説明

高周波焼入れ用鋼及びそれを用いて製造されるクランクシャフト

【課題】高周波焼入れ後の焼戻しを省略しても、割れが発生しにくく、かつ、優れた硬度及び耐焼き付き性を有する、高周波焼入れ用鋼を提供する。
【解決手段】
本実施の形態による高周波焼入れ用鋼は、質量%で、C:0.20〜0.34%、Si:0.20%以下、Mn:0.75〜2.0%、P:0.03%以下、S:0.20%以下、Cr:0.05〜1.2%、Ti:0.002%以上0.030%未満、Al:0.005〜0.04%、N:0.0040〜0.020%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、式(1)を満たす。
1.20≦Mn+Cr≦2.10 (1)
ここで、式(1)中の各元素記号には、各元素の含有量(質量%)が代入される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波焼入れ用鋼及びそれを用いて製造されるクランクシャフトに関し、さらに詳しくは、高周波焼入れして製造されるクランクシャフトに用いられる、高周波焼入れ用鋼及びそれを用いて製造されるクランクシャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
クランクシャフトには、高周波焼入れ及び焼戻しが実施された後、研削されて製造されるものがある。高周波焼入れにより、鋼に残留応力が発生する。残留応力は、焼き割れや研削割れといった割れの原因となる。焼戻しは、残留応力を低減し、割れの発生を抑制する。
【0003】
焼戻しを省略できれば、製造コストが下がる。しかしながら、高周波焼入れ時に発生する残留応力に起因した割れが発生しやすくなる。そこで、クランクシャフトの製造工程において焼戻しが省略されても割れが発生しにくい、高周波焼入れ用鋼が求められている。
【0004】
特開昭61−186419号公報(特許文献1)、特開2000−26933号公報(特許文献2)、特開2005−256134号公報(特許文献3)及び特開2007−113063号公報(特許文献4)は、熱間鍛造品及びクランクシャフトの製造に用いられ、高周波焼入れに起因した割れが発生しにくい鋼を開示する。
【0005】
特許文献1に開示されたドライブシャフトの製造方法は、鋼部材のC含有量を低減することにより、高周波焼入れに起因した焼き割れの発生を抑制する。特許文献1ではさらに、C含有量を低減することによる焼入れ性の低下を補うために、鋼部材にBを含有する。
【0006】
特許文献2に開示された熱間鍛造用鋼は、Tiを0.04重量%以上含有することにより、硫化物の形態を変え、鍛造後の被削性を向上させ、研削時に発生する研削割れを抑制する。
【0007】
特許文献3に開示されたクランク軸用鋼材は、0.4質量%以上のSiを含有する。Siを多く含有することにより、研削時に発生する熱により炭化物が発生する際の収縮量を小さくし、研削割れを抑制する。
【0008】
特許文献4に開示された熱間鍛造部品は、fn2=521−353C−22Si−25Mn−8Cu−17Ni−18Cr−26Moが300以上となる化学組成を有する。式fn2を300以上とすることにより、焼き割れの発生を抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭61−186419号公報
【特許文献2】特開2000−26933号公報
【特許文献3】特開2005−256134号公報
【特許文献4】特開2007−113063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示された鋼部材のように、Bを含有する高周波焼入れ用鋼では、焼入れ性のばらつきが大きく、品質が安定しにくい。また、特許文献2に開示された熱間鍛造用鋼は、多量のTiを含有するため、製造コストが高くなる。特許文献3及び4に開示された鋼材は、多量のSiを含有する。そのため、スケールの発生量が多くなる。したがって、上述の特許文献と異なる他の方法により、高周波焼入れに伴う割れの発生を抑制できる方が好ましい。
【0011】
さらに、クランクシャフトの硬度は高い方が好ましい。また、クランクシャフトのピンはコンロッドの大端部に装入され、クランクシャフトのピンは、コンロッドの大端部の内面とすべり軸受を介して回転する。そのため、クランクシャフトの表面は、優れた耐焼き付き性も要求される。したがって、クランクシャフトの製造に用いられる高周波焼入れ用鋼は、高い硬度及び優れた耐焼き付き性を求められる。
【0012】
本発明の目的は、高周波焼入れ後の焼戻しを省略しても、割れが発生しにくく、かつ、高い硬度及び優れた耐焼き付き性を有する、高周波焼入れ用鋼を提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0013】
本発明の一実施の形態による高周波焼入れ用鋼は、質量%で、C:0.20〜0.34%、Si:0.20%以下、Mn:0.75〜2.0%、P:0.03%以下、S:0.20%以下、Cr:0.05〜1.2%、Ti:0.002%以上0.030%未満、Al:0.005〜0.04%、N:0.0040〜0.020%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、式(1)を満たす。
1.20≦Mn+Cr≦2.10 (1)
ここで、式(1)中の各元素記号には、各元素の含有量(質量%)が代入される。
【0014】
本発明の一実施の形態による高周波焼入れ用鋼は、高周波焼入れ後の焼戻しを省略しても、割れが発生しにくく、かつ、高い硬度及び優れた耐焼き付き性を有する。
【0015】
本発明の一実施の形態によるクランクシャフトは、上述の高周波焼入れ用鋼を高周波焼入れして製造される。また、焼戻しを省略して製造されてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を詳しく説明する。以下、元素に関する%は質量%を意味する。
【0017】
[本実施の形態による高周波焼入れ用鋼の概要]
本発明者らは、焼戻しを省略した高周波焼入れ用鋼の耐割れ性、硬度、及び耐焼き付き性を向上するために、調査及び検討を行った。その結果、本発明者らは、以下の知見を得た。
【0018】
(1)クランクシャフトを製造するときに高周波焼入れ用鋼に発生する割れ(焼き割れや研削割れ)は、高周波焼入れ時や研削時に鋼に発生する残留応力に起因する。残留応力を低減するには、鋼中の炭素(C)含有量を低減することが有効である。C含有量を低減すれば、熱による鋼の体積変動を抑制できるため、残留応力を低減できる。そのため、割れが発生しにくくなる。つまり、鋼の耐割れ性が向上する。C含有量が0.34%以下であれば、焼戻し処理を省略しても、割れの発生を抑制できる。
【0019】
(2)Cは鋼の硬度を高める。そのため、C含有量を低減すれば、高周波焼入れ用鋼の硬度が低下する。そこで、Cの代わりに、式(1)を満たすマンガン(Mn)及びクロム(Cr)を含有して、鋼の硬度を高くする。
【0020】
(3)鋼の熱伝導率が低下すれば、鋼の耐焼き付き性が低下する。シリコン(Si)は、鋼の熱伝導率を低下する。Si含有量を0.20%以下にすれば、鋼の熱伝導率を高く維持でき、優れた耐焼き付き性が得られる。
【0021】
以上の知見に基づいて、本発明者らは、本実施の形態による高周波焼入れ用鋼を完成した。以下、本実施の形態による高周波焼入れ用鋼について詳述する。
【0022】
[化学組成]
本実施の形態による高周波焼入れ用鋼は、以下の化学組成からなる。
【0023】
C:0.20〜0.34%
炭素(C)は、鋼の強度及び硬度を高める。一方、C含有量が多すぎれば、熱による鋼の体積の変動が大きくなり、鋼中に残留応力が発生しやすい。そのため、割れが発生しやすくなる。したがって、C含有量は0.20〜0.34%である。好ましいC含有量は0.28〜0.34%であり、さらに好ましくは、0.30〜0.33%である。
【0024】
Si:0.20%以下
シリコン(Si)は、鋼の熱伝導率を下げ、鋼の耐焼き付き性を低下する。また、Si含有量が多すぎれば、熱間鍛造時に発生するスケール量が多くなり、鍛造後の鋼の表面肌が荒れる。したがって、Si含有量は少ない方が好ましい。Si含有量は0.20%以下である。好ましいSi含有量は0.18%以下であり、さらに好ましくは0.10%以下である。
【0025】
Mn:0.75〜2.0%
マンガン(Mn)は、鋼に固溶して鋼の強度及び靭性を高める。Mnはさらに、高周波焼入れ前の鋼の硬度を高める。Mnはさらに、MnSを生成し、FeSが生成されるのを抑制する。FeSの生成を抑制することにより、鋼の熱間延性が向上し、鍛造時に割れが発生しにくくなる。一方、Mn含有量が多すぎれば、ベイナイトが生成される。ベイナイトは鋼の被削性を低下する。そのため、ベイナイトが生成されることは好ましくない。また、Mn含有量が多すぎれば、鋼の硬度が高くなりすぎ、割れが発生しやすくなる。さらに、鋼の熱伝導率が低下する。したがって、Mn含有量は0.75〜2.0%である。好ましいMn含有量は、1.10〜1.70%であり、さらに好ましくは1.30〜1.60%である。
【0026】
P:0.03%以下
燐(P)は不純物である。Pは熱間延性を低下する。Pはさらに、高周波焼入れ時の耐割れ性を低下する。したがって、P含有量は少ない方が好ましい。P含有量は0.03%以下である。好ましいP含有量は0.020%以下であり、さらに好ましくは、0.010%以下である。
【0027】
S:0.20%以下
硫黄(S)は、不純物である。また、含有させればMnSを生成し、鋼の被削性を向上する。一方、S含有量が多すぎれば、鋼の熱間加工性が低下する。さらに、S含有量が多すぎれば、鋼中の硫化物の個数が増加して、研削割れが発生しやすくなる。したがって、S含有量は、0.20%以下である。鋼の被削性の向上効果を発揮させる場合、好ましいS含有量の下限は、0.02%以上である。さらに好ましいS含有量は0.02〜0.07%である。
【0028】
Cr:0.05〜1.2%
クロム(Cr)は、鋼の強度及び硬度を高める。具体的には、CrはAC3変態点を低下する。AC3変態点の低下により、高周波焼入れにおいて鋼の表層が均一なマルテンサイト組織になりやすくなる。また、Crは高周波焼入れ前の鋼の硬度も高める。一方、Cr含有量が多すぎれば、高周波焼入れ前の素地にベイナイトが生成される。被削性を低下するため、ベイナイトが生成されることは好ましくない。したがって、Cr含有量は0.05〜1.2%である。好ましいCr含有量は、0.10〜0.50%であり、さらに好ましくは、0.15〜0.30%である。
【0029】
Ti:0.002%以上0.030%未満
チタン(Ti)は、窒化物や炭窒化物を生成し、ピン止め効果により結晶粒を微細化する。結晶粒が微細化することにより、鋼の延性及び靭性が向上し、高周波焼入れに起因した割れが発生しにくくなる。一方、Ti含有量が多すぎれば、粗大な窒化物が生成され、鋼の被削性が低下する。さらに、製造コストが高くなる。したがって、Ti含有量は0.002%以上0.030%未満である。好ましいTi含有量は、0.005%以上0.030%未満である。
【0030】
Al:0.005〜0.04%
アルミニウム(Al)は鋼を脱酸する。Alはさらに、窒化物を生成し、ピン止め効果により結晶粒を微細化する。結晶粒が微細化することにより、鋼の延性及び靭性が向上し、高周波焼入れに起因した割れが発生しにくくなる。一方、Al含有量が多すぎれば、かえって鋼の靭性が低下する。したがって、Al含有量は、0.005〜0.04%である。好ましいAl含有量は0.008〜0.030%である。本実施の形態におけるAl含有量は、酸可溶Al(Sol.Al)の含有量である。
【0031】
N:0.0040〜0.020%
窒素(N)はAlやTiと結合して窒化物や炭窒化物を生成する。これらの窒化物や炭窒化物は、ピン止め効果により結晶粒を微細化する。結晶粒が微細化することにより、鋼の延性及び靭性が向上し、高周波焼入れに起因した割れが発生しにくくなる。一方、N含有量が多すぎれば、鋼中にボイド等の欠陥が発生しやすくなる。したがって、N含有量は、0.0040〜0.020%である。好ましいN含有量は、0.0080〜0.020%である。
【0032】
本実施の形態による高周波焼入れ用鋼の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここでいう不純物は、鋼の原料として利用される鉱石やスクラップ、あるいは製造過程の環境等から混入する元素をいう。本実施の形態において、不純物はたとえば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、酸素(O)等である。
【0033】
本実施の形態による高周波焼入れ用鋼の化学組成はさらに、式(1)を満たす。
1.20≦Mn+Cr≦2.10 (1)
ここで、式(1)中の各元素記号には、各元素の含有量(質量%)が代入される。
【0034】
Mn含有量及びCr含有量の合計が1.20%以上であれば、C含有量が少なくても、高い硬度が得られる。一方、Mn含有量とCr含有量との合計が2.10%を超えれば、鋼中にベイナイトが生成され、鋼の被削性が低下する。さらに、硬度が高くなりすぎ、割れが発生しやすくなる。
【0035】
[組織]
本実施の形態による高周波焼入れ用鋼の組織は、フェライト・パーライト組織又はパーライト組織である。
【0036】
[製造方法]
本実施の形態による高周波焼入れ用鋼を用いたクランクシャフトの製造方法の一例を説明する。
【0037】
上記化学組成の溶鋼を製造する。溶鋼を連続鋳造法により鋳片にする。溶鋼を造塊法によりインゴット(鋼塊)にしてもよい。鋳片又はインゴットを熱間加工して、ビレット(鋼片)や棒鋼にしてもよい。
【0038】
次に、鋳片、インゴット、ビレット又は棒鋼を熱間鍛造し、大気中で放冷して、クランクシャフトの粗形状の中間品を製造する。次に、クランクシャフトの中間品に対して、周知の条件で高周波焼入れを実施する。
【0039】
高周波焼入れされたクランクシャフトの中間品に対して、焼戻しを実施しない。つまり、焼戻しは省略される。焼戻しが省略されたクランクシャフトの中間品を、機械加工により所定の形状に研削して、クランクシャフトを製造する。
【0040】
クランクシャフトは、上述の化学組成を有する高周波焼入れ用鋼を用いて製造される。そのため、高周波焼入れが実施された後、焼戻しが省略されても、割れが発生しにくい。さらに、Mn及びCr含有量が式(1)を満たすことにより、高周波焼入れ用鋼は高硬度を有する。さらに、Si含有量が低いため、高周波焼入れ用鋼は耐焼き付き性に優れる。
【実施例】
【0041】
種々の化学組成を有する高周波焼入れ用鋼の組織、硬度、熱伝導率及び耐割れ性を調査した。
【0042】
[試験方法]
表1に示す化学組成のマークA〜Xの鋼を真空誘導加熱炉で溶解し、溶鋼にした。溶鋼を造塊して、柱状のインゴットを製造した。製造されたインゴットは、50kgの重量を有し、150mmの外径を有した。
【表1】

【0043】
表1中の「F値」欄は、以下の式(2)で示されるFの値を示す。
F=Mn+Cr (2)
ここで、式(2)中の各元素記号には、各元素の含有量(質量%)が代入される。
【0044】
表1を参照して、マークA〜Jの鋼の化学組成は、本実施の形態による高周波焼入れ用鋼の化学組成の範囲内であり、かつ、式(1)を満たした。
【0045】
一方、マークK〜Xの鋼の化学組成は、本実施の形態による高周波焼入れ用鋼の化学組成の範囲外であるか、式(1)を満たさなかった。具体的には、マークKのC含有量、Si含有量及びAl含有量、マークLのC含有量及びAl含有量、マークMのSi含有量、マークNのC含有量、マークO及びPのMn含有量、マークQ及びRのCr含有量、マークSのS含有量、マークTのN含有量、マークUのAl含有量及びマークVのTi含有量はそれぞれ、本実施の形態による高周波焼入れ用鋼の化学組成の範囲外であった。また、マークPのF値は式(1)の下限未満であり、マークO及びQのF値は式(1)の上限を超えた。
【0046】
マークW及びマークXの化学組成は、本実施の形態による高周波焼入れ用鋼の化学組成の範囲内であった。しかしながら、マークWのF値は式(1)の上限を超え、マークXのF値は式(1)の下限未満であった。
【0047】
各マークのインゴットを熱間鍛造して鍛造品を製造した。具体的には、各インゴットを周知の加熱炉で1250℃に加熱した。加熱されたインゴットを熱間鍛造して65mmの外径を有する丸棒の鍛造品(以下、単に丸棒という)を製造した。熱間鍛造時の仕上げ温度は1000℃であった。熱間鍛造後、丸棒を大気中で放冷した。
【0048】
[組織観察試験]
放冷後の各マークの丸棒を、軸方向に対して垂直に切断し、試験片を採取した。試験片の切断面の法線は、丸棒の軸方向であった。試験片の切断面を研磨した。研磨後、切断面をナイタル腐食液で腐食した。腐食後、400倍の光学顕微鏡で、腐食された切断面のR/2位置(丸棒切断面(円形状)の中心点と外周との間を2等分する点)の組織を観察した。
【0049】
[結晶粒度測定試験]
組織観察試験においてさらに、JISG0551の結晶粒度標準図を用いて、各マークの丸棒の切断面のR/2位置の任意の5視野にてオーステナイト結晶粒度を求めた。このとき、初析フェライトで囲まれた領域を1つの結晶粒と認定した。各マークにおいて、各視野で求めたオーステナイト結晶粒度の5視野の平均値を、そのマークのオーステナイト結晶粒度と定義した。
【0050】
[硬さ試験]
各丸棒を軸方向に対して垂直に切断した。切断面を鏡面研磨した後、切断面のうち、R/2位置の任意の3点でJISZ2244に基づくビッカース硬度(Hv)を測定した。試験力は98.07Nであった。得られた3つのビッカース硬度の平均値を、各マークの硬度と定義した。
【0051】
[割れ試験]
各マークの丸棒を周知の方法で旋削加工して、外径60mm、内径40mm、幅15mmのリング試験片(以下、単にリングという)を作製した。各リングの外周面に高周波焼入れを実施した。高周波焼入れでは、周波数150kHz、100kWでリングの外周面を1.2秒加熱した。加熱後、リングを水冷した。
【0052】
高周波焼入れを行った後、円筒プランジ研削により、リングの外周面を研削した。砥石には、クレトイシ株式会社製の商品「80A 80N 8V 201」を用いた。砥石は外径405mm、内径152.4mm、幅25mmであった。研削時の砥石周速は60m/sであり、切り込み速度は0.5mm/minであった。取り代は、φ0.3mm/Cutとした。つまり、各リングの外径が59.7mmになるまで、リングの外周面を研削した。
【0053】
研削されたリングの外周面を、4.1%塩酸に10分間浸漬した。浸漬後、蛍光磁粉探傷試験により、割れの有無を目視で確認した。
【0054】
[熱伝導率測定試験]
各丸棒のR/2位置から直径5mm、厚さ1mmの試験片を採取した。採取された試験片を用いて、JIS R1611に準じてレーザフラッシュ法により各マークの試験片の熱伝導率(W/(m・K))を測定した。
【0055】
[試験結果]
試験結果を表1に示す。表1中の「組織」欄には、組織観察試験で観察された組織を示す。「硬度」欄には、硬度試験により得られた硬度(Hv)を示す。「粒度」欄には、結晶粒度測定試験により得られた結晶粒度を示す。「熱伝導率」欄には、熱伝導率測定試験により得られた熱伝導率(W/(m・K))を示す。「割れ」欄には、割れ試験結果を示す。「無し」は割れが確認されなかったことを示す。「有り」は割れが確認されたことを示す。
【0056】
表1を参照して、マークA〜Jの化学組成は、本実施の形態による高周波焼入れ用鋼の化学組成の範囲内であり、かつ、F値が式(1)を満たした。そのため、各マークの丸棒のR/2位置での硬度はいずれもビッカース硬度で200Hv以上であった。また、熱伝導率はいずれも40W/(m・K)以上であり、優れた耐焼き付き性を示した。さらに、結晶粒度はいずれも2.0以上であり、割れ試験では、いずれのマークの試験片にも、割れが確認されなかった。なお、組織はいずれもフェライト・パーライト組織であった。
【0057】
一方、マークK及びLのC含有量は、本実施の形態による高周波焼入れ用鋼のC含有量の上限を超えた。そのため、割れ試験において、割れが確認された。また、マークK及びMのSi含有量は、本実施の形態による高周波焼入れ用鋼のSi含有量の上限を超えた。そのため、マークK及びMの熱伝導率は40W/(m・K)未満であり、耐焼き付き性が低いことが予想される。
【0058】
マークNのC含有量は、本実施の形態による高周波焼入れ用鋼のC含有量の下限未満であった。そのため、ビッカース硬度が200Hv未満であった。
【0059】
マークOのMn含有量は、本実施の形態による高周波焼入れ用鋼のMn含有量の上限を超えた。また、F値が式(1)の上限を超えた。そのため、組織観察においてベイナイトが観察された。さらに、ビッカース硬度は256Hvと高くなりすぎ、割れ試験において割れが確認され、熱伝導率も40W/(m・K)未満であった。
【0060】
マークPのMn含有量は、本実施の形態による高周波焼入れ用鋼のMn含有量の下限未満であり、かつ、F値が式(1)の下限未満であった。そのため、ビッカース硬度が200Hv未満であった。
【0061】
マークQのCr含有量は、本実施の形態による高周波焼入れ用鋼のCr含有量の上限を超え、かつ、F値が式(1)の上限を超えた。そのため、組織観察においてベイナイトが確認された。さらに、割れ試験において割れが確認された。
【0062】
マークRのCr含有量は、本実施の形態による高周波焼入れ用鋼のCr含有量の下限未満であった。そのため、ビッカース硬度が200Hv未満であった。
【0063】
マークSのS含有量は、本実施の形態による高周波焼入れ用鋼のS含有量の上限を超えた。そのため、割れ試験において割れが確認された。硫化物が多量に発生したためと推定される。
【0064】
マークTのN含有量、マークUのAl含有量、マークVのTi含有量は、本実施の形態による高周波焼入れ用鋼のN含有量、Al含有量、Ti含有量の下限未満であった。そのため、オーステナイト粒度が2.0未満となり、割れ試験において割れが確認された。また、マークU及びマークVのビッカース硬度は200Hv未満であった。
【0065】
マークW及びマークXの化学組成は、本実施の形態による高周波焼入れ用鋼の化学組成の範囲内であった。しかしながら、マークWのF値は式(1)の上限を超えたため、割れ試験において割れが確認された。また、マークXのF値は式(1)の下限未満であったため、ビッカース硬度が200Hv未満であった。
【0066】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.20〜0.34%、Si:0.20%以下、Mn:0.75〜2.0%、P:0.03%以下、S:0.20%以下、Cr:0.05〜1.2%、Ti:0.002%以上0.030%未満、Al:0.005〜0.04%、N:0.0040〜0.020%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、式(1)を満たす、高周波焼入れ用鋼。
1.20≦Mn+Cr≦2.10 (1)
ここで、式(1)中の各元素記号には、各元素の含有量(質量%)が代入される。
【請求項2】
請求項1に記載の高周波焼入れ用鋼を高周波焼入れして製造されるクランクシャフト。
【請求項3】
請求項2に記載のクランクシャフトであって、焼戻しを省略して製造される、クランクシャフト。




【公開番号】特開2012−52153(P2012−52153A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193223(P2010−193223)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】