説明

高周波鉄損の優れた無方向性電磁鋼板、及びその製造方法

【課題】最終製品厚に冷間圧延した後の仕上焼鈍工程において、焼鈍雰囲気の酸素ポテンシャルを成分に応じて適正な範囲に制御することで、製品の酸化層を生じさせず、高周波鉄損の優れた無方向性電磁鋼板を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.005%以下、Si:2〜4%、Al:0.3〜2%、Cr:0.3〜4%、かつSi+Al+Cr:3〜7%、Mn:1.5%以下、S:0.003%以下、N:0.003%以下を含み、残部不可避的不純物よりなる無方向性電磁鋼板の製造工程において、熱延板を最終製品厚に冷間圧延した後の仕上焼鈍工程を酸素ポテンシャルPH2O/PH2:0.015×X2以下の範囲に制御することを特徴とする高周波用無方向性電磁鋼板の製造方法。ここでXはSi、Al、Crの含有量(質量%)の合計値である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータコア、特に電気自動車やハイブリッド自動車のように高速回転や高周波駆動されるモータコアの素材として好適な高周波鉄損の優れた無方向性電磁鋼板、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車やハイブリッド自動車の普及が目覚ましい。これらに使用される駆動用モータは、高速回転化、及びインバータによる高周波駆動化が進展している。高速回転化、高周波駆動化で、モータコア用無方向性電磁鋼板には高周波鉄損の低減が求められている。
【0003】
無方向性電磁鋼板の高周波鉄損低減には、板厚薄手化、高合金化による高固有抵抗化が有効である。一方で非磁性である鋼板表面の酸化層も鉄損を劣化させる原因の一つであり、特に高周波では表皮効果により表層部に磁束が集中するため表面酸化層の影響が大きくなることが知られている。
【0004】
表面酸化層を除去する手法として、特許文献1には、仕上焼鈍後の無方向性電磁鋼板を濃塩酸と約10%の弗酸で酸洗する手法が記載されている。
【0005】
また、特許文献1には、Si:1.0〜4.0%、Sol.Al:0.1〜3.0%を含有する冷間圧延無方向性電磁鋼板において、水蒸気分圧/水素分圧(PH2O/PH2)が0.05以下の雰囲気中で熱処理をすることで鋼板表面の内部酸化層を生成させずに高磁場鉄損の優れた無方向性電磁鋼板を製造する手法が記載されている。
【0006】
さらに、特許文献2には、Sn及びSbの少なくとも1種を合計で0.005〜0.4wt%の範囲で含有させ、かつ仕上焼鈍の雰囲気を制御することで鋼板表面の内部酸化層を生成させずに鉄損の優れた無方向性電磁鋼板を製造する手法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭48-19048号公報
【特許文献2】特公昭48-19766号公報
【特許文献3】特開平11-279641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、発明者らが、上掲した特許文献に開示の技術について詳細に検討したところ、特許文献1の技術では、仕上焼鈍工程の後に酸洗工程が必要で、さらに層間絶縁を目的とした絶縁被膜塗布工程が必要となるため、現実的ではない。
【0009】
また、特許文献2の技術では、高周波鉄損をさらに低減するために、SiやAl以外の鋼の固有抵抗を上げる合金元素を添加していくと、必ずしも本条件が適正ではない場合があるという問題点が判明した。
【0010】
さらに、特許文献3の技術では、合金コストの上昇や、製鋼段階での処理時間が長くなる問題点がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、最終製品厚に冷間圧延した後の仕上焼鈍工程において、焼鈍雰囲気の酸素ポテンシャルを合金成分に応じた適正な範囲に制御することで、製造コストを上昇させず、かつ製品の磁気特性、特に高周波鉄損を劣化させる酸化層を生じさせず、所望の目的が達成されるとの知見を得た。
【0012】
本発明は、上記の知見に立脚し、高周波鉄損の優れた無方向性電磁鋼板、及びその製造技術に関するものである。
【0013】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0014】
質量%で、C:0.005%以下、Si:2〜4%、Al:0.3〜2%、Cr:0.3〜4%、かつSi、Al及びCrの合計量:3〜7%、Mn:1.5%以下、S:0.003%以下、N:0.003%以下を含み、残部不可避的不純物よりなる無方向性電磁鋼板の製造方法において、熱延板を最終製品厚に冷間圧延した後の仕上焼鈍工程を酸素ポテンシャルPH2O/PH2:0.015×X2以下の範囲に制御することを特徴とする高周波用無方向性電磁鋼板の製造方法。ここでXはSi、Al、Crの含有量(質量%)の合計値である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高周波鉄損の優れた無方向性電磁鋼板を、製造コストの上昇なしに製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】鋼組成(Si+Al+Cr)及び仕上焼鈍の酸素ポテンシャルの酸化層の厚みへの影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
製品のC量を0.005%以下に限定する。Cは鋼中に炭化物として析出し、結晶粒成長性や鉄損を劣化させる。0.005%を超えると結晶粒成長性劣化、鉄損劣化が顕著となるため、0.005%以下に限定する。さらに磁気時効を抑制するために、望ましくは0.003%以下が好ましい。下限は特に限定しないが、通常の製造方法では0.001%以下にすることは困難である。
【0019】
Si量を質量%で2〜4%に限定する。Siは鋼板の固有抵抗を増加させ、渦電流損を低減させることで高周波鉄損を低減する。2%未満では固有抵抗増加が小さく、鉄損低減効果が小さいことから2%以上に限定する。一方でSiは鋼板を脆化させ、特に冷間圧延性を劣化させる。4%を超えると冷間圧延性が著しく劣化することから4%以下に限定する。
【0020】
Al量を質量%で0.3〜2%に限定する。AlはSiと同様に鋼板の固有抵抗を増加させ、高周波鉄損を低減する。一方でAlは鋼板の飽和磁束密度を低下させる。2%を超えると飽和磁束密度が著しく低下し、無方向性電磁鋼板の材料特性の指標の一つであるB50(励磁磁化力5,000A/mでの磁束密度)の低下が顕著となる。また、2%を超えると脆化するため、2%以下に限定する。0.3%未満では製鋼段階での脱酸が不十分となり、また窒化物が微細析出し結晶粒成長性や鉄損を劣化させるため、0.3%以上に限定する。
【0021】
Cr量を質量%で0.3〜4%に限定する。CrはSi, Alより効果代は小さいものの鋼板の固有抵抗を増加させ、高周波鉄損を低減する。0.3%未満では固有抵抗増加が小さく、鉄損低減効果が小さいことから0.3%以上に限定する。一方でCrは鋼板の飽和磁束密度を低下させる。4%を超えるとB50の低下が顕著となるため、4%以下に限定する。
【0022】
Si、Al及びCrの合計量を質量%で3〜7%に限定する。3%未満では固有抵抗増加が小さく、鉄損低減効果が小さいことから3%以上に限定する。一方で7%を超えると飽和磁束密度の低下が顕著となり、かつ冷間圧延性が著しく劣化することから7%以下に限定する。
【0023】
Mn量を質量%で1.5%以下に限定する。Mnも効果代は小さいものの鋼板の固有抵抗を増加させるが、1.5%を超えると脆化するため、1.5%以下に限定する。下限は特に限定しないが、硫化物の微細析出抑制の観点から0.2%以上が望ましい。
【0024】
S量を質量%で0.003%以下に限定する。Sは鋼中に硫化物として析出し、結晶粒成長性や鉄損を劣化させる。0.003%を超えると結晶粒成長性劣化、鉄損劣化が顕著となるため、0.003%以下に限定する。下限は特に限定しないが、通常の製造方法では0.0005%以下にすることは困難である。
【0025】
N量を質量%で0.003%以下に限定する。Nは0.003%を超えるとブリスターと称されるフクレ状の表面欠陥が生じるため、0.003%以下に限定する。下限は特に限定しないが、通常の製造方法では0.001%以下にすることは困難である。
【0026】
上記の無方向性電磁鋼板を製造するにおいて、熱延板は、通常の酸洗処理後に冷間圧延に供しても良いし、磁気特性向上の目的で熱延板焼鈍を実施しても良い。熱延板焼鈍は連続焼鈍でもバッチ焼鈍でも問題なく、磁気特性向上に適した結晶粒径が得られる温度、時間条件が得られれば良い。
【0027】
次いで冷間圧延を施す。冷間圧延は通常レバース或いはタンデムで行われるが、ゼンジマーミルなどのレバースミルの方が高磁束密度を得られるので好ましい。製品板厚は高周波鉄損低減の観点から0.1〜0.35mmが好ましい。製品板厚を得るための冷間圧延において、一回以上の中間焼鈍を挟んでも良い。
【0028】
冷間圧延で製品板厚にした後、仕上焼鈍を実施する。仕上焼鈍では再結晶、粒成長を得るための十分な温度が必要であり、通常800〜1,100℃で実施される。この時、焼鈍雰囲気の酸素ポテンシャルPH2O/PH2を0.015×X2以下の範囲に限定する。ここでXはSi、Al、Crの含有量(質量%)の合計値である。酸素ポテンシャルが上がると鋼板表面の酸化が顕著になり、0.015×X2を超えると酸化層が片側1μmを超え鉄損劣化が顕著となるため、PH2O/PH2を0.015×X2以下に限定する。
【0029】
仕上焼鈍の後は、通常絶縁を目的とした被膜を塗布、焼き付けする。皮膜は全有機、全無機、有機質と無機質との混合のいずれでも本発明の効果を妨げないので特に限定しない。
【0030】
以下、本発明の実施例を示す。
【実施例】
【0031】
表1に示す成分を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる熱延板を、900℃、1分の熱延板焼鈍を施し、酸洗後、0.35mm厚に冷間圧延した。その後、950℃の仕上焼鈍を実施する際、表2に示す酸素ポテンシャルPH2O/PH2の範囲で変化させ、焼鈍後の試料の表面酸化層厚みと400Hz、1Tでの鉄損W10/400を表2に示した。結果を図1に示す。図1の各点の横に記載した数値は表面酸化層厚み(片側あたり)を示し、太線はPH2O/PH2=0.015×X2を示す。PH2O/PH2=0.015×X2を超えると酸化層厚みが1μmを超え、それに応じてW10/400も劣化する。本発明範囲のPH2O/PH2≦0.015×X2の範囲では、酸化被膜厚み1μm以下であり、それに応じて良好な磁気特性が得られた。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0034】
仕上焼鈍における酸素ポテンシャルPH2O/PH2を成分に応じて適正な範囲に制御することで、酸化層厚みを低減し、高周波鉄損の優れた無方向性電磁鋼板を得ることがで、産業上の利用可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.005%以下、Si:2〜4%、Al:0.3〜2%、Cr:0.3〜4%、かつSi、Al及びCrの合計量:3〜7%、Mn:1.5%以下、S:0.003%以下、N:0.003%以下を含み、残部不可避的不純物よりなる無方向性電磁鋼板の製造方法において、熱延板を最終製品厚に冷間圧延した後の仕上焼鈍工程を酸素ポテンシャルPH2O/PH2:0.015×X2以下の範囲に制御することを特徴とする高周波用無方向性電磁鋼板の製造方法。ここでXはSi、Al、Crの含有量(質量%)の合計値である。

【図1】
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【公開番号】特開2011−241416(P2011−241416A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112534(P2010−112534)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】