説明

高出力レーザ装置

【課題】kHzオーダー以上の波面揺らぎに対しても補償可能な、安定で小型な高出力レーザ装置を得る。
【解決手段】光増幅後の各アレイ間の位相誤差を検出する第1の位相誤差検出手段(11)と、空間伝播後の波面検波を行うことで波面の角度に応じた位置情報を生成する波面センサ(12)と、位置情報に基づいて空間伝播後の位相誤差を検出する第2の位相誤差検出手段(13)と、それぞれの位相誤差を補償する第1および第2のフィードバック信号を算出し、いずれか一方を選択して出力する位相制御手段(14)と、選択後のフィードバック信号に応答し位相誤差の補償を行う光位相変調手段(4)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速な波面揺らぎを補償可能とする、安定で小型な高出力レーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高出力レーザ装置の実現方法としては、単一のレーザ光を光増幅の種光として、分岐後に光増幅してから合成を行うコヒーレントビーム結合(Coherent Beam Combine:CBC)が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
CBCベースの高出力レーザでは、各光路の位相を揃え、ビームを出力している。また、出力時の位相を揃える位相制御フィードバックループとは別に、空間伝播中での波面揺らぎを補償するために、波面センサで波面誤差を検出している。そして、波面センサにより検出された波面誤差を補償することで、単一のローブを持った集光パターンを形成している。
【0004】
従来は、波面誤差を検出する手段としてカメラなどの波面センサを用い、補償する手段としてアダプティブミラーを用いていた。しかしながら、波面センサの位相誤差検出速度やアダプティブミラーの応答速度が、kHzオーダーよりも低く、kHzオーダー以上の応答ができないという問題がある(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
このような問題に対して、特許文献1では、出力時の位相制御フィードバックループの基準信号にRF信号を用いて、さらに、波面揺らぎを各光路に対応するRF信号(基準信号)のオフセット位相として与えることで、kHzオーダー以上の高速で制御可能とする方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−323774号公報
【特許文献2】特開2009−244030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
上記した特許文献1、2による従来方法では、波面揺らぎ補正の応答速度が、波面センサ(カメラなど)や補正方法の帯域(アダプティブミラー:<1[kHz])により制限される。この結果、kHzオーダー以上の高速な波面揺らぎを補償できないという問題点があった。
【0008】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、kHzオーダー以上の波面揺らぎに対しても補償可能な、安定で小型な高出力レーザ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る高出力レーザ装置は、単一周波数の基準光をサブアレイに分岐しアレイごとに光増幅後、アレイ間の光位相誤差を検出帰還して出力をコヒーレント加算する高出力レーザ装置において、光増幅後の各アレイ間の位相誤差を第1の位相誤差として検出する第1の位相誤差検出手段と、空間伝播後の波面検波を行うことで波面の角度に応じた位置情報を生成する波面センサと、波面センサにより生成された位置情報に基づいて空間伝播後の位相誤差を第2の位相誤差として検出する第2の位相誤差検出手段と、第1の位相誤差および第2の位相誤差を入力し、第1の位相誤差を補償する第1のフィードバック信号、および第2の位相誤差を補償する第2のフィードバック信号を算出するとともに、第1の位相誤差および第2の位相誤差の値と、所定閾値との比較結果に基づいて第1のフィードバック信号と第2のフィードバック信号とを切り替え選択し、選択後のフィードバック信号を出力する位相制御手段と、位相制御手段から出力される選択後のフィードバック信号に応答し位相誤差の補償を行う光位相変調手段とを有するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る高出力レーザ装置によれば、伝播後の波面検波にカメラではなくフォトディテクタを用い、位相制御にアダプティブミラーではなく光位相変調器を用いることにより、kHzオーダー以上の波面揺らぎに対しても補償可能な、安定で小型な高出力レーザ装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1における高出力レーザ装置の構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1で用いられる波面センサの例示図である。
【図3】本発明の実施の形態2における高出力レーザ装置の構成図である。
【図4】本発明の実施の形態3における高出力レーザ装置の構成図である。
【図5】本発明の実施の形態4における高出力レーザ装置の構成図である。
【図6】本発明の実施の形態5における高出力レーザ装置の構成図である。
【図7】本発明の実施の形態6における高出力レーザ装置の構成図である。
【図8】本発明の実施の形態7における高出力レーザ装置の構成図である。
【図9】本発明の高出力レーザ装置における位相制御回路による位相同期ループの切り換え処理の一連の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の高出力レーザ装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0013】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における高出力レーザ装置の構成図である。この図1に示す高出力レーザ装置は、レーザ光源1、光分岐スプリッタ2、光分岐スプリッタアレイ(N分岐)3、光位相変調器(N個)4、光増幅器(N個)5、RF信号発振器6、光周波数シフタ7、光合波分岐素子8、コリメータレンズ9、光合波分岐素子10、位相誤差検出回路11、波面センサ(角度検出器)12、位相誤差検出回路13、および位相制御回路14を備えて構成されている。また、図1中のR1、R2は、それぞれ、光分岐スプリッタ2により分岐された信号光路、参照光路を示している。
【0014】
本発明の係る高出力レーザ装置は、光分岐後の光増幅器5などによる位相変動をフィードバックすることで位相誤差を制御する位相同期ループ1と、波面センサ12により検出された波面情報から得た伝播による位相変動情報をフィードバックすることで波面制御を行う位相同期ループ2の2つの制御ループを有している。
【0015】
さらに、本発明の係る高出力レーザ装置は、これら2つの制御ループによる制御信号(図1中の位相同期ループ1による位相誤差信号S1、位相同期ループ2による位相誤差信号S2に相当)を位相制御回路14により選択的に切り替え、光位相変調器4でこれら2つの制御ループの位相制御を行う。
【0016】
次に、本実施の形態1における高出力レーザ装置の動作について説明する。
はじめに、レーザ光源1の出力が、光分岐スプリッタ2により、信号光路R1と、参照光路R2とに2分岐される。信号光路R1は、光分岐スプリッタアレイ3を用いてN分岐された後、光位相変調器4に入力される。なお、図1では、簡単化のため、1光路のみを示している。
【0017】
光位相変調器4による変調後の出力は、光増幅器5により増幅される。光位相変調器4では、光増幅器5および本装置から出力された後の伝播に伴う波面揺らぎを補償する。
【0018】
一方、参照光路R2は、光周波数シフタ7により、RF信号に対応する周波数の量だけ周波数シフトされる。ここで、光周波数シフタ7は、RF信号発振器6から固定周波数の電気信号が印加され、これにより、RF信号に対応する周波数の量だけ周波数シフトされる。周波数シフトされた光は、コリメータレンズ9によりビーム径が調整され、後段の光合波分岐素子8(例えば、ビームスプリッタ8)により、信号光(N個)と合波、分岐される。
【0019】
合波後の光路(図1において、ビームスプリッタ8を通過した後、上方に向かう光路)において、位相誤差検出回路11は、各信号光路のビート信号を検出し、各光路の位相誤差情報(図1における位相誤差信号S1に相当)を取得する。そして、位相誤差検出回路11により検出された位相誤差情報に基づいて、位相制御回路14は、各光信号の相対位相をロックする制御信号を生成し、検出されたそれぞれの位相誤差に対応する光路の光位相変調器4にフィードバックする。
【0020】
このように、位相誤差信号S1に基づく位相制御フィードバックループを閉じることで、位相同期ループ1が同期確立される。この位相同期ループ1は、出力直後の各アレイ間の相対位相を補償する。
【0021】
一方、光合波分岐素子8を透過したN個の信号光(図1において、ビームスプリッタ8を通過した後、右に向かう光路)は、光合波分岐素子10を透過後、目標物へと集光される。そして、目標物までの伝播の際に生じる波面揺らぎが、目標物からの反射光により、光合波分岐素子10、および波面センサ12を用いて検出される。
【0022】
図2は、本発明の実施の形態1で用いられる波面センサ12の例示図である。波面センサ12は、例えば、この図2に示すようなレンズアレイとフォトディテクタアレイを用いた角度検出器として構成することで、波面情報を取得することができる。
【0023】
波面が乱れた場合には、それに伴う角度のずれにより、図2に示すように、検出される位置が異なることとなる。そこで、例えば、4分割光検出器などを用いて位置検出する。これにより、後段の位相誤差検出回路13は、波面センサ12により検出された位置情報から位相誤差を検出することができる。
【0024】
位相誤差検出回路13は、波面センサ12により得られた位置情報に基づいて位相誤差信号S2を出力する。位相制御回路14は、上述したように、はじめは、位相同期ループ1により、光増幅器5による出力直後の各光路の位相を揃える。その後、位相制御回路14は、空間伝播することによる位相揺らぎを補償し、空間伝播後の目標物上での各光路位相を揃えるために、位相誤差信号S2に基づく位相制御フィードバックループを閉じる。これにより、位相同期ループ2が同期確立される。
【0025】
以上のように、実施の形態1によれば、伝播後の波面検波には、カメラではなくフォトディテクタを使用し、位相制御には、アダプティブミラーではなく光位相変調器を使用している。このような構成を備えることで、MHzオーダー以上の高速位相制御を実現することができる。
【0026】
実施の形態2.
先の実施の形態1では、伝播後の波面情報を角度検出器12により検出する方式とした場合について説明した。これに対して、本実施の形態2では、ヘテロダイン検波方式とした場合について説明する。図3は、本発明の実施の形態2における高出力レーザ装置の構成図である。この図3において、図1と同一あるいは類似の要素は、同一の符号を付している。
【0027】
本実施の形態2における図3の構成は、先の実施の形態1における図1の構成と比較すると、コリメータレンズ15をさらに備えている点が異なっている。そして、コリメータレンズ15を備えることで、ヘテロダイン検波方式を実現している。そこで、この相違点を中心に、本実施の形態2における高出力レーザ装置の動作について説明する。
【0028】
波面センサ検波用の参照光路を光路R2から分岐し、コリメータレンズ15によりコリメートする。そして、コリメータレンズ15によりコリメートされた出力光と、目標物からの反射光とを、光合波分岐素子10により合波することで、波面センサ12での検波方式をヘテロダイン検波方式としている。
【0029】
このような構成とすることで、十分な出力を持った参照光を用いてヘテロダイン検波を行うことができる。この結果、ショット雑音限界での検波が可能となり、微弱な目標物からの反射光を高感度に検出することができる。
【0030】
さらに、本実施の形態2では、波面センサ12において、位相同期ループ1内の位相誤差検出回路11と同様に、RF信号発振器6から出力される固定周波数のビート信号を検出することができる。したがって、位相同期ループ2内の位相誤差検出回路13により、位相同期ループ1内の位相誤差検出回路11と同様に、各光路の相対位相情報をビート信号から取得することができる。
【0031】
位相誤差検出回路13で検出された位相誤差情報に基づいて、位相制御回路14は、各光信号の相対位相をロックする制御信号を生成し、検出されたそれぞれの位相誤差に対応する光路の光位相変調器4にフィードバックする。このように、位相誤差信号S2に基づく位相制御フィードバックループを閉じることで、位相同期ループ2が同期確立される。
【0032】
以上のように、実施の形態2によれば、伝播後の波面検波には、カメラではなくフォトディテクタを使用し、位相制御には、アダプティブミラーではなく光位相変調器を使用している。このような構成を備えることで、MHzオーダー以上の高速位相制御を実現することができる。
【0033】
さらに、十分な出力を持った参照光を用いて伝播後の波面情報をヘテロダイン検波することができる構成を備えている。この結果、ショット雑音限界での検波が可能となり、微弱な目標物からの反射光を高感度に検出することができるという、さらなる効果を得ることができる。
【0034】
実施の形態3.
先の実施の形態2では、伝播後の波面情報の検出方式をヘテロダイン方式とした場合について説明した。これに対して、本実施の形態3では、ホモダイン検波方式とした場合について説明する。図4は、本発明の実施の形態3における高出力レーザ装置の構成図である。この図4において、図3と同一あるいは類似の要素は、同一の符号を付している。
【0035】
本実施の形態3における図4の構成は、先の実施の形態2における図3の構成と基本的には同じであるが、光周波数シフタ7の後ろで分岐された参照光を用いる代わりに、光周波数シフタ7の前で分岐された参照光を用いてコリメータレンズ15によりコリメートしている点が異なっている。このような構成により、光合波分岐素子10で合波する際の目標物からの反射光と、参照光との周波数が一致することになり、ホモダイン検波方式を実現できる。
【0036】
従って、十分な出力を持った参照光を用いてホモダイン検波を行うことができる。この結果、先の実施の形態2と同様に、ショット雑音限界での検波が可能となり、微弱な目標物からの反射光を高感度に検出を行うことができる。
【0037】
以上のように、実施の形態3によれば、伝播後の波面検波には、カメラではなくフォトディテクタを使用し、位相制御には、アダプティブミラーではなく光位相変調器を使用している。このような構成を備えることで、MHzオーダー以上の高速位相制御を実現することができる。
【0038】
さらに、十分な出力を持った参照光を用いて伝播後の波面情報をヘテロダイン検波することができる構成を備えている。この結果、ショット雑音限界での検波が可能となり、微弱な目標物からの反射光を高感度に検出することができるという、先の実施の形態2と同様のさらなる効果を得ることができる。
【0039】
実施の形態4.
先の実施の形態2、3では、波面揺らぎの検波方式をヘテロダイン、またはホモダイン検波方式とした場合について説明した。これに対して、本実施の形態4では、検波時における送信光自身の漏れ光、内部反射光、または背景光の影響を抑圧可能な手段(後述する周波数分離回路16に相当)をさらに備えた場合について説明する。
【0040】
図5は、本発明の実施の形態4における高出力レーザ装置の構成図である。この図5において、図4と同一あるいは類似の要素は、同一の符号を付している。
【0041】
本実施の形態4における図5の構成は、先の実施の形態3における図4の構成と比較すると、角度検出器12と位相誤差検出回路13との間に周波数分離回路16をさらに備えている点が異なっている。そして、周波数分離回路16を備えることで、目標物が移動している場合など、目標物から反射される光の周波数を、ドップラ周波数シフトにより周波数シフトして検波している。そこで、この相違点を中心に、本実施の形態4における高出力レーザ装置の動作について説明する。
【0042】
なお、図5の構成は、ホモダイン検波方式を用いた図4に対して周波数分離回路16を付加した場合を示しているが、ヘテロダイン検波方式を用いた図3に対して周波数分離回路16を付加することも、同様に可能である。
【0043】
送信光自身の漏れ光、内部反射光、または背景光は、直流成分の信号として検波される。一方、目標物からの反射光は、ドップラ周波数シフト分、周波数シフトされた信号として検波される。そこで、本実施の形態4では、周波数分離回路16において、例えば、DCカットを用いて信号の直流成分を除去している。この結果、目標物からの反射光のみを抽出し、送信光自身の漏れ光、内部反射光、または背景光の影響を抑圧することができる。
【0044】
以上のように、実施の形態4によれば、位相同期ループ2内に周波数分離回路を備えている。この結果、先の実施の形態2、3の効果に加え、送信光自身の漏れ光、内部反射光、または背景光の影響を抑圧する効果をさらに得ることができる。
【0045】
実施の形態5.
先の実施の形態1〜4では、光増幅後の各アレイ間の相対位相、または目標物での相対位相を同期する位相補償を行う場合について説明した。これに対して、本実施の形態5では、目標物上において任意の波面を生成する手段(後述するオフセット位相出力回路17に相当)を備えた場合について説明する。
【0046】
図6は、本発明の実施の形態5における高出力レーザ装置の構成図である。この図6において、図1と同一あるいは類似の要素は、同一の符号を付している。
【0047】
本実施の形態5における図6の構成は、先の実施の形態1における図1の構成と比較すると、位相制御回路14の前段にオフセット位相出力回路17をさらに備えている点が異なっている。そして、オフセット位相出力回路17を備えることで、位相補償後の目標物における各アレイ間の位相に対してオフセット位相を印加して、目標物上における波面を任意に制御することを実現している。
【0048】
なお、図6の構成は、先の実施の形態1における図1に対してオフセット位相出力回路17を付加した場合を示しているが、先の実施の形態2〜4における図3〜図5に対してオフセット位相出力回路17を付加することも、同様に可能である。
【0049】
以上のように、実施の形態5によれば、オフセット位相出力回路を備えている。この結果、先の実施の形態1〜4の効果に加え、目標物上における波面を任意に制御することができるという効果をさらに得ることができる。
【0050】
実施の形態6.
先の実施の形態1〜5では、位相補償の際の基準信号として検出した光信号の1つを使用する場合について説明した。これに対して、本実施の形態6では、RF信号発振器6から出力された信号を基準信号S3としてさらに考慮し、波面制御を行う場合について説明する。
【0051】
図7は、本発明の実施の形態6における高出力レーザ装置の構成図である。この図7において、図1と同一あるいは類似の要素は、同一の符号を付している。
【0052】
本実施の形態6における図7の構成は、先の実施の形態1における図1の構成と比較すると、位相誤差検出回路13と位相制御回路14との間に移相器18をさらに備えている点が異なっている。そこで、この相違点を中心に、本実施の形態6における高出力レーザ装置の動作について説明する。
【0053】
なお、図7の構成は、先の実施の形態1における図1に対して移相器18を付加した場合を示しているが、先の実施の形態2〜4における図3〜図5に対して移相器18を付加することも、同様に可能である。
【0054】
本実施の形態6における高出力レーザ装置は、位相同期ループ2において、RF信号発振器6から出力した信号を分岐し、基準信号S3として用いている。そして、移相器18は、波面センサ12、位相誤差検出回路13を介して検出された位相誤差信号S2をオフセット位相として、基準信号S3をオフセットする。このような構成とすることで、位相同期ループ2で補償している空間伝播による波面揺らぎを、各RF信号(基準信号)のオフセット位相として制御することができる。
【0055】
以上のように、実施の形態6によれば、移相器を備えて構成されている。この結果、先の実施の形態1〜5の効果に加え、位相同期ループ2で補償している空間伝播による波面揺らぎを、各RF信号(基準信号)のオフセット位相として制御することができるというさらなる効果を得ることができる。
【0056】
実施の形態7.
先の実施の形態1〜6では、位相同期ループ1において、位相誤差信号を検出する際に、参照光をコリメータレンズ9によりコリメートし、各光路全てが光合波分岐素子8で合波されるように、ビーム径を調整するものについて説明した。これに対して、本実施の形態7では、コリメータレンズ9の代わりに光分岐スプリッタアレイ19を用いることで、参照光を、送信光と同様、アレイ状にする場合について説明する。
【0057】
図8は、本発明の実施の形態7における高出力レーザ装置の構成図である。この図8において、図4と同一あるいは類似の要素は、同一の符号を付している。
【0058】
本実施の形態7における図8の構成は、先の実施の形態3における図4の構成と比較すると、コリメータレンズ9の代わりに光分岐スプリッタアレイ19を備えている点が異なっている。そこで、この相違点を中心に、本実施の形態7における高出力レーザ装置の動作について説明する。
【0059】
なお、図8の構成は、先の実施の形態3における図4に対してコリメータレンズ9の代わりに光分岐スプリッタアレイ19を用いる場合を示しているが、先の実施の形態1、2、4〜6における図1、3、5〜7に対してコリメータレンズ9の代わりに光分岐スプリッタアレイ19を用いることも、同様に可能である。
【0060】
本実施の形態7における高出力レーザ装置は、位相同期ループ1における参照光路に、光分岐スプリッタアレイ19を挿入し、信号光と同様、アレイ状にしている。これにより、ビームを空間的に広げずに光路毎に合波を行うことができ、参照光の損失を少なくすることができる。
【0061】
以上のように、実施の形態7によれば、位相同期ループ1における参照光路に、光分岐スプリッタアレイを適用した構成を備えている。この結果、他の実施の形態1〜6と比較して、少ない参照光パワーで位相誤差検出回路における検波を行うことができる。さらに、光路ごとに合波を行うため、それぞれをモジュール化することができ、出力ビームを自由に空間配置することができる。さらに、送信光のアレイ数を他のシステムを変えずに変更することができる。
【0062】
実施の形態8.
本実施の形態8では、位相同期ループ1と位相同期ループ2との切り替えを行う位相制御回路14の動作について、フローチャートを用いて詳細に説明する。なお、この位相制御回路14の動作は、先の実施の形態1〜7に共通の内容である。
【0063】
図9は、本発明の高出力レーザ装置における位相制御回路14による位相同期ループの切り換え処理の一連の流れを示すフローチャートである。位相制御回路14は、光増幅器5などによる位相変動を補償するためのフィードバック信号(位相誤差検出回路11から出力される位相誤差信号S1に基づくフィードバック信号)と、波面センサ12により検出された波面情報から得た空間伝播による位相変動を補償するためのフィードバック信号(位相誤差検出回路13から出力される位相誤差信号S2に基づくフィードバック信号)とを、図9に示すフローチャートに従って、切り替え制御する。
【0064】
まず始めに、ステップS901において、位相制御回路14は、位相誤差検出回路11および位相誤差検出回路13により検出された位相誤差信号S1、S2から、それぞれに対応するフィードバック信号を算出する。
【0065】
次に、ステップS902において、位相制御回路14は、位相誤差信号S1があらかじめ設定されている位相同期確立レベル(位相同期確立時における残存位相誤差)以内に収まったか否かを判断する。そして、位相制御回路14は、位相誤差信号S1が位相同期確立レベル以内ではないと判断した場合には、ステップS903に進み、位相同期ループ1に対応して算出したフィードバック信号を光位相変調器4に対して出力し、ステップS901の処理に戻る。
【0066】
一方、先のステップS902において、位相誤差信号S1が位相同期確立レベル以内であると判断した場合には、ステップS904に進み、位相制御回路14は、位相同期ループ1が同期確立したものと判断する。そして、ステップS905において、位相制御回路14は、位相誤差信号S2が検出されているか否かを判断する。
【0067】
すなわち、目標物からの反射光は、微弱信号であり、検波されない場合も考えられる。そこで、位相制御回路14は、このステップS905において、位相誤差信号S2が検出されているか否かを判断している。
【0068】
そして、ステップS905において、位相誤差信号S2が検出されていないと判断した場合には、ステップS903に進む。そして、位相制御回路14は、位相同期ループ1が同期確立していない場合と同様に、位相同期ループ1に対応して算出したフィードバック信号を光位相変調器4に対して出力し、ステップS901の処理に戻る。
【0069】
一方、先のステップS905において、位相誤差信号S2が検出されていると判断した場合には、ステップS906に進み、位相制御回路14は、位相同期ループ2に対応して算出したフィードバック信号を光位相変調器4に対して出力する。
【0070】
次に、ステップS907において、位相制御回路14は、位相誤差信号S2があらかじめ設定されている位相同期確立レベル(位相同期確立時における残存位相誤差)以内に収まったか否かを判断する。そして、位相制御回路14は、位相誤差信号S2が位相同期確立レベル以内ではないと判断した場合には、ステップS901の処理に戻る。
【0071】
一方、先のステップS907において、位相誤差信号S2が位相同期確立レベル以内であると判断した場合には、ステップS908に進み、位相制御回路14は、位相同期ループ2が同期確立したものと判断し、一連の処理を終了する。
【0072】
以上のように、実施の形態8によれば、位相同期ループ1と位相同期ループ2との切り替えを、それぞれのループで検出された位相誤差の値に基づいて行うことで、位相制御を行う構成を有している。この結果、位相同期ループ1、2の順で位相同期を確立することができる。さらに、目標物からの反射光を検波できなかった場合、あるいは、位相同期が外れた場合においても、位相同期を繰り返し行うことができる。
【符号の説明】
【0073】
1 レーザ光源、2 光分岐スプリッタ、3 光分岐スプリッタアレイ、4 光位相変調器、5 光増幅器、6 RF信号発振器、7 光周波数シフタ、8 光合波分岐素子(ビームスプリッタ)、9 コリメータレンズ、10 光合波分岐素子、11 位相誤差検出回路、12 波面センサ(角度検出器)、13 位相誤差検出回路、14 位相制御回路、15 コリメータレンズ、16 周波数分離回路、17 オフセット位相出力回路、18 移相器、19 光分岐スプリッタアレイ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一周波数の基準光をサブアレイに分岐しアレイごとに光増幅後、アレイ間の光位相誤差を検出帰還して出力をコヒーレント加算する高出力レーザ装置において、
光増幅後の各アレイ間の位相誤差を第1の位相誤差として検出する第1の位相誤差検出手段と、
空間伝播後の波面検波を行うことで波面の角度に応じた位置情報を生成する波面センサと、
前記波面センサにより生成された前記位置情報に基づいて空間伝播後の位相誤差を第2の位相誤差として検出する第2の位相誤差検出手段と、
前記第1の位相誤差および前記第2の位相誤差を入力し、前記第1の位相誤差を補償する第1のフィードバック信号、および前記第2の位相誤差を補償する第2のフィードバック信号を算出するとともに、前記第1の位相誤差および前記第2の位相誤差の値と、所定閾値との比較結果に基づいて前記第1のフィードバック信号と前記第2のフィードバック信号とを切り替え選択し、選択後のフィードバック信号を出力する位相制御手段と、
前記位相制御手段から出力される前記選択後のフィードバック信号に応答し位相誤差の補償を行う光位相変調手段と
を有することを特徴とする高出力レーザ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の高出力レーザ装置において、
前記波面センサによる波面検波用として、前記基準光をコリメートした平行光を出力するコリメート手段をさらに有し、
前記波面センサは、前記コリメート手段から出力された前記平行光を用いて、ヘテロダイン検波またはホモダイン検波を行うことで、前記位置情報を生成する
ことを特徴とする高出力レーザ装置。
【請求項3】
請求項2に記載の高出力レーザ装置において、
前記波面センサにより前記ヘテロダイン検波または前記ホモダイン検波を行うことで生成された前記位置情報の中から、目標物からの反射光による位置情報を抽出し、抽出した位置情報を前記第2の位相誤差検出手段に対して出力する周波数分離手段をさらに有する
ことを特徴とする高出力レーザ装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の高出力レーザ装置において、
位相補償後の目標物における各アレイ間の位相に対する任意のオフセット位相を前記位相制御手段に対して出力するオフセット位相出力手段をさらに有し、
前記位相制御手段は、前記オフセット位相出力手段から出力された前記オフセット位相を考慮して、前記第1のフィードバック信号および前記第2のフィードバック信号を算出し、目標物上における波面を制御する
ことを特徴とする高出力レーザ装置。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の高出力レーザ装置において、
前記第2の位相誤差信号と基準信号を入力し、前記前記第2の位相誤差信号をオフセット位相として前記基準信号をオフセットし、オフセット後の基準信号を前記位相制御回路に対して出力する移相手段をさらに有し、
前記位相制御手段は、前記移相手段から出力された前記オフセット後の基準信号を補償するように前記第2のフィードバック信号を算出する
ことを特徴とする高出力レーザ装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の高出力レーザ装置において、
前記基準光をアレイ状の参照光に分岐する光分岐手段をさらに有し、
前記第1の位相誤差検出手段は、前記光分岐手段により分岐された前記アレイ状の参照光に基づいて、前記第1の位相誤差を検出する
ことを特徴とする高出力レーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−4311(P2012−4311A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137538(P2010−137538)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】