説明

高い溶融強度と延伸性を示すポリプロピレン

【課題】向上した溶融強度と向上した延伸性を示すポリプロピレンを提供。
【解決手段】溶融加工における多頂ポリプロピレンブレンド物の使用で溶融強度と延伸性の間の歩み寄りを向上させる目的で前記ブレンド物が少なくとも8の分散指数と少なくとも10のMz/Mn比を示すようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリプロピレンに関する。
【背景技術】
【0002】
アイソタクチックポリプロピレンおよびシンジオタクチックポリプロピレンそしてそれらのブレンド物が多種多様な用途で用いられることは公知である。例えば、ポリプロピレンは紡糸繊維、インフレーションフィルム、押出し加工プロファイルおよび発泡体の製造で用いられる。ポリプロピレンの加工が溶融状態で行われるような用途では、重合体は高い溶融強度(melt strength)を示すのが望ましい。ある用途、例えば繊維の紡糸およびフィルムのブロー加工などでは、ポリプロピレンが高い溶融強度を示すことに加えて高い延伸性(drawability)を示すことが要求される。延伸性が高いと繊維またはフィルムの製造を破壊なしに高速で行うことが可能になるばかりでなくまた直径がより小さい繊維の製造およびより薄いフィルムの製造を行うことも可能になる。
【0003】
高い溶融強度と延伸性の間に妥協が存在する傾向がある。このように、ある種の公知ポリプロピレンは高い溶融強度を示すが延伸性が低い。このことから、それらは繊維の延伸、特に直径が小さい繊維の延伸で用いるには適さない。
【0004】
せん断速度を高くした時に高い溶融強度を示す重合体溶融物は、これを延伸した時にまばらに(thins out)なって破断するのではなく、延伸した時にむしろ硬化して強くなる溶融物を指す。このように延伸した時に起こる硬化は一般に歪み硬化と呼ばれる。溶融強度が重要な役割を果たすポリプロピレン加工操作には、吹込成形、押出し加工被覆、熱成形、繊維紡糸および発泡体押出し加工が含まれる。熱成形では、溶融強度が劣るとたれ下り現象が起こる。繊維紡糸では、溶融強度が劣ると繊維が横方向の力、例えば冷却用空気などによって望ましくない動きをとることにより最終的に繊維の「合体(married)」および繊維の破断に導かれる可能性がある。他方、溶融強度があまりにも高いと繊維の低いタイター(titre)の達成が制限されるであろう。従って、溶融強度と延伸性の間の適切な均衡が望ましい。インフレーションフィルム(2軸配向)またはキャストフィルムの場合にもまた溶融強度と延伸性の間の適切な均衡が非常に重要である。発泡体押出し加工の場合、溶融強度が劣ると結果として気泡が崩壊し、気泡構造が均一でなくなる。そのような用途では、延伸性が劣ると壁の滑らかさが制限されるであろう。
【0005】
従来技術でポリプロピレンの溶融強度を向上させる解決法がいくつか提案されてきた。例えば、長鎖分枝を有する重合体は良好な溶融強度を示す傾向がある。アイソタクチックポリプロピレンの場合、照射または反応性押出し加工(reactive extrusion)方法、例えば特許文献1〜3などに開示されている方法を用いてそれを達成することができる。このような方法の限界は、溶融強度を高くすると同時に延伸性の著しい低下が起こる点にある。加うるに、照射方法は高価である。また、例えば特許文献4に開示されているように、アイソタクチックポリプロピレンをこれの溶融強度を向上させる添加剤、例えば高分子量のアクリレートなどとブレンドすることも提案された。アイソタクチックポリプロピレンを高い溶融強度を示すポリエチレンまたは充填材とブレンドした時にも同じ結果になり得る。このような方法は、アイソタクチックポリプロピレンが有する固有の特性がそのような添加剤によって大きく変成されることにより制限される。
【0006】
また、アイソタクチックポリプロピレンの溶融強度はもっぱらこれが示す重量平均分子量(Mw)によって決定されることも文献から公知である[非特許文献1]。
【0007】
特許文献5はポリオレフィン樹脂の溶融紡糸方法に関し、この方法でブレンドされた樹脂は、高いメルトフローレートと狭い分子量分布を示す低分子量のポリオレフィン樹脂を比較的低い分率で含有し、低いメルトフローレートと典型的には狭い分子量分布を示す混和し得る高分子量のポリオレフィン樹脂をより高い分率で含有する。そのようにしてブレンドされた向上した分子量分布を示すポリオレフィン樹脂は多様な特性パラメーターを示すことが開示されており、そのようなパラメーターには、7.2から10の範囲の分子量分布幅Mz/Mn、15.5未満のフローレート比(flow rate ratio)、および20秒-1の時の0.70から0.78の範囲のべき乗則指数(power law index)、そして400,000から580,000の範囲のZ平均分子量Mzまたは−0.029から−0.047の範囲の二次定数b2[回帰分析粘度式から決定]のいずれかまたは両方、そしてMzおよびb2パラメーターの両方ともが前範囲内にない入らない時には1.6から2.0の範囲のダイ スエル(die swell)B2および約0.08から約0.026の範囲の紡糸ファクターln(B2)/MFRが含まれる。
【0008】
特許文献7には、二頂(bimodal)オレフィン重合体および共重合体を製造する方法が開示されている。しかしながら、前記明細書はポリプロピレンの延伸に関する問題を取り扱っていない。
特許文献8には、グラフト化剤と切断剤を用いて重合体の分子量分布を二頂にすることが開示されている。
特許文献9には、幅広い分子量分布、特に多頂分子量分布を示すポリオレフィンを製造するための触媒系が開示されている。前記明細書はポリプロピレンの延伸性に関する問題を取り扱っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5047446号明細書
【特許文献2】米国特許第5047485号明細書
【特許文献3】米国特許第5541236号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第0739938号公報
【特許文献5】米国特許第5549867号明細書
【特許文献6】米国特許第5494965号明細書
【特許文献7】米国特許第5578682号明細書
【特許文献8】欧州特許出願公開第0310734号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】A.Gijsels Ind.Polym.Process.、9、252(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、向上した特性、例えば向上した溶融強度と向上した延伸性を示すポリプロピレンを提供することにあり、このポリプロピレンはアイソタクチック、シンジオタクチック、またはアイソタクチック画分とシンジオタクチック画分のブレンド物であってもよい。本発明の目的は、また、ポリプロピレンを溶融状態で例えば高いせん断速度で加工する必要がある加工用途、典型的には繊維の紡糸で用いることができるようなポリプロピレンを提供することにある。本発明のさらなる目的は、溶融強度と延伸性の間の歩み寄りが改良されたポリプロピレンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
従って、本発明は、多頂アイソタクチックポリプロピレンブレンド物を溶融加工(melt processing)で用いることを提供し、ここでは、溶融強度と延伸性の間の歩み寄りを向上させる目的で前記ブレンド物が少なくとも8の分散指数と少なくとも10のMz/Mn比を示すようにする。
【0013】
本発明は、また、ポリプロピレンを溶融加工する時の溶融強度と延伸性の間の歩み寄りを向上させる方法も提供し、この方法は、少なくとも8の分散指数と少なくとも10のMz/Mn比を示す多頂ポリプロピレンブレンド物を提供することを包含する。
【0014】
本発明は、更に、ポリプロピレンブレンド物を溶融加工する方法も提供し、この方法は、多頂ポリプロピレンブレンド物を用意し、溶融強度と延伸性の間の歩み寄りが向上するように前記ブレンド物が8から70の分散指数と少なくとも10のMz/Mn比を示すようにそれを選択しそして前記ブレンド物を溶融状態で延伸することにより前記ブレンド物を加工し、固体状製品を生成させることを含んで成る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の1番目の態様に従う二頂アイソタクチックポリプロピレンのGPCクロマトグラム。
【図2】本発明の2番目の態様に従う二頂アイソタクチックポリプロピレンのGPCクロマトグラム。
【図3】本発明の3番目の態様に従う二頂アイソタクチックポリプロピレンのGPCクロマトグラム。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書に示す分散指数(dispersion index)(D)[また多分散指数としても知られる]は、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の間の比率である。Mz/Mn比は分子量分布の幅である。Mzはz平均分子量であり、これを全iに関してΣNiMi3/ΣNiMi2として定義される。
【0017】
この多頂ブレンド物は好適には二頂であるが、別法として三頂、四頂などであっても構わない。前記画分のブレンド物は、物理的ブレンドまたは化学的ブレンド、例えば2基の反応槽を直列で用いた化学的ブレンドまたは1基の反応槽を使用し、特定の2種類の触媒を用いて化学的にブレンドすることにより入手可能である。このようなポリプロピレン画分を単独重合体または共重合体で構成させてもよくそして前記画分の製造をいろいろな触媒、例えばチーグラー・ナッタ触媒またはメタロセン触媒などを用いて行ってもよい。
【0018】
好適には、前記分散指数を15より高くする。この分散指数は約70に及んでもよい。
前記分子量分布幅は10以上であることを条件として特に制限はない。この分子量分布幅(Mz/Mn)を好適には50−150にする。
【0019】
前記ブレンド物の1番目の高分子量画分の含有量を20から80重量%にして2番目の低分子量画分の含有量を80から20重量%にしてもよい。
【0020】
好適には、前記ブレンド物の前記1番目の画分の含有量を50から70重量%にして前記2番目の画分の含有量を50から30重量%にする。
【0021】
より好適には、前記ブレンド物の前記1番目の画分の含有量を55から65重量%にして前記2番目の画分の含有量を45から35重量%にする。
【0022】
前記1番目と前記2番目の画分が示すメルトフローインデックスの比率を好適には少なくとも5にする。典型的には、前記1番目の画分が示すメルトフローインデックスを5dg/分未満にしそして前記2番目の画分が示すメルトフローインデックスを60から1000dg/分にする。
【0023】
場合により、前記ブレンド物を、1番目の画分と2番目の画分の混合物を鎖切断剤(chain scission agent)と鎖グラフト化剤(chain grafting agent)の混合物と共に反応性押出し加工することで生成させてもよい。前記鎖切断剤に2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンを含めることができる。前記鎖グラフト化剤はメタアクリル酸アリルおよびジビニルベンゼンから選択することができる。
【0024】
前記1番目および2番目の画分そしてそのブレンド物は好適にはポリプロピレン単独重合体で構成させる。別法として、前記1番目および/または2番目の画分をポリプロピレン共重合体で構成させてもよい。
【0025】
本発明は、また、前記ポリプロピレンを繊維、発泡体、フィルム、熱成形品および押出し加工品の成形で用いることにも関する。
【0026】
本発明は、多頂ポリプロピレンが高い分散指数(D)[これはMw/Mn比(ここで、Mwは重量平均分子量でありそしてMnは数平均分子量である)である]を示すように分子量分布を広げるとポリプロピレンが示す機械的特性、特に溶融強度と延伸性が改良されることを本発明者らが見いだしたことを基にしている。前記溶融強度の測定は、典型的には、押出された溶融物から得られた繊維を所定条件下の回転車上で延伸する時に要する力を測定することによって行う。ポリプロピレンが示す溶融強度が高ければ高いほど一般にそれの溶融物を用いて行う加工、例えば繊維の紡糸、フィルムの吹込加工、熱成形、そしてプロファイル、例えば管またはパイプなどの押出し加工における信頼度が高くなる。溶融強度が高くなるにつれて一般に溶融状態の材料が破壊または変形を起こす傾向が低くなる。
【0027】
ポリプロピレンが示す溶融強度はそれのメルトフローインデックス(MFI)が低くなるにつれて高くなる傾向がある。本明細書では、MFI値の測定を、ASTM D1238の手順を用い、230℃の温度で2.16kgの荷重を用いて行った。
【0028】
繊維の紡糸(およびフィルムの吹込成形)では、ポリプロピレンが高い溶融強度を示すことに加えて高い延伸性を示すことが望まれる。延伸性が高いことは、そのような材料の延伸を高速、即ち高い歪み速度で行なって直径が小さい繊維(または細い繊維)を生成させることができることを意味する。ポリプロピレンが示す延伸性の測定を、典型的には、繊維を繊維紡糸中に一定加速度で回転する車の回りに巻き付けてフィラメントの破壊に至る最大角速度(1分当たりの回転数の単位で表す)を測定することにより行う。延伸性が高いと、破壊(rupture)前の延伸速度を高くすることが可能になり、それによって、より細いフィラメントの製造を行うことさえ可能になる。
【0029】
このように、本発明者らは、少なくとも8の分散指数を示すポリプロピレンブレンド物を生成させると溶融強度と延伸性が共にそれらの間の良好な歩み寄りが得られるに充分なほど高くなり得ることでそのようなブレンド物は繊維の紡糸で特に有利に使用可能であることを見いだした。
【0030】
ここに、本発明を添付図を参照して説明するが、これは単に例として示すものである。図1から3は、本発明の異なる3態様に従うアイソタクチックポリプロピレンのゲル浸透クロマトグラム(GPCs)である。
【0031】
図1を参照して、本発明の1番目の態様に従う二頂アイソタクチックポリプロピレンのGPCクロマトグラムを示す。この二頂アイソタクチックポリプロピレンが示すメルトフローインデックスは11.5dg/分である。この二頂アイソタクチックポリプロピレンが示す分子量分布(A)は、Mwが279kDaでMnが30kDaで、従って分散指数が9.3であるような分子量分布である。この二頂アイソタクチックポリプロピレンを2種類のアイソタクチックポリプロピレン単独重合体の画分の物理的ブレンド物として生成させる。1番目の画分は2.3dg/分のMFIを示す高分子量画分(B)であり、これが前記二頂アイソタクチックポリプロピレンを構成する割合は55重量%である。2番目の画分は72dg/分のMFIを示す低分子量画分(C)であり、これが前記二頂アイソタクチックポリプロピレンを構成する割合は45重量%である。前記高分子量画分は419kDaのMwと49kDaのMnと8.6の分散指数を示しそして前記低分子量画分は146kDaのMwと21kDaのMnと7.0の分散指数を示す。
【0032】
図2は、本発明の2番目の態様に従う二頂アイソタクチックポリプロピレンのGPCクロマトグラムである。この二頂アイソタクチックポリプロピレンが示すメルトフローインデックスは6.9dg/分である。この二頂アイソタクチックポリプロピレンが示す分子量分布(A)は、Mwが363kDaでMnが26kDaで、従って分散指数が14.1であるような分子量分布である。この二頂アイソタクチックポリプロピレンを2種類のアイソタクチックポリプロピレン単独重合体の画分の物理的ブレンド物として生成させ、ここで、1番目の画分は0.8dg/分のMFIを示す高分子量画分(B)で、これが前記二頂アイソタクチックポリプロピレンを構成する割合は57重量%であり、そして2番目の画分は350dg/分のMFIを示す低分子量画分で、これが前記二頂アイソタクチックポリプロピレンを構成する割合は43重量%である。前記高分子量画分は568kDaのMwと73kDaのMnと7.8の分散指数を示しそして前記低分子量画分(C)は99kDaのMwと16kDaのMnと6.2の分散指数を示す。
【0033】
図3は、本発明の3番目の態様に従う二頂アイソタクチックポリプロピレンのGPCクロマトグラムである。この二頂アイソタクチックポリプロピレンが示すメルトフローインデックスは1.1dg/分である。この二頂アイソタクチックポリプロピレンが示す分子量分布(A)は、Mwが671kDaでMnが27kDaで、従って分散指数が24.9であるような分子量分布である。この二頂アイソタクチックポリプロピレンを2種類のアイソタクチックポリプロピレン単独重合体画分の物理的ブレンド物として生成させ、ここで、1番目の画分は0.06dg/分のMFIを示す高分子量画分(B)で、これが前記二頂アイソタクチックポリプロピレンを構成する割合は55重量%であり、そして2番目の画分は450dg/分のMFIを示す低分子量画分(C)で、これが前記二頂アイソタ
クチックポリプロピレンを構成する割合は45重量%である。前記高分子量画分は1460kDaのMwと142kDaのMnと10.2の分散指数を示しそして前記低分子量画分は95kDaのMwと15kDaのMnと6.3の分散指数を示す。
【0034】
本発明の前記態様に従う二頂アイソタクチックポリプロピレンブレンド物は各々2種類の初期アイソタクチックポリプロピレン画分で構成されていることが図1から3で分かるであろう。そのような画分を、二頂アイソタクチックポリプロピレンブレンド物が示す最小分散指数(D)が8であるように選択する。本発明に従うブレンド物が示す分散指数Dは約70に及んでもよい。最終的なブレンド物が前記必要な最小分散指数を示すようにする前記画分の選択を、また、そのような2種類の画分が示すメルトフローインデックスの間に差があるようにそれぞれが特定のメルトフローインデックスを示すようにも行う。このようにすると、ブレンド物が示す分子量分布が広がり、本発明者らは、そのようなブレンド物が所定のメルトフローインデックスの時に示す溶融強度が向上することを見いだし
た。加うるに、このブレンド物が示すメルトフローインデックスが高くなると、それによってまた溶融強度も低くなる傾向がある。
【0035】
反応性押出し加工を用いたブレンド操作では、鎖切断剤と鎖グラフト化剤の混合物を用いることができる。
【0036】
前記鎖切断剤に例えばパーオキサイド化合物、典型的には2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンを含めてもよい。そのような鎖切断剤をグラフト化剤と組み合わせて用いると、前記高分子量画分に含まれる分子の分枝度が高くなり、最終的なポリプロピレンの分子量分布が広がり、それによって今度は更に溶融強度が高くなる傾向がある。
【0037】
前記グラフト化剤は二官能もしくは多官能グラフト化剤であってもよく、典型的にはメタアクリル酸アリルまたはジビニルベンゼンであってもよい。このようなグラフト化剤を用いると、前記鎖切断剤により生成した分枝の架橋が助長される。それによって、ポリプロピレンが示す溶融強度は高くなるが、延伸性または紡糸性が低下する傾向がある。
【0038】
押出し加工温度を典型的には約220℃にする。鎖切断剤、例えば2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンなどを用いる場合、これを本ブレンド物の重量を基準にして約55ppmの量で用いる。グラフト化剤、例えばメタアクリル酸アリルなどを用いる場合、これを本ブレンド物の重量を基準にして典型的には約750ppmの量で用いる。
【0039】
ポリプロピレンが示す曲げ弾性率(flexural modulus)は、数種のパラメーターに依存する複合関数(complex function)であり、そのようなパラメーターは当該重合体が示す分散指数Dばかりでなくまた例えばメルトフローインデックス、キシレン可溶物および結晶化度である。本発明者らは、また、本発明に従うポリプロピレンが示す曲げ弾性率Eは一定のメルトフローインデックスとキシレン可溶物量において分散指数が高くなるにつれて増加する傾向があることも見いだした。
【0040】
本発明のアイソタクチックポリプロピレンの製造を、好適には、チーグラー・ナッタ触媒を用い、フタレートを外部電子供与体(external electron donor)として用いて行う[例えば特許文献9〜11を参照]。前記フタレートの代わりに1,3ジエーテル化合物を用いることも可能である[例えば特許文献12〜14を参照]。また、メタロセン触媒を用いてアイソタクチックポリプロピレンの製造を行うことも可能である[例えば特許文献15〜17を参照]。
【特許文献9】欧州特許出願公開第0045976号公報
【特許文献10】欧州特許出願公開第0045977号公報
【特許文献11】米国特許第4,544,171号明細書
【特許文献12】米国特許第4,971,937号明細書
【特許文献13】米国特許第4,978,648号明細書
【特許文献14】米国特許第5,095,153号明細書
【特許文献15】欧州特許出願公開第0416566号公報
【特許文献16】欧州特許出願公開第0399348号公報
【特許文献17】欧州特許出願公開第0336128号公報
【0041】
本発明をまたシンジオタクチックポリプロピレンまたはアイソタクチックポリプロピレンとシンジオタクチックポリプロピレンのブレンド物[例えば米国特許第5,036,034号に開示されているように、物理的混合または例えばメタロセン触媒を用いた化学的混合で得られる]にも適用する。加うるに、前記ポリプロピレンに含まれる微結晶の核を形成させる目的で前記ポリプロピレンに核形成剤、典型的には安息香酸リチウムで処理することも可能である。
【0042】
前記ポリプロピレンは、単独重合体、エチレンと高級アルファ−オレフィンを含有するランダム共重合体、またはエチレンと高級アルファ−オレフィンの異相(heterophasic)ブロック共重合体であってもよい。
ここに、以下に示す非限定実施例を参照することで本発明のさらなる説明を行う。
【実施例】
【0043】
実施例1から4
実施例1から4の各々で、1軸押出し加工装置を用いて、前記装置を窒素ガス下約220℃の温度で操作して高分子量成分と低分子量成分を共にブレンドすることにより、二頂アイソタクチックポリプロピレンブレンド物を製造した。表1に、実施例1から4の各々で用いた前記高分子量成分と低分子量成分の両方そして最終的なブレンド物の組成および特性を示す。実施例2および4のブレンド物および成分の分子量分布をそれぞれ図2および3に示す。
【0044】
実施例1から4の各々で、繊維を溶融物から引き伸ばす時に要する力を測定することにより、溶融強度の試験を行った。本明細書では、毛細管ダイスが備わっているCEASTレオメーター(Rheoscope 1000)を用いかつ回転車を巻き上げ装置として用いて溶融強度を実験室で測定した。このような設定を用いて、ピストンの押しのけの結果として生じる圧力をかけることで溶融状態の重合体を押出す。この溶融状態の押出物が結晶化する前にその繊維を前記回転車の回りに巻き付けることにより、それに1軸延伸を行う。この試験では、ピストン押しのけ速度を固定して、回転する巻き上げ車の速度を直線的に変化させる、即ち加速度を一定にして繊維が非常に細くなって破断するまで前記回転速度を変える。この試験中に張力を記録する。溶融強度を当該繊維の破断に相当する最大張力として定義する。この試験を下記の如き標準的条件下で行った:円柱形ダイスの長さ/直径の比率を5mm対1mmにし、回転車の直径を12cmにし、押出し加工温度を250℃にし、ピストンの押しのけ速度を2mm/分にし、押出し物の産出速度を2.36mm3/分にし、そして回転車の加速度を10rpm/100秒または0.000628m/秒2にした。延伸性を同じ条件下の破壊時タイター(titre at break)として定義する。車の角速度(V)(rpmで表す)とタイター(デニールで表す)の間の対応は下記の通りである:250℃における破壊時のタイター=3384.4ρ/V(ここで、ρは重合体の密度である)。その結果もまた表1に示す。
【0045】
実施例1から4の各々が示す分散指数D(これはMw/Mn比である)は8よりも大きくそしてメルトフローインデックスは1.1から6.9dg/分に亘って多様であることが認められる。溶融強度は2.8mNから15.5mNに亘って多様であった。実施例1から4の各々の重合体は、そのような溶融強度値を示すことに加えて、高い延伸性を示し、250℃の温度でのフィラメントが破断した時のrpmは少なくとも260rpmであった。
【0046】
比較実施例1
比較として、長鎖分枝度が高い市販のアイソタクチックポリプロピレン樹脂が示す対応する特性を試験した。前記樹脂はMontell North America Inc.社(Wilmington、Delaware、米国)がProfax PF814の商品名で販売している樹脂である。比較実施例1の樹脂は非常に高い溶融強度を示し、実施例1から4、特に実施例4の樹脂が示した最大溶融強度の約3倍であるにも拘らず、この市販樹脂が示す延伸性は非常に低く、250℃でのフィラメントが破断した時の速度はほんの9rpmであることが分かるであろう。
【0047】
比較実施例2
さらなる比較として、一頂ポリプロピレン樹脂が示す対応する特性を試験して、その結果を表1に示す。
【0048】
本発明に従う多頂ポリプロピレン樹脂は高い溶融強度と高い延伸性の間の良好な歩み寄りを示すことが表1から分かる。これは、例えば、高分子量成分と低分子量成分からなり、少なくとも8の高い分散指数を示すブレンド物を用いることで達成される。このことから、本発明の樹脂は特に繊維の紡糸およびフィルムのブロー成形で用いるに適する。本発明の樹脂はまたせん断速度がより低い加工、例えばフィルム成形および押出し成形方法でも有用である。本発明に従う多頂ポリプロピレンは、比較実施例1の長鎖分枝を有する溶融強度が高いポリプロピレンに比べて大きく延伸可能である。本実施例のポリプロピレンの方が比較実施例2のポリプロピレンに比べて高い延伸性を示した。このように、本発明は、溶融状態における溶融強度と引き伸ばし性が高いことの歩み寄りが改良されたポリプロピレンブレンド物を提供するものである。
【0049】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融加工における多頂ポリプロピレンブレンド物の使用であって、溶融強度と延伸性の間の歩み寄りを向上させる目的で前記ブレンド物が少なくとも8の分散指数と少なくとも10のMz/Mn比を示すようにする使用。
【請求項2】
前記分散指数を15より高くする請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記Mz/Mn比を50−150にする請求項1または請求項2記載の使用。
【請求項4】
前記ブレンド物を1番目の高分子量画分を50から70重量%と2番目の低分子量画分を50から30重量%含んで成る二頂ブレンド物にする前請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項5】
前記ブレンド物に前記1番目の画分を55から65重量%と前記2番目の画分を45から35重量%含める請求項4記載の使用。
【請求項6】
前記1番目と前記2番目の画分が示すメルトフローインデックスの比率を少なくとも5にする請求項4または請求項5記載の使用。
【請求項7】
前記ブレンド物が少なくとも2種類の画分から成る混合物を鎖切断剤と鎖グラフト化剤の混合物と共に反応性押出し加工することにより生成させたものである前請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項8】
前記鎖切断剤が2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンを含んで成る請求項7記載の使用。
【請求項9】
前記鎖グラフト化剤をメタアクリル酸アリルおよびジビニルベンゼンから選択する請求項7または請求項8記載の使用。
【請求項10】
前記ポリプロピレンが二頂分子量分布を示す前請求項のいずれか記載の使用。
【請求項11】
紡糸繊維、インフレーションフィルム、発泡体、熱成形品および押出し加工品を成形するための前請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項12】
ポリプロピレンを溶融加工する時の溶融強度と延伸性の間の歩み寄りを向上させる方法であって、少なくとも8の分散指数と少なくとも10のMz/Mn比を示す多頂ポリプロピレンブレンド物を供給することを含んで成る方法。
【請求項13】
前記分散指数を15より高くする請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記Mz/Mn比を50−150にする請求項12または請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記ブレンド物を1番目の高分子量画分を50から70重量%と2番目の低分子量画分を50から30重量%含んで成る二頂ブレンド物にする請求項12から14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記ブレンド物に前記1番目の画分を55から65重量%と前記2番目の画分を45から35重量%含める請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記1番目と前記2番目の画分が示すメルトフローインデックスの比率を少なくとも5にする請求項15または請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記ブレンド物が少なくとも2種類の画分から成る混合物を鎖切断剤と鎖グラフト化剤の混合物と共に反応性押出し加工することにより生成させたものである請求項12から17のいずれかに1項に記載の方法。
【請求項19】
前記鎖切断剤に2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンを含める請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記鎖グラフト化剤をメタアクリル酸アリルおよびジビニルベンゼンから選択する請求項18または請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記ポリプロピレンが二頂分子量分布を示す請求項12から20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
紡糸繊維、インフレーションフィルム、発泡体、熱成形品および押出し加工品から選択される製品を成形するための請求項12から21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
ポリプロピレンブレンド物を溶融加工する方法であって、二頂ポリプロピレンブレンド物を用意し、溶融強度と延伸性の間の歩み寄りが向上するように前記ブレンド物が8から70の分散指数と少なくとも10のMz/Mn比を示すようにそれを選択しそして前記ブレンド物を溶融状態で延伸することにより前記ブレンド物を加工し、固体状製品を生成させることを含んで成る方
法。
【請求項24】
前記分散指数を15より高くする請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記Mz/Mn比を50−150にする請求項23または請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記ブレンド物を1番目の高分子量画分を50から70重量%と2番目の低分子量画分を50から30重量%含んで成る二頂ブレンド物にする請求項23から25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
前記ブレンド物が前記1番目の画分を55から65重量%と前記2番目の画分を45から35重量%含んでなる請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記1番目と前記2番目の画分が示すメルトフローインデックスの比率を少なくとも5にする請求項26または請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記ブレンド物が少なくとも2種類の画分から成る混合物を鎖切断剤と鎖グラフト化剤の混合物と共に反応性押出し加工することにより生成させたものである請求項23から28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記鎖切断剤が2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンを含んでなる請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記鎖グラフト化剤をメタアクリル酸アリルおよびジビニルベンゼンから選択する請求項29または請求項30記載の方法。
【請求項32】
前記ポリプロピレンが二頂分子量分布を示す請求項23から31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
紡糸繊維、インフレーションフィルム、発泡体、熱成形品および押出し加工品から選択される製品を成形するための請求項23から32のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−168789(P2011−168789A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84709(P2011−84709)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【分割の表示】特願2001−503938(P2001−503938)の分割
【原出願日】平成12年6月8日(2000.6.8)
【出願人】(504469606)トータル・ペトロケミカルズ・リサーチ・フエリユイ (180)
【Fターム(参考)】