説明

高い弾性率を有するアルミノケイ酸リチウムガラス及びその製造方法

本発明は、アルミノケイ酸リチウムガラス及びアルミノケイ酸リチウムガラスを製造する方法に関し、該ガラスは、(mol%で)以下の組成:60〜70 SiO、10〜13 Al、0.0〜0.9 B、9.6〜11.6 LiO、8.2〜<10 NaO、0.0〜0.7 KO、0.0〜0.2 MgO、0.2〜2.3 CaO、0.0〜0.4 ZnO、1.3〜2.6 ZrO、0.0〜0.5 P、0.003〜0.100 Fe、0.0〜0.3 SnO、0.004〜0.200 CeOを有する。以下の比率及び条件:(LiO+Al)/(NaO+KO)>2、0.47<LiO/(LiO+NaO+KO)<0.70、0.8<CaO+Fe+ZnO+P+B+CeO<3(式中、6つの酸化物のうち少なくとも4つが含まれる)が、本発明によるガラスに適用される。このようなアルミノケイ酸リチウムガラスは、少なくとも82GPaの弾性率を有する。その上、それは、540℃未満のガラス転移温度T及び/又は1150℃未満の加工温度を有する。ガラスは、フロートプロセスを用いた成形に好適であり、少なくとも550N/mmの曲げ強度を有し得るように化学的及び/又は熱的に強化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミノケイ酸リチウムガラス、詳細には、高い弾性率を有するアルミノケイ酸リチウムガラス物品、並びにかかるガラス及びガラス物品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多数の特殊なガラス用途は、例えば、のぞき窓のための、窓ガラスのための、又はディスプレイにおける板ガラス形態、また例えばハードディスク又は電気的利用のためのガラス基板形態のシートガラスを必要としている。ガラス溶融物からのかかるシートガラスの製造は、既知の方法、例えば、圧延、延伸、キャスティング又はフローティングによって成し遂げられている。その高い費用対効果のために、フローティングが広く使用されている。
【0003】
通常、かかる用途にはソーダ石灰ガラス又はアルミノケイ酸ガラスが使用されている。しかしながら、既知のソーダ石灰ガラス、例えば、一般の窓ガラス、及びCorning Inc.により製造される「Gorilla(商標)」等の既知のアルミノケイ酸ガラス、又はSchott AGにより製造される「eXtraDur(商標)」という銘柄のガラスは、72GPa〜73GPaの比較的低い弾性率(ヤング率)を有すると同時に、比較的高いガラス転移点(T)を有する。例えば、ソーダ石灰ガラスは典型的に550℃付近のT値を有し、eXtraDurは典型的に約600℃のT値を有する。
【0004】
したがって、これらのガラスは、一方で偏向しにくく(高ヤング率)、他方、低温で加工することができ、また化学的に強化することができる基板に対する要求を十分に満たしていない。
【0005】
化学的に強化させるための温度が低いことは、一方ではそれを省エネ型へと変換し、他方ではそれをイオン交換に使用される塩及び塩混合物の溶融温度に適応させるため、特に有益である。加えて、低いT値も、例えば、かかる基板を加圧又は曲げる場合にその加工に関して有益である。これは、ガラスを加工するのに必要とされるエネルギー及び材料上でのより小さい摩耗の観点から有用である。
【0006】
従来技術から、幾つかの特性について上述の要件を満たすものの、言及される他の特性に関して重大な欠点を有するガラスが知られている。すなわち、高い弾性率を示すガラスはよく知られているものの、これらのガラスはまた、高いT値及び/又は高い作業点を有するか、若しくは最適なものへと、特に化学的には強化することができない。
【0007】
例えば、特許文献1は、580℃未満、好ましくは490℃未満のT値を有するが、77GPa以下のヤング率を有する強化アルミノケイ酸ガラスを記載している。このため、ガラスは低いT値を有するのに対し、実現される弾性率は十分なものではない。
【0008】
加えて、これらのアルミノケイ酸ガラスは、2より小さい(NaO+KO)に対する(LiO+Al)のモル比を有するように設計される。しかしながら、ガラスに由来するLiイオンをNaイオン及び/又はKイオンと交換すれば、この場合、Liイオンが、総アルカリイオン含有量に比例して少なくなるため、2未満の比率は理想的なものではない。他のアルカリイオンの交換を超える多大な経済的利点を有する、Liイオンの交換による化学的な強化に十分に適するように、より高いリチウム含有量が望ましい。
【0009】
特許文献2は、化学的に強化することができる、TiOを含有するアルミノケイ酸ガラスを記載している。しかしながら、とりわけ酸化鉄を他の理由から意図的に添加するものとする場合、既定のTiO含有量に起因して、深褐色のFe−Ti複合体がガラスに形成されることがある。その上、多価イオンであるTiOは、Ti3+に還元されるTi4+のコーティングがガラス表面上に形成されると考えられることから、フロートプロセスによってガラスを製造するのに好ましくない。
【0010】
特許文献3は、強靭性で引っかき抵抗性のケイ酸塩ガラスを記載しており、その強度は、架橋結合を形成しない酸素原子を最小限に抑えることにより実現される。以下の関係:
15mol%≦(RO+R’O−Al−ZrO)−B≦4mol%(式中、RはLi、Na、K、Rb又はCsを表し、R’はMg、Ca、Sr又はBaを表す)
に応じたアルミノホウケイ酸塩ガラスが開示されている。しかしながら、この文献に明示的に記載されているガラスは、最大で76GPaのヤング率を達成するにすぎず、高強度ガラスが必要とされる用途には十分なものでない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0020919号
【特許文献2】特開2006−0276510号
【特許文献3】米国特許出願公開第2009/0142568号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の目的は、低い作業点及び/又はガラス転移点を示しながら、高い弾性率を有するガラス又はガラス物品、並びにこのようなガラス又はガラス物品を製造する方法を提供することである。
【0013】
本発明の別の目的は、化学的及び/又は熱的に大幅に強化することができるこのようなガラス又はガラス物品を提供することである。
【0014】
本発明の更に別の目的は、かかるガラス又はガラス物品の費用効率の高い製造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
したがって、本発明によるアルミノケイ酸リチウムガラス(以下でLASガラスとも称される)は、mol%で以下の範囲:
60〜70 SiO
10〜13 Al
0.0〜0.9 B
9.6〜11.6 Li
8.2〜<10 Na
0.0〜0.7 K
0.2〜2.3 CaO
0.0〜0.4 ZnO
1.3〜2.6 ZrO
0.0〜0.5 P
0.003〜0.100 Fe
0.0〜0.3 SnO
0.004〜0.200 CeO
の組成を含む。
【0016】
さらに、前記ガラス組成は、以下の関係:
(LiO+Al)/(NaO+KO)>2、
0.47<LiO/(LiO+NaO+KO)<0.70、
0.8<CaO+Fe+ZnO+P+B+CeO<3
に応じるものとする。
【0017】
その上、本発明によるLASガラスは、少なくとも82GPa、好ましくは少なくとも84GPaの弾性率を有する。
【0018】
また、本発明は、初めに、上述の関係及び総量に応じて上記の構成要素から溶融物を調製し、続いて、とりわけ好ましくはフロートプロセスを用いて、それからアルミノケイ酸リチウムガラス物品を形成する、アルミノケイ酸リチウムガラス物品を製造する方法を含む。
【0019】
上述の構成要素に加えて、本発明によるLASガラスはまた、溶融物を清澄するのに添加される少量の幾つかの物質を含んでいてもよい。
【0020】
本発明者等は、これらの特定の範囲の組成を有しかつ上記の関係に応じたLASガラスが特に高い弾性率を示すことを見出した。これは、従来技術、例えば特許文献1から、類似の組成を有するものの、著しく低い弾性率を有するガラスが知られているため、特に驚くべきことである。本発明者等は、高い弾性率が、特許請求の範囲に記載されるガラスの組成、とりわけ、アルカリの割合の特定の限定条件、及び全組成の0.8mol%〜3mol%の割合を占めるより微量構成要素に起因するものであると想定している。
【0021】
上記の組成に従って製造されるLASガラスは、化学的に非常に十分に強化される。特に好ましくは、ガラスに由来するLiイオンを、例えば塩溶融物に由来するより大きなイオン半径を有する一価カチオンと交換することである。しかしながら、Liイオン、Naイオン及び/又はKイオン等の種々のカチオンを好ましくは異なる深さの表面領域において置き換える多段階交換プロセスを実施することも可能である。このような強化プロセスは有益なことに、LASガラス物品の内側からLASガラス物品の表面に向かって勾配を有する強化分布の発生を可能にする。
【0022】
加えて有益なことに、LASガラスは熱的な強化によく適し得る。この目的を達成するために、LASガラスは、8.0×10−6−1〜9.0×10−6−1の線熱膨張係数α(20〜300)を示すのが好ましい。
【0023】
好ましくは、LASガラスは、1kPa〜9kPaの吹込み圧において200Wm−2−1〜500Wm−2−1の熱伝達係数を有する、ソーダ石灰ガラス用の従来型の空気調節システムを用いて強化することができる。かかるLASガラスは、車両用窓ガラスのための熱的に強化されたガラス体として有益に使用することができる。
【0024】
当然のことながら、熱的及び化学的な強化を併用してもよい。強化は有益にはガラスの強度及び引っかき抵抗性を増大させるため、その応用の可能性が広がる。
【0025】
本発明の特に好ましい実施の形態によれば、LASガラスは、540℃未満のガラス転移点T、好ましくは500℃〜540℃のT値、及び/又は10dPa・sの溶融物の粘度における1150℃未満、好ましくは900℃〜1100℃の作業点(V)を有する。低いT値及び低いV値は、プロセスの費用効率の観点から極めて有益である。エネルギーコスト及び加熱時間をともに低減すると、溶融物又は熱いガラスと接する施設部分にかかる応力が減少する。しかしながら、高い弾性率を有する非常に剛性の高いガラスは概して非常に強靭で粘性の高い硬質ガラスであるため、当然ながらこれらにとって低いガラス転移点及び作業点は問題とならない。したがって、高い弾性率を有するガラスの低いガラス転移点及び作業点は、本発明の主な利点の1つである。
【0026】
本発明によるガラスは62mol%〜68mol%のSiOを含む。本発明の状況において用語mol%はモル基準の物質量パーセンテージを指す。SiOは、ガラスの主な網目構造を形成する成分を構成し、安定なガラスを得ることを可能とする。
【0027】
SiO含有量が62mol%未満であれば、LASガラスの耐薬品性及び失透安定性は低下する。反対に、SiO含有量が約68mol%を超えると、望ましくない高い粘度及び高いガラス転移点Tがもたらされる。しかしながら、とりわけ高いT値は、エネルギーコストを増大させかつ溶融物に接する施設部分、すなわち溶融バット及びフロート浴にかかるより高い応力を伴うため、技術的及び経済的に不利益である。
【0028】
本発明によるLASガラスは更に、9mol%〜12mol%のAlを含む。SiOの他にも、酸化アルミニウムがガラス網目構造の形成に不可欠な要素である。しかしながら、SiOとは対照的に、Alは、イオン交換、例えば化学的な強化プロセス中にアルカリイオンの拡散を促す。それ故、Alは、LASガラスのイオン交換性を増大させるのに役立ち、その結果、化学的な強化によって高いガラス強度が得られる。しかしながら、Al含有量が12mol%を超えると、耐失透性が低下し、とりわけガラスがフローティングによって形成される場合に、好ましくないとされる高い溶融温度及び成形温度がもたらされる。
【0029】
も網目構造形成剤の1つと数えられるが、Pは、より低いガラス転移点及び作業点を好む。それ故、Pは、AlのTを増大させる効果を妨げる。加えて、Pはガラスのイオン交換性を助長する。
【0030】
粘度を低下させるために、LiO、NaO及びKO等のアルカリ酸化物、並びに三酸化ホウ素Bをフロートガラスに添加する。これは、粘度が低いほど溶融温度及び成形温度が低くなり、とりわけフロート温度も低くなるため、有益である。しかしながら、他の場合には化学的な強化中の、ガラスへの塩に由来するNaイオンの拡散が熱力学の観点から過度に損なわれると考えられるため、NaO含有量は概して10mol%未満とする。その上、NaOの含有量が大きすぎると熱膨張係数が増大し、ガラスの製造中、とりわけ焼なまし炉(lehr)経路におけるプロセス安定性に悪影響を及ぼすこととなる。
【0031】
8mol%未満のNaOの含有量は、LiOを含有するガラスの合成により結晶化する傾向が強く、その後、フロートプロセスによる成形が、上面及び下面の結晶をもたらす強い結晶成長によって妨げられる可能性があるため、避けたほうがよい。しかしながら、NaイオンがKイオンと交換され得るため、或る特定量のNaイオンがガラスを化学的に強化する場合に特に有用である。
【0032】
化学的な強化中に、より小さなLiイオンが交換塩に由来するより大きなNaイオン及び/又はKイオンに取って代わられるため、酸化カリウムは、ガラスに添加しないか、又は0.5wt%の分析レベルを超えないものとする。ガラス網目構造中に常に存在するKイオンがより大きなレベルであれば、このプロセスを阻害すると考えられる。その上、そのより大きなイオン径に起因して、KOは、ガラスの熱膨張をNaOよりもかなり大きく増大させる。他方、0.02wt%未満の酸化カリウム含有量は、利用可能な技術的資源を用いた費用効率の点でまず実現されない。
【0033】
アルカリ酸化物は、化学的な強化プロセスのためのイオン交換可能なカチオンを提供する。この状況では、Liイオンがガラス基質中において特に良好な移動度を有することから比較的低い温度で高い交換率を可能とするため、LiOについて特に言及するものとする。Liイオンの急速な拡散に起因して、LiOの使用は、比較的小さい又は薄い表面張力(surface tension:表面応力)層を常に伴って、高い圧縮応力(compressive stress:圧縮強度)の発生を可能にする。この組合せは、とりわけ、薄いガラスサイズの場合に高い強度をもたらす。より厚い壁を有するガラス物品では、Liイオンの交換により更に、厚い、それ故、圧縮応力の非常に強い層の作製が可能となる。当然のことながら、Naイオン及びKイオンを同様に、イオン交換プロセスに使用することができるが、それらは概してより高い交換温度を必要とする。
【0034】
したがって、良好な強化可能性のために、アルカリ酸化物の大部分は、LiOの形態で含まれるものとする。他方、LiOの含有量が大きすぎると、耐失透性及び耐薬品性が低下する。同時に、LiO含有量が増大すると、LASガラスの熱膨張も増大し、これは焼なまし炉経路におけるガラスの冷却に好ましくなく、温度変化による割れ易さを悪化させる。その上、LiOは高価である。これらの理由から、LiOの含有量は最大でも11.6mol%に限定される。
【0035】
したがって、本発明の特に好ましい実施の形態によれば、化学的に強化されたLASガラスは、EN 1288−5に従うダブルリング法で測定される場合、550N/mm〜900N/mmの範囲の曲げ強度を有する。
【0036】
LiO及びAlの含有量の合計がより大きなアルカリ酸化物NaO及びKOの含有量を少なくとも2倍超えれば、すなわち、(LiO+Al)/(NaO+KO)>2であれば、良好なイオン交換性がもたらされる。
【0037】
酸化ジルコニウムは、SiOに類似の網目構造形成剤であり、概してLASガラスの耐薬品性、とりわけ耐アルカリ性を改善させる。これは、ガラスから作製される物品が例えばアルカリ性洗浄液を用いてきれいにされる場合に有益である。さらに、示唆されたZrO含有量に起因して、溶融ユニットの耐火材に対するガラス溶融物の腐食攻撃が低減されることにより、その動作寿命が長くなる。
【0038】
しかしながら、ZrOが極めて溶融しにくいガラス成分であり、またLASガラスの結晶化し易さを増大させるため、包括的にZrOの割合は最大レベルで3mol%に限定される。また、溶融していないZrO残渣は、熱的な強化中、ガラス中に自然発生的な破断を引き起こすおそれがある。その上、フロートLASガラス物品では、望ましくない表面欠陥が生じる場合がある。酸化ジルコニウムは、核剤としてガラスセラミックの製造に使用され、ガラス表面がフロートプロセス中にスズ浴と接触すると、ガラスの表面領域に最大数百μmのサイズの高温石英混晶の結晶化を引き起こすことがある。
【0039】
MgO、CaO及びSrO等のアルカリ土類酸化物、並びに酸化亜鉛ZnOは、耐失透性及び分離安定性を改善するのに添加することができる。概して、異なる成分の数が可能な限り大きいほど、ガラスの失透安定性は高められる。この事実は、全組成のほんの少量を構成する構成要素の合計:
0.8<CaO+Fe+ZnO+P+B+CeO<3
によって説明される。
【0040】
しかしながら、アルカリ土類酸化物及び酸化亜鉛は、それらがアルカリイオンの拡散を妨げることから、少量でのみ添加されるものとする。これはひいては、既定の表面張力を実現するためのより長いイオン交換時間をもたらすと考えられる。したがって、MgO及びSrOの添加は完全に省かれる。しかしながら、ガラスは、ガラス原料中の避けられない不純物に起因して、又は、同じポット内で予め溶融されたガラスからの異物混入により、又は、ジャムブロック(jamb blocks)の耐火材からの溶解によりガラスに導入される微量のこれらの化合物を含有していてもよい。しかしながら、CaO及びZnOを少量添加してもよい。
【0041】
ガラスは、フロートプロセスとのそれらの不適合性に起因して、特に環境上の理由から、清澄剤としてAsもSbも全く含まないものとする。フロート浴雰囲気の高い還元条件下、酸化物は金属元素に還元されると考えられ、ガラスは望ましくない取り除くことのできない表面変色を有する可能性がある。
【0042】
したがって、代わりに、多価酸化物SnO、CeO及びFeの組合せを清澄に使用することができる。本発明の特に好ましい実施の形態によれば、SnO、CeO及びFeの群から選択される少なくとも2つの酸化物が、0.1mol%の最小量で清澄に使用されるものとする。しかしながら、SnO含有量は0.5wt%の上限を超えないものとし、そうでなければ、蒸発現象及び凝縮現象に起因してガラス欠陥が大幅に増大すると考えられる。その上、LASガラスが失透する傾向は、より高いSnO含有量に伴って過度に増大する。
【0043】
しかしながら、0.5wt%以下のSnO含有量は、気泡を含まないガラスを作製するのに十分なものでない。SnOをCeO及び/又はFeと組み合わせることによって、驚くべきことにこの欠点を補うことができる。
【0044】
したがって、本発明の特に好ましい実施の形態によれば、LASガラスの全組成における構成要素SnO、CeO及びFeの割合は、0.1mol%よりも大きく、すなわち、SnO+CeO+Fe>0.1とすることができる。
【0045】
しかしながら、CeO及びFeの使用はガラスの着色をもたらす。使用に応じて、この着色は、程度の差はあるが厄介なものとなる場合もあり、又はそれどころか意図的なものであることもある。例えば、酸化鉄を使用する場合にもたらされる緑色の着色は、赤外波長帯におけるフィルタとして作用する。これは、例えば車両用窓ガラスに有益であることが証明されている。夏には、太陽による車室の加熱を抑えると考えられ、冬には反対に、環境への熱損失を低減させる。
【0046】
さらに、後処理中に熱カップリングが必要な場合には、或る特定量のFeも有益である。例えば、酸化鉄の添加によって、ガラスシートを曲げるのに必要とされる温度により早く到達することができる。
【0047】
しかしながら、清澄剤としてのCeO及びFeの使用の欠点は、TiOと一緒にこれらの酸化物が濃い褐色を呈する色複合体を形成することである。この理由から、TiOはLASガラスの常用の構成要素ではないものとされる。また、可能な限り少ないTiO含有量を含む原材料が好ましい。本発明の好ましい実施の形態によれば、LASガラスはまた、MgO及び/又はAs及び/又はSb及び/又はV及び/又はBi及び/又はPbOを含まないものとする。
【0048】
CeOはそうでなければガラスの過剰な蛍光及び黄色みを帯びた色をもたらすため、この酸化物の含有量は最大でも0.112mol%に限定される。
【0049】
別の清澄添加剤として、任意に、例えばCaF又はNaSiFの形態のフッ化物を添加してもよい。Fの0.025wt%の更に非常に小さいフッ化物含有量は、バッチカーペット(batch carpet)の溶融を容易なものとする。しかしながら、過剰なフッ化物含有量は、化学的な強化にとって実現可能なレベルを低下させ、LASガラスの不透明性をもたらすことがある。
【0050】
代替的に又は付加的に、ガラス溶融物は、例えば0.2wt%〜2.0wt%の共通する清澄剤濃度でNaCl又はKCl等のハロゲン化物塩を用いて清澄することができる。
【0051】
その上、清澄は、NaCl、KCl、硫酸塩等の清澄剤の使用を伴って又は伴わずに、物理的な清澄プロセス、例えば高温清澄を用いて達成することができる。
【0052】
付加的に又は代替的に、例えば、0.01wt%〜0.5wt%の共通する清澄剤濃度の硫酸塩、例えばNaSOの添加によってガラス溶融物を清澄させることが可能である。
【0053】
さらに、本発明の1つの実施の形態によるLASガラスは、2.50g/cm未満の密度を有し得る。
【0054】
本発明の特定の好ましい実施の形態によれば、LASガラスは、mol%で以下の範囲:
62〜68 SiO
10〜12 Al
0.0〜0.7 B
10.1〜11.1 Li
8.6〜9.8 Na
0.0〜0.3 K
0.00〜0.08 MgO
0.5〜1.7 CaO
0.0〜0.2 ZnO
1.5〜2.1 ZrO
0.0〜0.3 P
0.003〜0.080 Fe
0.05〜0.30 SnO
0.04〜0.10 CeO
の組成を有する。
【0055】
本発明の別の好ましい実施の形態によれば、LASガラスは、mol%で以下の範囲:
63〜67 SiO
10.8〜11.5 Al
0.1〜0.6 B
10.3〜10.8 Li
9.0〜9.5 Na
0.1〜0.3 K
0.00〜0.05 MgO
0.6〜1.4 CaO
0.0〜0.1 ZnO
1.6〜2.0 ZrO
0.0〜0.1 P
0.003〜0.080 Fe
0.1〜0.2 SnO
0.04〜0.07 CeO
の組成を有する。
【0056】
本発明の範囲は更に、上記の方法を用いて製造可能であるか又は製造されるアルミノケイ酸リチウムガラス物品を含む。これらのLASガラス物品は、種々の要件を満たすように、種々の厚みで製造することができる。例えば、フローティングによって、例えば3mm〜6mmの一般的な窓板厚を作製することができる。また、フローティングによって、タッチパネルの制御素子によく見られる、例えば0.4mm〜0.7mm厚の非常に薄い材料を作製することも可能である。当然のことながら、LASガラスを成形するのに適切な他の成形プロセス、例えば、ダウンドロー、ドローアップ、オバーフローフュージョン及びフーコープロセス等の延伸プロセスも同様に本発明の範囲内である。
【0057】
LASガラス物品は、高いガラス剛性が必要とされる用途において有益に使用することができる。特に有益なものは、物品の高い剛性が重要でありかつこれらの物品が大量生産される用途である。それらの場合、比較的低いエネルギーコスト、及びそれ故、応力を受けるガラスの低い転移点及び低い作業点に特に意義がある。
【0058】
特に好ましくは、これらのアルミノケイ酸リチウムガラス物品は、高い圧縮強度及び剛性が必要とされる分野における、高強度の板又は窓ガラスとしての、とりわけ、車両用窓ガラスのためのガラス体としての、電子モジュール又はソーラーモジュール用の基板としての、ソーラー技術における部品としての、タッチパッドデバイス又はタッチパネルデバイスの制御素子としての、ハードディスク用の基板としての、携帯用電気通信デバイスのためのカバー又はディスプレイとして使用される。
【発明を実施するための形態】
【0059】
ここで、例示的な実施形態を参照して本発明をより詳細に説明する。
【0060】
幾つかの実施形態に関して、表1に平らなフロートガラスの組成及び特性を挙げる。
【0061】
表1中のLASガラスは、約1620℃の白金るつぼにおいて、上述の組成に従う共通のガラス原材料から溶融し、均質化した。フロートラインにおいて6mm厚のシートを作製した。これらのシートから、物理特性及び機械特性を求めるために、ロッド又はプレート等の試験サンプルを切断した。
【0062】
溶融ガラスによっては、密度、20℃〜300℃の線熱膨張係数、変態点、1013dPa・s、107.6dPa・s及び10dPa・sにおける粘度、並びにDIN 9385に従うヌープ硬度HK0.1/20を求めた。また、共通のロッド曲げ法(rod bending method)により弾性率及び剛性率を求めた。
【0063】
370℃〜400℃で15時間〜20時間の、NaNO溶融物を用いて達成した化学的な強化に続いて、表面張力層の深さ(侵入深さ)とともに、EN 1288−5に従うダブルリング法により曲げ強度(MOR=破壊係数)を測定した。
【0064】
加えて、強い還元フロート浴雰囲気に起因して起こり得る変色の評価を可能にするために、それにより、フロートプロセスにおけるガラスの加工性についての結論を下すために、約2.5リットルの溶融物体積のサンプルサイズのLASガラスの溶融サンプルをそれぞれ、フロート浴の高温帯域にあるガラスシートの縁にキャストした。表1に挙げたLASガラスはいずれも、600℃〜1100℃の温度でフロート浴に10分間曝した後に、結晶を有していなかった。よって、LASガラスは、結晶化する傾向が極めて低いことを示し、このため、フロート技法を用いて容易に加工される。
【0065】
表2は、従来技術で既知のアルミノケイ酸ガラスを示す。これらのガラスのデータは、独国特許第10 2004 022 629号(表1、ガラス1)及び独国特許第42 06 268号(表1、実施例4)からとってきたものである。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
本発明に含まれるLASガラス(表1)と従来技術のガラス(表2)との比較によって、従来技術のガラスが幾つかの点で、弾性率(>82GPa)、低いガラス転移点(<540℃)及び低い作業点(<1150℃)、また特許請求の範囲に記載のアルカリの比率:
(LiO+Al)/(NaO+KO)>2、
0.47<LiO/(LiO+NaO+KO)<0.70
に関する要件を満たすことが示される。しかしながら、いずれの場合にも、有益な特徴が特許請求の範囲に記載の組合せで全て存在するわけではない。その上、どの場合も、以下の関係:
0.8<CaO+Fe+ZnO+P+B+CeO<3(6つの酸化物のうち少なくとも4つが含まれる)
に適合しない。
【0069】
ガラス4は、特許請求の範囲に記載されるような、2より大きい比率(LiO+Al)/(NaO+KO)を有する。弾性率は85GPaであり、すなわち高い。
【0070】
しかしながら、ガラスは計約3.6mol%、すなわち少量のイオン交換性アルカリ酸化物のみを含み、このため、単に理論的に交換可能なイオンが少数であることに起因して比較的小さい強化性がもたらされる。
【0071】
アルカリ酸化物の総量に対するLiOの割合は、0.75であり、すなわち特許請求の範囲に記載の範囲よりも大きい。T値及びV値はそれぞれ645℃及び1307℃であり、すなわち非常に高く、このため、エネルギーを大量に消費し、高い材料応力を伴う。
【0072】
少量の構成要素の含有量は、特許請求の範囲に記載の範囲に従って示唆されるものよりも大きく、2つの異なる酸化物によってのみ提供される。その上、ガラスのAl含有量は34.14mol%であり、すなわち非常に高い。この組合せを考慮すると、ガラスが、とりわけフロートプロセスを用いて成形される場合に、比較的高い失透傾向を有すると想定することができる。
【0073】
加えて、ガラスの線熱膨張係数が4.16×10−6−1であるため、比較的高く、そのため、ガラスの破壊が例えば焼なまし炉経路においてより起こりやすい。
【0074】
表2のガラス5は、2より大きい(LiO+Al)/(NaO+KO)比率を有する。また、T値及びV値はそれぞれ504℃及び1078℃であるため、特許請求の範囲に記載の範囲内にある。弾性率は86GPaであり、すなわち高い。
【0075】
アルカリ酸化物の総量に対するLiOの割合は、特許請求の範囲に記載の範囲未満である。よって、ガラスはLiOの比較的低いパーセンテージを有するため、化学的な強化におけるLiイオンの交換にとって最適なものでない。
【0076】
CaO、Fe、ZnO、P、B又はCeO等の微量構成要素が含まれない。その上、Al含有量が約20mol%であり、すなわち比較的高い。この組合せを考慮すると、このガラスは失透する傾向が比較的高いため、フロートされるのに不十分にしか適していないと想定することができる。その上、それは、ZrOを11.04mol%、すなわち多く含む結果、フローティング中においてガラス表面に高温石英混晶の重大な形成をもたらし得る。
【0077】
したがって、従来技術で既知のガラスは一部分においては化学的な強化に適するが、それらは、フロートプロセスを用いた成形に極めて重要である最適な耐失透性を示さないと想定することができる。また、ガラスの組成は、化学的な強化を目的としたLiイオン交換に最適なものでない。
【0078】
他のガラス成分に応じた、特許請求の範囲に記載される酸化物の比率の組合せは、とりわけ、高い剛性並びに低いT値及びV値を有し、かつ費用効率の高いフロートプロセスを用いて製造され、また化学的及び/又は熱的な強化に起因して、500N/mmより大きい曲げ強度を示すLASガラスを製造することを可能にする。言い換えれば、高い剛性及び高い曲げ硬度を有しながらも、依然として費用面及び時間的に効率よく製造することができるLASガラスが、初めて本明細書で説明される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミノケイ酸リチウムガラスであって、mol%で組成:
60〜70 SiO
10〜13 Al
0.0〜0.9 B
9.6〜11.6 Li
8.2〜<10 Na
0.0〜0.7 K
0.0〜0.2 MgO
0.2〜2.3 CaO
0.0〜0.4 ZnO
1.3〜2.6 ZrO
0.0〜0.5 P
0.003〜0.100 Fe
0.0〜0.3 SnO
0.004〜0.200 CeO
を、以下の関係:
(LiO+Al)/(NaO+KO)>2、
0.47<LiO/(LiO+NaO+KO)<0.70、
0.8<CaO+Fe+ZnO+P+B+CeO<3(式中、6つの酸化物のうち少なくとも4つが含まれる)
に応じて含み、
該アルミノケイ酸リチウムガラスが、少なくとも82GPaの弾性率を示し、
540℃未満のガラス転移点T及び/又は1150℃未満の作業点を有し、
フロートプロセスによって成形されるのに好適であり、
該アルミノケイ酸リチウムガラスがEN 1288−5に従うダブルリング法で測定される場合、少なくとも550N/mmの曲げ強度を有するように、化学的及び/又は熱的に強化することができる、アルミノケイ酸リチウムガラス。
【請求項2】
8.0×10−6−1〜9.0×10−6−1の線熱膨張係数α(20〜300)を示す、請求項1に記載のアルミノケイ酸リチウムガラス。
【請求項3】
合わせて全組成の少なくとも0.1mol%を占める、すなわち、SnO+CeO+Fe>0.1である、Fe、CeO及びSnOを含む清澄成分の群から少なくとも2つの成分を含み、かつ/又は、SnOの含有量が0.5wt%以下である、前記請求項のいずれか一項に記載のアルミノケイ酸リチウムガラス。
【請求項4】
ガラス原材料中において技術的又は経済的に避けられない残渣を除き、TiO及び/又はMgO及び/又はAs及び/又はSb及び/又はV及び/又はBi及び/又はPbOを含まない、請求項3に記載のアルミノケイ酸リチウムガラス。
【請求項5】
前記ガラスに由来するLiイオンをより大きなイオン半径を有するイオンと交換することによって化学的に強化された、前記請求項のいずれか一項に記載のアルミノケイ酸リチウムガラス。
【請求項6】
mol%で以下の範囲:
62〜68 SiO
10〜12 Al
0.0〜0.7 B
10.1〜11.1 Li
8.6〜9.8 Na
0.0〜0.3 K
0.00〜0.08 MgO
0.5〜1.7 CaO
0.0〜0.2 ZnO
1.5〜2.1 ZrO
0.0〜0.3 P
0.003〜0.080 Fe
0.05〜0.30 SnO
0.04〜0.10 CeO
の組成を含む、前記請求項のいずれか一項に記載のアルミノケイ酸リチウムガラス。
【請求項7】
mol%で以下の範囲:
63〜67 SiO
10.8〜11.5 Al
0.1〜0.6 B
10.3〜10.8 Li
9.0〜9.5 Na
0.1〜0.3 K
0.00〜0.05 MgO
0.6〜1.4 CaO
0.0〜0.1 ZnO
1.6〜2.0 ZrO
0.0〜0.1 P
0.003〜0.080 Fe
0.1〜0.2 SnO
0.04〜0.07 CeO
の組成を含む、前記請求項のいずれか一項に記載のアルミノケイ酸リチウムガラス。
【請求項8】
少なくとも82GPaの弾性率並びに540℃未満のガラス転移点及び/又は1150℃未満の作業点を有する、アルミノケイ酸リチウムガラス物品を製造する方法であって、
mol%で以下の範囲:
60〜70 SiO
10〜13 Al
0.0〜0.9 B
9.6〜11.6 Li
8.2〜<10.0 Na
0.0〜0.7 K
0.0〜0.2 MgO
0.2〜2.3 CaO
0.0〜0.4 ZnO
1.3〜2.6 ZrO
0.0〜0.5 P
0.003〜0.100 Fe
0.0〜0.3 SnO
0.004〜0.2 CeO
の組成を、以下の関係:
(LiO+Al)/(NaO+KO)>2、
0.47<LiO/(LiO+NaO+KO)<0.70、及び
0.8<CaO+Fe+ZnO+P+B+CeO<3
に応じて有するガラス溶融物を調製する工程と、
特にフロートプロセスによってアルミノケイ酸リチウムガラス物品を形成する工程と、
を少なくとも含む、アルミノケイ酸リチウムガラス物品を製造する方法。
【請求項9】
清澄成分Fe、CeO及び/又はSnOのうち少なくとも2つを前記溶融物に添加し、この添加成分が、合わせて全組成の少なくとも0.1mol%を占める、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ハロゲン化物塩、とりわけ、NaCl及び/又はKClを清澄成分として添加し、清澄成分の含有量が、好ましくは全組成の0.2wt%〜2.0wt%の共通する範囲にある、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
硫酸塩を清澄成分として添加する、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
とりわけ前記アルミノケイ酸リチウムガラスに由来するLiイオンをより大きなイオン半径を有するイオンと交換することによって、前記アルミノケイ酸リチウムガラス物品を化学的に強化し、かつ/又は熱的に強化する、請求項8〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記アルミノケイ酸リチウムガラスを、1kPa〜9kPaの吹込み圧において200Wm−2−1〜500Wm−2−1の熱伝達係数を有する、ソーダ石灰ガラス用の従来型の空気調節システムを用いて熱的に強化する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
高い圧縮強度及び剛性が必要とされる分野における、高強度の板又は窓ガラスとしての、とりわけ、車両用窓ガラスのためのガラス体としての、電子モジュール及びソーラーモジュール用の基板としての、ソーラーモジュール用の部品としての、タッチパッドデバイス又はタッチパネルデバイスの制御素子としての、ハードディスク用の基板としての、携帯用電気通信デバイスのためのカバー又はディスプレイとしての、請求項8〜13のいずれか一項に記載のアルミノケイ酸リチウムガラス物品の使用。

【公表番号】特表2013−520387(P2013−520387A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−554246(P2012−554246)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際出願番号】PCT/EP2011/000888
【国際公開番号】WO2011/104018
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(504299782)ショット アクチエンゲゼルシャフト (346)
【氏名又は名称原語表記】Schott AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr.10,D−55122 Mainz,Germany
【Fターム(参考)】