラブルフラスコ下層部(容積:300cm)にd−リモネン(和光純薬工業株式会社製、一級)を10ml入れ、実施例1で得られたPGAフィルム(同時二軸延伸)又は比較例1で得られたPETフィルム(同時二軸延伸)で覆い、更にその上にセパラブルフラスコの上層部(容積:170cm)を取り付け、温度30℃の条件下で保存した。保存してから3日後、1週間後、2週間後に、セパラブルフラスコ上層部の共栓部を開け、出てくる空気をパネラー3人が鼻で嗅ぎ、d−リモネンのにおいを鼻で感じない場合は1点、若干感じる場合は2点、しっかりと感じる場合は3点と三段階で各々評価した。この評価を3回繰り返し、パネラー3人による3回の結果の平均値を算出し、その値を前記PGAフィルムの香気成分d−リモネンに対する透過度(点数)とした。得られた結果を図2に示す。
【0075】
図2に示した結果から明らかなように、本発明のPGAフィルム(実施例1)を用いた官能評価では、評価を開始してから7日の間でd−リモネンのにおいを感じるパネラーはおらず、評価を開始してから14日の間で一部のパネラーがそのにおいを感じる程度であり、本発明のPGAフィルムのd−リモネンに対するバリア性は優れたものであった。一方、PETフィルム(同時二軸延伸)(比較例1)を用いた場合においては、評価を開始してから7日の間でほとんどのパネラーがd−リモネンのにおいを感じ、評価を開始してから14日後にはそのにおいを強く感じる程度になっており、PETフィルムのd−リモネンに対するバリア性は劣ったものであった。
【0076】
(実施例2)
合成例1で得られたペレット状のPGA系樹脂組成物を、温度250℃で溶融し、押出機(株式会社プラ技研社製)及びTダイ(株式会社プラ技研社製)を用いて未延伸シートとして押出し、10℃の冷却ドラム上で冷却し、製膜速度20m/minで厚み200μmの未延伸シートを得た。得られた未延伸シートを40℃の予熱ロールに通した後、50℃に温調された周速の異なるロール間で5.1倍に縦延伸を行なった。次に、縦延伸を施したシートをテンター式横延伸機に導き予熱温度50℃、延伸温度55℃で3.5倍に延伸し、200℃で2分間の熱処理を行い、厚さ約10μmのPGAフィルム(以下、「PGAフィルム(逐次二軸延伸)」という。)を得た。
【0077】
(比較例2)
片面コロナ放電処理二軸延伸を施した厚さ約10μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製、商品名:ルミラーP60、以下、「PETフィルム(片面コロナ放電処理二軸延伸)」という。)を用意した。
【0078】
(比較例3)
ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂の代わりに、ナイロンMXD6樹脂(三菱ガス化学株式会社製、商品名:MXナイロン6007)を用いた以外は比較例1と同様にして、同時二軸延伸で3倍×3倍の大きさにした厚さ約10μmのナイロンMXD6フィルム(以下「NyMXD6フィルム」という。)を得た。
【0079】
(比較例4)
厚さ約10μmのエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂フィルム(株式会社クラレ製、商品名:エバール、エチレン共重合比率:32mol%、無延伸フィルム、フィルム断面積:50cm、以下「EVOH−Fフィルム」という。)を用意した。
【0080】
<温度30℃、相対湿度0%条件下での香気成分透過性評価>
実施例2で得られたPGAフィルム(逐次二軸延伸)、比較例2で用意したPETフィルム(片面コロナ放電処理二軸延伸)、比較例3で用意したNyMXD6フィルム又は比較例4で用意したEVOH−Fフィルムを前述の香気成分透過量測定器に入れ、香気成分としては、シクロヘキサン(和光純薬工業株式会社製、精密分析用)、2−プロパノール(和光純薬工業株式会社製、精密分析用)、酢酸エチル(和光純薬工業株式会社製、特級)の3種類の化合物を用いて、温度30℃、相対湿度0%条件下で各フィルムを透過した各種香気成分透過量を前述の方法に従って測定した。
【0081】
測定は以下のようにして行った。すなわち、採取した乾燥空気をカラム(HP−5MS;30m×0.25mm×0.25μm)に注入し、下記条件にて各種香気成分を気化させ、カラム流量1ml/min、スプリット比:20にて、GC/MS(アジレントテクノロジー株式会社製、商品名:GC7890A/MSD5975C)を用いて各種香気成分透過量を測定した。
1)酢酸エチル
オーブン開始温度:50℃、開始温度保持時間:2.5分間
2)シクロヘキサン
オーブン開始温度:50℃、開始温度保持時間:2.5分間
3)2−プロパノール
オーブン開始温度:40℃、開始温度保持時間:2分間。
【0082】
このようにして得られた測定値に基づいて各々のフィルムのそれぞれの香気成分に対する温度30℃、相対湿度0%条件下における透過度を前述の式を用いて算出した。得られた結果を表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
表1に示した結果から明らかなように、本発明のPGAフィルム(実施例2)を用いた温度30℃、相対湿度0%における各種香気成分に対する透過性評価では、全ての香気成分に対して、本発明のフィルムは良好なバリア性を示した。一方、PETフィルム(片面コロナ放電処理二軸延伸)(比較例2)を用いた場合においては、特に酢酸エチルの大きな透過が確認され、EVOH−Fフィルム(比較例4)を用いた場合においては、酢酸エチル及び2−プロパノールの大きな透過が確認され、香気成分に対するバリア性に関して、共に本発明のフィルムより大きく劣ったものであった。
【0085】
<温度30℃、相対湿度100%条件下での香気成分透過性評価>
各フィルムの上層、下層の両側に水で濡らしたスポンジを入れ、相対湿度を100%にした以外は、前記<温度30℃、相対湿度0%条件下での香気成分透過性評価>と同様の方法にて、実施例2、比較例2、比較例3又は比較例4の各フィルムを透過した香気成分透過量を測定し、各種香気成分に対する各フィルムの透過度を算出した。得られた結果を表2に示す。
【0086】
【表2】

【0087】
表2に示した結果から明らかなように、本発明のPGAフィルム(実施例2)を用いた温度30℃、相対湿度100%における各種香気成分に対する透過性評価では、全ての香気成分に対して本発明のフィルムは良好なバリア性を示した。一方、PETフィルム(片面コロナ放電処理二軸延伸)(比較例2)を用いた場合においては、酢酸エチルの大きな透過が確認され、EVOH−Fフィルム(比較例4)を用いた場合においては、全ての香気成分において大きな透過が確認された。また、相対湿度0%条件下では良好なバリア性を示していたNyMXD6フィルム(比較例3)に関しても、本条件下においては、特に酢酸エチル及び2−プロパノールの大きな透過が確認された。この結果から、本発明のPGAフィルムは香気成分に対するバリア性が十分に高く、特に高湿度条件下においても保香性に優れた香気成分バリア性フィルムであるということが確認された。
【0088】
(実施例3)
合成例1で得られたPGA系樹脂組成物を中間層用樹脂として使用し、内外層用樹脂としてポリエチレンテレフタレート(PET、遠東紡社製「CB602S」、重量平均分子量:2万、溶融粘度(温度290℃、剪断速度122sec−1):550Pa・s、ガラス転移温度:75℃、融点:249℃)を使用し、各層用のバレルおよびランナーごとに温度制御可能な共射出成形機(コルテック社製)を使用して、PET/PGA/PETの3層(PGA充填量:3質量%)からなるボトル用3層プリフォームを作製した。このとき、中間層用バレルおよびランナーの温度は235℃に設定し、内外層用バレルおよびランナーの温度は290℃に設定した。得られたボトル用3層プリフォームを延伸ブロー成形機(フロンティア(株)製)を使用して110℃でブロー成形してPET/PGA/PETの3層(PGA充填量:3質量%)からなる容積300mlのボトル(以下、「PET/PGA/PETボトル」という。)を得た。
【0089】
(比較例5)
ナイロンMXD6(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名:レ二ー6007)を中間層用樹脂として、内外層用樹脂としてポリエチレンテレフタレート(PET、イーストマンケミカル社製、商品名:EASTAPAK 9921W)を使用し、各層用のバレルおよびランナーごとに温度制御可能な共射出成形機(Kretec社製、IN90)を使用して、PET/NyMXD6/PETの3層(NyMXD6充填量:3質量%)からなるボトル用3層プリフォームを作製した。このとき、中間層用バレルおよびランナーの温度は270℃に設定し、内外層用バレルおよびランナーの温度は280℃に設定した。得られたボトル用3層プリフォームを延伸ブロー成形機(シデル社製、商品名:SBO−2)を使用して92℃でブロー成形してPET/NyMXD6/PETの3層(NyMXD6充填量:3質量%)からなる容積300mlのボトル(以下、「PET/NyMXD6/PETボトル」という。)を得た。
【0090】
(比較例6)
射出成形機(コルテック社製)を使用して、ポリエチレンテレフタレート(PET、遠東紡社製「CB602S」、重量平均分子量:2万、溶融粘度(温度290℃、剪断速度122sec−1):550Pa・s、ガラス転移温度:75℃、融点:249℃)からポリエチレンテレフタレート単層ボトル用プリフォームを作製した。このとき、射出温度は290℃に設定した。得られたポリエチレンテレフタレート単層ボトル用プリフォームを延伸ブロー成形機(フロンティア(株)製)を使用して100℃でブロー成形してポリエチレンテレフタレートのみからなる容積300mlのボトル(以下、「PET単層ボトル」という。)を得た。
【0091】
<温度30℃、ボトル内部の相対湿度100%条件下でのボトルの香気成分透過性評価>
実施例3で得られたPET/PGA/PETボトル、比較例5で得られたPET/NyMXD6/PETボトル又は比較例6で得られたPET単層ボトルに、酢酸エチル(和光純薬工業株式会社製、特級)を10mlと水を入れた試験管とを入れ、各々のボトルの口部にアルミ板を接着剤で貼り付け、封止した。封止した各ボトルを容積1270mlのガラス瓶に入れ蓋をし、30℃で保管した。その後1日ごとにガラス瓶内の酢酸エチルの量をGC/MSで測定し、当該測定日の測定値を翌日の測定値から差し引いた値が、当該測定日の測定値から前日の測定値を差し引いた値を下回るようになるまで続け、当該測定日を定常状態に入った日とみなし、当該測定日の測定値から前日の測定値を差し引いた値を下記式における定常状態での香気成分透過量の値とした。測定方法及び測定後のガスタイトシリンジ洗浄は、前記<温度30℃、条件下での香気成分透過性評価>と同様の方法にて行った。定常状態での酢酸エチルの量を基に各ボトルの酢酸エチルに対する温度30℃、ボトル内部の相対湿度100%における透過度を下記式に基づいて算出した。
【0092】
香気成分透過度
=香気成分透過量(μg)/(bottle・時間(day)・分圧差(kPa))。
【0093】
式中「香気成分透過量(μg)」は前記定常状態での酢酸エチルの量のことであり、「時間(day)」とは単位時間(1日)のことであり、「分圧差(kPa)」とはボトルの内部における香気成分の蒸気圧と外部における香気成分の蒸気圧との差のことである。得られた結果を表3に示す。
【0094】
【表3】

【0095】
表3に示した結果から明らかなように、本発明のPET/PGA/PETボトル(実施例3)における酢酸エチルに対する透過性評価では、本発明の容器は良好なバリア性を示した。一方、PET単層ボトル(比較例6)においては、本発明の容器での結果と比べて、100倍もの大きな透過が確認された。また、PET/NyMXD6/PETボトル(比較例5)においても、本発明の容器での結果と比べて、高湿度条件下での酢酸エチルに対するバリア性の点で劣ったものであった。結果、本発明の香気成分バリア性容器は高湿度条件下においても保香性に優れているということが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0096】
以上説明したように、本発明によれば、ポリグリコール酸系樹脂を用いることにより、香気成分に対するバリア性が十分に高く、特に高湿度条件下においても保香性に優れた香気成分バリア性フィルム、並びにそれを用いた香気成分バリア性多層フィルム、香気成分バリア性容器及び香気成分バリア性の向上方法を提供することが可能となる。
【0097】
また、ポリグリコール酸系樹脂が、高い透明性、高強度、優れた成形加工性に加え、高い生分解性を有することは従来より明らかであり、廃棄物処理という観点からも優れた包装用材料である。
【0098】
したがって、本発明の香気成分バリア性フィルム等は、食品、飲料、化粧品、入浴剤等の保存又は運搬用容器として有用である。特に本発明の香気成分バリア性フィルム等は、果汁等に多く含まれる香気成分、酢酸エチルに対するバリア性に優れており、高湿度条件下でもそのバリア性を低下させないことから、フルーツ系飲料等の保存用容器の提供、又は同飲料等に用いられる紙製若しくはポリエチレンテレフタレート(PET)製の容器の香気成分バリア性の向上方法においても有用である。
【符号の説明】
【0099】
1…測定用セル、1a…測定用セル(上層)、1b…測定用セル(下層)、2…香気成分、3…乾燥空気、4…フィルム、5…恒温槽、6…ガスタイトシリンジ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリグリコール酸系樹脂を含有することを特徴とする香気成分バリア性フィルム。
【請求項2】
香気成分としての酢酸エチル、シクロヘキサン及び2−プロパノールに対する温度30℃、相対湿度0%における香気成分透過度がそれぞれ1.0(μg・10μm)/(m・day・kPa)未満であることを特徴とする請求項1に記載の香気成分バリア性フィルム。
【請求項3】
香気成分としての酢酸エチル、シクロヘキサン及び2−プロパノールに対する温度30℃、相対湿度100%における香気成分透過度がそれぞれ1.0(μg・10μm)/(m・day・kPa)未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の香気成分バリア性フィルム。
【請求項4】
請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の香気成分バリア性フィルムを備えることを特徴とする香気成分バリア性多層フィルム。
【請求項5】
請求項4に記載の香気成分バリア性多層フィルムを成形してなるものであることを特徴とする香気成分バリア性容器。
【請求項6】
請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の香気成分バリア性フィルムを用いることを特徴とする香気成分バリア性の向上方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−94008(P2011−94008A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248703(P2009−248703)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】