説明

高周波加熱調理器の運転制御方法及びその運転制御方法を用いる高周波加熱調理器

【課題】複数のマグネトロンの一部が故障停止したときに、使用者の観察と判断を必要とする手動操作を要することなく、自動的な加熱調理パラメーターの設定を行って加熱出力の低下を補う高周波加熱調理器の運転制御方法を提供する。
【解決手段】複数のマグネトロンの故障停止部位に応じて、稼働可能なマグネトロンによって故障停止前と同様の加熱調理を行うための代替加熱パラメーターを予め記憶させておく。マグネトロンの故障停止時に、1管故障状態か否かを判定し(S3)、1管故障状態であれば1管動作許可設定済みか否かを判定する(S4)。1管動作許可設定済みであれば、代替加熱パラメーターを起用して自動的に加熱パラメーターを設定し、多段加熱の各ステージで加熱補正を行い(S5)、補正された加熱で調理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、業務用等の上下2管式電子レンジのような高周波加熱調理器の運転制御方法及びその運転制御方法を用いる高周波加熱調理器に関し、特に、上下2管のうち1管が故障停止した場合の最適加熱を行う運転制御方法及び高周波加熱調理器に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱調理器は、被加熱物を加熱するための加熱室と、マイクロ波を発生させるためのマグネトロンと、該マグネトロンが発生したマイクロ波を前記加熱室へ導くための導波管と、前記マグネトロンを冷却するための送風機とを備える(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
業務用の加熱調理器は、加熱室の上部一側に横方向へ離隔して並置される2つのマグネトロンと、マグネトロン夫々の上側に配された2つの導波管と、マグネトロン夫々の下側に配された2つの送風機と、送風機夫々が吹出した空気を各マグネトロンの周りに送風する2つの送風路とを備え、2つのマグネトロンで発生したマイクロ波を、2つの導波管を伝搬して加熱室に放射するように構成されている(例えば、特許文献1参照)。また、業務用として、マグネトロンを上下に2管備えた上下2管式電子レンジも提供されている。
【0004】
図11は、上下2管式電子レンジの一例を示す後方斜視図である。図11に示すように、
電子レンジは、加熱調理器本体10のキャビネット11(ベース11aと前フレーム11bのみを示す)に、2台のマグネトロンに相当する電磁波発生手段2,3を上下に搭載している。電磁波発生手段2,3は、駆動部22,32が上下に向かい合い、電磁波発生部21,31が駆動部22,32に対し上下の反対側に配されている。電磁波発生手段2,3がトランス4,4aによってそれぞれ駆動されることによって発生した電磁波は、電磁波供給手段5(他方の供給手段5aは下方に配置)を通じて、加熱調理器本体10の前方中央に配置されている加熱室(図示せず)に個別に導かれる。電磁波供給手段を構成する導波管53,53aは、上下に配置されており、加熱調理器本体10の筐体13の後方から前方中央に延びている。送風機6,6aがそれぞれ電磁波発生部21,31を個別に冷却する。加熱室に関連して、内部の空気を外部に排気する排気ダクト14と、第3の送風機16からの空気を加熱室内に供給する給気ダクト15とが設けられている。
【0005】
交流電源に高圧発生装置を介して接続された二つのマグネトロンについては、交流電力の各サイクルの半波ごとにマイクロ波を発生させる運転制御が行われている。上下2管のうち1管が故障停止した場合、従来は、エラー表示を行うとともに加熱動作を停止させている。しかしながら、業務用の電子レンジでは、動作が全くできなくなると調理業務に支障があるため、ユーザー設定により1管出力のみで加熱可能としている例が見られる。
【0006】
2管式電子レンジにおける1管故障検知に関する技術の一例が、特許文献2に開示されている。この検知技術は、マイクロ波が発生されている期間では湿度信号がマイクロ波の影響によるノイズを含むことになることを利用しており、各管からマイクロ波が照射される各加熱室について、サンプリングされた湿度信号がマイクロ波の影響によるノイズを含むか否かを判断して、ノイズがどちらの湿度信号にも含まれていない場合に、マイクロ波が付勢されていないと判断している。
【0007】
特許文献3に、調理時間、仕上がり温度、加熱出力などの調理条件を調理ステップ順にプログラム設定する入力部と、この入力部によってプログラムされた調理ステップをステップ毎に順次記憶する記憶部と、この記憶した調理プログラムを実行命令するメモリースタートキーと、このメモリースタートキーからの信号によって上記記憶した調理ステップをステップ毎に順次実行する制御部と、からなり、上記制御部は、記憶された調理プログラムを調理ステップ毎に順次呼び出す呼び出し手段と、呼び出された調理ステップを記憶した加熱条件に応じて実行する信号を出力する制御信号出力手段と、呼び出された調理ステップの実行が終了したことを検知するステップ終了検知手段と、このステップ終了検知手段からの信号を上記呼び出し手段に入力することによって次の調理ステップを呼び出す調理ステップ更新手段と、から構成し、上記記憶部には、記憶した内容を保持する記憶保持手段を設けて成る調理プログラム可能な電子レンジが提示されている。なお、特許文献3に言う「(調理)ステップ」は、本願発明に言う「加熱ステージ」とほぼ同義と考えられる。
【0008】
近年の電子レンジでは、調理プログラムの記憶件数が大幅に増加したことから、使用者の操作性を向上するために、複数の調理プログラムを階層状に分類して加熱調理データベースとして記憶し、階層ごとの選択を可能にし、かつ、使用者の選択時の制御部による検索効率を向上させている。
【0009】
2つのマグネトロンを備える加熱調理器では、1つのマグネトロンが故障停止すると、この故障したマグネトロンを補修又は交換しないことには加熱量が不足し、十分満足できる加熱調理が得られない。1管での動作を可能とする設定を行ったとしても加熱時間については、ユーザー自身が調整する必要があった。また、補修・交換時には加熱調理の需要に対応することができない。
【0010】
1つのマグネトロンが故障停止した状態では、通常は、全体の出力が1/2になっているため、加熱時間を2倍、即ち2回連続で同じ加熱を行えばよい。しかしながら、出力の異なる多段加熱ステージがメモリーに設定されている場合は、2回連続で加熱すると各加熱ステージの出力順が意味を持たなくなり、仕上がりに影響がある。
【0011】
また、解凍シーケンス等のように、上下の出力比率が異なっている特殊なシーケンスについては、単純に加熱時間を追加するという対応を採ることができず、仕上がりを見ながら調整する必要がある。
【特許文献1】特開平5−322187号公報
【特許文献2】特開平4−92390号公報
【特許文献3】実開昭56−170602号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、高周波発生装置としてのマグネトロンを複数台備えており調理メニューに従って加熱物を加熱調理する高周波加熱調理器において、マグネトロンの一部の台が故障停止したときに、残りの稼働可能なマグネトロンで加熱を補う代替加熱によって調理メニューに応じた自動加熱調理を行う点で解決すべき課題がある。
【0013】
本発明の目的は、高周波発生装置としてのマグネトロンを複数台備えており調理メニューに従って加熱物を加熱調理する高周波加熱調理器において、マグネトロンの一部の台が故障停止したときに、残りの稼働可能なマグネトロンで加熱を補う代替加熱を自動的に選択することができる高周波加熱調理器の運転制御方法及びその運転制御方法用いる高周波加熱調理器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明による高周波加熱調理器の運転制御方法は、調理メニューに応じて、多段の加熱ステージを有し、それぞれの加熱ステージにおける複数のマグネトロンの加熱パラメーターを規定した加熱シーケンスをデータベースとして記憶し、選択された前記調理メニューに応じて前記データベースから選択された前記加熱シーケンスに従って前記多段の加熱ステージにおける前記複数のマグネトロンの前記加熱パラメーターを設定し、設定された前記加熱パラメーターに従って加熱物の加熱調理を行う高周波加熱調理器において、前記データベースに、前記複数のマグネトロンのうち少なくとも一台が故障停止したときに、残る少なくとも一台の前記マグネトロンによって加熱調理を行う複数の代替加熱シーケンスを設定して記憶し、少なくとも一台の前記マグネトロンが故障停止したことに応じて前記データベースから稼働可能なマグネトロンによって行うべき前記代替加熱シーケンスを選択し、選択された前記代替加熱シーケンスに従って前記加熱物の代替加熱を行う運転制御方法に特徴を有している。
【0015】
データベースには、複数のマグネトロンのうち少なくとも一台が故障停止したときに、残る少なくとも一台の稼働可能なマグネトロンによって加熱調理を行う複数の代替加熱シーケンスが設定されて記憶されているので、少なくとも一台のマグネトロンが故障停止したことに応じてデータベースから稼働可能なマグネトロンによって行うべき代替加熱シーケンスが自動的に選択され、選択された代替加熱シーケンスに従って加熱物の代替加熱が行われる。したがって、複数のマグネトロンのうち少なくとも一台が故障停止したとしても、ユーザーの操作を必要とすることなく、代替加熱シーケンスに従った加熱物の代替加熱が自動的に行われ、加熱調理の作業性の低下を抑えることができる。
【0016】
この高周波加熱調理器の運転制御方法において、前記加熱パラメーターは、前記各マグネトロンにおける加熱出力又は加熱時間とすることができる。加熱出力又は加熱時間の一方又は両方の組合せで、調理メニューによる加熱調理に近づけた代替加熱シーケンスを得ることができる。
【0017】
この高周波加熱調理器の運転制御方法において、前記代替加熱シーケンスの設定は、前記複数のマグネトロンが並行動作するときの前記加熱時間を、故障停止した前記マグネトロンに起因した加熱出力量の減少分を前記稼働可能なマグネトロンの前記加熱時間の延長によって補償する態様で補正して行うことができる。また、前記代替加熱シーケンスの設定は、前記複数のマグネトロンが並行動作するときの前記加熱出力を、故障停止した前記マグネトロンに起因した加熱出力量の減少分を前記稼働可能なマグネトロンの前記加熱出力の増加によって補償する態様で補正して行いことができる。加熱出力量の減少分を加熱出力の増加によって補償する場合、前記加熱出力量の減少分が前記稼働可能なマグネトロンの前記加熱出力の増加によって補償され切れないときには、前記代替加熱シーケンスの設定は、前記稼働可能なマグネトロンの前記加熱時間の延長によって更に補償する態様で補正して行うことができる。更に、前記代替加熱シーケンスの設定は、最終加熱ステージとして、前記稼働可能なマグネトロンによる加熱ステージを追加する態様で補正して行うことができる。
【0018】
例えば、上下2管のマグネトロンの場合、出力比率が同じ場合には、1管出力が2管出力相当を超えない出力に補正し、また2管出力相当にできない場合は、加熱時間を補正し、加熱を実行することができる。2管のマグネトロンの出力比率が異なる場合には、上側1管で加熱する時(下側1管故障停止)と下側1管で加熱する時(上側1管故障停止)とで最終加熱ステージに対して異なる比率(2管出力時の比率に基づく)で補正した加熱ステージを追加し、加熱を実行することができる。
【0019】
本発明は、上記のような運転制御方法を用いることを特徴とする高周波加熱調理器でもあり得る。即ち、高周波加熱調理器は、箱体と、加熱室と、制御手段と、記憶手段と、操作手段と、複数のマグネトロンとを有し、運転制御として、複数のマグネトロンの制御を上記の各運転制御方法を用いているので、一部のマグネトロンの故障停止時にも、次のメンテナンスのときまで、自動的に高周波加熱調理器を稼働継続させることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように構成された本発明による高周波加熱調理器の運転制御方法及びその運転制御方法を用いる高周波加熱調理器では、一部のマグネトロンの故障停止時に、残る稼働可能なマグネトロンによる加熱シーケンスが自動的に代替加熱シーケンスに補正され、高周波加熱調理器の運転が継続される。したがって、ユーザーによる調整の手間が無くなり、加熱物の調理仕上がりを見ながら調整をする必要が無くなり、ユーザーの作業・操作に求められる手間や負担を軽減することができる。
【0021】
また、加熱シーケンスが出力の異なる多段の加熱ステージから成る場合には、加熱調理の仕上がりが良くなり、1管(1つのマグネトロン)動作において、最短時間で加熱が可能となる。また、1回当たりの加熱における部品の使用時間/使用回数が最小限で実行できるので、高周波加熱調理器としての寿命を延ばすことができる。更にまた、上下それぞれ1管のみで加熱した場合の仕上がりばらつきが補正され、より好適な仕上がりが確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明による高周波加熱調理器及びその運転制御方法の実施例を説明する。図1は本発明による高周波加熱調理器の運転制御を司る制御装置とそれに関連する各種周辺装置との概略ブロック図である。
【0023】
図1に示すように、高周波加熱調理器は、その制御装置としてマイクロプロセッサ1を備えている。マイクロプロセッサ1の周辺には、電力供給を受ける電源2と、マイクロプロセッサ1からの指令によってユーザーに対して操作内容や制御内容を表示させる表示手段3と、ユーザーからの操作を受けてマイクロプロセッサ1に入力させる入力手段4と、マグネトロン1を制御するためのマグネトロン1用リレー5と、マグネトロン2を制御するためのマグネトロン2用リレー6と、マグネトロンや高圧トランス等の機器を冷却する冷却ファンを制御するための冷却ファンリレー7と、高周波加熱調理器の作動状態を検出するために高周波加熱調理器の各所に備えられている各種センサー8と、高周波加熱調理器の制御を行うために必要な各種データを記憶する不揮発性メモリー9とが配設されている。
【0024】
図2は、図1に示すマイクロプロセッサ1が高周波加熱調理器の制御に際して辿るフローチャートである。図2に示すように、入力手段4の一つである加熱スタートキーを操作しての入力等によって加熱が開始されると、前回の加熱時のマグネトロン出力状態を基に2管故障停止状態であるか否かが判定[ステップ1;以下、「S1」と略す。]され、2管故障停止状態であるならば、加熱動作を行わずエラー停止[S2]とする。S1の判定で2管故障停止状態ではないとされた場合には、どちらか1管のみ故障停止状態であるか否かが判定[S3]される。S3においてどちらか1管のみ故障停止状態であると判定された場合には、1管動作がユーザーにより許可設定済みであるか否かが判定[S4]される。S4の判定において1管動作許可設定済みでなければ、エラー停止[S2]とする。S4の判定において1管動作許可設定済みであれば、各加熱ステージに対して加熱時間(加熱出力)の補正[S5]を行い、その補正内容にて加熱動作[S6]を継続する。ここで、1管動作許可設定とは、一方のマグネトロンが故障停止した場合に加熱動作を他の稼働可能なマグネトロンの動作に切り換えるという代替加熱を許可する設定のことである。キー操作等によって、代替加熱の可否情報を切換パターン数に応じたビット情報或いはコード情報で設定し、そうした設定が不揮発性メモリーのような記憶手段に記憶される。一方のマグネトロンが故障停止した場合には、加熱動作はこの許可設定に基づいて他の稼働可能なマグネトロンによる代替加熱動作に自動的に切り換わる。
【0025】
図3〜図5は、本発明による高周波加熱調理器の運転制御方法の一例として、多段加熱ステージから構成される多段加熱シーケンスの一例を表の形態で示している。図3は上下に配置されている両マグネトロンが正常な場合に各マグネトロンの加熱時間と加熱出力を示し、図4は下マグネトロンが故障停止時における上マグネトロンの加熱時間を変更する運転制御方法を示している。
【0026】
図3に示すように、多段加熱シーケンスは、二つのマグネトロンが共に正常である場合に、各上下の加熱出力が対称である。即ち、第1〜第4の各加熱ステージにおいて、加熱時間が定められており、各加熱時間において上下のマグネトロンの加熱出力が同じである。下マグネトロンが故障停止した場合(加熱出力が0%)、図4に示すように、上1管の加熱出力をそのままに、加熱時間を2管動作時の加熱時間の二倍になるよう延長すれば、ほぼ同等の加熱調理を行うことができる。図3で上マグネトロンが故障停止した場合に、下1管の加熱時間を延長する場合の補正方法も同様である。このように加熱シーケンスを補正すれば、稼働するマグネトロンの発熱は2管動作時と大差ないので、マグネトロンの信頼性に対する影響は、運転時間の増加分だけ考慮すればよい。
【0027】
図5は、正常時に上下のマグネトロンの出力割合が同じである図3に示す多段加熱シーケンスにおいて、一方(下)のマグネトロンが故障停止したときの、別のマグネトロン(上マグネトロン)の加熱時間と加熱出力とを変更する運転制御方法を示している。この運転制御方法においては、図5に示すように、下1管(下マグネトロン)の加熱出力を2管合計の加熱出力相当にするよう増加補正する。ただし、加熱容量の限界から2管合計の加熱出力相当に増加できない場合は、あわせて、加熱時間を延長補正する。
【0028】
即ち、第1加熱ステージのように、正常時でも加熱出力が元々100%であるときには、加熱出力を増加できないので、加熱時間を二倍にする。第2加熱ステージのように、正常時に加熱出力が70%であるときには、トータルな加熱量は137(秒)×0.7×2(≒192)であるので、1管加熱のときに当該管の加熱出力100%とするときには、加熱時間を192(秒)、即ち、3分12秒にする。第3加熱ステージ及び第4加熱ステージでは、正常時の加熱出力がそれぞれ40%、20%であるので、加熱出力を二倍(80%と40%にしても100%以下)とする加熱出力増加で対応可能である。
【0029】
図3で、下マグネトロンが故障停止した場合に、上1管の加熱出力を増加補正し、加熱容量の限界から2管合計の加熱出力相当に増加できない場合は、併せて、加熱時間を延長する場合の補正方法も同様である。このように加熱シーケンスを補正すれば、加熱調理時間の延長が最低限に留められるので、料理注文後の待ち時間の長期化が避けられる。
【0030】
図6〜図8は、本発明による高周波加熱調理器の運転制御方法の一例として、多段加熱シーケンスの別の例を表の形態で示している。この多段加熱シーケンスでは、第2加熱ステージ以降、上下の出力比率が異なっている。図6は上下に配置されている両マグネトロンが正常な場合に各マグネトロンの加熱時間と加熱出力の割合を示し、図7は上マグネトロンが故障停止時における下マグネトロンの加熱時間と加熱出力を変更する運転制御方法を示している。
【0031】
図6に示すように、正常時において上下マグネトロンの加熱出力が異なる多段加熱シーケンスの場合、上マグネトロンが故障停止したときには、図7に示すように、まず、下1管の加熱出力を2管合計の加熱出力相当にするよう増加補正する。ただし、加熱容量の限界から2管合計の加熱出力相当に増加できない場合は、あわせて、加熱時間を増加補正する。例えば、第2加熱ステージにおいて、正常時の加熱量は、150(秒)×(0.6+0.8)=210であるから、これを下マグネトロンの1管だけで100%の加熱出力で賄うには210秒(3分30秒)の加熱時間で対処する。また、上1管のマグネトロンの故障停止により下1管のみで加熱した場合の仕上がりばらつきを補正するため、第5加熱ステージ(補正加熱ステージ)として、最終第4ステージ加熱時間の30%(加熱出力は最終加熱ステージと同じ40%)の加熱ステージを追加する。
【0032】
図6に示す多段加熱シーケンスの場合、下マグネトロンが故障停止したときには、まず、上1管の加熱出力を2管合計の加熱出力相当にするよう増加補正する。ただし、加熱容量の限界から2管合計の加熱出力相当に増加できない場合は、併せて、加熱時間を増加補正する。第1〜第4加熱ステージについては、図7に示す対処と同等である。下1管のマグネトロンの故障停止により上1管のみで加熱した場合の仕上がりばらつきを補正するため、第5ステージ(補正加熱ステージ)として、最終第4加熱ステージ加熱時間の10%(2管出力時の比率に基づく。加熱出力は最終加熱ステージと同じ40%)の加熱ステージを追加する。正常時の第4加熱ステージでは、元来、上マグネトロンの加熱出力が下マグネトロンよりも高いので、第5加熱ステージでの追加加熱時間の補正を抑えている。
【0033】
ここで、図9を参照して、従来の加熱調理データベースの一例を説明する。従来の加熱調理では、加熱ステージ毎に規定された加熱出力と加熱時間を順次適用して加熱調理を行う。ここで、加熱ステージ毎に規定された加熱出力と加熱時間の組み合わせを加熱調理パラメーターと呼ぶ。加熱調理パラメーターは、調理品目(以下、メニューと呼ぶ)毎に異なることから、加熱調理器の制御部は、メニューを検索キーとしたデータベースを記憶部に記憶し、使用者の指定したメニューをもとに、当該メニューに対応した加熱調理パラメーターを検索する機能を有している。
【0034】
メニュー1の加熱調理パラメーターでは、上下のマグネトロンの加熱出力が全て対称であるが、メニュー2の加熱調理パラメーターでは、第2加熱ステージと第3加熱ステージで下マグネトロンの加熱出力が大きく、第4加熱ステージで上マグネトロンの加熱出力が大きくなっているため、上下のマグネトロンの加熱出力が対称ではない。以下、複数の調理メニューに対して、同様に加熱調理パラメーターを定義して、加熱調理データベースが構成されている。従来の自動調理システムは、このように記憶された加熱調理データベースを利用し、使用者が選択した調理メニューに対応した加熱調理パラメーターを検索、適用して、加熱調理を行うシステムである。
【0035】
図10には、本発明による高周波加熱調理器の運転制御方法における加熱調理データベースの例が表の形式で示されている。図10中、N/AはNot Available、即ち、故障停止のため利用不能であることを示している。各メニューにおいて、2管動作時の加熱調理パラメーターは、図9に示す加熱調理パラメーターと同一である。メニュー1は上下対称加熱を行うメニューであり、メニュー2は上下で非対称加熱を行うメニューである。
【0036】
また、この加熱調理データベースの各メニューにおいて、下1管動作時1の加熱調理パラメーターは2管動作時と同出力で加熱時間を延長した加熱調理パラメーターであり、下1管動作時2の加熱調理パラメーターは極力2管動作時と同様の加熱時間で加熱調理するために、低加熱出力の際には加熱出力を可能な限り2管動作時の倍の加熱出力に近くなるよう設定している加熱調理パラメーターである。
【0037】
上1管動作時1及び上1管動作時2の加熱調理パラメーターは、同様の方針で設定されている。メニュー2の第5加熱ステージは、調理実験の結果判明した1管動作による加熱不足を補う追加ステージであるが、上1管動作時と下1管動作時とで加熱特性が非対称であるため、加熱パラメーターが非対称となっている。
【0038】
加熱調理器のいずれかのマグネトロンが故障停止して利用不可能となった場合、制御部は、デフォルトで、1管動作時のいずれかの動作状態を選択し、使用者の設定で他の動作状態を選択可能としておけば、使用者が、加熱調理時間の短縮を望むか、単体マグネトロンの出力維持を望むか、いずれかの動作状態を選択できるので、好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明による高周波加熱調理器の運転制御を司る制御装置とその周辺の機器を示す概略ブロック図。
【図2】本発明による高周波加熱調理器の運転制御方法の一例を示すフローチャート。
【図3】本発明による高周波加熱調理器の運転制御の一例を示す多段加熱シーケンス。
【図4】図3に示す多段加熱シーケンスにおける下マグネトロン故障停止時の補正例。
【図5】図3に示す多段加熱シーケンスにおける上マグネトロン故障停止時の補正例。
【図6】本発明による高周波加熱調理器の運転制御の別例を示す多段加熱シーケンス。
【図7】図6に示す多段加熱シーケンスにおける上マグネトロン故障停止時の補正例。
【図8】図6に示す多段加熱シーケンスにおける下マグネトロン故障停止時の補正例。
【図9】従来の加熱調理データベースの一例。
【図10】本発明による代替加熱シーケンスを記憶した加熱調理データベース。
【図11】上下2管式電子レンジの一例を示す後方斜視図。
【符号の説明】
【0040】
1 マイクロプロセッサ 2 電源
3 表示手段 4 入力手段
5 マグネトロン1用リレー 6 マグネトロン2用リレー
7 冷却ファンリレー 8 各種センサー
9 不揮発性メモリー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
調理メニューに応じて複数のマグネトロンの加熱パラメーターとして規定した、多段の加熱ステージを有する加熱シーケンスをデータベースとして記憶し、選択された前記調理メニューに応じて前記データベースから選択された前記加熱シーケンスに従って前記複数のマグネトロンの前記加熱パラメーターを設定し、設定された前記加熱パラメーターに従って加熱物の加熱調理を行う高周波加熱調理器において、
前記データベースに、前記複数のマグネトロンのうち少なくとも一台が故障停止したときに、残る少なくとも一台の稼働可能なマグネトロンによって加熱調理を行う複数の代替加熱シーケンスを設定して記憶し、少なくとも一台の前記マグネトロンが故障停止したことに応じて前記データベースから前記稼働可能なマグネトロンによって行うべき前記代替加熱シーケンスを選択し、選択された前記代替加熱シーケンスに従って前記加熱物の代替加熱を行うことを特徴とした高周波加熱調理器の運転制御方法。
【請求項2】
前記加熱パラメーターは、前記各マグネトロンの前記多段の加熱ステージにおける加熱出力又は加熱時間であることを特徴とする請求項1に記載の高周波加熱調理器の運転制御方法。
【請求項3】
前記代替加熱シーケンスの設定は、前記複数のマグネトロンが並行動作するときの前記加熱時間を、前記故障停止したマグネトロンに起因した加熱出力量の減少分を前記稼働可能なマグネトロンの前記多段の加熱ステージにおける加熱時間の延長によって補償する態様で補正して行われることを特徴とする請求項2に記載の高周波加熱調理器の運転制御方法。
【請求項4】
前記代替加熱シーケンスの設定は、前記複数のマグネトロンが並行動作するときの前記加熱出力を、前記故障停止したマグネトロンに起因した加熱出力量の減少分を前記稼働可能なマグネトロンの前記多段の加熱ステージにおける加熱出力の増加によって補償する態様で補正して行われることを特徴とする請求項2に記載の高周波加熱調理器の運転制御方法。
【請求項5】
前記代替加熱シーケンスの設定は、前記加熱出力量の減少分が前記稼働可能なマグネトロンの前記加熱出力の増加によって補償され切れないことに応じて、前記稼働可能なマグネトロンの前記多段の加熱ステージにおける前記加熱時間の延長によって更に補償する態様で補正して行われることを特徴とする請求項4に記載の高周波加熱調理器の運転制御方法。
【請求項6】
前記代替加熱シーケンスの設定は、最終加熱ステージとして、前記稼働可能なマグネトロンによる前記多段の加熱ステージに加熱ステージを追加する態様で補正して行われることを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の高周波加熱調理器の運転制御方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載した運転制御方法を用いることを特徴とする高周波加熱調理器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−133572(P2010−133572A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307407(P2008−307407)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】