説明

高い絶縁抵抗を有する熱可塑性ポリウレタン組成物

熱可塑性ポリウレタン、金属水和物難燃剤及びリン系難燃剤を含む難燃性組成物を提供する。該組成物は、良好な難燃特性並びに高い絶縁抵抗を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い絶縁抵抗(IR)を有する難燃性熱可塑性組成物に関し、更には熱可塑性組成物製の物品及び熱可塑性組成物を作製する方法に関する。
【発明の概要】
【0002】
本発明の1つの態様は、熱可塑性ポリウレタン、金属水和物難燃剤及び絶縁抵抗特性を有するリン系難燃剤を含む組成物を提供する。本組成物は、UL 94難燃剤規格に合格し、UL 62により測定するとき少なくとも3GΩ.mの絶縁抵抗を有することを特徴とする。いつかの実施形態において、組成物は、UL 62により測定するとき少なくとも3.5GΩ.mの絶縁抵抗を有する。絶縁抵抗特性を有するリン系難燃剤は、ビスフェノールAジホスフェートであり得る。金属水和物難燃剤は、水酸化アルミニウムであり得る。
【0003】
本組成物は、エポキシノボラックなどのチャー形成剤をさらに含み得る。
【0004】
いくつかの実施形態において、該組成物は、組成物の総重量に基づいて少なくとも30重量パーセントの金属水和物難燃剤及び組成物の総重量に基づいて少なくとも5重量パーセントのビスフェノールAジホスフェートを含む。これは、組成物の総重量に基づいて30〜40重量パーセントの金属水和物難燃剤及び組成物の総重量に基づいて10〜20重量パーセントのビスフェノールAジホスフェートを含む組成物を含む。
【0005】
本発明の他の実施形態は、本組成物の1つで少なくとも部分的に被覆された絶縁導電性ワイヤを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明の1つの態様は、熱可塑性ポリウレタン、金属水和物難燃剤及びリン系難燃剤を含む難燃性組成物を提供する。本組成物は、良好な難燃特性並びに高い絶縁抵抗を特徴とする。したがって、本組成物は、その組成物に絶縁抵抗を付与しない有機難燃剤を含む他の難燃性組成物と区別できる。本組成物は、本組成物をワイヤ及びケーブルの絶縁及び外被を含む様々な用途によく適するものにする機械的特性、熱変形特性及び/又は耐薬品性をさらに特徴とすることができる。優れたIR特性があるため、本組成物は、AC電源ケーブルの絶縁に使用するのに特に適している。
【0007】
「組成物」、「製剤」及び同様の用語は、2つ以上の成分の混合物又は配合物を意味する。ケーブルシース又は他の製造品が製造される材料のミックス又は配合物との関連において、組成物は、ミックスのすべての成分、例えば、熱可塑性ポリウレタン、金属水和物、難燃剤及び他の添加剤を含む。
【0008】
熱可塑性ポリウレタン
「熱可塑性ポリウレタン」(又は「TPU」)は、本明細書で用いているように、ジ−イソシアネート、1つ又は複数のポリマージオール及び任意選択で1つ又は複数の二官能連鎖延長剤の反応生成物である。TPUは、プレポリマー、準プレポリマー又はワンショット法により調製することができる。ジ−イソシアネートは、TPUにおけるハードセグメントを形成し、芳香族、脂肪族若しくは脂環式ジ−イソシアネート又はこれらの化合物の2つ以上の組合せであってよい。ジ−イソシアネート(OCN−R−NCO)由来の構造単位の非限定的な例は、以下の式(I)
【化1】

[式中、Rは、アルキレン、シクロアルキレン又はアリーレン基である。]により表される。これらのジ−イソシアネートの代表的な例は、米国特許第4,385,133号、第4,522,975号及び第5,167,899号に見出すことができる。適切なジ−イソシアネートの非限定的な例としては、4,4’−ジ−イソシアナトジフェニル−メタン、p−フェニレンジ−イソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)−シクロヘキサン、1,4−ジ−イソシアナト−シクロヘキサン、ヘキサメチレンジ−イソシアネート、1,5−ナフタレンジ−イソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニルジ−イソシアネート、4,4’−ジ−イソシアナト−ジシクロヘキシルメタン、2,4−トルエンジ−イソシアネート及び4,4’−ジ−イソシアナト−ジフェニルメタンなどがある。
【0009】
ポリマージオールは、得られるTPUにおけるソフトセグメントを形成する。ポリマージオールは、例えば、200〜10000g/モルの範囲にある分子量(数平均)を有し得る。2つ以上のポリマージオールを用いることができる。適切なポリマージオールの非限定的な例としては、ポリエーテルジオール(「ポリエーテルTPU」を生ずる);ポリエステルジオール(「ポリエステルTPU」を生ずる);ヒドロキシ末端ポリカーボネート(「ポリカーボネートTPU」を生ずる);ヒドロキシ末端ポリブタジエン;ヒドロキシ末端ポリブタジエン−アクリロニトリルコポリマー;ジアルキルシロキサンとエチレンオキシド、プロピレンオキシドなどのアルキレンオキシドとのヒドロキシ末端コポリマー;天然油ジオール、及びそれらのいずれかの組合せなどがある。前述のポリマージオールのうちの1つ又は複数は、アミン末端ポリエーテル及び/又はアミノ末端ポリブタジエン−アクリロニトリルコポリマーと混合することができる。
【0010】
二官能連鎖延長剤は、鎖に2〜10個の炭素原子(2と10とを含む)を有する脂肪族直鎖又は分枝鎖ジオールであり得る。そのようなジオールの実例となるものは、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール及びそれに類するもの;1,4−シクロヘキサンジメタノール;ヒドロキノンビス−(ヒドロキシエチル)エーテル;シクロヘキシレンジオール(1,4−、1,3−及び1,2−異性体)、イソプロピリデンビス(シクロヘキサノール);ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、エタノールアミン、N−メチル−ジエタノールアミン及びそれに類するもの;並びに上述のもののいずれかの混合物である。先述のように、場合によって、得られるTPUの熱可塑性を損なうことなく、より小さい割合(約20当量パーセント未満)の二官能延長剤を三官能延長剤に置き換えることができ、そのような延長剤の実例となるものは、グリセロール、トリエチロールプロパン及びそれに類するものである。
【0011】
連鎖延長剤は、特定の反応物成分の選択、所望の量のハード及びソフトセグメント並びにモジュラス及び引裂強度などの良好な機械的特性をもたらすのに十分な指数によって決定される量でポリウレタンに組み込む。ポリウレタン組成物は、例えば、2〜25、好ましくは3〜20、より好ましくは4〜18重量%の連鎖延長剤成分を含有し得る。
【0012】
場合によって、少量のしばしば「連鎖停止剤」と呼ばれているモノヒドロキシル官能又はモノアミノ官能化合物を用いて分子量を制御することができる。そのような連鎖停止剤の実例となるものは、プロパノール、ブタノール、ペンタノール及びヘキサノールである。用いる場合、連鎖停止剤は、ポリウレタン組成物をもたらす全反応混合物の0.1〜2重量パーセントのより少ない量で一般的に存在する。
【0013】
ポリマージオールと前記延長剤との当量比は、TPU生成物の所望の硬度によってかなり異なり得る。概して、当量比は、約1:1〜約1:20、好ましくは約1:2〜約1:10の各範囲に入る。同時に、イソシアネート当量と活性水素含有材料の当量との総比率は、0.90:1〜1.10:1、好ましくは0.95:1〜1.05:1の範囲内にある。
【0014】
適切なTPUの非限定的な例としては、Lubrizol Corporationから入手できるPELLETHANE(商標)熱可塑性ポリウレタンエラストマー;Neveonから入手できるESTANE(商標)熱可塑性ポリウレタン、TECOFLEX(商標)熱可塑性ポリウレタン、CARBOTHANE(商標)熱可塑性ポリウレタン、TECOPHILIC(商標)熱可塑性ポリウレタン、TECOPLAST(商標)熱可塑性ポリウレタン及びTECOTHANE(商標)熱可塑性ポリウレタン;BASFから入手できるELASTOLLAN(商標)熱可塑性ポリウレタン及び他の熱可塑性ポリウレタン;並びにBayer、Huntsman、Lubrizol Corporation、Merquinsa及び他の供給業者から入手できるその他の熱可塑性ポリウレタン材料などがある。
【0015】
組成物の熱可塑性ポリウレタン成分は、上述のような2つ以上のTPUの組合せを含有し得る。
【0016】
TPUは、一般的に組成物の総重量に基づいて15〜60重量%の範囲の量で用いる。これは、TPUが組成物の重量に基づいて20〜40重量%の範囲の量で用いられる実施形態を含み、TPUが組成物の総重量に基づいて25〜35重量%の範囲の量で用いられる実施形態をさらに含む。
【0017】
金属水和物難燃剤
本組成物中の金属水和物は、組成物に難燃特性を付与する。適切な例は、三水酸化アルミニウム(ATH又はアルミニウム三水和物としても公知である)及び水酸化マグネシウム(二水酸化マグネシウムとしても公知である)を含むが、これらに限定されない。金属水酸化物は、天然のものでも合成のものでもよい。
【0018】
金属水和物は、一般的に組成物の総重量に基づいて少なくとも20重量%の量で用いる。これは、金属水和物が組成物の総重量に基づいて少なくとも30重量%の量で用いられる実施形態を含み、金属水和物が組成物の総重量に基づいて少なくとも40重量%の量で用いられる実施形態をさらに含む。
【0019】
IR特性を有するリン系難燃剤
IR特性を有するリン系難燃剤は、組成物に湿潤時(wet)IR特性を含む高度IR特性を付与することができる。重要なことに、これは、後述する実施例により例示するように、すべてのリン系難燃剤の固有又は一般的な特性であるとは限らない。ビスフェノールAジホスフェート(BPADP)は、本組成物にIR特性を付与するリン系難燃剤の一例である。
【0020】
IR特性を有するリン系難燃剤は、一般的に組成物の総重量に基づいて少なくとも5重量%の量で用いる。これは、IR特性を有するリン系難燃剤が組成物の総重量に基づいて少なくとも10重量%の量で用いられる実施形態を含み、IR特性を有するリン系難燃剤が組成物の総重量に基づいて少なくとも15重量%の量で用いられる実施形態をさらに含む。例えば、いくつかの実施形態において、IR特性を有するリン系難燃剤は、組成物の総重量に基づいて10〜15重量%の量で用いる。
【0021】
他の難燃剤
金属水和物及びIR特性を有する少なくとも1つのリン系難燃剤に加えて、その他の難燃剤を組成物に場合によって含めることができる。組成物に含めることができるその他のリン系難燃剤は、有機ホスホン酸、ホスホン酸エステル、ホスフィン酸エステル、亜ホスホン酸エステル、亜ホスフィン酸エステル、ホスフィンオキシド、ホスフィン、亜リン酸エステル又はリン酸エステル、リンエステルアミド、リン酸アミド、ホスホン酸アミド及びホスフィン酸アミドを含むが、これらに限定されない。組成物中に存在する難燃剤は、ハロゲンフリーの組成物を提供することができるように、望ましくはハロゲンフリーである。「ハロゲンフリー」及びこれに類する用語は、組成物がハロゲンを含有しない又は実質的に含有しない、すなわち、イオンクロマトグラフィー(IC)又は類似の分析方法により測定するとき2000mg/kg未満のハロゲンを含有することを意味する。この量より少ないハロゲン含量は、例えば、ワイヤ又はケーブル被覆としての組成物の有効性に対して重要でないとみなされる。
【0022】
チャー形成剤
本組成物は、燃焼時のしたたりを予防又は最小限にするために1つ又は複数のチャー形成剤を場合によって含み得る。例えば、組成物のいくつかの実施形態は、エポキシ化ノボラック樹脂をチャー形成剤として含む。「エポキシ化ノボラック樹脂」は、有機溶媒中のエピクロロヒドリンとフェノールノボラックポリマーとの反応生成物である。適切な有機溶媒の非限定的な例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルアミルケトン及びキシレンなどがある。エポキシ化ノボラック樹脂は、液体、半固体、固体及びそれらの組合せであってよい。
【0023】
エポキシ化ノボラック樹脂は、一般的に組成物の総重量に基づいて0.1〜5重量%の範囲の量で用いる。これは、エポキシ化ノボラック樹脂が組成物の総重量に基づいて1〜3重量%の範囲の量で用いられる実施形態を含み、エポキシ化ノボラック樹脂が組成物の総重量に基づいて1.5〜2重量%の範囲の量で用いられる実施形態をさらに含む。
【0024】
添加剤及び充填剤
組成物は、添加剤及び/又は充填剤も場合によって含有し得る。代表的な添加剤は、抗酸化剤、溶融加工熱安定剤、加水分解安定性向上剤、加工助剤、着色剤、カップリング剤、紫外線安定剤(UV吸収剤を含む)、帯電防止剤、核形成剤、スリップ剤、可塑剤、滑沢剤、粘度調整剤、粘着付与剤、ブロッキング防止剤、界面活性剤、エクステンダー油、酸掃去剤及び金属不活性化剤を含むが、これらに限定されない。これらの添加剤は、一般的に従来の様式で、且つ、例えば、組成物の重量に基づいて0.01重量%以下から10重量%以上までの従来の量で用いる。
【0025】
代表的な充填剤は、様々な金属酸化物、例えば、二酸化チタン;炭酸マグネシウム及び炭酸カルシウムなどの金属炭酸塩;二硫化モリブデン及び硫酸バリウムなどの金属硫化物及び硫酸塩;ホウ酸バリウム、メタホウ酸バリウム、ホウ酸亜鉛及びメタホウ酸亜鉛などの金属ホウ酸塩;アルミニウム無水物などの金属無水物;珪藻土、カオリン及びモンモリロナイトなどの粘土;ハンタイト;セライト;アスベスト;粉砕鉱物;並びにリトポンを含むが、これらに限定されない。これらの充填剤は、一般的に従来の様式で、且つ、例えば、組成物の重量に基づいて5重量%以下から50重量%以上までの従来の量で用いる。
【0026】
適切なUV光安定剤は、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)及びUV光吸収(UVA)添加剤を含む。本組成物に用いることができる代表的なHALSは、TINUVIN XT 850、TINUVIN 622、TINUVIN(登録商標)770、TINUVIN(登録商標)144、SANDUVOR(登録商標)PR−31及びChimassorb 119 FLを含むが、これらに限定されない。TINUVIN(登録商標)770は、セバシン酸ビス−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)であり、約480g/モルの分子量を有し、Ciba,Inc.(現在はBASFの一部)から市販されており、2つの第二級アミン基を有する。TINUVIN(登録商標)144は、マロン酸ビス−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)−2−n−ブチル−2−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)であり、約685g/モルの分子量を有し、第三級アミンを含有し、これもCibaから入手できる。SANDUVOR(登録商標)PR−31は、プロパン二酸[(4−メトキシフェニル)−メチレン]−ビス−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)エステルであり、約529g/モルの分子量を有し、第三級アミンを含有し、Clariant Chemicals(India)Ltd.から入手できる。Chimassorb 119 FL又はChimassorb 119は、10重量%の、コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールとのポリマー及び90重量%のN,N’’’−[1,2−エタンジイルビス[[[4,6−ビス[ブチル(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)アミノ]−1,3,5−トライジン−2−イル]イミノ]−3,1−プロパンジイル]]ビス[N’N’’−ジブチル−N’N’’−ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)]−1であり、Ciba,Inc.から市販されている。代表的なUV吸収(UVA)添加剤は、Ciba,Inc.から市販されているTinuvin 326及びTinuvin 328などのベンゾトリアゾール型を含む。HAL’s及びUVA添加剤の配合剤も有効である。
【0027】
抗酸化剤の例は、テトラキス[メチレン(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロ−ケイ皮酸)]メタンなどのヒンダードフェノール;ビス[(ベータ−(3,5−ジtert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−メチルカルボキシエチル)]スルフィド、4,4’−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−tert−ブチル−5−メチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)及びチオジエチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ)ヒドロケイ皮酸;亜リン酸トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)及び亜ホスホン酸ジ−tert−ブチルフェニルなどの亜リン酸エステル及び亜ホスホン酸エステル;チオジプロピオン酸ジラウリル、チオジプロピオン酸ジミリスチル及びチオジプロピオン酸ジステアリルなどのチオ化合物;種々のシロキサン;重合2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン、n,n’−ビス(1,4−ジメチルペンチル−p−フェニレンジアミン)、アルキル化ジフェニルアミン、4,4’−ビス(アルファ,アルファ−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、ジフェニル−p−フェニレンジアミン、混合ジ−アリール−p−フェニレンジアミン及び他のヒンダードアミン系分解防止剤又は安定剤を含むが、これらに限定されない。抗酸化剤は、例えば、組成物の重量に基づいて0.1〜5重量%の量で用いることができる。
【0028】
加工助剤の例は、ステアリン酸亜鉛又はステアリン酸カルシウムなどのカルボン酸の金属塩;ステアリン酸、オレイン酸又はエルカ酸などの脂肪酸;ステアラミド、オレアミド、エルカミド又はN,N’−エチレンビス−ステアラミドなどの脂肪アミド;ポリエチレンワックス;酸化ポリエチレンワックス;エチレンオキシドのポリマー;エチレンオキシドとプロピレンオキシドとのコポリマー;木ろう;石油ろう;非イオン性界面活性剤;シリコーン油及びポリシロキサンを含むが、これらに限定されない。
【0029】
絶縁抵抗
上記のように、本組成物は、高度絶縁抵抗を特徴とする。本開示の目的のために、IR及び湿潤時IRは、後述する実施例でより詳細に述べるように、UL 62規格に従って測定する。いくつかの実施形態において、本組成物は、少なくとも3GΩ.mのIRを有する。これは、少なくとも3.5GΩ.mのIRを有する組成物を含み、少なくとも3.9GΩ.mのIRを有する組成物をさらに含む。いくつかの実施形態において、本組成物は、少なくとも2.5GΩ.mの湿潤時IRを有する。これは、組成物が少なくとも3GΩ.mの湿潤時IRを有する実施形態を含む。
【0030】
難燃性
それらの優れた絶縁抵抗特性に加えて、本組成物は、良好な難燃特性を示す。したがって、本組成物のいくつかの実施形態は、それらがVW−1と分類されることを特徴とする。「VW−1」は、ワイヤ及びスリーブのUnderwriters’ Laboratory(UL)難燃性である。これは、UL 1441規格のもとにワイヤ又はスリーブが与えられ得る最高の難燃性である「垂直ワイヤ、クラス1(Vertical Wire, Class 1)」を意味する。試験は、ワイヤ又はスリーブを垂直位置におくことによって実施される。炎をその下に一定の時間つけておき、次いで除去する。次いでスリーブの特徴を記録する。VW−1耐炎試験は、UL−1581の方法1080に従って判定される。
【0031】
機械的特性
本組成物は、UL 1581−2001に従って、そして後述する実施例でより詳細に述べるように測定するとき、良好な熱変形特性を示し得る。いくつかの実施形態において、本組成物は、30%以下の150℃変形を有する。これは、25%以下の150℃変形を有する組成物を含む。
【0032】
本熱可塑性ポリマー組成物は、それらの引張破断強度(MPa単位)及び破断伸び(%)によってさらに特徴づけることができる。引張強度及び伸びは、I型引張棒材165×12.7×3.18mm試料を用いてASTM D−638試験手順に従って測定することができる。破断伸び又は破断点伸びは、試料が破断するときの試料におけるひずみである。これは通常、パーセントで表される。後述する実施例に熱老化組成物(UL 1581に準拠)及び非熱老化組成物に対して実施した引張強度測定を示す。
【0033】
非老化組成物のいくつかの実施形態は、少なくとも13MPaの引張破断強度を有するが、老化組成物のいくつかの実施形態は、少なくとも18MPaの引張破断強度を有する。非老化組成物のいくつかの実施形態は、少なくとも260%の破断伸びを有するが、老化組成物のいくつかの実施形態は、少なくとも220%の破断伸びを有する。
【0034】
配合
組成物の配合は、当業者に公知の標準的装置により行うことができる。配合装置の例は、Banbury(商標)又はBolling(商標)密閉混合機などのバッチ式密閉混合機である。或いは、Farrel(商標)連続式混合機、Werner and Pfleiderer(商標)二軸混合機又はBuss(商標)混練連続押出機などの連続式一又は二軸混合機を用いることができる。
【0035】
物品
本発明の他の態様は、本発明の1つ又は複数の組成物を含む、成形又は押出成形物品などの物品を提供する。
【0036】
物品は、ケーブル外被及びワイヤ絶縁を含む。したがって、いくつかの実施形態において、物品は、低電圧電気通信信号の電送を可能にする又は広範囲の送電応用分野用の「絶縁」ワイヤを提供するための金属導体及びこの金属導体上の被覆物を含む。「金属導体」は、本明細書で用いているように、電力及び/又は電気信号を送るために用いられる少なくとも1つの金属部品である。ワイヤ及びケーブルの柔軟性がしばしば望まれ、そのため、金属導体は、中実断面を有し得るか、又は優先的には導体の所与の全体の直径に対応する柔軟性の増大をもたらすより細いワイヤストランドで構成され得る。ケーブルは、内部コアに成形され、次に保護及び見た目の状態をもたらすケーブルシースシステムにより取り囲まれる複数の絶縁ワイヤなどのいくつかの部品でしばしば構成されている。ケーブルシースシステムは、フォイル又はアーマーなどの金属層を組み込むことができ、一般的に表面上にポリマー層を有する。保護/外見を整えるケーブルシースに組み込まれた1つ又は複数のポリマー層は、しばしばケーブル「外被」と呼ばれる。ある種のケーブルについて、シースは、ケーブルコアを取り囲む唯一のポリマー外被層である。絶縁と外被との両方の役割を果たす、導体を取り囲む単層のポリマーを有するある種のケーブルも存在する。本組成物は、AC電源ケーブル並びに金属及び光ファイバー通信適用を含むあらゆる種類のワイヤ及びケーブル製品におけるポリマー部品として又はポリマー部品に用いることができる。用途は、被覆物と金属導体との間の直接的接触及び間接的接触の両方を含む。「直接的接触」は、被覆物が金属導体に直接的に接触しており、被覆物と金属導体との間にある介在層(単数又は複数)がなく、且つ/又は介在材料(単数又は複数)がない構成である。「間接的接触」は、介在層(単数又は複数)及び/又は介在材料(単数又は複数)が金属導体と被覆物との間にある構成である。被覆物は、金属導体を完全又は部分的に覆う又は別法として取り囲む若しくは包んでよい。被覆物は、金属導体を取り囲む単一部品であってよい。或いは、被覆物は、金属導体を包む多層外被又はシースの1つの層であってよい。
【0037】
適切な被覆金属導体の非限定的な例としては、家庭用電化製品用配線、電源ケーブル、携帯電話及び/又はコンピュータ充電器ワイヤ、コンピュータデータコード、電源コード、機器内配線用材料並びに家庭用電化製品付属コードなどがある。
【0038】
本発明の組成物を含む絶縁層を含有するケーブルは、種々の型式の押出機、例えば、一又は二軸型を用いて調製することができる。本組成物は、熱可塑性ポリマーの押出成形に適する装置における押出能力(extrusion capability)を有し得る。ワイヤ及びケーブル製品の最も一般的な製造装置は、一軸可塑化押出機である。従来の一軸押出機の説明は、米国特許第4,857,600号に見出すことができる。同時押出成形及び押出機の例は、したがって米国特許第5,575,965号に見出すことができる。
【実施例】
【0039】
以下の実施例に本発明の種々の実施形態を例示する。特に示さない限り、すべての部及び百分率は、重量によるものである。
【0040】
特定の実施形態
以下の実施例に本発明による熱可塑性ポリマー組成物を作製する方法の実施形態を示す。
【0041】
材料:
これらの実施例で用いたTPUは、ポリエーテル熱可塑性ポリウレタンであるPELLETHANE(商標)2103−90 AE(Lubrizol Advanced Materialsから入手できる)である。使用前に、TPU試料を真空中で90℃で少なくとも4時間予備乾燥する。Adekaから入手した等級名FP600を有するビス(リン酸ジフェニル)(BPADP)は、受け取ったままの状態で用いる。Showa Denkaから入手したアルミニウム水和物は、100℃で6時間予備乾燥する。
【0042】
エポキシ化ノボラックチャー形成剤は、176〜181のエポキシド当量(EEW)を有する溶媒フリーDEN438である(Dow Chemicalから入手できる)。これは、燃焼時のしたたりを予防するためのチャー形成剤として用いる。組成物のこれらの実施形態における添加剤は、AD−001したたり防止剤(anti-dripping agent)、Irganox 1010及びIrgafos 168抗酸化剤、UV 666及びTiO UV安定剤、並びにClariant MB色整合(color-match)添加剤である。
【0043】
加工:
表Aに示す組成物は、二軸押出機で調製する。組成物の調製は、以下の記述に従って行う。TPUを高速混合機に加える。酸化アルミニウム三水和物充填剤の一部を加え、10秒間混合する。次に残りの酸化アルミニウム三水和物をBPADPとともに混合物に加える。予熱したエポキシ化ノボラックをさじを用いて混合機に徐々に入れる。次に、Irganox 1010及びIrgafos 168添加剤を加える。すべての成分を混合機に加えたとき、得られた混合物を1800RPMで1分間混合する。次に、予備混合された配合物を混合機から除去し、190℃未満のバレル温度、35.5mmの軸直径及び38.6のLID(長さ対直径比)を有し、生産高が約20kg/時間の二軸押出機により押出成形する。得られるペレットを120℃で6時間乾燥する。
【0044】
特性評価
組成物は、以下の試験及び規格によるそれらのIR、湿潤時IR、熱変形、引張特性、熱老化特性及び耐燃性により特徴づけられる。
【0045】
絶縁抵抗及び湿潤時絶縁抵抗:
絶縁抵抗を試験するのに用いるワイヤ試料は、単一コード(single cord)である。単一コードワイヤは、溶融組成物の1層を銅導体の周りに被覆するためのBrabenderワイヤ被覆ユニットを用いて作製する。IR及び湿潤時IRの測定は、UL 62規格に従って耐電圧試験器(Dongguan Yuehua Electric Industrial Co.,Ltd、China)により行う。10メートル(m)の長さを有する単一コードを試験に用いる。コードの両端をはがして銅線を露出させる。IR試験のために、500V DCを空気中の導体と試験電極との間に印加し、1分後にIRを測定する。湿潤時IR試験のために、コードをあらかじめ接地した透明な水に少なくとも1時間浸す。500V DC電圧を水中の導体と高電圧電極との間に印加し、浸したまま1分後に湿潤時IR値を測定する。
【0046】
熱変形:
熱変形試験は、UL 1581−2001規格に従って行う。各製剤について、2つの並行試料プラーク(plaque)をオーブンに入れ、150℃で1時間予熱する。次いで予熱済み試料を同じ荷重を用いて150℃で1時間プレスする。プレスした試料を荷重を除去せずに23℃の設定温度のASTM室にさらに1時間入れる。試料プラークの厚さの変化を記録し、熱変形(HD)をHD%=(D−D)/D100%により計算する。ここで、Dは、最初の試料の厚さを表し、Dは、変形過程後の試料の厚さを表す。2つの並行試料について計算された変形を平均する。
【0047】
引張試験:
引張試験は、Instron引張試験機(5565型)を用いてASTM D 638に従って500mm/分の速度で行う。プラーク試料(ASTM D 638 1型引張棒材165×12.7×3.18mm)は、FANUC100トン高速射出成形機により調製する。
【0048】
熱老化:
熱老化試験は、UL 1581に従って行う。試料を最初に完全ドラフト空気循環オーブン(full-draft circulating-air oven)中で121.0±1.0℃で168時間老化させ、次いでInstronの機械によりASTM D 638に従って試験する。保持率は、保持率%=老化/非老化100%により計算する。
【0049】
耐燃性:
Mimic VW−1 FR試験をUL 94チャンバー内で行う。試験検体は、2002.71.9mmの寸法に制限する。検体は、下端に50gの荷重をかけることにより長軸を鉛直にしてクランプに吊り下げる。紙フラッグ(20.5cm)をワイヤの上部に取り付ける。炎の下部(バーナーオラクルの最高点)からフラッグの下部までの距離は、18cmである。炎は、45秒間連続して当てる。フレーム時間後(after flame time)(AFT)、非炭化ワイヤ長(UCL)及び非炭化フラッグ面積百分率(非炭化のフラッグ)を燃焼時及び後に記録する。4つ又は5つの検体を各試料について試験する。次の現象のいずれかがあれば、「不合格」の分類となる。(1)検体の下の綿に着火する;(2)フラッグが燃え尽きる;且つ/又は(3)炎によるしたたりがある。
【0050】
結果:
表Aにレゾルシノールジフェニルリン酸(RDP)を有機難燃剤として用いる比較実施例の製剤及びBPADPを難燃剤として用いる本発明の実施例の製剤を示す。表1に両製剤の測定された特性も報告する。第1列は、比較実施例が不良なIR性能並びに熱老化引張伸び保持率を有することを示している。第2列は、本発明の実施例が著しく改善されたIR、湿潤時IR及び熱老化特性並びに燃焼性能、150℃熱変形及び機械的特性の良好なバランスをもたらすことを示している。
【0051】
【表1】

【0052】
元素の周期表へのすべての言及は、CRC Press,Inc.により2003年に出版され、著作権で保護された元素の周期表を指す。また、族又は複数の族への言及は、族の番号付けに関するIUPAC体系を用いたこの元素の周期表に反映されている族又は複数の族に対するものとする。反する記述がない、文脈から暗示されない又は当技術分野において慣例でない限り、すべての部及び百分率は、重量に基づくものであり、すべての試験方法は、本開示の出願日現在最新のものである。米国特許実務の目的のために、あらゆる引用された特許、特許出願又は公報の内容は、特に合成技術、製品及び加工設計、ポリマー、触媒、定義(本開示で具体的に示した定義と不一致でない範囲内で)及び当技術分野の開示における一般的知識に関してそれらの全体として参照により組み込まれる(又はその同等のUS版は参照によりそのように組み込まれる)。
【0053】
本開示における数値範囲は、おおよそのものであり、したがって、特に示さない限り、範囲外の値を含み得る。数値範囲は、任意の低値と任意の高値との間に少なくとも2単位の隔たりが存在するならば、1単位きざみの、低値及び高値を含んで低値から高値までのすべての値を含む。例として、例えば、引張強度、破断伸び等などの組成、物理的又は他の特性が100から1000までである場合、その意図は、100、101、102等などのすべての個々の値、及び100〜144、155〜170、197〜200等などの部分範囲を明示的に列挙することである。1未満である値を含有する又は1を超える端数(例えば、1.1、1.5等)を含有する範囲については、1単位は、適宜0.0001、0.001、0.01又は0.1であるとみなす。10未満の1桁の数を含有する範囲(例えば、1〜5)については、1単位は、一般的に0.1であるとみなされる。これらは、特に意図されることの例にすぎず、列挙される最低値から最高値の間の数値のすべての可能な組合せが本開示において明示的に記述されているとみなすべきである。とりわけ、組成物中のTPU、金属水和物、難燃剤及び添加剤の量、並びにこれらの成分が定義される種々の特徴及び特性について、数値範囲を本開示において示す。
【0054】
化合物に関して用いられるように、特に示さない限り、単数は、すべての異性体を含み、またその逆も同様である(例えば、「ヘキサン」は、ヘキサンのすべての異性体を個別に又は集合的に含む)。「化合物」及び「複合体」という用語は、有機、無機及び有機金属化合物を述べるために同義で用いられる。
【0055】
「又は」という用語は、特に示さない限り、個別に並びに任意の組合せで列挙されるメンバーを意味する。
【0056】
先行する記述、図面及び実施例により本発明をかなり詳細に述べたが、この詳細は、例示の目的のためのものである。当業者は、添付の特許請求の範囲に記載する本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、多くの変形及び修正を行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)熱可塑性ポリウレタンと、
(b)金属水和物難燃剤と、
(c)絶縁抵抗特性を有するリン系難燃剤と
を含む組成物であって、UL 94難燃剤規格に合格し、UL 62により測定するとき少なくとも3GΩ.mの絶縁抵抗を有することを特徴とする、組成物。
【請求項2】
UL 62により測定するとき少なくとも3.5GΩ.mの絶縁抵抗を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記絶縁抵抗特性を有するリン系難燃剤がビスフェノールAジホスフェートである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
チャー形成剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記チャー形成剤がエポキシノボラックである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
組成物の総重量に基づいて少なくとも30重量パーセントの金属水和物難燃剤及び組成物の総重量に基づいて少なくとも5重量パーセントのビスフェノールAジホスフェートを含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項7】
組成物の総重量に基づいて30〜40重量パーセントの金属水和物難燃剤及び組成物の総重量に基づいて10〜20重量パーセントのビスフェノールAジホスフェートを含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項8】
前記金属水和物難燃剤が水酸化アルミニウムである、請求項3に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の組成物で少なくとも部分的に被覆された絶縁導電性ワイヤ。
【請求項10】
請求項7に記載の組成物で少なくとも部分的に被覆された絶縁導電性ワイヤ。

【公表番号】特表2013−509456(P2013−509456A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535576(P2012−535576)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【国際出願番号】PCT/CN2009/074653
【国際公開番号】WO2011/050520
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー (1,383)
【Fターム(参考)】