説明

高周波回路システム

【課題】進行波管等の電子管の負荷変動により高周波信号の位相が高速に変動した場合でも、その位相変動を抑制できる高周波回路システムを提供する。
【解決手段】電子管及び該電子管に所定の直流電圧を供給する電源装置を備えた高周波回路システムに、電子管へ入力する第1高周波信号と電子管から出力された第2高周波信号との位相差に対応する電圧を出力する位相比較器を備える。電源装置は、位相比較器の出力電圧に基づき、第1高周波信号に対する第2高周波信号の位相変化がある場合、第1高周波信号の位相と第2高周波信号の位相が一致するように、カソード電極とヘリックス間に供給する直流電圧を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高周波信号の増幅や発振等に用いられる電子管及び該電子管の各電極に所定の直流電圧を供給する電源装置を備えた高周波回路システムに関する。
【背景技術】
【0002】
進行波管は、電子銃から放出された電子ビームと高周波回路との相互作用により高周波(マイクロ波)信号の増幅や発振等を行うために用いる電子管である。進行波管1は、例えば図5に示すように、電子ビーム50を放出する電子銃10と、電子銃10から放出された電子ビーム50と高周波(マイクロ波)信号とを相互作用させる高周波回路であるヘリックス20と、ヘリックス20から出力された電子ビーム50を捕捉するコレクタ電極30と、電子銃10から電子を引き出すと共に電子銃10から放出された電子ビーム50をスパイラル状のヘリックス20内に導くアノード電極40とを有する構成である。電子銃10は、例えば熱電子を放出するカソード電極11と、カソード電極11に熱電子を放出させるための熱エネルギーを与えるヒータ12と、カソード電極11から放出された電子を集束して電子ビーム50を形成するためのウェネルト電極13とを備えている。
【0003】
電子銃10から放出された電子ビーム50は、カソード電極11とヘリックス20との電位差により加速されてヘリックス20内に導入され、ヘリックス20の一端から入力された高周波信号と相互作用しながらヘリックス20の内部を進行する。ヘリックス20の内部を通過した電子ビーム50はコレクタ電極30で捕捉される。このとき、ヘリックス20の他端からは電子ビーム50との相互作用により増幅された高周波信号が出力される。
【0004】
電源装置60は、カソード電極11に対してヘリックス20の電位(HELIX)を基準に負の直流電圧(ヘリックス電圧Ehel)を供給するヘリックス電源61と、カソード電極11の電位(H/K)を基準にコレクタ電極30に対して正の直流電圧(コレクタ電圧Ecol)を供給するコレクタ電源62と、カソード電極11の電位を基準にアノード電極40に対して正の直流電圧(アノード電圧Ea)を供給するアノード電源63と、カソード電極11の電位を基準に交流電圧または直流電圧であるヒータ電圧Eheatを電子銃10のヒータ12に供給するヒータ電源64とを有する構成である。ヘリックス20は、通常、進行波管1のケースに接続されて接地される。
【0005】
図5は1つのコレクタ電極30を備えた進行波管1の構成例を示しているが、進行波管1には複数のコレクタ電極30を備えた構成もある。また、図5では、アノード電極40にアノード電圧Eaを供給する構成例を示しているが、アノード電極40をヘリックス20と接続することで接地する構成もある。
【0006】
ヘリックス電圧Ehel、コレクタ電圧Ecol、アノード電圧Ea及びヒータ電圧Eheatは、例えば、トランスと、商用電源等から供給される交流電圧を直流電圧に変換する整流回路と、該整流回路から供給される直流電圧を所要の周波数の交流電圧に変換する、トランスの一次巻線に接続されたインバータと、トランスの二次巻線から出力された交流電圧を直流電圧に変換する整流回路とを用いて生成される。通常、へリックス電圧Ehelは、数百〜数kV程度の直流高電圧に設定され、コレクタ電圧Ecolはヘリックス電圧Ehelよりも低い直流高電圧に設定される。アノード電圧Eaは、0V(カソード電極11の電位)からへリックス電圧Ehelの範囲内で設定され、ヒータ電圧Eheatは数V〜数十V程度に設定される。
【0007】
ところで、進行波管1では、ヘリックス電圧Ehelが変動すると、進行波管1から出力される高周波信号の位相も変動することが知られている(例えば、特許文献1参照)。ヘリックス電圧Ehelの変動は、進行波管1から高周波信号をバースト状に出力する場合等、進行波管1による負荷が急激に変動したときに起こる。なお、進行波管1から高周波信号をバースト状に出力するには、アノード電極40にパルス状あるいはステップ状に電圧を印加すればよい。
【0008】
近年の無線通信装置では、情報の伝送効率を向上させるために各種の位相偏移変調(PSK:phase shift keying)方式が採用されている。そのような無線通信装置が送信する無線周波数(RF:Radio Frequency)信号の増幅に進行波管1を用いると、進行波管1における位相変動が情報の誤送信の要因となってしまう。
【0009】
したがって、図5に示すような進行波管1用の電源装置60では、進行波管1による負荷の変動に起因するヘリックス電圧Ehelの変動を抑制することが望ましい。
【0010】
ヘリックス電圧Ehelの変動を抑制するには、例えば図6に示すように、へリックス電源61が備える、カソード電極11とヘリックス20とに並列に接続する整流用コンデンサCの数を増やしてその総容量を増大させる構成が考えられる。
【0011】
しかしながら、そのような整流用コンデンサCの総容量を増大させる構成では、電源装置60の部品数が増えてしまう問題がある。一般に、容量が比較的大きく、また高耐圧用の整流用コンデンサCは、パッケージサイズが大きいため、整流用コンデンサCの数が増えると電源装置60が大型になってしまう。
【0012】
また、ヘリックス電圧Ehelの変動を抑制する他の構成としては、例えば図7に示すように、抵抗器R等を用いてへリックス電圧Ehelを分圧し、分圧したヘリックス電圧Ehelをトランス200の一次巻線に接続されたインバータ220へ帰還(負帰還)させることで、トランス200の二次巻線に接続された整流回路230から出力されるヘリックス電圧Ehelを安定化する構成が考えられる。
【0013】
しかしながら、そのような構成では、帰還ループ内に備えるインバータ220、トランス200、整流回路230等による遅延量が大きいため、ヘリックス電圧Ehelが高速に変動した場合に追随することが困難である。そのため、進行波管1による負荷が急激に変動することでヘリックス電圧Ehelが高速に変動した場合、図7に示す構成では該ヘリックス電圧Ehelの変動を抑制することができない。
【0014】
なお、上記特許文献1では、進行波管から出力される高周波信号の位相を検出し、該検出した位相に基づいて該進行波管へ入力する高周波信号の位相を調整することで、進行波管における高周波信号の位相変動を補正する技術が記載されている。
【0015】
また、特許文献2には、進行波管から高周波信号をバースト状に出力させるとき、トランスの二次巻線に接続された整流回路の出力側に接続されたシリーズレギュレータをバイパスするトランジスタ(充電バイパス回路)をONさせて、該整流回路から整流用コンデンサへ高速に電荷を供給することで、負荷変動によって降下したヘリックス電圧Ehelが元の電圧で安定するまでの時間を短縮する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平6−61761号公報
【特許文献2】特開2007−323915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上述したように、図6に示した整流用コンデンサの数を増やしてその総容量を増大させる構成では、電源装置が大型になる問題がある。また、図7に示した負帰還回路を設ける構成では、ヘリックス電圧が高速に変動した場合に追随することが困難である。
【0018】
特許文献2に記載された技術は、アノード電極にパルス状の信号を供給する場合、すなわち進行波管から高周波信号をバースト状に出力させるときにはヘリックス電圧を高速に安定させることができる。しかしながら、特許文献2に記載の電源装置では、アノード電極に供給するパルス状の信号に同期して上記充電バイパス回路を制御する構成であるため、それ以外の理由で進行波管による負荷が急激に変動してヘリックス電圧が変動し、位相が変化したときには対処できない。
【0019】
本発明は上述したような背景技術が有する問題点を解決するためになされたものであり、進行波管等の電子管の負荷変動により高周波信号の位相が高速に変化した場合でも、その位相変化を抑制できる高周波回路システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するため本発明の高周波回路システムは、カソード電極及びヘリックスを備えた電子管と、
前記電子管へ入力する第1高周波信号と前記電子管から出力された第2高周波信号との位相差に対応する電圧を出力する位相比較器と、
前記位相比較器の出力電圧に基づき、前記第1高周波信号に対する前記第2高周波信号の位相変化がある場合、前記第1高周波信号の位相と前記第2高周波信号の位相が一致するように、前記カソード電極と前記ヘリックス間に供給する直流電圧を制御する電源装置と、
を有する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、進行波管等の電子管の負荷変動により高周波信号の位相が高速に変化した場合でも、その位相変動を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1の実施の形態の高周波回路システムの一構成例を示すブロック図である。
【図2】図1に示した高周波回路システムからレギュレータ回路を抜き出して示した本実施形態の要部の回路図である。
【図3】図2に示したレギュレータ回路によりヘリックス電圧が安定化する様子を示す模式図である。
【図4】第2の実施の形態の高周波回路システムの一構成例を示すブロック図である。
【図5】背景技術の高周波回路システムの構成を示すブロック図である。
【図6】背景技術の電源装置の構成例を示す回路図である。
【図7】背景技術の電源装置の他の構成例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に本発明について図面を用いて説明する。
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態の高周波回路システムの一構成例を示すブロック図である。
【0024】
図1に示すように、第1の実施の形態の高周波回路システムは、進行波管(TWT)1と、進行波管1へ入力する高周波信号(第1高周波信号)と進行波管1から出力された高周波信号(第2高周波信号)との位相差に対応する電圧を出力する位相比較器70と、進行波管1へ入力する第1高周波信号の位相を一定量だけ進めるまたは遅らせて出力する移相器80と、進行波管1の各電極に所定の直流電圧を供給すると共に、位相比較器70の出力電圧に基づき、第1高周波信号に対する第2高周波信号の位相変化がある場合、第1高周波信号の位相と第2高周波信号の位相が一致するように、カソード電極とヘリックス間に供給するヘリックス電圧Ehel電圧を制御する電源装置60とを有する構成である。
【0025】
なお、図1に示す電源装置60は、へリックス電圧Ehelを生成するヘリックス電源の回路例のみ示している。電源装置60は、ヘリックス電源だけでなく、図5に示したように、不図示のコレクタ電源、アノード電源、ヒータ電源等も備えている。
【0026】
進行波管1は、入力された第1高周波信号を増幅して出力する、例えば図5に示した周知の電子管である。本発明は、進行波管1に限らず、ヘリックス電圧Ehelの変動によって増幅対象となる高周波(マイクロ波)信号の位相が変化する他の電子管にも適用可能である。
【0027】
移相器80には、進行波管1へ入力する第1高周波信号の一部が方向性結合器等を用いて分波されて供給される。移相器80は、入力された第1高周波信号の位相を進めるまたは遅らせることで、通常時(進行波管1による負荷変動が無いとき)に進行波管1から出力される第2高周波信号と位相が一致する第1高周波信号を出力する。移相器80は、入力された第1高周波信号の位相を電気的または機械的に変えることができれば、周知のどのような構成でもよい。
【0028】
位相比較器70には、進行波管1から出力された第2高周波信号の一部が方向性結合器等を用いて分波されて供給される。また、位相比較器70には、移相器80から出力された第1高周波信号が供給される。位相比較器70は、移相器80から出力された第1高周波信号と進行波管1から出力された第2高周波信号との位相差に一意に対応する電圧を出力する。位相比較器70は、例えば移相器80を用いることで、位相が一致する第1高周波信号と第2高周波信号とが入力されている場合は0[V]を出力し、第1高周波信号に対する第2高周波信号の位相が変化した場合は正(または負)の直流電圧を出力する。位相比較器70は、2つの入力信号の位相差に対応する電圧を出力すればどのような構成でもよく、例えば位相差に比例する直流電圧を出力してもよく、位相差に反比例する直流電圧を出力してもよい。位相比較器70には、進行波管1の増幅対象である高周波信号の周波数に適用可能な装置を用いればよく、例えば周知のミキサ回路等で実現できる。
【0029】
電源装置60は、トランス100と、商用電源等から供給される交流電圧を直流電圧に変換する第1整流回路110と、第1整流回路110から出力された直流電圧を所定の周波数の交流電圧に変換する、トランス100の一次巻線に接続されたインバータ120と、トランス100の二次巻線から出力された交流電圧を直流電圧に変換する第2整流回路130と、第2整流回路130の出力端と進行波管1のへリックスとの間に挿入される、第1高周波信号に対する第2高周波信号の位相変化を抑制するレギュレータ回路140とを備えている。
【0030】
レギュレータ回路140は、第2整流回路130の出力端(カソード電極11とヘリックス20間に供給する直流電圧の出力端)と、進行波管1のへリックス20との間にコレクタ・エミッタが直列に接続されたトランジスタQ1と、トランジスタQ1のコレクタ・エミッタと並列に接続されたツェナーダイオードZD1と、位相比較器70の出力電圧に基づいてトランジスタQ1を駆動(オン・オフ)するドライバ回路141とを備えている。
【0031】
ツェナーダイオードZD1には、例えばツェナー電圧Vzが100V程度の素子が用いられる。ツェナー電圧Vzは、負荷変動によるヘリックス電圧Ehelの変化量やトランジスタQ1のコレクタ・エミッタ間の耐電圧を考慮して決定すればよい。
【0032】
トランジスタQ1は、ドライバ回路141により、通常時はオフされ、へリックス電圧Ehelが降下して進行波管1から出力される第2高周波信号の位相が変化し、位相比較器70から2つの入力信号の位相差に対応する電圧(直流)が出力されると、オン(ON)される。トランジスタQ1には、図1に示すようにバイポーラトランジスタを用いてもよく、電界効果トランジスタ(FET:Field effect transistor)等を用いてもよい。
【0033】
ドライバ回路141は、位相比較器70の出力電圧に基づいて、通常時はトランジスタQ1をオフし、第1高周波信号に対する第2高周波信号の位相変化時にトランジスタQ1をオンできれば、周知のどのような回路を用いてもよい。
【0034】
なお、図1は、電源装置60に、抵抗器Rを用いてへリックス電圧Ehelを分圧してインバータ120へ負帰還する、ヘリックス電圧Ehelを安定化するための回路を備えた構成例を示している。このような回路は、上述したようにヘリックス電圧Ehelが急激に変動した場合に追随できないため、本発明の効果に寄与するものではない。しかしながら、より安定したヘリックス電圧Ehelを得るためには、図1に示すようにヘリックス電圧Ehelをインバータ120へ負帰還することでヘリックス電圧Ehelを安定化するための回路を備えていることが望ましい。
【0035】
このような構成において、次に本実施形態の高周波回路システムの動作について図面を用いて説明する。
【0036】
図2は図1に示した高周波回路システムからレギュレータ回路を抜き出して示した本実施形態の要部の回路図であり、図3は図2に示したレギュレータ回路によりヘリックス電圧が安定化する様子を示す模式図である。なお、図3はヘリックス電圧Ehelや高周波信号の位相が変化する様子を模式的に示したものであり、図3に示す電圧や位相の値は単なる一例を示したものである。また、図3に示すアノード電圧Eaの「LO」は、カソード電極11と同電位を示しており、「HIGH」はカソード電極11の電位に対する所定の正電圧を示している。
【0037】
上述したように、レギュレータ回路140が備えるトランジスタQ1は、通常時、位相比較器70から、例えば0Vが出力されているため、オフ(OFF)されている。図2に示すように、このとき第2整流回路130とヘリックス間にはツェナーダイオードZD1が挿入されているため、進行波管1のへリックス20とカソード電極11間には、第2整流回路130の出力電圧に対してツェナーダイオードZD1のツェナー電圧Vz(例えば、100V)だけ降下したヘリックス電圧Ehelが供給される。
【0038】
ここで、例えば図3(a)に示すように進行波管1のアノード電極40にステップ状に所定の正電圧が印加されると、進行波管1からはステップ状に第2高周波信号が出力され、それに伴う負荷(進行波管1)の急減な変動により、ヘリックス電圧Ehelが降下し、進行波管1から出力される第2高周波信号の位相(RF位相)が変化する。
【0039】
このとき、位相比較器70からは、2つの入力信号の位相差に対応する電圧、すなわち第1高周波信号に対する第2高周波信号の位相変化に相当する電圧が出力されるため、ドライバ回路141によってトランジスタQ1がオン(ON)される。その結果、ツェナーダイオードZD1の両端がトランジスタQ1でバイパスされ、第2整流回路130の出力電圧がトランジスタQ1を介して出力されるため、図3(b)の矢印で示すように進行波管1に供給されるヘリックス電圧Ehelが上昇する。また、ヘリックス電圧Ehelが上昇することで、図3(c)の矢印で示すように進行波管1から出力される高周波信号の位相変化も抑制される。
【0040】
ドライバ回路141によってトランジスタQ1がオンされている状態では、進行波管1、位相比較器70、ドライバ回路141及びトランジスタQ1によって負帰還ループが形成される。そのため、ドライバ回路141は、入力電圧が0Vになるように、すなわち進行波管1から出力される第2高周波信号の位相と、移相器80から出力される第1高周波信号の位相とが一致するようにトランジスタQ1を駆動して、その出力電圧を調整する。
【0041】
図1や図2に示したように、レギュレータ回路140は、主信号経路にドライバ回路141及びトランジスタQ1のみ備える簡易な構成であるため、進行波管1から出力される第2高周波信号の位相変化を補正するための負帰還ループの遅延量が少なくて済む。そのため、進行波管1から出力される第2高周波信号の位相が高速に変化した場合でも、その位相変化が抑制される。
【0042】
また、本実施形態の高周波回路システムは、進行波管1に入力する第1高周波信号に対する進行波管1から出力される第2高周波信号の位相変化に基づいてヘリックス電圧Ehelを補正する構成であり、特許文献2のようにアノード電極40に供給する信号に同期して制御するものではない。したがって、図3に示したようにアノード電極40にステップ状の電圧を印加することで進行波管1から第2高周波信号をバースト状に出力させるときだけでなく、その他の理由で進行波管1による負荷が急激に変動して第2高周波信号の位相が変化した場合でも対処することができる。
【0043】
さらに、上述したように進行波管1のへリックス20は接地されているため、図1や図2に示したレギュレータ回路140は、接地電位を基準とする比較的低い直流電圧で動作する回路素子を用いて実現できる。そのため、高電圧で動作する特殊な回路部品を用いる必要がなく、レギュレータ回路140を設けることによるコストの増大を抑制できる。
(第2の実施の形態)
図4は、第2の実施の形態の高周波回路システムの一構成例を示すブロック図である。
【0044】
図4に示すように、第2の実施の形態の高周波回路システムは、進行波管1へ入力する第1高周波信号を分波して位相比較器70へ直接供給し、レギュレータ回路140の入力端に所定の直流電圧を印加するための直流電源142を備える構成である。すなわち、第2の実施の形態の高周波回路システムは、図1に示した移相器80が不要な構成である。その他の構成は第1の実施の形態の高周波回路システムと同様であるため、その説明は省略する。
【0045】
図4に示す第2の実施の形態の高周波回路システムでは、通常時、位相比較器70からは、進行波管1へ入力する第1高周波信号と進行波管1から出力された第2高周波信号との位相差に対応する直流電圧が出力されている。
【0046】
直流電源142は、通常時にトランジスタQ1がオフし、第2高周波信号の位相変化時にトランジスタQ1がオンするように、例えば通常時における位相比較器70の出力電圧を相殺するような(例えばドライバ回路141の入力端における電圧を0Vにするような)直流電圧を出力する。
【0047】
このような構成でも、図1に示した第1の実施の形態の高周波回路システムと同様に、通常時は、トランジスタQ1がオフされているため、進行波管1のへリックス20とカソード電極11間には、第2整流回路130の出力電圧に対してツェナーダイオードZD1のツェナー電圧Vz(例えば、100V)だけ降下したヘリックス電圧Ehelが供給される。
【0048】
また、負荷(進行波管1)の急減な変動により、ヘリックス電圧Ehelが降下し、進行波管1から出力される第2高周波信号の位相(RF位相)が変化すると、位相比較器70からは進行波管1から出力される第2高周波信号の位相変化に相当する電圧が出力され、ドライバ回路141によってトランジスタQ1がオン(ON)されて、ヘリックス電圧Ehelの降下及び高周波信号の位相変化が抑制される。
【0049】
したがって、図4に示した第2の実施の形態の高周波回路システムも、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0050】
なお、図4に示した直流電源142は、図1に示した第1の実施の形態のレギュレータ回路140に設けることも可能である。例えば移相器80から出力される第1高周波信号の位相が進行波管1から出力される第2高周波信号の位相と一致していない場合、位相比較器70からはそれらの位相差に対応する直流電圧が出力される。その場合も、直流電源142は、通常時にトランジスタQ1がオフし、第2高周波信号の位相変化時にトランジスタQ1がオンするように、例えば通常時における位相比較器70の出力電圧を相殺するような直流電圧を生成し、ドライバ回路141の入力端へ供給すればよい。
【符号の説明】
【0051】
1 進行波管
10 電子銃
11 カソード電極
12 ヒータ
13 ウェネルト電極
20 ヘリックス
30 コレクタ電極
40 アノード電極
50 電子ビーム
60 電源装置
61 ヘリックス電源
62 コレクタ電源
63 アノード電源
64 ヒータ電源
70 位相比較器
80 移相器
100 トランス
110 第1整流回路
120 インバータ
130 第2整流回路
140 レギュレータ回路
141 ドライバ回路
142 直流電源
Q1 トランジスタ
ZD1 ツェナーダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード電極及びヘリックスを備えた電子管と、
前記電子管へ入力する第1高周波信号と前記電子管から出力された第2高周波信号との位相差に対応する電圧を出力する位相比較器と、
前記位相比較器の出力電圧に基づき、前記第1高周波信号に対する前記第2高周波信号の位相変化がある場合、前記第1高周波信号の位相と前記第2高周波信号の位相が一致するように、前記カソード電極と前記ヘリックス間に供給する直流電圧を制御する電源装置と、
を有する高周波回路システム。
【請求項2】
前記電子管へ入力する第1高周波信号の位相を一定量だけ進めるまたは遅らせて出力する移相器をさらに有し、
前記位相比較器は、
前記移相器から出力された第1高周波信号と前記電子管から出力された第2高周波信号との位相差に対応する電圧を出力する請求項1記載の高周波回路システム。
【請求項3】
前記電源装置は、
前記カソード電極と前記ヘリックス間に供給する直流電圧の出力端と前記へリックスとの間に直列に接続されたトランジスタと、
前記トランジスタと並列に接続されたツェナーダイオードと、
前記位相比較器の出力電圧に基づいて前記トランジスタを駆動するドライバ回路と、
を備えたレギュレータ回路を有し、
前記ドライバ回路は、
前記位相比較器の出力電圧に基づき、前記第1高周波信号に対する前記第2高周波信号の位相変化が無い場合は、前記カソード電極とヘリックス間に所定の直流電圧から前記ツェナーダイオードのツェナー電圧だけ降下させた電圧を供給し、前記第1高周波信号に対する前記第2高周波信号の位相変化がある場合は、前記第1高周波信号の位相と前記第2高周波信号の位相が一致するように前記トランジスタを駆動する請求項1記載の高周波回路システム。
【請求項4】
前記レギュレータ回路は、
前記第1高周波信号に対する前記第2高周波信号の位相変化が無いときに前記位相比較器から出力される電圧を相殺するための直流電圧を生成し、前記ドライバ回路の入力端へ供給する直流電源をさらに備える請求項1から3のいずれか1項記載の高周波回路システム。
【請求項5】
前記へリックスが接地された請求項1から4のいずれか1項記載の高周波回路システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−216461(P2012−216461A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81880(P2011−81880)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(396007982)株式会社ネットコムセック (13)
【Fターム(参考)】