説明

高い薬学的純度のソリフェナシン及び/またはその薬学的に受容可能な塩の製造方法

高い薬学的純度のソリフェナシン及び/または薬学的に受容可能なその塩の製造方法は、極性有機溶媒中において強塩基の存在下に3−(R)−キヌクリジノールからその場で発生した3−(R)−キヌクリジノロキシ陰イオンが、少なくとも98%の化学的純度の塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニルとのアシル化を受け、反応混合物中で定常的な陰イオン過剰状態を維持し、そして反応完了後にソリフェナシン塩基が、必要に応じて標準的な手順にしたがってソリフェナシン塩に変換されることで特徴付けられる。少なくとも98%の化学的純度の塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニルは、第3芳香族アミンの存在下で、芳香族炭化水素中で、(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンとモル過剰のホスゲンとの反応によって得られ、結晶形として分離される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い薬学的純度のソリフェナシン及び/またはその薬学的に受容可能な塩の製造方法に関する。
【0002】
ソリフェナシン、すなわち(R)−3−キヌクリジノール(1S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−2−カルボキシレート(IUPAC名:1−アザビシクロ[2.2.2]オクト−8−イル(1S)−1−フェニル−3,4−ジヒドロイソキノリン−2−カルボキシレート)は、競争的な選択的M3ムスカリン性受容体拮抗薬(antagonist)である。ソリフェナシン・スクシネート(コハク酸ソリフェナシン)は、切迫した尿を我慢できないこと、突発性の尿意及び頻尿を示す、過活動膀胱症候群の治療のために認可されたベシケア(登録商標)の活性物質である。
【背景技術】
【0003】
一般的に、ソリフェナシンの製造に関しては2つの合成経路が存在し、一方はラセミ混合物としてのものであり、他方は生物学的に活性な純粋な異性体(1S,3’R)としてのものである。これらの1つは、キヌクリジノール及び1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンのカルバモイル誘導体の良い脱離基との反応に基づいている。他の経路は、1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンと、活性化されたキヌクリジノール誘導体、例えばクロロフォルメートまたはカーボネート誘導体、との濃縮に関係する。EP0801067B1(特許文献1)及びWO2005/105795(特許文献2)においては、クロライド、低級アルコキシド及びフェノキシド基、同様に1H−イミダゾール−1−イル、2,5−ジオキソピロリジン−1−イロキシ、及び3−メチル−1H−イミダゾール−3−イウム−1−イルが、このプロセスの良い脱離基として言及されている。
【0004】
欧州特許EP0801067B1(特許文献1)においては、1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンのラセミ混合物のカルバモイルエチルエステル誘導体のトランスエステリフィケーション(transesteryfication)が、トルエン懸濁液(サスペンジョン)中で水素化ナトリウムの存在下に進められ、得られた生成物のジアステレオ異性体混合物が、キラル高圧液体クロマトグラフィー技術によって分離された。
【0005】
J.Med.Chem.,2005,48(21),6597−6606(非特許文献1)においては、ラセミ混合物の代わりに、純粋な鏡像異性体としての、エチル−(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−2−カルボキシレートが、用いられた。この光学活性副生成物は、(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン及びエチルクロロフォルメートの炭酸カリウムの存在下における前段階において得られた。
【0006】
上述された各方法は、水素化ナトリウムと、同様に高価な光学活性(R)−キヌクリジノールの大いに過剰な使用を要求する。加えて、この反応は約50%の僅かな収率で進行し、工業的規模の製造方法に適しない方法となっている。
【0007】
特許文献1においては、塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−2−カルバモイル及び(R)−3−キヌクリジノールの濃縮反応におけるソリフェナシン製造の可能性についても言及されているが、この方法による製造例は述べられていない。
【0008】
WO2005/105795(特許文献2)に開示されたソリフェナシンの合成経路は、塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−2−カルボニル及び(R)−キヌクリジノールの、塩基の存在下における反応を含有する。例えば、(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンは、トルエン中でトリエチルアミンの存在下でホスゲンによって処理される。反応混合物にメタノールと水が加えられた後に、続いて有機溶媒の蒸発が行われ、反応生成物が油状物として分離される。トルエン溶液中に得られた中間体は、それから還流状態のトルエン中の(R)−3−キヌクリジノール及び水素化ナトリウムの混合物に加えられる。反応は、一晩中同じ条件下で続けられる。この公報の著者らは、「ソリフェナシンの形成が確認された」と主張したが、このようにして得られた生成物の収率も純度も示されなかった。以上の手順にしたがったところ、本発明者らは、HPLC分析によって43%未満の純度のソリフェナシンしか得ることができなかった。
【0009】
EP0801067において述べられた、1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン及び3−キヌクリジノールのジメチルホルムアミド中における反応を含む合成の経路は、WO2007/147374(特許文献3)において再現された。対称的に二置換された尿素誘導体の十分な量の形成が、主生成物の収率を大幅に減少させることが観測された。この副生成物の形成は、3−キヌクリジノールの窒素原子におけるアシル化(アシレーション)が四価のアンモニウム塩を与え、形成された酸の更なる脱炭酸を伴うこの塩の加水分解に続いて、こうして得られた1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンのアシル化剤の残りとの反応が起こるためだとされた。
【0010】
反応機構の詳細な考察を除いて、我々は、2つのキラルな炭素原子を持つウレタン副生成物が、光学的に活性な試薬が用いられた場合でも、非常に類似した条件下で得られることを立証した。有機溶媒における低い溶解性のために、この二置換ウレタン誘導体は、標準的な精製方法、例えば結晶化、を用いても、最終生成物から除去することが困難である。したがって、薬学的純度のソリフェナシンを得るためには、ソリフェナシンが薬学的に受容可能な塩に変換される前のウレタン副生成物の形成は、大きく減少されるべきである。
【0011】
人間が用いるために認可された薬学的物質は、医薬品規制調和国際会議(ICH)によって制定された要求を満足させなければならない。これらの標準は、新しい、先行技術において知られた方法と比較してより効率的な、ソリフェナシン及びその塩の合成の方法を開発する必要性を課している。以下に「薬学的純度のソリフェナシン」と言及されるときには常に、0.1%未満の単一の不純物または合計で0.4%未満の未確認の不純物しか含まない、ソリフェナシンまたはその薬学的に受容可能な酸との塩を示すものと理解しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】欧州特許EP0801067B1
【特許文献2】国際公開公報WO2005/105795
【特許文献3】国際公開公報WO2007/147374
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】J.Med.Chem.,2005,48(21),6597−6606
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−2−カルボニルと(R)−キヌクリジノールの反応において、薬学的純度のソリフェナシンを得るためになされた試みは、最終生成物の純度が、この反応において用いられる塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−2−カルボニルの純度に、強く依存していることを証明した。塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−2−カルボニルが、キラルな1−(S)−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの、ガス状のカーボンオキシクロライド(ホスゲン)、液体トリクロロメチル・クロロフォルメート(ジホスゲン)、固体ビス−(トリクロロメチル)カーボネート(トリホスゲン)、尿素及びその他のカルボニル化試薬との処理によって合成されることは、一般に知られている。塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−2−カルボニルに伴う幾つかの不純物、特に未反応の1−(S)−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの残渣は、ソリフェナシンの純度向上の邪魔をする。1−(S)−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンとソリフェナシン塩基の類似した極性を考慮に入れると、前者のコハク酸塩は、最終的なコハク酸ソリフェナシンと共結晶化する。前に述べたように、1−(S)−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンは、次の段階で得られたソリフェナシンと反応し、その結果として望ましくないウレタン副生成物が形成される。本発明は、望ましくない副生成物なしに、高い薬学的純度のソリフェナシン及びその塩を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
予期しないことに、望ましくない副生成物なしに、ソリフェナシン及びその塩の合成に有効な方法が、本発明者らによって開発された。工業的な規模の製造を実行するのに有用なこの方法は、少なくとも98%以上の純度の塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−2−カルボニルの供給と、3−(R)−キヌクリジノールのアシル化反応におけるその使用に基づいている。
【0016】
本発明は、高い薬学的純度のソリフェナシン及び/または薬学的に受容可能なその塩の製造方法をもたらし、極性有機溶媒中において強塩基の存在下に3−(R)−キヌクリジノールからその場で(in situ)発生した3−(R)−キヌクリジノール陰イオンが、少なくとも98%の化学的純度の塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニルとのアシル化を受け、反応混合物中で定常的な陰イオン過剰状態を維持し、そして反応完了後にソリフェナシン塩基が、必要に応じて標準的な手順にしたがってソリフェナシン塩に変換されることを特徴とする。
【0017】
本発明の他の視点は、キラルな(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンから、少なくとも98%の化学的純度の塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニルを製造するための方法である。
【0018】
本発明の更に他の視点は、ソリフェナシンの製造工程中に分離される、結晶性固体として得られる塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニルである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高い薬学的純度のソリフェナシン及び/または薬学的に受容可能なその塩の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、結晶構造の塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニルのc軸に沿った投影を示す図である。
【図2】図2は、塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニルのX線粉末回折パターンを示す図である。
【図3】図3は、(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンからコハク酸ソリフェナシンを製造する工程を化学式で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明にしたがうソリフェナシン合成において使用されるのに適した化学的純度の塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニルは、好ましくは、塩化水素除去剤としての第3芳香族アミンの存在下、(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンとモル的に過剰なトリホスゲンの反応において得られる。芳香族アミンの使用は、ホスゲンの存在下で脂肪族アミンの脱メチル化によって形成される可能性のある、付随的な不純物の形成を予防する。
【0022】
好ましくは、本発明にしたがって用いられるトリホスゲンの量は、適切なカルボニル化剤であるホスゲンの化学量論的分量に関して、5〜15%のモル的過剰量に相当する。適切な芳香族アミンは、ピリジンである。
【0023】
この反応は、不活性な溶媒、好ましくは例えばトルエンのような芳香族炭化水素中で、70〜90℃において進められる。反応は、殆ど定量的な収率で進行する。沈殿した塩化水素ピリジンは、反応後混合物から除去され、混合物を蒸発させると油状の残留物が残る。これらの条件下で得られた塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニルは、高い化学的純度によって特徴付けられる。非極性の非プロトン性溶媒、好ましくはヘプタン、場合によっては幾らかの量の極性溶媒(例えばテトラヒドロフラン)の追加を伴う溶媒に溶解させた時には、結晶化が防止され、薬学的に純粋なソリフェナシンの合成に直接用いることができる。
【0024】
塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニルの化学的純度は、反応において、不純物が溶解せず中間体が結晶性固体として分離される適切な溶媒を用いることによって向上することが観察された。化学的純度98〜99%の塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニルが、非極性の非プロトン性溶媒、最も好ましくはヘプタン、が用いられたときに、再結晶化の必要なく得られる。
【0025】
本発明の好ましい実施の形態においては、油状形態で得られた塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニルは、非極性の非プロトン性溶媒中に、最も好ましくはヘプタン中に、還流状態で溶解される。溶液は濾過され、結晶化のために5〜10℃において放置され、結晶固体は濾過または傾瀉のいずれかによって分離される。
【0026】
このようにして得られた結晶性塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニルは、98〜99%の純度(HPLCによる分析)によって特徴付けられる。
【0027】
今に至るまで文献に掲載されなかった塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニルの結晶構造が、単結晶X線分析によって解明された。計算された密度と同様に測定されたパラメータが、表1に集計されている。
【0028】
【表1】

【0029】
結晶格子中の分子の充填は、図1に示される。
【0030】
本発明の方法によって分離された塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニルは、本質的に図2に呈示されるようなX線粉末回折パターン(XRPD)によって特徴付けられる。
【0031】
X線回折パターンにおいては、格子面間隔d(Å)、回折角2θ(°)、及び最も強い回折ピークに対する比強度、I/I(%)との関係を表すように、表2に描かれるように、特徴的なピークが観測される。
【0032】
表2:塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニルのX線粉末回折
d,[Å] 2θ,[°] I/I0,[%]
12.203 7.24 2
7.317 12.09 20
7.090 12.47 65
6.362 13.91 23
6.128 14.44 10
5.219 16.98 49
4.536 19.55 100
4.374 20.29 34
4.228 20.99 21
4.090 21.71 44
3.776 23.54 69
3.672 24.21 62
3.586 24.81 43
3.301 26.99 53
3.066 29.10 16
【0033】
本発明にしたがうソリフェナシンの製造の最終段階において、その場で発生した3−(R)−キヌクリジノール陰イオンが、塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニルと反応する。後者は、極性非プロトン性溶媒に溶かされた結晶性状態の溶液として、或いは非プロトン性の極性及び非極性溶媒の混合物に溶かされた原油として、加えられる。
【0034】
有機陰イオン発生の方法は当業者に知られており、それらは強塩基による処理を含み、例えば水素化アルカリ金属のような、特に水素化ナトリウム、またはアルカリ金属アルコキシド、例えば第3ブトキシドカリウム、或いはアルカリ金属水酸化物及び炭酸化物、例えば水酸化ナトリウムまたは炭酸ナトリウムのような強塩基である。この反応は、一相または二相系のいずれかで遂行される。
【0035】
二相系における反応は、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルスルフォキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンのような極性非プロトン性溶媒中において、相転移触媒の存在下、特に塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウムまたはテトラブチルアンモニウム・ハイドロサルフェートのような四価アンモニウム塩の存在下で、水酸化ナトリウム水溶液を用いて実施される。
【0036】
本発明の好ましい実施の形態においては、(R)−3−キヌクリジノロキシ陰イオンは、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルスルフォキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、またはそれらの混合物のような、極性非プロトン性溶媒中において、水酸化ナトリウムを用いて発生される。
【0037】
この実施の形態においては、アシル化反応は、極性非プロトン性溶媒中において、必要に応じてペンタン、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンのような、塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニルの溶解に用いられる非極性溶媒を追加して、一相系において遂行される。
【0038】
好ましくは、アシル化反応は、テトラヒドロフラン中において、必要に応じてヘプタンとの混合物中において、実施される。
【0039】
本発明の遂行のベストモードは、以下の如くである。塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニルの溶液が、その場で発生した(R)−3−キヌクリジノロキシ陰イオンの懸濁液(サスペンジョン)に、ゆっくりと加えられる。室温から反応混合物の還流まで滴下で添加が続けられ、その後、基質が完全に消費されるまで溶液が還流下で加熱されるが、この間反応の進行は薄層クロマトグラフィー(TLC)でモニターされている。
【0040】
本発明は、付加的な精製を行うことなく、ソリフェナシンの薬学的に受容可能な酸の塩、特にコハク酸ソリフェナシン、の形成に直接使用するのに適した化学的純度のソリフェナシンの製造のための方法を提供する。
【0041】
コハク酸ソリフェナシンは、以下の標準的な手順で得られる。すなわち、等モル量のソリフェナシン塩基とコハク酸とが、その中でソリフェナシン塩が形成される、あらゆる有機溶媒中または溶媒の混合物中で反応する。適切な溶媒としては、エタノール、ブタン−1−オール、2−メチルブチルアルコール、イソプロパノールのような脂肪族アルコール、アセトン、メチルイソブチルケトンのようなケトン類、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、プロピオン酸エチルのようなエステル類、トルエンのような芳香族炭化水素、ヘプタンのような極性脂肪族炭化水素が含まれる。結晶性の生成物は、塩が形成されたのと同じ溶媒から、好ましくはイソプロパノールから、追加の結晶化を受ける必要があるだろう。
【0042】
用いられた溶媒に関わらず、同じX線粉末回折パターンで特徴付けられる結晶性の生成物が得られる。この事実は、コハク酸ソリフェナシンが単一の結晶形として結晶化することを証明している。
【0043】
本発明の好ましい実施の形態は、ソリフェナシンの製造のための方法を含み、第3芳香族アミン、好ましくはピリジン、の存在下で、芳香族炭化水素中で(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンがトリホスゲンと反応し、その後、反応後混合物が蒸発させられ、非極性非プロトン性溶媒と還流下で処理され、5〜15℃で結晶化のために放置され、塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニルが98%の純度の、好ましくは99%を超える純度の結晶固体として分離され、極性非プロトン性溶媒に溶かされ、同じ溶媒中でその場で発生した(R)−3−キヌクリジノロキサイド陰イオンの懸濁液に加えられる。
【0044】
本発明は、ソリフェナシン及び/またはその薬学的に受容可能な塩、特に高い薬学的純度によって特徴付けられるコハク酸ソリフェナシンの製造のための、簡単で効率的な方法を提供する。
【0045】
本発明は、以下の実施例によって説明されるが、発明の範囲のいかなる限定をもするものと解釈されてはならない。
【0046】
〔実施例〕
[測定方法]
融点は、メトラー・トレド DSC 822装置を用いた示差走査熱量測定(DSC)によって測定され、アルミニウム融解壺(メルティング・ポット)を用いて、加熱速度10℃/分で行った。融点の値は、「オンセット(onset)」として決定された。これは、基準線(ベースライン)と曲線の切線との交点として求められるものである。
【0047】
単結晶測定が、単結晶回折装置κ−軸KM4CCD型を用いて、MoKα放射について実施された。
【0048】
X線粉末回折データは、λ=1.54056ÅのCuKα検出器を備えた理学・X線粉末回折装置・ミニフレックス型を用いて得られ、以下の測定パラメータが用いられた。
走査範囲2θ、3°から40°まで
走査速度Δω、0.5°/分
走査ステップ、0.03°
検出器−シンチレーション・カウンター
【0049】
得られたデータは、集成され、DHN_PDSプログラムを用いて分析された。
【実施例1】
【0050】
A.塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニル
三つ首フラスコ中に、トリホスゲン(10.87g,36.63mmol)のトルエン(60mL)溶液を室温(23℃)で用意し、そして反応器は氷水冷却浴中に置かれる。分離フラスコ中において、(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(20.0g,95.55mmol,純度99%(HPLC))及びピリジン(3.26mL,40.30mmol)がトルエン(80mL)中に加えられ、固体の全量が溶けるまで50〜70℃で加熱される。室温まで冷却された後に、透明なトルエン溶液は滴下ロートに移される。溶液は約10分のうちにトルエン溶液中のトリホスゲンに滴下添加される。添加が完了したら、冷却浴は取り除かれ、反応器は油浴に浸される。反応混合物は、濃い黄色の固体がゆっくりと溶解する平均時間、70〜80℃で加熱される。反応温度が50℃に到達してから、加熱と攪拌が45分間、(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの信号(基質試料に対してv/vで95:5のCHCl−MeOH中のTLC制御による)の消滅が観測されるまで、続けられる。反応の完了後、混合物は室温(20〜24℃)まで冷却され、発生した塩酸ピリジニウムを除去するためにセライト(登録商標)を通して濾過される。セライト層はトルエン(20mL)で洗浄される。減圧下(0.1〜0.15mmHg)でトルエン(145mL)が反応後混合物から除去され、濃縮フラスコが水浴中で60〜65℃に加熱される。油状の残留物はヘプタン(200mL)に還流状態で溶かされ、そして温溶液は、濾過前にヘプタンで洗浄されたセライト(20g)を通して濾過される。濾過後に、セライト層は温ヘプタン(2×50mL)で洗浄される。過剰の溶媒(170mL)は減圧下で除去され、約1/2の体積まで濃縮された溶液は、5℃で12時間放置される。結晶性の無色の固体が濾過され、ヘプタン(2×15mL)で洗浄される。塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニルが23.3g、90%の収率で得られ、純度(HPLC)98.4%、T(onset)=62.7℃であった。
【0051】
B.ソリフェナシン
(R)−3−キヌクリジノール(11.0g,96.50mmol)及び60%NaH(3.80g,95.10mmol)が乾燥THF(70mL)に懸濁され、得られた混合物が45分間還流される。得られた濃い白色の懸濁液に、THF(50mL)中の塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニル(23.3g,86.0mmol)が還流状態で1時間のうちに滴下添加される。添加が完了してから、攪拌と加熱が30分間続けられる。反応の進行と塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニルの総消費は、TLCでモニターされる。形成された生成物の信号は、CHCl−MeOH(9:1,v/v)中で観測される。反応の完了後、加熱は停止され、反応混合物は室温(20〜24℃)まで冷却される。溶液は、水(100mL)中に注がれる。層は分離し、水相はトルエン(3×50mL)で抽出され、合わされた有機相は水(1×60mL)で洗浄され、乾燥され(NaSO)、濾過されて、減圧下で乾燥するまで濃縮される。クリーム状の濃い油が得られ、次の段階で続いて用いられる。純度(HPLC)は、97.19%であった。
【実施例2】
【0052】
A.塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニル
三つ首フラスコ中に、トリホスゲン(10.87g,36.63mmol)のトルエン(60mL)溶液を室温(23℃)で用意し、そして反応器は氷水冷却浴中に置かれる。分離フラスコ中において、(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(20.0g,95.55mmol,純度99%(HPLC))及びピリジン(3.26mL,40.30mmol)がトルエン(80mL)中に加えられ、固体の全量が溶けるまで50〜70℃で加熱される。室温まで冷却された後に、透明なトルエン溶液は滴下ロートに移される。溶液は約10分のうちにトルエン中のトリホスゲン溶液に滴下添加される。添加が完了したら、冷却浴は取り除かれ、反応器は油浴に浸される。反応混合物は、濃い黄色の固体がゆっくりと溶解する平均時間、70〜80℃で加熱される。反応温度が50℃に到達してから、加熱と攪拌が45分間、(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの信号(基質試料に対してv/vで95:5のCHCl−MeOH中のTLC制御による)の消滅が観測されるまで、続けられる。反応の完了後、混合物は室温(20〜24℃)まで冷却され、発生した塩酸ピリジニウムを除去するためにセライト(登録商標)を通して濾過される。セライト層はトルエン(20mL)で洗浄される。減圧下(0.1〜0.15mmHg)でトルエン(145mL)が反応後混合物から除去され、濃縮フラスコが水浴中で60〜65℃に加熱される。油状の残留物はヘプタン(200mL)に還流状態で溶かされ、そして温溶液は、濾過前にヘプタンで洗浄されたセライト(20g)を通して濾過される。濾過後に、セライト層は温ヘプタン(2×50mL)で洗浄される。過剰の溶媒(170mL)は減圧下で除去され、約1/2の体積まで濃縮された溶液は、中間体の結晶化を防ぐため、THF(20mL)で希釈される。5℃で12時間放置される。結晶性の無色の固体が濾過され、ヘプタン(2×15mL)で洗浄される。溶液は、次の段階で続けて用いられる。溶液の試料はHPLC分析を受ける。この試料の純度は、97.91%である。
【0053】
B.ソリフェナシン
(R)−3−キヌクリジノール(12.15g,95.55mmol)及び60%NaH(4.20g,105.0mmol)が乾燥THF(90mL)に懸濁され、得られた混合物が45分間還流される。濃い白色の懸濁液に、前の段階で得られたTHF−ヘプタンの溶液中の塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニルが、還流状態で1時間のうちに滴下添加される。添加が完了してから、攪拌と加熱が30分間続けられる。反応の進行と塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニルの総消費は、TLCでモニターされる。形成される生成物の信号は、CHCl−MeOH(9:1,v/v)中で観測される。反応の完了後、加熱は停止され、反応混合物は室温(20〜24℃)まで冷却される。溶液は、水(100mL)中に注がれる。層は分離し、水相はトルエン(3×50mL)で抽出され、合わされた有機相は水(1×60mL)で洗浄され、乾燥され(NaSO)、濾過されて、減圧下で乾燥するまで濃縮される。クリーム状の濃い油が得られ、次の段階で続いて用いられる。純度(HPLC)は、96.09%であった。
【実施例3】
【0054】
コハク酸ソリフェナシン
実施例1で得られた粗な油状のソリフェナシン(35g)が、室温(20〜24℃)で、イソプロパノール(100mL)に溶かされる。分離フラスコ中において、コハク酸(11.30g,95.55mmol)のイソプロパノール(130mL)溶液が、5分間の還流によって調整される。熱いコハク酸溶液が、イソプロパノール中のソリフェナシン溶液に、ゆっくりと加えられる。得られた混合物は、室温に達するまで放置される。約45℃で混合物は曇り出し、そして白い結晶状の固体が沈澱し始める。溶液は、2時間30分の間室温で放置される。結晶性固体は濾過され、冷たいイソプロパノール(10℃)(3×40mL)で洗浄され、それから減圧下(0.1〜0.15mmHg,室温,2時間)で乾燥されて、乾燥物となる。2つの段階の後、コハク酸ソリフェナシンが、38.9g(84.8%)の収率で、純度(HPLC)99.39%で得られる。最終生成物(38g)はイソプロパノール(150mL)中で再結晶化され、純度(HPLC)99.71%、T(onset)=150℃のコハク酸ソリフェナシンが、34.4g(90.7%)の収率で得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性有機溶媒中において強塩基の存在下に3−(R)−キヌクリジノールからその場で(in situ)発生した3−(R)−キヌクリジノロキシ陰イオンが、少なくとも98%の化学的純度の塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニルとのアシル化を受け、
反応混合物中で定常的な陰イオン過剰状態を維持し、
そして反応完了後にソリフェナシン塩基が、必要に応じて標準的な手順にしたがってソリフェナシン塩に変換されることを特徴とする高い薬学的純度のソリフェナシン及び/または薬学的に受容可能なその塩の製造方法。
【請求項2】
アシル化反応が、極性非プロトン性溶媒中で、必要に応じて非極性溶媒との混合物中で、実行されることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
極性溶媒は、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルスルフォキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンまたはそれらの混合物を含む溶媒の群から選ばれることを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
非極性非プロトン性溶媒は、ペンタン、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンまたはそれらの混合物を含む群から選ばれることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
極性非プロトン性溶媒はテトラヒドロフランであり、非極性非プロトン性溶媒はヘプタンであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニルの溶液は、室温において還流状態まで反応混合物に添加され、反応混合物は還流状態に維持されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンは、第3芳香族アミン、好ましくはピリジン、の存在下で、芳香族炭化水素中でトリホスゲンと反応し、その後、反応後混合物は溶媒が蒸発し、還流状態で非極性非プロトン性溶媒によって処理され、結晶化のために5〜15℃において放置され、98%純度の、好ましくは99%を超える純度の結晶固体として分離された塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニルが、極性非プロトン性溶媒に溶解し、同じ溶媒のその場で(in situ)発生した3−(R)−キヌクリジノロキシ陰イオンの懸濁液に加えられることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニルの結晶化に用いられる非極性非プロトン性溶媒は、ヘプタンであることを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
極性非プロトン性溶媒は、テトラヒドロフランであることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
ソリフェナシンの薬学的に受容可能な塩は、コハク酸ソリフェナシンであることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
ソリフェナシン塩基は、反応混合物からソリフェナシン塩基を分離することなく、コハク酸ソリフェナシンに変換されることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニルは、以下に示される格子面間隔d(Å)、回折角2θ(°)、及び最も強い回折ピークに対する比強度I/I(%)、の関係で表されるX線粉末回折パターンによって特徴付けられる結晶形に分離されることを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
d,[Å] 2θ,[°] I/I0,[%]
12.203 7.24 2
7.317 12.09 20
7.090 12.47 65
6.362 13.91 23
6.128 14.44 10
5.219 16.98 49
4.536 19.55 100
4.374 20.29 34
4.228 20.99 21
4.090 21.71 44
3.776 23.54 69
3.672 24.21 62
3.586 24.81 43
3.301 26.99 53
3.066 29.10 16
【請求項13】
塩化(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンカルボニルは、以下に示されるX線粉末回折パターンによって特徴付けられることを特徴とする請求項12に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−521008(P2011−521008A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511541(P2011−511541)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【国際出願番号】PCT/PL2009/000054
【国際公開番号】WO2009/142522
【国際公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(504169603)ザクラディ ファルマチョイッチネ ポルファルマ エスエイ (5)
【Fターム(参考)】