説明

高周波焼入れ性優れた軟質中炭素鋼板

【課題】 Cを0.30質量%以上0.65質量%以下含有する中炭素鋼板において、材質の軟質化と高周波焼入れ性の向上を図る。
【解決手段】 質量%で、C:0.30〜0.65%、Si:0.05〜0.4%、Mn:0.2〜2.0%、P:0.005〜0.03%、S:0.0001〜0.006%、Al:0.005〜0.10%、及び、N:0.001〜0.01%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、かつ、ビッカース硬度が160HV以下でフェライト粒径が10μm以上であることを特徴とする高周波焼入れ性に優れた軟質中炭素鋼板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波焼入れ性に優れた軟質中炭素鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
中炭素鋼板は、チェーン、ギヤー、クラッチ、鋸、刃物等の素材として広く用いられている。中炭素鋼板から製品を製造する場合、通常、成形後、焼入れ焼戻し等の熱処理を施して硬化させる。それ故、中炭素鋼板には、複雑で過酷な加工に耐える加工性が要求される。さらに近年、従来の炉加熱と比較し、焼入れ処理が省エネルギーかつ短時間で可能な高周波焼入れが多く用いられている。中炭素鋼板には、軟質であることに加え、急速加熱でも十分に焼入れ性を確保できる高周波焼入れ性も要求される。
【0003】
従来、中炭素鋼板の加工性と高周波焼入れ性の関係について、多くの調査がなされてきた(例えば、特許文献1〜4、参照)が、100℃/s以上の急速加熱において焼入れ性を十分に確保できる例は報告されていない。
【0004】
例えば、特許文献1には、C:0.1〜0.8質量%、S:0.01質量%以下の亜共析鋼からなり、炭化物球状化率が90%以上であるように炭化物がフェライト中に分散しており、かつ平均炭化物粒径は0.4〜1.0μmであり、必要に応じてフェライト結晶粒径が20μm以上に調整される中・高炭素鋼板が開示されている。しかし、該中・高炭素鋼板では、100℃/s以上の加熱速度で焼入れ処理する高周波熱処理においても良好な焼入れ性を確保できる発明は提案されていないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−80884号公報
【特許文献2】特開平9−268344号公報
【特許文献3】特開2001−329333号公報
【特許文献4】特開2001−355047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上記実情に鑑み、高周波焼入れ性に優れ、かつ軟質で加工性に優れた中炭素鋼板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決する手法について鋭意研究した。その結果、100℃/s以上の加熱速度で高周波加熱する場合、オーステナイト化温度は鋼板成分と共に、フェライト粒径に強く依存することを知見した。
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
【0008】
(1) 質量%で、
C:0.30〜0.65%、
Si:0.05〜0.4%、
Mn:0.2〜2.0%、
P:0.005〜0.03%、
S:0.0001〜0.006%、
Al:0.005〜0.10%、
N:0.001〜0.01%
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、かつ、ビッカース硬度が160HV以下でフェライト粒径が10μm以上であることを特徴とする高周波焼入れ性に優れた軟質中炭素鋼板。
【0009】
(2) 質量%で、さらに、
Cr:0.05〜1.0%、
Ni:0.01〜0.5%、
Cu:0.05〜0.5%、
Mo:0.01〜0.5%
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする前記(1)に記載の高周波焼入れ性に優れた軟質中炭素鋼板。
【0010】
(3) 質量%で、さらに、
Nb:0.01〜0.5%、
V:0.01〜0.5%、
Ta:0.01〜0.5%、
B:0.001〜0.01%、
W:0.01〜0.5%
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の高周波焼入れ性に優れた軟質中炭素鋼板。
【0011】
(4) 質量%で、さらに、
Sn:0.003〜0.03%、
Sb:0.003〜0.03%、
As:0.003〜0.03%
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の高周波焼入れ性に優れた軟質中炭素鋼板。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、100℃/s以上の加熱速度であっても、フェライト粒径を10μm以上に制御することで、高周波焼入れ性に優れた軟質中炭素鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明鋼と比較鋼のオーステナイト化温度及び硬度とフェライト粒径の関係を示す図である。
【図2】本発明鋼と比較鋼の焼入れ硬度と炭素量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の軟質中炭素鋼板は、質量%で、C:0.30〜0.65%、Si:0.05〜0.4%、Mn:0.2〜2.0%、P:0.005〜0.03%、S:0.0001〜0.006%、Al:0.005〜0.10%、及び、N:0.0010〜0.01%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼板において、ビッカース硬度が160HV以下、フェライト粒径が10μm以上であることを特徴とする。
【0015】
まず、本発明の軟質中炭素鋼板(以下「本発明鋼板」ということがある。)の成分組成に係る限定理由について説明する。なお、以下、「%」は「質量%」を意味する。
【0016】
C:0.30〜0.65%
Cは、鋼板の焼入れ強度を確保するうえで重要な元素であり、0.30%以上添加し、所要の強度を確保する。0.30%未満では、焼入れ性が低下し、機械構造用高強度鋼板としての強度が得られないので、下限を0.30%とする。0.65%を超えると、靭性が低下するため、上限を0.65%とする。好ましくは、0.35〜0.55%である。
【0017】
Si:0.05〜0.4%
Siは、脱酸剤として作用し、また、焼入れ性の向上に有効な元素である。0.05%未満では、添加効果が得られないので、下限を0.05%とする。0.4%を超えると、熱間圧延時のスケール疵に起因する表面性状の劣化を招くので、上限を0.4%とする。好ましくは、0.10〜0.3%である。
【0018】
Mn:0.2〜2.0%
Mnは、脱酸剤として作用し、また、焼入れ性の向上に有効な元素である。0.2%未満では、添加効果が得られないので、下限を0.2%とする。2.0%を超えると、焼入れ、焼戻し後の衝撃特性を助長するので、上限を2.0%とする。好ましくは、0.5〜1.5%である。
【0019】
P:0.005〜0.03%
Pは、固溶強化元素であり、鋼板の強度に有効な元素である。過剰な含有は、靭性を阻害するので、上限を0.03%とする。0.005%未満に低減することは、精錬コストの上昇を招くので、下限を0.005%とする。好ましくは、0.007〜0.02%である。
【0020】
S:0.0001〜0.006%
Sは、鋼中に不純物として含有され、非金属介在物を形成し、加工性や、熱処理後の靭性を阻害する原因となるので、上限を0.006%とする。0.0001%未満に低減することは、精錬コストの大幅な上昇を招くので、下限を0.0001%とする。好ましくは、0.001〜0.004%である。
【0021】
Al:0.005〜0.10%
Alは、脱酸剤として作用し、また、Nの固定に有効な元素である。0.005%未満では、添加効果が十分に得られないので、下限を0.005%とする。0.10%を超えると、添加効果は飽和し、また、表面疵が発生し易くなるので、上限を0.10%とする。好ましくは、0.01〜0.05%である。
【0022】
N:0.001〜0.01%
Nは、Nは窒化物を形成する元素である。湾曲型連続鋳造における鋳片曲げ矯正時に窒化物が析出すると、鋳片が割れることがあるので、上限を0.01%とする。少ないほど好ましいが、0.001%未満に低減するのは、精錬コストの増加を招くので、下限を0.0010%とする。好ましくは、0.004〜0.007%である。
【0023】
本発明鋼板の機械特性を強化するため、Cr、Ni、Cu、及び、Moの1種又は2種以上を、所要量、添加してもよい。
【0024】
Cr:0.05〜1.0%
Crは、焼入れ性の向上に有効な元素である。0.05%未満では、添加効果がないので、下限を0.05%とする。1.0%を超えると、添加効果は飽和するので、上限を1.0%とする。好ましくは、0.07〜0.7%である。
【0025】
Ni:0.01〜1.0%
Niは、靭性の向上や、焼入れ性の向上に有効な元素である。0.01%未満では、添加効果がないので、下限を0.01%とする。1.0%を超えると、添加効果は飽和するし、また、コスト増を招くので、上限を1.0%とする。好ましくは、0.05〜0.5%である。
【0026】
Cu:0.05〜0.5%
Cuは、焼入性の確保に有効な元素である。0.05%未満では、添加効果が不十分であるので、下限を0.05%とする。0.5%を超えると、硬くなり過ぎ、冷間加工性が劣化するので、上限を0.5%とする。好ましくは、0.08〜0.2%である。
【0027】
Mo:0.01〜1.0%
Moは、焼入れ性の向上と、焼戻し軟化抵抗性の向上に有効な元素である。0.01%未満では、添加効果が小さいので、下限を0.01%とする。1.0%を超えると、添加効果は飽和するので、上限を1.0%とする。
【0028】
本発明鋼板の機械特性を、さらに強化するため、Nb、V、Ta、B、及び、Wの1種又は2種以上を、所要量、添加してもよい。
【0029】
Nb:0.01〜0.5%
Nbは、炭窒化物を形成し、結晶粒の粗大化防止や靭性改善に有効な元素である。0.01%未満では、添加効果は充分に発現しないので、下限を0.01%とする。0.5%を超えると、添加効果が飽和するので、上限を0.5%とする。好ましくは、0.07〜0.2%である。
【0030】
V:0.01〜0.5%
Vは、Nbと同様に、炭窒化物を形成し、結晶粒の粗大化防止や靭性改善に有効な元素である。0.01%未満では、添加効果が小さいので、下限を0.01%とする。0.5%を超えると、炭化物が生成し焼入れ硬度が低下するので、上限を0.5%とする。好ましくは、0.07〜0.2%である。
【0031】
Ta:0.01〜0.5%
Taは、Nb、Vと同様に、炭窒化物を形成し、結晶粒の粗大化防止や靭性改善に有効な元素である。0.01%未満では、添加効果が小さいので、下限を0.01%とする。0.5%を超えると、炭化物が生成し焼入れ硬度が低下するので、上限を0.5%とする。好ましくは、0.07〜0.2%である。
【0032】
B:0.001〜0.01%
B:微量の添加で、焼入性を高めるのに有効な元素である。0.001%未満では、添加効果がないので、下限を0.001%とする。0.01%を超えると、鋳造性が低下し、また、B系化合物が生成して靭性が低下するので、上限を0.01%とする。好ましくは、0.003〜0.007%である。
【0033】
W:0.01〜0.5%
Wは、鋼板の強化に有効な元素である。0.01%未満では、添加効果が発現しないので、下限を0.01%とする。0.5%を超えると、加工性が低下するので、上限を0.5%にする。好ましくは、0.04〜0.2%である。
【0034】
本発明鋼板の原料としてスクラップを用いた場合、不可避的にSn、Sb、及び、Asの1種又は2種以上が、0.003%以上混入するが、いずれも、0.03%以下であれば、本発明鋼板の高周波焼入れ性および焼入れ性を阻害しないため、本発明鋼板においては、Sn:0.003〜0.03%、Sb:0.003〜0.03%、及び、As:0.003〜0.03%の1種又は2種以上の含有を許容する。
【0035】
本発明鋼板において、O量は規定していないが、酸化物が凝集して粗大化すると、延性が低下するので、Oは、0.0025%以下が好ましい。Oは、少ないほうが好ましいが、0.0001%未満に低減することは、技術的に困難であるので、0.0001%以上の含有は許容される。
【0036】
本発明鋼板の溶製原料としてスクラップを用いた場合、Zn、Zr等の元素が、不可避的不純物として混入するが、本発明鋼板においては、本発明鋼板の特性を阻害しない範囲で、上記元素の混入を許容する。なお、Zn、Zr等以外の元素でも、本発明鋼板の特性を阻害しない範囲で、混入を許容する。
【0037】
本発明鋼板は、冷間板鍛造などの加工により製品形状へと成形される。素材の硬度が高いほど圧縮変形時の抵抗が大きくなり、より多くの成形荷重を要するため加工性が悪化する。加工性を確保するためには鋼板の軟質化が有効であり、特にビッカース硬度が160HV以下の場合に加工性が確保されるため、当該鋼板の硬度を160HV以下に規定する。
【0038】
本発明鋼板は、前述したように、成分組成に加え、フェライト粒径が10μm以上であり、焼入れ前のビッカース硬度が160以下であることを特徴とする。
【0039】
フェライト粒径が10μm以上であることにより、鋼板の高周波焼入れ性が顕著に向上することは、本発明者らが見いだした新規な知見である。
【0040】
組織の観察は、走査型電子顕微鏡で行なうのが好ましい。観察組織上にフェライト粒数が200個以上含まれる領域を4個所以上選択し、その領域中に含まれるフェライト粒数を数える。領域内に入りきるフェライト粒を1個、入りきらないフェライト粒を0.5個とする。領域面積を領域中のフェライト粒数で割ることによりフェライト粒1個あたりの面積を求める。求めた面積の平方根をフェライト粒径とし、その平均値を平均フェライト粒径とする。フェライト粒径が10μm未満であると、所要の高周波焼入れ性を確保するのが難しくなる。
【0041】
図1に、本発明鋼と比較鋼のオーステナイト化温度及び硬度とフェライト粒径の関係を示す。
【0042】
100℃/sもしくは200℃/sの加熱速度にてサンプルの線熱膨張係数を測定し、変態収縮が発生した後、線熱膨張係数が1.9×10−5−1以上となる点をオーステナイト化温度とした。高周波で実施される短時間加熱の場合、オーステナイトは炭化物上ではなく主に粒界上に生成する。フェライト粒径が10μm未満であるとオーステナイト化温度が1000℃以上となり、焼入れ性が低下する。フェライト粒径が10μm以上であればオーステナイト化温度は1000℃未満となり焼入れ性を確保することが可能となる。
【0043】
図2に、本発明鋼と比較鋼の焼入れ硬度を示す。
【0044】
100℃/sもしくは200℃/sの加熱速度にて1200℃までサンプルを加熱後、水焼入れしビッカース硬度を測定した。C含有量が0.3質量%未満の場合、600HV未満の焼入れ硬度となり十分な強度を得ることができない。C含有量が0.3%以上の場足、600HV以上の十分な焼入れ硬度を得ることが可能となる。
【0045】
次に、本発明鋼板の製造方法(以下「本発明製造方法」という。)について説明する。
【0046】
熱間圧延に供する連続鋳造鋳片(冷片)に対し、加熱条件は1300℃以下で、90分以下の均熱時間とする。1300℃を超えて加熱したり、均熱時間を90分以上の長時間化すると、加熱工程でスラブの表層部の脱Cが顕著となり、鋼板表面の焼入れ性を劣化させるため加熱温度は1300℃以下、加熱時間は90分以下とする。脱Cを抑制するとの観点から、加熱温度は、1200℃以下が好ましく、均熱時間は、60分以下が好ましい。
【0047】
なお、連続鋳造鋳片を、直接、又は、連続鋳造鋳片を、再加熱して熱間圧延に供するが、直接圧延した場合と、再加熱後圧延した場合において、鋼板特性に差は殆どない。
【0048】
熱間圧延は、通常の熱間圧延、及び、仕上圧延においてスラブを接合する連続化熱間圧延のどちらでもよい。熱間圧延の終了温度(熱延終了温度)は、生産性や板厚精度、異方性改善の観点に加え、表面疵の観点でも800℃より低い仕上げでは焼き付きによる疵が多発し、また940℃より高いとスケール起因の疵の発生頻度が高くなり、製品歩留まりが低下してコストを増大させため、800〜940℃とする。
【0049】
熱間圧延後、鋼板の冷却は、仕上圧延後30℃/秒以上の冷却速度で、650℃まで冷却し、続いて、20℃/秒以下の冷却速度で、巻取温度の400〜600℃まで緩冷却する。
【0050】
熱間圧延後の650℃までの冷却速度を30℃/秒以上の冷却速度で冷却する理由は、これより冷却速度が遅いと偏析に伴うパーライトバンドが生成し、焼鈍後も粗大な炭化物が存在しやすく加工性の劣化につながるためであり、これを防止する観点から30℃/s以上にて冷却する。またその後、捲取温度である400〜650℃までの冷却速度20℃/s以下の冷却速度で緩冷却する理由は、パーライト組織の均一なパーライト変態やベイナイト変態を振興させるためであり、この温度範囲を急冷すると過冷γに起因するコイルの捲き形状乱れによる疵が発生するなど、歩留り低下が大きくなるからである。
【0051】
また、巻取温度400〜650℃で巻き取る理由は、400℃未満であると、一部マルテンサイト変態を生じたり鋼板の強度が高くなり、ハンドリングが困難になったり、冷延する際の組織不均一からゲージハンチングを起こすなど歩留りの低下を引き起こすためである。一方、650℃を超えた高温捲取を実施すると、熱延板のスケールが厚くなり酸洗性が低下するばかりでなく、表層部の酸化進行や粒界酸化が進展するためである。
鋼板を酸洗し、表面を清浄化した後、鋼板に軟質化焼鈍を施す。本発明製造方法においては、鋼板に軟質化箱焼鈍を施し、加工性向上を図る。
【0052】
軟質化箱焼鈍は、鋼板を室温から600℃〜750℃まで加熱した後、5時間以上保持して行う。この5時間以上の保持によりフェライト粒を粗大化させ、軟質化を図る。
上記5時間以上の保持後、新たにパーライトの生成しないよう緩冷却する。
【0053】
箱焼鈍は、水素95%以上で、かつ、400℃までの露点が−20℃未満で、400℃超における露点が−40℃未満の雰囲気で行うことが好ましい。
コイル内の温度分布を均一化させる目的に加え、窒素侵入による焼入れ性の低下を抑制するため、水素95%以上の雰囲気中で焼鈍する。焼鈍中の脱炭を抑制するため、400℃までの露点を−20℃未満とし、400℃超における露点を−40℃未満とした。
【0054】
鋼板の組織が、本発明における請求項の規定の範囲を満たす限りは、冷延およびその後の軟質化焼鈍を加えて実施してもよい。
【実施例】
【0055】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例の条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0056】
(実施例)
表1に示す成分組成を有する鋼板を、冷延、焼鈍によりフェライト粒径を制御し製品特性(硬度と高周波焼入れ性)を調査した。結果を、表2に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
表2中、No.1AおよびNo.1B(表1のNo.1の鋼板を用いた)は、オーステナイト化温度が1000℃を超え不十分な焼入れ性かつ600HV未満の不十分な焼入れ硬さの比較例である。No.1C、1D、1E、1Fはオーステナイト化温度が1000℃未満で焼入れ性は確保されるが、600HV未満の不十分な焼入れ硬さの比較例である。No.2A、2B、3A、3B、4A、4B、5A、5B、6A、6Bはオーステナイト化温度が1000℃を超え焼入れ性が不十分な比較例である。
【0060】
これらに対し、No.2C、2D、2E、2F、3C、3D、3E、3F、4C、4D、4E、4F、5C、5D、5E、5F、6C、6D、6E、6Fは発明例である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
前述したように、本発明によれば、高周波焼入れ性に優れた軟質中炭素鋼板を提供することができる。よって、本発明は、高周波焼入れを利用した中炭素鋼板の用途を大きく拡大するもので、鋼製品製造産業において利用可能性が高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.30〜0.65%、
Si:0.05〜0.4%、
Mn:0.2〜2.0%、
P:0.005〜0.03%、
S:0.0001〜0.006%、
Al:0.005〜0.10%、
N:0.001〜0.01%
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、かつ、ビッカース硬度が160HV以下でフェライト粒径が10μm以上であることを特徴とする高周波焼入れ性に優れた軟質中炭素鋼板。
【請求項2】
質量%で、さらに、
Cr:0.05〜1.0%、
Ni:0.01〜0.5%、
Cu:0.05〜0.5%、
Mo:0.01〜0.5%
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の高周波焼入れ性に優れた軟質中炭素鋼板。
【請求項3】
質量%で、さらに、
Nb:0.01〜0.5%、
V:0.01〜0.5%、
Ta:0.01〜0.5%、
B:0.001〜0.01%、
W:0.01〜0.5%
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の高周波焼入れ性に優れた軟質中炭素鋼板。
【請求項4】
質量%で、さらに、
Sn:0.003〜0.03%、
Sb:0.003〜0.03%、
As:0.003〜0.03%
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高周波焼入れ性に優れた軟質中炭素鋼板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−62496(P2012−62496A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205423(P2010−205423)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】