説明

高圧ユニット付き電動コンプレッサを利用するバス用の冷暖房システム

【課題】車両の客室を暖房し冷房するためのHVACシステムを提供する。
【解決手段】第1の熱交換器は、1次ループと2次ループの間で熱を移動させる。1次ループは、逆転可能なループであり、高圧冷媒を使用する。コンプレッサは、冷媒を圧縮する。第2の熱交換器は、客室へ又は客室から熱エネルギーを選択的に移動させる。2次ループは、冷却液のループであり、第1の熱交換器を流れる。ポンプは、2次ループで流体を移動させる。第3の熱交換器は、2次ループを流れている流体から外部媒体に出入りするように熱を移動させる。暖房モードの間は、2次熱源が2次ループに熱を追加する。冷房モードの間は、バイパス手段が2次熱源を選択的に迂回させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概ね空調システムに関する。より詳細には、本発明は、長距離輸送車両用の車両搭載空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
今日の速いペースの移動性社会において、バスは場所から場所へ多数の人々を輸送するために使用される。バスメーカーは、それらの車両の設計および製造において人間工学的要素への力点を増大させ続けてきた。実際に、最新型のバスの客室は、乗客の快適さを向上させる多くの機能を内包している。これらの機能は、例えば、オーディオ・ビデオシステム、着座位置を変えることができ、腰部サポートを有する改善されたシート、遮音性の向上、暖房・換気・空調システム(HVACシステム)を含み、多数の乗客に快適な環境を提供する。
【0003】
客室を空調するために、バスにおけるHVACシステムの多くは、冷房システムからは独立した暖房システムを採用する。多くの暖房システムは、バスのエンジンから発生した熱を使用して客室を暖房する。残念ながら、このことは、客室を暖房するためにエンジンが作動しているか又はオン/オフすることが必要となる。冷房システムは、典型的には、高圧冷媒システムを使用する。これらの冷媒システムの多くは、エンジンベルト駆動式コンプレッサを有する。これらのエンジンベルト駆動式コンプレッサは、エンジンが作動している間は冷媒システム内で冷媒を循環及び圧送させるのに適するが、エンジン停止時は作動させることができない。その結果として、バスのエンジンを作動したままにしておかない限り、冷房システムは客室を冷房し得ないことになる。
【0004】
残念ながら、単に客室内を空調するためにのみエンジンを作動させておくことは、金銭を浪費し、バスの寿命の全体にわたって発生する汚染を増大させる。このことは、特にバスについていえる。なぜなら、乗客が乗るのをバスが待機しているとき、特にはイベント会場から出て来る乗客をバスが待機するときのように、長時間にわたって、走行しない間もバスに乗客が乗っている場合があるからである。
【0005】
この問題に対処するために、長距離輸送トラックのような他の車両に関し、最新型のトラックは、ノーアイドリング暖房空調システムを備えて製造される。ノーアイドリング暖房空調システムは、車両のエンジンが停止しているときも、客室の冷房および/または暖房を提供することができる。そのようなノーアイドリング暖房空調ユニットは、典型的には、主要なエンジンベルトの代わりに、1つ以上のバッテリ、補助電力等によって駆動される電動モータ駆動式の可変速度コンプレッサを備えた高圧冷媒システムを使用する。モータ駆動式コンプレッサを使用することによって、ノーアイドリング暖房空調システムは、車両のエンジンが停止しているときであっても、客室を暖房および/または冷房することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
残念ながら、エンジン停止状態にある間、若干のノーアイドリングシステムは、単一の循環流路を使用しているエンジン停止状態では、冷房だけでなく暖房を提供することもできない。これらのシステムは、エンジン停止状態の間も典型的には燃料燃焼式ヒータを利用して熱源を提供する第2のシステムを必要とする。残念ながら、これは、HVACシステム全体のために必要とされるスペースの量を増大させる。
【0007】
標準的な冷房システムに関するもう1つの問題は、これらの高圧冷媒システムが漏洩の可能性がある継手を使用することである。更に、車両の組立が製造組立施設において行われるまで冷媒システムが閉じられないので、この種のシステムの使用は、それ自体が車両の製造コストを増大させる冷媒システムの初期のパージおよび充填が組立プラント内で行われることを要求し、大量の冷媒を維持し貯蔵することをメーカーに要求して、組立メーカーに更なる負担を掛ける。
【0008】
従って、車両用のHVACシステムが、エンジンが作動していることを必要とすることなく暖房および冷房の両方の機能を提供し、より効率的であり、かつ高圧冷媒における漏洩の可能性を低減させることができれば、当該分野では評価されるであろう。
【0009】
上記に照らして、本発明の実施の形態の1つの目的は、車両の客室用の新規かつ改善した暖房空調システムを提供することである。より詳細には、本発明の実施の形態の1つの側面は、エンジンオン状態およびエンジン停止状態における車両の暖房空調を提供する新規かつ改善した暖房空調システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1つの実施の形態では、暖房空調システムは、共通の熱交換器によって互いに熱的に結合する1次ループおよび2次ループを含んでいる。1次ループおよび2次ループは、システムが暖房モードであるか冷房モードであるかに応じて互いの間において一方向に熱エネルギーを移動させる。
【0011】
共通の熱交換器を含むことに加えて、1つの実施の形態は、別の熱交換器と、冷媒コンプレッサと、複数の弁と、複数の冷媒膨張装置と、流れ逆転弁とを備える1次ループを含んでいる。前記2次ループは、一般に、共通の熱交換器に加えて、別の熱交換器と、液体ポンプと、2次熱源と、2次熱源を選択的に迂回させる流路と含んでいる。
【0012】
1つの実施の形態では、1次ループは高圧冷媒循環流路であり、2次ループは低圧液体循環流路である。
【0013】
1つの実施の形態では、1次ループは、1次ループを通る冷媒の流れを逆転させることによって車両の客室の冷房および暖房の両方を提供するように機能し得るヒートポンプである。この実施の形態では、2次ループは、好ましくは、暖房の間には2次熱源を通り、冷房の間には2次熱源を迂回する。
【0014】
本発明の更なる1つの実施の形態では、2次熱源は、1次ループから離れ、車両のエンジン、燃料燃焼式ヒータまたは電気ヒータを含んでいてもよい。2次熱源は、暖房モードの間に熱エネルギーを1次ループに追加するように機能し、1次ループの暖房モードの効率を向上させる。
【0015】
更なる1つの実施の形態では、液体ポンプおよび冷媒コンプレッサは、電気的に駆動される。これは、本発明の1つの実施の形態の暖房空調システムがノーアイドリングシステムとして機能することを許容する。
【0016】
本発明の他の側面、目的および利点は、以下の詳細な説明および添付図面からより明らかとなるだろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本明細書の中に組み込まれかつその一部を形成する添付図面は、本発明のいくつかの側面を例示し、その説明と共に、本発明の原理を説明するように機能する。
【0018】
本発明を特定の好適な実施の形態と併せて説明するが、これらの実施の形態に限定するものではない。逆に、添付の特許請求の範囲により定義されるように、本発明の精神および範囲により、全ての代替、改変、および均等物を含めるよう意図する。
【0019】
図1は、好ましい実施の形態である全体として参照符号8で示される暖房・換気・空調システム(HVACシステム)を説明する単純化したブロック図であり、HVACシステムは、車両の客室、好ましくはバスの客室を暖房し、換気し、冷房するものである。冷暖房の各機能に関して、HVACシステム8は、全体として参照符号10で示される1次暖房・空調循環流路(以下「1次ループ」という)を利用する。1次ループは、全体として参照符号12で示される並列する2次暖房・冷房循環流路(以下「2次ループ」という)と協働して機能する。1次ループ10は、暖房・空調ヒートポンプシステムであり、高圧冷媒プロセスを用いて客室の暖房又は冷房の一方を行う。ヒートポンプは、1つの媒体から他の媒体へ熱を移動させるように作用するものである。2次ループ12は、低圧液体システムであり、1次ループ10からまたは1次ループ10へ熱を選択的に移動させる。
【0020】
1次ループ10は、高圧冷媒ヒートポンプシステムであり、典型的な実施の形態では、コンプレッサ20と、逆転弁22と、冷媒−空気熱交換器24と、冷媒−液体熱交換器26と、第1および第2のバイパス弁28、30と、第1および第2の冷媒膨張装置32、34と、第1の空気流動装置36とを含んでいる。1次ループ10の各構成要素は、1つの場所からもう1つの場所へ熱エネルギーを移動するヒートポンプシステムを形成するように、例えば配管あるいは吸い込みライン38によって作動可能に接続されている。
【0021】
2次ループ12は、冷房モードの間は1次ループ10から、暖房モード(図2参照)の間は1次ループ10へ、熱エネルギーを選択的に移動させるように作動する。熱は、冷媒−液体熱交換器26を介して、1次ループ10と2次ループ12との間を移動する。従って、冷媒−液体熱交換器26は、1次ループ10および2次ループ12双方の構成要素である。2次ループ12は、更に、液体ポンプ40と、液体−空気熱交換器42と、第の3バイパス弁44と、2次熱源46と、第2の空気流動装置48と、パージタンク50とを含んでいる。2次ループ12の各構成要素は、流体の循環流路を形成するように、例えば符号52で示される配管あるいは吸い込みラインによって作動可能に接続されている。
【0022】
理解を容易にするために、車両の客室内の空気を冷却する空調モード(A/Cモード)の状態のHVACシステムが示された図1を参照して本発明の実施の形態及びその構成要素を先ず説明する。その後、図2を参照して暖房モードにおける作動を説明する。
【0023】
まず1次ループ10に関し、第1および第2の冷媒膨張装置32、34は、1次ループ10の中を流れる高温高圧の液体冷媒(例えばR−134a、フレオン等)が低温低圧の液体冷媒に変化することを許容する装置である。A/Cモードの間、流体は、第1の冷媒膨張装置32のみを通過し、バイパス弁28を通って第2の冷媒膨張装置34を迂回する。好ましい実施の形態では、冷媒膨張装置32、34は、膨張弁、自動調温膨張弁等である。
【0024】
A/Cモードでは、冷媒−空気熱交換器24は、蒸発器として機能し、第1の冷媒膨張装置32の下流(矢印58で示される、1次ループ10を通る冷媒の流れに対して)に配設されている。冷媒-空気熱交換器24は、第1の冷媒膨張装置32から低温低圧の液体冷媒を導入する熱交換装置である。低温低圧の液体冷媒は、冷媒-空気熱交換器24の中を流れる間に、客室を介して循環され、矢印60で示され、典型的には空気である媒体から潜熱を吸収する。それ故、冷媒-空気熱交換器24は、客室の内部と流体が連通する位置に配設されている。空気60からの熱を吸収することにより、低温低圧の液体冷媒は、空気60を冷却し、沸騰により相変化して、低温低圧の蒸気冷媒となる。空気と冷媒との間におけるこの熱交換効率を向上させるために、好ましい実施の形態では、冷媒−空気熱交換器24は、コイルで構成されている。
【0025】
第1の空気流動装置36は、冷媒−空気熱交換器24に近接して配設され、冷媒−空気熱交換器24を通して空気60を流動させおよび/または吸い込むように構成される。冷媒−空気熱交換器24を通過して冷却された後、その冷却空気は、車両の客室の中に放出される。好ましい実施の形態では、第1の空気流動装置36は、例えば軸流ファンのようなファンである。更にまた、ファンは、好ましくは、冷媒-空気熱交換器24を通過する空気の量が客室の冷房の必要性に応じて変更可能であるように調節可能なものである。別の実施の形態では、空気流動装置36は、車両の換気をするために、客室内の循環空気に加えて一部の新鮮外気を吸い込んでもよい。
【0026】
コンプレッサ20は、蒸発器として機能するA/Cモードにおける冷媒−空気熱交換器24から導入されおよび/または吸い込まれた低圧低温の蒸気冷媒を圧縮する。圧縮の間に、低圧低温の蒸気冷媒は、高温高圧の蒸気冷媒に変化する。高温高圧の蒸気冷媒は、コンプレッサ20から、凝縮器であるA/Cモードにおける冷媒−液体熱交換器26へと移動する。好ましい実施の形態では、コンプレッサ20は直流モータによって駆動される。典型的な実施の形態では、コンプレッサ20は可変速度のモータ駆動式コンプレッサである。モータは、直流または交流のいずれによって駆動されてもよい。それ故、コンプレッサ、ひいてはHVACシステム8は、ノーアイドリングすなわちエンジン停止状態であるA/Cモードにおいて作動するように構成されている。ノーアイドリング制御は、ジーグラー(Zeigler)らの権利である「Vehicle Air Conditioning and Heating system Providing Engine on and Off Operation」(エンジンオン及びオフ作動を備えている車両空調暖房システム)という表題の米国特許明細書第6,889,762号に従ったものであってもよい。その教示内容および開示内容は、参照することにより本明細書に組み込まれるものとする。
【0027】
A/Cモードでは、冷媒−液体熱交換器26は、凝縮器として機能し、コンプレッサ20の下流に配設されている。冷媒−液体熱交換器26は、コンプレッサ20から高温高圧の蒸気冷媒を導入する。高温高圧の蒸気冷媒は、冷媒−液体熱交換器26の中を流れる間に第2の媒体へ放熱する。第2の媒体は、低圧低温の冷却液であり、通常、不凍液のようなエンジン冷却液であるかまたはそれに相当する液体である。熱が第2の媒体に放散されると、高温高圧の蒸気冷媒は、凝縮して相変化し、高温高圧の液体冷媒となる。冷媒−液体熱交換器26の実施の形態は、並行流/対向流式熱交換器、シェルアンドチューブ式熱交換器、プレート式熱交換器等のような任意の冷媒−液体熱交換器を含んでいてもよい。
【0028】
冷媒−液体熱交換器26を通過した後、高温高圧の液体冷媒は、第2の冷媒膨張装置34に並行する第1のバイパス弁28を通過する。第1のバイパス弁28は、図1に示したような開弁状態では、高温高圧の液体冷媒が第2の冷媒膨張装置34を迂回することを許容する。
【0029】
第1のバイパス弁28を通過した後、高温高圧の液体冷媒は、第1の冷媒膨張装置32に戻り、そのサイクルが繰り返される。第1の冷媒膨張装置32に並行する第2のバイパス弁30は、A/Cモードの間は閉弁状態にあり、高温高圧の液体冷媒が第1の冷媒膨張装置32を迂回することを防いでいる。
【0030】
A/Cモードの間に、2次ループ12は、低圧低温の蒸気冷媒が高圧高温の蒸気冷媒に変換する際にコンプレッサ20によって追加された熱だけでなく、客室内の空気から冷媒に追加された熱エネルギーも排出する。特に、追加された熱は、冷媒−液体熱交換器26を介して、1次ループ10内の冷媒から2次ループ12内の冷却液へと移動する。
【0031】
2次ループ12を通る冷却液は、低圧のままである。冷媒−液体熱交換器26の上流(矢印68で示される、2次ループ12を通る冷媒の流れに対して)の低温冷却液は、冷媒−液体熱交換器26を通過し、その間に、1次ループ10の高温高圧の蒸気冷媒は、冷媒−液体熱交換器26を通過する。2つの流体が冷媒−液体熱交換器26を通過するとき、熱エネルギーは、高温高圧の蒸気冷媒から放散し、低温冷却液によって吸収され、前述のようにその冷媒が液体冷媒に凝縮することを許容する。低温冷却液は、1次ループ10から熱を吸収した後、高温冷却液として冷媒−液体熱交換器26から出て行く。
【0032】
液体−空気熱交換器42は、冷媒−液体熱交換器26の下流に配設され、冷媒−液体熱交換器26から高温冷却液を受け入れる熱交換装置である。高温冷却液は、液体−空気熱交換器42の中を流れる間に、通常は空気である緊密に近接した媒体に対して熱を放散させる。更にまた、この媒体は、典型的には車両の外部と流体連通する。熱の放散の故に、高温冷却液は、中温の冷却液になって、液体−空気熱交換器42から出て行く。空気と液体の間におけるこの熱交換プロセスの効率を向上させるために、好ましい実施の形態では、液体−空気熱交換器42は、コイルで構成されている。
【0033】
1つの実施の形態では、更に効率を向上させるために、第2の空気流動装置48が、液体−空気熱交換器42に近接して配設され、液体−空気熱交換器42を介して空気を移動させおよび/または吸い込むように構成されている。好ましい1つの実施の形態では、第2の空気流動装置48は、例えば第1の空気流動装置36と同様の軸流ファンのようなファンである。更なる1つの実施の形態では、液体−空気熱交換器42は、車両が走行しているときに車両に向かって流れる空気が液体−空気熱交換器42を通過し、高温冷却液から外部の周囲空気への熱移動を更に促進させるように、配設される。また、更なるもう1つの実施の形態では、液体−空気熱交換器42は、車両のラジエータに取り付けられ、エンジン冷却液を冷却するために発生した空気流を使用して、2次ループ12内の高温冷却液を冷却する。
【0034】
A/Cモードの間、液体−空気熱交換器42から出て行く中温の液体は、液体−空気熱交換器42の下流にある2次熱源46を迂回し、不要な熱エネルギーがHVACシステム8に入ることを防止する。中温の液体は、矢印70で示されるように、第3のバイパス弁44を通過することによって2次熱源46を迂回する。
【0035】
1つの実施の形態では、第3のバイパス弁44を通過した後、中温の冷却液は、第3のバイパス弁44および2次熱源46の下流にある液体−空気熱交換器42の第2の部分の中に再び入り、それを通過して、好ましくは更なる熱エネルギーを放散させる。中温の冷却液は、低温液体として液体−空気熱交換器から出て行き、液体ポンプ40へと流れる。
【0036】
代替的な1つの実施の形態では、図3に例示したように、冷却液は、液体−空気熱交換器42を1回のみ通過する。液体−空気熱交換器42から出た後、冷却された冷却液は、バイパス弁44を流れ、バイパスループ71を流れて、2次熱源46を迂回する。2次熱源46を迂回した後、冷却液は、液体ポンプ40に至る。この実施の形態では、2次熱源46は、図1に例示した実施の形態の場合のように液体−空気熱交換器42を2つの独立した部分に分割するのではなく、液体−空気熱交換器42の完全に下流に位置している。
【0037】
図1に戻って説明を続ける。液体ポンプ40は、2次ループ12内で液体を吸い込み、圧送する。液体ポンプ40は、液体−空気熱交換器42の下流に配設され、低温の液体をパージタンク50に圧送する。液体ポンプ40は、例えば遠心ポンプまたはレシプロポンプのような任意の種類の流体ポンプであってもよい。更に、ポンプ40は、2次ループ12を循環する液体が低圧のままとなるように低圧ポンプが用いられる。典型的な1つの実施の形態では、液体ポンプ40は、可変速度電動モータによって駆動される。それ故、HVACシステム8は、ノーアイドリングすなわちエンジン停止状態において作動するように構成されている。
【0038】
パージタンク50は、液体ポンプ40の下流に配置され、A/Cモードの間、低温液体の保持タンクとして機能する。それは、更に、2次ループ12内の液体の膨張および収縮を許容するように機能し、それによって、液体ポンプ40が2次ループ12内を循環する液体の低圧および流量を維持するようにしている。パージタンクは2次ループの最後の構成要素であり、液体がパージタンク50に入った後、そのサイクルが繰り返される。
【0039】
図2は、暖房モードにおける本発明の1つの実施の形態のHVACシステム8の単純化した概略図である。暖房モードの間、1次ループ10は、熱エネルギーを、2次ループ12ではなく車両の客室内の空気に対して放散する。HVACシステム8は、先に特定したバイパス弁28、30および44、並びに逆転弁22を操作することによって、A/Cモードから暖房モードへと切り換る。暖房プロセスは、図2を参照して以下で更に説明する。
【0040】
2次ループ12は、2次熱源46から1次ループ10に熱エネルギーを移動させ、熱負荷を1次ループに提供することによって、より低い周囲温度においてHVACシステムを暖房モードで作動することを許容する。前述のように、ヒートポンプは、1つの媒体から別の媒体へ熱を移動させるように機能する。単一ループのヒートポンプでは、ヒートポンプは、冷媒サイクルが作動するように車両外部の媒体から熱を汲み上げなければならず、その後、熱エネルギーを客室へ移動させる。しかし、暖房モードが必要とされるとき、外部媒体は典型的には非常に低温(すなわち、凍結以下)である。保有熱量が少ない媒体から熱を汲み上げることは、困難であり、効率的でもない。従って、低温媒体(すなわち低い周囲温度)から熱エネルギーを汲み上げることは、ヒートポンプが低い効率で作動する原因となりうる。
【0041】
第2に、ヒートポンプの暖房サイクルの間、蒸発器は非常に低温になり、仮に2次ループ12が存在しない場合のように蒸発器が冷媒−空気熱交換器であるとき、空気中の湿気は、冷たい外気に曝される熱交換器を着氷させる原因となる。熱交換器(蒸発器)から氷を取り除くために、ヒートポンプ(1次ループ)は、典型的には、熱交換器上の氷を解かすべく逆方向に(すなわちA/Cモードで)作動されなければならない。これは非常に非効率的である。何故なら、循環流路をこの方向に作動させるべく使用されるエネルギーが車両の客室を暖房するためには使用されないからである。もう一つの方法としては、燃料燃焼式ヒータまたは電気抵抗式ヒータのような2次的解氷メカニズムが設けられる必要がある。冷媒−液体熱交換器26は、それほどには着氷しにくい。何故なら、1次ループ10に対する熱移動が、熱交換器26の内部において、より高い温度で生じ、更に、いくつかの実施の形態では車両内部において生じるからである。2次ループ12は、2次熱源46が冷媒−液体熱交換器26とは離間して配設されていてもよい。
【0042】
暖房モードの間、1次ループ10を通る冷媒の流れは、矢印78で示されるように逆転する。冷媒の流れを逆転させるために、1次ループ10は、逆転弁22を含んでいる。逆転弁22は、低温低圧の蒸気冷媒をコンプレッサ20に供給するのと高温高圧の蒸気冷媒をコンプレッサ20から受け入れるのとで熱交換器を切り換える。言い換えると、1次ループ10を通る冷媒の流れを逆転させることによって、1次ループ10の冷媒−空気熱交換器24が凝縮器になり、冷媒−液体熱交換器26が蒸発器になる。
【0043】
冷媒の逆転流を起こりやすくするために、第2のバイパス弁30は開弁し、冷媒−空気熱交換器(凝縮器)24から出て行く高温高圧の液体冷媒が第1の冷媒膨張装置32を迂回することを許容する。第1のバイパス弁28は閉弁し、A/Cモードに関して前述したように、高温高圧の液体冷媒を第2の冷媒膨張装置34に通過させ、低温低圧の液体冷媒に変化させる。
【0044】
このモードでは、低温低圧の液体冷媒は、以下で更に十分に説明するように、冷媒−液体熱交換器26を通過し、2次ループ12の中を流れる高温冷却液から熱エネルギーを吸収する。2次ループ12から汲み上げられたこの熱エネルギーは、高温高圧の蒸気冷媒が冷媒−空気熱交換器24を通過するとき、客室内の空気に放散される。従って、暖房モードの間、1次ループ10は、逆方向で作動する。このモードでは、エネルギーは、2次ループ12から1次ループ10に移動し、客室に放散される。
【0045】
暖房モードの間、2次ループ12内の冷却液の流れは、矢印68で示されるように、逆転はしない。しかし、2次ループ12を流れる低圧の液体は、2次熱源46から熱を得て、前述のように、冷媒−液体熱交換器26を介して、この熱エネルギーを1次ループ10へ移動させる働きをする。
【0046】
暖房モードでは、冷媒−液体熱交換器26の中に入る2次ループ12の低圧の冷却液は、高温の冷却液である。高温の冷却液は、冷媒−液体熱交換器26を通過するとき、1次ループ10の低温低圧の冷媒に熱エネルギーを放散する。2次ループ12から放散される熱エネルギーは、1次ループ10内の冷媒によって吸収され、その後、客室内の空気に放散される。
【0047】
図2に示された実施の形態では、冷却液は、液体−空気熱交換器42を通過し、冷却液からの補足的な熱エネルギーを、熱交換器42を通過する空気に放散する。液体−空気熱交換器42を通過した後、冷却液は、2次熱源46を通過する。それ故、バイパス弁44は、冷却液が、A/Cモードの場合のようにそれを迂回するのではなく2次熱源46へ流れるように、配設されている。冷却液は、2次熱源46を通過するとき、熱エネルギーを吸収する。
【0048】
1つの実施の形態では、2次熱源46は、車両のエンジンである。HVACシステム8の1つの利点は、暖房システムが、稼働中のエンジンによって生じる廃熱の幾分かを客室に対して放散させることによって、エンジン冷却システムにおける負荷を低減するために使用され得ることである。
【0049】
代替的な1つの実施の形態では、HVACシステム8のエンジン停止すなわちノーアイドリング状態での作動を容易にするために、2次熱源46は、燃料を燃焼させて熱エネルギーを発生させる燃料燃焼式熱源である。燃料燃焼式熱源は、車両の主要エンジンの全出力が必要でないとき(すなわち停止または他の静止的な状況の間)に大型のディーゼルエンジンを作動させて熱源を提供するよりも、環境にやさしくて効率的である。もう1つの実施の形態では、2次熱源は、電気抵抗を使用して電気を熱エネルギーに変換する電気抵抗式ヒータである。この実施の形態は、車両が典型的には補助電力のような2次電源へのアクセスを有するとき、有益であろう。しかし、車両のエンジンは、それが停止した後も長時間にわたって温かいままであるので、停止した後も2次熱源として機能し得ることに留意すべきである。
【0050】
更にまた、2次ループ12を有する構成は、寒冷な気候の間において暖房モードで1次ループ10を作動させることを容易にする2次熱源46を、長い冷媒配管を要さずに冷媒−液体熱交換器26から離間して配設することを可能とする。
【0051】
図3を参照して上記で説明して例示された代替的な実施の形態では、図4に例示した暖房モードの間、冷却液は2次熱源46を迂回しない。暖房モードでは、バイパス弁44は、液体−空気熱交換器42から出るこの実施の形態では低温の冷却液が、2次熱源46を通過して高温の冷却液になるように、位置決めされる。高温の冷却液は、1度液体−空気熱交換器42を通るだけである。これは、液体−空気熱交換器42を通ることによって高温の冷却液から熱が放散することがないので、好適である。
【0052】
冷却液が2次熱源46を通って、高温の冷却液になった後、それは、冷媒−液体熱交換器26を流れるように圧送され、冷媒−液体熱交換器26で、熱エネルギーは、2次ループ12の高温の冷却液から1次ループ10の低温低圧の冷媒へ移動する。
【0053】
上述のHVACシステムが例えばバスのような大型の乗用車において使用されるときには、より適合性のある局所的な暖房・空調が設定できるように車両内に複数の1次ループ10が設けられてもよい。詳細には、1つのユニットが車両の後部を空調するように取り付けられ、別のユニットが客室の前部を空調するように車両の前部近くに取り付けられてもよい。これらの複式1次ループシステムでは、HVACシステムは、複数の1次ループに接続された単一の2次ループ、または各々の個別の1次ループに接続された個別の2次ループを含んでもよい。
【0054】
本明細書中で引用する公報、特許出願および特許を含むすべての文献は、各文献を個々に具体的に示し、参照して組み込んだのと同様に、また、その開示内容のすべてが記載されているのと同様に、ここで参照して組み込まれる。
【0055】
本発明の説明に関連して(特に特許請求の範囲に関連して)用いられる名詞および同様な指示語の使用は、本明細書中で特に指摘したり、明らかに文脈と矛盾したりしない限り、単数および複数の両方に及ぶものと解釈される。語句「備える」、「有する」、「含む」および「包含する」は、特に断りのない限り、オープンエンドターム(すなわち「〜を含むが限定しない」という意味)として解釈される。本明細書中の数値範囲の記載は、本明細書中で特に指摘しない限り、単にその範囲内に該当する各値を個々に言及するための略記法としての役割を果たすことだけを意図しており、各値は、本明細書中で個々に記載されているのと同様に、明細書に組み込まれる。本明細書中で説明されるすべての方法は、本明細書中で特に指摘したり、明らかに文脈と矛盾したりしない限り、あらゆる適切な順番で行うことができる。本明細書中で使用するあらゆる例または例示的な言い回し(例えば「など」)は、特に主張しない限り、単に本発明をよりよく説明することだけを意図し、本発明の範囲に対する制限を設けるものではない。明細書中の如何なる言い回しも、本発明の実施に不可欠である、特許請求の範囲に記載されていない要素を示すものとは解釈されないものとする。
【0056】
本明細書中では、発明を実施するため本発明者が知っている最良の形態を含め、本発明の好ましい実施の形態について説明している。当業者にとっては、上記説明を読んだ上で、これらの好ましい実施の形態の変形が明らかとなろう。本発明者は、熟練者が適宜このような変形を適用することを期待しており、本明細書中で具体的に説明される以外の方法で発明が実施されることを予定している。従って本発明は、準拠法で許されているように、本明細書に添付された特許請求の範囲に記載の内容の修正および均等物をすべて含む。さらに、本明細書中で特に指摘したり、明らかに文脈と矛盾したりしない限り、好ましい実施の形態で考えられるすべての変形における上記要素のいずれの組合せも本発明に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の教示内容に従って構築される複合HVACシステムの典型的な実施の形態を例示する単純化したブロック図である。HVACシステムは空調モードである。
【図2】暖房モードにおける図1のHVACシステムを説明する単純化したブロック図である。
【図3】本発明の別の実施の形態に係る冷房モードを示すHVACシステムの単純化したブロック図である。
【図4】暖房モードにおける図3のHVACシステムを説明する単純化したブロック図である。
【符号の説明】
【0058】
8 暖房空調システム
10 1次ループ
12 2次ループ
20 コンプレッサ
22 逆転弁
24 冷媒−空気熱交換器
26 冷媒−液体熱交換器
28 第1のバイパス弁
30 第2のバイパス弁
32 第1の冷媒膨張装置
34 第2の冷媒膨張装置
36 第1の空気流動装置
40 液体ポンプ
42 液体−空気熱交換器
44 第3のバイパス弁
46 2次熱源
48 第2の空気流動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の客室用の暖房空調システムであって:
第1の熱交換器と;
前記第1の熱交換器を通過する1次ループであって、更に、コンプレッサ、第2の熱交換器、前記1次ループを通る流体の流れを逆転させる流れ逆転手段、および第1の冷媒膨張装置を有する1次ループと;
前記第1の熱交換器を通過する2次ループであって、更に、液体ポンプ、第3の熱交換器、2次熱源、および前記2次熱源を選択的に迂回させるバイパス手段を有する2次ループとを備え;
前記2次ループは前記第1の熱交換器によって前記1次ループに熱的に接続され、前記第2の熱交換器は前記客室の内部に熱的に接続された;
暖房空調システム。
【請求項2】
前記2次熱源が前記車両のエンジンである、請求項1に記載の暖房空調システム。
【請求項3】
前記2次熱源および前記第3の熱交換器が前記1次ループおよび前記車両の前記客室から離間している、請求項1に記載の暖房空調システム。
【請求項4】
前記第1の熱交換器が冷媒−液体熱交換器であり、前記第2の熱交換器が冷媒−空気熱交換器であり、前記第3の熱交換器が液体−空気熱交換器である、請求項1に記載の暖房空調システム。
【請求項5】
前記コンプレッサが直流モータ駆動式コンプレッサである、請求項1に記載の暖房空調システム。
【請求項6】
前記2次熱源が燃料燃焼式ヒータである、請求項1に記載の暖房空調システム。
【請求項7】
前記1次ループが高圧冷媒を用いる循環流路であり、前記2次ループが低圧冷却液の循環流路である、請求項1に記載の暖房空調システム。
【請求項8】
前記コンプレッサ、第1および第2の熱交換器、流れ逆転手段、第1の冷媒膨張装置が、固定式の接続部によって接続された、請求項7に記載の暖房空調システム。
【請求項9】
前記1次ループが前記2次ループに接続されるのに適したモジュール式内蔵ユニットである、請求項8に記載の暖房空調システム。
【請求項10】
暖房モードの間、前記2次ループ内の液体が前記2次熱源を流れ、流れ案内手段が、冷媒を前記第1の熱交換器から前記コンプレッサまでおよび前記コンプレッサから前記第2の熱交換器まで案内し、冷房モードでは、前記2次ループ内の前記液体が前記2次熱源を迂回し、前記流れ案内手段が、冷媒を前記第2の熱交換器から前記コンプレッサまでおよび前記コンプレッサから前記第1の熱交換器まで案内する、請求項1に記載の暖房空調システム。
【請求項11】
前記第2および第3の熱交換器がコイルであり、前記膨張装置が膨張弁であり、前記システムが第1および第2の空気流動装置を更に備え、前記第1の空気流動装置が前記第2の熱交換器に近接し、前記第2の空気流動装置が前記第3の熱交換器に近接し、前記第1の空気流動装置が、前記客室の前記内部から前記第2の熱交換器を通過するように空気を循環させる、請求項4に記載の暖房空調システム。
【請求項12】
前記第2の熱交換器が前記客室の前記内部と流体連通するように前記車両に対して位置決めされた、請求項3に記載の暖房空調システム。
【請求項13】
車両の客室用の暖房空調システムであって:
コンプレッサと、第1の熱交換器と、第2の熱交換器と、前記コンプレッサから前記第1の熱交換器および前記第2の熱交換器の1つへ並びに前記第1の熱交換器および前記第2の熱交換器の他方から前記コンプレッサへ流体の流れを選択的に案内する流れ逆転手段と、冷媒膨張装置とを有する1次ループであって、前記コンプレッサ、第1および第2の熱交換器、流れ逆転手段、冷媒膨張装置が、高圧閉鎖循環流路を形成する常設接続を有する固定配管で接続された1次ループと;
低圧冷却液を有する2次ループであって、前記2次ループは前記第1の熱交換器を流れることによって前記1次ループに熱的に連通し、液体圧送手段、第3の熱交換器、2次熱源、および前記2次熱源を選択的に迂回させるバイパス手段を更に有する2次ループと、を備える;
暖房空調システム。
【請求項14】
前記1次ループが内蔵式ユニットである、請求項13に記載の暖房空調システム。
【請求項15】
前記第3の熱交換器および2次熱源が前記1次ループから離間している、請求項13に記載の暖房空調システム。
【請求項16】
前記2次熱源が、車両のエンジン、燃料燃焼式ヒータ、および電気抵抗式ヒータの少なくとも1つである、請求項13に記載の暖房空調システム。
【請求項17】
前記第1の熱交換器が冷媒−液体熱交換器であり、前記第2の熱交換器が冷媒−空気熱交換器であり、前記第3の熱交換器が液体−空気熱交換器である、請求項13に記載の暖房空調システム。
【請求項18】
前記コンプレッサが直流モータ駆動式コンプレッサであり、前記液体圧送手段が直流モータ駆動式ポンプである、請求項13に記載の暖房空調システム。
【請求項19】
前記2次熱源が燃料燃焼式ヒータおよび電気抵抗式ヒータの少なくとも1つであり、前記システムが前記第2および第3の熱交換器のそれぞれに近接する電気駆動式の第1および第2の空気流動装置を更に備える、請求項18に記載の暖房空調システム。
【請求項20】
前記2次ループが着脱自在な継手によって前記第1の熱交換器に接続された、請求項14に記載の暖房空調システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−201409(P2008−201409A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−37066(P2008−37066)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(508051137)バーグストローム・インコーポレーテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】Bergstrom, Inc.
【住所又は居所原語表記】2390 Blackhawk Road P.O.Box 6007 Rockford Illinois 61125−6007 United States of America
【Fターム(参考)】