説明

駆動力伝達装置

【課題】引き摺りトルクを低減することができるとともに、クラッチにおけるクラッチ動作の応答性を高めることができる駆動力伝達装置を提供する。
【解決手段】駆動力伝達装置1は、四輪駆動車の駆動源によって回転するハウジング12と、ハウジング12にその回転軸線Oに沿って相対回転可能に配置されたインナシャフト13と、インナシャフト13とハウジング12との間に介在して配置され、ハウジング12とインナシャフト13とを断続可能に連結するクラッチ8と、クラッチ8に第1の押付力Pを付与するメインピストン150を有する第1の押付力付与機構15と、第1の押付力付与機構15の作動に先行して作動し、クラッチ8のクラッチプレート間隔を短縮するための第2の押付力Pをメインピストン150に付与するパイロットピストン160を有する第2の押付力付与機構16とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車における入力軸からの駆動力を出力軸に伝達する駆動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の駆動力伝達装置として、例えば四輪駆動車に搭載され、一対の回転部材をクラッチによってトルク伝達可能に連結するようにしたものがある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
この駆動力伝達装置は、入力軸と共に回転する第1の回転部材と、第1の回転部材の軸線上で回転可能な第2の回転部材と、第2の回転部材と第1の回転部材とをトルク伝達可能に連結する摩擦式のクラッチと、クラッチにそのクラッチ動作力となる押付力を付与する押付力付与機構とから構成されている。
【0004】
第1の回転部材は、一方に開口する有底円筒状のハウジングからなり、入力軸に連結されている。そして、第1の回転部材は、車両用のエンジンなど駆動源の駆動力を入力軸から受けて回転する。
【0005】
第2の回転部材は、第1の回転部材に相対回転可能に配置され、かつ出力軸に連結されている。そして、第2の回転部材は、第1の回転部材と共に装置ケース内に収容されている。
【0006】
クラッチは、インナクラッチプレート及びアウタクラッチプレートを有し、第1の回転部材と第2の回転部材との間に配置されている。そして、クラッチは、インナクラッチプレートとアウタクラッチプレートとが摩擦係合して第1の回転部材と第2の回転部材とをトルク伝達可能に連結する。
【0007】
押付力付与機構は、装置ケース(シリンダ)内で進退可能なピストン、及びピストンの移動力を押付力としてクラッチに付与する押付力付与部材を有し、クラッチの入力側に配置されている。
【0008】
以上の構成により、エンジン側からの駆動力が入力軸を介して第1の回転部材に入力されると、第1の回転部材がその軸線回りに回転する。ここで、シリンダ内に作動油を供給すると、作動油による圧力がピストンに作用する。
【0009】
このため、押付力付与機構が作動し、これに伴いピストンがクラッチ側に移動し、この移動力が押付力として押付力付与部材からクラッチに付与される。
【0010】
そして、クラッチのインナクラッチプレートとアウタクラッチプレートとが互いに接近して摩擦係合し、この摩擦係合によって第1の回転部材と第2の回転部材とがトルク伝達可能に連結される。これにより、エンジン側の駆動力が入力軸から駆動力伝達装置を介して出力軸に伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−121796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、特許文献1に示す駆動力伝達装置によると、四輪駆動車の二輪駆動による走行時に潤滑油の粘性に基づいて発生する所謂引き摺りトルクによってクラッチのインナクラッチプレートとアウタクラッチプレートとが互いに摩擦係合することがある。この結果、旋回性や燃費に悪影響を及ぼすばかりか、四輪駆動車の二輪駆動状態から四輪駆動状態に移行する際にクラッチによる良好なクラッチ動作を得ることができない。
【0013】
一方、上記した引き摺りトルクによる悪影響を抑制するために、例えばクラッチのクラッチプレートのうち互いに隣り合う2つのクラッチプレート間のクリアランスを広げることが考えられるが、この場合にはクラッチにおけるクラッチ動作の応答性が低下する。
【0014】
従って、本発明の目的は、引き摺りトルクを低減することができるとともに、クラッチにおけるクラッチ動作の応答性を高めることができる駆動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記目的を達成するために、(1)〜(10)の駆動力伝達装置を提供する。
【0016】
(1)車両の駆動源によって回転する第1の回転部材と、前記第1の回転部材にその回転軸線に沿って相対回転可能に配置された第2の回転部材と、前記第2の回転部材と前記第1の回転部材との間に介在して配置され、前記第1の回転部材と前記第2の回転部材とを断続可能に連結するクラッチと、前記クラッチに第1の押付力を付与するメインピストンを有する第1の押付力付与機構と、前記第1の押付力付与機構の作動に先行して作動し、前記クラッチのクラッチプレート間隔を短縮するための第2の押付力を前記メインピストンに付与するサブピストンを有する第2の押付力付与機構とを備えた駆動力伝達装置。
【0017】
(2)上記(1)に記載の駆動力伝達装置において、前記第1の押付力付与機構は、前記メインピストンのピストン径が前記サブピストンのピストン径よりも大きい寸法に設定されている。
【0018】
(3)上記(1)又は(2)に記載の駆動力伝達装置において、前記第1の押付力付与機構は、前記メインピストンを進退可能に収容するメインシリンダを有し、前記第2の押付力付与機構は、前記メインシリンダに連通して前記サブピストンを進退可能に収容するサブシリンダを有し、前記サブシリンダがポンプを介してオイルタンクに接続されている。
【0019】
(4)上記(3)に記載の駆動力伝達装置において、前記第2の押付力付与機構は、前記サブピストンに前記メインシリンダから前記サブシリンダに作動油を戻すための油戻し路が設けられている。
【0020】
(5)上記(3)又は(4)に記載の駆動力伝達装置において、前記第2の押付力付与機構は、前記サブピストンが前記サブシリンダとの間に前記サブシリンダから前記メインシリンダに作動油を流出させるための油流出路を有する。
【0021】
(6)上記(3)乃至(5)のいずれかに記載の駆動力伝達装置において、前記第1の押付力付与機構は、前記メインシリンダに前記オイルタンクから作動油を導入するための油導入路が接続されている。
【0022】
(7)上記(3)乃至(5)のいずれかに記載の駆動力伝達装置において、前記第1の押付力付与機構は、前記メインピストンが前記クラッチ側から前記メインシリンダに作動油を導入するための油導入孔を有する。
【0023】
(8)上記(3)乃至(6)のいずれかに記載の駆動力伝達装置において、前記第2の押付力付与機構は、前記サブシリンダに連通する環状空間、及び前記メインシリンダから前記環状空間に作動油を戻すためのバイパス用の油戻し路を有する。
【0024】
(9)上記(8)に記載の駆動力伝達装置において、前記第2の押付力付与機構は、前記環状空間が前記ポンプを介して前記オイルタンクに接続されている。
【0025】
(10)上記(8)又は(9)に記載の駆動力伝達装置において、前記第1の押付力付与機構は、前記メインピストンが前記メインシリンダを介して前記バイパス用の油戻し路に連通する環状の凹溝を有する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、引き摺りトルクを低減することができるとともに、クラッチにおけるクラッチ動作の応答性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る駆動力伝達装置が搭載された車両の概略を説明するために示す平面図。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る駆動力伝達装置の全体を説明するために示す断面図。同図において、上半分はディスコネクト状態を、また下半分はコネクト状態をそれぞれ示す。
【図3】(a)〜(c)は、本発明の第1の実施の形態に係る駆動力伝達装置の作動状態と非作動状態とを示す断面図。(a)は非作動状態を、(b)は第2の押付力付与機構の作動状態を、また(c)は第1の押付力付与機構の作動状態をそれぞれ示す。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る駆動力伝達装置の全体を説明するために示す断面図。
【図5】(a)〜(c)は、本発明の第2の実施の形態に係る駆動力伝達装置の作動状態と非作動状態とを示す断面図。(a)は非作動状態を、(b)は第2の押付力付与機構の作動状態を、また(c)は第1の押付力付与機構の作動状態をそれぞれ示す。
【図6】本発明の第3の実施の形態に係る駆動力伝達装置の全体を説明するために示す断面図。同図において、上半分はディスコネクト状態を、また下半分はコネクト状態をそれぞれ示す。
【図7】本発明の第4の実施の形態に係る駆動力伝達装置の全体を説明するために示す断面図。同図において、上半分はディスコネクト状態を、また下半分はコネクト状態をそれぞれ示す。
【図8】本発明の第4の実施の形態に係る駆動力伝達装置におけるサブシリンダ及びチェック弁の配置状態を簡略化して示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[第1の実施の形態]
図1は四輪駆動車の概略を示す。図1に示すように、四輪駆動車200は、駆動力伝達系201,エンジン202,トランスミッション203,主駆動輪としての前輪204L,204R及び補助駆動輪としての後輪205L,205Rを備えている。
【0029】
駆動力伝達系201は、四輪駆動車200におけるトランスミッション203側から後輪205L,205R側に至る駆動力伝達経路にフロントディファレンシャル206及びリヤディファレンシャル207と共に配置され、かつ四輪駆動車200の車体(図示せず)に搭載されている。
【0030】
そして、駆動力伝達系201は、駆動力伝達装置1,プロペラシャフト2及び駆動力断続装置3を有し、四輪駆動車200の四輪駆動状態を二輪駆動状態に、また二輪駆動状態を四輪駆動状態にそれぞれ切り替え可能に構成されている。駆動力伝達装置1の詳細については後述する。
【0031】
フロントディファレンシャル206は、サイドギヤ209L・209R,一対のピニオンギヤ210,ギヤ支持部材211及びフロントデフケース212を有し、トランスミッション203と駆動力断続装置3との間に配置されている。サイドギヤ209Lは前輪側のアクスルシャフト208Lに、またサイドギヤ209Rは前輪側のアクスルシャフト208Rにそれぞれ連結する。一対のピニオンギヤ210は、サイドギヤ209L,209Rにギヤ軸を直交させて噛合する。ギヤ支持部材211は、一対のピニオンギヤ210を回転可能に支持する。フロントデフケース212は、ギヤ支持部材211,一対のピニオンギヤ210及びサイドギヤ209L・209Rを収容する。
【0032】
リヤディファレンシャル207は、サイドギヤ214L・214R,一対のピニオンギヤ215,ギヤ支持部材216及びリヤデフケース217を有し、プロペラシャフト2と駆動力伝達装置1との間に配置されている。サイドギヤ214Lは後輪側のアクスルシャフト213Lに、またサイドギヤ214Rは後輪側のアクスルシャフト213Rにそれぞれ連結する。一対のピニオンギヤ215は、サイドギヤ214L,214Rにギヤ軸を直交させて噛合する。ギヤ支持部材216は、一対のピニオンギヤ215を回転可能に支持する。リヤデフケース217は、ギヤ支持部材216,一対のピニオンギヤ215及びサイドギヤ214L・214Rを収容する。
【0033】
エンジン202は、トランスミッション203及びフロントディファレンシャル206を介して前輪側のアクスルシャフト208L,208Rに駆動力を出力することにより前輪204L,204Rを駆動する。
【0034】
また、エンジン202は、トランスミッション203,駆動力断続装置3,プロペラシャフト2及びリヤディファレンシャル207を介して一方の後輪側のアクスルシャフト213Lに駆動力を出力することにより一方の後輪205Lを、トランスミッション203,駆動力断続装置3,プロペラシャフト2,リヤディファレンシャル207及び駆動力伝達装置1を介して他方の後輪側のアクスルシャフト213Rに駆動力を出力することにより他方の後輪205Rをそれぞれ駆動する。
【0035】
プロペラシャフト2は、駆動力伝達装置1と駆動力断続装置3との間に配置されている。そして、プロペラシャフト2は、エンジン202の駆動力をフロントデフケース212から受けて前輪204L,204R側から後輪205L,205R側に伝達する。
【0036】
プロペラシャフト2の前輪側端部には、互いに噛合するドライブピニオン60及びリングギヤ61からなる前輪側の歯車機構6が配置されている。プロペラシャフト2の後輪側端部には、互いに噛合するドライブピニオン70及びリングギヤ71からなる後輪側の歯車機構7が配置されている。
【0037】
駆動力断続装置3は、フロントデフケース212に対して回転不能な第1のスプライン歯部30、リングギヤ61に対して回転不能な第2のスプライン歯部31、及び第1のスプライン歯部30,第2のスプライン歯部31にスプライン嵌合可能なスリーブ32を有する例えばドグクラッチからなり、四輪駆動車200の前輪204L,204R側に配置され、かつアクチュエータ(図示せず)を介して車両用のECU(Electronic Control Unit:図示せず)に接続されている。そして、駆動力断続装置3は、プロペラシャフト2とフロントデフケース212とを断続可能に連結する。
【0038】
(駆動力伝達装置1の全体構成)
図2は駆動力伝達装置を示す。図2に示すように、駆動力伝達装置1は、クラッチ(多板クラッチ)8,ハウジング12,インナシャフト13,第1の押付力付与機構15及び第2の押付力付与機構16を有し、四輪駆動車200(図1に示す)の後輪205R側に配置され、かつ装置ケース4内に収容されている。
【0039】
そして、駆動力伝達装置1は、プロペラシャフト2(図1に示す)と後輪側のアクスルシャフト213R(図1に示す)とを断続可能に連結する。すなわち、後輪側のアクスルシャフト213Rとプロペラシャフト2とは駆動力伝達装置1を介在させて連結されている。後輪側のアクスルシャフト213L(図1に示す)とプロペラシャフト2とは駆動力伝達装置1を介在させることなく連結されている。
【0040】
これにより、駆動力伝達装置1による連結時には、一方の後輪側のアクスルシャフト213Lとプロペラシャフト2とが歯車機構7及びリヤディファレンシャル207(共に図1に示す)を介して、また他方の後輪側のアクスルシャフト213Rとプロペラシャフト2とが歯車機構7及びリヤディファレンシャル207を介してそれぞれトルク伝達可能に連結される。一方、駆動力伝達装置1による連結の解除時には、一方の後輪側のアクスルシャフト213Lとプロペラシャフト2とが歯車機構7及びリヤディファレンシャル207を介して連結されたままであるが、他方の後輪側のアクスルシャフト213Rとプロペラシャフト2との連結が遮断される。
【0041】
装置ケース4は、回転軸線Oに沿って互いに並列する2つのケース40,41からなり、四輪駆動車200(図1に示す)の車体に取り付けられている。装置ケース4には、クラッチ8等を収容し、かつ互いに連通するメインシリンダ42a及びサブシリンダ42bを形成するための収容空間42が設けられている。収容空間42には、メインピストン150(後述)を介してメインシリンダ42aに隣接する油貯溜空間42cが含まれる。メインシリンダ42a及びサブシリンダ42bの詳細については後述する。
【0042】
一方のケース40は、ハウジング12(後述)を回転軸線O上で挿通させる挿通孔40aを有し、全体が他方のケース41側(図2の右側)に開口する有底円筒部材によって形成されている。一方のケース40の外周囲には、その外周面と他方のケース41の内周面との間で潤滑油を貯溜するオイルタンク43が形成されている。一方のケース40には、オイルタンク43に連通し、かつ収容空間42(油貯溜空間42c)から潤滑油をオイルタンク43に流出させるための油流出口122aが設けられている。
【0043】
他方のケース41は、インナシャフト13(後述)を回転軸線O上で挿通させる挿通孔41a、及びメインシリンダ42aに連通する圧力センサ取付孔41bを有し、全体が一方のケース40側(図2の左側)に開口する有底円筒部材によって形成されている。挿通孔41aの内側開口周縁には、回転軸線Oを中心軸線とする円筒部410が設けられている。他方のケース41には、サブシリンダ42bに貫通孔41cを介して連通し、かつ一方のケース40と反対側に開口する円環状の凹溝(環状空間)41dが設けられている。また、他方のケース41には、貫通孔41c及びサブシリンダ42bに連通し、かつ貫通孔41cの開口周縁に底面をもつ平面円形状の凹部41eが設けられている。さらに、他方のケース41には、凹溝41dの開口部を閉塞する円環状の蓋部材411が取り付けられている。蓋部材411は止め輪412によって抜け止めされている。蓋部材411には、外周面と凹溝41dの外側溝壁との間に介在するシール部材413が、内周面と凹溝41dの内側溝壁との間に介在するシール部材414がそれぞれ取り付けられている。
【0044】
(クラッチ8の構成)
クラッチ8は、複数のインナクラッチプレート80及び複数のアウタクラッチプレート81を有する摩擦式のクラッチからなり、第1の回転部材としてのハウジング12と第2の回転部材としてのインナシャフト13との間に配置されている。
【0045】
そして、クラッチ8は、複数のインナクラッチプレート80及び複数のアウタクラッチプレート81のうち互いに隣り合う2つのクラッチプレートを摩擦係合させ、またその摩擦係合を解除してハウジング12とインナシャフト13とを断続可能に連結する。
【0046】
複数のインナクラッチプレート80及び複数のアウタクラッチプレート81は、回転軸線Oに沿って交互に配置され、全体が円環状の摩擦板によって形成されている。複数のインナクラッチプレート80及び複数のアウタクラッチプレート81のうち互いに隣り合う2つのクラッチプレート間のクリアランスCは、四輪駆動車200(図1に示す)の二輪駆動時に潤滑油の粘性に基づく引き摺りトルクによってクラッチプレート同士が摩擦係合しない寸法に設定されている。
【0047】
複数のインナクラッチプレート80は、その内周部にストレートスプライン嵌合部80aを有し、ストレートスプライン嵌合部80aを円筒部13a(インナシャフト13)のストレートスプライン嵌合部130aに嵌合させてインナシャフト13に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
【0048】
複数のインナクラッチプレート80には、その円周方向に沿って並列し、かつ回転軸線O方向に開口する複数の油孔80bが設けられている。
【0049】
複数のアウタクラッチプレート81は、その外周部にストレートスプライン嵌合部81aを有し、ストレートスプライン嵌合部81aを円筒部12a(ハウジング12)のストレートスプライン嵌合部120a(後述)に嵌合させてハウジング12に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
【0050】
複数のアウタクラッチプレート81のうちメインシリンダ42a側最端部のアウタクラッチプレートは、クラッチ8の入力部として機能し、第1の押付力付与機構15のメインピストン150(後述)からクラッチ8側に押付部材11を介して第1の押付力Pを受けると、この押付方向への移動によって互いに隣り合うインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81とを摩擦係合させる。また、複数のアウタクラッチプレート81のうちメインシリンダ42a側最端部のアウタクラッチプレートは、第2の押付力付与機構16のパイロットピストン160からクラッチ8側に押付部材11を介して第2の押付力Pを受けると、この押付方向への移動によって互いに隣り合うインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81との間のクリアランスCを例えばC=0に短縮する。
【0051】
押付部材11は、装置ケース4の収容空間42に露出するストレートスプライン嵌合部11aを有し、ストレートスプライン嵌合部11aを第1の押付力付与機構15のクラッチ8側で円筒部12a(ハウジング12)のストレートスプライン嵌合部120aに嵌合させてハウジング12に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。また、押付部材11は、第1の押付力付与機構15のメインピストン150(後述)に針状ころ軸受44を介して回転可能に支持されている。
【0052】
(ハウジング12の構成)
ハウジング12は、装置ケース4の収容空間42に開口する円筒部12a、サイドギヤ214R(図1に示す)に連結される軸部12bを有し、一方の後輪側のアクスルシャフト213R(図1に示す)の軸線(回転軸線O)上に配置され、かつ一方のケース40における挿通孔40aの内周面に玉軸受20を介して回転可能に支持されている。また、ハウジング12は、円筒部12aの底部が一方のケース40の底部に針状ころ軸受21を介して回転可能に支持されている。
【0053】
円筒部12aの内周面には、アウタクラッチプレート81のストレートスプライン嵌合部81a及び押付部材11のストレートスプライン嵌合部11aに嵌合するストレートスプライン嵌合部120aが設けられている。円筒部12aには、装置ケース4の収容空間42に連通する切り欠き121aが設けられている。
【0054】
軸部12bは、サイドギヤ214Rの開口部内に先端部を挿入させ、サイドギヤ214Rにスプライン嵌合によって相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。軸部12bの外周面には、一方のケース40における挿通孔40aの内周面との間に介在するシール機構22が配置されている。軸部12bには、円筒部12a内に連通する凹孔120bが設けられている。
【0055】
(インナシャフト13の構成)
インナシャフト13は、各外径が互いに異なる3つの円筒部13a〜13c(13bは胴部)、これら円筒部13a〜13cのうち円筒部13a,13b間に介在する段差面13d、及び円筒部13a,13c間に介在する段差面13eを有し、ハウジング12の回転軸線O上に配置され、全体が軸線方向片側(図2の右側)に開口する有底円筒部材によって形成されている。円筒部13aの外径は最大の寸法(最大外径)に、胴部13bの外径は最小の寸法(最小外径)に、また円筒部13cの外径は円筒部13aの外径と胴部13bの外径との間の寸法(中間外径)にそれぞれ設定されている。そして、インナシャフト13は、その開口部内に後輪側のアクスルシャフト213R(図1に示す)の先端部を挿入させて収容する。後輪側のアクスルシャフト213Rは、インナシャフト13にスプライン嵌合によって相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
【0056】
最大外径の円筒部13aは、最小外径の胴部13bと中間外径の円筒部13cとの間に介在してインナシャフト13の軸線方向中央部に配置されている。また、最大外径の円筒部13aは、ハウジング12における円筒部12aの底部に段差面13d上のスペーサ23及び針状ころ軸受24を介して、他方のケース41における円筒部410の開口端面に段差面13e上のスペーサ25及び針状ころ軸受26を介して回転可能に支持されている。最大外径の円筒部13aの外周面には、ハウジング12の円筒部12a内に露出し、クラッチ8におけるインナクラッチプレート80のストレートスプライン嵌合部80aに嵌合するストレートスプライン嵌合部130aが設けられている。
【0057】
最小外径の胴部13bは、インナシャフト13の一方側(図2の左側)に配置され、かつハウジング12の凹孔120b内に針状ころ軸受27を介して回転可能に支持されている。
【0058】
中間外径の円筒部13cは、インナシャフト13の他方側(図2の右側)に配置され、他方のケース41における円筒部410の内周面に針状ころ軸受28を介して回転可能に支持されている。中間外径の円筒部13cの外周面には、他方のケース41における挿通孔41aの内周面との間に介在するシール機構29が配置されている。
【0059】
(第1の押付力付与機構15の構成)
図3(a)〜(c)は第1の押付力付与機構及び第2の押付力付与機構を示す。図2及び図3(a)〜(c)に示すように、第1の押付力付与機構15は、メインシリンダ42a及びメインピストン150を有し、押付部材11と第2の押付力付与機構16との間に介在して配置され、かつ装置ケース4の収容空間42に収容されている。そして、第1の押付力付与機構15は、メインピストン150が作動油(潤滑油)による圧力を第1の押付力Pとして受けて作動する。これにより、メインピストン150が第1の押付力Pを受けると、押付部材11と共にクラッチ8側に移動し、互いに隣り合うインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81とが摩擦係合する。
【0060】
メインシリンダ42aは、回転軸線Oを中心軸線とする円環状の空間部からなり、他方のケース41の内周面と円筒部410の外周面との間に介在して配置されている。メインシリンダ42aのシリンダ容積は、サブシリンダ42bのシリンダ容積よりも大きい容積に設定されている。メインシリンダ42aには、オイルタンク43から潤滑油を導入するための油導入路415が接続されている。油導入路415には、メインシリンダ42aからオイルタンク43への潤滑油の流動を阻止するチェック弁416が配置されている。
【0061】
メインピストン150は、サブピストンとしてのパイロットピストン160と押付部材11との間に介在して配置され、かつメインシリンダ42aに進退可能に収容され、全体が円筒部410を挿入させる円環部材によって形成されている。そして、メインピストン150は、第2の押付力付与機構16の作動後にポンプ418の正方向の駆動によってオイルタンク43からの潤滑油による圧力を受け、第1の押付力付与機構15の作動によってクラッチ8にそのクラッチ力となる第1の押付力Pを押付部材11と共に付与する。
【0062】
メインピストン150には、メインシリンダ42aに開口し、かつシリンダ接続用の油戻し路160bに連通する円環状の凹溝150aが設けられている。これにより、ハウジング12とインナシャフト13との連結解除時(ポンプ418の負方向への駆動時)にメインシリンダ42aからの作動油が凹溝150aを介してサブシリンダ42b(油戻し路160b)側に確実に流出される。凹溝150aは、その一部がパイロットピストン160によって閉塞されている。また、メインピストン150は、クラッチ8側端面と一方のケース40の開口端面との間に復帰用スプリング151が介在して配置されている。復帰用スプリング151は、クラッチ8からパイロットピストン160側に離間する方向のばね力をメインピストン150に付与する。メインピストン150の内周面には円筒部410の外周面との間に介在するシール部材33が、また外周面にはメインシリンダ42aの内周面との間に介在するシール部材34がそれぞれ取り付けられている。
【0063】
メインピストン150の内径は、円筒部410の外径と略同一の寸法に設定されている。メインピストン150の外径は、メインシリンダ42aの内径と略同一の寸法に設定されている。また、メインピストン150の外径は、パイロットピストン160の外径よりも大きい寸法に設定されている。これにより、第1の押付力付与機構15の作動時にメインピストン150から押付部材11(クラッチ8)に付与される第1の押付力Pは、第2の押付力付与機構16の作動時にパイロットピストン160からメインピストン150に付与される第2の押付力P(P<P)に比べて大きくなる。
【0064】
(第2の押付力付与機構16の構成)
第2の押付力付与機構16は、サブシリンダ42b及びパイロットピストン160を有し、第1の押付力付与機構15と他方のケース41の底部との間に介在して配置され、かつ装置ケース4の収容空間42に収容されている。そして、第2の押付力付与機構16は、第1の押付力付与機構15の作動に先行し、パイロットピストン160が潤滑油による圧力としての第2の押付力Pを受けて作動する。
【0065】
サブシリンダ42bは、回転軸線Oの回りに等間隔をもって複数個(本実施の形態では3個)配置されている。サブシリンダ42bには、オイルタンク43に至る油流動路417が貫通孔41c及び凹溝41dを介して接続されている。油流動路417には、オイルタンク43から凹溝41d(サブシリンダ42b)に潤滑油を送り込み、またサブシリンダ42bからオイルタンク43に潤滑油を吐き出すためのポンプ418が配置されている。ポンプ418は、例えばトロコイドポンプが用いられ、駆動源419に接続されている。駆動源419によってポンプ418が正方向に駆動されると、潤滑油がオイルタンク43からサブシリンダ42bに油流動路417及び凹溝41d等を介して送り込まれる。また、駆動源419によってポンプ418が負方向に駆動されると、潤滑油がサブシリンダ42bからオイルタンク43に凹溝41d及び油流動路417等を介して吐き出される。
【0066】
パイロットピストン160は、メインピストン150の受圧面側に配置され、サブシリンダ42bに進退可能に収容され、全体がサブシリンダ42bの内径と略同一の外径をもつ円柱部材によって形成されている。そして、パイロットピストン160は、第2の押付力付与機構16の作動時にポンプ418の正方向の駆動によってオイルタンク43から供給される潤滑油の圧力を受け、クラッチ8側にメインピストン150を移動させるための第2の押付力Pをメインピストン150に付与する。パイロットピストン160には、軸線方向片側端部(図2の右側端部)とサブシリンダ42bとの間にサブシリンダ42bからメインシリンダ42aに潤滑油を流出させるための油流出路としての複数(本実施の形態では4個)の切り欠き160aが設けられている。
【0067】
複数の切り欠き160aは、パイロットピストン160における軸線方向片側端部の周縁であって、貫通孔41cに近い部位に配置されている。これにより、第2の押付力付与機構16の作動終了時にパイロットピストン160が潤滑油による圧力をサブシリンダ42b内で貫通孔41c側から受けると、サブシリンダ42bから切り欠き160aを介してメインシリンダ42a内に流出し、第1の押付力付与機構15が作動する。
【0068】
パイロットピストン160には、メインシリンダ42aからサブシリンダ42bに潤滑油を戻すための油戻し路160bが設けられている。油戻し路160bは、パイロットピストン160の初期状態おいて貫通孔41cに、またパイロットピストン160の移動状態においてサブシリンダ42bを介して貫通孔41cに連通する部位に配置されている。油戻し路160bには、サブシリンダ42bからメインシリンダ42aへの潤滑油の流動を阻止するチェック弁161が配置されている。なお、チェック弁161は、油戻し路160bを開閉する弁体、及び油戻し路160bを閉塞する方向のばね力を弁体に付与する復帰用スプリングによって構成されている。
【0069】
(駆動力伝達装置1の動作)
次に、本実施の形態に示す駆動力伝達装置の動作につき、図1〜図3(a)〜(c)を用いて説明する。
【0070】
図1において、四輪駆動車200の二輪駆動時には、エンジン202の回転駆動力がトランスミッション203を介してフロントディファレンシャル206に伝達され、さらにフロントディファレンシャル206から前輪側のアクスルシャフト208L,208Rを介して前輪204L,204Rに伝達され、前輪204L,204Rが回転駆動される。
【0071】
この場合、図2(上半分)において、ポンプ418が非駆動状態にあるため、第1の押付力付与機構15が作動することはない。
【0072】
このため、第1の押付力付与機構15のメインピストン150からクラッチ8にそのクラッチ力となる第1の押付力Pが押付部材11を介して付与されず、クラッチ8のインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81とが互いに摩擦係合せず、エンジン202の回転駆動力はハウジング12からインナシャフト13に伝達されない。
【0073】
一方、二輪駆動状態にある四輪駆動車200を四輪駆動状態に切り替えるには、駆動力伝達装置1によってプロペラシャフト2と後輪側のアクスルシャフト213Rとをトルク伝達可能に連結した後、駆動力断続装置3によってフロントデフケース212とプロペラシャフト2とをトルク伝達可能に連結する。
【0074】
ここで、プロペラシャフト2と後輪側のアクスルシャフト213Rとの連結時には、駆動源419によってポンプ418を正方向に駆動し、オイルタンク43内の潤滑油をサブシリンダ42bに供給する。この場合、ポンプ418が駆動されると、オイルタンク43内の潤滑油が油流動路417を流動して凹溝41dに流入した後、凹溝41dから貫通孔41cを流動してサブシリンダ42bに流入する。
【0075】
このため、パイロットピストン160が図3(a)に示す初期状態から潤滑油による圧力を受け、第2の押付力付与機構16が作動する。この場合、第2の押付力付与機構16が作動すると、パイロットピストン160が図3(b)に示すようにクラッチ8(図2に示す)側にサブシリンダ42b内を移動してメインピストン150及び押付部材11に第2の押付力Pを付与する。
【0076】
これに伴い、メインピストン150が復帰用スプリング151のばね力に抗してクラッチ8側にメインシリンダ42a内を押付部材11と共に移動し、クラッチ8全体を移動させてハウジング12の底部に当接させる。
【0077】
これにより、インナクラッチプレート80及びアウタクラッチプレート81のうち互いに隣り合う2つのクラッチプレート間のクリアランスCが例えばC=0となる。
【0078】
引き続き、駆動源419によってポンプ418を正方向に駆動し、オイルタンク43内の潤滑油をサブシリンダ42bに供給する。この場合、サブシリンダ42b内に潤滑油が供給されると、パイロットピストン160が図3(b)に示す状態(第2の押付力付与機構16の作動状態)からサブシリンダ42b内を移動し、図3(c)に示すように第1の押付力付与機構15を作動させる位置に、すなわちパイロットピストン160の切り欠き160aをメインシリンダ42a内に開放する位置に配置される。
【0079】
このため、オイルタンク43からサブシリンダ42bに供給された潤滑油が切り欠き160aを介してメインシリンダ42aに流入し、メインピストン150が潤滑油による圧力を受けて第1の押付力付与機構15が作動する。この場合、第1の押付力付与機構15が作動すると、メインピストン150がクラッチ8側にメインシリンダ42a内を復帰用スプリング151のばね力に抗して移動し、押付部材11に第1の押付力Pを付与する。
【0080】
そして、押付部材11が第1の押付力Pを受けると、クラッチ8側にメインピストン150と共に移動し、クラッチ8全体をハウジング12の底部にさらに押し付けて移動させる。
【0081】
これにより、インナクラッチプレート80及びアウタクラッチプレート81のうち互いに隣り合う2つのクラッチプレートが摩擦係合し、ハウジング12とインナシャフト13とがクラッチ8を介して連結される。
【0082】
このため、エンジン202の回転駆動力がハウジング12からインナシャフト13に伝達され、さらにインナシャフト13から後輪側のアクスルシャフト213Rを介して後輪205Rに伝達され、後輪205Rが回転駆動される。
【0083】
また、プロペラシャフト2と後輪側のアクスルシャフト213Lとは駆動力伝達装置1を介在させることなく連結されているため、フロントデフケース212とプロペラシャフト2との連結時にエンジン202の回転駆動力がプロペラシャフト2から後輪側のアクスルシャフト213Lを介して後輪205Lに伝達され、後輪205Lが回転駆動される。
【0084】
なお、プロペラシャフト2と後輪側のアクスルシャフト213Rとの連結を解除するには、駆動源419によってポンプ418を負方向に駆動し、メインシリンダ42a及びサブシリンダ42b内の潤滑油をオイルタンク43内に戻すことにより行われる。この場合、ポンプ418が駆動されると、サブシリンダ42b内の潤滑油が貫通孔41cに流出した後、貫通孔41cから凹溝41d及び油流動路417を流動してオイルタンク43に流出する。また、メインシリンダ42a内の潤滑油がメインピストン150の凹溝150aに流出した後、凹溝150aからパイロットピストン160の油戻し路160bを流動して貫通孔41cに流出し、貫通孔41cから凹溝41d及び油流動路417を流動してオイルタンク43に流出する。
【0085】
[第1の実施の形態の効果]
以上説明した第1の実施の形態によれば、次に示す効果が得られる。
【0086】
(1)引き摺りトルクを低減することができるとともに、クラッチ8におけるクラッチ動作の応答性を高めることができる。
【0087】
(2)クラッチプレート同士間の軸線方向寸法を従来と比べて大きい寸法に設定することができるため、クラッチプレート数を増加して伝達トルクを大きくすることができる。
【0088】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2実施の形態に係る駆動力伝達装置につき、図4及び図5(a)〜(c)を用いて説明する。図4は駆動力伝達装置を示す。図5(a)〜(c)は第1の押付力付与機構及び第2の押付力付与機構を示す。図4及び図5(a)〜(c)において、図2及び図3(a)〜(c)と同一又は同等の機能をもつ部材については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0089】
図4及び図5(a)〜(c)に示すように、本発明の第2の実施の形態に係る駆動力伝達装置100は、第1の実施の形態に示す切り欠き160aに代え、パイロットピストン160とサブシリンダ42bとの間にサブシリンダ42bからメインシリンダ42aに潤滑油を流出させるための油流出路として環状空間160c(図5(c)に示す)が設けられている点に特徴がある。
【0090】
このため、パイロットピストン160には、メインピストン150側と反対側に突出するピストンガイド162が設けられている。パイロットピストン160の軸線方向端部であって、メインピストン150に対向する部位には、メインシリンダ42a及び油戻し路160bに連通する切り欠き160dが設けられている。ピストンガイド162の軸線方向寸法は、パイロットピストン160の最大移動ストロークよりも大きい寸法に設定されている。
【0091】
装置ケース4(他方のケース41)には、ピストンガイド162を案内するガイド孔163が設けられている。また、他方のケース41には、サブシリンダ42b及び貫通孔41cに連通し、かつガイド孔163の開口周縁に底面をもつ平面円形状の凹部160eが設けられている。これにより、パイロットピストン160の初期状態において凹部160eが油戻し路160bに、またパイロットピストン160の移動状態において凹部160eがサブシリンダ42bを介して油戻し路160bにそれぞれ連通する。
【0092】
ガイド孔163には、パイロットピストン160の初期状態においてピストンガイド162の略全体が収容され、またパイロットピストン160の最大ストローク移動状態においてピストンガイド162の一部が収容される。これにより、パイロットピストン160がガイド孔163から抜け出ることはない。
【0093】
このように構成された駆動力伝達装置100において、プロペラシャフト2と後輪側のアクスルシャフト213Rとの連結時には、第1の実施の形態に示す場合と同様に、駆動源419によってポンプ418を正方向に駆動し、オイルタンク43内の潤滑油をサブシリンダ42bに供給する。この場合、ポンプ418が駆動されると、オイルタンク43内の潤滑油が油流動路417を流動して凹溝41dに流入した後、凹溝41dから貫通孔41c及び凹部160eを流動してサブシリンダ42bに流入する。
【0094】
このため、パイロットピストン160が図5(a)に示す初期状態から潤滑油による圧力を受け、第2の押付力付与機構16が作動する。この場合、第2の押付力付与機構16が作動すると、パイロットピストン160が図5(b)に示すようにクラッチ8(図2に示す)側にサブシリンダ42b内を移動してメインピストン150及び押付部材11に第2の押付力Pを付与する。
【0095】
これに伴い、メインピストン150が復帰用スプリング151のばね力に抗してクラッチ8側にメインシリンダ42a内を押付部材11と共に移動し、クラッチ8全体を移動させてハウジング12の底部に当接させる。
【0096】
これにより、インナクラッチプレート80及びアウタクラッチプレート81のうち互いに隣り合う2つのクラッチプレート間のクリアランスCが例えばC=0となる。
【0097】
引き続き、駆動源419によってポンプ418を正方向に駆動し、オイルタンク43内の潤滑油をサブシリンダ42bに供給する。この場合、サブシリンダ42b内に潤滑油が供給されると、パイロットピストン160が図5(b)に示す状態(第2の押付力付与機構16の作動状態)からサブシリンダ42b内を移動し、図5(c)に示すように第1の押付力付与機構16を作動させる位置、すなわち環状空間160cをメインシリンダ42a内に開放する位置に配置される。
【0098】
このため、オイルタンク43からサブシリンダ42bに供給された潤滑油が環状空間160cを介してメインシリンダ42aに流入し、メインピストン150が潤滑油による圧力を受けて第1の押付力付与機構15が作動する。この場合、第1の押付力付与機構15が作動すると、メインピストン150がクラッチ8側にメインシリンダ42a内を復帰用スプリング151のばね力に抗して移動し、押付部材11に第1の押付力Pを付与する。
【0099】
そして、押付部材11が第1の押付力Pを受けると、クラッチ8側にメインピストン150と共に移動し、クラッチ8全体をハウジング12の底部にさらに押し付けて移動させる。
【0100】
これにより、インナクラッチプレート80及びアウタクラッチプレート81のうち互いに隣り合う2つのクラッチプレートが摩擦係合し、ハウジング12とインナシャフト13とがクラッチ8を介して連結される。
【0101】
このため、エンジン202の回転駆動力がハウジング12からインナシャフト13に伝達され、さらにインナシャフト13から後輪側のアクスルシャフト213Rを介して後輪205Rに伝達され、後輪205Rが回転駆動される。
【0102】
また、プロペラシャフト2と後輪側のアクスルシャフト213Lとは駆動力伝達装置1を介在させることなく連結されているため、フロントデフケース212とプロペラシャフト2との連結時にエンジン202の回転駆動力がプロペラシャフト2から後輪側のアクスルシャフト213Lを介して後輪205Lに伝達され、後輪205Lが回転駆動される。
【0103】
なお、プロペラシャフト2と後輪側のアクスルシャフト213Rとの連結を解除するには、駆動源419によってポンプ418を負方向に駆動し、メインシリンダ42a及びサブシリンダ42b内の潤滑油をオイルタンク43内に戻すことにより行われる。この場合、ポンプ418が駆動されると、サブシリンダ42b内の潤滑油が貫通孔41cに流出した後、貫通孔41cから凹溝41d及び油流動路417を流動してオイルタンク43に流出する。また、メインシリンダ42a内の潤滑油がパイロットピストン160の切り欠き160dに流出した後、切り欠き160dから油戻し路160bを流動して凹溝160eに流出し、さらに凹溝160eから貫通孔41c,凹溝41d及び油流動路417を流動してオイルタンク43に流出する。
【0104】
[第2の実施の形態の効果]
以上説明した第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態に示す効果と同様の効果が得られる。
【0105】
次に、本発明の第3実施の形態に係る駆動力伝達装置につき、図6を用いて説明する。図6は駆動力伝達装置を示す。図6において、図2と同一又は同等の機能をもつ部材については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0106】
図6に示すように、本発明の第3の実施の形態に係る駆動力伝達装置300は、第1の実施の形態に示す油導入路415に代え、クラッチ8側からメインシリンダ42aに作動油を導入するための油導入孔150bをメインピストン150に有する点に特徴がある。
【0107】
このため、油導入孔150bには、メインシリンダ42aからクラッチ8側(油貯溜空間42c)への作動油の流動を阻止するチェック弁45が配置されている。チェック弁45は、油導入孔150bを開閉する弁体450、及び油導入孔150bを閉塞する方向のばね力を弁体450に付与する復帰用スプリング451によって構成されている。
【0108】
このように構成された駆動力伝達装置300においては、四輪駆動車200の四輪駆動時(ポンプ418の正方向への駆動時)に第1の押付力付与機構15の作動に伴うメインピストン150のクラッチ8側への移動によってメインシリンダ42aが負圧になると、又はメインシリンダ42aの圧力が油貯溜空間42cの圧力よりも下がると、チェック弁45が開放されて油貯溜空間42cの作動油が油導入孔150bを流動してメインシリンダ42a側に導入される。
【0109】
従って、本実施の形態においては、第1の実施の形態及び第2の実施の形態に示すように装置ケース4外に必要とした略L字状の油導入路415が不要になり、オイルタンク43から油流動路417を介して凹溝41dに作動油を供給する場合の圧力損失を低減することができる。
【0110】
[第3の実施の形態の効果]
以上説明した第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態に示す効果に加えて次に示す効果が得られる。
【0111】
(1)オイルタンク43からサブシリンダ42bに作動油を供給する場合の圧力損失を低減することができるため、サブシリンダ42b及びメインシリンダ42aに供給される作動油の油量(油圧)が増加してパイロットピストン160及びメインピストン150の移動速度が高くなり、ハウジング12とインナシャフト13との連結時における応答性を高めることができる。
【0112】
(2)メインピストン150に油導入孔150bを有するため、例えば装置ケース4等に油導入路を設ける場合と比べて装置全体の大型化を阻止することができる。
【0113】
次に、本発明の第4実施の形態に係る駆動力伝達装置につき、図7及び図8を用いて説明する。図7は駆動力伝達装置を示す。図8はサブピストン(パイロットピストン)及びチェック弁の配置状態を示す。図7及び図8において、図2と同一又は同等の機能をもつ部材については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0114】
図7及び図8に示すように、本発明の第4の実施の形態に係る駆動力伝達装置400は、第2の実施の形態に示すシリンダ接続用の油戻し路160bに代え、バイパス用の油戻し路41fを装置ケース4(他方のケース41)に有する点に特徴がある。
【0115】
このため、バイパス用の油戻し路41fは、パイロットピストン160から回転軸線O回りに等間隔をもって並列し、他方のケース41に設けられている。そして、バイパス用の油戻し路41fは、メインシリンダ42aと凹溝41dとを接続する。
【0116】
バイパス用の油戻し路41fには、凹溝41dからメインシリンダ42aへの作動油の流動を阻止するチェック弁46が配置されている。チェック弁46は、バイパス用の油戻し路41fを開閉する弁体460、及び油戻し路41fを閉塞する方向のばね力を弁体460に付与する復帰用スプリング461によって構成されている。
【0117】
このように構成された駆動力伝達装置400においては、四輪駆動車200の四輪駆動状態から二輪駆動状態への切替時(ポンプ418の負方向への駆動時)にメインシリンダ42a側と凹溝41d側との間で作動油の油圧差が生じると、バイパス用の油戻し路41fのチェック弁46が開放されるため、メインシリンダ42aの作動油がバイパス用の油戻し路41fを流動して凹溝41dに流出される。また、メインピストン150がメインシリンダ42a側と凹溝41d側との間の圧力差によってクラッチ8側と反対側に移動すると、この移動方向にパイロットピストン160も移動するため、サブシリンダ42bの作動油が貫通孔41cを介して凹溝41dに流出される。
【0118】
従って、本実施の形態においては、パイロットピストン160に必要とした油戻し路160bが不要になるため、パイロットピストン160の圧力受面全体に油圧が均等に作用し、第2の実施の形態に示すようにパイロットピストン160にピストンガイド162が設けられている場合と比べてパイロットピストン160の移動(特に復帰動作)が円滑に行われる。
【0119】
[第4の実施の形態の効果]
以上説明した第4の実施の形態によれば、第1の実施の形態に示す効果に加えて次に示す効果が得られる。
【0120】
パイロットピストン160の圧力受面全体に油圧が均等に作用し、第2の実施の形態に示す場合と比べてパイロットピストン160の復帰動作が円滑に行われるため、ハウジング12とインナシャフト13との連結解除時の応答性を高めることができる。
【0121】
以上、本発明の駆動力伝達装置を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能であり、例えば次に示すような変形も可能である。
【0122】
(1)上記実施の形態では、第2の押付力付与機構16の作動によってインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81との間のクリアランスCを例えばC=0に短縮するための第2の押付力Pをメインピストン150に付与する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、第2の押付力付与機構16の作動によってクラッチ8にクラッチプレート同士のクリアランスが初期状態の場合と比べて小さくなるような第2の押付力Pをメインピストン150に付与してもよい。すなわち要するに、本発明は、第2の押付力付与機構がクラッチのクラッチプレート間隔を短縮するための第2の押付力をメインピストンに付与するものであればよい。
【0123】
(2)上記実施の形態では、ハウジング12が入力軸側に、またインナシャフト13が出力軸側にそれぞれ連結されている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、ハウジングを出力軸側に、またインナシャフトを入力軸側にそれぞれ連結しても本実施の形態と同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0124】
1…駆動力伝達装置、2…プロペラシャフト、3…駆動力断続装置、30…第1のスプライン歯部、31…第2のスプライン歯部、32…スリーブ、33,34…シール部材、4…装置ケース、40…一方のケース、40a…挿通孔、41…他方のケース、41a…挿通孔、41b…圧力センサ取付孔、41c…貫通孔、41d…凹溝、41e…凹部、41f…バイパス用の油戻し路、410…円筒部、411…蓋部材、412…止め輪、413,414…シール部材、415…油導入路、416…チェック弁、417…油流動路、418…ポンプ、419…駆動源、6…歯車機構、60…ドライブピニオン、61…リングギヤ、7…歯車機構、70…ドライブピニオン、71…リングギヤ、8…クラッチ、80…インナクラッチプレート、80a…ストレートスプライン嵌合部、80b…油孔、81…アウタクラッチプレート、81a…ストレートスプライン嵌合部、11…押付部材、11a…ストレートスプライン嵌合部、12…ハウジング、12a…円筒部、120a…ストレートスプライン嵌合部、12b…軸部、120b…凹孔、121a…切り欠き、122a…油流出口、13…インナシャフト、13a〜13c…円筒部(13bは胴部)、130a…ストレートスプライン嵌合部、13d,13e…段差面、15…第1の押付力付与機構、150…メインピストン、150a…凹溝、150b…油導入孔、151…復帰用スプリング、16…第2の押付力付与機構、160…パイロットピストン、160a…切り欠き、160b…シリンダ接続用の油戻し路、160c…環状空間、160d…切り欠き、160e…凹部、161…チェック弁、162…ピストンガイド、163…ガイド孔、20…玉軸受、21…針状ころ軸受、22…シール機構、23…スペーサ、24…針状ころ軸受、25…スペーサ、26〜28…針状ころ軸受、29…シール機構、42…収容空間、42a…メインシリンダ、42b…サブシリンダ、42c…油貯溜空間、43…オイルタンク、44…針状ころ軸受、45…チェック弁、450…弁体、451…復帰用スプリング、46…チェック弁、460…弁体、461…復帰用スプリング、100…駆動力伝達装置、200…四輪駆動車、201…駆動力伝達系、202…エンジン、203…トランスミッション、204L,204R…前輪、205L,205R…後輪、206…フロントディファレンシャル、207…リヤディファレンシャル、208L,208R…前輪側のアクスルシャフト、209L,209R…サイドギヤ、210…ピニオンギヤ、211…ギヤ支持部材、212…フロントデフケース、213L,213R…後輪側のアクスルシャフト、214L,214R…サイドギヤ、215…ピニオンギヤ、216…ギヤ支持部材、217…リヤデフケース、300,400…駆動力伝達装置、P…第1の押付力、P…第2の押付力、C…クリアランス、O…回転軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動源によって回転する第1の回転部材と、
前記第1の回転部材にその回転軸線に沿って相対回転可能に配置された第2の回転部材と、
前記第2の回転部材と前記第1の回転部材との間に介在して配置され、前記第1の回転部材と前記第2の回転部材とを断続可能に連結するクラッチと、
前記クラッチに第1の押付力を付与するメインピストンを有する第1の押付力付与機構と、
前記第1の押付力付与機構の作動に先行して作動し、前記クラッチのクラッチプレート間隔を短縮するための第2の押付力を前記メインピストンに付与するサブピストンを有する第2の押付力付与機構と
を備えた駆動力伝達装置。
【請求項2】
前記第1の押付力付与機構は、前記メインピストンのピストン径が前記サブピストンのピストン径よりも大きい寸法に設定されている請求項1に記載の駆動力伝達装置。
【請求項3】
前記第1の押付力付与機構は、前記メインピストンを進退可能に収容するメインシリンダを有し、
前記第2の押付力付与機構は、前記メインシリンダに連通して前記サブピストンを進退可能に収容するサブシリンダを有し、前記サブシリンダがポンプを介してオイルタンクに接続されている請求項1又は2に記載の駆動力伝達装置。
【請求項4】
前記第2の押付力付与機構は、前記サブピストンに前記メインシリンダから前記サブシリンダに作動油を戻すためのシリンダ接続用の油戻し路が設けられている請求項3に記載の駆動力伝達装置。
【請求項5】
前記第2の押付力付与機構は、前記サブピストンが前記サブシリンダとの間に前記サブシリンダから前記メインシリンダに作動油を流出させるための油流出路を有する請求項3又は4に記載の駆動力伝達装置。
【請求項6】
前記第1の押付力付与機構は、前記メインシリンダに前記オイルタンクから作動油を導入するための油導入路が接続されている請求項3乃至5のいずれか1項に記載の駆動力伝達装置。
【請求項7】
前記第1の押付力付与機構は、前記メインピストンが前記クラッチ側から前記メインシリンダに作動油を導入するための油導入孔を有する請求項3乃至5のいずれか1項に記載の駆動力伝達装置。
【請求項8】
前記第2の押付力付与機構は、前記サブシリンダに連通する環状空間、及び前記メインシリンダから前記環状空間に作動油を戻すためのバイパス用の油戻し路を有する請求項3乃至6のいずれか1項に記載の駆動力伝達装置。
【請求項9】
前記第2の押付力付与機構は、前記環状空間が前記ポンプを介して前記オイルタンクに接続されている請求項8に記載の駆動力伝達装置。
【請求項10】
前記第1の押付力付与機構は、前記メインピストンが前記メインシリンダを介して前記バイパス用の油戻し路に連通する環状の凹溝を有する請求項8又は9に記載の駆動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−76460(P2013−76460A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−69532(P2012−69532)
【出願日】平成24年3月26日(2012.3.26)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】