説明

骨髄細胞の分化

【構成】 骨髄細胞は、試験管内で膵臓ホルモン産生細胞へ分化し、生体内で膵臓を再集合するのを誘導する。これらのインスリン産生細胞を用いて、損傷した膵臓を再生させ、哺乳類内の高血糖を改善させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連特許)
本出願は、2002年10月18日に出願された米国仮特許出願第60/419,434号及び2003年6月17日に出願された米国仮特許出願第60/479,066号の利益を主張する。
【0002】
(連邦政府委託研究に関する宣言)
本発明は、国立衛生研究所 (National Institutes of Health) により付与された助成番号DK60015及びDK58614の下、合衆国政府の支援によってなされた。合衆国政府は、本発明における特定の権利を有する。
【0003】
(発明の分野)
本発明は、概して発生生物学と薬学の分野に関する。さらに詳しくは、本発明は、試験管内及び生体内で、骨髄細胞(BM)から内分泌ホルモン産生細胞を産生するための方法及び損傷した膵臓を修復するための方法に関する。
【0004】
(発明の背景)
糖尿病は、米国において罹患及び死亡の主要な原因のうちの1つである。米国におけるこの疾病を治療するための費用は、毎年約980億ドルであると推測される。糖尿病の最も一般的な二つの形式は、1型及び2型糖尿病と称される。2型の検体が正常又はほぼ正常のレベルのインシュリンを有するのに対して、1型の検体はほとんど又は全くインシュリンを有しないという点で、1型及び2型糖尿病が識別される。従って、1型糖尿病は、しばしばインシュリン依存型糖尿病と称される。
【0005】
1型糖尿病は、インシュリンを生産する膵臓ベータ(つまり、膵島)細胞を破壊する自己免疫反応によって特徴づけられる。成人の膵島細胞の増殖能は制限される。膵島細胞置換は、1型及びインシュリン要求2型糖尿病の治療における1つのアプローチを示す。しかし、この治療の可能性は、利用可能なドナー細胞の限定によって制限される。利用可能なドナー組織の不足に加えて、移植組織の免疫系を介した拒絶は移植治療の広範囲の実施にとっての別の主要な妨げとなっている。成人の膵臓における膵島細胞新生の誘導は、糖尿病の治療のための重要な治療法になるだろう。
【発明の開示】
【0006】
(要約)
本発明は、試験管内における内分泌ホルモン産生細胞への骨髄細胞の分化を誘導するための方法の開発及び骨髄細胞を用いた損傷した膵臓を修復するための方法に関する。これらの開発は、1型糖尿病を治療する方法として、移植の実際の実施と同様に、損傷した膵臓の再生を促進する。なぜならば、(1)内分泌ホルモン産生細胞へ分化した骨髄細胞は、インシュリン産生細胞の源を提供し、(2)自家移植のためのそのような細胞の使用は、移植細胞の拒絶に結びつく免疫系を介した反応を回避するからである。
【0007】
従って、本発明は、哺乳類(例えば、齧歯動物又はラット)の骨髄細胞が、内分泌ホルモン産生細胞へ分化する方法を特徴とする。この方法は、まずDMSOを含む低濃度のグルコース(例えば、5.5mM)培地において骨髄を培養するステップと、次に適当な条件下で、内分泌ホルモン産生細胞への前記細胞の分化を促進するための十分な時間、血清を含む高濃度のグルコース(例えば、25mM)培地中で骨髄細胞を培養するステップとを含む。前記細胞によって生産された内分泌ホルモンは、インシュリン、グルカゴン、ソマトスタチンあるいは膵臓ポリペプチドなどの膵臓の内分泌ホルモンになり得る。また、前記方法によって作られた細胞は、本発明の範囲内である。
【0008】
別の側面では、本発明は、損傷した又は病気の膵臓を再生する/修復するための方法を特徴とする。本発明の方法は、損傷した又は病気の膵臓において、検体(例えば、ラットなどの哺乳動物)へ、少なくとも1個の骨髄細胞を投与するステップを含む。損傷した膵臓は、正常の数の膵島細胞(ベータ細胞)を欠いている糖尿病の膵臓となり、その検体は、糖尿病によって引き起こされた高血糖を備えた検体となる。少なくとも1個の骨髄細胞の投与は、検体におけるインシュリン値を増加させることにより、検体の高血糖を下げる。
【0009】
本発明の別の側面は、哺乳動物中の高血糖を下げるのに十分な内分泌ホルモン産生細胞の用量を動物に投与することにより、糖尿病を有する哺乳動物において高血糖を改善させる方法である。ホルモン産生細胞は、以下のステップを含む方法に従って作られる:まず、DMSOを含んでいる低グルコース培地中で骨髄細胞を培養し、その後、適当な条件下で、内分泌ホルモン産生細胞への前記細胞の分化を促進するための十分な時間、血清を含む高グルコース培地中で骨髄細胞を培養する。
【0010】
他に定義しなければ、ここで用いる全ての技術用語は、本発明の属する分野の通常の知識を有するものによって理解されるものと同様な意味を有する。
【0011】
ここで用いる語句「検体」とは、ヒト又はヒトではない動物を意味し、犬、猫、馬、牛、豚、羊、ヤギ、鶏、霊長類、ラット及びマウス等の哺乳動物を含むが、これらに限定されない。
【0012】
ここで用いる語句「分化」とは、ある細胞の型が別のものに変化することを言う。分化は、例えば、膵臓の内分泌細胞状の表現型を有する細胞への骨髄細胞の変化を含み得る。
【0013】
語句「骨髄細胞」及び「BM」とは、胎児から成体までの発生のあらゆる段階で動物の骨髄で見つかるあらゆる細胞を意味する。これは、動物の発生のあらゆる段階で骨髄に存在する骨髄幹細胞を含み得る。
【0014】
ここで説明することと類似又は同等の方法と物質は、本発明の実施や試験で使用可能であるが、適した方法と物質は以下で説明される。すべての出版物、特許出願、特許、及びここで言及された参考文献は、引用して完全に援用される。抵触の場合は、定義を含む本明細書が法的に規制するであろう。さらに、以下に論じた特定の実施形態は、一実施例であって、これに制限されるものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(詳細な発明)
本発明は、試験管内で骨髄細胞を膵臓細胞へ分化させること、生体内で膵臓を再集合させること、及び生体内で高血糖を下げることを含む方法に関する。本発明では、最初、DMSOを含む低グルコース含有培地中で骨髄細胞を培養し、その後、高グルコース含有培地中で前記細胞を培養することによって、骨髄細胞を内分泌ホルモン産生細胞(例えば、インシュリンを分泌する細胞)へ分化させる。この方法は、インシュリン、グルカゴン、ソマトスタチン及び膵臓ポリペプチドを含む膵臓ホルモンを生産することが可能な細胞への骨髄細胞の分化をもたらす。このようにして作られた膵臓の内分泌ホルモン産生細胞を、損傷した膵臓を再生させるための再生可能な細胞源として用いることできる。従って、本発明はまた、(例えば、1型糖尿病を有する患者を治療するため)損傷した膵臓を再生するために用いることができる自己由来のインシュリンを産生する膵島様細胞を生産するための方法を提供する。
【0016】
以下に記述された好適な実施例は、これらの細胞及び方法の適用を説明する。それにもかかわらず、これらの実施例の記述から、本発明の他の側面を作成し、及び/又は実施することができる。
【0017】
(試験管内での骨髄細胞の分離、培養及び分化転換)
本発明は、2つのステップの培養過程によって、内分泌ホルモン産生細胞へ分化させることができる骨髄細胞の発見に基づく。第1のステップにおいて、ジメチルスルフォキシド(DMSO)を含む無血清・低グルコース培地中で骨髄細胞を培養する。第2のステップにおいて、培養した骨髄細胞を血清を含む高グルコース培地中でさらに培養する。
【0018】
本発明で用いられる骨髄細胞を、従来の技法に従って分離することができる。例えば、以下の実施例の欄で述べているように、屠殺された齧歯動物から取り出され、殺菌された骨(例えば、大腿及び頚骨)から骨髄細胞を得る。いったん骨髄を皮膚と筋肉から取り除き殺菌すると、骨の端を切ることにより、骨髄細胞が露出する。針を挿入し、骨幹を介して適当な培地(例えば、抗生物質溶液が添加されたイスコフ培地)を送り込むことによって、この骨髄細胞を排出する。その後、骨髄細胞をフィルター(例えば、ナイロンメッシュ)に通し、細胞懸濁液を混入する可能性のあるいくつかの骨片を取り除く。この分離された細胞を適当な培地(例えば、10%のウシ胎児血清(FBS)を含む低グルコース培地)で培養し、接着細胞を取り除き、分離された非接着性骨髄細胞の固体群をもたらす結果となる。
【0019】
方法の第1のステップは、DMSOを含む無血清・低グルコース培地中で、分離した骨髄細胞を培養することを含む。このステップは、内分泌ホルモン産生(例えば、インシュリン分泌)細胞へさらに分化するための前記細胞を準備する。一般的に、約3日間(例えば、1〜5日間)低グルコース培地中で細胞を培養する。以下で述べる本実験では、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を培地として用いたが、本方法の実施に適したあらゆる基本培地を用いてもよい。DMEMに加えた基本培地の例として、RPMI、基本培地イーグル(BME)、ハム(Ham’s)、最小必須培地イーグル(MEM)及びイスコフ改変DMEMが挙げられる。
【0020】
低グルコース中において分離された骨髄細胞を培養することは、内分泌ホルモン産生細胞へのさらなる分化のための骨髄細胞の準備や調整を達成するために重要である。以下の実施例では、低グルコース培地は、5.5mMグルコース及び1%のDMSOを含む。これらは本発明の実施のため適切な濃度であるが、他のグルコース及びDMSO濃度(例えば、約4、4.5、5、6、6.5、又は7mMグルコース及び約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10%のDMSO)はまた、細胞を準備するのにおそらく十分であろう。将来用いられる本発明の方法の特定の変化において採用される条件下で異なるグルコースレベルを試験することにより、本発明の方法の第1の培養ステップの実施のための異なるグルコース及びDMSOの濃度の適合性を、実験的に決定することができる。
【0021】
方法の第2のステップは、血清を含む高グルコース培地中において、前記骨髄細胞をさらに培養することを含む。このステップは、内分泌ホルモン産生細胞への骨髄細胞の分化を引き起こす。典型的には、細胞が内分泌ホルモンを産生し始める前に、細胞が約7日間(例えば、4〜9日間)高グルコース培地中で細胞を培養する。前記低グルコース培地と同様に、高グルコース培地中で使用される基本培地は、DMEM又はその他の適当な培地であってもよい。内分泌ホルモン産生細胞への骨髄細胞の分化を達成するために適した任意のグルコース濃度を使用してもよい。以下の実施例では、高グルコース培地には25mMグルコースを含有させた。これは述べられる特定の方法の実施のために適当な濃度であるが、他の高グルコース濃度(例えば、約20〜30mM)でも内分泌ホルモン生産を引き起こしうるであろう。将来用いられる本発明の方法の特定の変化において採用される条件下で異なるグルコースレベルを試験することにより、本発明の方法の第2の培養ステップの実施のための異なるグルコース及びDMSOの濃度の適合性を、実験的に決定することができる。
【0022】
高グルコース培地中に血清を含ませることは、内分泌性ホルモンを生産するように細胞を促進させるのに重要である。以下に述べる実施例では、10%のFBSを用いた。他の血清濃度(例えば、1〜20%)及び他のタイプの血清(例えば、仔ウシ血清、新生児ウシ血清、成体ウシ血清だけでなく、他の哺乳動物の成体、新生児又は胎児からの血清)は、高グルコース培地中で使用するのに適しているであろう。ここで述べられる方法に従って所定の試験をすることによって、あらゆる特定の割合及びあらゆる特定のタイプの血清の適正を決定してもよい。
【0023】
(膵臓の内分泌ホルモン及びmRNAの検出)
骨髄細胞が内分泌ホルモン産生細胞へうまく分化するかどうかを決定するため、1以上の膵臓内分泌ホルモン(例えば、インシュリン(又はプロインシュリン及びプレプロインシュリン等のインシュリンの前駆体)、グルカゴン、膵臓ポリペプチド及びソマトスタチンだけでなく、ホルモンmRNA)の発現によって細胞を調べることができる。任意の既知の技術によってホルモン発現を分析してもよい。例えば、抗ホルモン(例えば、抗インシュリン)抗体を用いた免疫沈降及びウェスタンブロッティングのような抗体に基づいた測定法を用いてもよい。生体外で生成されたインシュリンを産生する膵島細胞の機能性を評価するために、ラジオイムノアッセイ(RIA)及び酵素免疫吸着測定法(ELISA)を用いて、グルコース刺激に基づくインシュリン放出を測定してもよい。
【0024】
細胞におけるホルモンのmRNA発現を分析するため、ノーザンブロッティング及びRT−PCR技法を含む多くの測定法を用いてもよい。例えば、RT−PCRを用いて、サンプル中のインシュリン、グルカゴン、ソマトスタチン及び膵臓ポリペプチドmRNAを検出するため、当技術分野で知られている多くの任意の手法を用いて、膵臓及び骨髄細胞から全RNAを最初に分離する。いったん精製すれば、RNAはRT−PCRに供され、cDNAを生産する。次いで、適当なプライマーを用いて結果として生じるPCR産物を増幅し、電気泳動で分離する。その後、多くのシークエンシング・キットのうち任意のもの(例えば、AmpliTaqサイクル・シークエンシング・キット、Perkin-Elmer Setus(Branchburg NJ))を用いて、精製されたPCR産物を配列決定した。
【0025】
(損傷した膵臓の再生及びホルモン欠乏の改善)
本発明は、検体における損傷した膵臓を修復するための方法も含む。そのような1つの方法は、損傷した膵臓を有する検体(例えば、未損傷の膵臓より少ない膵島細胞を有する検体)を準備するステップと、少なくとも一つの骨髄細胞を検体(例えば、糖尿病によって生じる高血糖を有する齧歯動物又はヒト等の哺乳動物)へ投入するステップを含む。投与される(例えば、移植される)骨髄細胞を、齧歯動物又はヒト等の哺乳動物から分離してもよい。本発明に関連する方法は、骨髄細胞を単に分離するのではなく、上記のように内分泌ホルモン産生細胞へ分化した骨髄の移植を利用する。これらの方法の好ましい変形例では、免疫系を媒介とした拒絶を回避するために、処置される検体から又は組織適合性のドナーから骨髄細胞を分離する。任意の適当な手法によって、分離した骨髄細胞又は内分泌ホルモン産生細胞を検体へ投与してもよい。適切な細胞移植プロトコルの例を以下に述べる。また、ドナー幹細胞の分離及びその分離した細胞の移植のための手法は当技術分野で知られている。例えば、Sandhu et al., Am. J. Pathol. 159: 1323-1334, 2001、Ianus et al., J. Clin. Invest. 111: 843-850, 2003、Yang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 99: 8078-8083, 2002、Lumelsky et al., Science 292: 1389-1394, 2001及びSoria et al., Diabetes 49: 157-162, 2000を参照。
【0026】
宿主動物において、損傷した膵臓を再生するためのドナー由来の骨髄又はホルモン産生細胞の能力を試験するため、宿主動物に存在しないマーカーを有するドナー細胞を宿主動物に移植して、キメラ動物を作成することができる。この異種のマーカーの表現に基づいて、ドナー細胞の存在を検出することができる。そのような方法を使用すると、ドナー細胞に由来する膵臓におけるホルモン産生細胞(例えば、ベータ・インシュリン産生細胞)の割合を評価できる。以下に述べる実施例では、細胞マーカーDPPIVを遺伝子導入したドナー及び宿主である齧歯動物を用いて、損傷した膵臓を再生する骨髄細胞の能力を試験した。しかし、あらゆる適当なマーカーを用いてもよい。
【0027】
処置される動物(つまり、骨髄又は内分泌ホルモン産生細胞を移植した動物)の器官の再生と、コントロールである動物(つまり、骨髄又は内分泌ホルモン産生細胞を移植していない動物)のそれとを(例えば、肉眼的又は組織学的検査によって)単純に比較することによって、ドナー由来の骨髄又はホルモン産生細胞の、宿主動物における損傷した膵臓を再生する能力を調べるための別の方法を実施することができる。
【0028】
(検体における膵臓疾患の治療)
本発明の特定用途は、膵臓疾患から生じる内分泌ホルモンの欠乏の治療に関する。膵臓疾患を有する検体へ骨髄又はホルモン産生細胞を移植した後、移植した細胞によって分泌されるホルモンを全身に放出して、ホルモンの欠乏を減少させ、又は改善させる。例えば、これらの細胞によるインシュリンの分泌は、糖尿病の検体の高血糖を下げる又は改善することができる。従来の臨床の測定法を利用して、特定のプロトコルの有効性を評価できる。例えば、致死的に放射線を当てられた動物へドナー細胞を移植し、膵臓細胞の再生を測定し、高グルコース負荷に対する動物のインシュリン分泌反応、循環するグルコース・レベルを標準化する能力及びグルコース・ホメオスタシスを維持する能力を決定する。
【0029】
(細胞の投与)
上記の細胞は、任意の適当な形状で、哺乳動物(例えば、ラット、ヒト)を含む動物に投与(移植)してもよい。例えば、内分泌ホルモン産生細胞を、薬学的に許容されるキャリアー中あるいは生理食塩水又は緩衝塩溶液等の希釈液中で形成してもよい。投与方法と手段及び標準的な薬学的基準に基づいて、適当なキャリアー及び希釈液を選択してもよい。Remington's Phamacetuical Science(当分野における一般的な教科書)及びUSP/NFで、薬学的な製造と同様に模範的な薬学的に許容可能なキャリアー及び希釈剤の記述を見つけることができる。
【0030】
従来の任意の手法によって、本発明の細胞を動物に投与してもよい。例えば、内部又は外部の標的部位への注入あるいは外科的送達によって、あるいは血管によって到達できる部位へカテーテルによって、標的部位(例えば、膵臓又は肝臓)に細胞を直接投与してもよい。単一のボーラス、複数の注入又は静脈内連続注入によって、細胞を投与してもよい。
【0031】
(有効投与量)
好ましくは上記の細胞を哺乳動物に有効量投与する。すなわち、その有効量は治療される検体において望まれる結果(例えば、膵臓細胞を再生する又は検体の高血糖を改善させ糖尿病を治療する)を生産できる量である。医学及び獣医学の技術においてよく知られているように、任意の1固体の動物への投与量は、検体の大きさ、体表面面積、年齢、投与される特定の混合物、投与の時間と方法、通常の健康等を含む多くの要因に依存する。動物検体の大きさに依存して、約1〜1000IPCの間のクラスターを、又は約1〜1×108の間の内分泌ホルモン産生細胞を動物検体へ投与してもよい。
【0032】
(実施例)
本発明は、以下の特定の実施例によって、本発明をさらに説明する。実施例は本発明を説明するために用い、任意の方法で発明の範囲又は内容を制限するものとは解釈することができない。
【実施例1】
【0033】
(骨髄細胞の入手と培養)
ラットの大腿及び頚骨から骨髄細胞を収集した。10%FBSを補ったDMEM、低グルコース(5.5mM)(GIBCO社製 カタログ番号11885−084)において骨髄細胞を培養した。60分間のインキュベーションの後、非接着細胞を収集し、無血清DMEM培地で洗浄した。1%DMSO存在下で3日間、1×105/cm2の細胞密度で、無血清DMEM培地中において細胞を再接種した。そして、高濃度グルコース(25mM、高グルコース、DMEM、GIBCO社製、カタログ番号11995−065)中において10%のFBSを含む培地で、7日間細胞を培養した。Michalopoulos and Piot, Exp. Cell Res. 94: 70-78 (1975)で述べられた方法によってラットの尾の腱から抽出された、0.3%の1型コラーゲンで覆われた、スライドカバーガラス(22×22mm)上のプラスチックの6ウェルプレートに細胞を播種した。
【0034】
高グルコース条件下で、7日目に、小さい球状のクラスターが形成し始めた。10日目の後、球状の細胞クラスターの数と大きさは著しく増加し、強固に組織化された細胞の塊を形成した。単一の領域で多数のクラスターを見ることができた。より高い倍率では、クラスターは、端と構造を形成したようであった。Bonner-Weir et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 97: 7999-8004, 2000;Zulewski et al., Diabetes. 50: 521-533, 2001;Ramiya et al., Nat. Med. 6:278-282, 2000;Yang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 99: 8078-8083, 2002で述べられているように、3次元の細胞増殖は形態学的に膵島様クラスターに似ていた。培地中におけるグルコースのレベルは、10日目の終わりまでに形成されるクラスターの数に重大な影響をもたらした。高グルコース培養条件では、22×22mmのカバーガラス毎に157.5±32.9クラスター(n=8ウェル/3の独立した実験)という平均クラスター値を示した。一方、低グルコース条件では、カバーガラス毎に17.3±11.3クラスター(n=8ウェル/3の独立した実験)を示した。従って、低グルコース条件下におけるクラスターの大きさは、高グルコース条件のそれと比較して顕著に小さかった。
【0035】
別の培養方法では、3日間1%のDMSOの存在下、骨髄細胞を培養し、7日間10%のFBSを補填した、4.5g/Lのグルコースを含むDMEMへ変えた。その後、胎児血清から干渉がなく、インシュリン分泌の検出を可能にするため、培地を無血清培地へ変えた。無血清培地には、0.5%のウシ血清アルブミン(BSA)及び5.5mMグルコースを補填した。無血清培地において5時間37℃で骨髄細胞をインキュベートして、無血清培地で2回洗浄した。その後、培地を、高グルコース(例えば、25mM)を含む培地と変更し、細胞を2時間37℃でインキュベートした。培養馴化培地を収集し、−70℃で凍結させた。
【実施例2】
【0036】
(生体内におけるドナー細胞の移植測定法)
Charles River研究所(Wilmington、MA)から、ドナーであるDPPIV+F−344ラットを購入した。同系交配の正常なオスのF−344ラットからの骨髄細胞を、致死量の放射線を与えたDPPIV−のオスのF−344ラットへ移植した。その全量は、137セシウム源からの約800rad(400radの2回)であった。ネンブタール過剰服用(l00mg/kg)によって屠殺された正常なオスのF−344ラットから取り除いた大腿と頚骨から得られた骨髄細胞を得て、70%エタノール中に浸して殺菌した。骨を皮膚と筋肉から取り除き洗浄した後、骨の端を切ることにより骨髄細胞を露出し、針を挿入し、骨幹を介して抗生物質溶液が添加されたイスコフ培地を送り込むことによって、骨髄細胞を排出させた。骨髄細胞をナイロンメッシュへ通して、細胞懸濁液を混入する可能性のある骨片を取り除いた。約60×106のオスの骨髄細胞を後部静脈注入によって移植した。キメラ系の構築のため30日間を費やした。キメラ系の構築は、後部静脈出血から得られた血液細胞からのDPPIVの免疫組織化学測定法及びPCR測定法によって評価された。DPPIVを発現する動物だけを、膵臓外傷プロトコル( Field et al., Pro. Soc. Exp. Bio. & Med. 186: 183-187, 1987)で飼育した。6週間の銅の欠乏食の後、動物を再び普通食で飼育した。銅の消耗及び回復期間中の指定された時に組織を得た。麻酔による管理に続いて、2、4、6、8及び10週でラットから全膵臓をサンプリングした。組織試料の免疫組織化学測定法からの結果について以下の実施例3で述べる。
【実施例3】
【0037】
(細胞の免疫組織化学)
免疫組織化学法を用いて、移植レシピエント動物における膵臓組織からサンプリングした細胞中のDPPIV、膵臓ポリペプチド、ソマトスタチン、グルカゴン及びインシュリンの発現を評価した。アセトン・エタノール(1:99、vol/vol)中で5分間−20℃で固定し、95%のエタノールで4℃5分間洗浄した後、DPPIV基質と凍結切片とインキュベーションすることを含む、Lojdoら(Sb Lek. 81: 200-7, 1979)によって述べられた細胞化学の方法を用いてDPPIV活性を検出した。スライドを室温で空気乾燥させた。基質溶液は、150μlのジメチルホルムアミド中の2.5mgのgly−pro−4−メトキシ−ベータ−ナフチルアミド(GPMN)と、5mlのTMS緩衝液(0.1Mのトリス マレアトール(maleatol)、0.1MのNaCl、pH6.5)中の5mgのFast Blue BB塩との調整溶液である。2つの溶液は使用の直前に混合し、フィルターに通した。スライドを基質溶液中で10〜20分間37℃でインキュベートした。スライドをTMS緩衝液で2回洗浄し、2分間0.1MCuSO4中でインキュベートした。スライドをTMS緩衝液で再度洗浄して、ヘマトキシリンですぐに対比染色した。さらに、凍結切片をPBS中の4%パラホルムアルデヒド上で15分間室温で固定し、PBS中の5%スキムミルク(ブロッキング仲介物)で1時間処理した。
【0038】
DPPIV−フルオレセインイソチオシアネート(FITC)及びインシュリン−テキサスレッド(Texas Red)をマーカーとして用いて、移植及び銅の欠乏食後の膵臓組織の免疫蛍光染色を実施した。未処理のDPPIV+ラットの肝臓及び膵臓をコントロールとして調べた。未処理のDPPIV欠乏膵臓からのインシュリン細胞は、DPPIV+ではなかった。未処理のDPPIV欠乏膵臓又は未処理のDPPIV欠乏肝臓の両方ともにDPPIVによる染色がなかった。しかし、ベータ細胞はインシュリンに対して陽性染色を示した。致死量の放射線をオスのラットに当てた後、オスの動物からの骨髄移植で救われた。そして、移植されたオスのラットを、6週間の銅の欠乏食のプロトコルで飼育した後、普通食に戻した。移植及び銅の欠乏食のプロトコル(6週間)の後、膵臓におけるインシュリン及びDPPIVの免疫組織化学的局在を分析した。DPPIV−FITC及びインシュリン−Texas Redという2つのマーカーを使用した。(A)インシュリン抗体との膵臓の免疫蛍光染色、(B)DPPIV抗体との膵臓の免疫蛍光染色、(C)インシュリンを共発現する細胞におけるDPPIV発現の合成イメージングからなる。図1は、骨髄を移植した動物の膵臓におけるDPPIV細胞の発現を示す。DPPIV発現細胞を膵臓組織で2、4、6、8及び10週間で測定した。骨髄移植されたDPPIVが欠乏したオスの各々において、60切片を凍結膵臓から切り取り、染色し、DPPIV陽性細胞の全数を計測した。白いバーは全DPPIV発現細胞を示すのに対して、黒いバーはランゲルハンス島中のDPPIV発現細胞を示す。DPPIV陽性であるランゲルハンス島細胞/全細胞の割合を数字で示す。
【0039】
また、免疫組織化学の手法を用いて、試験管内で培養した骨髄細胞におけるインシュリンの発現を評価した。生体内で膵臓系へ分化した骨髄細胞におけるインシュリンの免疫組織化学的局在を分析した。10日後、(a)コントロールの骨髄細胞及び(b)1%DMSO中で培養した骨髄細胞の、インシュリンとの免疫組織化学的局在及び核染色を実施した。コントロールの骨髄細胞と異なり、1%DMSO中で培養された細胞は球状のクラスターを形成し、インシュリンに関して陽性に染色された。
【実施例4】
【0040】
(膵臓遺伝子発現のRT−PCR及びノーザンブロット分析)
骨髄細胞培養物が内分泌ホルモン産生細胞へ分化したかどうかを決定するため、RT−PCRを用いて内分泌細胞ホルモンの遺伝子発現を測定した。インシュリン、グルカゴン、ソマトスタチン及び膵臓ポリペプチドのmRNAを検出するため、骨髄細胞を1%DMSO/DMEM低グルコース(5.5mM)培地で(3日)処理し、10%FBSを有するDMEM高グルコース(7日及び10日)で処理し、又は骨髄細胞を培養しないで、成体ラットの膵臓からRNeasyキット(Quiagen社製、Valencia、CA)を用いて全RNAを分離した。前述のように、RT−PCRを行った (Oh et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 279: 500-504, 2000)。2μgのRNAをcDNA合成のために用いた。得られるRT産物を以下の条件下で増殖させた:94℃で4分間後、94℃で1分間、60℃で1分間及び72℃で2分間の30サイクル、そして72℃で4分間の最後のサイクル。
【0041】
インシュリンIプライマーは507bp産物を生成した。インシュリンIIプライマーは509bp産物を生成した。グルカゴンプライマーは650bp産物又は269bp産物を生成した。ソマトスタチンプライマーは456bp産物又は301bp産物を生成した。膵臓ポリペプチドプライマーは587bp産物を生成した。グリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH)プライマーは580bp産物を生成した。増幅された産物は1.5%のアガロースゲル中で電気泳動を実施し、エチジウムブロマイドで染色した。AmpliTaqサイクルシークエンシングキット(Perkin-Elmer Setus社製, Branchburg, NJ)を用いて、生成したPCR産物を直接配列決定した。
【0042】
分化した幹細胞は、インシュリン、グルカゴン、ソマトスタチン及び膵臓ポリペプチドを発現した。これらの結果は、系統が限定されない形で、主要な成体骨髄幹細胞を分化させることができることを示した。新たに分離した骨髄細胞においては、内分泌性膵臓のmRNAは検出されなかった。RT−PCRにより、1%DMSOで処理された骨髄細胞培養物において、これらの遺伝子のいくつかが発現することがわかった。インシュリンI、インシュリンII、グルカゴン、ソマトスタチン及び膵臓ポリペプチドmRNAを培養の最初の3日間で検知した。また、7日間及び10日間10%FBSを有する高グルコースDMEMでさらに培養すると、これらのmRNAが発現することがわかった。配列決定によってPCR産物をさらに分析し、遺伝子バンクで比較してデータを確認した。
【0043】
別のRT−PCR実験で、RT−PCRを実施し、前述のようにRT−PCRを実施した(Yang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 99:8078-8083, 2002)。Yangらによって述べられたラット膵臓分泌遺伝子に特異的なオリゴヌクレオチドプライマー(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 99:8078-8083, 2002)を用いた。RT−PCRのデータにより、骨髄由来細胞の分化の初期において転写因子、PDX−1、NKX2.2及びNKX6.1が発現すること、細胞が成熟するにつれて、これらの転写因子が下方制御されることがわかった。グルカゴン、インシュリン、ソマトスタチン及び膵臓ポリペプチドの生産の原因遺伝子のような成熟した内分泌性遺伝子が、後の分化過程で発現された。遺伝的確認のため、精製したPCR産物を直接配列決定した。DMSOで促進された骨髄由来細胞は、成熟膵臓細胞と関連した遺伝子をいくつか発現した。これらの結果は、骨髄由来細胞は、膵臓へさらに分化できる膵臓前駆細胞を含むことを示唆している。
【0044】
インシュリンのmRNAが分化した骨髄由来細胞に存在するか否かを確かめるため、高グルコースで培養された骨髄由来細胞からのRNAを用いて、ノーザンブロット解析を実施した。INS−1細胞からのRNAをポジティブコントロール(Hohmeier et al., Diabetes 49: 423-30, 2000)、正常肝臓からのRNAをネガティブコントール、培養されていない全骨髄細胞を比較として用いた。高グルコースで培養した骨髄由来細胞はインシュリンmRNAの発現を示したが、培養しなかった全骨髄細胞は示さなかった。
【実施例5】
【0045】
(免疫沈降(ウエスタンブロット及びELISA)によるインシュリンの含量と分泌の測定)
実施例4で述べられたインシュリン、膵臓ポリペプチド及びGAPDHのオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、インシュリン、グルカゴン、ソマトスタチン及び膵臓ポリペプチドmRNAの検出を実施した。1%DMSOの存在下で、骨髄細胞を3日間培養し、10%FBSを有する4.5g/LグルコースのDMEMに7日間交換した。その後、胎児血清からの阻害なしにインシュリン分泌を検出できるようにするため、培地を無血清培地へ変更した。この無血清培地を0.5%のウシ血清アルブミン(BSA)及び5.5mMグルコースで補填した。無血清培地で5時間37℃で骨髄細胞をインキュベートし、無血清培地で2度洗浄した。そして、培地を高グルコース(25mM)を含む培地に2時間交換し、37℃で細胞をインキュベートした。培養馴化培地を収集し、−70℃で凍結させた。そして、溶解緩衝液でインシュリンを抽出し、Yangらにより述べられたウサギポリクローナル抗インシュリン抗体(Santa Cruz社製, Santa Cruz, CA)を用いた免疫沈降及びウェスタンブロッティング(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 99:8078-8083, 2002)によって、インシュリンを検出した。免疫沈降の後、18%ゲル上でSDS−PAGEによって沈降物を分析し、ナイロンメンブレンに転写し、抗インシュリン抗体でブロットした。コントロールのサンプルは正常のウサギ血清及び0.5%BSAを含む培養培地から構成した。化学発光によってインシュリンを視覚化した。
【0046】
免疫沈降及びウェスタンブロット解析により、分化した骨髄由来細胞(BMD)、又はインシュリン産生細胞(IPC)クラスターが、グルコース負荷試験の間、検出できる量のインシュリンを合成し、蓄積することがわかった。グルコース負荷試験の間、IPCクラスターの細胞溶解物はインシュリンの前駆体形を含むが、培地は活性のある二本鎖状のインシュリンを含むことが示された。培地へのインシュリン分泌量を決定するため、1−2−3超感受性ラットインシュリンELISAキット(ALPCO社製 Diagnostics)を用いて、条件培地上でELISAを実施した。BMDとIPCクラスター(実験毎に約90)を25mMグルコースで2時間調べた。H9−2(83クラスター)及びH8−2(94クラスター)の両方とも培地へのインシュリンの分泌を示した(各々177.8ng/mL及び196.0ng/mL)。低グルコース条件及び培地のみにさらされたIPCクラスターは、測定においてインシュリンに反応を示さなかった。この結果は、グルコース負荷試験にさらされると、骨髄由来細胞が活性インシュリンを生産する内分泌様細胞へ分化できることを示す上で有用である。
【実施例6】
【0047】
(BMDクラスター及びIPCの超微細構造分析)
BMDクラスターの免疫蛍光分析を実施した。Ohら(Biochem. Biophys. Res.Commun. 279: 500-504, 2000)による細胞化学の方法を用いて、免疫活性を検出した。ラット尾部コラーゲン(RTC)で無菌の顕微鏡カバーグラスを覆い、6ウェル組織培養プレートに置いた。培養約10日目で球状のコロニーが形成されるまで分化した骨髄由来細胞を成長させた。クラスターを慎重に選択し、−70℃で最適切断化合物(OCT)中で凍結させ、6μmの切片をSuperfrostPlusスライド上へ置いた。凍結切片を4%パラホルムアルデヒド/PBS溶液で室温で15分間固定させた。その後、TBS−Ca(Tris−Cl、50mM CaCl2.H2、1mMのNaCl)ブロッキング溶媒中の5%スキムミルクでスライドを1時間処理した。そして、マウス抗ラットDPPIV(BD Pharmingen社製, San Diego, CA)、ウサギ抗ラットインシュリン(Santa Cruz Biotechnology社製, Santa Cruz, CA)、ウサギ抗ラット膵臓ポリペプチド(Dako社製, Cambridge, MA)、ヤギ抗ラットソマトスタチン(Santa Cruz Biotechnology社製, Santa Cruz, CA)、ヤギ抗ラットグルカゴン(Santa Cruz Biotechnology社製, Santa Cruz, CA)又は抗ラットCペプチド(Linco Research社製, St. Charles, MO)等の一次抗体と組織を4℃で一晩中、反応させた。なお、この一次抗体はブロッキング溶液を用いて1:100に希釈されたものである。PBSで組織を洗浄後、テキサスーレッド結合抗ヤギ/ウサギIgG抗体、FITC結合抗マウスIgG抗体(ブロッキング溶液を用いて1:100に希釈、Vecter Labs, Burlingame, CA)といった二次抗体と、及び核染色のためのDAPI(Vecter Labs, Burlingame, CA)と、組織を4℃で3時間インキュベートした。その後、蛍光顕微鏡下で組織を観察した。
【0048】
培養をしていない骨髄由来細胞はインシュリンを発現しなかった。しかし、骨髄由来細胞クラスターは、一般的にはランゲルハンス島の細胞中で発現される、インシュリン、ソマトスタチン及び膵臓ポリペプチドの細胞質タンパク質を発現した。骨髄由来細胞クラスターの全細胞集団の約80%は、インシュリン陽性細胞に相当する。骨髄由来クラスターの免疫組織化学により、観察されたインシュリン陽性の細胞の数は、ソマトスタチン又は膵臓ポリペプチドのいずれかを発現する細胞の数より相当多いことがわかった。
【0049】
Cペプチドの発現を評価し、原位置(in situ)でのハイブリダイゼーション(ISH)を通してインシュリンのmRNAを調べるため、低温保持装置の切片(6μmの厚さ)を4%パラホルムアルデヒド中で15分間固定した。80℃で5分間変性させた後、ラットインシュリン・ジゴキシゲニンで標識されたDNAプローブ(Roche社製, Basel, Switzerland)を52℃で切片へ適用した。その後、切片をカバースライド上に置き、ゴム糊で密封し、水和したスライドボックス中で一晩中52℃でインキュベートした。あらかじめ熱した2×SSC緩衝液(pH7.0)中で65℃でカバーガラスを取り除いた。5分間(室温)であらかじめ熱した5×SSC緩衝液中の50%ホルムアルデヒドで切片を2回洗浄し、65℃で5分間あらかじめ熱した0.1×SSC緩衝液で2回洗浄した。NBTとBCIP(Roche社製, Basel, Switzerland)を含む100mMトリス緩衝液(100mMのNaCl、50mMのMgCl2、pH9.5)中で室温で発色させた。切片を核ファストレッド(Vecter Labs, Burlingame, CA)と対比染色した後、Cytoseal(Richard-Allan Scientific社製, Kalamazoo, MI)中でマウントした。
【0050】
クラスターの間でCペプチド染色に陽性である細胞を確認した。高倍率顕微鏡写真により、報告されているベータ細胞染色と同様である明瞭なパターンの陽性染色が明らかになった。INS−1細胞及び膵臓組織と比較した時、同様の染色パターン及び発現レベルを観察した。Cペプチド染色に加えて、インシュリンmRNA発現に関するIPCの凍結切片上のISHを行った。ジゴキシゲニンで標識したインシュリン1オリゴヌクレオチドプローブを用いて、骨髄由来細胞クラスターの細胞質中のインシュリンmRNAを染色検出で観察した。そして、対比染色として核ファストレッドで青の陽性のシグナルを与えた。陽性の青色のシグナルは核周囲で観察され、細胞の細胞質の全体にわたって発せられた。この結果は、骨髄由来細胞はランゲルハンス島内で見出された細胞へ分化する潜在能力を有すことを示す。
【実施例7】
【0051】
(インシュリン産生細胞(IPC)移植及び生理学的試験)
STZ誘導糖尿病NOD/scidマウスモデルを用いて、骨髄由来細胞の膵島様細胞クラスターが高血糖を改善する能力を生体内で調べた。低用量のSTZを用いて、多数の処置を通して、NOD/scidマウスを糖尿病状態へ化学的に誘導した。糖尿病状態へ誘導した後、2日毎に標準血糖測定器(One touch Profile、糖尿病追跡システム、Johnson & Johnson Com., Milpitas, CA)を用いて血糖値を決定した。
【0052】
5日間一日に一度40mg/kgのストレプトゾトシン(STZ)の腹膜腔内注射を利用して、10週齢のオスNOD/scidマウスにおいて糖尿病を引き起こした。各注射のため、0.1Mのクエン酸緩衝液(pH4.5)に溶解することによってSTZを準備する。安定した高血糖(標準血糖測定器を用いて決定されるような血糖値300〜600mg/dL)は、最後のSTZ注射の5〜6日後に明らかになった。マウスは150の厳選されたIPCを(全身麻酔の下で)移植されるか、又はマウスは右の腎臓被膜下領域中に食塩水の偽の移植を受けた。約150のBMDIPCクラスターを9個体の糖尿病マウスの腎臓被膜下領域へ移植した。
【0053】
移植を受けたマウスは、2〜3日以内に標準化された血糖値を示し始めた。移植約17日後、移植片を取り除くため、9個体のマウスのうちの6個体が腎臓摘出術を受けた。図2で示されるように、移植後、2日毎に血糖値をモニターし、再び腎臓摘出術を受けた。移植を受けていない又は培養していない骨髄細胞を移植した動物は高血糖のままであり、STZ処置後15日以上生存しなかった。これは、STZが膵臓のベータ細胞を破壊し、糖尿病でマウスを死なせてしまうという順序を示唆している。移植を受けた動物は、移植の2日以内にグルコースのレベルをほとんど正常まで下げることができた。移植クラスターがグルコースレベルの正常化の原因であるかどうかを決定するため、IPCを移植したマウスは2つのグループに分けられた。1つのグループは移植片を維持した。一方、もう1つの移植されたマウスのグループは腎臓摘出術を行い、移植された細胞を戻し、正常血糖の回復を試験した。17日後、移植片を置いた腎臓を取り出し、さらに試験をするためOCT中で凍結させた。移植片を除かれたマウスは高血糖になり、その後すぐに死んだ。移植したIPCクラスターを維持した動物は、研究の残りの期間、ほとんど正常のグルコースレベルを維持することができ、1個体の動物はSTZ処置後の90日まで生存した。これは、クラスターが完全に膵臓の機能をする内分泌細胞へ成熟する可能性を有することを示唆している。移植を受けない又は非培養の骨髄細胞を受けたコントロールである動物は、持続性の高血糖を示し、その後、最終的に死んだ。
【0054】
従来の実施例3と6で述べたように、従来のヘマトキシリン/エオシン(H&E)染色、免疫組織化学ならびにインシュリン及びインシュリンmRNAに関するISHによって、移植された細胞を受けて、取り除かれた腎臓をさらに調べた。H&E染色に見られるように、移植された細胞は生存可能で、クラスターの形成を維持したが、それら自身を腎臓へ組み入れなかった。H&E染色により、細胞が、外観において、成人の膵臓で見られる成熟した膵島構造に典型的な立方形になったことが明らかになった。免疫組織化学とISHによって、腎臓被膜の下でインシュリン陽性細胞を観察した。インシュリンmRNAの発現を検出するために、ジゴキシゲニン標識DNAプローブを用いた。移植された細胞は、インシュリンmRNAの発現に対し陽性であった。ネガティブコントロールである移植されていない肝臓組織をISHのために用いた。このネガティブコントロールは、切片の全体にわたって陽性のシグナルを示さなかった。この結果は、骨髄由来細胞クラスターが、生体内でインシュリンを分泌する能力を保持し、糖尿病のマウスにおける高血糖値に反応して機能したことを裏付ける。
【実施例8】
【0055】
(IPCクラスターの超微細構造分析)
超微細構造レベルでIPCクラスターを調べた。これらの細胞の超微細構造の性質を特徴付けるため、10日目のIPCの電子顕微鏡観察を行った。IPC球状体を固定し(0.1Mカコジル酸緩衝液中の0.1%グルタルアルデヒド/2%ホルムアルデヒド)、0.1Mのカコジル酸緩衝液に移し、埋め込んだ。超薄切片を、10%のH22で処置し、0.9%のNaClで洗浄し、3%のBSAでブロッキングをし、0.5%のBSA(ウサギ抗ラット・インシュリン、Santa Cruz社製)で補填したPBS中の一次抗体と一晩中インキュベートし、PBSで洗浄し、ヤギ血清で再ブロッキングした。金標識二次抗体(15nmの金の粒子、ヤギ抗ウサギ、Amersham Pharmacia)で一次抗体の結合の視覚化を行い、その後、電子顕微鏡のために切片の対比染色をした。
【0056】
分化細胞は、粗面小胞体、ゴルジ複合体、少数の大きな液胞及び密顆粒を含有する分泌小胞を含む分泌細胞に典型的な構造を示した。分泌顆粒は、分化細胞の細胞質内に濃厚に密集した。成熟したベータ細胞の別の特性として報告されている、細胞膜に沿った微絨毛を見ることができた。骨髄由来のIPCクラスター中で見られる多くの顆粒は青白く、結晶類似の特性を有していた。免疫金電子顕微鏡は、骨髄由来のIPCクラスターの小分泌小胞内の顆粒にインシュリンが格納されていることを示した。金標識により、細胞の頂極で、綿状の低密度物質及び高電子密度核を有するいくつかの顆粒で満たされた、異なるサイズのかすかな球状の構造が検出された。核の中で又は細胞の他の場所で非特異性の標識化を観察しなかった。成体ベータ細胞で典型的に見られる超微細構造の特性がこれらのIPCクラスターで見つかるという事実は、これらの細胞は培地中でインシュリンを産出できるベータ細胞状へ確かに分化していたことを示している。
【0057】
(他の実施形態)
本発明の詳細な説明とともに本発明は記述されている一方、前述の説明は説明することを意図しており、本発明の範囲を限定することを意図していないのを理解するべきである。本発明の範囲は添付された特許請求の範囲の範囲によって定義される。他の側面、利点及び変更は次に述べる特許請求の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は、膵臓におけるDPPIV細胞の発現を示すグラフである。DPPIV発現細胞は、膵臓組織において、2,4,6,8,及び10週目に数えた。白いバーは全DPPIV発現細胞を示し、黒いバーはランゲルハンス島におけるDPPIV発現細胞を示す。DPPIV陽性であるランゲルハンス島細胞/全細胞の割合として数を示す。
【図2】図2は、化学的に誘導された糖尿病マウスに移植後のIPC血糖値の経時変化を示すグラフである。グラフには、コントロールであるSTZ処置マウス(非移植細胞;n=10)、又は非培養骨髄細胞(骨髄細胞のみ;n=3)、及びインシュリン産生クラスターを誘導した約150のBMが移植されたマウス(n=9)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類の骨髄細胞を内分泌ホルモン産生細胞に分化する方法であって、
(A)前記骨髄細胞を準備するステップと、
(B)DMSOを含む低グルコース培地中で前記骨髄細胞を培養するステップと、
(C)適当な条件下で、内分泌ホルモン産生細胞への前記細胞の分化を促進するための十分な時間、血清を含む高グルコース培地中で前記骨髄細胞を培養するステップと、を含むことを特徴とする哺乳類の骨髄細胞を内分泌ホルモン産生細胞に分化する方法。
【請求項2】
前記骨髄細胞は、齧歯類の細胞であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記齧歯類の細胞は、ラットの細胞であることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記内分泌ホルモン産生細胞は、インシュリンを産生することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記内分泌ホルモン産生細胞は、グルカゴンを産生することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記内分泌ホルモン産生細胞は、ソマトスタチンを産生することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記内分泌ホルモン産生細胞は、膵臓ポリペプチドを産生することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記低グルコース培地は、約5.5mMの濃度のグルコースを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記高グルコース培地は、約25mMの濃度のグルコースを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項17】
前記高グルコース培地は、DMEM及びウシ胎児血清を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項18】
前記骨髄細胞を、前記高グルコース培地で約7日間培養することを特徴とする請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記請求項1記載の方法によって作製されたことを特徴とする内分泌ホルモン産生細胞。
【請求項20】
(A)損傷した膵臓を有する検体を準備するステップと、
(B)少なくとも一つの骨髄細胞を前記検体に投与するステップと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項21】
前記損傷した膵臓は、未損傷の膵臓より少ない膵島細胞を有することを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記検体が哺乳類であることを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項23】
前記哺乳類が齧歯類であることを特徴とする請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記検体は、糖尿病で生じた高血糖を有することを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項25】
少なくとも一つの骨髄細胞を前記検体に投与することによって、前記検体中の高血糖を下げることを特徴とする請求項24記載の方法。
【請求項26】
少なくとも一つの骨髄細胞を前記検体に投与することによって、前記検体中のインシュリン値を上げることを特徴とする請求項24記載の方法。
【請求項27】
糖尿病を有する哺乳類における高血糖を改善する方法であって、
(A)糖尿病から起こる高血糖を有する哺乳類を準備するするステップと、
(B)前記哺乳類の高血糖を下げるのに十分な内分泌ホルモン産生細胞の用量を哺乳類に投与するステップとからなり、
なお、前記内分泌ホルモン産生細胞は、
DMSOを含む低グルコース培地中で前記骨髄細胞を培養するステップと、
適当な条件下で、内分泌ホルモン産生細胞への前記細胞の分化を促進するための十分な時間、血清を含む高グルコース培地中で前記骨髄細胞を培養するステップと、からなる方法により作製されることを特徴とする糖尿病を有する哺乳類における高血糖を改善する方法。
【請求項28】
前記骨髄細胞は、哺乳類から得られることを特徴とする請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記哺乳類は、ラットであることを特徴とする請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記哺乳類は、ヒトであることを特徴とする請求項28記載の方法。
【請求項31】
前記内分泌ホルモン産生細胞は、インシュリンを産生することを特徴とする請求項27記載の方法。
【請求項32】
前記内分泌ホルモン産生細胞は、グルカゴンを産生することを特徴とする請求項27記載の方法。
【請求項33】
前記内分泌ホルモン産生細胞は、ソマトスタチンを産生することを特徴とする請求項27記載の方法。
【請求項34】
前記内分泌ホルモン産生細胞は、膵臓ポリペプチドを産生することを特徴とする請求項27記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−507011(P2006−507011A)
【公表日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−501479(P2005−501479)
【出願日】平成15年10月17日(2003.10.17)
【国際出願番号】PCT/US2003/033165
【国際公開番号】WO2004/035761
【国際公開日】平成16年4月29日(2004.4.29)
【出願人】(502417254)ユニヴァーシティ オヴ フロリダ (3)
【Fターム(参考)】