説明

高レベルのインターフェロンベータの調製方法

本発明は、発酵により、改善された収量でインターフェロン−ベータを産生するための新規方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵により、改善された収量でインターフェロンベータを生産するための新規な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトにおいて、3つの主要なタイプのインターフェロン:アルファ−、ベータ−、及びガンマ−インターフェロンが同定されている。これらは、ウイルス、マイトゲン、ポリヌクレオチドなどへの曝露によりさまざまな細胞によって産生される。それらは、抗−ウイルス性、抗−増殖性、かつ免疫調節性の性質を有する。IFN-βは、多発性硬化症(Corboy JR et al., Current Treatment Options in Neurology, 5,35−54(2003))、B型肝炎及びC型肝炎の有効な治療として使用される。
【0003】
遺伝子操作によって17位のシステインがセリンに置換されたヒトIFN-βの類似体、ベタセロン(Betaseron)は、IFN-β1bとして知られている(米国特許第4588585号)。該分子は、単一のジスルフィド結合を有する165アミノ酸の小さなポリペプチドであり、非グリコシル化タンパク質として産生される。IFN-β1aとして知られる、IFN-βのグリコシル化変異体は、チャイニーズハムスター卵母細胞中で発現され、80位に炭化水素鎖を有する(Conradt et al., J. Biol. Chem., 262, 14600-5 (1987);Kagawa et al., J. Biol. Chem., 263, 17508-15(1988);Oh et al., Biotechnol. Prog., 21, 1154-64(2005);米国特許第5795779号(McCormik et al);米国特許第5554513号(Revel et al))。
【0004】
IFN-βは、ウイルスで白血球を処理することによって白血球を誘導することにより最初に産生された。しかしながら、かかる調製物中に(ウイルスなどの)さまざまな混入物の存在する可能性が高いことから、この方法で産生されたインターフェロンβの治療的使用には疑問がある。組換え技術は、ウイルス混入のないIFN-βを産生することを可能とした。自然のIFN-βは、糖タンパク質であり、Mantei et al., Nature 297:128(1982); Ohno et al., Nucl Acid. Res. 10: 967(1982);及びSmith et al., Mol. Cell. Biol. 3: 2156(1983)にそれぞれ記載されるとおり、その産生は、哺乳動物、昆虫及び酵母細胞において報告されている。
【0005】
米国特許第5795779号(McCormick et al.)は、組換えCHO細胞からのIFN-βの高レベルの産生を開示する。米国特許第5554513号(Revel et al.)は、IFN-βの2つのサブタイプを開示し、それをCHO細胞中で産生させる方法を記載する。しかしながら、すべての商業的な動物細胞培養方法は、より長い工程所要時間、ストリンジェントな培養条件を維持する必要性、高価な培地などと関連する。
【0006】
また、グリコシル化は、該タンパク質の生理活性において果たす役割がないことが示され(Taniguchi, et al., Gene 10, 11-15 (1980));E. Knight Jr., Proc. Natl. Acad. Sci., 73, 520 (1976);E. Knight Jr. and D. Fahey, J. Interferon Res. 2(3), 421(1982))、それにより、一般的に使用される宿主、E.コリにおいて産生を実施することの利益を強調する。さまざまな組換えタンパク質がこの技術によってE.コリ中で産生された(Saraswat et al., FEMS Microbiology Lett., 179, 367-73 (1999);Holowachuk & Ruhoff, Protein Expr. Purif. 6, 588-96 (1995);Kim et al., Biotechnol. & Bioeng., 69, (2000);Kim et al., Bioprocess and Biosystems Engineering, 24(2001);Saraswat et al. Biotechnol Lett., 22、261-5(2000);Lee et al., FEMS Microbiology Lett., 195, 127-132(2001);Saraswat et al., Biochemistry, 41, 15566-77(2002);Wang et al., Chin. J. Biotechnol. 11, 45-81(1995))。
【0007】
IFN-βは、クローニングされ、そしてE.コリ中で発現された(Taniguchi, et al., Gene 10, 11-15 (1980))。
【0008】
ヨーロッパ特許第EP0048970号(Goeddel et al.)は、成熟したヒト繊維芽細胞インターフェロンの微生物による産生を記載する。
【0009】
任意の治療用タンパク質と同様に、商業的目的のためには、高レベルのインターフェロン-βを得ることが望ましい。ヨーロッパ特許第EP0036776号(Kield et al.)は、細菌中での異種タンパク質の効率的な産生のためのトリプトファンプロモーター−オペレーター系に基づく新規なベクターを開示する。米国特許第US4686191号(Itoh et al.)は、trpプロモーターを含む改善されたベクターを使用することによる、E.コリにおけるインターフェロン-βの効率的な発現を得て、タンパク質合成の効率性を増加させるための方法を開示する。米国特許第US4499188号(Konrad et al.)は、trpプロモーターがインターフェロン-β産生に使用された場合、培養中のリプレッサーレベルのモニタリングの問題を解決すると主張する。Mizukamiらは、米国特許第US4746608号において、高収量のインターフェロン-βを得るために、最適増殖温度よりも10〜25℃低い温度で組換え微生物を培養する方法を示唆する。Ben-Bassatらは、米国特許第US4656132号において、1〜4個の炭素原子の水溶性のアルカノール及び/又は培養の遅延相の間の細菌の増殖を支援するアミノ酸混合物の有効量を添加することにより、インターフェロン-βの低収量の問題を解決すると主張する。Cousensらは、米国特許第US5866362号において、タンパク質がそこから単離されそして精製される封入体を宿主細胞中でそれらが形成するように、有効量のCu++を含む培地中で宿主細胞を増殖させることによって、タンパク質凝集物としてインターフェロン-βを産生することを示唆した。しかしながら、どの方法も満足のいくレベルのインターフェロン-βを達成することはできなかった。インターフェロン-βの疎水性の性質によって、合成されたタンパク質は、細胞増殖を妨害し、そしてしたがって、インターフェロン-βの産生は顕著に高いレベルでは達成されない。
【0010】
Dorinらは、米国特許第US5814485号において、形質転換宿主細胞中でのインターフェロン-βなどの疎水性ポリペプチドの発現を増加させる、一定の条件を開示する。該発明(米国特許第US5814485号)のための臨界条件は、タンパク質産生の誘導の間の120mM以下のカリウムイオン濃度及び/又は40mM以下のナトリウムイオン濃度及び/又は4.8〜6.8のpHである。
【発明の開示】
【0011】
本発明は、米国特許第US5814485号中に開示された、産生培地中のカリウム及びナトリウムイオン濃度の低いレベルを維持することに依存しない、インターフェロン-βの高レベルの産生に類似するものを開示する。これは、産生相の前又はその間の窒素源及び他の栄養素/添加剤を注意深く選択することによって、達成される。
【0012】
発明の要約
1つの側面において本発明は、選択的培養条件を用いて高レベルで組換えインターフェロン-βを産生する方法を提供する。
【0013】
他の側面において本発明は、産生培地及び/又はプレ産生培地中の窒素源及び他の栄養素を注意深く選択することによって、従来技術において指示されたよりも高いK+、及びNa+イオン濃度レベルにおいてさえ、高レベルのインターフェロン-βを提供する。
【0014】
その1つの側面において本発明は、高収量のインターフェロンベータを得るための従来技術において指示されたよりも高いpH下でさえ、高レベルのインターフェロン-βを提供する。
【0015】
さらに他の側面において本発明は、培養条件が従来技術の方法よりもより経済的である発酵プロセスを用いて、顕著に高レベルのIFN-βを得る。
【0016】
発明の記述
本発明は、高レベルで発現するインターフェロン-βの産生のための新規発酵プロセスに関する。その産生のための他の高効率のプロセスに導く、形質転換E.コリを用いる高レベルのインターフェロン-βタンパク質の産生のためのさまざまな培養条件が研究された。本発明は、改善された生成物収量のための培養条件を開示する。本発明は以下に詳細に記述される。
【0017】
(「IFN-β」とも呼ばれる)いかなるインターフェロン-βポリペプチドも利用可能である。「インターフェロン-β」又は「IFN-β」という用語は、自然のIFN-β、自然のIFN-βの生理活性又は受容体結合活性の少なくとも60%を示すか、或いは配列番号1(ヒトIFN-βのアミノ酸配列)と少なくとも約80%のアミノ酸同一性を保持する、その変異タンパク質、断片、融合タンパク質、類似体及び誘導体をさす。
【0018】
本発明において使用されるIFN-β遺伝子は、米国特許第US4588585号にしたがって、17番目のアミノ酸であるセリンが遺伝子操作によってシステインを置換している、自然の遺伝子の突然変異形態である。ヒトIFN-βのこの突然変異類似体は、IFN-β1bとして知られる。本発明において使用される自然のIFN-ベータ遺伝子の供給源は、NCCS、Pune, INDIAからのヒト肺線維芽細胞株、MRC5である。上記の突然変異は、従来技術において報告された標準的な分子生物学の技術を用いてこの遺伝子に導入された。
【0019】
好ましくはエシェリキア・コリである、好適な宿主細胞は、本分野で周知の形質転換技術を用いて、IFN-βのコード配列とt7、tac及び類似のプロモーターから選ばれる好適なプロモーターを他のベクター構成成分とともに含む好適な発現ベクターで形質転換される。本発明のためのエシェリキア菌株は、エシェリキア・コリBL21(DE3)及びその誘導体を含む群から選ばれる。好ましくは、宿主は、ATCC47092という寄託番号でATCCに寄託されたエシェリキア・コリBL21(DE3)である。本発明において使用されるエシェリキア・コリBL21(DE3)の供給源は、Stratagene, USAである。
【0020】
形質転換細胞は最初に、バッチ様式の発酵中の増殖のための条件下で培養された。本発明の方法中で使用された培地は、以下の:グルコース、グリセロール、フルクトース、マルトース、ガラクトースなど又はそれらの混合物を含む群から選ばれる、炭素及びエネルギーの供給源、以下の:酵母エキス、トリプトン、ペプトン、カゼイン酵素加水分解物、大豆カゼイン加水分解物、ゼラチンなど又はそれらの混合物を含む群から選ばれる、窒素源、以下の:クエン酸、塩化カリウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素カリウム、ブチル酸ナトリウム、チアミン、グリシン、及び塩化亜鉛から成る群から選ばれる、好適な塩/栄養素を含む。pHは約5〜8に維持される。温度は、約30〜40℃に維持される。通気及び振とう、接種、接種時間等の他の発酵条件は、当業者の便宜のとおりに選択される。
【0021】
基質を制限した流加様式の発酵は、培地中の基質濃度が約0.5g/L以下に維持されると開始する。1〜30g/Lの乾燥重量の細胞密度及び0.5g/L未満のグルコース濃度が達成された後は、プレ産生培地が添加された。プレ産生培地は、以下の:トリプトン、カゼイン酵素加水分解物(CEH)、大豆カゼイン加水分解物、ゼラチン消化物などの複合窒素源、それらの組み合わせ、それらと酵母エキスの組み合わせを含む群から選ばれる窒素源、以下の:クエン酸、塩化カリウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素カリウム、ブチル酸ナトリウム、チアミン、グリシン、及び塩化亜鉛から成る群から選ばれる好適な塩/栄養素、上記方法に必要であるとして選ばれたアンピシリン、カナマイシンなどの好適な抗生物質を含む。pHは、約6.3〜8、好ましくはpH6.5〜7.0に維持され、温度は、約25〜40℃、好ましくは約37℃に維持される。培地の総K+濃度は、120mM超であり、Na+濃度は40mM超、好ましくは60〜80mMである。炭素源はプレ産生培地に添加されてはならない。タンパク質産生の誘導は、プレ産生培地の添加後におこなわれる。好適な誘導物質が、単回のロット、複数のロット、又は持続的なやり方で添加可能である。(流加様式での)持続的な産生培地の供給は、誘導物質の添加直後に開始される。産生培地は、プレ産生培地の成分に加えて炭素源を含む。好適な炭素源は、以下の:グリセロール、グルコース、フルクトース、マルトース、ガラクトースなど又はそれらの混合物を含む群から選ばれることができる。本発明の好ましい炭素源はグルコースである。培地のpHは、約6.3〜8、好ましくはpH6.5〜7.0に維持され、温度は、約25〜40℃、好ましくは約37℃に維持される。他のすべての発酵条件は、本分野で知られているように選択される。発酵の産生相全体を通じて、培地の総K+濃度は、120mM超であり、Na+濃度は40mM超である。5〜24時間後、培地を除去し、本分野で記載された技術にしたがってその後の処理に供する。本発明の方法は、SDS-PAGE法で得られたタンパク質バンドを用いる濃度測定により推定した、IFN-βなどの疎水性タンパク質の(総細胞タンパク質の4〜28%の範囲の発現レベルの)高収量の産生を引き起こす。
【0022】
以下の実施例は、本発明をさらに説明する。これらの実施例は、例示として提供されるものであって、いかなる方法によっても本発明を限定するものと解釈してはならない。
【実施例】
【0023】
実施例1
カゼイン酵素加水分解物、ナトリウム及びチアミンを含む培地中でのIFNベータの発現
IFN-ベータ遺伝子で形質転換したE.コリBL21(DE3)細胞の培養を、アンピシリン(100mg/L)を含むLuria-Bertini培地(pH7.0)中、37℃で14時間、200rpmのインキュベーターシェーカー中で増殖させた。続いて、20℃、7135×gで15分間遠心分離して、バイオマスを無菌的に除去し、そして無菌的に産生培地中に再懸濁した。IFN-βの産生に使用した培地の組成は以下のとおりである:
【0024】
【表1】

【0025】
続いて、濾過滅菌したIPTG(2mM)を37℃で加えることによって、IFN-β遺伝子を誘導した。産生相の間の温度は37℃に維持し、そしてpHは5.3〜7.2の範囲であった。2時間ごとにサンプルを取り出し、そしてpHを約7.0に調節した。誘導8時間後のサンプル中のIFN-ベータ発現レベルは、SDS-PAGE法で得られたタンパク質バンドを用いる濃度測定により10.49%であった。
【0026】
実施例2
トリプトン、ナトリウム及びチアミンを含む培地中のIFNベータの発現
実験は、以下の組成を有する産生培地中の窒素源としてのトリプトンを含む以外は、実施例1において報告したと同じやり方で実施した。
【0027】
【表2】

【0028】
続いて、濾過滅菌したIPTG(2mM)を37℃で加えることによって、IFN-β遺伝子を誘導した。産生相の間の温度は37℃に維持し、そしてpHは5.3〜7.2の範囲であった。2時間ごとにサンプルを取り出し、そしてpHを約7.0に調節した。誘導8時間後のサンプル中のIFN-ベータ発現レベルは、7.15%であった。
【0029】
実施例3
振とうフラスコレベルにおける発現レベルに対するさまざまな窒素源の効果
IFN-ベータ遺伝子で形質転換したE.コリBL21(DE3)細胞の培養を、アンピシリン(100mg/L)を含むLuria-Bertini培地(pH7.0)中、14時間、37℃、200rpmのインキュベーターシェーカー中で増殖させた。続いて、20℃、7135×gで15分間遠心分離して、バイオマスを無菌的に除去し、そして無菌的に産生培地中に再懸濁した。IFN-βの産生に使用した培地の組成は以下のとおりである:
【0030】
【表3】

【0031】
実験において使用する窒素源は酢酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、カゼイン酵素加水分解物、ゼラチン消化物、トリプトン、及び尿素であった。続いて、濾過滅菌したIPTG(2mM)を37℃で加えることによって、IFN-β遺伝子を誘導した。産生相の間の温度は37℃に維持し、そしてpHは5.3〜7.2の範囲であった。2時間ごとにサンプルを取り出し、そしてpHを約7.0に調節した。誘導8時間後のサンプル中のIFN-ベータ発現レベルを図1に示す。
【0032】
実施例4
発現レベルでの窒素源濃度依存性
異なる濃度の窒素源の、インターフェロンベータ産生に対する効果を試験した(図2)。ここで試験しなかったNa+およびチアミン濃度以外のすべての他のパラメータは実施例1について使用したものと同じであった。IFN-βの産生に使用した培地の組成は以下のとおりであった:
【0033】
【表4】

【0034】
続いて、濾過滅菌したIPTG(2mM)を37℃で加えることによって、IFN-β遺伝子を誘導した。産生相の間の温度は37℃に維持し、そしてpHは5.3〜7.2の範囲であった。2時間ごとにサンプルを取り出し、そしてpHを約7.0に調節した。
【0035】
誘導8時間後のサンプル中のIFN-ベータ発現レベルの結果を表1に要約する。
【表5】

【0036】
実施例5
トリプトンのIFNベータ発現レベルに対する効果
IFN-ベータ遺伝子で形質転換したE.コリBL21(DE3)細胞の種培養を、以下の組成の増殖培地中に接種した。
【0037】
【表6】

【0038】
【表7】

【0039】
以下の基質制限された流加様式の培地の添加は、バイオマスの大きな増加をもたらした:
【0040】
【表8】

【0041】
増殖相では、pHを6.8〜7.0の範囲に維持するために、水酸化アンモニウムをpH調節剤として使用した。温度は37℃に維持した。(600nmで)約50AUの光学密度を達成した後、プレ産生培地を添加し、培養ブロス中で上記培地の個々の成分の以下の濃度を得た:
【0042】
【表9】

【0043】
濾過滅菌したIPTG溶液(2mM)を培養ブロスに無菌的に加えることによって、IFN-β遺伝子の発現を誘導した。続いて、以下の産生培地をIFN-ベータの発現レベルを増加させるために加えた:
【0044】
【表10】

【0045】
産生相では、pH7.0を維持するために、水酸化アンモニウムをpH調節剤として使用した。温度は37℃に維持した。誘導12時間後のサンプル中のIFNベータの発現レベルは、SDS-PAGEで測定して15.24%であった。
【0046】
実施例6
カゼイン酵素加水分解物のIFNベータ発現レベルに対する効果
トリプトンを使用する代わりに、カゼイン酵素加水分解物を主な窒素源として使用した以外は、実施例6においては、実施例5と類似のやり方で実験を実施した。カゼイン酵素加水分解物の最終濃度は、プレ誘導培地および産生培地においてそれぞれ、10g/Lおよび20g/Lであった。SDS-PAGEで測定した、IFNベータの発現レベルは、誘導12時間後のサンプル中で24.76%であった。
【0047】
実施例7
トリプトンおよび酵母エキスの組み合わせのIFNベータ発現レベルに対する効果
カゼイン酵素加水分解物を使用する代わりに、トリプトンおよび酵母エキスの組み合わせを主な窒素源として使用した以外は、実施例7においては、実施例5と類似のやり方で実験を実施した。プレ誘導培地の添加後の培養ブロス中のトリプトンおよび酵母エキスの最終濃度は、それぞれ、10g/Lおよび5g/Lであった。産生培地中のトリプトンおよび酵母エキスの濃度もそれぞれ、10g/Lおよび5g/Lであった。SDS-PAGEで測定した、IFNベータの発現レベルは、誘導12.5時間後のサンプル中で7.82%であった。
【0048】
実施例8
さまざまな濃度のチアミンの発現レベルに対する効果
IFN-ベータ遺伝子で形質転換したE.コリBL21(DE3)細胞の培養を、アンピシリン(100mg/L)を含むLuria-Bertini培地(pH7.0)中、37℃で14時間、200rpmのインキュベーターシェーカー中で増殖させた。続いて、遠心分離によりバイオマスを無菌的に除去し、そして産生培地中に再懸濁した。産生培地の組成は以下のとおりである:
【0049】
【表11】

【0050】
続いて、濾過滅菌したIPTG(2mM)を37℃で加えることによって、IFN-β遺伝子を誘導した。産生相の間の温度は37℃に維持した。2時間ごとにサンプルを取り出し、そしてpHを約7.0に調節した。誘導8時間後のサンプル中のIFN-β1b発現レベルは以下の表2に示すとおりであった。
【0051】
【表12】

【0052】
実施例9
チアミン及びさまざまな窒素源の組み合わせの発現レベルに対する効果
IFN-ベータ遺伝子で形質転換したE.コリBL21(DE3)細胞の培養を、アンピシリン(100mg/L)を含むLuria-Bertini培地(pH7.0)中、37℃で14時間、200rpmのインキュベーターシェーカー中で増殖させた。続いて、遠心分離によりバイオマスを無菌的に除去し、そして産生培地中に再懸濁した。産生培地の組成は以下のとおりである:
【0053】
【表13】

【0054】
チアミンの効果を、3つの窒素源、すなわち、ゼラチン消化物、カゼイン酵素加水分解物及びトリプトンについてモニターした。続いて、濾過滅菌したIPTG(2mM)を37℃で加えることによって、IFN-β遺伝子を誘導した。産生相の間の温度は37℃に維持した。2時間ごとにサンプルを取り出し、そしてpHを約7.0に調節した。誘導8時間後のサンプル中のIFN-β発現レベル(図3)は以下の表3に示すとおりであった。
【0055】
【表14】

【0056】
実施例10
ナトリウムカチオンの発現レベルに対する効果
IFN-ベータ遺伝子で形質転換したE.コリBL21(DE3)細胞の培養を、アンピシリン(100mg/L)を含むLuria-Bertini培地(pH7.0)中、37℃で14時間、200rpmのインキュベーターシェーカー中で増殖させた。続いて、20℃、7135×gで15分間遠心分離して、バイオマスを無菌的に除去し、そして無菌的に産生培地中に再懸濁した。IFN-βの産生に使用した培地の組成は以下のとおりである:
【0057】
【表15】

【0058】
続いて、濾過滅菌したIPTG(2mM)を37℃で添加することによって、IFN-β遺伝子を誘導した。
【0059】
産生相の間の温度は37℃に維持し、pHを6.62〜7.52の範囲に維持した。2時間ごとにサンプルを取り出し、そしてpH約7.0に調節した。SDS-PAGEでのタンパク質バンドを用いた濃度測定による、誘導8時間後のサンプル中のIFN-β発現レベルを表4に示す。
【0060】
【表16】

【0061】
実施例11
チアミン、高濃度のナトリウムカチオン及びトリプトンの、発現レベルに対する効果
IFN-ベータ遺伝子で形質転換したE.コリBL21(DE3)細胞の種培養を以下の組成の増殖培地中に接種した。
【0062】
【表17】

【0063】
【表18】

【0064】
基質を制限した流加様式で以下の培地を加えると、バイオマスの大きな増加をもたらした。
【表19】

【0065】
増殖相においては、pHを6.8〜7.0の範囲に維持するためのpH調節剤として水酸化アンモニウムを使用した。温度は37℃に維持した。(600nmで)約50AUの光学密度を達成した後、プレ誘導培地を加えた。
【0066】
培地A:高ナトリウムカチオン及びチアミンのない産生
【0067】
【表20】

【0068】
濾過滅菌したIPTG(2mM)を無菌的に加えることによってIFN-ベータ遺伝子の発現を誘導した。
【0069】
【表21】

【0070】
産生相においては、pHを7.0に維持するためのpH調節剤として水酸化アンモニウムを使用した。温度は37℃に維持した。
【0071】
培地B:高ナトリウムカチオンおよびチアミンのある産生
【0072】
【表22】

【0073】
濾過滅菌したIPTG(2mM)を無菌的に加えることによって、IFN-ベータ遺伝子の発現を誘導した。
【0074】
【表23】

【0075】
産生相においては、pHを7.0に維持するためのpH調節剤として水酸化アンモニウムを使用した。温度は37℃に維持した。産生相の間の細胞フリーの培地中のナトリウム及びカリウムカチオンの総濃度は、それぞれ、109〜101±10.9〜10.1mM及び163〜118±16.3〜11.8mMであった。細胞フリーの培養ブロス中のカリウム及びナトリウムカチオンの測定は、原子吸収スペクトルを用いておこなった。
【0076】
発現レベルの増加の時間経過を図4に示す。培地A及びBにおいて得られたIFNベータ発現レベルは、SDS-PAGEにより得られたタンパク質バンドを用いた濃度測定によって、それぞれ、15.24%及び27.32%であった。培地BにおけるIFN-ベータの収量は、約2g/Lであった。
【0077】
上記方法の利益:
1.本発明の方法は、従来技術の方法よりも高いIFN-ベータの発現をもたらす。
2.培地中のナトリウム又はカリウム濃度を非常に低いレベルに維持するために厳密にナトリウム又はカリウム濃度をモニターする必要がないため、本発明の方法は、より商業的に実現可能である。
3.本発明の方法は、従来技術の方法よりも実施がより容易である。
4.本発明の方法全体は非常に費用効率がよい。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1は、IFN-β発現レベルに対するさまざまな窒素源の効果を示す。実験は振とうフラスコ中で実施した。灰色のバーは、複合物及び無機窒素源、すなわち酢酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、カゼイン酵素加水分解物、ゼラチン消化物、トリプトン(Tryptone)及び尿素(誘導物質の添加の時点で10g/L)により得られた発現レベル、黒いバーは、対応する時点での(600nmにおける)光学密度を示す。すべての値は誘導8時間後のサンプルから得られた。
【図2】図2は、選択された窒素源のさまざまな濃度のIFN-β発現レベルに対する効果を示す。実験は振とうフラスコ中で実施した。(IPTGの添加の時点で、10、20及び30g/Lの)異なる濃度の複合窒素源:カゼイン酵素加水分解物(濃い灰色のバー)、ゼラチン消化物(薄い灰色のバー)及びトリプトン(黒いバー)により示された発現レベル。
【図3】図3は、チアミンとさまざまな窒素源及びカリウムの、IFN-β発現レベルに対する効果を示す。実験は振とうフラスコ中で実施した。(誘導物質の添加の時点で6〜7g/Lの)チアミンあり(灰色のバー)及びチアミンなし(黒いバー)のトリプトン、ゼラチン消化物、及びカゼイン酵素加水分解物間での発現レベルの比較が示される。
【図4】図4は、トリプトンとチアミン及び高濃度のナトリウムカチオンの組み合わせのIFN-β発現レベルに対する効果を示す。実験は発酵槽中で実施し、ここで、チアミン及び高濃度のナトリウムカチオン(60mM)を含む培地(黒丸)とチアミン及び高濃度のナトリウムカチオンを含まない培地(白三角)の間での発現レベルの比較が示される。
【図5】図5は、IFN-βのアミノ酸配列を示す(配列番号1)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エシェリキア・コリ宿主細胞中でのインターフェロンベータの産生のための方法であって、以下のステップ:
a)前記タンパク質を産生可能な前記宿主細胞を提供し;そして
b)前記ポリペプチドの産生を誘導するために有効な条件下で、前記細胞を、ゼラチン消化物、カゼイン酵素加水分解物、及びトリプトンから選ばれる複合窒素源を含む培地単独、又はこれらの培地の組み合わせまたはこれらの培地のいずれかと酵母エキスの組み合わせの中で培養する、
を含み、ここで、該方法が約pH6.5〜7.0、及び約37℃の温度で実施される、前記方法。
【請求項2】
前記培地がさらにチアミンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複合窒素源の濃度が、約10〜約30g/Lの間で可変である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記複合窒素源がゼラチン消化物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記複合窒素源がトリプトンである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記複合窒素源がカゼイン酵素加水分解物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記培地がさらに、グルコース、フルクトース、マルトース、グリセロール、ガラクトース、及びそれらの組み合わせを含む群から選ばれる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記炭素源が、グルコース又はグリセロールから選ばれる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記培地が、約50〜100mMのナトリウムカチオン濃度を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記E.コリ細胞が、前記疎水性ポリペプチドを産生可能であり、かつ前記培地が、トリプトン、カゼイン酵素加水分解物及びゼラチン消化物を含む群から選ばれる複合窒素源、グルコースおよびグリセロールを含む群から選ばれる炭素源、チアミン、並びに60〜80mMのナトリウムカチオンを含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記IFN-βが配列番号1に示すアミノ酸配列を有する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
産生の最後における前記IFN-βの発現レベルが、全タンパク質の少なくとも10%である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
以下の:
a)前記疎水性ポリペプチドを産生可能なE.コリ細胞、
b)トリプトン、カゼイン酵素加水分解物、及びゼラチン消化物を含む群から選ばれる複合窒素源、グルコース及びグリセロールを含む群から選ばれる炭素源、チアミン、並びに60〜80mMの範囲のナトリウムカチオン、
を含む、インターフェロンベータの産生のための組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−523801(P2008−523801A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−546308(P2007−546308)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【国際出願番号】PCT/IN2005/000419
【国際公開番号】WO2006/067804
【国際公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(304023824)カディラ ヘルスケア リミティド (12)
【Fターム(参考)】