説明

骨粗鬆症の予防又は改善剤

【課題】副作用が少なく、食品又は医薬品等として利用可能な骨粗鬆症の予防又は改善剤の提供。
【解決手段】スジ部を除去したサメ肉又はその脱脂物を有効成分とする骨粗鬆症の予防又は治療剤。サメ肉中でコラーゲンを多く含んでいると考えられるすじ肉(fascia)とそれ以外の部位の肉(muscle)を、閉経後骨粗鬆症モデルラットに別々に投与したところ、すじ肉以外のmuscle部位に優れた骨密度増加作用及び骨強度増強作用があり、骨粗鬆症の予防又は改善剤として有用で、治療剤または改善用食品として有用であった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品又は医薬品として有用な骨粗鬆症の予防又は改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢者人口の急激な増加やカルシウム摂取量の低下により、骨粗鬆症をはじめとする骨疾患を発症する患者が増加している。従って、骨粗鬆症に対する安全で且つ有効な予防・治療法の開発が望まれている。
【0003】
骨粗鬆症は、骨質量と骨強度の損失を特徴とし、脆弱性骨折の原因となる疾患である。閉経性骨粗鬆症においては、高骨代謝回転状態となり、過剰な骨吸収に対して骨形成が追いつかないことから骨量減少が引き起こされる。骨粗鬆症の伝統的な治療法としてはエストロゲン代償療法(ERT)が挙げられるが、エストロゲンの胸部及び子宮に対する過剰な刺激による乳癌及び子宮癌発症の危険性から、ERT代替法の開発が進められてきた。その中で、近年、卵巣摘出動物に対して大豆イソフラボンを始めとする食品因子を投与することによる骨粗鬆症への効果が数多く研究されている。
【0004】
サメは、食物連鎖の頂点に立つ高次捕食者であり、主として高級中華食材としてのフカヒレの製造のために、マグロ延縄漁において混獲されている。近年、鰭以外の部分では軟骨がコンドロイチン硫酸の原料として、肝臓が化粧品原料として、皮が革製造や機能性食品として利用されている。また、本発明者らは、サメ皮由来コラーゲンが骨密度の増加に有用であることを報告している(非特許文献1)。一方、サメ肉は魚肉練り製品の増量剤として利用されているが、食品への利用は、食品の原材料表記義務付との関係から忌避される傾向にあり、その利用価値の低下により海洋投棄される量が増加する恐れが危惧されている。
【0005】
【非特許文献1】Nomura Y, Oohashi K, Watanabe M, and Kasugai S: Increase in bone mineral density through oral administration of shark gelatin to ovariectomized rats, Nutrition 21 (2005) 1120-1126.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、副作用が少なく、食品又は医薬品等として利用可能な骨粗鬆症の予防又は改善剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、サメ肉の食理機能について、更に検討したところ、サメ肉中でコラーゲンを多く含んでいると考えられるすじ肉(fascia)とそれ以外の部位の肉(muscle)を、閉経後骨粗鬆症モデルラットに別々に投与したところ、意外にもすじ肉以外のmuscle部位に優れた骨密度増加作用及び骨強度増強作用があり、骨粗鬆症の予防又は改善剤として有用であることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の1)〜3)に係るものである。
1)スジ部を除去したサメ肉又はその脱脂物を有効成分とする骨粗鬆症の予防又は治療剤。
2)スジ部を除去したサメ肉又はその脱脂物を含有する食品。
3)スジ部を除去したサメ肉又はその脱脂物を含有する骨粗鬆症の予防又は改善用食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明のスジ部を除去したサメ肉又はその脱脂物は、優れた骨密度増加作用及び骨強度増強作用を有し、安全性が高いことから、食品、医薬品、医薬部外品として有用である。また、本発明によれば、サメ肉の有効利用が図られ、廃棄物の軽減に役立つ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において用いられるスジ部を除去したサメ肉としては、内臓部を除去した全ての魚肉部分から、スジ(結合組織)を除去したものをいう。
【0011】
本発明のサメ肉に用いられるサメの種類としては、例えば、ヨシキリザメ、ギンザメ、ネズミザメ、モウカザメ、アオザメ、アブラザメ、ホシザメ、シュモクザメ、メジロザメ等が挙げられ、ヨシキリザメ、モウカザメが好ましい。
【0012】
スジ部を除去したサメ肉は、そのまま、脱水、乾燥、粉砕したものを使用することができるが、適当な有機溶媒、エタノール等で脱脂し、更に水洗を繰り返して用いるのがより好ましい。また、更に、透析膜やイオン交換樹脂等によって脱塩を行ってもよいし、更に、凍結乾燥や噴霧乾燥等によって乾燥を行うことにより粉末化してもよい。
【0013】
脱脂は、公知の任意の方法により行えばよく、例えば、スジ部を除去したサメ肉に、適当な有機溶媒を用いて、4〜30℃で、4〜12時間、撹拌処理することにより行われる。
使用される有機溶媒としては、例えばエタノール、アセトン、四塩化炭素、エーテル、ヘキサン、クロロホルム等が挙げられ、これらを組み合わせて使用するのが好ましい。例えば、50〜100%のエタノールを用いる方法、エタノール、アセトン、ヘキサン等を組み合わせて行う方法等が好適に挙げられる。
脱脂物の有機溶液からの分離は、遠心分離、濾過等を用いればよい。
【0014】
斯くして得られたスジ部を除去したサメ肉又はその脱脂物は、後記実施例に示すように、優れた骨密度増加及び骨強度増強作用を有することから、これを有効量含有する製剤は、骨粗鬆症の予防又は改善剤となり得、骨粗鬆症を予防、治療又は改善する食品、医薬部外品、医薬品等として使用できる。
【0015】
本発明の骨粗鬆症の予防又は改善剤を医薬品とする場合は、例えば、錠剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤、トローチ剤等の経口用固形製剤や、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤とすることができる。
【0016】
尚、経口用固形製剤を調製する場合には、本発明のスジ部を除去したサメ肉又はその脱脂物に賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を加えた後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。また、経口用液体製剤を調製する場合は、矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯味剤等を加えて常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。
【0017】
また、本発明のスジ部を除去したサメ肉又はその脱脂物は、これをそのまま飲食物中に添加して骨粗鬆症の予防又は改善用飲食品とすることができる。このようにして得られる飲食品は、日常的に摂取することが可能であるため、骨粗鬆症の予防又は改善効果が期待でき、骨の健康維持のために極めて有用である。
【0018】
ここで、飲食品とは、一般食品、健康食品、機能性食品、医薬部外品等を広く含むものであり、具体的には、例えば、各種飲料、麺類、菓子類、油脂及び油脂加工食品、調味料、その他種々の形態の機能性食品等が挙げられる。機能性食品としては、骨粗鬆症の予防又は改善をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した健康食品、健康・栄養補助食品、病者用食品、特定保健用食品等が挙げられる。
【0019】
上記食品中には、通常用いられる補助的な原料や添加物、例えばブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオサイド、ルブソサイド、コーンシロップ、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、L−アスコルビン酸、dl−α−トコフェロール、エリソルビン酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アラビアガム、カラギーナン、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンB類、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酸類、カルシウム塩類、色素、香料、保存剤等を配合することができる。
【0020】
本発明の骨粗鬆症の予防又は改善剤には、必要に応じて、カルシウムを配合することが好ましい。このようなカルシウムとしては、動物の骨や卵殻、魚介類、乳清や植物に由来するカルシウム素材の他に、一般に食品添加物として使用されるグルコン酸カルシウム、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、乳酸カルシウム、硫酸カルシウムなどを用いることができる。
【0021】
本発明の骨粗鬆症の予防又は治療剤におけるスジ部を除去したサメ肉又はその脱脂物の配合は、医薬品、食品等種類に応じ、任意の範囲で決定すればよいが、通常10〜50質量%とすればよい。
【0022】
本発明の骨粗鬆症の予防又は治療剤又は飲食品の有効成分であるスジ部を除去したサメ肉又はその脱脂物の摂取量は、年齢、症状等により適宜増減するが、通常成人1日当たり約100〜1,000mgになるようにするのが適当である。
【実施例】
【0023】
実施例1 サメ肉分析結果
(1)アミノ酸分析
サメfascia及びmuscle中のアミノ酸濃度を測定するために逆相HPLCを用いたアミノ酸分析を行った。また、サメwholeもサンプルとして用いた。
サメfascia、muscle及びwholeは脱脂・水戻し・凍結乾燥を行い、1mgずつを封入試験管に採取した。6N HCl 1 mlを添加した後、封管し、110 ℃で18時間加水分解を行った。加水分解終了後、開封し、真空遠心機(Thermo Electron社製、SPEEDVAC(登録商標))により乾固した。乾固後、ミリQ水を1 ml加えて結晶を完全に溶解し、これをアミノ酸分析用サンプルとした。
【0024】
サンプル20μlをダーラム管(マルエム社製)に分注し、スタンダード20μlと共に真空遠心機により乾固した。乾固終了後、ミリQ水20μlを添加し、再び真空乾固を行った。各サンプルに メタノール:トリエチルアミン:ミリQ水=7:2:1に調整した混合液を10μlずつ加えて真空遠心機により乾固した。この操作を3回繰り返した。次に、メタノール:トリエチルアミン:ミリQ水:フェニルイソチアネート=7:1:1:1からなる誘導化液を20μlずつ添加し、室温で20分間誘導化した後、真空乾固した。3 %アセトニトリル / 50 mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH6.0、A buffer)を300μl加えた後、超音波で結晶を破砕した。0.45μmのフィルターで濾過後、12000 rpm,4 ℃で3分間遠心し、上清10μlを用いてHPLC LC8020 Model II 4.6 mm I.D,15 cm(東ソー社製)で分析を行った。
分析条件は以下の通りである。
・送液(流速1.0 ml/min)
A buffer:97% 50mM酢酸ナトリウム水溶液(pH6.0) / 3%アセトニトリル
B buffer:60%アセトニトリル水溶液
グラジェントは 0分:A buffer 100%、0〜15分:B buffer 0→70%、15〜25分:B buffer 70→100%、25〜26分:B buffer 100%、26〜28分:B buffer 0% とした。
・カラムはTSKgel ODS-80TsQA(東ソー社製)を用いた。測定温度は40 ℃、検出は254 nmとした。
【0025】
アミノ酸分析の結果のうち、コラーゲンに多く含まれるグリシン(Gly)、プロリン(Pro)、ヒドロキシプロリン(Hyp)の濃度を表1に示した。
【0026】
Gly,Pro,Hypの全てでfasciaにおける濃度が最も高かった。また、muscleはコラーゲンの特徴的なアミノ酸であるヒドロキシプロリンをほとんど含んでいなかった。このことより、サメ肉中に含まれるコラーゲンの大部分はfasciaに存在すると言える。
【0027】
【表1】

【0028】
実施例2
(1)卵巣摘出動物作製法
閉経後骨粗鬆症モデルラットを作製するために卵巣摘出手術(ovx)を施した。また、対照として同様の手術によるストレスを与えるために偽手術(sham)を施した。
手術はエーテル麻酔下で行い、ラットのわき腹を1 cm程度切りピンセットを用いて卵巣を取り出し、輸卵管をカンシで挟み縫合糸で縛る。その後卵巣を切除、摘出し、腹部の縫合を行った。sham群では卵巣を取り出し確認した後、そのまま戻して縫合した。以上の操作を左右両方の腹部で行った。
【0029】
(2)動物飼育計画
卵巣摘出モデルラットへのサメfascia、またはmuscleを含む食餌の効果を検証するために以下の実験を行った。
15週齢のWistar系雌ラット30匹を固形飼料で飼育し、卵巣摘出手術または偽手術の4日前にAIN-93組成に従った20%カゼイン含粉末飼料に切り替えた。ラットが17週齢になった時点で卵巣摘出手術または偽手術を施した。手術前日にラットを体重が等しくなるようにOVX群とsham群の2群に分けた。手術の1週間後にOVX群を体重が等しくなるように20%カゼイン含粉末飼料を与える群(ovx casein群)、タンパク源をfasciaで置き換えた粉末飼料を与える群(ovx fascia群)及びタンパク源をmuscleで置き換えた粉末飼料を与える群(ovx muscle群)の3群に分け、サンプル食を4週間投与した。食餌組成は表2に示す。ラットは解剖の24時間前から絶食とし、解剖時には採血、体重・臓器重量の測定、両足大腿骨の切除を行った。
全ての動物は常時給餌・給水環境で飼育し、体重測定を週1回、食下量測定を1日または2日おきに行った。
【0030】
【表2】

【0031】
(3)骨密度
DICHROMA SCAN PCS-600(Aloka社製)を用いた二重エネルギーX線吸収測定法(DEXA:dual energy X-ray absorptiometry)により、ラット右大腿骨の骨密度(BMD:bone mineral density)を測定した。
前処理として大腿骨を70%エタノールに4℃で数日間浸し、付着している筋肉組織等をピンセットで可能な限り除去した。大腿骨の近位部(骨盤側)から末端部(膝側)までを20部位に分割した各分割部位においてBMD測定を行った。
二重エネルギーX線吸収測定法(DEXA)による右大腿骨骨密度の結果を図1に、そのうちovx群間での差がみられたslice N0.15およびNo.18を図2に示す。
大腿骨末端部のslice No.18にあたる部位は骨内面に棘状、梁状に存在して骨梁を形成している海綿骨が多くを占めており、エストロゲン欠乏によりいち早く骨密度が減少する部位として知られている。
slice No.18においてsham casein群が229.9±5.6 mg/cm2であったのに対し、ovx casein群では211.2±3.8 mg/cm2であり、有意な減少が認められた。また、ovx群間での有意な差はみられず、ovx fascia群およびovx muscle群とsham casein群との間にも有意な差は認められなかった。これらのことから、サメfasciaおよびmuscleの投与により卵巣摘出に起因する骨密度の有意な減少を抑制したと考えられる。また、slice No.15においてはovx muscle群で129.6±1.2 mg/cm2であり、ovx casein群(124.8±2.5 mg/cm2)、ovx fascia群(126.4±1.1 mg/cm2)と比較して有意に上昇しており、muscle投与による骨密度改善効果が見られた。ovx casein群とovx fascia群の間に有意差は認められなかったが、数値はovx fascia群のほうが高かった。なお、sham casein群は134.8±2.4 mg/cm2であり、ovx群全体に対して有意に高かった。
【0032】
(4)骨強度
サメfascia、muscleの骨強度への効果を検討するために、骨強度測定を行った。
骨強度の測定には右大腿骨を用いた。骨密度の測定に用いた右大腿骨をPBS(−)に1時間浸した後クリープメーター(山電社製、RE-33005)による三点曲げ試験を行い、最大荷重(gf)を破断強度とした。結果を図4に示す。
ovx casein群の最大荷重は11567±347 gfであり、sham casein群の12880±298 gfと比較して有意に減少していた。ovx fascia群(12077±188 gf)もsham casein群と比べて有意な減少が認められたが、ovx casein群に対しては上昇傾向を示した(P<0.1 by Student's t-test)。 また、ovx muscle群は12503±305 gfであり、ovx casein群に対して有意な上昇がみられた。ovx muscle群とsham casein群、ovx fascia群間には有意差は検出されなかった。よって、卵巣摘出によって大腿骨骨強度は有意に減少するが、サメmuscleを投与することでshamレベルにまで骨強度を改善できるということが言える。
【0033】
(5)免疫担当細胞への影響
脾臓、末梢血及び骨髄中のB細胞の変動を観察するためにフローサイトメトリーを行った。
解剖時に脾臓を切除し、生理食塩水中で氷冷保存した。これをセルストレーナー(BD FalconTM製)を用いてすりつぶして濾し取り、RPMI中に懸濁した。セルカウンター(Sysmex, E-520)で細胞数を測定し、3×106個をエッペンチューブに分注した。3500 rpm, 4℃で5分間遠心した後に上清を捨て、cell wash buffer( 1 % BSA,セルウォッシュ)で10倍希釈したFC blockTMを20 μl添加して、IgG上のFc受容体を遮断した。5分後、抗ラットCD45R抗体を10 μl添加し、暗所で30分間反応させた。その後cell wash bufferを1000 μl添加、攪拌後3500 rpm, 4℃で5分間遠心して上清を捨てた。ここまでの操作は全て4 ℃で行い、これ以降の操作は全て室温で行った。洗浄後、赤血球を除くためにfix buffer (Lysing solutionをミリQ水で10倍に希釈したもの)を500μl添加し、攪拌後3500 rpm, 4℃で5分間遠心して上清を捨てた。これを2回繰り返し、最後にcell wash bufferを750μl添加した。
【0034】
末梢血は、解剖時のヘパリンコート済みシリンジを用いた腹部大動脈採血により得た。4℃下において100μlをエッペンチューブに分注し、抗ラットCD45R抗体を10μl添加して暗所で30分間反応させた。以後の操作は脾臓細胞と同様に行った。
骨髄細胞は、解剖時に摘出した左大腿骨中の骨髄組織を23Gの針とシリンジを用いてPBS(−) 5 mlで2回洗い流すことにより得た。流れ出た骨髄組織を氷冷下で1分間放置し、脂肪細胞などを沈殿させた。上清の9 mlを取り、1600 rpm, 4℃で10分間遠心した後、上清を捨てた。1 mlのRPMIを加えて懸濁し、セルカウンターで細胞数を測定して2×106個をエッペンチューブに分注した。以後の操作は脾臓と同様に行ったが、骨髄細胞は赤血球が少ないためfix bufferによる固定は1回のみ行った。
脾臓、末梢血及び骨髄由来の各サンプルは懸濁後ナイロン膜(フロン工業社製)で濾過し、フローサイトメトリー(BD FACSCaliburTM、Becton Deckinson社製)により免疫細胞の変動を測定した。
フローサイトメトリー分析によるCD45R陽性細胞測定の結果を表3に示す。
【0035】
【表3】

【0036】
末梢血中のCD45R陽性細胞はovx casein群で24.17±2.24 %であったのに対し、ovx fascia群及びovx muscle群では17.78±1.72 %、18.89±0.58 %と有意に減少していた。他の群間での差は認められなかった。脾臓中のCD45R陽性細胞はovx casein群と比較してovx fascia群での有意な減少がみられた。また、ovx muscle群は他のどの群と比較しても有意に減少していた。以上の結果から、サメfascia及びmuscleの投与が末梢血・脾臓中でCD45R陽性細胞を減少させることが示唆された。
骨髄中のCD45R陽性細胞のうち、未熟B細胞であるCD45R低発現細胞はsham casein群と比較してovx casein群、ovx fascia群及びovx muscle群で有意に上昇していた。未熟B細胞はRANKのリガンドであるRANKLを発現する。マクロファージ及び破骨細胞が発現するRANKとRANKLが結合すると、破骨細胞の分化・活性化が促進され、結果として骨吸収が促進される。本実験においても、卵巣摘出によって骨髄中の未熟B細胞が増加し、骨吸収が促進され骨密度の低下が起こったものと考えられる。成熟B細胞であるCD45R高発現細胞はovx muscle群でsham群に対する有意な増加がみられた。また、CD45R陽性細胞全体における未熟B細胞の割合はsham casein群と比較してovx casein群で有意な上昇が認められた。この上昇はovx muscle群においては認められず、ovx fascia群においては傾向を示す(P<0.1 by Student's t-test)に留まった。卵巣摘出により増加した未熟B細胞の分化がサメfascia及びmuscleの投与により促進されたと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】サメ肉投与の骨密度への影響を示すグラフ。測定部位は大腿骨の近位部(骨盤側)から末端部(膝側)を20分割し、それぞれの分割部位におけるBMDを測定した。
【図2】サメ肉投与の骨密度への影響を示すグラフ。(A) slice No.15における骨密度、(B) slice No.18における骨密度、データ:means ± SE、aP <0.05:対ovx muscle (Student’s t-test)、bP <0.05:対sham casein (Tukey-kramer)
【図3】サメ肉投与の骨強度への影響を示すグラフ。データ:means ± SE.、aP <0.05:対 sham casein(Tukey-kramer)、bP <0.05:対 sham casein(Student's t-test)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スジ部を除去したサメ肉又はその脱脂物を有効成分とする骨粗鬆症の予防又は治療剤。
【請求項2】
スジ部を除去したサメ肉又はその脱脂物を含有する食品。
【請求項3】
スジ部を除去したサメ肉又はその脱脂物を含有する骨粗鬆症の予防又は改善用食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−297292(P2008−297292A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−148078(P2007−148078)
【出願日】平成19年6月4日(2007.6.4)
【出願人】(801000072)農工大ティー・エル・オー株式会社 (83)
【Fターム(参考)】