説明

高周波焼入装置

【課題】焼入実施時におけるワークと加熱導体部の短絡事故を未然に防止できる高周波焼入装置の提供を目的とする。
【解決手段】高周波焼入装置1はPLC9と液晶表示器10と変成器4を備え、変成器4は1次側コイル14と2次側コイル15を有し、2次側コイル15と誘導加熱コイル5により誘導回路21を構成し、誘導加熱コイル5はワーク6に対向配置され、ワーク6はアース7に接続され、誘導回路21に並列に抵抗値測定手段18が接続され、抵抗値測定手段18は抵抗器Rと抵抗値測定装置8により構成され、抵抗器Rと抵抗値測定装置8は接続され、抵抗器Rと抵抗値測定装置8との間がアースに接続され、PLC9は抵抗値測定装置8と液晶表示器10に接続され、抵抗値測定装置8からの信号をPLC9にて処理して液晶表示器10に表示し、ワーク6と誘導加熱コイル5が短絡と判断される抵抗値をPLC9にプログラムしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークと加熱導体部の短絡を容易に判別できる高周波焼入装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
機械部品は、強度(耐摩耗性や耐疲労性)を確保するために焼入れが行われる。例えば、特許文献1には、クランクシャフト等のワークを焼入れすることができる高周波焼入装置の発明が開示されている。焼入対象となるワークと近接する加熱導体部に高周波電流を供給し、ワーク上に高周波の誘導電流を生じさせ、この誘導電流による発熱を利用して回転するワークを焼入れするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−113269号公報
【0004】
特許文献1に開示された高周波焼入装置は、ワークの焼入部位と加熱導体部とを所定間隔に離間させる接触子(スペーサ)を備えているため、接触子との接触によってワークに傷が生じる恐れがある。
【0005】
ワークの種類によっては、傷がつくと製品として出荷できないため、接触子を持たない高周波焼入装置を用いると、ワークと加熱導体部を適正な間隔に離間させるための位置決めが難しく、ワークと加熱導体部が接触して短絡することがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ワークと加熱導体部が短絡したままで高周波焼入れを行うと、正常な高周波焼入れが行えないだけでなく、ワークに傷がつき、加熱導体部も損傷するという事故に発展する。
そのため、焼入実施前に、ワークと加熱導体部の短絡を回路計(サーキットテスター)にて検出することも考えられるが、作業者一人で短絡の検出と、ワークと加熱導体部の位置決めを行うことは煩雑であり、作業効率が悪い。
【0007】
さらに、ワークの大きさや種類毎に有する抵抗値が異なり、ある程度の抵抗値を有する材質や大きさで構成されたワークが短絡した場合に、ワークの短絡の判別が困難である。
【0008】
そこで本発明は、このような問題点に鑑み、ワークと加熱導体部の短絡を容易に判別でき、焼入実施時におけるワークと加熱導体部の短絡事故を未然に防止できる高周波焼入装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための請求項1の発明は、ワークを高周波焼入れするための加熱導体部を有した高周波焼入装置であって、高周波焼入装置はPLCと表示装置と変成器を備え、変成器は1次側コイルと2次側コイルを有し、2次側コイルと前記加熱導体部により誘導回路を構成し、前記加熱導体部はワークに対向配置され、ワークはアースに接続され、前記誘導回路に並列に抵抗値測定手段が接続され、抵抗値測定手段は抵抗器と抵抗値測定装置により構成され、前記抵抗器と抵抗値測定装置は直列に接続され、前記抵抗器と抵抗値測定装置との間がアースに接続され、PLCは抵抗値測定装置と接続され、PLCは表示装置に接続されており、抵抗値測定装置からの信号をPLCにて処理して表示装置に表示し、ワークと加熱導体部が短絡と判断される抵抗値をPLCにプログラムしていることを特徴とする高周波焼入装置である。
【0010】
本発明の高周波焼入装置では、変成器の2次側コイルと前記加熱導体部により前記誘導回路が構成され、誘導回路には並列に抵抗値測定手段が接続され、抵抗値測定手段は抵抗器と抵抗値測定装置により構成され、前記抵抗器と抵抗値測定装置は直列に接続されることから、前記抵抗器と誘導回路との合成抵抗値を測定することができる。また、前記抵抗器と抵抗値測定装置との間がアースに接続され、ワークもアースに接続されていることから、ワークと加熱導体部が仮に短絡した場合には、前記抵抗器とワークがアースを通じて接続されることになる。
【0011】
そのためワークと加熱導体部が短絡した場合には、前記抵抗器と誘導回路とワークとが接続される。一方、誘導回路に並列に接続された抵抗値測定手段により、前記抵抗器と誘導回路とワークとの合成抵抗値を測定することができる。
【0012】
仮に誘導回路とワークの抵抗値を約0(Ω)とすると、ワークと加熱導体部が短絡してもしなくても常に約0(Ω)となってしまい、抵抗値測定手段によるワークと加熱導体部の短絡の検出を行うことができない。そこで、抵抗値測定手段に抵抗器を備えることで、ワークと加熱導体部が短絡した状態と、短絡していない状態との抵抗値の差を生みだすことができる。
【0013】
また、高周波焼入装置はPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)と表示装置を備えている。PLCは様々な装置をプログラム制御できる汎用コントローラであり、当該高周波焼入装置もPLCにより制御されている。PLCは抵抗値測定装置と接続され、PLCは表示装置に接続されており、抵抗値測定装置からの信号をPLCにて処理して表示装置に表示することができる。
【0014】
つまり、高周波焼入装置に備わるPLCを活用して、表示装置に抵抗値を表示することが可能である。また、ワークと加熱導体部が短絡と判断されるしきい値(抵抗値)をPLCに予めプログラムしておくことで、しきい値以下の場合に短絡と判別できる。なお、短絡したことを知らせるための警告表示等を表示装置に表示することも可能である。
【0015】
さらに、PLCは、ワークの材質や大きさ毎に短絡と判断されるしきい値を自由に設定することができる。このことにより、測定の際にワークの材質や大きさを選定し、ある程度の抵抗値を有する材質や大きさで構成されたワークが短絡した場合にも、容易にワークが短絡していることを判別できる。
【0016】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記誘導回路が通電時には、抵抗値測定手段が誘導回路から電気的に切断される切断手段を有していることを特徴とする高周波焼入装置である。
【0017】
本発明の高周波焼入装置では、焼入実施時には、前記誘導回路には高周波焼入れのための大電流が流れる。このことから、誘導回路が通電時に抵抗値測定手段を接続したままにしておくと、抵抗値測定手段にも大電流が流れてしまい、抵抗値測定手段が故障することが考えられる。よって、本発明の高周波焼入装置では、誘導回路が通電時には、抵抗値測定手段が誘導回路から電気的に切断される切断手段を有することで、抵抗値測定手段を保護することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ワークと加熱導体部の短絡を容易に判別でき、焼入実施時におけるワークと加熱導体部の短絡事故を未然に防止できる高周波焼入装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態の高周波焼入装置の概略構成図である。
【図2】図1の高周波焼入装置の動作を示す概略構成図であり、(a)は切断スイッチがONした状態、(b)は加熱導体部とワークが短絡した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に本発明の具体的な実施形態について説明する。なお、説明は、実施形態の理解を容易にするためのものであり、これによって、本願発明が制限して理解されるべきではない。
【0021】
図1に示すように、高周波焼入装置1は、高周波発振器2、コンデンサ3、変成器4、誘導加熱コイル5(加熱導体部)、PLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)9、液晶表示器10(表示装置)、切断スイッチ12(切断手段)、短絡スイッチ13、抵抗値測定手段18を備えている。変成器4は、1次側コイル14と2次側コイル15から構成される。
【0022】
誘導加熱コイル5に対向する位置にはワーク6が配置され、ワーク6はアース7に接続されている。
【0023】
抵抗値測定手段18は、抵抗値測定装置8と抵抗器Rから構成され、抵抗値測定装置8と抵抗器Rは直列に接続され、抵抗値測定装置8と抵抗器Rの間はアース7に接続されている。
【0024】
高周波焼入装置1は、図1に示すように、高周波発振器2、コンデンサ3、1次側コイル14が接続された電源回路20と、2次側コイル15と誘導加熱コイル5が接続された誘導回路21から構成される。さらに、誘導加熱コイル5には並列に抵抗値測定手段18が接続され、誘導加熱コイル5と抵抗値測定手段18の間には切断スイッチ12(切断手段)が接続されている。
【0025】
抵抗値測定装置8は、PLC9に接続され、PLC9には液晶表示器10が接続されている。なお、抵抗値測定装置8の両端には、短絡スイッチ13が接続されている。
【0026】
抵抗値測定手段18は、目的物の抵抗値を測定するための手段であり、本実施形態では誘導加熱コイル5とワーク6が短絡したことを判別するために高周波焼入装置1に備えられている。抵抗値測定手段18を構成する抵抗値測定装置8は、抵抗値をそのまま入力信号として処理できる変換器等により構成されることが望ましい。
【0027】
なお、抵抗値測定装置8の最大入力抵抗値は、抵抗器Rの抵抗値よりも大きいことが望ましく、一般的な回路計(サーキットテスタ)に内蔵されている倍率器の4倍程度の抵抗値であることが推奨される。
【0028】
抵抗値測定手段18に抵抗器Rを備えることで、誘導加熱コイル5とワーク6が短絡した状態と、短絡していない状態との抵抗値の差を生みだすことができる。すなわち、誘導回路21において、誘導回路21とワーク6の抵抗値が約0(Ω)の場合、抵抗器Rを接続しないと、誘導加熱コイル5とワーク6が短絡してもしなくても常に約0(Ω)となってしまう。つまり、抵抗値測定手段18に抵抗器Rを備えないと、抵抗値測定手段18による誘導加熱コイル5とワーク6の短絡の検出を行うことができない。
【0029】
なお、抵抗器Rの抵抗値は、一般的な回路計(サーキットテスタ)に内蔵されている倍率器と同等の抵抗値であることが望ましく、1(kΩ)程度の抵抗値を備えていることが推奨される。
【0030】
切断スイッチ12(切断手段)は、誘導回路21から、抵抗値測定手段18(抵抗器Rと抵抗値測定装置8)、PLC9、液晶表示器10を切断(絶縁)するための装置であり、抵抗値測定手段18による誘導加熱コイル5とワーク6の短絡の判別を行わない場合には、切断スイッチ12(切断手段)をOFFにする。
【0031】
このことにより、高周波焼入装置1で高周波焼入れを行う際に、誘導回路21に流れる大電流が抵抗値測定手段18に流れることを防止でき、大電流による抵抗値測定手段18等の破損を防止できる。なお、切断スイッチ12は、リレー等のユニットで制御されるタイプのスイッチで構成しても良い。
【0032】
短絡スイッチ13は、抵抗値測定手段18による目的物の抵抗値測定を行わない場合に、抵抗値測定装置8をアース7に接続しておくための装置であり、切断スイッチ12がONの時に短絡スイッチ13がOFFとなり、切断スイッチ12がOFFの時に短絡スイッチ13がONとなる。なお、短絡スイッチ13は、リレー等のユニットで制御されるタイプのスイッチで構成しても良い。
【0033】
PLC9は、高周波焼入装置1をプログラム制御できる汎用コントローラであり、CPUユニット、電源ユニット、ベースユニット、I/Oユニット、A/D変換ユニット等を備えている。PLC9に抵抗値測定装置8を接続することにより、抵抗値測定装置8からの信号をPLC9にて処理することができる。その結果、抵抗値測定装置8で測定した抵抗値をPLC9によって認知し、液晶表示器10に測定した抵抗値を表示することが可能である。
【0034】
つまり、高周波焼入装置1に備わるPLC9を活用して、誘導加熱コイル5とワーク6が短絡した場合の抵抗値を液晶表示器10に表示することが可能である。
また、PLC9に、ワーク6が短絡と判断されるしきい値(抵抗値)を予めプログラムしておくことで、しきい値以下の場合に短絡と判別できる。なお、短絡したことを知らせるための警告表示等を液晶表示器10に表示することも可能である。
【0035】
さらにPLC9は、ワーク6の材質や大きさ毎に短絡と判断されるしきい値を自由に設定することができる。このことにより、測定の際にワーク6の材質や大きさを選定し、ある程度の抵抗値を有する材質や大きさで構成されたワーク6が短絡した場合にも、容易にワーク6が短絡していることを判別できる。
なお、PLC9は公知の装置であるため、詳細な説明は省略する。
【0036】
液晶表示器10は、高周波焼入装置1の動作状態や、誘導加熱コイル5とワーク6が短絡したことを表示するための装置であり、タッチパネル機能を有していることが望ましい。なお、液晶表示器は公知の装置であるため、詳細な説明は省略する。
【0037】
つぎに、本発明の実施形態の高周波焼入装置1における抵抗値測定手段18の動作について、図面を参照しながら説明する。
【0038】
図2(a)は、切断スイッチ12がONの状態を示す誘導回路21の概略構成図であり、図2(b)は誘導加熱コイル5とワーク6が短絡した状態の誘導回路21の概略構成図である。
【0039】
なお、PLC9の初期設定として、短絡のしきい値を1(Ω)とし、しきい値以下の抵抗値が抵抗値測定装置8を介してPLC9に入力された際に、短絡という文字を液晶表示器10にて表示するように設定していることとする。
【0040】
図2(a)に示すように、切断スイッチ12がONの状態では、誘導回路21に並列に抵抗値測定手段18(抵抗器Rと抵抗値測定装置8)が接続され、抵抗値測定装置8にはPLC9が接続され、PLC9には液晶表示器10が接続される。
この時、抵抗値測定装置8には、2次側コイル15と誘導加熱コイル5との並列回路に、抵抗器Rを直列に接続して求められる抵抗値が入力される。
【0041】
銅の抵抗値がほぼ0(Ω)であるので、2次側コイル15と誘導加熱コイル5との並列回路は0(Ω)となる。例えば、抵抗器Rを1(kΩ)とした場合、抵抗値測定装置8には1(kΩ)が入力される。この時、PLC9による短絡のしきい値が1(Ω)であるため、PLC9により誘導加熱コイル5とワーク6は短絡していないと判断され、抵抗値1(kΩ)が液晶表示器10に表示される。
一方、図2(b)に示すように、誘導加熱コイル5とワーク6が短絡した状態では、短絡という文字が液晶表示器10に表示される。
【0042】
本発明の高周波焼入装置1では、PLC9によってワーク6の材質や大きさ毎に短絡と判断されるしきい値を自由に設定することができる。このことにより、測定の際にワーク6の材質や大きさを選定し、ある程度の抵抗値を有する材質や大きさで構成されたワーク6が短絡した場合にも、容易にワーク6が短絡していることを判別できる。また、PLC9に、ワーク6が短絡と判断されるしきい値(抵抗値)を予めプログラムしておくことで、しきい値以下の場合に、短絡を知らせる警告表示等を液晶表示器10に表示することも可能である。
【0043】
また、液晶表示器10がタッチパネル機能を有していることから、ワーク6の材質や大きさ毎に短絡と判断されるしきい値を、液晶表示器10のタッチパネルから入力できる設定としてもよい。
【0044】
以上より、本発明の高周波焼入装置1によれば、誘導加熱コイル5とワーク6の短絡を容易に判別でき、焼入実施時における誘導加熱コイル5とワーク6の短絡事故を未然に防止でき、安全性を増すことができる。
【0045】
本実施形態では、抵抗値測定手段18を抵抗値測定装置8と抵抗器Rから構成される例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、抵抗値測定装置8に抵抗器を内蔵している装置を採用してもよい。
また、抵抗器Rの抵抗値を1(kΩ)としたが、任意の抵抗値に変更してもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 高周波焼入装置
4 変成器
5 誘導加熱コイル(加熱導体部)
6 ワーク
7 アース
8 抵抗値測定装置
9 PLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)
10 液晶表示器(表示装置)
12 切断スイッチ(切断手段)
14 1次側コイル
15 2次側コイル
18 抵抗値測定手段
21 誘導回路
R 抵抗器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを高周波焼入れするための加熱導体部を有した高周波焼入装置であって、高周波焼入装置はPLCと表示装置と変成器を備え、変成器は1次側コイルと2次側コイルを有し、2次側コイルと前記加熱導体部により誘導回路を構成し、前記加熱導体部はワークに対向配置され、ワークはアースに接続され、前記誘導回路に並列に抵抗値測定手段が接続され、抵抗値測定手段は抵抗器と抵抗値測定装置により構成され、前記抵抗器と抵抗値測定装置は直列に接続され、前記抵抗器と抵抗値測定装置との間がアースに接続され、PLCは抵抗値測定装置と接続され、PLCは表示装置に接続されており、抵抗値測定装置からの信号をPLCにて処理して表示装置に表示し、ワークと加熱導体部が短絡と判断される抵抗値をPLCにプログラムしていることを特徴とする高周波焼入装置。
【請求項2】
前記誘導回路が通電時には、抵抗値測定手段が誘導回路から電気的に切断される切断手段を有していることを特徴とする請求項1に記載の高周波焼入装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−233339(P2011−233339A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102079(P2010−102079)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(390026088)富士電子工業株式会社 (48)
【Fターム(参考)】