説明

高圧タンク

【課題】高圧タンクにおいて、設備費用の低減を図りながら、ガス充填時におけるタンクの過熱化を抑制する。
【解決手段】ガスを貯蔵する容器本体10を備えてなる高圧タンク1であって、容器本体10の少なくとも一部を被覆するように設けられた保冷層30を備える。高圧タンク1からのガス放出時に容器本体10が冷却されて容器本体10が低温になった場合に、その低温を保冷層30で回収して保存し、高圧タンク1へのガス充填時に容器本体10が加熱された場合に、保冷層30によって容器本体10を冷却する。保冷層30は、容器本体10の剛性以下の剛性を有するとともに、外部の衝撃から容器本体10を保護する緩衝機能を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧タンクに関し、特に、水素ガスや天然ガス等の燃料ガスを高圧で貯蔵する高圧タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池自動車や天然ガス自動車には、燃料ガスとしての水素ガスや天然ガスを貯蔵する高圧タンクが搭載される。従来の高圧タンクは、燃料ガスに直接接触する金属製のライナ(内層)と、このライナの外周面に積層された繊維強化樹脂層(外層)と、から構成されていたが、近年においては、軽量化を図るために樹脂製のライナを用いた高圧タンクが提供されている。
【0003】
ところが、樹脂製ライナを用いた高圧タンクは、金属製ライナを用いた高圧タンクと比較すると熱伝達率が低いという特性を有するため、以下のような問題を発生させていた。まず、高圧タンクに燃料ガスを充填する際には、燃料ガスの圧縮に伴ってタンク内の温度が急速に上昇するが、樹脂製ライナを用いた高圧タンクは熱伝達率が低いので、外気によってタンクが冷却されて常温に戻るまでの時間が長く、タンクの高温状態が長時間持続して過熱状態となる。そこで、タンクの過熱化に備えて、耐熱性に優れた材料を採用する必要があり、タンクの製造費用が増大してしまうという問題が発生していた。
【0004】
かかる問題を解決するために、高圧タンクの容器本体を構成するライナの厚肉部外面に冷媒経路としての溝を設け、この溝に冷媒を流すことにより、容器本体内部の燃料ガスと冷媒との熱交換を行って容器本体を冷却する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
しかし、特許文献1に記載された技術においては、冷媒経路に外部から冷媒を供給するための設備に加えて、燃料ガスとの熱交換を行って加熱された冷媒を冷却するための放熱装置(ラジエータ等)を別途設ける必要があるため、設備費用が嵩むという問題がある。
【0006】
また、高圧タンクから燃料ガスを放出する際には、燃料ガスの膨張に伴ってタンク内の温度が低下するが、上記のように高圧タンクは熱伝達率が低いので、外気によってタンクが暖められるよりもタンク内の温度低下のほうが先行し、タンクが過度に冷却された状態となる。そこで、タンクの過冷却を抑制するためにタンクに放冷フィンを設ける等の対策がとられるが、フィンの設置スペースを確保しなければならないという問題が発生していた。
【特許文献1】特開2003−65437号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、従来の高圧タンクにおいては、燃料ガスを充填する際に起こるタンクの過熱を考慮してその対策が必要であるとともに、燃料ガスを放出する際に起こるタンクの過冷却を考慮してその対策が必要である。このことはすなわち、高圧タンクには、使用するうえで好適な温度帯域が存在することを意味する。そして、従来の高圧タンクにおいては、タンクの温度をその帯域に保つための技術を確立することが強く望まれていた。
【0008】
本発明は、高圧タンクにおいて、設備費用や設置スペースの低減を図りながら、ガス充填時に起こるタンクの過熱やガス放出時に起こるタンクの過冷却を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明に係る高圧タンクは、ガスを貯蔵する高圧タンクであって、蓄熱材を備えるものである。
【0010】
前記高圧タンクにおいて、前記蓄熱材は、前記高圧タンクに貯蔵された前記ガスの相変化に伴って起こる熱エネルギーの放出によって温熱を蓄え、前記相変化とは逆の相変化に伴って起こる熱エネルギーの吸収による過冷却を、前記熱エネルギーが放出される際に蓄えた温熱によって抑制する潜熱蓄熱材であることが好ましい。もしくは、前記蓄熱材は、前記高圧タンクに貯蔵された前記ガスの相変化に伴って起こる熱エネルギーの吸収によって冷熱を蓄え、前記相変化とは逆の相変化に伴って起こる熱エネルギーの放出による過熱を、前記熱エネルギーが吸収される際に蓄えた冷熱によって抑制する潜熱蓄熱材であることが好ましい。
【0011】
前記高圧タンクは、ガスを貯蔵する容器本体と、容器本体に取り付けられ、容器本体にガスを充填したり容器本体からガスを放出したりする口金とを備えることが好ましく、蓄熱材は、口金に設けられてもよいし、容器本体の少なくとも一部に設けられてもよい。
【0012】
かかる構成によれば、ガス放出時に起こるタンクの過冷却が、それ以前のガス充填時に蓄熱材に蓄えられた温熱によって抑制される。また、ガス充填時に起こるタンクの過熱が、それ以前のガス放出時に蓄熱材に蓄えられた冷熱によって抑制される。その結果、タンクの温度が好適な帯域に保たれる。
【0013】
また、本発明に係る高圧タンクは、ガスを貯蔵する容器本体を備えてなる高圧タンクであって、容器本体の少なくとも一部を被覆するように設けられた保冷層を備えるものである。
【0014】
かかる構成によれば、保冷層が容器本体の少なくとも一部を被覆するように設けられているので、高圧タンクからのガス放出時に容器本体が冷却されて容器本体が低温になった場合に、その低温を保冷層で回収して保存することができる。従って、高圧タンクへのガス充填時に容器本体が加熱された場合に、保冷層によって容器本体を冷却することができ、タンクの過熱化を抑制することができる。この結果、耐熱材料の採用を低減ないし回避することができ、しかも、別途放熱装置を設ける必要もないので、タンクの製造費用や設備費用を低減することができる。
【0015】
前記高圧タンクにおいて、保冷層は、容器本体の剛性以下の剛性を有することが好ましい。こうすることにより、加熱や冷却に伴う容器本体の変形を許容することができる。また、保冷層は、外部の衝撃から容器本体を保護する緩衝機能を有することが好ましい。こうすることにより、緩衝材を別途設けることなく容器本体を有効に保護することが可能となる。
【0016】
また、本発明に係る高圧タンクは、ガスを貯蔵する容器本体を備えてなる高圧タンクであって、容器本体の少なくとも一部を被覆するように設けられ所定の保冷剤が充填される保冷室を備えるものである。
【0017】
かかる構成によれば、保冷剤が充填される保冷室が容器本体の少なくとも一部を被覆するように設けられているので、高圧タンクからのガス放出時に容器本体が冷却されて容器本体が低温になった場合に、その低温を保冷室で回収して保存することができる。従って、高圧タンクへのガス充填時に容器本体が加熱された場合に、保冷室によって容器本体を冷却することができ、タンクの過熱化を抑制することができる。この結果、耐熱材料の採用を低減ないし回避することができ、しかも、別途放熱装置を設ける必要もないので、タンクの製造費用や設備費用を低減することができる。
【0018】
前記高圧タンクにおいて、保冷室には、容器本体からガスが放出された後に所定の保冷剤が供給されるように構成することができる。こうすることにより、ガス放出に起因して冷却された容器本体の低温状態を、効率良く保存することができる。また、保冷室には、容器本体にガスが充填された後に所定の保冷剤が供給されるように構成することができる。こうすることにより、ガス充填に起因して加熱された容器本体を、効率良く冷却することができる。
【0019】
また、前記高圧タンクにおいて、保冷室は、容器本体の剛性以下の剛性を有することが好ましい。こうすることにより、加熱や冷却に伴う容器本体の変形を許容することができる。また、保冷室は、外部の衝撃から容器本体を保護する緩衝機能を有することが好ましい。こうすることにより、緩衝材を別途設けることなく容器本体を有効に保護することが可能となる。
【0020】
また、前記高圧タンクにおいて、樹脂材料で構成されガスに直接接触する内層と、繊維強化樹脂材料で構成され内層の外側に設けられる外層と、を有するように容器本体を構成することができる。また、前記高圧タンクは、高圧水素ガスを貯蔵するものとし、燃料電池車両に搭載することもできる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高圧タンクにおいて、タンクの温度を好適な帯域に保つことにより、設備費用や設置スペースの低減を図りながら、ガス充填時におけるタンクの過熱、およびガス放出時に起こるタンクの過冷却を効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る高圧タンクについて説明する。以下の各実施形態に係る高圧タンクは、燃料電池車両に搭載する燃料ガス(水素ガス)を貯蔵するためのものである。
【0023】
<第1実施形態>
まず、図1を用いて、本発明の第1実施形態に係る高圧タンク1について説明する。高圧タンク1は、図1に示すように、水素ガスを貯蔵する容器本体10と、容器本体10への水素ガスの充填及び容器本体10からの水素ガスの放出を実現させるガス充填・放出口20と、容器本体10を被覆するように設けられた保冷層30と、を備えている。
【0024】
容器本体10は、図1に示すように、円筒状の胴部11と、この胴部11の両端に設けられたドーム部12と、を備えており、これら胴部11及びドーム部12は、ライナ(内層)及び繊維強化樹脂層(外層)からなる二層構造の壁体で構成されている。ライナは水素ガスに直接接触する層であり、樹脂材料で構成されている。ライナの肉厚やライナを構成する樹脂材料の種類は、ライナに要求される気密性や成形性に応じて適宜決定するものとする。繊維強化樹脂層はライナの外側を覆うように設けられてライナを補強する層であり、強化繊維及びマトリックス樹脂から構成されている。
【0025】
なお、ライナや繊維強化樹脂層を構成する樹脂としては、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を採用することができる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、フッ素樹脂等を採用することができ、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂やポリウレタン等を採用することができる。また、繊維強化樹脂層を構成する強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維等を採用することができる。
【0026】
ガス充填・放出口20は、容器本体10の一方のドーム部12に連設されており、水素ガスの充填・放出を実現させるための図示されていない弁を備えている。また、容器本体10のガス充填・放出口20が連設された部位には、環状の口金21が設けられている。容器本体10にガス充填・放出口20から水素ガスを充填させると、水素ガスの圧縮により水素ガスの温度が上昇して容器本体10が加温される。一方、容器本体10内の水素ガスをガス充填・放出口20から放出させると、水素ガスの膨張により水素ガスの温度が低下して容器本体10が冷却される。
【0027】
保冷層30は、容器本体10のドーム部12を被覆するように設けられた層であり、高圧タンク1から水素ガスが放出された際に容器本体10が冷却されて容器本体10が低温になった場合に、その低温を回収して保存する保冷機能を有するものである。また、本実施形態における保冷層30は、外部の衝撃から容器本体10を保護する緩衝機能を有するものとし、別途緩衝材を設けることを不要としている。また、本実施形態においては、保冷層30を、容器本体10の剛性以下の剛性を有する材料(例えば容器本体10の軸方向剛性の10%以下の剛性を有する材料)で構成し、加熱や冷却に伴う容器本体10の変形を許容するようにする。
【0028】
保冷層30は、前記した保冷機能及び緩衝機能を有し、かつ、容器本体10の剛性以下の剛性を有する構成であればいかなる構成を採用することもできる。例えば、寒剤を含有する水溶液をゲル化又は増粘させて合成樹脂袋に封入したもの、寒剤を含有する水溶液を多孔体に含浸させて合成樹脂袋に封入したもの、寒剤として作用する常温ゲル状物質を多孔体に含浸させたもの、等を保冷層30として採用することができる。寒剤としては、パラ安息香酸エステルと水酸化カルシウムとカルボキシメチルセルロースとを所定の割合で混合させたもの、エチレングリコール、アンモニア等を採用することができる。また、多孔体としては、ウレタンフォーム等の弾性発泡体を採用することができる。
【0029】
以上説明した実施形態に係る高圧タンク1においては、保冷層30が容器本体10のドーム部12を被覆するように設けられているので、高圧タンク1からの水素ガス放出時に容器本体10が冷却されて容器本体10が低温になった場合に、その低温を保冷層30で回収して保存することができる。従って、高圧タンク1への水素ガス充填時に容器本体10が加熱された場合に、保冷層30によって容器本体10を冷却することができ、高圧タンク1の過熱化を抑制することができる。この結果、耐熱材料の採用を低減ないし回避することができ、しかも、別途放熱装置を設ける必要もないので、高圧タンク1の製造費用や設備費用を低減することができる。
【0030】
なお、以上の実施形態においては、容器本体10のドーム部12を被覆するように保冷層30を設けた例を示したが、図2に示すように、容器本体10の胴部11や口金21を被覆するように保冷層40、50を設けることもできる。また、容器本体10全体(胴部11及びドーム部12)を被覆するように保冷層を設けてもよい。
【0031】
<第2実施形態>
次に、図3を参照して、本発明の第2実施形態に係る高圧タンク1Aについて説明する。本実施形態に係る高圧タンク1Aは、第1実施形態に係る高圧タンク1の保冷層30に代えて保冷室30Aを設けたものであり、その他の構成については第1実施形態と実質的に同一である。このため、変更した構成を中心に説明することとし、第1実施形態と共通する部分については同一符号を付してその説明を省略する。
【0032】
本実施形態に係る高圧タンク1Aは、図3に示すように、水素ガスを貯蔵する容器本体10と、容器本体10への水素ガスの充填及び容器本体10からの水素ガスの放出を実現させるガス充填・放出口20と、容器本体10を被覆するように設けられた保冷室30Aと、を備えている。容器本体10及びガス充填・流出口20は第1実施形態で説明したものと実質的に同一であるので、説明を省略する。
【0033】
保冷室30Aは、容器本体10の胴部11を被覆するように設けられた中空の筐体であり、その内部に保冷剤Cが充填され、高圧タンク1Aから水素ガスが放出された際に容器本体10が冷却されて容器本体10が低温になった場合に、その低温を回収して保存する保冷機能を有するものである。本実施形態においては、図3に示すように、保冷剤タンク31Aに溜められた保冷剤Cを、ポンプ32Aで下方から保冷室30Aに供給するとともに、開閉弁33Aの開閉動作を制御することにより、保冷室30A内における保冷剤Cの充填・排出を実現させている。
【0034】
保冷剤Cとしては、寒剤を含有する水溶液を採用することができる。寒剤としては、パラ安息香酸エステルと水酸化カルシウムとカルボキシメチルセルロースとを所定の割合で混合させたもの、エチレングリコール、アンモニア等を採用することができる。
【0035】
また、本実施形態においては、図示されていない制御装置でポンプ32Aの動作を制御することにより、保冷室30Aへの保冷剤Cの供給のタイミングを調整して、容器本体10の冷却と、低温の回収と、の双方を効率良く実現させることができるようになっている。具体的には、制御装置は、容器本体10から水素ガスが放出されて容器本体10が冷却された直後に保冷室30Aに保冷剤Cを供給することにより、容器本体10の低温状態を効率良く保存することができる。一方、制御装置は、容器本体10に水素ガスが充填されて容器本体10が加熱された直後に保冷室30Aに保冷剤Cを供給することにより、容器本体10を効率良く冷却させることができる。
【0036】
以上説明した実施形態に係る高圧タンク1Aにおいては、保冷剤Cが充填される保冷室30Aが容器本体10の胴部11を被覆するように設けられているので、高圧タンク1Aからの水素ガス放出時に容器本体10が冷却されて容器本体10が低温になった場合に、その低温を保冷室30Aで回収して保存することができる。従って、高圧タンク1Aへの水素ガス充填時に容器本体10が加熱された場合に、保冷室30Aによって容器本体10を冷却することができ、高圧タンク1の過熱化を抑制することができる。この結果、耐熱材料の採用を低減ないし回避することができ、しかも、別途放熱装置を設ける必要もないので、高圧タンク1Aの製造費用や設備費用を低減することができる。
【0037】
また、以上説明した実施形態に係る高圧タンク1Aにおいて、保冷室30Aには、容器本体10に水素ガスが充填された後に保冷剤Cが供給されるようになっているため、水素ガス充填に起因して加熱された容器本体10を、きわめて効率良く冷却することができる。また、保冷室30Aには、容器本体10から水素ガスが放出された後に保冷剤Cが供給されるようになっているため、水素ガス放出に起因して冷却された容器本体10の低温状態を、きわめて効率良く保存することができる。
【0038】
なお、以上の実施形態における保冷室30Aを、容器本体10の剛性以下の剛性を有する材料で構成し、加熱や冷却に伴う容器本体10の変形を許容するようにするのが好ましい。また、保冷室30Aを緩衝材としても機能させることにより、別途緩衝材を設けることを不要とすることもできる。また、以上の実施形態においては、容器本体10の胴部11を被覆するように保冷室30Aを設けた例を示したが、容器本体10のドーム部12を被覆するように保冷室を設けることもできる。また、容器本体10全体(胴部11及びドーム部12)を被覆するように保冷室を設けてもよい。また、以上の実施形態においては、保冷室30Aの下方から保冷剤Cを供給した例を示したが、保冷剤30Aの上方や側方から保冷剤Cを供給することもできる。
【0039】
なお、以上の各実施形態においては、ライナを樹脂材料で構成した例を示したが、アルミ合金等の金属でライナを構成することもできる。また、以上の各実施形態においては、樹脂材料からなるライナと、繊維強化樹脂層と、からなる構成される樹脂製の容器本体を採用した例を示したが、金属製の容器本体を採用してもよい。
【0040】
また、以上の各実施形態においては、本発明を、燃料電池車両用の燃料ガスを貯蔵する高圧タンクに適用した例を示したが、天然ガス等の他のガスを貯蔵する高圧タンクに本発明を適用することもできる。
【0041】
<第3実施形態>
次に、図4から図6を参照して、本発明の第3実施形態に係る高圧タンク1Bについて説明する。本実施形態に係る高圧タンク1Bは、第1実施形態に係る高圧タンク1の容器本体10を被覆するように設けられた保冷層30に代えて、ガス充填・放出口20に蓄熱材60を設けたものであり、その他の構成については第1実施形態と実質的に同一である。このため、変更した構成を中心に説明することとし、第1実施形態と共通する部分については同一符号を付してその説明を省略する。
【0042】
本実施形態に係る高圧タンク1Bは、図4および図5に示すように、ガス充填・放出口20に、蓄熱材60を内封されている。ガス充填・放出口20は、容器本体10のドーム部12の頭頂部に設けられたタンクボス61と、タンクボス61の先端に固定されたバルブ70とを備えている。タンクボス61は、アルミニウム合金製の略円筒形の部材であり、内側に形成された断面円形の貫通孔62を容器本体10の長手方向に一致させるようにして、ライナ11に固定されている。
【0043】
貫通孔62の内面には、後述するバルブ70の雄ネジ部71と螺合する雌ネジ部63が形成されている。また、タンクボス61の周囲には、ライナ11の外面と滑らかに連続するフランジ部64が形成されている。タンクボス61は、フランジ部64の下面(容器本体10の内側に向いている面)とライナ11とが接合されることにより、容器本体10に固定されている。なお、タンクボス61の素材には、急激な温度の変化に耐え得るものであれば、アルミニウム合金以外の材料が使用可能である。
【0044】
バルブ70は、タンクボス61と同じくアルミニウム合金製の部材であり、上述した雄ネジ部71と、雄ネジ部71の基端に形成された頭部72とを有している。バルブ70には、水素ガスの充填・放出を実現するための弁(図示略)が設けられている。また、雄ネジ部71の先端側の側面には、周方向に沿って無端の溝部73が形成されている。溝部73には、貫通孔62と雄ネジ部71との間を封止するOリング74が配設される。Oリング74は、フッ素系のゴム材からなる。
【0045】
バルブ70は、溝部73にOリング74がはめ込まれたうえで、雄ネジ部71が貫通孔62に挿入され、雌ネジ部63と螺合することにより、タンクボス61の先端に固定されている。バルブ70がタンクボス61の先端に固定された状態では、タンクボス61の先端面とバルブ70の頭部72の下面(雄ネジ部63側の面)とが、隙間なく接している。
【0046】
なお、バルブ70の素材には、急激な温度の変化に耐え得るものであれば、アルミニウム合金以外の材料が使用可能である。また、Oリング74には、同様に急激な温度の変化に耐え得るものであれば、フッ素系のゴム材以外の材料が使用可能である。
【0047】
タンクボス61には、複数の有底の穴65が、貫通孔62の延在する方向と同じ方向に形成されている。複数の穴65は、貫通孔62の周囲に、隣り合う穴65どうし等間隔を空けるようにして配置されている。穴65の内面には、開口部に近い位置に、後述する蓋部材80の雄ネジ部81と螺合する雌ネジ部66が形成されている。また、各穴65の開口部には、蓋部材80の頭部82を収める拡径部67が形成されている。
【0048】
さらに、拡径部67の底面には、無端の溝部68が形成されている。溝部68には、穴65と雄ネジ部81との間を封止するOリング69が配設される。溝部68の内径は拡径部67の径よりも小さく、拡径部67および溝部68は、穴65の開口部において段を形成している。
【0049】
各穴65には、各穴65の開口部を塞ぐことによって穴65の内部に閉じた空間S1を画成する蓋部材80が設けられている。蓋部材80は、タンクボス61と同種または異種の金属製の部材であり、上述した雄ネジ部81と、雄ネジ部81の基端に形成された頭部82とを有している。なお、図示しないが、蓋部材80の頭部82には、蓋部材80を穴65に締着するために、締結具を係合させる割溝または断面が多角形状の穴が形成されている。
【0050】
蓋部材80は、雄ネジ部81の基端にOリング69がはめられたうえで、雄ネジ部81が穴65に挿入され、雌ネジ部66と螺合することにより穴65に締着される。蓋部材80によって開口部を塞がれた穴65には、上述した蓄熱材60があらかじめ充填されている。蓋部材80が穴65を塞いだ状態では、拡径部67の底面と蓋部材80の下面(雄ネジ部81側の面)とが、隙間なく接している。さらにこの状態では、タンクボス61の先端面と蓋部材80の頭部82の上面とが、平面を形成するように合致している。
【0051】
バルブ70には、ひとつの有底の穴75が、雄ネジ部71をその軸芯に沿って穿つように形成されている。穴75の内面には、開口部に近い位置に、後述する蓋部材90の雄ネジ部91と螺合する雌ネジ部76が形成されている。
【0052】
穴75には、穴75を塞ぐことによって穴75の内部に閉じた空間S2を画成する蓋部材90が設けられている。蓋部材90は、バルブ70と同種または異種の金属製であり、上述した雄ネジ部91と、雄ネジ部91の基端に形成された頭部92とを有している。頭部92の下面(雄ネジ部91側の面)には、無端の溝部93が形成されている。溝部93には、穴75と雄ネジ部91との間を封止するOリング94が配設される。
【0053】
蓋部材90は、頭部92の下面にOリング94があてがわれたうえで、雄ネジ部91が穴75に挿入され、雌ネジ部76と螺合することにより穴75に締着される。蓋部材90によって開口部を塞がれた穴75には、穴65と同様に、蓄熱材60があらかじめ充填されている。蓋部材90が穴75を塞いだ状態では、バルブ70の上面(頭部72の頭頂面)と蓋部材90の下面(雄ネジ部91側の面)とが、隙間なく接している。
【0054】
蓄熱材60には、例えばエチレングリコールの50パーセント水溶液が使用される。蓄熱材60は、いわゆる潜熱蓄熱材であって、高圧タンク1Bの内部に貯蔵される水素ガスの、気相から液相への相変化に伴って起こる熱エネルギーの放出によって温熱を蓄え、水素ガスの液相から気相への相変化に伴って起こる熱エネルギーの吸収による過冷却を、熱エネルギーが放出される際に蓄えた温熱によって抑制する。
【0055】
その一方で、蓄熱材60は、高圧タンク1Bに貯蔵される水素ガスの液相から気相への相変化に伴って起こる熱エネルギーの吸収によって冷熱を蓄え、水素ガスの気相から液相への相変化に伴って起こる熱エネルギーの放出による過熱を、熱エネルギーが吸収される際に蓄えた冷熱によって抑制する。なお、蓄熱材60には、Oリング74の材質を考慮し、そのシール性能が損なわれない温度域で凝固するように成分調整されたものが使用される。
【0056】
また、蓄熱材60の封入量は、タンク使用時におけるOリング74の温度低下を考慮し、蓄熱材60の凝固によってシール性能が損なわれない温度域を保つように決定される。なお、蓄熱材60には、エチレングリコール50パーセント水溶液以外には、上記第1実施形態の保冷層に使用したものが使用可能である。
【0057】
以上説明した実施形態に係る高圧タンク1Bにおいては、水素ガスを充填する際に、水素ガスの圧縮に伴って高圧タンク1B内の温度が急速に上昇する。つまり、水素ガスが気相から液相に変化するのに伴い、水素ガスが熱エネルギーを放出する。水素ガスが熱エネルギーを放出することにより、ガス充填・放出口20に内封されている蓄熱材60が加熱される。蓄熱材60は、加熱されることによって温熱を蓄える。
【0058】
水素ガスを放出する際には、水素ガスの膨張に伴って高圧タンク1B内の温度が急速に低下する。つまり、水素ガスが液相から気相に変化するのに伴い、水素ガスが熱エネルギーを吸収する。高圧タンク1Bは、水素ガスが熱エネルギーを吸収することにより、過冷却される。過冷却は、水素ガスが急激に膨張するガス充填・放出口20の付近で最も顕著に起こる。
【0059】
しかしながら、ガス充填・放出口20には、水素ガスが充填される際に温熱を蓄えた蓄熱材60が内封されているので、高圧タンク1Bの過冷却がいくぶん緩められる。つまり、水素ガスを放出する際に、ガス充填・放出口20と蓄熱材60との間で熱交換がなされることにより、ガス充填・放出口20が加熱される一方、蓄熱材60が冷却される。蓄熱材60は、冷却されることによって冷熱を蓄える(冷やされて凝固する)。
【0060】
図6に、水素ガスを放出する際の高圧タンク1Bの内圧、およびOリング74の温度の時間の経過に伴う変化を示す。水素ガスの放出を開始すると、高圧タンク1Bの内圧は下がり始め、時間の経過に伴って単調に下降する。Oリング74の温度は、水素ガスが液相から気相に変化するのに伴って冷却されるため、やはり時間の経過に伴って下降する。しかしながら、蓄熱材60には、先の水素ガス充填の際に温熱が蓄えられているので、この熱によってOリング74の温度低下が二点鎖線で示すように継続することなく抑制される。
【0061】
Oリング74の温度が蓄熱材60の凝固点温度を下回ると、あらかじめ決定されていた蓄熱材60の成分特性ならびに封入量に依存して、Oリング74の温度の低下が蓄熱材60の凝固点温度付近で抑制される。以降は、水素ガスの放出が完了するまで、Oリング74はほぼ一定に保たれる。
【0062】
次に水素ガスを充填する際には、水素ガスが気相から液相に変化するのに伴い、先ほどと同様に水素ガスが熱エネルギーを放出する。高圧タンク1Bは、水素ガスが熱エネルギーを放出することにより、過熱される。しかしながら、ガス充填・放出口20には、水素ガスが放出される際に冷熱を蓄えた蓄熱材60が内封されているので、高圧タンク1Bの過熱がいくぶん緩められる。
【0063】
上記のように、本実施形態の高圧タンク1Bによれば、水素ガス放出時に起こるタンクの過冷却、および水素ガス充填時におけるタンクの過熱を、効果的に抑制することができる。例えば、気温の低い冬や寒冷地等では、通常でも高圧タンク1Bの温度が低いのに、水素ガスを放出することにより、Oリング74の温度がより低くなる傾向が強まるが、そのような場合でも、タンクの過冷却を効果的に抑制することができる。
【0064】
ところで、本実施形態においては、水素ガスを放出する際には、それ以前に蓄熱材60に蓄えられた温熱によってOリング74の温度低下が抑制され、水素ガスを充填する際には、それ以前に蓄熱材60に蓄えられた冷熱によってタンクの過熱が抑制されるように、蓄熱材60の成分特性ならびに封入量があらかじめ決定されていたが、このようにふたつの機能を蓄熱材60に与える必要はない。
【0065】
蓄熱材60には、少なくとも水素ガスを放出する際にOリング74の温度低下を抑制する機能が付与されているだけでもよい。また、本実施形態においては、蓄熱材60がガス充填・放出口20に設けられているが、蓄熱材60は、容器本体10に設けられてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の第1実施形態に係る高圧タンクの側面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る高圧タンクの変形例を示す側面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る高圧タンクの側面図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る高圧タンクのガス充填・放出口およびその周辺の構造を示す断面図である。
【図5】図4に示したガス充填・放出口の分解図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係る高圧タンクに蓄えた水素ガスを放出する際の高圧タンクの内圧、およびOリングの温度の時間の経過に伴う変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0067】
1,1A…高圧タンク、10…容器本体、11…胴部(容器本体の一部)、12…ドーム部(容器本体の一部)、20…ガス充填・放出口、21…口金、30…保冷層、30A…保冷室、40…保冷層、50…保冷層、60…蓄熱材、61…タンクボス、70…バルブ、C…保冷剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスを貯蔵する高圧タンクであって、蓄熱材を備える高圧タンク。
【請求項2】
前記蓄熱材は、前記高圧タンクに貯蔵される前記ガスの相変化に伴って起こる熱エネルギーの放出によって温熱を蓄え、前記相変化とは逆の相変化に伴って起こる熱エネルギーの吸収による過冷却を、前記熱エネルギーが放出される際に蓄えた温熱によって抑制する潜熱蓄熱材である請求項1に記載の高圧タンク。
【請求項3】
前記蓄熱材は、前記高圧タンクに貯蔵される前記ガスの相変化に伴って起こる熱エネルギーの吸収によって冷熱を蓄え、前記相変化とは逆の相変化に伴って起こる熱エネルギーの放出による過熱を、前記熱エネルギーが吸収される際に蓄えた冷熱によって抑制する潜熱蓄熱材である請求項1に記載の高圧タンク。
【請求項4】
前記ガスを貯蔵する容器本体と、前記容器本体に取り付けられ、前記容器本体に前記ガスを充填したり前記容器本体から前記ガスを放出したりする口金とを備え、前記蓄熱材は、前記口金に設けられている請求項1又は2に記載の高圧タンク。
【請求項5】
前記ガスを貯蔵する容器本体と、前記容器本体に取り付けられ、前記容器本体に前記ガスを充填したり前記容器本体から前記ガスを放出したりする口金とを備え、前記蓄熱材は、前記容器本体の少なくとも一部に設けられている請求項1又は2に記載の高圧タンク。
【請求項6】
ガスを貯蔵する容器本体を備えてなる高圧タンクであって、
前記容器本体の少なくとも一部を被覆するように設けられた保冷層を備える高圧タンク。
【請求項7】
前記保冷層は、前記容器本体の剛性以下の剛性を有する請求項6に記載の高圧タンク。
【請求項8】
前記保冷層は、外部の衝撃から前記容器本体を保護する緩衝機能を有する請求項6又は7に記載の高圧タンク。
【請求項9】
ガスを貯蔵する容器本体を備えてなる高圧タンクであって、
前記容器本体の少なくとも一部を被覆するように設けられ、所定の保冷剤が充填される保冷室を備える高圧タンク。
【請求項10】
前記保冷室には、前記容器本体からガスが放出された後に所定の保冷剤が供給される請求項9に記載の高圧タンク。
【請求項11】
前記保冷室には、前記容器本体にガスが充填された後に所定の保冷剤が供給される請求項9又は10に記載の高圧タンク。
【請求項12】
前記保冷室は、前記容器本体の剛性以下の剛性を有する請求項9から11の何れか一項に記載の高圧タンク。
【請求項13】
前記保冷室は、外部の衝撃から前記容器本体を保護する緩衝機能を有する請求項9から12の何れか一項に記載の高圧タンク。
【請求項14】
前記容器本体は、樹脂材料で構成されガスに直接接触する内層と、繊維強化樹脂材料で構成され前記内層の外側に設けられる外層と、を有する請求項6から13の何れか一項に記載の高圧タンク。
【請求項15】
前記ガスは高圧水素ガスであり、燃料電池車両に搭載される請求項6から14の何れか一項に記載の高圧タンク。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−16988(P2007−16988A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−62257(P2006−62257)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】