説明

高密度銅パターンを有したプリント配線板の製造方法

【課題】 L/S=50/50μm以下の高密度な微細銅パターンを有する基板であっても、選択的に無電解金属めっき処理を行うことのできるプリント配線板の製造方法を提供すること。
【解決手段】 銅パターンを有する基板を、ヒドラジンまたはその誘導体およびニッケルイオンを含有する活性化剤に浸漬した後、無電解金属めっき処理を行うことを特徴とするプリント配線板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板の製造方法に関し、更に詳細には、高密度な配線を有する回路基板において、回路となる銅パターン上にのみ高い選択性で無電解金属めっきを析出させることのできるプリント配線板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化や軽薄化に伴い、電子部品の小型化、高集積化が進み、これら電子部品を搭載するための高密度な配線を有するプリント基板の必要性が高まっている。一般にプリント基板上の回路と電子部品を接続する場合、接続信頼性の向上を目的として、プリント基板の銅パターン上にバリアメタルとしてニッケルめっきを施した後、化学的に安定で耐食性に優れる、金めっきが行われている。
【0003】
従来、このような銅パターンへのメタライジングには、電気金属めっきが適用されてきたが、銅パターンの高密度化に伴い、外部電源との接続パターンを必要とする、電気めっきの適用が困難となってきた。そこで、電気金属めっきに代わり、外部電源を必要としない、無電解金属めっきによるメタライジングが必要となりつつある。
【0004】
上記無電解金属めっきによるメタライジングは、例えば、基板の銅パターン上に無電解ニッケルめっきを行う場合、希薄パラジウム溶液でパターン上に触媒を付与し、次いで無電解ニッケルめっきを施すことが一般的である。しかし、この手法を高密度な配線を有する基板へ適用した場合、パラジウムは選択性に乏しいために、銅パターン間の樹脂やレジストにも付着することがあり、このパラジウムを核として無電解ニッケルめっきが析出してしまい、選択析出性に優れた無電解ニッケル皮膜を得ることが難しくなるという欠点があった。
【0005】
一方、銅パターン上に選択的にめっきをするためには、無電解ニッケルめっき浴中に硫黄系化合物を多く添加すれば良いことが知られている。しかし、硫黄系化合物の添加量を多くした場合、その後の置換金めっき時に、ニッケル皮膜表面が局部腐食し、一般的にブラックパッドと言われる、黒く変色したニッケル皮膜になってしまい、はんだ接合性低下やワイヤーボンディング性低下の原因となるという問題があった。
【0006】
また、無電解ニッケルめっき浴中に重金属イオンを多く添加することでも、選択性を向上させることもできるが、パターン先端部やパターン際のみめっき厚が薄くなる、一般的にカジリと言われる、段差めっきが発生する場合がある。さらに、重金属イオンは人体や環境への悪影響が懸念されている。
【0007】
これらの難題を解決するために、銅パターンを形成する金属銅のみをジメチルアミンボランを用いて活性化し、この上に無電解めっきを選択的に析出させる方法が報告されている(特許文献1)。
【0008】
この方法は、無電解ニッケルめっき浴の種類にも依存するが、ライン・アンド・スペース(L/S)=100/100μm程度のパターンでは効果があるものの、特にL/S=50/50μm以下のパターンでは選択性に乏しく、銅パターン間の樹脂上にもめっきが析出してしまうことがあった。また、処理時間の影響も大きく、処理時間が短い場合、未析出の部分が発生し、処理時間を長くすると樹脂上への析出が発生することもあった。
【特許文献1】特許3393190号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明は、L/S=50/50μm以下の高密度な微細銅パターンを有する基板であっても、選択的に無電解金属めっき処理を行うことのできるプリント配線板の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、従来のプリント配線板の製造工程において行われていた触媒化処理の代わりに、ヒドラジンまたはその誘導体と特定の金属イオンを含有する活性化剤で処理することにより、微細配線パターン上に選択的に金属めっきを析出できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明は、銅パターンを有する基板を、ヒドラジンまたはその誘導体およびニッケルイオンを含有する活性化剤に浸漬した後、無電解金属めっき処理を行うことを特徴とするプリント配線板の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のプリント配線板の製造方法を用いれば、L/S=50/50μm以下の銅パターンを有する基板であっても、銅パターン上のみに選択的に無電解めっき処理を行うことができ、高密度な微細銅パターンを有するプリント配線板を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のプリント配線板の製造方法(以下、単に「本発明方法」という)は、銅パターンを有する基板を、ヒドラジンまたはその誘導体およびニッケルイオンを含有する活性化剤(以下、単に「活性化剤」という)に浸漬して銅パターンを形成する銅金属を活性化させ、次いでこの銅金属上に無電解金属めっきを行うというものである。
【0014】
この活性化剤に含有されるヒドラジンまたはその誘導体は、ニッケルイオンとともに銅を活性化させるための還元剤として作用するものであり、例えば、ヒドラジン一水和物、中性硫酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、炭酸ヒドラジン等が挙げられる。これらヒドラジンまたはその誘導体の添加量は、活性化剤中に0.5〜60g/L程度、好ましくは5〜50g/L程度である。
【0015】
また、活性化剤に含有されるニッケルイオンは、一般に使用されるニッケル塩、例えば硫酸ニッケル、塩化ニッケル、炭酸ニッケル、スルファミン酸ニッケル、硝酸ニッケル等を由来とするものでよい。このニッケルイオンの濃度は活性化剤中に0.5〜30g/L程度、好ましくは1〜12g/L程度である。
【0016】
上記活性化剤には、更に、pH緩衝剤および/または錯化剤を添加することができる。特に、活性化剤にpH緩衝剤と錯化剤の両方を添加した場合には、浴の安定性や析出速度に問題が生じないため好ましい。
【0017】
上記の活性化剤に添加されるpH緩衝剤としては、活性化剤に緩衝作用を与え、pH変化を抑制することができるものであれば、特に制限無く使用することができるが、例えば、りん酸、炭酸、ほう酸等が挙げられる。これらの中でもほう酸が浴安定性に問題がなく好ましい。活性化剤中でのpH緩衝剤の濃度は、0〜60g/L程度であり、好ましくは10〜50g/Lである。
【0018】
また、活性化剤に添加される錯化剤としては、酢酸アンモニウム、プロピオン酸ナトリウム等のモノカルボン酸系錯化剤、マロン酸二ナトリウム等のジカルボン酸系錯化剤、コハク酸二ナトリウム等のトリカルボン酸系錯化剤、乳酸、DL−りんご酸、ロッシェル塩、くえん酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム等のヒドロキシ酸系錯化剤、グリシン、EDTA等のアミノ酸系錯化剤、エチレンジアミン等のアミン系錯化剤、マレイン酸等の有機酸系錯化剤が挙げられる。これらの中でもアミノ酸系の錯化剤であるグリシンまたはその誘導体を用いることが、本発明の効果を得るのに最も好ましい。この錯化剤の濃度は、活性化剤中に8〜45g/Lであり、好ましくは15〜30g/Lである。
【0019】
上記活性化剤には、更に必要に応じて他の成分として、非イオン系界面活性剤等の界面活性剤等を配合することができる。
【0020】
本発明方法を実施するには、温度を80〜95℃程度、pHを11〜13程度に調整した活性化剤中に、銅パターンを有する基板を30秒〜5分程度浸漬すればよい。
【0021】
また、活性化剤に銅パターンを有する基板を浸漬する前には、常法により基板を脱脂、ソフトエッチ、酸処理を行えば良く、その一般的な前処理工程及び条件は、次の通りである。
【0022】
<前処理工程>
脱脂(40〜60℃、1〜5分)

水洗(25〜40℃、1〜3分)

ソフトエッチ(25〜40℃、1〜3分)

水洗(25〜40℃、1〜3分)

酸処理(25〜40℃、0.5〜3分)

水洗(25〜40℃、1〜3分)

活性化(80〜95℃、0.5〜5分)

水洗(25〜40℃、1〜3分)
【0023】
上記のようにして銅パターンを有する基板を活性化剤で処理した後は、一般の無電解金属めっき浴に浸漬し、銅パターン上に金属を析出させればよい。ここで用いられる無電解金属めっき浴としては、特に制限されず、次亜りん酸ナトリウム、ホルムアルデヒド、水素化ほう素ナトリウム、ジメチルアミンボラン、ヒドラジン等の還元剤と、ニッケル、コバルト、コバルト合金、金、銀、銅、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム等の金属イオン等を含有するものが利用できる。
【0024】
以上説明した本発明方法の好ましい一態様を挙げれば次の通りである。すなわち、まず、銅パターンを有する基板の脱脂やスマット除去をした後、85℃程度に加熱したヒドラジンまたはその誘導体およびニッケルイオンを含有する活性化剤に30秒〜5分間程度浸漬する。次いで80℃程度の無電解ニッケルめっき浴に30分間程度浸漬してニッケルめっきを行い、更に85℃程度の無電解金めっき浴に5分間程度浸漬して金めっきを行うことにより、基板状の回路をニッケルおよび金で被覆したプリント配線板を製造することができる。
【0025】
以上説明した、本発明方法は、前記活性化剤に浸漬することにより、無電解金属めっき浴に含まれる硫黄化合物が1mg/L以下および重金属イオンが0.5mg/L以下の場合、好ましくは硫黄化合物および重金属イオンを全く含まない場合であっても、基板上の銅パターンに対する高い選択性で無電解金属めっきを行うことができるため、皮膜特性低下の心配なく、人体、環境に配慮することができる。
【0026】
また、本発明方法によれば、極めて幅の狭い銅パターンを有する基板、例えば、L/S=50/50μm以下、好ましくはL/S=30/30μm以下、特に好ましくはL/S=15/15μm以下の銅パターンを有する基板であっても、銅パターン上のみに選択的に無電解金属めっき処理を行うことができるものである。
【0027】
従って本発明方法は、高密度な微細銅パターンを有するプリント配線板を製造することができるものであり、特に、プリント配線板としてパッケージ基板またはフレキシブル基板を製造するのに好適である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0029】
実 施 例 1
線幅、線間幅の異なった銅パターン(L/S=15/15、30/30、50/50、100/100μm)を有するプリント基板を試験基板として用いた。まず、脱脂液(PB−242D:荏原ユージライト社製)を使用して試験基板の脱脂処理を行い、続いて、エッチング液(PB−228:荏原ユージライト社製)を使用して、エッチング処理を行い、その後10%硫酸にてスマット除去をした。
【0030】
次に、下記に示す組成の活性化剤を85℃に加熱したものに、脱脂・エッチング・スマット除去処理した試験基板を1分間浸漬した。
<活性化剤組成>
ニッケルイオン(II) 3g/L
ヒドラジン一水和物 20g/L
グリシン 23g/L
ほう酸 31g/L
pH 12
【0031】
その後、活性化剤処理した試験基板を、80℃に加熱した、下記に示す無電解ニッケルめっき浴に30分間浸漬して無電解ニッケル処理を行い、ニッケルを析出させた。
<無電解ニッケルめっき浴組成>
硫酸ニッケル・6水和物 25g/L
次亜りん酸ナトリウム 30g/L
DL−りんご酸 25g/L
こはく酸 10g/L
pH 4.6
【0032】
最後に、無電解ニッケルめっき処理した試験基板を、85℃に加熱した、下記に示す無電解金めっき浴に5分間浸漬して無電解金処理を行い、金めっきを析出させた。
<無電解金めっき浴組成>
シアン化金(I)カリウム 2.9g/L
くえん酸カリウム 50g/L
EDTAナトリウム 10g/L
pH 4.8
【0033】
実 施 例 2
活性化剤への浸漬時間を5分間にした以外は、実施例1と同様に活性化剤/無電解ニッケル/無電解金めっき処理を行い、ニッケルおよび金を析出させた。
【0034】
実 施 例 3
活性化在中のヒドラジン一水和物20g/Lを、中性硫酸ヒドラジン33g/Lに代えた以外は、実施例1と同様に活性化剤/無電解ニッケル/無電解金めっき処理を行い、ニッケルおよび金を析出させた。
【0035】
実 施 例 4
実施例3の活性化剤への浸漬時間を5分にした以外は、実施例1と同様に活性化剤/無電解ニッケル/無電解金めっき処理を行い、ニッケルおよび金を析出させた。
【0036】
比 較 例 1
活性化剤の代わりに、25℃のパラジウム触媒溶液(PB−300:荏原ユージライト社製)を用い、これに2分間浸漬して銅パターン上にパラジウムを付与する以外は、実施例1と同様に無電解ニッケル/金めっき処理を行い、試験基板上にニッケルおよび金を析出させた。
【0037】
比 較 例 2
30℃のジメチルアミンボラン用いた下記組成の活性化剤を用い、これに1分間浸漬する以外は、実施例1と同様に無電解ニッケル/金めっき処理を行い、試験基板上にニッケルおよび金を析出させた。
<ジメチルアミンボラン活性化剤組成>
ニッケルイオン(II) 100mg/L
ジメチルアミンボラン 3g/L
DL−りんご酸 1.3g/L
ほう酸 5g/L
pH 9
【0038】
比 較 例 3
比較例2の活性化剤を用い、浸漬時間を5分間にする以外は、実施例1と同様に無電解ニッケル/金めっき処理を行った。
【0039】
比 較 例 4
実施例1に従って脱脂・エッチング・スマット除去処理した試験基板を、荏原ユージライト社製パラジウム溶液PB−300にて、25℃、2分間処理し、銅パターン上にパラジウムを付与し、更に、下記に示す無電解ニッケルめっき浴にて、80℃、30分間処理した。その後、実施例1に記載の組成の無電解金めっき浴で処理し、試験基板上に、ニッケルおよび金を析出させた。
<無電解ニッケルめっき浴組成>
硫酸ニッケル・6水和物 25g/L
次亜りん酸ナトリウム 30g/L
DL−りんご酸 25g/L
こはく酸 10g/L
鉛イオン 1.0mg/L
チオ尿素 2.0mg/L
pH 4.6
【0040】
試 験 例 1
実施例1〜2および比較例1〜4のめっき処理により得た試験基板を、実体顕微鏡にて観察し、めっき析出状態について下記の基準で評価した。また、この観察によりパターン先端、パターン際の段差めっきの有無を判断した。これらの結果を表1に示した。
【0041】
<めっき析出状態評価>
(評価) (内容)
○ : 銅パターン上のみめっき析出。
△ : 銅パターン上のみにめっきが析出した箇所と、樹脂上にもめっきが析
出した箇所が混在している。
× : 銅パターン上、樹脂上の全面にめっきが析出。
【0042】
更に、局部腐食の有無については次の方法により確認した。まず、めっき処理後の試験基板を、シアン化カリウム、酸化剤を含む金剥離液に浸漬し、金めっき皮膜を剥離した。その後、金めっき剥離後のニッケル皮膜を走査電子顕微鏡(日本電子製JSM−5600)にて観察し、局部腐食の有無を確認した。この結果も表1に示した。
【0043】
【表1】

【0044】
この結果から、ヒドラジンまたはその誘導体およびニッケルイオンを含有する活性化剤を用いれば、硫黄化合物、重金属イオンを含有しない無電解ニッケルめっき液を使用した場合でも、銅パターン上に高い選択性でめっきできることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の活性化剤を用いることにより、重金属やイオウ化合物を殆ど含まない人体、環境に配慮した無電解ニッケルめっき液を使用しても、高密度な銅パターン上のみ選択的にめっきを析出させることができる。
【0046】
従って、本発明方法は、次世代の高密度電子部品製造に適した安全性が高いプリント配線板の製造方法として、広く利用しうるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅パターンを有する基板を、ヒドラジンまたはその誘導体およびニッケルイオンを含有する活性化剤に浸漬した後、無電解金属めっき処理を行うことを特徴とするプリント配線板の製造方法。
【請求項2】
活性化剤が、更にpH緩衝剤および/または錯化剤を含有するものである請求項第1項記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項3】
pH緩衝剤が、ほう酸である請求項第2項記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項4】
錯化剤が、グリシンまたはその誘導体である請求項第2項記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項5】
プリント配線板としてパッケージ基板またはフレキシブル基板を製造するための方法である請求項第1項ないし第4項の何れかの項記載のプリント配線板の製造方法。

【公開番号】特開2007−141936(P2007−141936A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−330101(P2005−330101)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(000120386)荏原ユージライト株式会社 (48)
【出願人】(502273096)株式会社関東学院大学表面工学研究所 (52)
【Fターム(参考)】