説明

高分子電解質の精製方法

【課題】簡便なプロセスで、高分子電解質に含まれる金属不純物の含有量を効果的に低減することによる高分子電解質の精製方法を提供する。さらに、該精製方法によって得られる金属不純物の含有量が低減した高分子電解質を提供する。
【解決手段】金属不純物を含有する高分子電解質に、キレート剤を作用させることを特徴とする高分子電解質の精製方法。金属不純物を含有する高分子電解質に、キレート剤を作用させて、高分子電解質に含まれる金属不純物の含有量を低減することを特徴とする高分子電解質の精製方法。金属不純物を含有する高分子電解質と、キレート剤と、有機溶媒とを含む液状混合物を得てキレート剤を作用させ、該液状混合物から、金属不純物の含有量が低減した高分子電解質を分離することを特徴とする高分子電解質の精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質の精製方法に関する。より詳しくは、高分子電解質に含まれる金属不純物を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子電解質は固体高分子型燃料電池に用いられている。固体高分子型燃料電池(以下、「燃料電池」と略記することがある。)は、水素と酸素との化学的反応により発電させる発電装置であり、次世代エネルギーの一つとして電気機器産業や自動車産業等の分野において大きく期待されている。燃料電池の高分子電解質膜として、従来のフッ素系高分子電解質に代わって、安価で、耐熱性に優れた炭化水素系高分子電解質が近年注目されてきている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
高分子電解質としては、長期の運転安定性(以下、「長期安定性」と呼ぶ)を示す燃料電池を与えるものが求められている。この長期安定性を妨げる要因の一つとして、電池稼動時に発生する過酸化物(例えば、過酸化水素等)が、高分子電解質中に存在する金属不純物と反応して分解し、ヒドロキシラジカルとなり、高分子電解質を著しく劣化させることが指摘されている。また、高分子電解質中に存在する金属不純物により、高分子電解質の酸性基が塩型となり、高分子電解質のイオン伝導性が低下し、長期安定性を妨げているとも推定される。それゆえ、高分子電解質中に存在する金属不純物の含有量を低減することが、固体高分子型燃料電池の長期安定性に繋がる1つの対策とされている。従来から、高分子電解質中に存在する金属不純物を低減する方法としては、例えば、高分子電解質を酸に接触させる方法等が知られていた(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2003−031232号公報
【特許文献2】特開平6−206938号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の高分子電解質中の金属不純物の含有量を低下させる方法では、特に金属不純物の価数が高い場合、高分子電解質の酸性基に対して、金属不純物が強固に結合しやすいため、金属不純物の含有量の効果的な低減は困難であった。従って、高分子電解質に含まれる金属不純物の含有量を効果的に低減する方法が切望されていた。
【0006】
このような状況下、本発明の目的は、簡便なプロセスで、高分子電解質に含まれる金属不純物の含有量を効果的に低減することによる高分子電解質の精製方法を提供することにある。さらには、該精製方法によって得られる金属不純物の含有量が低減した高分子電解質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の事情に鑑み、金属不純物を含む高分子電解質の金属不純物の含有量を低減する方法について、鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は[1]、[2]を提供するものである。
【0008】
[1]金属不純物を含有する高分子電解質に、キレート剤を作用させる高分子電解質の精製方法。
[2]金属不純物を含有する高分子電解質に、キレート剤を作用させて、高分子電解質に含まれる金属不純物の含有量を低減することを特徴とする高分子電解質の精製方法。
【0009】
さらに、本発明は、前記発明に係る好適な実施態様として、下記の[3]〜[20]を提供するものである。
[3]金属不純物を含有する高分子電解質と、キレート剤と、有機溶媒とを含む液状混合物を得てキレート剤を作用させ、該液状混合物から、金属不純物の含有量が低減した高分子電解質を分離することを特徴とする[1]または[2]に記載の高分子電解質の精製方法。
[4]前記液状混合物から、金属不純物の含有量が低減した高分子電解質を析出させて分離することを特徴とする[3]に記載の高分子電解質の精製方法。
[5]前記液状混合物と、前記高分子電解質に対する貧溶媒とを混合することにより、金属不純物の含有量が低減した高分子電解質を析出させて分離することを特徴とする[3]または[4]に記載の精製方法。
[6]前記キレート剤が、前記有機溶媒に溶解していることを特徴とする[3]〜[5]のいずれかに記載の精製方法。
[7]前記キレート剤の分子量が、1000以下であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれかに記載の精製方法。
[8]前記キレート剤が、同一分子内に塩基性基および酸性基を有することを特徴とする[1]〜[7]のいずれかに記載の精製方法。
[9]前記塩基性基が、1級アミノ基、2級アミノ基および3級アミノ基から選ばれる塩基性基であることを特徴とする[8]に記載の精製方法。
[10]前記酸性基が、カルボン酸基、ホスホン酸基およびスルホン酸基から選ばれる酸性基であることを特徴とする[8]または[9]に記載の精製方法。
[11]前記キレート剤が、N,N,N’,N’−エチレンジアミン四酢酸またはN,N,N’,N’−-エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)を含むことを特徴とする[1]〜[10]のいずれかに記載の精製方法。
[12]前記有機溶媒が、非プロトン性極性溶媒を含むことを特徴とする[3]〜[11]のいずれかに記載の精製方法。
[13]前記貧溶媒が、プロトン性溶媒を含むことを特徴とする[5]〜[12]のいずれかに記載の精製方法。
[14]前記貧溶媒が、水であることを特徴とする[13]に記載の精製方法。
[15]前記貧溶媒が、無機酸を含むことを特徴とする[5]〜[14]のいずれかに記載の精製方法。
[16]前記高分子電解質に含まれるイオン交換基が、酸性基を有することを特徴とする[1]〜[15]のいずれかに記載の精製方法。
[17]前記高分子電解質に含まれるイオン交換基が、ホスホン酸基であることを特徴とする[1]〜[16]のいずれかに記載の精製方法。
[18]前記高分子電解質に含まれるイオン交換基が、スルホン酸基であることを特徴とする[1]〜[16]のいずれか1項に記載の精製方法。
[19]前記高分子電解質が、芳香族系高分子電解質を有することを特徴とする[1]〜[18]のいずれかに記載の精製方法。
[20][1]〜[19]のいずれかに記載の精製方法によって得られることを特徴とする金属不純物の含有量が低減した高分子電解質。
【発明の効果】
【0010】
本発明の高分子電解質の精製方法を用いると、簡便なプロセスで、高分子電解質に含まれる金属不純物の含有量が効果的に低減した高分子電解質を得ることができる。また、本精製方法によれば、金属不純物として、金属イオンのみならず、高分子電解質に単体金属(0価)が含まれる場合は、単体金属(0価)の含有量も低減することが可能である。かかる精製方法によって、金属不純物の含有量が低減した高分子電解質を高分子電解質膜として用いた燃料電池は、長期安定性に優れていると期待され、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
前述のように、本発明の高分子電解質の精製方法は、金属不純物を含有する高分子電解質に、キレート剤を作用させることを特徴とする。好ましくは、本発明の高分子電解質の精製方法は、金属不純物を含有する高分子電解質に、キレート剤を作用させて、高分子電解質に含まれる金属不純物の含有量を低減することを特徴とする。より好ましくは、金属不純物を含有する高分子電解質と、キレート剤と、有機溶媒とを含む液状混合物を得てキレート剤を作用させ、該液状混合物から、金属不純物の含有量が低減した高分子電解質を分離する。さらに好ましくは、該高分子電解質の精製方法において、前記液状混合物と、前記高分子電解質に対する貧溶媒とを混合することにより、金属不純物の含有量が低減した高分子電解質を析出させて分離する。
【0013】
従って、以下に、本発明で用いる高分子電解質、高分子電解質に含有される金属不純物、キレート剤、有機溶媒、貧溶媒、キレート剤を作用させる方法、液状混合物を得る方法、金属不純物の含有量が低減した高分子電解質を分離する方法について、順次、説明する。
【0014】
本発明で用いる高分子電解質はイオン交換基を有する。イオン交換基としては特に限定されないが、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基等の酸性基が好ましい。さらに、長期安定性を実現する観点からホスホン酸基であることが、より好ましい。
【0015】
上記高分子電解質は、元素重量含有比で表してハロゲン原子が15重量%以下である炭化水素系高分子電解質が好ましい。かかる炭化水素系高分子電解質は、従来広範に使用されていたフッ素系高分子電解質と比較して安価であり、耐熱性に優れるという利点を有する。炭化水素系高分子電解質とはより好ましくは実質的にハロゲン原子を含有していないものであり、このような炭化水素系高分子電解質は燃料電池の作動時に、他の部材を腐食させたりする恐れがない。
【0016】
上記高分子電解質の数平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)法によるポリスチレン換算値で、2000以上のものが好ましく、5000以上のものがより好ましい。
【0017】
上記高分子電解質において、イオン伝導性を担うイオン交換基の導入量は、イオン交換容量で表して、0.3meq/g〜8.0meq/gが好ましく、より好ましくは0.5meq/g〜5.0meq/gである。該イオン交換容量は、滴定法等によって求めることができる。
【0018】
上記高分子電解質の構造は特に限定されないが、芳香族系高分子電解質が例としてあげられる。芳香族系高分子電解質とは、芳香環を有する化合物から水素原子を2個取り去って得られる2価の芳香族残基を構造単位として直接または連結員を介して連結された高分子化合物のことを意味する。
【0019】
上記高分子電解質は、芳香族系高分子電解質である場合、下記一般式(1a)〜(4a)
【化1】


(式中、Ar1〜Ar9は、互いに独立に側鎖としての置換基を有していてもよい2価の芳香族炭素環を表し、直接および/または側鎖としての置換基中の芳香族炭素環にイオン交換基を有する。Z、Z’は互いに独立にCO、SO2の何れかを表し、X、X’、X''は互いに独立にO、Sの何れかを表す。Yは単結合若しくは置換基を有していてもよいメチレン基を表す。pは0、1または2を表し、q、rは互いに独立に1、2または3を表す。)
から選ばれるイオン交換基を有する繰り返し単位1種以上と下記一般式(1b)〜(4b)
【化2】

(式中、Ar11〜Ar19は、互いに独立に側鎖としての置換基を有していてもよい2価の芳香族炭素環を表す。Z、Z’は互いに独立にCO、SO2の何れかを表し、X、X’、X''は互いに独立にO、Sの何れかを表す。Yは単結合若しくは置換基を有していてもよいメチレン基を表す。p'は0、1または2を表し、q'、r'は互いに独立に1、2または3を表す。)から選ばれるイオン交換基を実質的に有さない繰り返し単位1種以上とを含むものが好ましい。
【0020】
一般式(1a)〜(4a)におけるAr1〜Ar9の2価の芳香族基としては、例えば、1,3−フェニレン、1,4−フェニレン等の2価の単環性芳香族基、1,3−ナフタレンジイル、1,4−ナフタレンジイル、1,5−ナフタレンジイル、1,6−ナフタレンジイル、1,7−ナフタレンジイル、2,6−ナフタレンジイル、2,7−ナフタレンジイル等の2価の縮環系芳香族基、ピリジンジイル、キノキサリンジイル、チオフェンジイル等のヘテロ芳香族基等があげられる。好ましくは2価の単環性芳香族基である。
【0021】
また、Ar1〜Ar9の側鎖としての置換基としては、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリールオキシ基または置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基があげられる。
【0022】
一般式(1a)の繰り返し単位におけるAr1および/またはAr2、一般式(2a)の繰り返し単位におけるAr3〜Ar6の少なくとも1つ以上、一般式(3a)の繰り返し単位におけるAr7および/またはAr8、一般式(4a)の繰り返し単位におけるAr9には、主鎖を構成する芳香環に少なくとも一つのイオン交換基を有する。イオン交換基としては、上述のように酸性基が好ましく、酸性基の中でも、ホスホン酸基、スルホン酸基がより好ましい。
【0023】
一般式(1b)〜(4b)におけるAr11〜Ar19の2価の芳香族基としては、例えば、1,3−フェニレン、1,4−フェニレン等の2価の単環性芳香族基、1,3−ナフタレンジイル、1,4−ナフタレンジイル、1,5−ナフタレンジイル、1,6−ナフタレンジイル、1,7−ナフタレンジイル、2,6−ナフタレンジイル、2,7−ナフタレンジイル等の2価の縮環系芳香族基、ピリジンジイル、キノキサリンジイル、チオフェンジイル等のヘテロ芳香族基等があげられる。好ましくは2価の単環性芳香族基である。
【0024】
また、これらの2価の芳香族基は置換基を有していてもよく、この置換基の説明は前記Ar1〜Ar9の場合と同様である。
【0025】
上記高分子電解質は、ランダム共重合体であっても、交互共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよく、各繰り返し単位の比率は、イオン交換容量が上記範囲に含まれる限りで、適宜選択することができる。
【0026】
上記高分子電解質の代表例としては、例えば以下のものがあげられる。ここで、構造単位に付したa, bは、これらの構造単位の合計を1としたとき、各々の構造単位の共重合比率を、モル分率で示すものである。
【0027】
【化3】

【0028】
【化4】

【0029】
【化5】

【0030】
【化6】

【0031】
【化7】

【0032】
【化8】

【0033】
【化9】

【0034】
【化10】

【0035】
なお、上記構造式において、「block」の表記は、括弧内の繰り返し単位からなるブロックをそれぞれ有するブロック共重合体であることを意味する。また、かかるブロック同士は、直接結合している形態でもよく、適当な原子又は原子団で連結している形態でもよい。
【0036】
上記構造式の中でも、より好ましい高分子電解質としては、例えば、以下のものがあげられる。
【化11】

【0037】
上記高分子電解質の製造方法としては、公知の方法があげられ、例えば、特開2003−238678に記載の製造方法等に基づいて製造することができる。
【0038】
上記高分子電解質に含まれる金属不純物としては、特に限定されないが、キレート剤と配位結合するものが対象となる。例えば、鉄イオン、ニッケルイオン、クロムイオン、亜鉛イオン、銅イオン等があげられる。これらの金属不純物は、高分子電解質の製造設備、原料等によって、不純物として含まれることがある。また、金属不純物として、金属イオンのみならず、単体金属(0価)も、高分子電解質に含まれることがあるが、本発明の精製方法によって、低減することが可能である。高分子電解質の金属不純物の含有量は、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP/AES法)で測定できる。
【0039】
本発明で用いられるキレート剤とは、マグロ−ヒル科学技術用語大辞典第3版425頁(日刊工業新聞社、1996年発行)に記載されているように、金属イオンと2個以上の配位結合を形成しうる原子をもつ有機化合物の総称である。
【0040】
上記キレート剤としては、上記金属不純物と配位結合するものであれば、特に制限はない。具体例としては、ジエチルジチオカルバミン酸、キサントゲン酸、ジフェニルチオカルバゾン、8−キノリノール、アセチルアセトン、2−テノイルトリフルオロアセトン、1−ニトロソ−2−ナフトール、1−(2−ピリジルアゾ)−2−ナフトール、N,N,N’,N’−エチレンジアミン四酢酸(以下、EDTAと略す場合もある)、1,2−ジアミノプロパン−N,N,N’,N’−四酢酸、1,6−ジアミノヘキサン−N,N,N’,N’−四酢酸、ジエチレントリアミン-五酢酸、グリシン−N,N−ビス(メチレンホスホン酸)、グリコールエーテルジアミン四酢酸、N−(2-カルボキシエチル)イミノジ酢酸、N−(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン−N,N’,N’−三酢酸、トリエチレンテトラミン−N,N,N’,N’’,N’’’,N’’’−六酢酸、N,N,N’,N’−エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)等があげられる。これらの中でも、同一分子内に塩基性基と酸性基とを併せ持つものが好ましく用いられる。この場合、塩基性基としては、1級アミノ基、2級アミノ基および3級アミノ基から選ばれる塩基性基であることが好ましい。また、酸性基としては、カルボン酸基、ホスホン酸基およびスルホン酸基から選ばれる酸性基であることが好ましい。このような同一分子内に塩基性基と酸性基とを併せ持つ、配位能を有する基として、ビス(カルボキシメチル)アミノ基、ビス(ホスホノキシメチル)アミノ基等があげられる。また、このような同一分子内に塩基性基と酸性基とを併せ持つキレート剤の具体例としては、例えば、N,N,N’,N’−エチレンジアミン四酢酸、1,2−ジアミノプロパン−N,N,N’,N’−四酢酸、1,6−ジアミノヘキサン−N,N,N’,N’−四酢酸、ジエチレントリアミン-五酢酸、グリシン−N,N−ビス(メチレンホスホン酸)、グリコールエーテルジアミン四酢酸、N−(2-カルボキシエチル)イミノジ酢酸、N−(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン−N,N’,N’−三酢酸、トリエチレンテトラミン−N,N,N’,N’’,N’’’,N’’’−六酢酸、N,N,N’,N’−エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)を用いることがより好ましい。これらの中でも、N,N,N’,N’−エチレンジアミン四酢酸がさらに好ましい。また、キレート剤として、キレート樹脂を用いることもできる。本発明において、キレート樹脂とは、金属イオンと2個以上の配位結合を形成しうる原子団をもつイオン交換樹脂の総称を言う。
【0041】
本発明において、上記キレート剤が上記金属不純物に配位結合した化合物を、キレート錯体と呼称する。
【0042】
上記キレート剤の分子量としては、上記貧溶媒および上記有機溶媒との混合溶媒への溶解性を高める観点から、1000以下であることが好ましい。
【0043】
本発明で用いる有機溶媒としては、上記キレート剤を失活しないものであれば限定されない。具体的には、次のようなものが例示される。
【0044】
n‐ペンタン、n‐ヘキサン、n‐ヘプタン、n‐オクタン、石油エーテル等のアルカン類;
ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリジノン(以下、NMPと略す場合もある)、アセトニトリル等の非プロトン性極性溶媒;
テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジエチルエーテル、ジグライム、等のエーテル類;
ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、ブロモベンゼン、o-ジブロモベンゼン、m-ジブロモベンゼン、ヨードベンゼン、ベンゾニトリル、ニトロベンゼン等のベンゼン誘導体類;
等があげられる。
【0045】
これらの中でも、上記高分子電解質の溶解性が良好となる観点から、非プロトン性極性溶媒を含むものが好ましく、非プロトン性極性溶媒としては、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリジノン等が好ましい。
【0046】
本発明において、「貧溶媒」とは、該貧溶媒に対する上記高分子電解質の溶解度が25℃で1重量%未満であるものを意味する。さらに、貧溶媒はキレート錯体の溶解性が十分に確保できることが好ましく、キレート錯体およびキレート剤の溶解性が十分に確保されていることがより好ましい。このような貧溶媒としては、プロトン性溶媒が含まれることが好ましく、プロトン性溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール等があげられ、この中でも、水が好ましく用いられる。
【0047】
本発明では、金属不純物を含有する高分子電解質に、キレート剤を作用させることにより、高分子電解質の金属不純物の含有量が低減される。本発明において、本発明者らは、金属不純物を含有する高分子電解質にキレート剤を作用させることにより、キレート剤が金属不純物に配位してキレート錯体が形成され、高分子電解質に含まれる金属不純物の含有量が低減されると推定している。従って、キレート錯体を効率良く生成させるように、金属不純物を含有する高分子電解質に、キレート剤を作用させることが好ましい。例えば、金属不純物を含有する高分子電解質と、キレート剤と、有機溶媒とを含む液状混合物を得てキレート剤を作用させ、該液状混合物から、金属不純物の含有量を低減した高分子電解質を分離することが好ましい。
【0048】
前記液状混合物は、前記金属不純物を含有する前記高分子電解質と、前記キレート剤と、前記有機溶媒とを含む。キレート錯体を効率良く生成させる観点から、好ましくは、高分子電解質と、キレート剤とが有機溶媒に溶解または膨潤していることが好ましい。例えば、有機溶媒に、高分子電解質とキレート剤とがともに溶解していてもよいし、高分子電解質のみ溶解し、キレート剤が膨潤していてもよいし、キレート剤のみ溶解し、高分子電解質が膨潤していてもよい。本発明において、「膨潤」とは、前記有機溶媒に溶解せず、前記有機溶媒を自重の10重量%以上吸収することができることを意味する。自重に対する有機溶媒の吸収量は、例えば有機溶媒に浸漬する前後での高分子電解質の重量を秤量することによって測定することができる。
【0049】
また、金属不純物を効率的に低減する観点から、有機溶媒に対して、高分子電解質および/またはキレート剤の溶け残りがないように調整することが好ましい。さらに、生成したキレート錯体が、有機溶媒に溶解していることが好ましく、キレート剤とキレート錯体とがともに有機溶媒に溶解していることが好ましい。
【0050】
前記液状混合物を得る方法としては、その方法は、特に限定されないが、例えば、高分子電解質をキレート剤とともに有機溶媒に添加した後、攪拌する方法があげられる。さらに、効率的に精製する観点から、得られた液状混合物を濾過することが好ましい。ここでの濾過は一般的に用いられている任意の方法を適用可能である。濾紙、濾布等のフィルターをブフナーロート等の濾過装置に装備しての濾過が例としてあげられる。
【0051】
前記液状組成物中の高分子電解質の濃度としては、金属不純物の含有量を低減した高分子電解質を効率よく回収する観点から、1重量%以上であることが好ましく、2重量%以上であることがより好ましく、3重量%以上であることがさらに好ましい。また、金属不純物の含有量を効率的に低減する観点から、50重量%以下であることが好ましく、40重量%以下であることがより好ましく、30重量%以下であることがさらに好ましい。
【0052】
前記液状組成物中のキレート剤の量としては、高分子電解質中に含有される金属不純物の全量に対して、キレート錯体を形成できる過剰量であれば、特に制限はない。キレート錯体を効率よく生成させる観点から、高分子電解質100重量部に対して、0.01重量部以上であることが好ましく、0.05重量部以上であることがさらに好ましい。また、高分子電解質と、キレート剤および/またはキレート錯体とを効率よく分離する観点から、高分子電解質100重量部に対して、30重量部以下であることが好ましく、20重量部以下であることがより好ましく、15重量部以下であることがさらに好ましい。
【0053】
本発明において、前記液状組成物を製造する際の温度としては、適用される高分子電解質によって任意に最適化できるが、通常0℃から150℃の範囲で行うことが好ましく、中でも5℃から100℃の範囲で行うと、より好ましく、10℃から80℃の範囲で行うと、さらに好ましい。
【0054】
本発明において、該液状混合物から、金属不純物の含有量を低減した高分子電解質を分離する方法としては、特に限定されない。本発明において、該液状混合物から、金属不純物の含有量を低減した高分子電解質を分離することにより、前記キレート錯体と高分子電解質とが分離され、高分子電解質中に含有される金属不純物が低減されると推定される。該分離方法としては、例えば、公知の固液分離法等があげられる。固液分離法としては、例えば、濾過法、遠心分離法等があげられ、工業的な観点から濾過法が好ましい。濾過法としては、上述の濾過等があげられる。
【0055】
さらに、上記分離する方法として、前記液状混合物から、金属不純物の含有量が低減した高分子電解質を析出させて分離することが好ましく、前記液状混合物と、前記高分子電解質に対する貧溶媒とを混合することにより、金属不純物を低減した高分子電解質を析出させて分離することがより好ましい。前記液状混合物と貧溶媒とを混合する方法としては、例えば、貧溶媒に前記液状混合物を滴下する方法等があげられる。また、精製効率を高める為に、攪拌等により混合することが好ましい。前記液状組成物と貧溶媒との混合液においては、前記キレート錯体が溶解していることが好ましく、前記キレート錯体および前記キレート剤の両方が溶解していることがより好ましい。高分子電解質を析出させた後、上述の固液分離等を行い、金属不純物の含有量が低減した高分子電解質を得ることが好ましい。
【0056】
前記貧溶媒の量としては、前記高分子電解質を析出させるのに十分な量であれば、特に制限はないが、高分子電解質を十分に析出させる観点から、貧溶媒が、前記有機溶媒に対して、重量比で1.0倍以上であると好ましく、3.0倍以上であるとより好ましい。
【0057】
また、前記貧溶媒には、高分子電解質の回収効率を高める観点において、酸、アルカリ、塩等を添加してもよい。酸を添加する場合は、上記貧溶媒による洗浄で除去しやすいことから、無機酸が好ましい。無機酸としては、塩酸、硫酸等があげられる。
【0058】
一方、前記貧溶媒には、生成したキレート錯体を保護する観点においては、中性に調整することが好ましい。pHは5〜9であることが好ましく、6〜8であるとより好ましい。
【0059】
前記金属不純物の含有量を低減した高分子電解質析出時の温度としては、上記有機溶媒と、上記貧溶媒の融点および沸点と、析出させる高分子電解質とによって任意に最適化できるが、通常0℃から100℃の範囲で行うことが好ましく、中でも10℃から90℃の範囲で行うと、より好ましく、20℃から80℃の範囲で行うと、さらに好ましい。
【0060】
本発明において、金属不純物の含有量が低減した高分子電解質を回収した後、前記貧溶媒で繰り返し洗浄することが好ましい。高分子電解質に残存した微量の不純物はガスクロマトグラフィー等の通常の手段で定量可能である。その後、得られた金属不純物の含有量が低減した高分子電解質を乾燥させることが好ましい。このようにして得られた高分子電解質の金属不純物の含有量は、400ppm(重量百万分率)以下であることが好ましく、200ppm(重量百万分率)以下であることがより好ましく、100ppm(重量百万分率)以下であることがさらに好ましい。
【実施例】
【0061】
以下に実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0062】
本発明の実施例の具体的説明に移る前に、各製造例、各実施例および各比較例で得られた高分子電解質の諸物性の測定方法、および、高分子電解質に含まれる金属不純物含有率の測定方法を以下に説明する。各含有率は測定試料に対する含有率である。
【0063】
[リン含有率(単位:重量%)]
試料を硫酸-硝酸分解後塩酸溶解し、ICP発光分析法にて測定した。
【0064】
[臭素含有率(単位:重量%)]
試料を酸素燃焼し、イオンクロマトグラフ分析法にて測定した。
【0065】
[分子量]
ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)法により、下記の分析条件でポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)を測定した。
【0066】
GPC装置 TOSOH製 HLC8220型
カラム TOSOH製 TSK−gel GMHHR−M
カラム温度 40℃
移動相溶媒 ジメチルアセトアミド
(臭化リチウムを10mmol/dm3になるように添加)
移動相流量 0.5mL/min
【0067】
[金属不純物含有率(単位:ppm(重量百万分率))]
誘導結合プラズマ発光分析法(ICP/AES法)にて測定した。測定結果は、試料中に単体金属(0価)を含む場合は、単体金属(0価)および金属イオンを含む数値である。
【0068】
[残存EDTA含有率(単位:ppm(重量百万分率))]
試料をマイクロホモジナイザーで粉砕後、アルカリ溶液で抽出・濾過した。キャピラリー電気泳動法−質量分析法(CE/MS法)にて測定した。なお、実測値には、金属不純物に配位したEDTA錯体も含む数値である。
【0069】
合成例1[ランダム共重合体Aのブロモ化]
【化12】

攪拌装置を取り付けた反応容器に、上記一般式(1)で表されるランダム共重合体A(4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ビフェノールから、公知のアルカリ縮合法を用いて得られる共重合体。式中に付記した数値は、各構造単位のモル組成比を表す。Mn=2.0×104、Mw=3.8×104。)5.0重量部、を入れ、窒素雰囲気下、ニトロベンゼン65重量部を加えて溶解した。N-ブロモこはく酸イミド1.5重量部(4,4’−ビフェノール由来構造単位に対し2.5モル倍)を溶解させた後15℃まで冷却し、濃硫酸6.3重量部(N-ブロモこはく酸イミドに対して7.6モル倍)を30分間かけて滴下した。滴下終了後、15℃で4時間攪拌して、反応途中の反応溶液の性状を観察した。反応溶液の不均一化や、反応生成物等の析出は認められなかった。反応終了後、10重量%水酸化ナトリウム水溶液を加え中和したのち、チオ硫酸ナトリウム水溶液を少量加えて攪拌した。メタノール200重量部に注ぎスラリーとなったものを吸引濾過して得た沈殿を繰り返し過剰量のメタノールで洗浄し、過剰量のイオン交換水で洗浄した後、減圧乾燥した。その後、ランダム共重合体Aのブロモ化物の諸物性を測定した。4,4’−ビフェノール由来の構造単位1個当たり、臭素原子が約1.9個置換していることが判明した。
【0070】
(ランダム共重合体Aのブロモ化物の分析結果)
臭素含有率 9.3重量%
GPC分析 Mn 2.0×104
Mw 3.7×104
【0071】
ランダム共重合体Aのブロモ化物を用い、特開2005−038834参考例記載の方法に準拠し、ホスホン酸エステル化、加水分解することにより、生成物Bを得た。但し、塩酸加水分解工程においては、金属不純物を含有させるため、ステンレス部材を有する反応容器を用いて実施した。生成物Bの諸物性を測定したところ主成分は、4,4'−ビフェノール由来のユニット1つに対してBrが約0.0個、ホスホン酸基が約1.9個置換された一般式(2)で表されるホスホン酸基含有共重合体であった。また、生成物Bの金属不純物含有率を測定した。分析結果より、得られた生成物Bは、金属不純物を含有することが判明した。
【0072】
(生成物Bの分析結果)
リン含有率 3.6重量%
臭素含有率 0.0重量%
GPC分析 Mn 1.9×104
Mw 3.1×104
金属不純物含有率 Fe 720ppm
Ni 56ppm
【0073】
【化13】

【0074】
合成例2[ランダム共重合体Cのブロモ化]
【化14】

攪拌装置を取り付けた反応容器に、上記一般式(3)で表されるランダム共重合体C(4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ビフェノールから、公知のアルカリ縮合法を用いて得られる共重合体。式中に付記した数値は、各構造単位のモル組成比を表す。Mn=8×103、Mw=1.5×104)6.0重量部を入れ、窒素雰囲気下、ニトロベンゼン78.1重量部を加えて溶解した。N-ブロモこはく酸イミド3.8重量部(4,4’−ビフェノール由来構造単位に対し2.5モル倍)を溶解させた後15℃に冷却し、濃硫酸5.9重量部(N-ブロモこはく酸イミドに対して2.9モル倍)を約10分間かけて滴下した。滴下終了後、30℃で6時間攪拌して、反応途中の反応溶液の性状を観察した。反応溶液の不均一化や、反応生成物等の析出は認められなかった。反応終了後、10重量%水酸化ナトリウム水溶液を加え中和したのち、チオ硫酸ナトリウム水溶液を少量加えて攪拌した。メタノール77重量部に注ぎスラリーとなったものを吸引濾過して得た沈殿を繰り返し過剰量のメタノールで洗浄し、過剰量のイオン交換水で洗浄した後、減圧乾燥した。その後、ランダム共重合体Cのブロモ化物の諸物性を測定した。4,4’−ビフェノール由来の構造単位1個当たり、臭素原子が約1.8個置換していることが判明した。
【0075】
(ランダム共重合体Cのブロモ化物の分析結果)
臭素含有率 19.5重量%
GPC分析 Mn 7.7×103
Mw 1.1×104
【0076】
ランダム共重合体Cのブロモ化物を用い、特開2003−238678に記載の方法に準拠しこの共重合体をホスホン酸エステル化、加水分解することにより、生成物Dを得た。但し、塩酸加水分解工程においては、金属不純物を含有させるため、ステンレス部材を有する反応容器を用いて実施した。生成物Dの諸物性を測定したところ主成分は、4,4'−ビフェノール由来のユニット1つに対してBrが約0.0個、ホスホン酸基が約1.4個置換された一般式(4)で表されるホスホン酸基含有共重合体であった。また、生成物Dの金属不純物含有率を測定した。分析結果より、得られた生成物Dは、金属不純物を含有することが判明した。
【0077】
(生成物Dの分析結果)
リン含有率 5.1重量%
臭素含有率 0.1重量%
GPC分析 Mn 1.4×104
Mw 2.2×104
金属不純物含有率 Fe 615ppm
Ni 64ppm
【0078】
【化15】

【0079】
実施例1
上記生成物Bを10重量部と、エチレンジアミン四酢酸(分子量292)を0.50重量部とを、NMP90重量部に60℃で6時間溶解・攪拌して、濾過した後、濾液をイオン交換水(pH7)1000重量部に滴下した。室温で30分間攪拌後、析出した析出物を沈澱させ、濾過して析出物を回収した。回収した析出物に対し、イオン交換水にて洗浄を繰り返した後、乾燥して、精製物B1を8.6重量部得た。
その後、得られた精製物B1に含まれる金属不純物含有率を測定した。
【0080】
(分析結果)
金属不純物含有率 Fe 29ppm
【0081】
実施例2
上記生成物Dを10重量部と、エチレンジアミン四酢酸を1.0重量部とを、NMP40重量部に100℃で溶解・攪拌して、濾過した後、濾液をイオン交換水(pH7)452重量部に滴下した。室温で30分間攪拌後、析出した析出物を沈澱させ、濾過して析出物を回収した。回収した析出物に対し、イオン交換水にて洗浄を繰り返した後、乾燥して、精製物D1を7.6重量部得た。
その後、得られた精製物D1に含まれる金属不純物含有率および残存EDTA含有率を測定した。
【0082】
(分析結果)
金属不純物含有率 Fe 25ppm
Ni <1ppm
残存EDTA含有率 <10ppm
【0083】
実施例3
上記生成物Bを10重量部と、エチレンジアミン四酢酸を0.50重量部とを、NMP90重量部に60℃で6時間溶解・攪拌して、5重量%塩酸水溶液(pH1)1000重量部に滴下した。室温で30分間攪拌後、析出した析出物を沈澱させ、濾過して析出物を回収した。回収した析出物に対し、イオン交換水にて洗浄を繰り返した後乾燥して、精製物B2を9.9重量部得た。
その後、得られた精製物B2に含まれる金属不純物含有率を測定した。
【0084】
(分析結果)
金属不純物含有率 Fe 346ppm
【0085】
合成例3[ランダム共重合体Aのスルホン化]
【化16】

攪拌装置を取り付けた反応容器に、上記一般式(1)で表されるランダム共重合体A(4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ビフェノールから、公知のアルカリ縮合法を用いて得られる共重合体。式中に付記した数値は、各構造単位のモル組成比を表す。Mn=2.0×104、Mw=3.8×104。)250重量部を入れ、窒素雰囲気下、濃硫酸2295重量部を加えて溶解した。25℃で12時間攪拌した。反応溶液の不均一化や、反応生成物等の析出は認められなかった。反応終了後、5℃のイオン交換水10000重量部に注ぎ、スラリーとなったものを吸引濾過して得た沈殿を繰り返した。濾液のpHが7になったことを確認し、減圧乾燥し、生成物Eを266重量部得た。得られた生成物E(ランダム共重合体Aのスルホン化物)の諸物性を測定したところ、一般式(5)で表されるスルホン酸基含有共重合体であった。イオン交換容量から、4,4’−ビフェノール由来の構造単位1個当たり、スルホン酸基が約1.9個置換していることが判明した。
【0086】
(生成物Eの分析結果)
イオン交換容量 1.15meq/g
GPC分析 Mn 4.0×104
Mw 7.2×104


【0087】
合成例4[生成物EのFe汚染]
生成物Eに金属不純物を含有させるため、下記の処理を実施した。
生成物E 30.0重量部を、塩化第1鉄 10.0重量部とイオン交換水 90.0重量部からなる水溶液に分散させ、25℃で4時間攪拌した。過剰量のイオン交換水で洗浄したのち、2.0N塩酸100重量部に2時間浸漬して濾過する操作を3回繰り返し、余剰のFe分を除去した。過剰量のイオン交換水で繰り返し洗浄し、乾燥して生成物E1を28.1重量部得た。
【0088】
(分析結果)
金属不純物含有率 Fe 2800ppm
【0089】
実施例4
上記生成物E1 3.0重量部と、エチレンジアミン四酢酸 0.30重量部とを、NMP12.0重量部に100℃で3時間溶解・攪拌して、イオン交換水150重量部に滴下した。室温で30分間攪拌後、析出した析出物を沈澱させ、濾過して析出物を回収した。回収した析出物に対し、イオン交換水にて洗浄を繰り返した後乾燥して、精製物E2を2.9重量部得た。
その後、得られた精製物E2に含まれる金属不純物含有率を測定した。
【0090】
(分析結果)
金属不純物含有率 Fe 25ppm
【0091】
合成例5[生成物EのFe汚染]
生成物Eに金属不純物を含有させるため、下記の処理を実施した。
生成物E 30.0重量部を、塩化第2鉄 10.0重量部とイオン交換水 90.0重量部からなる水溶液に分散させ、25℃で4時間攪拌した。過剰量のイオン交換水で洗浄したのち、2.0N塩酸100重量部に2時間浸漬して濾過する操作を3回繰り返し、余剰のFe分を除去した。過剰量のイオン交換水で繰り返し洗浄し、乾燥して生成物E328.0重量部を得た。
【0092】
(分析結果)
金属不純物含有率 Fe 1500ppm
【0093】
実施例5
上記生成物E3 3.0重量部と、エチレンジアミン四酢酸 0.30重量部とを、NMP12.0重量部に100℃で3時間溶解・攪拌して、イオン交換水150重量部に滴下した。室温で30分間攪拌後、析出した析出物を沈澱させ、濾過して析出物を回収した。回収した析出物に対し、イオン交換水にて洗浄を繰り返した後乾燥して、精製物E4を2.8重量部得た。
その後、得られた精製物E4に含まれる金属不純物含有率を測定した。
【0094】
(分析結果)
金属不純物含有率 Fe <10ppm
【0095】
比較例1
上記生成物Bを10重量部、24重量%塩酸水溶液183重量部に分散させて、加熱還流条件下で2時間攪拌後、濾過して、分散物を回収し、再度、回収した分散物を24重量%塩酸水溶液73重量部に分散させて、加熱還流条件下で2時間攪拌後、濾過し、分散物を回収した。回収した分散物に対し、イオン交換水にて洗浄を繰り返した後、乾燥して、精製物B3を9.3重量部得た。
その後、得られた精製物B3に含まれる金属不純物含有率を測定した。
【0096】
(分析結果)
金属不純物含有率 Fe 640ppm
【0097】
上記精製前の合成例で得られた生成物、実施例および比較例で得られた精製物中の金属不純物含有率を、表1にまとめる。
【0098】
【表1】

【0099】
表1から、実施例1〜実施例5で得られた精製物は、精製前の合成例1、2、4および5で得られた生成物と比較して、金属不純物の含有量が効果的に低減されていることが分かる。しかしながら、キレート剤を作用させていない比較例1で得られた精製物では、金属不純物の効果的な低減がみられない。また、キレート剤として、実施例1〜実施例5で用いたエチレンジアミン四酢酸に代えて、分子内にビス(カルボキシエチル)アミノ基等を有するキレート樹脂を用いても、金属不純物の含有量を低減することができる。これらの結果から、本発明の精製方法により、簡便なプロセスで、高分子電解質に含まれる金属不純物の含有量が効果的に低減されることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属不純物を含有する高分子電解質に、キレート剤を作用させる高分子電解質の精製方法。
【請求項2】
金属不純物を含有する高分子電解質に、キレート剤を作用させて、高分子電解質に含まれる金属不純物の含有量を低減することを特徴とする高分子電解質の精製方法。
【請求項3】
金属不純物を含有する高分子電解質と、キレート剤と、有機溶媒とを含む液状混合物を得てキレート剤を作用させ、該液状混合物から、金属不純物の含有量が低減した高分子電解質を分離することを特徴とする請求項1または2に記載の高分子電解質の精製方法。
【請求項4】
前記液状混合物から、金属不純物の含有量が低減した高分子電解質を析出させて分離することを特徴とする請求項3に記載の高分子電解質の精製方法。
【請求項5】
前記液状混合物と、前記高分子電解質に対する貧溶媒とを混合することにより、金属不純物の含有量が低減した高分子電解質を析出させて分離することを特徴とする請求項3または4に記載の高分子電解質の精製方法。
【請求項6】
前記キレート剤が、前記有機溶媒に溶解していることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の高分子電解質の精製方法。
【請求項7】
前記キレート剤の分子量が、1000以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の精製方法。
【請求項8】
前記キレート剤が、同一分子内に塩基性基および酸性基を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の精製方法。
【請求項9】
前記塩基性基が、1級アミノ基、2級アミノ基および3級アミノ基から選ばれる塩基性基であることを特徴とする請求項8に記載の精製方法。
【請求項10】
前記酸性基が、カルボン酸基、ホスホン酸基およびスルホン酸基から選ばれる酸性基であることを特徴とする請求項8または9に記載の精製方法。
【請求項11】
前記キレート剤が、N,N,N’,N’−エチレンジアミン四酢酸またはN,N,N’,N’−エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の精製方法。
【請求項12】
前記有機溶媒が、非プロトン性極性溶媒を含むことを特徴とする請求項3〜11のいずれか1項に記載の精製方法。
【請求項13】
前記貧溶媒が、プロトン性溶媒を含むことを特徴とする請求項5〜12のいずれか1項に記載の精製方法。
【請求項14】
前記プロトン性溶媒が、水であることを特徴とする請求項13に記載の精製方法。
【請求項15】
前記貧溶媒が、無機酸を含むことを特徴とする請求項5〜14のいずれか1項に記載の精製方法。
【請求項16】
前記高分子電解質に含まれるイオン交換基が、酸性基を有することを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の精製方法。
【請求項17】
前記高分子電解質に含まれるイオン交換基が、ホスホン酸基であることを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載の精製方法。
【請求項18】
前記高分子電解質に含まれるイオン交換基が、スルホン酸基であることを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載の精製方法。
【請求項19】
前記高分子電解質が、芳香族系高分子電解質を有することを特徴とする請求項1〜18のいずれか1項に記載の精製方法。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか1項に記載の精製方法によって得られることを特徴とする金属不純物の含有量が低減した高分子電解質。

【公開番号】特開2009−170412(P2009−170412A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319315(P2008−319315)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】