高分岐かつ高分子量のグリコーゲン
【課題】重量平均分子量が100万Da以上のグリコーゲンを提供すること
【解決手段】重量平均分子量が100万Da以上のグリコーゲンが提供される。このグリコーゲンに50U/g基質のプルラナーゼを60℃で30分間作用させた場合に得られる生成物をMALLS法によって分析した場合の重量平均分子量は50万Da以上であり、かつ、このグリコーゲンに300U/g基質のα−アミラーゼを37℃で30分間作用させた場合に得られる生成物をMALLS法によって分析した場合の重量平均分子量は50万Da以上である。
【解決手段】重量平均分子量が100万Da以上のグリコーゲンが提供される。このグリコーゲンに50U/g基質のプルラナーゼを60℃で30分間作用させた場合に得られる生成物をMALLS法によって分析した場合の重量平均分子量は50万Da以上であり、かつ、このグリコーゲンに300U/g基質のα−アミラーゼを37℃で30分間作用させた場合に得られる生成物をMALLS法によって分析した場合の重量平均分子量は50万Da以上である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分岐かつ高分子量のα−グルカン、特にグリコーゲンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α−グルカンは、α−D−グルコースの重合体である。α−グルカンは、自然界に種々の形態で存在する。α−グルカンの中でも、グリコーゲンおよび澱粉が代表的である。しかし、グリコーゲンと澱粉との構造的特性および物理的特性は互いに大きく異なる。
【0003】
グリコーゲンは、動物、真菌、酵母および細菌の主な貯蔵多糖である。グリコーゲンは、水に可溶性であり、乳白色の溶液となる。動物のグリコーゲンの分子構造はよく研究されている。天然グリコーゲンは、ブドウ糖(グルコース)のα−1,4−グルコシド結合を介して直鎖状に連結した糖鎖からα−1,6−グルコシド結合で枝分れし、さらにそれも枝分かれして網状構造を形成したホモグルカンである。天然グリコーゲンは、α−1,6−グルコシド結合によって連結された、平均重合度約10〜約14のα−1,4−グルコシド結合鎖から構成されている。天然グリコーゲンの分子量については、色々な説があるが、約105〜約108とされている。天然グリコーゲンは、分子量約107の粒子(β粒子)またはβ粒子の凝集により形成されたさらに大きな粒子(α粒子)として存在する。細菌のグリコーゲンの構造は、動物のグリコーゲンの構造と類似すると考えられる。ある種の植物(たとえばスイートコーン)にもグリコーゲンと類似した構造のグルカンが存在し、植物グリコーゲン(フィトグリコーゲン)と呼ばれる。
【0004】
澱粉は、植物の主な貯蔵多糖であり、水不溶性粒子として存在する。この粒子は、2つの異なる多糖を含む。この多糖は、アミロースおよびアミロペクチンである。アミロースは、α−1,4結合によって連結された、本質的に直鎖のD−グルコース単位である。アミロペクチンは、分岐した重合体であり、クラスター構造をとると考えられている。各々のクラスター単位は、α−1,6−グルコシド結合によって一緒に連結された、平均重合度約12〜約24のα−1,4−グルコシド結合した鎖からなる。クラスター単位は、約30〜約100の重合度の、より長いα−1,4−グルコシド結合鎖によってさらに一緒に連結される。アミロペクチン全体の平均鎖長は、重合度約18〜約25である。澱粉のアミロペクチンも、グリコーゲンと同様にα−1,4−グリコシド結合およびα−1,6グリコシド結合によって連結されたグルカンであるが、アミロペクチンと比較して、グリコーゲンはより高度に枝分かれしている。
【0005】
グリコーゲンは、最近、免疫賦活効果を持つことが証明された。そのため、グリコーゲンは、免疫賦活剤、健康食品素材などとしての用途が期待できる。他には化粧品素材、食品素材(調味料)、その他産業用素材としての用途が期待できる。グリコーゲンは、産業上種々の分野で利用されている。グリコーゲンの用途としては、例えば、以下が挙げられる
:微生物感染症治療剤、保湿剤(例えば、皮膚の保湿性向上に有効な化粧料、口唇の荒れを防ぐ口唇用化粧料)、複合調味料(例えば、ホタテ貝柱の味を有する複合調味料)、抗腫瘍剤、発酵乳の生成促進剤、コロイド粒子凝集体、毛髪の櫛通り性および毛髪のツヤに影響する毛髪表面の耐摩耗性を改善する物質、細胞賦活剤(表皮細胞賦活剤、線維芽細胞増殖剤など)、ATP産生促進剤、しわなどの皮膚の老化症状改善剤、肌荒れ改善剤、蛍光体粒子表面処理剤、環状四糖(CTS;cyclo{→6)−α−D−glcp-(1
→3)−α−D−glcp−(1→6)−α−D−glcp−(1→3)−α−D−glcp−(1→})の合成の際の基質。グリコーゲンは、皮膚外用剤(例えば、化粧水、乳液、クリーム、美容液、養毛剤、育毛剤、パック、口紅、リップクリーム、メイクアップベースローション、メイクアップベースクリーム、ファンデーション、アイカラー、チークカラー、シャンプー、リンス、ヘアーリキッド、ヘアートニック、パーマネントウェーブ剤、ヘアカラー、トリートメント、浴用剤、ハンドクリーム、レッグクリーム、ネッククリーム、ボディローションなど)中、眼用溶液中などで用いられ得る。
【0006】
イガイ(ムール貝)由来のグリコーゲン、およびスイートコーン由来の植物性グリコーゲン(フィトグリコーゲン)は、販売されているが高価であり、主に化粧品に保湿剤として用いられている。試薬としては、各種貝類由来または動物の肝臓由来のグリコーゲンも販売されているが極めて高価であり、産業用に利用することは困難である。
【0007】
そのため、グリコーゲンを多量にかつ安価に提供することが望まれている。
【0008】
ブランチングエンザイム(系統名:1,4−α−D−グルカン:1,4−α−D−グルカン 6−α−D−(1,4−α−D−グルカノ)−トランスフェラーゼ、EC 2.4.1.18;本明細書中では、BEとも記載する)は、α−1,4−グルコシド結合を切断し、別のグルコース残基の6位OH基に転移することにより、α−1,6−グルコシド結合を形成する酵素である。BEは、動物、植物、糸状菌類、酵母および細菌に広く分布しており、グリコーゲンまたは澱粉の分岐結合合成を触媒している。
【0009】
馬鈴薯由来BEの触媒作用は、1970年代に詳細に調べられており、BEが分子間枝作り反応(図1A)を触媒することが証明されている。また、BEが環状化反応(図1B)を触媒することは、1990年代後半に証明された。この環状化反応の証明により、分子内枝作り反応(図1C)が触媒されることも、論理的に推定された。すなわち、α−1,4−グルコシド結合を切断して、別のグルコース残基の6位OH基に転移してα−1,6−グルコシド結合を形成する、というミクロな観点から見ると、これら3つの反応は同一であるといえるためである。なお、BEは、グリコシドヒドロラーゼファミリー13(α−アミラーゼファミリー)の一員とされ、α−アミラーゼと基本的に同一のメカニズムにより、単一の活性中心においてα−1,4−グルコシド結合の切断および6位OH基への転移を触媒すると考えられている。
【0010】
BEを、別の酵素α-グルカンホスホリラーゼとともにグルコース−1−リン酸とオリ
ゴ糖に作用させることにより、およびグリコーゲン合成酵素(またはデンプン合成酵素)とともにUDP−グルコース(またはADP−グルコース)に作用させることにより、天然グリコーゲンと類似の構造と性質を持つグリコーゲンを合成できることは知られている。しかし、α−グルカンホスホリラーゼは試薬として販売されているが、きわめて高価である。またグリコーゲン合成酵素、デンプン合成酵素の入手は困難である。さらに、グルコース−1−リン酸、UDP−グルコース、ADP−グルコースは極めて高価である。これらのことから、この方法では、グリコーゲンを多量にかつ安価に提供するという課題は達成できなかった。
【0011】
グルカンのような高分子は、一般に均一な分子ではなく、種々の大きさの分子の混合物
であるため、その分子量は数平均分子量(Mn)もしくは重量平均分子量(Mw)で評価する。Mnは、その系の全質量を、その系に含まれる分子の個数で割ったものである。すなわち数分率による平均である。一方、Mwは重量分率による平均である。完全に均一な物質であれば、Mw=Mnとなるが、高分子は一般に分子量分布を有するためMw>Mnとなる。したがって、Mw/Mnが1より大きいほど、分子量の不均一度が大きい(分子量分布が広い)ということになる。
【0012】
酵素を用いて合成したアミロース(例えば、(株)アジノキ製の酵素合成アミロース)は、分子量分布が狭いことが知られている(Mw/Mn<1.2、非特許文献4、およびFujii,K.ら(2003)Biocatalysis and Biotransformation 21巻,167−172頁では、Mw/Mn=1.005〜1.006)。一方天然から抽出したアミロースは、分子量分布が比較的広く、Mw/Mnは約2〜約5である(Eliasson,A.−C.編(1996)Carbohydrates in food、Marcel Dekker,Inc、New York、中の347−429頁、Hizukuri, S.、Starch:analytical aspects、のTalbe 15に重合度DP(数平均DPn、重量平均DPw)で記載。これらのDPに162を乗ずれば、それぞれの平均分子量となる)。
【0013】
Mnは、分子の個数を評価することにより、決定できる。すなわち、アミロースなどにおいては、還元性末端数を測定することにより決定できる。還元性末端数の測定は、例えば非特許文献7に記載されるModified Park−Johnson法により決定できる。また、非特許文献8に記載される示差屈折計と多角度光散乱検出器とを併用したゲルろ過クロマトグラフィー(MALLS法)によっても、決定できる。Mwは、非特許文献8に記載されるMALLS法によって決定できる。
【0014】
本明細書においては、基質の分子量は主として数平均分子量(Mn)で評価し、生成物グルカンの分子量は主として重量平均分子量(Mw)で評価している。生成物においては、図1Bに示すような環状化反応が起こった場合、還元末端数評価法では、Mnを正しく評価できないためである。また、非常に巨大な分子の分子量を評価する場合、相対的に還元末端数が少なく、正確なMn評価が行いにくいためでもある。さらに、MALLS法によるMn評価法は、ゲルろ過による分画が完全であることを前提としており、分画が不完全であると正確なMn評価ができないためでもある。
【0015】
BEをアミロペクチンまたはデンプンに作用させて高分子量α−グルカンを得た例は存在する。BEを単独でα−グルカン(例えば、アミロース)に作用させた例は数多くある。しかし、アミロースにBEを作用させて分子量約100万以上の高分子量α-グルカン
を得た例は存在しない。また、アミロペクチンにBEを作用させた場合に得られる高分子量α−グルカンは、非特許文献17にあるように、アミロペクチンの基本構造に枝が増えたようなものであると考えられており、グリコーゲン(球状の構造を有する)は合成されていなかったと言える。例えば、非特許文献1および非特許文献2には、Neurospora crassa由来のBEをアミロペクチンまたはアミロースに作用させて、これらを6グルコース単位の単位鎖からなる高分岐グリコーゲン様分子に変換させたことが記載されている。しかし、「グリコーゲン様」とは、ヨウ素による呈色度がグリコーゲンに似たものとなったということを示しているにすぎない。ここで基質として用いられたアミロースは、数平均重合度15、22または130であり、それぞれ、Mnは約2430、約3600および約21000である。特に、非特許文献2は、N.crassa由来のBEが、平均重合度15あるいは22の短鎖長のアミロースに作用できること、植物起源のBEでは作用しうる最小の重合度が30〜40以上であることを記載している。非特許文献2はまた、N.crassa由来のBEが、12残基以上のグルコース鎖に対して作用し、六糖を最小単位として転移反応を行うことが示唆されたと記載している。非特許文
献1のFig.1と2、および非特許文献2のFig.3および4からわかるように、N.crassa由来のBEをアミロペクチンおよびアミロースに作用させると、これらの基質の分子量は変化しなかった。さらに、非特許文献1のFig.4と5および非特許文献2のFig.5と6からは、基質分子よりも若干大きな分子と、若干小さな分子が得られたことが示されており、大幅な高分子化は観察されなかった。
【0016】
例えば、非特許文献3は、トウモロコシのBEIを平均鎖長300を超えるアミロースに作用させることにより、生成物のゲルろ過での溶出時間の遅れが生じたこと、これは形状の変化に起因するものであって、分子量の変化によるものではないことを記載している。
【0017】
例えば、非特許文献4は、BE(特に、Q酵素)をアミロースに作用させることにより得られたアミロペクチン様分子の分子量が、反応時間が長くなるほど低下することを記載している。
【0018】
例えば、非特許文献5は、Mw67600のアミロースに馬鈴薯由来のBE(Q酵素)を作用させると、Mw33500の反応産物が得られることを記載している。
【0019】
例えば、非特許文献6は、Mn200,000のアミロースに馬鈴薯由来のBEを作用させることにより、Mw22,000のグルカンが得られることを記載している。
【0020】
例えば、非特許文献7は、Bacillus stearothermophilus由来のBEを、Mw302,000の酵素合成アミロースに作用させると、環状化反応により分子量が低下したことを記載している。なお、基質として用いられた、酵素合成アミロースは、その分子量分布が狭いことが知られている。例えば、非特許文献4によれば、Mw/Mn<1.2であり、Fujii,K.ら(2003)Biocatalysis
and Biotransformation 21巻,167−172頁によれば、Mw/Mn=1.005〜1.006である。また、メーカーである(株)アジノキのパンフレットによるとMw/Mn<1.1である。したがって、ここで用いられた酵素合成アミロースのMnは、約252,000〜302,000である。そのため、酵素合成アミロースのおよそのMnは、Mwを1.1で割り算することにより概算できる。
【0021】
例えば、非特許文献8は、Aquifex aeolicus由来のBEを、α−グルカンに作用させると、環状化したグルカンが得られることを記載している。これは、図1Bからも明らかなように、グルカンの低分子化が起こることを意味している。
【0022】
例えば、非特許文献9は、Bacillus cereus由来のBEを種々の大きさの酵素合成アミロースに作用させたところ、どの酵素合成アミロースからもほとんど同じサイズのグルカンが得られたことを記載している(Fig.5.8)。また、この文献のFig.5.9からは、分子量約100万を超える成分はまったく検出されなかったことが明らかである。さらに、この文献のFig.5.13の反応モデルからは、高分岐の高分子量α−グルカンが生成されることは全く予想されない。図1から明らかなように、BEによる分子間枝作り反応(図1A)では元の分子よりも大きな分子と小さな分子の両方が生じ、環状化反応(図1B)では元の分子よりも小さな分子が生じ、分子内枝作り反応(図1C)では反応前後で分子量は変化しない。メカニズムが同一であることから、3つの反応の起こる頻度がそれほど偏るということは予想されない。実際、非特許文献9のFig.5.8の結果は、基質分子量により差はあるものの、結果として3つの反応がいず
れも触媒され、結果的にどのような大きさのアミロースからも、同じサイズのグルカンが得られたことを記載しているものである。アミロースから分子量100万以上の高分子グルカンが得られるためには、圧倒的な高頻度でAの分子間枝作り反応が触媒される必要が
あり、さらに、生じた分子のうち、大きい方の分子は、さらに高分子化し続ける方向の反応を受ける必要がある。これは従来のBEの触媒メカニズムからは全く予想されず、それを示唆する結果も全く得られていなかった。
【0023】
特許文献2は、BE(特に、枝作り酵素)をアミロース、澱粉の部分分解物、澱粉枝切り物、ホスホリラーゼによる酵素合成アミロース、マルトオリゴ糖などに作用させることにより、内分岐環状構造部分と外分岐構造部分とを有する、重合度が50から5000の範囲にあるグルカンを製造する方法を記載する。この方法は、BEによって基質を環状化および低分子化させて、重合度50〜5000、最大重合度10,000の環状グルカンを製造する方法である。この方法は、基質の低分子化によって生成物を得ているので、基質として用いられるのは、高分子量のアミロースである。これは、0066段落に、重合度が約400以上のアミロースが好適に用いられ得ると記載されていることから明らかである。重合度400のアミロースの分子量は約65,000であり、低分子量アミロースを基質として用いて高分子量α−グルカンが得られるか否かは、この特許公報からは明らかでない。
【0024】
このように、従来、BEをアミロースに作用させると、アミロースの低分子化が生じるか、一部分子の分子量が高くなることはあっても、その高分子化はごくわずかであって、ほとんど変わらないと考えられていた。
【0025】
さらに、アミロースにBEを作用させた場合に得られるα−グルカンは、プルラナーゼにより分解されやすいという点でグリコーゲンとは異なるという報告がある(非特許文献10、16)。アミロースにBEを作用させて「グリコーゲン」を得た、と記述した文献(例えば、非特許文献18(Walkerら、Eur.J.Biochem.(1971)20巻、p14−21))も存在するが、これらについては、得られたグルカンの分子量も測定しておらず、消化性の分析も行われていない。
【0026】
さらに、酵素の特性を調べるためにBEをアミロースに作用させた例は多数ある(例えば、特許文献3および非特許文献11〜12)。しかし、これらの例ではいずれも、反応産物の分子量を測定していない。
【0027】
BE(特に植物由来BE)は、短鎖長のアミロースには作用しにくいことが知られている。例えば、非特許文献13には、重合度40以下(分子量約6480)のアミロースにはほとんど作用しないとかかれている。その理由は、BEは、基質アミロースが何らかの高次構造をとっていることを必要とするためであり、ある程度の長さがないとアミロースはその高次構造をとれないためであると考察されている(非特許文献14)。また、その高次構造は温度に関係するものであり、温度が高いとアミロースは、そのような高次構造をとれないのだと考察されている。
【0028】
細菌由来BEは、短い基質にも作用するようであるが(非特許文献15)、その作用は弱いことがわかっている(非特許文献9、Fig4.5)。
【0029】
以上のことから、BEがアミロースを基質として、分子量100万以上の高分岐かつ高分子量のグルカンを合成しうるとは予想されず、ましてやその高分子量グルカンがプルラナーゼおよびα−アミラーゼによる消化性の低いものであるとは全く予想されなかった。さらに、Mn4800および9,300の酵素合成アミロースへの作用性が低いこと(非特許文献9、Fig4.5。最大活性を示すMn270,000の酵素合成アミロースを基質としたときと比較し、約7%および12%の活性)から、Mn8,000以下(特に、Mn4,000以下)のアミロースを基質とすることに関する利点は全く想定されていなかった。
【0030】
また、従来のグリコーゲンの製造方法においては、高度の精製を行わないと電解質含量および単糖類の含量が高いため、純度の高いグリコーゲンを得るためには非常にコストがかかるという問題点もある。例えば、スクロースホスホリラーゼ、α−グルカンホスホリラーゼにBEを加えてグリコーゲンを製造する方法では、反応液に10mM程度のリン酸を入れる必要があり、得られた反応産物には、多量のフルクトースと少量のリン酸が入る(スクロース+リン酸+オリゴ糖→α−グルカン+フルクトース+リン酸)。GPとBEとを組み合わせる方法では、さらに多量に電解質が入る(グルコース−1−リン酸+オリゴ糖→α−グルカン+リン酸)。グリコーゲンシンターゼ(GS)とBEとを組み合わせる方法も同様である(ADP−グルコース+オリゴ糖→α−グルカン+ADP)。
【0031】
天然からグリコーゲンを抽出したとしても、電解質の他にさらに、タンパク質、脂質、他の糖質など、非常に色々な物質が混入するので、高純度のグリコーゲンを得るためには非常にコストがかかるという問題点がある。
【特許文献1】特開2000−316581号公報
【特許文献2】特許第3107358号公報、請求項1、0066段落
【特許文献3】特表2002−539822号公報
【非特許文献1】Matsumotoら、J.Biochem 107巻、118−122(1990)(Fig.2)
【非特許文献2】松本および松田 澱粉科学 30巻 p212−222(1983)(Fig.3および4)
【非特許文献3】Boyerら、Starch/staerke 34 Nr.3,S.81−85(1982)(Table 1、Figure 2およびFigure 3)
【非特許文献4】Kitamura,Polymeric Materials Encyclopedia,Vol.10,p7915−7922(Table 2)
【非特許文献5】Praznikら,Carbohydrate Research,227(1992)p171−182
【非特許文献6】GriffinおよびVictor,Biochemistry Vol.7,No.9、September 1968
【非特許文献7】Takata,H.ら,Cyclization reaction catalyzed by branching enzyme.J.Bacteriol.,1996.178:p.1600−1606
【非特許文献8】Takata,H.ら,J.Appl.Glycosci.,2003.50:p.15−20
【非特許文献9】Hiroki Takata博士論文(京都大学)1997(Studies on Enzymes Involved in Glycogen Metabolism of Bacillus Species)
【非特許文献10】Charles BoyerおよびJack Preiss,Biochemistry 1977,Vol.16,No.16,p.3693−3699
【非特許文献11】Shinohara,M.L.ら,Appl Microbiol Biotechnol,2001.57(5−6):p.653−9
【非特許文献12】Takata,H.ら,Appl.Environ.Microbiol.,1994.60:p.3096−3104
【非特許文献13】Borovsky,D.,Smith,E.E.,およびWhelan,W.J.(1976)Eur.J.Biochem.62,307−312
【非特許文献14】Borovsky,D.,Smith,E.E.,およびWhelan,W.J.(1975)FEBS Lett.54,201−205
【非特許文献15】岡田ら,澱粉科学 30巻 p223−230(1983)
【非特許文献16】Kitahata,S.,およびOkada,S.(1988)in Handbook of amylase and related enzymes. Their sources, isolation methods,properties and applications.(The Amylase Reseach Society of Japan ed),pp.143−154,Pergamon Press,Oxford
【非特許文献17】Kawabataら(2002)J.Appl.Glycosci.Vol.49,No.3,273−279頁
【非特許文献18】Walkerら、Eur.J.Biochem.(1971)20巻、p14−21
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
本発明は、上記問題点の解決を意図するものであり、高分岐かつ高分子量のα−グルカン、特にグリコーゲンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0033】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ブランチングエンザイム活性/低分子化活性の比が500以下であるBEが、グリコーゲンを合成する能力を有することを見出し、これに基づいて本発明を完成させた。
【0034】
本発明の製造方法は、グリコーゲンの製造方法であって、グリコーゲンを合成する能力を有するBEを基質に作用させて、グリコーゲンを生産する工程を包含し、該基質は、主にα−1,4−グルコシド結合で連結された重合度4以上のα−グルカンであり、反応開始前の該溶液中の糖の数平均分子量(Mn)が180より大きく150,000以下である。
【0035】
1つの実施形態では、上記BEのブランチングエンザイム活性/低分子化活性は、500以下であり得る。
【0036】
1つの実施形態では、上記BEは、耐熱性BEであり得る。
【0037】
1つの実施形態では、上記BEは、好熱性菌または中温性菌由来であり得る。
【0038】
1つの実施形態では、上記BEは、Aquifex属、Rhodothermus属、Bacillus属、Thermosynechococcus属およびEscherichia属からなる群より選択される属に属する細菌に由来し得る。
【0039】
1つの実施形態では、上記BEは、Aquifex aeolicus、Aquifex pyrophilus、Rhodothermus obamensis、Rhodothermus marinus、Bacillus stearothermophilus、Bacillus caldovelox、Bacillus thermocatenulatus、Bacillus caldolyticus、Bacillus flavothermus、Bacillus acidocaldarius、Bacillus caldotenax、Bacillus smithii、Thermosynechococcus elongatusおよびEscherichia
coliからなる群より選択される細菌に由来し得る。
【0040】
1つの実施形態では、上記BEは、Aquifex aeolicus、Rhodothermus obamensis、Bacillus stearothermoph
ilus、Bacillus caldovelox、Bacillus thermocatenulatus、Bacillus caldolyticusおよびEscherichia coliからなる群より選択される細菌に由来し得る。
【0041】
1つの実施形態では、上記BEの反応至適温度は、45℃以上90℃以下であり得る。
【0042】
1つの実施形態では、上記基質は、澱粉枝切り物、デキストリン枝切り物または酵素合成アミロースであり得る。
【0043】
1つの実施形態では、上記反応開始前の溶液中の糖のMnは、180より大きく4,000未満であり得る。
【0044】
1つの実施形態では、上記反応開始前の溶液中の糖のMnは、4,000以上8,000未満であり得、上記BEの使用量と反応時間との積が25,000U・時間/g基質以上になるように該BEの使用量と反応時間とを調整され得る。
【0045】
1つの実施形態では、上記反応開始前の溶液中の糖のMnは、8,000以上100,000未満であり得、上記BEの使用量と反応時間との積が40,000U・時間/g基質以上になるように該BEの使用量と反応時間とを調整され得る。
【0046】
1つの実施形態では、上記反応開始前の溶液中の糖のMnは、100,000以上150,000以下であり得、上記BEの使用量と反応時間との積が150,000U・時間/g基質以上になるように該BEの使用量と反応時間とを調整され得る。
【0047】
1つの実施形態では、本発明の方法は、Mnが180より大きく1,500未満のα−グルカンに4−α−グルカノトランスフェラーゼを作用させることにより、前記基質を生産する工程をさらに包含し得る。
【0048】
1つの実施形態では、上記Mnが180より大きく1,500未満のα−グルカンは、重合度4〜7のマルトオリゴ糖を含み得る。
【0049】
1つの実施形態では、本発明の方法は、Mn500以上の低分岐α−グルカンに枝切り酵素を作用させることにより、上記基質を生産する工程をさらに包含し得る。
【0050】
1つの実施形態では、本発明の方法は、α−グルカンホスホリラーゼまたはグリコーゲン合成酵素のいずれも使用しない。
【0051】
1つの実施形態では、4−α−グルカノトランスフェラーゼが前記BEと共存し得る。
本発明の1つの実施形態では、重量平均分子量が100万Da以上のグリコーゲンであって、該グリコーゲンに50U/g基質のプルラナーゼを60℃で30分間作用させた場合に得られる生成物をMALLS法によって分析した場合の重量平均分子量が50万Da以上であり、かつ該グリコーゲンに300U/g基質のα−アミラーゼを37℃で30分間作用させた場合に得られる生成物をMALLS法によって分析した場合の重量平均分子量が50万Da以上である、グリコーゲンが提供される。
また、本発明の好ましい実施形態では、以下の製造方法が提供される。
(1)グリコーゲンの製造方法であって、グリコーゲンを合成する能力を有するブランチングエンザイムを溶液中で基質に作用させて、グリコーゲンを生産する工程を包含し、該基質が、主にα−1,4−グルコシド結合で連結された重合度4以上のα−グルカンであり、該基質が、澱粉枝切り物、デキストリン枝切り物または酵素合成アミロースであり、反応開始前の該溶液中の糖の数平均分子量が180より大きく150,000以下であり、該グリコーゲンの重量平均分子量が100万Da以上であり、該グリコーゲンに50U/g基質のプルラナーゼを60℃で30分間作用させた場合に得られる生成物をMALLS法によって分析した場合の重量平均分子量が50万Da以上であり、かつ該グリコーゲンに300U/g基質のα−アミラーゼを37℃で30分間作用させた場合に得られる生成物をMALLS法によって分析した場合の重量平均分子量が50万Da以上であり、該方法においては、α−グルカンホスホリラーゼまたはグリコーゲン合成酵素のいずれも使用せず、該ブランチングエンザイムのブランチングエンザイム活性/アミロペクチン低分子化活性が、1以上466以下であり、ただし、該ブランチングエンザイムが、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号10、配列番号14または配列番号18のいずれのアミノ酸配列も有さない、方法。
(2)前記ブランチングエンザイムのブランチングエンザイム活性/アミロペクチン低分子化活性が、35以上466以下である、上記項1に記載の方法。
(3)前記ブランチングエンザイムが、耐熱性ブランチングエンザイムである、上記項1に記載の方法。
(4)前記ブランチングエンザイムが、好熱性菌または中温性菌由来である、上記項1に記載の方法。
(5)前記ブランチングエンザイムが、Aquifex aeolicus、Rhodothermus obamensis、Bacillus stearothermophilus、Bacillus caldovelox、Bacillus caldolyticusおよびEscherichia coliからなる群より選択される細菌に由来する、上記項1に記載の方法。
(6)前記ブランチングエンザイムが、Aquifex aeolicus VF5株、Rhodothermus obamensis JCM9785株、Bacillus stearothermophilus TRBE14株、Bacillus caldovelox IFO15315株、Bacillus caldolyticus IFO15313株およびEscherichia coli W3110株からなる群より選択される細菌株に由来する、上記項1に記載の方法。
(7)前記ブランチングエンザイムの反応至適温度が、45℃以上90℃以下である、上記項1に記載の方法。
(8)前記反応開始前の溶液中の糖の数平均分子量が、180より大きく4,000未満である、上記項1に記載の方法。
(9)前記反応開始前の溶液中の糖の数平均分子量が、4,000以上8,000未満であり、前記ブランチングエンザイムの使用量と反応時間との積が25,000U・時間/g基質以上になるように該ブランチングエンザイムの使用量と反応時間とを調整する、上記項1に記載の方法。
(10)前記反応開始前の溶液中の糖の数平均分子量が、8,000以上100,000未満であり、前記ブランチングエンザイムの使用量と反応時間との積が40,000U・時間/g基質以上になるように該ブランチングエンザイムの使用量と反応時間とを調整する、上記項1に記載の方法。
(11)前記反応開始前の溶液中の糖の数平均分子量が、100,000以上150,000以下であり、前記ブランチングエンザイムの使用量と反応時間との積が150,000U・時間/g基質以上になるように該ブランチングエンザイムの使用量と反応時間とを調整する、上記項1に記載の方法。
(12)数平均分子量が180より大きく1,500未満のα−グルカンに4−α−グルカノトランスフェラーゼを作用させることにより、前記基質を生産する工程をさらに包含する、上記項1に記載の方法。
(13)前記4−α−グルカノトランスフェラーゼが、Thermus aquaticus由来のアミロマルターゼである、上記項12に記載の方法。
(14)前記数平均分子量が180より大きく1,500未満のα−グルカンが、重合度4〜7のマルトオリゴ糖を含む、上記項12に記載の方法。
(15)数平均分子量500以上の低分岐α−グルカンに枝切り酵素を作用させることにより、前記基質を生産する工程をさらに包含し、該低分岐α−グルカンでは、α−1,6−グルコシド結合の数を1としたときのα−1,4−グルコシド結合の数が、10〜10000である、上記項1に記載の方法。
(16)4−α−グルカノトランスフェラーゼが前記ブランチングエンザイムと共存する、上記項1に記載の方法。
(17)前記4−α−グルカノトランスフェラーゼが、Thermus aquaticus由来のアミロマルターゼである、上記16に記載の方法。
(18)前記ブランチングエンザイムが、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号10、配列番号14または配列番号18のいずれかのアミノ酸配列に対して少なくとも65%の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつグリコーゲン合成能力を有し、かつブランチングエンザイム活性/アミロペクチン低分子化活性が、1以上466以下である、上記項1に記載の方法。
(19)前記ブランチングエンザイムが、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号10、配列番号14または配列番号18のいずれかのアミノ酸配列に対して1または数個のアミノ酸の欠失、置換または挿入を有するアミノ酸配列を有し、かつグリコーゲン合成能力を有し、かつブランチングエンザイム活性/アミロペクチン低分子化活性が、1以上466以下である、上記項1に記載の方法。
(20)前記ブランチングエンザイムが、配列表の配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号9、配列番号13または配列番号17のいずれかの塩基配列からなる核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子によってコードされ、かつグリコーゲン合成能力を有し、かつブランチングエンザイム活性/アミロペクチン低分子化活性が、1以上466以下である、上記項1に記載の方法。
【発明の効果】
【0052】
本発明により、グリコーゲンを安価にかつ多量に製造することができる。
【0053】
本発明の方法は、高度の精製なしで、電解質含量および単糖類含量の非常に低いグリコーゲンを得ることができるという利点を有する。そのため、低コストで純度の高いグリコーゲンを得ることができるという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、BEの種々の作用を模式的に示す図である。図1Aは、BEが分子間枝作り反応を触媒することを示す図である。図1Bは、BEが環状化反応を触媒することを示す図である。図1Cは、BEが分子内枝作り反応を触媒することを示す図である。
【図2】図2は、α−グルカンからのグリコーゲン生成の模式図である。
【図3】図3は、種々の量のBEを用いた場合に得られる生成物のMwを示すグラフである。BE量は基質gあたりのUで示している。
【図4】図4は、種々の分子量の基質を用いた場合に得られる生成物のMwを示すグラフである。
【図5】図5は、澱粉を枝切り酵素により分解してアミロースを得て、このアミロースにBEを反応させてグリコーゲンを製造する反応の模式図である。
【図6】図6は、イソアミラーゼおよび種々の量のBEを用いて澱粉からα−グルカンを生成する場合に得られる生成物のMwを示すグラフである。BE量は基質gあたりのUで示している。
【図7】図7は、4−α−グルカノトランスフェラーゼによってマルトペンタオースからアミロースが生成され、BEによってアミロースからグリコーゲンが生成されることを示す模式図である。
【図8】図8は、種々の基質DP(重合度)の基質(G5、G6、またはG7)を用いた場合に得られる生成物のMwを示すグラフである。
【図9】図9は、本発明により製造されたグリコーゲン(白三角、「今回製造GLY」)、試薬グリコーゲン(黒三角、「試薬GLY」)、ワキシーコーンスターチ(黒丸、「ワキシ」)またはコーンスターチ(白丸、「コンス」)に種々の量のプルラナーゼを作用させた後の生成物のMwを示すグラフである。
【図10】図10は、本発明により製造されたグリコーゲン(白三角、「今回製造GLY」)、試薬グリコーゲン(黒三角、「試薬GLY」)、ワキシーコーンスターチ(黒丸、「ワキシ」)またはコーンスターチ(白丸、「コンス」)に種々の量のα−アミラーゼを作用させた後の生成物のMwを示すグラフである。
【図11A】図11Aは、グリコーゲン合成能力を有するBEの反応モデルである。
【図11B】図11Bは、グリコーゲン合成能力を有さないBEの反応モデルである。
【図12】図12は、ワキシーコーンスターチにAquifex aeolicus VF5由来BEを作用させた場合の、酵素量と得られる生成物のMwとの相関を示すグラフである。縦軸は生成物のMwを、横軸はBE添加量を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0055】
配列番号1:Aquifex aeolicus VF5の天然のBEをコードする塩基配列;
配列番号2:Aquifex aeolicus VF5の天然のBEのアミノ酸配列;
配列番号3:Rhodothermus obamensis JCM9785の天然のBEをコードする塩基配列;
配列番号4:Rhodothermus obamensis JCM9785の天然のBEのアミノ酸配列;
配列番号5:Bacillus stearothermophilus TRBE14の天然のBEをコードする塩基配列;
配列番号6:Bacillus stearothermophilus TRBE14の天然のBEのアミノ酸配列;
配列番号7:Bacillus stearothermophilus 1503−4R var.4の天然のBEをコードする塩基配列;
配列番号8:Bacillus stearothermophilus 1503−4R var.4の天然のBEのアミノ酸配列;
配列番号9:Bacillus caldovelox IFO15315の天然のBEをコードする塩基配列;
配列番号10:Bacillus caldovelox IFO15315の天然の
BEのアミノ酸配列;
配列番号11:Bacillus thermocatenulatusの天然のBEをコードする塩基配列;
配列番号12:Bacillus thermocatenulatusの天然のBEのアミノ酸配列;
配列番号13:Bacillus caldolyticus IFO15313の天然のBEをコードする塩基配列;
配列番号14:Bacillus caldolyticus IFO15313の天然のBEのアミノ酸配列;
配列番号15:Thermosynechococcus elongatus BP−1の天然のBEをコードする塩基配列;
配列番号16:Thermosynechococcus elongatus BP−1の天然のBEのアミノ酸配列;
配列番号17:Escherichia coli W3110の天然のBEをコードする塩基配列;
配列番号18:Escherichia coli W3110の天然のBEのアミノ酸配列;
配列番号19:Thermus aquaticus由来のTaq MalQをコードする塩基配列;
配列番号20:Thermus aquaticus由来のTaq MalQのアミノ酸配列;
配列番号21:プライマーECBEN−NCOの配列;
配列番号22:プライマーECBEC−HINの配列;
配列番号23:プライマーROBEN−ECOの配列;
配列番号24:プライマーROBEC−PSTの配列。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0057】
本発明の方法は、高分岐かつ高分子量のα−グルカン(すなわち、グリコーゲン)の製造方法であって、グリコーゲン合成能力を有するBEを溶液中で基質に作用させて、グリコーゲンを生産する工程を包含し、該基質は、主にα−1,4−グルコシド結合で連結された重合度4以上のα−グルカンであり、反応開始前の該溶液中の糖のMnが約180より大きく約150,000以下である。
【0058】
本明細書では、「グリコーゲン」とは、D−グルコースを構成単位とする糖であって、α−1,4−グルコシド結合およびα−1,6−グルコシド結合のみによって連結されており、分子量が100万Da以上であり、50U/g基質のプルラナーゼを評価例1の条件で作用させた場合に得られる生成物をMALLS法によって分析した場合のMwが50万Da以上であり、かつ300U/g基質のα−アミラーゼを評価例2の条件で作用させた場合に得られる生成物をMALLS法によって分析した場合のMwが50万Da以上である糖をいう。ある糖に50U/g基質のプルラナーゼを評価例1の条件で作用させた場合に得られる生成物の分子量Mwが50万Da以上である場合、その糖は、「プルラナーゼ分解耐性がある」という。ある糖に300U/g基質のα−アミラーゼを評価例2の条件で作用させた場合に得られる生成物の分子量Mwが50万Da以上である場合、その糖は、「α−アミラーゼ分解耐性がある」という。ここで、α−アミラーゼ活性について、1Uのα−アミラーゼ活性とは、pH6.9、20℃で反応させた場合に、澱粉から3分間で1mgのマルトースを遊離する酵素量をいう。プルラナーゼ活性について、1Uのプルラナーゼ活性とは、終濃度1%のプルランにpH5.0、40℃で反応させた場合に、反応初期の1分間に1μmolのグルコースに相当する還元力を生成するのに必要な酵素
量をいう。
【0059】
(1.ブランチングエンザイム)
「グリコーゲン合成能力を有するブランチングエンザイム」とは、BEのうちの、グリコーゲンを合成する能力を有するものをいう。あるBEが、グリコーゲン合成能力を有するか否かは、当該分野で公知の方法によって決定され得る。すなわち、例えば、アミロースにBEを作用させ、その後、その溶液中に分子量が100万Da以上である高分子α-
グルカンが生成したか否かを調べることならびに生成した高分子α−グルカンのプルラナーゼ分解耐性およびα−アミラーゼ分解耐性を決定することにより、決定され得る。溶液中に高分子α-グルカンが存在するか否かは、非特許文献8に記載される、多角度光散乱
検出器と、示差屈折計を検出器として併用したHPLCゲルろ過分析法によって決定され得る。プルラナーゼ分解耐性は、評価例1の方法に準じて決定され得る。α−アミラーゼ分解耐性は、評価例2の方法に準じて決定され得る。
【0060】
本発明者らの研究によれば、BEのうち、ブランチングエンザイム活性/低分子化活性が500以下のBEは、グリコーゲン合成能力を有し、ブランチングエンザイム活性/低分子化活性が500より大きいBEは、グリコーゲン合成能力を有さなかった。
【0061】
ブランチングエンザイム活性とは、アミロースとヨウ素との複合体の660nmにおける吸光度を減少させる活性であり、BEがα−1,4−グルコシド結合を切断し、別のグルコース残基の6位OH基に転移することにより、α−1,6−グルコシド結合を形成し、アミロースの直鎖状部分を減少させる作用に基づく。
【0062】
BEのブランチングエンザイム活性測定法は当該分野で公知であり、例えば、非特許文献8に記載される。BEのブランチングエンザイム活性は、例えば、以下のようにして測定される。まず、50μLの基質液(0.12%(w/v)アミロース(TypeIII、Sigma Chemical社製))に50μLの酵素液を添加することによって反応を開始する。反応は、そのBEの反応至適温度で行う。10分間BEを作用させた後、1mLの0.4mM塩酸溶液を添加することによって反応を停止する。その後、1mLのヨウ素液を添加し、よく混合した後、660nmの吸光度を測定する。対照液として、酵素液添加前に0.4mM塩酸溶液を添加したものを同時に調製する。基質液は、100μLの1.2%(w/v)アミロースTypeIII溶液(ジメチルスルホキシドに溶解させる)に、200μLの50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)を添加し、さらに700μLの蒸留水を添加してよく混合することにより調製する。ただし、緩衝液のpHは、そのBEの反応至適pHに合わせる。ヨウ素液は0.125mLのストック溶液(2.6重量%I2、26重量%KI水溶液)に0.5mLの1規定塩酸を混合し、蒸留水で65mLとすることにより調製する。酵素液のBE活性は以下の計算式により求める。
【0063】
BE活性(単位(U)/mL)
={(対照液660nm吸光度−サンプル液660nm吸光度)/対照液660nm吸光度}×100/10×20。
【0064】
本明細書においては、BEの活性としては、原則としてBE活性を用いる。したがって、単に「活性」と呼ぶ場合は「BE活性」をあらわし、単に「単位」、あるいは「U」と示す場合は、BE活性で測定した「単位」、あるいは「U」をあらわす。
【0065】
低分子化活性は、本発明者らが定義した活性である。低分子化活性は、アミロペクチン低分子化活性ともいう。本明細書中では、低分子化活性1単位を、BE活性の測定温度およびpH(好ましくは、その酵素の反応至適温度および至適pH)と同じ温度およびpHで16時間反応させた場合に、基質(ワキシーコーンスターチ)1gのMwを400kD
aに低下させるのに必要な酵素量と定義する。
【0066】
低分子化活性は、例えば、次のようにして測定される。まず、50mgのワキシーコーンスターチ(WCS;三和澱粉製)に100μl 蒸留水を添加し、充分に攪拌する。ついで、900μl ジメチルスルホキシドを添加して、攪拌し、沸騰湯浴中で、20分間加熱する。8.9mlの蒸留水を添加してよく撹拌し、沸騰湯浴中で、さらに10分間加熱する。この溶液に、100μlの1M Tris−HCl(pH7.5)または1Mリン酸緩衝液(pH7.5)を添加して攪拌し、基質液とする。緩衝液のpHは、BE活性の測定pHに合わせる。
【0067】
基質液を800μL/チューブで分注する。すなわち、各チューブは、4mgのWCSを含む。次いで、適切に希釈したBE溶液をチューブ1本あたり適当量XμLおよび希釈液をチューブ1本あたり(200−X)μL添加し、反応を開始する。反応温度は、BE活性の測定温度に合わせる。希釈液は0.05% Triton X−100を含む10mMリン酸カリウム緩衝液(pHは、BE活性測定pHに合わせる)である。反応時間が16時間になった時点で1N HClを添加して反応液のpHを3〜4に下げ、さらに100℃で10分加熱することにより、反応を停止させる。耐熱性の充分に低いBEの場合には、単に反応液を100℃で10分加熱するだけでも反応を停止できる。
【0068】
反応停止後、反応液を0.45μmのフィルターによりろ過し、含まれる生産物のMwを測定する。Mwが2500kDaから200kDaの範囲に入るように、BEの量を加減する。Mwの測定は、以下の「製造されたグルカンの重量平均分子量(Mw)の測定法」に記載の方法により行う。
【0069】
算出されたMw(kDa)を縦軸(y軸)に対数でとり、用いた酵素量(μL)を横軸(x軸)にとり、マイクロソフト社のソフトMS−Excelを使用して累乗近似曲線を作成する。すなわち、y=cxb(cとbは定数)の方程式で近似曲線を作成する。得られた方程式にy=400(kDa)を代入することにより、4mgのWCSを基質としたときに基質Mwを400kDaに低下させるのに必要な酵素量V1(μL)が算出される。この酵素量V1を基質1gあたりに換算することにより、1単位の低分子化活性に必要な酵素量V2(=(V1μL/1000)×(1000mg/4mg)(mL))が算出される。酵素液の低分子化活性E1は、単位低分子化活性の逆数(E1=1/V2)(U/mL)である。
【0070】
BE活性/低分子化活性の上限は、約500であり、より好ましくは約400であり、さらにより好ましくは約300であり、さらにより好ましくは約200であり、最も好ましくは約100である。BE活性/低分子化活性の下限は特にない。下限は、約1以上、
約5以上または約10以上であり得る。
【0071】
BE活性/低分子化活性の値が約500以下であるBEがグリコーゲン合成能力を有することについてのメカニズムは明確ではない。このメカニズムは、おそらく、以下に説明する原理に基づくと考えられるが、この原理には束縛されない:
BEによる高分子α−グルカン合成が起こるためには、図1に示した、分子間枝作り反応が環状化反応および分子内枝作り反応に比べて高頻度で起こる必要がある。高頻度の分子間枝作り反応は、低分子アミロースを基質とすることで達成される。さらに、この高頻度の分子間枝作り反応に加えて、分岐分子が優先して基質として使用され続ける必要がある。そして、分岐分子は大きな構造単位を保持したままでBEの作用を受けなければならない。このことを反応モデルによって説明する(図11A)。まず、アミロース二分子から、一個のα−1,6−結合を持つ分子が生じる。生じた分子がさらに基質として使用され、二個のα−1,6−結合を持つ分子が生じる。さらにこの生じた分岐分子が優先的に
基質として使用されていくことによって、少数の高分子α−グルカン分子と多数の低分子が生じる。
【0072】
一方、分岐分子を優先的に基質として使用しないBEの場合、あるいは分岐分子が使用されても、大きな構造単位を崩すような使用のされ方をした場合には、多数の分岐分子が生じ、さらなる高分子は生じにくい(図11B)。
【0073】
どちらの場合にも、反応系全体におけるα−1,6−結合の比率が10〜12%程度になると、それ以上BEの反応は進まなくなる。
【0074】
ここで、BEによるアミロペクチンの低分子化作用について説明する。この反応は特許3107358号に示されているように、BEがアミロペクチンのクラスター構造に作用し、これを環状化することによって起こる。この場合、BEは分岐分子に作用し、その大きな構造単位を保持したままで、クラスター構造の継ぎ目の単位鎖を環状化する。したがって、アミロペクチン低分子化活性が相対的に高いBEは、分岐分子を優先して用い、かつ大きな構造単位を保持したまま反応の基質とする、という性質を持つと考えられる。
【0075】
さらに、本発明者らの研究によれば、現在公知の耐熱性BEは、いずれも、グリコーゲン合成能力を有した。一方、反応至適温度の低い中温性BEの中には、グリコーゲン合成能力を有さないものがあった。
【0076】
グリコーゲン合成能力を有するBEは、好ましくは、耐熱性BEである。耐熱性BEとは、BE活性測定を、反応温度を変化させて行った場合の反応の至適温度が45℃以上であるBEをいう。
【0077】
グリコーゲン合成能力を有するBEの反応至適温度は、好ましくは、約45℃以上であり、約90℃以下である。本明細書中では、「反応至適温度」とは、上述のBE活性測定を温度のみ変化させて行い、最も活性が高い温度をいう。反応至適温度は好ましくは、約45℃以上であり、約50℃以上であり、さらに好ましくは約55℃以上であり、特に好ましくは約60℃以上であり、最も好ましくは約65℃以上である。反応至適温度に上限はないが、好ましくは約90℃以下であり、約85℃以下であり、さらに好ましくは約80℃以下であり、特に好ましくは約75℃以下である。
【0078】
グリコーゲン合成能力を有するBEは、より好ましくは、好熱性菌または中温性菌由来のBEである。本明細書中では、「好熱性菌」とは、生育最適温度が約50℃以上であり、約40℃以下ではほとんど増殖しない微生物をいう。好熱性菌は、中等度好熱性菌および高度好熱性菌に分けられる。「中等度好熱性菌」とは、生育最適温度が約50℃〜約70℃である微生物をいう。「高度好熱性菌」とは、生育最適温度が約70℃以上である微生物をいう。さらに、高度好熱性菌のうち、生育最適温度が約80℃以上である微生物を、「超好熱性菌」という。対照的に、「中温性菌」とは、生育温度が通常の温度環境にある微生物をいい、特に、生育最適温度が約20℃〜約40℃である微生物をいう。
【0079】
グリコーゲン合成能力を有するBEを産生する好熱性菌は、好ましくは、Aquifex属、Rhodothermus属、Bacillus属、またはThermosynechococcus属に属する。グリコーゲン合成能力を有するBEを産生する中温性菌は、好ましくは、Escherichia属に属する。
【0080】
グリコーゲン合成能力を有するBEは、より好ましくは、Aquifex aeolicus、Aquifex pyrophilus、Rhodothermus obamensis、Rhodothermus marinus、Bacillus stea
rothermophilus、Bacillus caldovelox、Bacillus thermocatenulatus、Bacillus caldolyticus、Bacillus flavothermus、Bacillus acidocaldarius、Bacillus caldotenax、Bacillus smithii、Thermosynechococcus elongatusおよびEscherichia coliからなる群より選択される細菌に由来し、さらにより好ましくは、Aquifex aeolicus、Rhodothermus obamensis、Bacillus stearothermophilus、Bacillus caldovelox、Bacillus thermocatenulatus、Bacillus caldolyticusおよびEscherichia coliからなる群より選択される細菌に由来する。なお、最近では、好熱性のBacillus属細菌は、Geobacillus属細菌と記載されることも多い。例えば、Bacillus stearothermophilusは、Geobacillus stearothermophilusと同一の細菌を指す。
【0081】
本明細書中では、酵素がある生物に「由来する」とは、その生物から直接単離したことのみを意味するのではなく、その生物を何らかの形で利用することによりその酵素が得られることをいう。例えば、その生物から入手したその酵素をコードする遺伝子を大腸菌に導入して、その大腸菌から酵素を単離する場合も、その酵素はその生物に「由来する」という。
【0082】
Aquifex aeolicus VF5の天然のBEをコードする塩基配列を配列番号1に示し、そしてアミノ酸配列を配列番号2に示す。本明細書中では、「天然の」BEは、もともとBEを産生する細菌から単離されたBEだけでなく、天然のBEと同じアミノ酸配列を有する、遺伝子組換えによって得られるBEをも包含する。Aquifex
aeolicus VF5由来の天然のBEをコードする塩基配列のクローニング方法は、非特許文献8およびvan der Maarel, M. J. E. C.ら、Biocatalysis and Biotransformation、2003、21巻、p199−207に記載される。Aquifex aeolicus由来のBEは、種々のMnの基質からグリコーゲンを極めて良好に製造するという特性を有する。
【0083】
Rhodothermus obamensis JCM9785の天然のBEをコードする塩基配列を配列番号3に示し、そしてアミノ酸配列を配列番号4に示す。Rhodothermus obamensis JCM9785由来の天然のBEをコードする塩基配列のクローニング方法は、非特許文献11および特許文献3に記載される。
【0084】
Bacillus stearothermophilus TRBE14の天然のBEをコードする塩基配列を配列番号5に示し、そしてアミノ酸配列を配列番号6に示す。Bacillus stearothermophilus TRBE14由来の天然のBEをコードする塩基配列のクローニング方法は、非特許文献9および非特許文献12に記載される。Bacillus stearothermophilus由来のBEは、特に低分子量の基質からグリコーゲンを極めて良好に製造するという特性を有する。なお、Bacillus属およびEscherichia属の細菌においては、ATGに加えて、TTGおよびGTGが開始コドンとして使用され、メチオニンとして翻訳される。そのため、配列番号5の1〜3位のTTGは開始コドンとして作用し、メチオニンに翻訳される。配列番号5の塩基配列を有する核酸分子を用いて他の生物においてBEを発現させる場合、一般に、1位のTはAに置換される。
【0085】
Bacillus stearothermophilus 1503−4R var.4の天然のBEをコードする塩基配列を配列番号7に示し、そしてアミノ酸配列を配列
番号8に示す。Bacillus stearothermophilus 1503−4R var.4由来の天然のBEをコードする塩基配列のクローニング方法は、Kiel,J.A.K.W.ら,Mol.Gen.Genet.,1991.230:p.136−144およびEP0418945B1に記載される。配列番号7の1〜3位のTTGは開始コドンとして作用し、メチオニンに翻訳される。配列番号7の塩基配列を有する核酸分子を用いて他の生物においてBEを発現させる場合、一般に、1位のTはAに置換される。
【0086】
Bacillus caldovelox IFO15315の天然のBEをコードする塩基配列を配列番号9に示し、そしてアミノ酸配列を配列番号10に示す。配列番号9の1〜3位のTTGは開始コドンとして作用し、メチオニンに翻訳される。配列番号9の塩基配列を有する核酸分子を用いて他の生物においてBEを発現させる場合、一般に、1位のTはAに置換される。
【0087】
Bacillus thermocatenulatusの天然のBEをコードする塩基配列を配列番号11に示し、そしてアミノ酸配列を配列番号12に示す。配列番号11の1〜3位のTTGは開始コドンとして作用し、メチオニンに翻訳される。配列番号11の塩基配列を有する核酸分子を用いて他の生物においてBEを発現させる場合、一般に、1位のTはAに置換される。
【0088】
Bacillus caldolyticus IFO15313の天然のBEをコードする塩基配列を配列番号13に示し、そしてアミノ酸配列を配列番号14に示す。配列番号13の1〜3位のTTGは開始コドンとして作用し、メチオニンに翻訳される。配列番号13の塩基配列を有する核酸分子を用いて他の生物においてBEを発現させる場合、一般に、1位のTはAに置換される。
【0089】
Thermosynechococcus elongatus BP−1の天然のBEをコードする塩基配列を配列番号15に示し、そしてアミノ酸配列を配列番号16に示す。
【0090】
Escherichia coli W3110の天然のBEをコードする塩基配列を配列番号17に示し、そしてアミノ酸配列を配列番号18に示す。
【0091】
これらの天然のBEの塩基配列およびアミノ酸配列は例示であり、これらの配列とはわずかに異なる配列を有する改変体(いわゆる、対立遺伝子改変体)が天然に存在し得ることは公知である。本発明の方法においては、例示した配列を有するBE以外にも、グリコーゲン合成能力を有する限り、このような、天然に存在する改変体および天然のBEに対して人工的に変異を導入した改変体も用い得る。例えば、WO2000/058445号公報および特許文献3には、Rhodothermus obamensis由来BEの改変体が記載されている。改変体BEは、改変を導入する前のBEと同等以上の活性を有することが好ましい。例えば、本発明で用いられるBEのアミノ酸配列は、ある実施形態では、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、および配列番号18からなる群より選択されるアミノ酸配列(すなわち、対照アミノ酸配列)と同一、すなわち、100%同一であってもよく、別の実施形態では、このアミノ酸配列は、対照アミノ酸配列と比較してある一定の数までアミノ酸が変化していてもよい。このような変化は、少なくとも1個(好ましくは1または数個)のアミノ酸の欠失、置換(保存的置換および非保存的置換を含む)または挿入からなる群より選択され得る。この変化は対照アミノ酸配列のアミノ末端もしくはカルボキシ末端の位置で生じてもよく、またはこれら末端以外のどの位置で生じてもよい。アミノ酸残基の変化は、1残基ずつ点在していてもよく、数残基連続していてもよい。当業者は
、所望の性質を有するBEを容易に選択することができる。あるいは、目的とするBEをコードする遺伝子を直接化学合成してもよい。そのような化学合成の方法は、当該分野において周知である。
【0092】
BEの改変は、当該分野で周知の方法を用いて、例えば、部位特異的変異誘発法、変異原を用いた変異誘発法(対象遺伝子を亜硝酸塩などの変異剤で処理すること、紫外線処理を行うこと)、エラープローンPCRを行うことなどによって行われ得る。目的の変異を得やすい点から、部位特異的変異誘発を用いることが好ましい。部位特異的変異誘発を用いれば、目的とする部位で目的とする改変を導入することができるからである。あるいは、目的とする配列をもつ核酸分子を直接合成してもよい。そのような化学合成の方法は、当該分野において周知である。部位特異的変異誘発の手法は、例えば、Nucl.Acid Research,Vol.10,pp.6487−6500(1982)に記載される。
【0093】
上記のような改変を設計する際に、アミノ酸の疎水性指数が考慮され得る。タンパク質における相互作用的な生物学的機能を与える際の疎水性アミノ酸指数の重要性は、一般に当該分野で認められている(Kyte.JおよびDoolittle,R.F.J.Mol.Biol.157(1):105−132,1982)。アミノ酸の疎水的性質は、生成したタンパク質の二次構造に寄与し、次いでそのタンパク質と他の分子(例えば、酵素、基質、レセプター、DNA、抗体、抗原など)との相互作用を規定する。各アミノ酸は、それらの疎水性および電荷の性質に基づく疎水性指数を割り当てられる。それらは:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(−0.4);スレオニン(−0.7);セリン(−0.8);トリプトファン(−0.9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.5);アスパラギン(−3.5);リジン(−3.9);およびアルギニン(−4.5)である。
【0094】
あるアミノ酸を、同様の疎水性指数を有する他のアミノ酸により置換して、そして依然として実質的に同様の生物学的機能を有するタンパク質(例えば、酵素活性において実質的に等価なタンパク質)を生じさせ得ることは、当該分野で周知である。このようなアミノ酸置換において、疎水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。疎水性に基づくこのようなアミノ酸の置換は効率的であることが当該分野において理解される。米国特許第4,554,101号に記載されるように、以下の親水性指数がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);およびトリプトファン(−3.4)。アミノ酸が同様の親水性指数を有しかつ依然として生物学的等価体を与え得る別のものに置換され得ることが理解される。このようなアミノ酸置換において、親水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。
【0095】
本発明において、「保存的置換」とは、アミノ酸置換において、元のアミノ酸と置換されるアミノ酸との親水性指数または/および疎水性指数が上記のように類似している置換をいう。保存的置換の例は、当業者に周知であり、例えば、次の各グループ内での置換が
挙げられるがこれらに限定されない:アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシン。
【0096】
本発明の方法において使用するBEは、BEを産生する天然の微生物から単離されてもよい。例えば、Aquifex aeolicus VF5、Bacillus stearothermophilusなどから天然のBEを単離し得る。Bacillus stearothermophilus TRBE14のBEについての手順を例示すると、最初に、Bacillus stearothermophilus TRBE14を適切な培地(例えば、Lブロス(1% Bactto−Tryptone(Difco
Laboratories、Detroit,Mich.,USA)、0.5% Bacto−YeastExtract(Difco)、0.5% NaCl、pH7.3))中に接種し、振盪させながら約50℃〜約60℃で一晩培養する。次いで、この培養液を遠心分離して、菌体を収集する。得られた菌体を、20mM Tris−塩酸緩衝液(pH7.0)中に懸濁し、次いで超音波処理により破砕し、菌体破砕液を得る。この菌体破砕液を、約60℃の水浴中で約30分間加熱する。加熱後、この菌体破砕液を、遠心機(ベックマン社製、AVANTI J−25I)を用いて遠心分離し、不溶性のタンパク質などを除去し、上清を得る。得られた上清を、あらかじめ平衡化しておいた陰イオン交換樹脂Q−Sepharoseに流してBEを樹脂に吸着させる。樹脂を、100mM塩化ナトリウムを含む緩衝液で洗浄して不純物を除去する。続いて、400mM塩化ナトリウムを含む緩衝液でBEを溶出させ、Bacillus stearothermophilus TRBE14由来BE酵素液とする。さらなる精製を必要とする場合、必要に応じて、Sephacryl S−200HR(ファルマシア社製)などを用いたゲルフィルトレーションクロマトグラフィーによる分画、Phenyl−TOYOPEARL 650M(東ソー社製)などを用いた疎水クロマトグラフィーによる分画を組み合わせることにより、精製Bacillus stearothermophilus TRBE14由来BE含有溶液を得ることができる。他の細菌種からのBEの精製も同様に行い得る。
【0097】
あるいは、本発明の方法において使用するBEは、BEをコードする塩基配列を含む核酸分子を適切な宿主細胞に導入してBEを発現させ、この発現されたBEをこの宿主細胞またはその培養液から精製することによって入手され得る。
【0098】
天然のBEをコードする塩基配列を含む核酸分子(遺伝子ともいう)は、上記のようにして得た精製BEをトリプシン処理し、得られるトリプシン処理断片をHPLCにより分離し、分離されたいずれかのペプチド断片のN末端のアミノ酸配列を、ペプチドシークエンサーにより同定し、次いで、同定したアミノ酸配列をもとに作製した合成オリゴヌクレオチドプローブを用いて、適切なゲノムライブラリーまたはcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、入手され得る。オリゴヌクレオチドプローブおよびDNAライブラリーを調製するための、ならびに核酸のハイブリダイゼーションによりそれらをスクリーニングするための基本的な戦略は、当業者に周知である。例えば、Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(1989);DNA Cloning,第IおよびII 巻(D.N.Glover編
1985);Oligonucleotide Synthesis (M.J.Gait編 1984);Nucleic Acid Hybridization(B.D.Hames & S.J.Higgins編 1984)を参照のこと。
【0099】
あるいは、既知のBE遺伝子の塩基配列に対する相同性に基づいて、この塩基配列の少なくとも一部を含む核酸プローブを用いたハイブリダイゼーションによってスクリーニングして、別種のBE遺伝子を含む核酸分子を獲得することもできる。このような方法は当
該分野で公知である。
【0100】
あるいは、種々のBEのアミノ酸配列において保存された領域に対応する縮重プライマーを作製して、PCRによってBEの塩基配列を獲得することも可能である。このような方法は当該分野で公知である。
【0101】
ゲノムライブラリーをスクリーニングする場合、得られた核酸分子は、当業者に周知の方法を用いてサブクローニングされ得る。例えば、目的の遺伝子を含むλファージと、適切な大腸菌と、適切なヘルパーファージとを混合することにより、容易に目的の遺伝子を含有するプラスミドを得ることができる。その後、プラスミドを含有する溶液を用いて、適切な大腸菌を形質転換することにより、目的の遺伝子をサブクローニングし得る。得られた形質転換体を培養して、例えばアルカリSDS法によりプラスミドDNAを得、目的の遺伝子の塩基配列を決定し得る。塩基配列を決定する方法は、当業者に周知である。さらに、DNAフラグメントの塩基配列を基に合成されたプライマーを用い、Aquifex aeolicus、Rhodothermus obamensis、Bacillus stearothermophilus、Bacillus caldovelox、Bacillus thermocatenulatus、Bacillus caldolyticusなどのゲノムDNAなどを鋳型に、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて直接BE遺伝子を増幅することもできる。
【0102】
あるいは、公知の塩基配列(例えば、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16または18のアミノ酸配列をコードする塩基配列(例えば、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15または17の塩基配列))に基づいて化学合成されてもよい。
【0103】
本発明の方法で用いられるBEのアミノ酸配列をコードする塩基配列は、上記の対照アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(すなわち、対照塩基配列)と比較してある一定の数まで変化していてもよい。このような変化は、少なくとも1個のヌクレオチドの欠失、トランジションおよびトランスバージョンを含む置換、または挿入からなる群より選択され得る。この変化は対照塩基配列の5’末端もしくは3’末端の位置で生じてもよく、またはこれら末端以外のどの位置で生じてもよい。塩基の変化は、1塩基ずつ点在していてもよく、数塩基連続していてもよい。
【0104】
塩基の変化は、そのコード配列において、ノンセンス、ミスセンスまたはフレームシフト変異を生じ得、このような変化をした後の塩基配列によりコードされるBEに変化をもたらし得る。
【0105】
2つのアミノ酸配列を直接比較する場合、そのアミノ酸配列間でアミノ酸が、代表的には少なくとも約20%、好ましくは少なくとも約30%、より好ましくは少なくとも約40%、さらに好ましくは少なくとも約50%、特に好ましくは少なくとも約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%または約99%同一であることが好ましい。
【0106】
本明細書では配列の同一性は、GENETYX−WIN Ver.4.0(株式会社ゼネティックス)のマキシマムマッチングを用いて算出される。このプログラムは、解析対象となる配列データに対して、比較対照となる配列データを置き換えおよび欠損を考慮しながら、配列間で一致するアミノ酸対が最大になるように並べ替え、その際、一致(Matches)、不一致(Mismatches)、ギャップ(Gaps)についてそれぞれ得点を与え合計を算出して最小となるアライメントを出力しその際の同一性を算出する(参考文献:Takashi,K.,およびGotoh,O.1984.Sequence Relationships among Various 4.5 S RNA
Spacies J.Biochem.92:1173−1177)。本明細書では配列の同一性は、GENETYX−WIN Ver.4.0のマキシマムマッチングをMatches=−1;Mismatches=1;Gaps=1;*N+=2の条件で用いて算出される。
【0107】
天然の酵素または核酸分子としてはまた、本明細書において具体的に記載されたBEのアミノ酸配列またはBEをコードする塩基配列(例えば、配列番号1、2など)に対して同一ではないが相同性のある配列を有するものもまた使用され得る。天然の酵素または核酸分子に対して相同性を有するそのような酵素または核酸分子としては、例えば、GENETYX−WIN Ver.4.0のマキシマムマッチングにおいて、上記の条件で用いて比較した場合に、比較対象の配列に対して、核酸の場合、少なくとも約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%の同一性を有する塩基配列を含む核酸分子が挙げられ、そして酵素の場合、少なくとも約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%または約99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する酵素が挙げられるがそれらに限定されない。
【0108】
配列表の配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15および配列番号17からなる群より選択される塩基配列からなる核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子によってコードされるBEは、グリコーゲン合成能力を有する限り、本発明の方法において使用され得る。配列表の配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15および配列番号17からなる群より選択される塩基配列からなる核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子に対して改変を行って得られる改変塩基配列を含む核酸分子によってコードされるBEもまた、グリコーゲン合成能力を有する限り、本発明の方法において使用され得る。当業者は、所望のBE遺伝子を容易に選択することができる。
【0109】
本明細書中で使用する用語「ストリンジェントな条件」とは、特異的な配列にはハイブリダイズするが、非特異的な配列にはハイブリダイズしない条件をいう。ストリンジェントな条件の設定は、当業者に周知であり、例えば、Moleculer Cloning(Sambrookら、前出)に記載される。具体的には、例えば、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、50%ホルムアミド、5×SSC(750mM NaCl、75mM クエン酸三ナトリウム)、50mM リン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハルト溶液(0.2% BSA、0.2% Ficoll
400および0.2%ポリビニルピロリドン)、10%硫酸デキストラン、および20μg/ml変性剪断サケ精子DNAを含む溶液中での65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline−sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄するという条件を用いることにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。
【0110】
本発明の方法で用いられるBEを製造するために用いられる核酸分子は、天然のBEをコードする塩基配列を含む核酸分子に対して保存的に改変された核酸分子であってもよい。「天然のBEをコードする塩基配列を含む核酸分子に対して保存的に改変された核酸分子」とは、天然のBEのアミノ酸配列と同一または本質的に同一のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む核酸分子をいう。「天然のBEのアミノ酸配列と本質的に同一のアミノ酸配列」とは、天然のBEと本質的に同じ酵素活性を有するアミノ酸配列をいう。遺伝コードの縮重のため、機能的に同一な多数の塩基配列が任意の所定のアミノ酸配列をコー
ドする。例えば、コドンGCA、GCC、GCGおよびGCUはすべて、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、GCAコドンによってアラニンが特定される全ての位置で、そのコドンは、コードされたアラニンを変更することなく、GCC、GCGまたはGCUに変更され得る。同様に、複数のコドンによってコードされ得るアミノ酸に関しては、コドンによってそのアミノ酸が特定される全ての位置で、そのコドンは、コードされた特定のアミノ酸を変更することなく、そのアミノ酸をコードする任意の別のコドンに変更され得る。このような塩基配列の変動は、保存的に改変された変異の1つの種である「サイレント変異」である。ポリペプチドをコードする本明細書中のすべての塩基配列はまた、その核酸の可能なすべてのサイレント変異を包含する。サイレント変異は、コードするアミノ酸が変化しない「サイレント置換」と、そもそも核酸がアミノ酸をコードしない場合(例えば、イントロン部分での変異、他の非翻訳領域での変異など)を包含する。ある核酸がアミノ酸をコードする場合、サイレント変異は、サイレント置換と同義である。本明細書において「サイレント置換」とは、塩基配列において、あるアミノ酸をコードする塩基配列を、同じアミノ酸をコードする別の塩基配列に置換することをいう。遺伝コード上の縮重という現象に基づき、あるアミノ酸をコードする塩基配列が複数ある場合(例えば、グリシンなど)、このようなサイレント置換が可能である。したがって、サイレント置換により生成した塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を有するポリペプチドは、もとのポリペプチドと同じアミノ酸配列を有する。当該分野において、核酸中の各コドン(通常メチオニンをコードする唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンをコードする唯一のコドンであるTGGを除く)が、機能的に同一な分子を産生するために改変され得ることが理解される。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、記載された各配列において暗黙に含まれる。好ましくは、そのような改変は、ポリペプチドの高次構造に多大な影響を与えるアミノ酸であるシステインの置換を回避するようになされ得る。
【0111】
本発明で用いられるBEをコードする塩基配列は、発現のために導入される生物におけるコドンの使用頻度にあわせて変更され得る。コドン使用頻度は、その生物において高度に発現される遺伝子での使用頻度を反映する。例えば、大腸菌において発現させることを意図する場合、公開されたコドン使用頻度表(例えば、Sharpら,Nucleic Acids Research 16 第17号,8207頁(1988))に従って大腸菌での発現のために最適にすることができる。
【0112】
上記のようにして改変された塩基配列を含む核酸分子を用いて、発現ベクターが作製され得る。特定の核酸配列を用いて発現ベクターを作製する方法は、当業者に周知である。
【0113】
本明細書において核酸分子について言及する場合、「ベクター」とは、目的の塩基配列を目的の細胞へと移入させることができる核酸分子をいう。そのようなベクターとしては、目的の細胞において自律複製が可能であるか、または目的の細胞の染色体中への組込みが可能で、かつ改変された塩基配列の転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。本明細書において、ベクターはプラスミドであり得る。
【0114】
本明細書において、「発現ベクター」とは、改変された塩基配列(すなわち、改変されたBEをコードする塩基配列)を目的の細胞中で発現し得るベクターをいう。発現ベクターは、改変された塩基配列に加えて、その発現を調節するプロモーターのような種々の調節エレメント、および必要に応じて、目的の細胞中での複製および組換え体の選択に必要な因子(例えば、複製起点(ori)、および薬剤耐性遺伝子のような選択マーカー)を含む。発現ベクター中では、改変された塩基配列は、転写および翻訳されるように作動可能に連結されている。調節エレメントとしては、プロモーター、ターミネーターおよびエンハンサーが挙げられる。また、発現された酵素を細胞外へ分泌させることが意図される場合は、分泌シグナルペプチドをコードする塩基配列が、改変された塩基配列の上流に正
しいリーディングフレームで結合される。特定の生物(例えば、細菌)に導入するために使用される発現ベクターのタイプ、その発現ベクター中で使用される調節エレメントおよび他の因子の種類が、目的の細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。
【0115】
本明細書において使用される「ターミネーター」は、タンパク質コード領域の下流に位置し、塩基配列がmRNAに転写される際の転写終結、ポリA配列の付加に関与する配列である。ターミネーターは、mRNAの安定性に関与して遺伝子の発現量に影響を及ぼすことが知られている。
【0116】
本明細書において使用される「プロモーター」とは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、また転写頻度を直接的に調節するDNA上の領域をいい、RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。プロモーターの領域は、通常、推定タンパク質コード領域の第1エキソンの上流約2kbp以内の領域であることが多いので、DNA解析用ソフトウェアを用いてゲノム塩基配列中のタンパク質コード領域を予測すれば、プロモーター領域を推定することはできる。推定プロモーター領域は、構造遺伝子ごとに変動するが、通常構造遺伝子の上流にあるが、これらに限定されず、構造遺伝子の下流にもあり得る。好ましくは、推定プロモーター領域は、第一エキソン翻訳開始点から上流約2kbp以内に存在する。
【0117】
本明細書において使用される「エンハンサー」は、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられ得る。そのようなエンハンサーは当該分野において周知である。エンハンサーは複数個用いられ得るが1個用いられてもよいし、用いなくともよい。
【0118】
本明細書において使用される「作動可能に連結された(る)」とは、所望の塩基配列が、発現(すなわち、作動)をもたらす転写翻訳調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサーなど)または翻訳調節配列の制御下に配置されることをいう。プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
【0119】
改変した核酸配列を、上記調節エレメントに作動可能に連結するために、目的のBE遺伝子を加工すべき場合がある。例えば、プロモーターとコード領域との間が長すぎて転写効率の低下が予想される場合、またはリボゾーム結合部位と翻訳開始コドンとの間隔が適切でない場合などである。加工の手段としては、制限酵素による消化、Bal31、ExoIIIなどのエキソヌクレアーゼによる消化、あるいはM13などの一本鎖DNAまたはPCRを使用した部位特異的変異の導入が挙げられる。
【0120】
次いで、上記のようにして作製された発現ベクターを細胞に導入してBEが発現される。
【0121】
本明細書において酵素の「発現」とは、その酵素をコードする塩基配列が、インビボまたはインビトロで転写および翻訳されて、コードされる酵素が生産されることをいう。
【0122】
発現ベクターを導入する細胞(宿主ともいう)としては、原核生物および真核生物が挙げられる。発現ベクターを導入する細胞は、BEの発現の容易さ、培養の容易さ、増殖の速さ、安全性などの種々の条件を考慮して容易に選択され得る。例えば、BEをグリコーゲンの合成に用いる場合、BEは、夾雑物としてアミラーゼを含まないことが好ましいので、アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない細胞を用いることが好ましい。このような細胞の例としては、細菌、真菌などの微生物が挙げられる。より好ましい細胞の例としては、中温性菌(例えば、大腸菌、枯草菌)が挙げられる。細胞は、微生
物細胞であってもよいが、植物、動物などの細胞であってもよい。用いる細胞によっては、本発明の酵素は、翻訳後プロセシングを受けたものであり得る。
【0123】
本発明の方法において、発現ベクターを細胞に導入する技術は、当該分野で公知の任意の技術であり得る。このような技術の例としては、例えば、形質転換、形質導入、トランスフェクションなどが挙げられる。そのような核酸分子の導入技術は、当該分野において周知であり、かつ、繁用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook Jら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd
Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。
【0124】
(2.基質)
本発明では、主にα−1,4−グルコシド結合で連結された重合度4以上のα−グルカンが、基質として用いられる。
【0125】
本明細書中では「α−グルカン」とは、D−グルコースを構成単位とする、糖であって、α−1,4−グルコシド結合によって連結された糖単位を少なくとも2糖単位以上有する糖をいう。α−グルカンは、直鎖状、分岐状または環状の分子であり得る。直鎖状α−グルカンとα−1,4−グルカンとは同義語である。直鎖状α−グルカンでは、α−1,4−グルコシド結合によってのみ糖単位の間が連結されている。α−1,6−グルコシド結合を1つ以上含むα−グルカンは、分岐状α−グルカンである。α−グルカンは、好ましくは、直鎖状の部分をある程度含む。分岐のない直鎖状α−グルカンがより好ましい。
【0126】
本明細書中では「主にα−1,4−グルコシド結合で連結された」とは、糖単位間が主にα−1,4−グルコシド結合によって連結されていることをいう。「主に」とは、糖単位間の結合の50%以上を占めることをいう。α−1,4−グルコシド結合以外の糖単位間結合は、可能な任意の結合であり得るが、一般的にはα−1,6−グルコシド結合である。
【0127】
基質として用いるα−グルカンは、分岐の数(すなわち、α−1,6−グルコシド結合の数)が少ないことが好ましい。このような場合、分岐の数は、1分子あたり、代表的には約0〜約100個、好ましくは約0〜約50個、さらに好ましくは約0〜約25個、約0〜約10個、約0〜約5個、さらに好ましくは0個である。
【0128】
α−1,6−グルコシド結合は、α−グルカン中に無秩序に分布していてもよいし、均質に分布していてもよい。α−グルカン中に糖単位で5個以上の直鎖状部分ができる程度の分布であることが好ましい。
【0129】
本発明で基質として用いられるα−グルカンは重合度4(分子量666)以上である。基質であるα−グルカンは単一の分子量の純粋な物質であっても、様々な分子量の分子の混合物であってもよい。基質以外に、基質として作用しないグルコースを含む混合物を溶液に添加してもよい。工業的には、種々の分子量の分子の混合物を原料糖として用いることが多い。
【0130】
反応開始前の溶液中の糖のMnは、約180より大きく、好ましくは約181以上であり、より好ましくは約182以上であり、より好ましくは約183以上であり、より好ましくは約184以上であり、より好ましくは約185以上である。反応開始前の溶液中の
糖の数平均分子量は、例えば、約190以上、約195以上、約200以上、約250以上、約300以上、約350以上、約400以上、約450以上、約500以上、約550以上、約600以上、約650以上、約700以上、約750以上、約800以上、約850以上、約900以上、約950以上、約1000以上、約1,000以上、約1,500以上、約2,000以上、約2,500以上などであってもよい。グルコース(分子量180)または重合度3以下のα−グルカンはBEの基質とはなり得ないが、重合度4以上のα−グルカンは基質となり得る。少量の基質(例えば、重合度4)に多量のグルコースを添加すると、その混合物のMnは180に近づく。反応開始前の溶液中の糖のMnが180付近であっても、重合度4以上のα−グルカンが存在すれば反応は生じる。それゆえ、反応開始前の溶液中の糖のMnが180付近であっても、重合度4以上のα−グルカンを含めば、反応に使用することができる。
【0131】
本発明で基質として用いられるα−グルカンの分子量に上限はない。反応開始前の溶液中の糖のMnは、約150,000以下であり、好ましくは約120,000以下であり、より好ましくは約100,000以下であり、より好ましくは約80,000以下であり、さらにより好ましくは約50,000以下であり、さらにより好ましくは約20,000以下であり、さらにより好ましくは約8,000未満であり、最も好ましくは約4,000未満である。特に、反応開始前の溶液中の糖のMnが約1,500以上約4,000未満という低分子のα−グルカンを基質として用いると、Mwが100万以上で、水への溶解性が高く、プルラナーゼおよびα−アミラーゼに対して高い耐性を有する高分岐のα−グルカンを極めて得やすいという利点がある。
【0132】
本発明で基質として用いられるα−グルカンは、D−グルコースのみから構成されていてもよいし、BEによる反応速度が20%以下に低下しない程度に修飾された誘導体であってもよい。修飾されていないことが好ましい。
【0133】
本発明で基質として用いられるα−グルカンは、天然のアミロースであってもよいが、好ましくは、澱粉枝切り物、デキストリン枝切り物または酵素合成アミロースである。天然のアミロースは、若干の分岐構造を有する場合がある。澱粉枝切り物およびデキストリン枝切り物もまた、枝切り反応が不十分な場合、若干の分岐構造を有する場合がある。澱粉枝切り物は、当該分野で公知の澱粉をイソアミラーゼまたはプルラナーゼによって分解したものであり得る。澱粉枝切り物を得るために用いられる澱粉の例としては、例えば、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、くず澱粉などの地下澱粉;コーンスターチ(ワキシーコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチなど)、小麦澱粉、米澱粉(例えば、もち米澱粉、粳米澱粉)、サゴ澱粉、豆澱粉などの地上澱粉が挙げられる。澱粉枝切り物は安価でかつ容易に入手できるため、特に好ましい。ハイアミロースコーンスターチのα−1,6−グルコシド結合分解物を用いることも好ましい。
【0134】
(3.他の酵素)
(i.4−α−グルカノトランスフェラーゼ)
本発明の製造方法は、反応開始前の溶液中の糖のMnが180より大きく1,500未満の溶液中で、重合度2以上のα−グルカンに4−α−グルカノトランスフェラーゼを作用させることにより、前記基質を生産する工程をさらに包含し得る。
【0135】
本発明の製造方法ではまた、4−α−グルカノトランスフェラーゼをBEと共存させてもよい。
【0136】
本発明で用いられ得る4−α−グルカノトランスフェラーゼは、供与体分子の非還元末端からグルコシル基、あるいは、2個以上のグルコースからなるユニットを受容体分子の非還元末端に転移する酵素である。従って、酵素反応は、最初に与えられたマルトオリゴ
糖の重合度の不均一化をもたらす。供与体分子と受容体分子とが同一の場合は、分子内転移が生じ、その結果、環状構造をもつ生成物が得られる。4−α−グルカノトランスフェラーゼは、その一次構造から6つのタイプに分類されている(TypeI、II、III、IV、V、およびOthers)(Takaha,T.およびSmith,S.M.Biotechnol.Genet. Eng. Rev. 16巻 p257−280(199
9)。TypeIは、シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(以下、CGTa
seという)と呼ばれている(EC2.4.1.19)。TypeIIは、ディスプロポ
ーショネーティングエンザイム、D−酵素、アミロマルターゼ、不均化酵素などとも呼ばれる酵素である(EC 2.4.1.25)(以下、MalQと呼ぶ)。TypeIIIは、Glycogen Debranching Enzymeという、4−α−グルカノトランスフェラーゼ活性とアミロ1,6グルコシダーゼ活性を併せ持つ酵素である(EC 3.2.1.33+EC 2.4.1.25)。TypeIVおよびVには、超好熱性菌由来の4−α−グルカノトランスフェラーゼが分類されている。Othersには、一次構造情報は得られていないが、4−α−グルカノトランスフェラーゼ活性は報告されているいくつかの酵素が分類されている。4−α−グルカノトランスフェラーゼ活性は、Teradaら(Applied and Environmental Microbiology,65巻,910〜915頁(1999))に基づいて決定され得る。4−α−グルカノトランスフェラーゼの性質に従って、測定時の反応温度、反応pHなどを調整し得る。
【0137】
4−α−グルカノトランスフェラーゼは、微生物および植物に存在する。4−α−グルカノトランスフェラーゼを産生する微生物の例としては、Aquifex aeolicus、Streptococcus pneumoniae、Clostridium butylicum、Deinococcus radiodurans、Haemophilus influenzae、Mycobacterium tuberculosis、Thermococcus litralis、Thermotoga maritima、Thermotoga neapolitana、Chlamydia psittaci、Pyrococcus sp.、Dictyoglomus thermophilum、Borrelia burgdorferi、Synechosystis sp.、E.coli、Saccharomyces cerevisiae、Thermus aquaticus、Thermus thermophilusなどが挙げられる。4−α−グルカノトランスフェラーゼを産生する植物の例としては、馬鈴薯、サツマイモ、ヤマイモ、キャッサバなどの芋類、トウモロコシ、イネ、コムギ、などの穀類、えんどう豆、大豆、などの豆類などが挙げられる。4−α−グルカノトランスフェラーゼを産生する生物はこれらに限定されない。4−α−グルカノトランスフェラーゼは、市販のものであっても、当該分野で公知の方法によりこれらの生物から調製されてもよく、またはこれらの生物の枝切り酵素遺伝子を用いて遺伝子組換え法により調製されてもよい。当該分野で公知の任意の4−α−グルカノトランスフェラーゼが使用され得る。
【0138】
CGTase(EC2.4.1.19)も1種の4−α−グルカノトランスフェラーゼであり、本発明の製造方法に使用しうる。本発明で用いられ得るCGTaseは、マルトオリゴ糖の糖転移反応(不均一化反応)を触媒し得る酵素である。CGTaseは、供与体分子の非還元末端の6〜8個のグルコース鎖を認識してこの部分を環状化させるように転移反応を行い、重合度6〜8個のシクロデキストリンと非環状リミットデキストリンとを生成する酵素である。
【0139】
CGTaseとしては、周知の微生物由来のCGTase、あるいは市販のCGTaseが用いられ得る。好適には、市販のBacillus stearothrmophilus 由来のCGTase(株式会社林原生物化学研究所、岡山)、Bacillus
macerans由来のCGTase(商品名:コンチザイム、天野製薬株式会社、名
古屋)、あるいはAlkalophilic Bacillus sp. A2−5a由来のCGTaseが用いられ得る。より好適には、Alkalophilic Bacillus sp. A2−5a由来のCGTaseが用いられ得る。Alkalophilic Bacillus sp. A2−5aは、特開平7−107972号に開示されているアルカリ域で高い活性を有するCGTaseを産生する株であり、出願人によって、工業技術院生命工学工業技術研究所に受託番号(FERM P−13864)として寄託されている。CGTaseを産生する生物はこれらに限定されない。CGTaseは、市販のものであっても、当該分野で公知の方法によりこれらの生物から調製されてもよく、またはこれらの生物のCGTase遺伝子を用いて遺伝子組換え法により調製されてもよい。当該分野で公知の任意のCGTaseが使用され得る。本発明の製造方法では、CGTase以外の4−α−グルカノトランスフェラーゼを用いることが好ましい。CGTase以外の4−α−グルカノトランスフェラーゼをBEと共存させると、CGTaseをBEと共存させた場合よりも顕著にグリコーゲンの収率が向上する。
【0140】
4−α−グルカノトランスフェラーゼは、BEと同時に添加することが好ましい。しかし、生成するグリコーゲンの分子量および収率に影響しない限り、BE添加の前、または後に添加しても良い。4−α−グルカノトランスフェラーゼとBEとを共存させると、BEを単独で用いた場合と比較して、グリコーゲンの収率が顕著に向上する。
【0141】
(ii.Mnが180より大きく1,500未満のα−グルカン)
Mnが180より大きく1,500未満のα−グルカンが単独の物質である場合、例としては、重合度2〜9のマルトオリゴ糖が挙げられる。好ましくは、重合度3〜8のマルトオリゴ糖であり、より好ましくは重合度3〜7のマルトオリゴ糖であり、さらにより好ましくは重合度4〜6のマルトオリゴ糖であり、特に好ましくは重合度4〜5のマルトオリゴ糖であり、最も好ましくは重合度4のマルトオリゴ糖である。
【0142】
Mnが180より大きく1,500未満のα−グルカンが混合物である場合、例としては、重合度4〜12のマルトオリゴ糖を含む混合物が挙げられる。Mnが180より大きく1,500未満のα−グルカンは、重合度4〜12のマルトオリゴ糖に加えて、グルコースなどの低分子の糖を含み得る。Mnが180より大きく1,500未満のα−グルカンは、好ましくは、重合度4〜7のマルトオリゴ糖を含み、より好ましくは重合度4〜7のマルトオリゴ糖である。重合度4〜7のマルトオリゴ糖は、それぞれ、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、およびマルトヘプタオースとも呼ばれる。
【0143】
(iii.枝切り酵素)
本発明の製造方法は、Mn500以上の低分岐α−グルカンに枝切り酵素を作用させることにより、上記基質を生産する工程をさらに包含し得る。枝切り酵素とは、α−1,6−グルコシド結合を切断し得る酵素である。枝切り酵素は、アミロペクチンおよびグリコーゲンにともによく作用するイソアミラーゼ(EC 3.2.1.68)と、プルランによく作用するα−デキストリンエンド−1,6−α−グルコシダーゼ(プルラナーゼともいう)(EC 3.2.1.41)との2つに分類される。イソアミラーゼおよびプルラナーゼのいずれも本発明の方法において用いられ得る。枝切り酵素は、澱粉のような安価な材料から、主にα−1,4−グルコシド結合で連結された重合度4以上のα−グルカンを生成するために用いられ得る。枝切り酵素活性は、Yokobayashiら(Bio
chim.Biophys.Acta,vol.212,p458−469(1970))に
基づいて決定され得る。枝切り酵素の性質に従って、測定時の反応温度、反応pHなどを調整し得る。
【0144】
枝切り酵素は、微生物、原核生物、および植物に存在する。枝切り酵素を産生する微生
物の例としては、Saccharomyces cerevisiae、Chlamydomonas sp.が挙げられる。枝切り酵素を産生する原核生物の例としては、Bacillus brevis、Bacillus acidopullulyticus、Bacillus macerans、Bacillus stearothermophilus、Bacillus circulans、Thermus aquaticus、Klebsiella pneumoniae、Thermoactinomyces thalpophilus、Thermoanaerobacter ethanolicus、Pseudomonas amyloderamosa、Flavobacteriumodoratum、Falvobacterium sp.、Cytophaga sp.、Escherichia coli、Sulfolobus acidocaldarius、Sulfolobus tokodaii、Sulfolobus solfataricus、Metallosphaera hakonensisなどが挙げられる。枝切り酵素を産生する植物の例としては、馬鈴薯、サツマイモ、トウモロコシ、イネ、コムギ、オオムギ、オートムギ、サトウダイコンなどが挙げられる。枝切り酵素を産生する生物はこれらに限定されない。枝切り酵素は、市販のものであっても、当該分野で公知の方法によりこれらの生物から調製されてもよく、またはこれらの生物の枝切り酵素遺伝子を用いて遺伝子組換え法により調製されてもよい。当該分野で公知の任意の枝切り酵素が使用され得る。
【0145】
枝切り酵素は、BEを反応溶液中に添加する前に添加されることが好ましい。
【0146】
(iv.Mn500以上の低分岐α−グルカン)
Mn500以上の低分岐α−グルカンは、天然に存在するα−グルカンであり得る。本明細書中では、「低分岐」とは、分岐の頻度が低いことをいう。低分岐α−グルカンは、分岐を含まなくてもよい。低分岐α−グルカンでは、好ましくは、α−1,6−グルコシド結合の数を1としたときのα−1,4−グルコシド結合の数が、好ましくは約10〜約10000であり、より好ましくは約10〜約5000であり、さらに好ましくは約15〜約1000であり、さらに好ましくは約20〜約600である。Mn約500以上の低分岐α−グルカンの例としては、澱粉、アミロース、アミロペクチンおよびこれらの誘導体あるいは部分分解物が挙げられる。澱粉の例としては、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、くず澱粉などの地下澱粉;コーンスターチ(ワキシーコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチなど)、小麦澱粉、米澱粉(例えば、もち米澱粉、粳米澱粉)、サゴ澱粉、豆澱粉などの地上澱粉が挙げられる。アミロースの例としては、これらの澱粉から単離されたアミロースが挙げられる。アミロペクチンとしては、これらの澱粉から単離されたアミロペクチンが挙げられる。Mn500以上の低分岐α−グルカンは、当該分野で公知であり、容易に入手され得る。
【0147】
(4.グリコーゲンの製造方法)
本発明の製造方法では、例えば、グリコーゲン合成能力を有するBEと、基質(すなわち、主にα−1,4−グルコシド結合で連結された重合度4以上のα−グルカン)と、緩衝剤と、それを溶かしている溶媒とを主な材料として用いる。これらの材料は通常、反応開始時に全て添加されるが、反応の途中でこれらのうちの任意の材料を追加してもよい。上記のように、本発明の製造方法では、必要に応じて、Mnが180より大きく1,500未満のα−グルカンおよび4−α−グルカノトランスフェラーゼを用いることができる。本発明の製造方法ではまた、Mn500以上の低分岐α−グルカンおよび枝切り酵素を用いることができる。
【0148】
当業者は、本発明の製造方法で用いられる基質の量、酵素の量、反応時間などを適宜設定することによって所望の分子量のα−グルカンが得られることを容易に理解する。
【0149】
反応開始時の溶液中に含まれるBEの量は、反応開始時の溶液中のα−グルカンに対して、代表的には約100U/g基質以上であり、好ましくは約500U/g基質以上であり、より好ましくは約1,000U/g基質以上である。反応開始時の溶液中に含まれるBEの量は、反応開始時の溶液中のα−グルカンに対して、代表的には約500,000U/g基質以下であり、好ましくは約100,000U/g基質以下であり、さらに好ましくは約80,000U/g基質以下である。BEの使用量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、グリコーゲンの収率が低下する場合がある。
【0150】
BEの使用量は、BEを基質(すなわち、α−グルカン)に作用させる時間と関係がある。使用量が少なくとも反応時間を長くすれば反応は進み、使用量が多ければ反応時間が短くとも反応が進むからである。よって酵素量と反応時間との積が、反応物の生成に対して大きな影響を有する。本発明の方法においては、好ましくは、BEの使用量と反応時間との積が約150,000U・時間/g基質以上になるように、BEの使用量と反応時間とを調整する。本明細書中では、「U・時間/g基質」とは、基質1gあたりの酵素使用量(U/g基質)と反応時間(時間)との積を示す。BEの使用量と反応時間との積は、より好ましくは約160,000U・時間/g基質以上であり、より好ましくは約170,000U・時間/g基質以上であり、より好ましくは約180,000U・時間/g基質以上であり、より好ましくは約200,000U・時間/g基質以上であり、さらにより好ましくは約250,000U・時間/g基質以上であり、なおより好ましくは約300,000U・時間/g基質以上であり、なおより好ましくは約350,000U・時間/g基質以上である。約400,000U・時間/g基質以上、約500,000U・時間/g基質以上、約600,000U・時間/g基質以上、約700,000U・時間/g基質以上、約800,000U・時間/g基質以上のような量・時間で作用させても好適な結果が得られ得る。基質に対してBEを多量に、あるいは長時間作用させることにより、グリコーゲンが生成される。作用させるBEの量と時間との積に特に上限はないが、あまりにも多量のBEをあまりにも長時間作用させると製造コストが高価になりすぎる場合がある。作用させるBEの量と時間との積は例えば、約10,000,000U・時間/g基質以下、約8,000,000U・時間/g基質以下、約50,000,000U・時間/g基質以下、約10,000,000U・時間/g基質以下、約8,000,000U・時間/g基質以下、約5,000,000U・時間/g基質以下、約1,000,000U・時間/g基質以下などであり得る。
【0151】
反応開始前の溶液中の糖のMnに応じて、酵素量と反応時間との積の好適な範囲は異なる。一般に、反応開始前の溶液中の糖のMnが小さければ、酵素量と反応時間との積がどのような範囲であっても高分子量の生成物が得られ、得られる生成物の溶解性も高い。反応開始前の溶液中の糖のMnが大きくなるほど、溶解性の高い高分子量の生成物を得るために必要な、酵素量と反応時間との積が大きくなる。
【0152】
反応開始前の溶液中の糖のMnが約4,000未満である場合、本発明の方法においては、BEの使用量と反応時間との積は特に限定されない。例えば、この積が約25,000U・時間/g基質以上であれば、高分子量の生成物が得られる。この積は、好ましくは約35,000U・時間/g基質以上であり、さらに好ましくは約100,000U・時間/g基質以上であり、最も好ましくは約150,000U・時間/g基質以上である。
【0153】
反応開始前の溶液中の糖のMnが約4,000以上約8,000未満である場合、BEの使用量と反応時間との積は、好ましくは約25,000U・時間/g基質以上であり、さらに好ましくは約50,000U・時間/g基質以上であり、最も好ましくは約100,000U・時間/g基質以上である。
【0154】
反応開始前の溶液中の糖のMnが約8,000以上約100,000未満である場合、BEの使用量と反応時間との積は、好ましくは約40,000U・時間/g基質以上であり、さらに好ましくは約100,000U・時間/g基質以上であり、最も好ましくは約150,000U・時間/g基質以上である。
【0155】
反応開始前の溶液中の糖のMnが約100,000以上約150,000未満である場合、BEの使用量と反応時間との積は、好ましくは約150,000U・時間/g基質以上であり、さらに好ましくは約200,000U・時間/g基質以上であり、最も好ましくは約300,000U・時間/g基質以上である。
【0156】
本発明の製造方法に用いる溶媒は、BEの酵素活性を損なわない溶媒であれば任意の溶媒であり得る。
【0157】
なお、グリコーゲンを生成する反応が進行し得る限り、溶媒が本発明の製造方法に用いる材料を完全に溶解する必要はない。例えば、酵素が固体の担体上に担持されている場合には、酵素が溶媒中に溶解する必要はない。さらに、α−グルカンなどの反応材料も全てが溶解している必要はなく、反応が進行し得る程度の材料の一部が溶解していればよい。
【0158】
代表的な溶媒は、水である。溶媒は、上記BEを調製する際にBEに付随して得られる細胞破砕液のうちの水分であってもよい。
【0159】
グリコーゲン合成能力を有するBEと、基質(すなわち、主にα−1,4−グルコシド結合で連結されたMnが180より大きく150,000以下のα−グルカン)とを含む溶液中には、BEとこのα−グルカンとの間の相互作用を妨害しない限り、任意の他の物質を含み得る。このような物質の例としては、緩衝剤、BEを産生する微生物(例えば、細菌、真菌など)の成分、塩類、培地成分などが挙げられる。
【0160】
これらの材料の使用量は、公知であり、当業者によって適切に設定され得る。
【0161】
本発明の製造方法においては、まず、反応溶液を調製する。反応溶液は、例えば、適切な溶媒に、グリコーゲン合成能力を有するBEと、基質(すなわち、主にα−1,4−グルコシド結合で連結されたMnが180より大きく150,000以下のα−グルカン)とを添加することにより調製され得る。あるいは、反応溶液は、グリコーゲン合成能力を有するBEを含む溶液と、基質(すなわち、主にα−1,4−グルコシド結合で連結されたMnが180より大きく150,000以下のα−グルカン)を含む溶液とを混合することによって調製してもよい。この反応溶液には、酵素反応を阻害しない限り、必要に応じて、pHを調整する目的で任意の緩衝剤を加えてもよい。反応溶液のpHは、使用するBEが活性を発揮し得るpHであれば任意に設定され得る。反応溶液のpHは、使用するBEの至適pH付近であることが好ましい。反応溶液のpHは、代表的には約2以上であり、好ましくは約3以上であり、さらに好ましくは約4以上であり、特に好ましくは約5以上であり、特に好ましくは約6以上であり、最も好ましくは約7以上である。反応溶液のpHは、代表的には約13以下であり、好ましくは約12以下であり、さらに好ましくは約11以下であり、特に好ましくは約10以下であり、特に好ましくは約9以下であり、最も好ましくは約8以下である。1つの実施形態では、反応溶液のpHは、代表的には、使用するBEの至適pHの±3以内であり、好ましくは至適pHの±2以内であり、さらに好ましくは至適pHの±1以内であり、最も好ましくは至適pHの±0.5以内である。
【0162】
この反応溶液には、必要に応じて、4−α−グルカノトランスフェラーゼまたは枝切り酵素を添加してもよい。
【0163】
反応開始時の溶液中に含まれる4−α−グルカノトランスフェラーゼの量は、反応開始時の溶液中のα−グルカンに対して、代表的には約0.1U/g基質以上であり、好ましくは約0.5U/g基質以上であり、より好ましくは約1U/g基質以上である。反応開始時の溶液中に含まれる4−α−グルカノトランスフェラーゼの量は、特に上限はないが、反応開始時の溶液中のα−グルカンに対して、代表的には約50,000U/g基質以下であり、好ましくは約10,000U/g基質以下であり、さらに好ましくは約8,000U/g基質以下である。4−α−グルカノトランスフェラーゼの使用量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、グリコーゲンの収率が低下する場合がある。
【0164】
反応開始時の溶液中に含まれる枝切り酵素の量は、反応開始時の溶液中のα−グルカンに対して、代表的には約10U/g基質以上であり、好ましくは約50U/g基質以上であり、より好ましくは約100U/g基質以上である。反応開始時の溶液中に含まれる枝切り酵素の量は、特に上限はないが、反応開始時の溶液中のα−グルカンに対して、代表的には約500,000U/g基質以下であり、好ましくは約100,000U/g基質以下であり、さらに好ましくは約80,000U/g基質以下である。枝切り酵素の使用量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、グリコーゲンの収率が低下する場合がある。
【0165】
次いで、反応溶液を、当該分野で公知の方法によって必要に応じて加熱することにより、反応させる。反応温度は、本発明の効果が得られる限り、任意の温度であり得る。反応開始時の反応溶液中のBE活性が、反応至適条件で測定した活性の約5〜約100%である場合には、反応温度は代表的には、約20℃以上であり得、約100℃以下であり得る。この反応工程における溶液の温度は、所定の反応時間後に反応前のこの溶液に含まれるBEの活性の約50%以上、より好ましくは約80%以上の活性が残る温度であることが好ましい。反応温度は、好ましくは約30℃以上であり、さらに好ましくは約40℃以上であり、さらにより好ましくは約50℃以上であり、さらにより好ましくは約55℃以上であり、特に好ましくは約60℃以上であり、最も好ましくは65℃以上である。反応温度は、約90℃以下好ましくは約85℃以下であり、さらにより好ましくは約80℃以下であり、より好ましくは約75℃以下であり、特に好ましくは約70℃以下であり、最も好ましくは65℃以下である。
【0166】
反応時間は、反応温度、反応により生産されるα−グルカンの分子量および酵素の残存活性を考慮して、任意の時間で設定され得る。反応時間は、代表的には約1時間以上であり、より好ましくは約2時間以上であり、さらにより好ましくは約4時間以上であり、最も好ましくは約6時間以上である。反応時間に特に上限はないが、好ましくは約100時間以下、より好ましくは約72時間以下、さらにより好ましくは約36時間以下、最も好ましくは約24時間以下である。
【0167】
本発明の製造方法では、α-グルカンホスホリラーゼまたはグリコーゲン合成酵素のい
ずれも使用しないことが好ましい。
【0168】
このようにして、グリコーゲンを含有する溶液が生産される。本発明の方法によって製造されるグリコーゲンのMwは、好ましくは、約100万(Da)以上であり、より好ましくは約200万(Da)以上であり、さらにより好ましくは約500万(Da)以上であり、最も好ましくは約1000万(Da)以上である。本発明の製造方法によって製造されるグリコーゲンのMwに特に上限はないが、例えば、約5000万(Da)まで、約1億(Da)まで、約10億(Da)までのグリコーゲンが良好な生産性で合成され得る。得られたグリコーゲンのMwは、当該分野で公知の方法によって確認され得る。グリコ
ーゲンのMwは、例えば、以下の方法で測定され得る。
【0169】
まず、合成したα−グルカンを1N水酸化ナトリウムで完全に溶解し、適当量の塩酸で中和した後、α−グルカン約1μg〜約300μg分を、示差屈折計と多角度光散乱検出器とを併用したゲル濾過クロマトグラフィーに供することにより平均分子量を求める。
【0170】
詳しくは、カラムとしてShodex OH−Pack SB806MHQ(内径8mm、長さ300mm、昭和電工製)を用い、ガードカラムとしてShodex OH−Pack SB−G(内径6mm、長さ50mm、昭和電工製)を用い、検出器としては多角度光散乱検出器(DAWN−DSP、Wyatt Technology社製)および示差屈折計(Shodex RI−71、昭和電工製)をこの順序で連結して用いる。カラムを40℃に保ち、溶離液としては0.1M硝酸ナトリウム溶液を流速1mL/分で用いる。分子量が約1万以上のα−グルカンは、Shodex製のプルランP−50(GFC(水系GPC)用標準試料STANDARD P−82に含まれている)のピーク頂点が、9.3分になるように配管を調整した上記HPLCシステムにおいて、11分より前に溶出される。具体的には、シグナルの出始めの位置から11分までに溶出される示差屈折計と多角度光散乱検出器の両シグナルを含むように、ピークとしてとり、それらのシグナルを、データ解析ソフトウェア(商品名ASTRA、Wyatt Technology社製)を用いて収集し、同ソフトを用いて解析することにより、Mwを求める。本方法を以下、MALLS法という。この分析法においては、上記シグナルよりも後のシグナルを収集しないので、分子量が約1万以下のグルカンを除外している。このように、本発明においてMALLS法に従って決定されるMwは、反応液中のグルカン全体のMwではなく、分子量約1万以上の高分子量グルカンのMwである。さらに、HPLCカラムと検出器との間の配管の長さ、太さなどを変更した場合、分子量約1万以上のグルカンの溶出時間は変化し得る。このような場合、当業者は、上記プルランP−50を用いることにより、本発明の方法に従ってMALLS法によりMwを決定するための適切な溶出時間を適切に設定し得る。
【0171】
本発明の方法によって製造されたグリコーゲンは、天然のグリコーゲンと同様に、プルラナーゼおよびα−アミラーゼによって分解されにくいという性質を有する。従って、本発明の方法によって製造されたグリコーゲンは、天然のグリコーゲンと同様に利用され得る。
【0172】
本発明の方法によって製造されたグリコーゲンは、溶解性が高いという性質を有する。溶解度は、当該分野で公知の方法により決定され得る。例えば、所定量のα−グルカンを水に添加し、所定時間攪拌し、フィルターによって濾過して濾液を得て、この濾液中に溶解しているα−グルカンの量を決定し、添加したα−グルカンの量と溶解しているα−グルカンの量との比を算出することにより決定され得る。すなわち、溶解度(%)={(ろ液中のα−グルカン量)÷(ろ過前の溶液中のα−グルカン量)}×100である。製造されたα−グルカンを乾燥し、2mg/mLとなるように20℃の蒸留水に添加し、室温で30秒間攪拌し、0.45μmのフィルターによって濾過した場合の溶解度は、好ましくは、約20%以上であり、より好ましくは約30%以上であり、より好ましくは約40%以上であり、さらに好ましくは約50%以上である。
【0173】
(グリコーゲンの用途)
本発明の方法によって製造されたグリコーゲンは、従来のグリコーゲンと同様に、免疫賦活剤、健康食品素材、化粧品素材、食品素材(調味料)、その他産業用素材としての用途に利用され得る。
【実施例】
【0174】
以下の実施例においては、製造例1、2、4、5、7および8で製造した各種BEを、BEとして用いた。Pseudomonas amyloderamosa由来のイソアミラーゼ(林原生物化学研究所製)を枝切り酵素として用いた。枝切り酵素活性を、Yokobayashiら(Biochim.Biophys.Acta,vol.212,p4
58−469(1970))に基づいて決定した。Thermus aquaticus
由来のMalQ(TaqMalQ)を4−α−グルカノトランスフェラーゼとして用いた。4−α−グルカノトランスフェラーゼの酵素活性を、Teradaら(Applied
and Environmental Microbiology,65巻,910〜915頁(1999))に基づいて決定した。
【0175】
(製造例1:Aquifex aeolicus VF5由来のBEの組換え生産)
(A)Aquifex aeolicus VF5 BE遺伝子の作製
配列番号2のアミノ酸配列をコードする遺伝子(配列番号1)の化学的合成を行った。遺伝子の翻訳開始コドン上流にはSD配列を付与し、さらにその上流にBamHIサイトを設けた。また、翻訳停止コドン下流にはEcoRIサイトを設けた。この合成遺伝子をBamHIとEcoRIで切断して遺伝子断片を作製し、T4−DNAリガーゼを用いて、BamHIおよびEcoRIで切断したプラスミドpUC19(宝酒造株式会社製)に連結することにより、プラスミドpAQBE1を得た。
【0176】
(B)Aquifex aeolicus BE遺伝子の大腸菌における発現
このプラスミドで、大腸菌TG−1を形質転換し、形質転換体をアンピシリン含有LB寒天培地(100μg/mlアンピシリン、Difco製トリプトン1%、Difco製酵母エキス0.5%、NaCl 0.5%、寒天 1.5%、pH 7.3)に独立したコロニーが得られるように希釈して塗布し、37℃で一晩培養した。このアンピシリン含有LB寒天培地で増殖した大腸菌は、導入したプラスミドを保有する。このようにして、BEを発現する大腸菌が作製できた。
【0177】
組換えプラスミドpAQBE1で形質転換された大腸菌TG−1株を、終濃度100μg/mlのアンピシリンを含む0.2リットルのL培地(1% トリプトン(Difco)、0.5% イーストエキストラクト(Difco)、1% NaCl、pH7.5)中で対数増殖期中期まで(約3時間)、37℃で培養した後、終濃度0.1mMのIPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)を加えた。さらに37℃で21時間培養を継続した後、遠心分離を行い集菌した。得られた菌体を50mlの緩衝液A(10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5))で洗浄し、次いで20mlの緩衝液Aに分散させた後、超音波により菌体を破砕した。この菌体破砕液を70℃で30分加熱することにより、大腸菌由来のタンパク質を変性させ、これをBE酵素液とした。このBE酵素液およびpAQBE1を持たない大腸菌を同様に処理して得た液をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけてそれらのパターンを比較した。その結果、形質転換された大腸菌TG−1株がBE遺伝子を発現しており、本遺伝子にコードされているタンパク質が生産されていることが確認された。
【0178】
(製造例2:Bacillus stearothermophilus TRBE 14由来のBEの組換え生産)
非特許文献12に示されたプラスミドpUBE821を保持する大腸菌TG−1株より、同文献に示された方法によりBacillus stearothermophilus TRBE 14由来のBEを組換え生産した。
【0179】
(製造例3:Thermus aquaticus由来のMalQ(以下、TaqMalQという)の組換え生産)
Teradaら(Applied and Environmental Micro
biology,65巻,910〜915頁(1999))に示されたプラスミドpFGQ8を保持する大腸菌MC1061株より、同文献に示された方法によりTaqMalQを組換え生産した。
【0180】
(製造例4:大腸菌由来BEの組換え生産およびグリコーゲン合成能力のテスト)
(手順)
以下のプライマーを用いて、大腸菌W3110株染色体DNAを鋳型として大腸菌BE遺伝子を増幅した。このプライマーは、以下の文献を参考にして、大腸菌BE構造遺伝子全長が増幅されるようにデザインした:Hilden,I.ら(2000)Eur J Biochem 267,2150−2155。設計したプライマー配列を以下の表1Aに示す。
【0181】
【表1A】
タカラバイオ(株)製のDNAポリメラーゼPyroBestを用いて、そのプロトコールに従ってPCRを行った。増幅された断片をpGEM−T Easy(プロメガ製)のTAクローニングサイトに挿入し、得られたプラスミドをpEBE1と命名した。pEBE1を制限酵素NcoIおよびHindIIIで処理して断片を得た。得られた断片を、同じ制限酵素(NcoIおよびHindIII)で処理したpTrc99Aと連結し、この連結物を含む溶液で大腸菌TG−1株を形質転換した。形質転換された大腸菌TG−1株からプラスミドを単離し、得られたプラスミドをpEBE2−1と命名した。
【0182】
pEBE2−1を含む大腸菌TG−1株をアンピシリン50μg/mLを含む培地で37℃で振盪培養し、対数期後期に、終濃度0.1mMのIPTGを添加し、さらに37℃で一晩培養した。
【0183】
菌体を遠心分離で集め、10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)に懸濁し、超音波処理によって破砕した。遠心分離によって上清を集めて粗酵素液とした。
【0184】
Q−Sephalose Fast Flow(Amersham−Pharmacia)を充填したカラムを調製し、樹脂を20mM Tris−HCl(pH7)で平衡化した。このカラムに粗酵素液を流すことによって、この樹脂に粗酵素液を吸着させ、0.1MのNaClを含む同緩衝液(すなわち、0.1MのNaClを含む20mM Tris−HCl(pH7))を流して洗浄した。BE活性は、0.2MのNaClを含む同緩衝液(すなわち、0.2MのNaClを含む20mM Tris−HCl(pH7))で溶出された。
【0185】
そのBE活性を有する溶出液に、終濃度0.3Mになるように硫酸アンモニウムを添加し、以下のように疎水性クロマトグラフィーにかけて、BE酵素を精製した。まず、Phenyl−Toyopearl 650M(東ソー)を充填したカラムを調製し、0.3M硫酸アンモニウムを含む20mM Tris−HCl(pH7)で平衡化した。この樹脂に酵素を吸着させ、20mM Tris−HCl(pH7)で洗浄した。酵素は、蒸留水をカラムに流すことによって回収した。このようにして、精製BEが得られた。
【0186】
(グリコーゲン合成能力のテスト)
アミロースA(ナカライテスク(株)製、Mn2900)またはアミロースAS10(
(株)アジノキ製、Mw10,000、数平均としては9100)を1N NaOHに溶かし、HClで中和した。その後、すぐに水、酵素液、緩衝液を以下の反応液組成となるように添加して、30℃で24時間反応させた。反応液組成:大腸菌由来BE40,000U/g基質、基質濃度0.5重量%、リン酸カリウム濃度 20mM、pH 7.5。反応液中に合成されたグルカンの平均分子量および収率を、MALLS法により調べた。結果を以下の表1Bに示す。
【0187】
【表1B】
この結果、大腸菌由来のBEがMw1000kDa以上のグリコーゲンを合成する能力を有することがわかった。
【0188】
(製造例5:Rhodothermus obamensis由来のBEの組換え生産)
Rhodothermus obamensis JCM9785は、独立行政法人 理化学研究所 バイオリソースセンターより分譲を受けた。この株をMarine Broth 2216(Difco製)を用いて70℃で液体培養し、得られた菌体から染色体DNAを抽出した。
【0189】
以下のプライマーを用いて、上述の染色体DNAを鋳型としてRhodothermus obamensis BE遺伝子を増幅した。このプライマーは、非特許文献11で公開されている塩基配列情報を参考にして、Rhodothermus obamensis BE構造遺伝子全長が増幅されるようにデザインした。設計したプライマー配列を以下の表1Cに示す。
【0190】
【表1C】
東洋紡製のDNAポリメラーゼKOD−Plusを用いて、以下の組成の反応液で、以下の条件でPCRを行った。
【0191】
染色体DNA(約0.5μg/μL) 2μL
プライマー1(10pmol/μL) 3μL
プライマー2(10pmol/μL) 3μL
×10 KOD−Plus Buffer 10μL
2mM dNTP 10μL
25mM MgSO4 4μL
KOD−Plus 2μL
蒸留水(DW) 70μL
条件:94℃で2分間の加熱後、94℃で0.25分間、55℃で0.5分間、68℃で2.5分間のサイクルを30回。
【0192】
得られたDNA断片を制限酵素EcoRIおよびPstIで処理し、同制限酵素(EcoRIおよびとPstI)で処理したpTrc99Aと連結し、この連結物を含む溶液で大腸菌TG−1株を形質転換した。形質転換された大腸菌TG−1株からプラスミドを単
離し、得られたプラスミドをpRBE1と命名した。
【0193】
pRBE1を含む大腸菌TG−1株をアンピシリン50μg/mLを含む培地で37℃で振盪培養し、対数期後期に、終濃度0.1mMのIPTGを添加し、さらに37℃で一晩培養した。
【0194】
菌体を遠心分離で集め、20mM Tris−HCl緩衝液(pH7)に懸濁し、超音波処理によって破砕した。遠心分離によって上清を集め、さらに70℃30分熱処理し、遠心分離して上清を回収して粗酵素液とした。
【0195】
Q−Sephalose Fast Flow(Amersham−Pharmacia)を充填したカラムを調製し、樹脂を20mM Tris−HCl(pH7)で平衡化した。このカラムに粗酵素液を流すことによって、この樹脂に粗酵素液を吸着させ、0.1MのNaClを含む同緩衝液を流して洗浄した。BE活性は、0.5MのNaClを含む同緩衝液で溶出された。本溶出液を、20mM Tris−HCl(pH7)に対して透析することにより精製BEが得られた。以下の実施例8に示されるように、得られた精製BEは、Mw1000kDa以上のグリコーゲンを合成する能力を有する。
【0196】
(製造例6:トラマメ由来のBEの組換え生産および高分子量グルカン合成能力のテスト)
トラマメ(Kidney bean;Phaseolus vulugaris L.)由来BEとしては、下記文献に記載されているKBE2を用いた:Nozaki,K.ら(2001)Biosci. Biotechnol. Biochem. 65,1141−1148。
【0197】
(グリコーゲン合成能テスト)
アミロースA(ナカライテスク(株)製、Mn2900)またはアミロースAS10((株)アジノキ製、Mw10,000、数平均としては9100)を1N NaOHに溶かし、HClで中和した。その後、すぐに水、酵素液、緩衝液を以下の反応液組成となるように添加して、30℃で24時間反応させた。反応液組成:KBE2量40,000U/g基質、基質濃度0.5重量%、リン酸カリウム濃度20mM、pH 7.5。反応液
中に合成されたグルカンの平均分子量および収率を、MALLS法により調べた。結果を以下の表1Dに示す。
【0198】
【表1D】
この結果、KBE2を用いた場合には、1000kDa以上のグリコーゲンを合成できないことがわかった。
【0199】
(製造例7:Bacillus caldovelox由来BEの組換え生産)
Aquifex aeolicus由来のBEをコードする遺伝子の代わりにBacillus caldovelox由来のBEをコードする遺伝子(配列番号9)を用いたこと、および加熱処理温度を60℃としたこと以外は製造例1と同様の方法でBacillus caldovelox由来のBEを組換え生産した。
【0200】
(製造例8:Bacillus caldolyticus由来のBEの組換え生産)
Aquifex aeolicus由来のBEをコードする遺伝子の代わりにBaci
llus caldolyticus由来のBEをコードする遺伝子(配列番号13)を用いたこと、および加熱処理温度を60℃としたこと以外は製造例1と同様の方法でBacillus caldolyticus由来のBEを組換え生産した。
【0201】
(測定例1:Aquifex aeolicus VF5由来BEのアミロペクチン低分子化活性の測定)
まず、50mgのワキシーコーンスターチ(WCS;三和澱粉製)に100μl 蒸留水を添加し、充分に攪拌した。次いで、900μl ジメチルスルホキシド(DMSO)を添加して、攪拌し、沸騰湯浴中で、20分間加熱した。8.9ml 蒸留水を添加してよく撹拌し、沸騰湯浴中で、さらに10分間加熱した。この溶液に、100μlの1M リン酸緩衝液(pH7.5)を添加して攪拌し、基質液とした。
【0202】
基質液を800μL/チューブで分注した。すなわち、各チューブは、4mgのWCSを含んでいた。次いで、製造例1と同様の方法によって生産した、Aquifex aeolicus VF5由来のBE溶液(BE活性2.4U/mL)をチューブ1本あたり66.7、83.3、100、116.7、133.3、または150μLと、それぞれ、133.3、116.7、100、83.3、66.7、または50μLの希釈液を添加して反応液の体積を1000μLにし、70℃で16時間反応させた。希釈液は0.05% Triton X−100を含む10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)であった。反応時間が16時間になった時点で1N HClを添加して反応液のpHを3〜4に下げ、さらに100℃で10分加熱することにより、反応を停止させた。
【0203】
反応停止後、反応液を0.45μmのフィルターによりろ過し、含まれる生産物のMwをMALLS法によって測定した。MALLS法の詳細は、以下の「製造されたグルカンの重量平均分子量(Mw)の測定法」に記載した。
【0204】
算出されたMw(kDa)を縦軸(y軸)に対数でとり、用いた酵素量(μL)を横軸(x軸)にとり、マイクロソフト社のソフトMS−Excelを使用して累乗近似曲線を作成した。このグラフを図12に示す。近似曲線の方程式は、y=24,090x−1.340(R2=0.9896)であらわされた。この方程式から、4mgのWCSを基質としたときに基質Mwを400kDaに低下させるのに必要な酵素量V1(μL)は、119μLと算出された。この酵素量を基質1gあたりに換算することにより、1単位の低分子化活性に必要な酵素量V2(mL)(=(119μL/1000)×(1000mg/4mg)=29.75(mL))が算出される。酵素液の低分子化活性E1は、単位低分子化活性量の逆数(E1=1/V2=1/29.75=0.0336)(U/mL)である。。したがって、BE活性/低分子化活性=(2.4(U/mL)/0.0336(U/mL))=71であった。
【0205】
(測定例2:Bacillus stearothermophilus由来BEのアミロペクチン低分子化活性の測定)
Aquifex aeolicus VF5由来BEの代わりに、製造例2で生産したBacillus stearothermophilus由来BEを用い、反応温度を50℃としたこと以外は測定例1と同様にして、BE活性/低分子化活性を決定した。この結果、BE活性/低分子化活性は、270であった。
【0206】
(測定例3:Rhodothermus obamensis由来BEのアミロペクチン低分子化活性の測定)
Aquifex aeolicus VF5由来BEの代わりに、製造例5で生産したRhodothermus obamensis由来BEを用い、反応温度を65℃としたこと以外は測定例1と同様にして、BE活性/低分子化活性を決定した。この結果、B
E活性/低分子化活性は、35であった。
【0207】
(測定例4:大腸菌由来BEのアミロペクチン低分子化活性の測定)
Aquifex aeolicus VF5由来BEの代わりに、製造例4で生産した大腸菌由来BEを用い、反応温度を30℃としたこと以外は測定例1と同様にして、BE活性/低分子化活性を決定した。この結果、BE活性/低分子化活性は、273であった。
【0208】
(測定例5:Bacillus cereus由来BEのアミロペクチン低分子化活性の測定)
Aquifex aeolicus VF5由来BEの代わりに、非特許文献9に記載の方法に従って製造したBacillus cereus由来BEを用い、反応温度を30℃としたこと以外は測定例1と同様にして、BE活性/低分子化活性を決定した。この結果、BE活性/低分子化活性は、1086であった。
【0209】
(測定例6:トラマメ由来BEのアミロペクチン低分子化活性の測定)
Aquifex aeolicus VF5由来BEの代わりに、製造例6にトラマメ由来BEを用い、反応温度を30℃としたこと以外は測定例1と同様にして、BE活性/低分子化活性を決定した。この結果、BE活性/低分子化活性は、130069であった。
【0210】
(測定例7:Bacillus caldovelox由来BEのアミロペクチン低分子化活性の測定)
Aquifex aeolicus VF5由来BEの代わりに、製造例7で生産したBacillus caldovelox由来BEを用い、反応温度を50℃としたこと以外は測定例1と同様にして、BE活性/低分子化活性を決定した。この結果、BE活性/低分子化活性は、466であった。
【0211】
(測定例8:Bacillus caldolyticus由来BEのアミロペクチン低分子化活性の測定)
Aquifex aeolicus VF5由来BEの代わりに、製造例8で生産したBacillus caldolyticus由来BEを用い、反応温度を50℃としたこと以外は測定例1と同様にして、BE活性/低分子化活性を決定した。この結果、BE活性/低分子化活性は、402であった。
【0212】
これらの測定例によって測定されたBE活性/低分子化活性、およびグリコーゲン合成能を以下の表1Eにまとめる。
【0213】
【表1E】
(製造されたグルカンの重量平均分子量(Mw)および収率の測定法)
製造されたグルカンのMwをMALLS法によって以下の通りに測定した。カラムとし
てShodex OH−Pack SB806MHQ(内径8mm、長さ300mm、昭和電工製)を用い、ガードカラムとしてShodex OH−Pack SB−G(内径6mm、長さ50mm、昭和電工製)を用い、検出器としては多角度光散乱検出器(DAWN−DSP、Wyatt Technology社製)および示差屈折計(Shodex RI−71、昭和電工製)をこの順序で連結して用いた。カラムを40℃に保ち、溶離液としては0.1M硝酸ナトリウム溶液を流速1mL/分で用いた。分子量が約1万以上のα−グルカンは、Shodex製のプルランP−50(GFC(水系GPC)用標準試料STANDARD P−82に含まれている)のピーク頂点が、9.3分になるように配管を調整した上記HPLCシステムにおいて、11分より前に溶出された。具体的には、シグナルの出始めの位置から11分までに溶出される示差屈折計と多角度光散乱検出器の両シグナルを含むように、ピークとしてとり、それらのシグナルを、データ解析ソフトウェア(商品名ASTRA、Wyatt Technology社製)を用いて収集し、同ソフトを用いて解析することにより、Mwを求めた。このような条件下では、分子量約1万以下のグルカンを除外している。グルカンのdn/dc(固有屈折率増分)として、0.145mL/gを用いた。
【0214】
示差屈折計のピーク面積を測定し、このピーク面積をdn/dc値で除算することにより、溶出した高分子グルカンの量(g)を計算する。溶出した高分子グルカンの量を、合成に用いた基質量(計算式においては、基質濃度とHPLCにロードした容積の積)で割り、100倍して百分率にすることにより収率を算出する。すなわち、収率は、以下の式で求められる:
収率(%)={(溶出した高分子グルカンの量(g))÷(基質濃度(g/mL)×HPLCにロードした容積)(mL)}×100
分子量100万以上の高分子グルカンの量を用いることにより、グリコーゲンの収率を求めることができる。
【0215】
(実施例1:低分子量アミロースからのグリコーゲンの製造)
(1−1:アミロースAからの製造)
アミロースA(ナカライテスク(株)製、Mn2900)を1N NaOHに溶かし、HClで中和した。その後、すぐに水、酵素液、緩衝液を以下の反応液組成となるように添加して、70℃で17時間反応させた。反応液組成:Aquifex aeolicus由来BE量 10000、20000または40000U/g基質、基質濃度 2重量%、リン酸カリウム濃度 20mM、pH7.5。
【0216】
低分子量α−グルカンからグリコーゲンの生成の模式図を図2に示す。反応後、製造されたα−グルカンの分子量を測定した。結果を、表1および図3に示す。表1において、グルカン収率は、分子量1万以上のグルカン全体の収率を示し、グリコーゲン収率は、分子量100万以上のグルカン(すなわち、グリコーゲン)の収率を示す。この結果、10,000〜40,000U/g基質のBEを用いると、Mn2900のアミロースAから、Mw100万以上のグリコーゲンが製造されることおよび生成されるグルカンのほとんどがグリコーゲンであることが確認された。
【0217】
(1−2:種々の分子量の基質からのグリコーゲンの製造)
基質として、アミロースAS−5、AS−10、AS−30、AS−70、またはAS−110(いずれも、(株)アジノキ製;それぞれ、Mw5000、10000、30000、70000、110000)を用いた。Mw/Mnはおよそ1.1であるので、Mnはそれぞれ4,500、9,100、27,000、64,000、100,000である。
【0218】
それぞれのアミロースを1N NaOHに溶かし、HClで中和した。その後、すぐに
水、酵素液、緩衝液を以下の反応液組成となるように添加して、70℃で16時間反応させた。反応液組成:Aquifex aeolicus由来BE量 10000U/g基質、基質濃度 2重量%、リン酸カリウム濃度 40mM、pH7.5。
【0219】
反応後、製造されたα−グルカンの分子量を測定した。結果を、以下の表1および図4に示す。表1においては、Aquifex aeolicus由来のBEをAqと示す。
【0220】
この結果、Mnが10万のアミロースからでもグリコーゲンが生成することがわかった。さらに、反応開始前の溶液中の糖のMnが9100よりも大きいと、生成物の分子量が2つのピークに分かれた。ピークが分かれた場合は、高分子量のピークのみを測定した。反応開始前の溶液中の糖のMnが大きくなるほど、生成物のMwが小さくなり、収率が大きくなる傾向にあった。
【0221】
(1−3:種々の濃度の基質からのグリコーゲンの製造)
基質として、アミロースA(ナカライテスク(株)製、Mn2900)を1N NaOHに溶かし、HClで中和した。その後、すぐに水、酵素液、緩衝液を以下の反応液組成となるように添加して、70℃で17時間反応させた。反応液組成:Aquifex aeolicus由来BE量 10000または40000U/g基質、基質濃度2、4、8または12重量%、リン酸カリウム濃度 40mM、pH7.5。
【0222】
反応後、製造されたα−グルカンの分子量を測定した。結果を、表1−2に示す。表1−2において、グリコーゲン収率(%)は、分子量100万以上のグルカン(すなわち、グリコーゲン)の収率を示す。
【0223】
この結果、少なくとも、基質濃度12%程度までは、グリコーゲンが生成することがわかった。基質濃度が上昇すると生成物のMwが低下する傾向が見られた。
【0224】
【表1】
【0225】
【表1−2】
(実施例2:澱粉からのグリコーゲンの製造)
(2−1:コーンスターチからのグリコーゲンの製造)
コーンスターチ(和光純薬工業(株)製)(2重量%)を水に懸濁し、100℃で30分間加熱することにより、コーンスターチを糊化した。それを40℃まで冷まし、イソアミラーゼ(IAMと略;5000または50000U/g基質;(株)林原生物化学研究所製)を添加して40℃で4時間、6時間、8時間、または20時間反応させ、アミロースを生成させた。その後、この溶液を5mM リン酸カリウムバッファーでpH7.5に調整し、Aquifex aeolicus由来のBEを添加し、基質濃度2重量%、BE10000、20000、40000、または60000U/g基質とした後、55℃、65℃、70℃または75℃で20時間反応させた。
【0226】
澱粉を枝切り酵素により分解してアミロースを得て、このアミロースにBEを反応させてグリコーゲンを製造する反応の模式図を図5に示す。反応後、製造されたα−グルカンの分子量を測定した。結果を、以下の表2および図6に示す。図6は、IAM量が5000U/g基質であって、BE量が10000、20000、40000または60000U/g基質である場合の結果をプロットしたグラフである。表2において、グリコーゲン収率(%)は、分子量100万以上のグルカン(すなわち、グリコーゲン)の収率を示す。
【0227】
【表2】
この結果、コーンスターチのイソアミラーゼ分解物からグリコーゲンが生成することがわかった。イソアミラーゼ量およびBE量にほとんど関係なく、Mw500万前後のグリコーゲンが収率約30%以上で得られた。イソアミラーゼの反応時間は、4時間以上であれば、グリコーゲンが生成された。また、BEの反応温度は55℃、65℃、70℃または75℃のいずれでもグリコーゲンが生成された。
【0228】
(2−2:各種澱粉からのグリコーゲンの製造)
コーンスターチ(和光純薬工業(株)製)、ワキシーコーンスターチ(Roquette社製)、小麦澱粉(和光純薬工業(株)製)、馬鈴薯澱粉(和光純薬工業(株)製)、またはタピオカ澱粉(VEDAN ENTERPRISE Co.,Ltd製)(2重量%)を水に懸濁し、100℃で30分間加熱することにより、澱粉を糊化した。それを40℃まで冷まし、イソアミラーゼ(5000U/g基質;(株)林原生物化学研究所製)を添加して40℃で20時間反応させ、アミロースを生成させた。その後、この溶液を5mM リン酸カリウムバッファーでpH7.5に調整し、Aquifex aeolicus由来のBEを添加し、基質濃度2重量%、BE20000U/g基質とした後、55℃、65℃または75℃で20時間反応させた。
【0229】
反応後、製造されたα−グルカンの分子量を測定した。結果を、以下の表3に示す。
【0230】
この結果、種々の澱粉をイソアミラーゼの基質として用いて、グリコーゲンを生成できることがわかった。
【0231】
(2−3:Bacillus stearothermophilus由来のBEを用いた、澱粉からのグリコーゲンの製造)
コーンスターチ(和光純薬工業(株)製)(2重量%)を水に懸濁し、100℃で30分間加熱することにより、澱粉を糊化した。それを40℃まで冷まし、イソアミラーゼ(5000U/g基質;(株)林原生物化学研究所製)を添加して40℃で20時間反応させ、アミロースを生成させた。その後、この溶液を40mM リン酸カリウムバッファーでpH7.5に調整し、Bacillus stearothermophilus由来のBEを添加し、基質濃度2重量%、BE20000U/g基質とした後、55℃で20時間反応させた。
【0232】
反応後、製造されたα−グルカンの分子量を測定した。結果を、以下の表3に示す。表3において、グルカン収率は、分子量1万以上のグルカン全体の収率を示し、グリコーゲン収率は、分子量100万以上のグルカン(すなわち、グリコーゲン)の収率を示す。
【0233】
この結果、Bacillus stearothermophilus由来のBEを用いても、グリコーゲンを生成できることがわかった。
【0234】
【表3】
(2−3:イソアミラーゼとBEとを同時に用いる、グリコーゲンの製造)
コーンスターチ(和光純薬工業(株)製)(1重量%)を水に懸濁し、100℃で30分間加熱することにより、糊化した。それを65℃まで冷まし、イソアミラーゼ(500000U/g基質;(株)林原生物化学研究所製)およびAquifex aeolicus由来のBE(60000U/g基質)を添加し、この溶液を40mM リン酸カリウムバッファーでpH7.5に調整し、65℃16時間反応させた。
【0235】
反応後、製造されたα−グルカンの分子量を測定した。この結果、澱粉にイソアミラーゼとBEとを同時に作用させても、グリコーゲンを生成させることが可能であることがわかった。
【0236】
(実施例3A:糖鎖の短いアミロースに4−α−グルカノトランスフェラーゼとBEを作用させることによるグリコーゲンの製造)
(3−1:Aquifex aeolicus由来のBEおよびTaqMalQを用いたグリコーゲンの製造)
基質(マルトペンタオース(G5)、マルトヘキサオース(G6)、またはマルトヘプタオース(G7))を水に溶かし、水、酵素液、緩衝液を以下の反応液組成となるように添加して、65℃で17時間反応させた。反応液組成:Aquifex aeolicus由来BE量 40000、80000、または160000U/g基質、TaqMalQ量 10U/g基質、基質濃度 1%、リン酸カリウム濃度 10mM、pH7.5。
【0237】
4−α−グルカノトランスフェラーゼによってマルトペンタオースからアミロースが生成され、BEによってアミロースからグリコーゲンが生成されることを示す模式図を図7に示す。反応後、製造されたα−グルカンの分子量を測定した。結果を、以下の表4および図8に示す。図8においては、BE量が80000U/g基質を用いた場合についてのMwを示す。ピークが分かれた場合は、高分子量のピークのみを測定した。
【0238】
この結果、4−α−グルカノトランスフェラーゼを併用することによって、G5、G6、G7からグリコーゲンが高い効率で生成されることがわかった。
【0239】
(3−2:Bacillus stearothermophilus由来のBEおよびTaqMalQを用いたグリコーゲンの製造)
基質(マルトヘプタオース(G7))を水に溶かし、水、酵素液、緩衝液を以下の反応液組成となるように添加して、50℃で17時間反応させた。反応液組成:Bacillus stearothermophilus由来BE量 160000U/g基質、TaqMalQ量 2.3U/g基質、基質濃度 0.5%、リン酸カリウム濃度 5mM、pH7.5。
【0240】
反応後、製造されたα−グルカンの分子量を測定した。結果を、以下の表4に示す。表4において、グルカン収率は、分子量1万以上のグルカン全体の収率を示し、グリコーゲン収率は、分子量100万以上のグルカン(すなわち、グリコーゲン)の収率を示す。
【0241】
この結果、Bacillus stearothermophilus由来のBEを用いた場合も、4−α−グルカノトランスフェラーゼを併用することによって、G7からグリコーゲンが高い効率で生成されることがわかった。
【0242】
【表4】
(実施例4:比較的低温条件下でのグリコーゲンの製造)
アミロースA(ナカライテスク(株)製、Mn2900)を1N NaOHに溶かし、HClで中和した。その後、すぐに水、酵素液、緩衝液を以下の反応液組成となるように添加して、30℃で16時間反応させた。反応液組成:Aquifex aeolicusまたはBacillus stearothermophilus由来BE量80,000U/g基質、基質濃度2重量%、リン酸カリウム濃度 20mM、pH 7.5。
【0243】
反応後、製造されたα−グルカンの分子量を測定した。結果を、表5に示す。表5において、グルカン収率は、分子量1万以上のグルカン全体の収率を示し、グリコーゲン収率は、分子量100万以上のグルカン(すなわち、グリコーゲン)の収率を示す。
【0244】
この結果、どちらの耐熱性BEを用いた場合も、反応温度が30℃であっても、アミロースAから、Mw100万以上のグリコーゲンが製造されることが確認された。このことから、グリコーゲンが生成されるのは、反応を高温条件で行うことに起因するのではなく、耐熱性BEの特性に起因すると考えられる。
【0245】
(比較例1:Bacillus cereus由来BEを用いたα−グルカンの製造)
アミロースAまたは、酵素合成アミロース(AS−10(Mw10000;Mn9100)またはAS−320(Mw320000;Mn290000))を、1N NaOHに溶かし、HClで中和した。その後、すぐに水、酵素液、緩衝液を以下の反応液組成となるように添加して、30℃で24時間反応させた。反応液組成:B.cereus由来BE量40,000U/g基質、基質濃度0.5重量%、リン酸カリウム濃度 20mM
、pH 7.5。B.cereus由来BEは、非特許文献9に記載の方法に従って製造
した。
【0246】
反応後、沸騰湯浴中で10分間加熱して反応を停止させ、生じたα−グルカンをMALLS法によって分析した。結果を表6に示す。表6において、グルカン収率は、分子量1万以上のグルカン全体の収率を示し、グリコーゲン収率は、分子量100万以上のグルカン(すなわち、グリコーゲン)の収率を示す。
【0247】
アミロースAを基質とした場合は、高分子α−グルカンを検出できなかった。また、どちらの酵素合成アミロースを用いた場合も、分子量1万〜分子量50万のグルカンが生成物のほぼ100%を占めており、分子量100万以上のグルカンは検出できなかった。生成物のMwは、Mn9100の基質を用いた場合、86900であり、Mn290000の基質を用いた場合、61900であった。高分子量の基質を用いた場合、低分子化が生じた。
【0248】
さらに、Mn4500〜290000の各種サイズのアミロースにB.cereus BEを同様に作用させた後、生成物のゲル濾過分析を行ったが、主成分の分子量は上記実験とほとんど同じであることが示された。つまり、どの場合にも分子量100万を超える高分子α−グルカンは得られなかった。
【0249】
(実施例3B:糖鎖の短いアミロースにBEのみを作用させることによるα−グルカンの製造)
基質(マルトテトラオース(G4)、マルトペンタオース(G5)、マルトヘキサオース(G6)、またはマルトヘプタオース(G7))を水に溶かし、Aquifex aeolicus由来のBEを添加し、反応液を、以下の表7に示す基質濃度およびBE量とし、10mMリン酸カリウムバッファーでpH7.5に調整した後、以下の表7に示す温度で、17時間反応させた。
【0250】
反応後、製造されたα−グルカンの分子量を測定した。この結果を、以下の表7に示す
。表7において、グリコーゲン収率(%)は、分子量100万以上のグルカン(すなわち、グリコーゲン)の収率を示す。
【0251】
この結果、G4〜G7という低分子量の基質を用いた場合、グリコーゲンを合成できることがわかった。
【0252】
(実施例5:澱粉にBEおよびプルラナーゼを作用させることによるグリコーゲンの製造)
コーンスターチ(和光純薬工業(株)製)(2重量%)を水に懸濁し、100℃で30分間加熱することにより、コーンスターチを糊化した。それを60℃まで冷まし、プルラナーゼ(5U/g基質;大和化成(株)製クライスターゼ)を添加して60℃で20時間反応させ、アミロースを生成させ、その後、100℃で10分間加熱することにより、反応を停止した。その後、この溶液を10mM リン酸カリウムバッファーでpH7.5に調整し、Aquifex aeolicus由来のBEを20000U/g基質となるように添加し、BE65℃で20時間反応させた。
【0253】
反応後、製造されたα−グルカンの分子量を測定した。この結果を、以下の表8に示す。表8において、グリコーゲン収率(%)は、分子量100万以上のグルカン(すなわち、グリコーゲン)の収率を示す。この結果、プルラナーゼで枝切りしたコーンスターチもイソアミラーゼで枝切りしたコーンスターチ同様グリコーゲンを製造することができた。
【0254】
【表5】
【0255】
【表6】
【0256】
【表7】
【0257】
【表8】
(評価例1:プルラナーゼに対する分解耐性)
従来の技術でBEをアミロースに作用させた場合に得られるα−グルカンは、プルラナーゼにより分解されやすいという点で、天然のグリコーゲンとは異なるということが報告されている(非特許文献10)。
【0258】
本発明の方法によって製造されたグリコーゲンが天然のグリコーゲンと同様にプルラナーゼによる分解に耐性であるか否かを調べた。
【0259】
コーンスターチ(和光純薬工業(株)製)(1重量%)を水に懸濁し、ジェットクッカーでコーンスターチを糊化した。それを40℃まで冷まし、イソアミラーゼ(40000U/g基質;(株)林原生物化学研究所製)を添加して40℃で6時間反応させ、アミロースを生成させた。その後、この溶液を3mM リン酸バッファー(pH7.0))および5
N NaOHでpH7.5に調整し、Aquifex aeolicus由来のBEを20000U/g基質となるように添加した後、65℃で19時間反応させて重量平均分子量9719kDaのグリコーゲンを製造した。このグリコーゲン、牡蠣由来の試薬グリコーゲン(和光純薬工業(株)製)、ワキシーコーンスターチ(Roquette社製)またはコーンスターチ(和光純薬工業(株)製)を1N NaOHに溶かし、HClで中和した。その後、すぐにBacillus brevis由来のプルラナーゼ(大和化成(株)
製)を添加し、反応液を、基質濃度0.5重量%、プルラナーゼ(0、2、4、16、6
4、256U/g基質)とし、10mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)でp
H5.0に調整した後、60℃で30分間反応させた。
【0260】
反応後、生成物の分子量を測定した。結果を図9に示す。
【0261】
この結果、澱粉は速やかに分解されたが、牡蠣由来の試薬グリコーゲン(和光純薬工業(株)製)および今回の製造方法によるグリコーゲンは、プルラナーゼでほとんど分解されないことがわかった。それゆえ、本発明の方法によって製造されるグリコーゲンは、天然のグリコーゲンと同様の性質を有し、実際にグリコーゲンであるといってよいことが確認された。
【0262】
(評価例2:α−アミラーゼに対する分解耐性)
グリコーゲンは、プルラナーゼによってほとんど分解を受けないことが知られているが、本発明者らの実験により、α-アミラーゼによっても非常に分解されにくいことがわか
った。たとえば、ワキシーコーンスターチ、ノーマルコーンスターチは、300U/gのヒト唾液α−アミラーゼによって30分処理することにより、分子量1万以下にまで分解されたが、試薬のカキ由来グリコーゲンは同じ条件でほとんど分解を受けなかった。
【0263】
本発明の方法によって製造されたグリコーゲンが天然のグリコーゲンと同様にα−アミラーゼによる分解に耐性であるか否かを調べた。
【0264】
評価例1で調製したグリコーゲン、牡蠣由来の試薬グリコーゲン(和光純薬工業(株)製)、ワキシーコーンスターチ(Roquette社製)またはコーンスターチ(和光純薬工業(株)製)を1N NaOHに溶かし、HClで中和した。その後、すぐにヒト唾液由来α−アミラーゼ(Sigma社製Type XIII−A)を添加し、反応液を、基質濃度0.5重量%、α−アミラーゼ(0、5、37.5、75、150、300U/g基質)とし、20mM リン酸カリウムバッファー(pH7.0)でpH7.0に調整した後、37℃で30分間反応させた。
【0265】
反応後、生成物の分子量を測定した。結果を図10に示す。澱粉の分子量については、α−アミラーゼ量が0、5、37.5U/g基質のときは、生成物のろ過ができなかったため測定できなかった。
【0266】
この結果、澱粉は速やかに分解されたが、牡蠣由来の試薬グリコーゲン(和光純薬工業(株)製)および今回の製造方法で製造したグリコーゲンは、α−アミラーゼでほとんど分解されないことがわかった。それゆえ、本発明の方法によって製造されるグリコーゲンは、天然のグリコーゲンと同様の性質を有し、実際にグリコーゲンであるといってよいことが確認された。
【0267】
(実施例6:グリコーゲンの溶解性の確認)
アミロースA(ナカライテスク(株)製、Mn2900)またはアミロースAS10((株)アジノキ製、Mw10,000、Mnとしては9100)を1N NaOHに溶かし、HClで中和した。その後、すぐに水、酵素液、緩衝液を以下の反応液組成となるように添加して、70℃で24時間反応させた。反応液組成:Aquifex aeolicus由来BE量34,000U/g基質、基質濃度0.5重量%、リン酸カリウム濃度
20mM、pH 7.5。この反応によって得られたグリコーゲンの収率(%)は、基質としてアミロースAを用いた場合、10.1%であり、基質としてアミロースAS10を用いた場合、59.0%であった。
【0268】
以下の方法により、溶解度を決定した。得られたグリコーゲンをエタノールにより沈澱させて回収した後、乾燥し、2mg/mLとなるように室温(約20℃)の蒸留水を加え
て、室温で30秒間ボルテックスミキサーにより撹拌し、0.45μmのフィルターによって濾過した。濾液を、溶解したグリコーゲンの量をMALLS法によって算出した。
【0269】
さらに、以下の方法により、プルラナーゼ耐性およびα−アミラーゼ耐性を決定した。まず、エタノール沈澱により回収したグリコーゲンを、水に懸濁し、100℃で加熱することにより、完全に溶解させた。プルラナーゼ処理は、256U/g基質の大和化成(株)製クライスターゼにより、60℃で30分行った。α−アミラーゼ処理は、300U/g基質のSigma社製Type XIII−Aを用いて37℃で30分行った。反応停止後、MALLS法によって、グルカンのMwを算出した。プルラナーゼまたはα−アミラーゼによる耐性は以下の式による比を求めて評価した。すなわち、プルラナーゼ耐性(%)={Mwプルラナーゼ処理後÷Mw処理前}×100であり、
α−アミラーゼ耐性(%)={Mwα−アミラーゼ処理後÷Mw処理前}×100である。
【0270】
結果を以下の表9に示す。
【0271】
【表9】
この結果、本発明の方法により、溶解性が高く、プルラナーゼ耐性が高く、かつα−アミラーゼ耐性が高いグリコーゲンが得られることがわかった。
【0272】
(実施例7:Aquifex aeolicus VF5由来BEとThermus aquaticus由来4−α−グルカノトランスフェラーゼ(TaqMalQ)との併用による、グリコーゲンの収率向上)
(実施例7−1:アミロースAにTaqMalQおよびAquifex aeolicus由来のBEを作用させることによるグリコーゲンの製造)
アミロースA(ナカライテスク(株)製、Mn2900)を1N NaOHに溶かし、HClで中和した。その後、すぐに水、酵素液、緩衝液を以下の反応液組成となるように添加して、65℃で20時間反応させた。反応液組成:Aquifex aeolicus由来BE量5000または20000U/g基質、TaqMalQ量5、10、または20U/g基質、基質濃度 2重量%、リン酸カリウム濃度 20mM、pH 7.5。反
応条件および生成物の分析結果を以下の表10に示す。
【0273】
【表10】
このように、Aquifex aeolicus由来のBEおよびTaqMalQを用いて、Mw1000kDa以上のグリコーゲンを製造できることがわかった。また、TaqMalQの添加により、グリコーゲンの収率が大幅に向上する事が示された。
【0274】
(実施例7−2:コーンスターチにTaqMalQとAquifex aeolicus由来のBEを作用させることによるグリコーゲンの製造)
コーンスターチ(和光純薬工業(株)製)(2重量%)を水に懸濁し、100℃で30分加
熱することにより、コーンスターチを糊化した。それを40℃まで冷まし、イソアミラーゼ((株)林原生物化学研究所製)5000U/g基質を添加して40℃で20時間反応させ、アミロースを生成させた。その後、この溶液を5mM リン酸カリウムバッファーでpH7.5に調整し、Aquifex aeolicus由来のBE(20000U/g基質)およびTaqMalQ(0.1、0.5、1、2、3、4、5、10、または20U/g基質)を添加し、65℃で20時間反応させた。反応条件および生成物の分析結果を以下の表11に示す。
【0275】
【表11】
このように、コーンスターチにイソアミラーゼをさせた後、Aquifex aeolicus由来のBEおよびTaqMalQを用いて、Mw1000kDa以上のグリコーゲンを高い効率で製造できることがわかった。
【0276】
(実施例7−3:液化コーンスターチ枝切り物を基質とし、TaqMalQとAquifex aeolicus由来のBEを作用させることによるグリコーゲンの製造)
コーンスターチ(和光純薬工業(株)製)を6重量%になるように水に懸濁し、α-アミラ
ーゼ(大和化成(株)製)を用いて100℃でDE12まで液化させた。反応を停止後、イソアミラーゼ(5000U/g基質;(株)林原生物化学研究所製)を添加して40℃で20時間反応させ、枝きりした。枝切り物のMnは、約600であった。この溶液のpHを5mM リン酸カリウム緩衝液で7.5に調整し、Aquifex aeolicus由来のBE(5000U/g基質)およびTaqMalQ(1U/g基質)を添加した後、65℃で20時間反応させることにより、Mw11360kDaのグリコーゲンが得られた。
【0277】
(実施例8:Rhodothermus obamensis由来のBEを用いたグリコーゲンの製造)
アミロースAおよびAS−10にRhodothermus obamensis由来のBEを作用させてグリコーゲンを製造した。詳細には、アミロースA(ナカライテスク(株)製、Mn2900)、AS−10((株)アジノキ製、Mn9100)を1N NaOHに溶かし、HClで中和した。その後、すぐに水、酵素液、緩衝液を以下の反応液組成となるように添加して、65℃で17時間反応させた。反応液組成:Rhodothermus obamensis由来BE量40,000U/g基質、基質濃度 2重量
%、酢酸ナトリウム濃度 40mM、pH 6.0。反応条件および生成物の分析結果を以下の表12に示す。
【0278】
【表12】
このように、Rhodothermus obamensis由来のBEを用いて、Mw1000kDa以上のグリコーゲンを高い効率で製造できることがわかった。
【0279】
(実施例9:Bacillus caldovelox由来のBEを用いたグリコーゲンの製造)
アミロースAおよびAS−10にBacillus caldovelox由来のBEを作用させてグリコーゲンを製造した。詳細には、アミロースA(ナカライテスク(株)製、Mn2900)、AS−10((株)アジノキ製、Mn9100)を1N NaOHに溶かし、HClで中和した。その後、すぐに水、酵素液、緩衝液を以下の反応液組成となるように添加して、55℃で16時間反応させた。反応液組成:Bacillus caldovelox由来BE量20,000U/g基質、基質濃度 2重量%、Tris
濃度 20mM、pH 7.0。反応条件および生成物の分析結果を以下の表13に示す。
【0280】
【表13】
このように、Bacillus caldovelox由来のBEを用いて、Mw1000kDa以上のグリコーゲンを製造できることがわかった。
【0281】
(実施例10:Bacillus caldolyticus由来のBEを用いたグリコーゲンの製造)
アミロースAおよびAS−10にBacillus caldolyticus 由来のBEを作用させてグリコーゲンを製造した。詳細には、アミロースA(ナカライテスク(株)製、Mn2900)、AS−10((株)アジノキ製、Mn9100)を1N NaOHに溶かし、HClで中和した。その後、すぐに水、酵素液、緩衝液を以下の反応液組成となるように添加して、45℃で16時間反応させた。反応液組成:Bacillus caldolyticus由来BE量20,000U/g基質、基質濃度 2重量%
、Tris濃度 20mM、pH 7.0。反応条件および生成物の分析結果を以下の表14に示す。
【0282】
【表14】
このように、Bacillus caldolyticus由来のBEを用いて、Mw1000kDa以上のグリコーゲンを製造できることがわかった。
【0283】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0284】
本発明により、天然のグリコーゲンと同様の性質を有する高分岐かつ高分子量のα−グルカンを安価に製造する方法が提供される。本発明の方法によって製造されるグリコーゲンは、従来の天然由来のグリコーゲンと同様に幅広い分野で利用され得る。天然のグリコーゲンは、産業上種々の分野で利用されている。本発明の方法によって製造されるグリコーゲンは、例えば、免疫賦活剤、健康食品素材などとして用いられ得る。本発明の方法によって製造されるグリコーゲンはまた、化粧品素材、食品素材(調味料)、その他産業用素材としての用途が期待できる。本発明の方法によって製造されるグリコーゲンの用途としては、例えば、以下が挙げられる:微生物感染症治療剤、保湿剤(例えば、皮膚の保湿性
向上に有効な化粧料、口唇の荒れを防ぐ口唇用化粧料)、複合調味料(例えば、ホタテ貝柱の味を有する複合調味料)、抗腫瘍剤、発酵乳の生成促進剤、コロイド粒子凝集体、毛髪の櫛通り性および毛髪のツヤに影響する毛髪表面の耐摩耗性を改善する物質、細胞賦活剤(表皮細胞賦活剤、線維芽細胞増殖剤など)、ATP産生促進剤、しわなどの皮膚の老化症状改善剤、肌荒れ改善剤、蛍光体粒子表面処理剤、環状四糖(CTS;cyclo{→6)−α−D−glcp−(1→3)−α−D−glcp−(1→6)−α−D−glcp−(1→3)−α−D−glcp−(1→})の合成の際の基質。本発明の方法によって製造されるグリコーゲンは、皮膚外用剤(例えば、化粧水、乳液、クリーム、美容液、養毛剤、育毛剤、パック、口紅、リップクリーム、メイクアップベースローション、メイクアップベースクリーム、ファンデーション、アイカラー、チークカラー、シャンプー、リンス、ヘアーリキッド、ヘアートニック、パーマネントウェーブ剤、ヘアカラー、トリートメント、浴用剤、ハンドクリーム、レッグクリーム、ネッククリーム、ボディローションなど)中、眼用溶液中などで用いられ得る。
【0285】
本発明の方法によれば、溶解性が高く、プルラナーゼおよびα−アミラーゼによる分解性の低い(天然のグリコーゲンに近い)グリコーゲンが得られる。これは、グリコーゲンを合成する能力を有するBE(特に、耐熱性BE)が特殊な性質をもっていることに起因すると考えられる。
【0286】
得られるグリコーゲンの酵素消化性が低いことは、例えばグリコーゲンの免疫賦活活性発現のために重要であるので、本発明は特に有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分岐かつ高分子量のα−グルカン、特にグリコーゲンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α−グルカンは、α−D−グルコースの重合体である。α−グルカンは、自然界に種々の形態で存在する。α−グルカンの中でも、グリコーゲンおよび澱粉が代表的である。しかし、グリコーゲンと澱粉との構造的特性および物理的特性は互いに大きく異なる。
【0003】
グリコーゲンは、動物、真菌、酵母および細菌の主な貯蔵多糖である。グリコーゲンは、水に可溶性であり、乳白色の溶液となる。動物のグリコーゲンの分子構造はよく研究されている。天然グリコーゲンは、ブドウ糖(グルコース)のα−1,4−グルコシド結合を介して直鎖状に連結した糖鎖からα−1,6−グルコシド結合で枝分れし、さらにそれも枝分かれして網状構造を形成したホモグルカンである。天然グリコーゲンは、α−1,6−グルコシド結合によって連結された、平均重合度約10〜約14のα−1,4−グルコシド結合鎖から構成されている。天然グリコーゲンの分子量については、色々な説があるが、約105〜約108とされている。天然グリコーゲンは、分子量約107の粒子(β粒子)またはβ粒子の凝集により形成されたさらに大きな粒子(α粒子)として存在する。細菌のグリコーゲンの構造は、動物のグリコーゲンの構造と類似すると考えられる。ある種の植物(たとえばスイートコーン)にもグリコーゲンと類似した構造のグルカンが存在し、植物グリコーゲン(フィトグリコーゲン)と呼ばれる。
【0004】
澱粉は、植物の主な貯蔵多糖であり、水不溶性粒子として存在する。この粒子は、2つの異なる多糖を含む。この多糖は、アミロースおよびアミロペクチンである。アミロースは、α−1,4結合によって連結された、本質的に直鎖のD−グルコース単位である。アミロペクチンは、分岐した重合体であり、クラスター構造をとると考えられている。各々のクラスター単位は、α−1,6−グルコシド結合によって一緒に連結された、平均重合度約12〜約24のα−1,4−グルコシド結合した鎖からなる。クラスター単位は、約30〜約100の重合度の、より長いα−1,4−グルコシド結合鎖によってさらに一緒に連結される。アミロペクチン全体の平均鎖長は、重合度約18〜約25である。澱粉のアミロペクチンも、グリコーゲンと同様にα−1,4−グリコシド結合およびα−1,6グリコシド結合によって連結されたグルカンであるが、アミロペクチンと比較して、グリコーゲンはより高度に枝分かれしている。
【0005】
グリコーゲンは、最近、免疫賦活効果を持つことが証明された。そのため、グリコーゲンは、免疫賦活剤、健康食品素材などとしての用途が期待できる。他には化粧品素材、食品素材(調味料)、その他産業用素材としての用途が期待できる。グリコーゲンは、産業上種々の分野で利用されている。グリコーゲンの用途としては、例えば、以下が挙げられる
:微生物感染症治療剤、保湿剤(例えば、皮膚の保湿性向上に有効な化粧料、口唇の荒れを防ぐ口唇用化粧料)、複合調味料(例えば、ホタテ貝柱の味を有する複合調味料)、抗腫瘍剤、発酵乳の生成促進剤、コロイド粒子凝集体、毛髪の櫛通り性および毛髪のツヤに影響する毛髪表面の耐摩耗性を改善する物質、細胞賦活剤(表皮細胞賦活剤、線維芽細胞増殖剤など)、ATP産生促進剤、しわなどの皮膚の老化症状改善剤、肌荒れ改善剤、蛍光体粒子表面処理剤、環状四糖(CTS;cyclo{→6)−α−D−glcp-(1
→3)−α−D−glcp−(1→6)−α−D−glcp−(1→3)−α−D−glcp−(1→})の合成の際の基質。グリコーゲンは、皮膚外用剤(例えば、化粧水、乳液、クリーム、美容液、養毛剤、育毛剤、パック、口紅、リップクリーム、メイクアップベースローション、メイクアップベースクリーム、ファンデーション、アイカラー、チークカラー、シャンプー、リンス、ヘアーリキッド、ヘアートニック、パーマネントウェーブ剤、ヘアカラー、トリートメント、浴用剤、ハンドクリーム、レッグクリーム、ネッククリーム、ボディローションなど)中、眼用溶液中などで用いられ得る。
【0006】
イガイ(ムール貝)由来のグリコーゲン、およびスイートコーン由来の植物性グリコーゲン(フィトグリコーゲン)は、販売されているが高価であり、主に化粧品に保湿剤として用いられている。試薬としては、各種貝類由来または動物の肝臓由来のグリコーゲンも販売されているが極めて高価であり、産業用に利用することは困難である。
【0007】
そのため、グリコーゲンを多量にかつ安価に提供することが望まれている。
【0008】
ブランチングエンザイム(系統名:1,4−α−D−グルカン:1,4−α−D−グルカン 6−α−D−(1,4−α−D−グルカノ)−トランスフェラーゼ、EC 2.4.1.18;本明細書中では、BEとも記載する)は、α−1,4−グルコシド結合を切断し、別のグルコース残基の6位OH基に転移することにより、α−1,6−グルコシド結合を形成する酵素である。BEは、動物、植物、糸状菌類、酵母および細菌に広く分布しており、グリコーゲンまたは澱粉の分岐結合合成を触媒している。
【0009】
馬鈴薯由来BEの触媒作用は、1970年代に詳細に調べられており、BEが分子間枝作り反応(図1A)を触媒することが証明されている。また、BEが環状化反応(図1B)を触媒することは、1990年代後半に証明された。この環状化反応の証明により、分子内枝作り反応(図1C)が触媒されることも、論理的に推定された。すなわち、α−1,4−グルコシド結合を切断して、別のグルコース残基の6位OH基に転移してα−1,6−グルコシド結合を形成する、というミクロな観点から見ると、これら3つの反応は同一であるといえるためである。なお、BEは、グリコシドヒドロラーゼファミリー13(α−アミラーゼファミリー)の一員とされ、α−アミラーゼと基本的に同一のメカニズムにより、単一の活性中心においてα−1,4−グルコシド結合の切断および6位OH基への転移を触媒すると考えられている。
【0010】
BEを、別の酵素α-グルカンホスホリラーゼとともにグルコース−1−リン酸とオリ
ゴ糖に作用させることにより、およびグリコーゲン合成酵素(またはデンプン合成酵素)とともにUDP−グルコース(またはADP−グルコース)に作用させることにより、天然グリコーゲンと類似の構造と性質を持つグリコーゲンを合成できることは知られている。しかし、α−グルカンホスホリラーゼは試薬として販売されているが、きわめて高価である。またグリコーゲン合成酵素、デンプン合成酵素の入手は困難である。さらに、グルコース−1−リン酸、UDP−グルコース、ADP−グルコースは極めて高価である。これらのことから、この方法では、グリコーゲンを多量にかつ安価に提供するという課題は達成できなかった。
【0011】
グルカンのような高分子は、一般に均一な分子ではなく、種々の大きさの分子の混合物
であるため、その分子量は数平均分子量(Mn)もしくは重量平均分子量(Mw)で評価する。Mnは、その系の全質量を、その系に含まれる分子の個数で割ったものである。すなわち数分率による平均である。一方、Mwは重量分率による平均である。完全に均一な物質であれば、Mw=Mnとなるが、高分子は一般に分子量分布を有するためMw>Mnとなる。したがって、Mw/Mnが1より大きいほど、分子量の不均一度が大きい(分子量分布が広い)ということになる。
【0012】
酵素を用いて合成したアミロース(例えば、(株)アジノキ製の酵素合成アミロース)は、分子量分布が狭いことが知られている(Mw/Mn<1.2、非特許文献4、およびFujii,K.ら(2003)Biocatalysis and Biotransformation 21巻,167−172頁では、Mw/Mn=1.005〜1.006)。一方天然から抽出したアミロースは、分子量分布が比較的広く、Mw/Mnは約2〜約5である(Eliasson,A.−C.編(1996)Carbohydrates in food、Marcel Dekker,Inc、New York、中の347−429頁、Hizukuri, S.、Starch:analytical aspects、のTalbe 15に重合度DP(数平均DPn、重量平均DPw)で記載。これらのDPに162を乗ずれば、それぞれの平均分子量となる)。
【0013】
Mnは、分子の個数を評価することにより、決定できる。すなわち、アミロースなどにおいては、還元性末端数を測定することにより決定できる。還元性末端数の測定は、例えば非特許文献7に記載されるModified Park−Johnson法により決定できる。また、非特許文献8に記載される示差屈折計と多角度光散乱検出器とを併用したゲルろ過クロマトグラフィー(MALLS法)によっても、決定できる。Mwは、非特許文献8に記載されるMALLS法によって決定できる。
【0014】
本明細書においては、基質の分子量は主として数平均分子量(Mn)で評価し、生成物グルカンの分子量は主として重量平均分子量(Mw)で評価している。生成物においては、図1Bに示すような環状化反応が起こった場合、還元末端数評価法では、Mnを正しく評価できないためである。また、非常に巨大な分子の分子量を評価する場合、相対的に還元末端数が少なく、正確なMn評価が行いにくいためでもある。さらに、MALLS法によるMn評価法は、ゲルろ過による分画が完全であることを前提としており、分画が不完全であると正確なMn評価ができないためでもある。
【0015】
BEをアミロペクチンまたはデンプンに作用させて高分子量α−グルカンを得た例は存在する。BEを単独でα−グルカン(例えば、アミロース)に作用させた例は数多くある。しかし、アミロースにBEを作用させて分子量約100万以上の高分子量α-グルカン
を得た例は存在しない。また、アミロペクチンにBEを作用させた場合に得られる高分子量α−グルカンは、非特許文献17にあるように、アミロペクチンの基本構造に枝が増えたようなものであると考えられており、グリコーゲン(球状の構造を有する)は合成されていなかったと言える。例えば、非特許文献1および非特許文献2には、Neurospora crassa由来のBEをアミロペクチンまたはアミロースに作用させて、これらを6グルコース単位の単位鎖からなる高分岐グリコーゲン様分子に変換させたことが記載されている。しかし、「グリコーゲン様」とは、ヨウ素による呈色度がグリコーゲンに似たものとなったということを示しているにすぎない。ここで基質として用いられたアミロースは、数平均重合度15、22または130であり、それぞれ、Mnは約2430、約3600および約21000である。特に、非特許文献2は、N.crassa由来のBEが、平均重合度15あるいは22の短鎖長のアミロースに作用できること、植物起源のBEでは作用しうる最小の重合度が30〜40以上であることを記載している。非特許文献2はまた、N.crassa由来のBEが、12残基以上のグルコース鎖に対して作用し、六糖を最小単位として転移反応を行うことが示唆されたと記載している。非特許文
献1のFig.1と2、および非特許文献2のFig.3および4からわかるように、N.crassa由来のBEをアミロペクチンおよびアミロースに作用させると、これらの基質の分子量は変化しなかった。さらに、非特許文献1のFig.4と5および非特許文献2のFig.5と6からは、基質分子よりも若干大きな分子と、若干小さな分子が得られたことが示されており、大幅な高分子化は観察されなかった。
【0016】
例えば、非特許文献3は、トウモロコシのBEIを平均鎖長300を超えるアミロースに作用させることにより、生成物のゲルろ過での溶出時間の遅れが生じたこと、これは形状の変化に起因するものであって、分子量の変化によるものではないことを記載している。
【0017】
例えば、非特許文献4は、BE(特に、Q酵素)をアミロースに作用させることにより得られたアミロペクチン様分子の分子量が、反応時間が長くなるほど低下することを記載している。
【0018】
例えば、非特許文献5は、Mw67600のアミロースに馬鈴薯由来のBE(Q酵素)を作用させると、Mw33500の反応産物が得られることを記載している。
【0019】
例えば、非特許文献6は、Mn200,000のアミロースに馬鈴薯由来のBEを作用させることにより、Mw22,000のグルカンが得られることを記載している。
【0020】
例えば、非特許文献7は、Bacillus stearothermophilus由来のBEを、Mw302,000の酵素合成アミロースに作用させると、環状化反応により分子量が低下したことを記載している。なお、基質として用いられた、酵素合成アミロースは、その分子量分布が狭いことが知られている。例えば、非特許文献4によれば、Mw/Mn<1.2であり、Fujii,K.ら(2003)Biocatalysis
and Biotransformation 21巻,167−172頁によれば、Mw/Mn=1.005〜1.006である。また、メーカーである(株)アジノキのパンフレットによるとMw/Mn<1.1である。したがって、ここで用いられた酵素合成アミロースのMnは、約252,000〜302,000である。そのため、酵素合成アミロースのおよそのMnは、Mwを1.1で割り算することにより概算できる。
【0021】
例えば、非特許文献8は、Aquifex aeolicus由来のBEを、α−グルカンに作用させると、環状化したグルカンが得られることを記載している。これは、図1Bからも明らかなように、グルカンの低分子化が起こることを意味している。
【0022】
例えば、非特許文献9は、Bacillus cereus由来のBEを種々の大きさの酵素合成アミロースに作用させたところ、どの酵素合成アミロースからもほとんど同じサイズのグルカンが得られたことを記載している(Fig.5.8)。また、この文献のFig.5.9からは、分子量約100万を超える成分はまったく検出されなかったことが明らかである。さらに、この文献のFig.5.13の反応モデルからは、高分岐の高分子量α−グルカンが生成されることは全く予想されない。図1から明らかなように、BEによる分子間枝作り反応(図1A)では元の分子よりも大きな分子と小さな分子の両方が生じ、環状化反応(図1B)では元の分子よりも小さな分子が生じ、分子内枝作り反応(図1C)では反応前後で分子量は変化しない。メカニズムが同一であることから、3つの反応の起こる頻度がそれほど偏るということは予想されない。実際、非特許文献9のFig.5.8の結果は、基質分子量により差はあるものの、結果として3つの反応がいず
れも触媒され、結果的にどのような大きさのアミロースからも、同じサイズのグルカンが得られたことを記載しているものである。アミロースから分子量100万以上の高分子グルカンが得られるためには、圧倒的な高頻度でAの分子間枝作り反応が触媒される必要が
あり、さらに、生じた分子のうち、大きい方の分子は、さらに高分子化し続ける方向の反応を受ける必要がある。これは従来のBEの触媒メカニズムからは全く予想されず、それを示唆する結果も全く得られていなかった。
【0023】
特許文献2は、BE(特に、枝作り酵素)をアミロース、澱粉の部分分解物、澱粉枝切り物、ホスホリラーゼによる酵素合成アミロース、マルトオリゴ糖などに作用させることにより、内分岐環状構造部分と外分岐構造部分とを有する、重合度が50から5000の範囲にあるグルカンを製造する方法を記載する。この方法は、BEによって基質を環状化および低分子化させて、重合度50〜5000、最大重合度10,000の環状グルカンを製造する方法である。この方法は、基質の低分子化によって生成物を得ているので、基質として用いられるのは、高分子量のアミロースである。これは、0066段落に、重合度が約400以上のアミロースが好適に用いられ得ると記載されていることから明らかである。重合度400のアミロースの分子量は約65,000であり、低分子量アミロースを基質として用いて高分子量α−グルカンが得られるか否かは、この特許公報からは明らかでない。
【0024】
このように、従来、BEをアミロースに作用させると、アミロースの低分子化が生じるか、一部分子の分子量が高くなることはあっても、その高分子化はごくわずかであって、ほとんど変わらないと考えられていた。
【0025】
さらに、アミロースにBEを作用させた場合に得られるα−グルカンは、プルラナーゼにより分解されやすいという点でグリコーゲンとは異なるという報告がある(非特許文献10、16)。アミロースにBEを作用させて「グリコーゲン」を得た、と記述した文献(例えば、非特許文献18(Walkerら、Eur.J.Biochem.(1971)20巻、p14−21))も存在するが、これらについては、得られたグルカンの分子量も測定しておらず、消化性の分析も行われていない。
【0026】
さらに、酵素の特性を調べるためにBEをアミロースに作用させた例は多数ある(例えば、特許文献3および非特許文献11〜12)。しかし、これらの例ではいずれも、反応産物の分子量を測定していない。
【0027】
BE(特に植物由来BE)は、短鎖長のアミロースには作用しにくいことが知られている。例えば、非特許文献13には、重合度40以下(分子量約6480)のアミロースにはほとんど作用しないとかかれている。その理由は、BEは、基質アミロースが何らかの高次構造をとっていることを必要とするためであり、ある程度の長さがないとアミロースはその高次構造をとれないためであると考察されている(非特許文献14)。また、その高次構造は温度に関係するものであり、温度が高いとアミロースは、そのような高次構造をとれないのだと考察されている。
【0028】
細菌由来BEは、短い基質にも作用するようであるが(非特許文献15)、その作用は弱いことがわかっている(非特許文献9、Fig4.5)。
【0029】
以上のことから、BEがアミロースを基質として、分子量100万以上の高分岐かつ高分子量のグルカンを合成しうるとは予想されず、ましてやその高分子量グルカンがプルラナーゼおよびα−アミラーゼによる消化性の低いものであるとは全く予想されなかった。さらに、Mn4800および9,300の酵素合成アミロースへの作用性が低いこと(非特許文献9、Fig4.5。最大活性を示すMn270,000の酵素合成アミロースを基質としたときと比較し、約7%および12%の活性)から、Mn8,000以下(特に、Mn4,000以下)のアミロースを基質とすることに関する利点は全く想定されていなかった。
【0030】
また、従来のグリコーゲンの製造方法においては、高度の精製を行わないと電解質含量および単糖類の含量が高いため、純度の高いグリコーゲンを得るためには非常にコストがかかるという問題点もある。例えば、スクロースホスホリラーゼ、α−グルカンホスホリラーゼにBEを加えてグリコーゲンを製造する方法では、反応液に10mM程度のリン酸を入れる必要があり、得られた反応産物には、多量のフルクトースと少量のリン酸が入る(スクロース+リン酸+オリゴ糖→α−グルカン+フルクトース+リン酸)。GPとBEとを組み合わせる方法では、さらに多量に電解質が入る(グルコース−1−リン酸+オリゴ糖→α−グルカン+リン酸)。グリコーゲンシンターゼ(GS)とBEとを組み合わせる方法も同様である(ADP−グルコース+オリゴ糖→α−グルカン+ADP)。
【0031】
天然からグリコーゲンを抽出したとしても、電解質の他にさらに、タンパク質、脂質、他の糖質など、非常に色々な物質が混入するので、高純度のグリコーゲンを得るためには非常にコストがかかるという問題点がある。
【特許文献1】特開2000−316581号公報
【特許文献2】特許第3107358号公報、請求項1、0066段落
【特許文献3】特表2002−539822号公報
【非特許文献1】Matsumotoら、J.Biochem 107巻、118−122(1990)(Fig.2)
【非特許文献2】松本および松田 澱粉科学 30巻 p212−222(1983)(Fig.3および4)
【非特許文献3】Boyerら、Starch/staerke 34 Nr.3,S.81−85(1982)(Table 1、Figure 2およびFigure 3)
【非特許文献4】Kitamura,Polymeric Materials Encyclopedia,Vol.10,p7915−7922(Table 2)
【非特許文献5】Praznikら,Carbohydrate Research,227(1992)p171−182
【非特許文献6】GriffinおよびVictor,Biochemistry Vol.7,No.9、September 1968
【非特許文献7】Takata,H.ら,Cyclization reaction catalyzed by branching enzyme.J.Bacteriol.,1996.178:p.1600−1606
【非特許文献8】Takata,H.ら,J.Appl.Glycosci.,2003.50:p.15−20
【非特許文献9】Hiroki Takata博士論文(京都大学)1997(Studies on Enzymes Involved in Glycogen Metabolism of Bacillus Species)
【非特許文献10】Charles BoyerおよびJack Preiss,Biochemistry 1977,Vol.16,No.16,p.3693−3699
【非特許文献11】Shinohara,M.L.ら,Appl Microbiol Biotechnol,2001.57(5−6):p.653−9
【非特許文献12】Takata,H.ら,Appl.Environ.Microbiol.,1994.60:p.3096−3104
【非特許文献13】Borovsky,D.,Smith,E.E.,およびWhelan,W.J.(1976)Eur.J.Biochem.62,307−312
【非特許文献14】Borovsky,D.,Smith,E.E.,およびWhelan,W.J.(1975)FEBS Lett.54,201−205
【非特許文献15】岡田ら,澱粉科学 30巻 p223−230(1983)
【非特許文献16】Kitahata,S.,およびOkada,S.(1988)in Handbook of amylase and related enzymes. Their sources, isolation methods,properties and applications.(The Amylase Reseach Society of Japan ed),pp.143−154,Pergamon Press,Oxford
【非特許文献17】Kawabataら(2002)J.Appl.Glycosci.Vol.49,No.3,273−279頁
【非特許文献18】Walkerら、Eur.J.Biochem.(1971)20巻、p14−21
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
本発明は、上記問題点の解決を意図するものであり、高分岐かつ高分子量のα−グルカン、特にグリコーゲンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0033】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ブランチングエンザイム活性/低分子化活性の比が500以下であるBEが、グリコーゲンを合成する能力を有することを見出し、これに基づいて本発明を完成させた。
【0034】
本発明の製造方法は、グリコーゲンの製造方法であって、グリコーゲンを合成する能力を有するBEを基質に作用させて、グリコーゲンを生産する工程を包含し、該基質は、主にα−1,4−グルコシド結合で連結された重合度4以上のα−グルカンであり、反応開始前の該溶液中の糖の数平均分子量(Mn)が180より大きく150,000以下である。
【0035】
1つの実施形態では、上記BEのブランチングエンザイム活性/低分子化活性は、500以下であり得る。
【0036】
1つの実施形態では、上記BEは、耐熱性BEであり得る。
【0037】
1つの実施形態では、上記BEは、好熱性菌または中温性菌由来であり得る。
【0038】
1つの実施形態では、上記BEは、Aquifex属、Rhodothermus属、Bacillus属、Thermosynechococcus属およびEscherichia属からなる群より選択される属に属する細菌に由来し得る。
【0039】
1つの実施形態では、上記BEは、Aquifex aeolicus、Aquifex pyrophilus、Rhodothermus obamensis、Rhodothermus marinus、Bacillus stearothermophilus、Bacillus caldovelox、Bacillus thermocatenulatus、Bacillus caldolyticus、Bacillus flavothermus、Bacillus acidocaldarius、Bacillus caldotenax、Bacillus smithii、Thermosynechococcus elongatusおよびEscherichia
coliからなる群より選択される細菌に由来し得る。
【0040】
1つの実施形態では、上記BEは、Aquifex aeolicus、Rhodothermus obamensis、Bacillus stearothermoph
ilus、Bacillus caldovelox、Bacillus thermocatenulatus、Bacillus caldolyticusおよびEscherichia coliからなる群より選択される細菌に由来し得る。
【0041】
1つの実施形態では、上記BEの反応至適温度は、45℃以上90℃以下であり得る。
【0042】
1つの実施形態では、上記基質は、澱粉枝切り物、デキストリン枝切り物または酵素合成アミロースであり得る。
【0043】
1つの実施形態では、上記反応開始前の溶液中の糖のMnは、180より大きく4,000未満であり得る。
【0044】
1つの実施形態では、上記反応開始前の溶液中の糖のMnは、4,000以上8,000未満であり得、上記BEの使用量と反応時間との積が25,000U・時間/g基質以上になるように該BEの使用量と反応時間とを調整され得る。
【0045】
1つの実施形態では、上記反応開始前の溶液中の糖のMnは、8,000以上100,000未満であり得、上記BEの使用量と反応時間との積が40,000U・時間/g基質以上になるように該BEの使用量と反応時間とを調整され得る。
【0046】
1つの実施形態では、上記反応開始前の溶液中の糖のMnは、100,000以上150,000以下であり得、上記BEの使用量と反応時間との積が150,000U・時間/g基質以上になるように該BEの使用量と反応時間とを調整され得る。
【0047】
1つの実施形態では、本発明の方法は、Mnが180より大きく1,500未満のα−グルカンに4−α−グルカノトランスフェラーゼを作用させることにより、前記基質を生産する工程をさらに包含し得る。
【0048】
1つの実施形態では、上記Mnが180より大きく1,500未満のα−グルカンは、重合度4〜7のマルトオリゴ糖を含み得る。
【0049】
1つの実施形態では、本発明の方法は、Mn500以上の低分岐α−グルカンに枝切り酵素を作用させることにより、上記基質を生産する工程をさらに包含し得る。
【0050】
1つの実施形態では、本発明の方法は、α−グルカンホスホリラーゼまたはグリコーゲン合成酵素のいずれも使用しない。
【0051】
1つの実施形態では、4−α−グルカノトランスフェラーゼが前記BEと共存し得る。
本発明の1つの実施形態では、重量平均分子量が100万Da以上のグリコーゲンであって、該グリコーゲンに50U/g基質のプルラナーゼを60℃で30分間作用させた場合に得られる生成物をMALLS法によって分析した場合の重量平均分子量が50万Da以上であり、かつ該グリコーゲンに300U/g基質のα−アミラーゼを37℃で30分間作用させた場合に得られる生成物をMALLS法によって分析した場合の重量平均分子量が50万Da以上である、グリコーゲンが提供される。
また、本発明の好ましい実施形態では、以下の製造方法が提供される。
(1)グリコーゲンの製造方法であって、グリコーゲンを合成する能力を有するブランチングエンザイムを溶液中で基質に作用させて、グリコーゲンを生産する工程を包含し、該基質が、主にα−1,4−グルコシド結合で連結された重合度4以上のα−グルカンであり、該基質が、澱粉枝切り物、デキストリン枝切り物または酵素合成アミロースであり、反応開始前の該溶液中の糖の数平均分子量が180より大きく150,000以下であり、該グリコーゲンの重量平均分子量が100万Da以上であり、該グリコーゲンに50U/g基質のプルラナーゼを60℃で30分間作用させた場合に得られる生成物をMALLS法によって分析した場合の重量平均分子量が50万Da以上であり、かつ該グリコーゲンに300U/g基質のα−アミラーゼを37℃で30分間作用させた場合に得られる生成物をMALLS法によって分析した場合の重量平均分子量が50万Da以上であり、該方法においては、α−グルカンホスホリラーゼまたはグリコーゲン合成酵素のいずれも使用せず、該ブランチングエンザイムのブランチングエンザイム活性/アミロペクチン低分子化活性が、1以上466以下であり、ただし、該ブランチングエンザイムが、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号10、配列番号14または配列番号18のいずれのアミノ酸配列も有さない、方法。
(2)前記ブランチングエンザイムのブランチングエンザイム活性/アミロペクチン低分子化活性が、35以上466以下である、上記項1に記載の方法。
(3)前記ブランチングエンザイムが、耐熱性ブランチングエンザイムである、上記項1に記載の方法。
(4)前記ブランチングエンザイムが、好熱性菌または中温性菌由来である、上記項1に記載の方法。
(5)前記ブランチングエンザイムが、Aquifex aeolicus、Rhodothermus obamensis、Bacillus stearothermophilus、Bacillus caldovelox、Bacillus caldolyticusおよびEscherichia coliからなる群より選択される細菌に由来する、上記項1に記載の方法。
(6)前記ブランチングエンザイムが、Aquifex aeolicus VF5株、Rhodothermus obamensis JCM9785株、Bacillus stearothermophilus TRBE14株、Bacillus caldovelox IFO15315株、Bacillus caldolyticus IFO15313株およびEscherichia coli W3110株からなる群より選択される細菌株に由来する、上記項1に記載の方法。
(7)前記ブランチングエンザイムの反応至適温度が、45℃以上90℃以下である、上記項1に記載の方法。
(8)前記反応開始前の溶液中の糖の数平均分子量が、180より大きく4,000未満である、上記項1に記載の方法。
(9)前記反応開始前の溶液中の糖の数平均分子量が、4,000以上8,000未満であり、前記ブランチングエンザイムの使用量と反応時間との積が25,000U・時間/g基質以上になるように該ブランチングエンザイムの使用量と反応時間とを調整する、上記項1に記載の方法。
(10)前記反応開始前の溶液中の糖の数平均分子量が、8,000以上100,000未満であり、前記ブランチングエンザイムの使用量と反応時間との積が40,000U・時間/g基質以上になるように該ブランチングエンザイムの使用量と反応時間とを調整する、上記項1に記載の方法。
(11)前記反応開始前の溶液中の糖の数平均分子量が、100,000以上150,000以下であり、前記ブランチングエンザイムの使用量と反応時間との積が150,000U・時間/g基質以上になるように該ブランチングエンザイムの使用量と反応時間とを調整する、上記項1に記載の方法。
(12)数平均分子量が180より大きく1,500未満のα−グルカンに4−α−グルカノトランスフェラーゼを作用させることにより、前記基質を生産する工程をさらに包含する、上記項1に記載の方法。
(13)前記4−α−グルカノトランスフェラーゼが、Thermus aquaticus由来のアミロマルターゼである、上記項12に記載の方法。
(14)前記数平均分子量が180より大きく1,500未満のα−グルカンが、重合度4〜7のマルトオリゴ糖を含む、上記項12に記載の方法。
(15)数平均分子量500以上の低分岐α−グルカンに枝切り酵素を作用させることにより、前記基質を生産する工程をさらに包含し、該低分岐α−グルカンでは、α−1,6−グルコシド結合の数を1としたときのα−1,4−グルコシド結合の数が、10〜10000である、上記項1に記載の方法。
(16)4−α−グルカノトランスフェラーゼが前記ブランチングエンザイムと共存する、上記項1に記載の方法。
(17)前記4−α−グルカノトランスフェラーゼが、Thermus aquaticus由来のアミロマルターゼである、上記16に記載の方法。
(18)前記ブランチングエンザイムが、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号10、配列番号14または配列番号18のいずれかのアミノ酸配列に対して少なくとも65%の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつグリコーゲン合成能力を有し、かつブランチングエンザイム活性/アミロペクチン低分子化活性が、1以上466以下である、上記項1に記載の方法。
(19)前記ブランチングエンザイムが、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号10、配列番号14または配列番号18のいずれかのアミノ酸配列に対して1または数個のアミノ酸の欠失、置換または挿入を有するアミノ酸配列を有し、かつグリコーゲン合成能力を有し、かつブランチングエンザイム活性/アミロペクチン低分子化活性が、1以上466以下である、上記項1に記載の方法。
(20)前記ブランチングエンザイムが、配列表の配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号9、配列番号13または配列番号17のいずれかの塩基配列からなる核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子によってコードされ、かつグリコーゲン合成能力を有し、かつブランチングエンザイム活性/アミロペクチン低分子化活性が、1以上466以下である、上記項1に記載の方法。
【発明の効果】
【0052】
本発明により、グリコーゲンを安価にかつ多量に製造することができる。
【0053】
本発明の方法は、高度の精製なしで、電解質含量および単糖類含量の非常に低いグリコーゲンを得ることができるという利点を有する。そのため、低コストで純度の高いグリコーゲンを得ることができるという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、BEの種々の作用を模式的に示す図である。図1Aは、BEが分子間枝作り反応を触媒することを示す図である。図1Bは、BEが環状化反応を触媒することを示す図である。図1Cは、BEが分子内枝作り反応を触媒することを示す図である。
【図2】図2は、α−グルカンからのグリコーゲン生成の模式図である。
【図3】図3は、種々の量のBEを用いた場合に得られる生成物のMwを示すグラフである。BE量は基質gあたりのUで示している。
【図4】図4は、種々の分子量の基質を用いた場合に得られる生成物のMwを示すグラフである。
【図5】図5は、澱粉を枝切り酵素により分解してアミロースを得て、このアミロースにBEを反応させてグリコーゲンを製造する反応の模式図である。
【図6】図6は、イソアミラーゼおよび種々の量のBEを用いて澱粉からα−グルカンを生成する場合に得られる生成物のMwを示すグラフである。BE量は基質gあたりのUで示している。
【図7】図7は、4−α−グルカノトランスフェラーゼによってマルトペンタオースからアミロースが生成され、BEによってアミロースからグリコーゲンが生成されることを示す模式図である。
【図8】図8は、種々の基質DP(重合度)の基質(G5、G6、またはG7)を用いた場合に得られる生成物のMwを示すグラフである。
【図9】図9は、本発明により製造されたグリコーゲン(白三角、「今回製造GLY」)、試薬グリコーゲン(黒三角、「試薬GLY」)、ワキシーコーンスターチ(黒丸、「ワキシ」)またはコーンスターチ(白丸、「コンス」)に種々の量のプルラナーゼを作用させた後の生成物のMwを示すグラフである。
【図10】図10は、本発明により製造されたグリコーゲン(白三角、「今回製造GLY」)、試薬グリコーゲン(黒三角、「試薬GLY」)、ワキシーコーンスターチ(黒丸、「ワキシ」)またはコーンスターチ(白丸、「コンス」)に種々の量のα−アミラーゼを作用させた後の生成物のMwを示すグラフである。
【図11A】図11Aは、グリコーゲン合成能力を有するBEの反応モデルである。
【図11B】図11Bは、グリコーゲン合成能力を有さないBEの反応モデルである。
【図12】図12は、ワキシーコーンスターチにAquifex aeolicus VF5由来BEを作用させた場合の、酵素量と得られる生成物のMwとの相関を示すグラフである。縦軸は生成物のMwを、横軸はBE添加量を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0055】
配列番号1:Aquifex aeolicus VF5の天然のBEをコードする塩基配列;
配列番号2:Aquifex aeolicus VF5の天然のBEのアミノ酸配列;
配列番号3:Rhodothermus obamensis JCM9785の天然のBEをコードする塩基配列;
配列番号4:Rhodothermus obamensis JCM9785の天然のBEのアミノ酸配列;
配列番号5:Bacillus stearothermophilus TRBE14の天然のBEをコードする塩基配列;
配列番号6:Bacillus stearothermophilus TRBE14の天然のBEのアミノ酸配列;
配列番号7:Bacillus stearothermophilus 1503−4R var.4の天然のBEをコードする塩基配列;
配列番号8:Bacillus stearothermophilus 1503−4R var.4の天然のBEのアミノ酸配列;
配列番号9:Bacillus caldovelox IFO15315の天然のBEをコードする塩基配列;
配列番号10:Bacillus caldovelox IFO15315の天然の
BEのアミノ酸配列;
配列番号11:Bacillus thermocatenulatusの天然のBEをコードする塩基配列;
配列番号12:Bacillus thermocatenulatusの天然のBEのアミノ酸配列;
配列番号13:Bacillus caldolyticus IFO15313の天然のBEをコードする塩基配列;
配列番号14:Bacillus caldolyticus IFO15313の天然のBEのアミノ酸配列;
配列番号15:Thermosynechococcus elongatus BP−1の天然のBEをコードする塩基配列;
配列番号16:Thermosynechococcus elongatus BP−1の天然のBEのアミノ酸配列;
配列番号17:Escherichia coli W3110の天然のBEをコードする塩基配列;
配列番号18:Escherichia coli W3110の天然のBEのアミノ酸配列;
配列番号19:Thermus aquaticus由来のTaq MalQをコードする塩基配列;
配列番号20:Thermus aquaticus由来のTaq MalQのアミノ酸配列;
配列番号21:プライマーECBEN−NCOの配列;
配列番号22:プライマーECBEC−HINの配列;
配列番号23:プライマーROBEN−ECOの配列;
配列番号24:プライマーROBEC−PSTの配列。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0057】
本発明の方法は、高分岐かつ高分子量のα−グルカン(すなわち、グリコーゲン)の製造方法であって、グリコーゲン合成能力を有するBEを溶液中で基質に作用させて、グリコーゲンを生産する工程を包含し、該基質は、主にα−1,4−グルコシド結合で連結された重合度4以上のα−グルカンであり、反応開始前の該溶液中の糖のMnが約180より大きく約150,000以下である。
【0058】
本明細書では、「グリコーゲン」とは、D−グルコースを構成単位とする糖であって、α−1,4−グルコシド結合およびα−1,6−グルコシド結合のみによって連結されており、分子量が100万Da以上であり、50U/g基質のプルラナーゼを評価例1の条件で作用させた場合に得られる生成物をMALLS法によって分析した場合のMwが50万Da以上であり、かつ300U/g基質のα−アミラーゼを評価例2の条件で作用させた場合に得られる生成物をMALLS法によって分析した場合のMwが50万Da以上である糖をいう。ある糖に50U/g基質のプルラナーゼを評価例1の条件で作用させた場合に得られる生成物の分子量Mwが50万Da以上である場合、その糖は、「プルラナーゼ分解耐性がある」という。ある糖に300U/g基質のα−アミラーゼを評価例2の条件で作用させた場合に得られる生成物の分子量Mwが50万Da以上である場合、その糖は、「α−アミラーゼ分解耐性がある」という。ここで、α−アミラーゼ活性について、1Uのα−アミラーゼ活性とは、pH6.9、20℃で反応させた場合に、澱粉から3分間で1mgのマルトースを遊離する酵素量をいう。プルラナーゼ活性について、1Uのプルラナーゼ活性とは、終濃度1%のプルランにpH5.0、40℃で反応させた場合に、反応初期の1分間に1μmolのグルコースに相当する還元力を生成するのに必要な酵素
量をいう。
【0059】
(1.ブランチングエンザイム)
「グリコーゲン合成能力を有するブランチングエンザイム」とは、BEのうちの、グリコーゲンを合成する能力を有するものをいう。あるBEが、グリコーゲン合成能力を有するか否かは、当該分野で公知の方法によって決定され得る。すなわち、例えば、アミロースにBEを作用させ、その後、その溶液中に分子量が100万Da以上である高分子α-
グルカンが生成したか否かを調べることならびに生成した高分子α−グルカンのプルラナーゼ分解耐性およびα−アミラーゼ分解耐性を決定することにより、決定され得る。溶液中に高分子α-グルカンが存在するか否かは、非特許文献8に記載される、多角度光散乱
検出器と、示差屈折計を検出器として併用したHPLCゲルろ過分析法によって決定され得る。プルラナーゼ分解耐性は、評価例1の方法に準じて決定され得る。α−アミラーゼ分解耐性は、評価例2の方法に準じて決定され得る。
【0060】
本発明者らの研究によれば、BEのうち、ブランチングエンザイム活性/低分子化活性が500以下のBEは、グリコーゲン合成能力を有し、ブランチングエンザイム活性/低分子化活性が500より大きいBEは、グリコーゲン合成能力を有さなかった。
【0061】
ブランチングエンザイム活性とは、アミロースとヨウ素との複合体の660nmにおける吸光度を減少させる活性であり、BEがα−1,4−グルコシド結合を切断し、別のグルコース残基の6位OH基に転移することにより、α−1,6−グルコシド結合を形成し、アミロースの直鎖状部分を減少させる作用に基づく。
【0062】
BEのブランチングエンザイム活性測定法は当該分野で公知であり、例えば、非特許文献8に記載される。BEのブランチングエンザイム活性は、例えば、以下のようにして測定される。まず、50μLの基質液(0.12%(w/v)アミロース(TypeIII、Sigma Chemical社製))に50μLの酵素液を添加することによって反応を開始する。反応は、そのBEの反応至適温度で行う。10分間BEを作用させた後、1mLの0.4mM塩酸溶液を添加することによって反応を停止する。その後、1mLのヨウ素液を添加し、よく混合した後、660nmの吸光度を測定する。対照液として、酵素液添加前に0.4mM塩酸溶液を添加したものを同時に調製する。基質液は、100μLの1.2%(w/v)アミロースTypeIII溶液(ジメチルスルホキシドに溶解させる)に、200μLの50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)を添加し、さらに700μLの蒸留水を添加してよく混合することにより調製する。ただし、緩衝液のpHは、そのBEの反応至適pHに合わせる。ヨウ素液は0.125mLのストック溶液(2.6重量%I2、26重量%KI水溶液)に0.5mLの1規定塩酸を混合し、蒸留水で65mLとすることにより調製する。酵素液のBE活性は以下の計算式により求める。
【0063】
BE活性(単位(U)/mL)
={(対照液660nm吸光度−サンプル液660nm吸光度)/対照液660nm吸光度}×100/10×20。
【0064】
本明細書においては、BEの活性としては、原則としてBE活性を用いる。したがって、単に「活性」と呼ぶ場合は「BE活性」をあらわし、単に「単位」、あるいは「U」と示す場合は、BE活性で測定した「単位」、あるいは「U」をあらわす。
【0065】
低分子化活性は、本発明者らが定義した活性である。低分子化活性は、アミロペクチン低分子化活性ともいう。本明細書中では、低分子化活性1単位を、BE活性の測定温度およびpH(好ましくは、その酵素の反応至適温度および至適pH)と同じ温度およびpHで16時間反応させた場合に、基質(ワキシーコーンスターチ)1gのMwを400kD
aに低下させるのに必要な酵素量と定義する。
【0066】
低分子化活性は、例えば、次のようにして測定される。まず、50mgのワキシーコーンスターチ(WCS;三和澱粉製)に100μl 蒸留水を添加し、充分に攪拌する。ついで、900μl ジメチルスルホキシドを添加して、攪拌し、沸騰湯浴中で、20分間加熱する。8.9mlの蒸留水を添加してよく撹拌し、沸騰湯浴中で、さらに10分間加熱する。この溶液に、100μlの1M Tris−HCl(pH7.5)または1Mリン酸緩衝液(pH7.5)を添加して攪拌し、基質液とする。緩衝液のpHは、BE活性の測定pHに合わせる。
【0067】
基質液を800μL/チューブで分注する。すなわち、各チューブは、4mgのWCSを含む。次いで、適切に希釈したBE溶液をチューブ1本あたり適当量XμLおよび希釈液をチューブ1本あたり(200−X)μL添加し、反応を開始する。反応温度は、BE活性の測定温度に合わせる。希釈液は0.05% Triton X−100を含む10mMリン酸カリウム緩衝液(pHは、BE活性測定pHに合わせる)である。反応時間が16時間になった時点で1N HClを添加して反応液のpHを3〜4に下げ、さらに100℃で10分加熱することにより、反応を停止させる。耐熱性の充分に低いBEの場合には、単に反応液を100℃で10分加熱するだけでも反応を停止できる。
【0068】
反応停止後、反応液を0.45μmのフィルターによりろ過し、含まれる生産物のMwを測定する。Mwが2500kDaから200kDaの範囲に入るように、BEの量を加減する。Mwの測定は、以下の「製造されたグルカンの重量平均分子量(Mw)の測定法」に記載の方法により行う。
【0069】
算出されたMw(kDa)を縦軸(y軸)に対数でとり、用いた酵素量(μL)を横軸(x軸)にとり、マイクロソフト社のソフトMS−Excelを使用して累乗近似曲線を作成する。すなわち、y=cxb(cとbは定数)の方程式で近似曲線を作成する。得られた方程式にy=400(kDa)を代入することにより、4mgのWCSを基質としたときに基質Mwを400kDaに低下させるのに必要な酵素量V1(μL)が算出される。この酵素量V1を基質1gあたりに換算することにより、1単位の低分子化活性に必要な酵素量V2(=(V1μL/1000)×(1000mg/4mg)(mL))が算出される。酵素液の低分子化活性E1は、単位低分子化活性の逆数(E1=1/V2)(U/mL)である。
【0070】
BE活性/低分子化活性の上限は、約500であり、より好ましくは約400であり、さらにより好ましくは約300であり、さらにより好ましくは約200であり、最も好ましくは約100である。BE活性/低分子化活性の下限は特にない。下限は、約1以上、
約5以上または約10以上であり得る。
【0071】
BE活性/低分子化活性の値が約500以下であるBEがグリコーゲン合成能力を有することについてのメカニズムは明確ではない。このメカニズムは、おそらく、以下に説明する原理に基づくと考えられるが、この原理には束縛されない:
BEによる高分子α−グルカン合成が起こるためには、図1に示した、分子間枝作り反応が環状化反応および分子内枝作り反応に比べて高頻度で起こる必要がある。高頻度の分子間枝作り反応は、低分子アミロースを基質とすることで達成される。さらに、この高頻度の分子間枝作り反応に加えて、分岐分子が優先して基質として使用され続ける必要がある。そして、分岐分子は大きな構造単位を保持したままでBEの作用を受けなければならない。このことを反応モデルによって説明する(図11A)。まず、アミロース二分子から、一個のα−1,6−結合を持つ分子が生じる。生じた分子がさらに基質として使用され、二個のα−1,6−結合を持つ分子が生じる。さらにこの生じた分岐分子が優先的に
基質として使用されていくことによって、少数の高分子α−グルカン分子と多数の低分子が生じる。
【0072】
一方、分岐分子を優先的に基質として使用しないBEの場合、あるいは分岐分子が使用されても、大きな構造単位を崩すような使用のされ方をした場合には、多数の分岐分子が生じ、さらなる高分子は生じにくい(図11B)。
【0073】
どちらの場合にも、反応系全体におけるα−1,6−結合の比率が10〜12%程度になると、それ以上BEの反応は進まなくなる。
【0074】
ここで、BEによるアミロペクチンの低分子化作用について説明する。この反応は特許3107358号に示されているように、BEがアミロペクチンのクラスター構造に作用し、これを環状化することによって起こる。この場合、BEは分岐分子に作用し、その大きな構造単位を保持したままで、クラスター構造の継ぎ目の単位鎖を環状化する。したがって、アミロペクチン低分子化活性が相対的に高いBEは、分岐分子を優先して用い、かつ大きな構造単位を保持したまま反応の基質とする、という性質を持つと考えられる。
【0075】
さらに、本発明者らの研究によれば、現在公知の耐熱性BEは、いずれも、グリコーゲン合成能力を有した。一方、反応至適温度の低い中温性BEの中には、グリコーゲン合成能力を有さないものがあった。
【0076】
グリコーゲン合成能力を有するBEは、好ましくは、耐熱性BEである。耐熱性BEとは、BE活性測定を、反応温度を変化させて行った場合の反応の至適温度が45℃以上であるBEをいう。
【0077】
グリコーゲン合成能力を有するBEの反応至適温度は、好ましくは、約45℃以上であり、約90℃以下である。本明細書中では、「反応至適温度」とは、上述のBE活性測定を温度のみ変化させて行い、最も活性が高い温度をいう。反応至適温度は好ましくは、約45℃以上であり、約50℃以上であり、さらに好ましくは約55℃以上であり、特に好ましくは約60℃以上であり、最も好ましくは約65℃以上である。反応至適温度に上限はないが、好ましくは約90℃以下であり、約85℃以下であり、さらに好ましくは約80℃以下であり、特に好ましくは約75℃以下である。
【0078】
グリコーゲン合成能力を有するBEは、より好ましくは、好熱性菌または中温性菌由来のBEである。本明細書中では、「好熱性菌」とは、生育最適温度が約50℃以上であり、約40℃以下ではほとんど増殖しない微生物をいう。好熱性菌は、中等度好熱性菌および高度好熱性菌に分けられる。「中等度好熱性菌」とは、生育最適温度が約50℃〜約70℃である微生物をいう。「高度好熱性菌」とは、生育最適温度が約70℃以上である微生物をいう。さらに、高度好熱性菌のうち、生育最適温度が約80℃以上である微生物を、「超好熱性菌」という。対照的に、「中温性菌」とは、生育温度が通常の温度環境にある微生物をいい、特に、生育最適温度が約20℃〜約40℃である微生物をいう。
【0079】
グリコーゲン合成能力を有するBEを産生する好熱性菌は、好ましくは、Aquifex属、Rhodothermus属、Bacillus属、またはThermosynechococcus属に属する。グリコーゲン合成能力を有するBEを産生する中温性菌は、好ましくは、Escherichia属に属する。
【0080】
グリコーゲン合成能力を有するBEは、より好ましくは、Aquifex aeolicus、Aquifex pyrophilus、Rhodothermus obamensis、Rhodothermus marinus、Bacillus stea
rothermophilus、Bacillus caldovelox、Bacillus thermocatenulatus、Bacillus caldolyticus、Bacillus flavothermus、Bacillus acidocaldarius、Bacillus caldotenax、Bacillus smithii、Thermosynechococcus elongatusおよびEscherichia coliからなる群より選択される細菌に由来し、さらにより好ましくは、Aquifex aeolicus、Rhodothermus obamensis、Bacillus stearothermophilus、Bacillus caldovelox、Bacillus thermocatenulatus、Bacillus caldolyticusおよびEscherichia coliからなる群より選択される細菌に由来する。なお、最近では、好熱性のBacillus属細菌は、Geobacillus属細菌と記載されることも多い。例えば、Bacillus stearothermophilusは、Geobacillus stearothermophilusと同一の細菌を指す。
【0081】
本明細書中では、酵素がある生物に「由来する」とは、その生物から直接単離したことのみを意味するのではなく、その生物を何らかの形で利用することによりその酵素が得られることをいう。例えば、その生物から入手したその酵素をコードする遺伝子を大腸菌に導入して、その大腸菌から酵素を単離する場合も、その酵素はその生物に「由来する」という。
【0082】
Aquifex aeolicus VF5の天然のBEをコードする塩基配列を配列番号1に示し、そしてアミノ酸配列を配列番号2に示す。本明細書中では、「天然の」BEは、もともとBEを産生する細菌から単離されたBEだけでなく、天然のBEと同じアミノ酸配列を有する、遺伝子組換えによって得られるBEをも包含する。Aquifex
aeolicus VF5由来の天然のBEをコードする塩基配列のクローニング方法は、非特許文献8およびvan der Maarel, M. J. E. C.ら、Biocatalysis and Biotransformation、2003、21巻、p199−207に記載される。Aquifex aeolicus由来のBEは、種々のMnの基質からグリコーゲンを極めて良好に製造するという特性を有する。
【0083】
Rhodothermus obamensis JCM9785の天然のBEをコードする塩基配列を配列番号3に示し、そしてアミノ酸配列を配列番号4に示す。Rhodothermus obamensis JCM9785由来の天然のBEをコードする塩基配列のクローニング方法は、非特許文献11および特許文献3に記載される。
【0084】
Bacillus stearothermophilus TRBE14の天然のBEをコードする塩基配列を配列番号5に示し、そしてアミノ酸配列を配列番号6に示す。Bacillus stearothermophilus TRBE14由来の天然のBEをコードする塩基配列のクローニング方法は、非特許文献9および非特許文献12に記載される。Bacillus stearothermophilus由来のBEは、特に低分子量の基質からグリコーゲンを極めて良好に製造するという特性を有する。なお、Bacillus属およびEscherichia属の細菌においては、ATGに加えて、TTGおよびGTGが開始コドンとして使用され、メチオニンとして翻訳される。そのため、配列番号5の1〜3位のTTGは開始コドンとして作用し、メチオニンに翻訳される。配列番号5の塩基配列を有する核酸分子を用いて他の生物においてBEを発現させる場合、一般に、1位のTはAに置換される。
【0085】
Bacillus stearothermophilus 1503−4R var.4の天然のBEをコードする塩基配列を配列番号7に示し、そしてアミノ酸配列を配列
番号8に示す。Bacillus stearothermophilus 1503−4R var.4由来の天然のBEをコードする塩基配列のクローニング方法は、Kiel,J.A.K.W.ら,Mol.Gen.Genet.,1991.230:p.136−144およびEP0418945B1に記載される。配列番号7の1〜3位のTTGは開始コドンとして作用し、メチオニンに翻訳される。配列番号7の塩基配列を有する核酸分子を用いて他の生物においてBEを発現させる場合、一般に、1位のTはAに置換される。
【0086】
Bacillus caldovelox IFO15315の天然のBEをコードする塩基配列を配列番号9に示し、そしてアミノ酸配列を配列番号10に示す。配列番号9の1〜3位のTTGは開始コドンとして作用し、メチオニンに翻訳される。配列番号9の塩基配列を有する核酸分子を用いて他の生物においてBEを発現させる場合、一般に、1位のTはAに置換される。
【0087】
Bacillus thermocatenulatusの天然のBEをコードする塩基配列を配列番号11に示し、そしてアミノ酸配列を配列番号12に示す。配列番号11の1〜3位のTTGは開始コドンとして作用し、メチオニンに翻訳される。配列番号11の塩基配列を有する核酸分子を用いて他の生物においてBEを発現させる場合、一般に、1位のTはAに置換される。
【0088】
Bacillus caldolyticus IFO15313の天然のBEをコードする塩基配列を配列番号13に示し、そしてアミノ酸配列を配列番号14に示す。配列番号13の1〜3位のTTGは開始コドンとして作用し、メチオニンに翻訳される。配列番号13の塩基配列を有する核酸分子を用いて他の生物においてBEを発現させる場合、一般に、1位のTはAに置換される。
【0089】
Thermosynechococcus elongatus BP−1の天然のBEをコードする塩基配列を配列番号15に示し、そしてアミノ酸配列を配列番号16に示す。
【0090】
Escherichia coli W3110の天然のBEをコードする塩基配列を配列番号17に示し、そしてアミノ酸配列を配列番号18に示す。
【0091】
これらの天然のBEの塩基配列およびアミノ酸配列は例示であり、これらの配列とはわずかに異なる配列を有する改変体(いわゆる、対立遺伝子改変体)が天然に存在し得ることは公知である。本発明の方法においては、例示した配列を有するBE以外にも、グリコーゲン合成能力を有する限り、このような、天然に存在する改変体および天然のBEに対して人工的に変異を導入した改変体も用い得る。例えば、WO2000/058445号公報および特許文献3には、Rhodothermus obamensis由来BEの改変体が記載されている。改変体BEは、改変を導入する前のBEと同等以上の活性を有することが好ましい。例えば、本発明で用いられるBEのアミノ酸配列は、ある実施形態では、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、および配列番号18からなる群より選択されるアミノ酸配列(すなわち、対照アミノ酸配列)と同一、すなわち、100%同一であってもよく、別の実施形態では、このアミノ酸配列は、対照アミノ酸配列と比較してある一定の数までアミノ酸が変化していてもよい。このような変化は、少なくとも1個(好ましくは1または数個)のアミノ酸の欠失、置換(保存的置換および非保存的置換を含む)または挿入からなる群より選択され得る。この変化は対照アミノ酸配列のアミノ末端もしくはカルボキシ末端の位置で生じてもよく、またはこれら末端以外のどの位置で生じてもよい。アミノ酸残基の変化は、1残基ずつ点在していてもよく、数残基連続していてもよい。当業者は
、所望の性質を有するBEを容易に選択することができる。あるいは、目的とするBEをコードする遺伝子を直接化学合成してもよい。そのような化学合成の方法は、当該分野において周知である。
【0092】
BEの改変は、当該分野で周知の方法を用いて、例えば、部位特異的変異誘発法、変異原を用いた変異誘発法(対象遺伝子を亜硝酸塩などの変異剤で処理すること、紫外線処理を行うこと)、エラープローンPCRを行うことなどによって行われ得る。目的の変異を得やすい点から、部位特異的変異誘発を用いることが好ましい。部位特異的変異誘発を用いれば、目的とする部位で目的とする改変を導入することができるからである。あるいは、目的とする配列をもつ核酸分子を直接合成してもよい。そのような化学合成の方法は、当該分野において周知である。部位特異的変異誘発の手法は、例えば、Nucl.Acid Research,Vol.10,pp.6487−6500(1982)に記載される。
【0093】
上記のような改変を設計する際に、アミノ酸の疎水性指数が考慮され得る。タンパク質における相互作用的な生物学的機能を与える際の疎水性アミノ酸指数の重要性は、一般に当該分野で認められている(Kyte.JおよびDoolittle,R.F.J.Mol.Biol.157(1):105−132,1982)。アミノ酸の疎水的性質は、生成したタンパク質の二次構造に寄与し、次いでそのタンパク質と他の分子(例えば、酵素、基質、レセプター、DNA、抗体、抗原など)との相互作用を規定する。各アミノ酸は、それらの疎水性および電荷の性質に基づく疎水性指数を割り当てられる。それらは:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(−0.4);スレオニン(−0.7);セリン(−0.8);トリプトファン(−0.9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.5);アスパラギン(−3.5);リジン(−3.9);およびアルギニン(−4.5)である。
【0094】
あるアミノ酸を、同様の疎水性指数を有する他のアミノ酸により置換して、そして依然として実質的に同様の生物学的機能を有するタンパク質(例えば、酵素活性において実質的に等価なタンパク質)を生じさせ得ることは、当該分野で周知である。このようなアミノ酸置換において、疎水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。疎水性に基づくこのようなアミノ酸の置換は効率的であることが当該分野において理解される。米国特許第4,554,101号に記載されるように、以下の親水性指数がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);およびトリプトファン(−3.4)。アミノ酸が同様の親水性指数を有しかつ依然として生物学的等価体を与え得る別のものに置換され得ることが理解される。このようなアミノ酸置換において、親水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。
【0095】
本発明において、「保存的置換」とは、アミノ酸置換において、元のアミノ酸と置換されるアミノ酸との親水性指数または/および疎水性指数が上記のように類似している置換をいう。保存的置換の例は、当業者に周知であり、例えば、次の各グループ内での置換が
挙げられるがこれらに限定されない:アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシン。
【0096】
本発明の方法において使用するBEは、BEを産生する天然の微生物から単離されてもよい。例えば、Aquifex aeolicus VF5、Bacillus stearothermophilusなどから天然のBEを単離し得る。Bacillus stearothermophilus TRBE14のBEについての手順を例示すると、最初に、Bacillus stearothermophilus TRBE14を適切な培地(例えば、Lブロス(1% Bactto−Tryptone(Difco
Laboratories、Detroit,Mich.,USA)、0.5% Bacto−YeastExtract(Difco)、0.5% NaCl、pH7.3))中に接種し、振盪させながら約50℃〜約60℃で一晩培養する。次いで、この培養液を遠心分離して、菌体を収集する。得られた菌体を、20mM Tris−塩酸緩衝液(pH7.0)中に懸濁し、次いで超音波処理により破砕し、菌体破砕液を得る。この菌体破砕液を、約60℃の水浴中で約30分間加熱する。加熱後、この菌体破砕液を、遠心機(ベックマン社製、AVANTI J−25I)を用いて遠心分離し、不溶性のタンパク質などを除去し、上清を得る。得られた上清を、あらかじめ平衡化しておいた陰イオン交換樹脂Q−Sepharoseに流してBEを樹脂に吸着させる。樹脂を、100mM塩化ナトリウムを含む緩衝液で洗浄して不純物を除去する。続いて、400mM塩化ナトリウムを含む緩衝液でBEを溶出させ、Bacillus stearothermophilus TRBE14由来BE酵素液とする。さらなる精製を必要とする場合、必要に応じて、Sephacryl S−200HR(ファルマシア社製)などを用いたゲルフィルトレーションクロマトグラフィーによる分画、Phenyl−TOYOPEARL 650M(東ソー社製)などを用いた疎水クロマトグラフィーによる分画を組み合わせることにより、精製Bacillus stearothermophilus TRBE14由来BE含有溶液を得ることができる。他の細菌種からのBEの精製も同様に行い得る。
【0097】
あるいは、本発明の方法において使用するBEは、BEをコードする塩基配列を含む核酸分子を適切な宿主細胞に導入してBEを発現させ、この発現されたBEをこの宿主細胞またはその培養液から精製することによって入手され得る。
【0098】
天然のBEをコードする塩基配列を含む核酸分子(遺伝子ともいう)は、上記のようにして得た精製BEをトリプシン処理し、得られるトリプシン処理断片をHPLCにより分離し、分離されたいずれかのペプチド断片のN末端のアミノ酸配列を、ペプチドシークエンサーにより同定し、次いで、同定したアミノ酸配列をもとに作製した合成オリゴヌクレオチドプローブを用いて、適切なゲノムライブラリーまたはcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、入手され得る。オリゴヌクレオチドプローブおよびDNAライブラリーを調製するための、ならびに核酸のハイブリダイゼーションによりそれらをスクリーニングするための基本的な戦略は、当業者に周知である。例えば、Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(1989);DNA Cloning,第IおよびII 巻(D.N.Glover編
1985);Oligonucleotide Synthesis (M.J.Gait編 1984);Nucleic Acid Hybridization(B.D.Hames & S.J.Higgins編 1984)を参照のこと。
【0099】
あるいは、既知のBE遺伝子の塩基配列に対する相同性に基づいて、この塩基配列の少なくとも一部を含む核酸プローブを用いたハイブリダイゼーションによってスクリーニングして、別種のBE遺伝子を含む核酸分子を獲得することもできる。このような方法は当
該分野で公知である。
【0100】
あるいは、種々のBEのアミノ酸配列において保存された領域に対応する縮重プライマーを作製して、PCRによってBEの塩基配列を獲得することも可能である。このような方法は当該分野で公知である。
【0101】
ゲノムライブラリーをスクリーニングする場合、得られた核酸分子は、当業者に周知の方法を用いてサブクローニングされ得る。例えば、目的の遺伝子を含むλファージと、適切な大腸菌と、適切なヘルパーファージとを混合することにより、容易に目的の遺伝子を含有するプラスミドを得ることができる。その後、プラスミドを含有する溶液を用いて、適切な大腸菌を形質転換することにより、目的の遺伝子をサブクローニングし得る。得られた形質転換体を培養して、例えばアルカリSDS法によりプラスミドDNAを得、目的の遺伝子の塩基配列を決定し得る。塩基配列を決定する方法は、当業者に周知である。さらに、DNAフラグメントの塩基配列を基に合成されたプライマーを用い、Aquifex aeolicus、Rhodothermus obamensis、Bacillus stearothermophilus、Bacillus caldovelox、Bacillus thermocatenulatus、Bacillus caldolyticusなどのゲノムDNAなどを鋳型に、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて直接BE遺伝子を増幅することもできる。
【0102】
あるいは、公知の塩基配列(例えば、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16または18のアミノ酸配列をコードする塩基配列(例えば、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15または17の塩基配列))に基づいて化学合成されてもよい。
【0103】
本発明の方法で用いられるBEのアミノ酸配列をコードする塩基配列は、上記の対照アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(すなわち、対照塩基配列)と比較してある一定の数まで変化していてもよい。このような変化は、少なくとも1個のヌクレオチドの欠失、トランジションおよびトランスバージョンを含む置換、または挿入からなる群より選択され得る。この変化は対照塩基配列の5’末端もしくは3’末端の位置で生じてもよく、またはこれら末端以外のどの位置で生じてもよい。塩基の変化は、1塩基ずつ点在していてもよく、数塩基連続していてもよい。
【0104】
塩基の変化は、そのコード配列において、ノンセンス、ミスセンスまたはフレームシフト変異を生じ得、このような変化をした後の塩基配列によりコードされるBEに変化をもたらし得る。
【0105】
2つのアミノ酸配列を直接比較する場合、そのアミノ酸配列間でアミノ酸が、代表的には少なくとも約20%、好ましくは少なくとも約30%、より好ましくは少なくとも約40%、さらに好ましくは少なくとも約50%、特に好ましくは少なくとも約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%または約99%同一であることが好ましい。
【0106】
本明細書では配列の同一性は、GENETYX−WIN Ver.4.0(株式会社ゼネティックス)のマキシマムマッチングを用いて算出される。このプログラムは、解析対象となる配列データに対して、比較対照となる配列データを置き換えおよび欠損を考慮しながら、配列間で一致するアミノ酸対が最大になるように並べ替え、その際、一致(Matches)、不一致(Mismatches)、ギャップ(Gaps)についてそれぞれ得点を与え合計を算出して最小となるアライメントを出力しその際の同一性を算出する(参考文献:Takashi,K.,およびGotoh,O.1984.Sequence Relationships among Various 4.5 S RNA
Spacies J.Biochem.92:1173−1177)。本明細書では配列の同一性は、GENETYX−WIN Ver.4.0のマキシマムマッチングをMatches=−1;Mismatches=1;Gaps=1;*N+=2の条件で用いて算出される。
【0107】
天然の酵素または核酸分子としてはまた、本明細書において具体的に記載されたBEのアミノ酸配列またはBEをコードする塩基配列(例えば、配列番号1、2など)に対して同一ではないが相同性のある配列を有するものもまた使用され得る。天然の酵素または核酸分子に対して相同性を有するそのような酵素または核酸分子としては、例えば、GENETYX−WIN Ver.4.0のマキシマムマッチングにおいて、上記の条件で用いて比較した場合に、比較対象の配列に対して、核酸の場合、少なくとも約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%の同一性を有する塩基配列を含む核酸分子が挙げられ、そして酵素の場合、少なくとも約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%または約99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する酵素が挙げられるがそれらに限定されない。
【0108】
配列表の配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15および配列番号17からなる群より選択される塩基配列からなる核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子によってコードされるBEは、グリコーゲン合成能力を有する限り、本発明の方法において使用され得る。配列表の配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15および配列番号17からなる群より選択される塩基配列からなる核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子に対して改変を行って得られる改変塩基配列を含む核酸分子によってコードされるBEもまた、グリコーゲン合成能力を有する限り、本発明の方法において使用され得る。当業者は、所望のBE遺伝子を容易に選択することができる。
【0109】
本明細書中で使用する用語「ストリンジェントな条件」とは、特異的な配列にはハイブリダイズするが、非特異的な配列にはハイブリダイズしない条件をいう。ストリンジェントな条件の設定は、当業者に周知であり、例えば、Moleculer Cloning(Sambrookら、前出)に記載される。具体的には、例えば、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、50%ホルムアミド、5×SSC(750mM NaCl、75mM クエン酸三ナトリウム)、50mM リン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハルト溶液(0.2% BSA、0.2% Ficoll
400および0.2%ポリビニルピロリドン)、10%硫酸デキストラン、および20μg/ml変性剪断サケ精子DNAを含む溶液中での65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline−sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄するという条件を用いることにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。
【0110】
本発明の方法で用いられるBEを製造するために用いられる核酸分子は、天然のBEをコードする塩基配列を含む核酸分子に対して保存的に改変された核酸分子であってもよい。「天然のBEをコードする塩基配列を含む核酸分子に対して保存的に改変された核酸分子」とは、天然のBEのアミノ酸配列と同一または本質的に同一のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む核酸分子をいう。「天然のBEのアミノ酸配列と本質的に同一のアミノ酸配列」とは、天然のBEと本質的に同じ酵素活性を有するアミノ酸配列をいう。遺伝コードの縮重のため、機能的に同一な多数の塩基配列が任意の所定のアミノ酸配列をコー
ドする。例えば、コドンGCA、GCC、GCGおよびGCUはすべて、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、GCAコドンによってアラニンが特定される全ての位置で、そのコドンは、コードされたアラニンを変更することなく、GCC、GCGまたはGCUに変更され得る。同様に、複数のコドンによってコードされ得るアミノ酸に関しては、コドンによってそのアミノ酸が特定される全ての位置で、そのコドンは、コードされた特定のアミノ酸を変更することなく、そのアミノ酸をコードする任意の別のコドンに変更され得る。このような塩基配列の変動は、保存的に改変された変異の1つの種である「サイレント変異」である。ポリペプチドをコードする本明細書中のすべての塩基配列はまた、その核酸の可能なすべてのサイレント変異を包含する。サイレント変異は、コードするアミノ酸が変化しない「サイレント置換」と、そもそも核酸がアミノ酸をコードしない場合(例えば、イントロン部分での変異、他の非翻訳領域での変異など)を包含する。ある核酸がアミノ酸をコードする場合、サイレント変異は、サイレント置換と同義である。本明細書において「サイレント置換」とは、塩基配列において、あるアミノ酸をコードする塩基配列を、同じアミノ酸をコードする別の塩基配列に置換することをいう。遺伝コード上の縮重という現象に基づき、あるアミノ酸をコードする塩基配列が複数ある場合(例えば、グリシンなど)、このようなサイレント置換が可能である。したがって、サイレント置換により生成した塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を有するポリペプチドは、もとのポリペプチドと同じアミノ酸配列を有する。当該分野において、核酸中の各コドン(通常メチオニンをコードする唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンをコードする唯一のコドンであるTGGを除く)が、機能的に同一な分子を産生するために改変され得ることが理解される。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、記載された各配列において暗黙に含まれる。好ましくは、そのような改変は、ポリペプチドの高次構造に多大な影響を与えるアミノ酸であるシステインの置換を回避するようになされ得る。
【0111】
本発明で用いられるBEをコードする塩基配列は、発現のために導入される生物におけるコドンの使用頻度にあわせて変更され得る。コドン使用頻度は、その生物において高度に発現される遺伝子での使用頻度を反映する。例えば、大腸菌において発現させることを意図する場合、公開されたコドン使用頻度表(例えば、Sharpら,Nucleic Acids Research 16 第17号,8207頁(1988))に従って大腸菌での発現のために最適にすることができる。
【0112】
上記のようにして改変された塩基配列を含む核酸分子を用いて、発現ベクターが作製され得る。特定の核酸配列を用いて発現ベクターを作製する方法は、当業者に周知である。
【0113】
本明細書において核酸分子について言及する場合、「ベクター」とは、目的の塩基配列を目的の細胞へと移入させることができる核酸分子をいう。そのようなベクターとしては、目的の細胞において自律複製が可能であるか、または目的の細胞の染色体中への組込みが可能で、かつ改変された塩基配列の転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。本明細書において、ベクターはプラスミドであり得る。
【0114】
本明細書において、「発現ベクター」とは、改変された塩基配列(すなわち、改変されたBEをコードする塩基配列)を目的の細胞中で発現し得るベクターをいう。発現ベクターは、改変された塩基配列に加えて、その発現を調節するプロモーターのような種々の調節エレメント、および必要に応じて、目的の細胞中での複製および組換え体の選択に必要な因子(例えば、複製起点(ori)、および薬剤耐性遺伝子のような選択マーカー)を含む。発現ベクター中では、改変された塩基配列は、転写および翻訳されるように作動可能に連結されている。調節エレメントとしては、プロモーター、ターミネーターおよびエンハンサーが挙げられる。また、発現された酵素を細胞外へ分泌させることが意図される場合は、分泌シグナルペプチドをコードする塩基配列が、改変された塩基配列の上流に正
しいリーディングフレームで結合される。特定の生物(例えば、細菌)に導入するために使用される発現ベクターのタイプ、その発現ベクター中で使用される調節エレメントおよび他の因子の種類が、目的の細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。
【0115】
本明細書において使用される「ターミネーター」は、タンパク質コード領域の下流に位置し、塩基配列がmRNAに転写される際の転写終結、ポリA配列の付加に関与する配列である。ターミネーターは、mRNAの安定性に関与して遺伝子の発現量に影響を及ぼすことが知られている。
【0116】
本明細書において使用される「プロモーター」とは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、また転写頻度を直接的に調節するDNA上の領域をいい、RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。プロモーターの領域は、通常、推定タンパク質コード領域の第1エキソンの上流約2kbp以内の領域であることが多いので、DNA解析用ソフトウェアを用いてゲノム塩基配列中のタンパク質コード領域を予測すれば、プロモーター領域を推定することはできる。推定プロモーター領域は、構造遺伝子ごとに変動するが、通常構造遺伝子の上流にあるが、これらに限定されず、構造遺伝子の下流にもあり得る。好ましくは、推定プロモーター領域は、第一エキソン翻訳開始点から上流約2kbp以内に存在する。
【0117】
本明細書において使用される「エンハンサー」は、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられ得る。そのようなエンハンサーは当該分野において周知である。エンハンサーは複数個用いられ得るが1個用いられてもよいし、用いなくともよい。
【0118】
本明細書において使用される「作動可能に連結された(る)」とは、所望の塩基配列が、発現(すなわち、作動)をもたらす転写翻訳調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサーなど)または翻訳調節配列の制御下に配置されることをいう。プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
【0119】
改変した核酸配列を、上記調節エレメントに作動可能に連結するために、目的のBE遺伝子を加工すべき場合がある。例えば、プロモーターとコード領域との間が長すぎて転写効率の低下が予想される場合、またはリボゾーム結合部位と翻訳開始コドンとの間隔が適切でない場合などである。加工の手段としては、制限酵素による消化、Bal31、ExoIIIなどのエキソヌクレアーゼによる消化、あるいはM13などの一本鎖DNAまたはPCRを使用した部位特異的変異の導入が挙げられる。
【0120】
次いで、上記のようにして作製された発現ベクターを細胞に導入してBEが発現される。
【0121】
本明細書において酵素の「発現」とは、その酵素をコードする塩基配列が、インビボまたはインビトロで転写および翻訳されて、コードされる酵素が生産されることをいう。
【0122】
発現ベクターを導入する細胞(宿主ともいう)としては、原核生物および真核生物が挙げられる。発現ベクターを導入する細胞は、BEの発現の容易さ、培養の容易さ、増殖の速さ、安全性などの種々の条件を考慮して容易に選択され得る。例えば、BEをグリコーゲンの合成に用いる場合、BEは、夾雑物としてアミラーゼを含まないことが好ましいので、アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない細胞を用いることが好ましい。このような細胞の例としては、細菌、真菌などの微生物が挙げられる。より好ましい細胞の例としては、中温性菌(例えば、大腸菌、枯草菌)が挙げられる。細胞は、微生
物細胞であってもよいが、植物、動物などの細胞であってもよい。用いる細胞によっては、本発明の酵素は、翻訳後プロセシングを受けたものであり得る。
【0123】
本発明の方法において、発現ベクターを細胞に導入する技術は、当該分野で公知の任意の技術であり得る。このような技術の例としては、例えば、形質転換、形質導入、トランスフェクションなどが挙げられる。そのような核酸分子の導入技術は、当該分野において周知であり、かつ、繁用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook Jら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd
Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。
【0124】
(2.基質)
本発明では、主にα−1,4−グルコシド結合で連結された重合度4以上のα−グルカンが、基質として用いられる。
【0125】
本明細書中では「α−グルカン」とは、D−グルコースを構成単位とする、糖であって、α−1,4−グルコシド結合によって連結された糖単位を少なくとも2糖単位以上有する糖をいう。α−グルカンは、直鎖状、分岐状または環状の分子であり得る。直鎖状α−グルカンとα−1,4−グルカンとは同義語である。直鎖状α−グルカンでは、α−1,4−グルコシド結合によってのみ糖単位の間が連結されている。α−1,6−グルコシド結合を1つ以上含むα−グルカンは、分岐状α−グルカンである。α−グルカンは、好ましくは、直鎖状の部分をある程度含む。分岐のない直鎖状α−グルカンがより好ましい。
【0126】
本明細書中では「主にα−1,4−グルコシド結合で連結された」とは、糖単位間が主にα−1,4−グルコシド結合によって連結されていることをいう。「主に」とは、糖単位間の結合の50%以上を占めることをいう。α−1,4−グルコシド結合以外の糖単位間結合は、可能な任意の結合であり得るが、一般的にはα−1,6−グルコシド結合である。
【0127】
基質として用いるα−グルカンは、分岐の数(すなわち、α−1,6−グルコシド結合の数)が少ないことが好ましい。このような場合、分岐の数は、1分子あたり、代表的には約0〜約100個、好ましくは約0〜約50個、さらに好ましくは約0〜約25個、約0〜約10個、約0〜約5個、さらに好ましくは0個である。
【0128】
α−1,6−グルコシド結合は、α−グルカン中に無秩序に分布していてもよいし、均質に分布していてもよい。α−グルカン中に糖単位で5個以上の直鎖状部分ができる程度の分布であることが好ましい。
【0129】
本発明で基質として用いられるα−グルカンは重合度4(分子量666)以上である。基質であるα−グルカンは単一の分子量の純粋な物質であっても、様々な分子量の分子の混合物であってもよい。基質以外に、基質として作用しないグルコースを含む混合物を溶液に添加してもよい。工業的には、種々の分子量の分子の混合物を原料糖として用いることが多い。
【0130】
反応開始前の溶液中の糖のMnは、約180より大きく、好ましくは約181以上であり、より好ましくは約182以上であり、より好ましくは約183以上であり、より好ましくは約184以上であり、より好ましくは約185以上である。反応開始前の溶液中の
糖の数平均分子量は、例えば、約190以上、約195以上、約200以上、約250以上、約300以上、約350以上、約400以上、約450以上、約500以上、約550以上、約600以上、約650以上、約700以上、約750以上、約800以上、約850以上、約900以上、約950以上、約1000以上、約1,000以上、約1,500以上、約2,000以上、約2,500以上などであってもよい。グルコース(分子量180)または重合度3以下のα−グルカンはBEの基質とはなり得ないが、重合度4以上のα−グルカンは基質となり得る。少量の基質(例えば、重合度4)に多量のグルコースを添加すると、その混合物のMnは180に近づく。反応開始前の溶液中の糖のMnが180付近であっても、重合度4以上のα−グルカンが存在すれば反応は生じる。それゆえ、反応開始前の溶液中の糖のMnが180付近であっても、重合度4以上のα−グルカンを含めば、反応に使用することができる。
【0131】
本発明で基質として用いられるα−グルカンの分子量に上限はない。反応開始前の溶液中の糖のMnは、約150,000以下であり、好ましくは約120,000以下であり、より好ましくは約100,000以下であり、より好ましくは約80,000以下であり、さらにより好ましくは約50,000以下であり、さらにより好ましくは約20,000以下であり、さらにより好ましくは約8,000未満であり、最も好ましくは約4,000未満である。特に、反応開始前の溶液中の糖のMnが約1,500以上約4,000未満という低分子のα−グルカンを基質として用いると、Mwが100万以上で、水への溶解性が高く、プルラナーゼおよびα−アミラーゼに対して高い耐性を有する高分岐のα−グルカンを極めて得やすいという利点がある。
【0132】
本発明で基質として用いられるα−グルカンは、D−グルコースのみから構成されていてもよいし、BEによる反応速度が20%以下に低下しない程度に修飾された誘導体であってもよい。修飾されていないことが好ましい。
【0133】
本発明で基質として用いられるα−グルカンは、天然のアミロースであってもよいが、好ましくは、澱粉枝切り物、デキストリン枝切り物または酵素合成アミロースである。天然のアミロースは、若干の分岐構造を有する場合がある。澱粉枝切り物およびデキストリン枝切り物もまた、枝切り反応が不十分な場合、若干の分岐構造を有する場合がある。澱粉枝切り物は、当該分野で公知の澱粉をイソアミラーゼまたはプルラナーゼによって分解したものであり得る。澱粉枝切り物を得るために用いられる澱粉の例としては、例えば、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、くず澱粉などの地下澱粉;コーンスターチ(ワキシーコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチなど)、小麦澱粉、米澱粉(例えば、もち米澱粉、粳米澱粉)、サゴ澱粉、豆澱粉などの地上澱粉が挙げられる。澱粉枝切り物は安価でかつ容易に入手できるため、特に好ましい。ハイアミロースコーンスターチのα−1,6−グルコシド結合分解物を用いることも好ましい。
【0134】
(3.他の酵素)
(i.4−α−グルカノトランスフェラーゼ)
本発明の製造方法は、反応開始前の溶液中の糖のMnが180より大きく1,500未満の溶液中で、重合度2以上のα−グルカンに4−α−グルカノトランスフェラーゼを作用させることにより、前記基質を生産する工程をさらに包含し得る。
【0135】
本発明の製造方法ではまた、4−α−グルカノトランスフェラーゼをBEと共存させてもよい。
【0136】
本発明で用いられ得る4−α−グルカノトランスフェラーゼは、供与体分子の非還元末端からグルコシル基、あるいは、2個以上のグルコースからなるユニットを受容体分子の非還元末端に転移する酵素である。従って、酵素反応は、最初に与えられたマルトオリゴ
糖の重合度の不均一化をもたらす。供与体分子と受容体分子とが同一の場合は、分子内転移が生じ、その結果、環状構造をもつ生成物が得られる。4−α−グルカノトランスフェラーゼは、その一次構造から6つのタイプに分類されている(TypeI、II、III、IV、V、およびOthers)(Takaha,T.およびSmith,S.M.Biotechnol.Genet. Eng. Rev. 16巻 p257−280(199
9)。TypeIは、シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(以下、CGTa
seという)と呼ばれている(EC2.4.1.19)。TypeIIは、ディスプロポ
ーショネーティングエンザイム、D−酵素、アミロマルターゼ、不均化酵素などとも呼ばれる酵素である(EC 2.4.1.25)(以下、MalQと呼ぶ)。TypeIIIは、Glycogen Debranching Enzymeという、4−α−グルカノトランスフェラーゼ活性とアミロ1,6グルコシダーゼ活性を併せ持つ酵素である(EC 3.2.1.33+EC 2.4.1.25)。TypeIVおよびVには、超好熱性菌由来の4−α−グルカノトランスフェラーゼが分類されている。Othersには、一次構造情報は得られていないが、4−α−グルカノトランスフェラーゼ活性は報告されているいくつかの酵素が分類されている。4−α−グルカノトランスフェラーゼ活性は、Teradaら(Applied and Environmental Microbiology,65巻,910〜915頁(1999))に基づいて決定され得る。4−α−グルカノトランスフェラーゼの性質に従って、測定時の反応温度、反応pHなどを調整し得る。
【0137】
4−α−グルカノトランスフェラーゼは、微生物および植物に存在する。4−α−グルカノトランスフェラーゼを産生する微生物の例としては、Aquifex aeolicus、Streptococcus pneumoniae、Clostridium butylicum、Deinococcus radiodurans、Haemophilus influenzae、Mycobacterium tuberculosis、Thermococcus litralis、Thermotoga maritima、Thermotoga neapolitana、Chlamydia psittaci、Pyrococcus sp.、Dictyoglomus thermophilum、Borrelia burgdorferi、Synechosystis sp.、E.coli、Saccharomyces cerevisiae、Thermus aquaticus、Thermus thermophilusなどが挙げられる。4−α−グルカノトランスフェラーゼを産生する植物の例としては、馬鈴薯、サツマイモ、ヤマイモ、キャッサバなどの芋類、トウモロコシ、イネ、コムギ、などの穀類、えんどう豆、大豆、などの豆類などが挙げられる。4−α−グルカノトランスフェラーゼを産生する生物はこれらに限定されない。4−α−グルカノトランスフェラーゼは、市販のものであっても、当該分野で公知の方法によりこれらの生物から調製されてもよく、またはこれらの生物の枝切り酵素遺伝子を用いて遺伝子組換え法により調製されてもよい。当該分野で公知の任意の4−α−グルカノトランスフェラーゼが使用され得る。
【0138】
CGTase(EC2.4.1.19)も1種の4−α−グルカノトランスフェラーゼであり、本発明の製造方法に使用しうる。本発明で用いられ得るCGTaseは、マルトオリゴ糖の糖転移反応(不均一化反応)を触媒し得る酵素である。CGTaseは、供与体分子の非還元末端の6〜8個のグルコース鎖を認識してこの部分を環状化させるように転移反応を行い、重合度6〜8個のシクロデキストリンと非環状リミットデキストリンとを生成する酵素である。
【0139】
CGTaseとしては、周知の微生物由来のCGTase、あるいは市販のCGTaseが用いられ得る。好適には、市販のBacillus stearothrmophilus 由来のCGTase(株式会社林原生物化学研究所、岡山)、Bacillus
macerans由来のCGTase(商品名:コンチザイム、天野製薬株式会社、名
古屋)、あるいはAlkalophilic Bacillus sp. A2−5a由来のCGTaseが用いられ得る。より好適には、Alkalophilic Bacillus sp. A2−5a由来のCGTaseが用いられ得る。Alkalophilic Bacillus sp. A2−5aは、特開平7−107972号に開示されているアルカリ域で高い活性を有するCGTaseを産生する株であり、出願人によって、工業技術院生命工学工業技術研究所に受託番号(FERM P−13864)として寄託されている。CGTaseを産生する生物はこれらに限定されない。CGTaseは、市販のものであっても、当該分野で公知の方法によりこれらの生物から調製されてもよく、またはこれらの生物のCGTase遺伝子を用いて遺伝子組換え法により調製されてもよい。当該分野で公知の任意のCGTaseが使用され得る。本発明の製造方法では、CGTase以外の4−α−グルカノトランスフェラーゼを用いることが好ましい。CGTase以外の4−α−グルカノトランスフェラーゼをBEと共存させると、CGTaseをBEと共存させた場合よりも顕著にグリコーゲンの収率が向上する。
【0140】
4−α−グルカノトランスフェラーゼは、BEと同時に添加することが好ましい。しかし、生成するグリコーゲンの分子量および収率に影響しない限り、BE添加の前、または後に添加しても良い。4−α−グルカノトランスフェラーゼとBEとを共存させると、BEを単独で用いた場合と比較して、グリコーゲンの収率が顕著に向上する。
【0141】
(ii.Mnが180より大きく1,500未満のα−グルカン)
Mnが180より大きく1,500未満のα−グルカンが単独の物質である場合、例としては、重合度2〜9のマルトオリゴ糖が挙げられる。好ましくは、重合度3〜8のマルトオリゴ糖であり、より好ましくは重合度3〜7のマルトオリゴ糖であり、さらにより好ましくは重合度4〜6のマルトオリゴ糖であり、特に好ましくは重合度4〜5のマルトオリゴ糖であり、最も好ましくは重合度4のマルトオリゴ糖である。
【0142】
Mnが180より大きく1,500未満のα−グルカンが混合物である場合、例としては、重合度4〜12のマルトオリゴ糖を含む混合物が挙げられる。Mnが180より大きく1,500未満のα−グルカンは、重合度4〜12のマルトオリゴ糖に加えて、グルコースなどの低分子の糖を含み得る。Mnが180より大きく1,500未満のα−グルカンは、好ましくは、重合度4〜7のマルトオリゴ糖を含み、より好ましくは重合度4〜7のマルトオリゴ糖である。重合度4〜7のマルトオリゴ糖は、それぞれ、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、およびマルトヘプタオースとも呼ばれる。
【0143】
(iii.枝切り酵素)
本発明の製造方法は、Mn500以上の低分岐α−グルカンに枝切り酵素を作用させることにより、上記基質を生産する工程をさらに包含し得る。枝切り酵素とは、α−1,6−グルコシド結合を切断し得る酵素である。枝切り酵素は、アミロペクチンおよびグリコーゲンにともによく作用するイソアミラーゼ(EC 3.2.1.68)と、プルランによく作用するα−デキストリンエンド−1,6−α−グルコシダーゼ(プルラナーゼともいう)(EC 3.2.1.41)との2つに分類される。イソアミラーゼおよびプルラナーゼのいずれも本発明の方法において用いられ得る。枝切り酵素は、澱粉のような安価な材料から、主にα−1,4−グルコシド結合で連結された重合度4以上のα−グルカンを生成するために用いられ得る。枝切り酵素活性は、Yokobayashiら(Bio
chim.Biophys.Acta,vol.212,p458−469(1970))に
基づいて決定され得る。枝切り酵素の性質に従って、測定時の反応温度、反応pHなどを調整し得る。
【0144】
枝切り酵素は、微生物、原核生物、および植物に存在する。枝切り酵素を産生する微生
物の例としては、Saccharomyces cerevisiae、Chlamydomonas sp.が挙げられる。枝切り酵素を産生する原核生物の例としては、Bacillus brevis、Bacillus acidopullulyticus、Bacillus macerans、Bacillus stearothermophilus、Bacillus circulans、Thermus aquaticus、Klebsiella pneumoniae、Thermoactinomyces thalpophilus、Thermoanaerobacter ethanolicus、Pseudomonas amyloderamosa、Flavobacteriumodoratum、Falvobacterium sp.、Cytophaga sp.、Escherichia coli、Sulfolobus acidocaldarius、Sulfolobus tokodaii、Sulfolobus solfataricus、Metallosphaera hakonensisなどが挙げられる。枝切り酵素を産生する植物の例としては、馬鈴薯、サツマイモ、トウモロコシ、イネ、コムギ、オオムギ、オートムギ、サトウダイコンなどが挙げられる。枝切り酵素を産生する生物はこれらに限定されない。枝切り酵素は、市販のものであっても、当該分野で公知の方法によりこれらの生物から調製されてもよく、またはこれらの生物の枝切り酵素遺伝子を用いて遺伝子組換え法により調製されてもよい。当該分野で公知の任意の枝切り酵素が使用され得る。
【0145】
枝切り酵素は、BEを反応溶液中に添加する前に添加されることが好ましい。
【0146】
(iv.Mn500以上の低分岐α−グルカン)
Mn500以上の低分岐α−グルカンは、天然に存在するα−グルカンであり得る。本明細書中では、「低分岐」とは、分岐の頻度が低いことをいう。低分岐α−グルカンは、分岐を含まなくてもよい。低分岐α−グルカンでは、好ましくは、α−1,6−グルコシド結合の数を1としたときのα−1,4−グルコシド結合の数が、好ましくは約10〜約10000であり、より好ましくは約10〜約5000であり、さらに好ましくは約15〜約1000であり、さらに好ましくは約20〜約600である。Mn約500以上の低分岐α−グルカンの例としては、澱粉、アミロース、アミロペクチンおよびこれらの誘導体あるいは部分分解物が挙げられる。澱粉の例としては、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、くず澱粉などの地下澱粉;コーンスターチ(ワキシーコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチなど)、小麦澱粉、米澱粉(例えば、もち米澱粉、粳米澱粉)、サゴ澱粉、豆澱粉などの地上澱粉が挙げられる。アミロースの例としては、これらの澱粉から単離されたアミロースが挙げられる。アミロペクチンとしては、これらの澱粉から単離されたアミロペクチンが挙げられる。Mn500以上の低分岐α−グルカンは、当該分野で公知であり、容易に入手され得る。
【0147】
(4.グリコーゲンの製造方法)
本発明の製造方法では、例えば、グリコーゲン合成能力を有するBEと、基質(すなわち、主にα−1,4−グルコシド結合で連結された重合度4以上のα−グルカン)と、緩衝剤と、それを溶かしている溶媒とを主な材料として用いる。これらの材料は通常、反応開始時に全て添加されるが、反応の途中でこれらのうちの任意の材料を追加してもよい。上記のように、本発明の製造方法では、必要に応じて、Mnが180より大きく1,500未満のα−グルカンおよび4−α−グルカノトランスフェラーゼを用いることができる。本発明の製造方法ではまた、Mn500以上の低分岐α−グルカンおよび枝切り酵素を用いることができる。
【0148】
当業者は、本発明の製造方法で用いられる基質の量、酵素の量、反応時間などを適宜設定することによって所望の分子量のα−グルカンが得られることを容易に理解する。
【0149】
反応開始時の溶液中に含まれるBEの量は、反応開始時の溶液中のα−グルカンに対して、代表的には約100U/g基質以上であり、好ましくは約500U/g基質以上であり、より好ましくは約1,000U/g基質以上である。反応開始時の溶液中に含まれるBEの量は、反応開始時の溶液中のα−グルカンに対して、代表的には約500,000U/g基質以下であり、好ましくは約100,000U/g基質以下であり、さらに好ましくは約80,000U/g基質以下である。BEの使用量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、グリコーゲンの収率が低下する場合がある。
【0150】
BEの使用量は、BEを基質(すなわち、α−グルカン)に作用させる時間と関係がある。使用量が少なくとも反応時間を長くすれば反応は進み、使用量が多ければ反応時間が短くとも反応が進むからである。よって酵素量と反応時間との積が、反応物の生成に対して大きな影響を有する。本発明の方法においては、好ましくは、BEの使用量と反応時間との積が約150,000U・時間/g基質以上になるように、BEの使用量と反応時間とを調整する。本明細書中では、「U・時間/g基質」とは、基質1gあたりの酵素使用量(U/g基質)と反応時間(時間)との積を示す。BEの使用量と反応時間との積は、より好ましくは約160,000U・時間/g基質以上であり、より好ましくは約170,000U・時間/g基質以上であり、より好ましくは約180,000U・時間/g基質以上であり、より好ましくは約200,000U・時間/g基質以上であり、さらにより好ましくは約250,000U・時間/g基質以上であり、なおより好ましくは約300,000U・時間/g基質以上であり、なおより好ましくは約350,000U・時間/g基質以上である。約400,000U・時間/g基質以上、約500,000U・時間/g基質以上、約600,000U・時間/g基質以上、約700,000U・時間/g基質以上、約800,000U・時間/g基質以上のような量・時間で作用させても好適な結果が得られ得る。基質に対してBEを多量に、あるいは長時間作用させることにより、グリコーゲンが生成される。作用させるBEの量と時間との積に特に上限はないが、あまりにも多量のBEをあまりにも長時間作用させると製造コストが高価になりすぎる場合がある。作用させるBEの量と時間との積は例えば、約10,000,000U・時間/g基質以下、約8,000,000U・時間/g基質以下、約50,000,000U・時間/g基質以下、約10,000,000U・時間/g基質以下、約8,000,000U・時間/g基質以下、約5,000,000U・時間/g基質以下、約1,000,000U・時間/g基質以下などであり得る。
【0151】
反応開始前の溶液中の糖のMnに応じて、酵素量と反応時間との積の好適な範囲は異なる。一般に、反応開始前の溶液中の糖のMnが小さければ、酵素量と反応時間との積がどのような範囲であっても高分子量の生成物が得られ、得られる生成物の溶解性も高い。反応開始前の溶液中の糖のMnが大きくなるほど、溶解性の高い高分子量の生成物を得るために必要な、酵素量と反応時間との積が大きくなる。
【0152】
反応開始前の溶液中の糖のMnが約4,000未満である場合、本発明の方法においては、BEの使用量と反応時間との積は特に限定されない。例えば、この積が約25,000U・時間/g基質以上であれば、高分子量の生成物が得られる。この積は、好ましくは約35,000U・時間/g基質以上であり、さらに好ましくは約100,000U・時間/g基質以上であり、最も好ましくは約150,000U・時間/g基質以上である。
【0153】
反応開始前の溶液中の糖のMnが約4,000以上約8,000未満である場合、BEの使用量と反応時間との積は、好ましくは約25,000U・時間/g基質以上であり、さらに好ましくは約50,000U・時間/g基質以上であり、最も好ましくは約100,000U・時間/g基質以上である。
【0154】
反応開始前の溶液中の糖のMnが約8,000以上約100,000未満である場合、BEの使用量と反応時間との積は、好ましくは約40,000U・時間/g基質以上であり、さらに好ましくは約100,000U・時間/g基質以上であり、最も好ましくは約150,000U・時間/g基質以上である。
【0155】
反応開始前の溶液中の糖のMnが約100,000以上約150,000未満である場合、BEの使用量と反応時間との積は、好ましくは約150,000U・時間/g基質以上であり、さらに好ましくは約200,000U・時間/g基質以上であり、最も好ましくは約300,000U・時間/g基質以上である。
【0156】
本発明の製造方法に用いる溶媒は、BEの酵素活性を損なわない溶媒であれば任意の溶媒であり得る。
【0157】
なお、グリコーゲンを生成する反応が進行し得る限り、溶媒が本発明の製造方法に用いる材料を完全に溶解する必要はない。例えば、酵素が固体の担体上に担持されている場合には、酵素が溶媒中に溶解する必要はない。さらに、α−グルカンなどの反応材料も全てが溶解している必要はなく、反応が進行し得る程度の材料の一部が溶解していればよい。
【0158】
代表的な溶媒は、水である。溶媒は、上記BEを調製する際にBEに付随して得られる細胞破砕液のうちの水分であってもよい。
【0159】
グリコーゲン合成能力を有するBEと、基質(すなわち、主にα−1,4−グルコシド結合で連結されたMnが180より大きく150,000以下のα−グルカン)とを含む溶液中には、BEとこのα−グルカンとの間の相互作用を妨害しない限り、任意の他の物質を含み得る。このような物質の例としては、緩衝剤、BEを産生する微生物(例えば、細菌、真菌など)の成分、塩類、培地成分などが挙げられる。
【0160】
これらの材料の使用量は、公知であり、当業者によって適切に設定され得る。
【0161】
本発明の製造方法においては、まず、反応溶液を調製する。反応溶液は、例えば、適切な溶媒に、グリコーゲン合成能力を有するBEと、基質(すなわち、主にα−1,4−グルコシド結合で連結されたMnが180より大きく150,000以下のα−グルカン)とを添加することにより調製され得る。あるいは、反応溶液は、グリコーゲン合成能力を有するBEを含む溶液と、基質(すなわち、主にα−1,4−グルコシド結合で連結されたMnが180より大きく150,000以下のα−グルカン)を含む溶液とを混合することによって調製してもよい。この反応溶液には、酵素反応を阻害しない限り、必要に応じて、pHを調整する目的で任意の緩衝剤を加えてもよい。反応溶液のpHは、使用するBEが活性を発揮し得るpHであれば任意に設定され得る。反応溶液のpHは、使用するBEの至適pH付近であることが好ましい。反応溶液のpHは、代表的には約2以上であり、好ましくは約3以上であり、さらに好ましくは約4以上であり、特に好ましくは約5以上であり、特に好ましくは約6以上であり、最も好ましくは約7以上である。反応溶液のpHは、代表的には約13以下であり、好ましくは約12以下であり、さらに好ましくは約11以下であり、特に好ましくは約10以下であり、特に好ましくは約9以下であり、最も好ましくは約8以下である。1つの実施形態では、反応溶液のpHは、代表的には、使用するBEの至適pHの±3以内であり、好ましくは至適pHの±2以内であり、さらに好ましくは至適pHの±1以内であり、最も好ましくは至適pHの±0.5以内である。
【0162】
この反応溶液には、必要に応じて、4−α−グルカノトランスフェラーゼまたは枝切り酵素を添加してもよい。
【0163】
反応開始時の溶液中に含まれる4−α−グルカノトランスフェラーゼの量は、反応開始時の溶液中のα−グルカンに対して、代表的には約0.1U/g基質以上であり、好ましくは約0.5U/g基質以上であり、より好ましくは約1U/g基質以上である。反応開始時の溶液中に含まれる4−α−グルカノトランスフェラーゼの量は、特に上限はないが、反応開始時の溶液中のα−グルカンに対して、代表的には約50,000U/g基質以下であり、好ましくは約10,000U/g基質以下であり、さらに好ましくは約8,000U/g基質以下である。4−α−グルカノトランスフェラーゼの使用量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、グリコーゲンの収率が低下する場合がある。
【0164】
反応開始時の溶液中に含まれる枝切り酵素の量は、反応開始時の溶液中のα−グルカンに対して、代表的には約10U/g基質以上であり、好ましくは約50U/g基質以上であり、より好ましくは約100U/g基質以上である。反応開始時の溶液中に含まれる枝切り酵素の量は、特に上限はないが、反応開始時の溶液中のα−グルカンに対して、代表的には約500,000U/g基質以下であり、好ましくは約100,000U/g基質以下であり、さらに好ましくは約80,000U/g基質以下である。枝切り酵素の使用量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、グリコーゲンの収率が低下する場合がある。
【0165】
次いで、反応溶液を、当該分野で公知の方法によって必要に応じて加熱することにより、反応させる。反応温度は、本発明の効果が得られる限り、任意の温度であり得る。反応開始時の反応溶液中のBE活性が、反応至適条件で測定した活性の約5〜約100%である場合には、反応温度は代表的には、約20℃以上であり得、約100℃以下であり得る。この反応工程における溶液の温度は、所定の反応時間後に反応前のこの溶液に含まれるBEの活性の約50%以上、より好ましくは約80%以上の活性が残る温度であることが好ましい。反応温度は、好ましくは約30℃以上であり、さらに好ましくは約40℃以上であり、さらにより好ましくは約50℃以上であり、さらにより好ましくは約55℃以上であり、特に好ましくは約60℃以上であり、最も好ましくは65℃以上である。反応温度は、約90℃以下好ましくは約85℃以下であり、さらにより好ましくは約80℃以下であり、より好ましくは約75℃以下であり、特に好ましくは約70℃以下であり、最も好ましくは65℃以下である。
【0166】
反応時間は、反応温度、反応により生産されるα−グルカンの分子量および酵素の残存活性を考慮して、任意の時間で設定され得る。反応時間は、代表的には約1時間以上であり、より好ましくは約2時間以上であり、さらにより好ましくは約4時間以上であり、最も好ましくは約6時間以上である。反応時間に特に上限はないが、好ましくは約100時間以下、より好ましくは約72時間以下、さらにより好ましくは約36時間以下、最も好ましくは約24時間以下である。
【0167】
本発明の製造方法では、α-グルカンホスホリラーゼまたはグリコーゲン合成酵素のい
ずれも使用しないことが好ましい。
【0168】
このようにして、グリコーゲンを含有する溶液が生産される。本発明の方法によって製造されるグリコーゲンのMwは、好ましくは、約100万(Da)以上であり、より好ましくは約200万(Da)以上であり、さらにより好ましくは約500万(Da)以上であり、最も好ましくは約1000万(Da)以上である。本発明の製造方法によって製造されるグリコーゲンのMwに特に上限はないが、例えば、約5000万(Da)まで、約1億(Da)まで、約10億(Da)までのグリコーゲンが良好な生産性で合成され得る。得られたグリコーゲンのMwは、当該分野で公知の方法によって確認され得る。グリコ
ーゲンのMwは、例えば、以下の方法で測定され得る。
【0169】
まず、合成したα−グルカンを1N水酸化ナトリウムで完全に溶解し、適当量の塩酸で中和した後、α−グルカン約1μg〜約300μg分を、示差屈折計と多角度光散乱検出器とを併用したゲル濾過クロマトグラフィーに供することにより平均分子量を求める。
【0170】
詳しくは、カラムとしてShodex OH−Pack SB806MHQ(内径8mm、長さ300mm、昭和電工製)を用い、ガードカラムとしてShodex OH−Pack SB−G(内径6mm、長さ50mm、昭和電工製)を用い、検出器としては多角度光散乱検出器(DAWN−DSP、Wyatt Technology社製)および示差屈折計(Shodex RI−71、昭和電工製)をこの順序で連結して用いる。カラムを40℃に保ち、溶離液としては0.1M硝酸ナトリウム溶液を流速1mL/分で用いる。分子量が約1万以上のα−グルカンは、Shodex製のプルランP−50(GFC(水系GPC)用標準試料STANDARD P−82に含まれている)のピーク頂点が、9.3分になるように配管を調整した上記HPLCシステムにおいて、11分より前に溶出される。具体的には、シグナルの出始めの位置から11分までに溶出される示差屈折計と多角度光散乱検出器の両シグナルを含むように、ピークとしてとり、それらのシグナルを、データ解析ソフトウェア(商品名ASTRA、Wyatt Technology社製)を用いて収集し、同ソフトを用いて解析することにより、Mwを求める。本方法を以下、MALLS法という。この分析法においては、上記シグナルよりも後のシグナルを収集しないので、分子量が約1万以下のグルカンを除外している。このように、本発明においてMALLS法に従って決定されるMwは、反応液中のグルカン全体のMwではなく、分子量約1万以上の高分子量グルカンのMwである。さらに、HPLCカラムと検出器との間の配管の長さ、太さなどを変更した場合、分子量約1万以上のグルカンの溶出時間は変化し得る。このような場合、当業者は、上記プルランP−50を用いることにより、本発明の方法に従ってMALLS法によりMwを決定するための適切な溶出時間を適切に設定し得る。
【0171】
本発明の方法によって製造されたグリコーゲンは、天然のグリコーゲンと同様に、プルラナーゼおよびα−アミラーゼによって分解されにくいという性質を有する。従って、本発明の方法によって製造されたグリコーゲンは、天然のグリコーゲンと同様に利用され得る。
【0172】
本発明の方法によって製造されたグリコーゲンは、溶解性が高いという性質を有する。溶解度は、当該分野で公知の方法により決定され得る。例えば、所定量のα−グルカンを水に添加し、所定時間攪拌し、フィルターによって濾過して濾液を得て、この濾液中に溶解しているα−グルカンの量を決定し、添加したα−グルカンの量と溶解しているα−グルカンの量との比を算出することにより決定され得る。すなわち、溶解度(%)={(ろ液中のα−グルカン量)÷(ろ過前の溶液中のα−グルカン量)}×100である。製造されたα−グルカンを乾燥し、2mg/mLとなるように20℃の蒸留水に添加し、室温で30秒間攪拌し、0.45μmのフィルターによって濾過した場合の溶解度は、好ましくは、約20%以上であり、より好ましくは約30%以上であり、より好ましくは約40%以上であり、さらに好ましくは約50%以上である。
【0173】
(グリコーゲンの用途)
本発明の方法によって製造されたグリコーゲンは、従来のグリコーゲンと同様に、免疫賦活剤、健康食品素材、化粧品素材、食品素材(調味料)、その他産業用素材としての用途に利用され得る。
【実施例】
【0174】
以下の実施例においては、製造例1、2、4、5、7および8で製造した各種BEを、BEとして用いた。Pseudomonas amyloderamosa由来のイソアミラーゼ(林原生物化学研究所製)を枝切り酵素として用いた。枝切り酵素活性を、Yokobayashiら(Biochim.Biophys.Acta,vol.212,p4
58−469(1970))に基づいて決定した。Thermus aquaticus
由来のMalQ(TaqMalQ)を4−α−グルカノトランスフェラーゼとして用いた。4−α−グルカノトランスフェラーゼの酵素活性を、Teradaら(Applied
and Environmental Microbiology,65巻,910〜915頁(1999))に基づいて決定した。
【0175】
(製造例1:Aquifex aeolicus VF5由来のBEの組換え生産)
(A)Aquifex aeolicus VF5 BE遺伝子の作製
配列番号2のアミノ酸配列をコードする遺伝子(配列番号1)の化学的合成を行った。遺伝子の翻訳開始コドン上流にはSD配列を付与し、さらにその上流にBamHIサイトを設けた。また、翻訳停止コドン下流にはEcoRIサイトを設けた。この合成遺伝子をBamHIとEcoRIで切断して遺伝子断片を作製し、T4−DNAリガーゼを用いて、BamHIおよびEcoRIで切断したプラスミドpUC19(宝酒造株式会社製)に連結することにより、プラスミドpAQBE1を得た。
【0176】
(B)Aquifex aeolicus BE遺伝子の大腸菌における発現
このプラスミドで、大腸菌TG−1を形質転換し、形質転換体をアンピシリン含有LB寒天培地(100μg/mlアンピシリン、Difco製トリプトン1%、Difco製酵母エキス0.5%、NaCl 0.5%、寒天 1.5%、pH 7.3)に独立したコロニーが得られるように希釈して塗布し、37℃で一晩培養した。このアンピシリン含有LB寒天培地で増殖した大腸菌は、導入したプラスミドを保有する。このようにして、BEを発現する大腸菌が作製できた。
【0177】
組換えプラスミドpAQBE1で形質転換された大腸菌TG−1株を、終濃度100μg/mlのアンピシリンを含む0.2リットルのL培地(1% トリプトン(Difco)、0.5% イーストエキストラクト(Difco)、1% NaCl、pH7.5)中で対数増殖期中期まで(約3時間)、37℃で培養した後、終濃度0.1mMのIPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)を加えた。さらに37℃で21時間培養を継続した後、遠心分離を行い集菌した。得られた菌体を50mlの緩衝液A(10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5))で洗浄し、次いで20mlの緩衝液Aに分散させた後、超音波により菌体を破砕した。この菌体破砕液を70℃で30分加熱することにより、大腸菌由来のタンパク質を変性させ、これをBE酵素液とした。このBE酵素液およびpAQBE1を持たない大腸菌を同様に処理して得た液をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけてそれらのパターンを比較した。その結果、形質転換された大腸菌TG−1株がBE遺伝子を発現しており、本遺伝子にコードされているタンパク質が生産されていることが確認された。
【0178】
(製造例2:Bacillus stearothermophilus TRBE 14由来のBEの組換え生産)
非特許文献12に示されたプラスミドpUBE821を保持する大腸菌TG−1株より、同文献に示された方法によりBacillus stearothermophilus TRBE 14由来のBEを組換え生産した。
【0179】
(製造例3:Thermus aquaticus由来のMalQ(以下、TaqMalQという)の組換え生産)
Teradaら(Applied and Environmental Micro
biology,65巻,910〜915頁(1999))に示されたプラスミドpFGQ8を保持する大腸菌MC1061株より、同文献に示された方法によりTaqMalQを組換え生産した。
【0180】
(製造例4:大腸菌由来BEの組換え生産およびグリコーゲン合成能力のテスト)
(手順)
以下のプライマーを用いて、大腸菌W3110株染色体DNAを鋳型として大腸菌BE遺伝子を増幅した。このプライマーは、以下の文献を参考にして、大腸菌BE構造遺伝子全長が増幅されるようにデザインした:Hilden,I.ら(2000)Eur J Biochem 267,2150−2155。設計したプライマー配列を以下の表1Aに示す。
【0181】
【表1A】
タカラバイオ(株)製のDNAポリメラーゼPyroBestを用いて、そのプロトコールに従ってPCRを行った。増幅された断片をpGEM−T Easy(プロメガ製)のTAクローニングサイトに挿入し、得られたプラスミドをpEBE1と命名した。pEBE1を制限酵素NcoIおよびHindIIIで処理して断片を得た。得られた断片を、同じ制限酵素(NcoIおよびHindIII)で処理したpTrc99Aと連結し、この連結物を含む溶液で大腸菌TG−1株を形質転換した。形質転換された大腸菌TG−1株からプラスミドを単離し、得られたプラスミドをpEBE2−1と命名した。
【0182】
pEBE2−1を含む大腸菌TG−1株をアンピシリン50μg/mLを含む培地で37℃で振盪培養し、対数期後期に、終濃度0.1mMのIPTGを添加し、さらに37℃で一晩培養した。
【0183】
菌体を遠心分離で集め、10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)に懸濁し、超音波処理によって破砕した。遠心分離によって上清を集めて粗酵素液とした。
【0184】
Q−Sephalose Fast Flow(Amersham−Pharmacia)を充填したカラムを調製し、樹脂を20mM Tris−HCl(pH7)で平衡化した。このカラムに粗酵素液を流すことによって、この樹脂に粗酵素液を吸着させ、0.1MのNaClを含む同緩衝液(すなわち、0.1MのNaClを含む20mM Tris−HCl(pH7))を流して洗浄した。BE活性は、0.2MのNaClを含む同緩衝液(すなわち、0.2MのNaClを含む20mM Tris−HCl(pH7))で溶出された。
【0185】
そのBE活性を有する溶出液に、終濃度0.3Mになるように硫酸アンモニウムを添加し、以下のように疎水性クロマトグラフィーにかけて、BE酵素を精製した。まず、Phenyl−Toyopearl 650M(東ソー)を充填したカラムを調製し、0.3M硫酸アンモニウムを含む20mM Tris−HCl(pH7)で平衡化した。この樹脂に酵素を吸着させ、20mM Tris−HCl(pH7)で洗浄した。酵素は、蒸留水をカラムに流すことによって回収した。このようにして、精製BEが得られた。
【0186】
(グリコーゲン合成能力のテスト)
アミロースA(ナカライテスク(株)製、Mn2900)またはアミロースAS10(
(株)アジノキ製、Mw10,000、数平均としては9100)を1N NaOHに溶かし、HClで中和した。その後、すぐに水、酵素液、緩衝液を以下の反応液組成となるように添加して、30℃で24時間反応させた。反応液組成:大腸菌由来BE40,000U/g基質、基質濃度0.5重量%、リン酸カリウム濃度 20mM、pH 7.5。反応液中に合成されたグルカンの平均分子量および収率を、MALLS法により調べた。結果を以下の表1Bに示す。
【0187】
【表1B】
この結果、大腸菌由来のBEがMw1000kDa以上のグリコーゲンを合成する能力を有することがわかった。
【0188】
(製造例5:Rhodothermus obamensis由来のBEの組換え生産)
Rhodothermus obamensis JCM9785は、独立行政法人 理化学研究所 バイオリソースセンターより分譲を受けた。この株をMarine Broth 2216(Difco製)を用いて70℃で液体培養し、得られた菌体から染色体DNAを抽出した。
【0189】
以下のプライマーを用いて、上述の染色体DNAを鋳型としてRhodothermus obamensis BE遺伝子を増幅した。このプライマーは、非特許文献11で公開されている塩基配列情報を参考にして、Rhodothermus obamensis BE構造遺伝子全長が増幅されるようにデザインした。設計したプライマー配列を以下の表1Cに示す。
【0190】
【表1C】
東洋紡製のDNAポリメラーゼKOD−Plusを用いて、以下の組成の反応液で、以下の条件でPCRを行った。
【0191】
染色体DNA(約0.5μg/μL) 2μL
プライマー1(10pmol/μL) 3μL
プライマー2(10pmol/μL) 3μL
×10 KOD−Plus Buffer 10μL
2mM dNTP 10μL
25mM MgSO4 4μL
KOD−Plus 2μL
蒸留水(DW) 70μL
条件:94℃で2分間の加熱後、94℃で0.25分間、55℃で0.5分間、68℃で2.5分間のサイクルを30回。
【0192】
得られたDNA断片を制限酵素EcoRIおよびPstIで処理し、同制限酵素(EcoRIおよびとPstI)で処理したpTrc99Aと連結し、この連結物を含む溶液で大腸菌TG−1株を形質転換した。形質転換された大腸菌TG−1株からプラスミドを単
離し、得られたプラスミドをpRBE1と命名した。
【0193】
pRBE1を含む大腸菌TG−1株をアンピシリン50μg/mLを含む培地で37℃で振盪培養し、対数期後期に、終濃度0.1mMのIPTGを添加し、さらに37℃で一晩培養した。
【0194】
菌体を遠心分離で集め、20mM Tris−HCl緩衝液(pH7)に懸濁し、超音波処理によって破砕した。遠心分離によって上清を集め、さらに70℃30分熱処理し、遠心分離して上清を回収して粗酵素液とした。
【0195】
Q−Sephalose Fast Flow(Amersham−Pharmacia)を充填したカラムを調製し、樹脂を20mM Tris−HCl(pH7)で平衡化した。このカラムに粗酵素液を流すことによって、この樹脂に粗酵素液を吸着させ、0.1MのNaClを含む同緩衝液を流して洗浄した。BE活性は、0.5MのNaClを含む同緩衝液で溶出された。本溶出液を、20mM Tris−HCl(pH7)に対して透析することにより精製BEが得られた。以下の実施例8に示されるように、得られた精製BEは、Mw1000kDa以上のグリコーゲンを合成する能力を有する。
【0196】
(製造例6:トラマメ由来のBEの組換え生産および高分子量グルカン合成能力のテスト)
トラマメ(Kidney bean;Phaseolus vulugaris L.)由来BEとしては、下記文献に記載されているKBE2を用いた:Nozaki,K.ら(2001)Biosci. Biotechnol. Biochem. 65,1141−1148。
【0197】
(グリコーゲン合成能テスト)
アミロースA(ナカライテスク(株)製、Mn2900)またはアミロースAS10((株)アジノキ製、Mw10,000、数平均としては9100)を1N NaOHに溶かし、HClで中和した。その後、すぐに水、酵素液、緩衝液を以下の反応液組成となるように添加して、30℃で24時間反応させた。反応液組成:KBE2量40,000U/g基質、基質濃度0.5重量%、リン酸カリウム濃度20mM、pH 7.5。反応液
中に合成されたグルカンの平均分子量および収率を、MALLS法により調べた。結果を以下の表1Dに示す。
【0198】
【表1D】
この結果、KBE2を用いた場合には、1000kDa以上のグリコーゲンを合成できないことがわかった。
【0199】
(製造例7:Bacillus caldovelox由来BEの組換え生産)
Aquifex aeolicus由来のBEをコードする遺伝子の代わりにBacillus caldovelox由来のBEをコードする遺伝子(配列番号9)を用いたこと、および加熱処理温度を60℃としたこと以外は製造例1と同様の方法でBacillus caldovelox由来のBEを組換え生産した。
【0200】
(製造例8:Bacillus caldolyticus由来のBEの組換え生産)
Aquifex aeolicus由来のBEをコードする遺伝子の代わりにBaci
llus caldolyticus由来のBEをコードする遺伝子(配列番号13)を用いたこと、および加熱処理温度を60℃としたこと以外は製造例1と同様の方法でBacillus caldolyticus由来のBEを組換え生産した。
【0201】
(測定例1:Aquifex aeolicus VF5由来BEのアミロペクチン低分子化活性の測定)
まず、50mgのワキシーコーンスターチ(WCS;三和澱粉製)に100μl 蒸留水を添加し、充分に攪拌した。次いで、900μl ジメチルスルホキシド(DMSO)を添加して、攪拌し、沸騰湯浴中で、20分間加熱した。8.9ml 蒸留水を添加してよく撹拌し、沸騰湯浴中で、さらに10分間加熱した。この溶液に、100μlの1M リン酸緩衝液(pH7.5)を添加して攪拌し、基質液とした。
【0202】
基質液を800μL/チューブで分注した。すなわち、各チューブは、4mgのWCSを含んでいた。次いで、製造例1と同様の方法によって生産した、Aquifex aeolicus VF5由来のBE溶液(BE活性2.4U/mL)をチューブ1本あたり66.7、83.3、100、116.7、133.3、または150μLと、それぞれ、133.3、116.7、100、83.3、66.7、または50μLの希釈液を添加して反応液の体積を1000μLにし、70℃で16時間反応させた。希釈液は0.05% Triton X−100を含む10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)であった。反応時間が16時間になった時点で1N HClを添加して反応液のpHを3〜4に下げ、さらに100℃で10分加熱することにより、反応を停止させた。
【0203】
反応停止後、反応液を0.45μmのフィルターによりろ過し、含まれる生産物のMwをMALLS法によって測定した。MALLS法の詳細は、以下の「製造されたグルカンの重量平均分子量(Mw)の測定法」に記載した。
【0204】
算出されたMw(kDa)を縦軸(y軸)に対数でとり、用いた酵素量(μL)を横軸(x軸)にとり、マイクロソフト社のソフトMS−Excelを使用して累乗近似曲線を作成した。このグラフを図12に示す。近似曲線の方程式は、y=24,090x−1.340(R2=0.9896)であらわされた。この方程式から、4mgのWCSを基質としたときに基質Mwを400kDaに低下させるのに必要な酵素量V1(μL)は、119μLと算出された。この酵素量を基質1gあたりに換算することにより、1単位の低分子化活性に必要な酵素量V2(mL)(=(119μL/1000)×(1000mg/4mg)=29.75(mL))が算出される。酵素液の低分子化活性E1は、単位低分子化活性量の逆数(E1=1/V2=1/29.75=0.0336)(U/mL)である。。したがって、BE活性/低分子化活性=(2.4(U/mL)/0.0336(U/mL))=71であった。
【0205】
(測定例2:Bacillus stearothermophilus由来BEのアミロペクチン低分子化活性の測定)
Aquifex aeolicus VF5由来BEの代わりに、製造例2で生産したBacillus stearothermophilus由来BEを用い、反応温度を50℃としたこと以外は測定例1と同様にして、BE活性/低分子化活性を決定した。この結果、BE活性/低分子化活性は、270であった。
【0206】
(測定例3:Rhodothermus obamensis由来BEのアミロペクチン低分子化活性の測定)
Aquifex aeolicus VF5由来BEの代わりに、製造例5で生産したRhodothermus obamensis由来BEを用い、反応温度を65℃としたこと以外は測定例1と同様にして、BE活性/低分子化活性を決定した。この結果、B
E活性/低分子化活性は、35であった。
【0207】
(測定例4:大腸菌由来BEのアミロペクチン低分子化活性の測定)
Aquifex aeolicus VF5由来BEの代わりに、製造例4で生産した大腸菌由来BEを用い、反応温度を30℃としたこと以外は測定例1と同様にして、BE活性/低分子化活性を決定した。この結果、BE活性/低分子化活性は、273であった。
【0208】
(測定例5:Bacillus cereus由来BEのアミロペクチン低分子化活性の測定)
Aquifex aeolicus VF5由来BEの代わりに、非特許文献9に記載の方法に従って製造したBacillus cereus由来BEを用い、反応温度を30℃としたこと以外は測定例1と同様にして、BE活性/低分子化活性を決定した。この結果、BE活性/低分子化活性は、1086であった。
【0209】
(測定例6:トラマメ由来BEのアミロペクチン低分子化活性の測定)
Aquifex aeolicus VF5由来BEの代わりに、製造例6にトラマメ由来BEを用い、反応温度を30℃としたこと以外は測定例1と同様にして、BE活性/低分子化活性を決定した。この結果、BE活性/低分子化活性は、130069であった。
【0210】
(測定例7:Bacillus caldovelox由来BEのアミロペクチン低分子化活性の測定)
Aquifex aeolicus VF5由来BEの代わりに、製造例7で生産したBacillus caldovelox由来BEを用い、反応温度を50℃としたこと以外は測定例1と同様にして、BE活性/低分子化活性を決定した。この結果、BE活性/低分子化活性は、466であった。
【0211】
(測定例8:Bacillus caldolyticus由来BEのアミロペクチン低分子化活性の測定)
Aquifex aeolicus VF5由来BEの代わりに、製造例8で生産したBacillus caldolyticus由来BEを用い、反応温度を50℃としたこと以外は測定例1と同様にして、BE活性/低分子化活性を決定した。この結果、BE活性/低分子化活性は、402であった。
【0212】
これらの測定例によって測定されたBE活性/低分子化活性、およびグリコーゲン合成能を以下の表1Eにまとめる。
【0213】
【表1E】
(製造されたグルカンの重量平均分子量(Mw)および収率の測定法)
製造されたグルカンのMwをMALLS法によって以下の通りに測定した。カラムとし
てShodex OH−Pack SB806MHQ(内径8mm、長さ300mm、昭和電工製)を用い、ガードカラムとしてShodex OH−Pack SB−G(内径6mm、長さ50mm、昭和電工製)を用い、検出器としては多角度光散乱検出器(DAWN−DSP、Wyatt Technology社製)および示差屈折計(Shodex RI−71、昭和電工製)をこの順序で連結して用いた。カラムを40℃に保ち、溶離液としては0.1M硝酸ナトリウム溶液を流速1mL/分で用いた。分子量が約1万以上のα−グルカンは、Shodex製のプルランP−50(GFC(水系GPC)用標準試料STANDARD P−82に含まれている)のピーク頂点が、9.3分になるように配管を調整した上記HPLCシステムにおいて、11分より前に溶出された。具体的には、シグナルの出始めの位置から11分までに溶出される示差屈折計と多角度光散乱検出器の両シグナルを含むように、ピークとしてとり、それらのシグナルを、データ解析ソフトウェア(商品名ASTRA、Wyatt Technology社製)を用いて収集し、同ソフトを用いて解析することにより、Mwを求めた。このような条件下では、分子量約1万以下のグルカンを除外している。グルカンのdn/dc(固有屈折率増分)として、0.145mL/gを用いた。
【0214】
示差屈折計のピーク面積を測定し、このピーク面積をdn/dc値で除算することにより、溶出した高分子グルカンの量(g)を計算する。溶出した高分子グルカンの量を、合成に用いた基質量(計算式においては、基質濃度とHPLCにロードした容積の積)で割り、100倍して百分率にすることにより収率を算出する。すなわち、収率は、以下の式で求められる:
収率(%)={(溶出した高分子グルカンの量(g))÷(基質濃度(g/mL)×HPLCにロードした容積)(mL)}×100
分子量100万以上の高分子グルカンの量を用いることにより、グリコーゲンの収率を求めることができる。
【0215】
(実施例1:低分子量アミロースからのグリコーゲンの製造)
(1−1:アミロースAからの製造)
アミロースA(ナカライテスク(株)製、Mn2900)を1N NaOHに溶かし、HClで中和した。その後、すぐに水、酵素液、緩衝液を以下の反応液組成となるように添加して、70℃で17時間反応させた。反応液組成:Aquifex aeolicus由来BE量 10000、20000または40000U/g基質、基質濃度 2重量%、リン酸カリウム濃度 20mM、pH7.5。
【0216】
低分子量α−グルカンからグリコーゲンの生成の模式図を図2に示す。反応後、製造されたα−グルカンの分子量を測定した。結果を、表1および図3に示す。表1において、グルカン収率は、分子量1万以上のグルカン全体の収率を示し、グリコーゲン収率は、分子量100万以上のグルカン(すなわち、グリコーゲン)の収率を示す。この結果、10,000〜40,000U/g基質のBEを用いると、Mn2900のアミロースAから、Mw100万以上のグリコーゲンが製造されることおよび生成されるグルカンのほとんどがグリコーゲンであることが確認された。
【0217】
(1−2:種々の分子量の基質からのグリコーゲンの製造)
基質として、アミロースAS−5、AS−10、AS−30、AS−70、またはAS−110(いずれも、(株)アジノキ製;それぞれ、Mw5000、10000、30000、70000、110000)を用いた。Mw/Mnはおよそ1.1であるので、Mnはそれぞれ4,500、9,100、27,000、64,000、100,000である。
【0218】
それぞれのアミロースを1N NaOHに溶かし、HClで中和した。その後、すぐに
水、酵素液、緩衝液を以下の反応液組成となるように添加して、70℃で16時間反応させた。反応液組成:Aquifex aeolicus由来BE量 10000U/g基質、基質濃度 2重量%、リン酸カリウム濃度 40mM、pH7.5。
【0219】
反応後、製造されたα−グルカンの分子量を測定した。結果を、以下の表1および図4に示す。表1においては、Aquifex aeolicus由来のBEをAqと示す。
【0220】
この結果、Mnが10万のアミロースからでもグリコーゲンが生成することがわかった。さらに、反応開始前の溶液中の糖のMnが9100よりも大きいと、生成物の分子量が2つのピークに分かれた。ピークが分かれた場合は、高分子量のピークのみを測定した。反応開始前の溶液中の糖のMnが大きくなるほど、生成物のMwが小さくなり、収率が大きくなる傾向にあった。
【0221】
(1−3:種々の濃度の基質からのグリコーゲンの製造)
基質として、アミロースA(ナカライテスク(株)製、Mn2900)を1N NaOHに溶かし、HClで中和した。その後、すぐに水、酵素液、緩衝液を以下の反応液組成となるように添加して、70℃で17時間反応させた。反応液組成:Aquifex aeolicus由来BE量 10000または40000U/g基質、基質濃度2、4、8または12重量%、リン酸カリウム濃度 40mM、pH7.5。
【0222】
反応後、製造されたα−グルカンの分子量を測定した。結果を、表1−2に示す。表1−2において、グリコーゲン収率(%)は、分子量100万以上のグルカン(すなわち、グリコーゲン)の収率を示す。
【0223】
この結果、少なくとも、基質濃度12%程度までは、グリコーゲンが生成することがわかった。基質濃度が上昇すると生成物のMwが低下する傾向が見られた。
【0224】
【表1】
【0225】
【表1−2】
(実施例2:澱粉からのグリコーゲンの製造)
(2−1:コーンスターチからのグリコーゲンの製造)
コーンスターチ(和光純薬工業(株)製)(2重量%)を水に懸濁し、100℃で30分間加熱することにより、コーンスターチを糊化した。それを40℃まで冷まし、イソアミラーゼ(IAMと略;5000または50000U/g基質;(株)林原生物化学研究所製)を添加して40℃で4時間、6時間、8時間、または20時間反応させ、アミロースを生成させた。その後、この溶液を5mM リン酸カリウムバッファーでpH7.5に調整し、Aquifex aeolicus由来のBEを添加し、基質濃度2重量%、BE10000、20000、40000、または60000U/g基質とした後、55℃、65℃、70℃または75℃で20時間反応させた。
【0226】
澱粉を枝切り酵素により分解してアミロースを得て、このアミロースにBEを反応させてグリコーゲンを製造する反応の模式図を図5に示す。反応後、製造されたα−グルカンの分子量を測定した。結果を、以下の表2および図6に示す。図6は、IAM量が5000U/g基質であって、BE量が10000、20000、40000または60000U/g基質である場合の結果をプロットしたグラフである。表2において、グリコーゲン収率(%)は、分子量100万以上のグルカン(すなわち、グリコーゲン)の収率を示す。
【0227】
【表2】
この結果、コーンスターチのイソアミラーゼ分解物からグリコーゲンが生成することがわかった。イソアミラーゼ量およびBE量にほとんど関係なく、Mw500万前後のグリコーゲンが収率約30%以上で得られた。イソアミラーゼの反応時間は、4時間以上であれば、グリコーゲンが生成された。また、BEの反応温度は55℃、65℃、70℃または75℃のいずれでもグリコーゲンが生成された。
【0228】
(2−2:各種澱粉からのグリコーゲンの製造)
コーンスターチ(和光純薬工業(株)製)、ワキシーコーンスターチ(Roquette社製)、小麦澱粉(和光純薬工業(株)製)、馬鈴薯澱粉(和光純薬工業(株)製)、またはタピオカ澱粉(VEDAN ENTERPRISE Co.,Ltd製)(2重量%)を水に懸濁し、100℃で30分間加熱することにより、澱粉を糊化した。それを40℃まで冷まし、イソアミラーゼ(5000U/g基質;(株)林原生物化学研究所製)を添加して40℃で20時間反応させ、アミロースを生成させた。その後、この溶液を5mM リン酸カリウムバッファーでpH7.5に調整し、Aquifex aeolicus由来のBEを添加し、基質濃度2重量%、BE20000U/g基質とした後、55℃、65℃または75℃で20時間反応させた。
【0229】
反応後、製造されたα−グルカンの分子量を測定した。結果を、以下の表3に示す。
【0230】
この結果、種々の澱粉をイソアミラーゼの基質として用いて、グリコーゲンを生成できることがわかった。
【0231】
(2−3:Bacillus stearothermophilus由来のBEを用いた、澱粉からのグリコーゲンの製造)
コーンスターチ(和光純薬工業(株)製)(2重量%)を水に懸濁し、100℃で30分間加熱することにより、澱粉を糊化した。それを40℃まで冷まし、イソアミラーゼ(5000U/g基質;(株)林原生物化学研究所製)を添加して40℃で20時間反応させ、アミロースを生成させた。その後、この溶液を40mM リン酸カリウムバッファーでpH7.5に調整し、Bacillus stearothermophilus由来のBEを添加し、基質濃度2重量%、BE20000U/g基質とした後、55℃で20時間反応させた。
【0232】
反応後、製造されたα−グルカンの分子量を測定した。結果を、以下の表3に示す。表3において、グルカン収率は、分子量1万以上のグルカン全体の収率を示し、グリコーゲン収率は、分子量100万以上のグルカン(すなわち、グリコーゲン)の収率を示す。
【0233】
この結果、Bacillus stearothermophilus由来のBEを用いても、グリコーゲンを生成できることがわかった。
【0234】
【表3】
(2−3:イソアミラーゼとBEとを同時に用いる、グリコーゲンの製造)
コーンスターチ(和光純薬工業(株)製)(1重量%)を水に懸濁し、100℃で30分間加熱することにより、糊化した。それを65℃まで冷まし、イソアミラーゼ(500000U/g基質;(株)林原生物化学研究所製)およびAquifex aeolicus由来のBE(60000U/g基質)を添加し、この溶液を40mM リン酸カリウムバッファーでpH7.5に調整し、65℃16時間反応させた。
【0235】
反応後、製造されたα−グルカンの分子量を測定した。この結果、澱粉にイソアミラーゼとBEとを同時に作用させても、グリコーゲンを生成させることが可能であることがわかった。
【0236】
(実施例3A:糖鎖の短いアミロースに4−α−グルカノトランスフェラーゼとBEを作用させることによるグリコーゲンの製造)
(3−1:Aquifex aeolicus由来のBEおよびTaqMalQを用いたグリコーゲンの製造)
基質(マルトペンタオース(G5)、マルトヘキサオース(G6)、またはマルトヘプタオース(G7))を水に溶かし、水、酵素液、緩衝液を以下の反応液組成となるように添加して、65℃で17時間反応させた。反応液組成:Aquifex aeolicus由来BE量 40000、80000、または160000U/g基質、TaqMalQ量 10U/g基質、基質濃度 1%、リン酸カリウム濃度 10mM、pH7.5。
【0237】
4−α−グルカノトランスフェラーゼによってマルトペンタオースからアミロースが生成され、BEによってアミロースからグリコーゲンが生成されることを示す模式図を図7に示す。反応後、製造されたα−グルカンの分子量を測定した。結果を、以下の表4および図8に示す。図8においては、BE量が80000U/g基質を用いた場合についてのMwを示す。ピークが分かれた場合は、高分子量のピークのみを測定した。
【0238】
この結果、4−α−グルカノトランスフェラーゼを併用することによって、G5、G6、G7からグリコーゲンが高い効率で生成されることがわかった。
【0239】
(3−2:Bacillus stearothermophilus由来のBEおよびTaqMalQを用いたグリコーゲンの製造)
基質(マルトヘプタオース(G7))を水に溶かし、水、酵素液、緩衝液を以下の反応液組成となるように添加して、50℃で17時間反応させた。反応液組成:Bacillus stearothermophilus由来BE量 160000U/g基質、TaqMalQ量 2.3U/g基質、基質濃度 0.5%、リン酸カリウム濃度 5mM、pH7.5。
【0240】
反応後、製造されたα−グルカンの分子量を測定した。結果を、以下の表4に示す。表4において、グルカン収率は、分子量1万以上のグルカン全体の収率を示し、グリコーゲン収率は、分子量100万以上のグルカン(すなわち、グリコーゲン)の収率を示す。
【0241】
この結果、Bacillus stearothermophilus由来のBEを用いた場合も、4−α−グルカノトランスフェラーゼを併用することによって、G7からグリコーゲンが高い効率で生成されることがわかった。
【0242】
【表4】
(実施例4:比較的低温条件下でのグリコーゲンの製造)
アミロースA(ナカライテスク(株)製、Mn2900)を1N NaOHに溶かし、HClで中和した。その後、すぐに水、酵素液、緩衝液を以下の反応液組成となるように添加して、30℃で16時間反応させた。反応液組成:Aquifex aeolicusまたはBacillus stearothermophilus由来BE量80,000U/g基質、基質濃度2重量%、リン酸カリウム濃度 20mM、pH 7.5。
【0243】
反応後、製造されたα−グルカンの分子量を測定した。結果を、表5に示す。表5において、グルカン収率は、分子量1万以上のグルカン全体の収率を示し、グリコーゲン収率は、分子量100万以上のグルカン(すなわち、グリコーゲン)の収率を示す。
【0244】
この結果、どちらの耐熱性BEを用いた場合も、反応温度が30℃であっても、アミロースAから、Mw100万以上のグリコーゲンが製造されることが確認された。このことから、グリコーゲンが生成されるのは、反応を高温条件で行うことに起因するのではなく、耐熱性BEの特性に起因すると考えられる。
【0245】
(比較例1:Bacillus cereus由来BEを用いたα−グルカンの製造)
アミロースAまたは、酵素合成アミロース(AS−10(Mw10000;Mn9100)またはAS−320(Mw320000;Mn290000))を、1N NaOHに溶かし、HClで中和した。その後、すぐに水、酵素液、緩衝液を以下の反応液組成となるように添加して、30℃で24時間反応させた。反応液組成:B.cereus由来BE量40,000U/g基質、基質濃度0.5重量%、リン酸カリウム濃度 20mM
、pH 7.5。B.cereus由来BEは、非特許文献9に記載の方法に従って製造
した。
【0246】
反応後、沸騰湯浴中で10分間加熱して反応を停止させ、生じたα−グルカンをMALLS法によって分析した。結果を表6に示す。表6において、グルカン収率は、分子量1万以上のグルカン全体の収率を示し、グリコーゲン収率は、分子量100万以上のグルカン(すなわち、グリコーゲン)の収率を示す。
【0247】
アミロースAを基質とした場合は、高分子α−グルカンを検出できなかった。また、どちらの酵素合成アミロースを用いた場合も、分子量1万〜分子量50万のグルカンが生成物のほぼ100%を占めており、分子量100万以上のグルカンは検出できなかった。生成物のMwは、Mn9100の基質を用いた場合、86900であり、Mn290000の基質を用いた場合、61900であった。高分子量の基質を用いた場合、低分子化が生じた。
【0248】
さらに、Mn4500〜290000の各種サイズのアミロースにB.cereus BEを同様に作用させた後、生成物のゲル濾過分析を行ったが、主成分の分子量は上記実験とほとんど同じであることが示された。つまり、どの場合にも分子量100万を超える高分子α−グルカンは得られなかった。
【0249】
(実施例3B:糖鎖の短いアミロースにBEのみを作用させることによるα−グルカンの製造)
基質(マルトテトラオース(G4)、マルトペンタオース(G5)、マルトヘキサオース(G6)、またはマルトヘプタオース(G7))を水に溶かし、Aquifex aeolicus由来のBEを添加し、反応液を、以下の表7に示す基質濃度およびBE量とし、10mMリン酸カリウムバッファーでpH7.5に調整した後、以下の表7に示す温度で、17時間反応させた。
【0250】
反応後、製造されたα−グルカンの分子量を測定した。この結果を、以下の表7に示す
。表7において、グリコーゲン収率(%)は、分子量100万以上のグルカン(すなわち、グリコーゲン)の収率を示す。
【0251】
この結果、G4〜G7という低分子量の基質を用いた場合、グリコーゲンを合成できることがわかった。
【0252】
(実施例5:澱粉にBEおよびプルラナーゼを作用させることによるグリコーゲンの製造)
コーンスターチ(和光純薬工業(株)製)(2重量%)を水に懸濁し、100℃で30分間加熱することにより、コーンスターチを糊化した。それを60℃まで冷まし、プルラナーゼ(5U/g基質;大和化成(株)製クライスターゼ)を添加して60℃で20時間反応させ、アミロースを生成させ、その後、100℃で10分間加熱することにより、反応を停止した。その後、この溶液を10mM リン酸カリウムバッファーでpH7.5に調整し、Aquifex aeolicus由来のBEを20000U/g基質となるように添加し、BE65℃で20時間反応させた。
【0253】
反応後、製造されたα−グルカンの分子量を測定した。この結果を、以下の表8に示す。表8において、グリコーゲン収率(%)は、分子量100万以上のグルカン(すなわち、グリコーゲン)の収率を示す。この結果、プルラナーゼで枝切りしたコーンスターチもイソアミラーゼで枝切りしたコーンスターチ同様グリコーゲンを製造することができた。
【0254】
【表5】
【0255】
【表6】
【0256】
【表7】
【0257】
【表8】
(評価例1:プルラナーゼに対する分解耐性)
従来の技術でBEをアミロースに作用させた場合に得られるα−グルカンは、プルラナーゼにより分解されやすいという点で、天然のグリコーゲンとは異なるということが報告されている(非特許文献10)。
【0258】
本発明の方法によって製造されたグリコーゲンが天然のグリコーゲンと同様にプルラナーゼによる分解に耐性であるか否かを調べた。
【0259】
コーンスターチ(和光純薬工業(株)製)(1重量%)を水に懸濁し、ジェットクッカーでコーンスターチを糊化した。それを40℃まで冷まし、イソアミラーゼ(40000U/g基質;(株)林原生物化学研究所製)を添加して40℃で6時間反応させ、アミロースを生成させた。その後、この溶液を3mM リン酸バッファー(pH7.0))および5
N NaOHでpH7.5に調整し、Aquifex aeolicus由来のBEを20000U/g基質となるように添加した後、65℃で19時間反応させて重量平均分子量9719kDaのグリコーゲンを製造した。このグリコーゲン、牡蠣由来の試薬グリコーゲン(和光純薬工業(株)製)、ワキシーコーンスターチ(Roquette社製)またはコーンスターチ(和光純薬工業(株)製)を1N NaOHに溶かし、HClで中和した。その後、すぐにBacillus brevis由来のプルラナーゼ(大和化成(株)
製)を添加し、反応液を、基質濃度0.5重量%、プルラナーゼ(0、2、4、16、6
4、256U/g基質)とし、10mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)でp
H5.0に調整した後、60℃で30分間反応させた。
【0260】
反応後、生成物の分子量を測定した。結果を図9に示す。
【0261】
この結果、澱粉は速やかに分解されたが、牡蠣由来の試薬グリコーゲン(和光純薬工業(株)製)および今回の製造方法によるグリコーゲンは、プルラナーゼでほとんど分解されないことがわかった。それゆえ、本発明の方法によって製造されるグリコーゲンは、天然のグリコーゲンと同様の性質を有し、実際にグリコーゲンであるといってよいことが確認された。
【0262】
(評価例2:α−アミラーゼに対する分解耐性)
グリコーゲンは、プルラナーゼによってほとんど分解を受けないことが知られているが、本発明者らの実験により、α-アミラーゼによっても非常に分解されにくいことがわか
った。たとえば、ワキシーコーンスターチ、ノーマルコーンスターチは、300U/gのヒト唾液α−アミラーゼによって30分処理することにより、分子量1万以下にまで分解されたが、試薬のカキ由来グリコーゲンは同じ条件でほとんど分解を受けなかった。
【0263】
本発明の方法によって製造されたグリコーゲンが天然のグリコーゲンと同様にα−アミラーゼによる分解に耐性であるか否かを調べた。
【0264】
評価例1で調製したグリコーゲン、牡蠣由来の試薬グリコーゲン(和光純薬工業(株)製)、ワキシーコーンスターチ(Roquette社製)またはコーンスターチ(和光純薬工業(株)製)を1N NaOHに溶かし、HClで中和した。その後、すぐにヒト唾液由来α−アミラーゼ(Sigma社製Type XIII−A)を添加し、反応液を、基質濃度0.5重量%、α−アミラーゼ(0、5、37.5、75、150、300U/g基質)とし、20mM リン酸カリウムバッファー(pH7.0)でpH7.0に調整した後、37℃で30分間反応させた。
【0265】
反応後、生成物の分子量を測定した。結果を図10に示す。澱粉の分子量については、α−アミラーゼ量が0、5、37.5U/g基質のときは、生成物のろ過ができなかったため測定できなかった。
【0266】
この結果、澱粉は速やかに分解されたが、牡蠣由来の試薬グリコーゲン(和光純薬工業(株)製)および今回の製造方法で製造したグリコーゲンは、α−アミラーゼでほとんど分解されないことがわかった。それゆえ、本発明の方法によって製造されるグリコーゲンは、天然のグリコーゲンと同様の性質を有し、実際にグリコーゲンであるといってよいことが確認された。
【0267】
(実施例6:グリコーゲンの溶解性の確認)
アミロースA(ナカライテスク(株)製、Mn2900)またはアミロースAS10((株)アジノキ製、Mw10,000、Mnとしては9100)を1N NaOHに溶かし、HClで中和した。その後、すぐに水、酵素液、緩衝液を以下の反応液組成となるように添加して、70℃で24時間反応させた。反応液組成:Aquifex aeolicus由来BE量34,000U/g基質、基質濃度0.5重量%、リン酸カリウム濃度
20mM、pH 7.5。この反応によって得られたグリコーゲンの収率(%)は、基質としてアミロースAを用いた場合、10.1%であり、基質としてアミロースAS10を用いた場合、59.0%であった。
【0268】
以下の方法により、溶解度を決定した。得られたグリコーゲンをエタノールにより沈澱させて回収した後、乾燥し、2mg/mLとなるように室温(約20℃)の蒸留水を加え
て、室温で30秒間ボルテックスミキサーにより撹拌し、0.45μmのフィルターによって濾過した。濾液を、溶解したグリコーゲンの量をMALLS法によって算出した。
【0269】
さらに、以下の方法により、プルラナーゼ耐性およびα−アミラーゼ耐性を決定した。まず、エタノール沈澱により回収したグリコーゲンを、水に懸濁し、100℃で加熱することにより、完全に溶解させた。プルラナーゼ処理は、256U/g基質の大和化成(株)製クライスターゼにより、60℃で30分行った。α−アミラーゼ処理は、300U/g基質のSigma社製Type XIII−Aを用いて37℃で30分行った。反応停止後、MALLS法によって、グルカンのMwを算出した。プルラナーゼまたはα−アミラーゼによる耐性は以下の式による比を求めて評価した。すなわち、プルラナーゼ耐性(%)={Mwプルラナーゼ処理後÷Mw処理前}×100であり、
α−アミラーゼ耐性(%)={Mwα−アミラーゼ処理後÷Mw処理前}×100である。
【0270】
結果を以下の表9に示す。
【0271】
【表9】
この結果、本発明の方法により、溶解性が高く、プルラナーゼ耐性が高く、かつα−アミラーゼ耐性が高いグリコーゲンが得られることがわかった。
【0272】
(実施例7:Aquifex aeolicus VF5由来BEとThermus aquaticus由来4−α−グルカノトランスフェラーゼ(TaqMalQ)との併用による、グリコーゲンの収率向上)
(実施例7−1:アミロースAにTaqMalQおよびAquifex aeolicus由来のBEを作用させることによるグリコーゲンの製造)
アミロースA(ナカライテスク(株)製、Mn2900)を1N NaOHに溶かし、HClで中和した。その後、すぐに水、酵素液、緩衝液を以下の反応液組成となるように添加して、65℃で20時間反応させた。反応液組成:Aquifex aeolicus由来BE量5000または20000U/g基質、TaqMalQ量5、10、または20U/g基質、基質濃度 2重量%、リン酸カリウム濃度 20mM、pH 7.5。反
応条件および生成物の分析結果を以下の表10に示す。
【0273】
【表10】
このように、Aquifex aeolicus由来のBEおよびTaqMalQを用いて、Mw1000kDa以上のグリコーゲンを製造できることがわかった。また、TaqMalQの添加により、グリコーゲンの収率が大幅に向上する事が示された。
【0274】
(実施例7−2:コーンスターチにTaqMalQとAquifex aeolicus由来のBEを作用させることによるグリコーゲンの製造)
コーンスターチ(和光純薬工業(株)製)(2重量%)を水に懸濁し、100℃で30分加
熱することにより、コーンスターチを糊化した。それを40℃まで冷まし、イソアミラーゼ((株)林原生物化学研究所製)5000U/g基質を添加して40℃で20時間反応させ、アミロースを生成させた。その後、この溶液を5mM リン酸カリウムバッファーでpH7.5に調整し、Aquifex aeolicus由来のBE(20000U/g基質)およびTaqMalQ(0.1、0.5、1、2、3、4、5、10、または20U/g基質)を添加し、65℃で20時間反応させた。反応条件および生成物の分析結果を以下の表11に示す。
【0275】
【表11】
このように、コーンスターチにイソアミラーゼをさせた後、Aquifex aeolicus由来のBEおよびTaqMalQを用いて、Mw1000kDa以上のグリコーゲンを高い効率で製造できることがわかった。
【0276】
(実施例7−3:液化コーンスターチ枝切り物を基質とし、TaqMalQとAquifex aeolicus由来のBEを作用させることによるグリコーゲンの製造)
コーンスターチ(和光純薬工業(株)製)を6重量%になるように水に懸濁し、α-アミラ
ーゼ(大和化成(株)製)を用いて100℃でDE12まで液化させた。反応を停止後、イソアミラーゼ(5000U/g基質;(株)林原生物化学研究所製)を添加して40℃で20時間反応させ、枝きりした。枝切り物のMnは、約600であった。この溶液のpHを5mM リン酸カリウム緩衝液で7.5に調整し、Aquifex aeolicus由来のBE(5000U/g基質)およびTaqMalQ(1U/g基質)を添加した後、65℃で20時間反応させることにより、Mw11360kDaのグリコーゲンが得られた。
【0277】
(実施例8:Rhodothermus obamensis由来のBEを用いたグリコーゲンの製造)
アミロースAおよびAS−10にRhodothermus obamensis由来のBEを作用させてグリコーゲンを製造した。詳細には、アミロースA(ナカライテスク(株)製、Mn2900)、AS−10((株)アジノキ製、Mn9100)を1N NaOHに溶かし、HClで中和した。その後、すぐに水、酵素液、緩衝液を以下の反応液組成となるように添加して、65℃で17時間反応させた。反応液組成:Rhodothermus obamensis由来BE量40,000U/g基質、基質濃度 2重量
%、酢酸ナトリウム濃度 40mM、pH 6.0。反応条件および生成物の分析結果を以下の表12に示す。
【0278】
【表12】
このように、Rhodothermus obamensis由来のBEを用いて、Mw1000kDa以上のグリコーゲンを高い効率で製造できることがわかった。
【0279】
(実施例9:Bacillus caldovelox由来のBEを用いたグリコーゲンの製造)
アミロースAおよびAS−10にBacillus caldovelox由来のBEを作用させてグリコーゲンを製造した。詳細には、アミロースA(ナカライテスク(株)製、Mn2900)、AS−10((株)アジノキ製、Mn9100)を1N NaOHに溶かし、HClで中和した。その後、すぐに水、酵素液、緩衝液を以下の反応液組成となるように添加して、55℃で16時間反応させた。反応液組成:Bacillus caldovelox由来BE量20,000U/g基質、基質濃度 2重量%、Tris
濃度 20mM、pH 7.0。反応条件および生成物の分析結果を以下の表13に示す。
【0280】
【表13】
このように、Bacillus caldovelox由来のBEを用いて、Mw1000kDa以上のグリコーゲンを製造できることがわかった。
【0281】
(実施例10:Bacillus caldolyticus由来のBEを用いたグリコーゲンの製造)
アミロースAおよびAS−10にBacillus caldolyticus 由来のBEを作用させてグリコーゲンを製造した。詳細には、アミロースA(ナカライテスク(株)製、Mn2900)、AS−10((株)アジノキ製、Mn9100)を1N NaOHに溶かし、HClで中和した。その後、すぐに水、酵素液、緩衝液を以下の反応液組成となるように添加して、45℃で16時間反応させた。反応液組成:Bacillus caldolyticus由来BE量20,000U/g基質、基質濃度 2重量%
、Tris濃度 20mM、pH 7.0。反応条件および生成物の分析結果を以下の表14に示す。
【0282】
【表14】
このように、Bacillus caldolyticus由来のBEを用いて、Mw1000kDa以上のグリコーゲンを製造できることがわかった。
【0283】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0284】
本発明により、天然のグリコーゲンと同様の性質を有する高分岐かつ高分子量のα−グルカンを安価に製造する方法が提供される。本発明の方法によって製造されるグリコーゲンは、従来の天然由来のグリコーゲンと同様に幅広い分野で利用され得る。天然のグリコーゲンは、産業上種々の分野で利用されている。本発明の方法によって製造されるグリコーゲンは、例えば、免疫賦活剤、健康食品素材などとして用いられ得る。本発明の方法によって製造されるグリコーゲンはまた、化粧品素材、食品素材(調味料)、その他産業用素材としての用途が期待できる。本発明の方法によって製造されるグリコーゲンの用途としては、例えば、以下が挙げられる:微生物感染症治療剤、保湿剤(例えば、皮膚の保湿性
向上に有効な化粧料、口唇の荒れを防ぐ口唇用化粧料)、複合調味料(例えば、ホタテ貝柱の味を有する複合調味料)、抗腫瘍剤、発酵乳の生成促進剤、コロイド粒子凝集体、毛髪の櫛通り性および毛髪のツヤに影響する毛髪表面の耐摩耗性を改善する物質、細胞賦活剤(表皮細胞賦活剤、線維芽細胞増殖剤など)、ATP産生促進剤、しわなどの皮膚の老化症状改善剤、肌荒れ改善剤、蛍光体粒子表面処理剤、環状四糖(CTS;cyclo{→6)−α−D−glcp−(1→3)−α−D−glcp−(1→6)−α−D−glcp−(1→3)−α−D−glcp−(1→})の合成の際の基質。本発明の方法によって製造されるグリコーゲンは、皮膚外用剤(例えば、化粧水、乳液、クリーム、美容液、養毛剤、育毛剤、パック、口紅、リップクリーム、メイクアップベースローション、メイクアップベースクリーム、ファンデーション、アイカラー、チークカラー、シャンプー、リンス、ヘアーリキッド、ヘアートニック、パーマネントウェーブ剤、ヘアカラー、トリートメント、浴用剤、ハンドクリーム、レッグクリーム、ネッククリーム、ボディローションなど)中、眼用溶液中などで用いられ得る。
【0285】
本発明の方法によれば、溶解性が高く、プルラナーゼおよびα−アミラーゼによる分解性の低い(天然のグリコーゲンに近い)グリコーゲンが得られる。これは、グリコーゲンを合成する能力を有するBE(特に、耐熱性BE)が特殊な性質をもっていることに起因すると考えられる。
【0286】
得られるグリコーゲンの酵素消化性が低いことは、例えばグリコーゲンの免疫賦活活性発現のために重要であるので、本発明は特に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が100万Da以上のグリコーゲンであって、
該グリコーゲンに50U/g基質のプルラナーゼを60℃で30分間作用させた場合に得られる生成物をMALLS法によって分析した場合の重量平均分子量が50万Da以上であり、かつ該グリコーゲンに300U/g基質のα−アミラーゼを37℃で30分間作用させた場合に得られる生成物をMALLS法によって分析した場合の重量平均分子量が50万Da以上である、グリコーゲン。
【請求項2】
請求項1に記載のグリコーゲンの製造方法であって、
グリコーゲンを合成する能力を有するブランチングエンザイムを溶液中で基質に作用させて、グリコーゲンを生産する工程を包含し、
該基質が、主にα−1,4−グルコシド結合で連結された重合度4以上のα−グルカンであり、該基質が、澱粉枝切り物、デキストリン枝切り物または酵素合成アミロースであり、反応開始前の該溶液中の糖の数平均分子量が180より大きく150,000以下であり、該グリコーゲンの重量平均分子量が100万Da以上であり、
該グリコーゲンに50U/g基質のプルラナーゼを60℃で30分間作用させた場合に得られる生成物をMALLS法によって分析した場合の重量平均分子量が50万Da以上であり、かつ該グリコーゲンに300U/g基質のα−アミラーゼを37℃で30分間作用させた場合に得られる生成物をMALLS法によって分析した場合の重量平均分子量が50万Da以上であり、
該方法においては、α−グルカンホスホリラーゼまたはグリコーゲン合成酵素のいずれも使用せず、該ブランチングエンザイムのブランチングエンザイム活性/アミロペクチン低分子化活性が、1以上466以下であり、ただし、該ブランチングエンザイムが、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号10、配列番号14または配列番号18のいずれのアミノ酸配列も有さない、方法。
【請求項3】
前記ブランチングエンザイムのブランチングエンザイム活性/アミロペクチン低分子化活性が、35以上466以下である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ブランチングエンザイムが、耐熱性ブランチングエンザイムである、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記ブランチングエンザイムが、好熱性菌または中温性菌由来である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記ブランチングエンザイムが、Aquifex aeolicus、Rhodothermus obamensis、Bacillus stearothermophilus、Bacillus caldovelox、Bacillus caldolyticusおよびEscherichia coliからなる群より選択される細菌に由来する、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記ブランチングエンザイムが、Aquifex aeolicus VF5株、Rhodothermus obamensis JCM9785株、Bacillus stearothermophilus TRBE14株、Bacillus caldovelox IFO15315株、Bacillus caldolyticus IFO15313株およびEscherichia coli W3110株からなる群より選択される細菌株に由来する、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記ブランチングエンザイムの反応至適温度が、45℃以上90℃以下である、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記反応開始前の溶液中の糖の数平均分子量が、180より大きく4,000未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記反応開始前の溶液中の糖の数平均分子量が、4,000以上8,000未満であり、前記ブランチングエンザイムの使用量と反応時間との積が25,000U・時間/g基質以上になるように該ブランチングエンザイムの使用量と反応時間とを調整する、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記反応開始前の溶液中の糖の数平均分子量が、8,000以上100,000未満であり、前記ブランチングエンザイムの使用量と反応時間との積が40,000U・時間/g基質以上になるように該ブランチングエンザイムの使用量と反応時間とを調整する、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
前記反応開始前の溶液中の糖の数平均分子量が、100,000以上150,000以下であり、前記ブランチングエンザイムの使用量と反応時間との積が150,000U・時間/g基質以上になるように該ブランチングエンザイムの使用量と反応時間とを調整する、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
数平均分子量が180より大きく1,500未満のα−グルカンに4−α−グルカノトランスフェラーゼを作用させることにより、前記基質を生産する工程をさらに包含する、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
前記4−α−グルカノトランスフェラーゼが、Thermus aquaticus由来のアミロマルターゼである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記数平均分子量が180より大きく1,500未満のα−グルカンが、重合度4〜7のマルトオリゴ糖を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
数平均分子量500以上の低分岐α−グルカンに枝切り酵素を作用させることにより、前記基質を生産する工程をさらに包含し、該低分岐α−グルカンでは、α−1,6−グルコシド結合の数を1としたときのα−1,4−グルコシド結合の数が、10〜10000である、請求項2に記載の方法。
【請求項17】
4−α−グルカノトランスフェラーゼが前記ブランチングエンザイムと共存する、請求項2に記載の方法。
【請求項18】
前記4−α−グルカノトランスフェラーゼが、Thermus aquaticus由来のアミロマルターゼである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ブランチングエンザイムが、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号10、配列番号14または配列番号18のいずれかのアミノ酸配列に対して少なくとも65%の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつグリコーゲン合成能力を有し、かつブランチングエンザイム活性/アミロペクチン低分子化活性が、1以上466以下である、請求項2に記載の方法。
【請求項20】
前記ブランチングエンザイムが、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号10、配列番号14または配列番号18のいずれかのアミノ酸配列に対して1または数個のアミノ酸の欠失、置換または挿入を有するアミノ酸配列を有し、かつグリコーゲン合成能力を有し、かつブランチングエンザイム活性/アミロペクチン低分子化活性が、1以上466以下である、請求項2に記載の方法。
【請求項21】
前記ブランチングエンザイムが、配列表の配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号9、配列番号13または配列番号17のいずれかの塩基配列からなる核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子によってコードされ、かつグリコーゲン合成能力を有し、かつブランチングエンザイム活性/アミロペクチン低分子化活性が、1以上466以下である、請求項2に記載の方法。
【請求項1】
重量平均分子量が100万Da以上のグリコーゲンであって、
該グリコーゲンに50U/g基質のプルラナーゼを60℃で30分間作用させた場合に得られる生成物をMALLS法によって分析した場合の重量平均分子量が50万Da以上であり、かつ該グリコーゲンに300U/g基質のα−アミラーゼを37℃で30分間作用させた場合に得られる生成物をMALLS法によって分析した場合の重量平均分子量が50万Da以上である、グリコーゲン。
【請求項2】
請求項1に記載のグリコーゲンの製造方法であって、
グリコーゲンを合成する能力を有するブランチングエンザイムを溶液中で基質に作用させて、グリコーゲンを生産する工程を包含し、
該基質が、主にα−1,4−グルコシド結合で連結された重合度4以上のα−グルカンであり、該基質が、澱粉枝切り物、デキストリン枝切り物または酵素合成アミロースであり、反応開始前の該溶液中の糖の数平均分子量が180より大きく150,000以下であり、該グリコーゲンの重量平均分子量が100万Da以上であり、
該グリコーゲンに50U/g基質のプルラナーゼを60℃で30分間作用させた場合に得られる生成物をMALLS法によって分析した場合の重量平均分子量が50万Da以上であり、かつ該グリコーゲンに300U/g基質のα−アミラーゼを37℃で30分間作用させた場合に得られる生成物をMALLS法によって分析した場合の重量平均分子量が50万Da以上であり、
該方法においては、α−グルカンホスホリラーゼまたはグリコーゲン合成酵素のいずれも使用せず、該ブランチングエンザイムのブランチングエンザイム活性/アミロペクチン低分子化活性が、1以上466以下であり、ただし、該ブランチングエンザイムが、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号10、配列番号14または配列番号18のいずれのアミノ酸配列も有さない、方法。
【請求項3】
前記ブランチングエンザイムのブランチングエンザイム活性/アミロペクチン低分子化活性が、35以上466以下である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ブランチングエンザイムが、耐熱性ブランチングエンザイムである、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記ブランチングエンザイムが、好熱性菌または中温性菌由来である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記ブランチングエンザイムが、Aquifex aeolicus、Rhodothermus obamensis、Bacillus stearothermophilus、Bacillus caldovelox、Bacillus caldolyticusおよびEscherichia coliからなる群より選択される細菌に由来する、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記ブランチングエンザイムが、Aquifex aeolicus VF5株、Rhodothermus obamensis JCM9785株、Bacillus stearothermophilus TRBE14株、Bacillus caldovelox IFO15315株、Bacillus caldolyticus IFO15313株およびEscherichia coli W3110株からなる群より選択される細菌株に由来する、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記ブランチングエンザイムの反応至適温度が、45℃以上90℃以下である、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記反応開始前の溶液中の糖の数平均分子量が、180より大きく4,000未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記反応開始前の溶液中の糖の数平均分子量が、4,000以上8,000未満であり、前記ブランチングエンザイムの使用量と反応時間との積が25,000U・時間/g基質以上になるように該ブランチングエンザイムの使用量と反応時間とを調整する、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記反応開始前の溶液中の糖の数平均分子量が、8,000以上100,000未満であり、前記ブランチングエンザイムの使用量と反応時間との積が40,000U・時間/g基質以上になるように該ブランチングエンザイムの使用量と反応時間とを調整する、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
前記反応開始前の溶液中の糖の数平均分子量が、100,000以上150,000以下であり、前記ブランチングエンザイムの使用量と反応時間との積が150,000U・時間/g基質以上になるように該ブランチングエンザイムの使用量と反応時間とを調整する、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
数平均分子量が180より大きく1,500未満のα−グルカンに4−α−グルカノトランスフェラーゼを作用させることにより、前記基質を生産する工程をさらに包含する、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
前記4−α−グルカノトランスフェラーゼが、Thermus aquaticus由来のアミロマルターゼである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記数平均分子量が180より大きく1,500未満のα−グルカンが、重合度4〜7のマルトオリゴ糖を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
数平均分子量500以上の低分岐α−グルカンに枝切り酵素を作用させることにより、前記基質を生産する工程をさらに包含し、該低分岐α−グルカンでは、α−1,6−グルコシド結合の数を1としたときのα−1,4−グルコシド結合の数が、10〜10000である、請求項2に記載の方法。
【請求項17】
4−α−グルカノトランスフェラーゼが前記ブランチングエンザイムと共存する、請求項2に記載の方法。
【請求項18】
前記4−α−グルカノトランスフェラーゼが、Thermus aquaticus由来のアミロマルターゼである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ブランチングエンザイムが、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号10、配列番号14または配列番号18のいずれかのアミノ酸配列に対して少なくとも65%の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつグリコーゲン合成能力を有し、かつブランチングエンザイム活性/アミロペクチン低分子化活性が、1以上466以下である、請求項2に記載の方法。
【請求項20】
前記ブランチングエンザイムが、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号10、配列番号14または配列番号18のいずれかのアミノ酸配列に対して1または数個のアミノ酸の欠失、置換または挿入を有するアミノ酸配列を有し、かつグリコーゲン合成能力を有し、かつブランチングエンザイム活性/アミロペクチン低分子化活性が、1以上466以下である、請求項2に記載の方法。
【請求項21】
前記ブランチングエンザイムが、配列表の配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号9、配列番号13または配列番号17のいずれかの塩基配列からなる核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子によってコードされ、かつグリコーゲン合成能力を有し、かつブランチングエンザイム活性/アミロペクチン低分子化活性が、1以上466以下である、請求項2に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【公開番号】特開2008−95117(P2008−95117A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325311(P2007−325311)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【分割の表示】特願2006−537787(P2006−537787)の分割
【原出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【分割の表示】特願2006−537787(P2006−537787)の分割
【原出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]