説明

高信頼性ICカード

【課題】ICカードのICチップでの応力集中を緩和され亀裂発生を回避できるICカードを提供し、曲げ及び点衝撃に対して高耐性であり信頼性の向上した非接触ICカードを提供することを課題とする。
【解決手段】アンテナシート2上にICチップ1を実装したインレットの両面に熱可塑性樹脂シート3を備え、且つ、該熱可塑性樹脂シート3の両面に外装シート4を備えるICカードであって、少なくともインレットの一方の面に、ICチップ1と対向するように樹脂シート3を挟んで補強板5が設けられており、且つ、該補強板5がICチップ1を覆うように設けられていることを特徴とするICカードとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は身分証明書、定期券、などに用いられる電子情報記録カードに関するものであって、更に詳しくは電子データを記録する情報記録非接触ICカードに関する
【背景技術】
【0002】
近年、非接触ICカードはPASMOなどの普及が示すように使用事例が増大しており、今後更に増えると考えられる。日常的に使用されるため、状況に応じた信頼性の確保が求められている。情報はICチップに保持され、且つチップは脆性破壊を起こし易い。よって信頼性に関してはICチップの保護機構が重要な役割を果たす。上記の理由から種々のICチップ保護機構が考案、実施されてきた。
モールド樹脂を介してチップに補強板を重ねる(特許文献1)、同じ方法でチップの上下から補強板を固定する(特許文献2、特許文献3)、ICチップの上方にICチップを嵌め込む帽子形状の補強材を用いる(特許文献4)、カード外面から補強シールを貼る(特許文献5)、などがある。
特許文献5以外はいずれもカード基材よりも硬い熱硬化性樹脂と更に硬い補強板によってICチップを包み込む方法である。特許文献5はカード外面が平滑でなく特殊例である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−115968号公報
【特許文献2】特開2002−163624号公報
【特許文献3】特開2006−331198号公報
【特許文献4】特開2001−034727号公報
【特許文献5】特開2000−259804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが上述したような保護機構を施した非接触ICカードにおいては次のような課題が生じる。ICチップと補強板は数ミリ角、実装時インレットの厚みは400から500μmである。ICカード基材内部に角の在る硬い板状物体が埋め込まれるので、変形した場合には応力が集中し亀裂発生や界面剥離の虞がある。
また曲げや点衝撃を受けた時には、カード基材と異なる硬度をもった樹脂により封止することでICチップを保護する役割の一端を果たしているわけであるが、現状充分な強度を得られるまでには至っていない。
更に、封止樹脂上に補強板を設ける場合には硬化前の封止樹脂を滴下して補強板を載せる工程が入るために厚みの制御が難しい、補強板の平面度が保てない、などの問題を生じる。
【0005】
本発明にあっては、ICカードのICチップでの応力集中を緩和して亀裂発生を回避できるICカードを提供し、曲げ及び点衝撃に対して高耐性であり信頼性の向上した非接触ICカードを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために請求項1記載の発明としては、アンテナシート上にICチップを実装したインレットと、前記インレットの両面にそれぞれ設けられた熱可塑性樹脂シートと、前記インレットと反対側の前記熱可塑性樹脂シートの面に設けられた外装シートとを備えるICカードであって、前記ICチップと対向するように前記熱可塑性樹脂シートを挟んで第1の補強板が設けられており、且つ、前記第1の補強板は、前記アンテナシートに対して直交する方向から見て該第1の補強板の輪郭内に前記ICチップが入るように設けられていることを特徴とするICカードである。
言い換えると、請求項1記載の発明は、アンテナシート上にICチップを実装したインレットの両面に熱可塑性樹脂シートを備え、且つ、該熱可塑性樹脂シートの両面に外装シートを備えるICカードであって、少なくともインレットの一方の面に、前記ICチップと対向するように樹脂シートを挟んで補強板が設けられており、且つ、該補強板がICチップを覆うように設けられていることを特徴とするICカードとした。
【0007】
また、請求項2記載の発明としては、前記ICチップが実装されたアンテナシートの面と反対の面に前記熱可塑性樹脂シートを挟んで第2の補強板が設けられており、且つ、前記第2の補強板は、前記アンテナシートに対して直交する方向から見て該第2の補強板の輪郭内に前記ICチップが入るように設けられていることを特徴とする請求項1記載のICカードである。
また、請求項2記載の発明としては、前記第1の補強板と前記第2の補強板は同形同大で、前記アンテナシートに対して直交する方向から見てそれらの輪郭が合致するように配設されていることを特徴とする請求項2記載のICカードである。
また、請求項4記載の発明としては、前記第1の補強板は、前記熱可塑性樹脂シートに向かい合う前記外装シートの内面に取着されて配設されていることを特徴とする請求項1乃至3に何れか1項記載のICカードである。
また、請求項5記載の発明としては、前記第2の補強板は、前記熱可塑性樹脂シートに向かい合う前記外装シートの内面に取着されて配設されていることを特徴とする請求項2または3記載のICカードである。
【0008】
また、請求項6記載の発明としては、前記第1の補強板が金属板であることを特徴とする請求項1乃至5に何れか1項記載のICカードである。
また、請求項7記載の発明としては、前記第2の補強板が金属板であることを特徴とする請求項2、3、5に何れか1項記載のICカードである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は補強板とICチップを厚い樹脂シートで分離する。従来構造と比較して補強板の変形はカード外面の変形に近づき大きくなるが応力集中は緩和され亀裂発生を回避できる。また封止樹脂とカード基材間界面が存在しないので界面剥離は発生しない。ICチップは樹脂シートを介在して補強板に挟まれている。隣接する樹脂シートによってICチップの変形は緩和され衝撃耐性は向上する。補強板の位置は外装シートによって定まり平面度と共に問題は生じない。本発明は、曲げ及び点衝撃に対して高耐性であり、信頼性の向上した非接触ICカードを提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の補強板を施した非接触ICカードの断面模式図である。
【図2】(比較例1)における補強板のない接触ICカードの断面模式図である。
【図3】(比較例2)における従来構造の補強板を設けたICカードの断面模式図である。
【図4】本発明のICカードにおけるラミネート加工前の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明による非接触ICカードはICチップに対して樹脂シートを介して補強板を搭載する。
【0012】
図1に本発明のICカードの断面模式図を示した。
【0013】
本発明のICカードにあってはアンテナシート2上にICチップ1が実装されたインレットが、樹脂シート3、外装フィルム4によって挟持されている。本発明のICカードにあっては、補強板5がICチップ1を覆うように樹脂シート3を挟んで設けられている。
より詳細には、ICカードは、アンテナシート2上にICチップ1を実装したインレットと、前記インレットの両面にそれぞれ設けられた熱可塑性樹脂シート3と、前記インレットと反対側の熱可塑性樹脂シート3の面に設けられた外装フィルム(外装シート)4とを備える。
そして、ICチップ1と対向するように熱可塑性樹脂シート3を挟んで第1の補強板5が設けられており、且つ、第1の補強板5は、アンテナシート2に対して直交する方向から見て該第1の補強板5の輪郭内にICチップ1が入るように設けられている。
さらに、ICチップ1が実装されたアンテナシート2の面と反対の面に熱可塑性樹脂シート3を挟んで第2の補強板5が設けられており、且つ、第2の補強板5は、アンテナシート2に対して直交する方向から見て該第2の補強板5の輪郭内にICチップ1が入るように設けられている。
本実施の形態では、第1の補強板5と第2の補強板5は同形同大で、アンテナシート2に対して直交する方向から見てそれらの輪郭が合致するように配設されている。
【0014】
本発明のICカードにあっては、樹脂シート3を挟んでICチップ1を覆うように補強板5を設けることにより、ICカードに対して曲げ及び点衝撃に対して高耐性を付与することができる。
【0015】
本発明のICカードにあっては、ICチップ1としてはSiウエハー上に回路を形成したものであり、公知のものを使用できる。アンテナシート2は基材フィルム上に金属配線が設けられたものであり、基材フィルムとしてはPEN(ポリエチレンナフタレート)、PET、ポリイミド、又は、ABS材料を用いることができる。また、金属配線としてはアルミニウム配線、銅配線を用いることができる。ICチップ1はアンテナシートに実装され接続しており、必要に応じてICチップは封止樹脂により封止されている。
【0016】
本発明のICカードにあっては、ICチップ1を覆うようにして補強板5が樹脂シート3を介して設けられる。補強板5としては、金属材料からなる金属板であることが好ましい。金属板としてはステンレス材料を好適に用いることができる。なお、補強板として無機材料からなるセラミック板を用いることも可能である。
【0017】
また、本発明のICカードにおいて、補強板5はICチップ1を覆うようにして設けられる。補強板5によりICチップ1を覆うために補強板5の大きさとしてはICチップ1の大きさと等しいかそれ以上のものが用いられる。具体的には矩形のICチップ1の大きさよりも1辺の長さが0.5mm以上5mm以下の範囲内で大きいものを補強板5として用いることが好ましい。本発明のICチップ1にあってはラミネート成形によりICカードが製造されるが、補強板5の一辺の長さがICチップ1の一辺に0.5mmを足した値を下回る場合にあっては、製造工程時のズレによって補強板5がICチップ1を覆うことができなくなってしまうことがある。一方、補強板5の一辺の長さがICチップ1の一辺に5mmを足した値を超える場合にあっては、ICカード全体が硬くなってしまい好ましくない。
【0018】
補強板5の厚みとしては、10μm以上200μm以下の範囲内であることが好ましい。補強板5の厚みが10μmを下回る場合、補強板5としての強度が得られなくなってしまうことがある。一方、本発明のICカードにあっては樹脂シート3を介して補強板5をICチップ1上に設けるものであるが、補強板5の厚みが200μmを超えるような場合本発明の効果を十分に得ることができなくなってしまうことがある。
【0019】
本発明のICチップ1にあっては、ICチップ1の少なくとも一方の面にICチップ1を覆うように補強板5が設けられることが好ましい。さらには、ICチップ1の両面にICチップ1を覆うように補強板5が設けられることが好ましい。
【0020】
本発明のICカードにおいて、樹脂シート3、外装フィルム4としては、PETG(グリコール変性ポリエチレンテレフタレート)、PETG−PC(グリコール変性ポリエチレンテレフタレートとポリカーボネートの共重合体)、延伸PET(ポリエチレンテレフタレート)などのポリエステル系材料、PVC(ポリ塩化ビニル)、ABS、ポリエチレン、ポリプロピレンといったポリオレフィン系材料を用いることができる。
【0021】
本発明のICカードにあっては、アンテナシート2上にICチップ1が実装されたインレットの両面に樹脂シート3、補強板5、外装フィルム4を配置し、ラミネート成形することにより製造することができる。本発明のICカードにあっては図1の構成のICカードに限定されるものではない。必要に応じて、各層間に接着層を設けてもよいし、表面に印刷層、装飾層が設けられていてもよい、また、樹脂シート3や外装フィルム4が単層構成ではなく、複数層で構成されていてもよい。
【実施例1】
【0022】
5mm角50ミクロン厚のICチップを異方性導電ペーストを用いて実装した50ミクロン厚PEN製アンテナシートをチップ側250ミクロン厚、アンテナシート側200ミクロン厚のPETG製樹脂シートで挟む。更にその外側に6mm角150ミクロン厚のSUS製補強板を接着した150ミクロン厚延伸PET製外装シートを重ねて150℃30分間の条件でラミネート成型した。ラミネート前の積層状況模式図を図4に示す。ラミネート後の模式図を図1に示す。点衝撃強度を比較するために、同じラミネート条件で補強板のない場合、封止樹脂6で補強板5を固定した場合の成型も行った。各々の場合の模式図を図2、図3に示す。
点衝撃試験はJIS K5600−5−3に準拠した。落下錘は50gで落下高さを10cm、20cm、30cmの三通り実施した。表1に示すように、点衝撃耐性は補強板のない比較例1、従来構造の比較例2、本発明を実施した資料の順に向上しており、本発明を実施したICカードが最も高い耐性を示した。
【0023】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明により高信頼性非接触ICカードを提供することができる。
【符号の説明】
【0025】
1・・・ICチップ
2・・・アンテナシート
3・・・樹脂シート
4・・・外装フィルム
5・・・補強板
6・・・封止樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナシート上にICチップを実装したインレットと、
前記インレットの両面にそれぞれ設けられた熱可塑性樹脂シートと、
前記インレットと反対側の前記熱可塑性樹脂シートの面に設けられた外装シートとを備えるICカードであって、
前記ICチップと対向するように前記熱可塑性樹脂シートを挟んで第1の補強板が設けられており、且つ、前記第1の補強板は、前記アンテナシートに対して直交する方向から見て該第1の補強板の輪郭内に前記ICチップが入るように設けられている、
ことを特徴とするICカード。
【請求項2】
前記ICチップが実装されたアンテナシートの面と反対の面に前記熱可塑性樹脂シートを挟んで第2の補強板が設けられており、且つ、前記第2の補強板は、前記アンテナシートに対して直交する方向から見て該第2の補強板の輪郭内に前記ICチップが入るように設けられている、
ことを特徴とする請求項1記載のICカード。
【請求項3】
前記第1の補強板と前記第2の補強板は同形同大で、前記アンテナシートに対して直交する方向から見てそれらの輪郭が合致するように配設されている、
ことを特徴とする請求項2記載のICカード。
【請求項4】
前記第1の補強板は、前記熱可塑性樹脂シートに向かい合う前記外装シートの内面に取着されて配設されている、
ことを特徴とする請求項1乃至3に何れか1項記載のICカード。
【請求項5】
前記第2の補強板は、前記熱可塑性樹脂シートに向かい合う前記外装シートの内面に取着されて配設されている、
ことを特徴とする請求項2または3記載のICカード。
【請求項6】
前記第1の補強板が金属板であることを特徴とする請求項1乃至5に何れか1項記載のICカード。
【請求項7】
前記第2の補強板が金属板であることを特徴とする請求項2、3、5に何れか1項記載のICカード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−257191(P2010−257191A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106131(P2009−106131)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】