説明

高分子薄膜、パターン基板、磁気記録用パターン媒体及びこれらの製造方法

【課題】柱状相(柱状ミクロドメイン)が膜の貫通方向に配向し連続相中に分布するミクロ相分離構造を有する高分子薄膜及びその製造方法に関し、広範囲で規則配列パターンを有する高分子薄膜を提供する。
【解決手段】連続相と、この連続相を貫通する方向に配向し分布する柱状相と、を備える高分子薄膜において、連続相の成分であるブロック鎖、及び柱状相の成分であるブロック鎖を少なくとも有する第1高分子ブロック共重合体と、連続相の成分であるブロック鎖、及び柱状相の成分であるブロック鎖を少なくとも有し重合度が前記第1高分子ブロック共重合体と異なる第2高分子ブロック共重合体と、が少なくとも配合され、高分子薄膜の膜厚をLとし、隣接する前記柱状相の平均中心間距離をrとした場合、このLとrとが所定の関係式を満たしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続相中に分布する柱状相(柱状ミクロドメイン)が膜の貫通方向に配向するとともに略規則的に配列したミクロ相分離構造を有する高分子薄膜及びその製造方法に関する。また、このミクロ相分離構造の規則配列パターンの凹凸面を表面に有するパターン基板及びその製造方法に関する。さらに、このパターン基板を用いて製造される磁気記録用パターン媒体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子デバイス、エネルギー貯蔵デバイス、センサー等の小型化・高性能化に伴い、数ナノメートル〜数百ナノメートルのサイズの微細な規則配列パターンを基板上に形成する必要性が高まっている。このため、このような微細パターンの構造を高精度でかつ低コストに製造できるプロセスの確立が求められている。
このような微細パターンの加工方法としては、リソグラフィーに代表されるトップダウン的手法、すなわちバルク材料を微細に刻むことにより形状を付与する方法が一般に用いられている。例えば、LSIの製造等の半導体微細加工に用いられる光リソグラフィーはこの代表例である。
【0003】
しかしながら、微細パターンの微細度が高まるに従い、このようなトップダウン的手法の適用は、装置・プロセス両面における困難性が増大する。特に、微細パターンの加工寸法が数十ナノメートルまで微細になると、パターニングに電子線や深紫外線を用いる必要があり、装置に莫大な投資が必要となる。また、マスクを適用した微細パターンの形成が困難になると、直接描画法を適用せざるをえないので、加工スループットが著しく低下してしまう問題を回避することができない。
【0004】
このような状況のもと、物質が自然に構造を形成する現象、いわゆる自己組織化現象を応用したプロセスが注目を集めている。特に高分子ブロック共重合体の自己組織化現象、いわゆるミクロ相分離を応用したプロセスは、簡便な塗布プロセスにより数十ナノメートル〜数百ナノメートルの種々の形状を有する微細な規則構造を形成できる点で、優れたプロセスである。
【0005】
ここで、高分子ブロック共重合体をなす異種の高分子ブロック鎖が互いに混じり合わない(非相溶な)場合、これらの高分子ブロック鎖の相分離(ミクロ相分離)により、特定の規則性を持った微細構造が自己組織化される。
そして、このような自己組織化現象を利用して微細な規則構造を形成した例としては、ポリスチレンとポリブタジエン、ポリスチレンとポリイソプレン、ポリスチレンとポリメチルメタクリレートなどの組み合わせからなる高分子ブロック共重合体薄膜をエッチングマスクとして用い、孔やラインアンドスペースなどの構造を基板上に形成した公知技術が知られている(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照)。
【0006】
ところで、高分子ブロック共重合体のミクロ相分離現象によると、球状や柱状のミクロドメインが連続相中に規則的に配列した構造を有する高分子薄膜を得ることができる。
このようなミクロ相分離構造をエッチングマスク等のパターン基板として利用する場合、連続相中に柱状相が基板に直立する方向(膜の貫通方向)に配向して規則的に配列していることが望ましい。
【0007】
なぜならば、柱状相が基板に直立した構造の場合、球状ミクロドメインが基板表面に規則的に配列した構造に比べて、得られる構造のアスペクト比(基板に並行方向のドメインサイズに対する、基板に直立する方向のドメインサイズの比)が自由に調整できるからである。
【0008】
一方、球状ミクロドメインを有するミクロ相分離構造をエッチングマスク等のパターン基板として利用する場合、得られる構造の最大のアスペクト比は1であるので、基板に直立した柱状相の場合と対比すると、アスペクト比が小さく調節自由度も無いといえる。
【0009】
しかしながら、高分子ブロック共重合体のミクロ相分離現象による柱状相構造は、しばしば膜表面に対して並行に配向した構造を示すものである。
このように、膜表面に対して並行に配向しやすい柱状相を基板に直立する方向(膜の貫通方向)に配向させるための従来方法としては次のようなものが挙げられる。
【0010】
第1の従来方法は、高分子ブロック共重合体の膜に、膜面を貫通する方向に極めて高い電界を印加することにより、柱状相を電界の方向へ配向させ、膜表面に直立した構造を得る方法である(例えば非特許文献3参照)。
第2の従来方法は、基板表面を化学的に修飾し高分子ブロック共重合体の各ブロック鎖に対して等しい親和性を持つように処理して柱状相が基板に直立した構造を得る方法である(例えば非特許文献4参照)。
【0011】
第3の従来方法は、3成分からなる高分子ブロック共重合体からなる薄膜をその厚みが連続的に変化するように製膜する方法である。本方法によれば、連続的に変化する薄膜において、ある厚み領域で柱状相が基板に直立した構造が発現することがあることが知られている(例えば非特許文献5参照)。
【0012】
第4の従来方法は、分離膜(選択透過膜)の技術分野において、互いに非相溶な高分子ブロック鎖からなる高分子ブロック共重合体をミクロ相分離させ、柱状相を選択的に取り除いて細孔とした多孔質膜を形成する技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【非特許文献1】Science 276 (1997)1401
【非特許文献2】Polymer 44 (2003) 6725
【非特許文献3】Macromolecules 24(1991) 6546
【非特許文献4】Macromolecules 32(1999) 5299
【非特許文献5】Physical Review Letters 89(2002) 035501-1
【特許文献1】特開平5−287084号公報 (段落0032)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、前記した第1の従来方法では、高分子ブロック共重合体の膜に高電界を印加するには、膜表面に電極を密着させ非常に狭いギャップ間でこの膜に電圧を印加する必要があるなど特別の工程あるいは設備が必要であった。
また、前記した第2の従来方法では、基板表面を高分子ブロック共重合体の各ブロック鎖に対して等しい親和性を持つように処理するのは一般的に容易でなかった。
さらに、第3の従来の方法においては、薄膜の厚みに勾配を設ける必要があり、基板全面に均一に柱状相が基板に直立した構造を得ることができなかった。
このような点から、これら従来方法を採用して柱状相を膜表面に対して直立させることは現実的でないといった問題があった。
このように、高分子ブロック共重合体のミクロ相分離現象を応用して数十ナノメートル〜数百ナノメートルの微細な規則構造を得る方法は簡便でかつ低コストであるが、柱状相を、膜の貫通方向に配向させることは困難であった。
そして、第4の従来の方法においては、高分子薄膜の連続相中に分布する柱状相の配列の規則性は、狭い範囲でしか得られなかった。
【0014】
本発明は、このような問題を解決することを課題とし、高分子ブロック共重合体のミクロ相分離現象を用いて、柱状相が、膜の貫通方向に配向するとともに広範囲な規則配列パターンを有する高分子薄膜を提供するものである。そして、この規則配列パターンの凹凸面を有するパターン基板の製造方法を提供するものである。さらには、このパターン基板の凹凸面を転写することにより、例えば、記録密度を向上させることができる磁気記録用パターン媒体を量産する技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記した課題を解決するために本発明は、連続相中に柱状相が分布している高分子薄膜において、前記柱状相が前記高分子薄膜を貫通する方向に配向するとともに略規則的に配列してなり、前記連続相の成分であるモノマーa1が重合してなるブロック鎖A1、及び前記柱状相の成分であるモノマーb1が重合してなるブロック鎖B1を少なくとも有する第1高分子ブロック共重合体と、前記連続相の成分であるモノマーa2が重合してなるブロック鎖A2、及び前記柱状相の成分であるモノマーb2が重合してなるブロック鎖B2を少なくとも有し重合度が前記第1高分子ブロック共重合体と異なる第2高分子ブロック共重合体と、が少なくとも配合され、前記高分子薄膜の膜厚をLとし、隣接する前記柱状相の平均中心間距離をrとした場合、次式の関係を満たしていることを特徴とする。
【数3】

【0016】
このような手段から発明が構成されることにより、膜の並行方向に配向する傾向が強い柱状相は、高分子重合体の配合の作用および高分子薄膜中における柱状相のパッキングの作用により、膜の貫通方向に配向することになる。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、高分子ブロック共重合体のミクロ相分離現象を用いて、柱状相が、膜の貫通方向に配向するとともに広範囲において規則配列パターンを有する高分子薄膜を提供することができる。そして、この規則配列パターンの凹凸面を有するパターン基板の製造方法を提供することができる。さらには、アスペクト比が大きくかつ微細な規則配列パターンの凹凸面を備えるエッチングマスク等のパターン基板、記録密度を向上させることができる磁気記録用パターン媒体を量産する技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(高分子薄膜について)
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1(a)の立体断面図に示されるように、本実施形態の高分子薄膜Cは、連続相Aと、柱状ミクロドメイン(以下、柱状相Bという)とからなるミクロ層分離構造を有し、基板20の表面に配置されている。
【0019】
柱状相Bは、連続相A中に分布するとともに、図1(a)中のZ軸方向、すなわち基板20に直立する方向(膜の貫通方向)に配向している。そして、図1(b)に示されるように、柱状相Bは、高分子薄膜Cの水平面(図中XY平面)において、六方最密構造となるように規則配列パターンを形成している。
ここで、高分子薄膜Cの膜厚をLとし、柱状相の隣接するもの同士の平均中心間距離をrとすると、n=1,2,3として、膜厚Lと平均中心間距離rとの間には次式に示す関係が成立している。
なお、高分子薄膜Cの膜厚Lが次式のように規定した範囲内に含まれない場合、高分子薄膜Cは、直立配向を示さない場合がある(図3(b)の比較例、図7(a)(b)の記号C//,C//参照)。
【0020】
【数4】

【0021】
次に、図1(b)を拡大して分子レベルの構造を模式的に表した図2(a)に示されるように、高分子薄膜Cは、第1高分子ブロック共重合体11及び第2高分子ブロック共重合体12が配合されている。
ここで、図2(b)に示されるように、第1高分子ブロック共重合体11はモノマーa1が重合してなるブロック鎖A1と、モノマーb1が重合してなるブロック鎖B1からなる。また、第2高分子ブロック共重合体12はモノマーa2が重合してなるブロック鎖A2と、モノマーb2が重合してなるブロック鎖B2からなる。
【0022】
ここで、モノマーa1は、連続相Aの成分であって、モノマーb1及びモノマーb2よりも、モノマーa2に対して親和性の高い性質を有している。
また、モノマーb1は、柱状相Bの成分であって、モノマーa1及びモノマーa2よりも、モノマーb2に対して親和性の高い性質を有している。
そして、モノマーa2は、連続相Aの成分であって、モノマーb1及びモノマーb2よりも、モノマーa1に対して親和性の高い性質を有している。
また、モノマーb2は、柱状相Bの成分であって、モノマーa1及びモノマーa2よりも、モノマーb1に対して親和性の高い性質を有している。
【0023】
このため、ブロック鎖A1とブロック鎖A2とが相溶し、ブロック鎖B1とブロック鎖B2とが相溶するようになっている。
なお、ブロック鎖A1とブロック鎖A2が同一の化学組成を有してもよい。また、ブロック鎖B1とブロック鎖B2が同一の化学組成であってもよい。また、高分子薄膜Cは、高分子ブロック共重合体11,12以外の成分、例えばこれらのモノマー成分、他の有機質成分、無機質成分を含んでいてもよい。
【0024】
次に、第1高分子ブロック共重合体11及び第2高分子ブロック共重合体12の分子量および配合量について詳述する。以下、第1高分子ブロック共重合体11が主成分であり、第2高分子ブロック共重合体12が副成分として配合されてなるとして説明をする。
【0025】
まず、ブロック鎖B1とブロック鎖B2からなる柱状相Bが、ブロック鎖A1及びブロック鎖A2からなる連続相A中に分散したミクロ相分離構造を得るには、ブロック鎖B1とブロック鎖B2が構成する相が高分子薄膜全体積に占める分率が0.20以上0.35以下となるように第1高分子ブロック共重合体11の分子量、第2高分子ブロック共重合体12の分子量、及び第1高分子ブロック共重合体11と第2高分子ブロック共重合体12の配合量を調整することが好ましい。
【0026】
次に、基板に対して直立した状態で柱状相Bが配向した構造を実現するためには、第1高分子ブロック共重合体11及び第2高分子ブロック共重合体12の合計のうち、第1高分子ブロック共重合体11が占める重量分率が65%以上95%以下となるように配合することが望ましい。
【0027】
ここで、第1高分子ブロック共重合体11と第2高分子ブロック共重合体12とは、互いに重合度が異なるように構成されていることが望ましい。
すなわち、ブロック鎖A1の分子量に対するブロック鎖A2の分子量の比が1.0より大きく、かつ5.0以下となるように、第1高分子ブロック共重合体11及び第2高分子ブロック共重合体12が調整されていることが望ましい。なお、ブロック鎖B1およびブロック鎖B2の分子量については任意でよい。
【0028】
このように、第1高分子ブロック共重合体11と第2高分子ブロック共重合体12の重合度が調整されることにより、高分子ブロック共重合体混合物が柱状相構造を形成した際の系のエネルギーが安定化されるので、後述するようにより広範囲にわたってミクロ相分離構造の規則配列パターンが得られることになる。
なお、第1高分子ブロック共重合体11及び第2高分子ブロック共重合体12の重量分率、並びにブロック鎖A1及びブロック鎖A2の分子量比が前記のように規定した範囲内に含まれない場合、高分子薄膜Cは、広範囲に亘る規則配列パターン及び直立配向を示さない場合がある(図3(c)の比較例、図10(a)(b)参照)。
しかし、前記のように規定した範囲は、一実施例にすぎないので、本発明が保護される範囲は、係る規定範囲に限定されるものではない。
【0029】
また、高分子ブロック共重合体は適切な方法で合成すればよいが、ミクロ相分離構造の規則性を向上するためにはできる限り分子量分布が小さくなるような合成手法、例えばリビング重合法を用いることが適切である。
具体的に、高分子ブロック共重合体に適用することができる高分子を例示する。ここで、ブロック鎖A1がポリスチレンの場合、ブロック鎖A2には、ポリスチレンを適用することができるほか、このブロック鎖A1であるポリスチレンに相溶する高分子であるポリフェニレンエーテル、ポリメチルビニルエーテル、ポリαメチルスチレン、ニトロセルロース等を適用することができる。
【0030】
また、ブロック鎖A1がポリメチルメタクリレートの場合、ブロック鎖A2は、ポリメチルメタクリレートを適用することができるほか、このブロック鎖A1であるポリメチルメタクリレートに相溶する高分子であるスチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフロロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフロロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフロロアセトン共重合体、ビニルフェノール-スチレン共重合体、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体、フッ化ビニリデンホモポリマー等を適用することができる。
【0031】
同様に、ブロック鎖B1、ブロック鎖B2についても上記組み合わせから選択することができる。なお、以上の高分子でも、分子量や濃度、さらに共重合体の場合は組成によっては非相溶になる場合もある。また、温度によっても非相溶になる場合があり、熱処理時の温度においても相溶状態であることが望ましい。
【0032】
なお、上記説明においては第1及び第2高分子ブロック共重合体11,12は、AとBの二種類のブロック鎖の末端が結合してなるAB型の高分子ジブロック共重合体を例とした。
しかし、本実施形態で用いられる高分子ブロック共重合体は、ABA型高分子トリブロック共重合体である場合もある。また、三種以上の高分子ブロック鎖からなるABC型高分子ブロック共重合体である場合もある。さらに、このようにブロック鎖が直列した高分子ブロック共重合体の他、各ブロック鎖が1点で結合したスター型の高分子ブロック共重合体である場合もある。
【0033】
このような、高分子ブロック共重合体としては、例えばポリブタジエン−ポリジメチルシロキサン、ポリブタジエン−4−ビニルピリジン、ポリブタジエン−メチルメタクリレート、ポリブタジエン−ポリ−t−ブチルメタクリレート、ポリブタジエン−t−ブチルアクリレート、ポリ−t−ブチルメタクリレート−ポリ−4−ビニルピリジン、ポリエチレン−ポリメチルメタクリレート、ポリ−t−ブチルメタクリレート−ポリ−2−ビニルピリジン、ポリエチレン−ポリ−2−ビニルピリジン、ポリエチレン−ポリ−4−ビニルピリジン、ポリイソプレンーポリー2−ビニルピリジン、ポリメチルメタクリレート−ポリスチレン、ポリ−t−ブチルメタクリレート−ポリスチレン、ポリメチルアクリレート−ポリスチレン、ポリブタジエンーポリスチレン、ポリイソプレン−ポリスチレン、ポリスチレンポリ−2−ビニルピリジン、ポリスチレンポリ−4−ビニルピリジン、ポリスチレンポリジメチルシロキサン、ポリスチレンポリ−N,N−ジメチルアクリルアミド、ポリブタジエン−ポリアクリル酸ナトリウム、ポリブタジエン−ポリエチレンオキシド、ポリ−t−ブチルメタクリレート−ポリエチレンオキシド、ポリスチレンポリアクリル酸、ポリスチレンポリメタクリル酸等が挙げられる。
【0034】
基板20は目的に応じて選択すればよい。すなわち、Siウエハや石英が好適であるが、そのほかガラス、ITO、樹脂等、目的に合わせて適切に選択することができる。また、それら基板の表面に無機物、金属、それらの酸化物、有機物などの薄膜、あるいは単分子膜を成膜したものを適用することができる。
【0035】
図3(a)を参照して、高分子薄膜Cの製造方法の説明を行う。
まず、第1高分子ブロック共重合体11と第2高分子ブロック共重合体12の混合系を溶媒に配合して溶解し、高分子混合物の溶液を作製する。そして、この溶液を、スピンコート法、ディップコート法、溶媒キャスト法等の方法により、基板20の表面に塗布する(溶液塗布工程)。なお、用いる溶媒は高分子混合物を構成する第1高分子ブロック共重合体11と第2高分子ブロック共重合体12の双方に対して良溶媒であることが望ましい。そして、高分子ブロック共重合体混合物の溶液から溶媒を揮発させて基板20の表面に塗膜Cdisを形成する(塗膜形成工程)。
なお、図3(a−1)(a−2)(a−3)に示すように、塗膜Cdisの厚みLが前記(1)式を満足するように、高分子混合物の濃度やスピンコートにおける回転数や時間、ディップコート法における引き上げ速度等を調整することが必要である。
【0036】
次に、基板20に固定された塗膜Cdisを熱処理して、図3(a−4)(a−5)(a−6)に示すように、ミクロ相分離を発現させる(ミクロ相分離工程)。つまり、図3(a−1)(a−2)(a−3)の段階で固定されている塗膜Cdisは、規則性の低い非平衡構造であるため、熱処理してミクロ相分離させることにより、平衡な構造に変化させ規則性を高めるものである。この熱処理は、高分子混合物の酸化を防止するために真空や窒素あるいはアルゴン雰囲気下において、高分子混合物のガラス転移温度以上に加熱することにより行うとよい。
【0037】
なお、この規則配列パターンの構成要素となる柱状相Bの、断面積及び平均中心間距離rは、第1高分子ブロック共重合体11の分子量及び組成、第2高分子ブロック共重合体12の分子量、及び両者の体積率に依存するものであって、これらを変更することで適宜調整することができる。
【0038】
次に、図3を用いて本発明におけるミクロ相分離の原理を、説明する。
ここで、基板20に対して柱状相Bが、垂直に配向する図3(a)を実施例とし、並行に配向する図3(b)及び垂直配向・並行配向が共存する図3(c)を比較例とし、柱状相Bが薄膜中で形成する構造についてその一般論を説明する。
ここで、図3中示される、記号C//,C//,C//は、柱状相Bが基板20に並行に配向した高分子薄膜であることを示している。そして、記号C//は、1層分、C//は2層分,C//は3層分だけ柱状相Bの層が積層した構造を表している。
【0039】
そして、この1層分の層間隔は、図2(a)に示すように六方格子をとり規則的に配列する柱状相Bの格子間隔dに該当し、この格子間隔dと、六方最密配列する柱状相Bの平均中心間距離rとの間には、次式(2)の関係が成立するものである。
そうすると、前記式(1)は、格子間隔dを用いて次式(3)のように表され、高分子薄膜Cの膜厚Lは、0.5d(n=1の場合)、1.5d(n=2の場合)、2.5d(n=3の場合)を中心とする許容範囲に含まれるように規定されていることが判る。
なお、ここで、式(3)の下限および上限を定める係数0.35は実験的に導かれた数値である。
【0040】
【数5】

【数6】

【0041】
また、図3中の記号Cは、柱状相Bが基板20に垂直に配向した高分子薄膜であることを示している。そして、図3中の記号Cdisは、高分子薄膜がミクロ相分離構造を未形成でディスオーダー状態である塗膜を示している。
なお一般に、柱状相Bの格子間隔dは、高分子ブロック共重合体の分子量や組成で決定されるため、柱状相Bの配向が基板20に対して垂直であるか並行であるかに依存しないとされる。
【0042】
従って、図3(b−4)に示されるように柱状相Bが基板20に一層分並行に配向しているC//構造をとる場合の膜厚Lはdとなり、図3(b−5)に示されるように柱状相Bが二層分並行に配向しているC//構造をとる場合の膜厚Lは2dとなり、図3(b−6)に示されるように柱状相Bが三層分並行に配向しているC//構造をとる場合の膜厚Lは3dとなる。
【0043】
このように、塗膜Cdisの膜厚Lが、格子間隔dの整数倍である場合は、基板20の表面との相互作用により、柱状相Bは、並行に配向しやすくなり基板に対して柱状相Bが直立した配向は実現できない。
一方、図3(a)の実施例に示すように塗膜Cdisの厚みが格子間隔dの整数倍からずれている場合には、柱状相Bは塗膜Cdisの厚みを保持した状態で基板に並行に配向できず、垂直に配向するものと期待される。
【0044】
しかしながら、一般的な手法として1種類の単独系の高分子ブロック共重合体からなる塗膜Cdisを使用した場合においては、図3(c)に示すように、膜内において均一な直立配向を形成することなく、膜厚が異なる領域にマクロスコピックに分離する。
【0045】
図3(c)に示す構造について、図3(c−2)および図3(c−5)を代表して説明すると、ミクロ相分離すると、図3(c−5)に示されるように、膜厚L(=1.5d)が格子間隔dの整数倍(1.0d及び2.0d)に変化して、エネルギー的に安定なC//,C//構造を有するマクロスコピックな領域が発現する。それとともに、C//領域,及びC//領域の境界領域の傾斜部分にC構造が発現することとなる。
これは、単独系の高分子ブロック共重合体からなる場合においては、C//構造とC//構造が共存して膜厚に段差が存在する状態の方が、C構造を有する均一な膜を形成するより系のエネルギーが小さくなるためである。
【0046】
すなわち、単独系の高分子ブロック共重合体からなる塗膜Cdisでは、塗膜Cdisの膜厚Lにかかわらず、柱状相Bを垂直に配向させた規則配列パターンを基板全面に亘って均一に形成することが困難であるといえる。
【0047】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、混合系の高分子ブロック共重合体からなる塗膜Cdisでは、塗膜Cdisの膜厚Lを格子間隔dの整数倍からずれた値に制御することにより、柱状相Bを垂直に配向させた規則配列パターンを基板全面に亘って均一に形成することが可能であることを発見し本発明を成すに至った。
【0048】
すなわち、混合系の高分子ブロック共重合体を用いた場合、塗膜Cdisの膜厚Lが格子間隔dの整数倍である場合においては図3(b)に示すように柱状相Bは基板に対して平行に配向する一方、塗膜Cdisの膜厚Lが格子間隔dの整数倍からずれている場合においては図3(a)に示すように柱状相Bは基板に対して直立した状態で配向することを発見した。
【0049】
これは以下に示す2つの効果が相作用して実現できたものである。
まず、第1の効果は高分子ブロック共重合体の混合に伴い、柱状相Bがヘキサゴナルに規則配列した状態が安定化される効果である。すなわち、高分子ブロック共重合体の混合物を用いると、図2(a)で示されるように、破線で示される単位格子領域の重心位置が重合度の高いブロック鎖A2により占有され、その周辺位置を重合度の低いブロック鎖A1により占有されるため、連続相中の分子密度が均一化する。そのため、柱状相Bがヘキサゴナルにパッキングした規則構造が安定化する。
【0050】
次に、第2の効果は、薄膜中における柱状相Bのパッキングの効果である。格子間隔dの数倍程度以下の厚みの膜中において膜と平行に柱状相Bがパッキングした場合、柱状相Bが数層のみ積み重なった構造となり、十分な広がりを有するヘキサゴナル配列を形成することができない。一方、直立した状態で配向した場合においては、柱状相Bの広がりは膜厚で拘束されることが無く、十分な広がりを持つヘキサゴナル配列が実現できる。
【0051】
すなわち、混合系の高分子ブロック共重合体を用いた場合、柱状相Bがヘキサゴナルにパッキングした状態が安定化するため、その配列が膜内において広範囲に採りうるように、基板に対して柱状相Bが直立した状態で配向する。以上の原理により、図3(a)に示すように柱状相Bは基板に対して直立した状態で配向することが可能となったと考えられる。
【0052】
柱状相Bのヘキサゴナル配列を十分に安定化するためには、混合する高分子ブロック共重合体の配合量と分子量を以下の範囲内に調製する必要がある。
まず、配合量に関しては、高分子ブロック共重合体11及び第2高分子ブロック共重合体12は、第1高分子ブロック共重合体が全体に占める重量分率が65%以上95%以下、すなわち第2高分子ブロック共重合体が全体に占める重量分率が35%以下5%以上とすることが望ましい。
【0053】
これは、第2高分子ブロック共重合体が5%より少ないと図2(a)で示されるように、破線で示される単位格子領域の重心領域に達するブロック鎖A2の量が少なくヘキサゴナル配列が十分に安定化されないためである。また、第2高分子ブロック共重合体が35%を超える場合、単位格子領域の重心領域以外におけるブロック鎖A2の濃度が大きくなりすぎ、ヘキサゴナル配列が乱れるためである。
【0054】
次に、分子量については、ブロック鎖A1の分子量に対するブロック鎖A2の分子量の比が1.0より大きく、かつ5.0以下となるように、第1高分子ブロック共重合体及び第2高分子ブロック共重合体が配合されていることが望ましい。
【0055】
これは、図2(a)で示されるように、破線で示される単位格子領域の重心領域にブロック鎖A2が達するためにはブロック鎖A1の1.0倍より大きな分子量が必要であるためである。また、A2の分子量がブロック鎖A1の分子量の5.0倍より大きくなると、配合した第1の高分子ブロック共重合体と第2の高分子ブロック共重合体が相溶せずに分離してしまうことが多いため望ましくない。
【0056】
(パターン基板について)
次に、図4を参照して、高分子薄膜Cのミクロ相分離構造を用いてパターン基板を作成する種々の方法について説明する。ここで、パターン基板とは、その表面にミクロ相分離構造の規則配列パターンに対応する凹凸面が形成されているものを指す。
まず、図4(a)に示すミクロ相分離構造中、柱状相Bの高分子相を選択的に除去して、図4(b)に示すような、複数の微細孔Hが規則配列パターンを形成した多孔質薄膜Dを得る。
なお、図示しないが、連続相Aの高分子相を選択的に除去して、複数の柱状構造体(柱状相B)が規則配列パターンを形成した高分子薄膜を得ることもできる。このように、複数の微細孔H又は柱状構造体が規則配列パターンを形成する多孔質薄膜Dが基板20上に形成されて、パターン基板21が製造されたことになる。
【0057】
また、詳しく述べないが、図4(b)において、残存した他方の高分子相(図では連続相Aからなる多孔質薄膜D)を基板20の表面から剥離して、単独の多孔質薄膜Dをパターン基板として製造することもできる。
【0058】
ところで、図4(b)に示すように、高分子薄膜Cを構成する連続相A又は柱状相Bのいずれか一方の高分子相を選択的に除去する方法としては、リアクティブイオンエッチング(RIE)、又はその他のエッチング手法により各高分子相間のエッチングレートの差を利用する方法を用いる。
【0059】
次に、図4(c)(d)を参照して、パターン基板の製造方法の他の例を説明する。
図4(b)に示す連続相Aのように残存した他方の高分子相(多孔質薄膜D)をマスクとして基板20をRIEやプラズマエッチング法でエッチング加工する。すると、図4(c)に示すように、微細孔Hを介して選択除去された高分子相の部位に対応する前記基板の表面部位が加工され、ミクロ分離構造の規則配列パターンが基板20の表面に転写されることになる。そして、このパターン基板20の表面に残存した多孔質薄膜DをRIEまたは溶媒で除去すると、図2(d)に示すように、柱状相Bに対応した規則配列パターンを有する微細孔Hが表面に形成されたパターン基板22が得られることになる。
【0060】
次に、図4(e)(f)を参照して、パターン基板の製造方法に係る他の実施形態について説明する。
図4(b)に示す連続相Aのように残存した他方の高分子相(多孔質薄膜D)を、図4(e)のように被転写体30に密着させて、ミクロ相分離構造の規則配列パターンを被転写体30の表面に転写する。その後、図4(f)に示すように、被転写体30をパターン基板21から剥離することにより、多孔質薄膜Dの規則配列パターンが転写されたレプリカ(パターン基板31)を得る。
【0061】
ここで、被転写体30の材質は、金属であればニッケル、白金、金等、無機材料であればガラスやチタニア等、用途に応じて選択すればよい。被転写体30が金属製の場合、スパッタ、蒸着、めっき法、又はこれらの組み合わせにより、被転写体30をパターン基板21の凹凸面に密着させることが可能である。
また、被転写体30が無機物質の場合は、スパッタやCVD法のほか、例えばゾルゲル法を用いて密着させることができる。ここで、めっきやゾルゲル法は、ミクロ相分離構造における数十ナノメートルの微細な規則配列パターンを正確に転写することが可能であり、非真空プロセスによる低コスト化も望める点で好ましい方法である。
以上述べたパターン基板の製造方法により、アスペクト比が大きくかつ微細な規則配列パターンの凹凸面を表面に有するパターン基板21,22,31を製造することができる。
【0062】
ところで、表面が大面積にわたりフラットな基板20に形成された高分子薄膜Cは、柱状相Bの配列規則性が異なる領域が多数集まったグレイン状の構造をとる場合がある。また、そのグレイン内においても、ミクロドメインの配列に点欠陥や線欠陥が存在する場合がある。そのため、大面積にわたり高度な規則性が要求される用途、例えば後記する磁気記録用パターン媒体の加工等にはそのままでは適用することができない可能性も存在する。
【0063】
そこで、図5に示すように、基板40はその表面に、溝42及びガイド43が形成されるようにする(図5(a))。このように基板40の表面が加工されていることにより、溝42において形成される高分子薄膜Cには、連続相A中の柱状相Bの規則配列パターンの規則性を乱す粒界が発生しなくなる。
さらにこのガイド43の高さを、前記式(1)を満たすLの値に準じて設定すれば、溝42に所定の膜厚Lの塗膜Cdisを作製することも容易になる(図5(b))。
【0064】
このような溝42及びガイド43を基板40の表面に形成する方法としては、フォトリソグラフィー法等が挙げられる。そして、このガイド43に囲まれている、すなわち拘束された溝42の空間内でミクロ相分離構造を発現させることにより、欠陥・グレイン・粒界等の発生を抑えた高分子薄膜Cを基板40上に形成することができる(図5(c))。
さらに、図4で説明した方法等により、基板40の表面に凹凸面を形成すれば、パターン基板41が得られる(図5(d))。
【0065】
図6は、ガイド53を用いて、基板50上に規則配列パターンの凹凸面を形成する他の例を示している。
ここで、基板50は、石英製のガラスディスク円板等である。この基板50上に厚さ50nmのSiO層51をCVD法により製膜し、さらにこのSiO層51の表面に厚み45nmのアクリレート系光硬化性のレジスト膜52が塗布してある(図6(a))。
【0066】
次に、定法のフォトリソグラフィープロセスを適用することにより、基板表面のレジスト膜52に同心円状のガイド53を所定間隔で形成する(図6(b))。そして、隣り合うガイド53,53の間の溝に塗膜Cdisを形成する(図6(c))。さらに、熱処理してミクロ相分離を発現させるとともに(図6(d))、いずれか一方の相(柱状相又は連続相)を選択的に除去する。
【0067】
さらに、残存した他方の相をマスクとしてSiO層51をエッチングし(図6(e))、最後に、基板表面に残存した他方の相とレジスト膜52とを酸素アッシングにより除去する。以上の方法により、規則配列パターンの凹凸面を有するパターン基板54を得る(図6(f))。
【0068】
前記した製造方法により得られたパターン基板21,22,31,41,54は、その表面に形成される規則配列パターンの凹凸面が微細でかつアスペクト比が大きいことから、種々の用途に適用される。
例えば、製造されたパターン基板の表面を、ナノインプリント法等により被転写体に繰り返し密着させることにより、同じ規則配列パターンを表面に有するパターン基板のレプリカを大量に製造するような用途に供することができる。
【0069】
以下に、ナノインプリント法によりパターン基板の凹凸面の微細な規則配列パターンを被転写体に転写する方法について示す。
第1の方法は、作製したパターン基板を被転写体(図示せず)に直接インプリントして規則配列パターンを転写する方法である(本方法を、熱インプリント法という)。この方法は、被転写体が直接インプリントすることが可能な材質である場合に適する。例えばポリスチレンに代表される熱可塑性樹脂を被転写体とする場合、熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上に加熱した後に、パターン基板をこの被転写体に押し当てて密着させ、ガラス転移温度以下まで冷却した後にパターン基板を被転写体の表面から離型するとレプリカを得ることができる。
【0070】
また、第2の方法として、パターン基板がガラス等の光透過性の材質である場合は、光硬化性樹脂を被転写体(図示せず)として適用する(本方法を、光インプリント法という)。この光硬化性樹脂をパターン基板に密着させた後に光を照射すと、この光硬化性樹脂は硬化するので、パターン基板を離型して、硬化後の光硬化性樹脂(被転写体)をレプリカとして用いることができる。
【0071】
さらに、このような光インプリント法において、ガラス等の基板を被転写体(図示せず)とする場合、パターン基板と被転写体の基板とを重ねた隙間に光硬化性樹脂を密着させて光を照射する。そして、この光硬化性樹脂を硬化させた後に、パターン基板を離型して、表面に凹凸を有する硬化後の光硬化性樹脂をマスクにして、プラズマやイオンビーム等でエッチング加工して、基板上に規則配列パターンを転写する方法もある。
【0072】
(磁気記録用パターン媒体について)
本実施形態の説明に先立って、磁気記録メディアについて言及する。磁気記録メディアは、データの記録密度を向上させることが常に要求されている。このため、データを刻む基本単位となる磁気記録メディア上のドットも、微小化するとともに隣接するドットの間隔も狭くなり、高密度化している。
【0073】
ちなみに、記録密度が1テラビット/平方インチの記録媒体を構成するためには、ドットの配列パターンの周期は約25ナノメートルになるようにする必要があるとされている。このように、ドットの高密度化が進むと、一つのドットをON/OFFするために付与された磁気が、隣接するドットに影響を及ぼすことが懸念される。
そこで、隣接するドットの方から漏洩してくる磁気の影響を排除するために、磁気記録メディア上のドットの領域を物理的に分断して配列パターンを形成する方法が検討されている。
【0074】
つまり、ここで述べる磁気記録用パターン媒体は、本発明により製造されたパターン基板の規則配列パターンを利用して、このような磁気記録メディアのドットの配列パターンを形成するものである。
この磁気記録用パターン媒体用の基板にはガラス製やアルミニウム製のもの等が用いられる。そして、この基板の表面を図6に示すようにしてパターン基板54を得た後、スパッタ等の方法を用いて磁気記録層をその表面に形成することにより磁気記録メディアを製造することができる。
【0075】
また一方で、図6に示されるパターン基板54から、光インプリント又は熱インプリント等のナノインプリント法により、磁気記録用パターン媒体を加工する方法も考えられる。
具体的には、規則配列パターンが形成される前の磁気記録用パターン媒体の基板に、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を塗膜し、この塗膜に凹凸の規則配列パターンを転写する。このように規則配列パターンの凹凸が転写された塗膜をマスクにして、プラズマやイオンビーム等でエッチング加工すれば、規則配列パターンの凹凸が基板上に形成されるわけである。この方法によれば、コストや生産性の観点からより好適である。
【0076】
ところで、以上の説明において、高分子薄膜Cについて、その表面に規則配列パターンの凹凸面を有するパターン基板21,22,31を製造する用途を中心に述べてきた。しかし、高分子薄膜Cは、このような用途に限定されるわけではなく、例えば、フィルタとして単体で用いられる多孔質薄膜Dを製造するような用途も存在する。
【実施例1】
【0077】
第1実施例では、ポリメチルメタクリレート(PMMA)からなる柱状相Bが、ポリスチレン(PS)からなる連続相A中に配列する構造を有する高分子薄膜Cを基板20上に形成させる例を示す(図1参照)。
本実施例では、第1高分子ブロック共重合体11及び第2高分子ブロック共重合体12(適宜、図2(b)参照)として、モノマーがPSとPMMAからなり分子量の異なる2種類の高分子ジブロック共重合体(PS-b-PMMA)の混合系を用いた。
この際用いた2種類のPS-b-PMMAに関して以下に詳述する。まず、第1のPS-b-PMMAを構成する各ブロック鎖の数平均分子量Mnは、PSブロック鎖が35,500、PMMAブロック鎖が12,200であった。また、第1のPS-b-PMMA全体としての分子量分布Mw/Mnは1.04であった。
次に、第2のPS-b-PMMAを構成する各ブロック鎖の数平均分子量Mnは、PSブロック鎖が46,000、PMMAブロック鎖が21,000であった。また、第2のPS-b-PMMA全体としての分子量分布Mw/Mnは1.09であった。
【0078】
第1のPS-b-PMMAと第2のPS-b-PMMAとを重量比で4:1の割合で混合し、PMMAが全体積に占める分率φPMMAが0.27の混合系の高分子ブロック共重合体の高分子混合物を作製した。
得られた高分子混合物は主成分である第1のPS-b-PMMAが全体に占める割合が80%であった。また、連続相を形成するPSブロック鎖に関して以下のように構成されていた。すなわち、主成分である第1のPS-b-PMMAのPSブロック鎖の数平均分子量Mnに対する副成分である第2のPS-b-PMMAのPSブロック鎖の数平均分子量Mnの比が1.3となるように構成されていた。
【0079】
この作製した高分子混合物をトルエンの溶媒に溶解し、濃度1.0〜3.0重量%の高分子混合溶液を調整した。この高分子混合溶液をシリコン基板20(適宜、図3参照)の表面に滴下してスピンコートした後に溶媒を揮発させて、基板20の表面に塗膜Cdisを製膜した。この際、濃度とスピンコートの回転数を調整することにより、膜厚Lが18nm、29nm、39nm、52nm、62nmの値を示す混合系の塗膜Cdisを得た(図7(a)第1列参照)。ここで、これら膜厚Lの値は、それぞれ、図3中の、(a−1)、(b−1)、(a−2)、(b−2)、(a−3)の場合に対応する。
【0080】
次に基板20の表面に製膜した塗膜Cdisの表面を原子間力顕微鏡で観察した。その結果、塗膜Cdisの表面は均一であり基板20の表面が均一な厚みで被覆されていることを確認した。なお、前記した膜厚Lは、塗膜Cdisを鋭利な刃で一部剥離し原子間力顕微鏡で塗膜Cdisが存在する部分と剥離した部分の段差を測定することにより値を得た。
【0081】
基板20には、Siウエハを用いた。予め基板20は実験に供する前に濃硫酸と過酸化水素水の3:1混合溶液(ピラニア溶液)に90℃で10分間浸漬することにより表面を十分に洗浄した。
【0082】
次に、塗膜Cdisを製膜した基板20を真空雰囲気下、170℃で24時間熱処理することにより高分子薄膜C中にミクロ相分離構造を発現させた(図3(a−4,5,6),(b−4,5)参照)。そして、得られた高分子薄膜Cの構造を光学顕微鏡(Optical Microscope;以下、OMという)と原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;以下、AFMという)により観察した。
【0083】
OM観察により、まず、熱処理により高分子薄膜Cにマクロスコピックに膜厚が異なる領域が発現したかどうかを調査した。その結果、図7(a)第2列に示すように、すべての膜厚のサンプルにつきOM観察ではコントラストが得られず全面均一な色調を示した。
以上の結果より、高分子ブロック共重合体の高分子混合物を用いた場合、ミクロ相分離発現後においても均一な膜厚が保持されていることが確認された。
【0084】
ミクロ相分離発現後の高分子薄膜Cを鋭利な刃で一部剥離しAFM観察により高分子薄膜Cが存在する部分と剥離した部分の段差を測定し、膜厚を計測した。その結果を図7(a)第3列に示す。先に測定した、熱処理前の塗膜Cdisの初期膜厚(図7(a)第1列)と比較したところ、同一の値であることを確認した。
【0085】
次に、AFM観察により高分子薄膜C中のミクロ相分離構造に由来する凸凹を観察した。観察は、高分子薄膜Cの表面にUV光を6分間照射することにより表面をアッシングしPMMA相を5nm程度除去することにより高分子薄膜C表面にミクロ相分離構造に由来する凸凹を作製し実施した。その結果を、図7(a)第5列に示すとともに図8に代表的なAFM観察像を示す。
【0086】
図8(a)は、初期膜厚が29nmの場合のAFM観察像で、直径約15nmの柱状の凹形状が、膜表面に寝た構造が支配的である像が観察されている。この凹形状はPMMA相がUVによりエッチングされて形成したものであり、PMMAの柱状相がPSの連続相中で膜表面に対して寝た構造を主にとっていることが明らかになった。この図8(a)のAFM像は、図3の比較例(b−4)の場合に該当するものである。
【0087】
図8(b)は、初期膜厚が39nmの観察像で、膜表面に直径が約15nmの円形の凹形状が規則的に配列した構造が観察されている。ここで、円形の凹部はほぼ六方最密構造となるように配列し、その中心間距離はほぼ29nmであった。この凹形状はPMMA相がUVによりエッチングされたものであり、PMMAからなる柱状相がPSからなる連続相で膜表面に対して直立して分布することが明らかになった。この図8(b)のAFM像は、図3の実施例(a−5)の場合に該当するものである。
【0088】
図8(c)は、初期膜厚が52nmの観察像で、直径約15nmの柱状の凹形状が、膜表面に寝た構造が支配的である像が観察されている。この凹形状はPMMA相がUVによりエッチングされて形成したものであり、PMMAの柱状相がPSの連続相中で膜表面に対して寝た構造を主にとっていることが明らかになった。この図8(c)のAFM像は、図3の比較例(b−5)の場合に該当するものである。
【0089】
図8(a)〜図8(c)から柱状相の平均中心間距離rを画像解析により測定し、六方格子を仮定し前記式(2)に基づいて格子間隔dを求めたところ、それらの値はすべてd=25nmであった。
【0090】
図7(a)の第4列に、熱処理後の膜厚Lと格子間隔dとの比(L/d)を示す。膜厚Lが前記した式(3)を満足している試料、すなわち、比(L/d)が0.7倍、1.5倍及び2.5倍の試料においては、AFM観察結果から、基板全面に均一に柱状相が基板に対して直立した状態で配向していることが判明した。
これに対して、この比(L/d)が式(3)を外れる1.1倍及び2.0倍においては、柱状相が基板全面に均一に寝た状態で配向していることが判明した。
【0091】
図7(b)は、図7(a)の場合とは反対に、PSからなる柱状相がPMMAからなる連続相で膜表面に対して直立して分布するように、混合系の高分子ブロック共重合体を組成が逆になるように調整した場合の結果を示す図である。
この場合の高分子薄膜Cの作製方法や、これらの実験方法は、すでに図7(a)で説明した方法と同様であるので記載を省略する。
【0092】
用いた第1のPS-b-PMMAは、PSブロック鎖の数平均分子量Mnが20,200、PMMAブロック鎖が50,500で、全体としての分子量分布Mw/Mnは1.07であった。第2のPS-b-PMMAは、PSブロック鎖が26,000、PMMAブロック鎖が68,000で、全体としての分子量分布Mw/Mnは1.18であった。そして、第1のPS-b-PMMAと第2のPS-b-PMMAを重量比で4:1の割合で混合し、PSが全体積に占める分率φPSが0.28の混合系の高分子ブロック共重合体を得た。
【0093】
得られた高分子混合物は主成分である第1のPS-b-PMMAが全体に占める割合が80%であった。また、連続相を形成するPMMAブロック鎖に関して以下のように構成されていた。すなわち、主成分である第1のPS-b-PMMAのPMMAブロック鎖の数平均分子量Mnに対する副成分である第2のPS-b-PMMAのPMMAブロック鎖の数平均分子量Mnの比が1.3となるように構成されていた。
なお、本系においては、柱状相の格子間隔dはすべてd=30nmとなった。
【0094】
図6(b)の場合も、図6(a)の場合と同様、膜厚Lが前記した式(1)を満足している試料、すなわち、膜厚Lが格子間隔dの0.7倍、1.5倍、及び2.4倍の試料においては、基板全面に均一に柱状相が基板に対して直立した状態で配向している結果が得られた。
【0095】
(比較例)
前記した実施例では、第1のPS-b-PMMAと第2のPS-b-PMMAを重量比で4:1の割合で混合した混合系の試料を用い、式(1)または式(3)を満足する膜厚に調整することにより柱状相Bが基板20の表面に対して直立して配向する例を示した。
そこで2種類の高分子ブロック共重合体を混合した効果を調査する目的で、以下の比較実験を実施した。PMMAの体積率は0.25である。
試料として実施例で用いた第1のPS-b-PMMA単独とし、膜厚Lが25nm、30nm、41nmの値を示す単独系の塗膜Cdisを用いた(図7(c)第1列参照)。なお第1のPS-b-PMMAからなる単独系の塗膜Cdisを基板20に製膜する方法は、実施例で示した方法と同一であるので記載を省略する。
【0096】
ここで、単独系の塗膜Cdisの膜厚Lの値25nm、30nm、41nmは、それぞれ図3の(b−1)、(c−2)、(b−2)に対応する。
次に、これら単独系の塗膜Cdisを製膜した基板20とともに前記した実施例と同様の熱処理をすることにより高分子薄膜C中にミクロ相分離構造を発現させた。得られた高分子薄膜Cの構造のOM観察とAFM観察をした。結果を図7(c)、図9(a)〜(c)に示す。
【0097】
初期膜厚が25nm及び41nmの試料を熱処理後にOM観察したところ、図7(c)第2列目に示すように、膜全面が均一な色調で観察され、基板全面に均一な膜厚の薄膜が形成できていることが判明した。次に、試料の表面をUVエッチングし、AFMによりミクロドメインの段差構造を観察したところ、初期膜厚が25nmの試料は図9(a)、初期膜厚が41nmの試料は図9(b)に示す観察像が得られ、どちらの試料についても柱状相が基板に対して寝た構造を発現していることが判明した。
図9(a)、図9(b)から隣接する柱状相の平均中心間距離rを画像解析により測定し、六方格子を仮定し格子間隔dを求めたところ、すべてd=20nmの値が得られた。
【0098】
次に、膜厚が30nmの試料を同様の方法でOM観察したところ、図7(c)第2列目、図9(c)に示すように、色調の異なる領域が基板表面に海島状に分布している様子が観察された。この結果から、基板表面の薄膜が膜厚の厚い部分と薄い部分にマクロに分離している可能性が示唆された。
そこで、AFMにより膜厚の分布を測定したところ、熱処理前には30nmの均一であった膜が、熱処理後においては、40nmの領域と22nmの領域に分離していることが確認された。
【0099】
次に、この膜厚が厚くなった40nm領域と薄くなった22nm領域の界面構造をAFMにより詳細に観察した。観察はAFMの位相コントラストモードで実施した。その結果、膜厚の厚い部分と薄い部分ではともに柱状相が基板に対して並行に配列しており、その境界部分の一部で直立構造が認められた(図9(c)参照)。
図7(c)第3列、第4列に、熱処理後の膜厚Lと、この膜厚L及び格子間隔dの比とをあわせて示す。この図7に示すように、膜厚が格子間隔dの1.2倍及び2.1倍においては、基板全面に均一に柱状相が寝た状態で配向している。これに対して、初期膜厚が40nmの試料に関しては、熱処理を施すと膜厚が格子間隔dの1.1倍と2.0倍の領域にマクロスコピックに分離したことが判明した。
【0100】
以上の結果より、高分子ブロック共重合体を単独系で用いた比較例の場合、実施例(図8(b))に示すような、基板表面の全面にわたって均一な直立した柱状相構造を得ることができないことが証明された。
【実施例2】
【0101】
本実施例では、PMMAからなる柱状相Bが、PSからなる連続相A中に配列する構造を有する高分子薄膜Cを基板20上に形成させる場合において、第1のPS-b-PMMAと第2のPS-b-PMMAの混合比(重量分率)の影響を検討した結果を示す。
【0102】
本実施例には実施例1で用いたものと同じ高分子ブロック共重合体の組み合わせを用いた。すなわち、第1のPS-b-PMMAを構成する各ブロック鎖の数平均分子量Mnは、PSブロック鎖が35,500、PMMAブロック鎖が12,200であった。また、第1のPS-b-PMMA全体としての分子量分布Mw/Mnは1.04であった。また、第2のPS-b-PMMAを構成する各ブロック鎖の数平均分子量Mnは、PSブロック鎖が46,000、PMMAブロック鎖が21,000であった。また、第2のPS-b-PMMA全体としての分子量分布Mw/Mnは1.09であった。
【0103】
本高分子混合系は連続相を形成するPSブロック鎖に関して以下のように構成されていた。すなわち、主成分である第1のPS-b-PMMAのPSブロック鎖の数平均分子量Mnに対する副成分である第2のPS-b-PMMAのPSブロック鎖の数平均分子量Mnの比が1.3となるように構成されていた(図10(a)第2列)。
第1のPS-b-PMMAと第2のPS-b-PMMAを種々の割合で混合し、第1のPS-b-PMMAを主成分とし、第2のPS-b-PMMAを副成分とする複数の高分子混合物を作製した。その際、主成分である第1のPS-b-PMMAが全体に占める割合を60%〜95%の範囲となるようにした(図10(a)第1列)。調製した高分子混合物における副成分である第2のPS-b-PMMAが全体に占める割合および、およびが柱状ミクロドメインを構成するPMMAが全体積に占める分率φPMMAを図10(a)第3列に示す。
【0104】
実施例1と同様の方法に従い、シリコン基板表面に種々の厚みを有する高分子混合系を塗布し、アニールすることによりミクロ相分離構造を発現させた。次に、得られた薄膜の構造を実施例1と同様の手法により観察し、柱状ミクロドメインの配向状態と柱状ミクロドメインの格子間隔dを測定した。また、熱処理後の薄膜の厚みLを測定した。
【0105】
図10(a)第7列に式1においてn=2の関係を有したサンプルについて、柱状ミクロドメインの配向を観察した結果を示す。図10(a)より、主成分である第1のPS-b-PMMAが全体に占める割合が、70%、80%および90%の試料については、基板全面に亘り均一に柱状ミクロドメインが直立し配向している様子が確認された。それに対して、主成分である第1のPS-b-PMMAが全体に占める割合が60%の試料については、柱状ミクロドメインが直立した領域と基板に平行に配列した領域が混在することが確認された。同様に、主成分である第1のPS-b-PMMAが全体に占める割合が95%の試料についても柱状ミクロドメインが直立した領域と基板に平行に配列した領域が混在することが確認された。
【0106】
以上の結果より、L=1.5dの関係を有する場合において基板全面に均一に柱状ミクロドメインが直立した配向を有する構造を得るためには主成分である第1のPS-b-PMMAが全体に占める割合を65%以上90%以下とする必要があることが判明した。
【実施例3】
【0107】
本実施例では、PMMAからなる柱状相Bが、PSからなる連続相A中に配列する構造を有する高分子薄膜Cを基板20上に形成させる場合において、第1のPS-b-PMMAと第2のPS-b-PMMAとにおけるPSブロック鎖の分子量比の影響を検討した結果を示す。
【0108】
実験には主成分である第1のPS-b-PMMAとしてPSブロック鎖が35,500、PMMAブロック鎖が12,200、分子量分布Mw/Mnは1.04の高分子ブロック共重合体を用いた。また、副成分として以下に示す高分子ブロック共重合体を第2のPS-b-PMMAとして混合した。すなわち第2のPS-b-PMMAとして、PS(260,000)-b-PMMA(63,500)、PS(140,000)-b-PMMA(60,000)、PS(52,000)-b-PMMA(52,000)、PS(46,000)-b-PMMA(21,200)およびPS(12,800)-b-PMMA(12,900)を用いた。ここでかっこ内に示した数値は各ブロック鎖の数平均分子量Mnである。また、分子量分布Mw/Mnはそれぞれ1.07、1.16、1.10、1.09、および1.05であった。
【0109】
図10(b)に示すように、主成分である第1のPS-b-PMMAが全体に占める割合は80%〜90%となるように各高分子混合系を調製した。調製した高分子混合物について、主成分である第1のPS-b-PMMAのPSブロック鎖の数平均分子量Mnに対する副成分である第2のPS-b-PMMAのPSブロック鎖の数平均分子量Mnの比(図10(b)第2列;以下、「PSブロック鎖分子量比」という)、およびが柱状ミクロドメインを構成するPMMAが全体積に占める分率φPMMAを示す(図10(b)第3列)。
【0110】
実施例1と同様の方法に従い、シリコン基板表面に種々の厚みを有する高分子混合系を塗布し、アニールすることによりミクロ相分離構造を発現させた。次に、得られた薄膜の構造を実施例1と同様の手法により観察し、柱状ミクロドメインの配向状態と柱状ミクロドメインの格子間隔dを測定した。また、熱処理後の薄膜の厚みLを測定した。
【0111】
図10(b)第7列に式1においてn=2の関係を有したサンプルについて、柱状ミクロドメインの配向を観察した結果を示す。PSブロック鎖分子量比が4.5、1.5、1.3の試料については柱状ミクロドメインが直立した状態で配向した均一な構造が確認された。
【0112】
それに対して、PSブロック鎖分子量比が0.4については柱状ミクロドメインが直立した領域と基板に平行に配列した領域が混在することが確認された。また、PSブロック鎖分子量比が7.3の試料については、第1のPS-b-PMMAと第2のPS-b-PMMAが均一に混合することなく、巨視的に相分離し均一な膜が得られなかった。
【0113】
以上の結果より、L=1.5dの関係を有する場合において基板全面に均一に柱状ミクロドメインが直立した配向を有する構造を得るためには、主成分である第1のPS-b-PMMAのPSブロック鎖の数平均分子量Mnに対する副成分である第2のPS-b-PMMAのPSブロック鎖の数平均分子量Mnの比が1.0より大きく5.0以下とする必要があることが判明した。
【実施例4】
【0114】
次に、パターン基板を製造した実施例について示す。まず、図4(a)〜(b)に示す工程に従い、高分子薄膜C中の柱状相Bを分解除去し、基板20の表面に多孔質薄膜Dを形成する例について示す。
図6(a)に結果が示される、初期膜厚が45nmの、PMMAからなる柱状相Bが膜表面に対して直立(膜の貫通方向に配向)した構造をとった高分子薄膜Cに対し、RIEによりPMMA相を除去する操作を行い、多孔質薄膜Dを得た。ここで酸素のガス圧力は1Pa、出力は20Wとした。エッチング処理時間は90秒とした。
【0115】
作製した多孔質薄膜Dの表面形状を走査型電子顕微鏡を用いて観察した。
その結果、多孔質薄膜Dには膜の貫通方向に配向して柱状の微細孔Hが形成されていることが確認された。ここで、微細孔Hの直径は約15nmであり、それらがほぼ六方最密構造となるように配列した状態が観察された。また、微細孔Hが形成する六方格子の格子間隔はほぼ28nmであった。ここで、多孔質薄膜Dの厚みをその一部を鋭利な刃物で基板20の表面から剥離し、基板20の表面と多孔質薄膜D表面の段差をAFM観察で測定したところ、その値は40nmであった。
【0116】
得られた微細孔Hのアスペクト比は2.6であり、球状ミクロドメイン構造では得られない大きな値が実現されている。なお、高分子薄膜Cの膜厚が、RIEの実施前で45nmあったものが、40nmに減少したのは、RIEの実施によりPMMA相とともにPS連続相Aも若干エッチングされたためと考えられる。
【0117】
次に、図7(b)に結果が示される、初期膜厚が46nmの、PSからなる柱状相Bが膜表面に対して直立(膜の貫通方向に配向)した構造をとった高分子薄膜Cに対し、RIEによりPMMAからなる連続相Aを除去する操作を行い、前記した同じ条件で多孔質薄膜Dを作製した。
そして、作製した多孔質薄膜Dの表面形状を走査型電子顕微鏡を用いて観察した結果、基板20表面には基板表面に直立した状態で微細柱が形成されていることが判明した。ここで、微細柱の直径は約20nmであり、それらがほぼ六方最密構造となるように配列した状態が観察された。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】(a)は本発明の実施形態に係る高分子薄膜を示す斜視断面図であり、(b)は上面図である。
【図2】(a)は図1(b)を部分拡大して分子レベルの構造を表した模式図であり、(b)は高分子ブロック共重合体の概念図である。
【図3】(a)は熱処理によりミクロ相分離を発現させた場合、柱状相が垂直方向に配向する実施例を示す図であり、(b)はミクロ相分離により柱状相が並行方向に配向する比較例を示す図であり、(c)はミクロ相分離により柱状相が並行方向及び垂直方向に配向する比較例を示す図である。
【図4】(a)〜(f)は本発明に係るパターン基板の製造方法の実施形態を示す工程図である。
【図5】(a)〜(d)は本発明に係るパターン基板の製造方法の実施形態を示す工程図である。
【図6】(a)〜(f)は本発明に係るパターン基板の製造方法の実施形態を示す工程図である。
【図7】(a)はPSが連続相となるように、PMMAが柱状相となるようにして重合度の異なる2種の混合系の高分子ブロック共重合体を使用して、塗膜Cdisの膜厚に対するミクロ相分離構造の様子を示し、(b)は2種の混合系の高分子ブロック共重合体の組成が(a)の場合と逆転するように高分子ブロック共重合体を調整した塗膜Cdisの膜厚に対するミクロ相分離構造の様子を示し、(c)は1種の単独系の高分子ブロック共重合体からなる塗膜Cdisの膜厚に対するミクロ相分離構造の様子を示す。
【図8】(b)は本発明の実施例を示し、2種の混合系の高分子ブロック共重合体からなる塗膜Cdisの膜厚Lが、数式の関係を満たしている場合のAFM像であって、(a)(c)は比較例を示すものであって膜厚Lが数式の関係を満たしていない場合のAFM像である。
【図9】(a)(b)(c)は比較例を示すものであって1種の単独系の高分子ブロック共重合体からなる塗膜Cdisからミクロ相分離現象を発現させた場合のAFM像である。
【図10】本発明で規定される関係式がn=2をとる場合において、(a)第1高分子ブロック共重合体及び前記第2高分子ブロック共重合体の重量分率を可変した場合の柱状相の配向の様子を観察した結果を示す図であり、(b)ブロック鎖A1及びブロック鎖A2の分子量比を可変した場合の柱状相の配向の様子を観察した結果を示す図である。
【符号の説明】
【0119】
11 第1高分子ブロック共重合体
12 第2高分子ブロック共重合体
20,40,50 基板
21,22,31,41,54 パターン基板
30 被転写体
42 溝
43,53 ガイド
A 連続相
A1 第1高分子ブロック共重合体のブロック鎖
A2 第2高分子ブロック共重合体のブロック鎖
B 柱状相
B1 第1高分子ブロック共重合体のブロック鎖
B2 第2高分子ブロック共重合体のブロック鎖
C 高分子薄膜
C⊥ 垂直配向構造
// 並行配向構造
dis 塗膜
D 多孔質薄膜
H 微細孔
L 膜厚
a1 モノマー
a2 モノマー
b1 モノマー
b2 モノマー
d 格子間隔
r 平均中心間距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続相中に柱状相が分布している高分子薄膜において、
前記柱状相が前記高分子薄膜を貫通する方向に配向するとともに略規則的に配列してなり、
前記連続相の成分であるモノマーa1が重合してなるブロック鎖A1、及び前記柱状相の成分であるモノマーb1が重合してなるブロック鎖B1を少なくとも有する第1高分子ブロック共重合体と、
前記連続相の成分であるモノマーa2が重合してなるブロック鎖A2、及び前記柱状相の成分であるモノマーb2が重合してなるブロック鎖B2を少なくとも有し重合度が前記第1高分子ブロック共重合体と異なる第2高分子ブロック共重合体と、が少なくとも配合され、
前記高分子薄膜の膜厚をLとし、隣接する前記柱状相の平均中心間距離をrとした場合、次式の関係を満たしていることを特徴とする高分子薄膜。
【数1】

【請求項2】
請求項1に記載の高分子薄膜において、
前記第1高分子ブロック共重合体及び前記第2高分子ブロック共重合体の合計のうち前記第1高分子ブロック共重合体が占める重量分率が65%以上95%以下となるように調整されていることを特徴とする高分子薄膜。
【請求項3】
請求項2に記載の高分子薄膜において、
前記ブロック鎖A1の分子量に対する前記ブロック鎖A2の分子量の比が1.0より大きくかつ5.0以下となるように前記第1高分子ブロック共重合体及び前記第2高分子ブロック共重合体が調整されていることを特徴とする高分子薄膜。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の高分子薄膜において、
前記柱状相が占める体積率が、0.20以上で0.35以下となるように、前記第1高分子ブロック共重合体及び前記第2高分子ブロック共重合体が調整されていることを特徴とする高分子薄膜。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の高分子薄膜において、
前記モノマーa1と前記モノマーa2とが同一の化学構造を有し、かつ、前記モノマーb1と前記モノマーb2とが同一の化学構造を有することを特徴とする高分子薄膜。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の高分子薄膜において、
前記第1高分子ブロック共重合体は前記ブロック鎖A1及び前記ブロック鎖B1における互いの末端が結合してなる高分子ジブロック共重合体であり、
前記第2高分子ブロック共重合体は前記ブロック鎖A2及び前記ブロック鎖B2における互いの末端が結合してなる高分子ジブロック共重合体であることを特徴とする高分子薄膜。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の高分子薄膜において、
前記モノマーa1及び前記モノマーa2のうち少なくとも一方がスチレンモノマーであって、前記モノマーb1及び前記モノマーb2のうち少なくとも一方がメチルメタクリレートモノマーであることを特徴とする高分子薄膜。
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の高分子薄膜において、
前記モノマーa1及び前記モノマーa2のうち少なくとも一方がメチルメタクリレートモノマーであって、前記モノマーb1及び前記モノマーb2のうち少なくとも一方がスチレンモノマーであることを特徴とする高分子薄膜。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の高分子薄膜において、基板の表面に形成されていることを特徴とする高分子薄膜。
【請求項10】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の高分子薄膜において、基板の表面に設けられた溝に形成されていることを特徴とする高分子薄膜。
【請求項11】
高分子薄膜の連続相中に分布する柱状相が前記高分子薄膜を貫通する方向に配向するとともに略規則的に配列してなる高分子薄膜の製造方法において、
前記連続相の成分であるモノマーa1が重合してなるブロック鎖A1及び前記柱状相の成分であるモノマーb1が重合してなるブロック鎖B1を少なくとも有する第1高分子ブロック共重合体と、前記連続相の成分であるモノマーa2が重合してなるブロック鎖A2及び前記柱状相の成分であるモノマーb2が重合してなるブロック鎖B2を少なくとも有し重合度が前記第1高分子ブロック共重合体と異なる第2高分子ブロック共重合体と、が少なくとも配合されている溶液を、基板の表面に塗布する溶液塗布工程と、
前記溶液から溶媒を揮発させて前記基板の表面に、膜厚Lが次式の関係を満たす塗膜を形成する塗膜形成工程と、
前記塗膜を熱処理して、前記連続相及び前記柱状相に相分離させるミクロ相分離工程と、を含む高分子薄膜の製造方法。
【数2】

(ここで、rは柱状相の平均中心間距離である。)
【請求項12】
請求項11に記載の高分子薄膜の製造方法において、
前記第1高分子ブロック共重合体及び前記第2高分子ブロック共重合体の合計のうち前記第1高分子ブロック共重合体が占める重量分率が65%以上95%以下となるように前記溶液が調整されていることを特徴とする高分子薄膜。
【請求項13】
請求項12に記載の高分子薄膜の製造方法において、
前記ブロック鎖A1の分子量に対する前記ブロック鎖A2の分子量の比が1.0より大きく、かつ5.0以下となるように、前記第1高分子ブロック共重合体及び前記第2高分子ブロック共重合体が調整されていることを特徴とする高分子薄膜の製造方法。
【請求項14】
請求項9または請求項10に記載の高分子薄膜の前記連続相又は前記柱状相のうちいずれか一方の高分子相を選択的に除去し凹凸面を形成する工程、を含むことを特徴とするパターン基板の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載のパターン基板の製造方法で製造されたパターン基板に対し、
除去された前記一方の高分子相の部位に対応する前記基板の表面部位を加工して前記凹凸面のパターンをこの基板に転写する工程、を含むことを特徴とするパターン基板の製造方法。
【請求項16】
請求項14または請求項15に記載のパターン基板の製造方法により製造されたパターン基板に対し、
前記凹凸面に被転写体を密着させる工程と、
前記凹凸面のパターンが転写された前記被転写体を剥離する工程と、を含むことを特徴とするパターン基板の製造方法。
【請求項17】
請求項14から請求項16のいずれか1項に記載のパターン基板の製造方法により製造されたパターン基板。
【請求項18】
請求項17に記載のパターン基板の凹凸面を転写する工程を含むことを特徴とする磁気記録用パターン媒体の製造方法。
【請求項19】
請求項18に記載の磁気記録用パターン媒体の製造方法により製造された磁気記録用パターン媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−231233(P2008−231233A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−72344(P2007−72344)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】