説明

高周波プラズマ処理方法及び高周波プラズマ処理装置

【課題】プラズマを利用して基板等に所定の処理を施す処理装置において、プラズマの状態にアーク放電のような異常放電がある場合に小電力環境でラジカルやイオンを消滅させることなく異常放電を解消することで、動作信頼性に優れ処理効率の良いプラズマ処理を実現する高周波プラズマ処理方法及び高周波プラズマ処理装置を得る。
【解決手段】 二つの電極61,62が所定の間隔あけて対向配置された真空容器5内に所定のガスを導入し、処理対象物7を前記二つの電極61,62の電極間に配置した状態で、真空容器5内が通常放電状態のときは高周波電源1からの高周波信号を、異常放電状態のときは前記高周波信号と前記高周波信号よりも周波数の低い中間周波数信号とで振幅変調したものを出力し、その出力の最大振幅レベルを所定の振幅に増幅させて前記電極間に印加することにより、放電を発生させてプラズマ14を形成し前記処理対象物7に所定の処理を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基板等にプラズマを利用して所定の処理を施す高周波プラズマ処理方法及び高周波プラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の高周波プラズマ処理装置は、真空排気装置を用いて真空容器内を真空排気してガスを少量導入し、所定の間隔あけて対向配置された二つの電極の電極間に処理対象物を配置し、高周波電源からの高周波信号を大電力に増幅した供給電力を電極間に印加することで、電極間にプラズマを形成させて処理対象物に所定の処理を施すものである。例えば基板を処理対象物としてこの基板の表面に薄膜を成膜する場合は、一方の電極側に基板を配置し他方の電極側に薄膜の材料となるターゲットを設置した上で、電極間に供給電力を印加することにより、電極間にプラズマを形成させることでラジカルまたはイオンをターゲットに衝突させ、ターゲットからターゲット材料の原子がはじき飛ばされ基板に到達し薄膜が成膜される。
【0003】
このような高周波プラズマ処理装置においては、例えば体積抵抗率の高いターゲット材料を原料として基板に薄膜の成膜を施す処理を連続的に行なうと、基板に成膜されなかったターゲット材料の原子などがターゲット表面に再付着することがある。このように体積抵抗率の高いものがターゲット表面に再付着した場合、その付着箇所の絶縁性が局所的に高くなるので、局所的な電界集中を引き起こして、局所的な異常放電が発生し真空容器内のプラズマの状態に異常をきたし、成膜を施す処理の均一性が悪くなる。その為、真空容器内に異常放電がある状態を速やかに検知し対策を行なう必要がある。
【0004】
この対策として、高周波信号を大電力に増幅した供給電力が印加される電極間と並列接続するようにスイッチング素子を設け、異常放電がある場合にスイッチング素子を閉成することにより、電極間に印加される電力を急速に絞り、異常放電を解消するものがある。(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、高周波発振器と増幅器との間に、一方の入力を高周波発振器からの高周波信号とし他方の入力をパルス発生器によって発生するパルス信号とするスイッチを設け、異常放電がある場合にスイッチ入力をパルス信号側に切替えることでパルス信号を出力し、これを大電力に増幅して電極間に印加することにより一時的に電力の供給を休止させて異常放電を解消するものがある。(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−311647号公報(2頁、図1)
【特許文献2】特開平8−167500号公報(2頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、電極間と並列接続されたスイッチング素子が閉成された際には電極間に印加される大電力に増幅された供給電力がスイッチング素子にも印加される。この場合、スイッチング素子は増幅した後の大電力環境に設けられている為、異常放電の発生状況に応じて電極間のインピーダンスが変動することでスイッチング素子に大電流が流れ、スイッチング素子が故障し動作不良を起こす恐れがあるので信頼性に問題があった。一方、特許文献2では、異常放電がある場合に増幅前の小電力環境にてパルス信号を発生させて切替え、これを大電力に増幅して電極間に印加する為、信頼性は向上するが、導入するガスの種類によっては、形成されたプラズマにおけるラジカルやイオンの寿命が短い為、電力供給の休止によって処理に必要なラジカルやイオンが消滅している期間が生じ、その間の処理が滞ることとなり、処理効率の低下を招くという新たな問題点があった。
【0008】
本発明は、上述のような問題を解決するためになされたもので、導入するガスの種類によらず異常放電状態における処理効率を向上し、信頼性の優れた高周波プラズマ処理方法及び高周波プラズマ処理装置を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る高周波プラズマ処理方法においては、二つの電極が所定の間隔あけて対向配置された真空容器内に所定のガスを導入し、処理対象物を前記二つの電極の電極間に配置した状態で、高周波電源から入力される高周波信号を用いて第一の放電供給信号生成ステップで出力される信号の最大振幅レベルを所定の振幅に増幅させて前記電極間に印加することにより、前記電極間に放電を発生させてプラズマを形成し前記処理対象物に所定の処理を施すようにしたものであって、前記第一の放電供給信号生成ステップは、前記真空容器内が通常放電状態のときは前記高周波信号を、異常放電状態のときは前記高周波信号と前記高周波信号よりも周波数の低い中間周波数信号とで振幅変調した信号を出力することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明は、真空容器内が異常放電状態のときは、高周波信号と高周波信号よりも周波数の低い中間周波数信号とで振幅変調したものを生成し、これの最大振幅レベルを所定の振幅に増幅しているので、異常放電状態のときに、電極間に印加する電力供給を休止することなく、振幅に変動を持たせる信号を小電力環境にて生成して印加することが可能となり、異常放電状態における処理効率が向上し、信頼性の高いプラズマ処理を実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の形態1を示す高周波プラズマ処理装置である。
【図2】この発明の実施の形態1を示す高周波プラズマ処理装置における放電供給信号生成部のブロック図である。
【図3】この発明の実施の形態1を示す高周波プラズマ処理装置における振幅変調手段による結果を示す図である。
【図4】この発明の実施の形態1を示す高周波プラズマ処理装置における判定部のブロック図である。
【図5】この発明の実施の形態2を示す高周波プラズマ処理装置における放電供給信号生成部のブロック図である。
【図6】この発明の実施の形態3を示す高周波プラズマ処理装置における放電供給信号生成部のブロック図である。
【図7】この発明の実施の形態4を示す高周波プラズマ処理装置における放電供給信号生成部のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
図1は、この発明を実施するための実施の形態1における高周波プラズマ処理装置であり、例として処理対象物に薄膜を成膜する際の高周波プラズマ処理装置の構成を示すものである。まず高周波プラズマ処理装置における真空容器5内の構成及び処理動作について説明する。図1において、真空容器5は底面の中央部に開口部を有する容器であり、バルブ11を介して真空ポンプ12と接続され、さらにガス導入口13とも接続されている。ここでガス導入口13はアルゴンガスなどのガスを真空容器5内に導入する際のガス導入口であり、ガス導入口13から真空容器5の排気はできない構造である。また、真空容器5の開口部縁部の全周にわたって絶縁体10を真空容器5の内側に向けて設け、その絶縁体10を介して電極61が真空容器5の内部側に開口部を塞ぐ様に設置されている。また電極62は真空容器5内部に電極61に所定間隔をおいて対向配置され、接地されている。
【0013】
次に異常放電のない通常時の処理対象物7に薄膜を成膜する際の処理工程及び動作を説明する。図1に示す高周波プラズマ処理装置においては、電極61側にターゲット材料8を配置し電極62側に処理対象物を配置する方式を使った高周波プラズマ処理装置として説明を行なう。まずガス導入口13からアルゴンガスを少量導入し、バルブ11と真空ポンプ12によって排気を行うことで真空容器5内の気圧を調整するとともに、薄膜の材料となるターゲット材料8を電極61の真空容器5の内部側に配置し、処理対象物7を電極62のターゲット材料8に向かう面側に配置する。この状態で電極61及び接地された電極62の電極間に高周波の供給電力を印加する。これによって電極間にプラズマ14が形成され、アルゴンイオンおよびアルゴンラジカルがターゲット材料8に衝突し、はじき出されたターゲット材料8の原子が処理対象物7に到達し、薄膜が成膜される。また導入するアルゴンガスに微量の酸素や窒素を混ぜることで薄膜の組成を制御することもできる。
【0014】
一般的によく使われる方法として図1に示すように、電極61およびターゲット材料8の周囲でかつ処理対象物7に対向して直面する領域以外を接地されたアースシールド16で覆うように設けることで、真空容器5内における電極間での不要なプラズマ形成を抑圧することができる。さらに電極61の真空容器5外側の面でターゲット材料の直下にあたる領域に永久磁石15を配置することでプラズマ14を永久磁石15による磁力線により高密度に閉じ込めることで処理効率を向上させることができる。このような磁場を利用したものを一般的にマグネトロン放電といい、このマグネトロン放電を利用した高周波プラズマ処理装置において導入ガスとしてアルゴンガスを使用する場合には真空容器5内の気圧調整する気圧はおよそ0.1Paである。
【0015】
ここで異常放電について説明する。例えば酸化物など体積抵抗率の高いターゲット材料8を薄膜の材料として処理対象物7に成膜を施す処理を連続的に行なうと、処理対象物7に成膜されなかったターゲット材料8の原子などがターゲット材料8の表面に付着することがある。このように体積抵抗率の高いものがターゲット材料8の表面に付着した場合、その付着箇所の絶縁性が局所的に高くなる。このような絶縁性の違う箇所が局所的に現れると、そこに電界集中を引き起こすことになり結果、真空容器5内で微小なアーク放電に至る場合がある。このようなアーク放電が発生すると、ターゲット材料8の損傷や、処理対象物7への異物付着などが起こる為、薄膜の均一性の低下など処理装置にとって悪い影響を与えることが知られている。本発明では、このようなアーク放電を異常放電とする。
【0016】
次に高周波プラズマ処理装置における、電極61及び電極62の電極間に高周波の供給電力を印加するための手段について説明する。図1において高周波電源1は放電供給信号生成部2を介して増幅器3に接続され、整合回路4を経て電極61に接続されている。また図1では増幅器3と整合回路4との間に真空容器5内が通常放電状態か異常放電状態かの判定を行う判定部9を構成しているが、本発明において判定部9の構成位置は増幅器3と整合回路4との間に限るものではない。高周波電源1は、例えば水晶発振子などを用いて構成する発振回路で特定の周波数における波形信号(以下、高周波信号a)を発生させ出力するものである。高周波信号aの特定の周波数は13.56MHzなどが挙げられる。
【0017】
次に本実施の形態の特徴である放電供給信号生成部2について説明する。図2は本実施の形態の放電供給信号生成部2を示す図である。信号波生成手段21は中間周波数信号発生器211を有し中間周波数信号発生器211の出力そのものを信号波生成手段21の出力として出力する。ここで中間周波数信号発生器211は、所定の周波数を発振する水晶発振子などを用いて構成する発振回路2111を動作させ中間周波数信号bを発生させるものであり、中間周波数信号bにおける所定の周波数とは、高周波信号aの周波数よりも低い周波数で、高周波信号aの周波数が13.56MHzである際は0.1kHzから500kHz程度が望ましい。振幅変調手段22は二つの入力より振幅変調を行なう振幅変調回路221と、所定の周波数領域の信号成分のみを通過させるフィルタ222とを有する手段であり、一方の入力を高周波信号aとし、他方を信号波生成手段21の出力である中間周波数信号bとする。振幅変調回路221は例えばトランジスタを用いたコレクタ変調回路などによって構成するのが一般的である。また、振幅変調回路221の結果に対して、所定の周波数領域の信号成分のみを通過させるフィルタ222を設けることにより、高周波電源1と中間周波数信号発生器211とから出力されるそれぞれの所望の周波数成分以外の不要信号による振幅変調後の不要成分を除外することができる。所定の周波数領域とは中間周波数bの周波数以上、高周波信号aの周波数と中間周波数bの周波数との和以下の周波数領域である。
【0018】
図3は振幅変調手段22における、高周波信号aと中間周波数信号bとで振幅変調を行なった際の振幅変調結果cを示す図である。振幅変調結果cは高周波信号aの周波数と中間周波数信号bの周波数との積を得るものであり、振幅変調結果cにおける最大振幅と最小振幅の比は、高周波信号の振幅レベルと中間周波数信号の振幅レベルとの比に依存する。異常放電を消滅させる上で、増幅器3の入力となる振幅変調結果cの最小振幅が最大振幅のおよそ1/2から1/3になるように、高周波信号の振幅レベルと中間周波数信号の振幅レベルとを設定することが望ましい。
【0019】
切替手段24は判定部4の結果に基づいて高周波信号aと振幅変調手段22の出力とを切り替えるものである。放電供給信号生成部2は切替手段24の出力を放電供給信号dとして出力する。
【0020】
増幅器3は、放電供給信号dの最大振幅レベルを所定の振幅レベルにした上で所定の増幅度によって大電力信号に増幅するものであり、所定の増幅度は例えばおよそ数mW程度の信号を、電極61にかかる電力密度として0.1[W/cm]から10[W/cm]程度に増幅するものである。整合回路4は、増幅器3の出力インピーダンスと電極61及び62の電極間が持つインピーダンスとが一致するように整合回路4内の回路定数を調整するものである。
【0021】
図4は増幅器3と整合回路4との間に構成した通常放電状態か異常放電状態かの判定を行う判定部9を示す図である。ここで本発明において異常放電状態とは、異常放電が所定の閾値以上の頻度で発生している状態を異常放電状態とし、それ以外の状態を通常放電状態とする。増幅器3と整合回路4との間に方向性結合器91を設け、進行波入力に増幅器3を、反射波入力に整合回路4を接続する。方向性結合器91は線路上を特定の方向に伝搬する電力の一部を別のポートに取り出すことができるものであり、増幅器3から整合回路4へ伝播する電力の一部を進行波検波手段92へ、電極間から整合回路4を介して増幅器3へ伝播する電力の一部を反射波検波手段93へ供給する。進行波検波手段92及び反射波検波手段93はそれぞれが供給された電力を測定し異常放電発生検知手段94に測定した電力レベルを出力する。異常放電発生検知手段94は進行波の電力レベルに対する反射波の電力レベルの比が第一の所定の閾値よりも大きい場合に異常放電が発生していると検知する。異常放電状態判定手段95は異常放電発生検知手段94にて異常放電が発生していると検知された頻度が、第二の所定の閾値以上である場合に異常放電状態と判定し、出力する。この際、第二の所定の閾値を1として、一度でも異常放電が発生していると検知された際に異常放電状態と判定しても構わない。このように、電極間側のインピーダンスが異常放電の発生状況に応じて変動することにより電極間から整合回路4を介して反射される反射波の電力時間変動が大きくなることを利用して通常放電状態か異常放電状態かの判定を行うことが可能である。
【0022】
また、別の異常放電検知方法として電流を電流計により測定し、電流値が急激に増加した場合に異常放電が発生していると検知することも可能であり、周波数が数MHzまでであればこの方法で簡便に異常放電発生の検知が可能である。
【0023】
次に高周波プラズマ処理装置の供給電力を印加するための手段における動作について詳細に説明する。高周波電源1を作動して高周波信号aを放電供給信号生成部2に入力する。処理開始時は判定部9の異常放電状態判定手段95は異常放電の発生がないので通常放電状態と判定している。この時、放電供給信号生成部2の切替手段24は高周波信号aに切り替え、放電供給信号生成部2は高周波信号aを出力として増幅器3に入力する。増幅器3は、これの最大振幅レベルを所定の振幅レベルにした上で所定の増幅度によって大電力信号に増幅し、整合回路4を介して電極61及び62の電極間に印加する。この時、増幅器3の入力信号は高周波信号aである為、電極間に印加される信号の振幅は変動のない一様なものである。真空容器5内に異常放電がなければ電極間から整合回路4を介して増幅器3へ伝播する反射波は小さい為、判定部9の異常放電発生検知手段94は第一の所定の閾値以下である為、異常放電の発生を検知しない。従って判定部9の異常放電状態判定手段95は通常放電状態であると判定する。
【0024】
真空容器5内で異常放電が発生し始めると、電極間のインピーダンスが異常放電の発生状況に応じて変動し、電極間から整合回路4を介して反射波の電力時間変動が大きくなる。判定部9の異常放電発生検知手段94は反射波の電力時間変動が大きくなることを受けて、進行波の電力レベルに対する反射波の電力レベルの比が第一の所定の閾値よりも大きくなり、異常放電の発生を検知する。ただし、異常放電が発生していると検知された頻度が第二の所定の閾値以下であれば異常放電状態判定手段95では通常放電状態であると判定することとなる。この場合、放電供給信号生成部2の切替手段24は依然として高周波信号aに切り替えたままである為、増幅器3の入力は高周波信号aのままである。
【0025】
異常放電発生検知手段94において異常放電が発生していると検知された頻度が第二の所定の閾値より大きくなると、異常放電状態判定手段95は異常放電状態であると判定する。この場合、放電供給信号生成部2の切替手段24は、高周波信号aと中間周波数信号bとの振幅変調結果にフィルタ222を通過させた信号を放電供給信号dとして増幅器3に入力する。増幅器3は、この最大振幅レベルを所定の振幅レベルにした上で所定の増幅度によって大電力信号に増幅し、整合回路4を介して電極61及び62の電極間に印加する。この際、増幅器3出力の最大振幅レベルは通常放電状態のときと同じ振幅であるが、振幅レベルは変化する為、通常放電状態のときよりも電力は小さくなる。このように印加される供給電力が異常放電を解消する電力まで小さくなることで、真空容器5内の異常放電は解消する。解消すれば電極間から整合回路4を介して増幅器3へ伝播する反射波は小さくなり、判定部9の異常放電発生検知手段94によって異常放電が発生していると検知された頻度が第二の所定の閾値以下になり、異常放電状態判定手段95は通常放電状態に戻る。通常放電状態に戻れば、放電供給信号生成部2の切替手段24は高周波信号aに切り替えることになり、元の通常時の処理に戻ることになる。
【0026】
本実施の形態によれば、真空容器内が異常放電状態のときは、高周波信号と高周波信号よりも周波数の低い中間周波数信号とで振幅変調したものを生成し、これの最大振幅レベルを所定の振幅に増幅しているので、異常放電状態のときに、電極間に印加する電力供給を休止することなく、振幅に変動を持たせる信号を小電力環境にて生成して印加することが可能となり、異常放電状態における処理効率が向上し、信頼性の高いプラズマ処理を実現することができるという効果を奏する。また薄膜の成膜処理を行なう高周波プラズマ処理装置においてはアーク放電の発生によって引き起こされる処理対象物への異物付着などが減少することで、被加工物への薄膜の膜厚均一性が厳しく求められる用途、例えば太陽電池や光学薄膜の用途に対して、被加工物の不良率を大幅に低減できるので、生産効率が向上するという効果を奏する。
【0027】
また、中間周波数信号発生器211に設定値に基づいて中間周波数信号の振幅レベルを制御する振幅レベル制御回路2112を設けて振幅変調手段22に入力する構成にすることで振幅変調結果cにおける最小振幅と最大振幅の比を調整することが可能となるので、異常放電状態のときの供給電力を調整することが可能となる。これは導入ガスの種類やターゲット材料8の種類などで真空容器5内の環境が変わることにより異常放電が消滅する供給電力のレベルが変わることに対して、異常放電が消滅しかつ処理効率の高い供給電力のレベルに調整することを簡単に可能にするという効果を奏する。
【0028】
なお、放電供給信号生成部2における切替手段24は高周波信号を分岐する箇所にも切替手段24と同じ制御で切り替えられる切替手段を持ち、高周波信号が通常放電状態のときに流れる系と異常放電状態のときに流れる系とを排他的に切り換わる構成としても同様の効果を得られる。
【0029】
実施の形態2.
実施の形態1では放電供給信号生成部において判定部の結果に基づいて高周波信号と、高周波信号及び中間周波数信号で振幅変調した信号とから切替えて供給するように構成しているが、図5に示す放電供給信号生成部のように振幅変調手段に入力する一方を判定部の結果に基づいて所定の固定位相信号と中間周波数信号とから切替えて、高周波信号との振幅変調した信号を供給するように構成しても良い。なお、本実施の形態では図5に示す放電供給信号生成部以外の構成及び動作は実施の形態1と同様である為、ここでは本実施の形態の放電供給信号生成部に関する構成及び動作にのみ説明する。
【0030】
図5は本実施の形態の特徴である放電供給信号生成部を示す図であり、入力される高周波信号aは振幅変調手段22の一方に入力され、振幅変調手段22の他方の入力は信号波生成手段21と接続され、振幅変調回路221の結果にフィルタ222を通過させたものを放電供給信号生成部の出力とするものである。ここで振幅変調手段22は実施の形態1と同様のものである為、ここでは説明しない。本実施の形態における信号波生成手段21は実施の形態と同じ中間周波数発生器211を有し、判定部9の結果に基づいて通常放電状態のときは所定の固定電位信号、異常放電状態のときは中間周波数発生器211の結果に切り替えるものである。本実施の形態における信号波生成手段21は実施の形態と同じ中間周波数発生器211を有し、判定部4の結果に基づいて通常放電状態のときは所定の固定電位信号と中間周波数発生器211の結果とを切り替えるものである。
【0031】
次に動作について詳細に説明する。判定部9の結果が通常放電状態のとき、信号波生成手段21は所定の固定電位信号に切替え、これを振幅変調手段22の他方に入力する。このとき放電供給信号生成部2では高周波信号aと固定電位信号との振幅変調結果、すなわち振幅レベルが均一な振幅変調結果にフィルタ222を通過させた信号を得られ、これを増幅器3に出力する。従って、増幅器3によって最大振幅レベルを所定の振幅レベルにした上で所定の増幅度によって大電力信号に増幅したものは実施の形態1と同様の信号が得られる。
【0032】
一方、判定部9の結果が異常放電状態のとき、信号波生成手段21は中間周波数発生器211の結果に切替え、これを振幅変調手段22の他方に入力する。すなわち放電供給信号生成部2の出力は、高周波信号aと中間周波数信号bとの振幅変調結果にフィルタ222を通過させた信号となる為、電極間に印加する供給電力も実施の形態1と同様となる。
【0033】
本実施の形態によれば、上記実施の形態1と同様の効果を奏することができ、所期の目的を達成し得ることはいうまでもない。
【0034】
実施の形態3.
上記実施の形態2における信号波生成手段21では判定部9の結果に基づいて所定の固定位相信号と中間周波数信号とから切替えて高周波信号との振幅変調した信号を供給する構成としているが、図6に示す放電供給信号生成部のように信号波生成手段21において、中間周波数発生器211への電源供給を制御し中間周波数発生器211の出力を信号波生成手段21の出力としても構わない。なお、本実施の形態では図6に示す放電供給信号生成部の信号波生成手段21以外の構成及び動作は実施の形態2と同様である為、ここでは本実施の形態の信号波生成手段21に関する構成及び動作にのみ説明する。
【0035】
図6は本実施の形態の特徴である放電供給信号生成部を示す図であり、入力される高周波信号aは振幅変調手段22の一方に入力され、振幅変調手段22の他方の入力は信号波生成手段21と接続され、振幅変調回路221の結果にフィルタ222を通過させたものを放電供給信号生成部の出力とするものである。ここで振幅変調手段22は実施の形態1と同様のものである為、ここでは説明しない。
【0036】
図6は本実施の形態の特徴である放電供給信号生成部を示す図であり、入力される高周波信号aは振幅変調手段22の一方に入力され、振幅変調手段22の他方の入力は信号波生成手段21と接続され、振幅変調回路221の結果にフィルタ222を通過させたものを放電供給信号生成部の出力とするものである。ここで振幅変調手段22は実施の形態1と同様のものである為、ここでは説明しない。信号波生成手段21は、中間周波数発生器211の動作を停止または作動に切替えるスイッチを有する。これは中間周波数発生器211への電源入力に電源電圧を供給するかしないかを切替え、切替え結果を中間周波数発生器211の電源入力に接続することで実現できる。
【0037】
次に動作について詳細に説明する。判定部9の結果が通常放電状態のとき、信号波生成手段21は中間周波数発生器211への電源供給を止めることで中間周波数発生器211の動作を停止し無信号を得て、これを振幅変調手段22の他方に入力する。このような特定の周波数成分を持たない無信号と高周波信号aとで振幅変調を行ない、フィルタ222を通過した信号は高周波信号aがそのまま得られる。
【0038】
一方、判定部9の結果が異常放電状態のとき、信号波生成手段21は中間周波数発生器211への電源供給を行なうことで中間周波数発生器211を動作させて中間周波数信号bを得て、これを振幅変調手段22の他方に入力する。すなわち放電供給信号生成部2の出力は、高周波信号aと中間周波数信号bとの振幅変調結果にフィルタ222を通過させた信号となる為、電極間に印加する供給電力も実施の形態1と同様となる。
【0039】
本実施の形態によれば、上記実施の形態2と同様の効果を奏することができ、所期の目的を達成し得ることはいうまでもない。さらに通常放電状態時に中間周波数発生器211への電源供給を止めるようにしたので、プラズマ処理にかかる消費電力が削減できるという新たな効果を奏する。
【0040】
実施の形態4.
上記各実施の形態では、振幅レベル制御回路2112は設定値に基づいて中間周波数信号bの振幅レベルを制御するとしていたが、本実施の形態における振幅レベル制御回路2112では、判定部9で異常放電状態とした時点から所定の時間継続したことを示すタイマー手段24を設け、振幅レベル制御回路2112はタイマー手段24の結果に応じて中間周波数信号bの振幅レベルを制御するものである。また本実施の形態の高周波プラズマ処理装置の放電供給信号生成部に関する構成及び動作以外は実施の形態3と同様である為、ここでは本実施の形態における放電供給信号生成部に関する詳細な説明のみ行なう。
【0041】
図7は、この発明を実施するための実施の形態4における高周波プラズマ処理装置の、放電供給信号生成部を示す図である。本実施の形態における放電供給信号生成部2は、高周波信号aと信号波生成手段21の結果とを振幅変調手段22によって振幅変調し、フィルタ222によって所定の周波数領域の信号成分のみを通過させ、その周波数領域の信号成分を除外し増幅器3に供給する構成である。信号波生成手段21は中間周波数の信号を発振させる発振回路2111と発振回路2111の出力の振幅レベルを可変にする振幅レベル制御回路2112を有する。また判定部4の結果に関して異常放電でないときから異常放電であるとなった時点から異常放電状態が所定の時間継続した際に、異常放電状態の継続時間超過を示す信号を出力するタイマー手段24を設けている。
【0042】
次に動作について詳細に説明する。通常放電状態のときは、信号波生成手段21は中間周波数発生器211への電源供給を止めることで中間周波数発生器211から無信号を得ることで放電供給信号生成部の出力として高周波信号aそのものを得て、これを増幅器3に供給する。
【0043】
判定部4の結果が通常放電状態から異常状態に変わったとき、中間周波数発生器211への電源供給を行ない、発振回路2111によって発振された中間周波数の信号に対して振幅レベル制御回路2112にて所定の振幅レベルに初期設定したものを振幅変調手段21に供給することで高周波信号と中間周波数信号とで振幅変調された信号を生成し、これを増幅器3に供給する。ここでタイマー手段24ではこの通常放電状態から異常放電状態に変わった時刻から動作を開始し、異常放電状態が所定の時間継続した時に異常放電状態の継続時間超過を示す信号を出力する。ここで、タイマー手段24は所定の時間を経過する前に判定部4の結果が通常放電状態に戻った際にはタイマー手段は動作を停止し、次回の動作まで待機するとともに放電供給信号生成部は通常放電状態の動作に戻る。
【0044】
タイマー手段24が異常放電状態の継続時間超過を示す信号を出力した場合、振幅レベル制御回路2112はそれまでの振幅レベルよりも大きい振幅レベルになるように再設定を行なう。これによって振幅変調手段22の一方に入力される中間周波数の振幅レベルが変わり、振幅変調手段22の他方に入力される高周波信号との振幅レベルの比が変わることで、増幅器3の入力となる振幅変調結果cにおける最小振幅と最大振幅との差が大きくなることで、増幅器3の出力の供給電力がさらに小さくなる。従って、異常放電状態となってから所定の時刻が経過してもなお異常放電状態が解消しなかった場合に、より異常放電を消滅しやすい供給電力に引き下げることが可能となる。
【0045】
本実施の形態によれば、タイマー手段を備えて異常放電状態の継続時間経過をみて中間周波数の振幅レベルを再設定するようにしたので、異常放電状態を解消する必要最低限の供給電力に初期設定した場合においても異常放電状態が解消しなかった際に自動的に異常放電状態が解消しうる供給電力にまで下げることができるという新たな効果を奏する。これは特に異常放電状態のときの供給電力の引き下げを必要最低限の供給電力に留めておくことで、異常放電状態のときの処理効率の低下を最小限に抑えることに有効である。
【0046】
また、タイマー手段での所定の期間を複数持つことにより、再設定の機会を複数回にして段階的に設けるとしても構わない。さらに、振幅レベル制御回路2112の振幅レベルの設定に関して、初期設定及び再設定時の設定値若しくは設定値幅を固有の値とせずに、外部から設定できるものとすることにより、導入ガスの種類やターゲット材料8の種類などで真空容器5内の環境が変わることに対応して最適な設定値を簡単に変更することが可能となる。
【0047】
加えて、判定部9の判定が異常放電状態から通常放電状態に変わった時点の振幅レベル制御回路2112における中間周波数の振幅レベルまたは設定値を記憶する記憶手段25を備えることにより、どの程度の中間周波数の振幅レベルまたは設定値で異常放電が消滅したかを記録することができるため、プラズマ処理時の異常放電に関する履歴を管理することが可能となり、振幅レベル制御回路2112における振幅レベル設定の最適な初期設定及び再設定時の設定値若しくは設定値幅などを探索することができるという新しい効果を奏する。
【符号の説明】
【0048】
1:高周波電源
2:放電供給信号生成部
3:増幅器
5:真空容器
61:電極
62:電極
7:処理対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの電極が所定の間隔あけて対向配置された真空容器内に所定のガスを導入し、処理対象物を前記二つの電極の電極間に配置した状態で、高周波電源から入力される高周波信号を用いて第一の放電供給信号生成ステップで出力される信号の最大振幅レベルを所定の振幅に増幅させて前記電極間に印加することにより、前記電極間に放電を発生させてプラズマを形成し前記処理対象物に所定の処理を施す高周波プラズマ処理方法であって、
前記第一の放電供給信号生成ステップは、
前記真空容器内が通常放電状態のときは前記高周波信号を、異常放電状態のときは前記高周波信号と前記高周波信号よりも周波数の低い中間周波数信号とで振幅変調した信号を出力する
ことを特徴とする高周波プラズマ処理方法。
【請求項2】
二つの電極が所定の間隔あけて対向配置された真空容器内に所定のガスを導入し、処理対象物を前記二つの電極の電極間に配置した状態で、高周波電源から入力される高周波信号を用いて第二の放電供給信号生成ステップで出力される信号の最大振幅レベルを所定の振幅に増幅させて前記電極間に印加することにより、前記電極間に放電を発生させてプラズマを形成し前記処理対象物に所定の処理を施す高周波プラズマ処理方法であって、
前記第二の放電供給信号生成ステップは、
前記真空容器内が通常放電状態のときは前記高周波信号と所定の固定電位信号とで振幅変調した信号を、異常放電状態のときは前記高周波信号と前記中間周波数信号とで振幅変調した信号を生成し出力する
ことを特徴とする請求項1に記載の高周波プラズマ処理方法。
【請求項3】
前記中間周波数信号は、その振幅レベルを振幅レベル制御ステップにより変更するようにした
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高周波プラズマ処理方法。
【請求項4】
前記振幅レベル制御ステップは、
前記真空容器内で異常放電状態が所定の時間継続した場合に、前記中間周波数信号の振幅レベルをさらに大きくする
ことを特徴とする請求項3に記載の高周波プラズマ処理方法。
【請求項5】
二つの電極が所定の間隔あけて対向配置された真空容器内に所定のガスを導入し、処理対象物を前記二つの電極の電極間に配置した状態で、高周波電源から入力される高周波信号を用いて第一の放電供給信号生成部で出力される信号の最大振幅レベルを所定の振幅に増幅させて前記電極間に印加することにより、前記電極間に放電を発生させてプラズマを形成し、前記処理対象物に所定の処理を施す高周波プラズマ処理装置であって、
前記放電供給信号生成部は、
前記高周波信号よりも周波数の低い中間周波数信号を発生する中間周波数信号発生器を有する第一の信号波生成手段と、
二つの入力より振幅変調する振幅変調手段とを備え、
前記放電状態が通常放電状態のときは前記高周波信号を、異常放電状態のときは前記高周波信号と前記中間周波数信号とを振幅変調した信号を出力する
ことを特徴とする高周波プラズマ処理装置。
【請求項6】
二つの電極が所定の間隔あけて対向配置された真空容器内に所定のガスを導入し、処理対象物を前記二つの電極の電極間に配置した状態で、高周波電源から入力される高周波信号を用いて第二の放電供給信号生成部で出力される信号の最大振幅レベルを所定の振幅に増幅させて前記電極間に印加することにより、前記電極間に放電を発生させてプラズマを形成し、前記処理対象物に所定の処理を施す高周波プラズマ処理装置であって、
前記第二の放電供給信号生成部は、
前記高周波信号よりも周波数の低い中間周波数信号を発生する中間周波数信号発生器を有し、前記真空容器内が通常放電状態のときは所定の固定電位信号もしくは無信号を、異常放電状態のときは前記中間周波数信号を出力する第二の信号波生成手段と
二つの入力より振幅変調する振幅変調手段とを備え、
前記高周波信号と前記第二の信号波生成手段結果とを前記振幅変調手段の入力とし振幅変調したものを出力とする
ことを特徴とする請求項5に記載の高周波プラズマ処理装置。
【請求項7】
前記第二の信号波生成手段は、
前記真空容器内が通常放電状態のときは前記中間周波数信号発生器の動作を休止、異常放電状態のときは前記中間周波数信号発生器の動作を稼動に切替える動作スイッチを有し、
第二の信号波生成手段の出力を前記第二の信号波生成手段出力とする
ことを特徴とする請求項6に記載の高周波プラズマ処理装置。
【請求項8】
前記中間周波数信号発生器は、
前記中間周波数信号の振幅レベルを設定値に基づいて変更する振幅レベル制御回路を有し、
前記振幅レベル制御回路の結果を前記中間周波数信号発生器の出力とする
ことを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか一項に記載の高周波プラズマ処理装置。
【請求項9】
前記放電供給信号生成部は、
前記真空容器内の異常放電状態が所定の時間継続したときに信号を出力するタイマー手段を設け、
前記振幅レベル制御回路は、
前記タイマー手段からの出力信号により、前記中間周波数信号の振幅レベルをさらに大きくする
ことを特徴とする請求項8に記載の高周波プラズマ処理装置。
【請求項10】
前記放電供給信号生成部は、
前記真空容器内が通常放電状態に戻ったときの前記中間周波数信号の振幅レベルを記憶する記憶回路を有する
ことを特徴とする請求項9に記載の高周波プラズマ処理装置。
【請求項11】
前記振幅変調手段は、
前記中間周波数を下限とし、前記高周波信号の周波数と前記中間周波数との和までの周波数を上限とする周波数領域の信号成分のみを通過するフィルタを前記振幅変調手段の出力に有する
ことを特徴とする請求項5から請求項10のいずれか一項に記載の高周波プラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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