説明

騒音低減装置及び方法

【課題】乗員の位置が変化した場合であっても、当該変更後の位置における騒音を効果的に低減できる騒音低減装置等を提供する。
【解決手段】騒音低減装置は、車体の振動を検出する加速度センサ4と、車室内の騒音を低減させる振動又は音響を発生するピエゾアクチュエータ5と、検出された振動に応じて、ピエゾアクチュエータ5で発生させる振動又は音響を制御する制御指令値を演算するコントローラ11と、車室内における乗員位置情報を取得する赤外線カメラ6a,6bとを備え、赤外線カメラ6a,6bによって取得された乗員位置において静音化制御効果が得られるようにコントローラ11によって制御指令値を調節し、ピエゾアクチュエータ5によって発生させる振動又は音響を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室内における騒音を振動又は音響を発生させることによって低減する騒音低減装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車室内騒音を低減することを目的としてフィードバック制御を行う技術として、下記の特許文献1などが知られている。この特許文献1には、マイクを使って実際の騒音を検出して、当該騒音のうち100Hz以下の低周波帯域のロードノイズを低減する動作をしている。この技術は、低周波帯域のロードノイズが、車室内音場の音響モードを原因として発生していると仮定をした上で、当該音響モードの腹にマイクロフォンを設置してフィードバック制御によって当該音響モードを打ち消す方式である。
【0003】
また、下記の特許文献2に記載されているように、マイクロフォンを車室内に設置し、マイクロフォンから得た騒音信号を、フィードバックコントローラを用いて打ち消す技術も知られている。
【0004】
更に、下記の特許文献3に記載されているように、車室内騒音を低減することを目的としてフィードフォワード制御を行う技術が知られており、当該特許文献3には、座席ヘッドレスト部に備えたマイクを使ってエラー信号を検出し、ドアヒンジ部の加速度センサから参照信号を検出することで、適応フィルタにより、車室内騒音の低減を図っている。
【特許文献1】特開2000−322066号公報
【特許文献2】特開2000−32206号公報(図10等)
【特許文献3】特開平8−292771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した技術では、音響モードを検出し、その音響モードに対して制御をしているため、音響モードが正確に特定できる低周波帯域の騒音に対してしか低減できず、実際には、上記従来例では40Hzおよび80Hzのいわゆるドラミングノイズをのみ制御対象として扱っているという問題がある。
【0006】
また、マイクロフォンから得た騒音信号をフィードバックする上述の特許文献1,2の技術では、マイクロフォンの設置位置に応じて騒音を低減させる効果を実現しようとしており、マイクロフォンが設けられていない空間の騒音を低減させることができないという問題がある。更に、フィードフォワード型の特許文献3に記載の技術についても、マイクロフォンを用いているため、例えばマイクロフォンが騒音検出をしている乗員の頭部位置以外の場所では騒音を低減する効果を得られないという問題点があった。
【0007】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑みて提案されたものであり、乗員の位置が変化した場合であっても、当該変更後の位置における騒音を効果的に低減できる騒音低減装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る騒音低減装置は、車体の振動を検出する振動検出手段と、車室内の騒音を低減させる振動又は音響を発生する騒音低減手段と、振動検出手段によって検出された振動に応じて、騒音低減手段で発生させる振動又は音響を制御する制御指令値を演算する制御指令値演算手段と、車室内における乗員位置情報を取得する乗員位置取得手段とを備え、上述の課題を解決するために、乗員位置取得手段によって取得された乗員位置において静音化制御効果が得られるように制御指令値演算手段によって制御指令値を調節し、騒音低減手段によって発生させる振動又は音響を制御する。
【0009】
また、本発明に係る騒音低減方法は、車室内における騒音を振動又は音を発生させて低減させるに際して、上述の課題を解決するために、車体の振動を検出すると共に、車室内における乗員位置情報を取得するステップと、取得された乗員位置において静音化制御効果が得られるように、振動又は音響を発生させる騒音低減手段に供給する制御指令値を調整するステップと、調整された制御指令値を騒音低減手段に供給するステップとを有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、乗員位置を取得して、当該乗員位置において静音化制御効果が得られるように制御指令値を調節し、騒音低減手段によって発生させる振動又は音響を制御するので、乗員の位置が変化した場合であっても、当該変更後の位置における騒音を効果的に低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0012】
[第1実施形態]
本発明は、例えば図1乃至図3に示すように、車室内の制御空間P1,P2間で乗員の位置が変更する場合に、当該変更後の騒音を低減する騒音低減装置に適用される。
【0013】
この第1実施形態に係る騒音低減装置は、図1乃至図3に示すように、車体の振動を検出する振動検出手段である加速度センサ4と、車室内の騒音を低減させる振動を発生する騒音低減手段であるピエゾアクチュエータ(Piezo-electric actuator)5と、加速度センサ4によって検出された振動に応じて、ピエゾアクチュエータ5で発生させる振動を制御する制御指令値を演算する制御指令値演算手段であるコントローラユニット7と、車室内における乗員位置情報を取得する乗員位置取得手段である赤外線カメラ6a,6bとを備え、赤外線カメラ6a,6bによって取得された乗員位置において静音化制御効果が得られるようにコントローラユニット7によって制御指令値を調節し、ピエゾアクチュエータ5によって発生させる振動を制御することを特徴とする。なお、この実施の形態では、騒音低減手段として、振動を発生させるものを説明するが、直接的に音響を発生させることによって騒音を低減させるようにしても良い。
【0014】
通常、車室外部から侵入する車室内騒音の原因は、代表的なものとして、エンジン3の振動に起因するエンジン騒音、走行時に路面の凹凸の影響がタイヤ2からフロアパネル1に進入することに起因するロードノイズ騒音、走行時に空気の気流によって発生する風切音などがある。
【0015】
本発明では主にロードノイズの低減を目的とする。図1に路面の凹凸の影響による車体の振動およびロードノイズ騒音の主な伝播経路を示す。タイヤ2から車体に進入したロードノイズの主成分となる振動は、まず車軸およびサスペンション取り付け点からメンバと呼ばれる剛性の高い梁状の部材に進入する。その後、メンバによって囲まれたフロアパネル1と呼ばれる比較的剛性の低い板状の部材に振動が伝播し、このフロアパネル1が振動する。さらに、フロアパネル1の膜振動により車室内の空気振動が引き起こされ、車室内に共振現象を起こすために、車室内所定空間(制御空間)P1,P2においてロードノイズ騒音が聞こえてしまう。フロアパネル1の他にルーフパネルや窓ガラスが振動することにより騒音が発生するが、サスペンション取り付け部から主に進入するロードノイズの大部分は、フロアパネル1の振動が原因となっていることがわかっている。
【0016】
そのために、騒音低減装置は、フロアパネル1に加速度センサ4を配置して制御空間P1,P2における騒音の推定を行い、ピエゾアクチュエータ5に対する制御指令信号を生成し、当該ピエゾアクチュエータ5の振動による制御音を車室内に入力する。そのため、制御対象としてフロアパネル1が起因となるロードノイズを中心に扱う。なお、フロアパネル1を発生源となる騒音には制御対象としてすべて含まれるため、エンジン3の騒音の一部や車体底部を流れる空気が発生する風切音についても同様に扱うことができる。また、本発明の効果の範囲はフロアパネル1の振動による騒音低減の範疇にはとどまらず、例えばダッシュパネルやフロントガラス、さらにルーフパネルといった同じメカニズムで発生する車室内騒音発生源に対しても、当該部位に加速度センサ4及びピエゾアクチュエータ5を設ければ、同様に、当該部位の振動によって発生する騒音を低減させることができる。
【0017】
図3に示すように、コントローラユニット7は、フロアパネル1の振動をセンサ信号として加速度センサ4から入力すると共に、乗員の頭部位置を表す赤外線信号を赤外線カメラ6a,6bから入力し、後述する演算処理を行うことによって制御空間P1,P2における騒音を低減させる制御指令値を求めて、ピエゾアクチュエータ5を駆動させてフロアパネル1に振動を与える。なお、この実施の形態においては、乗員位置、乗員の頭部位置を検出しているが、これに限らず、更に高い精度で乗員の位置特定ができるようであれば、乗員の耳位置を検出するものであっても良い。
【0018】
赤外線カメラ6a,6bは、フロントガラス上部に設置された乗員位置センサであり、制御空間P1,P2を含む車室内を撮像して、赤外線信号をコントローラユニット7に供給する。この赤外線信号は、コントローラユニット7におけるアンプ12で信号増幅された後に、CPU(Central Processing Unit)等の制御指令値を演算する演算回路であるコントローラ11に供給される。また、加速度センサ4で検出された加速度信号は、コントローラユニット7におけるアンプ13で信号増幅された後に、コントローラ11に供給される。
【0019】
コントローラ11は、赤外線カメラ6a,6bからの赤外線信号から、現在の乗員の頭部位置を取得して、当該乗員の頭部位置が存在している制御空間P1,P2における騒音を加速度センサ4で検出された加速度信号から推定し、当該制御空間P1,P2における騒音を低減するような制御指令値を演算する。この制御指令値は、アンプ14を介してピエゾアクチュエータ5に供給させて、ピエゾアクチュエータ5を駆動させる。
【0020】
このコントローラ11は、図3に示すように、入力スイッチ21、騒音推定装置22A,22B、演算器23A,23B、出力スイッチ24、切り替えトリガ生成器25から構成される。このコントローラ11は、制御空間P1,P2と騒音推定装置22A,22B及び演算器23A,23Bで制御指令値を演算するパラメータとの対応関係を設定しておき、入力スイッチ21及び出力スイッチ24を乗員の頭部位置によって切り替え、騒音推定装置22A,22B及び演算器23A,23Bによる演算パラメータを切り替える切り替え則を有する。なお、この実施の形態においては、制御空間P1,P2という2個の空間において制御指令値を演算するパラメータを切り替える例について説明しているために、2個の騒音推定装置22A,22B、演算器23A,23Bを備えている場合を示しているが、これに限らず、乗員頭部位置をより精度良く取得して制御空間を細かく区分する場合には、更に多くの騒音推定装置、演算器を備えていても良いのは勿論である。
【0021】
切り替えトリガ生成器25には、図2に示すように、乗員頭部が移動し得る制御空間P1,P2の情報が保持されている。切り替えトリガ生成器25は、赤外線カメラ6a,6bからの赤外線信号である乗員頭部を撮像した画像情報から乗員頭部の位置を計算して、予め保持しておいた制御空間P1,P2の何れかに現在乗員頭部が属しているかを判断する。切り替えトリガ生成器25は、例えば赤外線カメラ6a,6bが遠赤外カメラからなる場合、当該赤外線カメラ6a,6bから赤外線信号として熱画像データを入力する。そして、切り替えトリガ生成器25は、熱画像データのうち温度が大きく変化する境界線を検出し、当該境界線と人間の温度分布とに基づいて、乗員の有無及び乗員の頭部位置を検知する。なお、乗員の有無は、運転席を除く他の座席のみについて判断すれば良い。
【0022】
その結果、乗員頭部が存在している制御空間P1,P2に応じた騒音推定装置22A,22B及び演算器23A,23Bを選択するために、入力スイッチ21及び出力スイッチ24を切り替える信号を出力する。
【0023】
また、切り替えトリガ生成器25は、センサ信号である赤外線信号から乗員位置、乗員の頭部位置を検出するのではなく、乗員の姿勢から乗員位置、乗員の頭部位置を推定しても良い。例えば、平均的な体格の乗員の場合には、ヘッドレスト位置を検出して、当該ヘッドレスト位置を基準として乗員頭部の位置を推定する。このヘッドレスト位置は、シート前後位置とシートバック角度を検出して、一義的に算出することができる。また、乗員の背の高さを推定した上で、乗員位置、乗員の頭部位置を推定しても良い。すなわち、背の低い乗員の場合には、ヘッドレスト位置よりも頭部位置が低くなり、逆に背の高い人の場合にはヘッドレストの位置よりも頭部位置が高くなる。例えば切り替えトリガ生成器25は、シート前後位置やシートのリフト量から、シートが前方且つリフト量が大きい場合には背が低いと推定する。そして、背が低いほどヘッドレスト位置に対して低い位置に乗員の頭部位置が存在すると推定する。
【0024】
騒音推定装置22Aは、加速度信号と制御指令値とを用いて、制御空間P1における騒音を推定し、騒音推定装置22Bは、加速度信号と制御指令値を用いて、制御空間P2における騒音を推定する。ここで、2つの騒音推定装置22A,22Bは、それぞれ制御空間P1,P2における音圧を推定する。また、演算器23A,23Bは、推定された騒音を低減させる制御指令値を計算して、出力スイッチ24を介してピエゾアクチュエータ5に供給する。
【0025】
騒音推定装置22A,22Bは、図5に示すように、制御指令信号から加速度センサ4の位置での振動の伝達関数の演算を行う制御指令→振動演算部31、加算器32、加速度センサ4の位置での振動から制御空間P1,P2での騒音の伝達関数の演算を行う振動→音圧演算部33、制御指令信号から制御空間P1,P2での騒音の伝達関数の演算を行う制御指令→音圧演算部34、加算器35を備える。
【0026】
この騒音推定装置22A,22Bは、入力信号として、加速度信号と制御指令信号とを入力する。必要な数の加速度センサ4を適切な位置に配置し、車室内の騒音と加速度信号の間のコヒーレンスが1に近ければ加速度信号から騒音を推定することができると判断できる。具体的には、コヒーレンスCxyは、下記の式1に示すように、
【数1】

【0027】
のような関数で記述される。ここで、xは加速度センサ4の出力ベクトル、yは制御空間P1,P2での音圧、Sxyはxとyとの間のクロススペクトル密度、Sxxはxのクロススペクトル密度、Syyはパワースペクトル密度を表す。この式1より、コヒーレンスCxyが所定の基準値(例えば0.9)以上になるように加速度センサ4を配置している。以上により、騒音推定装置22A,22Bは、加速度信号と制御指令信号から制御空間P1,P2での推定された騒音を得ることができる。
【0028】
例えば、制御指令→音圧演算部34で用いる制御指令信号から制御空間P1,P2での音圧までの伝達関数は、まず、ピエゾアクチュエータ5をフロアパネル1に設置すると共にマイクロフォン(図示せず)を制御空間P1,P2に設置し、ピエゾアクチュエータ5に、サンプルとしての振動を発生させる所定のM系列信号を入力し、当該M系列信号とマイクロフォンの検出信号とを計測する。そして、得られたM系列信号及びマイクロフォンの検出信号に対し、例えば制御系設計CAD「MATLAB」上で動作する「System Identification Toolbox」を用いることで、例えば下記の式2,式3の離散時間状態空間モデルである
【数2】

【0029】
の形式でモデル化がなされる。ここで、式2のx(t)はモデルの状態変数、u(t)はピエゾアクチュエータ5へのM系列信号、式3のy(t)は制御空間P1,P2での音圧を表し、マトリクスA,B,C,Dはそれぞれモデルのパラメータマトリクス、nはサンプル時刻を表す。
【0030】
あるいは、制御系設計CAD「MATLAB」上で動作するSDTOOLS社製「Structural Dynamical Toolbox」を用いてモード解析によるシステム同定を行っても良い。この場合は、入出力信号をフーリエ変換することで得られる周波数領域でのノンパラメトリックな伝達関数を予め計算しておき、上記のMATLABToolboxを用いることで制御指令→音圧演算部34で用いる伝達モデルを得ることができる。実際に上記の方法で得た伝達関数の周波数特性は、図7のようになる。
【0031】
振動→音圧演算部33で用いる伝達関数は、まず、予めフロアパネル1上に加速度センサ4を設置すると共に制御空間P1,P2にマイクロフォンを設置し、ロードノイズが発生しやすい路面を一定速で走行させ、得られた加速度信号とマイクロフォン信号に対し、上記の制御系設計CAD「MATLAB」上で動作する「System Identification Toolbox」を用いることで、離散時間状態空間モデルとして得られる。
【0032】
次に、図6に示すブロック線図を用いて演算器23A,23Bにおける演算パラメータの設計方法を説明する。ここで、設計対象となる演算器41には信号Bが入力され、ピエゾアクチュエータ5への制御指令信号を出力する。制御指令信号は伝達関数モデル42に入力される。伝達関数モデル42は、上述の手順でモデル化した「ピエゾアクチュエータ5の制御指令信号から制御空間P1,P2での騒音までの伝達特性」を示すモデルである。伝達関数モデル42から出力される信号と信号A(外乱)とが重ねあわされて信号B(車室内騒音)となる。この信号Aから信号Bまでの伝達特性は「感度関数」と呼ばれる関数であり、当該信号Aから信号Bまでの伝達特性が所望の周波数帯域において小さくなるように演算器41を設計することによって、適切な演算パラメータを設定できる。このような設計方法としては、例えば、PID制御、H2制御、H∞制御などが挙げられる。また、
細江、荒木、「制御系設計、H∞制御とその応用」、朝倉書店、1994
須田、「PID制御」、朝倉書店、1992
に記載されている設計方法を用いることで、下記の式4の形式のI次動的コントローラKi,i=1,・・・,Iを設計することが出来る。
【数3】

【0033】
この式4において、u(n)は時刻nでの制御指令値、y(i)は推定した騒音を表す信号Aを表す。
【0034】
このようなコントローラ11において、騒音推定装置22A,22Bは、図5に示すように、制御指令信号を制御指令→振動演算部31で入力すると、制御指令によってピエゾアクチュエータ5が振動して加速度センサ4が検知する振動を演算して、加算器32に供給する。加算器32には、加速度センサ4で検知された実際の振動と制御指令→振動演算部31で演算された振動とを加算して、振動→音圧演算部33に供給する。振動→音圧演算部33は、車両が走行していることによる振動とピエゾアクチュエータ5が動作したことによる振動とを加算した振動から、制御空間P1,P2における騒音(音圧)を演算して、加算器35に供給する。一方、制御指令信号は制御指令→音圧演算部34に供給される。制御指令→音圧演算部34は、ピエゾアクチュエータ5が振動したことによる制御空間P1,P2における騒音(音圧)を演算して、加算器35に供給する。加算器35は、ピエゾアクチュエータ5から制御空間P1,P2への騒音と、フロアパネル1から制御空間P1,P2への騒音とを加算して、制御空間P1,P2での騒音を出力する。
【0035】
騒音推定装置22A,22Bで推定された騒音は、演算器23A,23Bにおいて入力され、演算器23A,23Bは、推定された騒音から、図6を参照して説明したような伝達関数によって当該騒音を低減させるピエゾアクチュエータ5の制御指令値を演算して、ピエゾアクチュエータ5に出力する。
【0036】
つぎに、上述した騒音低減装置の動作手順について図8及び図9のフローチャートを参照して説明する。
【0037】
騒音低減装置のコントローラ11は、図8に示すように、先ずステップS1乃至ステップS3において、加速度信号の入力(ステップS1)、ピエゾアクチュエータ5への制御指令信号の入力(ステップS2)、赤外線カメラ6a,6bからの赤外線信号の入力(ステップS3)を行う。
【0038】
次にコントローラ11の切り替えトリガ生成器25は、ステップS4において、ステップS3で取得した赤外線カメラ6a,6bからの赤外線信号から、現在における乗員頭部位置が制御空間P1,P2の何れに存在するかを判定する。この判定結果に応じて、切り替えトリガ生成器25は、入力スイッチ21及び出力スイッチ24を切り替え制御して、騒音推定装置22A,22B、演算器23A,23Bの何れかによって制御指令信号を生成させるかを制御する。
【0039】
次にコントローラ11は、ステップS5において、ステップS4で切り替えトリガ生成器25によって切り替えられた騒音推定装置22A,22Bで制御空間P1,P2における騒音を推定し、ステップS6において、演算器23A,23Bによって騒音を低減させるようなピエゾアクチュエータ5の制御指令値を演算し、ステップS7において、当該制御指令値をピエゾアクチュエータ5に出力して、ピエゾアクチュエータ5でフロアパネル1を振動させる。
【0040】
ステップS4における制御空間P1,P2の選択処理は、図9に示すように、先ずステップS11において、切り替えトリガ生成器25により、車室内の赤外線カメラ6a,6bからの赤外線信号を用いて乗員の頭部位置を計算する。
【0041】
次のステップS12において、切り替えトリガ生成器25は、ステップS11で計算した乗員の頭部位置が、予め設定した制御空間P1,P2の何れかに存在するか否かを判定する。双方の制御空間P1,P2に乗員の頭部位置が存在しない場合又は判定できない場合にはステップS12からステップS14に処理を進め、制御空間P1,P2の何れかに存在する場合にはステップS12からステップS13に処理を進める。このとき、切り替えトリガ生成器25は、図2に示した制御空間P1,P2の仮想的な座標軸上において乗員の頭部位置を決定する。この乗員の頭部位置の判定は、車両前後方向のみならず、車両幅方向においても行って、乗員の頭部位置が制御空間P1,P2に存在するかを判定する。
【0042】
ステップS13において、切り替えトリガ生成器25は、赤外線画像と当該赤外線画像において制御空間P1,P2を示す座標データである空間マップとを照合して、乗員の頭部位置が存在する空間番号(P1,P2)を出力する。これによって、入力スイッチ21及び出力スイッチ24は、乗員の頭部位置が制御空間P1に存在することを表す空間番号「P1」を入力した場合には騒音推定装置22A及び演算器23Aを動作させ、乗員の頭部位置が制御空間P2に存在することを表す空間番号「P2」を入力した場合には騒音推定装置22B及び演算器23Bを動作させようなスイッチ切り替え動作を行う。そして、ステップS13の後、処理を図8のステップS5に移行する。
【0043】
一方、ステップS14において、コントローラ11は、赤外線カメラ6a,6bからの赤外線信号が所定範囲外の異常値を示しているか否かを判定することで赤外線カメラ6a,6bが故障しているか否かを判定し、故障している場合にはステップS15に処理を進めて、予め設定されている基準位置を乗員の頭部位置が存在する空間として空間番号を入力スイッチ21及び出力スイッチ24に出力する。この基準位置とは、例えば、図2に示す制御空間P1,P2の境界位置などが挙げられる。また、ステップS14において赤外線カメラ6a,6bが故障していないと判定した後のステップS16において、前回にステップS13で認識された空間番号を入力スイッチ21及び出力スイッチ24に出力する。
【0044】
なお、この制御空間Pを選択する処理においては、乗員の頭部位置が変化した場合に、当該変化に応じて空間番号を変更して入力スイッチ21及び出力スイッチ24を制御していたが、これに限らず、図10に示すように、乗員の頭部位置と制御空間P1,P2に応じた伝達関数であるパラメータとの切り替えタイミングとの間にヒステリシスな関係を持たせた切り替え則としても良い。この切り替え則は、乗員の頭部位置が制御空間P1から制御空間P2に移動するときと、制御空間P2から制御空間P1に移動するときとで切り替えるタイミングをずらすことにより、両空間の間の切り替え地点に乗員の頭部位置がとどまるときに、制御空間の不安定な切り替えが断続して発生することを防ぐ。
【0045】
このように、本発明を適用した騒音低減装置によれば、図11に示すように、乗員の頭部位置が車両後方の制御空間P2に存在し、乗員の耳位置の制御点にて制振制御を行ったときにおいて、当該制御点周辺位置での制御効果(静音化制御効果)を得ることができる。図11中の縦軸上端は車両のルーフ位置、縦軸下端はフロアパネル1の位置、制御空間P1の前端、横軸右端は制御空間P2の後端である。図11によれば、制御点(乗員頭部位置)において制御効果が大きくなっており、当該制御点から離れるにつれて制御効果が減少していることがわかる。したがって、乗員頭部位置が制御効果のほとんど得られなかった空間に移動した場合、新たな乗員頭部位置での静音化制御効果を大きくするように入力スイッチ21及び出力スイッチ24を切り替えて、騒音推定装置22A,22B及び演算器23A,23Bで演算する制御指令値を変更することで、常に乗員の頭部位置における騒音を効果的に低減させることができる。
【0046】
以上詳細に説明したように、本発明を適用した第1実施形態に係る騒音低減装置によれば、乗員位置を取得して、当該位置における騒音を低減できるために、乗員姿勢が変化した場合であっても高い騒音低減効果(静音化制御効果)を得ることができ、低周波帯の騒音のみならず、より高周波のロードノイズも低減できる。
【0047】
また、この騒音低減装置によれば、乗員頭部位置を取得して、当該乗員頭部位置における静音化制御効果が得られるようにピエゾアクチュエータ5を駆動するので、乗員の耳位置における騒音を効果的に低減できる。
【0048】
更に、この騒音低減装置によれば、乗員頭部位置が存在しうる空間を制御空間P1,P2といったように複数の部分に分割して、制御空間P1,P2ごとに騒音推定装置22A,22B及び演算器23A,23Bを切り替えて制御指令値を演算するパラメータを切り替えるので、粗い精度で乗員頭部位置を検出しても効果的に騒音を低減できる。
【0049】
更にまた、この騒音低減装置によれば、乗員頭部位置の変更に応じた制御指令値を演算するパラメータの切り替えにヒステリシスを持たせたために、制御空間P1と制御空間P2との境界付近において断続的に制御指令値を演算するパラメータが切り替わることを防ぐことができる。
【0050】
更にまた、この騒音低減装置によれば、乗員位置が予め設定した範囲外となった場合に、当該範囲外となる直前の乗員位置を保持して、当該直前の乗員位置によって制御指令値を演算するので、赤外線カメラ6a,6bの赤外線画像によって乗員位置を求める場合、当該赤外線カメラ6a,6bで認識できない範囲に乗員位置が移動した場合であっても、乗員位置に近い空間の騒音を低減できる。
【0051】
更にまた、この騒音低減装置によれば、乗員位置が予め設定した範囲外又は異常な位置となった場合に、当該予め設定した範囲における基準位置によって制御指令値を演算するので、赤外線カメラ6a,6bが故障した場合であっても、基準位置を乗員位置に設定して安定した制御によって、効果的に騒音を低減できる。
【0052】
[第2実施形態]
つぎに、本発明を適用した第2実施形態に係る騒音低減装置について説明する。この第2実施形態に係る騒音低減装置は、図12に示すように、乗員位置を検出する制御空間Pとして、端点Pa、Pb、Pc、Pdを設けて当該端点Pa、Pb、Pc、Pdで囲まれる制御空間Pにおけるどの位置に乗員の頭部位置が存在するかを判定することによって、位置精度の高い騒音低減の制御を行うものである。なお、上述の実施形態と同様の部分については同一符号を付することによりその詳細な説明を省略する。
【0053】
第2実施形態に係る騒音低減装置は、図13に示すように、赤外線カメラ6a,6bからの赤外線信号を入力して制御空間Pにおける乗員頭部位置rを計算する頭部位置計算装置51と、加速度信号及び制御指令信号を入力して乗員頭部位置rにおける騒音を推定する騒音推定装置52と、制御指令信号を生成する演算器53とを備える。騒音推定装置52は、頭部位置計算装置51で演算された乗員頭部位置rが供給されると、当該乗員頭部位置rに応じて演算パラメータを変更するようなモデル形式をもっており、演算器53も同様に、乗員頭部位置rに応じて制御指令値を演算するパラメータを変更する。
【0054】
騒音推定装置52は、図14に示すように、制御指令→振動演算部61と振動→音圧演算部62と制御指令→音圧演算部63とを備え、当該制御指令→振動演算部61、振動→音圧演算部62、制御指令→音圧演算部63のそれぞれに乗員頭部位置rを入力する。これによって、制御指令→振動演算部61、振動→音圧演算部62、制御指令→音圧演算部63は、頭部位置計算装置51で演算された乗員頭部位置rが連続的に変更することに応じて、伝達関数におけるパラメータを連続的に変更する。また、演算器53は、頭部位置計算装置51で演算された乗員頭部位置rが連続的に変更することに応じて、制御指令信号を演算するパラメータを連続的に変更して、制御指令信号を連続的に変化させる。これによって、ピエゾアクチュエータ5から発生する振動は、乗員頭部位置rの変化によって連続的に調整される。
【0055】
このような制御空間Pの端点Pa、Pb、Pc、Pd及び制御空間Pのルーフ方向における頂点を乗員頭部位置として制御指令→振動演算部61、振動→音圧演算部62、制御指令→音圧演算部63のパラメータを設定しておき、検出又は推定した乗員頭部位置rに応じて、頂点におけるパラメータを補間して、実際の乗員頭部位置rでのパラメータを生成する。
【0056】
この騒音推定装置52及び演算器53を設計するためには、先ず、制御空間Pの端点Pa、Pb、Pc、Pd及び制御空間Pのルーフ方向における頂点を設定しておき、騒音推定装置52の制御指令→振動演算部61、振動→音圧演算部62、制御指令→音圧演算部63、演算器53に対してLPV(Linear Parameter Varying)システム形式でシステム同定を行う。すなわち、入力u、出力y、状態変数xに対する状態空間モデルを下記の式5及び式6のように表現する。
【数4】

【0057】
このシステム同定は、例えば制御系設計CAD「MATLAB」上で動作する「System Identification Toolbox」を用いることで行う。また、同CADを用いて、極と零点を指定した伝達関数表現としてモデルを作ることもできる。この式5,式6における、θは乗員頭部位置rである変動パラメータであり、θの動く範囲は図12の制御空間P内として定義されている。A(θ)、B(θ)、C(θ)、D(θ)はそれぞれモデルを表す係数であり、乗員頭部位置rにより変動させる。そして、各係数A(θ)、B(θ)、C(θ)、D(θ)に対して乗員頭部位置rが線形もしくはアファインな形で表現できていないときは、乗員頭部位置rが移動し得る制御空間Pの中心位置の周りで線形化しておく。
【0058】
上記の方法でLPVシステムとして実現されたモデルに対して、例えば公知の論文「P. Apkarian et. al. ; "Self-scheduled Control of Linear Parameter-varying Systems: a Design Example", Automatica, Vol. 31, No. 9, pp. 1251-1261, 1995」に記載されている手法を用いる。これにより、コントローラ11は、予めオフラインで騒音推定装置52の制御指令→振動演算部61、振動→音圧演算部62、制御指令→音圧演算部63及び演算器53を設計しておけば、乗員頭部位置rの移動し得る制御空間Pの端点Pa、Pb、Pc、Pdで線形補間として、乗員頭部位置rが制御空間Pの内部に存在した場合の騒音推定装置52の制御指令→振動演算部61、振動→音圧演算部62、制御指令→音圧演算部63及び演算器53をオンラインで設計することができる。上記論文で示された方法は、制御系設計CAD「MATLAB」上の「Robust Control Toolbox」を用いることで設計することができる。これによって、オンラインで行う騒音推定装置52の制御指令→振動演算部61、振動→音圧演算部62、制御指令→音圧演算部63及び演算器53の計算は和積演算に過ぎないために、車両走行時における計算量を少なくできる。
【0059】
したがって、騒音推定装置52の制御指令→振動演算部61、振動→音圧演算部62及び制御指令→音圧演算部63、演算器53は、乗員頭部位置rをリアルタイムで頭部位置計算装置51から取得して、上述の方法で設計したモデルおよびコントローラに代入することにより、リアルタイムで騒音推定装置52及び演算器53によって乗員頭部位置rに応じたパラメータを設定できる。
【0060】
このような騒音低減装置のコントローラ11は、図15に示すように、先ず加速度信号の入力(ステップS21)、ピエゾアクチュエータ5への制御指令信号の入力(ステップS22)、赤外線カメラ6a,6bからの赤外線信号の入力(ステップS23)を行う。
【0061】
次にコントローラ11の頭部位置計算装置51は、ステップS24において、ステップS23で取得した赤外線カメラ6a,6bからの赤外線信号から、現在における制御空間P内の乗員頭部位置rを計算して、騒音推定装置52及び演算器53に出力する。
【0062】
次にコントローラ11は、ステップS25において、騒音推定装置52により、ステップS24で頭部位置計算装置51によって計算された乗員頭部位置rにおける騒音を推定し、演算器53により、ステップS26において、ステップS25で推定された乗員頭部位置rにおける騒音を低減させるようなピエゾアクチュエータ5の制御指令値を演算し、ステップS27において、当該制御指令値をピエゾアクチュエータ5に出力して、ピエゾアクチュエータ5でフロアパネル1を振動させる。
【0063】
このような動作におけるステップS25の騒音推定装置52における処理は、図16に示すように、先ずステップS31において頭部位置計算装置51から乗員頭部位置rを示す信号を入力し、ステップS32において、制御指令→振動演算部61、振動→音圧演算部62及び制御指令→音圧演算部63におけるパラメータの変更を行い、ステップS33において、制御指令→振動演算部61、振動→音圧演算部62及び制御指令→音圧演算部63でそれぞれの乗員頭部位置rに応じたパラメータで演算を行う。これによって、ステップS34において、推定した騒音(音圧)を示す信号を演算器53に供給する。
【0064】
このような第2実施形態に係る騒音低減装置によれば、制御空間P内における乗員頭部位置rを計算して、騒音推定装置52及び演算器53のパラメータを連続的に変更できるので、乗員頭部位置rを正確に測定し、その乗員頭部位置rに応じた伝達モデルによる演算を行うことができ、より効果的に騒音の低減を実現できる。
【0065】
[第3実施形態]
つぎに、第3実施形態に係る騒音低減装置について説明する。この第3実施形態に係る騒音低減装置は、フィードフォワード型の制御によって、乗員頭部位置における騒音を低減するものである。なお、上述の実施形態と同様の部分については同一符号を付することによりその詳細な説明を省略する。
【0066】
第3実施形態に係る騒音低減装置は、図17に示すように、制御空間Pにおける実際の騒音を測定するためのセンサとしてマイクロフォン71を備える。このマイクロフォン71で検出した制御空間Pにおける騒音は、コントローラユニット7で検知される。
【0067】
コントローラユニット7は、マイクロフォン71からの音響信号をアンプ81で受信すると共に、ピエゾアクチュエータ5への制御指令信号をアンプ82から送信し、加速度センサ4で検知した路面の凹凸に応じた加速度信号をアンプ83で受信する。このコントローラユニット7は、アンプ81を介してマイクロフォン71からの音響信号を適応則演算部84で受信して、当該音響信号に応じて適応フィルタ85におけるフィルタ係数を変更させる。
【0068】
このコントローラユニット7は、図18に示すように、適応則演算部84及び適応フィルタ85が単一の演算回路で構成され、伝達関数演算部91,伝達関数演算部92と接続されている。伝達関数演算部91は、加速度センサ4からの加速度信号から制御空間Pで発生している騒音までの伝達関数の演算を行い、伝達関数演算部92は、ピエゾアクチュエータ5への制御指令信号から制御空間Pで発生している騒音までの伝達関数の演算を行う。このような構成において、騒音低減装置は、加速度センサ4で得られた加速度信号をx(n)、路面から車体に入力される外乱によって制御空間Pで発生する騒音をy(n)、マイクロフォン71で得られた音響信号、すなわち低減されていなくマイクロフォン71で検知された音響信号を誤差信号e(n)とする。ここで、nはサンプル時刻を表す。また、適応フィルタ85の伝達モデルW(z)、伝達関数演算部91伝達モデルG(z)、伝達関数演算部92の伝達モデルC(z)をそれぞれ、下記の式7,式8,式9に示すようにする。
【数5】

【0069】
ここで、式7,式8,式9におけるz−iはZ変換のオペレータを表す。なお、式7のフィルタ係数wがサンプル時刻nに依存しているのは、適応フィルタ85が可変係数フィルタであることによる。このとき、制御空間Pにおける騒音信号y(n)とピエゾアクチュエータ5への制御指令信号u(n)は、下記の式10,式11に示すように計算される。
【数6】

【0070】
この式10,式11に基づいて計算されたu(n)が制御指令信号としてピエゾアクチュエータ5に入力される。
【0071】
一方、適応則演算部84は、適応フィルタ85のフィルタ係数w(n)の更新を行う。この適応則演算部84は、先ず、下記の式12のように評価関数Jを定義する。
【数7】

【0072】
ここで、一般的に知られたLMS(Least Mean Square)アルゴリズムでは、この評価関数Jがフィルタ係数w(n)に対して最小になるように適応フィルタ85を更新していく。の更新則は、下記の式13で与えられる。
【数8】

【0073】
この式13におけるK,Kは設計パラメータであり、式13におけるr(n−1)は、下記の式14のように定義される。
【数9】

【0074】
このような演算を適応則演算部84で行うことにより、適応フィルタ85におけるフィルタ係数w(n)を更新できる。
【0075】
このような騒音低減装置の処理は、図19に示すように、先ずステップS41において、所定のサンプル時刻nとなったことに応じて、加速度センサ4からの加速度信号x(n)及びマイクロフォン71からの音響(誤差)信号e(n)を取得する。加速度信号x(n)は、アンプ83を介して適応フィルタ85に入力され、音響信号e(n)は、アンプ81を介して適応則演算部84に入力される。
【0076】
次のステップS42において、適応則演算部84により、加速度センサ4からの加速度信号x(n)にフィルタ係数w(n)を乗算し、ステップS43において、マイクロフォン71からの音響信号e(n)を用いて適応則演算部84でフィルタ係数w(n)の演算を行う。このとき、適応則演算部84は、上述の式13及び式14の演算を行うことで更新したフィルタ係数w(n)を得る。
【0077】
次のステップS44において、ステップS43で演算したフィルタ係数w(n)を適応則演算部84から適応フィルタ85に送り、適応フィルタ85におけるフィルタ係数w(n)を更新し、当該フィルタ係数w(n)を用いて上記式11の演算を行うことにより、制御指令信号u(n)を演算する。これによって、制御指令信号u(n)は、アンプ82を介してピエゾアクチュエータ5に供給される。
【0078】
このような第3実施形態に係る騒音低減装置のように、フィードフォワード型の演算によって制御指令信号u(n)を生成してピエゾアクチュエータ5を制御する場合であっても、上述した場合と同様に乗員頭部位置における騒音を効果的に低減できる。
【0079】
[第4実施形態]
つぎに、本発明を適用した第4実施形態に係る騒音低減装置について説明する。なお、上述の実施形態と同様の部分については同一符号を付することによりその詳細な説明を省略する。
【0080】
第4実施形態に係る騒音低減装置は、フィードフォワード型の演算を行って制御指令信号を生成する騒音低減装置であって、図20に示すように、マイクロフォン71に代えて2個の加速度センサ4A,4Bをフロアパネル1に設け、上述の図17に示したコントローラユニット7に騒音推定装置105を追加している。
【0081】
騒音推定装置105は、アンプ101を介して加速度センサ4Bと接続されていると共に、アンプ102を介して赤外線カメラ6と接続され、適応フィルタ85で演算した制御指令信号を入力する。騒音推定装置105は、加速度センサ4Bからの加速度信号と赤外線カメラ6からの赤外線信号と制御指令信号とを用いて、制御空間Pにおける騒音を推定する。この騒音推定装置105は、例えば図14に示した構成と同様となっており、推定した騒音を適応則演算部84に送る。
【0082】
適応フィルタ85は、上述した適応則演算部84によってフィルタ係数が変更される。適応フィルタ85は、加速度センサ4Aからの加速度信号をアンプ104を介して入力する。適応フィルタ85は、加速度センサ4Aからの加速度信号をフロアパネル1における外乱を表す信号として入力し、当該外乱信号に基づいて制御空間Pにおける騒音を低減する制御指令信号を演算する。
【0083】
このような騒音低減装置は、図21に示すように、先ずステップS51においてコントローラユニット7によって加速度センサ4A,4Bからの加速度信号を入力し、ステップS52において、適応則演算部84により、加速度センサ4Bからの加速度信号x(n)にフィルタ係数w(n)を乗算し、ステップS53において、騒音推定装置105によって、加速度センサ4Aからの加速度信号と適応フィルタ85から出力された制御指令信号を用いて騒音を推定する。
【0084】
次のステップS54において、適応則演算部84は、ステップS53において推定された騒音e(n)を用いてフィルタ係数w(n)の演算を行う。このとき、適応則演算部84は、上述の式13及び式14の演算を行うことで更新したフィルタ係数w(n)を得て、ステップS55において、当該フィルタ係数w(n)によって適応フィルタ85のフィルタ係数w(n)を更新する。
【0085】
次のステップS56において、適応フィルタ85は、更新されたフィルタ係数w(n)を用いて上記式11の演算を行うことにより制御指令信号u(n)を演算し、アンプ103を介してピエゾアクチュエータ5に供給する。
【0086】
このようにフィードフォワード型の演算によって制御指令信号u(n)を生成してピエゾアクチュエータ5を制御する場合であっても、上述した場合と同様に乗員頭部位置における騒音を効果的に低減できる。
【0087】
また、騒音推定装置105としては、図22に示すように、上述の図4に示すコントローラ11から演算器23A,23Bを除いたものを使用できる。したがって、切り替えトリガ生成器25によって入力スイッチ21及び出力スイッチ24を切り替えて、制御空間P1,P2に応じた制御指令信号をピエゾアクチュエータ5に与えることができる。
【0088】
更に、騒音推定装置105としては、図23に示すように、上述の図13に示すコントローラ11から演算器53を除いたものを使用できる。したがって、頭部位置計算装置51によって制御空間P内の乗員頭部位置rを求めて、当該乗員頭部位置rにおける騒音を推定でき、乗員頭部位置rに応じた制御指令信号をピエゾアクチュエータ5に与えることができる。
【0089】
なお、上述の実施の形態は本発明の一例である。このため、本発明は、上述の実施形態に限定されることはなく、この実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明を適用した第1実施形態に係る騒音低減装置によって制御空間における騒音を低減する原理を説明するための斜視図である。
【図2】本発明を適用した第1実施形態に係る騒音低減装置において、乗員頭部位置の変化に応じて制御を切り替えることを説明する側面図である。
【図3】本発明を適用した第1実施形態に係る騒音低減装置の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明を適用した第1実施形態に係る騒音低減装置におけるコントローラの構成を示すブロック図である。
【図5】本発明を適用した第1実施形態に係る騒音低減装置における騒音推定装置の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明を適用した第1実施形態に係る騒音低減装置において演算器の設計方法を説明するブロック図である。
【図7】制御指令→音圧演算部で用いる伝達関数の周波数特性である。
【図8】本発明を適用した第1実施形態に係る騒音低減装置の処理手順を示すフローチャートである。
【図9】本発明を適用した第1実施形態に係る騒音低減装置において制御対象とする制御空間を選択する処理手順を示すフローチャートである。
【図10】本発明を適用した第1実施形態に係る騒音低減装置において乗員頭部位置に応じた制御空間の切り替え動作について説明する図である。
【図11】本発明を適用した第1実施形態に係る騒音低減装置による制御空間に応じた静音化制御効果について説明する図である。
【図12】本発明を適用した第2実施形態に係る騒音低減装置において、乗員頭部位置を検出する領域を設定して、乗員頭部位置の変化に応じて制御を切り替えることを説明する側面図である。
【図13】本発明を適用した第2実施形態に係る騒音低減装置におけるコントローラの構成を示すブロック図である。
【図14】本発明を適用した第2実施形態に係る騒音低減装置における騒音推定装置の構成を示すブロック図である。
【図15】本発明を適用した第2実施形態に係る騒音低減装置の処理手順を示すフローチャートである。
【図16】本発明を適用した第2実施形態に係る騒音低減装置において騒音を推定する処理手順を示すフローチャートである。
【図17】本発明を適用した第3実施形態に係る騒音低減装置におけるコントローラの構成を示すブロック図である。
【図18】本発明を適用した第3実施形態に係る騒音低減装置におけるコントローラユニットの構成を示すブロック図である。
【図19】本発明を適用した第3実施形態に係る騒音低減装置における処理手順を示すフローチャートである。
【図20】本発明を適用した第4実施形態に係る騒音低減装置の構成を示すブロック図である。
【図21】本発明を適用した第4実施形態に係る騒音低減装置の処理手順を示すフローチャートである。
【図22】本発明を適用した第4実施形態に係る騒音低減装置における騒音推定装置の構成を示すブロック図である。
【図23】本発明を適用した第4実施形態に係る騒音低減装置における騒音推定装置の他の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0091】
1 フロアパネル
2 タイヤ
3 エンジン
4 加速度センサ
4A,4B 加速度センサ
5 ピエゾアクチュエータ
6a,6b 赤外線カメラ
7 コントローラユニット
11 コントローラ
21 入力スイッチ
22A,22B 騒音推定装置
23A,23B 演算器
24 出力スイッチ
25 トリガ生成器
31 制御指令→振動演算部
32,35 加算器
33 振動→音圧演算部
34 制御指令→音圧演算部
41 演算器
42 伝達関数モデル
51 頭部位置計算装置
52 騒音推定装置
53 演算器
61 制御指令→振動演算部
62 振動→音圧演算部
63 制御指令→音圧演算部
71 マイクロフォン
84 適応則演算部
85 適応フィルタ
91,92 伝達関数演算部
105 騒音推定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の振動を検出する振動検出手段と、
車室内の騒音を低減させる振動又は音響を発生する騒音低減手段と、
前記振動検出手段によって検出された振動に応じて、前記騒音低減手段で発生させる振動又は音響を制御する制御指令値を演算する制御指令値演算手段と、
前記車室内における乗員位置情報を取得する乗員位置取得手段とを備え、
前記乗員位置取得手段によって取得された乗員位置において静音化制御効果が得られるように前記制御指令値演算手段によって制御指令値を調節し、前記騒音低減手段によって発生させる振動又は音響を制御することを特徴とする騒音低減装置。
【請求項2】
前記乗員位置取得手段は乗員頭部位置を検出する乗員頭部検出手段であり、
前記制御指令値演算手段は、前記乗員頭部検出手段によって検出された乗員頭部位置において静音化制御効果が得られるように制御指令値を調節すること
を特徴とする請求項1に記載の騒音低減装置。
【請求項3】
前記制御指令値演算手段は、前記車室内の空間と前記制御指令値を演算するパラメータとの対応関係を設定しておき、前記乗員位置取得手段によって検出された乗員位置に応じて前記パラメータを切り替える切り替え則を有していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の騒音低減装置。
【請求項4】
前記切り替え則が、前記乗員位置と前記パラメータの切り替えタイミングとの間にヒステリシスな関係を持たせていることを特徴とする請求項3に記載の騒音低減装置。
【請求項5】
(第2実施形態)
前記制御指令値演算手段は、予め乗員位置が存在しうる空間の頂点において静音化制御効果が得られる設定となっており、前記乗員位置取得手段によって取得された乗員位置と当該空間の頂点との補間によって制御指令値を調節することを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の騒音低減装置。
【請求項6】
前記乗員位置取得手段は、取得した乗員位置が予め設定した範囲外となった場合に、当該範囲外となる直前の乗員位置情報を保持して、当該直前の乗員位置によって前記制御指令値演算手段で制御指令値を演算させることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の騒音低減装置。
【請求項7】
前記乗員位置取得手段は、取得した乗員位置が予め設定した範囲外又は異常な位置となった場合に、当該予め設定した範囲における基準位置によって前記制御指令値演算手段で制御指令値を演算させることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか一項に記載の騒音低減装置。
【請求項8】
前記乗員位置取得手段は、センサによって乗員位置を検出して、乗員位置情報を取得することを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れか一項に記載の騒音低減装置。
【請求項9】
前記乗員位置取得手段は、乗員姿勢を検出して乗員位置を推定し、当該推定した乗員位置を示す乗員位置情報を取得することを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れか一項に記載の騒音低減装置。
【請求項10】
車室内における騒音を振動又は音を発生させて低減させるに際して、
車体の振動を検出すると共に、前記車室内における乗員位置情報を取得するステップと、
前記取得された乗員位置において静音化制御効果が得られるように、振動又は音響を発生させる騒音低減手段に供給する制御指令値を調整するステップと、
前記調整された制御指令値を前記騒音低減手段に供給するステップと
を有することを特徴とする騒音低減方法。
【請求項11】
前記乗員位置情報を取得するステップでは、乗員頭部位置を検出し、
前記制御指令値を調整するステップでは、前記検出された乗員頭部位置において静音化制御効果が得られるように制御指令値を調節することを特徴とする請求項10に記載の騒音低減方法。
【請求項12】
前記車室内の空間と前記制御指令値を演算するパラメータとの対応関係を設定しておき、前記制御指令値を調整するステップでは、前記検出された乗員位置に応じて前記パラメータを切り替えることを特徴とする請求項10又は請求項11に記載の騒音低減方法。
【請求項13】
前記制御指令値を調整するステップでは、前記乗員位置と前記パラメータの切り替えタイミングとの間にヒステリシスな関係を持たせていることを特徴とする請求項12に記載の騒音低減方法。
【請求項14】
(第2実施形態)
予め乗員位置が存在しうる空間の頂点において静音化制御効果が得られる設定をしておき、前記制御指令値を調整するステップでは、前記取得された乗員位置と当該空間の頂点との補間によって制御指令値を調節することを特徴とする請求項10乃至請求項13の何れか一項に記載の騒音低減方法。
【請求項15】
前記乗員位置情報を取得するステップにおいて前記取得した乗員位置が予め設定した範囲外となった場合に、当該範囲外となる直前の乗員位置情報を保持して、前記制御指令値を調整するステップでは、当該直前の乗員位置によって制御指令値を演算することを特徴とする請求項10乃至請求項14の何れか一項に記載の騒音低減方法。
【請求項16】
前記乗員位置情報を取得するステップにおいて前記取得した乗員位置が予め設定した範囲外又は異常な位置となった場合、前記制御指令値を調整するステップでは、当該予め設定した範囲における基準位置によって制御指令値を演算することを特徴とする請求項10乃至請求項15の何れか一項に記載の騒音低減方法。
【請求項17】
前記乗員位置情報を取得するステップでは、前記センサによって検出された乗員位置によって乗員位置情報を取得することを特徴とする請求項10乃至請求項16の何れか一項に記載の騒音低減方法。
【請求項18】
前記乗員位置情報を取得するステップでは、前記乗員姿勢を検出して乗員位置を推定し、当該推定した乗員位置を示す乗員位置情報を取得することを特徴とする請求項10乃至請求項16の何れか一項に記載の騒音低減方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−296886(P2007−296886A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−124418(P2006−124418)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】