説明

骨芽細胞と生体基質成分との混合物を用いた骨形成用組成物及びその製造方法

【課題】骨形成が求められる部位への骨形成用の骨芽細胞と生体基質成分との混合物の注入による臨床的な拒否反応がない結果をもたらし、かつ、ある程度造形された組成物の注入によって、有効でかつ迅速な骨形成を達成でき、その結果、骨芽細胞懸濁液の注入によって引き起こされる、注入された骨芽細胞が望ましい骨形成部位を逸脱して血流に乗って他の部位に伝播され、所望でない部位に骨組織の形成が起こりえることに伴う問題を軽減する、ような骨形成用組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】対応する組織から骨芽細胞を分離し、DMEMまたはα−MEM培養液中で増殖培養させて骨芽細胞懸濁液を製造する懸濁液製造段階と;前記骨芽細胞懸濁液に生体基質成分を混合して骨芽細胞治療剤を製造する治療剤製造段階と;からなる骨芽細胞と生体基質成分との混合物を用いた骨形成用組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨芽細胞と生体基質成分(バイオマトリックス;bio-matrix)との混合物を用いた骨形成用組成物及びその製造方法に関するもので、より詳細には、骨欠損の治療時の骨形成のために、すなわち、骨形成が必要な部位に移植できる骨芽細胞と生体基質成分との混合物を用いた骨形成用組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
世界保健機構(WHO)によれば、65才以上の老人人口の50%以上が慢性的な骨疾患に苦しんでおり、骨粗鬆(多孔)症に起因した骨折の発生率が過去10年間で倍増した。これらの数値は、50才以上の女性人口の約40%に該当する。
【0003】
米国の場合、毎年約560万名が骨折傷を負い、このうち310万名が手術を受けているが、1995年のMDI(Medical Data International)の統計によれば、約426,000例の骨移植術が実施された。骨移植に対する費用として、全世界的に毎年約8億米ドルが使用されていると推定される。1995年の1年間には、自家骨移植が58%、同種骨移植が34%、合成物移植が8%の内訳の骨移植術が実施された。
【0004】
通常、単純(閉鎖)骨折の場合、何週間かの石膏固定で充分な治癒が可能であるが、骨折が激しい場合または骨欠損がある場合は、骨移植術が実施される。
【0005】
しかし、自家骨移植(autograft)の場合、骨の採取部位の痛みが激しく、骨移植のための外科手術後の回復期間も長くかかり、骨移植のための骨を提供する供与部の確保に多大の困難が伴う。
【0006】
一方、同種骨移植(allograft)の場合、滅菌による骨強度の弱化、免疫拒否反応、肝炎やエイズ(AIDS)などの接触伝性病の感染のおそれがあるという致命的な短所を有する。
【0007】
他の骨移植に利用できる方法としては、生物活性や生物非活性セラミックで塗布された金属が整形外科手術において支持体として広く使用されるが、金属の腐食、セラミック―金属の表面摩耗、骨と移植片表面における激しい線維状組織(fibrose tissue)の形成などの問題点が生じ、金属を骨移植片として使用するには多くの困難さがある。
【0008】
骨形成因子に対しては、アリスト(Urist)とマクリーン(Mclean)が骨形成蛋白の骨形成に及ぼす効果に関して発表(1952)して以来、多様な因子が研究されているが、その複雑でかつ高価な生産過程、非効率性のために、収率が小さいので、一般的な臨床に適用するには限界がある。
【0009】
一方、骨髄注入術(bone marrow injection)は、ハギンス(Huggins)(1931)、フリーデンシュタイン(Friedenstein)(1973)、アシュトン(Ashton)(1980)によって提案された、骨髄内からの骨形成前駆細胞(osteoprogenitor cell)が骨形成を誘導して促進する、との主張に基づいている技術である。骨髄注入術は、主に骨折治癒のために単独で行われるが、骨移植と組み合わせて行われることもある。また、他の骨移植術とは異なって、骨髄注入術は、供与部の皮膚切開を伴わないので、供与部位の確保に関する問題がなく、合併症や副作用がないという大きな長所がある。
【0010】
その後、多くの臨床適用のケースを通して優れた結果もいくつか発表されているが、得られた多くの結果が一定でないという理由により理論的根拠が不明確であり、一つのサイトから集められる骨髄の量が限られており、さらに、骨髄に含まれた骨形成前駆細胞の数がかなり限られるので、骨髄注入術は短所がある。
【0011】
そこで、骨前駆細胞を充分な数の骨芽細胞に増幅培養した後、培養した細胞を生体基質成分と混合して求められる骨形成部位に注入する新しい骨形成移植方法は、非常に有効な方法で、既存の自家骨移植、同種骨移植及び骨髄注入術に比べて多くの長所及び効果を有しており、骨再生治療法(Bone regeneration therapy)において脚光を浴びている組織工学の一分野である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記のインプラントや従来の骨移植の問題点を改善するためになされたもので、本発明の一つの目的は、骨形成が求められる部位への骨形成用の骨芽細胞と生体基質成分との混合物の注入による臨床的な拒否反応がない結果をもたらし、かつ、ある程度造形された組成物の注入によって、有効でかつ迅速な骨形成を達成でき、その結果、骨芽細胞懸濁液の注入によって引き起こされる、注入された骨芽細胞が望ましい骨形成部位を逸脱して血流に乗って他の部位に伝播され、所望でない部位に骨組織の形成が起こりえることに伴う問題を軽減する、ことになる骨芽細胞と生体基質成分との混合物を用いた骨形成用組成物及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一観点によれば、上記のような目的は、骨組織から骨芽細胞及びそれらの前駆細胞を分離し、DMEM(ダルベッコ変法イーグル培地:Dulbecco’s Modified Eagle’s
Medium)またはα−MEM(アルファMEM培地:Minimum Essential Medium, Alpha Modification)培養液中で骨芽細胞及びそれらの前駆細胞を増殖培養させて骨芽細胞懸濁液を製造する懸濁液製造段階と;前記骨芽細胞懸濁液に生体基質成分を混合して骨芽細胞治療剤を製造する治療剤製造段階と;からなる骨形成用組成物を製造する方法を提供することによって達成することができる。
【0014】
ここで、前記治療剤製造段階は、前記骨芽細胞懸濁液と前記生体基質成分とを混合した前記骨芽細胞混合液に凝固剤を混合する混合段階をさらに含む。
【0015】
また、前記混合段階は、前記骨芽細胞混合液に凝固剤としてトロンビン(thrombin)を10〜100IU/mlの割合で混合するトロンビン混合段階と;前記トロンビンが混合された混合液に、凝固剤としてフィブリノゲン(fibrinogen)を20〜100mg/mlの割合で混合するフィブリノゲン混合段階と;からなる。
【0016】
また、前記生体基質成分は、コラーゲン(collagen)、ヒドロキシアパタイト(hydroxyapatite:水酸化リン灰石)またはこれらの混合物である。
【0017】
また、前記コラーゲンは、前記骨芽細胞懸濁液に67μg/ml〜20mg/mlの量が添加され、前記ヒドロキシアパタイトは、前記骨芽細胞懸濁液に30μg/ml〜3.4mg/mlの量が添加される。
【0018】
また、前記コラーゲンは、前記骨芽細胞懸濁液と混合する前に、中和溶液を添加して中性pHに中和させる。
【0019】
また、前記骨芽細胞と生体基質成分との混合液に添加する前に、トロンビンとして、凍
結乾燥状態のトロンビンを、骨塩成分としてリン酸塩(PO3−)イオンが添加されたDMEMまたはα−MEM液体培地に溶解させ、そしてリン酸塩(PO3−)が添加された培養液に含まれるトロンビンの量が2倍になるように添加する。次いで、前記骨芽細胞混合液に添加する前に、フィブリノゲンとして、凍結乾燥状態のフィブリノゲンを、骨塩成分としてカルシウム(Ca2+)イオンが添加されたDMEMまたはα−MEM液体培地に溶解させ、そしてカルシウム(Ca2+)イオンが添加された培養液に含まれるフィブリノゲンの量が2倍になるように添加する。
【0020】
本発明のもう一つの観点によれば、上記の骨芽細胞と生体基質成分との混合物を用いた骨形成用組成物の製造方法によって製造された骨形成用組成物が提供される。
【発明の効果】
【0021】
上記のように構成される骨芽細胞と生体基質成分との混合物を用いた骨形成用組成物及びその製造方法によると、骨形成が求められる部位への骨形成用の骨芽細胞と生体基質成分との混合物の注入による臨床的な拒否反応がない結果をもたらし、かつ、ある程度造形された組成物の注入によって、有効でかつ迅速な骨形成を達成でき、その結果、骨芽細胞懸濁液の注入によって引き起こされる、注入された骨芽細胞が望ましい骨形成部位を逸脱して血流に乗って他の部位に伝播され、所望でない部位に骨組織の形成が起こりえることに伴う問題を軽減する、ことになる骨形成が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係る骨芽細胞と生体基質成分との混合物を用いた骨形成用組成物の製造方法を、添付された図面に基づいて詳細に説明する。
【0023】
インプラントや骨移植などの既存の骨関連疾患の治療法が持つ短所を克服するために、既存の治療方法を改善するとともに、窮極的な治療方法として、骨芽細胞を培養し、患部に副作用のない自己由来骨芽細胞を移植する技術が開発されてきた。
【0024】
しかし、一層迅速な骨形成のためには、骨芽細胞と基質成分との混合が必要であり、これを通して一層多様な病変部の治療が可能になるので、骨芽細胞のみからなる液状の骨芽細胞懸濁液注入では治療効果を達成できなかった骨疾患がより治療可能となる。
【0025】
骨芽細胞と生体基質成分との混合物である骨芽細胞治療剤は、細胞療法(cell therapy)に基づいた液状の骨芽細胞懸濁液注入法を一層改善した製品といえる。既存の骨芽細胞のみを移植する液状の骨芽細胞懸濁液注入法は、限定された類型の骨欠損のみを治療するもので、注入された骨芽細胞が骨形成部位を逸脱して血流に乗って他の部位に伝播され、所望でない部位に骨組織を作るという問題点がある。これに反して、本発明に係る骨芽細胞と生体基質成分との混合物である骨芽細胞治療剤は、骨芽細胞と生体基質との混合物からなるので、より広範囲な欠損と激しい骨疾患も迅速かつ効果的に治療することができる。
【0026】
骨は、骨細胞と、これらの細胞の間に存在する多量の骨基質(bone matrix)からなり、ほとんどの骨基質は、膠原繊維(collagen fiber)からなる有機質成分(35%)と、カルシウム及びリン酸塩からなる無機質成分(65%)とから構成されている。
【0027】
骨は、図1に示すように、一種の生体合成物として、最大組成比率から最低組成比率の順に、無機質、コラーゲン、水分、非コラーゲン性蛋白質、脂質、血管成分及び細胞からなる。
【0028】
骨組成で最も大きな比率を占める無機質は、地質学的鉱物の一つであるヒドロキシアパ
タイトの類似物質である。
【0029】
骨リン灰石は、通常、カルシウムや水酸基が乏しく、これらは炭酸塩、その他にマグネシウム、カリウム、ホウ素、リン酸塩、クエン酸塩を含む多くの不純物に置換され、その最も豊富なものは炭酸塩である。
【0030】
骨の成熟度によって、骨塩中の炭酸塩の含量が高くなる。炭酸塩は、水酸基やリン酸塩基を置換したり、骨リン灰石の表面に吸着されていたりする。
【0031】
二番目に豊富な骨の構成成分は、コラーゲン、主に第1型コラーゲンである。コラーゲンは、骨に弾力性及び柔軟性を与えて、基質の構成のために方向性を提供する。
【0032】
本発明の実施態様では、骨芽細胞と生体基質成分とを混合して、混合物を骨疾患部位に注入し、かつ骨を構成する成分であるコラーゲンとヒドロキシアパタイトを混合して病変部位に注入する。それゆえに、骨の物理的な性質を予め確保することができ、より迅速な骨形成及び適切に石灰化された骨を実現することができる。
【0033】
骨基質の主成分である骨芽細胞と生体基質成分との混合における極めて重要な要素の一つは安定性である。基質内で必要な細胞数を確保するために細胞の生存率を高めるべきである。加えて、その移植後に細胞の生着率を高めることも重要である。
【0034】
図2は、本発明に係る骨芽細胞と生体基質成分との混合物を用いた骨形成用組成物の製造方法の工程を示した工程図である。
【0035】
図2を参照すると、本発明の骨形成用の組成物の製造方法は、骨組織から骨芽細胞を分離し、分離した骨芽細胞をDMEMまたはα―MEM培養液中で増殖培養させて骨芽細胞懸濁液を製造する懸濁液製造段階(S100)と、骨芽細胞懸濁液に生体基質成分を混合し、骨芽細胞治療剤を製造する治療剤製造段階(S200)とからなる。
【0036】
ここで、骨芽細胞懸濁液内の骨芽細胞の数は、病変部の大きさ及び位置によって大幅に異ならせるが、通常、100万個〜1200万個であることが好ましく、それ以上の細胞数でも構わない。
【0037】
また、治療剤製造段階(S200)は、骨芽細胞懸濁液に生体基質成分を混合した骨芽細胞と生体基質成分との混合液に、凝固剤を混合する混合段階をさらに含む。
【0038】
また、混合段階は、骨芽細胞と生体基質成分との混合液に、凝固剤としてのトロンビンを10〜100IU/mlの割合で混合するトロンビン混合段階(S220)と、トロンビンが混合された混合液に、凝固剤としてのフィブリノゲンを20〜100mg/mlの割合で混合するフィブリノゲン混合段階(S230)を含む。
【0039】
生体基質成分としては、コラーゲン、ヒドロキシアパタイトまたはこれらの混合物を使用するとよい。コラーゲンとヒドロキシアパタイの混合物を生体基質として用いる場合、コラーゲン67μg/ml〜20mg/ml、ヒドロキシアパタイト30μg/ml〜3.4mg/mlを混合する。
【0040】
一方、コラーゲンの最小限の濃度は、骨芽細胞培養時に培養容器のコーティング剤としてコラーゲンを使用した場合、細胞分化と増殖を誘導する培養最適濃度であった。このときに適用されたコラーゲンの濃度をマトリックスの成分として適用したとき、骨芽細胞と生体基質成分とを混合した組成物注入において、骨芽細胞がコラーゲンを滲み出させる前
に注入されたコラーゲン成分が基本的なマトリックスネットワーク(matrix network)を形成して細胞分化を誘導し、迅速な石灰化を達成し、結果的に最小限度量のコラーゲン含量でも迅速な骨形成を達成することが確かめられた。
【0041】
一方、コラーゲンを単独マトリックスとして使用したときは、コラーゲンの濃度が3mg/ml(0.3%)の濃度以上になったときに所定条件下でゲル(gel)化が生じてマトリックスを形成する。逆に、最大20mg/mlになると、コラーゲンの流動性が急激に減少し、コラーゲンマトリックスに骨芽細胞が均一に混合されず、コラーゲンを細胞基質(matrix)として適用することが難しい。
【0042】
さらに、ヒドロキシアパタイトは、この成分が基質混合物中で石灰化を促進する濃度で添加すべきである。過剰量のヒドロキシアパタイトが含有される場合、細胞と基質の混合物中でヒドロキシアパタイトが占める空間的な制約によって細胞の分化が阻害される。それ故、本発明において、ヒドロキシアパタイトは、基質成分中で石灰化の核として適用される最小限の濃度で、かつ石灰化促進のための適正濃度を適用した。
【0043】
一方、コラーゲンは、骨芽細胞懸濁液に混合する前に、中和溶液を添加して中性pHに中和させる。
【0044】
加えて、前記骨芽細胞と生体基質成分との混合液に添加する前に、トロンビンとして、凍結乾燥状態のトロンビンを、リン酸塩(PO3−)イオンが添加されたDMEMまたはα−MEM液体培地に溶解させ、そしてリン酸塩(PO3−)イオンが添加された培養液に含まれるトロンビンの量が2倍になるように添加する。骨芽細胞混合液に添加する前に、フィブリノゲンとして、凍結乾燥状態のフィブリノゲンを、カルシウムイオン(Ca2+)が添加されたDMEMまたはα−MEM液体培地に溶解させ、そしてカルシウムイオン(Ca2+)が添加された培養液に含まれるフィブリノゲンの量が2倍になるように添加する。ここで、リン酸塩イオンとカルシウムイオンは、骨芽細胞に細胞毒性を示さず、骨塩成分を補足する。
【0045】
凝固剤としてトロンビンを混合液に10〜100IU/mlの量で混合し、トロンビンが混合された混合液に、凝固剤としてフィブリノゲンを20〜100mg/mlの量で混合する。
【0046】
一方、トロンビンの濃度は、フィブリン(fibrin)の重合時間(polymerization time)を決定する。よって、トロンビンの濃度によって、重合時間を4時間から3秒の間で短縮させることができる。トロンビンは、本発明に係る組成物が、骨形成部位に注入したとき、骨芽細胞と生体基質との混合組成物が病変位置から漏れないように造形され、患部に注入されて迅速に重合し、また、骨芽細胞による骨形成のための最適のフイブリン孔マトリックス(fibrin pore matrix)を形成するような濃度が適用された。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例に係る骨芽細胞と生体基質成分との混合物を用いた骨形成用組成物の効果を、添付された図面を参照して詳細に説明する。
【0048】
《実施例1》
まず、対応する組織から骨芽細胞とその前駆体細胞を分離し、DMEMまたはα−MEM培養液中で4週間増殖培養してDMEMまたはα−MEM培養液からなる骨芽細胞懸濁液を準備した。その中に混合する生体基質成分としてコラーゲンを準備した。
【0049】
そして、骨芽細胞懸濁液とコラーゲンとを混合し、総1mlの骨形成用組成物を準備し
た。
【0050】
《実施例2》
対応する組織から骨芽細胞とその前駆体細胞を分離し、DMEMまたはα−MEM培養液中で4週間増殖培養してDMEMまたはα−MEM培養液からなる骨芽細胞懸濁液を準備した。生体基質成分としてコラーゲンとヒドロキシアパタイトを準備した。骨芽細胞懸濁液に1/10容量比のヒドロキシアパタイトを添加した後、これらを充分に混合した。その中に混合する生体基質成分として2/5容量比のコラーゲンを準備した。
【0051】
骨芽細胞懸濁液とコラーゲンとを混合し、総1mlの骨形成用組成物を準備した。
【0052】
《実施例3》
対応する組織から骨芽細胞とその前駆体細胞を分離し、DMEMまたはα−MEM培養液中で4週間増殖培養してDMEMまたはα−MEM培養液からなる骨芽細胞懸濁液を準備した。生体基質成分としてコラーゲンとヒドロキシアパタイトを準備した。骨芽細胞懸濁液に2/5容量比のコラーゲン、1/10容量比のヒドロキシアパタイトを添加した後、これらを充分に混合し、生体基質成分と混合された骨芽細胞治療剤を準備した。
【0053】
医薬品として市販されているフィブリングルーセット(fibrin glue set)を室温で準備した後、凍結乾燥状態であるフィブリノゲンを入れた小瓶(vial)に適量のDMEMまたはα−MEM液体培地を添加し、フィブリノゲンを溶解させた。また、凍結乾燥状態であるトロンビンを入れた小瓶(vial)に適量のDMEMまたはα−MEM液体培地を添加し、トロンビンを溶解させた。
【0054】
生体基質成分が混合された液状の骨芽細胞懸濁液に、溶解されたトロンビン1/10容量比を添加した後、これらを充分に混合した。
【0055】
トロンビンと生体基質成分とが混合された骨芽細胞懸濁液に同量の溶解したフィブリノゲンを混合し、総1mlの骨形成用組成物を準備した。
【0056】
《実施例4》
対応する組織から骨芽細胞とその前駆体細胞を分離し、DMEMまたはα−MEM培養液中で4週間増殖培養してDMEMまたはα−MEM培養液からなる骨芽細胞懸濁液を準備した。生体基質成分としてコラーゲンとヒドロキシアパタイトを準備した。骨芽細胞懸濁液に2/5容量比のコラーゲン、1/10容量比のヒドロキシアパタイトを添加した後、これらを充分に混合し、生体基質成分と混合された骨芽細胞治療剤を準備した。
【0057】
医薬品として市販されているフィブリングルーセットを室温で準備した後、凍結乾燥状態であるフィブリノゲンを入れた小瓶に適量のDMEMまたはα−MEM液体培地を添加し、フィブリノゲンを溶解させた。また、凍結乾燥状態であるトロンビンを入れた小瓶に適量のDMEMまたはα−MEM液体培地を添加し、トロンビンを溶解させた。
【0058】
このとき、DMEMまたはα−MEM液体培地のリン酸塩(PO3−)イオンは、2mg/mlの濃度になるように添加して使用した。また、凍結乾燥状態であるトロンビンを入れた小瓶に適量のDMEMまたはα−MEM液体培地を添加し、トロンビンを溶解させた。このとき、DMEMまたはα−MEM液体培地のカルシウムイオン(Ca2+)は、4mg/mlの濃度になるように添加して使用した。このときに使用されるカルシウムイオン(Ca2+)とリン酸塩(PO3−)イオンの量は、骨芽細胞に細胞毒性を示さず、培養溶液の添加物として骨塩成分を補完する役割をする最適の容量である。
【0059】
生体基質成分が混合された液状の骨芽細胞懸濁液に、溶解されたトロンビン1/10容量比を添加した後、これらを充分に混合した。
【0060】
トロンビンと生体基質成分とが混合された骨芽細胞懸濁液に同量の溶解したフィブリノゲンを混合し、総1mlの骨形成用組成物を準備した。
【0061】
《結果》
15匹の免疫欠乏マウスを6グループに分けて(triple trial)、骨芽細胞と生体基質との混合物である骨芽細胞治療剤を準備し、ヌードマウスの肩甲骨に皮下注射(subcutaneous injection)を行った。それぞれ1mlの骨芽細胞治療剤を免疫欠乏マウスの皮下層に注入し、4週と8週後に結果を確認した。
【0062】
【表1】

表1は、同一の生体基質混合物組成において骨芽細胞数を異ならせた、免疫欠乏マウスに移植する骨芽細胞と生体基質成分との混合物である骨芽細胞治療剤を示す表である。
【0063】
【表2】

ここで、骨形成等級(bone formation grade)は、優/良/可/不可/の順である。表2は、表1に示す骨芽細胞治療剤を移植後の8週後の骨形成結果を示す表である。
【0064】
【表3】

表3は、生体基質成分の添加量を異ならせた、免疫欠乏マウスに移植する骨芽細胞と生体基質成分との混合物である骨芽細胞治療剤を示す表である。
【0065】
【表4】

ここで、骨形成等級は、優/良/可/不可/の順である。表4は、表3に示す骨芽細胞治療剤を移植後の8週後の骨形成結果を示す表である。
【0066】
図3は、骨芽細胞と生体基質成分との混合物である骨芽細胞治療剤を免疫欠乏マウスの皮下層に注入する様子を示す写真で、図4は、骨芽細胞と生体基質成分との混合物である骨芽細胞治療剤を移植して4週後の免疫欠乏マウス(点線内部の膨らんだ部分として観察される。)の骨形成を示す写真である。
【0067】
図5は、免疫欠乏マウスに骨芽細胞と生体基質成分との混合物である骨芽細胞治療剤を移植して4週後に骨形成移植片を採取した状態を示す写真で、移植片の周辺に血管が誘導されていることを確認できる。図6は、骨芽細胞と生体基質成分との混合物である骨芽細胞治療剤を移植して4週後の免疫欠乏マウスの放射線写真であるが、点線の円内部の背骨上に新しい骨が形成されたことを観察できる。
【0068】
図7は、免疫欠乏マウスに骨芽細胞と生体基質成分との混合物である骨芽細胞治療剤を移植して8週後の骨形成を確認できるヘマトキシリン−エオジン(Hematoxylin-Eosin)染色した組織の写真を示し、類骨(黒矢印)を観察でき、骨小腔(白矢印)内に分布した骨芽細胞も確認できる。
【0069】
図8は、免疫欠乏マウスに骨芽細胞と生体基質成分との混合物である骨芽細胞治療剤を移植して8週後のマッソントリクローム(Masson’s Trichrome)染色した組織の写真を示し、所定のパターンに沿ってコラーゲンと混在されて骨形成をなし、マトリックス間に血管が浸透されたことを確認できる。
【0070】
したがって、本発明によると、骨芽細胞と生体基質成分との混合物を、骨形成が求められる部位に注入することで、臨床的に拒否反応がなく、ある程度造形された組成物を注入することで、有効かつ迅速に骨形成を誘導できるという効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、上記のように構成される骨芽細胞と生体基質成分との混合物を用いた骨形成用組成物及びその製造方法は、骨形成が求められる部位への骨形成用の骨芽細胞と生体基質成分との混合物の注入による臨床的な拒否反応がない結果をもたらし、かつ、ある程度造形された組成物の注入によって、有効でかつ迅速な骨形成を達成でき、その結果、骨芽細胞懸濁液の注入によって引き起こされる、注入された骨芽細胞が望ましい骨形成部位を逸脱して血流に乗って他の部位に伝播され、所望でない部位に骨組織の形成が起こりえることに伴う問題を軽減する、ことになる骨形成の実現を可能にする。
【0072】
本発明の好ましい実施例を例証の目的で記載したが、当業者は、添付の請求の範囲に記載した本発明の範囲と精神から離れることなく、種々の変形、追加、置換が可能であることを認識するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】骨の構成成分比率を示した棒グラフである。
【図2】本発明に係る骨芽細胞と生体基質成分との混合物を用いた骨形成用組成物の製造方法の工程を示した工程図である。
【図3】骨芽細胞と生体基質成分との混合物である骨芽細胞治療剤を免疫欠乏マウスの皮下層に注入する状態を示した図面代用光学写真である。
【図4】骨芽細胞と生体基質成分との混合物である骨芽細胞治療剤を移植して4週後の免疫欠乏マウスの図面代用光学写真である。
【図5】骨芽細胞と生体基質成分との混合物である骨芽細胞治療剤を免疫欠乏マウスに移植して4週後に移植物を採取した状態を示す図面代用光学写真である。
【図6】骨芽細胞と生体基質成分との混合物である骨芽細胞治療剤を移植して4週後の免疫欠乏マウスの図面代用放射線写真である。
【図7】骨芽細胞と生体基質成分との混合物である骨芽細胞治療剤を免疫欠乏マウスに移植して8週後の骨形成を確認できるヘマトキシリン−エオジン(Hematoxylin-Eosin)染色した組織の図面代用顕微鏡写真である。
【図8】骨芽細胞と生体基質成分との混合物である骨芽細胞治療剤を免疫欠乏マウスに移植して8週後のマッソントリクローム(Masson’s Trichrome)染色した組織の図面代用顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨組織から骨芽細胞及びそれらの前駆細胞を分離し、分離した骨芽細胞及びそれらの前駆細胞をDMEM(Dulbecco'sModified Eagle's Medium)またはα−MEM(Minimum Essential Medium,Alpha Modification)培養液中で増殖培養させて骨芽細胞懸濁液を製造する懸濁液製造段階と;
前記骨芽細胞懸濁液に生体基質成分を混合して骨芽細胞治療剤を製造する治療剤製造段階と;
からなることを特徴とする骨芽細胞と生体基質成分との混合物を用いた骨形成用組成物の製造方法。
【請求項2】
前記治療剤製造段階は、前記骨芽細胞懸濁液に前記生体基質成分を混合した前記骨芽細胞混合液に、凝固剤を混合する混合段階をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の骨芽細胞と生体基質成分との混合物を用いた骨形成用組成物の製造方法。
【請求項3】
前記混合段階は、前記骨芽細胞混合液に凝固剤としてのトロンビン(thrombin)を10〜100IU/mlの割合で混合するトロンビン混合段階と;
前記トロンビンが混合された混合液に、凝固剤としてのフィブリノゲン(fibrinogen)を20〜100mg/mlの割合で混合するフィブリノゲン混合段階と;
からなることを特徴とする、請求項2に記載の骨芽細胞と生体基質成分との混合物を用いた骨形成用組成物の製造方法。
【請求項4】
前記生体基質成分は、コラーゲン(collagen)、ヒドロキシアパタイト(hydroxyapatite)またはこれらの混合物であることを特徴とする、請求項1に記載の骨芽細胞と生体基質成分との混合物を用いた骨形成用組成物の製造方法。
【請求項5】
前記コラーゲンは、前記骨芽細胞懸濁液に67μg/ml〜20mg/mlの量が添加され、前記ヒドロキシアパタイトは、前記骨芽細胞懸濁液に30μg/ml〜3.4mg/mlの量が添加されることを特徴とする、請求項4に記載の骨芽細胞と生体基質成分との混合物を用いた骨形成用組成物の製造方法。
【請求項6】
前記コラーゲンは、前記骨芽細胞懸濁液に混合する前に、中和溶液を添加して中性pHに中和させることを特徴とする、請求項4に記載の骨芽細胞と生体基質成分との混合物を用いた骨形成用組成物の製造方法。
【請求項7】
前記骨芽細胞と生体基質成分との混合液に添加する前に、トロンビンとして、凍結乾燥状態のトロンビンを、骨無機質成分としてリン酸塩(PO3−)イオンが添加されたDMEMまたはα−MEM液体培地に溶解させ、そしてリン酸塩(PO3−)イオンが添加された培養液に含まれるトロンビンの量が2倍になるように添加し、
前記骨芽細胞混合液に添加する前に、フィブリノゲンとして、凍結乾燥状態のフィブリノゲンを、骨無機質成分としてカルシウムイオン(Ca2+)が添加されたDMEMまたはα−MEM液体培地に溶解させ、そしてカルシウムイオン(Ca2+)が添加された培養液に含まれるフィブリノゲンの量が2倍になるように添加することを特徴とする、請求項3に記載の骨芽細胞と生体基質成分との混合物を用いた骨形成用組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1の骨芽細胞と生体基質成分との混合物を用いた骨形成用組成物の製造方法によって製造された骨形成用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−542362(P2008−542362A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−514538(P2008−514538)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【国際出願番号】PCT/KR2005/002006
【国際公開番号】WO2006/135123
【国際公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(506204243)セウォン セロンテック カンパニー リミテッド (15)
【氏名又は名称原語表記】SEWON CELLONTECH CO.,LTD.
【Fターム(参考)】