説明

高力ボルト接合構造

【課題】小型で低コストの高力ボルト接合構造を提供する。
【解決手段】高力ボルト接合構造1は梁3a、3bに架け渡され梁3a、3bを挟むようにして設けられる複数の接合板と、接合板と梁3a、3bとを貫通して締結する複数の高力ボルトとを有し、高力ボルトの締付力によって接合板と梁3a、3bとの間に発生する抵抗力により梁3a、3bを接合している。
ここで、接合板の梁3a、3bと接する面には複数の突起9aが設けられており、突起9aが梁3a、3bの表面にくい込むことにより、抵抗力を発生させている。
突起9aは、錐体状でその底面が凹多角形状をしており、高さと幅が等しく、底面の形状が凸多角形の突起と比べてより大きな抵抗力を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高力ボルト接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、梁、柱、筋違等の建築構造物の接続方法としては、高力ボルトを使用した摩擦接合が用いられている。
【0003】
摩擦接合とはボルトに軸力を導入して接合部材を締め付け、部材間に発生する摩擦力によって部材同士を接続する方法である。
【0004】
一方、摩擦接合では、摩擦力が接合部の摩擦係数とボルトの軸力に依存する。 しかしながら、建築構造物で使用される鋼材の摩擦接合面は、通常、赤錆面やショットブラスト面等とする処理がされるが、大きな摩擦係数を安定して得ることは困難で、摩擦係数は0.45に設定されている。従って、大きな摩擦力を得ようとする場合、ボルトの軸力を大きくしなければならない。そのため、ボルトの本数を増やしたり、ボルトの径を大きくしたりしなくてはならず、接合部が大型化し、コストが高くなる。
【0005】
そこで、接合部に突起を設けて、対向する部材にくい込ませることにより、見掛けの摩擦係数を大きくしている場合があり、以下のようなものが知られている。
(特許文献1)。
【特許文献1】特開平10-18423号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような構造でも摩擦係数の上昇は小さく、対策としては不十分であった。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的は小型で低コストの高力ボルト接合構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するために、本発明は、接合部材と、被接合部材と、前記接合部材と前記被接合部材とを貫通して押圧する高力ボルトを具備し、前記接合部材は、前記被接合部材と対向する面に突起を有し、前記突起は、略錐体状でその底面の形状が、底面の外周に少なくとも1つの凹部を有し、前記突起が、前記被接合部材にくい込むことを特徴とする高力ボルト接合構造である。
【0009】
前記突起は、その底面の形状は略凹多角形状であることが望ましい。
前記突起は、前記略凹多角形の底面の面積が、前記凹多角形の凸な頂点を結んでできる形状の面積の2/3以下であることが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば小型で低コストの高力ボルト接合構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面に基づいて本発明に好適な実施形態を詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る高力ボルト接合構造1を示す斜視図であって、図2は図1の側面図、図3は図1のA−A断面図、図4は図1の接合板および梁の構造を示す詳細図である。
【0012】
図1、図2および図3に示すように、高力ボルト接合構造1は梁3a、3bを有し、接合板5aと接合板5b、5cは梁3a、3bを挟むようにして設けられている。
高力ボルト7aは接合板5a、5b、梁3aを貫通するように設けられており、高力ボルト7bは接合板5a、5b、梁3bを貫通するように設けられている。
【0013】
また、高力ボルト7cは接合板5a、5c、梁3aを貫通するように設けられており、高力ボルト7dは接合板5a、5c、梁3bを貫通するように設けられている。
即ち、梁3a、3bは接合板5a、5b、5cを介して高力ボルト7a、7b、7c、7dにより接合されている。
【0014】
同様に接合板5dと接合板5eは梁3a、3bを挟むようにして設けられている。
高力ボルト7eは接合板5d、5e、梁3aを貫通するように設けられており、高力ボルト7fは接合板5d、5e、梁3bを貫通するように設けられている。
即ち、梁3a、3bは接合板5d、5eを介して高力ボルト7e、7fによっても接合されている。
【0015】
さらに、接合板5fと接合板5g、5hは梁3a、3bを挟むようにして設けられている。
高力ボルト7g、7hは接合板5f、5g、梁3aを貫通するように設けられており、高力ボルト7i,7jは接合板5f、5g、梁3bを貫通するように設けられている。
【0016】
また、高力ボルト7kは接合板5f、5h、梁3aを貫通するように設けられており、図示しない高力ボルトは接合板5f、5h、梁3bを貫通するように設けられている。
即ち、梁3a、3bは接合板5f、5g、5hを介して高力ボルト7g、7h、7i、7j、7kおよび図示しない高力ボルトによっても接合されている。
【0017】
なお、図4に示すように、梁3a、3b、接合板5f、5gには高力ボルト7g、7h、7i、7jを通すための穴10g、10h、10i、10j、12g、12h、12i、12j、14g、14h、14i、14jが設けられている。
【0018】
なお、接合板5a、5b、5c、5d、5e、5hにも同様に高力ボルトを通すための図示しない穴が設けられている。
【0019】
ここで、図4に示すように、接合板5fおよび5gの梁3a、3bと接する面には複数の突起9a、9b、9c、9d、9e、9f、9g、9hが設けられている。
【0020】
即ち、突起9a、9b、9c、9d、9e、9f、9g、9hが梁3a、3bの表面に食い込むことにより、梁3a、3bとの間に突起の掘り起こしによる抵抗力が作用するようになっている。
突起9a、9b、9c、9d、9e、9f、9g、9hの材質は梁3a、3bの材質である鋼材よりも硬いことが望ましく、例えば焼き入れ鋼やセラミック等が用いられる。
【0021】
また、突起9a、9b、9c、9d、9e、9f、9g、9hは接合板5fおよび5g上に機械加工によって一体に形成されるが、別部品として接合板5fおよび5g上に取り付けるようにしてもよい。
なお、突起は他の接合板の梁3a、3bと接する面にも設けられている。
【0022】
次に、突起の形状について説明する。図5は突起9aを示す斜視図であって、図6は図5のB方向矢視図、図7は図5のC方向矢視図である。
また、図8および図9は突起9aの底面11を示す図である。
なお、突起9b、9c、9d、9e、9f、9g、9hの形状は突起9aと同様であるため、説明を省略する。
【0023】
図5〜図7に示すように、突起9aの形状は、底面11から頂点11aにいくに従い、断面積が小さくなる錐体であり、底面11は凹多角形状を有している。
【0024】
なお、理由は後述するが、底面11の面積S1は(図8参照)、図9に示すような、凹多角形の凸な頂点13a、13b、13c、13dを結んで形成される凸多角形の面積S2の2/3以下であることが望ましい。
【0025】
次に、突起の形状と見掛けの摩擦係数の関係について説明する。
図10は四角錐の突起15を示す図であって、図11は板材13に突起15を押し込んだ状態を示す図、図12は図11の状態から突起15に荷重を加えた場合を示す図である。また図13は図11のD−D断面図であり、図14は図11のE方向矢視図である。
【0026】
さらに、図15は掘り起こし抵抗により決まる見掛けの摩擦係数と突起の頂角の関係を示す図である。
また、図16は突起の形状の別の実施例を示す図であって、図17は図16のH方向矢視図である。
【0027】
例えば、図10に示すような四角錐の突起15を、図11に示すように板材13にF方向(鉛直方向)に押し込み、図12に示すようにG方向(水平方向)に荷重を加えたとする。
なお、突起15のビッカース硬度は板材13のビッカース硬度よりも充分に大きく、突起15の変形は無視できるものとする。
【0028】
この場合、突起15と板材13の間に生じる掘り起こしによる抵抗力Fpと、図13に示すすべり方向の投影面積Apは比例関係にあり、板材13のビッカース硬度Hvを用いて以下の式で表される。
Fp=Ap・Hv
【0029】
また、接合面の総圧力Wと図14に示す真実接触面積ARも同様に以下の式が成立する。
W=AR・Hv
【0030】
上記2式から以下の式を導出できる。
Fp=(Ap/AR)・W
【0031】
即ち、圧力が等しい場合、Apに対するARの比を小さくすれば、より大きな抵抗力を得ることができ、従って見掛けの摩擦係数を大きくすることができる。
【0032】
具体的には図5に示す突起9aのように、突起の頂角を変えずに(頂角11bと頂角15aが等しい)底面11を凹多角形にするとよい。
突起9aは突起15と比べてApは変わらないが、ARが小さくなるため、Apに対するARの比を突起15よりも小さくすることができる。
【0033】
即ち、図15に示すように、凸多角形である四角錐と比べて、底面の断面積を小さくした凹多角形は、突起の頂角が等しい場合、断面積が小さくなるにつれて見掛けの摩擦係数が大きくなる。
【0034】
例えば、底面の断面積が四角錐の3/4の凹多角形である突起は、波型(図示せず)よりも見掛けの摩擦係数が小さいが、断面積が2/3の凹多角形である突起は、波型よりも見掛けの摩擦係数が大きくなる。
【0035】
そして、底面の断面積が1/2の凹多角形である突起は凸多角形と比べて見掛けの摩擦係数が約2倍になる。
【0036】
従って、断面積が凸多角形の2/3以下になるような凹多角形の断面を有する突起を接合板5fに設けることにより、梁3aの材質や、高力ボルトの締め付け力を変更することなく、梁3aと接合板5fとの間の見掛けの摩擦係数を大きくすることができる。
【0037】
見掛けの摩擦係数が大きくなると、小さい締付力(押圧力)で大きな応力を伝達できるため、高力ボルトの本数を減らしたり、径を小さくしたりすることができ、高力ボルト接合構造1を小型化することができる。
【0038】
なお、突起の底面の形状は凹多角形に限定されるものではない。
例えば、図16および図17に示すように、円錐の底面を円形状に切り欠いた突起15aでも同様の効果が得られる。
【0039】
この場合は突起15aの底面16の断面積S3(図17参照)が、S3に切り欠き部の断面積S4〜S7を加えた面積(円錐の断面積)の2/3以下であれば波型よりも見掛けの摩擦係数を大きくすることができる。
【0040】
このように、本実施の形態によれば、高力ボルト接合構造1は、梁3a、3bが接合板5a、5b、5c、5d、5e、5f、5g、5hに挟まれるように設けられており、接合板と梁3a、3bの接する面には断面が凹多角形である突起9a、9b、9c、9d、9e、9f、9g、9hが設けられている。
従って、ボルトの軸力を変化させずに見掛けの摩擦係数を大きくできるため、高力ボルト接合構造1を小型化することができ、コストが低減される。
【0041】
以上、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0042】
例えば、本実施形態では高力ボルト接合構造1は梁3aと梁3bを接合した構造だが、柱や筋違を接合した構造であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】高力ボルト接合構造1を示す斜視図
【図2】図1の側面図
【図3】図1のA−A断面図
【図4】図1の接合板5f、5gおよび梁3a、3bの構造を示す詳細図
【図5】突起9aを示す斜視図
【図6】図5のB方向矢視図
【図7】図5のC方向矢視図
【図8】突起9aの底面11を示す図
【図9】突起9aの底面11を示す図
【図10】四角錐の突起15を示す図
【図11】板材13に突起15を押し込んだ状態を示す図
【図12】図11の状態から突起15に荷重を加えた場合を示す図
【図13】図11のD−D断面図
【図14】図11のE方向矢視図
【図15】掘り起こし抵抗により決まる見掛けの摩擦係数と突起の形状の関係を示す図
【図16】突起の形状の別の実施例を示す図
【図17】図16のH方向矢視図
【符号の説明】
【0044】
1…………高力ボルト接合構造
3a………梁
5a………接合板
7a………高力ボルト
9a………突起
10a……穴
11………底面
11a……頂点
13………板材
15………突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合部材と、被接合部材と、
前記接合部材と前記被接合部材とを貫通して押圧する高力ボルトを具備し、
前記接合部材は、前記被接合部材と対向する面に突起を有し、
前記突起は、略錐体状でその底面の形状が、底面の外周に少なくとも1つの凹部を有し、
前記突起が、前記被接合部材にくい込むことを特徴とする高力ボルト接合構造。
【請求項2】
前記突起は、その底面の形状が、略凹多角形状であることを特徴とする請求項1記載の高力ボルト接合構造。
【請求項3】
前記突起は、前記略凹多角形状の底面の面積が、前記凹多角形の凸な頂点を結んでできる形状の面積に対して2/3以下であることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の高力ボルト接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2007−120097(P2007−120097A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−312193(P2005−312193)
【出願日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(000233239)日立機材株式会社 (225)
【Fターム(参考)】