説明

高分子樹脂成形体およびその製造方法

【課題】樹脂本来の物性の低下がなく、高い導電性を有する高分子樹脂成形体を提供する。
【解決手段】酸化チタンを表面に分散担持した炭素材料を含有する高分子樹脂成形体であって、表面の電気抵抗が104Ω/□以下であることを特徴とする高分子樹脂成形体。
高分子樹脂成形体の最表面から10nm〜10μmの範囲に炭素材料が露出していることを特徴とする請求項1に記載の高分子樹脂成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止性や導電性に優れ、かつ光触媒作用を有する高分子樹脂成形体ならびにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子樹脂材料は加工の自由度が高く、柔軟性に優れるため、様々な分野に応用されている。特に近年では樹脂に導電性を付与することによって帯電防止性を持つフィルムや各種基板材料等の様々な応用が期待されている。
導電性樹脂材料として、例えば特許文献1に開示されているように、ポリアニリンなどの導電性高分子が提案されている。このような導電性樹脂は、耐熱性等の安定性が悪い。また、一般にポリアニリンやポリアセチレン等の導電性樹脂は不溶性、不融性であるため加工性に欠け、大型部材や汎用の樹脂部材として応用するには適さない。
【0003】
一方、樹脂に導電性を付与するための手段として、導電性を持つ金属粉末や炭素材料と樹脂との複合化が提案されている。例えば、特許文献2に開示されているように、表面をプラズマ処理したカーボンナノチューブを樹脂に添加して、高い導電性を有する成形物を与える樹脂成形体が開示されている。
しかしながら、高い導電性を付与するためには、炭素材料や金属粉末の導電性材料の添加量を多くする必要があり、導電性材料の添加量を多くすると、樹脂の成形加工性や、成形物の各種物性が損なわれるという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開2004-263110号公報
【特許文献2】特開2007-77370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、樹脂本来の物性の低下がなく、高い導電性を有し、かつ光触媒能を有する高分子樹脂成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、酸化チタンが表面に分散担持された炭素材料を含有する高分子樹脂成形体に酸化チタンの励起光(紫外線)を照射すると、酸化チタンの樹脂分解能と炭素材料の紫外線遮蔽能が巧みに機能し合い、表面近傍の樹脂だけが分解され、その結果、表面近傍に導電性に優れた炭素材料が露出し、表面抵抗の極めて小さい樹脂成形体が形成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、この出願によれば、以下の発明が提供される。
〈1〉酸化チタンを表面に分散担持した炭素材料を含有する高分子樹脂成形体であって、表面の電気抵抗が104Ω/□以下であることを特徴とする高分子樹脂成形体。
〈2〉高分子樹脂成形体の最表面から10nm〜10μmの範囲に炭素材料が露出していることを特徴とする請求項1に記載の高分子樹脂成形体。
〈3〉炭素材料がカーボンナノチューブ、カーボンブラック、フラーレン、活性炭、グラファイト、ダイヤモンドからなる群より選択される少なくとも一つを含むことを特徴とする〈1〉又は〈2〉に記載の高分子樹脂成形体。
〈4〉炭素材料の割合が前記樹脂成形体の重量に対して0.01〜30wt%の範囲であることを特徴とする〈1〉〜〈3〉のいずれかに記載の高分子樹脂成形体。
〈5〉酸化チタン粒子が結晶性酸化チタンであることを特徴とする〈1〉〜〈4〉のいずれかに記載の高分子樹脂成形体
〈6〉炭素材料の表面における酸化チタン粒子の割合が、炭素材料に対して0.1〜50wt%であることを特徴とする〈1〉〜〈5〉に記載の高分子樹脂成形体。
〈7〉表面に酸化チタンが分散担持された炭素材料を含有する高分子樹脂組成物。
〈8〉〈7〉に記載の高分子樹脂組成物の成形体に酸化チタンの励起光を照射することを特徴とする〈1〉〜〈6〉のいずれかに記載の高分子樹脂成形体の製造方法。
〈9〉炭素材料として表面が酸処理された炭素材料の表面に酸化チタン粒子が分散担持された炭素材料を用いることを特徴とする〈8〉に記載の高分子樹脂成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の高分子樹脂成形体は、高分子材料と、酸化チタン粒子を表面に分散している炭素材料を含有する高分子組成物からなり、かつ前記樹脂成形体の表面近傍において前記炭素材料が露出しているため、高い導電性が達成される。また、前記炭素材料が露出している範囲は表面から10nm〜10μmと小さく、樹脂本来の機械的物性を損なうことは無い。本発明の樹脂成形体の表面抵抗は104Ω/□以下と低く、帯電防止剤、各種電子機材等への応用が期待できる。また、本発明の樹脂成形体は製品として屋外等の紫外線に暴露される環境で使用する際でも、紫外線が樹脂成形体の内部に届くことなく、劣化しない。また、本発明の樹脂成形体の表面には光触媒性があるため、抗菌、防汚、防曇、セルフクリーニング特性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の高分子樹脂成形体は、高分子材料と、酸化チタンを表面に分散担持した炭素材料を含有し、その表面の電気抵抗が104Ω/□以下であることを特徴としている。
本発明の高分子樹脂成形体の好ましい態様は、表面近傍において前記炭素材料が露出しており、その範囲が、最表面から10nm〜10μmの範囲のものである。本発明の高分子樹脂成形体の表面には凹凸が存在するが、ここで言う最表面とは、凸部を形成する炭素材料の先端を指す。本発明の高分子樹脂成形体の態様を図1(c)に示すが、本発明の高分子樹脂成形体における炭素材料が露出している層の厚みは、凸部の先端である炭素材料から樹脂が存在する部分までの範囲となる。
本発明の高分子樹脂成形体の表面近傍には炭素材料が露出しているため、高い表面導電性を有し、その表面の電気抵抗は104Ω/□以下と非常に低い。本発明の高分子樹脂成形体の更に好ましい態様は、表面の電気抵抗は102Ω/□以下のものである。
本発明の高分子樹脂成形体は上記のようにその表面抵抗は大変小さいため、帯電防止部材や各種電子機材、タッチパネル材料等様々な用途へ応用することができる。
【0009】
本発明の高分子樹脂成形体について、まずその組成について説明する。
本発明の樹脂成形体は、少なくとも高分子材料と酸化チタンを分散担持する炭素材料を含有する高分子組成物からなる。
高分子材料と酸化チタンを分散担持する炭素材料の割合に特に制限はないが、酸化チタン粒子を表面に分散担持している炭素材料が0.01〜30wt%の範囲で高分子材料と混合されていることが好ましい。
酸化チタン粒子を表面に分散している炭素材料の割合が0.01wt%よりも低い場合には十分な電気伝導性が得られず、表面から深い部分にある樹脂における十分な紫外線遮蔽効果が得られない。一方、前記酸化チタン粒子を表面に分散している炭素材料の割合が30wt%よりも高い場合は十分な機械的強度が得られない。
【0010】
高分子材料としては、特に制約は無く、各種高分子材料を使用することができる。
すなわち、後記するように、本発明で用いる酸化チタン光触媒の荷電子帯のエネルギーレベルは深く、正孔の酸化力は大変強いため、酸化チタン光触媒はほとんどの高分子を分解し無機化することができるからである。
このような高分子材料としては、ポリプロピレン,塩化ビニル樹脂、ポリエチレン,ポリスチレン,ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、EVA樹脂,メタクリル樹脂,ポリアミド、シリコーン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリアセタール、塩化ビニリデン樹脂、ポリブテンのよう熱可塑性樹脂の他、ABS樹脂、ユリア樹脂、フェノール樹脂、ウレタンフォーム、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、石油樹脂,アルキド樹脂、AS樹脂,メラミン樹脂、変性ポリフェニレンエーテルなどの熱硬化樹脂などを挙げることができる。
【0011】
また、酸化チタンを表面に分散担持した炭素材料としては、それ自体公知のものがいずれも使用できる。
この場合、酸化チタンは結晶性を持つものが好ましい。このような結晶性酸化チタンとして、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型酸化チタン等を挙げることができる。
また、本発明に係る酸化チタンの光触媒活性や抗菌活性を高めるため、前記酸化チタン粒子の表面にPt、Pd、Ag、Cu、Ce、Cr、Fe等からなる群より選択される少なくとも一つの貴金属やイオンを担持しても構わない。また、前記酸化チタンに可視光での光触媒活性を付与するため、前記酸化チタン粒子の結晶中に窒素、硫黄、炭素、フッ素、ホウ素からなる群より選択される少なくとも一つのアニオンをドープしても構わない。前記酸化チタンにアニオンをドープした場合、励起光として可視光を利用することができる。
【0012】
炭素材料としては、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、フラーレン、活性炭、グラファイト、ダイヤモンドなどを用いることができる。
特に好ましい態様として、カーボンナノチューブを用いることができ、カーボンナノチューブを用いた場合、機械的強度に優れ、高い導電性を持つ。
【0013】
また前記酸化チタンを表面に分散担持した炭素材料は、それ自体公知の方法で製造することができ、たとえば、非特許文献1に開示されているように、多層カーボンナノチューブ表面を酸水溶液で処理後、チタンテトライソプロポキシド溶液中に浸漬し、その後加熱処理することによって製造することができる。
【0014】
【非特許文献1】Ricardo A. Guirado-Lopez et al. J. Phys. Chem. C 2007, 111,57.
【0015】
かかる炭素材料における酸化チタン粒子の分散担持割合に特に制限はないが、酸化チタン粒子の割合が、炭素材料に対して0.1〜50wt%とすることが好ましい。前記炭素材料の表面における酸化チタン粒子の割合が0.1wt%よりも低い場合、光触媒活性が不十分となる。一方、酸化チタンは絶縁体のため、前記炭素材料の表面における酸化チタン粒子の割合が50wt%よりも高い場合に導電性が低下する。
【0016】
また、本発明の高分子組成物には、その他の各種添加剤、例えば、安定剤、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、滑剤、充填剤、着色剤、難燃剤などの各種添加剤を必要に応じて配合することができる。
【0017】
次に、本発明の高分子樹脂成形体の製造方法について説明する。
本発明の高分子樹脂成形体は、たとえば、前記高分子材料と前記酸化チタン粒子を表面に分散担持した炭素材料を含有する高分子組成物を溶融混練後、たとえば射出成形、押出成形、プレス成形などの適宜な成形加工した高分子樹脂成形体に対して酸化チタンが励起する光照射を行うことによる製造することができる。
この場合、高分子樹脂成形体には、シート、未延伸フィルム、延伸フィルム、丸棒や異形押出品などの押出成形品、繊維、フィラメントなどが包含される。
また、励起光として、例えば、ブラックライト、殺菌ランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀−キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、LED(白色、青、緑、赤)、レーザー光、太陽光等が好適に使用できる。
【0018】
つぎに、このような本発明の製造プロセスおよび得られる高分子樹脂成形体を図1により更に詳細に説明する。
前記高分子材料と前記酸化チタン粒子を表面に分散担持した炭素材料を含有する高分子成形体(図1(a))にたとえば400nm以下の紫外線が照射される光励起により酸化チタンに由来する電子正孔対が生成する。この電子正孔対は表面に接触した高分子材料を直接酸化し、また、同時に前記電子正孔対が水や酸素と反応し活性酸素種を生成する。これらの活性酸素種は酸化チタンの表面から数μmの距離を拡散することができるので、酸化チタンの表面から数μmの範囲にある高分子材料を分解することができる。
したがって、このような紫外線を照射すると表面近傍の高分子を分解することができ、結果として、この範囲の炭素材料が露出することになる(図1(b))。図1(c)に、本発明の高分子樹脂成形体の表面近傍の態様を示すが、樹脂成形体の最表面から10nm〜10μmの範囲に炭素材料が露出している。ここで言う最表面とは、凸部を形成する炭素材料の先端を指す。つまり、本発明の高分子樹脂成形体における炭素材料が露出している層の厚みは、凸部の先端である炭素材料から樹脂が存在する部分までの範囲となる。
炭素材料は紫外線の遮蔽効果をもつため、樹脂成形体の表面から深い部分にある酸化チタン粒子には紫外線が届かない。このため、紫外線の長期的照射による機械的な劣化には至らず、樹脂成形体のごく表面層にある高分子のみを分解する。
このような反応機構により、樹脂成形体の最表面から10nm〜10μmの範囲に炭素材料が露出した新規な樹脂成形体を得ることができる。
【0019】
なお、ここで言う炭素材料の露出とは、完全に露出している必要は無く、表面からの深さが10nm〜10μmの範囲における前記炭素材料の高分子に対する割合が、表面からの深さが10μm以上の深い部分での割合よりも高ければよい。前記樹脂成形体の表面からの深さが10nm〜10μmの範囲においては、高分子の割合が少ないため、この範囲において多孔質性を有していても構わない。前記炭素材料が露出している更に好ましい範囲は、前記樹脂成形体の表面からの深さが100nm〜5μmの範囲である。前記炭素材料が露出している範囲は、破断面の電子顕微鏡観察等から測定することができる。
【0020】
本発明の高分子樹脂成形体は、高分子材料と、酸化チタン粒子を表面に分散している炭素材料を含有する高分子組成物からなり、かつ前記樹脂成形体の表面近傍において前記炭素材料が露出しているため、高い導電性が達成される。また、前記炭素材料が露出している範囲は表面から10nm〜10μmと小さく、樹脂本来の機械的物性を損なうことは無い。本発明の樹脂成形体の表面抵抗は104Ω/□以下と低く、帯電防止剤、各種電子機材等への応用が期待できる。また、本発明の樹脂成形体は製品として屋外等の紫外線に暴露される環境で使用する際でも、紫外線が樹脂成形体の内部に届くことなく、劣化しない。また、本発明の樹脂成形体の表面には光触媒性があるため、抗菌、防汚、防曇、セルフクリーニング特性を有する。
【実施例】
【0021】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらの実施例になんら制限されるものではない。
【0022】
1.結晶性酸化チタンを分散担持したカーボンナノチューブの合成
炭素材料として、直径が20-30 nmの多層カーボンナノチューブ(MWNT)を用い、多層カーボンナノチューブは60wt%の硝酸中で30分間の超音波処理をおこなった。超音波処理後、120℃で12時間の還流処理をおこなった。還流処理後、室温まで冷却し、多層カーボンナノチューブの溶媒が中性となるまで純水で洗浄し、60℃の真空中で乾燥した。
酸処理した多層カーボンナノチューブ20mgを20mLの純水中に分散させ、更に、20mLのエタノール、4mLの塩酸(36wt%)を加え、5分間の超音波処理をおこなった。一方で、10mLのチタンテトラブトキシドを40mLの無水エタノールに溶解した液を準備し、前記多層カーボンナノチューブが分散した溶液に攪拌子で混合しながら室温で徐々に添加した。1時間攪拌後、1Lの純水を加えた後、ろ過した。得られたサンプルの溶媒のpHが7になるまで純水で洗浄後、60℃の真空中で乾燥した。得られた粉末を大気中で450℃ ×2時間の加熱処理をおこなった。
得られたカーボンナノチューブの構造を透過型電子顕微鏡で解析した結果を図2に示す。(a)には透過型電子顕微鏡写真、(b)にはEDXによって分析したチタン原子の分布を示す。チタン原子はカーボンナノチューブの表面を覆うことなく分散していることがわかった。
また、粉末X線回折の結果を図3に示す。この結果、カーボンナノチューブの表面に分散した酸化チタンは結晶性のアナターゼ型構造であることが明らかになった。
【0023】
2.樹脂成形体の合成
実施例1で得た結晶性酸化チタン粒子を表面に分散担持したカーボンナノチューブをポリ乳酸(PLLA)が溶解したクロロフォルム溶液に添加し、超音波処理をおこなった。カーボンナノチューブの固形分割合は2.5wt%とした。超音波処理後、得られた溶液をテフロン(登録商標)シート上で大気中にて60℃×24時間乾燥した。その後、温度190℃、4気圧のホットプレスで一分間加工し、厚さ0.1mmのフィルム状樹脂成形体を得た(PLLA/MWNT-g-TiO2)。
比較例として、ポリ乳酸のみ(PLLA)、酸化チタン未修飾のカーボンナノチューブとPLLA混合物(PLLA/MWNT)も同様に作製した。
得られた樹脂成形体にブラックライト(東芝製、20W)を用いて紫外線の照射をおこなった。紫外線照度は紫外線照度計(トプコン製、UVR-2)による計測値で、2.0 mW/cm2となるように設定した。
樹脂成形体に対して紫外線を照射した際の重量変化を図4に示す。この結果、PLLAのみ、PLLA/MWNTは紫外線を照射しても重量が全く減少しなかったが、PLLA/MWNT-g-TiO2において、TiO2の光触媒作用により重量が減少し、照射日数12日後には重量減少がほぼ停止した。紫外線照射初期の重量減少は表面層の高分子の分解に相当する一方、長期間照射した場合にはカーボンナノチューブの紫外線遮蔽効果によって樹脂成形体の内部まで紫外線が届くことは無く、重量減少が停止した。すなわち、本発明の樹脂成形体において光触媒による分解作用が及ぶ範囲はごく表面層であることを示唆している。
一方、PLLA/MWNT-g-TiO2における紫外線照射前後の走査型電子顕微鏡写真を図5に示す。この結果、紫外線の照射を行うことによって表面の高分子が分解し、カーボンナノチューブが露出していることが明らかになった。断面図の結果から、カーボンナノチューブが露出している範囲は表面からの深さが500nm〜2μmの範囲であることが明らかになった。
【0024】
3.電気伝導性の評価
得られた樹脂成形体の表面抵抗率について、高抵抗領域(106 Ω/□以上)ではAdvantest社製の超高抵抗率測定器(R8340)を用い、低抵抗領域(106 Ω/□以下)には三菱化学社製の抵抗率計(ロレスタGP MCP-T600)を用いて測定した。結果を図6に示すが、PLLAの表面抵抗率は、4.78×1015 Ω/□、PLLA/MWNT-g-TiO2に紫外線を照射する前は、2.64×106 Ω/□、PLLA/MWNT-g-TiO2に紫外線を22日照射した後のサンプルは、1.62 Ω/□、であった。これら結果から、PLLA/MWNT-g-TiO2に紫外線を照射することで、表面の電気伝導性が著しく向上することが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明によれば、高分子材料と、酸化チタン粒子を表面に分散している炭素材料からなる樹脂成形体であって、前記樹脂成形体の表面近傍において前記炭素材料が露出し、前記樹脂成形体の表面の電気抵抗が104Ω/□以下であることを特徴とする樹脂成形体を提供することができる。本発明の樹脂成形体は高い電気伝導性を有するため、帯電防止部材、各種電子基材、フィルム材料等、広範な用途へ応用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の高分子樹脂成形体の構造を示す模式図
【図2】本発明に係る炭素材料のTEM像 (a)TEM像、(b)EDXによるTiの分布
【図3】本発明に係る炭素材料のXRDパターン (a)TiOなし、(b)TiOあり
【図4】本発明の高分子樹脂成形体の重量変化を示す図
【図5】本発明の高分子樹脂成形体のSEM像
【図6】本発明の高分子樹脂成形体の表面抵抗率を示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタンを表面に分散担持した炭素材料を含有する高分子樹脂成形体であって、表面の電気抵抗が104Ω/□以下であることを特徴とする高分子樹脂成形体。
【請求項2】
高分子樹脂成形体の最表面から10nm〜10μmの範囲に炭素材料が露出していることを特徴とする請求項1に記載の高分子樹脂成形体。
【請求項3】
炭素材料がカーボンナノチューブ、カーボンブラック、フラーレン、活性炭、グラファイト、ダイヤモンドからなる群より選択される少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の高分子樹脂成形体。
【請求項4】
炭素材料の割合が前記樹脂成形体の重量に対して0.01〜30wt%の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高分子樹脂成形体。
【請求項5】
酸化チタン粒子が結晶性酸化チタンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高分子樹脂成形体。
【請求項6】
前記炭素材料の表面における酸化チタン粒子の割合が、炭素材料に対して0.1〜50wt%であることを特徴とする請求項1〜5に記載の高分子樹脂成形体。
【請求項7】
高分子材料と表面に酸化チタンが分散担持された炭素材料を含有する高分子組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の高分子組成物の成形体に酸化チタンの励起光を照射することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の高分子樹脂成形体の製造方法。
【請求項9】
酸化チタン粒子を炭素材料の表面に分散担持させる前に、炭素材料の表面を酸処理することを特徴とする請求項8に記載の高分子樹脂成形体の製造方法。

【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−161611(P2009−161611A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−340418(P2007−340418)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】