説明

高度にフッ素化されたアルコールおよびその製造方法と中間体

【課題】フルオラス合成用の強酸性や強塩基性中での反応及び還元反応に使用可能な、化学的に安定な構造を有する、再生再利用が可能な高度にフッ素化された化合物を提供する。
【解決手段】式[I]


(式中、Rfは、パーフルオロアルキル基を、kは1〜8の整数を、nは0〜16の整数を、mは0〜8の整数を、pは1〜10の整数を、qは0〜8の整数を、tは1〜10の整数を表す。Rf、m 、p、qはその表示各位において同一である必要はない。)で表される高度にフッ素化されたアルコールとその製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高度にフッ素化されたアルコールに関する。医薬や食品添加物、化粧品、液晶、電子材料、高分子材料モノマー、機能性材料、医療材料などのファインケミカルズの製造には有機合成化学の果たす役割が極めて高い。従来の有機合成の概念を越える技術としてフルオラス合成が提案され、その発展が望まれている。これはパーフルオロカーボンが有機溶媒や水に溶解せず、三者が互いに分液できることに着目し、高度にフッ素化した誘導体のみをパーフルオロカーボン層に抽出させ、化合物の精製を容易にかつ安全に行うという方法である。この手法を用いて種々の化合物を合成するためには、目的の化合物の構造に適した高度にフッ素化された基を導入する必要があるが、本発明の高度にフッ素化されたアルコールは、この合成用試剤として使用できる。
【背景技術】
【0002】
これまでに種々の高度にフッ素化された合成用試剤が報告されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3参照。)が、その大部分は、目的物合成後、高度にフッ素化された基を目的化合物から切り離した際に再生が困難あるいは不可能な構造へと変化してしまうために廃棄せざるを得なく、再利用はほとんどされなかった。そこで環境面や経済性を考慮して、再生再利用が可能な高度にフッ素化された化合物(下式[V])の開発を行った(特願2005−131806号)。
【化5】

ペプチド合成にこの高度にフッ素化されたアルコール誘導体を用いたところ、効率的かつ高収率で目的物が合成でき、さらに目的物合成後、容易に高度にフッ素化されたアルコール誘導体が再生された。またこの再生された高度にフッ素化されたアルコール誘導体は、次いで糖鎖合成に再利用することができた。このように式[V]で示される高度にフッ素化されたアルコール誘導体は再生、再利用が可能であるが、その構造は複数のアミド結合により構築されている。一般的にアミド結合は強酸性、および強塩基性中で開裂するため、このような条件下では式[V]で示されるの高度にフッ素化されたアルコール誘導体は分解してしまい、その使用が制限される。実際、式[V]で示される高度にフッ素化されたアルコールの原料である、式[VI]
【化6】


で示される高度にフッ素化されたカルボン酸を合成する際に、その前駆体であるエステルを水酸化ナトリウム存在下で加熱処理を行ったところアミド結合が開裂して高度にフッ素化されたカルボン酸が一部分解することが確認されている。またアミド結合は水素化アルミニウムリチウム(LAH)等による還元反応によりアミンへと変換されてしまうことは周知である。
【0003】
しかし強酸性や強塩基性中での反応、及び還元反応は有機合成において非常によく用いられており、化学工業においても必須の反応条件である。従ってフルオラス合成法により効率的に種々の化合物を合成するためには、化学的に安定な再生再利用ができる新規の高度にフッ素化された基が必要不可欠である。
【特許文献1】特開2002−338534号公報
【特許文献2】特開2003−261523号公報
【特許文献3】特開2004−131452号公報
【非特許文献1】Zhiyong Kuo, John Williams, Roger W. Read and Dennis P. Curran著,「Fluorous Boc(FBoc)Carbamates: New Amine Protecting Groups for Use in Fluorous Synthesis」, The Journal of Organic Chemistry誌, 2001年, 第66巻, p.4261−4266.
【非特許文献2】Dennis P. Curran, Rafael Ferritto and Ye Hua著,「Preparation of a Fluorous Benzyl Protecting Group and Its Use in a Fluorous Synthesis Approach to a Disaccharide」, Tetrahedron Letters誌, 1998年, 第39巻, p.4937−4940.
【非特許文献3】Kohtaro Goto, Tsuyoshi Miura, Mamoru Mizuno, Hiromi Takaki, Nobuyuki Imai, Yasuoki Murakami, Toshiyuki Inazu 著,「Rapid Oligosaccharide Synthesis on a Novel Benzyl-Type Fluorous Support」, Synlett誌,2004年,p.2221−2223.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、強酸性や強塩基性中での反応及び還元反応に使用可能な、化学的に安定な構造を有する、再生再利用が可能な高度にフッ素化された化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を鋭意検討した結果、本発明化合物を創出した。
すなわち、本発明は、式[I]
【化7】

(式中、Rfは、パーフルオロアルキル基を、kは1〜8の整数を、nは0〜16の整数を、mは0〜8の整数を、pは1〜10の整数を、qは0〜8の整数を、tは1〜10の整数を表す。Rf、m 、p、qはその表示各位において同一である必要はない。)で表されることを特徴とする高度にフッ素化されたアルコールと、下記式[II]
【化8】

(式中、Rfは、パーフルオロアルキル基を、Rはアルキル基、アラルキル基、アリル基のいずれかを、kは1〜8の整数を、nは0〜16の整数を、mは0〜8の整数を、pは1〜10の整数を、qは0〜8の整数を、tは1〜10の整数を表す。Rf、m 、p、qはその表示各位において同一である必要はない。)で表される中間体とその製造法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明化合物は化学的に非常に安定であることから有機合成に汎用性がある。例えば、式[V]のような従来のフルオラス合成試剤はアミド結合により構築されているため、水素化ナトリウムや水酸化ナトリウムなどの強塩基を用いるエーテル化反応に用いることは困難であったが、本発明化合物は化学的に安定な構造のためこのような強塩基を用いる反応条件下でも使用が可能である。更に官能基として水酸基を有しており、ここに種々の有機合成用リンカーを導入することが可能であり、また反応後はリンカーを選択的に除去することにより再生再利用可能である。更にリンカーを介さずとも、例えばカルボキシル基に対してはエステル結合やカルボニル基に対してはアセタール結合により直接導入することができ、かつ除去後はアルコールとして再生再利用可能である。また、従って環境に優しく、経済性に優れたフルオラス合成試剤を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明物である式[I]で表される高度にフッ素化されたアルコールの合成工程は以下のA〜Cの3つの工程から成る。すなわち、ポリヒドロキシ化合物からポリヒドロキシエーテルを合成する工程(A工程)、中間体である式[II]の高度にフッ素化されたエーテルを合成する工程(B工程)、高度にフッ素化されたエーテルから目的物である式[I]の高度にフッ素化されたアルコールを合成する工程(C工程)である。
【化9】

(式中、Rfは、パーフルオロアルキル基を、Rはアルキル基、アラルキル基、アリル基のいずれかを、kは1〜8の整数を、nは0〜16の整数を、mは0〜8の整数を、pは1〜10の整数を、qは0〜8の整数を、tは1〜10の整数を表す。Rf、m 、p、qはその表示各位において同一である必要はない。)
【0008】
まずA工程である。式[III] (式中、Rはアルキル基、アラルキル基、アリル基のいずれかを、kは1〜8の整数を、nは0〜16の整数を、pは1〜10の整数を、qは0〜8の整数を、tは1〜10の整数を表し、p、qはその表示各位において同一である必要はない。)で表されるポリヒドロキシエーテルは、ポリヒドロキシ化合物とハロゲン化アルキル、ハロゲン化アラルキルまたはハロゲン化アリルとを有機溶媒中、塩基存在下で反応させることにより容易に合成できる。
【0009】
ポリヒドロキシ化合物としては周知のポリヒドロキシ化合物を使用できる。例えばガラクチトール、ソルビトール、マンニトール、タリトール、キシリトール、エリスリトール、リビトール等の糖アルコールや、グリセロール、ペンタントリオール、ヘプタントリオール、3−デオキシペンチトール、3,5-ジデオキシリボヘプチトール、3,5-ジデオキシキシロヘプチトール、3,5-ジデオキシリボヘプチトール、1,3,6,8-オクタンテトロール、1,4,7,10-デカンテトロールなどのポリオール類が挙げられる。
【0010】
ハロゲン化アルキルやハロゲン化アラルキルとしては周知のハロゲン化アルキル、ハロゲン化アラルキルを使用できる。例えばアルキル基としては、メチル基、エチル基、n―プロピル基、イソプロピル基、n―ブチル基、第3ブチル基、ヘキシル基、オクチル基等が挙げられる。好ましくは、メチル基、エチル基、第3ブチル基である。これらの原料としては、例えばハロゲン化アルキルとしてヨウ化メチル、臭化メチル、塩化メチル、ヨウ化エチル、臭化エチル、塩化エチル、ヨウ化プロピル、臭化プロピル、塩化プロピル、ヨウ化ブチル、臭化ブチル、塩化ブチル、ヨウ化第3ブチル、臭化第3ブチル、塩化第3ブチル、ヨウ化ヘキシル、臭化ヘキシル、塩化ヘキシル、臭化オクチル、塩化オクチル、ヨウ化オクチルなどが挙げられる。
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、トリフェニルメチル(Trt)基、フェネチル基、ナフチルメチル基、等が挙げられる。好ましくは、ベンジル基、Trt基である。これらの原料としては、例えばハロゲン化アラルキルとして臭化ベンジル、塩化ベンジル、ヨウ化ベンジル、塩化トリフェニルメタン、臭化トリフェニルメタン、ヨウ化トリフェニルメタン、臭化フェネチル、1-(クロロメチル)ナフタレン等が挙げられる。
ハロゲン化アリルとしては臭化アリル、塩化アリルなどが挙げられる。
【0011】
有機溶媒としては、周知の溶媒を使用できる。ジクロロメタン、クロロホルム、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、エーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、プロピオニトリル、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド、メチルエチルケトン、フルオロカーボン(たとえば、ノベックTMHFE7200)、パーフルオロヘキサン、パーフルオロカーボン(たとえば、フロリナートTMFC72 )などを挙げることができる。また、これらの混合物や含水物、あるいは、不均一系での反応ができることは言うまでもない。
塩基としては、何ら制限はない。たとえば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、DBUなどの有機塩基、炭酸カリウム、炭酸セシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水素化ナトリウム、水素化カルシウムなどの無機塩基あるいは、ブチルリチウム、フェニルリチウムなどの有機金属化合物を挙げることができる。
用いる両原料、塩基の当量数にも何ら制限はない。いずれか1成分か2成分を過剰に用いることもできる。ポリヒドロキシ化合物の水酸基に対して1当量〜15当量の範囲の塩基とハロゲン化アルキル、ハロゲン化アラルキルまたはハロゲン化アリルを用いる。
反応時間、反応温度にも何ら制限はない。いずれも個々の誘導体によって異なり、また、塩基や溶媒によっても異なるが、通常、室温から溶媒の沸点までの範囲で、1時間から7日間の範囲である。
【0012】
次にB工程である。式[II] (式中、Rfは、パーフルオロアルキル基を、Rはアルキル基、アラルキル基、アリル基のいずれかを、kは1〜8の整数を、nは0〜16の整数を、mは0〜8の整数を、pは1〜10の整数を、qは0〜8の整数を、tは1〜10の整数を表す。Rf、m 、p、qはその表示各位において同一である必要はない。)で表される高度にフッ素化されたエーテルは、A工程で得られるポリヒドロキシエーテルとパーフルオロアルキル誘導体とを有機溶媒中、塩基存在下で反応させることにより容易に合成できる。
【0013】
原料となるパーフルオロアルキル誘導体は式[IV]
【化10】

(式中Rfはパーフルオロアルキル基を、mは0〜8の整数を、Yはアルキルスルホニルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基、またはフッ素を除くハロゲンのいずれかを表す。)で示されるパーフルオロアルキル誘導体を使用できる。パーフルオロアルキル基としては周知のパーフルオロアルキル基を用いることができる。たとえば、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロヘプチル基、パーフルオロオクチル基、パーフルオロデシル基、パーフルオロテトラデシル基などを挙げることができる。さらに、分岐構造や立体異性体の有無などを問わないことは言うまでもない。フッ素原子の導入率を高めるにはパーフルオロアルキル基は長鎖の方が有効である。しかし、通常取り扱いや入手の容易さを考慮し、パーフルオロアルキル基の炭素数が3〜16の範囲の誘導体を使用する。好ましくはパーフルオロアルキル基の炭素数が4〜10の範囲の誘導体である。パーフルオロアルキル基に結合しているメチレン鎖は何ら制限はなく、通常mは0〜8である。特に、mは1〜4が好ましい。
アルキルスルホニルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基としては周知のスルホニルオキシ基を使用できる。たとえば、p−トルエンスルホニルオキシ基、メタンスルホニルオキシ基、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基などのスルホニルオキシ基を挙げることができる。また、フッ素を除くハロゲンとしては、塩素、臭素、ヨウ素など周知のハロゲンを挙げることができる。
【0014】
有機溶媒としては、周知の溶媒を使用できる。ジクロロメタン、クロロホルム、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、エーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、プロピオニトリル、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド、メチルエチルケトン、フルオロカーボン(たとえば、ノベックTMHFE7200)、パーフルオロヘキサン、パーフルオロカーボン(たとえば、フロリナートTMFC72 )などを挙げることができる。また、これらの混合物や含水物、あるいは、不均一系での反応ができることは言うまでもない。
塩基としては、何ら制限はない。たとえば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、DBUなどの有機塩基、炭酸カリウム、炭酸セシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水素化ナトリウム、水素化カルシウムなどの無機塩基あるいは、ブチルリチウム、フェニルリチウムなどの有機金属化合物を挙げることができる。
【0015】
用いる両原料、塩基の当量数にも何ら制限はない。いずれか1成分か2成分を過剰に用いることもできる。ポリヒドロキシエーテルの水酸基に対して1当量〜15当量の範囲の塩基と式[IV](式中、Rfはパーフルオロアルキル基を、Yはアルキルスルホニルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基、またはフッ素を除くハロゲンのいずれかを、mは0〜8の整数を表す。)で表されるパーフルオロアルキル誘導体を用いる。
反応時間、反応温度にも何ら制限はない。いずれも個々の誘導体によって異なり、また、塩基や溶媒によっても異なるが、通常、室温から溶媒の沸点までの範囲で、1時間から7日間の範囲である。
【0016】
次に、C工程である。式[I] (式中、Rfは、パーフルオロアルキル基を、kは1〜8の整数を、nは0〜16の整数を、mは0〜8の整数を、pは1〜10の整数を、qは0〜8の整数を、tは1〜10の整数を表す。Rf、m 、p、qはその表示各位において同一である必要はない。)で表される高度にフッ素化されたアルコールは、B工程で得られる式[II] (式中、Rfは、パーフルオロアルキル基を、Rはアルキル基、アラルキル基、アリル基のいずれかを、kは1〜8の整数を、nは0〜16の整数を、mは0〜8の整数を、pは1〜10の整数を、qは0〜8の整数を、tは1〜10の整数を表す。Rf、m 、p、qはその表示各位において同一である必要はない。)で表される、高度にフッ素化されたエーテルと、Rの除去試薬とを有機溶媒中で反応させることにより容易に合成できる。
【0017】
Rの除去試薬としては、除去するRの種類に依存するが、水酸基の保護基としてのRを脱保護できる試薬であれば何ら制限はない。例えばRがTrt基である場合は、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、塩酸、硫酸、パラトルエンスルホン酸、カンファースルホン酸などを挙げることができ、Rがベンジル基である場合はパラジウム系触媒存在下での接触還元、液体アンモニア―金属ナトリウム、四塩化スズ等を挙げることができる。
【0018】
有機溶媒としては、周知の溶媒を使用できる。ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルムベンゼン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、プロピオニトリル、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド、メチルエチルケトン、フルオロカーボン(たとえば、ノベックTMHFE7200)、パーフルオロカーボン(たとえば、フロリナートTMFC72)などを挙げることができる。また、これらの混合物や含水物、あるいは、不均一系での反応ができることは言うまでもない。
反応時間、反応温度にも何ら制限はない。いずれも個々の誘導体によって異なり、また、酸化剤や溶媒によっても異なるが、通常、−100℃から溶媒の沸点までの範囲で、1時間から7日間の範囲である。
【0019】
また、B、C工程においては、反応促進剤として相間移動触媒を用いることができる。
相間移動触媒としては、周知の相間移動触媒を使用できる。12-クラウン-4、15-クラウン-5、18-クラウン-6、21-クラウン-7、24-クラウン-8、クリプタンド、チアクラウンエーテル、アザクラウンエーテルなどのクラウンエーテル類や、硫酸水素テトラブチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、硫酸水素テトラメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、ヨウ化テトラメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、塩化ベンジルトリブチルアンモニウム、塩化メチルトリオクチルアンモニウムなどの4級アンモニウム塩や、塩化テトラブチルホスホニウム、臭化テトラブチルホスホニウム、ヨウ化テトラブチルホスホニウムなどの4級ホスホニウム塩などを挙げることができる。また、これらの混合物を用いることができることは言うまでもない。
用いる相間移動触媒の当量数にも何ら制限はない。ポリヒドロキシ誘導体の水酸基に対して1当量〜15当量の範囲で用いる。
【0020】
以上のようにして得られる、本発明化合物である高度にフッ素化されたアルコールは、例えば下図のようにリンカーとしてベンジル型リンカーを用いると、従来のフルオラス合成試剤では困難であったウイリアムソン法によるエーテル化が可能になる。更に接触還元により容易に高度にフッ素化されたアルコールに再生される。
【化11】

【0021】
またリンカーを介さずに直接官能基に導入することも可能である。例えば、下図のように3-ホルミルプロピオンアミドのアルデヒドにアセタール結合で導入することが可能である。更に従来のフルオラス合成試剤では不可能であった水素化アルミニウムリチウムを用いた還元反応によりアミドをアミンに変換することも可能である。最終的に酸処理により4−アミノブチルアルデヒドが得られ、また高度にフッ素化されたアルコールも再生される。
【化12】

【実施例】
【0022】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、その要旨を超えない限り、何ら制限を受けるものではない。
【0023】
[実施例1](A工程)
キシリトール(1;1.54g,10.1mmol)と塩化トリフェニルメタン(2.26g,8.10mmol)をピリジン(10mL)とN,N−ジメチルホルムアミド(15mL)の混合溶媒に溶解させ、この溶液に触媒量の4−ジメチルアミノピリジンを加え、室温で1晩攪拌した。反応液にメタノール(5mL)を加え過剰の試薬を分解した後、溶媒を減圧濃縮した。残渣に酢酸エチルと2N塩酸を加え分配抽出した。有機層は2N塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥剤を濾別後、溶媒を減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール:水=9:1:0.06)にて精製し、化合物2を1.62g(51%)得た。
1H-NMR (CD3OD): δ= 3.20 (dd, J= 6.2, 9.6 Hz, 1H,), 2.06 (1H, m), 3.25―3.30 (1H, m), 3.61―3.68 (2H, m), 3.72―3.77 (1H, m), 3.86―3.90 (1H, m),7.17―7.49 (15H, m).
【化13】

【0024】
(B工程)
化合物2(97.0mg,0.25mmol)と4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,11−ヘプタデカフルオロ−1−ヨウ化ウンデカン(694mg,1.18mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド(4.0mL)とノベックTMHFE−7200(0.5mL)の混合溶媒に溶解させ、この溶液に水素化ナトリウム(29mg,0.66mmol)を加え、室温で1.5時間攪拌した。反応液にさらに水素化ナトリウム(35mg,0.80mmol)を加えた後、ノベックTMHFE−7200(1.0mL)加え、室温で3時間攪拌した。さらに反応液に水素化ナトリウム(65mg,1.49mmol)と4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,11−ヘプタデカフルオロ−1−ヨウ化ウンデカン(694mg,1.18mmol)を加え、室温で1晩攪拌した。反応液に水素化ナトリウム(30mg,0.69mmol)と4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,11−ヘプタデカフルオロ−1−ヨウ化ウンデカン(350mg,0.60mmol)を加え、室温でさらに4時間攪拌した。反応液にメタノール(3ml)を加え過剰の試薬を分解した後、酢酸エチルと水を加えて分配抽出した。酢酸エチル層を濃縮した後、エタノールで水を共沸した。残渣をアセトニトリル(50mL)と パーフルオロカーボン(フロリナートTMFC−72)(50mL×3)で分配抽出し、FC−72層を減圧濃縮した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(n―ヘキサン:酢酸エチル=10:1)にて精製し、化合物3(式中、RfはC8F17を表す)を254mg(46%)得た。
MALDI-TOF MASS:Calcd for C68H46F68NaO5 (M+Na+):2257.2、Found:2259.6.
【化14】

【0025】
(C工程)
化合物3(式中、RfはC8F17を表す)(250mg,0.11mmol)をテトラヒドロフラン(3.0mL)とメタノール(1.5mL)の混合溶媒に溶解させ、この溶液に(+)-10-カンファースルホン酸(260mg,1.12mmol)を加え、室温で4時間攪拌した。反応液を三分の一まで減圧濃縮した後、メタノール(20mL)とパーフルオロカーボン(フロリナートTMFC−72)(20mL×3)で分配抽出し、FC−72層を減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n―ヘキサン:酢酸エチル=3:1)にて精製し、化合物4(式中、RfはC8F17を表す)を199mg(89%)得た。
MALDI-TOF MASS:Calcd for C49H32F68NaO5 (M+Na+):2015.1、Found:2015.6.
【化15】

【0026】
[実施例2]
相間移動触媒(クラウンエーテル)の使用例(B、C工程)
化合物2(97.6mg,0.25mmol)と4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,11−ヘプタデカフルオロ−1−ヨウ化ウンデカン(1.16g,1.98mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド(5.0mL)に溶解させ、この溶液に15-クラウン-5(0.47mL,2.38mmol)と水素化ナトリウム(87mg,1.98mmol)を加え、0℃で1.5時間攪拌した後、室温で一晩攪拌した。反応液に水(0.5ml)を加え1時間攪拌し、過剰の試薬を分解した後、パーフルオロカーボン(フロリナートTMFC−72)とメタノールで分配抽出し、FC−72層を減圧濃縮した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(n―ヘキサン:酢酸エチル=10:1)にて粗精製し、化合物3(式中、RfはC8F17を表す)の粗生成物を287mg得た。この化合物3の粗生成物(287mg)をクロロホルム(6mL)とメタノール(2mL)に溶解し、この溶液に(+)-10-カンファースルホン酸(298mg, 1.28mmol)加え室温で2時間攪拌した。反応液を半分まで減圧濃縮した後、メタノール(20mL)とパーフルオロカーボン(フロリナートTMFC−72)(20mL×3)で分配抽出し、FC−72層を減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n―ヘキサン:酢酸エチル=3:1)にて精製し、化合物4(式中、RfはC8F17を表す)を198mg(2工程40%)得た。
1H-NMR (CD3OD): δ= 1.85-1.92 (8H, m), 2.09-2.24 (8H, m), 3.49-3.68 (11H, m), 3.71―3.74 (3H, m), 3.80 (dd, J= 4.1, 11.7 Hz, 1H,).
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明化合物を用いるフルオラス合成が、医薬や食品添加物、化粧品、液晶、電子材料、高分子材料モノマー、機能性材料、医療材料などのファインケミカルズの製造、ペプチド、糖鎖、核酸などの複雑な天然物やそのアナローグの製造を容易にすることは確実である。また、本発明化合物は化学的に安定な構造を有しており酸化反応や還元反応、ラジカル反応といった工業的に有用な有機合成に広く用いることが可能であり、従って本発明化合物の工業的価値や波及効果は極めて大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式[I]
【化1】

(式中、Rfは、パーフルオロアルキル基を、kは1〜8の整数を、nは0〜16の整数を、mは0〜8の整数を、pは1〜10の整数を、qは0〜8の整数を、tは1〜10の整数を表す。Rf、m 、p、qはその表示各位において同一である必要はない。)で表されることを特徴とする高度にフッ素化されたアルコール。
【請求項2】
下記式[II]
【化2】

(式中、Rfは、パーフルオロアルキル基を、Rはアルキル基、アラルキル基、アリル基のいずれかを、kは1〜8の整数を、nは0〜16の整数を、mは0〜8の整数を、pは1〜10の整数を、qは0〜8の整数を、tは1〜10の整数を表す。Rf、m 、p、qはその表示各位において同一である必要はない。)で表されることを特徴とする、請求項1に記載される高度にフッ素化されたアルコールを製造する際の中間体。
【請求項3】
Rfが炭素数4以上10以下のパーフルオロアルキル基、kが1、nが1〜8、mが1〜4、pが1、qが0、tが1〜8の整数であることを特徴とする請求項1記載の高度にフッ素化されたアルコール。
【請求項4】
式[III]
【化3】

(式中、Rはアルキル基、アラルキル基、アリル基のいずれかを、kは1〜8の整数を、nは0〜16の整数を、pは1〜10の整数を、qは0〜8の整数を、tは1〜10の整数を表す。p、qはその表示各位において同一である必要はない。)で表されるポリヒドロキシエーテルに、塩基存在下、式[IV]
【化4】

(式中Rfはパーフルオロアルキル基を、mは0〜8の整数を、Yはアルキルスルホニルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基、またはフッ素を除くハロゲンのいずれかを表す。)で表されるパーフルオロアルキル誘導体を反応させて中間体の式[II]を得たのち、Rを除去することにより、請求項1記載の高度にフッ素化されたアルコールを製造する方法。

【公開番号】特開2007−153756(P2007−153756A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−347717(P2005−347717)
【出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(000173924)財団法人野口研究所 (108)
【Fターム(参考)】