説明

高周波電力増幅装置

【課題】複数の増幅器のいずれかが故障しても、出力電力の低下を抑制する高周波電力増幅装置を提供する。
【解決手段】ウイルキンソン型電力合成器30は、第1と第2の増幅器1a、1bの出力信号を分離するアイソレーション抵抗32と該抵抗32の両端に配置されて制御回路5によって開放、短絡または抵抗32への接続の3経路のいずれかを選択可能なSP3Tスイッチ33a、33bからなる信号分離手段と、分離された第1および第2の増幅器の出力信号を出力端7に伝送する1/4波長線路31a、31bで構成されており、制御回路5は第1あるいは第2の電流検出回路2a、2bの検出結果によって第1または第2の増幅器の異常を検出すると、異常検出された増幅器の出力がウイルキンソン型電力合成器30で合成されないようにSP3Tスイッチ33a、33bの経路を選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロ波等の高周波電力の送信装置に用いられる電力増幅装置に係わり、更に詳しくはウイルキンソン型電力合成器を用いた高周波電力増幅装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電力合成器としては、例えば特開平8−84006号公報(特許文献1)に記載されたものがある。
特開平8−84006号公報には、2個の電力源の電力を合成する電力合成器であって、各電力源から伝送される電力を検出する検出手段と、各電力伝送路を開閉する開閉手段と、各電力伝送路のインピーダンスを補正するインピーダンス補正手段と、前記検出手段の検出結果に基づいて、電力が伝送されない電力伝送路を開とし、電力が伝送される電力伝送路を閉とするよう前記開閉手段を制御し、且つ、電力が伝送される電力電送路のインピーダンスを補正するよう前記インピーダンス補正手段を制御する制御回路を備えたことを特徴とする電力合成器が示されている。そして、電力が伝送されない電力伝送路を開とし、且つ電力が伝送される電力電送路のインピーダンスを補正することにより、電力が伝送されない電力伝送路の影響を受けずに、且つインピーダンス不整合による電力損失を殆ど生じることなく電力が出力されることが記載されている。
【0003】
上記特許文献1に記載された電力合成器(2電力合成器)等においては、入力2経路間の通過特性をアイソレーション特性と言う。
このアイソレーションは、理想的には“∞(即ち、一方の入力端子に信号を入力した場合に、他方の入力端子には入力信号が伝送しない状態)”であることが望ましい。
アイソレーションが取れていれば、一方の入力源の状態は他方の入力源の特性(例えば、反射特性や通過特性)に影響を与えない。
しかし、特許文献1に記載された電力合成器では、入力2経路間のアイソレーションが取れず、問題がある。
【0004】
そのため、従来では、入力2経路間のアイソレーションを取るための一つ手段として、ウイルキンソン型電力合成器が用いられている。
図9は、従来のウイルキンソン型電力合成器を用いた2電力合成装置の構成を示す図である。
入力端6より入力された入力高周波信号は、電力分配器4にて分配され、分配された高周波信号は、増幅器1aおよび増幅器1bでそれぞれ増幅される。増幅器1aで増幅された信号は1/4波長線路31aを介して入力端7に伝送され、増幅器1bで増幅された信号は1/4波長線路31bを介して入力端7に伝送される。
そして、この入力2経路で伝送された2つの信号は入力端7にて合成される。また、入力2経路間にはアイソレーション抵抗32が設けられている。
増幅器1aおよび増幅器1bの出力電力をPとすると、2つの増幅器1a、1bが正常に動作する場合、合成後の出力電力は2Pとなる。
【0005】
図10は、図9に示した従来のウイルキンソン型電力合成器を用いた2電力合成装置の問題点を説明するための図であり、図9の2つの増幅器1a、1bの内の一方が故障などで出力0となった場合を示す。
図9に示した従来のウイルキンソン型電力合成器では、アイソレーション抵抗32で0.5Pの電力が消費され、合成後の出力電力は0.5Pとなり、単位増幅器1aの出力電力の半分がアイソレーション抵抗32で消費される。
ウイルキンソン型電力合成器を用いることの利点としては、最大出力レベルを単位増幅器の2倍とすることができること、2経路のアイソレーション特性が良いことがある。
【0006】
しかし、2個の増幅器の出力を合成するウイルキンソン形電力合成器では、増幅器の故障などにより一方の増幅器出力が無出力となった場合、もう一方の入力レベルの半分がアイソレーション抵抗に消費され、もう半分が合成器出力となる。
一方の増幅器の出力が0となった場合でも動作を続ける場合、アイソレーション抵抗に入力電力の半分が消費されるので、効率が悪くなり、出力電力が低下するというデメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−084006号公報(特許第2581464号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したように、2個の増幅器の出力を合成する従来のウイルキンソン形電力合成器では、増幅器の故障などにより一方の増幅器出力が無出力となった場合に、もう一方の増幅器出力(即ち、正常な方の増幅器出力)の半分がアイソレーション抵抗に消費され、もう半分が合成器出力となる。
一方の増幅器の出力が0となった場合でも動作を続ける場合、アイソレーション抵抗に入力電力の半分が消費されるために、電力合成の効率が悪く、出力電力が低くなるというデメリットがある。
【0009】
この発明はこのような問題点を解決するためになされたものであり、ウイルキンソン型電力合成器を用いた「複数の増幅器の出力を合成する高周波電力増幅装置」において、複数の増幅器の内の1個あるいは2個以上が故障した場合も動作を続ける場合でも、アイソレーション抵抗で消費される電力を抑え、増幅器の故障による出力電力低下の程度を抑制することができる高周波電力増幅装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る高周波電力増幅装置は、入力する高周波電力信号を第1の入力信号と第2の入力信号に2分配する電力分配器と、前記電力分配器により2分配された一方の入力信号を増幅する第1の増幅器と、前記電力分配器により2分配された他方の入力信号を増幅する第2の増幅器1bと、前記第1の増幅器および第2の増幅器の出力信号を合成するウイルキンソン型電力合成器と、前記第1の増幅器への供給電流を検出する第1の電流検出回路と、前記第2の増幅器への供給電流を検出する第2の電流検出回路と、前記第1の電流検出回路および前記第2の電流検出回路の電流検出結果に基づいて、前記第1の増幅器および第2の増幅器への電源供給を制御する制御回路を備えた高周波電力増幅装置であって、
前記ウイルキンソン型電力合成器は、前記第1の増幅器および第2の増幅器の出力信号を分離するアイソレーション抵抗と該アイソレーション抵抗の両端に配置されて前記制御回路によって開放、短絡あるいはアイソレーション抵抗への接続の3つの経路のいずれかを選択可能な2つのSP3Tスイッチからなる信号分離手段と、分離された前記第1の増幅器および第2の増幅器の出力信号をそれぞれ出力端に伝送する2つの1/4波長線路で構成されており、
前記制御回路は、前記第1の電流検出回路あるいは第2の電流検出回路の電流検出結果によって前記第1の増幅器あるいは第2の増幅器の異常を検出すると、異常が検出された増幅器の出力が前記ウイルキンソン型電力合成器で合成されないように前記2つのSP3Tスイッチの経路を選択するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ウイルキンソン型電力合成器を用いた高周波電力増幅装置において、複数の増幅器の内のいずれかの増幅器が故障して異常となった場合に、ウイルキンソン型電力合成器で用いられるアイソレーション抵抗での消費電力を抑えることができ、出力電力の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施の形態1に係る高周波電力増幅装置の構成を示す図である。
【図2】実施の形態1において、増幅器が故障して異常が検出された場合の電流検出回路および制御回路の動作を説明するための図である。
【図3】実施の形態1において、一方の増幅器が異常となった場合の動作を説明するための等価回路図である。
【図4】実施の形態1において、一方の増幅器が異常となった場合の動作を説明するための等価回路図である。
【図5】実施の形態2に係る高周波電力増幅装置の構成を示す図である。
【図6】実施の形態3に係る高周波電力増幅装置の構成を示す図である。
【図7】実施の形態3の高周波電力増幅装置において、単位増幅器故障時のアイソレーション抵抗両端のSP3Tスイッチの切り替え状態と出力電力を示す表である。
【図8】実施の形態4に係る高周波電力増幅装置の構成を示す図である。
【図9】従来の2電力合成装置の構成を示す図である。
【図10】従来の2電力合成装置の問題点を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態例について説明する。
なお、各図間において、同一符号は同一あるいは相当のものであることを表す。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る高周波電力増幅装置の構成を示す図である。
本実施の形態による高周波電力増幅装置は、入力端6より入力された高周波信号を等分配する電力分配器4と、電力分配器4にて等分配(2分配)された高周波信号を増幅する2つの増幅器1a、1bを備えている。
増幅器1a、1bは、それぞれインピーダンスZ0に整合されており、増幅器1a、1bの出力負荷変動による影響を軽減するためのアイソレータ8a、8bを備えている。
また、増幅器1a、1bにそれぞれ電源を供給するための電源回路3a、3bを備えている。
さらに、増幅器1a、1bにより増幅された信号を合成するウイルキンソン型電力合成器30を備えている。
【0014】
本実施の形態におけるウイルキンソン型電力合成器30は、特性インピーダンスが√2Z0の1/4波長線路 31a、31bと抵抗値2Z0のアイソレーション抵抗32から
なる通常の基本的なウイルキンソン型電力合成器(図9参照)において、アイソレーション抵抗32の両端にSP3Tスイッチ33a、33bを加えたことを特徴とする。
SP3Tスイッチ33a、33bは、開放(COM−C)、短絡(COM−B)、アイソレーション抵抗(COM−A)の3つの経路のいずれかを選択可能である。
また、本実施の形態による高周波電力増幅装置は、増幅器1a、1bへの供給電流を検出するための電流検出回路2a、2bを備えており、さらに、電流検出回路2a、2bの検出値のいずれかが異常であった場合に、異常である方の増幅器への電源供給を断ち、且つSP3Tスイッチ33a、33bの経路を切り替える制御回路5を備えることを特徴とする。
【0015】
図1に示した高周波電力増幅装置では、例えば、一方の増幅器1bが故障などで異常となった場合、制御回路5により1bへの電源供給を断ち、スイッチ33aの経路をA→C(開放)に、33bの経路をA→B(短絡)に切り替える。
例えば、増幅器1bが故障などの異常検出は、増幅器1bの電流値を電流検出回路2bにてモニタすることで行う。
図2は、増幅器1bが故障して異常が検出された場合の電流検出回路2bおよび制御回路5の動作を説明するための図である。
例えば、図2に示すように、増幅器1bの電流値が時刻Tにおいてある閾値を下回った時に、増幅器1bは異常と判定し、制御回路5は上記のようにスイッチの経路切り替えを行う。
【0016】
図3は、実施の形態1において、一方の増幅器(例えば、増幅器1b)が異常となった場合の動作を説明するための等価回路図である。
スイッチ33a、33bの経路切り替えによりアイソレーション抵抗32は回路より切り離され、図1に示した高周波電力増幅装置は、図3に示すような等価回路(電源3a、
3b、電流検出回路2a、2bおよび制御回路5の記載は省略)となる。
図3において、a点のインピーダンスはショートとなり、1/4波長線路31bはショートスタブ(Short stub)となる。1/4波長の周波数をfcとすると、電力合成部b点から増幅器1bを見込んだインピーダンスはfcでオープンである。
したがって、周波数fcにおいて図4に示すような回路と等価である。
アイソレーション抵抗32での消費電力は、アイソレーション抵抗32が回路上切り離されるため0となる。
【0017】
図4のc点から出力負荷側をみたインピーダンスは、2Z0で増幅器のインピーダンスZ0と不整合による反射損失がおよそ0.51dB生じる。
そのため、出力電力は、入力電力全体の−0.51dB(=約0.89P)となるが、従来のウイルキンソン型電力合成器を用いた2合成電力増幅装置の出力0.5Pに対して、損失を小さくすることができる。
なお、−0.51dBは、インピーダンス2Z0の信号源からインピーダンスZ0の負荷へ信号を入力した時の通過電力損失の計算値である。
【0018】
以上説明したように、本実施の形態よる高周波電力増幅装置は、入力する高周波電力信号を第1の入力信号と第2の入力信号に2分配する電力分配器4と、電力分配器4により2分配された一方の入力信号を増幅する第1の増幅器1aと、電力分配器4により2分配された他方の入力信号を増幅する第2の増幅器1bと、第1の増幅器1aおよび第2の増幅器1bの出力信号を合成するウイルキンソン型電力合成器30と、第1の増幅器1aへの供給電流を検出する第1の電流検出回路2aと、第2の増幅器1bへの供給電流を検出する第2の電流検出回路2bと、第1の電流検出回路2aおよび第2の電流検出回路2bの電流検出結果に基づいて、第1の増幅器1aおよび第2の増幅器1bへの電源供給を制御する制御回路5を備えている。
【0019】
そして、ウイルキンソン型電力合成器30は、第1の増幅器1aおよび第2の増幅器1bの出力信号を分離するアイソレーション抵抗32と該アイソレーション抵抗32の両端に配置されて前記制御回路5によって開放、短絡あるいはアイソレーション抵抗への接続の3つの経路のいずれかを選択可能な2つのSP3Tスイッチ33a、33bからなる信号分離手段と、分離された第1の増幅器1aおよび第2の増幅器1bの出力信号をそれぞれ出力端7に伝送する2つの1/4波長線路31a、31bで構成されている。
【0020】
さらに、制御回路5は、前記第1の電流検出回路2aあるいは第2の電流検出回路2bの電流検出結果によって第1の増幅器1aあるいは第2の増幅器1bの異常を検出すると、異常が検出された増幅器の出力がウイルキンソン型電力合成器30で合成されないように2つのSP3Tスイッチ33a、33bの経路を選択する。
したがって、本実施の形態によれば、第1の増幅器1aあるいは第2の増幅器1bのいずれか一方が故障した場合でも、アイソレーション抵抗32での消費電力を抑えることができ、出力電力の低下を抑制できる。
【0021】
実施の形態2.
図5は、実施の形態2に係る高周波電力増幅装置の構成を示す図である。
前述した実施の形態1による高周波電力増幅装置において、増幅器1a、1bを入出力特性の飽和領域での動作でなく、飽和出力より3dB以上バックオフをとった線形領域で動作させる場合は、図5に示すように、実施の形態1(図1)における電力分配器4に代えて、「ウイルキンソン型電力合成器30の構成と同様にアイソレーション抵抗の両端にSP3Tスイッチを備えるウイルキンソン型合成器を入力電力分配回路40として用いる」ことで、一方の増幅器が故障などで無出力となった場合について、さらに出力低下を抑えることができる。なお、バックオフとは、増幅器がある出力電力で動作する場合に、動作出力電力と飽和出力電力との差のことである。
【0022】
図5に示した高周波電力増幅装置において、増幅器1a、1bが正常時は出力電力Pで線形動作すると仮定すると、例えば、増幅器1bが故障などで無出力になった場合に、前述した図1の高周波電力増幅装置の動作に加えて、制御回路5により入力電力分配回路40のSP3Tスイッチ43aをC(開放)に、SP3Tスイッチ43bをB(短絡)に切り替える。
これにより、入力電力分配回路40から異常増幅器1b側を見込んだインピーダンスは周波数fcで開放となり、アイソレーション抵抗42での消費電力は0となる。
入力信号は増幅器1b側へは分配されず、増幅器1aのみに入力される。
入力電力分配回路40での反射損失は、合成部側(即ち、ウイルキンソン型電力合成器30側)と同様に約0.51dBとなり、入力電力分配回路40での損失を合計すると約1dBの反射損失となるが、出力電力は1.58Pとなる。即ち、実施の形態1の場合に比べて一方の増幅器の故障による出力低下はさらに小さくなり、出力電力を大きくすることができる。なお、出力電力が1.58Pとなる詳細な説明は省略する。
【0023】
以上説明したように、本実施の形態よる高周波電力増幅装置は、前述した実施の形態1による高周波電力増幅装置おける電力分配器4に代えて、入力する高周波電力信号を第1および第2の増幅器1a、1bにそれぞれ伝送する2つの1/4波長線路41a、41bと、この2つの1/4波長線路41a、41bから出力する信号を分離するアイソレーション抵抗42と該アイソレーション抵抗42の両端に配置されて制御回路5によって3つの経路のいずれかを選択可能な2つのSP3Tスイッチ43a、43bからなる信号分離手段とで構成された入力電力分配回路40を用いたことを特徴とする。
実施の形態1の場合は、出力電力は約0.89Pであるの対して、本実施の形態の場合は、出力電力は約1.58Pである。
したがって、本実施の形態によれば、一方の増幅器の故障による出力電力の低下を実施の形態1の場合よりもさらに小さくすることができる。
【0024】
実施の形態3.
図6は、実施の形態3に係る高周波電力増幅装置の構成を示す図であり、4合成電力増幅装置の構成図である。
本実施の形態による高周波電力増幅装置は、図6に示すように、電力分配器4により2分配された入力信号の一方が入力される第1の高周波電力増幅回路101と、電力分配器4により2分配された入力信号の他方が入力される第2の高周波電力増幅回路102と、第1の高周波電力増幅回路101および第2の高周波電力増幅回路102の出力信号を合成する第二のウイルキンソン型電力合成器30cと、第二の制御回路5cを備えた高周波電力増幅装置であって、第1の高周波電力増幅回路101および第2の高周波電力増幅回路102は、前述した実施の形態1に記載の高周波電力増幅装置と同じ構成と機能を有しており、第二のウイルキンソン型電力合成器30cは、前述した実施の形態1に記載のウイルキンソン型電力合成器30と同じ構成と機能を有している。
また、第二の制御回路5cは、第1の高周波電力増幅回路101あるいは第2の高周波電力増幅回路102に配置した電流検出回路2a〜2dの電流検出結果によって電流検出回路2a〜2dの異常を検出すると、異常検出結果に応じて第二のウイルキンソン型電力合成器30cの2つのSP3Tスイッチ33e、33fの経路を選択する。
【0025】
図6の単位増幅器(即ち、増幅器1a〜増幅器1d)のいずれかが異常な場合の動作については、考え方としては実施の形態1(図1)の高周波電力増幅装置と同様である。
増幅器の電流異常を検出した場合、電力合成部から異常である増幅器側をみたインピーダンスを周波数fcにてオープンにし、且つアイソレーション抵抗を回路上切り離すことで、アイソレーション抵抗での消費電力を抑え、出力電力の低下を抑える。
また、電流異常を検出した増幅器への電源供給は、制御回路によりオフとする。
ここで、制御回路5cの動作について説明する。
増幅器1aと増幅器1bの両方が異常の場合は、増幅器1aと増幅器1bで構成される2合成電力増幅器(即ち、第1の高周波電力増幅回路101)の出力は0となる。
この場合、第二の制御回路5cによりSP3Tスイッチ33eの経路をB(短絡)に、SP3Tスイッチ33fの経路をC(開放)に切り替える。
また、増幅器1cと増幅器1dの両方が異常の場合は、増幅器1cと増幅器1dで構成される2合成電力増幅器(即ち、第2の高周波電力増幅回路102)の出力は0となる。
この場合、第二の制御回路5cによりSP3Tスイッチ33eの経路をC(開放)に、SP3Tスイッチ33fの経路をB(短絡)に切り替える。
【0026】
図7は、実施の形態3による高周波電力増幅装置(図6)において、単位増幅器故障時のアイソレーション抵抗の両端に備えたSP3Tスイッチの切り替え状態と出力電力を示す表である。
図7は、(a)4つの増幅器1a〜1dのいずれもが正常であり出力0の増幅器がない場合、(b)1つ増幅器が異常な場合として増幅器1aが異常(即ち、出力が0の場合)、(c)2つの増幅器1aと増幅器1bが異常の場合、(d)2つの増幅器1aと増幅器1cが異常の場合、(e)3つの増幅器1a、増幅器1bおよび増幅器1cが異常な場合について、
各SP3Tスイッチ33a〜33fのスイッチ経路(A、B、C)、従来の2電力合成装置(従来型)の出力電力および本実施の形態による高周波電力増幅装置の出力電力を示している。
【0027】
増幅器1aが異常の場合は、図1と同様にSP3Tスイッチ33aをB(短絡)、SP3Tスイッチ33bをC(開放)に経路を切り替える。
正常な単位増幅器の出力電力をPとすると、ウイルキンソン型電力合成器30aの出力電力は0.89P(図1の増幅器と同様)、ウイルキンソン型電力合成器30bの出力電力は2Pとなるが、ウイルキンソン型電力合成器30cの2つの入力は振幅のレベル差によりアイソレーション抵抗32cで0.11Pの電力が消費され、高周波電力増幅装置としての出力電力は2.78Pとなる。
増幅器1aおよび増幅器1cが異常の場合は、SP3Tスイッチ33aSP3Tスイッチと33cをB(短絡)に、SP3Tスイッチ33bとSP3Tスイッチ33dをC(開放)に経路を切り替える。
ウイルキンソン型電力合成器30a、30bの出力は、実施の形態1の場合と同様に、それぞれ0.89Pであり、出力電力は1.78Pとなる。
【0028】
増幅器1aおよび増幅器1bが異常の場合は、ウイルキンソン型電力合成器30aの出力が0となるため、SP3Tスイッチ33eをB(短絡)に、SP3Tスイッチ33fをC(開放)に経路を切り替える。
ウイルキンソン型電力合成器30bの出力は2Pであるが、SP3Tスイッチ31fの線路により不整合損失が生じ、ウイルキンソン型電力合成器30cの出力電力は1.78Pとなる。
増幅器1a、増幅器1bおよび増幅器1cが異常の場合は、ウイルキンソン型電力合成器30aの出力が0となるためSP3Tスイッチ33eをB(短絡)に、SP3Tスイッチ33fをC(開放)に経路を切り替える。
また、図1の場合と同様に、SP3Tスイッチ33cをB(短絡)に、SP3Tスイッチ33dをC(開放)に経路を切り替える。
【0029】
増幅器1dの出力側については、1/4波長線路31dと1/4波長線路31fで1/2波長線路が形成されるため不整合損失は生じず、出力電力はPとなる。
図7より明らかなように、従来のウイルキンソン型電力合成器を用いた4電力合成装置よりも、4つの増幅器のいずれかが故障した場合において、出力電力の低下の程度が改善していることが分かる。
【0030】
なお、図6は4電力合成の場合であるが、8合成を構成する場合は、図6に示した高周波電力増幅装置を並列に2つ用いると共に、並列に2つ配置された高周波電力増幅装置の出力信号を合成する第三のウイルキンソン型電力合成器(図示なし)と、この並列に2つ配置された高周波電力増幅装置に配置した電流検出回路の電流検出結果によって電流検出回路の異常を検出すると、異常検出結果に応じて第三のウイルキンソン型電力合成器(図示なし)の2つのSP3Tスイッチの経路を選択する第三の制御回路(図示なし)を備えてもよい。
高周波電力増幅装置をこのような構成とすることによって、8合成の電力合成装置を実現できる。
同様にして、16合成、32合成・・・2のn乗合成(nは自然数)増幅器も構成可能である。
【0031】
以上説明したように、本実施の形態による高周波電力増幅装置は、電力分配器4により2分配された入力信号の一方が入力される第1の高周波電力増幅回路101と、電力分配器4により2分配された入力信号の他方が入力される第2の高周波電力増幅回路102と、第1の高周波電力増幅回路101および第2の高周波電力増幅回路102の出力信号を合成する第二のウイルキンソン型電力合成器30cと、第二の制御回路5cを備えた高周波電力増幅装置であって、第1の高周波電力増幅回路101および第2の高周波電力増幅回路102は、実施の形態1に記載の高周波電力増幅装置と同じ構成と機能を有しており、第二のウイルキンソン型電力合成器30cは、実施の形態1に記載のウイルキンソン型電力合成器30と同じ構成と機能を有しており、第二の制御回路5cは、第1の高周波電力増幅回路101あるいは第2の高周波電力増幅回路102に配置した電流検出回路2a〜2dの電流検出結果によって前記電流検出回路2a〜2dの異常を検出すると、異常検出結果に応じて前記第二のウイルキンソン型電力合成器30cの2つのSP3Tスイッチ33e、33fの経路を選択する。
したがって、4つの増幅器のいずれかが故障した場合においても、出力電力の低下を抑制できる。
【0032】
また、本実施の形態による高周波電力増幅装置は、図6に示した構成の高周波電力増幅装置を並列に2つ用いると共に、並列に2つ配置された高周波電力増幅装置の出力信号を合成する第三のウイルキンソン型電力合成器と、前記並列に2つ配置された高周波電力増幅装置に配置した電流検出回路の電流検出結果によって電流検出回路の異常を検出すると、異常検出結果に応じて第三のウイルキンソン型電力合成器(図示なし)の2つのSP3Tスイッチの経路を選択する第三の制御回路(図示なし)を備えたことを特徴とする。
これによって、8合成の電力合成装置を構成でき、8つの増幅器のいずれかが故障した場合においても、出力電力の低下を抑制できる。
【0033】
実施の形態4.
図8は、実施の形態4係る高周波電力増幅装置の構成を示す図である。
一般的に、インピーダンス整合回路は、インピーダンス変換比が大きくなればなるほど整合帯域は狭くなる(狭帯域になる)。
これに対して、整合回路を多段化することによって1段あたりのインピーダンス変換比は抑えられ、広帯域に整合をとることができる。
ウイルキンソン型電力合成器は、一種のインピーダンス整合回路であるため、ウイルキンソン型電力合成器を多段構成にすることで、より広帯域にて電力合成器としての特性を良好にできる。
図8に示したウイルキンソン型電力合成器(第四のウイルキンソン型電力合成器)30dは、図1に示したウイルキンソン型合成器30を多段(例えば3段)にした構成であり、アイソレーション抵抗32d、32e、32fの両端にそれぞれSP3Tスイッチを備え、それぞれのSP3Tスイッチは制御回路5にて経路切り替えが可能である。
【0034】
例えば、一方の増幅器1bが故障などで異常となった場合、制御回路5により1bへの電源供給を断ち、出力側に最も近いアイソレーション抵抗32dの両端のスイッチについては、SP3Tスイッチ33aの経路をC(開放)に、SP3Tスイッチ33bの経路をB(短絡)に切り替える。
多段接続された他のウイルキンソン型合成器のアイソレーション抵抗32e、32fの両端のSP3Tスイッチ33c〜33fについては、全てのSP3Tスイッチ経路をC(開放)に切り替える。
増幅器1b故障などの異常検出は、増幅器1bの電流値を電流検出回路2bにてモニタすることで行う。
また、電流異常を検出した増幅器への電源供給は、制御回路5によりオフとする。
上記のように多段接続された他のウイルキンソン型合成器のSP3Tスイッチを切り替えることにより、電力合成部(即ち、ウイルキンソン型電力合成器30d)から異常な方の増幅器側をみたインピーダンスをfcにてオープンにし、且つ、アイソレーション抵抗を回路上切り離すことで アイソレーション抵抗での消費電力を抑え、出力電力の低下を
抑えることができる。
【0035】
図8は、2電力合成装置の構成であるが、図8の電力合成装置を2つ並列に用い、電力分配器とアイソレーション抵抗の両端にSP3Tスイッチを備えたことを特徴とするウイルキンソン型合成器と電力合成器部のSP3Tスイッチの経路を切り替える制御回路を追加すれば、4電力合成装置の構成をとることができる。
同様にして8電力合成、16電力合成・・・2のn乗電力合成(nは自然数)の構成をとることができる。
また、図8のSP3Tスイッチ33c〜33fは、アイソレーション抵抗への経路が「開放」への経路選択であるため、SPSTスイッチに代えてSPDT(Single Pole Double Throw)スイッチであっても良い。
【0036】
以上説明したように、本実施の形態よる高周波電力増幅装置は、ウイルキンソン型電力合成器を多段に構成にすることで、より広帯域にて高周波電力増幅装置としての特性を良好にできる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、複数の増幅器のいずれかが故障した場合に、アイソレーション抵抗での消費電力を抑え、出力電力の低下を抑制できる「ウイルキンソン型電力合成器を用いた高周波電力増幅装置」の実現に有用である。
【符号の説明】
【0038】
1a〜1d 増幅器 2a〜2d 電流検出回路
3a〜3d 電源回路 4、4a、4b 電力分配器
5、5a、5b 制御回路 6 入力端
7 出力端 8a〜8d アイソレータ
30、30a〜30d ウイルキンソン型電力合成器
31a〜31f、31g〜31l 1/4波長線路
32、32a〜32c、32d〜32f アイソレーション抵抗
33a〜33f SP3Tスイッチ 40 入力電力分配回路
41a、41b 1/4波長線路 42 アイソレーション抵抗
43a、43b SP3Tスイッチ
101 第1の高周波電力増幅回路
102 第2の高周波電力増幅回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力する高周波電力信号を第1の入力信号と第2の入力信号に2分配する電力分配器と、前記電力分配器により2分配された一方の入力信号を増幅する第1の増幅器と、前記電力分配器により2分配された他方の入力信号を増幅する第2の増幅器1bと、前記第1の増幅器および第2の増幅器の出力信号を合成するウイルキンソン型電力合成器と、前記第1の増幅器への供給電流を検出する第1の電流検出回路と、前記第2の増幅器への供給電流を検出する第2の電流検出回路と、前記第1の電流検出回路および前記第2の電流検出回路の電流検出結果に基づいて、前記第1の増幅器および第2の増幅器への電源供給を制御する制御回路を備えた高周波電力増幅装置であって、
前記ウイルキンソン型電力合成器は、前記第1の増幅器および第2の増幅器の出力信号を分離するアイソレーション抵抗と該アイソレーション抵抗の両端に配置されて前記制御回路によって開放、短絡あるいはアイソレーション抵抗への接続の3つの経路のいずれかを選択可能な2つのSP3Tスイッチからなる信号分離手段と、分離された前記第1の増幅器および第2の増幅器の出力信号をそれぞれ出力端に伝送する2つの1/4波長線路で構成されており、
前記制御回路は、前記第1の電流検出回路あるいは第2の電流検出回路の電流検出結果によって前記第1の増幅器あるいは第2の増幅器の異常を検出すると、異常が検出された増幅器の出力が前記ウイルキンソン型電力合成器で合成されないように前記2つのSP3Tスイッチの経路を選択することを特徴とする高周波電力増幅装置。
【請求項2】
前記電力分配器に代えて、
入力する高周波電力信号を前記第1および第2の増幅器にそれぞれ伝送する2つの1/4波長線路と、この2つの1/4波長線路から出力する信号を分離するアイソレーション抵抗と該アイソレーション抵抗の両端に配置されて前記制御回路によって前記3つの経路のいずれかを選択可能な2つのSP3Tスイッチからなる信号分離手段とで構成された入力電力分配回路を用いたことを特徴とする請求項1に記載の高周波電力増幅装置。
【請求項3】
前記電力分配器により2分配された入力信号の一方が入力される第1の高周波電力増幅回路と、前記電力分配器により2分配された入力信号の他方が入力される第2の高周波電力増幅回路と、前記第1の高周波電力増幅回路および前記第2の高周波電力増幅回路の出力信号を合成する第二のウイルキンソン型電力合成器と、第二の制御回路を備えた高周波電力増幅装置であって、
前記第1の高周波電力増幅回路および前記第2の高周波電力増幅回路は、請求項1に記載の高周波電力増幅装置と同じ構成と機能を有しており、
前記第二のウイルキンソン型電力合成器は、前記請求項1に記載のウイルキンソン型電力合成器と同じ構成と機能を有しており、
前記第二の制御回路は、前記第1の高周波電力増幅回路あるいは前記第2の高周波電力増幅回路に配置した電流検出回路の電流検出結果によって前記電流検出回路の異常を検出すると、異常検出結果に応じて前記第二のウイルキンソン型電力合成器の2つのSP3Tスイッチの経路を選択することを特徴とする請求項1に記載の高周波電力増幅装置。
【請求項4】
前記請求項3に記載の高周波電力増幅装置を並列に2つ用いると共に、並列に2つ配置された高周波電力増幅装置の出力信号を合成する第三のウイルキンソン型電力合成器と、
前記並列に2つ配置された高周波電力増幅装置に配置した電流検出回路の電流検出結果によって前記電流検出回路の異常を検出すると、異常検出結果に応じて前記第三のウイルキンソン型電力合成器の2つのSP3Tスイッチの経路を選択する第三の制御回路を備えたことを特徴とする請求項3に記載の高周波電力増幅装置。
【請求項5】
前記ウイルキンソン型電力合成器は、多段に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の高周波電力増幅装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−205212(P2012−205212A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69987(P2011−69987)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】