説明

骨補填材とその製造方法

【課題】 椎弓根に形成された下穴に崩れることなく容易に挿入でき、かつ、スクリューによって容易に崩れて椎弓根にスクリューを堅固に固定することを可能とする。
【解決手段】 椎体骨折修復術に用いられる骨補填材1であって、顆粒状のリン酸カルシウム多孔体を、有機成分からなる被膜により連結してなり、椎弓根Aに形成された導入孔Bに挿入可能な外形寸法を有するとともに、スクリュー4を締結可能な下穴2を有する骨補填材1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、骨補填材とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、椎体骨折修復術においては、骨折部分の両側に配される椎体骨にスクリューを締結して矯正用のプレートを掛け渡すことが行われている。この方法は、椎体骨が十分な強度を有している場合には効果的であるが、骨粗鬆症患者においてはスクリューと椎体骨との十分な固定強度が得られないという不都合がある。
【0003】
このような不都合を解消する手段として、例えば、特許文献1に示されるスクリュー固定用素子が提案されている。
このスクリュー固定用素子は、リン酸カルシウム系化合物の焼結体により構成されており、椎体骨に形成した導入孔に挿入し、スクリューを締結することで、導入孔内において脆性破断してスクリューと導入孔との間の隙間を埋め、椎体骨に対して十分な固定強度で固定されるようになっている。
【特許文献1】特開平8−322850号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されているスクリュー固定用素子は、リン酸カルシウム系化合物を焼結することにより、スクリューにより容易に脆性破壊してスクリューと導入孔との隙間を埋めるよう構成されているため、導入孔への挿入前あるいは挿入中における強度が弱く、取扱性が悪いという不都合がある。このため、スクリュー固定用素子の搬送中や操作中に壊れてしまったり、導入孔への挿入時に押圧力を加えることで壊れてしまったりするので、極めて慎重に取り扱う必要がある。
【0005】
特許文献1には、スクリュー固定用素子が挿入前および挿入中に形状を保持する強度を有すると開示されているが、その具体的な手法は開示されておらず、焼結により製造する限りにおいては、その形状保持強度を確保することは困難である。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、椎体骨に形成された導入孔への挿入前および挿入時において形状を維持する強度を確保して取扱性を向上する一方、スクリューの締結時に容易に破断する脆性を備える骨補填材とその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、椎体骨折修復術に用いられる骨補填材であって、顆粒状のリン酸カルシウム多孔体を、有機成分からなる被膜により連結してなり、椎弓根に形成された導入孔に挿入可能な外形寸法を有するとともに、スクリューを締結可能な下穴を有する骨補填材を提供する。
【0007】
本発明によれば、顆粒状のリン酸カルシウム多孔体が有機成分からなる皮膜により連結されることで構成されているので、該有機成分の皮膜の強度により、リン酸カルシウム多孔体の顆粒相互間の連結強度が向上され、椎体骨の導入孔への挿入前および挿入中における強度を向上することができる。したがって、取扱中や挿入時の押圧力によって破断することが防止され、取扱性を向上することができる。一方、スクリューの締結時には、顆粒を相互に連結している有機成分の皮膜を引きちぎることにより、容易に破断して顆粒状のリン酸カルシウム多孔体に分離される。したがって、導入孔とスクリューとの隙間を埋めるように配置されて、スクリューの固定強度を高めることができる。
【0008】
上記発明においては、前記有機成分が、ゼラチン、コラーゲン、ヒアルロン酸等のムコ多糖類、メチルセルロース等のセルロース誘導体、キチン・キトサン、PLLA、PGAあるいはPLGAからなることとしてもよい。これらの成分は、顆粒をつなぐとともに細胞の付着を助ける働きを有している。
【0009】
また、本発明は、上記骨補填材の製造方法であって、顆粒状のリン酸カルシウム多孔体を、有機成分を含有する溶液と混合し、形成されたスラリーを所定の型に流し込んで成形した後、乾燥させる骨補填材の製造方法を提供する。
この発明によれば、椎体骨の導入孔への挿入前および挿入中における強度を向上して取扱性を向上し、かつ、スクリューの締結時には容易に破断して導入孔とスクリューとの固定強度を高めることができる骨補填材を簡易に製造することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、椎体骨に形成された導入孔への挿入前および挿入時において形状を維持する強度を確保して取扱性を向上する一方、スクリューの締結時に容易に破断する脆性を備える骨補填材を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の一実施形態に係る骨補填材1とその製造方法について、図1および図2を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る骨補填材1は、例えば、βリン酸三カルシウム多孔体のような生体吸収性のセラミックス材料の顆粒を、ゼラチン、コラーゲン、ヒアルロン酸等のムコ多糖類、メチルセルロース等のセルロース誘導体、キチン・キトサン、PLLA、PGAあるいはPLGAのいずれかからなる有機成分によって連結することにより構成されている。
【0012】
本実施形態に係る骨補填材1は、図1および図2に示されるように、椎弓根Aに形成された導入孔B内に挿入可能な外形寸法を有する略円筒状に形成され、その中心軸に沿って形成された下穴2を有している。導入孔Bへの挿入の先端部3は、挿入を容易にするために先細に形成されている。
【0013】
前記下穴2は、図2(c)に示されるようにスクリュー4が締結される際に、該スクリュー4の進行とともに骨補填材1が破断して細かい顆粒状に砕けるように、スクリュー4の導入を容易にしつつスクリュー4により押し広げられる程度の内径寸法を有している。
【0014】
本実施形態に係る骨補填材1は、以下の製造方法により製造される。
すなわち、リン酸カルシウムからなる多孔体または緻密体を製造し、粉砕することで、粒径50〜200μm程度の顆粒を製造する(ステップ1)。
次いで、0.1〜10質量%の有機成分溶液に、ステップ1で製造した顆粒状のリン酸カルシウムを混合する(ステップ2)。
【0015】
そして、ステップ2において製造したリン酸カルシウムと有機成分溶液との混合物を型に流し込んで、30℃〜120℃で乾燥する(ステップ3)。
これにより、顆粒状のリン酸カルシウムが有機成分の皮膜により連結され、一体的な円柱状に形成された骨補填材1が製造されることになる。
【0016】
次に、このようにして製造された本実施形態に係る骨補填材1の作用について説明する。
本実施形態に係る骨補填材1を用いて椎弓根Aにスクリュー4を固定するには、図2(a)に示されるように、スクリュー4を椎弓根Aにねじ込むことによって導入孔Bを形成する。骨粗鬆症患者の場合、椎弓根Aが脆く、スクリュー4をねじ込んだだけでは固定することができない。このため、この段階では、スクリュー4を固定することはできず、スクリュー4を逆転させて(あるいは正転)抜き取ることにより導入孔Bが形成される。
【0017】
次に、図2(b)に示されるように、この導入孔Bに骨補填材1を挿入する。導入孔Bの内径寸法は、骨補填材1の外形寸法より若干大きく形成される。骨補填材1は、先細に形成されているので、導入孔Bに容易に挿入される。
【0018】
この場合において、本実施形態に係る骨補填材1によれば、顆粒状のリン酸カルシウムを有機成分の皮膜により連結しているので、取り扱いの際、顆粒どうしが皮膜により連結された状態に維持され、砕けてしまうことを防止できる。したがって、導入孔Bへの挿入前の状態および、導入孔Bへの挿入時において骨補填材1に押圧力がかかっても、潰れたり砕けたりすることがなく、取扱性を向上することができるとともに、挿入作業を容易にすることができる。
【0019】
次いで、挿入作業が終了した後には、図2(c)に示されるように、骨補填材1に形成された下穴2の開口端にスクリュー4の先端4aを位置合わせして、スクリュー4のねじ込み作業を開始する。骨補填材1の下穴2はスクリュー4の外径よりも十分に小さく形成されているので、スクリュー4が下穴2にねじ込まれると、骨補填材1は、下穴2の内部からスクリュー4によって半径方向外方に押し広げられる。
【0020】
そして、骨補填材1を構成するリン酸カルシウムの顆粒どうしを連結している有機成分の皮膜がスクリュー4のねじ込み力によって引きちぎられる。これにより、図2(d)に示されるように、骨補填材1が破断され、細かいリン酸カルシウムの顆粒となってスクリュー4と導入孔Bとの間に介在させられるようになる。
すなわち、細かい顆粒状に砕けた骨補填材1が、スクリュー4の溝内に入り込んで、導入孔Bとスクリュー4との隙間を密に埋めるようになる。
【0021】
このように、本実施形態に係る骨補填材1によれば、椎弓根Aに形成された導入孔Bへの挿入途中において折れたり崩れたりして導入孔Bに詰まってしまう不都合を防止し、導入孔Bに対して適正な位置まで形態を保持したまま挿入することができる。また、スクリュー4をねじ込むことにより、骨補填材1を容易に破断させ、スクリュー4と導入孔Bとの間に挟まれあるいは隙間を埋めるように配置されることによって、導入孔B内にスクリュー4を堅固に固定することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る骨補填材を示す縦断面図である。
【図2】図1の骨補填材を用いたスクリューの固定方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0023】
A 椎弓根
B 導入孔
1 骨補填材
2 下穴
4 スクリュー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
椎体骨折修復術に用いられる骨補填材であって、
顆粒状のリン酸カルシウム多孔体を、有機成分からなる被膜により連結してなり、
椎弓根に形成された導入孔に挿入可能な外形寸法を有するとともに、スクリューを締結可能な下穴を有する骨補填材。
【請求項2】
前記有機成分が、ゼラチン、コラーゲン、ヒアルロン酸等のムコ多糖類、メチルセルロース等のセルロース誘導体、キチン・キトサン、PLLA、PGAあるいはPLGAからなる請求項1に記載の骨補填材。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の骨補填材の製造方法であって、
顆粒状のリン酸カルシウム多孔体を、有機成分を含有する溶液と混合し、
形成されたスラリーを所定の型に流し込んで成形した後、乾燥させる骨補填材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−14581(P2007−14581A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−199863(P2005−199863)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(304050912)オリンパスバイオマテリアル株式会社 (99)
【Fターム(参考)】