説明

高周波用磁性体磁器の製造方法、及び高周波用磁性体磁器、並びにセラミック電子部品

【課題】金属材料にCuを使用しても、電極特性やフェライト特性を損なうことなくCuと磁性体材料とを同時焼成することができるようにする。
【解決手段】 導電膜の形成された複数枚の磁性体シートを積層して積層体ブロックを作製し、該積層体ブロックを熱処理する。まず、脱バインダ処理24では、焼成炉の炉内温度を昇温させ、温度T1で所定時間t1、積層体ブロックを熱処理し、脱バインダし、続く残留炭素除去処理25では、酸素分圧を1.0×10-7Pa〜1.0×10−13Pa、熱処理温度T2を550℃〜700℃に設定して所定時間t2熱処理を行い、その後の焼結処理26では、酸素分圧を1.0×10Pa〜1.0×10-6Pa、熱処理温度T3を1000℃〜1080℃に設定して所定時間t3熱処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高周波用磁性体磁器の製造方法、及び高周波用磁性体磁器、並びにセラミック電子部品に関し、より詳しくはガーネット型フェライト系材料を主成分とした磁器本体を有する高周波用磁性体磁器の製造方法、及び該製造方法を使用して製造された高周波用磁性体磁器、並びに該高周波用磁性体磁器を使用した非可逆回路部品等のセラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やミリ波レーダ等のマイクロ波領域の電磁波を利用した通信技術の進展に伴い、アイソレータ等の非可逆回路素子の研究・開発が盛んに行われている。
【0003】
アイソレータは、一般に、信号の伝送方向には減衰がなく、逆方向には減衰が大きくなる機能を有しており、数100MHz〜数GHzの極超短波帯やマイクロ波帯で使用される携帯電話、自動車電話等の移動体通信機器の送受信回路に搭載されている。
【0004】
そして、この種の磁性体材料としては、従来より、イットリウム鉄ガーネットYFe12(以下、「YIG」という。)に代表されるガーネット型フェライト系材料が広く使用されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、主成分が、一般式(Y3.0-x-yBiCa)(Fe5-α-β-γInαAlβγ)012で表される組成を有し、x、yの値が、0.44<x≦1.5、0.5≦y≦1.2であり、α、β、γの値が、0≦α≦0.4、0≦β≦0.45、0.25≦γ≦0.6(ただし0.1≦α+β≦0.75)の範囲内にあって、副成分としてCu及び/又はZrを含み、その含有量は、前記主成分100重量部に対して、CuをCuO換算で0重量%≦CuO≦0.8重量%、ZrをZrO換算で、0重量%≦ZrO≦0.8重量%であり、ガーネット構造を有する相を主成分とし、850℃以上980℃未満の温度で焼結するようにした多結晶セラミック磁性体材料が開示されている。
【0006】
この特許文献1では、Yの一部をBiで置換し、かつ副成分としてCuOを含有させることにより、850℃以上980℃未満の低い温度での焼成を可能としている。そして、特許文献1の実施例では、金属材料にAgを使用し、Agと磁性体シートとを同時焼成させ、これにより非可逆回路素子を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−145705号公報(請求項1、段落番号〔0032〕〜〔0038〕等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1は、磁性体材料とAgとを850℃以上980℃未満の焼成温度で同時焼成しているものの、Agは一般にマイグレーションが生じやすく、耐湿信頼性に欠けるという問題点がある。
【0009】
したがって、金属材料としては、耐湿信頼性が良好なCu系材料を使用するのが望ましい。
【0010】
一方、Cuの融点は約1080℃であるため、Cuと磁性体材料とを同時焼成するためには、1080℃以下の温度雰囲気で焼成する必要がある。
【0011】
しかしながら、上記特許文献1では、Ag以外にCuとの同時焼成も可能と記載されているものの、Cuとフェライトの平衡酸素分圧の関係から、フェライト特性を損なうことなくCuと磁性体材料とを同時焼成するのが困難であり、このためCu系の金属材料とガーネット型フェライトとを同時焼成した高周波用磁性体磁器を得られていない状況にある。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、金属材料にCuを使用しても、電極特性やフェライト特性を損なうことなくCuと磁性体材料とを同時焼成することができる高周波用磁性体磁器の製造方法、及び高周波用磁性体磁器、並びにこの高周波用磁性体磁器を備えた非可逆回路部品等のセラミック電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、金属材料にCuを使用し、磁性体材料にガーネット型フェライト系材料を使用して鋭意研究を行ったところ、焼結処理の前段階で、所定条件下熱処理を行ない、残留炭素を極力除去することにより、その後の焼結処理でフェライトの焼結を効果的に促進することができるという知見を得た。
【0014】
そして、本発明者らの更なる鋭意研究の結果、残留炭素を上述のように極力除去した後、所定条件下、熱処理を行うことより、Cu系の金属材料と磁性体材料とを同時焼結させることができ、しかも電極特性とフェライト特性の両立が可能な高周波用磁性体磁器を得ることのできるという知見を得た。
【0015】
また、残留炭素処理及び焼結処理を行うための所定条件、すなわち熱処理条件は、Cuやフェライトの平衡酸素分圧から見出すことができる。
【0016】
本発明はこのような知見に基づきなされたものであって、本発明に係る高周波用磁性体磁器の製造方法は、主成分がガーネット型フェライト系材料からなる磁性体材料を成形加工し、成形体を作製する成形体作製工程と、Cuを主成分とする導電膜を前記成形体の表面に形成する導電膜形成工程と、前記導電膜の形成された前記成形体を熱処理する熱処理工程とを含み、前記熱処理工程は、酸素分圧を1.0×10-7Pa〜1.0×10−13Pa、温度を550℃〜700℃に設定して熱処理を行い、残留炭素を除去する残留炭素除去処理(以下、「残C除去処理」という。)と、酸素分圧を1.0×10Pa〜1.0×10−6Pa、温度を1000℃〜1080℃に設定して熱処理を行い、前記成形体と前記導電膜とを同時に焼結させ、磁器本体と電極部とを備えた磁性体磁器を作製する焼結処理とを含んでいることを特徴としている。
【0017】
また、本発明の高周波用磁性体磁器の製造方法は、前記残C除去処理後は、残留炭素の含有量が2000ppm以下であることを特徴としている。
【0018】
そして、本発明者らの更なる鋭意研究の結果、焼結後に残C除去処理と同様の条件で再度熱処理を行うことにより、電極を再還元し、磁器本体を再酸化することができ、これによりフェライト特性の更なる向上を図ることができる。
【0019】
すなわち、本発明の高周波用磁性体磁器の製造方法は、前記熱処理工程は、前記焼結処理後に酸素分圧を1.0×10-7Pa〜1.0×10−13Pa、温度を550℃〜700℃に設定して熱処理を行い、前記電極を再還元しかつ前記磁器本体を再酸化する再還元・再酸化処理を含むことを特徴としている。
【0020】
さらに、本発明者らが鋭意研究を重ねたところ、主成分中にCu酸化物を0.25〜2.50重量%含有させた場合に磁性体材料とCu系材料とを同時焼成させることができ、特に、Cu酸化物が主成分中に0.50〜2.50重量%含有している場合は、より一層の特性向上を図ることができることが分かった。
【0021】
すなわち、本発明の高周波用磁性体磁器の製造方法は、前記主成分中にCu酸化物を0.25〜2.50重量%添加することを特徴としている。
【0022】
また、本発明の高周波用磁性体磁器の製造方法は、前記主成分中にCu酸化物を0.50〜2.50重量%添加することを特徴としている。
【0023】
また、本発明に係る高周波用磁性体磁器は、上記いずれかに記載の製造方法を使用して製造されたことを特徴としている。
【0024】
また、本発明に係るセラミック電子部品は、上記高周波用磁性体磁器を備えていることを特徴としている。
【0025】
また、本発明のセラミック電子部品は、非可逆回路部品であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0026】
本発明の高周波用磁性体磁器の製造方法によれば、主成分がガーネット型フェライト系材料からなる磁性体材料を成形加工し、成形体を作製する成形体作製工程と、Cuを主成分とする導電膜を前記成形体の表面に形成する導電膜形成工程と、前記導電膜の形成された前記成形体を熱処理する熱処理工程とを含み、前記熱処理工程は、酸素分圧を1.0×10-7Pa〜1.0×10−13Pa、温度を550℃〜700℃に設定して熱処理を行い、残留炭素を除去する残C除去処理と、酸素分圧を1.0×10Pa〜1.0×10−6Pa、温度を1000℃〜1080℃に設定して熱処理を行い、前記成形体と前記導電膜とを同時に焼結させ、磁器本体と電極部とを備えた磁性体磁器を作製する焼結処理とを含んでいるので、残C除去処理により焼結処理時のフェライトの焼結が促進され、磁性体材料からなる成形体とCuを主成分とする導電膜とを同時焼結させても、電極特性やフェライト特性を両立させることのできる高周波用磁性体磁器を製造することができる。
【0027】
また、前記残C除去工程後は、残留炭素の含有量が2000ppm以下であるので、焼結処理時にフェライトが残留炭素で還元されるのを極力抑制することができる。
【0028】
また、前記熱処理工程は、前記焼結処理後に酸素分圧を1.0×10-7Pa〜1.0×10−13Pa、温度を550℃〜700℃に設定して熱処理を行い、前記電極を再還元しかつ前記磁器本体を再酸化する再還元・再酸化処理を含むので、焼結処理で酸化された電極が還元され、還元された磁器本体が酸化され、これによりフェライト特性をより一層向上させることができる。
【0029】
また、前記主成分中にCu酸化物を0.25〜2.50重量%添加するので、磁性体材料の焼結性が促進される。特に前記主成分中にCu酸化物を0.50〜2.50重量%添加した場合は、磁性体材料の焼結性のより一層の促進を図ることができ、フェライト特性を向上させることができる。
【0030】
また、本発明の高周波用磁性体磁器によれば、上記いずれかに記載の製造方法を使用して製造されているので、Cuを主成分とする導電膜と磁性体材料とを同時焼結しても、電極特性とフェライト特性とが両立した高周波用磁性体磁器を得ることができる。
【0031】
また、本発明のセラミック電子部品は、上記高周波用磁性体磁器を備えているので、電極特性とフェライト特性とが両立した実用に供することのできる非可逆回路部品等のセラミック電子部品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の製造方法で製造された高周波用磁性体磁器の一実施の形態を示す分解斜視図である。
【図2】メインフェライト層の製造方法を示す斜視図である。
【図3】第1の絶縁体層の製造方法を示す斜視図である。
【図4】第2の絶縁体層の製造方法を示す斜視図である。
【図5】第3の絶縁体層の製造方法を示す斜視図である。
【図6】第4の絶縁体層の製造方法を示す斜視図である。
【図7】熱処理プロファイルの第1の実施の形態を示す図である。
【図8】本発明の製造方法で製造された高周波用磁性体磁器を使用したセラミック電子部品としてのアイソレータ(非可逆回路部品)の一実施の形態を示す斜視図である。
【図9】上記アイソレータの等価回路を示す電気回路図である。
【図10】熱処理プロファイルの第2の実施の形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
次に、本発明の実施の形態を詳説する。
【0034】
図1は、本発明の製造方法により製造された高周波用磁性体磁器(以下、単に、「磁性体磁器」という。)の一実施の形態を示す分解斜視図である。
【0035】
この磁性体磁器1は、略矩形状に形成されたメインフェライト層2の両主面に第1及び第2の絶縁体層3、4がそれぞれ配されると共に、これら第1及び第2の絶縁体層3、4の外主面には第3及び第4の絶縁体層5、6がそれぞれ配され、一体的に焼結されてなる。
【0036】
メインフェライト層2は、第1のフェライト素体7の上下両面にビア電極8(8a〜8n)が形成されている。
【0037】
第1の絶縁体層3は、第2のフェライト素体9の一方の主面に第1のメインライン電極10aが形成されると共に、上下両面にはビア電極11(11a〜11h)が形成されている。また、前記第1のメインライン電極10aは、第2のフェライト素体9の一方の主面に沿うように所定角度でもって傾斜状に形成されると共に、一方の端部10a−1はビア電極8aと接続可能となるように立設され、かつ他方の端部10a−2はビア電極8mと接続可能となるように垂設されている。
【0038】
第2の絶縁体層4は、第3のフェライト素体12の一方の主面に第2のメインライン電極10bが形成されると共に、上下両面にはビア電極13a〜13hが形成されている。前記第2のメインライン電極10bは、第2のフェライト素体9に形成された第1のメインライン電極10aと略対向状となるように所定角度でもって傾斜状に形成されると共に、一方の端部10b−1は前記ビア電極8aと接続可能となるように立設され、かつ他方の端部10b−2はビア電極8nと接続可能となるように垂設されている。このようにメインフェライト層2は、これら第1及び第2のメインライン電極10a、10bにより1ターン巻回されている。
【0039】
また、第3の絶縁体層5は、第2のフェライト素体9と対向する第4のフェライト素体14の主面の上下方向に平行状に第1の外側ライン電極群15a(第1〜第4の外側ライン電極16a〜16d)が形成されている。
【0040】
さらに、第4の絶縁体層6は、第3のフェライト素体12と対向する第5のフェライト素体17の主面に対し斜め上方に傾斜状となるように第2の外側ライン電極群15b(第5〜第8の外側ライン電極群18a〜18d)が平行状に形成されている。
【0041】
そして、本実施の形態では、第1〜第5のフェライト素体7、9、12、14、17は、主成分が、YIGからなるガーネット型フェライト系材料で形成され、これらで磁器本体を構成している。
【0042】
尚、YIG中のY及びFeの一部は、必要に応じて各種元素で置換するのも好ましく、例えば、Yの一部をCaで置換した(Y,Ca)Fe12や、Feの一部をIn、Sn、Al、Vのうちの少なくとも1種で置換したY(Fe,In)12、Y(Fe,Al)12、Y(Fe,Sn)12、Y(Fe,V)12、Y(Fe,In,Al,V)12、Y(Fe,Sn,Al,V)12、或いはこれらの組み合わせを適宜使用することができる。
【0043】
また、ビア電極8、11、13、第1及び第2のメインライン電極10a、10b、第1及び第2の外側ライン電極群15a、15bはいずれもCuで形成され、これらで電極部を構成している。
【0044】
そして、第8の外側ライン電極18dの上端は、ビア電極13d、8e、11dを介して第4の外側ライン電極16dの上端に電気的に接続されている。さらに、第4の外側ライン電極16dの下端はビア電極11h、8l、13gを介して第7の外側ライン電極18cの下端に電気的に接続されている。以下同様に、第7の外側ライン電極18cの上端は、ビア電極13c、8d、11cを介して第3の外側ライン電極16cの上端に電気的に接続され、第3の外側ライン電極16cの下端はビア電極11g、8k、13fを介して第6の外側ライン電極18bの下端に電気的に接続されている。また、第6の外側ライン電極18bの上端は、ビア電極13b、8c、11bを介して第2の外側ライン電極16bの上端に電気的に接続され、第2の外側ライン電極16bの下端はビア電極11f、8j、13eを介して第5の外側ライン電極18aの下端に電気的に接続されている。さらに、第5の外側ライン電極18aの上端は、ビア電極13a、8b、11aを介して第1の外側ライン電極層16aの上端に電気的に接続されている。さらに、第1の外側ライン電極16aはビア電極8iに接続されると共に、第4の外側ライン電極16dはビア電極8mに接続されている。尚、ビア電極8mは第1の外側ライン電極群15a及び第2の外側ライン電極群15bのそれぞれの端部の接続用電極として共用される。また、ビア電極8f、8g、8hはダミー電極である。
【0045】
このように第1及び第2の外側ライン電極群15a、15bは、第1及び第2の絶縁体層3、4により第1及び第2のメインライン電極10a、10bとの電気的絶縁性を確保しながら、メインフェライト層2の周囲を螺旋状に4ターン巻回されている。そして、第1及び第2のメインライン電極10a、10bと第1及び第2の外側ライン電極群15a、15bとはビア電極8lを介して電気的に接続されている。
【0046】
尚、本実施の形態で、ターン数とは、第1及び第2の外側ライン電極群15a、15bがメインフェライト層2を1回横断した状態を0.5ターンとして計算している。そして、第1及び第2のメインライン電極10a、10bと第1及び第2の外側ライン電極群15a、15bとの交差角度は、必要に応じて所望角度に設定され、これにより入力インピーダンスや挿入損失が調整される。
【0047】
次に、磁性体磁器1の製造方法を詳述する。
【0048】
〔メインフェライト層、第1〜第4の絶縁体層の作製(成形体及び導電膜の作製工程)〕
、Feを含む複数種のセラミック素原料を所定量秤量し、PSZボール等の玉石及び純水と共にボールミルで湿式混合した後、大気中で仮焼し、その後湿式粉砕して仮焼粉末を得る。次いで、この仮焼粉末と有機バインダとを有機溶剤中に分散させてセラミックスラリーを作製する。
【0049】
次いで、このセラミックスラリーを、コータ法やドクターブレード法等の成形加工法を使用して成形し、図2に示すように、矩形状の第1の磁性体シート19を作製する。
【0050】
次いで、平均粒径1〜2μmのCu粉末、樹脂ビーズ、バインダ樹脂、分散剤等を用意し、これらの原料を三本ロールミル等を使用して混練・分散させ、ビア電極用Cuペーストを作製する。
【0051】
次いで、この第1の磁性体シート19をレーザ加工して上下両面に所定数の凹部を形成する。そして、該凹部にビア電極用Cuペーストを充填し、その後乾燥させ、これによりビア電極用導電膜8a′〜8n′を有するメインフェライトシート2′を作製する。
【0052】
次に、上述と同様の方法で、図3に示すように、第2の磁性体シート20を作製し、該第2の磁性体シート20をレーザ加工して上下両面に所定数の凹部を形成し、前記ビア電極用Cuペーストを凹部にCuを充填する。
【0053】
次いで、平均粒径1〜2μmのCu粉末、樹脂ビーズ、バインダ樹脂、有機溶剤等を用意し、これらの原料を三本ロールミル等を使用して混練・分散させ、ライン電極用Cuペーストを作製する。
【0054】
次いで、第2の磁性体シート20の一方の主面にライン電極用Cuペーストをスクリーン印刷し、その後、乾燥させて第1のメインライン電極用導電膜10a′及びビア電極用導電膜11a′〜11h′を有する第1の絶縁体シート3′を形成する。
【0055】
尚、本実施の形態では、ビア電極用導電膜11a′〜11h′は凹部に充填して形成され、メインライン電極用導電膜10a′はスクリーン印刷法等で形成している。すなわち、ビア電極用導電膜とライン電極用導電膜とでは形成方法が異なることから、これらの導電膜の形成に適合するように、ビア電極用Cuペーストとライン電極用Cuペーストとでは異なる成分組成に調製されている。
【0056】
次いで、上述と同様の方法・手順で、図4に示すように、第3の磁性体シート21を作製し、該3の磁性体シート21をレーザ加工して上下両面に所定数の凹部を形成し、ビア電極用Cuペーストを凹部にCuを充填し、さらに第3の磁性体シート21の一方の主面にライン電極用Cuペーストをスクリーン印刷し、その後、乾燥させて第2のメインライン電極用導電膜10b′及びビア電極用導電膜13a′〜13h′を有する第2の絶縁体シート4′を形成する。
【0057】
さらに、上述と同様の方法で、図5に示すように、第4の磁性体シート22を作製し、該第4の磁性体シート22の一方の主面にライン電極用Cuペーストをスクリーン印刷し、乾燥させて第1〜第4の外側ライン電極用導電膜16a′〜16d′を有する第3の絶縁体シート5′を作製する。
【0058】
同様に、図6に示すように、第5の磁性体シート23を作製し、該第5の磁性体シート23の一方の主面にライン電極用Cuペーストをスクリーン印刷し、乾燥させて第5〜第8の外側ライン電極用導電膜18a′〜18d′を有する第4の絶縁体シート6′を作製する。
【0059】
〔熱処理工程〕
まず、メインフェライトシート2′を第1及び第2の絶縁体シート3′、4′で挟持し、さらに第1及び第2の絶縁体シート3′、4′を第3及び第4の絶縁体シート5′、6′で挟持して圧着し、積層体ブロックを作製し、この積層体ブロックを熱処理し、焼成する。
【0060】
図7は、熱処理プロファイルの第1の実施の形態を示す図であって、本熱処理プロファイルは、脱バインダ処理24、残C除去処理25、及び焼結処理26を有している。
【0061】
〔脱バインダ処理24〕
脱バインダ処理24では、焼成炉の炉内温度を昇温させ、温度T1(例えば、350〜500℃)で所定時間t1(例えば、2時間)、積層体ブロックを熱処理し、該積層体ブロックに含まれているバインダを焼失させる。
【0062】
〔残C除去処理25〕
残C除去処理25では、脱バインダ後の被処理物に残留している炭素を除去する。
【0063】
すなわち、Cuとフェライトとを同時焼成するためには、フェライトをCuの融点である1080℃以下の低温で焼結させる必要がある。
【0064】
しかしながら、脱バインダ後の被処理物に大量の残留炭素が存在すると、後工程の焼結処理でフェライトの焼結が阻害され、焼結性が低下し、1080℃以下の低温での焼結が困難になるおそれがある。また、焼結処理時に残留炭素が大量に存在すると、フェライトが残留炭素によって還元され、その結果フェライト特性の劣化を招くおそれがある。
【0065】
したがって、焼結処理の前段階で残留炭素を極力低減させる必要がある。具体的には、残留炭素の含有量を2000ppm以下、好ましくは500ppm以下に抑制するのが望ましい。
【0066】
そのためにはCuの酸化とフェライトの還元が抑制されるような酸素分圧及び熱処理温度となるように残C除去条件を設定する必要がある。
【0067】
すなわち、反応系が平衡状態にある場合、標準生成ギプスエネルギーΔG°は数式(1)で表される。
【0068】
ΔG°=2.303RTlogPKO…(1)
ここで、Rは気体定数(=8.314×10-3kJ/K・mol)、Tは絶対温度(K)、PKOは平衡酸素分圧(Pa)である。
【0069】
そして、例えば、Cuの平衡酸素分圧PKOよりも低い酸素分圧下で熱処理した場合は、Cuは酸化されず、Cu金属の状態を維持する。一方、Cuの平衡酸素分圧PKOよりも高い酸素分圧下で熱処理した場合は、Cuの酸化が促進されてCuOを生成する。
【0070】
また、フェライトの場合は、Feの平衡酸素分圧PKOよりも低い酸素分圧下で熱処理した場合は、Feの還元が促進され、Feを生成する。一方、Feの平衡酸素分圧PKOよりも高い酸素分圧下で熱処理した場合は、Feの状態で焼結される。
【0071】
そして、本実施の形態では、このようなCu及びフェライトの平衡酸素分圧の関係から、酸素分圧を1.0×10-7Pa〜1.0×10−13Paに設定し、熱処理温度T2を550℃〜700℃の範囲に設定して所定時間t2(例えば、4〜5時間)熱処理を行い、これにより残C除去を行なっている。
【0072】
すなわち、Cuの平衡酸素分圧の関係から、酸素分圧が1.0×10-7Paを超えて高くなると、Cuが著しく酸化され、Q値の低下を招くおそれがある。
【0073】
一方、フェライトの平衡酸素分圧の関係から、酸素分圧が1.0×10-13Pa未満に低くなると、フェライトが還元され、フェライト特性の劣化を招くおそれがある。
【0074】
また、熱処理温度が550℃未満になると、残留炭素が水性反応を起こし難くなり、このため残留炭素の含有量を2000ppm以下に抑制するのが困難となる。一方、熱処理温度が700℃を超えると、フェライト及びCuの平衡酸素分圧から、酸素分圧が1.0×10-7Pa〜1.0×10−13Paの範囲で熱処理を行うと、フェライトは還元されてフェライト特性の劣化を招くおそれがあり、また、Cuは酸化されてQ値の劣化を招くおそれがある。
【0075】
〔焼結処理26〕
残C除去処理25後に行なう焼結処理26では、第1〜第5の磁性体シート19〜23とライン電極用導電膜10、16、18及びビア電極用導電膜8、11、13を同時に焼結させる。
【0076】
この場合も、残C除去処理と同様、所望の電極特性及びフェライト特性を得るためには、Cuの酸化とフェライトの還元が抑制されるような酸素分圧及び熱処理温度となるような熱処理条件を設定する必要がある。
【0077】
本実施の形態では、Cu及びフェライトの平衡酸素分圧の関係から、酸素分圧を1.0×10Pa〜1.0×10−6Paに設定し、熱処理温度T3を1000℃〜1080℃の範囲に設定して所定時間t3(例えば、4〜5時間)熱処理を行い、これにより焼結を行なっている。
【0078】
すなわち、Cuの平衡酸素分圧の関係から、酸素分圧が1.0×10-0Paを超えて高くなると、Cuが著しく酸化し、Q値の低下を招くおそれがある。
【0079】
一方、フェライトの平衡酸素分圧の関係から、酸素分圧が1.0×10−6Pa未満に低くなると、フェライトが還元されるため、フェライト特性の劣化を招くおそれがある。
【0080】
また、酸素分圧が1.0×10Pa〜1.0×10−6Paの範囲で焼結処理を行った場合、焼結温度が1000℃未満になるとフェライトが焼結不良となり、一方、焼結温度が1080℃を超えると、Cuの融点を超えるため、電極の断線等を招くおそれがある。
【0081】
そして以上のように酸素分圧及び熱処理温度を設定して残C除去処理25及び焼結処理26を行うことにより、Cuとフェライト材料を同時焼成しても、電極特性やフェライト特性の良好な磁性体磁器1を得ることができる。
【0082】
尚、酸素分圧及び熱処理温度は、上述した範囲内であれば、熱処理中に変動が生じても影響を与えることはなく、また、焼成炉内での昇温速度や降温速度も特に限定されるものではない。
【0083】
図8は、上記磁性体磁器1を使用したセラミック電子部品としての2ポート型アイソレータ(非可逆回路部品)の一実施の形態を示す斜視図であって、本実施の形態では、集中定数型のアイソレータを示している。
【0084】
このアイソレータは、回路基板27上にアイソレータ本体28が実装されると共に、平板状に形成されたヨーク29が絶縁層30を介して前記アイソレータ本体28に載設されている。
【0085】
回路基板27は、導電膜が形成された複数のセラミックグリーンシートが積層され、焼成されたセラミック多層基板からなり、整合用コンデンサや終端抵抗が内蔵されている。そして、回路基板27の上面にはアイソレータ本体28と電気的接続を行うための上面電極31a〜31cが形成されると共に、該回路基板27の下面には外部接続用に複数の下面電極(不図示)が形成されている。
【0086】
ヨーク29は、電磁シールド機能を有し、アイソレータ本体28からの磁気の漏れや高周波電磁界の漏れを抑制すると共に、外部からの磁気の影響を抑制する作用を有する。尚、ヨーク29は、必ずしも接地されている必要はないが、はんだ付けや導電性接着剤などで接地してもよく、接地することにより、高周波シールドの向上に寄与することができる。
【0087】
アイソレータ本体28は、上記磁性体磁器1が熱硬化性系エポキシ樹脂等の接着剤32a、32bを介して一対の永久磁石33a、33bで挟着されている。
【0088】
尚、永久磁石33a、33bとしては、特に限定されるものではないが、Sr系、Ba系、或いはLa−Co系のフェライト磁石を好んで使用することができる。
【0089】
図9は上記アイソータの等価回路を示す電気回路図である。
【0090】
すなわち、回路基板27には整合用コンデンサC1及び終端抵抗Rが内蔵され、回路基板27の下面に形成された下面電極(不図示)が入力ポートP1を形成している。そして、該下面電極は、回路基板27の上面に形成された上面電極31a及びメインフェライト層2の下面に形成されたビア電極8nを介してメインライン電極10(第1及び第2のメインライン電極10a、10b)の一端に接続されている。
【0091】
メインライン電極10の他端及び外側ライン電極群15(第1及び第2の外側ライン電極群15a、15b)の一端は、メインフェライト層2の下面に形成されたビア電極8m及び回路基板27の上面に形成された上面電極31bを介して終端抵抗R及びコンデンサC1、C2に接続され、かつ、回路基板27の下面に形成された下面電極に接続され、出カポートP2を形成している。
【0092】
また、外側ライン電極群15の他端は、メインフェライト層2の下面に形成されたビア電極8i及び回路基板27の上面に形成された上面電極31cを介してコンデンサC2及び回路基板27の下面に形成された下面電極に接続され、該下面電極がグランドポートP3を形成している。
【0093】
このように構成されたアイソレータは、磁性体磁器1がCuとフェライト材料が同時焼成されてなるので、生産性が良好で耐湿信頼性に優れ、かつ電極特性やフェライト特性の良好なものとなる。
【0094】
また、上記第1の実施の形態では、熱処理工程が、脱バインダ処理24、残C除去処理25、及び焼結処理26の3過程を有しているが、図10に示すように、焼結処理26の後に、残C除去処理25の熱処理条件に戻し、再還元・再酸化処理34を所定時間t4(例えば、4〜5時間)行うのも好ましい。
【0095】
すなわち、焼結処理では、Cu及びフェライトの平衡酸素分圧の関係から、Cuに対しては酸化性雰囲気で、フェライトに対しては還元雰囲気で焼結処理が行なわれることから、熱処理雰囲気を調整して再還元・再酸化処理を行なうことにより、電極の酸化を抑制しつつフェライト特性をより一層向上させることが可能となる。
【0096】
ただし、Cuの平衡酸素分圧の関係から、酸素分圧が1.0×10-7Paを超えて高くなると、Cuに対し酸化性雰囲気となってCuが著しく酸化し、Q値の低下を招くおそれがある。
【0097】
一方、フェライトの平衡酸素分圧の関係から、酸素分圧が1.0×10-13Pa未満に低くなると、フェライトが還元され、フェライト特性の劣化を招くおそれがある。
【0098】
また、熱処理温度が550℃未満になると、温度が低いためフェライトの再酸化を進行させるのが困難となる。
【0099】
一方、熱処理温度が700℃を超えると、フェライトの還元が促進されてフェライト特性が却って劣化するおそれがあり、またCuの酸化が促進されてQ値が劣化するおそれもある。
【0100】
したがって、再還元・再酸化処理34は、残C除去条件と同様の熱処理条件、すなわち、酸素分圧を1.0×10-7Pa〜1.0×10−13Paに設定し、550℃〜700℃の温度範囲で所定時間t4(例えば、4〜5時間)熱処理を行うのが好ましい。
【0101】
また、本発明は、フェライト材料の主成分中にCu酸化物を0.25〜2.50重量%含有するのも好ましく、これにより磁性体シートのより低温での焼結が可能となる。特に、Cu酸化物を0.50〜2.50重量%含有することにより、フェライト特性のより一層の向上を図ることが可能となる。
【0102】
ただし、Cu酸化物の含有量が0.25重量%未満になると、Cu酸化物の添加効果を発揮することが困難となり、一方、Cuの含有量が2.50重量%を超えると、却ってフェライト特性の劣化を招くおそれがあり、好ましくない。
【0103】
そして、このようなCu酸化物としては、CuO及びCuOのいずれか1種又はこれらの組み合わせを使用することができる。
【0104】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、セラミック電子部品についてもアイソレータを例示して説明したが、サーキュレータなど、他の通信用高周波回路等にも適用可能であるのはいうまでもない。
【0105】
また、上記実施の形態では、金属材料にCuを使用しているが、特性を損なわない範囲でCuを主成分とするものであればよく、例えばCu合金を使用してもよい。
【0106】
次に、本発明の実施例を具体例に説明する。
【実施例1】
【0107】
〔メインフェライトシートの作製〕
セラミック素原料として、CaCO、Y、Fe、Al、V、及びInを用意し、主成分組成が(Y2.12Ca0.89)(Fe4.05Al0.300.42In0.22)O12.00となるように、これらセラミック素原料を秤量した。
【0108】
次いで、これら秤量物を純水及びPSZボールと共に塩化ビニル製のポットミルに入れ、湿式で十分に混合粉砕し、蒸発乾燥させた後、950℃の温度で仮焼し、仮焼粉末を得た。
【0109】
次に、副成分としてCuOを用意し、CuOの含有量が0.25重量%となるようにCuOを秤量して仮焼粉末に添加し、ポリビニルブチラール系バインダ、有機溶剤としてのエタノール、及びPSZボールと共に、再び塩化ビニル製のポットミルに投入し、十分に混合粉砕し、セラミックスラリーを得た。
【0110】
次に、得られたセラミックスラリーを、コータ装置を使用して厚さが150μmとなるようにシート状に成形し、さらに上面及び下面をレーザ加工して所定個数の凹部を形成し、これにより第1の磁性体シートを得た。
【0111】
次に、平均粒径が約1.6μmのCu粉末、樹脂ビーズとしてのポリプロピレン樹脂(平均粒径:6.7μm、比重:0.89)、バインダ樹脂としてのエトセル樹脂、及び分散剤として楠本化成社製ディスパロン2150を用意した。そして、Cu粉末、ポリプロピレン樹脂、エトセル樹脂、分散剤の含有比率が体積%で、38:10:50:2となるようにそれぞれ秤量し、三本ロールミルを使用して混練・分散させ、これによりビア電極用Cuペーストを作製した。
【0112】
次いで、第1の磁性体シートに形成された凹部に上記ビア電極用Cuペーストを充填し、乾燥させ、これによりメインフェライトシートを作製した(図2参照)。
【0113】
〔第1の絶縁体シートの作製〕
セラミック素原料として、CaCO、Y、Fe、Al、V、及びInを用意し、主成分組成が(Y1.61Ca1.40)(Fe3.76Al0.350.61In0.27)O12.00となるように、これらセラミック素原料を秤量した。次いで、これら秤量物を純水及びPSZボールと共に塩化ビニル製のポットミルに入れ、湿式で十分に混合粉砕し、蒸発乾燥させた後、950℃の温度で仮焼し、仮焼粉末を得た。
【0114】
次に、副成分としてCuOを用意し、CuOの含有量が0.25重量%となるようにCuOを秤量して仮焼粉末に添加し、ポリビニルブチラール系バインダー、有機溶剤としてのエタノール、及びPSZボールと共に、再び塩化ビニル製のポットミルに投入し、十分に混合粉砕し、セラミックスラリーを得た。
【0115】
次に、得られたセラミックスラリーに対し、コータ装置を使用して厚さが30μmとなるようにシート状に成形し、さらに上面及び下面をレーザ加工して所定個数の凹部を形成し、これにより第2の磁性体シートを得た。
【0116】
次に、メインフェライトシートの作製時に使用したビア電極用Cuペーストを用意し、さらに以下の方法・手順でライン電極用Cuペーストを作製した。
【0117】
すなわち、平均粒径が約1.6μmのCu粉末、樹脂ビーズとしてのアクリル樹脂(平均粒径:1.1μm、比重:1.2)、バインダ樹脂としてのエトセル樹脂、及び有機溶剤としてのジヒドロターピネオールを用意した。そして、Cu粉末、アクリル樹脂、エトセル樹脂、ジヒドロターピネオールの含有比率が体積%で、33:9:50:8となるようにそれぞれ秤量し、三本ロールミルを使用して混練・分散させ、これによりライン電極用Cuペーストを作製した。
【0118】
次いで、第1の磁性体シートに形成された凹部に上記ビア電極用Cuペーストを充填させると共に、上記ライン電極用Cuペーストを使用してスクリーン印刷を行い、メインライン電極用導電膜を形成し、その後乾燥させ、これにより試料番号1〜41の第1の絶縁体シートを作製した(図3参照)。
【0119】
〔第2の絶縁体シートの作製〕
第1の絶縁体シートと略同様の方法・手順で、第2の絶縁体シートを作製した(図4参照)。
【0120】
〔第3の絶縁体シートの作製〕
第1の絶縁体シートと同様の方法・手順で、セラミックスラリーを作製した。次いで、上記セラミックスラリーを、コータ装置を使用して厚さが30μmとなるようにシート状に成形し第4の磁性体シートを得た。
【0121】
そして、ライン電極用Cuペーストを使用してスクリーン印刷を行い、外側ライン電極用導電膜が形成された第3の絶縁体シートを作製した(図5参照)。
【0122】
〔第4の絶縁体シートの作製〕
第3の絶縁体シートと略同様の方法・手順で、第4の絶縁体シートを作製した(図6参照)。
【0123】
〔マザー積層体の作製〕
メインフェライトシートの両主面に第1の絶縁体シート及び第2の絶縁体シートを配し、さらに第1の絶縁体シートの外側に第3の絶縁体シート、第2の絶縁体シートの外側に第4の絶縁体シートをそれぞれ配し、積層して60℃に加熱し、100MPaの圧力で60秒間加圧し、圧着させ、試料番号1〜41のマザー積層体を得た。
【0124】
〔熱処理工程〕
(脱バインダ処理)
試料番号1〜41の各積層体ブロックを400℃の温度で2時間保持して脱バインダを行ないバインダを焼失させた。
【0125】
(残C除去処理)
表1及び表2に示すような酸素分圧PO及び熱処理温度で5時間、熱処理を行なった。
【0126】
尚、残C除去処理の終了後に、酸素気流中高周波加熱下における赤外吸収法によって、各試料の残留炭素量を測定した。
【0127】
(焼結処理)
残C除去処理の終了後に、表1及び表2に示すような酸素分圧PO及び熱処理温度で5時間、熱処理を行なった。
【0128】
〔積層体ブッロクの作成〕
熱処理工程終了後に、マザー積層体を、縦1.5mm、横0.7mm、厚さ0.5mmの大きさに切り出し、試料番号1〜41の積層体ブロックを得た。
【0129】
〔試料の特性評価〕
試料番号1〜41の各試料について、電極構造、電極特性、フェライト特性、アイソレータ特性を評価した。
【0130】
表1及び表2は各試料の焼成条件、及び評価結果を示しており、表1の試料番号1〜29は、本発明の実施例試料、表2の試料番号30〜41は本発明範囲外の比較例試料を示している。
【0131】
【表1】

【0132】
【表2】

【0133】
ここで、電極構造は、各試料の電極断面を倍率200倍の金属顕微鏡で観察し、電極内部に亀裂が認められなかったものを良(○)、亀裂が認められたものを不良(×)と判断した。
【0134】
電極特性は、ネットワークアナライザ(アジレント・テクノロジー社製HP4291A)を使用し、測定周波数1.0GHz、動作磁界1000ガウスでQ値を測定した。電極特性は、Q値が3200A/T以上の試料を良(○)、3200A/T未満の試料を不良(×)と判断した。
【0135】
また、フェライト特性は、以下のようにして評価した。
【0136】
すなわち、各試料のメインフェライト層を (直径7.0〜8.0mm、厚み0.20〜0.30mm)の薄肉円板状に切り抜き、表1及び表2の熱処理条件で焼成し、次いでこれらの各焼成品について、両端開放のストリップライン形共振器を使用し、周波数1.0GHzで強磁性共鳴半値幅ΔHを測定した。そして、フェライト特性は、強磁性共鳴半値幅ΔHが1600A/T未満の試料を優(◎)、1600A/T以上であって2400A/T未満の試料を良(○)、2400A/T以上の試料を不良(×)と判断した。
【0137】
また、アイソレーター特性は、以下のようにして評価した。
【0138】
すなわち、試料番号1〜41の各試料に整合素子と終端抵抗を加えてアイソレーターを構成し、上述したネットワークアナライザを使用して挿入損失ILを測定してアイソレータ特性を評価した。そして、挿入損失ILが0.35dB未満の試料を優(◎)、0.35dB以上0.40dB未満の試料を良(○)、0.40dB以上の試料を不良(×)と判断した。
【0139】
次に、試料番号1〜41の各試料の評価結果について述べる。
【0140】
試料番号30、31は、フェライト特性及びアイソレータ特性が不良(×)となった。これは、残C除去処理における熱処理温度が500℃と低く、残留炭素が水性反応を起こしにくいためと思われる。すなわち、残留炭素が水性反応を起こしにくいため、残留炭素を十分に除去できずに残留炭素の含有量が2000ppmを超えてしまった。このため焼結処理でフェライトが残留炭素によって還元され、良好なフェライト特性及びアイソレータ特性を得ることができなかったものと思われる。
【0141】
試料番号32、33も、試料番号30、31と同様、フェライト特性及びアイソレータ特性が不良(×)となった。これは残C除去処理における熱処理温度が750℃と高いため、フェライトに対して還元雰囲気となりフェライトが還元されてしまったためと思われる。
【0142】
試料番号34、35も、試料番号30〜33と同様、フェライト特性及びアイソレータ特性が不良(×)となった。これは焼結処理の熱処理温度が950℃と低いため、フェライトを十分に焼結させることができず、フェライトが焼結不足となり、実用に供し得るアイソレーター特性を得ることができなかった。
【0143】
試料番号36、37は、全ての評価が不良(×)となった。これは焼結処理の熱処理温度がCuの融点である1080℃よりも高いため、電極が溶解し、電極特性が不良となった。また、酸素分圧がフェライトに対し還元雰囲気となって該フェライトが還元されたため、フェライト特性も不良となり、実用に供し得るアイソレーター特性を得ることができなかったものと思われる。
【0144】
試料番号38は、電極構造、電極特性、アイソレータ特性が不良となった。これは残C除去処理の酸素分圧が1.0×0-6Paと高いためCuが酸化され、その結果焼結処理で電極の構造破壊が起こり、このため実用に供し得るアイソレーター特性を得ることができなかった。
【0145】
試料番号39は、フェライト特性及びアイソレータ特性が不良となった。これは残C除去処理の酸素分圧が1.0×0-14Paと過度に低く、フェライトが還元されてしまったためと思われる。
【0146】
試料番号40は、電極構造、電極特性、アイソレータ特性が不良となった。これは焼結処理の酸素分圧が10Paと高く、Cuが酸化されて電極の構造破壊が起こり、このため実用に供し得るアイソレータ特性を得ることができなかった。
【0147】
試料番号41は、フェライト特性及びアイソレータ特性が不良となった。これは焼結処理の酸素分圧が1.0×10-7Paと低く、フェライトが還元されたためフェライト特性が不良となり、実用に供し得るアイソレータ特性を得ることができなかったものと思われる。
【0148】
これに対し試料番号1〜29は、残C除去処理が、酸素分圧:1.0×10-7Pa〜1.0×10−13Pa、熱処理温度:550℃〜700℃で行なわれ、また、焼結処理が、酸素分圧:1.0×10Pa〜1.0×10−6Pa、熱処理温度:1000℃〜1080℃で行なわれているので、電極構造、電極特性、フェライト特性、アイソレータ特性の全てにおいて良好な結果が得られた。
【実施例2】
【0149】
この実施例2では、焼結処理後に再還元・再酸化処理を行なった。
【0150】
すなわち、まず、実施例1と同様の方法・手順で、メインフェライトシート、第1〜第4の絶縁体シートを作製し、マザー積層体を作製した。
【0151】
次いで、酸素分圧を1.0×10-7Pa、熱処理温度を550℃、又は酸素分圧を1.0×10−13Pa、熱処理温度を700℃に設定して5時間熱処理を行ない、これにより残C除去処理を実施し、その後酸素分圧を1.0×100Pa、熱処理温度を700℃に設定して5時間熱処理を行い、これにより焼結処理を実施した。
【0152】
そしてこの後、酸素分圧を1.0×10-7Pa、熱処理温度を550℃に設定して5時間熱処理を行い、Cu電極を再還元し、フェライトを再酸化し、所定寸法に切断して試料番号51〜54の試料を得た。
【0153】
次に、実施例1と同様の方法・手順で電極構造、電極特性、フェライト特性、及びアイソレータ特性を評価した。尚、これらの評価基準は実施例1と同様である。
【0154】
表3は、試料番号51〜54の各試料の焼成条件、及び評価結果を示している。
【0155】
【表3】

【0156】
この表3から明らかなように再還元・再酸化処理を行なうことにより、強磁性共鳴半値幅ΔHは1600A/T未満となって、フェライト特性が向上することが分かった。
【0157】
これは焼結処理の酸素分圧及び熱処理温度がフェライトの平衡酸素分圧の関係から還元雰囲気で行なわれており、したがってフェライトに対し酸化性雰囲気に設定して再度熱処理を行なうことにより、Cuの酸化を抑制しつつフェライトが酸化され、これによりフェライト特性がより一層向上したものと思われる。
【実施例3】
【0158】
この実施例3では、磁性体シートに含有されるCuOの含有量を異ならせ、特性を評価した。
【0159】
すなわち、CuOの含有量を0.50〜2.50重量%の範囲で異ならせた以外は、実施例1と同様の方法でメインフェライト層及び第1〜第4の絶縁体層を作製し、試料番号61〜63のマザー積層体を作製した。
【0160】
次いで、試料番号61〜63の各積層体ブロックを400℃の温度で2時間保持してバインダを焼失させ脱バインダを行なった。
【0161】
次いで、酸素分圧を1.0×10-10Pa、熱処理温度を600℃に設定して5時間熱処理を行ない、これにより残C除去処理を実施し、その後酸素分圧を1.0×10-2Pa、熱処理温度を1040℃に設定して5時間熱処理を行い、これにより焼結処理を実施し、所定寸法に切断して試料番号61〜63の試料を得た。
【0162】
そして、実施例1と同様の方法・手順でフェライト特性、及びアイソレータ特性を評価した。尚、これらの評価基準は実施例1と同様である。
【0163】
表4は、試料番号61〜63の各試料の焼成条件、及び評価結果を示している。尚、試料番号61〜63の熱処理条件(残C除去処理及び焼結処理)は、実施例1の試料番号2と同様の条件で行なったものであり、比較のため試料番号2の評価結果を再掲している。
【0164】
【表4】

【0165】
この試料番号61〜63から明らかなように、CuOの含有量を0.50〜2.50重量%の範囲に設定することにより、CuOの含有量が0.25重量%の試料番号2よりもフェライト特性が向上することが分かった。これは融点の低いCuの含有量を増加させているため、フェライトの焼結がより促進され、その結果、フェライト特性が向上したものと思われる。
【産業上の利用可能性】
【0166】
磁性体材料とCuとを同時焼成させても電極特性とフェライト特性とを両立させることができ、良好なアイソレータ特性を実現することができる。
【符号の説明】
【0167】
7、9、12、14、17 フェライト素体(磁器本体)
8a〜8n、11a〜11h、13a〜13h ビア電極
8a′〜8n′、11a′〜11h′、13a′〜13h′ ビア電極用導電膜
10a、10b メインライン電極
10a′、10b′ メインライン電極用導電膜
16a〜16d、18a′〜18d 外側ライン電極
16a′〜16d′、18a′〜18d′ 外側ライン電極用導電膜
19〜23 磁性体シート(成形体)
25 残C除去処理
26 焼結処理
34 再還元・再酸化処理

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分がガーネット型フェライト系材料からなる磁性体材料を成形加工し、成形体を作製する成形体作製工程と、Cuを主成分とする導電膜を前記成形体の表面に形成する導電膜形成工程と、前記導電膜の形成された前記成形体を熱処理する熱処理工程とを含み、
前記熱処理工程は、酸素分圧を1.0×10-7Pa〜1.0×10−13Pa、温度を550℃〜700℃に設定して熱処理を行い、残留炭素を除去する残留炭素除去処理と、酸素分圧を1.0×10Pa〜1.0×10-6Pa、温度を1000℃〜1080℃に設定して熱処理を行い、前記成形体と前記導電膜とを同時に焼結させ、磁器本体と電極部とを備えた磁性体磁器を作製する焼結処理とを含んでいることを特徴とする高周波用磁性体磁器の製造方法。
【請求項2】
前記残留炭素除去処理後は、残留炭素の含有量が2000ppm以下であることを特徴とする請求項1記載の高周波用磁性体磁器の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理工程は、前記焼結処理後に酸素分圧を1.0×10-7Pa〜1.0×10−13Pa、温度を550℃〜700℃に設定して熱処理を行い、前記電極を再還元しかつ前記磁器本体を再酸化する再還元・再酸化処理を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の高周波用磁性体磁器の製造方法。
【請求項4】
前記主成分中にCu酸化物を0.25〜2.50重量%添加することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の高周波用磁性体磁器の製造方法。
【請求項5】
前記主成分中にCu酸化物を0.50〜2.50重量%添加することを特徴とする請求項4記載の高周波用磁性体磁器の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の製造方法を使用して製造されたことを特徴とする高周波用磁性体磁器。
【請求項7】
請求項6記載の高周波用磁性体磁器を有していることを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項8】
非可逆回路部品であることを特徴とする請求項7記載のセラミック電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−109461(P2011−109461A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262966(P2009−262966)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】