説明

高分子アクチュエータ

【課題】ゲルや力点接合部における破断が抑制され、力学的エネルギーを効率よく取り出すことが可能な高分子アクチュエータを提供する。
【解決手段】刺激応答性ハイドロゲル1の一部が、少なくとも二層以上が積層された構造を有する外殻2に埋設接合されており、外殻2を構成する層のうちの、刺激応答性ハイドロゲル1と接合している埋設接合部内層3を構成する材料のヤング率が、その他の層(埋設接合部外層4)を構成する材料のヤング率よりも低く、かつ、刺激応答性ハイドロゲル1のヤング率以下であるものとした高分子アクチュエータ10を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺激応答性高強度ハイドロゲルを用いた高分子アクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、介護支援、危険作業、エンタテインメント等の様々な分野においてロボットの実用化が注目されている。これらの用途に適用されるロボットは、動物のように多くの関節(可動部)を有し、複雑な動作を可能とすることが要求される。
【0003】
可動部を駆動するアクチュエータとして、従来においては磁気回転モーターが用いられていたが、構成材料が金属のために重量が大きくなるという欠点を有している。可動部を動作させる際にはアクチュエータ重量が負荷となるため、重量の大きいアクチュエータを用いると大出力が必要となり、一方において大出力のアクチュエータは、大型、大重量になるという問題も生じる。
また、磁気回転モーターを用いる場合には、必要な回転数、トルクに調整するための減速器が必要となり、この減速器に用いられるギヤは磨耗により徐々に性能が低下してしまい、長期に亘って信頼性を確保することが困難であるという問題もある。
低速回転で高トルクが得られる超音波モーターは減速器が不要であるが、これも金属材料で構成されるため重量が大きくなり、上記と同様の問題を生じる。
【0004】
上述したような問題に鑑み、近年においては、軽量かつ柔軟性に富んだ高分子材料で構成される高分子アクチュエータが注目され始めている。
高分子アクチュエータとしては、例えばポリフッ化ビニリデン等を用いた高分子圧電素子、電子導電性高分子等を用いた導電性高分子アクチュエータ、及び高分子ゲル等を用いたゲルアクチュエータ等が知られている。
【0005】
上記ゲルアクチュエータのうち、特に水膨潤高分子ゲルを用いる高分子ハイドロゲルアクチュエータは、高分子ハイドロゲルがその周囲の温度やイオン強度やpHといった環境に応答して体積変化することを利用したものである。その変位量は30〜50%と大きく、生体骨格筋に匹敵する性能を発揮するものである。
【0006】
しかしながら、体積変化を温度に依存させる場合には、加熱、冷却ともに高速制御が困難である。
またイオン濃度に依存させる場合には、高分子ハイドロゲルの周囲に電界液を配置して、制御の際にはポンプ等を用いて強制交換する等の作業が必要になり、これに用いる電解液を蓄えるタンクも必要となることから、小型軽量なシステムとしては不向きである。
【0007】
一方、pH応答性の高分子ハイドロゲルを適用する場合は、pHは周囲溶液の交換によって制御できる他、電気化学反応を用いて変化させることも可能である。
すなわち、周囲を電解質水溶液とし、かかる水溶液中に配設した電極間に電圧を印加すると、電極反応による水素イオンや水酸化物イオンの消費が生じたり、あるいは電極表面の電気二重層形成に伴う濃度勾配を生じさせたりすることができ、電極近傍のpHを変化させることが可能である。この現象を利用することにより、pH応答性ハイドロゲルを電気により制御、駆動することができる。
特に、電極をハイドロゲル内部に埋め込み、用いるハイドロゲルを陽極に酸性高分子ゲル、陰極に塩基性高分子ゲル、というように対にすることで、電機制御、電機駆動で生体骨格筋同様の伸縮動作が得られることが知られている(例えば、下記特許文献1参照。)。
【0008】
【特許文献1】特開2004−188523号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、刺激応答性ハイドロゲルの膨張及び収縮を利用してアクチュエータを構成する場合、刺激応答性ハイドロゲルの膨張及び収縮から生じる力学的エネルギーを動作機械の力点へと効率的に受け渡すことが重要となる。
【0010】
しかしながら、動作機械の力点に、刺激応答性ハイドロゲルを直接、汎用エポキシ樹脂等の硬い接着剤を用いて接合した場合、接合箇所近傍の刺激応答性ハイドロゲルは、接合箇所から受ける抗力により、膨張及び収縮することができず、膨張及び収縮可能な部分との間に内部応力や内部歪が蓄積してしまい、最悪の場合には刺激応答性ハイドロゲルが破断してしまう。
【0011】
上述したような問題点に鑑みて、接着剤として弾力性を有する材料を適用し接合した場合、内部応力や内部歪の蓄積は低減化できるものの、接着剤部分の弾力性により、刺激応答性ハイドロゲルが発生する力学的エネルギーを動作機械の力点へと受け渡す際に損失や遅延を生じたりする他、接着剤側が破断してしまうおそれもある。
【0012】
そこで、本発明においては、上述したような従来技術の課題に鑑み、刺激応答性ハイドロゲルや力点接合部の破断がなく、力学的エネルギーを効率よく取り出すことが可能な高分子アクチュエータを提供することとした。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明においては、水分を吸収することにより膨潤してゲル化し、刺激により膨潤度及び体積が変化する刺激応答性ハイドロゲルを具備する高分子アクチュエータにおいて、刺激応答性ハイドロゲルの一部が、少なくとも二層以上が積層された構造を有する外殻に埋設接合されており、外殻を構成する層のうちの、刺激応答性ハイドロゲルと接合している内層を構成する材料のヤング率が、その他の層を構成する材料のヤング率よりも低く、かつ、刺激応答性ハイドロゲルのヤング率以下であるものとする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、刺激応答性ハイドロゲルの一部を複層構造を有する外殻に埋設接合し、ハイドロゲルと接合している外殻の内層のヤング率を、その他の層のヤング率よりも低いものとし、かつ刺激応答性ハイドロゲルのヤング率以下としたことにより、ハイドロゲルと接合している内層の材料が、弾性変形によって、接合部の刺激応答性ハイドロゲルの膨張/収縮を許容することとなり、外殻を構成するその他の層の材料が刺激応答性ハイドロゲルと接合している内層の材料の破断を抑制するように機能するため、刺激応答性ハイドロゲルや力点接合部の破断が回避でき、力学的エネルギーを効率よく取り出すことが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の高分子アクチュエータの具体的な実施形態について、図を参照して説明するが、本発明は、以下に示す例に限定されるものではない。
【0016】
本発明の高分子アクチュエータは、刺激により膨潤度及び体積が変化する刺激応答性ハイドロゲルを具備するものであり、前記刺激応答性ハイドロゲルの一部が、少なくとも二層以上の複数層が積層された構造を有する外殻に埋設接合されており、外殻を構成する層のうちの、刺激応答性ハイドロゲルと接合している内層を構成する材料のヤング率が、その他の層を構成する材料のヤング率よりも低く、かつ、刺激応答性ハイドロゲルのヤング率以下であるものとする。
【0017】
以下においては、本発明の高分子アクチュエータの好適な例について、図を参照して説明するが、本発明は、以下の例に限定されるものではない。
図1に、本発明の高分子アクチュエータ1の概略構成図を示す。
【0018】
図1の高分子アクチュエータ10においては、いわゆる長尺形状を有する刺激応答性ハイドロゲル1の両端部が、外殻2に埋設接合されている。
なお、高分子アクチュエータ10の形状は、棒状、柱状、短冊状等のいずれであってもよい。
この高分子アクチュエータ10の埋設接合部11に存する外殻2は、埋設接合部内層3と埋設接合部外層4より構成される二層の積層構造となっている。但し本発明においてはこの限りでなく、三層以上の多層構造であってもよい。
以下、高分子アクチュエータ10を構成する各部位について説明する。
【0019】
刺激応答性ハイドロゲル1は、温度、イオン濃度等の、周囲の環境に応答して膨潤度が変化する、いわゆる刺激応答性ハイドロゲル材料であるものとする。
特に、イオン濃度は、周囲に所定の溶液を配置し、これを交換したり、電気化学反応を用いて変化させたりすることにより容易に制御でき、具体的には、電源と制御回路を用いることにより高速制御も可能であることから好適である。
【0020】
イオン濃度に応答して膨潤度が変化する刺激応答性ハイドロゲルの材料としては、例えば、分子内にカルボン酸、リン酸、スルホン酸、1級アミン、2級アミン、3級アミン、4級アンモニウム等のイオン性官能基を有する高分子が挙げられる。
具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、マレイン酸、メタクリロイロキシエチルリン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルピリジン、ビニルアニリン、ビニルイミダゾール、アミノエチルアクリレート、メチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、エチルアミノエチルアクリレート、エチルメチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、アミノエチルメタクリレート、メチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、エチルアミノエチルメタクリレート、エチルメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、アミノプロピルアクリレート、メチルアミノプロピルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート、エチルアミノプロピルアクリレート、エチルメチルアミノプロピルアクリレート、ジエチルアミノプロピルアクリレート、アミノプロピルメタクリレート、メチルアミノプロピルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリレート、エチルアミノプロピルメタクリレート、エチルメチルアミノプロピルメタクリレート、ジエチルアミノプロピルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、アクリロイロキシエチルトリメチルアンモニウム塩等の重合体が挙げられる。
上記分子内、あるいは分子間には、必要に応じて架橋を形成してもよく、上記各種材料を単独で用いてもよく、複数種の共重合体、あるいは混合物としてもよい。
また、補強剤として非水溶性高分子を添加してもよい。
【0021】
次に、上記刺激応答性ハイドロゲルが埋設接合される外殻2について説明する。
外殻2は、例えば所定の高分子、セラミック、金属等の従来公知の構造材料により形成することができる。
外殻2は、二層以上の複層構造であるものとし、外殻2を構成する複数層のうちの、内層側材料のヤング率が、その他の層の材料のヤング率よりも低く、かつ刺激応答性ハイドロゲル1のヤング率以下であるものとする。
例えば図1に示すように、外殻2が二層構造場合、刺激応答性ハイドロゲル1と接合している埋設接合部内層3のヤング率E1と、埋設接合部外層4のヤング率E2と、刺激応答性ハイドロゲルのヤング率E3との間には、E2>E1≦E3の関係が成立する。
【0022】
外殻2は、三層以上の複層構造としてもよく、かかる場合には、刺激応答性ハイドロゲル1と接合する最内層の埋設接合部内層3には刺激応答性ハイドロゲルよりも低いヤング率の材料を用い、それ以外の層は、外側に向かうほど高いヤング率となるように材料を選択する。
【0023】
刺激応答性ハイドロゲル1は、水、あるいは所定の溶質を溶解させた水溶液中において膨張/収縮動作を行うものであるから、刺激応答性ハイドロゲルの材料としては、水に対する機械的物性の安定性が高く、水溶性、吸水性、水膨潤性の低い材料が好適である。
また、刺激応答性ハイドロゲル1と、外殻2を構成する最内層の埋設接合部内層3との接合部に滑りが生じると、高分子アクチュエータ10として、充分な力や変位を取り出すことができなくなることから、少なくとも最内層は、接着性、粘着性の高い材料とすることが好適である。
【0024】
但し、埋設接合部内層3のヤング率E1が低すぎると、埋設接合部内層3が弾性変形することにより、刺激応答性ハイドロゲル1の膨順した際の力、及び変位が、吸収されてしまうため、埋設接合部内層3のヤング率E1は、刺激応答性ハイドロゲル1のヤング率に対して10〜100%の範囲とすることが好適である。
【0025】
図1に示すような、長尺形状の刺激応答性ハイドロゲル1を適用し、長尺方向寸法変化を伸縮変位として利用する場合について説明する。
例えば、刺激応答性ハイドロゲル1内に所定の電極を内設する。
電極は所定の電源に接続されるが、これらを電気的に接続する導通部分は、外殻2内に埋設した構成としてもよい。また、かかる導通部分に金属線を用いるとき、金属線を絶縁被覆しなければ電極へと伝達すべき電流、電圧が損失してしまう恐れがあるが、金属線を外殻2内へ埋設することにより、別途絶縁被覆することが不要となる。
また更には、金属線を外殻2内へ埋設することにより、金属線が刺激応答性ハイドロゲル1が膨張や収縮をする際に、刺激応答性ハイドロゲル1と接触したり、まとわり付いたりすることを回避でき、相互の損傷を効果的に防止できる。
【0026】
上述したように、長尺形状の刺激応答性ハイドロゲル1の端部に、二層以上の、ヤング率についての特定を行った外殻2を設置したことにより、刺激応答性ハイドロゲル1の長尺方向と垂直方向への膨張/収縮の力が、外殻2の最内層の材料で吸収され、更にはヤング率の高い材料よりなる埋設接合部外層4が、埋設接合部内層3の材料の変形を抑制するので、力点接合部の破断が効果的に抑制でき、伸縮変位を効率良く取り出すことができる。
また外殻2は、アクチュエータの伸縮時に体積変化しないため、生体骨格筋における腱のように、動作機械の力点へ直接接合することができる。
【実施例】
【0027】
本発明に基づく高分子アクチュエータの具体的なサンプルを作製し、動作させた実施例について、以下説明する。
【0028】
〔実施例〕
この例においては、図2に示すような構成の高分子アクチュエータ20を作製した。
先ず、非水溶媒としてDMF(ジメチルホルムアミド)を用い、DMF5mlに、刺激応答性高分子の単量体として、アクリル酸(AA)1ml、架橋剤としてN,N’−メチレンビスアクリルアミド(BIS)0.1g、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.01g、非水溶性高分子として分子量27万のポリフッ化ビニリデン(PVdF)0.712gを溶解させ、オルガノゲル前駆体溶液を得た。
次に、上記のようにして得たオルガノゲル前駆体溶液を、内径1.5mmのガラス管内に注入し、ガラス管両端をゴム栓にて封じて60℃に加温することにより、前駆体溶液のゲル化を行った。
ゲル化後、ガラス管からゴム栓を取り外し、ガラス管ごとオルガノゲルを60℃加熱減圧乾燥してDMFを除去し、棒状乾燥ゲルを得た。
次に、硬化前の柔軟性エポキシ樹脂を満たした内経1.5mmで、片末端を熱融着で封じた低密度ポリエチレン(LDPE)管を用意する。
次に、上記のようにして得た棒状乾燥ゲルの両末端を、それぞれ上記管内に挿入して柔軟性エポキシ樹脂を硬化させた。
上記操作により、両末端にLDPE管が接合された棒状乾燥ゲルが得られ、これをイオン交換水中に浸漬して水膨潤させ、さらにイオン交換水を用いて繰り返し洗浄を行い、最終的に、埋設接合部内層として柔軟性エポキシ樹脂層23、埋設接合部外層としてLDPE層24の二層構造の外殻22を両末端に有する棒状のpH応答性ハイドロゲル21が得られた。
適用した材料のヤング率を測定したところ、pH応答性ハイドロゲル(E3):20MPa、柔軟性エポキシ樹脂(E1):15MPa、LDPE(E2):1GPaであった。
すなわち、E2>E1≦E3の関係が成立する。
【0029】
上述のようにして作製した、棒状pH応答性ハイドロゲルの両末端に柔軟性エポキシ樹脂層23と、LDPE層24の二層構造の外殻22を具備する高分子アクチュエータ20を、50mN−NaOH水溶液に浸漬して膨張させ、次に50mN−HClに浸漬して収縮させる操作を繰り返したところ、pH応答性ハイドロゲル、柔軟性エポキシ樹脂、LDPEのいずれも破断することなく、二層外殻との接合を保ってpH応答性ハイドロゲルが、良好な状態で伸縮動作を行うことが確かめられた。
【0030】
〔比較例1〕
この例においては、図3に示すような構成の高分子アクチュエータ30を作製した。
上記実施例と同様の工程により、棒状のpH応答性ハイドロゲル21を得た。
次に、硬化前の柔軟性エポキシ樹脂を満たした内経1.5mmで、片末端を熱融着で封じた低密度ポリエチレン(LDPE)管を用意した。
次に、上記のようにして得た棒状乾燥ゲルの両末端を、それぞれ上記管内に挿入して柔軟性エポキシ樹脂を硬化させた。
柔軟性エポキシ樹脂硬化後、LDPE管のみを切除して両末端に柔軟性エポキシ樹脂が接合された棒状乾燥ゲルとした。
これをイオン交換水中に浸漬して水膨潤させ、さらにイオン交換水で繰り返し洗浄することにより、柔軟性エポキシ樹脂層23の単層構成の外殻22を両端に具備する棒状pH応答性ハイドロゲル21が得られた。
適用した材料のヤング率を測定したところ、pH応答性ハイドロゲル:20MPa、柔軟性エポキシ樹脂層:15MPaであった。
【0031】
上記柔軟性エポキシ樹脂層23の単層構成の外殻22を両末端に具備する棒状pH応答性ハイドロゲルを、50mN−NaOH水溶液に浸漬して膨張させ、次に50mN−HClに浸漬して収縮させる操作を繰り返したところ、pH応答性ハイドロゲル膨張時に、柔軟性エポキシ樹脂層23が亀裂破断してしまい、pH応答性ハイドロゲルから分離してしまった。
【0032】
〔比較例2〕
この例においては、図4に示すような構成の高分子アクチュエータ40を作製した。
上記実施例と同様の工程により、棒状のpH応答性ハイドロゲル21を得た。
次に、硬化前のエポキシ樹脂を満たした内経1.5mmで、片末端を熱融着で封じた低密度ポリエチレン(LDPE)管を用意した。
次に、上記のようにして得た棒状乾燥ゲルの両末端を、それぞれ上記管内に挿入してエポキシ樹脂を硬化させた。
エポキシ樹脂硬化後、LDPE管のみを切除して両末端にエポキシ樹脂が接合された棒状乾燥ゲルとした。
これをイオン交換水中に浸漬して水膨潤させ、さらにイオン交換水で繰り返し洗浄することにより、エポキシ樹脂層25の単層構成の外殻22を両端に具備する棒状pH応答性ハイドロゲル21が得られた。
適用した材料のヤング率を測定したところ、pH応答性ハイドロゲル:20MPa、エポキシ樹脂層:2GPaであった。
【0033】
上記エポキシ樹脂層25の単層構成の外殻22を両端に具備する棒状pH応答性ハイドロゲルを、50mN−NaOH水溶液に浸漬して膨張させ、次に50mN−HClに浸漬して収縮させる操作を繰り返したところ、pH応答性ハイドロゲル膨張時に、エポキシ樹脂との埋設境界部付近のpH応答性ハイドロゲル21が亀裂破断してしまった。
【0034】
実施例の結果から明らかなように、刺激応答性ハイドロゲルと接合している外殻22の埋設接合部内層23のヤング率E1と、埋設接合部外層24のヤング率E2と、刺激応答性ハイドロゲルのヤング率E3との間において、E2>E1≦E3の関係が成立するものとすることにより、刺激応答性ハイドロゲル21と接合している内層23の材料が弾性変形により、接合部の刺激応答性ハイドロゲル21の膨張/収縮を許容し、かつ外層24が、刺激応答性ハイドロゲル21と接合している内層23の材料の破断を抑制するため、刺激応答性ハイドロゲル21や力点接合部において破断が生じず、力学的エネルギーを効率良く取り出すことが可能となった。
他方、比較例1においては、刺激応答性ハイドロゲル21と接合している柔軟性エポキシ樹脂層23の弾性変形により、接合部の刺激応答性ハイドロゲル21の膨張/収縮が許容されるが、かかる柔軟性エポキシ樹脂23の変形を抑制する外層が存在しないので、柔軟性エポキシ樹脂層23が亀裂破断してしまった。
また、比較例2においては、刺激応答性ハイドロゲル21と接合しているエポキシ樹脂層25のヤング率が高いため、接合部の刺激応答性ハイドロゲル21の膨張/収縮が許容されず、pH応答性ハイドロゲル21が膨張する際に亀裂破断してしまった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の高分子アクチュエータの概略構成図を示す。
【図2】実施例の高分子アクチュエータの概略構成図を示す。
【図3】比較例1の高分子アクチュエータの概略構成図を示す。
【図4】比較例2の高分子アクチュエータの概略構成図を示す。
【符号の説明】
【0036】
1……刺激応答性ハイドロゲル、2,22……外殻、3……埋設接合部内層、4……埋設接合部外層、10……高分子アクチュエータ、11……埋設接合部、20,30,40……高分子アクチュエータ、21……pH応答性ハイドロゲル、23……柔軟性エポキシ樹脂層、24……低密度ポリエチレン(LDPE)層、25……エポキシ樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分を吸収することにより膨潤してゲル化し、刺激により膨潤度及び体積が変化する刺激応答性ハイドロゲルを具備する高分子アクチュエータであって、
前記刺激応答性ハイドロゲルの一部が、少なくとも二層以上が積層された構造を有する外殻に埋設接合されており、
前記外殻を構成する層のうちの、前記刺激応答性ハイドロゲルと接合している内層を構成する材料のヤング率が、その他の層を構成する材料のヤング率よりも低く、かつ、前記刺激応答性ハイドロゲルのヤング率以下であることを特徴とする高分子アクチュエータ。
【請求項2】
前記刺激応答性ハイドロゲルが、長尺形状であるものとし、
前記刺激応答性ハイドロゲルの長尺方向における両端部が、前記外殻に埋設接合されていることを特徴とする請求項1に記載の高分子アクチュエータ。
【請求項3】
前記刺激応答性ハイドロゲル内に、当該刺激応答性ハイドロゲルに対して刺激を発生する電極が内設されており、
前記電極と、当該電極に電機を送る電源とを電気的接続する導通部分が、前記外殻に埋設されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の高分子アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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