説明

高い安定性を有するシンバスタチン固形製剤

【課題】
貯蔵中化学変化を受け易いシンバスタチンを含む経口固形製剤を安定化させる。
【解決手段】
少なくともシンバスタチン、フェノール系抗酸化剤及びその抗酸化効果を増強する有機酸、糖類、糖アルコール又はそれら混合物から選ばれた賦形剤を含む粉末成分がエチルセルロースによって結合及びコーティングされている顆粒を提供する。速崩壊性錠剤は、この顆粒にシンバスタチンを含まない賦形剤をベースとする速崩壊性顆粒を混合し、滑沢剤を加えて打錠することによって得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯蔵中シンバスタチンを安定に保つ固形製剤の製剤技術に関し、詳しくは錠剤に打錠するための顆粒、及び該顆粒から製造される速崩壊性錠剤に関する。
【背景技術】
【0002】
シンバスタチンは、コレステロール生合成の律速酵素である3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル補酵素A還元酵素を選択的に阻害する、高脂血症治療薬である。シンバスタチンは分子内にラクトン環を含み、温度、湿度、光などの作用によって加水分解され易く、また酸化分解され易い。このため製剤化するにあたり安定性を維持する特別の工夫が必要である。酸化分解を受け易い薬物の安定化には抗酸化剤、特にブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)の添加が効果的であるとされており、例えば特開2003−302443にはBHAと同時結晶化したシンバスタチンが開示されている。BHA等のフェノール系抗酸化剤はクエン酸等の有機酸を併用するとその抗酸化効果を増強することが知られており、例えば特開平5−255071の実施例7においてはシンバスタチンを含む錠剤にBHA及びクエン酸ナトリウムを加えている。
【0003】
しかしながらBHAのような抗酸化剤および抗酸化効果を増強する有機酸添加のみでは製剤中のシンバスタチンの貯蔵安定性を確保するには充分ではなく、特にラクトン環の開環によるオープンアシド体(OA体)への分解を防止するのに充分でない。
【0004】
また、水なしで服用できる口腔内崩壊性錠剤の場合、シンバスタチンの溶出率と安定性が両立する工夫が必要である。
【0005】
そのため、酸化及びラクトン環の開環を含むシンバスタチンの分解を防止し、また貯蔵安定性及び溶出率が両立し得るシンバスタチンの固形製剤の提供が望まれる。
【発明の開示】
【0006】
一面において本発明は、少なくともシンバスタチン、フェノール系抗酸化剤及びその抗酸化効果を増強する有機酸、糖類、糖アルコール又はそれらの混合物から選ばれた賦形剤を含む粉末成分を、エチルセルロースを含む結合液を用いて造粒及びコーティングしてなる顆粒を提供する。この顆粒は、カプセル剤、錠剤などの経口投与に適した固形製剤として投与することができる。
【0007】
他の面において本発明は、シンバスタチンを含まない賦形剤をベースとする速崩壊性顆粒に上のシンバスタチンを含む顆粒を混合し、これに滑沢剤を加えて打錠してなる速崩壊性シンバスタチン錠剤を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
最初に貯蔵中高い安定性を保つシンバスタチンの顆粒剤について説明する。この顆粒は1)シンバスタチン、2)フェノール系抗酸化剤、3)抗酸化効果を増強する有機酸、4)賦形剤を少なくとも含んでいる。
【0009】
フェノール系抗酸化剤は、食品添加物として、使用が認められているブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)およびブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)が典型例であるが、口腔内で崩壊する速崩壊性錠剤に使用する場合には苦味が殆んどないBHTが好ましい。フェノール系抗酸化剤の配合量はシンバスタチンの0.5〜5.0wt%の範囲が適当である。
【0010】
抗酸化剤の効果を増強する有機酸は、クエン酸及びそのナトリウム塩が典型例である。その配合量はフェノール系抗酸化剤の配合量に比例し、一般にシンバスタチンの3〜30wt%の範囲が適当である。
【0011】
賦形剤は一般に用いられる糖、糖アルコール又はその混合物でよく、その例はトレハロース、乳糖、マンニトール、及びそれらの混合物である。マンニトールが好ましい。賦形剤の配合量はコーティング前の1)〜4)成分全体の造粒物の50〜90wt%を占める範囲の量であることが適当である。
【0012】
賦形剤4)はエチルセルロースの溶液を結合液として造粒/コーティングされる。この時1)〜3)を賦形剤とあらかじめ混合し、この粉末混合物をエチルセルロース溶液で造粒/コーティングするか、又はエチルセルロース溶液に1)〜3)を溶解もしくは分散し、賦形剤をこの液で造粒/コーティングしても良い。エチルセルロースは水に不溶であるが、エタノール及び例えば70%以上の含水エタノールには溶解するので、この溶液を使用するのが好ましい。結合液は適量のタルク、崩壊剤例えばクロスポビドン、又はヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドンおよびポリビニルアルコールのような水溶性ポリマーを任意に含むことができる。
【0013】
造粒/コーティング法は、例えば転動造粒法、押出し法などの他の方法でも可能であるが、流動層造粒/コーティング法が生産効率の面で最適である。エチルセルロースにより造粒/コーティングすることにより、シンバスタチンの経時貯蔵安定性、特にラクトン環の加水分解に対する安定性が高まる。この効果を得るためには、エチルセルロースの量は顆粒全重量の0.5〜2.0%が適当である。この量があまり多いとシンバスタチンの溶出率に悪影響し、あまり少ないと十分な安定性が得られない。
【0014】
このようにして得られる顆粒はそのまま服用すべき顆粒剤として、又は用量の決まったカプセル剤として、又は慣用の崩壊剤及び滑沢剤と混合して錠剤に打錠することができる。
【0015】
本発明のエチルセルロースで造粒/コーティングした顆粒は、その長所(貯蔵安定性)がこれを口腔内速崩壊性錠剤に製剤化した場合にも発揮される。
【0016】
この速崩壊性錠剤は、これまで説明したシンバスタチンを含む顆粒と、シンバスタチンを含まない速崩壊性顆粒を混合し、これに慣用の滑沢剤を混合して打錠することによって製造される。速崩壊性顆粒は賦形剤をベースとし、崩壊剤および結合力の緩い結合剤の水分散液を結合液として造粒/コーティングして製造することができる。例えばマンニトールを、クロスポビドンおよびデンプンの水分散液で造粒/コーティングして製造することができる。シンバスタチンを含む及び含まない顆粒の混合比は、重量で1:2〜1:5の範囲であることが適当である。
【0017】
口腔内速崩壊錠剤の服用を容易にするため、顆粒混合物へ適量の甘味剤およびフレーバーを加えることができる。
【0018】
以下実施例および比較例によって本発明を例証する。
【0019】
実施例1,2
A.処方
下記組成からなる造粒物(以下、A顆粒と略す)、速崩壊性顆粒(以下、B顆粒と略す)及び錠剤を順次調製する(但し、含量は錠剤1錠あたりに換算した量で示す)。
(a)A顆粒の処方
【0020】
【表1】

【0021】
(b)B顆粒の処方
【0022】
【表2】

【0023】
(c)錠剤の処方
【0024】
【表3】

【0025】
B.製造方法1
〔実施例1〕(エトセルコーティング顆粒)
(1)結合液の調製:
ジブチルヒドロキシトルエン2g、クエン酸24g、ヒドロキシプロピルセルロース20g、エチルセルロース6g及びタルク2gを70%エタノール800gに分散溶解させ、これを結合液とした。
(2)造粒(エトセルコーティング):
シンバスタチン104g及びD−マンニトール442gを流動層造粒機(FD−MP−01S型/(株)パウレック製)に仕込み、上記(1)で調製した結合液を用いて造粒(コーティング)し、処方(a)−1を有するA顆粒を得た。
(3)B顆粒製造:
D−マンニトール1170gを流動層造粒機(FD−MP−01S型/(株)パウレック製)に仕込み、トウモロコシデンプン405g及びクロスポビドン45gを精製水1500gに分散懸濁させた液でコーティングして、処方(b)−1を有するB顆粒を得た。
(4)打錠用顆粒の調製:
上記(2)で調製したA顆粒45gに対して、上記(3)で調製したB顆粒162gを加え、ポリエチレン袋混合した。更にアスパルテーム1.5g、アセスルファムカリウム4.5g、パイナップルミクロン1.05g及び軽質無水ケイ酸0.3gを加え、混合した。混合終了後、ステアリン酸マグネシウム3.15gを配合し、混合して、打錠用顆粒とした。
(5)打錠:
上記(4)で調製した打錠用顆粒をロータリー式打錠機(VIRG型/(株)菊水製作所)を用いて打錠圧11.0kNにて打錠し、処方(c)−1を有する錠径7.5mm、錠剤重量145mgの錠剤を得た。
【0026】
〔実施例2〕(エトセル・クロスポビドンコーティング顆粒)
(1)結合液の調製:
ジブチルヒドロキシトルエン2g、クエン酸24g、エチルセルロース6g及びクロスポビドン6gを70%エタノール800gに分散溶解させ、これを結合液とした。
(2)造粒(エトセル・クロスポビドンコーティング):
シンバスタチン104g及びD−マンニトール458gを流動層造粒機(FD−MP−01S型/(株)パウレック製)に仕込み、上記(1)で調製した結合液を用いて造粒(コーティング)し、処方(a)−2を有するA顆粒を得た。
(3)上記表2の処方に従い、実施例1に準じて、B顆粒製造を行い、B顆粒を得た。
(4)打錠用顆粒の調製:
上記(2)で調製したA顆粒45gに対して、上記(3)で調製したB顆粒162gを加え、ポリエチレン袋混合した。更にアスパルテーム1.5g、アセスルファムカリウム4.65g、パイナップルミクロン1.07g及び軽質無水ケイ酸0.16gを加え、混合した。混合終了後、ステアリン酸マグネシウム3.15gを配合し、混合して、打錠用顆粒とした。
(5)打錠:
上記(4)で調製した打錠用顆粒をロータリー式打錠機(VIRG型/(株)菊水製作所)を用いて打錠圧11.0kNにて打錠し、処方(c)−2を有する錠径7.5mm、錠剤重量145mgの錠剤を得た。
【0027】
〔比較例1〕
A.処方
下記組成からなる造粒物、上記表2の処方に従い、実施例1と同様の組成からなるB顆粒及び下記組成からなる錠剤を順次調製する(但し、含量は錠剤1錠あたりに換算した量で示す)。
(a)造粒物の処方
【0028】
【表4】

【0029】
(b)錠剤の処方
【0030】
【表5】

【0031】
B.製造方法
(1)結合液の調製:
ジブチルヒドロキシトルエン2g、クエン酸24g及びヒドロキシプロピルセルロース20gを70%エタノール800gに溶解させ、これを結合液とした。
(2)造粒:
シンバスタチン104g及びD−マンニトール450gを流動層造粒機(FD−MP−01S型/(株)パウレック製)に仕込み、上記(1)で調製した結合液を用いて造粒し、造粒物を得た。
(3)上記表2の処方に従い、実施例1に準じて、B顆粒製造を行い、B顆粒を得た。
(4)打錠用顆粒の調製:
上記(2)で調製した造粒物45gに対して、上記(3)で調製したB顆粒162gを加え、ポリエチレン袋混合した。更にアスパルテーム6g、パイナップルミクロン1.05g及び軽質無水ケイ酸0.3を加え、混合した。混合終了後、ステアリン酸マグネシウム3.15gを配合し、混合して、打錠用顆粒とした。
(5)打錠:
上記(4)で調製した打錠用顆粒をロータリー式打錠機(VIRG型/(株)菊水製作所)を用いて打錠圧8.0kNにて打錠し、処方(b)を有する錠径7.5mm、錠剤重量145mgの錠剤を得た。
【0032】
安定性評価
製剤の安定性評価は、シンバスタチンの類縁物質であるオープンアシド体(以下、OA体と略す)を示標とし、加速安定性条件(40℃、75%RH、保存容器:褐色ガラス瓶)において、イニシャルからのOA体の増加量で判断した。
結果を以下の表に示す。
【0033】
【表6】

【0034】
表6の結果から明らかなように、実施例の製剤は、加速安定性条件下で4週間経過しても安定性に優れている。また、エトセルコーティング製剤(実施例1)に比べて、エチルセルロース及びクロスポビドンを配合したエトセル・クロスポビドンコーティング製剤(実施例2)は更に安定性に優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともシンバスタチン、フェノール系抗酸化剤及びその抗酸化効果を増強する有機酸、糖類、糖アルコール又はそれら混合物から選ばれた賦形剤を含む粉末成分がエチルセルロースによって結合及びコーティングされている顆粒。
【請求項2】
粉末成分を結合及びコーティングするためのエチルセルロースの溶液は適量のタルク及び/又は崩壊剤を含んでいる請求項1の顆粒。
【請求項3】
フェノール系抗酸化剤及びその抗酸化効果を増強する有機酸が、ブチル化ヒドロキシトルエン及びクエン酸である請求項1の顆粒。
【請求項4】
シンバスタチンに対するブチル化ヒドロキシトルエン及びクエン酸の量が、それぞれ0.5〜5.0wt%及び3〜30wt%である請求項3の顆粒。
【請求項5】
賦形剤が、トレハロース、乳糖、マンニトール又はそれらの混合物である請求項1の顆粒。
【請求項6】
賦形剤が顆粒全重量の50〜90%を占める請求項1ないし5のいずれかの顆粒。
【請求項7】
エチルセルロースの量が顆粒全重量の0.5〜2.0%である請求項1ないし6のいずれかの顆粒。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかの顆粒と、シンバスタチンを含まない賦形剤をベースとする速崩壊性顆粒との混合物を滑沢剤を加えて打錠してなる速崩壊性シンバスタチン錠剤。
【請求項9】
速崩壊性顆粒が、マンニトール、デンプン及び崩壊剤を含んでいる請求項8の速崩壊性シンバスタチン錠剤。
【請求項10】
シンバスタチンを含む顆粒と、シンバスタチンを含まない顆粒の混合比が、重量で1:2〜1:5である請求項8又は9の速崩壊性シンバスタチン錠剤。
【請求項11】
シンバスタチンを含む及び含まない顆粒の混合物がさらに甘味剤及びフレーバーを含んでいる請求項7ないし10のいずれかの速崩壊性シンバスタチン錠剤。

【公開番号】特開2006−22040(P2006−22040A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−201458(P2004−201458)
【出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(591040753)東和薬品株式会社 (23)
【Fターム(参考)】